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明細書 :触媒の探索方法及び製造方法、並びに新規に見出される触媒材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4351097号 (P4351097)
公開番号 特開2005-270852 (P2005-270852A)
登録日 平成21年7月31日(2009.7.31)
発行日 平成21年10月28日(2009.10.28)
公開日 平成17年10月6日(2005.10.6)
発明の名称または考案の名称 触媒の探索方法及び製造方法、並びに新規に見出される触媒材料
国際特許分類 B01J  37/00        (2006.01)
C22C   1/00        (2006.01)
C22C   5/04        (2006.01)
FI B01J 37/00 Z
C22C 1/00 Z
C22C 5/04
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願2004-089589 (P2004-089589)
出願日 平成16年3月25日(2004.3.25)
審査請求日 平成18年11月21日(2006.11.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】蔡 安邦
【氏名】石井 靖
【氏名】亀岡 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
【識別番号】100113022、【弁理士】、【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開2003-164767(JP,A)
特開2003-033667(JP,A)
特開2003-275603(JP,A)
調査した分野 B01J 21/00-38/74
特許請求の範囲 【請求項1】
金属又は金属間化合物のフェルミーエネルギーから該金属又は金属間化合物の電子のエネルギーを減じた値をエネルギー差とし、該エネルギー差が+10eVより小さい領域において、
代替元の触媒の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1、前記触媒の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2とし、
前記触媒の代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1s、前記代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2sとしたとき、式:
ΔE1=|E1-E1s|、及びΔE2=|E2-E2s|の値に基づいて、前記触媒の代替物を判定することを特徴とする触媒の探索方法。
【請求項2】
前記ΔE1≦0.8eV、及び前記ΔE2≦1.5eVの関係を満たすものを前記触媒の代替物と判定することを特徴とする請求項1記載の触媒の探索方法。
【請求項3】
前記電子のエネルギーを光電子分光測定又はバンド計算から得ることを特徴とする請求項1又は2記載の代替触媒の探索方法。
【請求項4】
前記触媒は貴金属元素又は貴金属元素を含み、前記代替候補物質は金属間化合物又は合金であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の触媒の探索方法。
【請求項5】
金属又は金属間化合物のフェルミーエネルギーから該金属又は金属間化合物の電子のエネルギーを減じた値をエネルギー差とし、該エネルギー差が+10eVより小さい領域において、
代替元の触媒の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1、前記触媒の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2とし、
前記触媒の代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1s、前記代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2sとしたとき、
