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明細書 :アルカロイド類の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5177573号 (P5177573)
登録日 平成25年1月18日(2013.1.18)
発行日 平成25年4月3日(2013.4.3)
発明の名称または考案の名称 アルカロイド類の生産方法
国際特許分類 C12P  17/12        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12P 17/12 ZNA
C12N 15/00 A
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
請求項の数または発明の数 22
全頁数 27
出願番号 特願2009-519300 (P2009-519300)
出願日 平成20年6月12日(2008.6.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成20年5月27日 National Academy of Sciences発行のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2008,105(21),p.7393-8に発表
国際出願番号 PCT/JP2008/060759
国際公開番号 WO2008/153094
国際公開日 平成20年12月18日(2008.12.18)
優先権出願番号 2007155069
優先日 平成19年6月12日(2007.6.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月10日(2011.6.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】佐藤 文彦
【氏名】南 博道
個別代理人の代理人 【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100127638、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 美苗
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
【識別番号】100146259、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 諭志
審査官 【審査官】渡邉 潤也
参考文献・文献 特開平11-178577(JP,A)
特開平11-178579(JP,A)
特開2002-291487(JP,A)
特開2004-121233(JP,A)
特開2004-141019(JP,A)
Plant Cell Physiol.,2007 Feb,48(2),p.252-62
Biotechnology and Bioengineering,1991,38,p.1029-33
Biochem.Biophys.Res.Commun.,2000 Feb 16,268(2),p.293-7
J.Biol.Chem.,2007 Mar 2,282(9),p.6274-82
調査した分野 C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CAplus/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を含む、基質であるドーパミンからアルカロイド類を生産する方法
ドーパミンを、モノアミンオキシダーゼの作用に供することによって、3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを得る工程、
ドーパミンと3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとを反応させることによって、3'-ヒドロキシノルコクラウリンを得る工程、
3'-ヒドロキシノルコクラウリンを、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼの作用に供することによって、3'-ヒドロキシコクラウリンを得る工程、
3'-ヒドロキシコクラウリンを、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼの作用に供することによって、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを得る工程、および、
3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼの作用に供することによって、レチクリンを得る工程。
【請求項2】
アルカロイド類がレチクリンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼが、イソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ドーパミンと3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとの反応を、ノルコクラウリンシンターゼの存在下で行う、請求項1~3何れかに記載の方法。
【請求項5】
ノルコクラウリンシンターゼが、イソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものである、請求項記載の方法。
【請求項6】
基質としてドーパミンの他に、チラミン、2-フェニルエチルアミン、O-メチルチラミン、3-O-メチルドーパミン、5-ヒドロキシドーパミンおよびトリプタミンからなる群から選択されるアミンを共存させる請求項1~いずれかに記載の方法。
【請求項7】
モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、ここで、該組換え宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を導入することによって得られる、および、
ドーパミンの存在下に、該組換え宿主細胞を培養する工程、
を含む、ドーパミンからアルカロイド類を生産する方法。
【請求項8】
得られるアルカロイド類がレチクリンである、請求項記載の方法。
【請求項9】
組換え宿主細胞がさらにノルコクラウリンシンターゼをコードする遺伝子を発現する、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
イソキノリンアルカロイド非生産性細胞が、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞および哺乳類細胞からなる群から選択される、請求項7または8記載の方法。
【請求項11】
イソキノリンアルカロイド非生産性細胞が、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびイソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞からなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項12】
モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、ここで、該組換え宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を導入することによって得られる、および、
該組換え宿主細胞から、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを含む酵素抽出液を得る工程、および、
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液を提供し、該混合液からアルカロイド類を産生させる工程、
を含む、ドーパミンからアルカロイド類をインビトロで生産する方法。
【請求項13】
得られるアルカロイド類がレチクリンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを発現する細胞群を提供する工程、ここで、該細胞群は、それぞれ、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼからなる群から選択される1以上の酵素を発現する2以上の細胞からなり、少なくとも1種類の、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞を含有する、
該細胞群から、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリンシンターゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼを含む酵素抽出液を得る工程、
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液を提供し、該混合液からアルカロイド類を産生させる工程、
を含む、ドーパミンからアルカロイド類をインビトロで生産する方法。
【請求項15】
得られるアルカロイド類がレチクリンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液に、S-アデノシルメチオニンを添加することをさらに含む、請求項12~15いずれかに記載の方法。
【請求項17】
該イソキノリンアルカロイド非生産性細胞が、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびイソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞からなる群から選択される、請求項12~16いずれかに記載の方法。
【請求項18】
レチクリンが、(S)-レチクリンである、請求項12~17いずれかに記載の方法。
【請求項19】
ドーパミンの他のアミンを基質として共存させる、請求項7~18いずれかに記載の方法。
【請求項20】
ドーパミンの他のアミンがチラミン、2-フェニルエチルアミン、O-メチルチラミン、3-O-メチルドーパミン、5-ヒドロキシドーパミンおよびトリプタミンからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が導入された組換え微生物。
【請求項22】
さらに、ノルコクラウリンシンターゼをコードする遺伝子が導入された請求項21記載の組換え微生物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカロイド類、特にレチクリンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソキノリンアルカロイドは6000種類にも及ぶ多様な化合物のクラスであり、モルヒネやベルべリン等有用医薬品を多く含んでおり、植物の生産する重要な有用二次代謝産物である。しかしその生産のほとんどは天然物からの抽出に依存していた。
【0003】
鎮痛薬であるモルヒネ、コルヒチン、抗菌薬であるベルベリン、パルマチン、およびサンギナリン等のベンジルイソキノリンアルカロイドは、モクレン科、キンポウゲ科、メギ科、ケシ科、およびその他の多くの植物種において、チロシンから(S)-レチクリンを介して合成される。(S)-レチクリンは、多くのタイプのベンジルイソキノリンアルカロイドの生合成経路における分岐点中間体である。即ち、(S)-レチクリンは抗マラリア薬および抗癌薬の開発に有用な医薬上重要な非麻薬性アルカロイドである。しかしながら、植物を用いたラージスケールでのアルカロイドの産生は、植物における二次代謝の厳密な制御下では困難である。また、アルカロイドの化学合成は、アルカロイドの構造が複雑であるため困難である。
