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明細書 :耐熱性多頻度DNA切断酵素の細胞内活性化によるゲノム再編成の誘発方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4158920号 (P4158920)
公開番号 特開2006-141322 (P2006-141322A)
登録日 平成20年7月25日(2008.7.25)
発行日 平成20年10月1日(2008.10.1)
公開日 平成18年6月8日(2006.6.8)
発明の名称または考案の名称 耐熱性多頻度DNA切断酵素の細胞内活性化によるゲノム再編成の誘発方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   9/16        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/19
C12N 9/16 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2004-338029 (P2004-338029)
出願日 平成16年11月22日(2004.11.22)
審査請求日 平成17年6月9日(2005.6.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】太田 邦史
【氏名】瀬尾 秀宗
【氏名】廣田 耕志
【氏名】柴田 武彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 米国特許第05792633(US,A)
Curr. Genet.,1996年,Vol.30,p.50-55
Mol. Cell. Biol.,1995年,Vol.15, No.4,p.1968-1973
細胞の分子生物学,株式会社ニュートンプレス,1995年,第3版,p.1014-1021
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,1985年,Vol.82,p.1354-1358
Appl. Microbiol. Biotechnol.,2002年,Vol.59,p.239-245
調査した分野 C12N 15/09
C12N 1/19
C12N 9/16
JSTPlus(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ゲノム中の任意の部位において遺伝的組換えが起きている真菌細胞から遺伝的組換え頻度を上昇させた細胞を製造する方法であって、該細胞中でTaqIを発現させ、TaqIの一過的活性化を誘導し、該細胞のゲノムDNA中の任意の部位に2以上の二本鎖切断を導入することにより、遺伝的組換え頻度を上昇させた細胞を製造する方法。
【請求項2】
前記遺伝的組換えが相同組換えである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝的組換えが非相同組換えである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真菌細胞が酵母であることを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項5】
前記TaqIを誘導的に発現させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記細胞の温度を前記TaqIが活性化される温度まで上昇させ、上昇させた温度で該細胞をインキュベートすることにより、前記TaqIの一過的活性化を達成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記TaqIが活性化される温度が40℃~60℃であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記インキュベートを3~30分間行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法を用いて、前記細胞中のゲノム再編成を誘発した細胞を製造する方法
