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明細書 :核移行能を有するポリアルギニン修飾リポソーム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4628955号 (P4628955)
登録日 平成22年11月19日(2010.11.19)
発行日 平成23年2月9日(2011.2.9)
発明の名称または考案の名称 核移行能を有するポリアルギニン修飾リポソーム
国際特許分類 A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/42        (2006.01)
A61K  47/44        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 9/127
A61K 47/42
A61K 47/44
A61K 48/00
A61K 37/02
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 11
全頁数 16
出願番号 特願2005-514470 (P2005-514470)
出願日 平成16年10月1日(2004.10.1)
国際出願番号 PCT/JP2004/014500
国際公開番号 WO2005/032593
国際公開日 平成17年4月14日(2005.4.14)
優先権出願番号 2003343857
優先日 平成15年10月1日(2003.10.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年5月11日(2007.5.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】原島 秀吉
【氏名】二木 史朗
【氏名】小暮 健太朗
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
【識別番号】100108833、【弁理士】、【氏名又は名称】早川 裕司
【識別番号】100112830、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 啓靖
審査官 【審査官】清野 千秋
参考文献・文献 国際公開第01/080900(WO,A1)
特開2003-514843(JP,A)
調査した分野 A61K 9/127
A61K 38/00
A61K 47/00
CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
~20個のアルギニン残基のみからなるペプチドを表面に有するリポソームであって、前記ペプチドが、脂質二重層に挿入され得る疎水性基又は疎水性化合物で修飾されており、前記疎水性基が脂質二重層に挿入され、前記ペプチドが脂質二重層から露出しており、前記ペプチドの量が脂質二重層を構成する総脂質に対して2%(モル比)以上であり、脂質二重層がカチオン性脂質を含まないリポソーム。
【請求項2】
前記ペプチドが、6~12個のアルギニン残基のみからなるペブチドである請求項1記載のリポソーム。
【請求項3】
前記ペプチドが、7~10個のアルギニン残基のみからなるペプチドである請求項1又は2記載のリポソーム。
【請求項4】
前記疎水性基が、飽和又は不飽和の脂肪酸基、及びコレステロール基又はその誘導体からなる群より選択され、前記疎水性化合物が、リン脂質、糖脂質、ステロール、長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選択される請求項1から3のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項5】
前記疎水性基がステアリル基である請求項記載のリポソーム。
【請求項6】
細胞内又は核内へ送達しようとする目的物質が封入されている請求項1から5のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項7】
前記目的物質が薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖又はこれらの複合体である請求項記載のリポソーム。
【請求項8】
前記目的物質が核酸であって、前記核酸とポリカチオン性物質との複合体が内部に封入されている請求項6又は7記載のリポソーム。
【請求項9】
前記ポリカチオン性物質がステアリル化ポリアルギニンである請求項記載のリポソーム。
【請求項10】
前記目的物質の細胞内送達用ベクターである請求項6~9のいずれかに記載のリポソーム。
【請求項11】
前記目的物質の核内送達用ベクターである請求項6~9のいずれかに記載のリポソーム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内移行性及び核内移行性を有するリポソーム、並びに該リポソームを利用した目的物質の細胞内及び核内送達用ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖等を標的部位に確実に送達するためのベクターやキャリアーの開発が盛んに行われている。例えば、遺伝子治療においては、目的の遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス等のウイルスベクターが開発されている。しかしながら、ウイルスベクターは、大量生産の困難性、抗原性、毒性等の問題があるため、このような問題点が少ないリポソームベクターやペプチドキャリアーが注目を集めている。リポソームベクターは、その表面に抗体、タンパク質、糖鎖等の機能性分子を導入することにより、標的部位に対する指向性を向上させることができるという利点も有している。
【0003】
リポソームベクターとしては、例えば、ポリアルギニン等の凝集剤と核酸との複合体がカプセル化されたリポソームベクターが開発されている(特許文献1参照)。また、ペプチドキャリアーとしては、膜透過性を有するHIV-1由来Tatタンパク質、ポリアルギニン、アルギニンリッチペプチド等のペプチドキャリアーが開発されている(特許文献2、3参照)。