前記代替候補物質のうち、ΔE1=|E1-E1s|、及びΔE2=|E2-E2s|が所定の値となる金属又は金属間化合物を触媒として製造することを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項6】
金属又は金属間化合物のフェルミーエネルギーから該金属又は金属間化合物の電子のエネルギーを減じた値をエネルギー差とし、該エネルギー差が+10eVより小さい領域において、
代替元の触媒の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1、前記触媒の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2としたとき、
式:
ΔE1≦0.8eV、及びΔE2≦1.5eV
(但し、ΔE1=|E1-E1s|、ΔE2=|E2-E2s|、前記触媒の代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値:E1s、前記代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値:E2s)
の関係を満たす金属又は金属間化合物の触媒機能を利用することを特徴とする新規に見出される触媒材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒作用を有する物質を探索する方法及び触媒の製造方法、並びに新規に見出される触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の化学反応に用いる触媒として、酸化物等の担体に遷移元素の金属を担持させた触媒が広範囲に用いられている。触媒金属としては、例えば貴金属(白金、パラジウム、ルテニウム等)の他、銅、ニッケル等が用いられ、用途に応じて、いずれの金属を用いるかを決定している。
【0003】
触媒として使用可能か否かを評価するための指標としては、選択率が挙げられる。例えば、水蒸気改質反応は、下記式1
CHOH + HO → 3H + CO (1)
で表され、COとHが生成する。一方、メタノール分解反応が生じると、下記式2
CHOH → CO + 2H (2)
で表されるように、COとHが生成する。従って、水蒸気改質反応の選択率(%)は、
[CO]/[CO+CO]×100
で表され、この値が大きい触媒の使用が好ましい。例えば、Cu系触媒の場合、上記選択率はほぼ100%となる(300℃以下)。
【0004】
ところで、触媒特性を決定する因子として、触媒元素の電子構造(バンド構造)が重要であると言われている(例えば、非特許文献1参照)。そして、触媒のバンド構造に着目した技術として、伝導帯底部の電子のエネルギーレベルと価電子帯頂上の電子のエネルギーレベルがそれぞれ異なる酸化物半導体を接合した光触媒塗料が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】

【非特許文献1】「触媒講座 触媒学会編 固体物性と触媒作用(基礎編2)」 講談社サイエンティフィク 1985年7月10日 p.88
【特許文献1】特開2003-171604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術の場合、特定の電子エネルギーの半導体を接合して電子と正孔をそれぞれ一方向に流して分離させ、これらの再結合を抑制するものであり、触媒の特徴を電子状態によって捉えようとするものではない。そして、一般に遷移金属触媒は高価であるが、これと触媒特性が類似する安価な触媒を探索する技術については未だ報告されていない。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、特定の触媒を代替可能な触媒の探索方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、触媒特性を反映する指標について検討した結果、触媒の電子(主として価電子帯)のエネルギー分布状態に着目し、電子の分布状態として電子のエネルギーをパラメータ化することにより、パラメータ値が類似する物質は触媒特性も類似することを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の触媒の探索方法は、金属又は金属間化合物のフェルミーエネルギーから該金属又は金