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明細書 :キャリア誘起強磁性体を用いた素子又は高周波素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4139348号 (P4139348)
公開番号 特開2005-286867 (P2005-286867A)
登録日 平成20年6月13日(2008.6.13)
発行日 平成20年8月27日(2008.8.27)
公開日 平成17年10月13日(2005.10.13)
発明の名称または考案の名称 キャリア誘起強磁性体を用いた素子又は高周波素子
国際特許分類 H01P   7/00        (2006.01)
H01F  10/193       (2006.01)
H01F  41/18        (2006.01)
H01P   1/217       (2006.01)
FI H01P 7/00 B
H01F 10/193
H01F 41/18
H01P 1/217
請求項の数または発明の数 9
全頁数 10
出願番号 特願2004-100417 (P2004-100417)
出願日 平成16年3月30日(2004.3.30)
審査請求日 平成18年11月28日(2006.11.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】大岩 顕
【氏名】宗片 比呂夫
【氏名】黒澤 良太
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100105463、【弁理士】、【氏名又は名称】関谷 三男
【識別番号】100102576、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 敏章
【識別番号】100108394、【弁理士】、【氏名又は名称】今村 健一
審査官 【審査官】儀同 孝信
参考文献・文献 特開2004-055822(JP,A)
特開2004-063832(JP,A)
特開2001-143929(JP,A)
特表2004-526270(JP,A)
特開平07-201563(JP,A)
特開2004-055866(JP,A)
特開2004-055867(JP,A)
特開2003-152173(JP,A)
特開2001-250998(JP,A)
国際公開第03/081680(WO,A1)
特開平08-250334(JP,A)
特開平07-078316(JP,A)
特開平09-307156(JP,A)
特開平10-206513(JP,A)
調査した分野 G01R 33/00-33/26、
H01F 10/00-10/32、41/14-41/34、
H01L 27/22、29/82、43/00-43/14、
H01P 1/20- 1/219、 7/00- 7/10
特許請求の範囲 【請求項1】
一軸異方性を有する強磁性半導体であって、該一軸異方性と同じ方向に延在する細線構造を有するキャリア誘起型の強磁性半導体と、
該強磁性半導体におけるキャリア濃度を変調する制御を行う制御手段と
を有する素子又は高周波素子。
【請求項2】
一軸異方性を有する強磁性半導体であって、該一軸異方性と同じ方向に延在する細線構造を有するキャリア誘起型の強磁性半導体と、
該強磁性半導体の異方性磁場と磁化キャリア濃度で変調する制御を行う制御手段と
を有する素子又は高周波素子
【請求項3】
一軸異方性を有する強磁性半導体であって、該一軸異方性と同じ方向に延在する細線構造を有するキャリア誘起型の強磁性半導体と、
略一定温度において異方性磁場と磁化とに依存する前記強磁性体の共鳴周波数をキャリア濃度変調で制御する制御手段と
を有する素子又は高周波素子。
【請求項4】
一軸異方性を有する強磁性半導体であって、該一軸異方性と同じ方向に延在する細線構造を有するキャリア誘起型の強磁性半導体と、
直流磁場が略一定の場合において異方性磁場と磁化とに依存する共鳴周波数をキャリア濃度変調で制御する制御手段と
を有する素子又は高周波素子。
【請求項5】
前記キャリア誘起型強磁性体は、半導体に磁性元素を添加した強磁性半導体であることを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の素子又は高周波素子。
【請求項6】
