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明細書 :ボレート系結晶の製造方法とレーザー発振装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4619946号 (P4619946)
登録日 平成22年11月5日(2010.11.5)
発行日 平成23年1月26日(2011.1.26)
発明の名称または考案の名称 ボレート系結晶の製造方法とレーザー発振装置
国際特許分類 C30B  29/22        (2006.01)
C04B  35/653       (2006.01)
G02F   1/37        (2006.01)
H01S   3/10        (2006.01)
FI C30B 29/22 C
C04B 35/60 A
G02F 1/37
H01S 3/10 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 20
出願番号 特願2005-502997 (P2005-502997)
出願日 平成16年2月13日(2004.2.13)
国際出願番号 PCT/JP2004/001546
国際公開番号 WO2004/079060
国際公開日 平成16年9月16日(2004.9.16)
優先権出願番号 2003035778
2003109294
優先日 平成15年2月13日(2003.2.13)
平成15年4月14日(2003.4.14)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成18年6月7日(2006.6.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】佐々木 孝友
【氏名】森 勇介
【氏名】吉村 政志
【氏名】西岡 宗行
【氏名】福本 悟
【氏名】松井 知代
【氏名】佐治 隆司
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】近野 光知
参考文献・文献 特開平09-278593(JP,A)
特開2002-068891(JP,A)
特開平05-270989(JP,A)
特開平07-089796(JP,A)
特開平03-054112(JP,A)
調査した分野 C30B 1/00~35/00
特許請求の範囲 【請求項1】
原材料として、水溶性のセシウム化合物、リチウム化合物およびホウ素化合物と、必要に応じてセシウムおよびリチウム以外のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種以上の水溶性の化合物を共に水に溶解して水溶液とし、この水溶液の水分を蒸発させ、その後焼結することによりまたは焼結せずに育成原料とし、得られた育成原料を融解して、一般式
Cs1-xLi1-yx+y10(0≦x,y<1
Cs2(1-z)Li1220(0≦z<1)
(MはCsおよびLi以外の1種以上のアルカリ金属元素、Mはアルカリ土類金属元素を示す)
で表わされる化学組成を有するセシウム・リチウム・ボレート系結晶を育成することを特徴とするボレート系結晶の製造方法。
【請求項2】
水溶性のセシウム化合物が炭酸塩化合物であることを特徴とする請求項1記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項3】
水溶性のホウ素化合物が酸化ホウ素またはホウ酸であることを特徴とする請求項1または2に記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項4】
水溶液を加熱して水分を蒸発させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項5】
水溶液の水分を蒸発させた後に、500℃以上で融解温度未満の温度範囲で焼結することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項6】
結晶育成時に融解させた育成原料の溶融体を撹拌することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項7】
育成した結晶を加熱して結晶中の水不純物を低減させることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項8】
育成した結晶を100℃以上で加熱することを特徴とする請求項7に記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項9】
育成した結晶をガス置換または真空排気の雰囲気下に加熱することを特徴とする請求項7または8に記載のボレート系結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の製造方法により形成されたボレート系結晶が、波長変換光学素子として使用されていることを特徴とするレーザー発振装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【技術分野】
この出願の発明は、ボレート系結晶の製造方法とレーザー発振装置に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、Nd:YAGレーザーやNd:YVOレーザーの3倍高調波への波長変換光学素子等として有用なセシウム・ボレート系結晶や、4倍高調波への波長変換光学素子等として有用なセシウム・リチウム・ボレート系結晶を、短時間で低コストに簡便に、かつより均一性、信頼性に優れたものとして品質を向上させることのできる新しいボレート系結晶の製造方法と、その結晶を波長変換光学素子として用いたレーザー発振装置に関するものである。
【0002】
【背景技術】
近年、紫外線リソグラフィー、レーザー微細加工およびレーザー核融合などへのレーザー光の応用が広がりつつあり、これらに用いられるレーザー発振装置においては、安定した紫外光を効率よく得ることが必要とされている。そのためのひとつの方法として、非線形光学結晶を用いて光源を波長変換することで紫外光を得るようにした全固体型レーザー発振装置が注目されている。この非線形光学結晶は、より効率よく紫外光を得るために、より高い出力と、レーザー損傷耐力の向上が求められている。