属間化合物の電子のエネルギーを減じた値をエネルギー差とし、該エネルギー差が+10eVより小さい領域において、代替元の触媒の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1、前記触媒の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2とし、前記触媒の代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最低となる値をE1s、前記代替候補物質の電子のうち前記エネルギー差が最高となる値をE2sとしたとき、式:
ΔE1=|E1-E1s|、及びΔE2=|E2-E2s|の値に基づいて、前記触媒の代替物を判定することを特徴とする。
【0010】
前記ΔE1≦0.8eV、及び前記ΔE2≦1.5eVの関係を満たすものを前記触媒の代替物と判定することが好ましい。前記電子のエネルギーを、光電子分光測定又はバンド計算から得ることが好ましく、又、前記触媒は貴金属元素又は貴金属元素を含み、前記代替候補物質は金属間化合物又は合金であることが好ましい。
【0011】
本発明の触媒の製造方法は、前記領域において、前記ΔE1及び前記ΔE2が所定の値となる金属又は金属間化合物を触媒として製造することを特徴とする。
【0012】
本発明の新規に見出される触媒材料は、前記領域において、前記ΔE1≦0.8eV、及び前記ΔE2≦1.5eVの関係を満たす金属又は金属間化合物の触媒機能を利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の触媒を代替する触媒を容易に探索することができる。例えば、高価な貴金属触媒を安価な金属間化合物で代替すれば、コスト、廃棄処理、等が有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
<触媒>
触媒は金属又は金属間化合物であれば特に制限はなく、金属には合金(固溶体)も含まれる。特に、触媒としては遷移元素が有効である、特に限定されないが、通常、原子番号21(Sc)以上の元素、好ましくは原子番号29(Cu)以上の元素、より好ましくは原子番号44(Ru)以上の貴金属元素とする。特に、貴金属元素を対象とすると、代替触媒によるコスト低減、廃棄、分解の容易の利点が大きい。
又、周期律表を見たとき、Ti(原子番号22)の列(IIIa族)から、遷移元素系列の元素を含み、さらに典型元素のSi(原子番号14)の列(IVb)までの間の列に属する元素からなる合金を対象とするのが好ましい。
なお、遷移金属のバンドは、結晶構造によって分裂し、幅が広いが、価電子帯がd状態である場合、d状態はフェルミエネルギー(E)近傍に現れる。
また、白金族の元素の場合、Eからd状態の上端の電子エネルギーを減じた値(後述するエネルギ差)は負となるが、これは、d帯に電子が完全に埋まっていない状態が存在することを示す。
【0016】
<代替候補物質>
上記触媒の代替候補物質は特に制限はなく、金属、金属間化合物、合金が好適に例示される。但し、後述する電子構造を計算によって得る場合は、計算技術上、固溶体の電子構造を得るのが困難であるため、金属、金属間化合物を候補物質とするのがよい。一方、電子構造を実測値(光電子分光法等)によって得る場合は、金属、金属間化合物、合金のいずれも候補とすることができる。代替候補物質に金属間化合物や合金を用いる場合、2元系だけでなく、3元系以上のものも用いることができる。
【0017】
<代替候補物質の選定>
代替候補物質の選定方法に特に制限はなく、又、無作為に候補物質を抽出してもよい。但し、代替元の触媒の電子配置等に類似すると予想されるものを候補物質として選定しておくとよい。例えば、代替元の触媒が2価の外殻電子を持ち、候補物質を2元系の金属間化合物から選定する場合、金属間化合物の一方の元素は外殻電子が0で、他方の元素は外殻電子が2価のものとすれば、代替元の触媒と同数の外殻電子を有するので、電子構造も類似することが予想される。なお、白金族の触媒の代替候補として合金を用いる場合、通常、周期律表でFeよりさらに左側にある元素を使う必要がある。
【0018】
<電子のエネルギー>
本発明は、金属又は金属間化合物の価電子帯を特徴付ける指標として、以下のE1、E2を採用する。通常、この領域の電子分布は、主として価電子帯の電子分布を示し、金属や金属間化合物を特徴付ける。