【特許文献1】特表2002-520038号公報
【特許文献2】特開平10-33186号公報
【特許文献3】特開2001-199997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、細胞内移行性及び核内移行性を有するリポソーム、並びに該リポソームを利用した目的物質の細胞内及び核内送達用ベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のリポソームを提供する。
(1)連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有するリポソーム。
(2)前記ペプチドが連続した4~20個のアルギニン残基を含む前記(1)記載のリポソーム。
(3)前記ペプチドがアルギニン残基のみからなる前記(1)又は(2)記載のリポソーム。
(4)脂質二重層を構成する総脂質に対するカチオン性脂質の割合が0~40%(モル比)である前記(1)~(3)のいずれかに記載のリポソーム。
(5)前記ペプチドが疎水性基又は疎水性化合物で修飾されており、前記疎水性基又は前記疎水性化合物が脂質二重層に挿入され、前記ペプチドが前記脂質二重層から露出している前記(1)~(4)のいずれかに記載のリポソーム。
(6)前記疎水性基がステアリル基である前記(5)記載のリポソーム。
(7)細胞内又は核内へ送達しようとする目的物質が封入されている前記(1)~(6)のいずれかに記載のリポソーム。
(8)前記目的物質が薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖又はこれらの複合体である前記(7)記載のリポソーム。
(9)前記目的物質が核酸であって、前記核酸とポリカチオン性物質との複合体が内部に封入されている前記(8)記載のリポソーム。
(10)前記ポリカチオン性物質がステアリル化ポリアルギニンである前記(9)記載のリポソーム。
(11)前記目的物質の細胞内送達用ベクターである前記(7)~(10)のいずれかに記載のリポソーム。
(12)前記目的物質の核内送達用ベクターである前記(7)~(10)のいずれかに記載のリポソーム。
【発明の効果】
【0006】
本発明のリポソームは、細胞内及び核内へ効率よく移行することができる。
また、本発明のリポソームは、0~40℃という広範な温度域(効果的な温度域は4~37℃)において細胞内移行性及び核内移行性を発揮することができる。
さらに、本発明のリポソームの細胞内移行経路は、エンドサイトーシスにのみ依存するわけではないので、脂質二重層にカチオン性脂質が含まれている必要はなく、カチオン性脂質による細胞毒性を最小限に抑えることができる。
さらに、本発明のリポソームは、アデノウイルスベクターと同等の遺伝子発現活性を、アデノウイルスベクターと異なり細胞毒性を示すことなく発揮することができる。
さらに、本発明のリポソームは、その表面のペプチド量を調節することにより、マクロピノサイトーシスを介して細胞内に移行することができる。マクロピノサイトーシスでは、細胞外物質がマクロピノソームという画分として細胞内に取り込まれ、マクロピノソームはエンドソームと異なりリソソームと融合しないため、マクロピノソーム内封物はリソソームによる分解を回避することができる。したがって、本発明のリポソームがマクロピノサイトーシスを介して細胞内に移行する場合、本発明のリポソームに封入された目的物質を効率よく細胞内又は核内に送達することができる。
さらに、本発明のリポソームが表面に有するペプチド量をコントロールすることにより、本発明のリポソームの細胞内移行経路をコントロールすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリポソームは、脂質二重層膜構造を有する閉鎖小胞である限り、脂質二重層の数は特に限定されるものではなく、多重膜リポソーム(MLV)であってもよいし、SUV(small unilamella vesicle)、LUV(large unilamella vesicle)、GUV(giant unilamella vesicle)等の一枚膜リポソームであってもよい。また、本発明のリポソームのサイズは特に限定されるものではないが、直径50~800nmであることが好ましく、直径80~150nmであることがさらに好ましい。
【0008】
本発明のリポソームにおいて、脂質二重層を構成する脂質の種類は特に限定されるものではなく、その具体例としては、ホスファチジルコリン(例えば、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルグリセロール(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジグリセロール)、ホスファチジルエタノールアミン(例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジエタノールアミン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン等のリン脂質又はこれらの水素添加物;スフィンゴミエリン、ガングリオシド等の糖脂質が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を使用することができる。リン脂質は、卵黄、大豆その他の動植物に由来する天然脂質(例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン等)、合成脂質又は半合成脂質のいずれであってもよい。
【0009】
