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明細書 :新規なナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料、及びその製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4854969号 (P4854969)
公開番号 特開2006-219337 (P2006-219337A)
登録日 平成23年11月4日(2011.11.4)
発行日 平成24年1月18日(2012.1.18)
公開日 平成18年8月24日(2006.8.24)
発明の名称または考案の名称 新規なナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料、及びその製造法
国際特許分類 C01B  31/04        (2006.01)
B01J  20/20        (2006.01)
FI C01B 31/04 101Z
B01J 20/20 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 18
出願番号 特願2005-034156 (P2005-034156)
出願日 平成17年2月10日(2005.2.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2004年12月1日 炭素材料学会発行の「第31回 炭素材料学会 年会要旨集」に発表
特許法第30条第1項適用 平成17年1月13日 独立行政法人科学技術振興機構(JST)主催の「さきがけライブ2004 ナノテクノロジー分野4領域合同研究報告会~ナノテクをさきがける~『ナノと物性』領域」において文書をもって発表
審査請求日 平成19年11月20日(2007.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】王 正明
【氏名】廣津 孝弘
【氏名】山岸 美貴
【氏名】楚 英豪
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
審査官 【審査官】吉田 直裕
参考文献・文献 特開2004-210583(JP,A)
特開2005-047737(JP,A)
調査した分野 C01B 31/00-31/36
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)グラファイトを酸化してグラファイト酸化物とする工程、(2)次いでこのグラファイト酸化物の層面間距離を固定化する工程、及び(3)固定化された層面間距離を有する炭素の層を維持するために炭素の層と炭素の層の間にヒドロキシナフタレン誘導体を添加する工程、(4)層面間距離を固定化している材料と前記(3)の工程で添加したヒドロキシナフタレン誘導体を反応させる工程、(5)未反応のヒドロキシナフタレン誘導体を除去する工程、(6)残存しているヒドロキシナフタレン誘導体を炭化処理して炭化処理物にする工程、及び(7)残存する層面間距離を固定化している材料を除去する工程、からなる層面間距離が通常のグラファイトよりも拡大された炭素の層を有し、かつそれらの層が炭化処理物により維持されていることを特徴とするナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料の製造方法。
【請求項2】
層面間距離を固定化する工程が、グラファイト酸化物の層間に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物のゾル或いは多核金属陽イオンをインターカレーションさせ、次にこれを不活性雰囲気中で加熱処理して金属又は半金属の酸化物とする工程を含むものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロキシナフタレン誘導体が、2,3-ジヒドキシロナフタレンである請求項1又は2に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンなどの炭化水素ガスなどを吸蔵や吸着することができるナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料、及びその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、層面間距離が通常のグラファイトよりも拡大された炭素の層を有し、かつそれらの層の層間距離を維持する為の部分が選択的に炭化処理物により維持されていることを特徴とする層面間距離がメタンなどの炭化水素の吸蔵に適している炭素の層を有し、かつ有効活用できる親油性表面の広いナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンは地球上でぼう大な蓄積量のある一次エネルギー源であり、既存の他の燃料と比べて二酸化炭素排出量が少ないという点で地球環境温暖化防止のための次世代エネルギー源として有望視されている。特に、わが国の近海には、南海トラフとして海底に潜むメタンハイドレートベルトが存在し、他のエネルギー源に乏しいわが国において、メタンをエネルギー源として利用することは、今後のエネルギー政策上、重要な課題となっている。
【0003】
ところで、メタンを自動車のエネルギーとして利用したり、海底や海外の産地から使用地まで船で輸送する場合には、メタンを貯蔵することが必要になる。これまでメタンの貯蔵方法としては、-160℃以下の低温状態に冷却するか、20MPa以上の高圧を加えて貯蔵する方法が行われているが、エネルギー消費量が多く、コスト高になる上に、ハンドリング性が悪いという欠点があった。このような欠点を克服するために、多孔性固体への気体濃縮現象を利用した吸着貯蔵方法や、0℃付近で数MPaの圧力で固体状態となるメタンハイドレートを利用した吸蔵方法などが検討されている。例えば、グラファイトナノファイバーの結晶が積層された直径が10nm~600nmの円柱状構造物からなるメタンなどのガス貯蔵材料(特許文献1参照)、ハイドロタルサイトなどの正の層電荷を有する無機層状物質の間に有機陰イオンを挿入して炭化させてなる炭化水素吸蔵材料(特許文献2参照)、銅イオンとトリメシン酸類とを反応させてなるガス吸着材料(特許文献3参照)、メタンをメタンクラスレート水和物として貯蔵する方法(特許文献4参照)などが報告されている。
【0004】
これまで知られている吸着剤の中では、活性炭のメタン貯蔵量が最も多いとされているが、活性炭のポア構造の中には、メタンなどの分子のファンデンワールス力による吸着貯蔵に寄与する直径2nm以下のミクロポアのほかに、メタン貯蔵に余り寄与しない直径2nmを超えるメソポアや直径50nm以上のマクロポアなどの無駄なスペースが含まれているので、ポア構造や表面構造を改質して、メタン貯蔵に寄与する構造を増加させることが、メタン貯蔵量の増大の課題となっている。このような活性炭の改良技術としては、例えば、粉状又は粒状のセルロース又はポリイミド化合物などの原料にバインダーを添加することなく加圧成形し、これを炭化処理してなる活性炭からなるメタンなどのガス貯蔵材料(特許文献5参照)などがある。また、本発明者らも、活性炭などの多孔質炭素材料を酸化した酸化生成物からなるメタン吸着材料を開発してきた(特許文献6参照)。
