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明細書 :強磁性ドットのコア回転素子及び強磁性ドットのコア利用情報記憶素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4803681号 (P4803681)
登録日 平成23年8月19日(2011.8.19)
発行日 平成23年10月26日(2011.10.26)
発明の名称または考案の名称 強磁性ドットのコア回転素子及び強磁性ドットのコア利用情報記憶素子
国際特許分類 H01L  29/82        (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
FI H01L 29/82 Z
H01L 43/08 Z
H01L 43/08 U
H01L 27/10 447
請求項の数または発明の数 15
全頁数 24
出願番号 特願2008-504984 (P2008-504984)
出願日 平成19年3月1日(2007.3.1)
国際出願番号 PCT/JP2007/000154
国際公開番号 WO2007/105358
国際公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
優先権出願番号 2006056174
2006211432
優先日 平成18年3月2日(2006.3.2)
平成18年8月2日(2006.8.2)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成22年2月2日(2010.2.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
発明者または考案者 【氏名】小野 輝男
【氏名】葛西 伸哉
【氏名】小林 研介
【氏名】仲谷 栄伸
【氏名】河野 浩
【氏名】多々良 源
個別代理人の代理人 【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
審査官 【審査官】山田 正文
参考文献・文献 特開2002-374019(JP,A)
特開2004-363350(JP,A)
特表2005-535115(JP,A)
特表2009-508353(JP,A)
調査した分野 H01L 29/82
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 43/08
特許請求の範囲 【請求項1】
円盤形状の強磁性体から成り、磁気構造が磁気渦構造を取る強磁性ドットと、
該強磁性ドットの径方向に、該強磁性ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流を供給する電流供給部と、
を備えることを特徴とする強磁性ドットのコア回転素子。
【請求項2】
前記強磁性ドットが、平面形状が直径50μm以下の略円形であって厚みが1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の強磁性ドットのコア回転素子。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかに記載の強磁性ドットのコア回転素子におけるコアの漏れ磁場を利用したアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1~2のいずれかに記載の強磁性ドットのコア回転素子の強磁性ドット上に絶縁体を設け、該絶縁体上の所定の一部領域上に磁性材料を設けて成るTMR素子。
【請求項5】
請求項4に記載のTMR素子を用いて成り、所定の周波数において電圧を増幅するトランジスタ。
【請求項6】
円盤形状の強磁性体から成り、磁気構造が磁気渦構造を取る強磁性ドットと、
強磁性ドットの径方向に、該強磁性ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流を供給する第一電流供給部と、
該第一電流供給部から供給される交流電流に対して位相のみがπ/2ずれた交流電流を、第一電流供給部による電流の供給方向に略直交する向きに強磁性ドットに供給する第二電流供給部と、
を備えることを特徴とする強磁性ドットのコア反転制御素子。
【請求項7】
前記強磁性ドットが、平面形状が直径50μm以下の略円形であって厚みが1μm以下である円盤形状であることを特徴とする請求項6に記載の強磁性ドットのコア反転制御素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のコア反転制御素子において、
コアの向きを読み出す読出し部を更に備えたことを特徴とする強磁性ドットのコア利用情報記憶素子。
【請求項9】
請求項8に記載の強磁性ドットのコア利用情報記憶素子を複数設け、各強磁性ドットのコア利用情報記憶素子から読み出される二値情報に基づき、決定用強磁性ドットのコア利用情報記憶素子に入力する電流を決定することを特徴とする論理回路素子。
【請求項10】
円盤形状の強磁性体から成り磁気構造が磁気渦構造を取る強磁性ドットのコアの向きによって二値情報を表現する情報記憶方法であって、強磁性ドットの径方向に該強磁性ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流を所定の電流密度で供給することにより、強磁性ドットのコアの向きを反転させることを特徴とする強磁性ドットのコア利用情報記憶方法。
【請求項11】
円盤形状の強磁性体から成り磁気構造が磁気渦構造を取る強磁性ドットのコアの向きによって二値情報を表現する情報記憶方法であって、該強磁性ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流と、該交流電流に対して位相のみがπ/2又は-π/2ずれた交流電流とを前記強磁性ドットに所定の電流密度で供給することにより前記強磁性ドットに回転電流を生じさせ、コアの向きを制御する強磁性ドットのコア利用情報記憶方法。
【請求項12】
磁気構造が磁気渦構造を取る円盤形状の強磁性ドットである第一ドット及び第二ドットの一部が重なり合って成る平面形状を有する瓢箪型強磁性ドットと、
