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明細書 :電気伝導性12CaO・7Al2O3化合物とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4245608号 (P4245608)
登録日 平成21年1月16日(2009.1.16)
発行日 平成21年3月25日(2009.3.25)
発明の名称または考案の名称 電気伝導性12CaO・7Al2O3化合物とその製造方法
国際特許分類 C01F   7/16        (2006.01)
H01B   1/08        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI C01F 7/16
H01B 1/08
H01B 13/00 Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2005-510971 (P2005-510971)
出願日 平成16年2月12日(2004.2.12)
国際出願番号 PCT/JP2004/001507
国際公開番号 WO2005/000741
国際公開日 平成17年1月6日(2005.1.6)
優先権出願番号 2003183605
優先日 平成15年6月26日(2003.6.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成17年11月1日(2005.11.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】林 克郎
【氏名】宮川 仁
【氏名】田中 功
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開2003-040697(JP,A)
特開2002-348117(JP,A)
特開2002-003218(JP,A)
特開2004-026608(JP,A)
調査した分野 C01F7/16-7/18
C30B29/22
C04B35/44
H01B1/08
H01B13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
ケージ中に含まれるフリー酸素イオンのうち、1×1018個/cm以上、1.1×1021個/cm未満のフリー酸素イオンを、該酸素イオン1個当り2個の電子で置換した、2×1018個以上、2.2×1021個/cm未満の電子をケージ中に含み、室温の電気伝導率が、10-4S/cm以上、10S/cm未満である事を特徴とする12CaO・7Al化合物。
【請求項2】
ケージ中に含まれるほぼすべてのフリー酸素イオンを、該酸素イオン当り、2個の電子(eと記述。)で置換した事を特徴とする、実質的に[Ca24Al28644+(4e)と記述されるエレクトライド12CaO・7Al化合物。
【請求項3】
ルカリ土類金属蒸気中で、12CaO・7Al単結晶を600℃から800℃の温度範囲に4時間以上240時間未満保持して、フリー酸素イオンを電子で置換することを特徴とする請求項1又は2に記載された化合物の製造方法。
【請求項4】
ルカリ土類金属として、マグネシウム又はカルシウムを用いる事を特徴とする請求項3に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
12CaO・7Al化合物の微粉末の静水圧プレス成形体を還元雰囲気で昇温し、1550℃超、1650℃未満、1分超、2時間未満保持して、融液を室温まで、徐冷して固化することによって、フリー酸素イオンを電子で置換することを特徴とする請求項1又は2に記載された化合物の製造方法。
【請求項6】
元雰囲気が蓋をしたカーボン坩堝中雰囲気であることを特徴とする請求項5に記載の化
合物の製造方法。
【請求項7】
12CaO・7Al化合物薄膜を、500℃以上、1400℃以下の温度に保持して、該化合物薄膜に希ガス(Ar,Kr又はXe)イオンを打ち込み、フリー酸素イオンを電子で置換することを特徴とする請求項1又は2に記載された化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載された化合物を用いる事を特徴とする電子放出材料。
【請求項9】
請求項1又は2に記載された化合物を用いることを特徴とする還元材料。
発明の詳細な説明
【0001】
