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明細書 :パイ電子系拡張ビオローゲン誘導体とポルフィリンとの超分子錯体を用いる光電荷分離

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4201339号 (P4201339)
公開番号 特開2005-255603 (P2005-255603A)
登録日 平成20年10月17日(2008.10.17)
発行日 平成20年12月24日(2008.12.24)
公開日 平成17年9月22日(2005.9.22)
発明の名称または考案の名称 パイ電子系拡張ビオローゲン誘導体とポルフィリンとの超分子錯体を用いる光電荷分離
国際特許分類 C07D 213/53        (2006.01)
B01J  31/28        (2006.01)
C01B   3/04        (2006.01)
C07D 215/12        (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
H01L  51/42        (2006.01)
H01M  14/00        (2006.01)
FI C07D 213/53
B01J 31/28 M
C01B 3/04 A
C07D 215/12
C07D 487/22
H01L 31/04 D
H01M 14/00 P
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2004-068247 (P2004-068247)
出願日 平成16年3月10日(2004.3.10)
審査請求日 平成16年9月8日(2004.9.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】福住 俊一
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】谷尾 忍
参考文献・文献 特許第4000310(JP,B2)
特開2001-097977(JP,A)
特開平06-148793(JP,A)
園田 純子など,短いスペーサーで連結されたポルフィリン・フラーレン分子の光物性,2001年光化学討論会・21世紀の光化学国際会議要旨集,吉原經太郎,2001年 9月 3日,第390頁,要旨番号3P33
USHAKOV,E.N. et al,Ultrafast excited state dynamics of the bi- and termolecular stilbene-viologen charge-transfer complexes assembled via host-guest interactions,Chemical Physics,2004年 3月 8日,Vol.298, No.1-3,p.251-261
Evgeny KAGANER et al.,Photoinduced Electron Transfer in π-Donor-Capped Zn(II) Porphyrins and N,N'-Dimethyl-4,4'-bipyridinium Supramolecular Assemblies,J. Phys. Chem. B,1998年 1月22日,vol.102, no.7,p.1159-1165
J. A. SHELNUTT,Electronic Structure of the Porphyrin Ring in an Electrostatically Bound π-π Complex. Methylviologen-Metallouroporphyrin Complexes,J. Phys. Chem.,1984年,vol.88, no.25,p.6121-6127
藤本 香名など,新しい機能を持つ酸化還元イオン対化合物の開発と光応答,静岡大学電子工学研究所研究報告,1999年,第34巻,第15~21頁
調査した分野 C07D 213/53
C07D 215/12
C07D 487/22
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
拡張ビオローゲンとポルフィリンとにより形成される超分子錯体であって、該拡張ビオローゲンが、以下の式V-1~V-6のいずれかから選択され
【化2】
JP0004201339B2_000009t.gif