前記第一ドットの径方向及び第二ドットの径方向のそれぞれに所定の周波数の交流電流を供給する電流供給部と、
前記第一ドット及び第二ドットの接合部上に設けられた絶縁体層と、
該絶縁体上の所定の一部領域上に設けられた磁性材料層と、
を備えることを特徴とする強磁性ドットのコア利用情報記憶素子。
【請求項13】
磁気構造が磁気渦構造を取る円盤形状の強磁性ドットである第一ドット及び第二ドットの一部が重なり合って成る平面形状を有する瓢箪型強磁性ドットと、
前記第一ドットの径方向に該第一ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流を供給する第一電流供給部と、
前記第二ドットの径方向に該第二ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流を供給する第二電流供給部と、
前記第一ドット及び第二ドットの接合部上に設けられた絶縁体層と、
該絶縁体上の所定の一部領域上に設けられた磁性材料層と、
を備えることを特徴とする強磁性ドットのコア利用情報記憶素子。
【請求項14】
前記瓢箪型強磁性ドットが、平常時にコアが第一ドット又は第二ドットの何れか一方に一つだけ存在する形状であることを特徴とする請求項12又は13に記載の強磁性ドットのコア利用情報記憶素子。
【請求項15】
磁気構造が磁気渦構造を取る円盤形状の強磁性ドットである第一ドット及び第二ドットの一部が重なり合って成る平面形状を有する瓢箪型強磁性ドットに対し、第一ドット又は第二ドットに交流電流を所定の周波数で供給することによって、コアの存在位置を第一ドット又は第二ドットの何れかに決定することを特徴とする、コアが第一ドット又は第二ドットのどちらに存在しているかに基づいて二値情報を表現する瓢箪型強磁性ドットのコア利用情報記憶方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、円盤状強磁性体(強磁性ドット)における磁化(磁気モーメント)立ち上がり箇所(コア)の制御が可能な素子に関する。より詳細には、コアの回転運動を電流の供給によって制御することが可能な素子、及びコアの動きを利用した情報記憶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体を直径数μm、厚み数十nm程度の円盤形状とすると(本発明ではこのような構造の強磁性体を「強磁性ドット」と称する)、磁気構造が円盤の周に沿って渦を巻く磁気渦構造となることが知られている。そして、この強磁性ドットの中心付近では、径が10nm程度の微小領域において磁化が円盤の面に対して垂直方向に立ち上がる構造を取る(例えば、非特許文献1参照)。本発明ではこの磁化が垂直方向に立ち上がった箇所を「コア」と称する。
【0003】
このような強磁性ドットに対して、ドットの径方向に磁場を印加するとコアの位置が変化し、その磁場の印加を止めるとコアはスパイラル運動をしながら強磁性ドットの中心に戻る動作をすることがこれまでの研究によりわかっている。そこで、印加する磁場をコアの回転周期と共鳴するような交流磁場にすると、コアは強磁性ドットの面内において、一定の径で回転運動を行うことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】

【非特許文献1】Shinjo,T., et al. Magnetic vortex core observation in circular dots of permalloy. Science 289, 930-932 (2000)
【非特許文献2】Guslienko,K.Yu, et al. Eigenfrequencies of vortex state excitations in magnetic submicron-size disks. J. Appl. Phys. 91, 8037-8039 (2002)
【非特許文献3】R.P.Cowburn, et al. Single-Domain Circular Nanomagnets. Physical review letters 83, No5, 1042-1045 (1999)
【非特許文献4】25. Shibata,J., et al. Current-induced magnetic vortex motion by spin-transfer torque. Phys. Rev. B 73, 020403 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、これまで、強磁性ドットにおけるコアの回転運動制御は磁場の印加によって行われてきた。本願発明者らはこの技術分野において、コアの制御をより簡便に行うことを目的として研究を重ねた結果、電流によってコアの回転運動を制御することができることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このようにして成された本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子は、
円盤形状の強磁性体から成り、磁気構造が磁気渦構造を取る強磁性ドットと、
該強磁性ドットの径方向に、該強磁性ドットの共鳴周波数と略等しい周波数の交流電流を供給する電流供給部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子によれば、従来では外部磁場によって制御する必要があったコアの回転を、電流によって制御することが可能となる。従って、非常に簡易な構成で、微小サイズの回転運動を生じさせることができるようになる。共鳴周波数は、強磁性ドットの形状などの種々のパラメータによって制御することができるため、目的に合わせて回転素子の設計を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る強磁性ドットの走査型電子顕微鏡像を含む測定系の回路図。
【図2】強磁性ドットのコアの動作を示すシミュレーション結果。
【図3】異なる周波数の電流を供給した場合の、時間変化に対するコアの径方向変位を示すグラフ。
【図4】強磁性ドットの径を変化させた場合の、供給電流周波数の変化に対するコアの径方向変位の大きさを示すグラフ。