本発明は、12CaO・7Al化合物(以下C12A7と記す。)に高濃度に電子を導入した化合物、化合物の製造方法と、化合物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年にH.B.Bartlらは、C12A7結晶が2分子を含む単位胞にある66個の酸素のうち2個を、結晶中に存在するケージ内の空間に「フリー酸素イオン」として包接しているという、特異な特徴を持つことを示していた(非特許文献1)。以後、このフリー酸素イオンが種々の陰イオンに置換できることが明らかにされた。
【0003】
本発明者らの一人である細野は、CaCOとAl又はAl(OH)を原料とし、空気中で1200℃の温度で固相反応により合成したC12A7結晶の電子スピン共鳴を測定することで、1×1019個cm-3程度のOが包接されていることを発見し、フリー酸素イオンの一部がOの形でケージ内に存在するというモデルを提案した(非特許文献2)。
【0004】
本発明者らは、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料を、雰囲気と温度を制御した条件下で固相反応させ、1020個cm-3以上の高濃度の活性酸素種を包接するC12A7化合物が得られることを新たに見出した。その化合物自体、その製法、包接イオンの取り出し手段、活性酸素イオンラジカルの同定法、及び該化合物の用途に関する発明について、特許出願した(特許文献1)。
【0005】
また、該化合物中のOHイオンなど酸素以外のアニオン濃度を制御し、700℃付近で、活性酸素を包接させたり、取り出したりする方法を新たに見出し、これに関する発明を特許出願した(特許文献2)。さらに、活性酸素を高濃度に含むC12A7化合物に電場を印加することで、高密度のOイオンビームを取り出せることを見出し、これに関する発明を特許出願した(特許文献3)。
【0006】
また、水中、水分を含む溶媒中、又は水蒸気を含む気体中で水和反応させたC12A7化合物粉末を、酸素雰囲気で焼成することにより、OHイオンを1021個cm-3以上の濃度で含むC12A7化合物を合成し、その化合物自体、その製法、OHイオンの同定法、及び該化合物の応用に関する発明について、特許出願した(特許文献4)。
【0007】
また、水素陰イオンを含むC12A7化合物が高速イオン伝導を示す物質であること、電場の印加によりその水素陰イオンを真空中に引き出せることを見出した。さらには、紫外線又はX線照射により緑色の着色が生じること、同時に電気的絶縁体から電気伝導体に永続的に変化し、加熱又は強い可視光の照射により再び絶縁状態に戻せることも発見し、これの応用に関する発明について特許出願した(特許文献5)。
【0008】
また、C12A7化合物と同等の結晶構造を持つ化合物として、S12A7化合物が知られている(非特許文献3)。本発明者らは、S12A7についてもその合成方法と活性酸素イオンの包接方法、該化合物の応用に関する発明を特許出願した(特許文献6)。
【0009】
さらに、C12A7、S12A7、及びそれらの混晶化合物にアルカリ金属ないしイオンを包接させ、10-6S/cm以上の電気伝導性が得られることを発見し、特許出願した(特許文献7)
【0010】
エレクトライド(Electride)化合物は、J.L.Dyeがはじめて提案した概念(非特許文献4)で、クラウンエーテルを陽イオンとし、電子を陰イオンとした化合物などではじめて実現した。エレクトライドは、陰イオンとして含まれる電子のホッピングにより電気伝導性を示す事が知られている。その後いくつかの有機化合物エレクトライドが見出されたが、これらの化合物は、いずれも、100°K程度以下の低温でのみ安定であり、空気や水と反応する著しく不安定な化合物である。
【0011】
最近、シリカを骨格とするゼオライト化合物粉末に、セシウムをドープすることで無機エレクトライド化合物が見出された。シリカゼオライトにクラウンエーテルのような錯形成の役割を演じさせ、室温安定化を狙ったものである。しかしながら、この化合物も、水分との反応性が高く、化学的に不安定である(非特許文献5)。また、エレクトライド化合物の優れた電子放出特性を用いたダイオードが提案されている(特許文献8)が、これまで得られたエレクトライド化合物が温度及び化学的に不安定なため、提案された真空ダイオードは低温でしか作動しない。
【0012】
【特許文献1】
特願2001-49524(特開2002-3218号公報)
【特許文献2】
特願2001-226843(特開2003-40697号公報)
【特許文献3】
特願2001-377293(WO 03/050037A1)
【特許文献4】
特願2001-117546(特開2002-316867号公報)
【特許文献5】
特願2002-117314(WO 03/089373A1)
【特許文献6】
特願2002-045302(特開2003-238149号公報)
【特許文献7】
