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明細書 :らせん状導電性高分子ナノワイヤー/多糖複合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4761794号 (P4761794)
公開番号 特開2006-241334 (P2006-241334A)
登録日 平成23年6月17日(2011.6.17)
発行日 平成23年8月31日(2011.8.31)
公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
発明の名称または考案の名称 らせん状導電性高分子ナノワイヤー/多糖複合体
国際特許分類 C08L   5/00        (2006.01)
C08L  65/00        (2006.01)
C08G  61/12        (2006.01)
H01B   1/20        (2006.01)
FI C08L 5/00
C08L 65/00
C08G 61/12
H01B 1/20 Z
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2005-059838 (P2005-059838)
出願日 平成17年3月4日(2005.3.4)
審査請求日 平成20年2月1日(2008.2.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】501190941
【氏名又は名称】三井製糖株式会社
発明者または考案者 【氏名】新海 征治
【氏名】水 雅美
【氏名】李 春
【氏名】沼田 宗典
個別代理人の代理人 【識別番号】100087675、【弁理士】、【氏名又は名称】筒井 知
審査官 【審査官】車谷 治樹
参考文献・文献 特開2006-131735(JP,A)
特開2002-105327(JP,A)
特開2000-195334(JP,A)
特開平09-216952(JP,A)
特開平01-124902(JP,A)
第19回生体機能関連化学シンポジウム講演要旨集,日本,2004年 9月13日,p.398-399
調査した分野 IPC C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
特許請求の範囲 【請求項1】
らせん状導電性高分子のポリマー鎖がβ-1,3-グルカンの内部に包接されていることを特徴とする高分子ナノワイヤー/多糖水溶性複合体であって、前記β-1,3-グルカンが、シゾフィラン、スクレログルカンまたはレンチナンから選ばれたものであり、前記導電性高分子が下記の式(I)で表される繰り返し単位を有するポリチオフェンの誘導体であることを特徴とする複合体。
【化1】
JP0004761794B2_000003t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノテクノロジーの分野に属し、詳細には、キラルならせん状導電性高分子のナノワイヤーとβ-1,3-グルカンとから成る水溶性複合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーとして知られているポリチオフェンは、特異的なπ電子系の非局在化を特徴とする分子性のワイヤーを形成し、分子エレクトロニクス、シグナル増幅などの機能が期待されている物質である。また、このポリマーはコンフォメーションの変化に応じて多彩な色調変化を示すことも特徴である。ポリチオフェンそのものは一次元状のポリマーとなるが、凝集性が強く溶液あるいは固体状態において1本のワイヤーとして存在することは困難である。
【0003】
ポリチオフェンそのものの機能を材料として引き出すためには、孤立分散化させることが重要であり、この観点から、これまで1本のポリチオフェン鎖を孤立分散化させる方法が研究・提案されている。その方法の一つに、剛直な環状分子の内部にポリチオフェンを取り込ませる手法がある。

【非特許文献1】J. Buey, T.M. Swager, Angew. Chem. Int. Ed., 39, 608(2000)
【非特許文献2】J.-P.Sauvage, J.-M. Kern, G. Bidan, B. Divisia-Blohorn, P.-L. Vidal, New J. Chem., 26,1287(2002)
【非特許文献3】F. Cacialli, et al. Nat. Mater., 1, 160(2002)
【非特許文献4】J. J. Michels, M. J. O’Connell, P. N. Taylor, J. S. Wilson, F.Cacialli, H. L. Anderson, Chem. Eur. J., 9, 6167(2003)
【0004】
また、立体的に嵩高い置換基(デンドリマー)などを共有結合的にポリマー主鎖に導入する方法が試みられている。

【非特許文献5】R. E. Martin,F. Diederich, Angew. Chem. Int. Ed. 38, 1350(1999)
