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明細書 :蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4338590号 (P4338590)
公開番号 特開2005-345311 (P2005-345311A)
登録日 平成21年7月10日(2009.7.10)
発行日 平成21年10月7日(2009.10.7)
公開日 平成17年12月15日(2005.12.15)
発明の名称または考案の名称 蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
国際特許分類 G01N  33/542       (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01N  33/558       (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
FI G01N 33/542 A
G01N 21/64 F
G01N 33/558
G01N 21/78 C
請求項の数または発明の数 12
全頁数 15
出願番号 特願2004-166440 (P2004-166440)
出願日 平成16年6月3日(2004.6.3)
審査請求日 平成19年3月22日(2007.3.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
発明者または考案者 【氏名】金城 政孝
【氏名】堀内 基広
【氏名】藤井 文彦
【氏名】坂田 啓司
【氏名】田村 守
【氏名】上野 雅由
【氏名】柳谷 孝幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】白形 由美子
参考文献・文献 特許第3517241(JP,B2)
特開2001-272404(JP,A)
特開2005-006566(JP,A)
国際公開第03/081243(WO,A1)
国際公開第01/016600(WO,A1)
調査した分野 G01N 33/48-33/98
G01N 21/64
G01N 21/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)

特許請求の範囲 【請求項1】
被検試料に、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を添加して、抗原抗体反応を行わせ、抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を形成させ、形成された抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を、蛍光相関分光法により検出、解析することを特徴とする蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項2】
抗原が、抗原タンパク質であることを特徴とする請求項1記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項3】
形成された抗原抗体複合体の蛍光相関分光法による検出、解析が、蛍光標識化された蛍光標識抗体断片と形成された標識化された抗原抗体複合体との拡散速度の差に基く識別を利用した抗原の検出、解析であることを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項4】
抗原の迅速検出及び/又は測定が、形成された抗原抗体複合体の蛍光相関分光法による検出、解析に基く抗原の存在、又は、抗原の濃度の検出及び/又は測定であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項5】
抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片が、抗原を免疫原として作製されたモノクローナル抗体から調製されたものであり、抗原タンパク質の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体が、抗原を免疫原として作製されたモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項6】
蛍光相関分光法による抗原の検出及び/又は測定が、被検試料に含まれる抗原の物理的な分離過程を経ることなく行われることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項7】
被検試料へ、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を添加する工程、該被検試料、蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体により抗原抗体反応を行う工程、及び、該抗原抗体反応を行った被検試料を蛍光相関分光法により検出、解析を行う工程を、自動的又は半自動的に行うことを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項8】
被検試料が、生体タンパク質試料であり、抗原が病原性タンパク質抗原であることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項9】
病原性タンパク質抗原が、異常型プリオンであることを特徴とする請求項8記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項10】