脂質二重層には、脂質二重層を物理的又は化学的に安定させたり、膜の流動性を調節したりするために、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロール等の微生物由来のステロール;グリセロール、シュクロース等の糖類;トリオレイン、トリオクタノイン等のグリセリン脂肪酸エステルのうち、1種又は2種以上を含有させることができる。その含有量は特に限定されるものでないが、脂質二重層を構成する総脂質に対して5~40%(モル比)であることが好ましく、10~30%(モル比)であることがさらに好ましい。
【0010】
脂質二重層には、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシトルエン等の抗酸化剤;ステアリルアミン、オレイルアミン等の正荷電を付与する荷電物質;ジセチルホスフェート等の負電荷を付与する荷電物質;膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質等の膜タンパク質を含有させることができ、その含有量は適宜調節することができる。
【0011】
本発明のリポソームは、連続した複数個のアルギニン残基を含むペプチドを表面に有する。なお、一枚膜リポソームについては脂質二重層の外表面がリポソームの表面であり、多重膜リポソームについては最外層の脂質二重層の外表面がリポソームの表面である。また、本発明のリポソームは、表面以外の部分(例えば、脂質二重層の内表面)に上記ペプチドを有していてもよい。
【0012】
上記ペプチドにおける連続したアルギニン残基の個数は複数個である限り特に限定されるものではないが、通常4~20個、好ましくは6~12個、さらに好ましくは7~10個である。上記ペプチド全体を構成するアミノ酸残基の個数は特に限定されるものではないが、通常4~35個、好ましくは6~30個、さらに好ましくは8~23個である。上記ペプチドは、連続した複数個のアルギニン残基のC末端及び/又はN末端に任意のアミノ酸配列を含むことができるが、アルギニン残基のみからなることが好ましい。
【0013】
連続した複数個のアルギニン残基のC末端又はN末端に付加されるアミノ酸配列は、剛直性を有するアミノ酸配列(例えば、ポリプロリン)であることが好ましい。ポリプロリンは、柔らかくて不規則な形をとっているポリエチレングリコール(PEG)と異なり、直線的で、ある程度の堅さを保持している。また、当該アミノ酸配列に含まれるアミノ酸残基は酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基であることが好ましい。負電荷を有する酸性アミノ酸残基が、正電荷を有するアルギニン残基と静電的に相互作用し、アルギニン残基の効果を減弱させる可能性があるためである。
【0014】
本発明のリポソームの表面に存在する上記ペプチドの量は、脂質二重層を構成する総脂質に対して通常0.1~30%(モル比)、好ましくは1~25%(モル比)、さらに好ましくは2~20%(モル比)である。本発明のリポソームの表面に存在する上記ペプチドの量が、脂質二重層を構成する総脂質に対して2%(モル比)未満、好ましくは1.5%(モル比)未満、さらに好ましくは1%(モル比)未満であると、本発明のリポソームは、主にエンドサイトーシスを介して細胞内又は核内へ移行することができる。このときの上記ペプチドの量の下限値は、脂質二重層を構成する総脂質に対して通常0.1%(モル比)、好ましくは0.5%(モル比)、さらに好ましくは0.7%(モル比)である。本発明のリポソームの表面に存在する上記ペプチドの量が、脂質二重層を構成する総脂質に対して2%(モル比)以上、好ましくは3%(モル比)以上、さらに好ましくは4%(モル比)以上であると、本発明のリポソームは、主にマクロピノサイトーシスを介して細胞内又は核内へ移行することができる。このときの上記ペプチド量の上限値は、脂質二重層を構成する総脂質に対して通常30%(モル比)、好ましくは25%(モル比)、さらに好ましくは20%(モル比)である。マクロピノサイトーシスでは、細胞外物質がマクロピノソームという画分として細胞内に取り込まれ、マクロピノソームはエンドソームと異なりリソソームと融合しないため、マクロピノソーム内封物はリソソームによる分解を回避することができる。したがって、本発明のリポソームがマクロピノサイトーシスを介して細胞内に移行する場合、本発明のリポソームに封入された目的物質を効率よく細胞内又は核内に送達することができる。
【0015】
本発明のリポソームは、その表面の上記ペプチドを介して細胞内又は核内へ移行することができる。リポソームの細胞内移行経路がエンドサイトーシスに依存する場合、脂質二重層はその主要成分としてカチオン性脂質を含む必要があるが、本発明のリポソームの細胞内移行経路は、エンドサイトーシスにのみ依存するわけではないので、脂質二重層にカチオン性脂質が含まれている必要はない。すなわち、本発明のリポソームの脂質二重層は、カチオン性脂質及び非カチオン性脂質のいずれか一方で構成されていてもよいし、両方で構成されていてもよい。但し、カチオン性脂質は細胞毒性を有するので、本発明のリポソームの細胞毒性を低減させる点からは、脂質二重層に含まれるカチオン性脂質の量を出来る限り少なくすることが好ましく、脂質二重層を構成する総脂質に対するカチオン性脂質の割合は0~40%(モル比)であることが好ましく、0~20%(モル比)であることがさらに好ましい。
【0016】
カチオン性脂質としては、例えば、DODAC(dioctadecyldimethylammonium chloride)、DOTMA(N-(2,3-dioleyloxy)propyl-N,N,N-trimethylammonium)、DDAB(didodecylammonium bromide)、DOTAP(1,2-dioleoyloxy-3-trimethylammonio propane)、DC-Chol(3β-N-(N',N',-dimethyl-aminoethane)-carbamol cholesterol)、DMRIE(1,2-dimyristoyloxypropyl-3-dimethylhydroxyethyl ammonium)、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminum trifluoroacetate)等が挙げられる。