図1は、バンド計算(一般的な第一原理バンド計算法)による貴金属の電子構造を示す。バンド計算については後述する。この図において、横軸は電子のエネルギー差(eV)を示し、縦軸は電子の状態密度(DOS:Density of states)を示す。ここで、本発明においては、金属又は金属間化合物のフェルミーエネルギーEから該金属又は金属間化合物の電子のエネルギーを減じた値を、「エネルギー差」と定義し、この該エネルギー差が+10eVより小さい領域を対象とする。例えば、図1の例では、エネルギー差が+10eV~-2eVの領域である。
【0019】
<E1の定義>
図1において、例えばCuの場合、上記エネルギ差が最も低い側(図の右端)から見たとき、最初に現れるピークPのエネルギ差をEとする。このとき、
E1=|E-E
とする。ピークPは、上記領域におけるCuの電子軌道のうち上記エネルギ差が最も低い電子の状態密度が高い部分を示すので、E1は、上記エネルギ差が最も低い電子(群)のエネルギーを反映した指標となる。つまり、実際の触媒反応で反応に寄与する電子のエネルギーを反映すると考えられる。
なお、例えばCuの場合に、上記領域において、上記エネルギ差が最も低い側(図の右側)に存在する電子のエネルギ差をEとし、
E1’=|E-E
でE1を定義してもよい。この場合、上記電子の状態密度はあまり反映されないが、反応に寄与する電子のエネルギーを反映する点では同様である。
【0020】
<E2の定義>
図1において、例えばCuの場合、上記領域において、エネルギ差が最も高い側(図の左側)に存在する電子のエネルギ差をEとする。このとき、
E2=|E-E
で定義する。Eは、上記領域におけるCuの電子軌道のうちエネルギ差が最も高い電子を示し、これによればE2は、上記エネルギ差が最も高くなる電子のエネルギーを反映した指標、具体的には、反応に寄与する電子のエネルギーの幅(エネルギー領域)を反映する。
例えば、Cuの場合、3d帯が価電子帯と考えられるが、E1はd状態(d帯)の上端で、E2はd状態の底となる。そして、|E1-E2|=Wとすると、Wはd状態の幅に対応する。この場合、W×N(E)=(d状態の電子数)となる(N(E)は上記DOSを示し、エネルギ差Eに対する関数)。つまり、価電子帯となる電子状態のエネルギ差E1と幅E2は、各触媒の特性(電子状態)を規定するパラメータと考えられる。
なお、E、Eの決定法は特に制限はなく、たとえばバックグラウンドと、電子の状態密度を表す曲線との交点の値とすればよい。又、電子状態密度を示す曲線を直線で近似し、バックグラウンドと該直線との交点の値としてもよい。
【0021】
図2は、バンド計算による他の貴金属の電子構造を示す。この図において、Osの場合、電子の状態密度曲線は、EQ1、EQ2の2点でバックグラウンドと交わっている。この場合、EQ2をEとみなしてE2を求める。
【0022】
バンド計算によって求めた各貴金属元素のE1、E2を表1に示す。
【0023】
【表1】
JP0004351097B2_000002t.gif

【0024】
表1によれば、CuとAuを比較すると、両者のE1は類似するが、E2はAuの方がエネルギ差の高い側(図1の左側)にずれている。つまり、Auのd帯の幅W(|E1-E2|)が広いと考えられる。一方、Agのd帯の幅WはCuの幅と類似した値であるが、E1、E2はエネルギ差の高い側にシフトしている。そして、実際には上記3つの元素はいずれも触媒機能が異なっている。このように、E1,E2の値の他、幅Wにも着目することで、触媒機能をパラメータとして表現することが可能である。
又、RuとOs、RhとIr、PdとPtは、それぞれ同族元素であり、同族元素同士、例えばRhとIrのE1は類似した値(差が0.5eV以下)となっているが、E2の値はかなり異なっている(差が約~2eV)。そして、RhはCOの水素化反応に触媒活性を示すが、Irはこの反応に対しては触媒機能を示さず、別の反応の触媒となる。
【0025】
なお、酸化触媒としては、Pd、Pt、Co、Cr、Mn、Cu、Ce、V、Ag、Th、Ru、Au、等が例示される。又、NOx還元触媒としては、Pt、Rh酸化物等が例示される。選択的核水素付加触媒としては、Ru等が例示される。メタノール等の水蒸気改質反応触媒としては、Cu等が例示される。本発明はこれらの触媒の代替物の探索に有効であるが、もちろん、触媒の種類に制限はない。