【非特許文献6】S. Hecht, J.M. J. Frechet, Angew. Chem. Int. Ed., 40, 74(2001)
【非特許文献7】T. Sato,D.-L. Jiang, T. Aida, J. Am. Chem. Soc., 121, 10658(1999)
【0005】
ポリチオフェンにおける隣り合わせのチオフェン環は、共役安定化のために固体状態では同一平面上に存在する傾向があるが、特にポリマー間の相互作用が存在しない溶液中ではランダムコイル状態として存在すると考えられる。ポリピロールなど他の導電性ポリマーについても同様である。もし、そのようなポリマーのコンフォメーションが変化し、一定方向に捩れ、らせん構造をとるようになると、ポリチオフェンの性状(色調、凝集性など)に変化が生じる。一般に生体物質がキラリティを有していることを勘案すると、キラリティを付与されたナノマテリアルは、ナノバイオの領域で新たな利用価値が生まれることも期待される。しかしながら、導電性ポリマーにそのようなキラリティを付与する技術の開発については、ほとんど見当たらない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、溶液、特に水溶液中に単一分散化した導電性ポリマーのナノワイヤーの形成技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、天然多糖の一種で、免疫賦活剤としても使用されているシゾフィラン(以下、SPGと略記することがある)およびSPGが属するβ-1,3-グルカン類が一次元状のナノ空間を有すること、およびその空間を利用することによってカーボンナノチューブや導電性ポリマーおよびそのモノマーなどの各種機能性物質と安定な複合体を形成することを明らかにしてきた。
<nplcit num="8"><text>M.Numata,M.Asai, K.Kaneko, T.Hasegawa, N.Fujita, Y.Kitada, K.Sakurai and S.Shinkai;Chem. Lett., 232 (2004)</text></nplcit><nplcit num="9"><text>T. Hasegawa,T. Fujisawa, M. Numata, M. Umeda, T. Matsumoto, T. Kimura, S. Okumura, K.Sakurai and S. Shinkai, Chem. Commun., 2004,2150-2151</text></nplcit><nplcit num="10"><text>M. Numata,T. Hasegawa, T. Fujisawa, K. Sakurai and S. Shinkai, Org. Lett., 6(24),447-4450(2004)</text></nplcit><nplcit num="11"><text>T. Hasegawa,S. Haraguchi, M. Numata T. Fujisawa, C. Li, K. Kaneko, K. Sakurai and S.Shinkai, Chem. Lett., 34, 40-41 (2005)</text></nplcit><patcit num="1"><text>特願2003-339569</text></patcit><patcit num="2"><text>特願2004-138260</text></patcit><patcit num="3"><text>特願2004-321757</text></patcit><patcit num="4"><text>特願2004-349277</text></patcit><patcit num="5"><text>特願2005-20532</text></patcit>
【0008】
本発明者は、今回、このシゾフィラン(SPG)の一次元ホストとしての特性を利用し、水溶性の導電性ポリマーをSPGが形成するらせん構造の内部に包接させることによって孤立化・単一分散させることに成功し、本発明を導き出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、らせん状の導電性ポリマーのナノワイヤーを、安全性の高い天然の素材であるβ-1,3-グルカンで包接(ラッピング)された状態の複合体として、水溶液中に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において用いられるβ-1,3-グルカンとは、よく知られているように、グルコースがβ-(1→3)-グルコシド結合により結合された多糖である。β-1,3-グルカンは、天然に存在する状態では、一般に三重のらせん構造を形成していることが知られている。また、非プロトン性極性溶媒またはアルカリ水溶液の中で一本鎖のランダムコイル状に解離すること、そして、そのランダムコイル状のβ-1,3-グルカンは水中で三重のらせん状に巻き戻ること、さらにその際に一本鎖の核酸などが共存すると、共存物を巻き込みながら、らせん状の複合体を形成することが本発明者らにより発見されている。
<patcit num="6"><text>再表2001-034207</text></patcit>
【0011】