さらに、ゼオライト、活性炭、シリカゲルなどの従来のメタン貯蔵物質を用いたメタンガスや天然ガスの貯蔵方法に関するものも多数報告されている(特許文献7及び8など参照)。
【0005】
また、モンモリロナイトのような層状粘土について、その層間にアルミナ、ジルコニア、酸化クロム、酸化チタン、SiO-TiO、SiO-Fe、Al-SiOなどをインターカレーションして層間架橋多孔体を形成させることが知られており(非特許文献1参照)、このような層状構造に水素や炭化水素などを吸蔵して、燃料の供給源として利用することが考えられている。
炭素性の層状物質としては、グラファイトがよく知られているが、グラファイトは、層面間距離0.335nmの異方性の強い層状構造を有する物質である。このような強い異方性は、その反応性に大きな影響を与え、面内の結合を攻撃するような反応は進行しにくいが、層間を拡張しながら反応物質を挿入する反応、いわゆるインターカレーションを起しやすく、これによりグラファイト層間化合物を形成する。例えば、グラファイトなどの炭素系材料にセシウム又はルビジウムを添加してなるグラファイト層間化合物を用いたメタンなどのガス貯蔵材料(特許文献9参照)が報告されている。
しかし、グラファイトが層状粘土と同様に層状構造を有するにもかかわらず、アルカリ金属やハロゲンなどの比較的小さな分子とグラファイト層間化合物しか形成することができず、グラファイト或いはグラファイト層間化合物は、大きい表面積の多孔体を構成しないし、後続の加熱処理により架橋を形成しようとしても、それが崩壊して安定した孔を形成することは困難であった。
【0006】
一方、シミュレーションなどの理論計算の結果によると、グラファイト一層分のポア壁を持ち、層と層の間にメタン2分子が入れるくらいの大きさ(約0.7~0.8nmくらい)を有するような吸蔵体がメタン貯蔵に理想的と示されてきている。しかし、このような究極的な吸蔵体の合成を実際に試みた研究は見当たらない。
本発明者らは、理想的な層構造を有する多孔質炭素材料を得るために、グラファイトを酸化して得たグラファイト酸化物をアルカリ中に分散し、さらに長鎖有機分子で層間拡張し、続いて金属或いは半金属酸化物のような硬い架橋剤を導入することにより、高表面積の含炭素多孔体複合材料を製造できることを示してきた(特許文献10参照)。さらにこのような高表面積の含炭素多孔体複合材料をより高温で炭化処理して、更に金属(半金属)酸化物をフッ酸等で溶出すれば、比表面積700m/g以上のメソポーラス炭素構造体を製造できることを示してきた(特許文献11参照)。そして、金属(半金属)酸化物をフッ酸等で溶出する前に固定化された層面間距離を有する炭素の層を維持するために炭素の層と炭素の層の間に含炭素化合物の炭化処理物を形成させる工程を設けることにより、壁が薄く、メタンなどの炭化水素の貯蔵に適した新規炭素系の炭化水素吸蔵材料を製造し得ることを見出してきた(特許文献12参照)。しかし、炭素の層の厚さや有効活用できる表面積の大きさにおいて十分なものではなかった。
【0007】

【特許文献1】特開2001-212453号
【特許文献2】特開2002-28481号
【特許文献3】特開2002-204953号
【特許文献4】特開2003-3181号
【特許文献5】特開2001-287905号
【特許文献6】特開2003-144917号
【特許文献7】特開2003-28397号
【特許文献8】特開2003-35399号
【特許文献9】特開2001-287907号
【特許文献10】特開2003-192316号
【特許文献11】特開2004-210583号
【特許文献12】特願2003-205003号
【非特許文献1】「表面」、第27巻、第4号(1989年)、第290~300頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シミュレーションなどの理論計算の結果によると、グラファイトの一層分のポア壁を持ち、層と層の間がメタン2分子がちょうど納まるようなポアサイズを持つような吸蔵体がメタン貯蔵に理想的な構造であるとされており、このような理想的な構造を有するグラファイト様物質、即ち炭素性の層状物質を提供することが望まれている。
本発明は、一枚の原子層を持つグラファイトを出発物質にソフト化学的な手法により、メタンなどの炭化水素の貯蔵に理想的な吸蔵体を創出する目的でなされたものである。このために、本発明者らは、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物を用いてグラファイトの層間を拡張し、これに含炭素化合物の炭化処理物を形成させて、層面間距離が通常のグラファイトよりも拡大された炭素の層を有し、かつそれらの層が含炭素化合物の炭化処理物により維持されている炭化水素吸蔵材料の製造方法を開発してきた(特許文献12参照)。しかし、この方法で製造された炭化水素吸蔵材料は、架橋材となっている炭化物の厚さや有効活用することができる表面積の大きさにおいて十分なものではなく、さらに高性能な材料の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、拡張されたグラファイト層が含炭素化合物の炭化処理物により維持されている炭化水素吸蔵材料(特許文献12参照)が、炭化処理物の厚さや炭素の親油性表面を広くとれるという点において十分なものではなかった。この原因について鋭意検討してきたところ、それが、炭化処理による多量の炭化処理物の付着によるものではないかと想定された。しかし、炭化処理物の量を減らすと層間構造を維持することが困難になり、層構造自体が不安定になるので炭化処理物の量を減らすことは極めて困難なことであった。
この問題を解決するために、多くの手法を実験してきたところ、拡張されたグラファイト層を維持しているケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物の表面部分に選択的に炭化処理物を形成させる方法を確立することができた。この方法によれば、炭化処理物が、拡張されたグラファイト層を維持しているケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物の表面部分に選択的に形成され、グラファイト層の表面部分などの余分な部分に炭化処理物が付着しないので、グラファイト層の厚さがそのまま維持され、かつ有効活用できる炭素の親油性表面を大きくとれるナノポーラス炭素構造体を得ることができることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、(1)グラファイトを酸化してグラファイト酸化物とする工程、(2)次いでこのグラファイト酸化物の層面間距離を固定化する工程、及び(3)固定化された層面間距離を有する炭素の層を維持するために炭素の層と炭素の層の間にヒドロキシ炭化水素化合物を添加する工程、(4)層面間距離を固定化している材料と前記(3)の工程で添加したヒドロキシ炭化水素化合物を反応させる工程、(5)未反応のヒドロキシ炭化水素化合物を除去する工程、(6)残存しているヒドロキシ炭化水素化合物を炭化処理して炭化処理物にする工程、及び(7)残存する層面間距離を固定化している材料を除去する工程、からなる層面間距離が通常のグラファイトよりも拡大された炭素の層を有し、かつそれらの層が炭化処理物により維持されていることを特徴とするナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料の製造方法に関する。