【図5】強磁性ドットの直径が240nm及び504nmである場合の、直径及び厚みの比と共鳴周波数との関係を示すシミュレーション計算結果を示すグラフ。
【図6】A:電流に対して磁場を平行又は垂直に印加した各場合の、磁場の大きさと、抵抗変化の値との関係を示すグラフ。B:磁場の大きさと、平行時の抵抗変化値と垂直時の抵抗変化値の差との関係を示すグラフ。
【図7】A:径が異なる3つの強磁性ドットに対して供給する交流電流の周波数と、抵抗変化値との関係を示すグラフ。B:強磁性ドットの半径と共鳴周波数との関係を示すグラフ。
【図8】強磁性ドットの面に対して垂直方向に、異なる強度の磁場を印加した場合の共鳴周波数の変化を示すグラフ。
【図9】コアの回転に応じて強磁性ドットの中央部の磁化の向きが変化することを示す模式図。
【図10】本発明に係る強磁性ドットの応用例であるTMR効果を利用したトランジスタの模式図(上段)、等価回路(中段)。
【図11】(A)コアの反転現象を示すシミュレーション図。(B)コアのドット面内の位置およびその軌跡を示す図。
【図12】電流供給時間とコアの回転速度との関係を示すグラフ。
【図13】強磁性ドットのサイズと、コアの反転に必要な電流密度との関係を示すグラフ。
【図14】(A)サンプルのAFM像。(B)サンプルのMFM像。(C)~(L)所定の電流を10秒間供給する過程における各過程後のサンプルのMFM像。
【図15】電流の周波数と反転確率との関係を示すグラフ。
【図16】TMR素子を利用して強磁性ドットの情報を読み出す方法の例。
【図17】電流を供給し続けた場合の時間経過とコア近傍での磁気モーメントの膜厚方向成分規格化値の最大値及び最小値との関係を表すシミュレーション結果。
【図18】電流供給時間が(A)15.5ns、16.0ns、(B)23.0ns、23.5nsの場合の時間経過とコア近傍での磁気モーメントの膜厚方向成分規格化値の最大値及び最小値との関係を示すグラフ。
【図19】強磁性ドットの面内に回転電流を供給する構成の概念図。
【図20】回転電流の向きとコアの向きによるコアの回転条件を模式的に示す図。
【図21】本発明の強磁性ドットを用いたTMR素子を利用した多数決論理回路の構成例を示す図。
【図22】J2=J0の場合及びJ2=3J0の場合の時間経過とコア近傍での磁気モーメントの膜厚方向成分規格化値の最大値及び最小値との関係を表すグラフ。
【図23】瓢箪型強磁性ドットにおいて第一ドット及び第二ドットの中心間距離と、ドットの厚みとを様々に変化させた場合のコアの発現状態を示す分布図。
【図24】コアが他方のドットへ移動する様子を示す図。
【図25】瓢箪型強磁性ドットによる二値情報記録の概念図。
【図26】TMR素子を利用して瓢箪型強磁性ドットの情報を読み出す方法の例。
【図27】瓢箪型強磁性ドットにおけるコアの移動制御方法を示す概念図。
【図28】パーマロイ及びCoFeの共振特性を表すグラフ。
【図29】材料をCoFeとした瓢箪型強磁性ドットにおいて、第一ドット及び第二ドットの中心間距離と、ドットの厚みとを様々に変化させた場合のコアの発現状態を示す分布図。
【図30】円形強磁性ドットにおいて磁気渦構造が生じる厚み及び直径の関係を示す図。

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において使用することができる強磁性ドットは円盤形状の強磁性体から成る。その材料は例えばパーマロイが好適であるが、これに限られるものではなく、強磁性体であればいかなるものでもよい。なお、強磁性体の材料によってコアの回転特性が変化する。この強磁性体とコアの回転特性との関係は、後述するLLG方程式の第二式からも理解される。すなわち、材料の飽和磁化Msが小さくなるとusが大きくなり、コアの回転半径が大きくなる。また、もう一つの材料定数であるPが大きくなった場合でもusが大きくなり、コアの回転半径が大きくなる。
【0010】
強磁性ドットのサイズは、通常状態(外部磁場の印加や電流の供給が行われていない状態)において、磁気構造がドットの面において渦を巻く磁気渦構造を取りさえすればよい。また、図30に、非特許文献3において開示されている、円形強磁性ドットにおいて磁気渦構造が生じる厚み及び直径の関係の理論値を示す。図30において白丸点で示されている領域が、安定した磁気渦構造を取る厚み-直径の関係範囲である。本発明の強磁性ドットは、このような従来より知られている厚みと直径の関係を参考にしつつ設計するとよい。ただし、実際には強磁性ドットの径や厚みが大きくなると、磁気渦構造を取りにくくなる。そこで、本発明に係る素子において強磁性ドットは、平面形状が直径50μm以下の略円形であって、厚みが1μm以下とするのが好適である。
【0011】
強磁性ドットの平面形状は、円形に限らず、楕円形状であっても構わない。(つまり、強磁性ドットは楕円形状であっても磁気渦構造を取り得る。)よって、本発明においていう「円盤形状」は、楕円も含む概念である。また、円盤の端部に多少の凹凸が存在していても構わない。
強磁性ドットが楕円形状の場合、コアは楕円軌道を描く回転運動を行う。強磁性ドットの形状(厚み及び径)は、その形状によってコアの回転半径や共鳴周波数が変化するため、目的に合わせて設計すればよい。なお、強磁性ドットの共鳴周波数は、強磁性ドットの厚みと半径の比によって決まることが従来より知られている(例えば非特許文献2参照)。
【0012】
電流供給部は、強磁性ドットの径方向に交流電流を供給する。通常は強磁性ドットにおいて径方向の両端に電極を設けることによって構成される(図1参照)。この電流供給部によって供給される電流の周波数は強磁性ドットの共鳴振動数とする。また、電流供給部が供給する電流の電流密度によってコアの回転半径が変化するため、電流密度は所望の回転半径を得るために適宜に調節するとよい。
【0013】
以下、本願発明者らが行った実験について説明する。
【0014】
図1に、本発明に係る強磁性ドットの走査型電子顕微鏡像を含む測定系の回路図を示す。本実験において、強磁性ドットの材料としてパーマロイ(Fe19Ni81)を用いた。強磁性ドットの中心箇所にコアが存在していることを磁力顕微鏡によって確認した。
【0015】
[シミュレーション]