【0003】
紫外光への波長変換を行う非線形光学結晶としては、これまでに、たとえばNd:YAGレーザーやNd:YVOレーザー(波長1064nm)の3倍高調波(波長355nm)への波長変換用非線形光学結晶としてリチウム・ボレート系結晶(LBO結晶:LiB)が実用化されている。しかしながら、このLBO結晶は表面劣化や波長変換効率が悪いなどの問題を有しており、LBO結晶に代わる非線形光学結晶として、劣化しにくく波長変換効率の高い、新しい非線形光学結晶が強く求められていた。そしてこの出願の発明の発明者等や他の研究者により研究が重ねられた結果、現在ではセシウム・ボレート系結晶(CBO結晶:CsB)がLBO結晶に代わる非線形光学結晶の候補として有望視されている。このCBO結晶は、LBO結晶と比べて2倍以上の非線形光学定数を有しているため、Nd:YAGレーザーやNd:YVOレーザーの3倍高調波を効率よく発生させることが可能であり、高性能な波長変換用非線形光学結晶として実用化されつつある。またさらにこの出願の発明者等により創案されたセシウム・リチウム・ボレート系結晶(CLBO結晶:CsLiB10)はNd:YAGレーザーの4倍高調波(波長266nm)といった、より短波長の光を透過してその波長の変換が可能であり、その変換効率が高く、広い温度許容幅および角度許容幅を持つことなどから、新たな高性能波長変換用非線形光学結晶として期待されている(特許文献1)。
【0004】
これらCBO結晶およびCLBO結晶といったボレート系結晶は、従来では、炭酸塩の原料粉末を加熱溶融した育成原料から、各種の結晶育成方法により単結晶を得るようにしている。たとえばCBO結晶の育成について説明すると、これまでにこの出願の発明者等がCsCOを26.6mol%、Bを73.3mol%をそのまま混ぜて加熱溶融し、カイロポーラス法を用いてCsBの育成を行うようにしていたが、この方法では融液組成を均一化するのが容易ではなく、育成中に結晶内部に一様に含有物が取り込まれるため、強い光散乱が生じることに加え、レーザー損傷耐性も低いという問題を有していた(特許文献2)。
【0005】
そこでさらに発明者等は、CsCOを30mol%、Bを70mol%でそのまま混ぜて加熱溶融させて、TSSG法にプロペラを溶液中に沈めて坩堝を回転させる溶液撹拌技術を加えた方法を用いてCsBを育成したが、この方法で育成された結晶では内部の光散乱源は非常に少なくすることができたものの、液面付近の蒸発が非常に激しく結晶の育成自体が非常に困難であり、長期間の結晶育成は不可能であった(特許文献3)。
【0006】
また上記のいずれの方法を用いた場合にも、結晶育成のために原料粉末をそのまま混合して育成原料として用いており、加熱溶融の際に原料粉末からの脱炭酸により発泡が生じて反応中に膨張してしまうため、原料粉末を少量ずつ複数回に分けて混合、溶融する必要があった。このようなことからCBO結晶およびCLBO結晶の製造では溶解炉において数日間かけて原料粉末を加熱溶融し、その後一旦常温に冷却して育成原料とし、次に育成炉に移してその育成原料を溶融し、その溶融体から単結晶を育成するようにしており、従来のCBO結晶およびCLBO結晶の製造は時間を要しコスト高になるという欠点を有していた。
【0007】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、波長変換光学素子等として有用なボレート系結晶を短時間で低コストに簡便に、かつより均一性に優れたものとして品質を向上させることのできる新しいボレート系結晶の製造方法と、それらの結晶を波長変換光学素子として用いたレーザー発振装置を提供することを課題としている。
【0008】
【非特許文献1】
Y.Mori,et al.,“New nonlinear optical crystal:Cesium lithium borate”Appl.Phys.Lett.,67,13(1995)1818
【0009】
【非特許文献2】
Y.Kagebeyashi,Y.MoriおよびT.Sasaki,“Crystal growth of cesium triborate,CsB3O5 by Kyropoulos techniqu”Bulletin of Materials Science,Vol.22(6)pp.971-973,1999年
【0010】
【非特許文献3】
H.Kitano“Efficient 355-nm generation in CsB3O5crystal”,Optics Letters,Vol.28,No.4,pp.263-265,2003年
【0011】
【発明の開示】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、原材料として、水溶性のセシウム化合物、リチウム化合物およびホウ素化合物と、必要に応じてセシウムおよびリチウム以外のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種以上の水溶性の化合物を共に水に溶解して水溶液とし、この水溶液の水分を蒸発させ、その後焼結することによりまたは焼結せずに育成原料とし、得られた育成原料を融解して、一般式
Cs1-xLi1-yx+y10(0≦x,y<1
Cs2(1-z)Li1220(0≦z<1)
(MはCsおよびLi以外の1種以上のアルカリ金属元素、Mはアルカリ土類金属元素を示す)
で表わされる化学組成を有するセシウム・リチウム・ボレート系結晶を育成することを特徴とするボレート系結晶の製造方法を提供する。
【0012】