【0017】
「非カチオン性脂質」とは、中性脂質又はアニオン性脂質を意味し、中性脂質としては、例えば、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、セレブロシド等が挙げられ、アニオン性脂質としては、例えば、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N-スクシニルホスファチジルエタノールアミン(N-スクシニルPE)、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエチレングリコール、コレステロールコハク酸等が挙げられる。
【0018】
本発明のリポソームの好ましい態様として、上記ペプチドが疎水性基又は疎水性化合物で修飾されており、疎水性基又は疎水性化合物が脂質二重層に挿入され、上記ペプチドが脂質二重層から露出しているリポソームを例示することができる。なお、本態様において、「ペプチドが脂質二重層から露出している」には、ペプチドが脂質二重層の外表面又は内表面のいずれか一方から露出している場合、両方から露出している場合が含まれる。
【0019】
疎水性基又は疎水性化合物は、脂質二重層に挿入され得る限り特に限定されるものでない。疎水性基としては、例えば、ステアリル基等の飽和又は不飽和の脂肪酸基、コレステロール基又はその誘導体等が挙げられるが、これらのうち特に炭素数10~20の脂肪酸基(例えば、パルミトイル基、オレイル基、ステアリル基、アラキドイル基等)が好ましい。また、疎水性化合物としては、例えば、上記に例示したリン脂質、糖脂質又はステロール、長鎖脂肪族アルコール(例えば、フォスファチジルエタノールアミン、コレステロール等)、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0020】
本発明のリポソームは、例えば、水和法、超音波処理法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、界面活性剤法、凍結・融解法等の公知の方法を用いて作製することができる。
【0021】
水和法によるリポソームの製造例を以下に示す。
脂質二重層の構成成分である脂質と、疎水性基又は疎水性化合物で修飾された上記ペプチドとを有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得る。この際、有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール等の低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン等のケトン類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。次いで、脂質膜を水和させ、攪拌又は超音波処理することにより、上記ペプチドを表面に有するリポソームを製造することができる。
【0022】
また、水和法による別の製造例を以下に示す。
脂質二重層の構成成分である脂質を有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより脂質膜を得、この脂質膜を水和させ、攪拌又は超音波処理することによりリポソームを製造する。次いで、このリポソームの外液に、疎水性基又は疎水性化合物で修飾された上記ペプチドを添加することにより、リポソームの表面に上記ペプチドを導入することができる。
【0023】
リポソームを所定のポアサイズのフィルターで通過させることにより、一定の粒度分布を持ったリポソームを得ることができる。また、公知の方法に従って、多重膜リポソームから一枚膜リポソームへの転換、一枚膜リポソームから多重膜リポソームへの転換を行うことができる。
【0024】
本発明のリポソームの内部には、細胞内又は核内に送達しようとする目的物質を封入することができる。
目的物質の種類は特に限定されるものではなく、例えば、薬物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖又はこれらの複合体等が挙げられ、診断、治療等の目的に応じて適宜選択することができる。なお、「核酸」には、DNA又はRNAに加え、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)が含まれる。また、核酸は一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよいし、線状又は環状のいずれであってもよい。
【0025】
目的物質が水溶性である場合には、リポソームの製造にあたり脂質膜を水和する際に使用される水性溶媒に目的物質を添加することにより、リポソーム内部の水相に目的物質を封入することができる。また、目的物質が脂溶性である場合には、リポソームの製造にあたり使用される有機溶剤に目的物質を添加することにより、リポソームの脂質二重層に目的物質を封入することができる。
【0026】
目的物質が核酸である場合、封入すべき核酸を予めカチオン性物質と複合体化させておくことが好ましい。核酸とカチオン性物質との複合体の存在下、脂質膜を水和し、次いで攪拌又は超音波処理することにより、核酸とカチオン性物質との複合体が封入されたリポソームを簡便かつ効率よく製造することができる。
【0027】