【0004】
本発明者らは、高いアルカロイド生合成活性を有するオウレン細胞の遺伝子解析からアルカロイド生合成遺伝子を多数、単離・同定した。また、本発明者らは、これらの遺伝子をもちいた代謝工学により、新たな有用物質、特に、重要な中間代謝産物であるレチクリンを生産する方法を開発してきた(特許文献1)。
【0005】
近年、植物代謝工学の、アルカロイド生合成経路の最終産物の量を増加させる試みへの適用により、選択された植物細胞が、工業的に適用され得る量の代謝産物を産生することができるようになった。代謝工学の発達とともに、中間体を基質として用いる、新たな有用新薬の開発が望まれるにいたっている。しかし、代謝中間体の蓄積についての植物代謝工学における成功例は数例しか報告されていない。
【0006】
レチクリンの産生は、コデイノン還元酵素のRNAi によりトランスジェニックケシ植物において(非特許文献1)、そして、ベルベリン架橋酵素 (BBE)のRNAi によりトランスジェニックハナビシソウ細胞において報告されている(非特許文献2)。トランスジェニックケシは、レチクリンの産生に有効であるが、植物または培養細胞ごとに生成物の量が大きく変動すること、および植物または培養細胞は生育に長い時間がかかるという問題がある。コデイノン還元酵素のRNAiによるモルヒネ生合成における最終工程のノックダウンはレチクリンの蓄積を誘導したが、この蓄積のメカニズムを説明することはできなかった。ハナビシソウ細胞および根培養物においてBBEを抑制するためにアンチセンスを用いた研究では、レチクリンの蓄積は観察されなかった(非特許文献3および4)。
【0007】
このように、形質転換体などにおいて重要な中間体であるレチクリンの生産が試行されるに至っている。しかし、植物体、あるいは、培養細胞を用いた系においては、その増殖に時間がかかること、また、多くの場合、生産物は混合物であるなどの問題がある。
【0008】
最近、全生合成工程を再構成するいくつかの試みが微生物システムにおいて調べられた(非特許文献5および6)。微生物システムは二次代謝産物の量だけでなく質の改善にも優れた能力を有する。というのは他の植物代謝産物は微生物システムに固有に存在しないからである。微生物システムは化学物質の生体内変換にいくつかの利点をもたらすが、それには、特に植物代謝産物については基質の入手可能性が制限されていることなどの欠点もある。微生物酵素遺伝子と植物由来遺伝子の組合せは多様な化合物の効率的かつ高生産性のシステムの確立のために有望である。
【0009】
ベンジルイソキノリンアルカロイド経路においては、ノルコクラウリンからベルベリンまでのほぼすべての生合成遺伝子が単離されており、それらの活性は微生物システムにおいて示されている(非特許文献7および8)。ベンジルイソキノリンアルカロイド経路においてノルコクラウリンシンターゼ(以下、NCSとも称する)がドーパミンと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド (以下、4-HPAAとも称する)とのカップリングを触媒することから、(S)-ノルコクラウリンを介して(S)-レチクリンが産生されることが明らかとなっている。(S)-ノルコクラウリンは次いでノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ (以下、6OMTとも称する)の作用によってコクラウリンに変換され、コクラウリンは、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ (以下、CNMTとも称する)の作用によってN-メチルコクラウリンに変換され、N-メチルコクラウリンは、P450 ヒドロキシラーゼの作用によって3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン(以下、6-O-メチルラウダノソリンとも称する)に変換され、そして3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンは、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ (以下、4'OMTとも称する)の作用によって (S)-レチクリンに変換される(図1a参照)。

【特許文献1】国際公開WO2005/033305号パンフレット
【非特許文献1】Allen, R.S. et al. RNAi-mediated replacement of morphine with the nonnarcotic alkaloid reticuline in opium poppy. Nat. Biotechnol. 22, 1559-1566 (2004)
【非特許文献2】Fujii, N., Inui, T., Iwasa, K., Morishige, T., & Sato, F. Knockdown of berberine bridge enzyme by RNAi accumulates (S)-reticuline and activates a silent pathway in cultured California poppy cells. Transgenic Research, 16:363-375(2007)
【非特許文献3】Park, S.U., Yu, M., & Facchini, P.J. Antisense RNA-mediated suppression of benzophenanthridine alkaloid biosynthesis in transgenic cell cultures of California poppy. Plant Physiol. 128, 696-706 (2002)
【非特許文献4】Park, S.U., Yu, M., & Facchini, P.J. Modulation of berberine bridge enzyme levels in transgenic root cultures of California poppy alters the accumulation of benzophenanthridine alkaloids. Plant Mol. Biol. 51, 153-164 (2003)
【非特許文献5】Rathbone, D.A., & Bruce, N.C. Microbial transformation of alkaloids. Curr. Opin. Microbiol. 5, 274-281 (2002)
【非特許文献6】Ro, D.K. et al. Production of the antimalarial drug precursor artemisinic acid in engineered yeast. Nature 440, 940-943 (2006)
【非特許文献7】Minami, H., Dubouzet, E., Iwasa, K., & Sato, F. Functional analysis of norcoclaurine synthase in Coptis japonica. J. Biol. Chem. 282, 6274-6282 (2007)
【非特許文献8】Morishige, T., Tsujita, T., Yamada, Y., & Sato, F. Molecular characterization of the S-adenosyl-L-methionine:3'-hydroxy-N-methylcoclaurine 4'-O-methyltransferase involved in isoquinoline alkaloid biosynthesis in Coptis japonica. J. Biol. Chem. 275, 23398-23405 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、微生物と植物酵素との組合せにより、ベンジルイソキノリンアルカロイドの有用な中間体であるアルカロイド類、特にレチクリンを産生するシステムを確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、イソキノリンアルカロイド産生植物細胞を用いることなく、植物、例えば、オウレン由来の遺伝子を組み合わせることにより、酵素的生物変換法、あるいは、異種細胞発現系を用い、アルカロイド生合成系の再構築を行なうことを試みた。その結果、本発明者らは、レチクリンの産生のための微生物と植物の酵素を組み合わせた合成生物学的システムを見いだした。
【0012】
イソキノリンアルカロイドの中間産物であるレチクリンは、ドーパミンと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとの重合反応後、3段階のメチル化と1段階のヒドロキシル化を経て生合成されることが知られている(図1a)。本発明者らは4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドのかわりに3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(以下、3,4-DHPAAとも称する)を用いることで、ヒドロキシル化のステップを省略できることを見いだした。さらに微生物 (Micrococcus luteus) 由来の モノアミンオキシダーゼ (以下、MAOとも称する) を用いることで、ドーパミンから3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを合成できることを見いだした。すなわち、本発明者らは、ドーパミンのみから効率的にレチクリン合成が可能になることを見いだした(図1b)。
【0013】
本発明は、少なくともドーパミンを含む1以上のアミンを基質とし、これを、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼの作用に供することを含む、アルカロイド類を生産する方法を提供する。好ましくは、該酵素反応は、ノルコクラウリンシンターゼの存在下で行う。基質として用いるドーパミン以外のアミンとしては、チラミン、2-フェニルエチルアミン、O-メチルチラミン、3-O-メチルドーパミン、5-ヒドロキシドーパミン、トリプタミン等が挙げられる。以下、基質としてドーパミンを単独で用いてレチクリンを産生させる場合を例として本発明を説明する。
【0014】
本発明は、基質であるドーパミンを、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTの作用に供することを含む、レチクリンを生産する方法を提供する。
【0015】
該方法は具体的には、以下の工程を含む:
ドーパミンを、MAOの作用に供することによって、3,4-DHPAAを得る工程、
ドーパミンと3,4-DHPAAとを反応させることによって、3'-ヒドロキシノルコクラウリンを得る工程、
3'-ヒドロキシノルコクラウリンを、6OMTの作用に供することによって、3'-ヒドロキシコクラウリン(以下、ノルラウダノソリンとも称する)を得る工程、
3'-ヒドロキシコクラウリンを、CNMTの作用に供することによって、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを得る工程、および、
3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを、4'OMTの作用に供することによって、レチクリンを得る工程。
【0016】
ここで、MAOの由来は特に限定されないが、微生物、例えば、Micrococcus luteus、Escherichia coli、Arthrobacter aurescens、Klebsiella aerogenes由来のものが好ましい。
