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明細書 :圧電材料とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4698161号 (P4698161)
公開番号 特開2004-363557 (P2004-363557A)
登録日 平成23年3月11日(2011.3.11)
発行日 平成23年6月8日(2011.6.8)
公開日 平成16年12月24日(2004.12.24)
発明の名称または考案の名称 圧電材料とその製造方法
国際特許分類 H01L  41/187       (2006.01)
H01L  41/22        (2006.01)
FI H01L 41/18 101B
H01L 41/22 Z
請求項の数または発明の数 14
全頁数 12
出願番号 特願2004-101468 (P2004-101468)
出願日 平成16年3月30日(2004.3.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、2004年1月11日「nature materials」ADVANCE ONLINE PUBLICATIONに発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、2004年1月16日「科学新聞」第(1)面に発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、2004年1月13日「日本工業新聞」第(2)面に発表
特許法第30条第1項適用 特許法第30条第1項適用、2004年1月14日「日本経済新聞」第(9)面に発表
優先権出願番号 2003134630
優先日 平成15年5月13日(2003.5.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年12月1日(2006.12.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】任 暁兵
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】河合 俊英
参考文献・文献 特開2003-068729(JP,A)
特開2002-265299(JP,A)
REN X. ET AL,Universal Symmetry Property of Point Defects in Crystals,PHYSICAL REVIEW LETTERS,米国,2000年 7月31日,vol. 85, no. 5,pages 1016 - 1019
調査した分野 H01L 41/187
H01L 41/24
特許請求の範囲 【請求項1】
移動性の点欠陥を有する強誘電体圧電材料であって、移動性の点欠陥が、その短範囲秩序の対称性が強誘電相の結晶対称性に一致するように配置されており、ドメインの電場下での可逆的変換によって非線形圧電効果が発現されることを特徴とする圧電材料。
【請求項2】
移動性の点欠陥は、化学平衡によって、または添加元素によって導入された強誘電体を構成する元素の空孔であることを特徴とする請求項1の圧電材料。
【請求項3】
キュリー温度以下で時効処理されて点欠陥の短範囲秩序の対称性が強誘電相の結晶対称性に一致するように配置されていることを特徴とする請求項1または2の圧電材料。
【請求項4】
単結晶体または多結晶体であることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれかの圧電材料。
【請求項5】
薄膜であることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれかの圧電材料。
【請求項6】
多層膜であることを特徴とする請求項5の圧電材料。
【請求項7】
強誘電体がABO3型のものであることを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか
の圧電材料。
【請求項8】
強誘電体がBaTiO3または(Ba,Sr)TiO3であることを特徴とする請求項7の圧電材料。
【請求項9】
強誘電体がPb(Zr,Ti)O3または(Pb,希土類元素)(Zr,Ti)O3であることを特徴とする請求項7の圧電材料。
【請求項10】
他元素が添加されていることを特徴とする請求項7から9のうちのいずれかの圧電材料。
【請求項11】
他元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属のうちの1種以上の元素であることを特徴とする請求項10の圧電材料。