前記制御手段は、前記強磁性半導体に対して前記強磁性半導体中のキャリア濃度を変調するように制御する手段であることを特徴とする請求項に記載の素子又は高周波素子。
【請求項7】
前記制御手段は前記強磁性半導体に対して電界を印加するか又は光を照射する手段であることを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の素子又は高周波素子。
【請求項8】
導電性の基板と、
該基板上に形成された第1の絶縁層と、
該第1の絶縁層上に形成されたキャリア誘起型強磁性体層と該強磁性体層上に形成された第2の絶縁層と該絶縁層上に形成された導電層との積層構造であって前記強磁性体層の一軸異方性と同じ方向に延在する細線構造を有する積層構造と、
前記細線の両端にそれぞれ形成された第1及び第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に高周波電力を印加する手段と、
前記積層構造に対して電界の印加又は光の照射の少なくともいずれか一方を入力する入力手段と
を有することを特徴とする素子又は高周波素子
【請求項9】
前記キャリア誘起強磁性体は、キャリア濃度制御により常磁性半導体からキャリア誘起強磁性体に変化することを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載の素子又は高周波素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア誘起強磁性体を用いた強磁性共鳴周波数の制御方法に関し、特に、磁性半導体を用いたキャリア制御に基づいて変化する強磁性共鳴周波数を利用したマイクロ波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の発達が著しく、それらのデジタル化・IC化等に伴い、その電子回路が発生するノイズによる回路内の相互干渉、あるいは他の電子機器への影響が大きな問題となっている。この対策として、インダクタンス部品をフィルタとして利用し、高周波数のインピーダンスZ値を増大させることにより、高周波成分を含むノイズ成分は減衰させ、低周波の信号成分のみを伝達させることが行われている。電子回路の小型化に伴って電子部品の小型化が要請から、フェライト層とコイル用導体を交互に印刷積層するチップインダクタが用いられている。フェライト系材料は、飽和磁束密度が低いが、電気抵抗率は、金属系材料に比べてはるかに高く、渦電流に起因する磁気損失が高周波数まで比較的小さい。
【0003】
そのために、透磁率は高周波まで維持する。またフェライト系材料は、複雑形状のものも容易に作ることができ、かつ、低コストであるといった利点を持つため、10MHz以上のノイズフィルタとして用いられている。強磁性体の強磁性共鳴はGHz帯の周波数領域で起こるため、マイクロ波帯域で動作する素子として利用することが出来る(例えば、特許文献1参照)。また、最近では、強磁性体における強磁性共鳴を利用した高周波ノッチフィルタに関する提案もなされてきている。

【特許文献1】特開平08-250334号公報
【非特許文献1】Gary A. Prinz, “Hybrid Ferromagnetic-semiconductor Structure” Science vol.250, p.1092 (1990).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、通信技術の中でも、無線LANなどの高周波通信が主流になってきている。無線LANでは、2.4GHz帯又は5GHz帯などの高周波帯が用いられ、ノイズ対策用の高周波フィルタとしては、従来から用いられてきた高周波フェライト(300MHz付近のノイズ対策には適する)では不十分である。これは、高周波フェライトではフェリ磁性におけるゼロ磁場での自発磁化が小さいためである。
【0005】
また、上述のように従来から提案されている金属強磁性体を用いた素子における強磁性共鳴の共鳴周波数を用いた素子の場合でも、共鳴周波数は材料のg因子・磁化・磁気異方性・外部磁場で決まる固有の値であり、磁場と温度とによってのみしか共鳴周波数を制御することができなかった。
【0006】