【0026】
<代替候補物質の電子のエネルギー>
次に、触媒の代替候補物質についても、上記E1、E2と同様にして電子のエネルギ差を求める。なお、E1、E2と区別するため、代替候補物質の場合は、それぞれE1s、E2sで表記する。
【0027】
<代替触媒の判定>
上記したE1、E2、E1s、E2sを用い、代替候補物質のうち、
ΔE1=|E1-E1s|、及び
ΔE2=|E2-E2s|の値に基づいて、触媒の代替物か否かを判定する。つまり、ΔE1、ΔE2は、触媒のE1、E2と類似した値を持つ物質が当該触媒の代替物となりうることを表している。既に述べたように、E1は、反応に寄与する電子のうちエネルギ差が最低のものを反映し、E2は電子エネルギーの幅を反映しており、これらのパラメータによって触媒特性が表現できる。従って、E1、E2がともに類似した値を持つ物質は、物質の性質(触媒特性)も類似するものと予想される。一方、ΔE1とΔE2のいずれかの値が上記範囲を外れる場合、候補物質の性質(触媒特性)が触媒と大きく異なり、触媒選択性や触媒能も異なると考えられ、この場合は、触媒の代替物と判定しないこととする。
【0028】
好ましくは、ΔE1=|E1-E1s|≦0.8eV、及びΔE2=|E2-E2s|≦1.5eVの関係を満たすものを触媒の代替物として判定する。より好ましくは、ΔE1≦0.5eVとし、及びΔE2≦1.0eVとする。
【0029】
<電子構造の計算>
上記した電子構造を計算によって得る場合、通常、バンド(band)計算を用いることができる。バンド計算は、結晶の対称性を考慮して固体結晶の電子状態を計算するものである。具体的には、上記結晶の対称性を考えたパラメータから初期ポテンシャルを設定し、このポテンシャルにより表現した波動関数を計算し、収束判定をして電子状態を求める。電子状態が求まれば、系(各バンド)の状態密度、フェルミエネルギー等を計算することができる。
なお、量子力学により固体内の電子は離散的なエネルギー準位を形成するが、電子が他の原子上の電子と相互作用するために、電子の取り得るエネルギー状態に幅ができる。この幅を一般にバンドという。
【0030】
バンド計算の手法には、大きく分けて、全電子法(all electron)、擬ポテンシャル法がある。前者は、内殻電子も含めて原子中の全電子を計算の対象とし、後者は、原子の価電子のみを対象とする。通常、物性に与える内殻電子の影響は低いので、擬ポテンシャル法でも充分な精度が得られる。バンド構造計算の手法、及びコンピュータプログラムは、以下のように多数のものが公知であり、本発明ではそれらを適宜用いることができる。
【0031】
全電子法の公知の計算手法として、APW(Augmented Plane Wave Method:補強された平面波による方法)、KKR(Korringa-Kohn-Rostoker method:コリンハ、コーン、ロストッカ法)、LMTO(Linear Muffin Tin Orbital method:線形化されたマフィンティン軌道法)、FLAPW法(Full Potential Linear Augmented Wave method:フルポテンシャルAPW法)がある。これらは、球対称なポテンシャルを用いる。このうち、FLAPW法は、球対称なポテンシャル(マフィンポテンシャル)でなく、非球対称効果を考慮し、ウィーンのK.Schwarzらによるコンピュータプログラムとして「WIEN2k」が入手可能である(ホームページ、http//:www.wien2k.at)。
通常、全電子法では、原子位置を中心とした球(ポテンシャル)内と、その外側の領域を別々に扱う。内殻電子の場合は、この球から外側への電子のしみ出しが無いものとして扱う。価電子の場合は、球内の電子についての波動関数の解と、球外の電子(自由粒子)についての波動関数の解とが矛盾ないように各種パラメータを調整する。
【0032】
擬ポテンシャル法の公知の計算手法として、ノルム保存型擬ポテンシャル(Norm-Conserving Pseudopotential)、ウルトラソフト擬ポテンシャル(Ultra-Soft Pseudopotential)、最適化擬ポテンシャル(Optimized Pseudopotential)を用いるものがある。擬ポテンシャル法のコンピュータプログラムとしては、「Atom」、「AtomPAW」、「CIAO」等がある。