【請求項12】
他元素が20モル%以下の割合で添加されていることを特徴とする請求項10または11の圧電材料。
【請求項13】
添加される他元素は、Na,K,Mg,Ca,Al,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Ga,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Ag,Sn,Hf,
Ta,W,Os,Ir,Pt,Pb,Bi,および希土類元素のうちの1種以上であることを特徴とする請求項10から12のうちのいずれかの圧電材料。
【請求項14】
請求項1から13のうちのいずれかの圧電材料の製造方法であって、
(a)強誘電体材料に移動性のある点欠陥を導入する工程と
(b)前記移動性のある点欠陥の短範囲秩序の対称性を強誘電相の結晶対称性に一致するように点欠陥を配置させる工程とを施し、前記強誘電体材料中のドメインの電場下での可逆的変換によって非線形圧電効果が発現されるようにしたことを特徴とする圧電材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、圧電材料に係るものであって、特に、小さい電圧で大きく変位させることができる非線形圧電性の材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電界による変形を得る方法としては以下に示す二通りのものが知られている。
【0003】
(1)強誘電体の強誘電相を用いて、分極処理した後、ほぼ線形的な圧電効果(電界による変形)を得る。この方法の特徴は、強誘電体を用いて、ドメインを分極処理によって固定し(つまり、ドメインの回転をさせない)、結晶中の正イオンと負イオンを電場印加によって移動させ、線形的圧電変位を得るものである。代表的なものとして圧電材料のPb(ZrTi)O3(PZT)はこの方法を用いて圧電効果を得ている。これは、いわゆる、分極処理したPZTセラミックス〔ソフト型(図3の曲線a参照)およびハード型(図3の曲線b参照)〕と呼ばれるものである。
【0004】
(2)反強誘電体の電界誘起相転移を用いて非線形的圧電効果を得る。この方法の特徴は、反強誘電体を用いて、強い電場を加えることにより、強誘電状態に変態させ、非線形変位を得る〔いわゆる、PNZSTセラミックスの電界誘起反誘電体-誘電体相移転による変形を利用する型(図3の曲線c参照)がこれに相当する〕。
【0005】
以上のいずれかの方法によって電界による変位、変形を得る圧電材料そして圧電素子については、近年、加速度センサー、ノックセンサー、AEセンサー等のセンサーや超音波マイクロホン、圧電スピーカー、圧電アクチュエーター、超音波モーター、プリンターヘッド、インクジェットプリンター用ガン等への応用が急速に拡大するにつれて、アクチュエーターやセンサーの応用上、圧電素子は高い変換効率が求められている。特に、電圧から変位へ変換するアクチュエーターに関しては、低電圧でも大きなストローク(変位)を得るものが求められる。また、応用によって変位が非線形的であることが望ましい(例えば臨界電圧で変位が急激に増加するなど)。しかしながら、上記した従来の技術では、以下のような問題点を有する。
【0006】
例えば、上記(1)の従来技術の場合(図3の曲線a,b参照)、<1>低電圧では変位が小さい(1000V/mmの電界下で0.01-0.1%しか変形しない)。<2>電場のほぼ線形関数でしか変形できない。<3>電極方向に分極処理が必要となる。
【0007】
また、上記(2)の従来技術の場合(図3の曲線c参照)には、<1>駆動電界が大きい(>2500V/mm)。<2>最大変形が小さい(0.01-0.08%)。<3>特性が温度に非常に敏感であるという問題がある。
【0008】
そこで、この出願の発明者は、従来の圧電材料について根本的な再検討を行ってきた。その際に注目したことは、従来の圧電材料における逆圧電・電歪効果は圧電材料中のイオンが電場下で微小に移動することによって結晶構造が少し伸縮することに起因し、このような過程による電歪は非常に小さいことである。一方、圧電材料には電気分極方向が異なる領域(ドメイン)が存在することが注目される。ドメインの間の分極方向は結晶対称性によって、180°や90°などの角度がある。電場を加えると、分極方向が電圧方向に沿うようにドメイン変換が起こる。たとえば、分極が電場に対し垂直であるa-ドメインが、電場印加後電場に一致するように、c-ドメインに変換される。このドメイン変換に伴い、低い対称性を持つ強誘電相の長軸方向と短軸方向が交換することになる。この過程で得られる歪の大きさは長軸と短軸の差であり、材料によるが理論上最大1-5%である。この値は通常の圧電効果より数十倍以上大きい。しかし、この巨大電歪効果は通常は不可逆であるため、その有用性は低かった。