また、本発明は、層面間距離が通常のグラファイトよりも拡大された炭素の層を有し、かつそれらの層の層間距離が層の極めて薄い炭化処理物により維持されていることを特徴とするナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料に関する。
【0011】
本発明のナノポーラス炭素構造体を有する吸蔵材料は、層面間距離が通常のグラファイトよりも拡大された炭素の層を有するものであり、それらの層が、ヒドロキシ炭化水素化合物を用いて、金属(半金属)化合物を架橋剤とする含炭素複合体の層間距離を維持している金属(半金属)化合物の部分の表面に極めて薄い層を選択的に形成させて、それを炭化処理することにより生成される層の極めて薄い炭化処理物(炭化された構造体)により維持されていることを特徴とするものである。
本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料の製造方法としては、(1)グラファイトを酸化してグラファイト酸化物とする工程、(2)次いでこのグラファイト酸化物の層面間距離を固定化する工程、及び(3)固定化された層面間距離を有する炭素の層を維持するために炭素の層と炭素の層の間にヒドロキシ炭化水素化合物を添加する工程、(4)層面間距離を固定化している材料と前記(3)の工程で添加したヒドロキシ炭化水素化合物を反応させる工程、(5)未反応のヒドロキシ炭化水素化合物を除去する工程、(6)残存しているヒドロキシ炭化水素化合物を炭化処理して炭化処理物にする工程、及び(7)残存する層面間距離を固定化している材料を除去する工程からなる。
より詳細には、(1)第1工程として、まずグラファイトを酸化してグラファイト酸化物を得、(2)第2工程として当該グラファイト酸化物の層間をソフト化学的な手法により処理して、層面間距離を変化させて次いでこれを固定化して多孔質グラファイト複合材料を得、(3)第3工程として、この多孔性複合体の孔空間に更にヒドロキシ炭化水素化合物を添加して層間にヒドロキシ炭化水素を導入し、(4)第4工程において、層面間距離を固定化している金属又は半金属化合物からなる材料と前記第3工程で添加したヒドロキシ炭化水素化合物を反応させて、層面間距離を固定化している金属又は半金属化合物とヒドロキシ炭化水素化合物を結合、好ましくは共有結合させて固定化し、(5)第5工程として、固定化されていない未反応のヒドロキシ炭化水素化合物を洗浄して除去し、層面間距離を固定化している金属又は半金属化合物からなる材料の部分に選択的にヒドロキシ炭化水素を残存させて、(6)次いで第6工程として、当該部分に選択的に残存しているヒドロキシ炭化水素化合物を高温で炭化処理して炭化処理物にし、(7)そして第7工程として、濃酸でカーボン以外の残存する層面間距離を固定化している金属又は半金属化合物からなる材料を除去して、最終的にグラファイトと同じ程度の薄いカーボン壁を持つナノポーラス炭素構造を有する吸蔵体を製造することができる。
【0012】
前記した本発明の炭素系の炭化水素吸蔵材料の製造方法における第1工程及び第2工程は、多孔質グラファイト複合材料に関する特許文献10に記載の方法と同様な方法である。また、炭化させる化合物を添加する第3工程、炭化処理物を形成するための第6工程、及び濃酸でカーボン以外の材料を除去する第7工程は特許文献11に記載の方法とほぼ同様な方法である。
本発明の第2工程の具体例としては、第1工程で製造されたグラファイト酸化物の層間に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物のゾル或いは多核金属陽イオンをインターカレーションさせ、次にこれを不活性雰囲気中で加熱処理して金属又は半金属の酸化物とする工程を含むものである。更に、必要により長鎖アルキル基を含む界面活性剤による処理工程を含むこともできる。
本発明の第3工程は、グラファイト酸化物層状体の層間に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物を主体とするピラーを形成させてなる多孔質グラファイト複合材料を、孔空間、とりわけピラーとなっている金属(半金属)酸化物の表面に更に含炭素化合物の炭化処理物を生成させ得る処理を施す工程であり、本発明の方法では、炭化できる任意の炭素系化合物ではなく、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物と反応性を有するヒドロキシ炭化水素化合物を使用することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の方法の第6工程は、ヒドロキシ炭化水素を炭化処理して炭化処理物(炭化された構造体)を生成させる工程である。炭化処理は、使用する材料によるが通常は100℃~1000℃の加熱処理により行うことができる。より具体的には、不活性雰囲気中で100℃以上、好ましくは550℃以上、650℃以上、700℃以上、より好ましくは550~1000℃、700~1000℃の高温で炭化処理する。高温処理は、好ましくは不活性雰囲気中で行われ、当該不活性雰囲気中とは、炭素原子が酸化などの影響を受けない状態であればよく、例えば、真空中や、窒素やアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスの存在下で行われる。処理時間は、通常1~10時間、1~8時間、好ましくは2~5時間程度である。
本発明の方法の第7工程は、高温での炭化処理された多孔質グラファイト複合材料中から金属酸化物又は半金属酸化物を溶出する処理である。当該溶出処理は、炭素以外の金属酸化物又は半金属酸化物を溶出し得る物質を用いて行うことができる。好ましい物質としてはフッ酸(HF)などの強酸が挙げられる。例えば、金属酸化物又は半金属酸化物を溶出し得る物質の水溶液に、多孔質グラファイト複合材料を浸すことにより行うことができる。処理温度には特に制限はなく、溶出し得る物質の性状によるが、常温、加熱、冷却のいずれでもよく、通常は室温で行うことができる。溶出処理の終了後、蒸留水などの精製水により十分洗浄し、60℃~120℃で空気中で乾燥させる。
【0014】