【0017】
6OMT、CNMTおよび4'OMTの由来は特に限定されないが、イソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものであるのが好ましい。イソキノリンアルカロイド生産性植物としては、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサク等のケシ科植物、メギ等のメギ科植物、キハダ等のミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、ならびにオウレン等のキンポウゲ科植物などのイソキノリンアルカロイド産生植物などが挙げられ、好ましくはオウレンである。
【0018】
本発明の方法において、ドーパミンと3,4-DHPAAとの反応は、酵素触媒によらない化学反応によっても、NCSの存在下で行ってもよい。NCSの存在下で行うことが好ましい。NCSの由来は特に限定されないが、上記のイソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものであるのが好ましい。
【0019】
具体的には、以下に説明する「インビボでのレチクリン生産」において、宿主として、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞等を用いる場合、ドーパミンと3,4-DHPAAとの反応は、NCSの非存在下であっても、化学反応により進行しうる。
【0020】
一方、宿主として、イソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞を用いる場合は、ドーパミンと3,4-DHPAAとの反応のために、NCSを導入するとよい。
【0021】
一方、同様に以下に説明する「インビトロでのレチクリン生産」においては、用いる細胞に拘わらず、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTに加えて、NCSの存在が必須である。
【0022】
このように、用いる生産系によってドーパミンと3,4-DHPAAとの反応は、化学反応により起こる場合と、NCSの作用によって起こる場合とがある。例えば、植物細胞においては、ドーパミンはDOPAデカルボキシラーゼによりL-DOPAから細胞質ゾル中にて合成され、液胞内に輸送され、液胞に区画化される。そしてこの区画化が、アミンであるドーパミンとアルデヒドである3,4-DHPAAの化学的カップリングを妨げている可能性がある。一方、大腸菌などの細胞ではドーパミンは区画化されないため、ドーパミンと3,4-DHPAAの化学的カップリングが、NCSの酵素反応よりも優勢であるようである。
【0023】
本発明は、また、以下の工程を含む、ドーパミンからレチクリンを生産する方法を提供する:
MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、ここで、該組換え宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTをコードする遺伝子を導入することによって得られる、および、
ドーパミンの存在下に、該組換え宿主細胞を培養する工程。
該方法においては、レチクリンが組換え宿主細胞内で生産されるため、本明細書においてかかる方法を、「インビボでのレチクリン生産」と称する。
【0024】
インビボでのレチクリン生産方法においては、基質であるドーパミンの添加は必須であるが、メチルトランスフェラーゼ反応におけるメチル基供与体であるS-アデノシルメチオニン(以下、SAMとも称する)の添加は必須ではない。即ち、例えば、大腸菌を宿主として用いる場合、SAMを添加しなくてもインビボでレチクリンが生産される。大腸菌などの宿主細胞においては、SAMの再生システムがあり、それによって、インビボでのメチル化活性が維持されているようである。
【0025】
インビボでのレチクリン生産方法における宿主細胞はイソキノリンアルカロイド非生産性細胞であるが、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞などの宿主を用いる場合、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTをコードする遺伝子を導入するだけでよい。
【0026】
しかし、インビボでのレチクリン生産方法においても、以下に説明するインビトロでの方法と同様に、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する組換え宿主細胞は、さらにNCSをコードする遺伝子を発現するのが好ましい。この場合の宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞であれば特に限定されず、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびイソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞などが挙げられる。
【0027】
本発明はさらに、以下の工程を含む、ドーパミンからレチクリンをインビトロで生産する方法を提供する(以下、インビトロ第一方法とも称する):
MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、ここで、該組換え宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTをコードする遺伝子を導入することによって得られる、および、
該組換え宿主細胞から、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを含む酵素抽出液を得る工程、および、
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液を提供し、該混合液からレチクリンを産生させる工程。
【0028】
また、本発明はさらに、以下の工程を含む、ドーパミンからレチクリンをインビトロで生産する方法を提供する(以下、インビトロ第二方法とも称する):
MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する細胞群を提供する工程、ここで、該細胞群は、それぞれ、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTからなる群から選択される1以上の酵素を発現する2以上の細胞からなり、少なくとも1種類の、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞を含有する、
該細胞群から、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを含む酵素抽出液を得る工程、
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液を提供し、該混合液からレチクリンを産生させる工程。
【0029】
インビトロの第二方法においては、2種類以上の細胞からなる細胞群を用いる。かかる細胞群を構成する各々の細胞は、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTからなる群から選択される1以上の酵素を発現する。細胞群は全体としては、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTのすべてを発現する。また、細胞群を構成する細胞のうち、少なくとも1種類はイソキノリンアルカロイド非生産性細胞である。
【0030】
インビトロの第一および第二方法では、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する細胞から得られた酵素抽出液を用いてレチクリンを生産するため、これらの方法を、「インビトロでのレチクリン生産」と称する。
【0031】
インビトロ第一方法は、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTをコードする遺伝子が導入されてなる一種類の細胞からの酵素抽出液を用いる。インビトロ第二方法では、二種類以上の細胞からの酵素抽出液を合わせたものを用いる。いずれの方法においても、酵素抽出液は、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを必須に含む。また、いずれの方法においても、基質としてドーパミンを加える必要がある。
【0032】
インビトロでのレチクリン生産では、酵素抽出液にSAMが含まれているため、メチル供与体としてSAMを添加しなくてもレチクリンが生産できる。しかし、インビトロでは、SAMを再生することはできないため、大規模にインビトロでレチクリンを生産する場合には、該酵素抽出液とドーパミンとの混合液にSAMを外部から添加するのが好ましい。
【0033】
インビトロ第一方法において用いるイソキノリンアルカロイド非生産性細胞は、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびイソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞が好ましい。また、インビトロ第二方法においては、それぞれの酵素を発現する細胞の種類は特に限定されないが、細胞群を構成する細胞のうち少なくとも1種類の細胞は、第一方法と同様にイソキノリンアルカロイド非生産性細胞である。
【0034】
インビトロでのレチクリン生産によると、(S)-レチクリンが得られる。
【0035】
本発明はまた、本発明の方法に用いられる、モノアミンオキシダーゼ、ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼおよび3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が導入された組換え微生物を提供する。該組換え微生物は好ましくはさらに、ノルコクラウリンシンターゼをコードする遺伝子が導入されている。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、宿主細胞にレチクリン合成に必要な生合成酵素遺伝子を導入し、大量調製させた酵素を直接利用して基質を生物変換すること、あるいは、必要遺伝子を発現させた宿主細胞に直接基質を投与することにより、目的の産物のみを高効率で生産することができる。
【0037】
本発明により、多様な有用化合物生産のための素材であるレチクリンが大量に生産できる基盤が構築される。さらにレチクリンを用いたさらなる代謝変換による新たなる創薬資源の開発が可能となる。本発明の方法は、基質としてドーパミンと共にドーパミン以外のアミン類を用いる場合にも適用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1(a)は公知の植物におけるレチクリン合成経路、図1(b)は本発明によるレチクリン合成経路を示す。
【図2】図2は、レチクリン合成に関与する遺伝子を含むコンストラクトを示す。
【図3】図3は、大腸菌におけるレチクリン産生のLC-MS 分析を示す。
【図4】図4は、インビトロレチクリン合成のLC-MS 分析を示す。
【図5】図5は、3'ヒドロキシノルコクラウリンからレチクリンまでの中間生成物の合成について、酵素の組合せにより生じた生成物を示す。
【図6-A】図6-Aは、微生物の混合培養にて生産したマグノフロリンのLC-MS 分析を示す。
【図6-B】図6-Bは、微生物の混合培養にて生産したスコウレリンのLC-MS 分析を示す。
【図7-1】図7-1は、基質としてドーパミンと共に様々なアミンを用いて得られたアルカロイド類の構造およびLC-MS分析の結果を示す。