【0009】
しかしながら、発明者は、このようなドメイン交換を可逆的なものにすることで巨大な電歪効果を得ることができるとの観点に注目した。
【0010】
そして、発明者は、上記状況に鑑みて鋭意検討を進め、新しい原理に基づいて、低電圧でも変位、変形が大きく、かつ変位、変形が急峻で非線形特性を顕著に発現することのできる圧電材料とこれを用いた非線形圧電素子、その応用としての電気機器あるいは機械を提供することを課題としてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この出願は、上記の課題を解決する以下の発明を提供する。
〔1〕移動性の点欠陥を有する強誘電体圧電材料であって、移動性の点欠陥が、その短範囲秩序の対称性が強誘電相の結晶対称性に一致するように配置されており、ドメインの電場下での可逆的変換によって非線形圧電効果が発現されることを特徴とする圧電材料。
〔2〕移動性の点欠陥は、化学平衡によって、または添加元素によって導入された強誘電体を構成する元素の空孔であることを特徴とする上記の圧電材料。
〔3〕キュリー温度以下で時効処理されて点欠陥の短範囲秩序の対称性が強誘電相の結晶対称性に一致するように配置されていることを特徴とする上記の圧電材料。
〔4〕単結晶体または多結晶体であることを特徴とする圧電材料。
〔5〕薄膜であることを特徴とする圧電材料。
〔6〕多層膜であることを特徴とする圧電材料。
〔7〕強誘電体がABO3型のものであることを特徴とする圧電材料。
〔8〕強誘電体がBaTiO3または(Ba,Sr)TiO3であることを特徴とする圧電材料。
〔9〕強誘電体がPb(Zr,Ti)O3または(Pb,希土類元素)(Zr,Ti)O3であることを特徴とする圧電材料。
〔10〕他元素が添加されていることを特徴とする圧電材料。
〔11〕他元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属のうちの1種以上の元素であることを特徴とする圧電材料。
〔12〕他元素が20モル%以下の割合で添加されていることを特徴とする圧電材料。
〔13〕添加される他元素は、Na,K,Mg,Ca,Al,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Ga,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Ag,Sn,
Hf,Ta,W,Os,Ir,Pt,Pb,Bi,および希土類元素のうちの1種以上であることを特徴とする圧電材料。
〔14〕以上いずれかの圧電材料の製造方法であって、強誘電体材料に移動性のある点欠陥を導入する工程と、前記移動性のある点欠陥の短範囲秩序の対称性を強誘電相の結晶対称性に一致するように点欠陥を配置する工程とを施し、前記強誘電体材料中のドメインの電場下での可逆的変換によって非線形圧電効果を発現性可能とする圧電材料の製造方法。
【0012】
以上のとおりのこの出願の発明は、発明者がすでにその基本的な検討を行ってきた結晶における点欠陥の普遍的なナノ秩序の対称性についての知見
(Xiaobing Ren and Kazuhiro Otuka PHYSICAL REVIEW LETTERS Vol.85, No.5, 2000 July 31, pp.1016-1019)を踏まえて、前記巨大な電歪効果を得るための手段として、点欠陥の対称性を利用して圧電材料の電気分極方向が異なる領域:ドメインの変換を可逆的なものとしたことにより導かれたものである。すなわち、この出願の発明は、上記のような新しい技術的知見に基づく新規な技術思想として完成されている。
【発明の効果】
【0013】
この出願の発明によれば、低電界で巨大変位が実現でき、しかも、この変位はある臨界電界で急激に増加するという非線形的特徴を持つ新しい圧電材料と、これを利用する圧電素子や電気機器、機械、そしてそれらの部品が提供されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にさらに詳しく説明する。
【0015】
まず図1は、この出願の発明の圧電材料の結晶構造の変態(原理)を2次元模式図として示したものである。
【0016】
この図1に沿って説明する。
【0017】