被検試料が、食品素材であり、抗原が食品素材中に含まれる有害タンパク質抗原であることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法。
【請求項11】
検出及び/又は測定する抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体からなる、蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定用の検出試薬。
【請求項12】
請求項11記載の検出試薬を装備した、蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光相関分光法を用い、異常型プリオンのような病原性タンパク質或いは食品素材中に含まれる有害タンパク質等の抗原タンパク質等の抗原を迅速に検出及び/又は測定する抗原の迅速検出及び/又は測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然物由来の食品素材や飼料素材の利用に際して、それらの素材中に含まれる有害タンパク質や、病原性タンパク質等の存在が問題となっている。有害タンパク質としては、例えば、ソバ、小麦、米等の食品素材に含有され問題となっているアレルゲンタンパク質等が挙げられ、病原性タンパク質としては、例えば、食肉、肉骨粉の原料に含まれ問題となっている異常型プリオン(感染型)のような病原性タンパク質等が挙げられる。例示して説明すれば、近年問題となっている病原性タンパク質の代表的な例として挙げられる異常型プリオンは、牛海綿状脳症(BSE)に代表されるプリオン病の原因となるタンパク質である。動物の脳や神経細胞膜表面に通常存在する正常型のプリオンタンパク質は分子量約3.3~3.5万(33~35kDa)の糖タンパク質であり、感染型プリオン蛋白として脳内の細胞内に蓄積されているものである(Lait, 76:571-578,1996)。異常型プリオンは、動物体内に侵入すると、体内の特定部位で生産される正常型プリオンを異常型プリオンに変換し、その結果、それらの特定部位において異常型プリオンが蓄積する。脳に異常型プリオンが蓄積すると、脳がスポンジ状になり、動物は死に至る。
【0003】
このような食品素材や飼料素材の利用に際して、それらの素材中に含まれるアレルゲンタンパク質のような有害タンパク質や、病原性タンパク質を、ヒトや動物が摂取することを防止するためには、該食品素材や飼料素材に含まれるアレルゲンタンパク質のような有害タンパク質や、病原性タンパク質を検知、測定し、それらの有害タンパク質や、病原性タンパク質を含むものの利用を防止する必要がある。
【0004】
従来より、プリオン(異常型)のような天然の生体タンパク質の測定には、ELISA(固相酵素免疫検定法)やウェスタンブロット法(イムノブロット法)のような免疫測定法が用いられている。ELISAは、固相で行われ、抗原又は抗体を酵素で標識し、抗体又は抗原の存在を酵素活性を利用して検出する方法であるが、例えば、マイクロタイタープレート上に固定されたプリオンをMab 3F4抗体によって結合し、この抗体をこれにカップリングする酵素による着色反応を触媒する第二の抗体によって検出するような方法で行われる(米国特許第4806627号明細書)。また、ウェスタンブロット法は、電気泳動で分離したタンパク質を疎水性の膜に固定し、抗原に特異的な抗体を用いて目的のタンパク質を検出する方法であるが、プリオンの検出には、例えば、モノクローナル抗プリオンタンパク質抗体Mab 13A5を用い、ウェスタンブロットを行って異常型プリオンを検出するような方法で行われる(J. Infect. Dis. 154:518-521,1986)。
【0005】
しかし、例えば、ELISAやウェスタンブロット法のような従来法でプリオンの検出、測定を行うには、従来法では正常型プリオンと異常型プリオンを区別して検出するために、まず、被検試料から予め正常型プリオンをプロテインアーゼKで処理し、分解、除去しておくような処理を行っておく必要がある。また、ウェスタンブロット法は、電気泳動を行う必要があり、煩雑で時間がかかるので、多数の試料を短時間に検査しようとするためには適していないという問題がある。更に、ELISAは、必要な感度を達成するために、プロテインアーゼK処理後の試料をグアニジンチオシアン酸で変性処理し、プリオンタンパク質の凝集状態を解除する前に、SDSによる一次変性処理及びメタノール処理によるタンパク質濃縮操作を行う必要があり、該メタノール処理の前及びグアニジンチオシアン酸処理の前にはそれぞれ遠心分離を行う必要があり、そして、該遠心分離操作は時間がかかり、該方法はこのような煩雑な処理を行わなければならないことから、多数の試料を短時間に検査しようとするためには適していないという問題がある。
【0006】
そこで、これらのプリオンの検出、測定に用いられているELISAやウェスタンブロット法の問題を改善するために、最近、いくつかの方法が提案されている。例えば、特開平10-267928号公報には、異常プリオンタンパク質を高感度に検出するために、ELISAを応用し、抗プリオンタンパク質抗体を用い、該抗体を任意のDNA断片で標識して、該DNA断片をPCRにより検出するイムノPCR法が開示されている。また、特開2003-130880号公報には、従来法のELISAやウェスタンブロット法の時間のかかる電気泳動操作や遠心分離操作を行うことなく高感度に異常型プリオンを免疫測定する方法として、磁性粒子に、変性剤処理した異常型プリオンと抗原抗体反応する第1抗体又はその抗原結合性フラッグメントを不動化して異常型プリオン免疫測定試薬として用いることにより、ELISAやウェスタンブロット法の遠心分離操作や電気泳動を行わずに異常型プリオンの測定を行い、多数の検体について短時間に検査を行うことが可能なようにした方法が開示されている。