「カチオン性物質」とは、その分子中にカチオン性基を有する物質を意味し、静電的相互作用により核酸と複合体を形成することができる。カチオン性物質の種類は核酸と複合体を形成し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、カチオン性脂質(例えば、Lipofectamine(Invitrogen社製));カチオン性基を有する高分子;ポリリジン、ポリアルギニン、リジンとアルギニンの共重合体等の塩基性アミノ酸の単独重合体若しくは共重合体又はこれらの誘導体(例えばステアリル化誘導体);ポリエチレンイミン等のポリカチオン性ポリマー;硫酸プロタミン等が挙げられるが、これらのうち特にステアリル化ポリアルギニンが好ましい。ポリアルギニンを構成するアルギニン残基の数は通常4~20個であり、好ましくは6~12個、さらに好ましくは7~10個である。カチオン性物質が有するカチオン性基の数は特に限定されるものではないが、好ましくは2個以上である。カチオン性基は正に荷電し得る限り特に限定されるものではなく、例えば、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基等のモノアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;イミノ基;グアニジノ基等が挙げられる。
【0028】
核酸とカチオン性物質との複合体は、その構成比率によって全体としてプラス電荷又はマイナス電荷を帯びているので、非カチオン性脂質又はカチオン性脂質との静電的相互作用により、リポソーム内部に上記複合体を効率よく封入することができる。
【0029】
脂質二重層の構成成分である脂質と、疎水性基又は疎水性化合物で修飾された上記ペプチドとを有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより得られる脂質膜は、カチオン性物質である上記ペプチドを含有しているので、その組成によっては上記複合体と脂質膜との静電的相互作用が弱くなる場合がある。そのような場合には、上記ペプチドを含有しない脂質膜を使用することが好ましい。上記ペプチドを含有しない脂質膜は、疎水性基又は疎水性化合物で修飾された上記ペプチドを有機溶剤に溶解することなく、脂質二重層の構成成分である脂質を有機溶剤に溶解した後、有機溶剤を蒸発除去することにより得られる。リポソーム表面への上記ペプチドの導入は、上記複合体が封入されたリポソームの形成の後に行われる。
【0030】
目的物質を封入したリポソームは、目的物質の細胞内送達用ベクター又は核内送達用ベクターとして使用することができる。
目的物質を送達すべき細胞が由来する生物種は特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物等のいずれであってもよいが、動物であることが好ましく、哺乳動物であることがさらに好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、モルモット等が挙げられる。また、目的物質を送達すべき細胞の種類は特に限定されるものではなく、例えば、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等が挙げられる。
【0031】
本発明のリポソームは、例えば、分散液の状態で使用することができる。分散溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液,クエン緩衝液,酢酸緩衝液等の緩衝液を使用することができる。分散液には、例えば、糖類、多価アルコール、水溶性高分子、非イオン界面活性剤、抗酸化剤、pH調節剤、水和促進剤等の添加剤を添加して使用してもよい。
【0032】
本発明のリポソームは、分散液を乾燥(例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥等)させた状態で使用することもできる。乾燥させたリポソームは、生理食塩水、リン酸緩衝液,クエン緩衝液,酢酸緩衝液等の緩衝液を加えて分散液とすることができる。
【0033】
本発明のリポソームは、in vivo及びin vitroのいずれにおいても使用することもできる。本発明のリポソームをin vivoにおいて使用する場合、投与経路としては、例えば、静脈、腹腔内、皮下、経鼻等の非経口投与が挙げられ、投与量及び投与回数は、リポソームに封入された目的物質の種類や量等に応じて適宜調節することができる。本発明のリポソームは、0~40℃という広範な温度域(効果的な温度域は4~37℃)において細胞内移行性及び核内移行性を発揮することができるので、目的に応じた温度条件を設定することができる。低温(通常4~10℃、好ましくは4~6℃)において細胞内移行性及び核内移行性を効果的に発揮するためには、本発明のリポソームがエンドサイトーシスを介さずに細胞内又は核内へ移行することが必要である。本発明のリポソームの表面に存在する上記ペプチドの量が、脂質二重層を構成する総脂質に対して2%(モル比)以上、好ましくは3%(モル比)以上、さらに好ましくは4%(モル比)以上であると、本発明のリポソームは、低温(通常4~10℃、好ましくは4~6℃)において細胞内移行性及び核内移行性を効果的に発揮することができる。このときの上記ペプチド量の上限値は、脂質二重層を構成する総脂質に対して通常30%(モル比)、好ましくは25%(モル比)、さらに好ましくは20%(モル比)である。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕細胞内移行能及び核内移行能を有するリポソームの作製
以下のように、オクタアルギニンを表面に有するリポソームを水和法により調製した。ステアリル化オクタアルギニン0.75mgをエタノール9.0mLに溶解させる一方、卵黄ホスファチジルコリン5.02mg及びコレステロール1.1mgをクロロホルム21mLに溶解させた。両溶解液を混合し、丸底フラスコに収容した(最終クロロホルム:エタノール比=7:3)。回転エバポレーターにより溶媒を除去した後、デシケーター内に2時間収納して乾燥させた。得られた脂質膜(10μモル)を、予め50℃まで温めておいた1mLリン酸緩衝化生理食塩水を用いて水和させ、5秒間攪拌した。脂質分散液を、400nm、200nm又は100nmのポリカーボネートメンブレンフィルターにそれぞれ11回ずつ通過させた。これにより、オクタアルギニン(総脂質の5モル%)を表面に有するリポソームが形成された。
【0035】