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を上昇させる技術に係り、より詳細には、ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を上昇させることによりゲノム再編成を誘発する方法および係る方法によってゲノム再編成が行われた細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として知られているものに、HOエンドヌクレアーゼ(例えば、特許文献1を参照。)、I-SceI(例えば、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2を参照。)、Cre-lox(例えば、非特許文献3を参照。)などの部位特異的組換え酵素の細胞内導入型がある。これらの酵素はきわめて配列認識が厳密で、異種ゲノム中には全く切断部位を持たない。そのため予めゲノム中にこれらの切断配列を導入しておくことで、その周辺における相同組換えのみ活性化することが出来る。ただし、今回の発明のようにゲノム一般での組換え頻度向上に用いることは原理的に出来ない。一方、DNA切断酵素を用いてゲノム一般箇所の組換えを上昇させる手法については、切断酵素の活性を厳密に制御することができないため、細胞に致死的な影響が生じやすく、これまで有用な系は実現されていない。ただ、類縁の従来手法であるREMI法 (Restriction Enzyme-Mediated Integration)(例えば、特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)では、形質転換時に制限酵素とDNAを混合して細胞内に導入し、導入DNAの染色体挿入頻度を上昇させることが可能になっている。しかし、この手法ではごく一部の細胞にしかDNAと制限酵素が取り込めないので、あくまで外来DNAの染色体への挿入を促進する用途に限定され、ゲノムシャッフリングなど大規模なゲノム組成の改変には利用する事が出来ないという本質的な欠点がある。
【0003】

【特許文献1】米国特許第6,037,162号明細書
【特許文献2】米国特許第6,610,545号明細書
【特許文献3】米国特許第5,792,633号明細書
【非特許文献1】Jacquier等,1985.Cell,41:383-394
【非特許文献2】Rouet等,1994.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:6064-6068
【非特許文献3】DiSanto等,1995.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:377-381
【非特許文献4】SchiestlおよびPetes,1991.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7585-7589
【非特許文献5】Schiestl等,1994.Mol.Cell.Biol.14:4493-4500
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、一般には、ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を上昇させる方法を提供することを目的とする。
また、本発明はゲノム再編成の誘発方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記方法によってゲノムDNAの遺伝的組換えが行われた細胞、またはゲノムDNA再編成が行われた細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記事情に鑑みて、ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を効率よく上昇させる方法がないかについて鋭意研究した結果、意外にも、細胞内で制限酵素活性を一過的に上昇させ、該細胞中に存在するゲノムDNAに二本鎖切断を導入することにより、該ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度が効率よく上昇することを見出した。
従来手法では、制限酵素活性を制御することが出来ないため、本手法のようにゲノム中に多数の切断部位を持つ制限酵素を予め組み込んだ細胞を作り出すことが出来ない。したがって、酵母など微生物のゲノムシャッフリングの促進に用いるにはきわめて効率が悪く、利用は現実的に不可能である。ところが、本発明で利用する好熱菌等の制限酵素TaqI等は常温下ではほとんど活性を示さないので、該酵素を大量に発現した状態で細胞生存をある程度維持することができる。また、温度上昇の時間と温度を制御することで、組換え頻度の調節をすることが可能になる。さらにTaqIは4塩基認識であるため、ゲノム中に多数の切断箇所を持ち、これらの任意の場所における組換え頻度の向上に利用することが可能である。
すなわち、本発明は以下の(1)~(13)に関する。
(1)本発明の第1の実施態様に係る発明は、「ゲノム中の任意の部位において遺伝的組換えが起きている細胞の遺伝的組換え頻度を上昇させる方法であって、該細胞中で制限酵素を発現させ、該制限酵素の一過的活性化を誘導し、該細胞のゲノムDNA中の任意の部位に2以上の二本鎖切断を導入することにより、遺伝的組換え頻度を上昇させる方法。」である。
(2)本発明の第2の実施態様に係る発明は、「前記遺伝的組換えが相同組換えである上記(1)に記載の方法。」である。