本発明の第3工程の原料となる多孔質グラファイト複合材料としては、グラファイト酸化物層状体の層間に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物を主体とするピラーを形成させてなる多孔質グラファイト複合材料が好ましい。このような多孔質グラファイト複合材料は、特許文献10に記載されている方法により製造することができる。即ち、グラファイトを酸化して酸化物層状体としたのち、この層間に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物のゾル或いは多核金属陽イオンをインターカレーションさせ、次にこれを不活性雰囲気中で加熱処理して製造することができる。
より詳細に説明すると、当該グラファイト酸化物層状体は、例えばグラファイトを濃硫酸と硝酸との混合液中に浸し、塩素酸カリウムを加え、反応させるか、或いは濃硫酸と硝酸ナトリウムの混合液中に浸し、過マンガン酸カリウムを加え、反応させることにより調製される。これらの処理によりグラファイトの炭素原子は、sp状態からsp状態に変化し、いわゆるベンゼン環を形成している炭素原子のような状態から飽和の脂肪族の炭素原子の状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素原子や水素原子などが結合して、層間に酸素原子を導入することができる。
次に、前記のようにして製造したグラファイト酸化物層状体の層間に、よく知られている粘土層間架橋多孔体を製造する方法と同様にして、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物からなるピラーを形成させる。このようなピラーを形成させる方法としては、該金属又は半金属の化合物のゾルを層間に導入したのち、これを不活性雰囲気下で加熱処理して安定なピラーを形成させる方法、又は該金属又は半金属の多核金属陽イオンを層間に導入したのち、これを不活性雰囲気下で加熱処理して安定なピラーを形成させる方法などにより行うことができる。
【0015】
例えば、グラファイト酸化物層状体の層間にシリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾルやシリカ-チタニアゾル、シリカ-酸化鉄ゾル、アルミナ-シリカゾルのような混合ゾルを導入し、次いで不活性雰囲気下で加熱処理すれば、それぞれ金属又は半金属の酸化物や、これらの混合酸化物からなる安定なピラーを含む多孔質複合材料が得られる。
また、多核金属陽イオンを用いる方法としては、例えば、[Al13(OH)247+、[Zr(OH)(HO)168+、[FeO(OCOCHなどをグラファイト酸化物層状体の層間に導入したのち、不活性雰囲気下で加熱処理して、アルミナ、ジルコニア、酸化鉄などのピラーを形成させる方法がある。
これらいずれの方法においても、加熱処理は、グラファイトを構成する炭素が酸化するのを防止するために、不活性雰囲気中、例えば真空条件下や、窒素やアルゴン気流中で行うことが必要である。この際の加熱条件としては120℃以上、好ましくは500~700℃の範囲が用いられ、加熱時間は、通常2~8時間の範囲である。
【0016】
このようにして形成されたグラファイト酸化物層状体の層間に形成されるピラーは、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物、すなわち含ケイ素化合物、含アルミニウム化合物、含チタン化合物、含ジルコニウム化合物又は含鉄化合物或いはこれらの任意の組合せから構成されている。
そして、このようにして製造された多孔質グラファイト複合材料中の、これら金属又は半金属の化合物の含有量は、5~95質量%、好ましくは50~70質量%の範囲内であり、また上下のグラファイト酸化物層と左右のピラーにより、孔径0.6~2.5nmの細孔が形成されている。
【0017】
グラファイトの多孔構造を形成させる別の方法としては、グラファイトの酸化物層状体に、先ず層間拡張用イオン又は分子をインターカレーションさせ、次いで、ケイ酸、アルミン酸、チタン酸及びジルコン酸の中から選ばれた無機多塩基酸と低級アルカノールとのエステルを導入し、これを不活性雰囲気中で加熱処理することにより、ケイ素、アルミニウム、チタン又はジルコニウムの化合物からなる安定なピラーを形成させる方法がある。
【0018】
この際用いられる層間拡張用イオンとしては、例えば、次の一般式(1)
[R-NR (1)
(式中、Rは炭素数8~20の長鎖アルキル基、R、R及びRはそれぞれ炭素数1~3のアルキル基であって、この中の1個の基はRと同じであってもよい。)
で表わされる長鎖アルキル基をもつ第四級化合物陽イオンを挙げることができる。
一般式(1)中のRとしては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基のような炭素数8~20の長鎖アルキル基を挙げることができ、またR、R及びRとしては、メチル基、エチル基、プロビル基のような炭素数1~3のアルキル基などを挙げることができる。この一般式(1)中のR~Rの中の1個は、場合によりRと同じものであってもよいが、それ以上に長鎖アルキル基を含むとグラファイト酸化物層状体の層間に導入されにくくなる(特許文献10参照)。
また、これらは粘土層間架橋多孔体の場合と同様に、層間に陽イオンが挿入され、層間を拡張するものであるが、グラファイト酸化物の場合には、層表面がプロトンを放出して酸性を呈することから、例えば、次の一般式(2)
NR (2)
(式中、R、R及びRの中の少なくとも1個は炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であり、残りは水素原子である)
で表わされる有機アミンのような分子も同じように層間を拡張するために用いることができる(特許文献10参照)。
【0019】
このような層間拡張用イオン又は分子を導入する方法としては、例えばアルカリ水溶液中でグラファイト酸化物層状体にその質量に基づき、8~36.0倍量の層間拡張用イオン又は分子を加え、室温から90℃までの範囲の温度で15~60分間反応させることによって行われる。
このグラファイト酸化物においては、このような層間拡張用イオン又は分子を層間に挿入しただけでは、これを加熱処理すると分解や脱離を起こし、細孔が形成されなくなることがあるので、さらに補強するための処理が必要となることがある。
これは、層間拡張用イオン又は分子によりグラファイト酸化物の層間を拡張したのち、さらに層間にケイ酸、アルミン酸、チタン酸及びジルコン酸の中から選ばれた金属又は半金属の無機多塩基酸と低級アルコールとのエステルを導入したのち、50~70℃で乾燥し、次いで不活性雰囲気中、500~700℃において2~8時間加熱処理することによって行われる。上記の無機多塩基酸のエステルは、加水分解されるか後続の加熱処理により分解して、層間を支持しうる強度をもつ安定な化合物、すなわち固体状の含ケイ素化合物、含アルミニウム化合物、含チタン化合物、含ジルコニウム化合物を生成するものであればどのようなものでもよい。
これらの化合物は、金属の場合、金属酸化物であり、雰囲気ガスの種類及び加熱条件によって窒化物、炭化物などが副生する。また、ケイ素のような半金属の場合は、アルコキシ基が除かれて、酸素や水酸基となったものや、これに低級アルキル基が結合したものを挙げることができる。これらの無機多塩基酸エステルの使用量は、グラファイト酸化物層状体の質量の20~100倍量、好ましくは40~80倍量の範囲内で選ばれる。