特願2002-188561(特開2004-26608号公報)
【特許文献8】
米国特許第5,675,972号 明細書・図面
【非特許文献1】
H.B.Bartl andT.Scheller,Neuses Jarhrb.Mineral,Monatsh.(1970),547
【非特許文献2】
H.Hosono andY.Abe,Inorg.Chem.26,1193,(1987),「材料科学」,第33巻,第4号,p171-172,(1996)
【非特許文献3】
O.Yamaguchi et al.,J.Am.Ceram.Soc.69[2]C-36,(1986)
【非特許文献4】
F.J.Tehan,B.L.Barrett,J.L.Dye,J.Am.Chem.Soc.,96,7203-7208(1974)
【非特許文献5】
A.S.Ichimura,J.L.Dye,M.A.Camblor,L.A.Villaescusa,J.Am.Chem.Soc,124,1170,
(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これまで、CaO、又はSrOとAlの固溶系において、室温で高い電気伝導性(>10-4Scm-1)を有する物質を得ることは困難であった。また、上に述べた水素陰イオンを包接したC12A7、S12A7、又はそれらの混晶化合物では、永続的な電気伝導性を実現するためには、紫外線照射の処理が必要であり、高温にすると、電気伝導率が低下するなどの問題があった。
【0014】
また、アルカリ金属を包接して、電気伝導性を発現する方法は、アルカリ金属ないしイオンを、化合物内部まで、大量に包接させる事が難しく、高い伝導度が得にくいという問題点があった。すなわち、水素イオン及びアルカリ金属イオン包接による方法では、C12A7、S12A7、又はそれらの混晶化合物に含まれるフリー酸素イオンを、高濃度、あるいはフリー酸素イオンのすべてを電子で置換する事はできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、水素陰イオン及びアルカリ金属イオンを包接したC12A7、S12A7、又はそれらの混晶化合物に関する研究から得られた知見を基に研究を重ねた結果、高温のアルカリ金属又はアルカリ土類金属蒸気中に保持されたC12A7の単結晶又は該化合物微粉末の静水圧プレス成形体が、紫外線照射を行わないにも関わらず、黒緑色の着色を生じていること、また同時に、1S/cm以上の高い電気伝導性を有していることを発見した。
【0016】
該化合物の光吸収スペクトル、電子スペクトル及びX線回折スペクトルなどを解析して、C12A7中のほとんどのフリー酸素イオンが引き抜かれ、引きぬかれた各酸素イオン当り2個の電子を該化合物中に残留させている事を見出した。
【0017】
C12A7化合物中に含まれるフリー酸素イオンをすべて電子(eと記述。)で置換した場合は、該化合物は、[Ca24Al28644+(4e)と記述される。該化合物は、[Ca24Al28644+陽イオン、電子を陰イオンとしたエレクトライド化合物とみなす事ができる。
【0018】
また、C12A7化合物微粉末を、好ましくは、静水圧プレスで成形し、還元雰囲気中、好ましくは、蓋をしたカーボン坩堝中で、1600℃程度に保持し、徐冷する事によっても、ほとんど全てのフリー酸素イオンを電子で置換できることを発見した。さらに、500℃以上、1400℃以下の温度、最も好ましくは、600℃に保持したC12A7化合物薄膜に希ガスイオンを打ち込む事によっても、多くのフリー酸素イオンを電子で置換できることを発見した。
【0019】
本発明は、安定な固体材料であるC12A7化合物をアルカリ土類金属蒸気中に高温に保持する処理、カーボン坩堝中に高温に保持して、徐冷する処理、又は昇温した該化合物薄膜への希ガスイオン打ち込みにより、本来は電気的絶縁体であるC12A7化合物を電気伝導体に永続的に変化させる方法を提供する。
【0020】
特に、高温でのアルカリ土類金属蒸気処理法、又は、カーボン坩堝中での高温保持及び徐冷処理法では、ほぼ完全にフリー酸素イオンを引き抜き、電子で置換することができ、熱的、化学的に安定な無機固体エレクトライド化合物を製造することができる。安定な固体エレクトライド化合物は、室温で動作する電子放出材として利用できる。また、電子は強い還元作用を有しており、さらに、フリー酸素イオンを電子で置換した化合物およびエレクトライドは、酸素雰囲気にしたり、酸素を含む化合物と接触させたりした場合、酸素を強く吸収するので、これらの化合物および粉末は、還元材料として応用することができる。
【0021】