(3)本発明の第3の実施態様に係る発明は、「前記遺伝的組換えが非相同組換えである上記(1)に記載の方法。」である。
(4)本発明の第4の実施態様に係る発明は、「前記細胞が、真菌細胞、出芽酵母細胞、分裂酵母細胞から成る群より選択されるものであることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。」である。
(5)本発明の第5の実施態様に係る発明、「前記制限酵素を誘導的に発現させることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。」である。
(6)本発明の第6の実施態様に係る発明は、「前記制限酵素が認識する塩基数が4塩基であることを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。」である。
(7)本発明の第7の実施態様に係る発明は、「前記制限酵素が耐熱性細菌から単離したものであることを特徴とする上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。」である。
(8)本発明の第8の実施態様に係る発明は、「前記細胞の温度を前記制限酵素が活性化される温度まで上昇させ、上昇させた温度で該細胞をインキュベートすることにより、前記制限酵素の一過的活性化を達成することを特徴とする上記(7)に記載の方法。」である。
(9)本発明の第9の実施態様に係る発明は、「前記制限酵素がTaqIであることを特徴とする上記(8)に記載の方法。」である。
(10)本発明の第10の実施態様に係る発明は、「前記制限酵素が活性化される温度が40℃~60℃であることを特徴とする上記(8)または(9)に記載の方法。」である。
(11)本発明の第11の実施態様に係る発明は、「前記インキュベートを3~30分間行うことを特徴とする上記(8)ないし(10)のいずれかに記載の方法。」である。
(12)本発明の第12の実施態様に係る発明は、「上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の方法を用いて、前記細胞中のゲノム再編成を誘発する方法。」である。
(13)本発明の第13の実施態様に係る発明は、「上記(1)ないし(12)のいずれかに記載された方法によって作製された細胞。」である。
【発明の効果】
【0006】
本発明を用いることにより、本発明に係る方法を適用したほぼ全ての細胞集団において、ゲノムDNAの遺伝的組換え頻度を効率的に向上させることが可能となる。
【0007】
また、本発明に係る方法を細胞に適用することにより、該細胞内での遺伝的組換えの活性化を任意の時期に誘導することができ、該細胞のゲノム中におけるシャッフリングが可能となる。
【0008】
さらに、本発明の方法を種々の細胞に適用することで相同染色体間の組換え促進によるゲノム再編成が可能となり、遺伝形質の改良を比較的容易に行なえるようになり得る。
【0009】
さらにまた、本発明の方法を用いることで、異なる属性を持つ細胞間(例えば、タンパク質発現用酵母と凝集性の高い酵母間、醤油酵母と酒造酵母、低温耐性酵母とパン酵母、極限環境に存在する種々の微生物間)におけるゲノムシャッフリングを促進し、新たな特性を獲得した細胞の創出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態として、酵母細胞内にTaqI遺伝子を誘導的に発現させ、制限酵素TaqIを一過的に活性化さることにより、遺伝的組換え頻度を上昇させる方法を中心に以下に詳細に説明する。
【0011】
1.細胞
本発明を適用することができる細胞は、低レベルであっても遺伝的組換えが生じている細胞であれば、原核細胞であっても真核細胞であっても適用可能であり、当業者であれば容易に選択することができる。そのような細胞としては、限定はしないが、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌類細胞、酵母細胞、好ましくは分裂酵母、出芽酵母などが選択可能である。
ここで「遺伝的組換え」とは、広い意味において、DNA間で起きるDNA切断・再結合現象を意味する。本発明における「遺伝的組換え」には、相同組換えおよび非相同組換えの両方が含まれる。また、「ゲノム再編成」とは、「遺伝的組換え」頻度の上昇に伴い、既存のゲノム配列間において組換えが起こり、その結果、部分的もしくは全体的にゲノム配列に変化を生じることを意味する。
本発明で用いる細胞の培養条件は当該技術分野において周知の方法によって行われるが、選択される細胞に適した培地、培養条件(培養温度など)下で行われることは言うまでもない。培地としては、一般に使用されているSD培地などがあり、又は選択マーカーによる形質転換体の選択を可能ならしめるための選択培地などが挙げられる。培養は、通常、用いる細胞にとっての適温(酵母細胞の場合には、例えば、30℃)で数日間行う。培養中は必要に応じて抗生物質を培地に添加してもよい。また、細胞内に導入した制限酵素の発現を誘導的に行う場合には、該制限酵素の転写制御を誘導的に行うべく、誘導的転写プロモーターを用いてもよい。誘導的転写プロモーターを利用する場合には、転写を誘導するための薬剤(例えば、ガラクトースなど)を添加してもよい。