【0007】
更に、特開2003-215131号公報には、体液サンプルにおいて、プリオンタンパク質を化学物質と反応させて共有結合を形成させ、それにより化学的に修飾され、病原性プリオンが存在するとマススペクトルに少なくても更に1個のピークが観察されるようにしたプリオンタンパク質のマススペクトルを用いた分析方法が開示されている。これらは、従来法のELISAやウェスタンブロット法を改良するものであるが、依然として、各種の処理を経なければならず、プリオンのような抗原タンパク質を、簡便かつ迅速に検出、測定するには必ずしも十分なものではない。また、これらの検出、測定方法は、該検出、測定のための処理工程を、自動或いは半自動的に行い、大量の試料の測定を行うには適した方法とはいえない。
【0008】
一方、近年、特に生物由来の分子の解析等に多く用いられ、例えば、タンパク質分子の数や、大きさ、或いは形等の物理量を、試料の物理的な分離過程を経ずに、しかもほぼ実時間で検出、測定できる分析法として蛍光相関分光法(FCS:Fluorescence Correlation Spectroscopy)が知られている(Chem. Phys.,4,390-401,1974; Biopolymers,13,1-27,1974;Physical Rev. A,10:1938-1945, 1974; in Topics in Fluorescence Spectyoscopy ,1,pp.337-378,Plenum Press,New York and London, 1991; R.Rigler,E.S.Elson(Eds.),Fluorescence Correlation Spectyoscopy.Theory and Applications, Springer, Berlin, 2001)。
FCSは、蛍光で標識した標的分子の媒質中におけるブラウン運動をレーザー共焦点顕微鏡系により微小領域で捉えることによって、蛍光強度のゆらぎから拡散時間を解析し、標的分子の物理量(分子の数、大きさ)を測定することにより実行されるもので、このような微小な領域で分子ゆらぎを捕えるFCSによる解析は、高感度、特異的に分子間相互作用を検出する上で有効な手段となっている。
【0009】
FCSを、生体試料中に含まれるタンパク質等の検出、測定に用いた場合の特徴としては、溶液に含まれる蛍光で標識した標的分子の濃度や分子間相互作用を物理的な分離過程を経ずにほぼ実時間でモニタできることにある。そのため、FCSを用いた検出系では、これまで生体分子の検出系の主流として用いられてきたELISAなどの分析手段で必要であった煩雑なBound/Free分離過程を省くことができ、したがって、短時間に多量のサンプルを高感度で測定することが可能であり、自動化測定にも向いている。
【0010】
ところで、FCSを用いて、抗原タンパク質等の検出を行うには、蛍光標識化した抗体分子を用い、該蛍光標識化抗体と抗原タンパク質との抗原抗体反応を利用して、該蛍光標識化抗体と、該蛍光標識化抗体と抗原タンパク質との抗原抗体反応によって形成された抗原抗体複合体分子の有する形状及びその分子量に依存する拡散速度の差を利用して、分析が行われる。ここで、拡散速度(拡散定数又はD)とは、単位時間に分子が自由拡散する面積のことをいう。他方、拡散時間(Diffusion Time:(DT)またはτD)とは、装置によって決まる焦点領域内を分子が通過するのに要する時間のことをいう。
【0011】
従って、FCSによって、試料中の抗原タンパク質等の正確な測定を行うためには、標識化抗体の拡散速度と、該標識化抗体と抗原タンパク質との抗原抗体反応によって形成される抗原抗体複合体の拡散速度との間に有意な差を生じさせるような抗原と抗体の組み合わせを用いる必要がある。したがって、従来、この必要性のため、FCSにより検出できる抗原タンパク質等の種類は非常に限られていた。この問題を解決する手段として、従来、抗原と抗体との形状及び分子量を考慮して抗原抗体複合体に対して種々の修飾を施し、拡散速度に有意な差を設けるということが行われていた(特開2001-272404号公報、特許第3517241号公報)。しかし、これらの方法を用いても、FCSの検出方法を適用検出対象には限度があった。
【0012】

【特許文献1】特開平10-267928号公報。
【特許文献2】特開2001-272404号公報。
【特許文献3】特開2003-130880号公報。
【特許文献4】特開2003-215131号公報。
【特許文献5】特許第3517241号公報。
【非特許文献1】J. Infect. Dis. 154:518-521,1986。
【非特許文献2】Chem. Phys.,4,390-401,1974。
【非特許文献3】Biopolymers,13,1-27,1974。
【非特許文献4】Physical Rev. A,10:1938-1945 ,1974。
【非特許文献5】in Topics in Fluorescence Spectyoscopy ,1,pp.337-378,Plenum Press,New York and London,1991。