次式のLLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式に基づくマイクロマグネティックシミュレーションを行った。
【数1】
JP0004803681B2_000002t.gif
ここに、
m:局所磁化単位ベクトル、γ0:磁気角運動量比、Heff:実効磁界、α:ギルバート減衰係数、j:電流密度、P:電流のスピン偏極度、g:電子のg値、μB:ボーア磁子、e:素電荷、Ms:飽和磁化、である。
【0016】
シミュレーションでは、強磁性ドットを4×4×40nm3の四角柱エレメントに分割し、各エレメントにおいて磁化の方向は揃っているものとした。物性定数はパーマロイの典型的なものを使用し、Ms=1T、交換スティッフネス定数A=1.0×10-11J/m、P=0.7、α=0.01とした。また、j=J0sin2πftで表される交流電流を供給した。
【0017】
まず、強磁性ドットの中心外に位置するコアが行う自由緩和運動を計算することによってコアが行う回転運動の固有振動数(共鳴周波数)f0を算出した。次いで、その固有振動数で交流電流を供給することにより、シミュレーションを実行した。図2は、半径410nm、厚み40nmのサンプルに、周波数f=f0=380MHz、電流密度J0=3×1011A/m2の交流電流を供給したときの時間変化を描いた図である。
【0018】
強磁性ドットに電流を供給すると、コアはまず電子の流れ、すなわちスピン流の方向に移動する。この動きはスピントランスファー効果に由来するものである。強磁性ドット面の中心を外れたコアには中心に戻ろうとする復元力が働くが、渦のジャイロ性により、すなわち渦が前記復元力に対して垂直に動くため、コアは強磁性ドットの中心を回転中心とする回転運動を行う。この回転運動は、電流によるスピントランスファーと復元力とが釣り合うところで安定化する(図2の右下図)。回転運動の方向は、コアの磁化の方向に依存する。なお、この安定軌道の径は、同じ振幅を有する直流電流によってコアを回転させた場合(非特許文献4参照)と比較すると桁違いに大きい。
【0019】
供給する電流の周波数fを250、340、380MHzと変化させ、時間変化に対する各周波数におけるコアのx方向(直径方向)変位を計算した。このシミュレーション結果を図3に示す。f=380MHzのとき、約60ns後にコアの回転運動が安定した。共鳴周波数f0=380から少しずれているf=340MHzのときには、最初は増幅がみられるものの、コアの回転運動が安定すると変位は小さくなる。また、f=250MHzのときには、コアは弱い動きしか示さなかった。
【0020】
図4に、強磁性ドットの半径を410、530、700nmと変化させた各場合の、周波数変化に対するコアの安定軌道のx方向変位の計算結果を示す。強磁性ドットの径の大きさで共鳴周波数が変化していることがわかる。
【0021】
また、図5に強磁性ドットの直径が240nm又は504nmの場合において、厚みを10~60nmの間で変化させた場合に、直径(D)及び厚み(h)の比と共振周波数との関係を示すシミュレーション計算結果(材料定数(パーマロイ):Ms=800emu/cm3、A=1×10-6erg/cm、Ku=0、α=0.01)を示す。強磁性ドットの厚みが大きくなるにつれて共振周波数が高くなることが示されている。
【0022】
本明細書において「強磁性ドットの共鳴周波数」とは、強磁性ドット上に存在するコアの回転周波数が、供給される電流の周波数に共鳴する場合の周波数のことを指す。このような周波数の交流電流が供給されたとき、コアは最も高い効率で以て回転する。
【0023】
[実験による確認]
電流の流れる方向に応じて強磁性体の電気抵抗が変化するという異方性磁気抵抗(AMR: Anisotropic MagnetoResistance)効果を利用して、本発明に係る強磁性ドットのコアが回転していることを実験によって確認した。
【0024】
室温状態において半径700nmの強磁性ドットの磁気抵抗を測定した(図6)。図6Aにおいて、H//Iで示される曲線は磁場H(Oe)を電流に対して平行に印加した場合、H⊥Iで示される曲線は磁場を電流に対して垂直に印加した場合の磁気抵抗(磁場が印加されていない状態からの抵抗変化:抵抗変化値)を示す。また、図6Aには黒点で示される外部磁場におけるコアの位置も示してある。AMR効果により、強磁性ドットの抵抗とコアの位置とに高い相関が見られる。
【0025】
図6において重要なことは、|ΔR//|-|ΔR|の値が示されている図6Bからもわかるように、H⊥Iの場合の抵抗変化(|ΔR|)が、H//Iの場合の抵抗変化(|ΔR//|)よりも大きいことである。この抵抗変化の差は、強磁性ドットに対して二つの電極が接続されているため、対称性が損なわれていることに基づくものである。
【0026】
コアが共振(共鳴)している場合、計測時間をコアの軌道に沿った運動よりも遙かに長くすると、計測される抵抗値はコアの全位置の平均値となる。この平均抵抗値は、(|ΔR//|-|ΔR|)<0より、コアが共振しておらず、強磁性ドットの中央付近に存在している場合よりも小さくなるはずである。このようにしてコアが共振していることを実験により確認することができる。
【0027】
図1に示されている回路を用いて、強磁性ドットに交流電流を供給した際の抵抗変化値を測定した。一般的なロックイン法を用い、周波数223Hz、15μAの電流を使用した。電流の電流密度は3×1011A/m2とした。図7Aは、半径410、530、700nmの各強磁性ドットに関し、供給する交流電流の周波数と、抵抗変化値との関係を示すグラフである。各サイズの強磁性ドットにおいて明確なディップが観察される。これはすなわち、共振が生じていることを意味する。
【0028】
ここで観察されるディップは渦の軌道が平均化されたAMR効果によって生じているものであるため、強磁性ドットの縁に沿ったコアの動きによる最大値は、図6Bに示されている半径700nmの強磁性ドットの結果を考慮すると、(|ΔR//|-|ΔR⊥|)/2≒-10mΩ程度の値となるものと考えられる。よって、ここで観察された3mΩという増幅は、回転半径が0.3r≒200nm程度のコアの軌道運動に対応する。この増幅は、図4に示すシミュレーション結果とよい一致を見ている。