そして、この出願の発明は、上記第1の発明において、第2には、水溶性のセシウム化合物が炭酸塩化合物であることを特徴とする方法を、第3には、水溶性のホウ素化合物が酸化ホウ素またはホウ酸であることを特徴とする方法を、第4には、水溶液を加熱して水分を蒸発させることを特徴とする方法を、第5には、水溶液の水分を蒸発させた後に、500℃以上で融解温度未満の温度範囲で焼結することを特徴とする方法を、第6には、結晶育成時に融解させた育成原料の溶融体を撹拌することを特徴とする方法を、第7には、育成した結晶を加熱して結晶中の水不純物を低減させることを特徴とする方法を、第8には、育成した結晶を100℃以上で加熱することを特徴とする方法を、第9には、育成した結晶をガス置換または真空排気の雰囲気下に加熱することを特徴とする方法を提供する。
【0015】
さらに、この出願の発明は、第10には、上記いずれかに記載の製造方法により製造されたボレート系結晶が、波長変換光学素子として使用されていることを特徴とするレーザー発振装置を提供する。
【0016】
【発明を実施するための最良の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0017】
この出願の発明のボレート系結晶の製造方法では、水溶性の原材料を水に溶解して水溶液とし、この水溶液の水分を蒸発させ、その後焼結することによりまたは焼結せずに育成原料とし、得られた育成原料を融解して結晶育成することを特徴としている。
【0018】
この方法では、この出願の発明者等による検討によって得られた新しい知見、すなわち、セシウム・ボレート系結晶(CBO結晶)やセシウム・リチウム・ボレート系結晶(CLBO結晶)といったボレート系結晶の製造において、結晶の品質を決定する重要な要素は、育成原料の生成過程における均一な混合の実現にあり、仮に炭酸塩化合物を原材料にする場合でも炭酸が容易に抜けやすい状態とし、均一混合を容易とすることが肝要であるとの知見に基づいている。
【0019】
そして、この出願の発明者らは、ホウ素とともにボレート系結晶を構成する主要な元素であるセシウムやリチウムの水溶性に着目して、原材料であるセシウム化合物、リチウム化合物およびホウ素化合物を水溶性の化合物とし、所定混合比に混合して水を加えて水溶液とすることによって、それら原材料を水中において分子サイズレベルで均一に混合し、これにより均一な組成の水溶液を得ることを可能とした。そしてそれを蒸発乾固させたものを焼結し、あるいは焼結せずに育成原料とし、その得られた育成原料を融解して結晶育成することで、透明であって光散乱源が極めて少ないボレート系結晶を得ることができるのである。
【0020】
より具体的には、たとえば、CBO結晶を製造する場合においては、水溶性のセシウム化合物および水溶性のホウ素化合物を水に溶解して水溶液とし、また、たとえば、CLBO結晶を製造する場合においては、水溶性のセシウム化合物、リチウム化合物およびホウ素化合物を水に溶解して水溶液とし、これらの水溶液の水分を蒸発させ、その後焼結することによりまたは焼結せずに育成原料とし、得られた育成原料を融解して結晶育成することを大きな特徴としている。
【0021】
また、この出願の発明の方法においては、セシウムやリチウム以外のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種以上の水溶性の化合物を水に溶解することも可能である。すなわち、より具体的に、たとえば、セシウム・ボレート系結晶の製造については、CsBの組成のセシウム(Cs)の一部を、ナトリウム(Na)、カリウム(K)あるいはルビジウム(Rb)などのセシウム以外のアルカリ金属元素や、あるいはバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)あるいはマグネシウム(Mg)などのアルカリ土類金属元素に置換することができ、
Cs1-x(0≦x<1)
(Mは1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属元素)
の組成式を有する結晶とすることができるのである。そしてセシウム・リチウム・ボレート系結晶の製造については、CsLiB10の組成のセシウムおよびリチウムの一部を、上記のとおりの任意のアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素で置換することができ、
Cs1-xLi1-yx+y10(0≦x,y<1)および
Cs2(1-z)Li1220(0≦z<1)
(MはCsおよびLi以外の1種以上のアルカリ金属元素、Mはアルカリ土類金属元素を示す)
などの組成式を有する結晶とすることもできるのである。その組成の具体例については、たとえば、アルカリ金属元素(M)が、Na(ナトリウム)の時は、0<x≦0.01程度の組成が、K(カリウム)の時は、0<x≦0.1程度の組成が、Rb(ルビジウム)の時は、0<x≦1程度の組成が、製造や物理的性質等の観点から好適な範囲のものとして例示される。もちろん、上記の条件を満たす範囲内で任意のアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素として複数種のものが含まれていてもよい。
【0022】
このように、セシウムや、セシウムおよびリチウム以外のアルカリ金属やアルカリ土類金属がイオンとして結晶構造中に存在することで、形成される結晶の屈折率を変化させることが可能となり、位相整合角度や角度許容、温度許容などの改善が図られるのみならず、同時に結晶の構造的変化を与えることにより、割れにくく白濁化しないなどのより安定な結晶を得ることができる。
【0023】
なお以上の説明からも明らかなとおり、この出願の発明において規定している“セシウム・ボレート系結晶”とは、セシウムとボレートのみの酸化物結晶であるCsBの組成の結晶並びにCsBのセシウムの一部をセシウム以外のアルカリ金属またはアルカリ土類金属(M)に置換した結晶であるCs1-x結晶を、“セシウム・リチウム・ボレート系結晶”とは、セシウム、リチウム、ボレートのみの酸化物結晶であるCsLiB10の組成の結晶並びにCsLiB10のセシウムおよびリチウムの一部をそれら以外のアルカリ金属(M)に置換した結晶であるCs1-xLi1-yx+y10結晶やアルカリ土類金属(M)に置換した結晶であるCs2(1-z)Li1220結晶をも対象として考慮することができる。
【0024】