式中、RおよびRは独立して水素または炭素数1~20のアルキルであり、
nは2または3であ
ここで、該ポルフィリンが以下のP-1~P-4から選択される、
【化3】
JP0004201339B2_000010t.gif
超分子錯体。
【請求項2】
請求項に記載の超分子錯体であって、前記拡張ビオローゲンが式V-2で示される、超分子錯体。
【請求項3】
請求項に記載の超分子錯体であって、前記RおよびRがC13である、超分子錯体。
【請求項4】
請求項1に記載の超分子錯体を合成する方法であって、前記拡張ビオローゲンと前記ポルフィリンとを溶媒中で混合する工程を包含する、方法。
【請求項5】
請求項に記載の方法であって、前記溶媒がベンゾニトリルである、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の超分子錯体からなる人工光合成反応中心用材料。
【請求項7】
請求項1に記載の超分子錯体と、白金触媒とを含む、水素発生光触媒。
【請求項8】
水素を合成する方法であって、請求項1に記載の超分子錯体と白金触媒とを含む水素発生光触媒の存在下で、水に光を照射する工程を包含する、方法。
【請求項9】
光を電流に変換するための素子であって、導電性基材上に積層された超分子錯体を有し、該超分子錯体が、請求項1に記載された超分子錯体である、素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、パイ電子系拡張ビオローゲンとポルフィリンとの超分子錯体に関する。また、本発明はその超分子錯体を用いる光電荷分離方法に関する。本発明の超分子錯体は、人口光合成反応中心分子として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、人工光合成反応中心分子として、電子供与体分子と電子受容体分子を共有結合で連結したものが周知であった。例えば、J.Phys.Chem.A 2002,106,3243-3252(非特許文献1)は、ポルフィリンとフラーレンとを共有結合で連結させた化合物を開示する。
【0003】
しかし、電子供与体分子(ドナー)と電子受容体分子(アクセプター)を共有結合で連結した化合物は、合成が煩雑であることからさらに複雑な系に拡張することは困難であった。
【0004】
一方、非共有結合を利用して電子供与体分子と電子受容体分子との間に超分子錯体を形成させて人工光合成反応中心として機能させる試みは数多くされてきた。金属-リガンド配位、水素結合のような非共有結合を使用する超分子形成は、共有結合の使用と比較すると、生物学的光合成反応中心モデル系を構築するための単純であるがよりエレガントな方法として近年ますます注目を集めている。
【0005】
しかし、これらの材料では電荷分離状態を長時間維持することができないという欠点があり、電荷分離状態を長時間維持することが可能な、人工光合成反応中心として使用できる材料が求められていた。
【0006】
他方、弱いπ-π相互作用については、その相互作用の弱さのために、ドナー・アクセプター連結分子としての充分な性能が得られないであろうと考えられており、弱いπ-π相互作用を用いた超分子錯体は研究されていなかった。

【非特許文献1】J.Phys.Chem.A 2002,106,3243-3252
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、弱いπ-π相互作用を利用した超分子錯体を用いて高効率かつ長寿命の電荷分離を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、アクセプターであるπ電子系拡張ビオローゲンと、ドナーであるポルフィリンとの弱いπ-π相互作用によってベンゾニトリル中で超分子錯体が形成されることを見出した。また、その光電子移動反応について検討を行った結果、予想外にも、この超分子錯体内においてポルフィリンの一重項励起状態から拡張ビオローゲンへ効率良く光誘起電子移動が起こり、1ミリ秒を越す非常に長寿命の電荷分離状態が得られた。
【0009】
具体的には、本発明によれば、以下の超分子錯体、超分子錯体の合成方法、および光を電気エネルギーに変換するための素子などが提供される。
【0010】
(1)
拡張ビオローゲンとポルフィリンとにより形成される超分子錯体であって、該拡張ビオローゲンが、以下の一般式1で表され:
【0011】
【化5】
JP0004201339B2_000002t.gif