本発明は、GHz帯などの高周波におけるノイズ対策に有効なマイクロ波素子を提供することにある。また、共鳴周波数を外部からの制御により変調可能な周波数フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る素子は、キャリア誘起型強磁性体と、該キャリア誘起型強磁性体のキャリア濃度を変調する制御を行う制御手段とを有する。キャリア濃度を変調することにより、強磁性共鳴周波数を制御することができる。強磁性共鳴周波数を制御するためには、キャリア誘起型強磁性体の異方性磁場を変調するか、キャリア誘起型強磁性体の磁化を変調する。キャリア誘起強磁性体は、動作温度付近において発現するように材料とキャリア濃度を調節するか、常磁性を用いる。
【0008】
本発明に係る高周波素子は、キャリア誘起型強磁性体と、直流磁場が略一定の場合において異方性磁場と磁化とに依存する共鳴周波数を制御する制御手段とを有する。磁化の変化により異方性磁場が変化するため、共鳴周波数が電界の関数として連続的に変化する。尚、前記キャリア誘起型強磁性体は、半導体に磁性元素を添加した強磁性半導体である。前記制御手段は前記強磁性半導体に対して電界を印加するか又は光を照射する手段である。
【0009】
本発明に係るフィルタ素子は、一軸異方性を有する強磁性半導体であって、該一軸異方性と同じ方向に延在する細線構造を有するキャリア誘起型の強磁性半導体と、該強磁性半導体におけるキャリア濃度を変調する制御を行う制御手段とを有する素子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強磁性共鳴周波数を電気的、光学的に制御することができるGHz帯のマイクロ波素子を提供することができる。異方性磁場が大きいため、ゼロ磁場でも高周波領域で用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書において、キャリア誘起強磁性体とは、磁性半導体に添加する磁性金属の濃度を、キャリア誘起強磁性を発現するのに適した濃度に調整された強磁性体を称する。磁化とは、外部磁場によって誘起される磁気モーメントの単位堆積当たりの値である。磁化は有効磁場に比例する周波数でラーマー歳差運動を起こす。図1は、ラーマー歳差運動に基づく強磁性体の強磁性共鳴現象の原理を示す図である。図1に示すように、強磁性体Fに対して有効磁場Heffを与えると、有効磁場Heffと磁化Mとにより決まるトルクTに基づいて磁化Mが有効磁場Heffの周りを回転する。強磁性体Fに対して高周波磁場(変調磁場)HACを与えると、歳差運動が継続するいわゆる強磁性共鳴現象が起こる。換言すれば、強磁性体Fに対してある外部磁場Heffを印加した状態において、ある特定の周波数の高周波を吸収するいわゆるフィルタリング効果を示すことになる。この周波数を共鳴周波数と呼び、ωで表される。
【0012】
【数1】
JP0004139348B2_000002t.gif
ここで、γはジャイロ係数と呼ばれる係数である。
(1)式より、次の(2)式が導入される。
【0013】
【数2】
JP0004139348B2_000003t.gif

【0014】
ここで、Hanは、単結晶の異方性に基づく異方性磁場である。すなわち、強磁性体の単結晶膜を高周波ノッチフィルタとして利用することができることがわかる。式(2)より、外部から与えられた磁化(結晶が発生する磁束密度)により、共鳴周波数ωを制御することができること、すなわち外部磁化方向により共鳴周波数とフィルタのオン/オフとを操作することができることがわかる。
【0015】
発明者は、上記の知見に加えて、キャリアによって強磁性が誘起されるキャリア誘起強磁性体、すなわち磁性半導体を用いると、外部からの制御手段によりキャリア濃度を変調させることができること、従って、異方性磁場Hanや磁化Mを変えることができるため強磁性共鳴周波数を制御することが可能であると考えた。尚、外部からの制御手段とは、例えば、電界又は光照射などである。電界又は光照射により、磁化や異方性の大きさを変えることにより、広範囲にわたり強磁性共鳴周波数を電気的・光学的に制御することが出来る。尚、強磁性半導体の磁化の値は、強磁性金属の磁化の値に比べて小さいが、異方性磁場が比較的大きいため、ゼロ磁場でも高周波領域での適用が可能な点も特徴となる。
【0016】