(1)この出願の発明においては、強誘電体材料は移動性のある点欠陥を有している。ここで「強誘電体材料」とは、「外部電場によって反転する自発分極を持つ物質」として定義される。また、「点欠陥」については、この出願の発明においては、結晶中の格子不全、空孔、あるいは添加元素(イオン)を意味している。
【0018】
点欠陥を強誘電体に導入する方法としては、たとえば代表的には次のこれには、2つの方法が考慮される。
【0019】
<1> 素子の製造過程(結晶成長、高温焼結や熱処理など)で化学平衡によって自然に点欠陥(酸素空孔など)を生成させる。
【0020】
<2> 添加元素(イオン)によって点欠陥を導入する。例えば、ABO3型強誘電体のA-site(A-サイト)或いはB-site(B-サイト)に価数の異なるイオンをドーピングすることにより、酸素空孔、A空孔、B空孔などの点欠陥を導入する。
【0021】
このような点欠陥の導入にともなって、ある点欠陥の周り(ナノメートル範囲)に他の点欠陥の占有確率を考えると、発明者が前記のとおりすでに報告しているように、この占有率は平衡時、結晶の対称性と一致する。これは点欠陥のナノ秩序の対称性原理と呼ぶことができる。
【0022】
この対称性原理によると、図1(a)の強誘電体の常誘電状態(キュリー温度以上)においては、Bは点欠陥(サイト0)、1~4はその点欠陥B(サイト0)に近接するサイト、P(図中斜線領域)は平衡時にサイト0(点欠陥B占有)の近傍のサイト1~4に他の欠陥が見つかる確率であるが、このとき、各サイトにおけるPは、P1B=P2B=P3B=P4Bとなって一致する。すなわち、このとき点欠陥の短範囲秩序の対称性(symmetry of short-range order)11と結晶対称性12が一致した安定な状態にある。
【0023】
すなわち、常誘電相での点欠陥対称性は高く、また、強誘電相の点欠陥の対称性(平衡時)は結晶の対称性と同様で、しかも点欠陥による点欠陥分極も自発分極と一致する。
【0024】
たとえばこの状態から、冷却(拡散なし)すると、図1(b)の状態に強誘電体変態する。このとき、サイト1~4におけるPは、P1B=P2B=P3B=P4Bのままであるが、ここでは、点欠陥の短範囲秩序11の対称性は結晶対称性13に一致しない不安定な状態となる。
【0025】
すなわち、圧電材料の常誘電相状態から冷却により強誘電相転移が起こり、低い結晶対称性を持つ強誘電相状態になる。この際に、点欠陥の対称性が常誘電相の対称性を引き継ぐため、不安定になる。
【0026】
(2)そこで、次に、この出願の発明は圧電材料では、図1(c)に示すように、サイト1~4におけるPを、P1B=P2B≠P3B≠P4Bとし、点欠陥の短範囲秩序の対称性14を結晶対称性13に一致させる。この状態は最も安定な状態である。そして、このような対称性の一致は、たとえば時効(aging) 処理によって可能とされる。この時効処理の温度はキュリー温度以下であることが必要である。また、処理時間は時効温度に依存するが、通常は1日以上があることが望ましい。
【0027】
上記のような対称性の一致、つまり移動性の点欠陥の短範囲秩序の対称性を強誘電相の結晶の対称性と一致するようにすることで、この出願の発明の、ドメインの電場下での可逆的変換による非線形圧電効果が発現される圧電材料が提供されることになる。
【0028】
そこで次に、図2によって、この電場下での巨大歪を可逆的ドメイン変換によって実現することについて説明する。この図2は、この出願の発明の圧電材料の製造方法を説明してもいる。
【0029】
(1)まず、図1(a)に示したように、点欠陥の短範囲秩序の対称性11と結晶対称性12が一致した安定な状態にある、図2(a)の常誘電状態の強誘電体材料21を用意する。
【0030】
(2)次に、図2(a)の強誘電体材料21を冷却して、強誘電体変態により、図1(b)に示したように、点欠陥の短範囲秩序の対称性11が結晶対称性13に一致しない不安定な状態にある、図2(b)のドメインを含む強誘電体材料22とする。
【0031】
(3)図2(b)の強誘電体材料22を時効処理し、図1(c)に示したように、点欠陥の短範囲秩序の対称性14を結晶対称性13に一致させたドメインを含む、図2(c)の強誘電体材料23とする。強誘電体材料23は最も安定した状態にあり、この出願の発明の圧電材料に相当している。
【0032】
(4)そこで、図2(d)に示すように、ドメインを含む図2(c)の強誘電体材料23のドメインに電場を印加し、除去すると、時効処理された強誘電相のドメインは電場の印加と除去に従って可逆的に変換される。つまり、この変化により大きな圧電変位:歪を生成する。図2(d)での24は、図2(c)の強誘電体材料23に電場が印加された時の状態を示している〔図2(d)において、点線で示される外形は、図2(c)に示す電場を加える前の外形を示している〕。