【0012】
2.制限酵素
本発明に係る方法を実施するにあたり、遺伝的組換え頻度の上昇が望まれる細胞中において、制限酵素を一過的に活性化し、ゲノムDNA中の適当箇所に二本鎖切断を導入する必要がある。切断箇所の数に遺伝的組換え頻度の上昇効率が依存するため、切断箇所が多すぎる酵素または少なすぎる酵素は本方法における使用にはあまり適さない。限定はしないが、例えば、本発明に係る方法に用いる制限酵素としては、4塩基~6塩基の認識部位を持つものが好ましく、さらに好ましくは、4塩基~5塩基の認識部位を持つ酵素であり、最も好ましくは4塩基の認識部位を持つ酵素である。また、本発明に用いられる制限酵素は、「一過的に活性化させる」ことが可能である必要がある。ここで「一過的に活性化させる」とは、細胞を通常の培養条件とは異なる条件下で数分間培養することにより、該制限酵素を数分間活性化させることを意味する。また、「通常の培養条件とは異なる条件」とは、当業者において選択可能な条件であれば如何なる条件でもよいが、例えば、用いた制限酵素の活性化に必要とされる物質(例えば、金属イオンなど)を添加した条件、あるいは、用いた制限酵素の活性化に必要な温度条件などを使用することができる。
例えば、本発明を出芽酵母細胞に適用する場合においては、好ましい制限酵素としては、TaqIを挙げることができ、TaqIを一過的に活性化する方法としては、TaqIを発現可能に導入した酵母細胞を1分~30分間、40~60℃にて、より好ましくは50℃にてインキュベートすることできる。
また、本発明の方法を分裂酵母細胞に適用する場合においては、好ましい制限酵素としては、TaqIを挙げることができ、TaqIを一過的に活性化する方法としては、TaqIを発現可能に導入した酵母細胞を1分~5分間、40~60℃にて、より好ましくは50℃にてインキュベートすることできる。
【0013】
3.制限酵素の発現
本方法において用いる制限酵素は、目的の細胞内で発現させる必要があるが、好ましくは、該制限酵素の発現を誘導的に行うことにより発現調節が可能であることが望ましい。制限酵素の発現調節は、当業者にとって周知の技術であれば、如何なる方法を用いてもよいが、好ましくは、該制限酵素の転写制御を行う領域および該制限酵素遺伝子を適当なベクターに構築し、該ベクターを細胞内へ導入することで達成することができる。制限酵素の発現誘導は、プラスミドの状態で目的細胞内に保持することによっても行うことができるが、好ましくは、該制限酵素の転写制御を行なう領域および該制限酵素遺伝子を染色体上の任意の領域に組込ませ、該制限酵素を安定に発現させる方法、より好ましくは安定かつ誘導的に発現させる方法が用いられる。ここで、「制限酵素の転写制御を行なう領域」とは、特定の遺伝子の転写制御に必要なDNA配列であって、該遺伝子に隣接して存在し、転写プロモーター、エンハンサー、その他転写活性を制御するのに必要な任意の配列が含まれる。
転写プロモーターは、構成的プロモーター又は誘導的プロモーターのいずれも使用可能であるが、制限酵素の発現制御が可能であることから、誘導的プロモーターが好ましい。 誘導的プロモーターとしては、チアミン欠乏に応答するもの、及びガラクトースに応答するものなどが含まれ、特に、ガラクトースに応答するものが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に、酵母細胞を用いた実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例は、1)耐熱性細菌のTaqI遺伝子クローニングと出芽酵母または分裂酵母細胞内での発現ベクター構築、2)TaqI発現細胞の熱処理による組換え上昇の確認、からなる。これにより、酵母内での組換え活性化を任意の時期に誘導し、酵母ゲノム間でのシャフリングが可能となる。
まず、二倍体酵母細胞内でTaq1を誘導的に発現する細胞株を樹立した。この細胞では組換えの活性化を計測するために2つの異なる点変異を持つ栄養マーカー遺伝子を持つ。点変異マーカー遺伝子間での組換えの結果、変異が除去されて非栄養要求性となる割合を測定することにより組み換えの活性化をモニターする。TaqIを細胞内で活性化することにより細胞内で組換えを誘導することが確認された。
【0015】
実験例1:出芽酵母における組換え活性化
(1)TaqI発現用プラスミド作製