【0033】
以上のような計算方法により、エネルギー(エネルギ差)に対するDOS(Density of States:状態密度)を求めることができる。
【0034】
<計算によるE1、E2の決定>
上記計算により、エネルギー(エネルギ差)に対するDOSが得られれば、計算範囲でのエネルギ差が最低となる側(例えば、前記図1の場合、-2eV)から走査して最初に現れる電子状態密度のピーク位置でのエネルギ差をE1とし、電子状態密度がバックグラウンドと交わる点をE2として決定すればよい。E1、E2の決定は、作業者がチャート(エネルギ差に対するDOSのグラフ)から上記方法で行ってもよい。又、エネルギ差に対するDOSのデータを取り込んだコンピュータ上で、ピーク位置を判定するプログラム、電子状態密度がバックグラウンドと交わる点を判定するプログラムにより、E1、E2を決定してもよい。バックグラウンドについても、所定の方法で作業者がチャートで線を引くようにしてもよく、上記コンピュータ上で、バックグラウンドを判定するプログラムにより決定してもよい。
【0035】
<電子構造の実測>
上記した計算の他、上記した電子構造(スペクトル)を実験から得ることもできる。電子スペクトルの測定は、通常、X線や紫外線を用いた光電子分光測定(XPS:X-Ray Photoelectron Spectroscopy、UPS:Ultra-violet Photoelectron Spectroscopy)による。これらは、特定波長の光を試料に照射したとき、光電子効果により放出された特定エネルギーの光電子を解析することにより、電子状態を知ることができる。
【0036】
<実測した電子スペクトルによるE1、E2の決定>
図3は、後述する実施例におけるCu等の実測電子スペクトルを示す。この図において、エネルギ差が最低となる側(例えば、前記図3の場合、-2eV)から走査して、最初に現れる電子状態密度のピーク位置での電子のエネルギ差をE1と決定すればよい。又、このグラフにおいて、ピーク位置よりエネルギ差が高くなる(図3の左側)につれ、電子状態密度が低下するが、電子状態密度曲線を直線で近似し、バックグラウンドと該直線との交点をE2と決定すればよい。E1、E2の決定は、上記計算による決定法と同様、作業者がチャートから上記方法で行ってもよく、スペクトルデータを取り込んだコンピュータ上で、ピーク位置を判定するプログラム等に基づいて行ってもよい。
【0037】
本発明の触媒の製造方法は、前記ΔE1及び前記ΔE2が所定の値となる金属又は金属間化合物を触媒として製造する。この場合、例えばバンド計算によって代替触媒の原子構造又は電子構造が判明すれば、その触媒を製造すればよい。好ましくは、ΔE1≦0.8eV、及びΔE2≦1.5eVの関係を満たすものを触媒として製造する。より好ましくは、ΔE1≦0.5eVとし、及びΔE2≦1.0eVとする。
又、本発明の新規に見出される触媒材料は、前記ΔE1≦0.8eV、及び前記ΔE2≦1.5eVの関係を満たす金属又は金属間化合物の触媒機能を利用する。より好ましくは、ΔE1≦0.5eVとし、及びΔE2≦1.0eVとする。
【実施例】
【0038】
Cu金属を代替元の触媒とし、これの代替候補物質として、Pd-Zn、Pt-Zn、Ni-Zn、Pd-Cdの各金属間化合物、及びPd金属を用い、バンド計算及び光電子分光測定からΔE1、ΔE2の値を求めた。なお、この実施例では、触媒(Cu)に比べ、代替候補物質(Pd-Zn)の方が高価な金属(Pd、Pt)を用いているが、ΔE1、ΔE2を比較する例を示すものであり、本発明の目的、作用効果に反するものではない。又、Cuの1原子あたりの外殻電子が1価であるため、代替候補物質としては、外殻電子が全体で1価となる各金属間化合物、及び金属を選定した。例えば、Pdが0価、Znが2価であるPdZnの外殻電子は1となる。
【0039】