また、この出願の発明においては原材料を水に溶解して均一な水溶液とすることで育成原料の生成段階での原材料の微細化および均一化を行うようにしているが、この出願の発明においては、原材料の水溶性の化合物として、セシウム、リチウム、他のアルカリ金属やアルカリ土類金属の場合についてはその炭酸塩等の無機酸塩や酢酸塩等の有機酸塩が例示される。とくに原材料に水溶性のセシウム化合物やリチウム化合物を炭酸塩化合物とした場合は、水に溶解することにより炭酸が容易に抜けやすい状態とすることができ、焼成反応あるいは溶解中における脱炭酸による発泡を抑制することができる。ホウ素化合物については、もちろん他の水溶性のホウ素化合物を用いることも可能であるが、水に容易に溶解することができる好適な水溶性の酸化ホウ素またはホウ酸が挙げられ、これらの化合物を用いることによって、とくに原材料の均一な混合を容易とすることができるのである。
【0025】
なお、この出願の発明においては、原材料について、その形態等に特に限定はないが、水に溶解させて水溶液とする点で粉末状であることが好ましい。またセシウム炭酸塩化合物,リチウム炭酸塩化合物および酸化ホウ素(あるいはホウ酸)などの原材料は同時に水に混合するのが望ましい。発明者の検討によればこれらの材料を別個に溶解させた水溶液を混合する方法よりも原材料そのものを同時に水に混合することがより好ましいことが確認されている。原材料を溶解させる水の割合は、セシウム・ボレート系結晶についてはこれら原材料の総重量の1.0倍~2.5倍程度、セシウム・リチウム・ボレート系結晶については原材料の総重量の1.2倍~2.5倍程度が好ましく、より好ましくは両結晶の製造についてともに1.5倍~2倍程度とするのが適当である。水が1.0あるいは1.2倍よりも少ない場合には、原材料を完全に溶解させるのに手間がかかりあまり好ましくない。ただし、原材料が溶解しにくい場合は、水溶液を加熱することで溶解度を増加させることができる。また水が2.5倍よりも多い場合には、水溶液の調整は簡便となるものの、次の工程の水分の蒸発に時間を要するためあまり好ましくない。
【0026】
また原材料の使用割合については、使用する材料の種類や水の割合などによっても相違するが、セシウム・ボレート系結晶については、炭酸セシウム(CsCO)と酸化ホウ素(B)あるいはホウ酸(HBO)を用いる場合には、モル比としてCs:B=1:2.13~4.56を想定することが好ましい。セシウム・リチウム・ボレート系結晶については、炭酸セシウム(CsCO)、炭酸リチウム(LiCO)および酸化ホウ素(B)あるいはホウ酸(HBO)を用いる場合には、モル比として、Cs:Li:B=1:1:3~10を想定することが好ましい。他の条件においても、一般的に、この割合を目安とすることができる。
【0027】
さらに、この出願の発明においては水溶液が調整された後に、水分の蒸発が行われるが、この蒸発は自然乾燥でも良いが、材料の完全な溶解と混合のために有効な手段として、水溶液を加熱して水分を蒸発させることが挙げられ、このようにすることによって、ボールミル粉砕機などにより機械的に上記の原材料を微細化および混合するのに比べてはるかにミクロなレベルでの微細化および均一化が実現でき、また不純物の混入による組成のずれの心配もない。
【0028】
そして原材料が分子レベルで均一に混合された水溶液の水分を蒸発させたことで固形物が得られるが、この出願の発明ではこれを焼結することにより、または焼結せずに育成原料とすることができる。焼結する場合には、500℃以上で融解温度未満の温度範囲で焼結するのが望ましく、より実際的には500~700℃の範囲とするのが望ましい。焼結の時間については、材料の量やその乾燥度合いなどにもよるために一概には言えないが、およそ10分程度でよく、完全に水和物を除くことを考慮しても数時間程度で十分であると言える。そしてこの焼結に際してはもちろん原材料として炭酸塩化合物を用いる場合であっても、脱炭酸による材料の膨張はあまり見られず、脱炭酸による材料の膨張がないために一度に多量の材料を坩堝に充填でき、たとえば従来法に比べて、1/5程度までの大幅な製造時間短縮と、それに伴うコスト削減が実現できる。また、原材料が分子レベルで均一に混合されているため、極めて結晶性が優れたCBO結晶またはCLBO結晶を得ることができる。また長期間の育成による大型結晶の作製も可能である。
【0029】
より具体的には、たとえば、以上のこの出願の発明の方法によりセシウム・ボレート系結晶を製造する際に、水溶性のセシウム化合物を炭酸塩化合物(CsCO)とし、水溶性のホウ素化合物を酸化ホウ素(B)として水に溶解させた場合には、中和反応による脱炭酸反応が生じ、この反応は以下の式で表されると考えられる。
【0030】
+HO→2HBO
CsCO+2HBO→2CsBO+HO+CO
またこの出願の発明の方法によりセシウム・リチウム・ボレート系結晶を製造する際には、さらに水溶性のリチウム化合物を炭酸塩化合物(LiCO)として加えるため、上式に加えて以下の式で表される脱炭酸反応も生じると考えられる。
【0031】
LiCO+2HBO→2LiBO+HO+CO
従来のCBO結晶やCLBO結晶の製造においては、焼結の際にこのような脱炭酸反応が生じており、融液の粘性が極めて高かったために融液の著しい膨張が起こっていた。しかしながら、この出願の発明においては、以上の脱炭酸反応は水溶液の状態で生じるために原材料の膨潤は起こらず、一度に大量の材料を扱うことができるのである。そして、このような中和反応の後、加熱によりもしくは自然に水を蒸発させて乾固させることで、ミクロなレベルで微細かつ均一化されたCsBOおよびLiBOが形成され、さらに焼結を行うが、その焼結時に、CBO結晶の製造においては、
CsBO+B→CsB
CLBO結晶の製造においては、
CsBO+LiBO+2B→CsLiB10
の反応により、ミクロなレベルで微細かつ均一なCsB結晶およびCsLiB10結晶をそれぞれ得ることができるのである。
【0032】