上記考察に基づき、本発明の実施の形態による強磁性共鳴周波数の制御方法及び高周波フィルタ素子について、図面を参照しつつ説明を行う。まず、適用可能な材料としては、キャリアによって強磁性が誘起される磁性半導体を用いる。例えば、GaAs、InAs、GaNなどIII-V族化合物半導体に磁性原子(遷移金属や希土類金属)を添加した磁性半導体である。また、SiやGeなどIV族半導体に磁性原子(遷移金属や希土類金属)を添加した強磁性半導体を用いることも可能である。さらに、II-VI族半導体に磁性元素(遷移金属や希土類金属)を添加した強磁性半導体でも良い。添加する磁性元素の濃度は、キャリア誘起強磁性を発現するのに適した濃度である。
【0017】
次に、素子構造の概要について説明する。本実施の形態による強磁性共鳴制御素子の構造は、例えば、以下の構成を有している。詳細な構成は、以下の実施例において説明する。
【0018】
1)導電性あるいは半絶縁性基板上に絶縁半導体層を積層し、この絶縁半導体層上に上記の強磁性半導体を積層した強磁性半導体多層膜構造である。2)強磁性半導体多層膜構造は、分子線エピタキシー法、有機金属気相成長法、或いは、スパッタ法等の薄膜作製技術で作製する。3)強磁性半導体層上に絶縁層を積層する。4)電界による制御手段としてのゲート電極(電界印加手段)又は光による制御手段としての光照射装置を設ける。高周波フィルタ素子においては導電性基板を用い、さらに導電性基板とゲート電極からなる平行金属板構造を有するストリップライン構造を形成する。
【0019】
キャリア誘起強磁性体の共鳴周波数ωは、HanとMとに依存するため、キャリア濃度を制御することができる制御手段によりキャリア誘起強磁性半導体のキャリア濃度を変調させることにより、共鳴周波数ωを変化させることができる。例えば、キャリア濃度が高くなる方向に制御すると、HanとMとが大きくなる。従って、共鳴周波数ωも大きくなる。キャリア濃度を低くするように制御すると、共鳴周波数ωが小さくなる。制御手段は、キャリア濃度を制御可能なものであれば、特に限定されるものではないが、下記の実施例に挙げた手段を用いることで、制御性の良い素子を簡単に形成することができる。
【0020】
以上説明したように、キャリア濃度を制御することができる制御手段でキャリア誘起強磁性半導体のキャリア濃度を変調させることにより、共鳴周波数を変調することができる。この際、制御手段による制御量を変更することにより所望の周波数における吸収を起こすことができる。すなわち、外部から制御可能な周波数フィルタなどを構成することができる。
【実施例1】
【0021】
本実施例1は、電界効果による強磁性共鳴周波数の制御技術に関するものであり、例えば、GaMnAsを用いた電界効果による強磁性共鳴周波数の制御技術に関する。図2は、本実施例による強磁性共鳴制御素子の断面構造を示す概略的な断面図である。図2に示すように、本実施例1による強磁性共鳴制御素子は、例えば、n-GaAsからなる導電性あるいはGaAs半絶縁性基板1上にi-Ga1-yAlyAs(0≦y≦1:図ではyを省略している。以下同様。)からなる絶縁層3を積層し、次いで、強磁性半導体(GaAsに磁性元素であるMnをドーピングした半導体)Ga1-xMnAs層(図ではxを省略している。以下同様。)の薄膜5をその上に積層した多層構造を有している。尚、GaAs層中のMn濃度xは、金属的な電気伝導を示す濃度であるx≧0.03である。Ga1-xMnAs層5に対して絶縁膜、例えば、Al、SiOなどの絶縁層7を形成する。尚、絶縁層7として、Ga1-xMnAs層5上に絶縁性半導体薄膜、例えばアンドープのAlGaAs層(絶縁層)を積層してもよい。上記の絶縁膜7上に、電界印加用の金属電極(Au、Alなどからなる)11を形成する。図2に示す構造は、分子線エピタキシー法(MBE法)、有機金属気相成長法(MOCVD法)又はスパッタリング法などの一般的な方法により作製することができる。導電性基板を用いる場合は基板を接地し、半絶縁基板を用いる場合は、Ga1-xMnAs層5を接地する。
【0022】
上記の構造を有する強磁性共鳴制御素子の共鳴制御方法について以下に説明する。まず、磁化(容易軸)方向([110])に直流磁場を印加する。尚、直流磁場はゼロでもよい。次いで、素子に対してマイクロ波を照射する。電場ベクトルが磁化と平行(磁場は直行)の場合は磁化と結合し、電場ベクトルが磁化と直交する場合は磁化と結合しない。外部磁場・磁化・異方性定数で決まる共鳴周波数ω((2)式)におけるマイクロ波の吸収が起こる。
【0023】