さらに、本発明は、該エレクトライド化合物を、酸素、水素、又は窒素雰囲気中で熱処理して、電子を陰イオンで置換し、C12A7化合物に、O、H又はNを選択的かつ大量に包接させる方法を提供する。
すなわち、本発明は、下記のものからなる。
【0022】
(1)ケージ中に含まれるフリー酸素イオンのうち、1×1018個/cm以上、1.1×1021個/cm未満のフリー酸素イオンを、該酸素イオン1個当り2個の電子で置換した、2×1018個以上、2.2×1021個/cm未満の電子をケージ中に含み、室温の電気伝導率が、10-4S/cm以上、10S/cm未満である事を特徴とする12CaO・7Al化合物。
【0023】
(2)ケージ中に含まれるほぼすべてのフリー酸素イオンを、該酸素イオン当り、2個の電子(eと記述。)で置換した事を特徴とする、実質的に[Ca24Al28644+(4e)と記述されるエレクトライド12CaO・7Al化合物。
【0024】
(3)ルカリ土類金属蒸気中で、12CaO・7Al単結晶を600℃から800℃の温度範囲に4時間以上240時間未満保持して、フリー酸素イオンを電子で置換することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された化合物の製造方法。
【0025】
(4)ルカリ土類金属として、マグネシウム又はカルシウムを用いる事を特徴とする上記(3)に記載の化合物の製造方法。
【0026】
(5)12CaO・7Al化合物の微粉末の静水圧プレス成形体を還元雰囲気で昇温し、1550℃超、1650℃未満、1分超、2時間未満保持して、融液を室温まで、徐冷して固化することによって、フリー酸素イオンを電子で置換することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された化合物の製造方法。
【0027】
(6)元雰囲気が蓋をしたカーボン坩堝中雰囲気であることを特徴とする上記(5)に記載の化合物の製造方法。
【0028】
(7)12CaO・7Al化合物薄膜を、500℃以上、1400℃以下の温度に保持して、該化合物薄膜に希ガス(Ar,Kr又はXe)イオンを打ち込み、フリー酸素イオンを電子で置換することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された化合物の製造方法。
【0029】
(8)上記(1)又は(2)に記載された化合物を用いる事を特徴とする電子放出材料。
【0030】
(9)上記(1)又は(2)に記載された化合物を用いることを特徴とする還元材料。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明において出発物質とされるものは、純粋なC12A7化合物でもよいし、処理中にC12A7特有の結晶構造が破壊されない限りは、カルシウムとアルミニウムの一部が他の元素で置換されたC12A7化合物と同等の結晶構造をもつ固溶体でもよい。
【0032】
発物質に最初から包接されている陰イオンの種類や量は、フリー酸素イオンの引き抜き及び電子との置換効果に大きな影響を及ぼさない。さらに、出発物質の形態は、粉末、膜、多結晶体、単結晶のいずれでもよい。
【0033】
出発物質であるC12A7は、カルシウムとアルミニウムを原子当量比で12:14含む原料を用い、焼成温度1200℃以上、1415℃未満で固相反応させることで合成される。代表的な原料は炭酸カルシウムと酸化アルミニウムである。
【0034】
単結晶は、固相反応で得られたC12A7を前駆体として、帯融法(FZ法)によって得ることができる。C12A7単結晶の育成には、棒状のセラミック前駆体に赤外線を集光しながら前駆体棒を引き上げることにより溶融帯を移動させて、溶融帯-凝固部界面に単結晶を連続的に成長させる。本発明者らは、高濃度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC12A7単結晶の製造方法に関する発明について特許出願している(特許文献2;特願2001-226843号、特開2003-40697号公報)。
【0035】
出発物質のC12A7化合物の単結晶を、アルカリ土類金属蒸気を含む雰囲気中、600℃以上、800℃未満の温度、望ましくは700℃の温度に、4時間から240時間保持した後、300℃/時間程度の降温度速度で室温まで冷却する。アルカリ土類金属蒸気を含む雰囲気は、石英ガラスのような熱的、化学的耐久性のある容器中にアルカリ土類金属片や粉末と出発物質を真空封入するとよい。
【0036】