なお焼結を行わなくともよく、焼結を行う場合・焼結を行わない場合のいずれであっても、この出願の発明においては得られた育成原料を融解して結晶育成を行うことになる。育成は融解温度以上への加熱によって各種の育成方式を採用して行うことができる。
【0033】
このようにして製造された溶融体は極めて単結晶に近い結晶性を有しているため、そのまま固化して様々な用途に利用することもできる。またこの溶融体を用いて公知の結晶育成方法を利用して単結晶を育成することもできる。この場合高品質な単結晶を育成することができる。
【0034】
またこの溶融体の製造は従来の製造方法のように溶解炉で行う必要がないため、たとえば直接育成炉で製造し、引き続き単結晶の育成を行うことなども可能である。
【0035】
さらに、結晶育成時に融解させた育成原料の溶融体を撹拌することでより均一化を可能とし、レーザー損傷による閾値が高く、そのばらつきが小さい結晶が得られるなどのさらなる効果が実現されることになる。溶融体の撹拌については、種結晶を種結晶保持棒を軸として回転させること、坩堝を種結晶に対して逆回転させること、これらを周期的に反転させることや、融液中に挿入した羽根部材および坩堝を回転させることなどが例示される。
【0036】
さらにこの出願の発明のボレート系結晶の製造方法では、上記の通り育成した結晶を加熱して結晶中の水不純物を低減させることを考慮することができる。これは、この出願の発明者らの研究過程において、この出願の発明により製造されるボレート系結晶に限らず、従来のボレート系結晶もが、表面吸着ではなく、結晶内部に水の不純物を含んでいることが明らかとなり、さらなる鋭意研究の結果、その結晶中の水不純物を低減させることで、紫外レーザーに対する損傷閾値が改善されるという、全く新しい知見を見出したことに基づくものである。そしてこのレーザー損傷閾値は、結晶中の水不純物が低減するにつれて徐々に高くなる。たとえば、この出願の発明により育成されたボレート系結晶を、簡便に、ヒーターで100℃以上の温度、たとえば150℃で加熱すると、水不純物は徐々に減少し、それとともにレーザー損傷閾値は徐々に向上し、約100時間程度でそれら変化が緩やかになるのが確認される。そしてたとえば、150℃で100時間以上加熱することで、紫外レーザーに対する損傷閾値を約1.35倍に高くすることができるのである。また、単なるヒーター加熱だけでなく、各種加熱手段を用いてもよいし、ガス置換、あるいは真空排気の雰囲気条件との適宜な組合せであってもよい。
【0037】
このようなこの出願の発明の結晶製造方法によれば、短時間で低コストに簡便にボレート系結晶を製造することができる。また、原材料を分子サイズレベルで均一に混合することができることから、透明であって組成が均一で光散乱源の極めて少ない高品質な、かつレーザー耐力の極めて高い結晶を得ることができる。したがって、たとえばこの出願の発明の方法により製造されたセシウム・ボレート系結晶を波長変換用の非線形光学結晶(波長変換光学素子)としてレーザー発振装置に用いた場合、従来のセシウム・ボレート系結晶のように低出力紫外光発生の段階でレーザー損傷は起きず、またリチウム・ボレート系結晶を大きく上回る出力が得られることから、Nd:YAGレーザーやNd:YVOレーザーなどの3倍高調波発生素子として有望なものとすることができる。また、この出願の発明により得られたセシウム・リチウム・ボレート系結晶を波長変換用の非線形光学結晶としてレーザー発振装置に用いた場合、溶融石英や従来のセシウム・リチウム・ボレート結晶ほど低出力紫外光発生の段階でレーザー損傷は起きず、また閾値の分布幅も安定していることから、3倍高調波発生素子をはじめ、4倍高調波発生素子として有望なものとすることができる。つまり、この出願の発明の方法により形成されたボレート系結晶を波長変換光学素子として使用することで、安定した紫外光を効率よく得ることが可能で、より信頼性に優れたレーザー発振装置を提供できるのである。そしてこのことは、ボレート系結晶を使用した高性能紫外レーザー・システムを構築するのに極めて有用となる。
【0038】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0039】
参考例1】
この出願の発明のボレート系結晶の製造方法の一実施形態を用いて、セシウム・ボレート系結晶を製造した。
【0040】
まず、図1(a)~(d)に示すように、直径20cm×高さ26cmのポリメチルペンテン製容器(1)にイオン交換水(2)を入れて溶解炉で約100℃に加熱し、その中にCsCOを4337.4gとBを2162.6gを均一に混合したものを入れ溶解し、さらに加熱し続け、水分を蒸発させた。そして、水分を蒸発させた後、残った材料を直径15cm×高さ15cmの開口白金坩堝(3)内に充填し、300℃に加熱して乾固し、さらに650℃に加熱して焼成し育成原料とした。その後図2に示すヒーター(4)を有する育成用の5層制御の円筒型抵抗加熱炉(5)に坩堝(3)を入れて、坩堝(3)の中心部に対応する個所に種結晶を出入りさせるための小孔(6)を設けた保温材料により、円筒型抵抗加熱炉(5)の上方にある開口を密封した。
【0041】
次に、炉内温度を850℃に加熱して育成原料を溶融させ、同温度で1時間保持した後、アルミナ棒の下端部に白金の板を固定した撹拌棒を溶融体中に入れ、24時間撹拌を行った。その後炉内温度を787.5℃まで降下させ、図3に示すようにa軸に沿って切り取ったCsB種結晶(7)を白金線によって種結晶保持棒(8)の下端部に保持し、図2に示す円筒型抵抗加熱炉(5)上方の小孔(6)から種結晶(7)を坩堝(3)内に導入して溶融体(9)の液面に接触させた。そして0.1℃/日の速度で徐冷しながら、その種結晶保持棒(8)を回転させて種結晶(7)を用いた結晶成長を行った。なお回転速度は60rpmであって、3分間ごとに回転方向を反転させた。
【0042】
10日後、結晶の成長が完了した時点で、結晶を溶融体(9)の液から離脱させ、20℃/hの冷却速度で室温まで徐冷させ、10×19×19mmの透明なCsB単結晶を得た。
【0043】
参考例2】
この出願の発明のボレート系結晶の製造方法の参考例1とは異なる条件でセシウム・ボレート系結晶を製造し、そのセシウム・ボレート系結晶を非線形光学結晶として用いた際の性質を評価した。