リポソームの蛍光標識は、1%ローダミン(Rho)又は1%ローダミン標識フォスファチジルエタノールアミン(Rho-PE)(赤色)を取り込ませることにより行った。この際、水相マーカーとしてのRhoは水和する溶媒中に溶かし,脂質マーカーとしてのRho-PEはクロロホルム溶液に溶かした。
【0036】
共焦点レーザー顕微鏡による観察の下、NIH3T3細胞(2.5×10細胞/60mmディッシュ)を10%FBS含有DMEM中で一晩インキュベートした。次いで、NIH3T3細胞を、蛍光標識リポソーム(最終脂質濃度0.1μM)を含有する血清不含DMEM培養液中でインキュベートした。インキュベーションは、37℃又は4℃で1時間又は3時間行った。4℃の場合、細胞を4℃で30分間プレインキュベートし、観察するまでこの温度に維持した。インキュベーション終了時に細胞を洗浄し、その後、固定することなく共焦点レーザー顕微鏡により観察した。細胞核は、蛍光色素SYTO24(緑色)を用いて染色した。
【0037】
共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を図1に示す。図1中、左図は37℃の結果を示し、右図は4℃の結果を示す。「R8-Lip」は、オクタアルギニンを表面に有するリポソームの存在位置を表し(黒線で囲まれた小さな白色部分)、「Nucleus」は、核の存在位置を表す(大きな白色部分)。
【0038】
図1に示すように、両温度において、ほとんど全ての細胞の細胞質内及び核内でリポソームが観察された。なお、LipofectAMINE試薬(Invitrogen社製)等の従来のトランスフェクション剤では、全細胞のうち30~50%程度がトランスフェクションされるにすぎない。また、4℃でインキュベートした細胞の場合に検出された細胞内蛍光は、37℃でインキュベートした細胞の場合に検出された細胞内蛍光の約70%であった。
これらの結果から、オクタアルギニンを表面に有するリポソームが細胞内移行性及び核内移行性を有し、37℃はもちろん、4℃という低温でも細胞内及び核内に移行できることが判明した。
【0039】
〔実施例2〕リポソームによる細胞内への遺伝子送達
ルシフェラーゼ遺伝子及びその上流にCMVプロモーターを有する全長8454bpのプラスミド(CMVプロモーターを有するpQBIプラスミドにルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだもの)8μg及びステアリル化アルギニン16μgを10mM HEPESバッファー中で攪拌して混合することにより、上記プラスミドとステアリル化アルギニンとの複合体を調製した。
ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン0.672mg及びコレステロールコハク酸0.096mgをクロロホルム1mLに溶解させて得られた溶解液のうち125μLをガラス試験管に分取し、窒素ガスを吹き付けて蒸発乾固させ、脂質膜を形成させた。
【0040】
上記複合体含有液250μLを脂質膜に添加し、室温で10分間放置することによって水和させた。水和後、超音波槽で超音波処理(数秒間)することにより、上記複合体が封入されたリポソームを調製した。リポソームの外液に1mg/mL ステアリル化オクタアルギニン溶液12μLを添加し、室温で30分間放置することにより、リポソームの表面にオクタアルギニン(総脂質の5モル%)を導入した。
【0041】
(i)上記プラスミドとステアリル化アルギニンの複合体12.5μL(DNA 0.4μg相当)、
(ii)上記複合体が封入され、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソーム12.5μL(DNA 0.4μg相当)、又は
(iii)現在最も強力な遺伝子導入試薬として知られているLipofectAMINE PLUS試薬(Invitrogen社製)、PLUS試薬4μL、上記プラスミド(DNA 0.4μg相当)及びLipofectAMINE試薬1μL
を、NIH3T3細胞4×10個に添加し、血清非存在下、37℃で3時間培養した。さらに、血清存在下、37℃で45時間培養した後、ルシフェラーゼ発現活性(RLU/mg タンパク質)を比較した。ルシフェラーゼ発現活性は、細胞溶解液にルシフェラーゼ活性測定試薬(luciferase assay system, Promega社製)を加え、ルミノメーターにより化学発光量を計測することにより測定した。
【0042】
ルシフェラーゼ発現活性の測定結果を図2に示す。図2中、「DNA複合体」は上記(i)、「R8リポソーム」は上記(ii)、「LipofectAMIN PLUS試薬」は上記(iii)に該当する。
図2に示すように、上記プラスミドとステアリル化アルギニンの複合体は、血清中の分解酵素等の影響を受けたため、ルシフェラーゼ発現活性が最も低かった。LipofectAMINE PLUS試薬は、最も高いルシフェラーゼ発現活性を示した(約1×1010 RLU/mg タンパク質)が、細胞毒性も認められた。上記複合体が封入され、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソームは、LipofectAMINE PLUS試薬に近い活性(約1×108 RLU/mg タンパク質)を示したが、細胞毒性は認められなかった。なお、細胞毒性については実施例3で詳細に検討した。
これらの結果から、オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームに遺伝子を封入することにより、遺伝子を細胞内及び核内に効率よく送達できることが判明した。
【0043】
〔実施例3〕リポソームの細胞毒性の評価
生細胞内ミトコンドリアによるホルマザン色素生成を利用した細胞生存率測定法(MTTアッセイ)によって、実施例2(i)、(ii)及び(iii)の細胞毒性を比較・検討した。