式中、RおよびRは独立して水素または炭素数1~20のアルキルであり、
HetおよびHetは独立してヘテロアリールであり、該ヘテロアリールは、それぞれ、その環中にヘテロ原子として窒素原子を含み、Hetの窒素原子はRに結合しており、Hetの窒素原子はRに結合しており、
nは2または3である、
超分子錯体。
【0012】
(2)
上記項1に記載の超分子錯体であって、前記拡張ビオローゲンが以下の式V-1~V-6のいずれかから選択される、超分子錯体:
【0013】
【化6】
JP0004201339B2_000003t.gif
(3)
上記項2に記載の超分子錯体であって、前記拡張ビオローゲンが式V-2で示される、超分子錯体。
【0014】
(4)
上記項1に記載の超分子錯体であって、前記ポルフィリンが、その5位、10位、15位および20位に、フェニル基もしくは置換フェニル基を有する、超分子錯体。
【0015】
(5)
上記項1に記載の超分子錯体であって、前記ポルフィリンが以下のP-1~P-4から選択される、超分子錯体。
【0016】
【化7】
JP0004201339B2_000004t.gif
(6)
上記項5に記載の超分子錯体であって、前記拡張ビオローゲンが以下のV-2である、超分子錯体。
【0017】
【化8】
JP0004201339B2_000005t.gif
(7)
上記項6に記載の超分子錯体であって、前記RおよびRがC13である、超分子錯体。
【0018】
(8)
上記項1に記載の超分子錯体を合成する方法であって、前記拡張ビオローゲンと前記ポルフィリンとを溶媒中で混合する工程を包含する、方法。
【0019】
(9)
上記項8に記載の方法であって、前記溶媒がベンゾニトリルである、方法。
【0020】
(10)
上記項1に記載の超分子錯体からなる人工光合成反応中心用材料。
【0021】
(11)
上記項1に記載の超分子錯体と、白金触媒とを含む、水素発生光触媒。
【0022】
(12)
水素を合成する方法であって、上記項1に記載の超分子錯体と白金触媒とを含む水素発生光触媒の存在下で、水に光を照射する工程を包含する、方法。
【0023】
(13)
光を電流に変換するための素子であって、導電性基材上に積層された超分子錯体を有し、該超分子錯体が、上記項1に記載された超分子錯体である、素子。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、弱いπ-π相互作用によって形成される超分子錯体が提供される。この超分子錯体は、光励起によって非常に長寿命の電荷分離状態を生成できる。そのため、本発明の超分子錯体は、光エネルギー変換システムヘの応用が容易である。本発明は弱いπ-π相互作用を利用した超分子錯体を用いて初めて人工光合成反応中心としての機能を達成したものであり、さらに複雑な系への拡張が容易であり、従来の共有結合を用いたものに比べてはるかに優れている。
【0025】
拡張ビオローゲンは一電子還元されると水から水素を発生させることがエネルギー的に可能であるので、本発明の超分子錯体を白金触媒と組み合わせることにより、水素発生光触媒としての応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(ポルフィリン)
本発明に用いられるポルフィリンは、非置換のポルフィリンであってもよく、ポルフィリンとしての性能を損なわない範囲で任意の置換基を有するものであってもよい。例えば、ポルフィリン中の5位、10位、15位、および20位、すなわちピロール環とピロール環との間のメチン基の炭素原子において、置換基としてアルキル、アリールまたはアルキル置換アリールもしくはハロゲン置換アリールを有することができる。この置換基は、好ましくはフェニルまたは置換フェニルであり、より好ましくはフェニルまたはアルキル置換フェニルもしくはハロゲン置換フェニルであり、さらに好ましくは、フェニルまたはジアルキル置換フェニルもしくはジクロロ置換フェニルであり、特に好ましくはフェニルまたは3,5-ジターシャリーブチルフェニルもしくは2,6-ジクロロフェニルである。なお、ポルフィリンの5位、10位、15位、および20位はすべて同じ置換基を有することが好ましいが、必要に応じて、2~4種類の置換基を5位、10位、15位、および20位の4ヶ所に導入してもよい。
【0027】
以下に、好ましいポルフィリンの例を示す。
【0028】
【化9】
JP0004201339B2_000006t.gif