【非特許文献6】R.Rigler, E.S.Elson(Eds.), Fluorescence Correlation Spectyoscopy.Theory and Applications,Springer,Berlin,2001。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、異常型プリオンのような病原性タンパク質或いは食品素材中に含まれる有害タンパク質のような抗原タンパク質等の抗原の検出及び/又は測定に広く適用でき、該抗原を簡便な操作で、迅速かつ正確に検出及び/又は測定することができる抗原の迅速検出及び/又は測定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、近年、特に生物由来の分子の解析等に多く用いられ、タンパク質分子の数や、大きさ、或いは形等の物理量を、試料の物理的な分離過程を経ずに、しかもほぼ実時間で検出、測定できる分析法として知られている蛍光相関分光法(FCS:Fluorescence Correlation Spectroscopy)に着目し、該FCSを用いたタンパク質分子等の検出、測定に、抗原抗体反応による検出する抗原分子の蛍光標識化を利用し、そして、該抗原抗体反応による蛍光標識化に際して、蛍光標識抗体断片と、該蛍光標識抗体断片と抗原を介して結合する非蛍光標識化完全抗体を用いることにより、抗原と結合していない蛍光標識抗体断片と、蛍光標識抗体断片-抗原-非蛍光標識化完全抗体との抗原抗体反応によって形成される複合体との間に、その拡散速度における有意な差を生じさせることができ、したがって、抗原の形状や分子量に依存せず、比較的分子量の小さい抗原タンパク質のような抗原の場合でもFCSを用いて抗原の検出測定が可能であり、広い範囲の抗原を測定することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、抗原タンパク質のような抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、該抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を用い、抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を形成させ、形成された抗原抗体複合体を蛍光相関分光法により検出、解析することにより抗原を検出及び/又は測定する方法よりなる。本発明の検出及び/又は測定法は、異常型プリオンのような病原性タンパク質或いは食品素材中に含まれる有害タンパク質のような抗原タンパク質の検出及び/又は測定に広く適用でき、該抗原タンパク質を簡便な操作で、迅速かつ正確に検出及び/又は測定することができる。
【0016】
本発明の機能について更に説明すると、本発明は、抗原タンパク質のような抗原(例えば、異常型プリオンのような病原性タンパク質やアレルゲンタンパク質のような有害タンパク質)のそれぞれ異なるエピトープ(抗原決定基)を標的とする蛍光標識抗体断片、及び完全型の抗体(又はその混合物(本発明の提供する抗原検出試薬))を抗原と混合することで抗原抗体反応させ、その混合物をFCS測定することから成る。これらの蛍光標識抗体断片、非蛍光標識化完全型抗体は、検出及び/又は測定試料中に抗原タンパク質のような抗原が存在すると、該抗原を介して複合体を形成する(図1)。
【0017】
FCSによる抗原の検出及び/又は測定において、非蛍光標識化完全型抗体を用いた場合の抗原抗体複合体分子のブラウン運動における拡散速度への影響を検証するために、複合体の中心に位置する抗原を用いず、完全型抗体とそれを直接認識する標識化抗体断片とを用いてFCS測定を行った(図2)。測定の結果、標識化抗体断片のみの拡散速度と標識化抗体断片-抗体複合体の拡散速度との間に有意な差が得られた(図3)。すなわち、図3に示される如く、非蛍光標識化完全型抗体(図3、Ab)のFc部分(図2、エピトープC)を認識する蛍光標識抗体断片と非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体反応を行い、FCSによる測定を行った結果、標識化抗体断片のみ(Ab(-))の拡散時間と、蛍光標識抗体断片と非蛍光標識化完全型抗体との複合体(Ab(+))の拡散時間は、理論的には、約600μs、900μsとなるのに対して、測定値も約600μs、950μsとなり標識化抗体断片のみの拡散速度と標識化抗体断片-抗体複合体の拡散速度との間に有意な差が示された。
【0018】
このことは、抗原抗体複合体の中心に位置する抗原が存在して蛍光標識抗体断片-抗原-非蛍光標識化完全型抗体の複合体が形成された場合には、必ずそれらの蛍光標識分子の拡散速度に有意差が生じることを意味している。従って、この組み合わせを用いれば、抗原の分子量に拠らずFCS測定による抗原タンパク質のような抗原の検出が可能であることが明らかとなった。本発明の方法においては、用いる蛍光標識抗体断片を調製するための抗体及び非蛍光標識化完全型抗体は、IgGクラスのモノクローナル抗体を用いるのが好ましい。
【0019】
なお、上記図2及び3に示す実験例は、以下の操作によった:
(使用した材料):
Alexa Fluor647(Zenon One Mouse IgG1 Labeling Kit)
Fab647(Zenon One IgG1 Labeling Reagent)
抗体(図2中Abと表示とした)(Zenon One Blocking Reagent(mouse IgG))
(FCS測定装置)
MF-20(分子間相互作用解析システム:オリンパス光学工業株式会社)
(操作)
10nMのFab647(マウスIgG抗体)のみの溶液と、100nMの完全型抗体と混合したFab647混合物を、N101(日本油脂)でブロッキング処理した384穴プレート(オリンパス)に供し、MF20(オリンパス)を用いて測定した。測定はレーザーパワー100μWとし、30秒間×3回の測定を行った。MF20の処理ソフトフェアを用いて拡散時間をはじめとする各パラメータを導いた。