尚、(2)式は、一軸異方性を持ち容易軸方向に磁場を印加した場合の式である。単純な一軸異方性([110]容易軸)を仮定すれば(Han=2K/M、a=2.2×10m/As)、ゼロ磁場では4 GHz(Han≒0.2T、K≒5×10Jm-3、M≒0.07T(Mnx=0.05)を仮定)となる。ここで、素子に対して電界をかけて磁化の値を変える。電界により強磁性から常磁性状態まで変調可能である。尚、ゼロ磁場ではM=0~Ngμ(N:磁性元素濃度、g:磁性元素のg因子、μ:ボーア磁子、S:磁性元素の磁気モーメント)である。磁化の変化により(2)式の異方性磁場と反磁場とが変化し、共鳴周波数が電界の関数として連続的に変化する。この様子を図3及び図4に示す。
【0024】
図3に示すように、電界をE=0からEからEまで変化させると(E、Eは負であり、E、Eは正である。)、印加した電界に応じて透過率のノッチの周波数位置は、それぞれ減少(ω、ω)又は増加(ω、ω)する。図4は、電界Eと共鳴周波数との関係を示す図である。図5に示すように、共鳴周波数ωは電界Eに対してほぼ単調に減少し、電界Eに基づいて共鳴周波数を制御できることがわかる。尚、強い正電界をかけて強磁性でなくなった状態(M=0)ではゼロ磁場では共鳴が得られないのでこの場合にはオフ状態となる。また、本実施例1においては、強磁性半導体としてGaMnAsを用いたが、他の強磁性半導体、例えばInMnAsなどを用いても、同様に電界効果による強磁性共鳴周波数制御も可能である。GaMnAsに例えば電子をドープしGaMnAs中の正孔濃度を実効的に下げた常磁性半導体を用いると、電界を印加しない状態ではオフ状態(M=0)で、負電界を印加すると強磁性が発現しオン状態(M≠0)となり、共鳴が起こる。オン状態では電界による共鳴周波数の制御が可能である。常磁性状態は、強磁性を示す試料作製条件で作製中にSn、Si、GaTeなどのn型不純物を添加して正孔を補償し、正孔濃度を低くすることで動作温度において常磁性状態を実現できる。
【実施例2】
【0025】
次に、本発明の第2実施例について説明する。第2実施例は、GaMnAsを用いた光照射による強磁性共鳴周波数の制御技術に関する実施例である。本実施例による強磁性共鳴制御素子の構成例を図5に示す。基本的には、図2に示す構造と同様であるが、GaMnAsに対して電圧の代わりに光を照射するため、SiO、Auが不要になる。すなわち、例えば、n-GaAsからなる導電性あるいはGaAs半絶縁性基板21上にi-Ga1-yAlyAs(0≦y≦1)からなる絶縁層23を積層し、次いで、強磁性半導体(GaAsに磁性元素であるMnをドーピングした半導体)Ga1-xMnAs層の薄膜25をその上に積層した多層構造を有している。
【0026】
次に、強磁性共鳴制御素子の動作について説明する。まず、直流磁場を磁化(容易軸)方向([110])に印加する。印加する直流磁場はゼロ磁場でもよい。次いで、強磁性半導体に対してマイクロ波を照射する。マイクロ波により発生する電場ベクトルが磁化と平行(磁場は直交)の場合は磁化と結合し、電場ベクトルが直交(磁場と平行)する場合は磁化と結合しない。これにより、外部磁場Hと、磁化Mと、異方性定数と、で決まる共鳴周波数(上述の(2)式)のマイクロ波の吸収が起こる。尚、(2)式は、一軸異方性を持ち、容易軸方向に磁場を印加した場合の式である。ここで、単純な一軸異方性([110]容易軸)を仮定すれば(Han=2K/M、 γ=2.2×10 m/As)、ゼロ磁場では4GHz(Han≒0.2T、K≒5×10Jm-3、M≒0.07T(Mnx=0.05)を仮定して求めた。)となる。光照射によりキャリア(正孔)を生成することにより、Mn間の強磁性相互作用の増加と共に、磁化の値が増加し、反磁場が変化する。キャリア濃度の変化により(2)式の異方性磁場Hanも変化するため共鳴周波数ωが変化し、吸収が起こる周波数が照射光強度の関数として連続的に変化する。
【0027】
図6及び図7は、異なる光照射強度Pに対する吸収特性(透過率)を示す図である。図6に示すように、P=0、P、Pにおいて、共鳴周波数ωに対応する透過率のノッチの位置する周波数が異なり、照射する光の強度により共鳴周波数ωを制御(ω、ω、ω)することができることがわかる。図7は、光強度Pに対する共鳴周波数の関係を示す図である。図7に示すように、光強度Pにより共鳴周波数ωを制御することができることがわかる。尚、正孔濃度をn型不純物添加により低くした常磁性素子を用いると、光照射により常磁性(M=0、オフ状態)から強磁性(M≠0、オン状態)まで変調することが可能であり、強磁性状態では光照射による強磁性共鳴周波数制御が可能となる。