【図7-2】図7-2は、基質としてドーパミンと共に様々なアミンを用いて得られたアルカロイド類の構造およびLC-MS分析の結果を示す。
【図7-3】図7-3は、基質としてドーパミンと共に様々なアミンを用いて得られたアルカロイド類の構造およびLC-MS分析の結果を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
略号
3,4-DHPAA:3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド
4-HPAA: 4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド
MAO:モノアミンオキシダーゼ
NCS:ノルコクラウリンシンターゼ
6OMT :ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ
CNMT :コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ
4'OMT :3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4'-O-メチルトランスフェラーゼ
【0040】
本発明の方法によると、レチクリン合成に関与する酵素、モノアミンオキシダーゼ (MAO)、ノルコクラウリンシンターゼ (NCS)、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ (6OMT)、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ (CNMT)、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4’-O-メチルトランスフェラーゼ (4’OMT)をコードする遺伝子を宿主細胞内で発現させ、宿主細胞より酵素を抽出し、その酵素抽出液を試験管内で混合し、基質となるドーパミン、メチル供与体であるS-アデノシルメチオニンの存在下でレチクリンを生産させる。あるいは、これらのうち少なくともMAO、6OMT、CNMTおよび4’OMTをコードする遺伝子を宿主細胞内で発現させ、ドーパミンの投与により細胞内でレチクリンを生産させる。
【0041】
大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞などの宿主細胞内でのレチクリン生合成ではSAMの添加は必要ないが、酵素抽出液によるレチクリン合成でも、SAMの添加は必須ではない。というのは、酵素抽出液に含まれるSAMを利用可能であるためである。酵素抽出液を用いて大規模にレチクリンを合成する場合は、SAMを添加するのが好ましい。
【0042】
本発明は、基質であるドーパミンを、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTの作用に供することを含む、レチクリンを生産する方法を提供する。具体的には、該方法は、以下の工程を含む:
ドーパミンを、MAOの作用に供することによって、3,4-DHPAAを得る工程、
ドーパミンと3,4-DHPAAとを反応させることによって、3'-ヒドロキシノルコクラウリンを得る工程、
3'-ヒドロキシノルコクラウリンを、6OMTの作用に供することによって、3'-ヒドロキシコクラウリンを得る工程、
3'-ヒドロキシコクラウリンを、CNMTの作用に供することによって、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを得る工程、および、
3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを、4'OMTの作用に供することによって、レチクリンを得る工程。
【0043】
植物細胞においては、図1aの合成経路に示す通り、レチクリンは、ドーパミンと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4-HPAA)との重合反応後、3段階のメチル化と1段階のヒドロキシル化を経て生合成されることが知られている(図1a)。一方、本発明においては、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドのかわりに3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(3,4-DHPAA) を用いることで、ヒドロキシル化のステップを省略できる。さらに本発明においては、MAOを用いることで、ドーパミンから3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを合成できる。すなわち本発明により、ドーパミンのみから効率的にレチクリン合成が可能になった(図1b)。
【0044】
本発明の方法においては、ドーパミンの入手源は特に限定されないが、例えば、ナカライテスク社(日本国、京都)和光純薬工業(日本国、大阪)、シグマアルドリッチ(米国、ミズーリ州セントルイス)から得られる。
【0045】
また、本発明の方法においては、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTの4つの酵素が必要である。さらに、NCSを用いるのが好ましい。
【0046】
MAOの由来としては、Micrococcus luteus、Escherichia coli、Arthrobacter aurescens、Klebsiella aerogenesが挙げられるが、Micrococcus luteus由来のものを用いるのが好ましい。
【0047】
6OMT、CNMT、4'OMTおよびNCSは、特に限定されないが、イソキノリンアルカロイド生産性植物由来のものであるのが好ましい。イソキノリンアルカロイド生産性植物としては、ハナビシソウ、ケシ、エンゴサク等のケシ科植物、メギ等のメギ科植物、キハダ等のミカン科植物、コブシ等のモクレン科植物、オオツヅラフジなどのツヅラフジ科植物、ならびにオウレン等のキンポウゲ科植物などのイソキノリンアルカロイド産生植物などが挙げられ、好ましくはオウレンである。
【0048】
以下、本発明に利用できるMAO、6OMT、CNMT、4'OMT、およびNCSについて説明する。
【0049】
本発明において使用される、MAOはドーパミンを3,4-DHPAAに変換する反応、NCSはドーパミンと3,4-DHPAAを3'-ヒドロキシノルコクラウリンに変換する反応、6OMTは3'-ヒドロキシノルコクラウリンを3'-ヒドロキシコクラウリンに変換する反応、CNMTは、3'-ヒドロキシコクラウリンを3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンに変換する反応、4'OMTは3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンをレチクリンに変換する反応をそれぞれ触媒する酵素活性を有するものであれば特に限定されない。例えば、配列番号1に示すヌクレオチド配列にコードされるMicrococcus luteus由来のMAO、配列番号2、3、4および5に示すヌクレオチド配列にコードされる、いずれもオウレン由来のNCS、6OMT、CNMT、4'OMTを好適に用いることが出来る。NCSとしては、アミンとアルデヒドの反応を触媒するNCS活性を有するものを使用できる。NCSとしては様々な配列が報告されているが、配列番号2に示すCjPR10と称される酵素およびそのホモログ、ならびにCjNCSと称される酵素が好適に使用される。
【0050】
本発明に使用される酵素は、これらに限定されないが、好ましくは、以下の (a)または(b)のタンパク質である:
(a)配列番号1、2、3、4または5のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号1、2、3、4または5のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有するタンパク質。
【0051】
本発明に使用されるタンパク質としては、以下の(b')のタンパク質も挙げられる。
(b') 配列番号1、2、3、4または5のヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列に対して、70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有するタンパク質。
【0052】
上記の、(b) のタンパク質は、「MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有する」という(a)のタンパク質の機能が失われない程度にアミノ酸変異(欠失、置換、付加)が起こっているタンパク質である。このような変異には、自然界において生じる変異の他に、人為的な変異も含まれる。人為的な変異を生じさせる手段としては、部位特異的突然変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)が挙げられるがこれに限定されるわけではない。変異(欠失、置換、付加)したアミノ酸の数は、上記(a)のタンパク質の酵素活性が失われない限りその個数は制限されないが、好ましくは50アミノ酸以内であり、さらに好ましくは30アミノ酸以内である。
【0053】
(b')のタンパク質も、「MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有する」という(a)のタンパク質の機能が失われない程度の(a)のタンパク質に対する相同性を有するタンパク質である。相同性は、50%以上が好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0054】
本発明において「相同性」とは、2つのポリペプチドあるいはポリヌクレオチド間の配列の類似の程度を意味し、比較対象のアミノ酸配列または塩基配列の領域にわたって最適な状態(配列の一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。相同性の数値(%)は両方の(アミノ酸または塩基)配列に存在する同一のアミノ酸または塩基を決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内のアミノ酸または塩基の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび相同性を得るためのアルゴリズムとしては当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。アミノ酸配列の相同性は、例えばBLASTP、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定される。塩基配列の相同性は、BLASTN、FASTAなどのソフトウェアを用いて決定される。
【0055】
タンパク質がMAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有するか否かは、該タンパク質調製物にそれぞれの反応基質を添加し、それぞれの酵素の反応生成物が生成したか否かを調べることにより判定することが出来る。MAOについてはドーパミンを添加し、3,4-DHPAAが生成したか、NCSについてはドーパミンと3,4-DHPAAを添加し、3'-ヒドロキシノルコクラウリンが生成したか、6OMTについては3'-ヒドロキシノルコクラウリンを添加し、3'-ヒドロキシコクラウリンが生成したか、CNMTについては、3'-ヒドロキシコクラウリンを添加し、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンが生成したか、4'OMTについては3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリンを添加し、レチクリンが生成したか、を調べることによりその活性の有無を判定することが出来る。