TaqIエンドヌクレアーゼのクローニングは、以下のように行った。TaqI-Nterm2 (GGAAACATGGCCCCTACACAAGCCC)(配列番号1)および-TaqI-Cterm (CGGGCCGGTGAGGGCTTCCC)(配列番号2)をプライマー、またThermus Thermophilus HB8 Genomic DNA Solution(宝酒造)を鋳型とし、Pyrobest DNA polymerase (宝酒造)により、50μlスケールで増幅を行った。98℃2分加温した後98℃20秒、63℃30秒、72℃1分を23サイクル行い、最後に72℃5分反応させた。その後EX Taq(宝酒造社)0.5μlを加えた後、72℃で10分間反応させた。ここで得られたサンプル10μlを1%アガロースゲル電気泳動により分離し、TaqI遺伝子に相当するバンドを切り出し、Mini Elute Gel Extraction Kit (Qiagen社)を用いて精製した。なお、カラムからの溶出は、12μlの溶出バッファー(キット添付)で行った。この溶出物4μlをpYES2,1/V5-His-TOPOベクター(Stratagene社)1μlと、Salt Solution 1μl存在下で反応させ、DH10B株にトンラスフォーメーションした。得られたコロニーから培養を行い、プラスミドをアルカリ法により抽出した。プラスミドはV5 C-term Reverse Primer およびGAL1 Forward Primer (いずれもStratagene社)を用い、ABI 310シーケンサにより配列を確認し、pHS141とした。このベクターを用いることでガラクトースによってTaqIタンパク質の酵母内での発現を制御することが可能になる。
【0016】
(2)形質転換
(1)で作製したプラスミドpHS141を実験室出芽酵母ORD149に形質転換させる。ORD149のコンピテントセルとプラスミドpHS141を試験管内で混合し、Fast Yeast-Transformation Kit (Geno Technology Inc.) を使用して形質転換させた。pHS141はURA3選択マーカーを持つため、形質転換した細胞の選択にはウラシルをドロップアウトした選択培地(SD-Ura)を用い、SD-Ura寒天培地上に出現したUra+のコロニーを選択した。
【0017】
(3)組換え頻度の測定
(2)で選択したプラスミドpHS141 を組み込んだORD149株をSD-Ura選択液体培地に入れ、30℃で一晩培養する。細胞数2-3×10/mL程度まで培養後、菌体を遠心分離し、菌体を滅菌水で洗浄した。菌体を、ウラシルをドロップアウトしたガラクトース選択液体培地(SD Galactose-Ura)に移し、再び30℃で培養を開始した。ガラクトース培地での培養開始前の培養液を1mL採取し、ガラクトース培養0時間のサンプルとした。
ガラクトース培地での培養開始から2時間経過後、培養を終了し、培養液を1mL採取した。これをガラクトース培養2時間のサンプルとした。
ガラクトース培地での培養2時間サンプルを試験管に分注し、50℃でそれぞれ0分、5分、10分、15分間保温した。ガラクトース0時間培養液は組換え頻度の基準となるコントロール用サンプルとし、50℃の保温は行わなかった。
保温処理した2時間培養のサンプルと0時間のサンプルを、YPD寒天培地ならびにアルギニンをドロップアウトした選択寒天培地(SD-Arg)に塗布し、2~3日間30℃で培養した。YPD寒天培地には生存したすべての細胞がコロニー形成するのに対し、SD-Arg寒天培地には発現したタンパク質で組換えを起こしてArg+になった細胞しかコロニー形成しないため、コロニーの発現数の割合から組換え頻度を測定することができる。SD-Arg寒天培地には培養液100μLを塗布するが、YPD寒天培地には培養液を10~10倍に希釈して同量を塗布した。
この実験にはネガティブコントロールとして、形質転換で前述のORD149にプラスミドpYESlacZを組み込んだ酵母を使用した。この酵母でも同様の実験を行い、pHS141との比較を行った。
プラスミドpHS141により酵母細胞内でDNA切断を起こすタンパク質TaqIが発現し、50℃で保温により活性が顕在化し、arg4ヘテロアリルでの染色体間相同組換え頻度が上昇した(図1)。
【0018】
(4)温度別組換え頻度の測定
プラスミドpHS141を組み込んだORD149株を使用して、(3)の組換え頻度測定と同じ方法で培養実験を2時間まで行い、0時間と2時間のサンプルを作製した。ガラクトース培養2時間のサンプルを30℃、40℃、45℃、50℃、55℃で20分間保温し、SD-ArgおよびYPD寒天培地に培養液を塗布した。2日後、培養寒天培地上のコロニー数をカウントし、組換え頻度を算出した。
この実験にもネガティブコントロールとしてプラスミドpYESlacZを組み込んだORD149株を使用した同じ実験を行い、プラスミドpHS141を組み込んだ株と測定結果を比較した。
プラスミドpHS141を組み込んだ株においては、50℃で保温した場合に、組換え頻度の上昇が最も高かったが、ネガティブコントロールの株では、組換え頻度の有意な上昇は認められなかった(図2)。