【0020】
すなわち具体的には本発明は、被検試料に、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を添加して、抗原抗体反応を行わせ、抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を形成させ、形成された抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を、蛍光相関分光法により検出、解析することを特徴とする蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項1)や、抗原が、抗原タンパク質であることを特徴とする請求項1記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項2)や、形成された抗原抗体複合体の蛍光相関分光法による検出、解析が、蛍光標識化された蛍光標識抗体断片と形成された標識化された抗原抗体複合体との拡散速度の差に基く識別を利用した抗原の検出、解析であることを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項3)や、抗原の迅速検出及び/又は測定が、形成された抗原抗体複合体の蛍光相関分光法による検出、解析に基く抗原の存在、又は、抗原の濃度、の検出及び/又は測定であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項4)や、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片が、抗原を免疫原として作製されたモノクローナル抗体から調製されたものであり、抗原タンパク質の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体が、抗原を免疫原として作製されたモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項5)からなる。
【0021】
また本発明は、蛍光相関分光法による抗原の検出及び/又は測定が、被検試料に含まれる抗原の物理的な分離過程を経ることなく行われることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項6)や、被検試料へ、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を添加する工程、該被検試料、蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体により抗原抗体反応を行う工程、及び、該抗原抗体反応を行った被検試料を蛍光相関分光法により検出、解析を行う工程を、自動的又は半自動的に行うことを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項7)や、被検試料が、生体タンパク質試料であり、抗原が病原性タンパク質抗原であることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項8)からなる。
【0022】
さらに本発明は、病原性タンパク質抗原が、異常型プリオンであることを特徴とする請求項8記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項9)や、被検試料が、食品素材であり、抗原が食品素材中に含まれる有害タンパク質抗原であることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法(請求項10)や、検出及び/又は測定する抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体からなる、蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定用の検出試薬(請求項11)や、請求項11記載の検出試薬を装備した、蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定用キット(請求項12)からなる。

【発明の効果】
【0023】
本発明の蛍光相関分光法(FCS)による抗原の検出及び/又は測定法は、検出及び/又は測定する抗原タンパク質のような抗原の形状や分子量に依存せず、異常型プリオンのような病原性タンパク質や、食品素材中に含まれる有害タンパク質のような比較的分子量の小さい抗原タンパク質のようなものでも、検出及び測定が可能であり、広い範囲の抗原の検出及び/又は測定に用いることができる。また、本発明の検出及び/又は測定法は、FCSにより検出及び/又は測定を行うので、検出する抗原分子の数や、大きさ、或いは形等の物理量を、試料の物理的な分離過程を経ずに、しかもほぼ実時間で検出、測定することが可能であり、抗原を簡便な操作で、迅速かつ正確に検出及び/又は測定することが可能である。
【0024】