【0044】
図1に示すように直径20cm×高さ26cmのポリメチルペンテン製容器(1)にイオン交換水(2)を入れ、溶解炉で約100℃に加熱し、その中にCsCOを4671.1gとBを2328.9gを均一に混合したものを入れて溶解させ、さらに加熱し続け水分を蒸発させた。
【0045】
水分蒸発後、残った材料を直径15cm×高さ15cmの開口白金坩堝(3)内に充填し、300℃に加熱し乾固し、さらに650℃に加熱して焼成した。この育成原料のXRD測定を行ったところ、図4(b)に示すようにほぼCBO結晶のみのピークが確認できた。一方図4(a)は比較として、従来法の粉末原料を直接混合した後に焼結させた場合の育成原料のXRD測定結果であるが、CBO結晶のピーク以外にも多数のピークが確認された。なお図4(c)は理想的なCBO結晶のXRD測定の結果である。
【0046】
その後図2に示すようなヒーター(4)を有する育成用の円筒型抵抗加熱炉(5)に坩堝(3)を入れ、坩堝(3)の中心部に対応する個所に種結晶(7)を出入りさせるための小孔(6)を設けた保温材料により、円筒型抵抗加熱炉(5)の上方にある開口を密封した。
【0047】
炉内温度を850℃に加熱して育成原料を溶融させ、同温度で3時間保持した後、アルミナ棒の下端部に白金の板を固定した撹拌棒を溶液中に入れ12時間撹拌を行った。その後炉内温度を788℃まで降下させ、図3に示すようにa軸に沿って切り取ったCsB種結晶(7)を白金線によって種結晶保持棒(8)の下端部に保持し、円筒型抵抗加熱炉(5)の上方の小孔(6)から種結晶(7)を坩堝(2)内に導入して溶融体(9)の液面に接触させた。そして0.1℃/日の速度で徐冷しながら、種結晶保持棒(8)を回転させて種結晶(7)を用いた結晶成長を行った。回転速度を60rpmとし、3分間ごとに回転方向を反転させた。
【0048】
16日後、結晶の成長が完了した時点で、結晶を溶融体の液から離脱させ、16℃/hの冷却速度で室温まで徐冷させ、25×30×30mmの透明なCsB単結晶を得た。図5はこの出願の発明により得られたCBO結晶の一例を示す写真であり、図5よりこの出願の発明の製造方法により得られたCBO結晶が透明であることが分かる。
【0049】
そしてこの単結晶を非線形光学結晶として用い、図6に示すようにレーザー光源として、波長1064nm、繰り返し周波数31.25kHzのNd:YVOレーザー(10)(LIGHTBOOK2010)から発振されたレーザー光を水溶混合により作製されたCBO結晶、溶液撹拌により作製されたCBO結晶、従来法によるCBO結晶、LBO結晶の4種類の非線形光学結晶(11)を用いて波長変換を行い、3倍高調波を発生させ、プリズムで分光を行いパワーメータにより3倍高調波の出力を検出した。
【0050】
その結果を図7のグラフに示す。図7に示すように、この出願の発明の水溶混合により作製されたCBO結晶の355nm紫外光の発生時の出力は、溶液撹拌により作製されたCBO結晶の場合の出力には及ばないものの、この結晶においてはレーザー損傷閾値が110MW/cm以上であって、従来のCBO結晶のレーザー損傷閾値60MW/cm以上やLBO結晶レーザー損傷閾値80MW/cm以上と比べてレーザー損傷閾値が高く、従来のCBO結晶のようにレーザー損傷は起きない。また最大出力が2.9WであってLBO結晶の変換効率の約1.44倍と、LBO結晶と比べて変換効率の高い高品質なCBO結晶であることが確認できた。
【0051】
【実施例3】
従来のCLBO結晶育成では、原材料が約6kgと大量であり、また加熱時に脱炭酸による膨張が起こるため、CsCO、LiCO、B粉末の混合及び焼成を行わず白金坩堝に充填し、900℃まで昇温、融解させて育成溶液としていた。この場合、昇温過程において、原材料の中で最も低い融点のBがまず融解し、そこにCsCOとLiCOが溶け込んでいくと考えられる。すなわち、不均一に混ざり合った状態の原材料を融解した場合、高粘性のホウ酸系原材料は拡散が起こりにくく、局所的にCs、Liの濃度が高い領域が発生し、結晶成長時に必要なCLBO組成および構造が生成されにくい状態になっていると予想される。
【0052】
そこで、原材料の焼成によりCLBO結晶相を析出させることを試みた。化学量論組成に秤量し、乳鉢混合した原材料の示差熱分析(DTA)を行った。この時の昇温温度は10℃/minで、700℃まで加熱を行った。その結果、図8に示すように約430、540℃で吸熱反応が確認された。430℃付近における吸熱反応はBの融解によるもので、540℃付近における吸熱反応はCsLiB10(CLBO)の合成反応によるものと考えられる。
【0053】
しかしながら、DTA測定後の原材料の粉末X線回析測定を行ったところ、図9のような結果が得られた。図10はCLBO結晶の回析ピークであるが、図9からは、CLBOのピークだけでなく、不純物相であるCsBやLiのピークが確認された。このような不純物が生じる原因は、乳鉢混合では微細・均一化に限界があり、原材料中に局所的な組成ずれが生じているためと考えられる。そこで、原材料の微細・均一化の方法について検討を行った。
【0054】
CLBO結晶は潮解性を持ち、原材料成分も吸湿性を持つため、これまで原材料の秤量および混合は極力低湿度環境下で行うのが望ましいとされてきた。ここで発想を変えて、この出願の発明の方法のとおり、原材料の吸湿性を有効に利用し、水溶させることで微細かつ均一な混合を試みた。化学量論組成に秤量した原材料100gを約500mlの水に入れたところ、発泡しながら水に溶け込み、発泡が終了した後の水溶液は無色透明となった。無色透明になったことから、原材料は完全に溶解していることが分かる。Bは水に溶けるとホウ酸となり、CsCOおよびLiCOは水に溶けるとアルカリ性を示すため、中和反応が起きていると考えられる。発泡はこの反応でのCsCOおよびLiCOの脱炭酸によるものであり、これらがホウ酸化合物になるために十分な量のBが存在することから、原材料中から完全に炭酸化合物が消失していると考えられる。この水溶液を蒸発乾固させると、白色粉体が得られた。