【0033】
より大きい変位量を得るためには、強誘電体材料としては非180°ドメインを含む強誘電体材料を用いることが好適に考慮される。また、図2(b)および図2(c)の低対称性強誘電体は、多くの非180°ツイン関連ドメイン(twin-related domains)22A,22B:23A,23Bで構成されている。
【0034】
以上のようにして圧電変位を示すこの出願の発明の圧電材料については、その結晶構造は短結晶体でもよいし多結晶体であってもよい。またその形状も、バルク体でもよいし、薄膜であってもよい。また多層膜であってもよい。このような各種の結晶構造、そして形状は、従来より知られている各種の方法によって形成することができる。たとえば薄膜、多層膜については液相法、あるいは気相法の各種の手段が採用されてよい。
【0035】
そして、この出願の発明の圧電材料を構成する強誘電体については、その組成は特に限定されるものではないが、従来より知られているABO3の複合酸化物、あるいはこれに他の元素(イオン)が添加されているものが好適に考慮される。ABO3型複合酸化物としては、たとえばその代表例として、BaTiO3,(Ba,Sr)TiO3をはじめ、Pb(Zr,Ti)O3,(Pb,La)(Zr,Ti)O3等が挙げられる。このうち、BaTiO3,(Ba,Sr)TiO3、あるいはこれに他元素(イオン)を添加したものからなる圧電材料のように、この出願の発明においては、人の健康、そして環境の面から好ましくないPb(鉛)を使用することなく、鉛フリーの圧電材料、そして圧電素子を提供することもできる。
【0036】
添加元素(イオン)を用いる場合、これらの元素は、好適にはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属のうちの1種以上とすることができる。たとえば、Na,K,Mg,Ca,Al,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Ga,Rb,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Ag,Sn,Hf,Ta,W,Os,Ir,Pt,Pb,Biおよび希土類元素のうちの1種以上とすることができる。
【0037】
さらに具体的には、BaTiO3:BT,(Ba,Sr)TiO3:BST、これらのうちのK,Na,Rb等のアルカリ金属、Fe、およびMnの1種以上が添加された強誘電体、Pb(Zr,Ti)O3:PZT,(Pb,La)(Zr,Ti)O3:PLZT、これらのうちの他元素添加されたものを例示することができる。
【0038】
元素添加する場合には、添加元素のモル比は、一般的には20%以下とすることが好適に考慮される。特に、この元素添加された圧電材料としては、Mn添加BT:BaTiO3(Mn10%以下)のものが、また、Mn添加のBST:(Ba,Sr)TiO3(Mn10%以下、Sr/Ba原子比0.5以下)のものがたとえば例示される。
【0039】
以上のようなこの出願の発明の圧電材料によれば、より低い電圧でも巨大な圧電変位:歪、すなわち変形を生成させることができる。
【0040】
このため、この出願の発明の圧電材料は、たとえば、加速度センサー、ノックセンサー、AEセンサー等の各種のセンサーや超音波マイクロホン、圧電スピーカー、圧電アクチュエーター、超音波モーター、プリンターヘッド、インクジェットプリンター用ガン等の各種の電気機器、機械、あるいはそれらの部品としての応用にとって大変に有用、有益なものとなる。
【0041】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0042】
<実施例1>
BaTiO3単結晶をフラックス(flux)法により作製し、冷却後にキュリー点以下の温度において時効処理をした。得られた圧電材料の電界-変形特性を図3の曲線dとして示した。なお図3には、前記のとおりの従来の圧電材料の変形特性を曲線a,b,cとして示している。
【0043】
この図3の曲線dから明らかなように、この出願の発明の圧電材料は、低電界下で、可逆的なドメイン変換を実現することができ、巨大な非線形圧電効果が発現していることがわかる。
【0044】
BaTiO3の単結晶が自然に含有する少量の酸素空孔(点欠陥)の、時効処理による再配列(点欠陥の短範囲秩序の対称性を結晶対称性に一致させる)によって、低電界(200V/mm)で約0.5%という巨大な圧電変位、変形が得られている。