【0029】
図7Bに強磁性ドットの半径と共鳴周波数との関係を示す。実験に基づく結果とシミュレーション結果とがよい対応を示しており、とりわけ半径700nmの強磁性ドットに関してはかなりよい一致が見られた。
【0030】
以上の実験によって示されたように、本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子は、電流を供給するという簡単な構成でもって、コアの回転を制御することができる。また、理論(シミュレーション)結果の精度が高いため、所望の特性を備えた素子を設計することも可能である。
【0031】
また、本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子は、外部からドットの面に略垂直方向に磁場を印加することにより共鳴周波数を制御することも可能である。図8に半径500nm、厚み40nmの強磁性ドットに対して0、±1000、±2000、±3000 Oeの各磁場を印加した場合の、共鳴周波数の変化を示す(シミュレーション結果)。印加する磁場の絶対値が大きくなると共鳴周波数が高くなる傾向にあることがわかる。
【0032】
[応用例]
本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子では、コアから漏れる磁場を利用して各種の微小部材と接続することが可能であるから、攪拌子やモータ等のアクチュエータとして利用することが可能である。特に、各種マイクロマシンの回転動力として機能させることが可能であり、その応用は広範に亘る。
【0033】
また、本発明の強磁性ドットのコア回転素子の磁気渦の変化を利用して、トランジスタを作成することができる。コアが回転運動を行うと、強磁性ドットのある箇所の磁化の向きは変化する。図9に、コアの回転運動に伴うドットの中央部の磁化の向きの変化を表す模式図を示す。コアが強磁性ドットの面内において下→左→上→右→下のように時計回りに回転移動すると、中央部の磁化の向きは右→下→左→上→右のように時計回りに変化する。
【0034】
図10の上段に示すように、本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子のドット表面に1nm程度の厚みを有する絶縁体を設け、絶縁体上の一部の箇所(本例では強磁性ドットの中央部)に磁化の方向が一定である磁性材料を設けると、いわゆるTMR(Tunnel MagnetoResistance)素子を得ることができる。ここで、強磁性ドットの径方向に所定の電流を供給すると、磁性材料の下部にあたる箇所の磁化の向きが、上述したように回転する。すると、TMR効果によって抵抗変化が生じる。よって、例えば図10の中段に示す等価回路のような回路を形成することにより、所定の周波数(すなわち、強磁性ドットの共鳴周波数)において、電圧を増幅させることが可能なトランジスタを得ることができる。図10の例では、Vin=0.25の入力に対し、Vout=1.5±0.5Vの出力という2倍のゲインが得られると概算できる。
【0035】
なお、上述した構成のTMR素子は、所定の周波数の電流のみを取り出すフィルタとしても利用することができる。
【0036】
[強磁性ドットにおけるコアの反転]
本願発明者らは、本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子において、ある閾値以上の密度の電流を所定の時間以上流し続けると、コアの向きが強磁性ドットの面に対して反転することを見出した。ここで「コアの向き」とは、コアの磁化の向きのことを指す。コアの向きは、強磁性ドット面に垂直に上向き或いは下向きのいずれかとなる。
【0037】
厚み50nm、半径500nmの強磁性ドットに対して電流密度が4.0×1011A/m2の電流を供給した場合のコアの位置及びその向きをシミュレーションによって(材料定数:パーマロイ)求めた。その結果を図11(A)に示す。図11(A)のa~fの各図の下の数字は、電流の供給を開始してからの経過時間を表している。また、図11(B)は、図11(A)のa~fに対応するコアの位置及び経過時間t=17.5~23nsにおけるコアの軌跡を示す図である。
図11(A)より、電流を供給することによってコアが回転し、コアの反転が生じることが分かる。図11(B)からは、コアの反転が生じると、コアの回転方向が逆向きとなることが分かる。
【0038】
図12は、電流供給開始時をt=0としたとき、経過時間とコアの回転速度との関係を示すグラフである。図12のグラフにおいて速度が急激に落ち込む箇所でコアの反転が生じている。ここでは電流密度が3.0×1011A/m2の電流と4.0×1011A/m2の電流の二種類をそれぞれ比較のために用いたが、供給する電流の密度に拘わらず、一定の速度(ここでは約250m/s)に達するとコアの反転が起きることが示されている。
【0039】
また、本願発明者らは強磁性ドットのサイズと、コアが反転するのに必要な電流の閾値との関係をシミュレーション計算によって調べた。図13に強磁性ドットのサイズと、コアの反転に必要な電流の密度との関係を表すグラフを示す(強磁性ドットの直径:240nm、504nm、厚み:10~60nm、材料定数:Ms=800emu/cm3、A=1×10-6erg/cm、Ku=0、α=0.01)。即ち、密度が0.2×1012A/m2程度以上という現実的な電流を供給することで容易にコアの向きを反転させることができる。
【0040】
次に、本願発明者らはコアの反転現象を実験的に確認した。
図14(A)はサンプルの原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)像であり、強磁性ドットは白破線枠で囲まれた箇所に配置されている。強磁性ドットの左右には黒破線で示される電極が設けられており、この電極を介して強磁性ドットに交流電流が供給される構成となっている。
図14(B)は、図14(A)のサンプルの磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)による観測像である。強磁性ドットの中心(白破線円内)に黒点が観察され、これは紙面に対して垂直上向きのコアが存在していることを示している。