【0020】
この無機多塩基酸エステルを導入するには、グラファイト酸化物層状体に層間拡張用イオン又は分子をインターカレーションさせて得た層間化合物を、所定量の無機多塩基酸エステル中に加える。この際所望ならば、有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド、アセトン、ベンゼン、トルエンなどを用いることもできるし、また、40~80℃の温度に加熱して反応を促進することもできる。
このように反応させたのち、反応混合物から固体を分離し、エチルアルコールのような溶剤を用いて洗浄したのち、風乾、真空乾燥、凍結乾燥又は加熱して乾燥させる。この処理によりグラファイト酸化物層状体の層間拡張用イオン又は分子により拡張された層間に、上記無機多塩基酸エステルが挿入された層間化合物が得られる。
【0021】
次いで、この層間化合物を加熱し、分解すると層間にケイ素、アルミニウム、チタン又はジルコニウムの化合物からなる安定なピラーが形成される。この際の加熱は、基材を構成する炭素が酸化されるのを防止するために、不活性雰囲気中、例えば窒素、アルゴンのような不活性ガスの通気下、或いは真空条件下で行うことが必要である。加熱温度としては120℃以上、好ましくは500~700℃の範囲が選ばれる。加熱時間は通常2~8時間である。
このようにして、平均粒径0.6~2.5nmをもち、比表面積400~1500m/gの多孔質グラファイト複合材料が得られる。
【0022】
本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料の製造方法は、前記してきた第1工程及び第2工程、並びに第3工程、第6工程及び第7工程に、さらに第4工程及び第5工程を付加したことを特徴とするものである。
また、本発明は、第3工程における炭化処理物を形成させるための材料として、層間距離を固定化する材料として使用されているケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物と反応性を有するヒドロキシ炭化水素化合物を化合物を使用することを特徴とするものである。
このようなヒドロキシ炭化水素としては、結合、好ましくは共有結合を形成させるための反応を比較的高温で行うために、沸点の高いものが好ましく、エチルアルコールのような沸点の低いものは揮発する可能性があるので好ましくない。また、後の工程で炭化処理を行うために、炭素含有量の多い化合物が好ましい。本発明のヒドロキシ炭化水素としては、例えば、炭素数5~50、好ましくは5~30の炭化水素基に、1個又は2個以上の水酸基が結合している化合物が挙げられる。カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン原子などの水酸基以外の官能基が結合していてもよいが、炭化される材料であることからコスト面から他の官能基が結合しているものを使用する必要性は無い。また、アミノ基やハロゲン原子などは、炭化処理中に有毒ガスが発生する可能性も有り、好ましくない。
水酸基は1個付いていれば十分であるが、2個以上結合したものであってもよいが、コスト面からは安価なものが好ましい。
本発明のヒドロキシ炭化水素化合物における炭化水素基としては、炭素数5~50、好ましくは5~30の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数5~50、好ましくは5~30の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5~50、好ましくは5~30の直鎖状又は分枝状のアルキニル基、炭素数6~50、好ましくは6~30の単環式、多環式、又は縮合環式の芳香族基、炭素数7~50、好ましくは7~30の単環式、多環式、又は縮合環式のアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基で置換された芳香族基、炭素数7~50、好ましくは7~30の単環式、多環式、又は縮合環式のアラルキル基などが挙げられる。好ましい炭化水素基としては、炭素数6~50、好ましくは6~30の単環式、多環式、又は縮合環式の芳香族基、炭素数7~50、好ましくは7~30の単環式、多環式、又は縮合環式のアルキル基で置換された芳香族基が挙げられる。好ましいヒドロキシ炭化水素化合物としては、α-ナフトール、β-ナフトール、2,3-ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシ-ビフェニル、フェノールなどが挙げられる。
【0023】
本発明の第3工程におけるヒドロキシ炭化水素の添加方法としては、通常の含浸法、浸漬法などの方法が使用される。例えば、ヒドロキシ炭化水素の溶液の中に第2工程で得られた多孔質グラファイト複合材料を入れ、含浸させる方法が挙げられる。溶媒としては、ヒドロキシ炭化水素を溶解することができ、かつ揮発性のものが好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系の溶媒、ジエチルエーテール、ジグライムなどのエーテル系の溶媒などが好ましい。これらの溶媒は、実質的に無水で、窒素ガスなどの不活性ガスで脱気したものが好ましい。
ヒドロキシ炭化水素化合物の使用量としては、原料の多孔質グラファイト複合材料に対して質量あたりで、1:0.1~1:10の範囲、好ましくは1:0.2~1:3程度が好ましい。ヒドキシ炭化水素溶液の濃度も広い範囲で使用できるが、通常は、20~80質量%、好ましくは30~60%程度が挙げられる。
処理温度としては、室温以上であれば特に制限はない。加熱してよいが、通常は室温で放置するだけでよい。含浸させる時間も特に制限はなく、数日間放置しておいてもよいが、通常は10~40時間、好ましくは10~20時間程度である。
ヒドロキシ炭化水素を添加処理した後、使用した溶媒を除去する。通常は常圧又は減圧下で溶媒を留去する。したがって、留去を容易に行える揮発性の溶媒の使用が好ましい。
【0024】
本発明の第4工程は、層面間距離を固定化しているケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び鉄の中から選ばれた少なくとも1種の金属又は半金属の化合物からなる材料と前記第3工程で添加したヒドロキシ炭化水素化合物を反応させて、層面間距離を固定化している金属又は半金属化合物とヒドロキシ炭化水素化合物を結合、好ましくは共有結合させて固定化する工程である。固定化は、吸着や分子間力のような物理的な方法でもよいが、共有結合のような化学的な方法の方が確実な固定化ができ好ましい。共有結合による固定化としては、金属又は半金属の化合物とのエステル化、エーテル化、酸無水物化などの各種の化学的な方法を採用することができるが、エステル化が簡便で好ましい。エステル化は高温に加熱することにより、比較的短時間で行うことができる。このようなエステル化に特に適した化合物としてはケイ素化合物が挙げられる。ケイ素化合物は比較的短時間でエステル化を完了することができる。例えば、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、約100~400℃、好ましくは200~350℃程度の温度で、約0.5時間~3時間、1時間~2時間程度処理することにより、エステル化を完了することができる。また、必要により酸やアルカリなどの触媒を添加してもよいが、後の洗浄が必要となることから、無触媒で高温で行うのが好ましい。