【0056】
生成物が、3,4-DHPAA、3'-ヒドロキシノルコクラウリン、3'-ヒドロキシコクラウリン、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン、またはレチクリンであるか否かは、当業者に周知のあらゆる手段によって確認することが出来る。具体的には、生成物と3,4-DHPAA、3'-ヒドロキシノルコクラウリン、3'-ヒドロキシコクラウリン、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン、またはレチクリンのそれぞれの標品とを、LC-MSに供し、得られるスペクトルを比較することによって同定することが出来る。また、生成物と対応する標品とのNMR分析による比較によっても確認することが出来る。
【0057】
次いで、本発明に利用できるMAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTをコードする遺伝子について説明する。
【0058】
本発明において好適に使用される、MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTをコードする遺伝子としては、それぞれ配列番号1、2、3、4または5に示すヌクレオチド配列を有する遺伝子が挙げられる。
【0059】
即ち、本発明に使用される遺伝子は、これらに限定されないが、好ましくは、以下の(a)または(b)のDNAである遺伝子である:
(a)配列番号1、2、3、4または5のヌクレオチド配列からなるDNA;
(b)(a)のヌクレオチド配列からなるDNAと相補的なヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0060】
さらに本発明に使用される遺伝子としては、以下の(c)のDNAである遺伝子も挙げられる。
(c) 配列番号1、2、3、4または5のヌクレオチド配列に対して、70%以上の相同性を有するヌクレオチド配列からなり、かつ、MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【0061】
ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起こり、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSC程度である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは(a)のヌクレオチド配列からなるDNAと60%以上の高い相同性を有することが望ましく、さらに80%以上の相同性を有することが好ましい。
ここで「相同性」については上記したとおりである。
【0062】
上記遺伝子によってコードされるタンパク質が「MAO、NCS、6OMT、CNMT、または4'OMTの酵素活性を有する」か否かの確認方法は、タンパク質について上記したとおりである。
【0063】
上記遺伝子は、当業者に周知のPCRまたはハイブリダイゼーション技術によって取得することが可能であり、あるいはDNA合成機などを用いて人工的に合成してもよい。配列の決定は常套方法により配列決定機を用いて行うことが出来る。
【0064】
次いで「インビボでのレチクリン生産」について説明する。
本発明は、以下の工程を含む、ドーパミンからレチクリンを生産する方法を提供する:
MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、ここで、該組換え宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTをコードする遺伝子を導入することによって得られる、および、
ドーパミンの存在下に、該組換え宿主細胞を培養する工程。
【0065】
好ましくは、組換え宿主細胞はさらにNCSをコードする遺伝子を発現する。
【0066】
宿主細胞としては、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞であれば特に限定されないが、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびイソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞などが挙げられる。また、宿主細胞が、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞からなる群から選択される場合は、NCSをコードする遺伝子を宿主細胞に導入しなくても、レチクリンを生産することが出来る。
【0067】
即ち、宿主細胞が、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞からなる群から選択される場合は、細胞内において、ドーパミンの区画化が起こらないため、ドーパミンと3,4-DHPAAの化学的カップリングが、NCSの非存在下でも進行する。
【0068】
インビボでのレチクリン生産において、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMTおよびそれらをコードする遺伝子については、上記に説明したとおりである。
【0069】
宿主細胞に遺伝子を導入する場合、遺伝子を直接導入してもよいが、遺伝子が導入されたベクターを宿主に導入するのが好ましい。導入遺伝子はすべて同一のベクターに組み込んでもよいし、2以上の別々のベクターに分けて組み込んでもよい。
【0070】
上記遺伝子が導入されるベクターとしては、宿主細胞内で自律的に複製しうるプラスミドまたはファージから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ベクターは、導入される宿主細胞に適合した複製開始起点、選択可能なマーカー、プロモーター等の発現制御配列、ターミネーターを含むのが好ましい。プラスミドベクターとしては、例えば大腸菌で発現させる場合は、pETベクター系、pQEベクター系、pColdベクター系などが挙げられ、酵母で発現させる場合は、pYES2ベクター系、pYEXベクター系などが挙げられる。
【0071】
選択可能なマーカーとしては、アンピシリン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0072】
発現ベクターは、発現制御配列を含むものが好ましい。発現制御配列とは、DNA配列に適切に連結した場合、宿主細胞において、そのDNA配列を発現させることが出来る配列を意味する。発現制御配列には少なくともプロモーターが含まれる。プロモーターは構成的プロモーターであっても誘導可能なプロモーターであってもよい。さらに該発現ベクターには転写終結シグナル、即ちターミネーター領域が好ましくは含まれる。
【0073】
本発明に用いる発現ベクターは、上記遺伝子の末端に、常法により適当な制限酵素認識部位を付加することにより作成することが出来る。
【0074】
発現ベクターの宿主細胞への形質転換方法としては、従来公知の方法を用いることが出来、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0075】
次いでMAO、6OMT、CNMTおよび4'OMTおよび所望によりNCSをコードする遺伝子を導入した組換え宿主細胞をドーパミンの存在下で培養する。
【0076】
ドーパミンの添加量としては、通常最終濃度が1~5mMとなるよう添加するのが好ましい。
【0077】
培養条件は、組換え宿主細胞が良好に生育し、かつ、導入した遺伝子がコードするそれぞれの酵素が十分に発現し、それぞれの酵素活性を示す条件であれば特に限定されない。具体的には、培養条件は、宿主の栄養生理学的性質を考慮して適宜選択すればよく、通常液体培養で行われる。培地の炭素源としては、グルコース、グリセロールなどが挙げられ、窒素源としては硫酸アンモニウム、カザミノ酸などが挙げられる。その他、塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどを所望により使用できる。
【0078】
培養温度は宿主細胞が成育し、目的の酵素を発現し、その活性が発揮される範囲で適宜変更できるが、例えば、大腸菌の場合、温度20℃、24時間、pH7.0の培養条件を用いることができる。
【0079】
目的の酵素の発現は、その酵素活性のアッセイにより確認できる。即ち、目的酵素の基質から生成物への変換をアッセイすることにより確認することが出来る。
【0080】
レチクリンの生産の確認は、当業者に周知のあらゆる手段によって確認することが出来る。具体的には、反応生成物とレチクリン標品とを、LC-MSに供し、得られるスペクトルを比較することによって同定することが出来る。また、反応生成物とレチクリン標品とのNMR分析による比較によっても確認することが出来る。
【0081】
なお、インビボでのレチクリン生産において、SAMの添加は特に必要ではない。というのは、大腸菌などの宿主細胞においては、SAMの再生システムがあり、それによって、インビボでのメチル化活性が維持されているようであるためである
【0082】
レチクリンの回収は、例えば、宿主細胞を懸濁している培地を回収し、固相抽出カートリッジ(Sep-pak等)を通してアルカロイドを吸着させ、MeOHで溶出して回収する方法が挙げられる。
【0083】
次いで、「インビトロでのレチクリン生産」について説明する。なお、本明細書において「インビトロ」とは、無細胞系を意味する。
また、インビトロでのレチクリン生産において、MAO、NCS、6OMT、CNMT、4'OMTおよびそれらをコードする遺伝子についての説明は、「インビボでのレチクリン生産」について記載したとおりである。
【0084】
まず、インビトロ第一方法は以下の工程を含む、ドーパミンからレチクリンをインビトロで生産する方法である:
MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する組換え宿主細胞を提供する工程、ここで、該組換え宿主細胞は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞に、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTをコードする遺伝子を導入することによって得られる、および、
該組換え宿主細胞から、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを含む酵素抽出液を得る工程、および、
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液を提供し、該混合液からレチクリンを産生させる工程。
【0085】
インビトロ第一方法では、宿主細胞は、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTのすべてを発現する1種類の細胞である。
【0086】
かかる組換え宿主細胞からMAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを含む酵素抽出液を得る方法は、得られた抽出液が活性のMAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTおよびSAMを含んでいる限り特に限定されない。例えば、宿主細胞を遠心分離して回収し、細胞を破砕し、遠心分離により得られた細胞の上清を酵素抽出液として用いることが出来る。
【0087】
一方、インビトロ第二方法は以下の工程を含む、ドーパミンからレチクリンをインビトロで生産する方法である:
MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを発現する細胞群を提供する工程、ここで、該細胞群は、それぞれ、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTからなる群から選択される1以上の酵素を発現する2以上の細胞からなり、少なくとも1種類の、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞を含有する、
該細胞群から、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを含む酵素抽出液を得る工程、
該酵素抽出液とドーパミンとの混合液を提供し、該混合液からレチクリンを産生させる工程。
【0088】
インビトロ第二方法で用いる細胞群は、各々が、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTからなる群から選択される1以上の酵素を発現する2種類上の細胞から構成される。細胞群は全体として、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTのすべてを発現する。該細胞群を構成する細胞のうち少なくとも1種類は、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞である。
【0089】
細胞群とは、二種類以上の細胞の集団をいう。細胞群を構成する細胞は、それぞれ、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTからなる群から選択される1以上の酵素を発現するものであり、同じ生物由来の細胞であってもよいし、異なる生物由来の細胞であってもよい。
【0090】
該細胞群から、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTを含む酵素抽出液を得る方法は得られた抽出液が活性のMAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTおよびSAMを含んでいる限り特に限定されない。例えば、細胞群を遠心分離して回収し、細胞群を合わせて破砕し、遠心分離により得られた細胞群の上清を酵素抽出液として用いてもよいし、細胞群を構成する各々の細胞を遠心分離して回収し、細胞を破砕し、遠心分離により得られた各々の細胞の上清を合わせて酵素抽出液として用いてもよい。
酵素抽出液には、トリス、HEPES、MOPSバッファー等の一般的バッファー(グッドバッファー)を含めるのが好ましく、pHは6~8に調整するのが好ましい。
【0091】
酵素抽出液とドーパミンとの混合液を用いてレチクリンを産生させる工程は第一方法および第二方法ともに同様である。この工程の条件は、MAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTのそれぞれの酵素が十分に酵素活性を示す条件であれば特に限定されない。酵素抽出液とドーパミンとの混合液は、活性のMAO、NCS、6OMT、CNMTおよび4'OMTならびにSAMを必須に含み、かつ、基質として添加したドーパミンを含む。ドーパミンの添加量は、通常最終濃度1~5mMである。
【0092】
酵素抽出液とドーパミンとの混合液を用いてレチクリンを産生させる工程の条件としては、例えば、37℃、pH7.5の条件が挙げられる。
【0093】
インビトロ第一方法および第二方法において、イソキノリンアルカロイド非生産性細胞は、大腸菌、酵母、枯草菌、糸状菌、昆虫細胞、哺乳類細胞およびイソキノリンアルカロイド非生産性植物細胞からなる群から選択される細胞であるのが好ましい。
【0094】
インビトロ第一方法においても第二方法においても、該酵素抽出液とドーパミンとの混合液には、酵素を抽出した細胞に由来するSAMが含まれているため、SAMをさらに添加する必要はない。しかし、大量のレチクリンを得るためには、SAMを添加するのが好ましい。というのは、酵素抽出液においては、細胞固有のSAMの再生システムが働かないためである。
【0095】
インビトロ第一方法および第二方法において、得られたレチクリンの生産の確認方法はインビボでの場合と同様であり、得られたレチクリンの回収方法は、酵素抽出液から周知の方法によってタンパク質を沈降させた後、固相抽出カートリッジ(Sep-pak等)を通してアルカロイドを吸着させ、MeOHで溶出して回収する方法が挙げられる。
【0096】
本発明のインビトロのレチクリン生産方法によると、光学活性の(S)-レチクリンが得られる。光学純度は、キラルカラムを用いたHPLCによる光学異性体分離や、旋光計を用いた比旋光度測定により測定することが出来る。
【0097】
以上、ドーパミンを基質とし、レチクリンを生産する方法について説明したが、本発明の方法はドーパミンとともにそれ以外のアミンを共存する基質とし、レチクリン以外のアルカロイド類を生産するためにも用いることが出来る。基質として用いられるドーパミン以外のアミンとしては、チラミン、2-フェニルエチルアミン、O-メチルチラミン、3-O-メチルドーパミン、5-ヒドロキシドーパミン、トリプタミンが例示される。かかるアミンを用いる場合、それぞれレチクリンに加えて、ノルコクラウリン、N-メチルコクラウリン、N,4’-ジメチルコクラウリン(以上チラミンとの共存)、7-イソキノリノール, 1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メトキシ-1-(フェニルメチル)-、7-イソキノリノール, 1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メトキシ-2-メチル-1-(フェニルメチル)-(以上、2-フェニルエチルアミンとの共存)、4’-O-メチルノルコクラウリン、N,4’-ジメチルノルコクラウリン、N,4’-ジメチルコクラウリン(以上、O-メチルチラミンとの共存)、3’-O-メチルノルコクラウリン、3'-O-メチル-N-メチルコクラウリン、3’-O-メチルレチクリン(以上、3-O-メチルドーパミンとの共存)、3’,5’-ジヒドロキシノルコクラウリン、3’,5’-ジヒドロキシ-4’O-メチルコクラウリン(以上、5-ハイドロキシドーパミンとの共存)、6-O-メチル- 7ヒドロキシ- インドリルメチル-1,2,3,4テトラハイドロイソキノリン(トリプタミンとの共存)が生産される。
【実施例】
【0098】
実施例の概要
大腸菌においてベンジルイソキノリンアルカロイドを生産させるために、本発明者らはベンジルイソキノリンアルカロイド経路を改変した(図1b)。ベンジルイソキノリンアルカロイド生合成は、チロシンのドーパミンと4-HPAAへの変換により開始し、ドーパミンと4-HPAA がNCSにより縮合して(S)-ノルコクラウリンを生じる。しかしこれらの最初の工程はいまだによく特徴決定されていないため、多様なベンジルイソキノリンアルカロイドの効率的な産生のために再構成するのは困難である。
【0099】
このような複雑な状況を簡単にするために、モノアミンオキシダーゼ (MAO)、NCS、6OMT、CNMT、および4'OMTをレチクリンの合成に用いた。ドーパミンと3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド (3,4-DHPAA)とをカップリングさせることにより、CYP80B によるヒドロキシラーゼの工程を省略した。MAOはケシにおけるアルカロイド生合成においては役割を有していないようであるため(Schmidt, J., Boettcher, C., Kuhnt, C., Kutchan, T.M., & Zenk, M.H. Poppy alkaloid profiling by electrospray tandem mass spectrometry and electrospray FT-ICR mass spectrometry after [ring-13C6]-tyramine feeding. Phytochemistry 68, 189-202 (2007))、微生物由来のMAOをレチクリン生合成系に導入して、MAOによるドーパミンの脱アミノ化により3,4-DHPAAを合成させた。
【0100】
すべての酵素を含む発現ベクターを単一のベクター中に構築して大腸菌にて発現させると、インビボ(大腸菌細胞内)およびインビトロ(大腸菌からの酵素抽出液)システムの両方でドーパミンからレチクリンが産生できた。
【0101】
微生物システムにおけるレチクリン産生のために、レチクリン生合成遺伝子をトランスジェニック大腸菌中に発現させた。2 mM ドーパミンを培地に添加することにより、トランスジェニック大腸菌は培地中に(R,S)-レチクリンを20時間以内で収率1.7 mg /l 培養液にて産生した。組換え大腸菌によるレチクリンの生合成では、添加するドーパミン濃度を5mMまで上げることで(R.S)-レチクリンが11mg/Lの収量で得られた。
【0102】
(R,S)-レチクリンはメチル-基供与体であるS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)を添加しなくても産生された。これは以前に報告されているように、大腸菌細胞におけるSAMの再生システムが生物変換の際にインビボメチル化活性を維持するのに有用であるためと考えられる(Morishige, T., Choi, K.B., & Sato, F. In vivo bioconversion of テトラヒドロisoquinoline by recombinant coclaurine N-methyltransferase. Biosci. Biotechnol. Biochem. 68, 939-941 (2004))。
【0103】
NCSは、立体特異的に光学異性体、(S)-形態を産生するのに、大腸菌において産生されたレチクリンはラセミ形態であった。NCS以外の4つのレチクリン生合成遺伝子(MAO、6OMT、CNMTおよび4'OMT)を発現する大腸菌細胞でもラセミ形態の(R,S)-レチクリンが同じでベルで産生された(データ示さず)。これらの結果は、NCSは活性の形態で産生されるのにもかかわらず(データ示さず)大腸菌細胞においてうまく機能することが出来なかったことを示す。この結果は、ノルコクラウリンを形成する縮合反応が化学反応として起こったことを示す。
【0104】
レチクリンのインビトロでの高産生を調べるため、トランスジェニック大腸菌細胞からの酵素抽出液をS-アデノシルメチオニン(SAM)と混合してレチクリンを合成させた。驚くべきことに、立体特異的に(S)-レチクリンが精製および各酵素レベルの微調整をしなくても酵素抽出液によりドーパミンとSAMから合成された。コデイノン還元酵素のRNAiによる植物代謝工学では (R)-形態を排除することは出来ないのに対し(Allen, R.S. et al. RNAi-mediated replacement of morphine with the nonnarcotic alkaloid reticuline in opium poppy. Nat. Biotechnol. 22, 1559-1566 (2004))、 (R)-レチクリンの形成は本発明者らのシステムでは検出されなかった。2 mMドーパミンから、(S)-レチクリンは60分間で収率 22 mg /lで合成された。
【0105】
収量は十分に高く、レチクリン以外の中間体は存在しなかったことから、本発明者らのシステムにおいて反応生成物である(S)-レチクリンを精製するのは容易であった。ドーパミンの添加量を増加させることにより、大腸菌より発現した酵素抽出液を用いて、55mg/Lの(S)-レチクリンが得られた。5mMドーパミンではSAMの添加がないと収率は低いものの、2mMドーパミンでは、SAMを添加した場合と比べてSAMを添加しない場合でも9割程度の合成率であった。