本発明は、β-1,3-グルカンのこのような特性を利用したものであり、本発明に従えば、予め非プロトン性極性溶媒に溶解させて一本鎖に解離させたβ-1,3-グルカンの溶液と導電性ポリマーの水溶液とを混合する。この簡単な工程により、β-1,3-グルカンが巻き戻る際に疎水性内部空間に取り込まれた導電性ポリマーが単分散し、ナノワイヤー状となってβ-1,3-グルカンと複合体を形成する。そして、そのナノワイヤー(単分散されたポリマー鎖)自身も、らせん状を呈している、すなわち、キラリティが付与されている(後述の実施例4,5,6および図1参照)。これは、β-1,3-グルカンのらせん構造の影響によりポリマー鎖にも捩れが生じるためと考えられる。
【0012】
本発明で適用可能な導電性高分子(ポリマー)の骨格としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレンビニル、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレンなどが挙げられる。そして、導電性高分子に水溶性を付与するために各種のカチオンまたはアニオン性の官能基、ならびに親水性の官能基から選択された修飾基を側鎖に有するポリマーを使用する。
例えば、ポリチオフェンの場合は、下記の式(I)で表わされる繰り返し単位を有するポリチオフェン誘導体を用いる。なお、式(I)の繰り返し単位を有するチオフェン誘導体を本明細書および図面ではPT-1と称していることがある。
【0013】
【化1】
JP0004761794B2_000002t.gif

【0014】
本発明で使用するβ-1,3-グルカンには多くの種類のものが知られており、そのいずれもナノファイバー化に効果を示すが、中でも、シゾフィラン、レンチナンまたはスクレログルカンのような天然に産出するもので、6位の炭素にグルコース置換基を30%程度以上有するものは、水に良く溶けて取り扱いやすいため、好適に使用される。
【0015】
さらには、これらのグルカンの側鎖の一部が適当な官能基で修飾されたものを用いることにより、その官能基に対応した機能を、複合体中のナノワイヤーに付与することが可能である。
【0016】
β-1,3-グルカンを溶解し、一本鎖のランダムコイル状に解離させる非プロトン性極性溶媒として好適な例はジメチルスルホキシド(DMSO)である。また、苛性ソーダ水溶液のようなアルカリ溶液を用いることもできる。
【0017】
生成する導電性高分子のナノワイヤーとβ-1,3-グルカンの複合体は、水に安定に分散・溶解している。必要に応じて、この複合体を酵素処理や酸処理を行うことにより、β-1,3-グルカンを除くことも可能である。
以下、導電性高分子として4級アンモニウムの側鎖を有するポリチオフェン(PT-1)を使った実施例に沿って本発明の詳細を説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の原理は、ポリチオフェンに留まらず他の導電性高分子、特に水溶性部位を付与し、水に分散性を持った物質に関しても適応可能である。
【実施例1】
【0018】
シゾフィランの調製 三重らせん構造のシゾフィランを文献記載の定法に従って製造した。すなわち、ATCC(American Type Culture Collection)から入手したSchizophyllum commune. Fries(ATCC 44200)を、最小培地を用いて7日間静置培養した後、細胞成分および不溶残渣を遠心分離して得られた上清を超音波処理して分子量45万の三重らせんシゾフィランを得た。
<nplcit num="12"><text>Gregory G.Martin, Michael F. Richardson, Gordon C. Cannon and Charles L. McCormick, Am.Chem. Soc. Poly. Prep., 38, 253(1997)</text></nplcit><nplcit num="13"><text>KengoTabata, Wataru Ito, Takemasa Kojima, Shozo Kawabata and Akira Misaki, CarbohydrateRes., 89, 121(1981)</text></nplcit>
【実施例2】
【0019】
ポリチオフェンの調製 水溶性ポリチオフェン(PT-1)は、図2のスキ-ムに従って調製を行った。
<nplcit num="14"><text>H.-A. Ho, M. Boissinot, M. G. Bergeron, G. Corbeil, K. Dore, D. Boudreau,M. Leclerc, Angew. Chem. Int. Ed., 41,1548(2002)</text></nplcit>
【実施例3】
【0020】
シゾフィランとポリチオフェンとの複合化 実施例1で調製した3重らせんのシゾフィランをDMSOに添加して一本鎖のシゾフィラン(s-SPG)とした。このシゾフィランのDMSO溶液とPT-1の水溶液を水/DMSOが95/5(v/v)となるように混合した。また、最終的なシゾフィランとPT-1の濃度はそれぞれ1.5×10-4 Mと6.0×10-4 Mとした。