【0055】
この粉体のDTAを、先程と同条件で行った。その結果、図11に示すように540℃付近で発熱反応が確認された。DTA測定後の粉体の粉末X線回析測定を行ったところ、図12に示すようにCLBOのピークのみが確認され、前述の不純物相のピークは存在しなかった。これは、このような水溶混合により原材料の微細かつ均一化がなされたためだと考えられる。また、CLBO相において最大の回析ピークか得られる(211)面、2θ=21.38°のピーク強度は、従来法の原材料の焼結体は1500cps程度だったのに対し、16000cps程度と非常に強かった。これは、脱炭酸により次式のような合成反応が進みやすくなったためと考えられる。
【0056】
CsBO+LiBO+2B→CsLiB10
これらの結果を考慮し、以下の手順で育成原料を準備した。すなわち、素原料には市販されている純度4NのCsCO、3NのLiCO、Bを用いた。TSSG法を用いて育成を行うため、素原料6kgをモル比CsCO:LiCO:B=1:1:5.5のややBの少ないセルフフラックス組成で秤量した。秤量した素原料を約6Lの蒸留水で水溶後、蒸発乾固させて得られた粉体を800℃で24時間焼成した。この際、水溶により脱炭酸がなされているため、従来の原材料のような膨張は起こらなかった。得られた育成原料(焼結体)の一部の粉末X線回析測定を行ったところ、CLBO単相であることが確認できた。その後、900℃まで昇温して融液とした。
【0057】
図2に示す5層制御の円筒型抵抗加熱炉(5)を用い、結晶育成を行った。種結晶(7)の方位はa軸で、溶液攪拌のために種結晶(7)を30rpmで回転させ、3分周期で反転を行った。育成開始温度は842.5℃、温度降下は約0.05~0.1℃/dayで行った。育成した結晶の大きさは51mm×35mm×25mm(a軸×c軸×a軸)、a軸方向(水平方向)の平均成長速度3.6mm/day、育成日数14日、重さ47gであった。成長速度や結晶の形状に関しては従来の育成原料からの育成と変わらなかったことから、水溶混合したこの出願の発明の育成原料を用いても特に結晶育成に支障はないことがわかった。He-Neレーザーにより結晶中の散乱を観察したところ、散乱体は確認できなかった。
【0058】
次に、水溶混合原料により得られた結晶と、従来の原料準備により得られた結晶との品質を比較するため、以下に述べる方法で紫外レーザー光に対する損傷閾値を測定した。結晶から厚さ1cmのc軸板素子を切り出し、両端面を光学研磨した。図13に示す光学系を用いて、このCLBO素子に1パルスのレーザー光(波長266nm、パルス幅7ns)を集光させて損傷の有無を判断し、1ショットごとに照射位置を変えて損傷強度を調べた(1-on-1法)。得られた結果を図14に示す。(b)従来の原料準備法により得られた結晶のレーザー損傷閾値は、(a)溶融石英(信越石英(株)製)と同程度で、8.8~10.4GW/cmであった。一方、(c)水溶混合原料により得られた結晶のレーザー損傷閾値は、(a)溶融石英の約1.6倍程度の16.2~16.6GW/cmと、(b)従来の結晶に比べてもレーザー損傷耐力が大きく向上したことがわかった。また、閾値の分布幅が(c)約1.0GW/cmと、従来の(b)3.2GW/cmに比べてはるかに狭いことから、結晶品質の内部均一性も向上していると考えられる。これまでの検討でレーザー損傷耐力の高いCLBO結晶は転位密度が低いことが分かっていることから、原料の水溶混合により育成した結晶は高品質化したと判断できる。
【0059】
また、結晶の育成において、図15のように、融液中に挿入した羽根部材は回転させることなしに、結晶と坩堝とを相互に逆方向に回転させて融液の攪拌を行い、得られた結晶のレーザー損傷閾値を図16に示した。(a)は比較のための溶融石英のレーザー損傷閾値である。図16からわかるように、(b)従来の原料準備で同様に育成した結晶よりも、この出願の発明の(c)水溶混合原料から育成した結晶は、さらに高均一、かつ高レーザー耐力を有することがわかった。
【0060】
なお、CLBO結晶は結晶構造内に多くのOH基が存在することが、フーリエ変換赤外線(FT-IR)吸収スペクトル法により確認されている。更に、結晶中に含まれるOH基が多いほど紫外光に対する透過率が低下することが報告されている。水溶混合原料を用いて育成した結晶中には、従来の結晶に比べ多くのOH基が取り込まれることが懸念されるため、フーリエ変換赤外線(FT-IR)吸収スペクトル法による含有OH基の評価を行った。CLBO結晶におけるOH基の吸収スペクトルは、a軸に比べc軸方向でより顕著に表れることが報告されている。そこで、(a)従来の原料を用いて育成した結晶と、(b)水溶混合原料を用いて育成した結晶から、厚さ1mmのc軸板を切り出して評価素子とした。表面吸着水分子の影響を除去するため、それぞれを150℃で約1日加熱した後、c軸に対して測定を行った。入射赤外光は無偏光のものを用いた。その結果を図17に示した。約3400、3600cm-1のピークが、OH基による吸収を示している。得られた結果より、(a)従来の結晶と(b)水溶混合原料の結晶の吸収スペクトル強度は同程度であることがわかった。このことから、水溶した後に蒸発乾固及び焼成を行うことで、原料粉末中のOH基は従来の原料と同程度まで減少すると考えられる。
【0061】
【実施例4】
この出願の発明の方法により製造したCLBO単結晶を、(Θ,Φ)=(61.9°,45°)の方向で長さ10mmに3個を切り出し、光学研磨した。この角度はNd:YAGレーザーのタイプI、4倍高調波発生のための位相整合角である。
【0062】