アルカリ金属は、C12A7化合物の単結晶中に包接されることもあるので、フリー酸素イオンを引き抜く目的のためには、包接される事の少ないアルカリ土類金属蒸気を用いる事が望ましく、出発原料中に含まれるカルシウム金属蒸気が最も望ましい。アルカリ土類金属蒸気は、単結晶の表面に堆積し、単結晶内部に包接されているフリー酸素イオンと反応して、例えば、カルシウムを用いた場合は、表面に酸化カルシウム層を形成する。単結晶を保持する温度が600℃未満、特に500℃以下では、フリー酸素イオンの引き抜き反応が著しく遅く、800℃以上では、フリー酸素イオンの引き抜きが急速に進み、C12A7化合物が分解してしまう。
【0037】
保持時間の長さと共に、引き抜かれるフリー酸素イオンの量が増加し、表面の酸化カルシウム層が厚くなる。700℃で、240時間保持するとほぼ全量のフリー酸素イオンが引き抜かれ、電子と置き換わり、酸化カルシウム層の内側にエレクトライドC12A7化合物が形成される。引き抜かれたフリー酸素イオンの量は、X線回折スペクトル、酸化カルシウム層の厚さ、0.4eVにピークを持つ光吸収バンド強度、電気伝導度から求める事ができる。
【0038】
出発物質のC12A7化合物の微粉末を一軸プレスで成形した後、更に、静水圧プレスで追加成形する。静水圧プレスができる様に出発物質が成形されていれば、最初の一軸プレスを省略してもよい。一軸プレスの成形圧は、約200kg/cm以上、約400kg/cm以下、好ましくは、300kg/cm程度とし、静水圧プレスの成形圧は、2000kg/cm程度が好ましい。
【0039】
得られた成形体を、還元雰囲気、好ましくは、蓋付きのカーボン坩堝中に入れ、該坩堝を蓋付きアルミナ坩堝中に設置し、1550℃以上、1650℃未満、好ましくは約1600℃に昇温して、該温度に1分以上、2時間未満、好ましくは1時間保持した後、冷却する。保持温度が上記の範囲より高温では、単相のC12A7化合物を生成する事ができない。また、保持温度が1550℃未満では、単相のC12A7化合物を生成する事はできるが、フリー酸素イオンと電子の置換が起こらない。また、保持時間が、1分未満では、1×1018個/cm未満のフリー酸素イオンしか電子と置換しない。また、2時間以内にほぼ全量のフリー酸素イオンと電子の置換が完了するので、2時間以上保持する必要はない。
【0040】
粉末をこのような圧力で加圧成形することにより、フリー酸素イオンの引き抜き反応の速度が緩和されると考えられ、フリー酸素イオンの引き抜き後もC12A7化合物が得られる。加圧成形せずに微粉末の状態でフリー酸素イオンの引き抜き反応を行うと、生成物は、3CaO・Al相(C3A)又はCaO・Al相(CA)に分解してしまい、これらの相にはケージが存在しないので、電子を包接することができない。
【0041】
昇温速度は400℃/時間程度とする。降温速度は400℃/時間程度で、室温まで冷却する。昇温速度は、生成物に大きな影響を与えず、通常の電気炉では400℃/時間程度が得やすい。昇温速度を500℃/時間以上に著しく早くするためには、大容量の電気炉が必要となる。降温速度が500℃/時間以上と著しく大きいと得られた化合物がガラス状となり結晶化しにくい。
【0042】
カーボン坩堝を直接電気炉中に設置しても生成物は得られるが、電気炉のヒーターからの汚染を防ぐため、さらに、カーボン坩堝の大気との反応を緩和するために、カーボン坩堝を、アルミナ坩堝中に設置した方がよい。得られた化合物は、黒色(粉末は緑色)で、X線回折によりC12A7相であることが分かる。また、約1S/cmの電気伝導度を示し、フリー酸素イオンが電子で置換されている事が確認できる。
【0043】
C12A7化合物の多結晶薄膜は、該化合物の焼結体をターゲットとして、MgO基板上に、パルスレーザー堆積法により、アモルファス膜を形成した後、大気中で約1100℃に保持する事により得られる。
【0044】
MgO基板上に堆積したC12A7化合物の多結晶薄膜を、600℃に保持し、360kV程度に加速したArイオンを該薄膜に打ち込んだ。イオン打ち込み前の薄膜は、電気絶縁性を示す。ドーズ量が5×1017/cmに対して、約1S/cmの電気伝導性が得られる。ラザフォード後方散乱スペクトルから、Arイオンは膜中に含まれていないことが確認される。したがって、Arイオンがフリー酸素イオンに衝突し、ノックオン効果により、フリー酸素イオンが膜外にはじき出され、電気的中性を保つために、電子が膜中に残ったと考えられる。
【0045】