本発明に使用されるポルフィリンは、上記P-1~P-4などのように、その4つのピロール環に囲まれる中央部に、水素2原子を有するものが好ましいが、この中央部に金属原子(例えば、遷移金属原子)を有するものであってもよい。
【0029】
(拡張ビオローゲン)
本発明に使用される拡張ビオローゲンとは、アルキル置換ヘテロアリールとアルキル置換ヘテロアリールとがπ電子の共役系を形成し得る連結基により連結されてその2つのヘテロアリール環および連結基が合わせて1つのπ電子共役系を形成する化合物であり、以下の一般式で示される。
【0030】
【化10】
JP0004201339B2_000007t.gif
式中、RおよびRは独立して水素または炭素数1~20のアルキルである。好ましくは炭素数2~15のアルキルであり、より好ましくは炭素数4~12のアルキルであり、さらに好ましくは炭素数6~10のアルキルである。1つの好ましい実施態様では炭素数6のアルキルである。また、アルキルは直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。なお、RおよびRは同じであってもよく、異なってもよい。RおよびRが同一であることが、合成の容易さの点から好ましい。
【0031】
HetおよびHetは独立してヘテロアリールであり、該へテロアリールは、それぞれ、その環中にヘテロ原子として窒素原子を含む。HetおよびHetは好ましくはピリジルまたはピリジルにフェニル環が縮合した縮合環(例えば、キノリル、イソキノリル、ベンズ[h]イソキノリニルなど)である。より好ましくは、ピリジル、キノリルであり、さらに好ましくは、ピリジルである。
【0032】
ここで、連結基との位置関係に関して、ピリジルは、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジルのいずれであっても良い。1つの好ましい実施態様では4-ピリジルである。
【0033】
また、上記キノリルは、2-キノリル、3-キノリル、4-キノリル、5-キノリル、6-キノリル、7-キノリル、8-キノリルのいずれであっても良い。好ましくは2-キノリル、3-キノリル、または4-キノリルである。より好ましくは、2-キノリル、または4-キノリルである。
【0034】
また、上記イソキノリルは、1-イソキノリル、3-イソキノリル、4-イソキノリル、5-イソキノリル、6-イソキノリル、7-イソキノリル、8-イソキノリルのいずれであっても良い。好ましくは1-キノリル、3-キノリル、または4-キノリルである。
【0035】
HetおよびHetは同じであってもよく、異なってもよい。HetおよびHetが同一であれば、合成が容易である。
【0036】
Hetの窒素原子はRに結合している。Hetの窒素原子はRに結合している。
nは2または3である。1つの好ましい実施態様においてnは2である。
【0037】
拡張ビオローゲンは、公知の任意の方法で合成することができる。例えば、P.Carskyら、Liebigs Ann.Chem.1980,291-304には、Het-CH-PPhを原料として、Het-(CH=CH)-Hetを合成する方法およびHet-CHOおよび(EtO)P(=O)CH-CH=CH-CH-P(=O)(OEt)を原料として、Het-(CH=CH)-Hetを合成する方法などが記載されている。
【0038】
なお、本明細書中において拡張ビオローゲンをビオローゲン誘導体と記載する場合もあるが、ビオローゲンから誘導される化合物に限定されることはなく、上記文献に記載されるとおり、拡張ビオローゲンは、任意のヘテロアリール化合物を原料として、合成することができる。
【0039】
(溶媒)
本発明の方法に用いる溶媒としては、原料となるポルフィリンと拡張ビオローゲンを溶解できる限り、特に限定されない。好ましくは、ベンゾニトリルである。
【0040】
(ポルフィリンと拡張ビオローゲンとの間の超分子錯体形成)
ポルフィリンと拡張ビオローゲンとは、適切な溶媒中で混合することにより、超分子錯体を形成することができる。
【0041】
混合の際の拡張ビオローゲンの濃度は特に限定されないが、好ましくは1×10-5M以上であり、より好ましくは、1×10-4M以上であり、特に好ましくは1×10-3M以上である。また、好ましくは1×10-1M以下であり、より好ましくは5×10-2M以下であり、特に好ましくは1×10-2M以下である。濃度が低すぎる場合には得られる超分子錯体の収量が少なくなる。濃度が高すぎる場合には拡張ビオローゲンを溶解させることが困難になり易い。