まず、図4は、Cu,及び上記各代替候補物質を触媒として用いた場合の、実際の水蒸気改質反応の選択率を示す。なお、実験は、触媒微粒子0.4~0.6gを秤量し、前処理(240℃、100%水素ガス、1時間還元)し、標準固定床流通式反応装置で常圧、反応温度240~360℃に設定し、水/メタノールのモル比1.5の混合液をNキャリアガス(30cm/min,LHSV=30/h)により流通させた。発生ガスをオンライン・ガスクロマトグラフィーにより分析し、得られた水素発生速度に基づき、触媒の活性およびCO2選択率を評価した。図4から明らかなように、各代替候補物質のうち、Pd-Zn、Pd-Cdは選択率がCuの値に近く、実際にCu触媒を代替可能であることがわかる。一方、Ni-Znは、選択率がCuより極めて劣り(Cuの10%程度)、Cu触媒を代替できないことが判明した。又、Pdはほとんど触媒能がなかった(選択率0)。なお、反応温度240~300℃では、代替候補であるPd-Znの選択率がCuの選択率とほぼ同じである。
【0040】
一方、図5は、バンド計算(全電子法)から求めたCu及び各代替候補物質のエネルギ差に対するDOSの関係を示す。なお、Cuの場合、図5の領域における電子は、主に最外殻の4s電子と、2番目に低いエネルギーの殻である3d電子からなり、エネルギ差が負の側(Eより高エネルギー側)には電子は存在しない。
この図において、CuのE1をE1-1で表記し、PdのE1をE1-2で表記し、Pd-ZnのE1をE1-3で表記し、Ni-ZnのE1をE1-5で表記し、Pd-CdのE1をE1-6で表記した。E2も同様である。又、例えばPd-Znの場合で、EFより高エネルギー側に見られるピークA、及び+8eV付近のピークBは、バンド計算の近似計算で生じるピークであり、E1、E2の決定の際に無視した。他の化合物も同様である。
【0041】
また、前記図3は、Cu,Pd-Zn、及びPd-Cdのエネルギ差に対する光電子スペクトル強度の実測値を示す。光電子分光測定は単色化したAlKαX線を用いて測定した。(Surface Science Instrument製光電子分光装置)
【0042】
実際の反応における上記選択率(280℃)、及びバンド計算及び光電子分光測定による上記E1、E2、及びΔE1、ΔE2の値を表2に示す。
【0043】
【表2】
JP0004351097B2_000003t.gif
表2から明らかなように、代替候補物質のうち実施例1(Pd-Zn)、実施例2(Pd-Cd)は、いずれもCuを代替可能であることが実際の反応から裏付けられ、又、これらはいずれも|ΔE1|≦0.5(eV)、かつ|ΔE2|≦1.0(eV)となった。一方、他の代替候補物質である比較例1(Ni-Zn)及び比較例2(Pd)は、実際の反応からCuを代替できないことが裏付けられ、又、比較例3の場合は|ΔE1|>0.8(eV)となり、比較例2の場合は|ΔE2|>1.5(eV)となった。以上のことから、|ΔE1|≦0.8(eV)、及び|ΔE2|≦1.5(eV)の関係を満たす場合、Cuと触媒特性が類似しCuを代替可能であることがわかる。
【0044】
なお、上記図5の電子構造から以下のことが考えられる。つまり、Pd-Zn、Pd-CdにおけるE1=約+2eVを示す電子はPdの4d状態に由来する。一方、純金属であるPdのE1は約0eVであるが、Zn(Cd)と金属間化合物と作ることによって、E1が約+2eV移動し、Cuと類似した値になる。CuのE1を示す電子は3d状態であり、PdZnのE1を示す電子は4d状態であるが、両者は同じ選択率を示す。従って、電子の準位(3d、4d)に関係なく、類似したE1、E2を持つ物質は、同様な触媒機能を示すといえる。
逆に、PdとCuはE1がまったく異なっている。そして、Cuは実際にメタノールの水蒸気改質反応を触媒する一方で、Pdはメタノールの水蒸気改質反応を触媒しない(PdはNOx分解に触媒活性を示す)。このように両者の触媒機能もまったく異なっている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】貴金属元素(遷移元素)のエネルギ差に対する電子状態密度を示す図である。
【図2】貴金属元素(遷移元素)のエネルギ差に対する電子状態密度を示す別の図である。
【図3】Cu触媒,及び代替候補物質の光電子分光スペクトルを示す図である。
【図4】水蒸気改質反応の選択率を示す図である。
【図5】Cu触媒,及び代替候補物質のエネルギ差に対する電子状態密度を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
E1 電子のエネルギ差のうち最低の値
E2 電子のエネルギ差のうち最高の値
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4