図14(B)のサンプルに対して周波数290MHz、電流密度3.5×1011A/m2の電流を10秒間に亘って供給した後のサンプルのMFM観察像が図14(C)である。これによると、強磁性ドットの中心に存在していた黒点が明るくなっている。即ち、コアの向きが反転したことが観察される。
続いて、サンプルに上記電流を10秒間供給し、その都度サンプルをMFMによって観察するという過程を繰り返した。各過程のMFM観察像を図14(D)~(L)にそれぞれ示す。図14における矢印は、上記電流を10秒間供給したことを意味している。図14(B)~(L)に示されている結果によれば、それぞれのコアの向きは(B)上、(C)下、(D)下、(E)下、(F)下、(G)上、(H)上、(I)下、(J)上、(K)上、(L)下、であり、電流を供給した後のコアの向きはランダムに変化することが分かった。すなわち、本実験においては、コアの反転は電流の供給時間(10秒)以内に1回以上発生しており、コアの向きは電流の供給が終了した時点で決定される。
【0041】
コア反転と供給する電流の周波数との関係を調べるために、以下のような実験を行った。上記のコアの反転実験を20回繰り返し、反転が確認された回数を数える。反転が確認された回数を20で除した値を「反転確率」とし、電流の周波数と反転確率との関係を調べた(図15)。図15によれば、ある周波数(共鳴周波数)帯域において反転確率が高くなることがわかる。
反転確率が0.5であるということは、コア反転が電流の供給時間である10秒より短い時間で生じることを意味している。故に、供給する電流の電流密度が高くなるにつれて、反転確率の値が0.5となる周波数帯域が広くなると推察される。この推察が正しいことは、電流密度が2.4×1011A/m2の場合と3.5×1011A/m2の場合を比較すると、前者の方が反転確率の値が小さくなったことから確認される。また、図15には3.88×1011A/m2の電流密度の電流を100nsの間供給した場合のシミュレーション結果を"Simulation"として重ねて示す。このシミュレーション結果からも、供給する電流の電流密度が高くなるとコアの反転が生じ易くなることが裏付けられる。
また、シミュレーションによればコアの反転が生じる最小電流密度は2.8×1011A/m2と算出されたが、この値は本実験における電流密度2.4×1011A/m2と非常に近い値となっており、シミュレーションの精度が高いことが確認された。
【0042】
このようなコアの反転現象を利用してコアの向きを制御することによって、強磁性ドットに情報の書き込みを行うことが可能となる。この書き込み情報は、コアの向きを検知可能な従来より知られた方法によって読み出すことができる。例えば図16に示すように、書込回路(電流供給部)が接続された本発明の強磁性ドット、トンネル障壁、磁化固定層から成るようなTMR素子を構成することによって、TMR効果により情報の読み出しができる。
【0043】
しかしながら、このコアの反転現象を利用して二値情報記録を実現する場合には、解決しなければならない次のような問題がある。
1)電流を加え続けると、コアの向きは連続的(たとえば上→下→上→…)に反転し続ける。図17に、電流を供給し続けた場合の時間経過と、コア近傍での磁気モーメントの膜厚方向成分(磁気モーメントの長さは1で規格化)の最大値及び最小値との関係を表すシミュレーション結果を示す。この磁気モーメントの膜厚方向成分の最大値及び最小値は、コアがドット面に対して上を向いている場合には最大値が+1、最小値が0となり、コアがドット面に対して下を向いている場合には最大値が0、最小値が-1となる。図17に示すシミュレーションでは、最初はコアが上を向いているので、最大値が+1、最小値が0である。時間が経過するにつれてもう一つの下向きのコアが現れて時間と共に成長するので(図11参照)、最小値が時間経過とともに減少してゆき、コアが反転したところ(16nsあたり)では、最大値が0、最小値が-1となっている。このシミュレーションから、時間の経過とともにコアの向きは上→下→上→下…と変化し続けることがわかる。
2)反転の制御のみが可能であり、コアが上下のどちらを向くか、その向きを指定することができない。
【0044】
上記1)の問題を解決するためには、電流供給部から供給する電流の供給時間を適切に設定することが考えられる。図18(A)に、直径240nm、厚み20nmの円盤形強磁性ドットのモデルに対して電流供給時間が15.5ns、16.0nsの場合(つまり、電流供給開始から15.5ns、16.0ns後に電流供給を停止する場合)の時間経過とコア近傍での磁気モーメントの膜厚方向成分規格化値の最大値及び最小値との関係を表す計算結果を示す。また、図18(B)に電流供給時間が23.0ns、23.5ns場合のグラフを示す。16~23nsの場合にはコアが一度だけ反転することがわかる。すなわち、電流を供給する時間を適切に制御することによって、コアが一度しか反転しないようにすることができる。
【0045】
上記2)の問題を解決するためには、例えば、書き込みを行う前に、まず所定の回路等から構成されるコアの向きを読み出す読出し部によって現在のコアの向きを調べ、反転が必要な場合にのみ電流供給部から所定の強さ及び長さの電流を流す構成とするのがよい。
【0046】
また、上記1)及び2)の問題を解決することが可能な構成の他の例を以下に示す。この構成は、位相のみがπ/2だけずれた交流電流を互いに直交した方向に供給することによって強磁性ドットの面内に回転電流を流すというものである。この構成の概念図を図19に示す。本構成では図19に示されているように、強磁性ドットの径方向において互いに略直交するように第一電流供給部と第二電流供給部を接続し、第一電流供給部と第二電流供給部からは位相のみがπ/2だけずれた交流電流J1(=J0sin(ωt))及びJ2(=-J0cos(ωt))を供給する。これにより、強磁性ドットの面内において、その向きが回転する電流が流れる。なお、交流電流J1及びJ2の周波数は強磁性ドットの共鳴周波数と略等しい周波数とする。
【0047】