更に、FCSによる検出及び/又は測定を行う本発明の方法は、FCSで検出及び測定するための処理操作は、被検試料(抗原を含む)と、蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体とからなる検出試薬を混合し、抗原抗体反応を行うだけの操作であり、しかも、その測定結果はほぼ実時間でモニタすることが可能であることから、被検試料への検出試薬の混合、反応から測定結果の表示までを自動的或いは半自動的に行うことに向いている。また、従来プリオンのような抗原タンパク質の測定に用いられていたELISAやウエスタンブロット法のような方法に比較して、分析操作に係わるステップ数が少なく、サンプルも数μl~数十μlで測定可能であることから、経済的にかつ大量の被検試料の測定を行うことができ、実用的な抗原タンパク質の測定手段としての利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の蛍光相関分光法による抗原の迅速検出及び/又は測定法は、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を用い、抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を形成させ、形成された抗原抗体複合体を蛍光相関分光法(FCS)により検出、解析することよりなる。
【0026】
すなわち、本発明を実施するには、被検試料に、抗原のエピト-プを標的とする蛍光標識化された蛍光標識抗体断片、及び、抗原の他のエピト-プを標的とする非蛍光標識化完全型抗体を添加し、該抗体を添加した試料を混合して抗原抗体反応を行わせ、形成された抗原と蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体との抗原抗体複合体を、蛍光相関分光法により検出、解析して、試料中の抗原の存在、大きさ、濃度等を迅速に検出及び/又は測定することにより行われる。本発明のFCSによる検出及び/又は測定における処理操作は、被検試料に含まれる抗原の物理的な分離過程を経ることなく、試料と、蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体とからなる検出試薬とを添加、混合するだけの操作で行われることから、抗原の検出、測定を行う工程を、自動的又は半自動的に行うことができる。
【0027】
(抗タンパク質抗体の調製)
本発明においては、検出試薬として用いる蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体を調製するために抗原に特異的に結合する抗体を調製する。本発明において用いられる、抗原に特異的に結合する抗体としては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体等を挙げることができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかる抗原に対する抗体を調製するには、まず、検出する抗原を精製し、取得する。該抗原は、公知の精製手段を用いて供与源から単離・精製して調製することができ、また、抗原が抗原タンパク質で該抗原タンパク質のアミノ酸配列が公知であれば、遺伝子工学的手法により、微生物や動物細胞等を用いて該抗原タンパク質を産生させ、精製して取得することもできる。可能な場合は、該抗原タンパク質を、ペプチドの化学合成法により調製することができる。ペプチドの化学合成は公知の合成手段を採用することができる。例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC 法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等が挙げられる。
【0028】
該抗原に対する抗体を調製するには、該抗原を用い、慣用のプロトコールを用いて、動物又は植物に感作させ、調製する。例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV-ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。
【0029】
抗原タンパク質のような抗原のモノクローナル抗体を調製するには、例えば、該抗原タンパク質を抗原として、ラット、マウス、ウサギなどの哺乳動物に投与し、感作する。必要に応じてフロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等のアジュバントを用いることもできる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1~10回の免疫を行う。そして、最終の免疫日から1~60日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられる。ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。
【0030】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
本発明においては、本発明において用いる抗原タンパク質の抗体としては、上記のようにして調製されるものの他、既に調製されている市販の抗体がある場合には、該抗体を用いることができる。
【0031】
(蛍光標識抗体断片の調製)
本発明の抗原の迅速検出及び/又は測定法においては、抗原と抗原抗体反応を行い検出するための検出試薬として、該抗原から調製された蛍光標識抗体断片が用いられる。本発明において、蛍光標識抗体断片の調製に用いられる抗体は、同じく本発明において用いられる非蛍光標識化完全型抗体とはその結合する抗原のエピトープが異なる抗体が選択される。該蛍光標識抗体断片の調製には、抗原の完全型抗体をペプシンやパパインのような酵素で断片化し、これを2-メルカプトメチルアミン或いは2-メルカプトエタノール等で還元して単量体とした後、標識化して調製する。該標識化には、蛍光色素が用いられ、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Alexa532のような蛍光色素が用いられる。