【0025】
本発明の第5工程は、固定化されていない未反応のヒドロキシ炭化水素化合物を除去し、層面間距離を固定化している金属又は半金属化合物からなる材料の部分に選択的にヒドロキシ炭化水素を残存させておく工程である。
この工程は、ヒドロキシ炭化水素化合物を溶解し、かつ揮発性の溶媒で、好ましくは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、洗浄することにより行われる。溶媒としては、前記した第3工程で使用される各種の溶媒を使用することができる。このような溶媒に浸しておくだけでもよいが、大過剰の溶媒中で撹拌して洗浄してもよい。
洗浄した後は、使用した溶媒を除去するために常圧又は減圧下で乾燥するのが好ましい。
【0026】
本発明の第6工程は、当該部分に選択的に残存しているヒドロキシ炭化水素化合物を高温で炭化処理して炭化処理物にする工程である。
炭化処理して炭化処理物(炭化された構造体)を生成させる炭化処理は、使用されたヒドロキシ炭化水素化合物の種類によるが、通常は100℃~1000℃、好ましくは500℃~1000℃の加熱処理により行うことができる。より具体的には、不活性雰囲気中で100℃以上、好ましくは550℃以上、650℃以上、700℃以上、より好ましくは550~1000℃、700~1000℃の高温で炭化処理する。高温処理は、好ましくは不活性雰囲気中で行われ、当該不活性雰囲気中とは、炭素原子が酸化などの影響を受けない状態であればよく、例えば、真空中や、窒素やアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスの存在下で行われる。処理時間は、通常1~10時間、1~8時間、好ましくは2~5時間程度である。この炭化処理は、1回でもよいが、必要に応じて2回以上繰り返し行ってもよい。
【0027】
このようにして製造された炭化処理された多孔質グラファイト複合材料は本発明の第7工程で処理される。本発明の第7工程は、炭化処理された多孔質グラファイト複合材料中から金属酸化物又は半金属酸化物を溶出する処理である。当該溶出処理は、炭素以外の金属酸化物又は半金属酸化物を溶出し得る物質を用いて行うことができる。好ましい物質としてはフッ酸(HF)などの強酸が挙げられる。例えば、金属酸化物又は半金属酸化物を溶出し得る物質の水溶液に、多孔質グラファイト複合材料を浸すことにより行うことができる。処理温度には特に制限はなく、溶出し得る物質の性状によるが、常温、加熱、冷却のいずれでもよく、通常は室温で行うことができる。溶出処理の終了後、蒸留水などの精製水により十分洗浄し、60℃~120℃で空気中で乾燥させる。
このようにして製造された本発明の炭素系の炭化水素吸蔵材料は、このまま使用することもできるが、600℃~1200℃、好ましくは800℃~1000℃で、好ましくは減圧中で脱気処理を行うことにより、ポアの活性化をすることができる。
【0028】
本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料は、前記してきた多孔質グラファイト複合材料の層間距離を維持していた金属又は半金属の化合物の表面部分に選択的に結合させていたヒドロキシ炭化水素の炭化処理物(炭化された構造体)を形成させ、続く金属酸化物又は半金属酸化物を溶出する処理によりピラーを形成していた金属酸化物又は半金属酸化物が溶出され、薄いカーボン壁を有し、比表面積の大きな構造を形成したものである。したがって、本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料は、金属酸化物又は半金属酸化物などによるピラーの形成により炭素の層構造が維持されているものではなく、炭化処理により生成したヒドロキシ炭化水素化合物の炭化処理物(炭化された構造体)により炭素の層構造が維持されているものであると考えられる。
このような炭素の層構造は、炭素の層が規則正しく整列したものであってもよいし、また3次元的に無秩序に存在する状態、例えばカードハウス(card house)のように各層がランダムに存在するものであってもよい。本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料は、炭化処理により生成した炭化処理物(炭化された構造体)により、界面活性剤などのインターカレーションの作用により拡大された一定の層間隔を保つように再配列された炭素の層構造がほぼ維持されたものであると考えられる。本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料のポアサイズは、約0.6~4.2nm程度、好ましくは0.7~4.0nm程度であり、かつ大きな比表面積を有するものである。
【0029】
従来、粘土・層状金属酸化物を多孔質化させるためにインタカレーション・ピラー化手法が一般的に用いられたが、中性壁を持つグラファイトにはこのような手法を直接には応用することができなかった。本発明者らは、グラファイトを液相酸化により粘土と同様な膨潤性を持つイオン性炭素層状化合物(グラファイト酸化物、以下、GOと表す。)へ転換させ、これにソフト化学的な手法を適用して炭素層間にシリカ架橋体を挿入させた後、更に炭化等の手法により層を再びグラフェン性質に戻すという独自な方法を提供してきた。グラファイト酸化物(GO)に「分散・層間予備拡張-加水分解法」を適用することにより、シリカネットワーク構造を架橋体とするグラフィッチック複合体(Nanoporous Graphitic Composite, NPGCと名付ける)を創製することができ、当複合体は高い比表面積(>1000m/g)を有し、水に対する親和性が炭素質固体とシリカの間にあるため、ガス吸蔵体だけでなく、特殊吸着性を持つ吸着剤及び触媒として応用することが期待されていた。
さらに、本発明では、メタンなどの有機性燃料ガスに対する親和性を向上するため、NPGCを鋳型に、層間有機ポリマー修飾/シリカ表面の選択エステル化-炭化-シリカ溶出の手順により、薄い厚みの添加炭素を架橋体とする新規なナノポーラス層状炭素化合物の合成に初めて成功したものである。本発明は、メタンなどの炭化水素の吸蔵に適した炭素系の炭化水素吸蔵材料、及びその製造法を提供するものである。
【0030】
次に本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料を、さらに具体例に基づいて説明するが、本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料はこれらの具体例に限定されるものではない。