【0045】
この変位は、よく使われるPZT圧電素子の同じ電界での従来の圧電変位の結果(図3の曲線a~c)と比較すると、数十倍程度の大きさを示しており、しかも変位が急峻で非線形特性を有することがわかる。
<実施例2>
Kを少量(0.1-2%)添加した(BaK)TiO3の単結晶をフラックス(flux)法で作製した。
【0046】
次いで、冷却後にキュリー点以下の温度で時効処理を行った。
【0047】
この場合には、Kイオンの添加によって点欠陥を生成させ、キュリー温度以下での時効処理を行い、点欠陥の短範囲秩序の対称性を結晶対称性に一致させている。得られた圧電材料の圧電変位、変形特性を図3の曲線eに示した。
【0048】
この図3の曲線eによれば、1470V/mmの電界で0.52%という大きな圧電変位、変形が得られている。この変位、変形は、よく使われる従来のPZT圧電素子の同じ電界での結果(図3の曲線a~c)と比較すると、極めて大きなものである。しかも変位、変形が急峻で、圧電材料は非線形特性を有することがわかる。
【0049】
更に、有毒な鉛を使用していないため、環境にやさしい圧電材料である。
<実施例3>
この出願の発明の圧電材料として次の3種のセラミックス(多結晶体)試料を調製した。
【0050】
1)(Pb,La)(Zr,Ti)O3=PLZTセラミックスを室温(分極なし)で30日間時効した。
【0051】
2)Mn-(Ba,Sr)TiO3:Mn-BST(Mn2%)セラミックスを70℃で5日間時効した。
【0052】
3)Mn-BaTiO3:Mn-BT(Mn2%)セラミックスを室温で3ヶ月間時効した。
【0053】
以上3種のセラミックス圧電材料について、電界-変形(歪)特性を測定し、その結果を図4に示した。
【0054】
比較のための従来のhardPZT、softPZTの測定結果も図4に示した。
【0055】
この図4から明らかなように、この出願の発明のPLZTセラミックス圧電材料は、従来のものに比べて低電圧で数倍の変動量を示している。またMn-BSTおよびMn-BTでも可逆的な変位、変形が発生しており、これらは有害な鉛を含有していないため、環境の観点からは有望な材料である。
<実施例4>
実施例3におけるMn-BTセラミックスについて、0V,800V,-800V,0Vのサイクル電圧下において、電界-分極特性を測定した。その結果を図5に示した。
【0056】
また、図5におけるA~Jの結晶状態を観察した顕微鏡像を図6に示した。
【0057】
図5および図6から、この出願の発明の圧電材料における強誘電ドメインの可逆変換の生起が確認される。
<実施例5>
0.02原子%のFeを含有するBaTiO3:Fe-BT単結晶を製造し、80℃の温度で5日間時効した。このものの電界-圧電変位(歪)の特性を測定したところ、図7に示したように200V/mmの低電場において0.75%という巨大な可逆変位が得られた。この値は、従来のPZTよりも40倍も大きい電歪である。また最近のPZN-PT単結晶よりも10倍以上である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この出願の発明の圧電材料の結晶構造の変態(原理)を示す2次元模式図である。
【図2】この出願の発明の巨大な非線形圧電効果を示す圧電材料の形成について説明した模式図である。
【図3】この出願の発明の圧電材料の電界-変位、変形特性を例示した図(従来例と対比)である。
【図4】この出願の発明の別の圧電材料の電界-変位(歪)特性を例示した図である。
【図5】この出願の発明の圧電材料についてのサイクル電圧下での可逆ドメイン変換による電圧-分極特性を例示した図である。
【図6】図5に対応して圧電材料のドメインの可逆変換を例示した顕微鏡写真である。
【図7】F添加BT単結晶の電界—変位(歪)特性を例示した図である。
【符号の説明】
【0059】
B 点欠陥(サイト0)
1~4 点欠陥B(サイト0)に近接するサイト
P 平衡時にサイト0(点欠陥B占有)の近傍に他の欠陥が見つかる確率
11,14 点欠陥の短範囲秩序の対称性
12,13 結晶対称性
21 常誘電状態にある強誘電体材料(キュリー温度以上の状態)
22 点欠陥の短範囲秩序の対称性が結晶対称性に一致しないドメインを含 む強誘電体材料
22A,22B:23A,23B ツイン関連ドメイン
23 点欠陥の短範囲秩序の対称性を結晶対称性に一致させたドメインを含 む強誘電体材料
24 強誘電体材料23で示した強誘電体材料に電場が印加された時の状態 図
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6