【0042】
混合の際のポルフィリンの濃度は特に限定されないが、好ましくは、1×10-9M以上であり、より好ましくは、1×10-8M以上であり、特に好ましくは、1×10-7M以上である。また、好ましくは、1×10-4M以下であり、より好ましくは、1×10-5M以下であり、特に好ましくは、1×10-6M以下である。濃度が低すぎる場合には得られる超分子錯体の収量が少なくなる。濃度が高すぎる場合にはポルフィリンを溶解させることが困難になり易い。
【0043】
ポルフィリンと拡張ビオローゲンとの混合モル比は特に限定されず、任意のモル比で混合することができる。ポルフィリンに対して、拡張ビオローゲンが大過剰となることが好ましい。ポルフィリン1モルに対して、拡張ビオローゲンが1×10モル~1×10モルがより好ましく、1×10モル~1×10モルがより好ましく、1×10モル~5×10モルがさらに好ましい。
【0044】
(超分子錯体の光誘起電子移動反応)
本発明の超分子錯体は、光誘起電子移動反応を行うことができる。超分子錯体の光誘起電子移動反応は、後述する実施例に説明する方法などにより確認することができる。
【0045】
(光エネルギー変換材料)
本明細書中において光エネルギー変換材料とは、光を電気エネルギーに変換する材料をいう。光エネルギー変換材料は、太陽電池、フォトセンサーなどの素子に使用可能であり、それらの素子について公知の製造方法において本発明の材料を用いることにより、優れた性能を有する素子を製造することができる。
【0046】
(人工光合成反応中心用材料)
本発明の超分子錯体は、人工光合成反応中心用材料として使用可能である。従来から、電子供与体分子と電子受容体分子とを共有結合させた人工光合成反応中心用材料が知られているが、そのような従来の人工光合成反応中心用材料と同様に本発明の超分子錯体を人工光合成反応中心として使用することができる。
【0047】
(水素発生光触媒)
本発明の超分子錯体は、水素発生光触媒に利用することができる。従来から、水還元触媒と、ポルフィリン誘導体とを組み合わせた水素発生光触媒が知られているが、その従来の触媒のポルフィリン誘導体の代わりに本発明の超分子錯体を使用することにより、本発明の水素発生光触媒を得ることができる。例えば、ガラスなどの基板上に白金触媒を積層し、さらにその上に超分子錯体を積層することにより、水素発生光触媒とすることができる。
【0048】
(水素合成方法)
本発明の超分子錯体は、水素合成方法に利用することができる。例えば、超分子錯体と白金触媒とを含む水素発生光触媒の存在下で、水に光を照射することにより、水が還元された水素を発生することができる。
【0049】
(素子)
本発明の超分子錯体は、従来公知の光を電流に変換する素子のための材料として有効に使用され得る。例えば、光電変換素子のための材料として使用可能である。素子の構成としては、従来公知の任意の構成が採用可能である。例えば、導電性基板上に超分子錯体を積層すれば、光を電流に変換する素子を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の非限定的な実施例を説明する。
【0051】
(超分子錯体の調製)
π電子系拡張ビオローゲンとして、ブタジエン骨格でπ系を広げたBHV2+を用いた。また、比較のために、ブタジエン骨格を有さないビオローゲン(HV2+)を用いた。
【0052】
【化11】
JP0004201339B2_000008t.gif
ポルフィリンとしては上記P-1~P-4の4種類のポルフィリンを用いた。
【0053】
P-1~P-4のポルフィリンを、文献の方法に従って合成し、そして13C NMRスペクトルおよびMALDI-TOF MSスペクトルにより特徴付けした。拡張ビオローゲン(BHV2+)もまた文献(P.Carskyら、Liebigs Ann.Chem.1980,291-304)の方法に従って合成した。ビオローゲン(HV2+)もまた文献の方法に従って合成した。
【0054】
ポルフィリン(P-1)のベンゾニトリル(PhCN)溶液に種々の濃度のBHV2+を添加したポルフィリンの紫外可視吸収スペクトル変化を検討したところ、等吸収点を持ちながらスペクトルが変化した。図1に、PhCN中で種々の濃度のBHV2+(0~5×10-3M)と混合したポルフィリンP-1(6×10-7M)のUV-vis吸収スペクトルを示す。
【0055】