【0032】
(FCSによる検出、測定)
本発明の抗原の迅速検出及び/又は測定法においては、被検試料に、検出試薬として蛍光標識抗体断片及び非蛍光標識化完全型抗体を添加し、混合して、抗原抗体反応を行った被検試料を、FCS(蛍光相関分光法)により抗原の検出及び/又は測定を行う。FCSは、溶液中の蛍光分子のブラウン運動を利用し、分子の「大きさ」や「数」といった物理量を得る方法である。
FCSの特徴は、溶液に含まれる蛍光分子の濃度や分子間相互作用を物理的な分離過程を経ずにほぼ実時間でモニタできることにある。そのため、FCSを用いた検出系では、これまで主流となっていた生体分子検出系(例えばELISAなど)で必要であった煩雑なBound/Free分離過程を省くことができる。従って、短時間に多量のサンプルを高感度に、かつ自動的に測定することが可能となる。FCSは、各種のものが知られているが、本発明においては、本発明の検出、測定対象の検出、測定のために障害となることがない限り、いずれの方法も用いることができる(蛋白質 核酸 酵素、Vol.44、No.9、1431-1438、1999;バイオインダストリー 4月号、p.52-59、2003;特開2001-272404号公報;特許第3517241号公報)。
【0033】
(FCS測定装置)
FCSによる検出及び測定に用いられる装置の基本構造を、図4に示す。図により概説すると、(A)はFCS(蛍光相関分光)装置の模式図を示す。レーザーからの励起光はダイクロイックミラー(DM)と対物レンズを経由してカバーガラス上の試料溶液に導かれる。蛍光発光はロングパスフィルター又はバンドパスフィルター(F)を通り、共焦点上のピンホールで共焦点面以外のバックグラウンド光を取り除き、アバランシェフォトダイオード検出器(APD)、又は光電子増幅管(PMT)へと導かれ、その信号はさらにデジタル相関器で解析される。(B)は観測領域の拡大模式図を示す。対物レンズによって極限まで絞られた共焦点領域を、ブラウン運動している蛍光分子が通過する様子を示す。(C)は、蛍光相関解析後の相関曲線を示す。観測される蛍光強度のゆらぎを式を用いて解析することで、分子の「数」や「大きさ」といった物理量が得られる。
FCSによる測定では、共焦点光学系を用いることにより、試料溶液の極微小領域(直径 約400nm, 軸長 約2μm, 体積 ~10-16l)からの蛍光を検出している(図4)。本発明の実施例では、FCS測定装置として、オリンパス社製のMF20を用いた。測定は、波長543,633nmで30秒間の測定を3回行う方式で実施した。
【0034】
(観測される蛍光強度の揺らぎ)
FCSによる測定では、観測領域は開放系であるため、蛍光分子はブラウン運動にしたがい領域内を出入りする。すると、観測領域中の分子の数はある値を中心に変動し、数の揺らぎが生じる。そして、この数の揺らぎに起因した蛍光強度の揺らぎが観測される(蛋白質 核酸 酵素、Vol.44、No.9、1431-1438、1999)。
【0035】
(揺らぎの解析)
観測される蛍光強度のゆらぎを、次の式(1)~(4)を用いて解析することで、分子の「数」や「大きさ」といった物理量が得られる。
すなわち、揺らぎの信号から情報を引き出すために自己相関関数を用いる。FCSで用いる自己相関関数は式(1)で示される。
【式1】
【0036】
JP0004338590B2_000002t.gif
【式2】
【0037】
ここで、s はs=z/wであり、観測領域の半径(w)と半長軸(z)の比を示す。τD は拡散時間(又は相関時間)と呼ばれ、蛍光分子が拡散によって観測領域を通過する平均の時間を示す。N は一定時間内に観測領域内に存在する分子の平均の数を示す。
【式3】
【0038】
揺らぎを式(1)により解析すると図4(C)に示すような曲線が得られ、そこから分子の「動き易さ」を示す拡散時間τD と分子の「数」Nが得られる。相関曲線は、蛍光分子が他の分子と会合するなどして分子のサイズ(大きさ)が大きくなると右にシフトし、反対に解離するなどしてサイズが小さくなると左にシフトする。
式(1)で得られる拡散時間τD は、拡散定数Dと式(2)の関係にある。
【式4】
【0039】
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【0040】
更に、拡散定数Dは、分子を球と仮定した場合のアインシュタイン‐ストークス(Einstein-Stokes)式により、分子の半径r と式(3)に示される関係にある。
【0041】
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【0042】
ここで、κB、T、およびηはそれぞれボルツマン定数、絶対温度、および溶媒の粘性である。
従って、拡散時間τD は式(2)と(3)より分子の「大きさ」(サイズ)に当たる分子半径r と式(4)のように関係付けられる。
【0043】
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【0044】
このように蛍光強度の揺らぎを式(1)及び(4)を用いて解析することで、観測領域内に存在する分子の「数」や「大きさ」を得ることができる。揺らぎと自己相関関数に関しての詳しい説明は解説書に解説されている(武者利光著「ブルーバックス ゆらぎの世界」、講談社、1980;D.アイゼンバーグ他1名著「生命科学のための物理学(下)」培風館、p596-600、1988;日野幹雄著「スペクトル解析」朝倉書店、p25-39、1977)。
【0045】