フリー酸素イオンが引き抜かれたエレクトライドC12A7化合物では、電気的中性を保つために、酸素イオン1個当り、2個の電子が化合物中に残される。こうしたフリー酸素イオンと置換した電子は、ケージ中に緩く束縛されており、ケージ間をホッピングして移動する事ができる。フリー酸素イオンの量は、化合物中に1.1×1021個/cm程度含まれているので、その全量を電子で置換した場合、電子濃度は、2.2×1021個/cmとなる。室温での電子の移動度は約0.1cm/(V・秒)であるので、電気抵抗は、約100S/cmとなる。また、ケージ中に緩く束縛された電子により、0.4eV及び2.8eVにピークを持つ2つの光吸収バンドが生じる。このために、電子の包接量の増加と共に、C12A7化合物は、黄色、緑、黒緑色に着色する。また、これらの吸収バンドの強度から、包接されている電子量を求める事ができる。
【0046】
C12A7化合物中に含まれる電子は、ケージ内に緩く束縛されているので、室温で、外部から高電場を印加する事により、外部に取り出す事ができる。すなわち、電子を大量に含むC12A7化合物は、電子放出材料として使用する事ができる。電子放出は広い温度範囲で起こり、室温でも10μA程度の電流が得られる。
【0047】
ほとんど全てのフリー酸素イオンを電子で置換したC12A7化合物では、ケージ中に、電子のみが包接されており、陰イオンは、ほとんど包接されていない。該C12A7化合物を、純粋な特定な気体分子、イオン又はラジカル雰囲気中で、高温に保持すると、該分子、イオン又はラジカルが、C12A7化合物内にとり込まれ、電子と結合して、一価のアニオンとして、ケージ内に包接される。
【0048】
すなわち、上記雰囲気中にエレクトライドC12A7化合物を保持することにより、特定の一価アニオンを高濃度かつ選択的に包接するC12A7化合物を作製する事ができる。特定の気体分子としては、酸素、水素及び窒素が可能で、その結果、O、H又は、Nイオンを大量かつ選択的に包接するC12A7化合物を作製する事ができる。
【0049】
イオンを包接するC12A7化合物は、酸化触媒及びOビーム発生材料などとして応用することができる(特許文献1参照)。Hイオンを包接するC12A7化合物は、紫外線照射により電導パターンの形成、Hビーム発生材料などとして応用することができる(特許文献5参照)。また、Nイオンを包接するC12A7化合物は、窒化触媒としての応用が期待される。
【実施例】
【0050】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0051】
帯融法(FZ法)によって作製したC12A7単結晶を0.4mm×4mm×7mmの薄板に加工し、両面を鏡面研磨した(試料1とする)。該単結晶薄板とカルシウム金属片を、石英管中に入れ、真空封入した。5個の該試料を、700℃で、それぞれ4時間、12時間、18時間、40時間及び240時間保持した(保持時間の異なる結晶薄板をそれぞれ、試料2、3、4、5、及び6とする。)。保持時間が長くなるにつれて、C12A7単結晶薄板は、黄色、緑から黒へと着色したが、表面層は透明であり、該表面層は、X線回折スペクトルから、酸化カルシウムである事が確認された。酸化カルシウム層を除去した結晶薄板は、X線回折パターンから、C12A7の結晶構造を維持していることが分かった。
【0052】
しかし、240時間保持した試料6では、X線回折ピークの相対強度から、フリー酸素イオンが引き抜かれている事が分かった。第1図に、試料1~4の光吸収スペクトルを示す。700℃での保持時間の増加と共に、2.8eVにピークを持つ光吸収バンドの強度が増加している。この吸収バンドは、ケージ内に束縛された電子によるものであり、吸収強度の増加は、保持時間の増加と共に、電子濃度が増加していることを示している。
【0053】
第2図は、試料5、6の拡散反射スペクトルからクベルカームンク法により求めた光吸収スペクトルを示す。2.8eVにピークを持つ光吸収バンドが増大しており、ケージ中に包接された電子濃度がさらに増加していることがわかる。
【0054】
第3図は、試料1~6の電気伝導の温度変化を示したものである。保持時間の増加と共に、室温での電気伝導率が増加しており、ケージ中に包接された電子の濃度が増加していることがわかる。光拡散反射及び電気伝導度から、試料6では、包接される電子の数は、2×1021/cmであり、これは、ほぼ全てのフリー酸素イオンが電子で置換された事を示している。すなわち、カルシウム金属蒸気中に、700℃、240時間保持する事により、[Ca24Al28644+(4e)と記述されるエレクトライドC12A7化合物を作成することができた。
【実施例2】
【0055】
C12A7化合物微粉末を、300kg/cmの一軸加圧で成形後、さらに、2000kg/cmの静水圧プレスにより、追加成形した。2個の該成形体を、それぞれ蓋付きカーボン坩堝に入れ、さらに、蓋付きアルミナ坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で、一方を1550℃まで、他方を1600℃まで昇温させて融液とした後、1時間保持し、400℃/時間の降温速度で室温まで冷却し固化した。