紫外レーザー光に対する内部損傷閾値を測定するための光学系の構成の概略を図18に示した。図18に示したとおり、光源にはダイオード励起Nd:YVOレーザーを使用し、パルス繰り返し数は31.25kHz、出力パルスはTEM00モードでパルス幅10nsとした。また、LBO結晶は、148℃の高温下での非臨界位相整合条件で2高調波を発生させるために、長さ12mmのタイプIのものを用いた。CLBO結晶は、上記の1つ目のものを、150℃の高温下で第4高調波発生のために用いた。これにより生成した紫外レーザー光(266nm)を、150℃に加熱した2つ目のCLBO結晶(Sample)上に集光させた。第4高調波のスポット・サイズはおよそ16μmであった。紫外レーザー光の出力はコンピューター制御された位相差板によって変更可能である。測定は、以下の手順で行った。紫外レーザー光の出力は、最初は損傷閾値よりも十分低い約0.6GW/cmに設定し、透過率が急速に減少するまで連続的に増加させた。なお、閾値は透過率が急速に減少(ブレークダウン)した出力強度として定義する。
【0063】
図19に、150℃に加熱しているCLBO結晶に多パルス照射した際の内部レーザー損傷閾値を測定した結果の一例を示した。CLBO結晶中の異なる5つのポイントの平均内部レーザー損傷閾値は約1.2GW/cmであった。この値は、266nmの単パルス照射に対する閾値(約12GW/cm)より1桁低い値に相当するものであった。
【0064】
CLBO結晶中の水不純物は、100℃以上で数日間加熱することによりあるレベルにまで低減できることが確認できている。そこで、フーリエ変換赤外線(FT-IR)分光計を使用して、先に準備した3つ目のCLBO結晶を150℃で加熱している際の水不純物の量の変化を、水酸化物イオン(OH-)の吸収帯の変化として測定した。CLBO結晶中の水酸化物イオンによる吸収帯が約3400cm-1と3600cm-1に出現するという報告から、吸収スペクトルは3200~3800cm-1の範囲で、また、吸収帯の変化が飽和するまで24時間ごとに測定した。その結果を図20に示した。約3400cm-1と3600cm-1の吸収帯の強度は加熱に伴い徐々に減少し、およそ120時間後にはほぼ飽和することが確認された。
【0065】
これと同じ加熱条件の下、CLBO結晶の内部レーザー損傷閾値を数ポイントで24時間ごとに測定した。その結果を図21に示した。内部レーザー損傷閾値は加熱後徐々に高くなり、約120時間後にほぼ飽和に達した。このときの値は、初期値より約1.35倍高い値にまで達した。さらに図19の紫外レーザー出力が閾値より下の範囲で透過率が徐々に低下している現象は、結晶の過熱時間とともに程度が小さくなることが確認できた。これらの結果から、水酸化物イオン、すなわち水不純物がCLBO結晶の非線形吸収と関係があり、また、CLBO結晶中の水酸化物イオンの除去により、内部レーザー損傷閾値が向上できることが示された。
【0066】
なお、結晶から水酸化物イオンの不純物を除去する方法としては、上記のように結晶を単に加熱する手段に限られずに、ガス置換、真空排気装置を利用したものなどを組合せたりした様々な形態が考慮されてよい。
【0067】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0068】
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、波長変換光学素子等として有用なボレート系結晶を短時間で低コストに簡便に、かつより均一性、信頼性に優れたものとして製造することのできる新しいボレート系結晶の製造方法と 、それらの結晶を波長変換光学素子として用いたレーザー発振装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この出願の発明の方法におけるボレート系結晶の焼結体の製造の工程を例示した概念図である。
【図2】 この出願の発明のボレート系結晶の育成に用いられる円筒型抵抗加熱炉の一実施形態を例示した図である。
【図3】 この出願の発明のボレート系結晶の結晶育成工程の細部を例示した側面図である。
【図4】 (a)従来の育成原料、(b)この出願の発明の育成原料と(c)CBO単結晶のXRD測定の結果を例示したグラフである。
【図5】 この出願の発明の方法により製造されたセシウム・ボレート系結晶の写真に代わる図面である。
【図6】 この出願の発明の方法により製造されたセシウム・ボレート系結晶により波長1064nm光の3倍高調波を発生させる装置を例示した構成図である。
【図7】 この出願の発明の方法により製造されたセシウム・ボレート系結晶により発生させた紫外光の出力を例示したグラフである。
【図8】 従来法による乳鉢混合したCLBO結晶原料のDTAの分析結果を例示した図である。
【図9】 図8のDTA後の試料の粉末X線回折の測定結果を例示した図である。
【図10】 CLBO結晶のX線回折ピークを例示した図である。
【図11】 この出願の発明の方法にかかわる育成原料のDTAの分析結果を例示した図である。
【図12】 図11のDTA後の試料の粉末X線回折の測定結果を例示した図である。
【図13】 紫外レーザー光に対する損傷閾値を測定するための光学系の構成を例示した概略図である。
【図14】 (a)溶融石英、(b)従来法による結晶、(c)この出願の発明の方法による結晶についてレーザー損傷閾値を測定した結果を例示した図である。
【図15】 結晶の育成において融液を攪拌する場合の態様を説明した図である。
【図16】 図15のようにして攪拌した場合の特性測定の結果を例示した図である。
【図17】 CLBO結晶のFT-IR吸収スペクトル法による含有OH基の評価結果を例示した図である。
【図18】 紫外レーザー光に対する内部損傷閾値を測定するための光学系の構成の概略を例示した図である。
【図19】 150℃に加熱しているCLBO結晶に多パルス照射した際の内部レーザー損傷閾値を測定した結果を例示した図である。
【図20】 FT-IR吸収スペクトル法により150℃に加熱しているCLBO結晶の含有OH基を測定した結果を例示した図である。
【図21】 150℃に加熱しているCLBO結晶の内部レーザー損傷閾値の測定結果を例示した図である。
【符号の説明】
1 ポリメチルペンテン製容器
2 イオン交換水
3 坩堝
4 ヒーター
5 円筒型抵抗加熱炉
6 小孔
7 種結晶
8 種結晶保持棒
9 溶融体
10 Nd:YVOレーザー
11 非線形光学結晶
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20