【0106】
メチルトランスフェラーゼ酵素はSAMを添加しなくても測定可能に反応していた(データ示さず)。 本発明者らの微生物システムは、光学活性化合物、(S)-レチクリンを植物培養細胞の発酵システムと比較して、安定且つ短時間で供給することが出来る。
【0107】
実施例1
大腸菌でのレチクリン合成
イソキノリンアルカロイドの中間産物であるレチクリンは、ドーパミンと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとの重合反応後、3段階のメチル化と1段階のヒドロキシル化を経て生合成されることが知られている(図1a)。本発明者らは、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドのかわりに3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを用いることで、ヒドロキシル化のステップを省略できることを見いだした。さらに微生物 (Micrococcus luteus) 由来のモノアミンオキシダーゼ (MAO) を用いることで、ドーパミンから3,4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを合成できる。すなわち、本発明によると、ドーパミンのみから効率的にレチクリン合成が可能になる(図1b)。
【0108】
実験手順
試薬
ドーパミン は Sigma-Aldrich から購入した。
【0109】
レチクリン生合成遺伝子を含む発現ベクター pKK223-3 および pACYC184 の構築
レチクリン合成に必要な酵素、MAO、ノルコクラウリンシンターゼ (NCS(CjPR10、配列番号2にコードされる))、ノルコクラウリン 6-O-メチルトランスフェラーゼ (6OMT)、コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ (CNMT)、3’-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン-4’-O-メチルトランスフェラーゼ (4’OMT) に対して、各上流に tac プロモーター もしくは T7 プロモーターを付加し、2種類の発現ベクターに組み込んだ (図2)。このプラスミドで 大腸菌 BL21 (DE3) を形質転換し、発現株を構築した。詳細を以下に示す。
【0110】
1)レチクリン生合成遺伝子 (MAO、NCS) を含む発現ベクター pKK223-3 の構築(図2左)
Micrococcus luteus MAO 遺伝子を含む発現ベクター pKK223-3 の構築
全長 M. luteus MAO cDNA の PCR 増幅を行い、MAO 用大腸菌発現ベクターを pKK223-3 中に構築した。PCR には以下のオリゴヌクレオチドを用いた:
フォワードプライマー、5’TTGAATTCATGAGCAACCCGCATGTCGTG3’(配列番号6) (これには ATG 開始コドンの前に EcoRI 制限部位を含めた (下線));
リバースプライマー、5’CTAAGCTTCAGGCGCGGATGTCCCGGAG3’ (配列番号7)(これは cDNA の 3’ 末端と相補的であり、TGA 停止コドンの後ろに、HindIII 制限部位を含めた (下線))。
PCR を以下の条件で行った: 最初の変性工程、2 分、94℃; 15 秒、94℃の変性、30 秒、50℃のアニーリング、90 秒、68℃の DNA 伸長からなるサイクルを 30 サイクル、そして最後の 68℃、5 分の伸長、これには KOD-plus DNA ポリメラーゼ (東洋紡) を用いた。PCR 断片を EcoRI および HindIII 制限酵素で切断した pKK223-3 ベクター (Pharmacia) にサブクローニングした。M. luteus MAO cDNA 断片を pKK223-3 中 tac ポリメラーゼプロモーターの制御下においた。DNA インサートの両鎖を配列決定し、PCR 増幅中に突然変異が導入されていないことを確認した。
【0111】
Micrococcus luteus MAO 遺伝子とオウレン NCS 遺伝子を含む発現ベクター pKK223-3 の構築
オウレン NCS 遺伝子を含む発現ベクター pET41a (Minami, H. et al. Journal of Biological Chemistry, 282, 6274-6282 (2007))をDNAの鋳型としてPCRを行った。PCRには以下のオリゴヌクレオチドを用いた:
NCS用オリゴヌクレオチド
フォワードプライマー、5'-ACTCGCGATCCCGCGAAATTAATACG-3' (配列番号8) (これにはT7ポリメラーゼプロモーターの前に NruI 制限部位を含めた (下線));
リバースプライマー、5'-CAGGATCCAGCAAAAAACCCCTCAAGAC-3' (配列番号9)(これは cDNA の 3’ 末端と相補的であり、T7ターミネーターの後ろに、BamHI 制限部位を含めた (下線))。
PCR断片を、NruI および BamHI 制限酵素で切断した M. luteus MAO 遺伝子を含む発現ベクター pKK223-3 にサブクローニングした。
【0112】
2) レチクリン生合成遺伝子 (6OMT, CNMT, 4’OMT) を含む発現ベクター pACYC184 の構築(図2右)
全長オウレン6OMT、CNMT、4’OMT cDNA の大腸菌発現ベクターの構築は、上記 M. luteus MAO 遺伝子を含む発現ベクター pKK223-3 の構築と同様にして行った。オウレン 6OMT、CNMT、4’OMT 遺伝子を含む発現ベクター pET21d (Morishige, T. et al. Journal of Biological Chemistry, 275, 23398-23405 (2000), Choi, K.B. et al. Journal of Biological Chemistry, 277, 830-835 (2002)) を DNA の鋳型として PCR を行った。PCR には以下のオリゴヌクレオチドを用いた:
6OMT 用オリゴヌクレオチド
フォワードプライマー、5’AGGTACCGATCCCGCGAAATTAATACG3’ (配列番号10)(これには T7 ポリメラーゼプロモーターの前に KpnI 制限部位を含めた (下線));
リバースプライマー、5’CAGATCTAATATGGATAAGCCTCAATCAC3’ (配列番号11)(これは cDNA の 3’ 末端と相補的であり、TAG 停止コドンを含む、BglII 制限部位を含めた (下線))。
4’OMT 用オリゴヌクレオチド
フォワードプライマー、5’CAGATCTGATCCCGCGAAATTAATACG3’ (配列番号12)(これには T7 ポリメラーゼプロモーターの前に BglII 制限部位を含めた (下線));
リバースプライマー、5’TGGATCCTATGGAAAAACCTCAATGACTG3’ (配列番号13)(これは cDNA の 3’ 末端と相補的であり、TAG 停止コドンを含む、BamHI 制限部位を含めた (下線))。
CNMT 用オリゴヌクレオチド
フォワードプライマー、5’ TGGATCCGATCCCGCGAAATTAATACG3’ (配列番号14)(これには T7 ポリメラーゼプロモーターの前に BamHI 制限部位を含めた (下線));
リバースプライマー、5’ ACCTGCAGGCAGCAAAAAACCCCTCAAGAC 3’ (配列番号15)(これは cDNA の 3’ 末端と相補的であり、T7 ターミネーターの後ろに、PstI 制限部位を含めた (下線))。
3つの遺伝子の PCR 断片を KpnI および PstI 制限酵素で切断した pUC18 ベクターにサブクローニングした。この 3つの遺伝子を含む発現ベクター pUC18 より、PvuII-PvuII 断片を、EcoRV および NruI 制限酵素で切断した pACYC184 ベクターにサブクローニングした。
【0113】
大腸菌における組換えレチクリン生合成遺伝子の発現
レチクリン生合成遺伝子発現プラスミド (pKK223-3 および pACYC184) を大腸菌 BL21 (DE3) に導入した。これら組換え大腸菌細胞を 100 μg/ml のアンピシリンと 50 μg/ml のクロラムフェニコールを含む LB 培地 100 ml 中で 37℃で 80 rpm にて培養した。IPTG (イソプロピル-β-D-チオガラクトシド) を大腸菌の OD600 が 0.5 となった時点で終濃度 1 mM となるように添加した。細胞をさらに 24 時間 20℃で培養した。
細胞を 8,000 rpm、5 分、4℃の遠心分離によって回収した。ペレットを 3 ml の抽出バッファー (50 mM Tris-HCl (pH7.5)、10%グリセロール、5 mM 2-メルカプトエタノール) に再懸濁し、Sonic (Vibra-cell VC-130, Sonics&Materials Inc.) で超音波処理した (出力設定 15 で60 秒×3 回)。粗抽出物を 10,000 xg で5 分遠心分離し、細胞フリーの上清を得た。上清を酵素抽出液としてインビトロレチクリン合成に用いた。
【0114】
実施例2
インビボレチクリン生合成
大腸菌体内でのレチクリン生合成は、以下の点を除いては、上記大腸菌における組換えレチクリン生合成遺伝子の発現実験と同様にして行った。
IPTG 添加時に、終濃度 2 mM となるようにドーパミンを添加した。細胞をさらに 20 時間 25℃で培養した。培養液を 10,000 xg で5 分遠心分離し、菌体を除いた。遠心上清に等量のメタノールを加え、培地中のたんぱく質を除去した。培地中のレチクリンを LC-MS (API 3200TM with AgilentTm HPLC system, Applied Biosystems Japan Ltd) にて測定した。
【0115】
結果
インビボレチクリン生合成
培地中のレチクリンを測定した結果、レチクリン生合成遺伝子発現株により、(R,S)-レチクリンが生合成された (図3)。収量は、1.7 mg/L であった。添加するドーパミン濃度を 5 mM まで上げることで、(R,S)-レチクリンの収量は 11 mg/L まで増加した。
【0116】
実施例3
インビトロレチクリン合成
インビトロでのレチクリン合成を行い、LC-MS で測定した。100 μl の標準酵素反応混合物は以下からなるものであった: 100 mM トリスバッファー、pH 7.5、1 mM のSAM (S-アデノシルメチオニン)、70 μl の酵素抽出液および 2 mM の ドーパミン。
反応混合物を 60 分、37℃でインキュベートした。反応を等量のメタノールの添加により停止させた。タンパク質が沈降した後、反応生成物を LC-MS を用いて定性、定量した。
【0117】
LC-MS によるレチクリン測定
サンプルを ODS-80Ts (Tosoh) に注入し、カラム温度 40℃、流速 0.7 ml/分で溶出した。移動相は 40% アセトニトリル+0.1% 酢酸であった。MS は ESI、ポジティブモードで、ドーパミンからレチクリンまでの全ての生成物(m/z=153, 154, 288, 302, 316, 330) を測定した。レチクリンの定量は、m/z=330のピーク面積の測定により行った。検量線を用いてピーク面積をレチクリン量に変換した。
【0118】
レチクリンの光学分割には、SUMICHIRAL-CBH カラム (Sumika Chemical Analysis Service) を用い、カラム温度 25℃、流速 0.4 ml/分で溶出した。移動相は 0.1%酢酸-アセトニトリル (95:5[Vol/Vol], pH 7.0) であった。