(FCS測定を用いた場合の操作、所要時間)
本発明のFCSによる抗原タンパク質の検出及び/又は測定の操作、所要時間について、従来法であるELISAを用いた抗原タンパク質の検出及び/又は測定法の場合と比較して表示した。
(1)操作の比較(簡便性の比較)
本発明のFCSによる抗原タンパク質の迅速検出及び/又は測定法の各ステップにおける操作を表1に示した。
【0046】
【表1】
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【0047】
(2)所要時間の比較(迅速性の比較)
本発明のFCSによる抗原タンパク質の迅速検出及び/又は測定法の各ステップにおける所要時間を表2に示した。
【0048】
【表2】
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【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
[FCSを用いた抗原(抗原タンパク質)の検出、測定]
(装置及び材料)
(1) 装置
FCS装置
分子間相互作用解析システム(MF-20、オリンパス光学工業株式会社製)
(2)材料
蛍光標識抗体断片の調製
この実施例では、抗プリオン抗体の蛍光標識抗体断片(Fab'-Alexa532)を例にした。
Fab'-Alexa532の調製の概略を図5に示した。抗PrP抗体溶液をPD-10カラム(ファルマシア)を使ってクエン酸溶液(pH6.3)に平衡化した後、ペプシン(1%(w/w))を添加し(37℃、約30分間)、F(ab')2を調製した。消化の程度はHPLC(カラム;G300SWXL)で確認した。その後、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.3)を用いてFPLC(カラム;Superdex 200(16/60))で精製した後、濃縮保存した。更に、2-メルカプトメチルアミン(0.01M)を添加して還元し(37℃、約1.5時間)、Fab'を調製した。
【0051】
還元の程度はHPLC(カラム;G300SWXL)で確認した。溶液をPD-10カラム(ファルマシア)を使ってクエン酸溶液(pH3.5)に平衡化した後、速やかに2当量のAlexa532マレイミド(Molecular Probe)を加え、4℃で一晩放置してカップリングを行った。その後、0,05Mリン酸緩衝液(pH7.8、0.05%NH3)を用いてFPLC(カラム;Superdex 200(16/60))で精製し、-80℃で凍結保存した。2種類の抗PrP抗体(上記標識断片化したもの、完全型抗体として使用するもの)、及び組換え牛PrP(抗原)は、共に富士レビオ(株)から提供された。
【0052】
(抗原タンパク質の検出、測定実験操作)
N101(日本油脂)でブロッキング処理した384穴プレート(オリンパス光学工業株式会社)に、Fab'-Alexa532(蛍光標識抗体断片)(6.86E-10M)、プリオンタンパク質(抗原タンパク質)(6.12E-8M)、完全型抗体(抗ウシ組換えプリオン抗体)(8.76E-7M)の順に入れ、ピペットでよく攪拌した。37℃で1時間放置した後、、MF20(FCS測定装置:オリンパス光学工業株式会社)を用いて測定した。測定時のレーザーパワーは150μWとし、30秒間×3回の測定を行った。MF20の処理ソフトフェアを用いて拡散時間をはじめとする各パラメータを導いた。
【0053】
(実験結果)
実験結果を、図6に示す。この実施例において、プリオン蛋白質の分子量が約30kDaであることから、完全型抗体を使用しない場合は拡散時間に有意な差が生じない可能性がある。具体的には、蛍光標識抗体断片と複合体(蛍光標識抗体断片+プリオン蛋白質)の理論的な拡散時間はそれぞれ約600μs、650μsとなる。実験においても、蛍光標識抗体断片と複合体(蛍光標識抗体断片+プリオン蛋白質)の拡散時間はそれぞれ約600μs、650μsとなり、有意な差が生じなかった(図6)。一方、蛍光標識抗体断片と複合体(蛍光標識抗体断片+完全型抗体+プリオン蛋白質)の理論的な拡散時間はそれぞれ約600μs、900μsとなり、有意な差が生じる。実験においても、蛍光標識抗体断片と複合体の拡散時間はそれぞれ約600μs、950μsと理論値に近く、有意な差を生じた(図6)。したがって、この実施例により、本発明の方法を用いなければ検出できない分子量の小さな抗原を、本方法を用いて検出し得ることが立証された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のFCSによる抗原の迅速検出及び/又は測定法の概略を示す図である。
【図2】本発明のFCSによる抗原の迅速検出及び/又は測定法の機能を証明するために、蛍光標識抗体断片のみの場合と、蛍光標識抗体断片と完全型抗体との複合体の場合との拡散速度の相違についての試験の概略を示す図である。
【図3】本発明のFCSによる抗原の迅速検出及び/又は測定法の機能を証明するために、蛍光標識抗体断片のみの場合と、蛍光標識抗体断片と完全型抗体との複合体の場合との拡散速度の相違についての試験の結果を示す図である。
【図4】本発明において使用されるFCS測定装置の概略を示す図である。
【図5】本発明のFCSによる抗原の迅速検出及び/又は測定法において用いられる蛍光標識抗体断片の調製の概略を示す図である。
【図6】本発明の実施例において、蛍光標識抗体断片及び完全型抗体を用いて、該抗体と抗原タンパク質との複合体の形成による拡散時間の差について試験した結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5