【0019】
(5)アデニン要求性酵母の出現頻度測定
プラスミドpHS141を組み込んだORD149株を使用して(3)の組換え頻度測定と同じ方法用い培養実験を2時間まで行い、0時間と2時間の培養液を採取した。ガラクトース培養2時間のサンプルを50℃で20分保温し、培養液をYPD寒天培地1枚当たり1000~2000個になるように希釈調整し、5枚に分けて塗布した。同時にネガティブコントロール(プラスミドpYESlacZを組み込んだORD149株)についても実験を行った。YPD寒天培地に出現したコロニーのうち、組換えが起こったAde-を示す赤いコロニー(ADE1遺伝子が破壊されたアデニン要求性酵母)の割合を測定した。
測定の結果、50℃で保温することによってAde-酵母の割合が増加し、組換えが誘発されていることが確認された(図3)。
【0020】
(6)Aureobacidin耐性酵母の組換え頻度測定
プラスミドpHS141にAureobasidin A耐性遺伝子(Aur1)(宝酒造)を挿入し、Aureobasidin A耐性を持たせた発現プラスミド(pHS141 Aur+)を作成する。その遺伝子を形質転換でORD149株に組み込んだ。SD-Ura培地で培養し、形成されたコロニーを採取した。
(3)の組換え頻度測定と同じ実験方法で、組換え頻度を測定した。
測定の結果、組換え頻度の上昇を確認した(図4)。
【0021】
(7)発現したタンパク質の検出
ガラクトースによるタンパク質の発現誘導の確認をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法とウェスタンブロッティング法で確認した。
本実験においてTaqIはV5タグと融合した形態で発現されるため、V5タグに対する抗体により、TaqIの発現を確認した。
プラスミドpHS141を組み込んだORD149株とプラスミドpHS141 Aur+を組み込んだORD149株を使用して、(3)の組換え頻度の測定の場合と同じ条件でガラクトース液体培地での培養を行った。ただし、取得するサンプルはガラクトース培養開始から0、0.5、1、2時間(計4点)の培養液1mLとし、50℃での保温は行わなかった。サンプル採取後、遠心分離して上清を除去し、純水で洗浄後、遠心機分離した。沈殿した菌体にLysis Buffer(50mM Tris-HCl (pH 8.0), 150mM NaCl, 1mM EGTA, 1mM MgCl2)500μlを加えて懸濁した。遠心分離で上清を除去し、再びLysis Bufferと1/50量のコンプリート(Roche社)を加え、懸濁した。
0.6gのグラスビーズが入ったマルチビーズショッカー専用チューブに懸濁液を移し、マルチビーズショッカー(安井機器)で細胞破壊を行った。
細胞破壊したチューブから低速の遠心分離で抽出液のみを回収した。溶液をさらに遠心分離し、沈殿と上清をそれぞれ回収した。
沈殿と上清それぞれに等量のSDSプリアクリルアミドゲル電気泳動サンプルバッファ(1/10量の2-メルカプトエタノールが含まれたもの)を加え、懸濁し、100℃で5分間保温した。
VX PANTERA Gel SYSTEM(高速SDSプリアクリルアミドゲル電気泳動システム: DRC社)を使用し、VX PANTERA Gel(DRC社)ゲル、付属の泳動バッファを用い電気泳動を行った。
次にウェスタンブロッティング法でタンパク質の検出を行った。サンプルを電気泳動したゲルにセミドライ方式で50mA、50Vの電流をかけ、PVDF膜 (Immobilon Transfer Memblanes : Millipore社)にタンパク質を転写させた。泳動バッファにはセミドライBuffer(25mM Tris-HCl(pH8.3), 192mM Glycine, 20% エタノール)を使用した。
タンパク質を転写したPVDF 膜のブロッキング処理をTBS-T (pH7.4)(20mM Tris, 500mM Nacl, 0.05% Tween)に溶解した5% Skim Milk溶液を用いて行った。次に一次抗体Anti V5-Antibody(Invitrogen社)を用い抗体反応を行った後、TBS-Tで3回洗浄し、二次抗体AP α-mouse F(ab’)2(Amersham社)と抗体反応させた。TBS-Tで3回洗浄後、BCIP/NBT Phosphatase Substract(KPL社) を用い発現したタンパク質の検出を行った。
SDS-PAGE後、ウェスタンブロッティング法によりpHS141がTaqI由来のタンパクを発現していることを確認した(図5)。
【0022】
実験例2:分裂酵母内での組換え活性化
(1)D50株作製
耐熱性細菌ゲノムを鋳型に用い下記のoligoDNAを用いてPCR反応をおこなうことでTaqI遺伝子断片を取得した。
cccCATATGGCCCCTACACAAGCCC(配列番号3)(下線部はNdeI制限酵素認識部位)