【実施例4】
【0021】
紫外(UV)および蛍光スペクトルによる複合体の構造解析 得られた複合体のUVスペクトルおよび蛍光スペクトルを図3に示す。図3ではUVスペクトルを実線、蛍光スペクトルを破線でそれぞれ示してある。シゾフィランが存在しない場合、PT-1のみでは403nmに極大を持つ。これはPT-1鎖がランダムコイル状態にあることを示している。一方、シゾフィラン存在下ではそのピークは454nmに長波長シフトするとともに、溶液の色が黄色からオレンジ色へと変化することが確かめられた。これはランダムコイル状のPT-1がシゾフィランの一次元疎水空間に取り込まれることにより、平面性が増しその有効共役長が伸びたことに由来する。また、蛍光スペクトルもPT-1のみでは520nmであった極大ピークがシゾフィランと複合化させることにより561nmに、しかもピーク強度がわずかに増大しながらシフトしていることが確認されている。これはシゾフィランによってPT-1のコンフォメーションがより平面にしかも1本の状態に孤立化されていることを示している。このシゾフィランによるポリチオフェン鎖の孤立化は、溶液のみならずフィルム化した複合体においても同様に確認できた。フィルム状態での孤立・分散化は複合体を基盤上で分子性ワイヤーとして利用するために不可欠な条件であり、それを十分満たしている。
【実施例5】
【0022】
円二色性(CD)スペクトルによる複合体の構造解析 PT-1そのものは不斉源を持っていないためCDスペクトルでピークは観察されない。一方、シゾフィランと複合体を形成したPT-1は誘起CDを与えた。CDシグナルのパターンからPT-1骨格が右向きのらせん構造を取っていることが認められる(図3B)。このCDはシゾフィランの空孔にPT-1が取り込まれた事に由来している。次に、CDスペクトルの温度依存性を調べ、複合体熱的安定性を評価した。温度変化に伴うCDスペクトルの変化を図4Aに、512nmのCD強度を温度に対してプロットした結果を図4Bに示す。この図より、複合体は約90℃までCD強度が保持され複合体が安定に存在することが示されている。CDスペクトルから複合体を構成しているシゾフィランとPT-1の化学量論比を見積もった。その結果、シゾフィラン鎖2本がPT-1の1本を被覆していることが確認された。
【実施例6】
【0023】
原子間力顕微鏡(AFM)による複合体の構造解析 次に複合体の構造をAFMを用いて評価した。図5(A)に示すようにAFMから複合体はそれぞれが独立したファイバー構造を取っていることが解る。一方、同じ濃度のシゾフィランを同一条件で観察すると3重らせん構造の形成に伴いシゾフィラン鎖の架橋化が起こり、結果的にネットワーク化した構造を与えることも明らかとなった(図5(B))。これら複合体とシゾフィランの平均直径をAFMで評価した。その結果、複合体は0.43nm、3本鎖シゾフィランは0.99nmであることが解った。これらの値の絶対値には化学的な意味は無い。つまり、AFMチップのサイズを考慮しなければ実際の値は求められない。例えばエックス線による構造解析から三重鎖シゾフィランの直径は2.8nmであることが解っており、今回AFMで求めた値はこれよりかなり小さい。しかし、重要なことは複合体と三重鎖シゾフィランの相対的なサイズの差である。AFMからは複合体はシゾフィラン三重鎖に比べて半分以下のサイズと見積もられる。これは(1)PT-1鎖1本は天然シゾフィランの構造を歪める事無くその内部空間に十分収まる大きさであること、(2)さらに複合体を被覆するシゾフィラン鎖が2本になっていることが理由として考えられる。つまり、このAFMによる評価はCDスペクトルから求められた量論比を支持するものである。
【0024】
〔比較例〕
上記の結果は、他の多糖類(例えば、デキストラン、プルラン)を用いた場合には全く認められず、β-1,3-グルカンに特有の現象であることを確かめた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
β-1,3-グルカンが生体適合性であることに加え、様々な化学修飾を自在に行えることを考慮すると、本発明の導電性高分子/β-1,3-グルカン複合体は生体物質の高感度センサーやナノ配線などバイオからナノテクまで広範囲に及ぶ応用の可能性を秘めている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に従うポリチオフェン(PT-1)ナノワイヤー/SPG複合体の生成模式図、並びにPT-1およびSPGの化学構造式。
【図2】PT-1の合成スキーム。
【図3】本発明に従うPT-1/SPG複合体の(A) UVスペクトル(実線)および蛍光スペクトル(破線)、(B) CDスペクトル図(CD強度の単位は104 deg cm2 dmol-1である)(実施例4)。
【図4】本発明に従うPT-1/SPG複合体のCDスペクトルの強度変化(CD強度の単位は104 deg cm2 dmol-1である)(実施例5)。
【図5】本発明に従うPT-1/SPG複合体のAFM像(実施例6)。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図1】
3
【図5】
4