具体的には、実施例2と同様の条件、すなわちDNA0.4μg相当の試料を4×10個のNIH3T3細胞に暴露し、37℃で48時間恒温処理した後、MTTアッセイにより細胞生存率(%)を求めた。また、コントロールとして、上記プラスミドのみで処理した場合の細胞生存率(%)も同様に測定した。
【0044】
細胞生存率(%)の測定結果を図3に示す。図3に示すように、上記プラスミドとステアリル化アルギニンの複合体(実施例2(i),図3中「カチオン/DNA複合体」)及び上記複合体が封入され、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソーム(実施例2(ii),図3中「R8修飾リポソーム封入カチオン/DNA複合体」)で処理した細胞の生存率は若干低下したが、有意では無かった。ところが、LipofectAMINE PLUS試薬(実施例2(iii),図3中「リポフェクトアミン/DNA」)で処理した細胞の細胞生存率は約50%程度の有意な低下が観察された。
これらの結果から、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソームは細胞毒性が低いことが明らかになった。
【0045】
〔実施例4〕リポソームの細胞内移行経路の検討
NIH3T3細胞を、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソーム(ステアリル化オクタアルギニン含有量は総脂質の5モル%)の存在下(最終脂質濃度0.1mM)、インキュベートした。インキュベートは、スクロース(0.31M)(高張液)、エンドサイトーシス阻害剤の混合物(1μg/mL アンチマイシンA、10mM NaF及び0.1% アジ化ナトリウム)又はニスタチン(25μg/mL)の存在下、37℃又は4℃で1時間実施した。NIH3T3細胞は、リポソームを添加する前に、エンドサイトーシス阻害剤の混合物の存在下で30分間プレインキュベートした。インキュベーション終了時に、溶媒を除去し、NIH3T3細胞を3回洗浄し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。
各場合において、蛍光が観察される細胞内領域面積を少なくとも15細胞について合計し、その平均値を求め、コントロール細胞の平均値に対する割合を算出した。その結果を図4に示す。なお、図4中、「低温」は4℃における結果、「高張液」、「エンドサイトーシス阻害剤」及び「ニスタチン」は37℃における結果である。
【0046】
図4に示すように、蛍光が観察される細胞内領域面積について、エンドサイトーシス阻害剤で処理しても有意な低下は観察されなかった。このことから、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソームの細胞内移行経路は、エンドサイトーシスにのみ依存するわけではないことが判明した。
【0047】
〔実施例5〕アデノウイルスベクターとの比較
実施例2と同様にして、ルシフェラーゼ遺伝子及びその上流にCMVプロモーターを有するプラスミドとステアリル化アルギニンとの複合体が封入され、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソーム(図5中「R8リポソーム」と表す。)を調製し、このリポソーム(DNA 0.4μg相当)を懸濁した0.25mLの血清不含DMEM培地を、24ウェルプレートで培養したHeLa細胞又はA549細胞(各4×10細胞/ウェル)に添加し、37℃で3時間インキュベートした。3時間後、10%ウシ胎児血清を含む培地1mLを添加し、さらに45時間インキュベートした。その後、細胞を溶解し、細胞溶解液にルシフェラーゼ活性測定試薬(luciferase assay system, Promega社製)を加え、ルシフェラーゼ活性をルミノメーター(LuminescencerPSN、ATTO)を用いて測定した。細胞溶解液中のタンパク質量はBCAタンパク質定量キット(PIERCE、ロックフォード(IL))を使用して測定した。対照として、リポソームに封入されていない上記プラスミドとステアリル化アルギニンとの複合体(DNA 0.4μg相当)(図5中「DNA複合体」と表す。)を用いて、上記と同様にルシフェラーゼ活性及びタンパク質量を測定した。
【0048】
一方、ルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだアデノウイルス(E1-、E3-及び複製能力を欠損させ、E1遺伝子の位置にサイトメガロウイルス・プロモーター/エンハンサー及びルシフェラーゼ遺伝子を含む5型アデノウイルス)を作製した。アデノウイルスは、ヒト胚腎臓細胞HEK293を用いて増幅し、塩化セシウム勾配遠心法によって精製した。アデノウイルス懸濁液(5×10粒子/細胞又は1×10粒子/細胞)を、24ウェルプレートで培養したHeLa細胞又はA549細胞(各4×10細胞/ウェル)に添加し、血清を含まない培地0.25mL中、37℃で3時間インキュベートした。その後、10%ウシ胎児血清培地1mLを添加し、45時間インキュベートした。インキュベート後、上記と同様にルシフェラーゼ活性及びタンパク質量を測定した。
【0049】
ルシフェラーゼ活性(RLU/mgタンパク質)の測定結果を図5に示す。図5(A)は、HeLa細胞を用いた場合の結果であり、図5(B)は、A549細胞を用いた場合の結果である。
【0050】
5×10粒子/細胞というアデノウイルス濃度は、通常の報告でよく用いられる濃度であり、1×10粒子/細胞というアデノウイルス濃度は、より高いルシフェラーゼ活性を得るために、敢えて増量したものである。アデノウイルスは非常に強い細胞毒性を示すため、アデノウイルス濃度を1×10粒子/細胞以上に増加させることはできなかった。
【0051】