強磁性ドット面内における電流の回転の向き(電流の向きがどちら方向に回転していくか)と、コアの向き(強磁性ドットの面のどちら側にコアが存在しているか)との組合せにより、コアが回転するか殆ど回転しないかが決定される。図20に、電流の回転の向きとコアの向きによるコアの回転条件を模式的に示す。コアが存在している側の面において回転電流が反時計回りに供給されているとき、且つ、その電流が共鳴周波数(または共振周波数に近い周波数)であるときにのみ、コアは電流と同一の方向に回転する。逆の組合せの場合にはコアは殆ど回転しない。
そして、コアの回転速度がある閾値以上となったときに、コアは反対の面へと反転する。反転して反対側の面へ移動したコアは現在の電流によっては回転を行わない。すなわちコアの向きが固定される。
【0048】
以上のようにして、電流の回転方向によってコアの向きを指定することが可能である。例えば、"1"を記録する場合には第一電流供給部と第二電流供給部とから供給する電流が強磁性ドットにおいて反時計回りとなるようにし(例えば電流:J1=J0sin(ωt)、J2=J0cos(ωt)とする)、"0"を記録する場合には、第一電流供給部と第二電流供給部とから供給する電流が強磁性ドットにおいて時計回りとなるように(例えば電流:J1=J0sin(ωt)、J2=-J0cos(ωt)とする)すればよい。強磁性ドットにおいてコアがどちらを向いているか(すなわち、記録されている情報が"1"であるか"0"であるか)は、コアの向きを読み出す読出し部を備えることによって知ることができる。本発明において読出し部はどのような構成でもよく、例えばTMR効果を利用してもよい。
【0049】
また、本願発明者が行ったシミュレーションによれば、回転電流を用いてコアの向きを制御する構成の場合、コアの反転に必要な電流密度の閾値は、先に述べた構成である単一の電流供給部によって強磁性ドットに交流を供給する場合の半分となる。この方法には、電流を供給する時間を精密にコントロールする必要がないというメリットがある。
【0050】
[論理素子への応用]
本発明に係る強磁性ドットのコアの反転特性を利用して論理回路素子を構成することもできる。すなわち、強磁性ドットのコア利用情報記憶素子を複数設け、各強磁性ドットのコア利用情報記憶素子から読み出される二値情報に基づき、決定用強磁性ドットのコア利用情報記憶素子に入力する電流を決定することにより、論理回路を構成することができる。その一例として図21にTMR素子を利用した多数決論理回路の構成を示す。なお、図21では、メモリ4の読出し回路は省略してある。
【0051】
メモリ1~3のそれぞれに、読出した情報に基づき生成する電流を決定する電流決定回路を付加しておく(例えば読出し情報が"1"の場合にcos(ωt)に比例する電流を生成し、"0"の場合には-cos(ωt)に比例する電流を生成する)。電流決定回路から出力される電流は、メモリ1~3のいずれに関しても、メモリ4に設けられている第一電流供給部J1(=sin(ωt))による電流の供給方向に対しておおよそ直交するように配線を行っておく。こうすることにより、メモリ1~3に記録されている値(コアの向き)によって、メモリ4への入力電流が決定され、メモリ1~3から読出された値のうち、最も多い値に対応してメモリ4のコアの向きが決定される。
【0052】
上記構成においてメモリ1~3が同一の値であった場合などには、電流が過度(最大三倍)に供給されてしまい、コアが反転を繰り返してしまう可能性がある。図22に、J2=J0の場合及びJ2=3J0の場合の時間経過とコア近傍での磁気モーメントの膜厚方向成分規格化値の最大値及び最小値とを表すグラフを示す。ここでJ2とは、メモリ1~3の電流決定回路から供給される電流を合わせたものである(つまり、図21に示す構造に見立てたものである。)。
この問題を防ぐためには、電流の供給時間を調節すればよい。即ち、簡略化のために図21の構成で説明すると(メモリ1~3からの電流の入力をJ2とすると)、電流供給時間は、J2=J0の場合にコアが反転するのに要する時間とJ2=3J0の場合にコアが反転するのに要する時間との間(図22における両矢印の間)に調節する必要がある。
【0053】
[瓢箪型強磁性ドット]
本願発明者らは、強磁性ドットに関して研究を進めた結果、強磁性ドットが、磁気構造が磁気渦構造を取る二個の円盤形状の強磁性ドットの一部が重なり合って接続されたような平面形状を有する場合に、ある条件下(後述する)においてコアに関する特異な現象が発現することを見出した。本明細書においては、このような形状の強磁性ドットのことを「瓢箪型強磁性ドット」と称する。瓢箪型強磁性ドットを形成する二個の円盤形状のドットの各大きさは、互いに略同一であることが望ましい。
なお、瓢箪型強磁性ドットを形成する際には必ずしも二個のドットから作成する必要はないが、説明の便宜上、第一ドット及び第二ドットの二個のドットが重なっているものと見立てて説明する。また、第一ドット及び第二ドットは円盤形状としているが、これは、楕円も含む概念である。また、円盤の端部に多少の凹凸が存在していても構わない。
【0054】
瓢箪型強磁性ドットにおいて、第一ドットと第二ドットの重なり具合(sp)、及びドットの厚み(h)に応じてコアの発現状態が異なる。図23に、第一ドット及び第二ドットの直径dを128nmとしたとき、第一ドットと第二ドットの中心間距離sp及び瓢箪型強磁性ドットの厚みhを様々に変化させた場合のコアの発現状態分布を示す。これは、パーマロイの材料定数を使用した場合である。図23の分布図において、MEMはコアが一つのみ生じ、安定時にはコアが第一ドットと第二ドットの何れかに位置する場合、Cはコアが一つのみ生じて安定時には第一ドットと第二ドットの接合部に位置する場合、MCはコアが三つ生じる場合、SDはコアが発生しない条件を表している。本発明では、このうち、MEMの状態となる瓢箪型強磁性ドットを利用する。パーマロイから成る瓢箪型強磁性ドットが平常時に(電流が供給されておらず、磁場も印加されていない状態)MEMの状態となるのは瓢箪型強磁性ドットの形状が大凡d>=96nm、h=10~40nm、0.96d+29<=sp瓢箪型強磁性ドットがMEMの条件のとき、コアは通常、第一ドット又は第二ドットの中心に止まる。