シュタウデンミール(L. Staudenmier, Ber Deutsche Chem. Ges. 1989, 31, 1481.)の方法によりグラファイトを酸化してグラファイト酸化物(以下、GOと表す)を製造した。このGOに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン(化学式:CH(CH15(CH)をインターカレーションしたGO(以下、GOC16と表す)を製造した。このGOC16にテトラエトキシシラン(TEOSと表す)で処理した多孔質グラファイト複合材料(以下、GOC16Tと表す)を製造した。
得られたGOC16Tを、550℃で真空下またはヘリウムガス雰囲気下で2時間、加熱処理した。得られたものを、以下NPGC(Nanoporous Graphitic Composite)と表す。
【0031】
ここで得られたNPGCは比表面積が870m/gのものであった。これを、550℃で2時間真空前処理し、室温まで冷却した後、2,3-ジヒドロキシナフタレンのアセトン溶液に一晩含浸させた。その後、アセトンを留去させ、300℃で窒素雰囲気中で1時間でエステル化反応をさせた。続いて、アセトンで洗浄して余分なヒドロキシナフタレン化合物を取り除き、乾燥させた後、700℃で真空中2時間炭化処理を行った。最後に、濃フッ酸で1晩処理してシリカを溶出し、炭素構造体(NPGC-N700と表す)を得た。
また、比較のために、市販のシリカゲル(富士シリシア、P3)を鋳型として同様な手順で炭素体(SP3-N700と表す)を得た。
これらの得られた炭素構造体に対し、77Kにおける窒素吸着法、X線回折法(XRD)、拡散反射赤外分光法(DRIFT)、示差熱分析法(TG/DTA)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)等で解析をした。
【0032】
DRIFTの結果から、フッ酸処理後のサンプルは多少の表面官能基を含有する炭素質であること、TGの結果より、最終生成物NPGC-N700はシリカ成分が完全に取り除かれたことが分かった。また、XRDの結果から最終生成物NPGC-N700も鋳型の複合体NPGCと同様な非秩序的な構造であったことが分かった。図1にNPGC-N700、SP3-N700及び比較のために鋳型NPGCからシリカ成分をフッ酸で取り除いた炭素構造体(NPGC-HF)の77Kにおける窒素吸着等温線を示す。図1の縦軸は単位質量当たりの窒素の吸着量(V/mL-STP/g)を示し、横軸は窒素の分圧(P/Po)を示す。四角印(■及び□)は本発明のNPGC-N700を示し、三角印(▲及び△)は比較例のSP3-N700を示し、丸印(●及び○)は比較例のNPGC-HFを示す。
ナフタレン修飾を行っていないNPGC-HFと比較して、ナフタレン修飾を行ったNPGC-N700では吸着量が大きく増加し、ナフタレン修飾により炭素を架橋体とした多孔質構造体ができたことを示した。また、NPGC-N700の窒素吸着等温線は、シリカゲルを鋳型としたSP3-N700のそれよりも大きかった。
得られた各炭素構造体のポア解析の結果を次の表1に示す。
【0033】
【表1】
JP0004854969B2_000002t.gif

【0034】
ここでBET法で表面積(SBET)を決定し、P/P=0.95における窒素吸着量からトータルのポア容量(V0,total)を、BJH法よりメソポア容積(Vme,BJH)とポア半径(RP,BJH)を、V0,totalとVme,BJHの差よりミクロポア容積(Vmi)をそれぞれ算出した。NPGC-HFと比べ、ナフタレン修飾により比表面積が800m/g近くまでに増加し、シリカ鋳型から得られたSP3-N700よりも大きかった。
【0035】
さらに、図2に本発明のNPGC-N700及び比較例のSP3-N700のFE-SEM像を、図面に代わる写真で示す。図2の(a)(図2の上側)は本発明のNPGC-N700のものであり、図2の(b)(図2の下側)は比較例のSP3-N700のものである。
この結果、SP3-N700はかなり鋳型の粒子の形状を記憶して形成されているのに対し、NPGC-N700は炭素の板状構造をしている。これは炭素の層間に架橋体とする炭素成分を挿入できたために、このような板状形態を維持できたと考えられる。
【0036】
また、別に得られた比表面積が1000m/gのNPGCを用いて、同様に処理することにより比表面積は1200m/gのNPGC-N700を得ることができた。
このように、本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料の比表面積は、原料として使用する、即ち鋳型として使用するNPGCの比表面積に依存しており、これは、本発明の方法による炭化処理方法がピラーの部分に選択的に起こっていることを示すものである。
この方法で得られた比表面積が1200m/gのNPGC-N700、鋳型に用いたNPGC、及び層間拡張処理をしていない炭素構造体(処理なし炭素)を用いて、77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。結果を図3に示す。図3に本発明の比表面積が1200m/gのNPGC-N700、鋳型に用いたNPGC、及び層間拡張処理をしていない炭素構造体(処理なし炭素)の77Kにおける窒素吸着等温線を示す。図3の縦軸は単位質量当たりの窒素の吸着量(V/mL-STP/g)を示し、横軸は窒素の分圧(P/Po)を示す。丸印(●及び○)は本発明のNPGC-N700を示し、三角印(▲及び△)は比較例としての鋳型に用いたNPGCを示し、四角印(■及び□)は比較例としての層間拡張処理をしていない炭素構造体(処理なし炭素)を示す。
図3の窒素吸着等温線からわかるように、本発明のNPGC-N700の窒素吸着量が鋳型のNPGCよりも高く、その一方で、処理なしの炭素構造体は殆ど非孔質であった。本発明のNPGC-N700は最高で1200m/gを超える比表面積を有しており、通常の粉末多孔質炭素と比べ、パッキング密度が大きくなる可能性がある。現在開発されたこの物質は、単位面積当たりでメタン貯蔵量を比較した場合、市販の高比表面積粉末状活性炭(>2000m/g)よりも優れていることが分かった。
【0037】
本発明は、次世代のエネルギー源として注目されているメタンなどの炭化水素の新規な吸蔵材料を提供するものであり、グラファイトの層構造をヒドロキシ炭化水素で選択的に炭化処理することにより、メタンなどの炭化水素の吸蔵に適した層構造に維持されるように改変した新規なグラファイト系の炭化水素吸蔵材料を提供するものである。本発明の炭素系の炭化水素吸蔵材料は、内表面積当たりのメタン吸着量が多く、炭素の層構造の中に高密度でメタンが吸着されており、このようなメタンなどの炭化水素の吸蔵に適した炭素の層構造は、本発明が初めて開示するものである。そして、本発明はこのような炭素の層構造を炭化処理物で選択的に維持することを特徴とするものである。
本発明の炭素系の炭化水素吸蔵材料における炭化水素としては、メタン、エタン、プロパンなどを例示することができるが、好ましくは燃料用の炭化水素が挙げられ、より好ましくはメタンが挙げられる。