【0028】
以上において説明したように、本実施例によれば、照射光によりキャリアを変調させ、強磁性体の共鳴周波数を制御することができることがわかった。例えばInMnAsを用いても、同様に光照射による強磁性共鳴周波数制御が可能である。
【実施例3】
【0029】
次に、本発明の第3実施例について図面を参照しつつ説明を行う。本実施例は、電気的周波数可変広帯域ノッチフィルタ素子に関し、マイクロ波周波数で動作可能なノッチフィルタであり、前述の強磁性共鳴制御素子を使い電界効果により広範囲で吸収周波数を制御できるノッチフィルタ素子である。
【0030】
図8は、本実施例によるノッチフィルタ素子の構成例を示す斜視図である。図8に示すように、導電性基板(例えばn-GaAs)41上に、絶縁層(undoped(i)-Ga1-yAlyAs(0≦y≦1)層)43を積層し、その上にGa1-xMnAs薄膜45を積層した多層構造を形成する。添加するMn濃度xは金属的な電気伝導を示すx≧0.03である。次に、マイクロストリップライン形状の細線に加工して磁化方向の制御を行う。細線形状に加工し縦横比を大きくすることにより磁化Mは細線の延在する方向へ向く。ここで、GaMnAsに特有な磁気異方性を利用して特定の方向(細線方向)へ磁化Mを向けることもできる。例えば、キャリア濃度が高い試料を選べば[110]/[11-0]間の一軸異方性が支配的である。これを利用して[110]方向に細線を作製する。Ga1-xMnAs層45に絶縁膜46を形成する(Al、SiOなど)。或いは、GaMnAs層45上に絶縁性半導体薄膜(例えばundoped(i)-Ga1-yAlyAs(0≦y≦1))を積層してもよい。次いで、絶縁性半導体薄膜層46上に、電界印加用の金属電極(Au又はAlなど)47を形成する。GaMnAs薄膜45上に電極材料を形成し、電極材料とGaMnAsとを同時に加工して細線を形成しても良い。次いで、GaMnAs層45からなるストリップラインの両端に電極E1、E2を形成し、その後に、例えば、マイクロ波を導波させるため同軸ケーブル51を接続する。
【0031】
上記構造において、金属電極47によりGaMnAs層45に対して電界を印加することで、GaMnAs中のキャリア濃度を変調させ、共鳴周波数ωを調整することにより、同軸ケーブル51を通る高周波信号に対してフィルタリングを行うことができる。本高周波フィルタ素子は、例えばInMnAsを用いても作製することができる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態又は実施例によれば、マイクロ波で動作するノッチフィルタであって、電界効果又は光照射によって、広範囲で吸収周波数を制御できるノッチフィルタを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ある特定の周波数のノイズをカットするGHz帯のノッチフィルタやマイクロ波スイッチング素子などに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ラーマー歳差運動に基づく強磁性体の強磁性共鳴現象の原理を示す図である。
【図2】本発明の第1実施例による素子の層構造の例を示す図である。
【図3】第1実施例による素子の透過率の周波数依存性を異なる電界について示す図である。
【図4】第1実施例による素子の共鳴周波数の電界依存性を示す図である。
【図5】本発明の第2実施例による素子の層構造の例を示す図である。
【図6】第2実施例による素子の透過率の周波数依存性を異なる光強度について示す図である。
【図7】第2実施例による素子の共鳴周波数の光強度依存性を示す図である。
【図8】本発明の第3実施例によるノッチフィルタ素子の構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1…GaAs半絶縁性基板、3…絶縁層、5…Ga1-xMnAs層の薄膜、7…絶縁膜、11…電界印加用の金属電極、21…GaAs半絶縁性基板、23…絶縁層、25…Ga1-xMnAs層の薄膜、41…導電性基板、43…絶縁層、45…Ga1-xMnAs層の薄膜、46…絶縁性半導体薄膜層、47…電界印加用の金属電極、51…同軸ケーブル。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7