この瓢箪型強磁性ドットの第一ドット及び第二ドットのうち、少なくともコアが存在しているドットの径方向に、周波数がそのドットの共鳴周波数と略等しい交流電流を供給すると、先述した強磁性ドットにおける場合と同様にコアが回転を開始する。瓢箪型強磁性ドットにおける共鳴周波数は、強磁性ドット単体のものと比較して低くなる傾向にあった。このときのコアの動きのシミュレーション結果を時間経過毎に表したのが図24である。シミュレーションは、第一ドット及び第二ドットの直径D=256nm、厚みh=10nm、両ドットの中心間距離sp=232nmである瓢箪型強磁性ドットに対して電流密度j=0.12×1012A/m2、周波数f=0.25GHzの交流電流を供給するものとした。図24には、コアの軌跡も示されている。図24からわかるように、コアの回転半径が徐々に大きくなり、それがある一定の径を越えると、コアが第一ドットと第二ドットを繋ぐ箇所を通って他方のドット側(第一ドット→第二ドット、若しくは第二ドット→第一ドット)に移動するという現象が生じる。
また、コアを他方のドットに移動させるためには(コアがある一定の回転半径以上で回転すればよいから)交流電流の代わりに直流電流を用いたり、コアの回転周期と共振するような共鳴周波数で交流磁場を印加しても構わない。
【0056】
上記の現象を利用して、図25に示すように、コアが第一ドット側、又は第二ドット側のどちらに存在しているのかに基づいて、二値情報の記録や読出しを行うことが可能となる(例えば第一ドットにコアが存在している場合は"0"とし、第二ドットにコアが存在している場合には"1"とすればよい。)。
【0057】
情報の書込(交流電流の供給)及び情報の読出しは、どのような方法を用いても構わない。例えば図26に示すように、瓢箪型強磁性ドットの第一ドット及び第二ドットのそれぞれに同一の交流電流を供給する電流供給部を設けて書込部を形成しておき、第一ドットと第二ドットの接合部上にトンネル障壁及び磁化固定層を設け、瓢箪型強磁性ドットを含めた積層方向に読出しを行うことにより、TMR効果を利用した情報の読み出しを行うことができる。第一ドットと第二ドットの接合部における磁化の向きは、コアが第一ドットに存在している場合と第二ドットに存在している場合とでは逆となるからである。
【0058】
しかし、瓢箪型強磁性ドットを用いて二値情報を書込む場合には、以下の問題がある。
1)電流供給部から電流を流し続けると、コアがドット間を移動し続けて(第一ドット→第二ドット→第一ドット→…)しまう。
2)コアが第一ドット又は第二ドットのどちらに移動するか(第一ドット→第二ドット、又は第二ドット→第一ドット)を指定できない。
【0059】
上記1)の問題を解決するためには、電流を供給する時間を調節し、コアが一度だけ他方のドットへ移動した後から、コアがもう一度移動する(初めのドットに帰ってくる)迄の間に電流の供給を停止すればよい。
上記2)の問題を解決するためには、情報の書込みを行う前にまず情報を読み出し、書換が必要な場合にのみ電流を供給して書換を行うようにするとよい。
【0060】
また、瓢箪型強磁性ドットに関する上記1)及び2)の問題を一度に解決することが可能な構成の例を図27を参照しつつ説明する。第一ドットと第二ドットのそれぞれに独立した電流供給部(第一電流供給部、第二電流供給部)を設けておく。電流供給後にコアがなくなるべきドットにのみ電流供給部から電流を供給する。図27の例では、まず、第一ドットにコアが存在している(ただし本構成では、電流供給後のコアの位置は、当初コアがどちらのドットに存在していたかには依存しない)。コアの位置を第二ドットにしたい場合には第一電流供給部のみを作動させ、第一ドットにのみ交流電流を共鳴周波数で供給する。すると、コアは第二ドットに移動する。逆に、コアの位置を第一ドットにしたい場合には第二電流供給部のみから交流電流を共鳴周波数で供給すればよい。
この方法によれば、電流の供給時間を制御する必要がないというメリットももたらされる。
【0061】
[強磁性ドットの材料による特性の違い]
以上、本発明に係る強磁性ドット及び瓢箪型強磁性ドットについて、パーマロイを材料としたものを中心に説明してきた。本願発明者らは、比較のためにパーマロイ以外の強磁性体としてCoFe(Ms=1600emu/cm3)を用いた場合の、強磁性ドットのコアの共振特性を算出した。図28にパーマロイ及びCoFeの共振特性を表すグラフを示す。CoFeの共鳴周波数はパーマロイの倍であることがわかる。また、電流値はパーマロイ: (j=0.40×1012A/m2)、CoFe:(j=0.80×1012A/m2)であり、CoFeの場合は同程度の振幅を得るためにはパーマロイの2倍程度の密度の電流が必要であることがわかった。また、瓢箪型強磁性ドットにおいても、材料がCoFeの場合の共鳴周波数はパーマロイの場合の約二倍、記録電流も二倍が必要であった。
【0062】
また、瓢箪型強磁性ドットにおいて材料をCoFeとした場合の第一ドットと第二ドットの中心間距離と瓢箪型強磁性ドットの厚みを様々に変化させた場合のコアの発現状態を調べた。その結果である分布図を図29に示す。これによれば、材料にCoFeを用いた場合には、パーマロイと比較するとメモリとして動作可能なサイズの条件(図29におけるMEMの箇所)は厳しくなることがわかった。
【0063】
以上、本発明に係る強磁性ドットのコア回転素子及び強磁性ドットを用いた素子について具体例を挙げつつ説明を行ったが、これらは一例に過ぎないことは明らかであって、本発明の精神内において適宜に変形・改良を行っても構わないことは言うまでもない。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図7】
3
【図8】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図12】
7
【図13】
8
【図16】
9
【図17】
10
【図18】
11
【図19】
12
【図20】
13
【図21】
14
【図22】
15
【図24】
16
【図28】
17
【図30】
18
【図1】
19
【図2】
20
【図6】
21
【図11】
22
【図14】
23
【図15】
24
【図23】
25
【図25】
26
【図26】
27
【図27】
28
【図29】
29