図5に示すように、プラスミドとステアリル化アルギニンとの複合体が封入され、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソームは、アデノウイルス濃度が1×10粒子/細胞である場合とほぼ同程度のルシフェラーゼ活性を示したが、細胞毒性は認められなかった。これらの結果から、オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームは、アデノウイルスベクターと同等の遺伝子発現活性を、アデノウイルスベクターと異なり細胞毒性を示すことなく発揮できることが判明した。
【0052】
〔実施例6〕リポソームの細胞内移行経路の検討
NIH3T3細胞をエンドサイトーシス阻害剤であるショ糖(0.4M)又はマクロピノサイトーシス阻害剤であるアミロリド(Amiloride)(2.5mM)で10分間前処理した後に、ルシフェラーゼ遺伝子及びその上流にCMVプロモーターを有するプラスミドとステアリル化アルギニンとの複合体が封入され、表面にオクタアルギニンが導入されたリポソーム(実施例2参照)(DNA 0.4μg相当)を添加して、1時間インキュベートした。その後、培地を除去し、20U/mLヘパリン含有PBSで3回洗浄し、さらにPBSで1回洗浄した。洗浄後、血清不含培地で70分間インキュベートした後、さらに10%ウシ胎児血清を含む培地を1mL添加して12時間インキュベートした。12時間インキュベート後、実施例5と同様にルシフェラーゼ活性を測定した。コントロールとして、エンドサイトーシス阻害剤であるショ糖及びマクロピノサイトーシス阻害剤であるアミロリド(Amiloride)で前処理していないNIH3T3細胞を用いた。
【0053】
結果を図6に示す。
図6に示すように、エンドサイトーシス阻害剤であるショ糖で細胞を前処理した場合、顕著な影響は観察されなかったが、マクロピノサイトーシス阻害剤であるアミロリド(Amiloride)で細胞を前処理した場合、ルシフェラーゼ活性の顕著な低下が観察された。
【0054】
マクロピノサイトーシスでは、細胞外物質がマクロピノソームという画分として細胞内に取り込まれ、マクロピノソームはエンドソームと異なりリソソームと融合しないため、マクロピノソーム内封物はリソソームによる分解を回避できると考えられる。このことから、オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームの細胞内移行経路は、マクロピノサイトーシスを介することが示唆された。
【0055】
〔実施例7〕リポソームの細胞内移行経路の検討
NIH3T3細胞を、エネルギー代謝阻害剤(Metabolic inhibitors:アジ化ナトリウム0.1%、フッ化ナトリウム10mM及びアンチマイシンA 1μg/mLを含む)又はエンドサイトーシス阻害剤であるショ糖(0.4M)共存下37℃で30分間、あるいはマクロピノサイトーシス阻害剤であるアミロリド(Amiloride)(5mM)共存下37℃で10分間、あるいは阻害剤非共存下4℃で30分間インキュベートした後、オクタアルギニンが表面に導入され、ローダミン色素が内水相に封入されたリポソーム(オクタアルギニン含有量は総脂質の0.8モル%又は5モル%)を添加し、1時間インキュベートした。その後、細胞を20U/mLヘパリンを含むPBSで洗浄し、さらにトリプシン処理後、遠心分離し、再びヘパリン含有PBSで2回洗浄した。洗浄済み細胞をナイロン・メッシュによってろ過したものをフローサイトメーター(FACScan、ベクトン・ディキンソン)によって解析した。なお、コントロールとして、阻害剤非共存下37℃で30分間インキュベーションした細胞を用い、コントロールにおける細胞内取込量を100%として、各場合における細胞内取込量(%)を評価した。
【0056】
結果を図7に示す。
図7に示すように、オクタアルギニン含有量が総脂質の0.8モル%である場合、エネルギー代謝阻害剤共存下、エンドサイトーシス阻害剤であるショ糖共存下、及び低温(4℃)下で細胞内取込量が顕著に阻害された。一方、オクタアルギニン含有量が総脂質の5モル%である場合、エネルギー代謝阻害剤共存下、及びマクロピノサイトーシス阻害剤であるアミロリド共存下で細胞内取込量が顕著に阻害された。
【0057】
これらの結果から、(1)オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームは、オクタアルギニン含有量に関わらず、エネルギーを必要とする経路で細胞内に取り込まれること、(2)オクタアルギニン含有量が総脂質の0.8モル%である場合、オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームは、エンドサイトーシスを介して細胞内に取り込まれること、(3)オクタアルギニン含有量が総脂質の5モル%である場合、オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームは、マクロピノサイトーシスを介して細胞内に取り込まれること、(4)低温(4℃)における細胞内への取り込みは、オクタアルギニン含有量が少ないときには誘導されないこと、が示唆された。すなわち、オクタアルギニン含有量をコントロールすることにより、オクタアルギニンが表面に導入されたリポソームの細胞内移行経路をコントロールできることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】蛍光標識リポソームとともにインキュベートとした細胞の共焦点レーザー顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図2】各種条件おけるルシフェラーゼ発現活性の測定結果を示す図である。
【図3】各種条件における細胞生存率(%)の測定結果を示す図である。
【図4】各種条件において蛍光が観察される細胞内領域面積を比較した結果を示す図である。
【図5】各種条件おけるルシフェラーゼ発現活性の測定結果を示す図である。
【図6】各種条件おけるルシフェラーゼ発現活性の測定結果を示す図である。
【図7】各種条件におけるリポソーム細胞内取込量の測定結果を示す図である。
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図1】
6