本発明の炭素系の炭化水素吸蔵材料は、前記で例示してきた方法により製造することができるが、グラファイトの層構造を拡張し、拡張された層構造を維持するためのピラー部分を選択的に炭化処理物で置換することによりメタンなどの炭化水素の吸蔵に適した層構造に維持されるという本発明の技術的思想に基づく材料であれば、前述してきた製造方法に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、新規なグラファイト系の新規なナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料及びその製造方法を提供するものであり、本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料は、グラファイトの層間距離を維持するためのピラー部分が選択的に炭化処理されたものであり、薄いグラフェン層を壁とする本発明の多孔質層状化合物は表面積を向上させ、広い親油性表面を有効活用することができる。
本発明のナノポーラス炭素構造を有する吸蔵材料は、炭素の親油性の表面の大部分をそのまま維持しており、大きな表面積を有効活用できるため、ガス貯蔵・吸着・触媒等の分野から期待されている。また、高密度でのメタンなどの炭化水素の貯蔵が可能であり、グラファイトから簡便な方法で製造することができ、メタンなどの炭化水素の貯蔵、輸送、及び利用のための新規な材料を提供するものである。
【0039】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
多孔質グラファイト複合材料の調製
シュタウデンミール(L. Staudenmier, Ber Deutsche Chem. Ges. 1989, 31, 1481.)の方法によりグラファイト(Gと表す)を酸化して生成させたグラファイト酸化物層状体(GOと表す)(比表面積25m/g)0.3gを0.05M水酸化ナトリウム水溶液60ml中に少しずつ加えてよく分散させ、20分間超音波を印加して、均一な分散液を調製した。
次にヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(化学式:CH(CH15(CH・Br)0.4gを蒸留水600mlに溶解して、上記の分散液中に、かきまぜながら少しずつ滴下したのち、生成した沈殿を吸引ろ過し、pHが中性になるまで水洗した。このようにして得た沈殿物をろ別し、60℃で1晩乾燥することにより、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオンがインターカレートされた層間化合物GO(GOC16と表す)が得られた。
このようにして得た層間化合物0.32gをケイ酸テトラエチルSi(OC)420ml中に分散させ、25℃において7日間反応させた。反応後、生成した固体を遠心分離し、エチルアルコール10mlで1回洗浄したのち、大気中に24時間放置し、さらに空気中60℃で12時間乾燥させることにより、ケイ酸テトラエチルが層間に挿入された層間化合物(GOC16Tと表す)を得た。
次いで、この層間化合物(GOC16T)を真空中、徐々に550℃まで昇温し、この温度で5時間加熱した。このようにして、比表面積870m/g、平均孔径19.6nmの多孔質グラファイト複合材料NPGCを得た。
【実施例2】
【0041】
吸蔵材料NPGC-N700の調製
実施例1で製造したNPGCを550℃で2時間真空前処理し、室温まで冷却した後、空気に触れない状態で2,3-ジヒドロキシナフタレンの50%アセトン溶液と接触させ、一晩含浸させた。その後、減圧下でアセトンを揮発させ、300℃で窒素雰囲気中1時間エステル化反応をさせた。続いて、アセトンで洗浄して余分なナフタレンを取り除き、60℃で真空下1晩乾燥させた後、700℃で真空中2時間炭化処理を行った。最後に、濃フッ酸で1晩処理してシリカを溶出し、目的の炭素構造体(NPGC-N700と表す)を得た。
得られた炭素構造体NPGC-N700に対し、77Kにおける窒素吸着法、X線回折法(XRD)、拡散反射赤外分光法(DRIFT)、示差熱分析法(TG/DTA)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)等で解析をした。結果を、図1、及び図2に示す。
【0042】
また、比較のために、市販のシリカゲル(富士シリシア、P3)を鋳型として同様な手順で炭素(SP3-N700と表す)を得た。得られた炭素構造体を実施例2と同様に、77Kにおける窒素吸着法、X線回折法(XRD)、拡散反射赤外分光法(DRIFT)、示差熱分析法(TG/DTA)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)等で解析をした。
【実施例3】
【0043】
吸蔵材料NPGC-N700の調製
比表面積が870m/gのNPGCに代えて、比表面積が1000m/gのNPGCを用いて、実施例2と同様にして目的の炭素構造体(NPGC-N700と表す)を得た。得られたNPGC-N700の比表面積は1200m/gであった。
得られた炭素構造体NPGC-N700に対し、77Kにおける窒素等温吸着法による測定を行った。結果を図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、メタンガスなどのガス貯蔵や吸着、また触媒の担体等の分野において有用なナノポーラス炭素構造を有する吸蔵体及びその製造方法を提供するものであり、次世代のエネルギー源として注目されているメタンなどの炭化水素ガス類の貯蔵や利用分野、また合成化学分野における触媒の担体としての利用が期待されており、産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明のNPGC-N700、並びに比較例のSP3-N700及び比較例のNPGC-HFの77Kにおける窒素吸着等温線を示す。図1の縦軸は単位質量当たりの窒素の吸着量(V/mL-STP/g)を示し、横軸は窒素の分圧(P/Po)を示す。四角印(■及び□)は本発明のNPGC-N700を示し、三角印(▲及び△)は比較例のSP3-N700を示し、丸印(●及び○)は比較例のNPGC-HFを示す。
【図2】図2は、本発明のNPGC-N700及び比較例のSP3-N700の走査型電子顕微鏡(FE-SEM)像を、図面に代わる写真で示すものである。図2の(a)(図2の上側)は本発明のNPGC-N700のものであり、図2の(b)(図2の下側)は比較例のSP3-N700のものである。
【図3】図3は、本発明のNPGC-N700、鋳型に用いたNPGC、及び層間拡張処理をしていない炭素構造体(ポリマー処理なし炭素)の77Kにおける窒素吸着等温線を示す。図3の縦軸は単位質量当たりの窒素の吸着量(V/mL-STP/g)を示し、横軸は窒素の分圧(P/Po)を示す。丸印(●及び○)は本発明のNPGC-N700を示し、三角印(▲及び△)は比較例としての鋳型に用いたNPGCを示し、四角印(■及び□)は比較例としての層間拡張処理をしていない炭素構造体(処理なし炭素)を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2