【0056】
得られた固形物は、緻密で、黒緑色を呈しており、1600℃に保持した固形物は、1550℃に保持した固形物よりも、より黒色度が大きかった。1550℃及び1600℃に保持した固形物の電気伝導率は、それぞれ約5S/cm及び約10S/cmであった。X線回折パターンから、両固形物ともC12A7化合物単相であり、固形物の上下方向は、<111>方向に強く配向していた。
【0057】
以上のことから、加圧成形したC12A7微粉末を、カーボン坩堝中で、1550℃又は1600℃で熱処理する事により、C12A7中のフリー酸素イオンを電子で置換する事ができた。特に、1600℃に保持した場合は、ほぼ全てのフリー酸素を電子で置換でき、[Ca24Al28644+(4e)と記述されるエレクトライドC12A7化合物を作成することができた。
比較例1
【0058】
C12A7粉末を3個の試料として、それぞれ蓋付きカーボン坩堝に入れ、さらに、蓋付きアルミナ坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で、それぞれ1480℃、1550℃、及び1600℃まで昇温させた後、一時間保持し、400℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。1480℃に保持した試料は、透明なC12A7で、電気絶縁体であり、フリー酸素イオンと電子の置換は起こらなかった。1550℃及び1600℃に保持した試料は、C3A相とCA相に分解し、C12A7相は得られなかった。
【0059】
以上のことから、微粉末を静水圧プレス加圧成形するプロセスを省略し、[Ca24Al28644+(4e)と記述されるエレクトライドC12A7化合物を粉末原料から直接作成することは試料を1600℃に保持してもできないことが分かった。
【実施例3】
【0060】
MgO基板上に堆積したC12A7化合物薄膜を、600℃の温度に保持し、360kV程度に加速したArイオンを、該薄膜に打ち込んだ。イオン打ち込み前の薄膜は、電気絶縁性を示したが、Arイオン打ち込みドーズ量が5×1017/cmのとき、約1S/cmの電気伝導性が得られた。ラザフォード後方散乱スペクトルから、Arイオンは膜中に含まれていないことが確認された。
【0061】
したがって、Arイオンがフリー酸素イオンに衝突し、ノックオン効果により、フリー酸素イオンが膜外にはじき出され、電気的中性を保つために、電子が膜中に残ったと考えられる。すなわち、高温状態のC12A7薄膜に、Arイオンを打ち込む事により、フリー酸素イオンを電子で置換して、電気伝導性を発現する事ができた。
【実施例4】
【0062】
実施例1により作成したエレクトライドC12A7化合物(試料6)の裏面に白金電極を形成し、もう一方の表面に、表面から0.05mm離れた位置に銅電極を設置し、銅電極をプラス極として、室温で、両電極間に、加速電圧を印加した。第4図に示す様に、加速電圧が3×10V/cm付近から、電流が流れ始めた。すなわち、エレクトライドC12A7化合物は、室温での電子放出材料として機能する事が分かった。なお、電流が流れ始める加速電圧は、試料の表面状態に依存する。
【実施例5】
【0063】
実施例1により作成したエレクトライド化合物(試料6)を石英ガラス板上に直接接触させ、石英管中に真空封入し、800℃に、5分間保持した。石英ガラスのエレクトライドに接触している部分は、茶色に着色した。また、着色部の光電子スペクトルから、1酸化シリコン(SiO)が生成していることがわかった。すなわち、エレクトライドと接触することにより、石英ガラス(SiO)がSiOに還元されており、エレクトライドが低温での還元材料剤として機能することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1図は、実施例1における試料1~4の光吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】第2図は、実施例1における試料5、6の拡散反射スペクトルからクベルカ-ムンク法により求めた光吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】第3図は、実施例1における試料1~6の電気伝導の温度変化を示すグラフである。
【図4】第4図は、実施例1により作成したエレクトライドC12A7化合物の加速電圧と電流の関係を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3