cccGGATCCTCACGGGCCGGTGAGGGC(配列番号4)(下線部はBamHI制限酵素認識部位)
得られた断片の配列を確認し、NdeI-BamHIで切断した。この断片をTaqI-FRとよぶ。分裂酵母転写プロモーターnmt1、TaqIFR、転写ターミネーター、KanR(ジェネティシン耐性マーカー遺伝子)、分裂酵母leu1遺伝子3’断片、pUC118の順で結合および環状化し、intL-TaqIプラスミドを得た。intL-TaqIのleu1遺伝子内にあるXhoI部位で切断し、分裂酵母株D26株に形質転換する。形質転換法およびジェネティシン耐性形質転換体の取得方法は、Hirotaら, Genes to Cells, 6:201-214, 2001に記載された方法に従った。
この株は培地中チアミン除去によってTaq1タンパクの発現を制御することが可能である。
【0023】
(2)組換え頻度の測定
D50株をSD培地(チアミンを含む)にストリークし、シングルコロニーが出るまで培養をおこなった。シングルコロニーをMM+N液体培地(チアミンを含まない)に懸濁し30℃で16時間培養した。細胞数1×10/ml程度まで培養後、菌体を遠心分離し、菌体を滅菌水で洗浄した。菌体サンプルを試験管に分注し、50℃でそれぞれ0分、1分、3分、5分間保温した。Taq1を発現していないD26株もコントロールとして同様の操作を行った。
保温処理したD50サンプルとD26サンプルを、YEプレートならびにアデニンをドロップアウトした選択培地(SD-ade)に塗布し、7-10日間30℃で培養した。
YEプレートには生存したすべての細胞がコロニー形成するのに対し、SD-adeプレートには組換えを起こしてade+になった細胞しかコロニー形成しないため、コロニーの発現数の割合から組換え頻度を測定することができる。SD-adeには100μlを塗布するが、YEには培養液を10~10倍に希釈して同量を塗布した。
実験の結果、タンパク質の発現後に温度を上昇させると、出芽酵母に比べてかなりの細胞が死に至ったが、それでも多数の細胞が生存した(図6AおよびB)。
TaqI発現細胞を一過的に(5分間)加温すると、著しい相同組換え頻度の上昇(100倍)が認められた。なお、この頻度は最も相同組換え頻度の高い減数分裂期の頻度に匹敵する(図7)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実験酵母をガラクトース培地で2時間培養した後、50℃で加温したときの組換え頻度を示す。横軸は50℃で保温してから経過した時間、縦軸は組換え頻度を表示する。また、実線はPHS141プラスミドを組み込んだ株についての、破線はpYESlacZプラスミドを組み込んだ株についての結果をそれぞれ示す。
【図2】実験酵母をガラクトース培地で2時間培養した後、30、40、45、50、55℃で加温した場合と保温しなかった場合の組換え頻度を示す。縦軸は保温温度、縦軸は組換え頻度を示す。また、黒棒はPHS141プラスミドを組み込んだ株についての、白棒はpYESlacZプラスミドを組み込んだ株についての結果をそれぞれ示す。
【図3】実験酵母をガラクトース培地で2時間培養した後、50℃で15分加温した場合としなかった場合の組換え頻度を示す。横軸は加温時間、縦軸は組換え頻度を示す。また、黒棒はPHS141プラスミドを組み込んだ株についての、白棒はpYESlacZプラスミドを組み込んだ株についての結果をそれぞれ示す。
【図4】Aureobasidin A耐性を持つPHS141プラスミドを組み込んだ酵母をガラクトース培地で2時間培養した後、50℃で加温したときの組換え頻度を示す。横軸は50℃で加温してから経過した時間、縦軸は組換え頻度を示す。
【図5】PHS141プラスミドを組み込んだ酵母から発現したタンパクをウェスタンブロッティング法で検出した結果を示す。PHS141プラスミドを組み込んだ酵母をガラクトース培地で培養し、0、0.5、1.0、2.0時間経過した菌体を破壊して抽出液をSDS-PAGEで電気泳動し、ウェスタンブロッティング法で膜に転写してタンパクを染色した。PHS141プラスミドを組み込んだ株と、Aureobasidin A耐性を持つPHS141プラスミドを組み込んだ株についてのそれぞれの結果を示す。
【図6】Taq1発現細胞D50および非発現細胞D26を50℃加温後0,1,3,5分後での生細胞の存在率を示す。0分を100%とする。
【図7】TaqI発現細胞D50および非発現細胞D26を50℃加温後0,5分後でYEおよびSD-adeプレートに塗布し、生存細胞に占める組換え体の割合を調べた結果を示す。また、各グラフに示される1~6は、実験に用いた6枚のプレートに便宜的に付けられた番号である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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