PhCN中430nmのポルフィリンのソーレー帯の光励起は、λmax=612nmおよび652nmにおける蛍光を生じた。ポルフィリンのPhCn溶液へのBHV2+の添加は、蛍光強度の有意な減少を生じた。蛍光強度変化におけるこのような減少は、ポルフィリンとBHV2+との間で形成された超分子ポルフィリン錯体におけるポルフィリンの一重項励起状態からBHV2+への光誘起電子移動に起因する。
【0056】
BHV2+の代わりにHV2+を用いて同様に実験を行ったが、その場合にはBHV2+を用いた場合のようなスペクトル変化はなかった。すなわち、BHV2+を用いた場合にのみπ-π相互作用による錯体が形成された。
【0057】
(光誘起電子移動反応)
超分子錯体BHV2+-(P-1)における光誘起電子移動の発生は、図2に示されるように、ナノ秒レーザーフラッシュ光分解を使用してPhCN中において、ポルフィリン-BHV2+π-錯体の一過性の吸収スペクトルにより確認された。図2において観測された一過性の吸収帯は、PhCN中のポルフィリンラジカルカチオンに起因する吸収帯とBHV2+の吸収帯との重ね合わせと一致する。従って、図2の一過性の吸収スペクトルは、超分子錯体におけるポルフィリンの一重項励起状態からBHV2+への光誘起電子移動による、ポルフィリン-BHV2+π-錯体のCS状態の形成を明らかに示す。
【0058】
図2に、430nmにおけるレーザー励起の20μs後に測定された298Kにおける脱気PhCN中、BHV2+(5.0×10-3M)の存在下でのP-1(2.0×10-6M)の一過性吸収スペクトルを示す。
【0059】
図2において検出されたCS状態に起因する吸収の減衰は、基底状態へと戻る分子内逆電子移動により一次速度論に従っていた。図3に、脱気PhCN中298Kにて異なるレーザー出力(10mJ、2.2mJおよび0.5mJ)を用いるナノ秒フラッシュ光分解の際に得られたCS状態に起因する640nmの吸収の時間プロフィールを示す。
【0060】
図4に、620nmにおける吸収の減衰についての一次プロット(10mJ、2.2mJおよび0.5mJ)を示す。各種初期CS濃度の一次プロットは、同じ勾配を有する線形の相関を与えた。
【0061】
従って、この減衰過程は、分子間光誘起電子移動により生成したポルフィリンラジカルカチオンとBHVとの間の分子間逆電子移動ではなく、超分子錯体における逆電子移動に起因する。
【0062】
ポルフィリン(P-1)-BHV2+π錯体のCS状態の寿命は、PhCN中298Kにおいて1.4msと決定された。これは、溶液中で共有結合または非共有結合により結合したドナー-アクセプターダイアドについて報告されたCS状態の寿命のうちで最も長い。従って、この系は、効率の良い太陽光エネルギー変換システムの開発に対して広く適用可能である。
【0063】
ポルフィリンP-2~P-4についても、上記ポルフィリンP-1を同様に実験を行った。その結果、P-1と同様に、超分子錯体の形成が確認され、長寿命のCS状態が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明はπ-π相互作用によって形成される超分子錯体が光励起によって非常に長寿命の電荷分離状態を生成する初めての例であり、光エネルギー変換システムヘの応用が容易になるシステムとして重要である。
【0065】
ビオローゲンは一電子還元されると水から水素を発生させることがエネルギー的に可能であるので、白金触媒と組み合わせることにより、水素発生光触媒として応用できる。
【0066】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、PhCN種々の濃度のBHV2+(0~5×10-3M)の存在下におけるP-1(6×10-7M)のUV-vis吸収スペクトルを示す。
【図2】図2は、430nmにおけるレーザー励起の20μs後に測定された298Kにおける脱気PhCN中、BHV2+(5.0×10-3M)の存在下でのP-1(2.0×10-6M)の一過性吸収スペクトルを示す。
【図3】図3は、脱気PhCN中298Kにて異なるレーザー出力(10mJ、2.2mJおよび0.5mJ)を用いるナノ秒フラッシュ光分解の際に得られたCS状態に起因する640nmの吸収の時間プロフィールを示す。
【図4】図4は、620nmにおける吸収の減衰についての一次プロット(10mJ、2.2mJおよび0.5mJ)を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3