【0119】
結果
インビトロレチクリン合成
酵素抽出液により、2 mM ドーパミンから (S)-レチクリンが 22 mg/L 合成された。反応は完全に進行し、レチクリン以外の中間産物は見られなかった (図4)。ドーパミン濃度を 5 mM まで上げることで、合成された (S)-レチクリン量は、55 mg/L まで増加した。
【0120】
本発明者らは、ベンジルイソキノリンアルカロイド経路が微生物システムにて構築されたこと、および大腸菌細胞が植物アルカロイドを産生する能力を獲得したことを初めて示す。本発明者らのシステムにおいて、中間体生成物であるレチクリンを、大腸菌中でドーパミンのみから産生することに成功した。
【0121】
実施例4
3'-ヒドロキシノルコクラウリン(ノルラウダノソリン)からレチクリンまでのベンジルイソキノリンアルカロイド経路におけるその他の中間体の生合成を、様々な組合せのメチルトランスフェラーゼ酵素の生合成遺伝子(6OMT、CNMTおよび4'OMT)を発現するトランスジェニック大腸菌細胞を用いて調べた。結果を図5に示す。LC-MS分析により明らかに、(S)-レチクリンまでの4種のベンジルイソキノリン中間体が本発明者らのインビトロ方法を用いて主要生成物として合成されることが示された。インビボでの有効な生物変換も6OMTを導入していない組換え大腸菌と比較してMAO、NCSおよび6OMTを導入した組換え大腸菌では培地が明色になることにより示された(6OMTを導入していない組換え大腸菌では培地は黒くなった)。これらの結果は、CNMTまたは4'OMT反応が、ベンジルイソキノリンアルカロイド生合成において重要な役割を果たしている6OMT反応なしでは進行しないことを明らかに示す。これらの結果はオウレン細胞において6OMTが律速段階の酵素であることが示されたことおよび4’OMTの活性がN-メチル化により制御されていることと一致している。
【0122】
実施例5
マグノフロリン/スコウレリン生産のための発現ベクターの構築およびその出芽酵母における発現
P450 および酵母 NADPH-P450 レダクターゼのための共発現ベクター pGYRはDr. Y. Yabusaki、Sumitomo Cemicals Co.、Ltd.から譲り受けた。このベクターはグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ プロモーターおよびターミネーターを含むものであった (Sakaki T, Akiyoshi-Shibata M, Yabusaki Y, Ohkawa H (1992) Organella-targeted expression of rat liver cytochrome P450c27 in yeast. J Biol Chem 267: 16497-16502)。pGYRのクローニング部位をさらに改変してSpeI 部位を含むようにしてpGYR-SpeIを構築した。全長 CYP80G2 cDNAを、オウレン培養細胞の1.3 μgのトータルRNAからオリゴ (dT) プライマーおよび SuperScript III RNase H-逆転写酵素 (Invitrogen)を用いて合成した一本鎖 cDNAを用いたPCRにより増幅し、pGYR-SpeI のSpeI 部位 にライゲーションして酵母発現ベクター、pGS-CYP80G2 を作成した(Ikezawa et al.Molecular cloning and characterization of CYP80G2, a cytochrome P450 which catalyzes an intramolecular C-C phenol coupling of (S)-reticuline in magnoflorine biosynthesis, from cultured Coptis japonica cells. J Biol Chem,in press, 2008)。CNMTの発現ベクターは以下に記載するように構築した。全長 CNMT cDNAをKpnI-CNMT-Fプライマー(5'-TATGGTACCATGGCTGTGGAAGCAAAGCAA-3'(配列番号16)) および CNMT-SalI-R プライマー(5'-CCAGTCGACTCATTTTTTCTTGAACAGAAC-3' (配列番号17))を用いてPCRにより増幅した。CNMT 遺伝子のPCR産物をpAUR123 ベクター (Takara Shuzo Co.)の KpnIおよび SalI 部位にライゲーションし、酵母発現ベクター、pAUR123-CNMTを作成した。BBEの発現ベクターを構築するために、全長 BBE cDNAを CYP80G2について行ったのと同様にしてPCRにより増幅し、pYES2 ベクター (Invitrogen)のHindIII および EcoRI 部位にライゲーションし、酵母発現ベクター、pYES2-BBEを作成した(Ikezawa et al.、データ未公表)。pYES2-BBEの作成用プライマーとしては、HindIII-BBE-Fプライマー(5'-ATAAAGCTTATTATGCGAGCAACGCATACAATTATCTC-3'(配列番号18))および、BBE-EcoRI-Rプライマー(5'-TGAATTCTTTAGATAACAATATTTCCTCTACATCCAACACC-3'(配列番号19))を用いた。
【0123】
マグノフロリンまたはスコウレリンのインビボ生産のために、それぞれLiCl法 (Ito H, Fukuda Y, Murata K, Kimura A (1983) Transformation of intact yeast cells treated with alkali cations. J Bacteriol 153: 163-168)により、CYP80G2 およびCNMTの発現プラスミドを酵母株 AH22に導入し (Oeda K, Sakaki T, Ohkawa H (1985) Expression of rat liver cytochrome P-450MC cDNA in Saccharomyces cerevisiae. DNA 4: 203-210)、BBEの発現プラスミドをBJ5627に導入した。これらの組換え酵母細胞をSD 培地で 28℃、180 rpmで、文献に記載されているようにして培養した(Ikezawa N, et al. (2003) Molecular cloning and characterization of CYP719, a methylenedioxy bridge-forming enzyme that belongs to a novel P450 family, from cultured Coptis japonica cells. J Biol Chem 278: 38557-38565)。
【0124】
微生物におけるマグノフロリンまたはスコウレリン生産
マグノフロリンのインビボ生産のために、大腸菌細胞を25℃で12時間、5 mM ドーパミンを含むLB 培地でIPTG 誘導をかけてインキュベートし、CYP80G2およびCNMTを発現する出芽酵母細胞を28℃で20 時間SD 培地でインキュベートした。出芽酵母細胞および2 % グルコースを大腸菌培地に添加し、28℃でのインキュベーションをさらに72時間行った。スコウレリン生産のために、BBEを発現する出芽酵母細胞および2 % ガラクトースを大腸菌培地に添加し、28℃でのインキュベーションをさらに48時間マグノフロリン生産の場合と同様にして行った。培地を回収し、等容量のメタノールによるタンパク質沈降後の上清を用いてマグノフロリン/スコウレリン生産をLC-MSにより測定した。(図6-Aおよび6-B)
【0125】
生成物のLC-MS 分析
ベンジルイソキノリンアルカロイド生産をLC-MS (API 3200TM、Applied Biosystems Japan Ltd.) により、AgilentTm HPLC システム: カラム、ODS-80Ts (4.6×250 mm; Tosoh Inc.)を用いて測定した; 溶媒系、0.1% 酢酸を含有する20% アセトニトリル; 流速、0.5 ml/分、40℃。生成物を標準化学物質との共溶出、およびLC-MS/MSにおいて断片化スペクトルについての標準化学物質との比較により同定した。
【0126】
(R)および(S)形態のレチクリンを識別するためには、LC-MS によりキラルカラム(SUMICHIRAL-CBH、4.0×100 mm; Sumika Chemical Analysis Service)を用いた。溶媒系はNH4OHでpH 7.0に調整した0.1% 酢酸を含有する5% アセトニトリル; 流速、0.4 ml/分、25℃。
【0127】
LC-MSの結果、図6-Aは、マグノフロリン(m/z342)やコリツベリン(m/z328)が得られたことを示す。図6-Bは、(S)-スコウレリン(m/z328)、(S)-N-メチルスコウレリン(m/z342)が得られたことを示す。
【0128】
実施例6
実施例1に記載の大腸菌を用いて、実施例2と同様の方法により、様々なアルカロイド類のインビボでの合成を行った。この実施例では、ドーパミンと共に共存するアミンとして、チラミン、2-フェニルエチルアミン、O-メチルチラミン、3-O-メチルドーパミン、5-ヒドロキシドーパミンを用いた。また、実施例1に記載の大腸菌から得られた酵素抽出物を用いて、実施例3と同様の方法により、ただし、ドーパミンと共に、トリプタミンを共存させ、アルカロイド類のインビトロでの合成を行った。得られたアルカロイド類の構造およびLC-MS分析の結果を図7-1~7-3に示す。チラミン、2-フェニルエチルアミン、O-メチルチラミン、3-O-メチルドーパミン、5-ヒドロキシドーパミンおよびトリプタミンから、それぞれレチクリンに加えて、ノルコクラウリン(m/z=272)、N-メチルコクラウリン(m/z=300)、N,4’-ジメチルコクラウリン(m/z=314)(以上チラミンとの共存)、7-イソキノリノール、1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メトキシ-1-(フェニルメチル)-(m/z=270)、7-イソキノリノール、
1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メトキシ-2-メチル-1-(フェニルメチル)-(m/z=284)(以上、2-フェニルエチルアミンとの共存)、4’-O-メチルノルコクラウリン(m/z=286)、N,4’-ジメチルノルコクラウリン(m/z=300)、N,4’ジメチルコクラウリン(m/z=314)(以上,O-メチルチラミンとの共存)、3’-O-メチルノルコクラウリン(m/z=302)、3'-O-メチル-N-メチルコクラウリン(m/z=330)、3’-O-メチルレチクリン(m/z=344)(以上、3-O-メチルドーパミンとの共存)、3’,5’-ジヒドロキシノルコクラウリン(m/z=304)、3’,5’-ジヒドロキシ-4’O-メチルコクラウリン(m/z=332)(以上、5-ハイドロキシドーパミンとの共存)、6-O-メチル-7ヒドロキシ-インドリルメチル-1,2,3,4テトラハイドロイソキノリン(m/z=323)(トリプタミンとの共存)と考えられる化合物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
微生物酵素遺伝子と植物由来遺伝子とを組み合わせる代謝工学は、医薬産業に微生物システムのさらなる進歩を提供する。本発明により、抗マラリア薬および抗癌薬を製造する新しい機会が開発される。というのは、チロシンからレチクリンへのベンジルイソキノリンアルカロイド生合成における初期の工程は多くのイソキノリンアルカロイドの生合成に共通しており、レチクリンはすべてのベンジルイソキノリンアルカロイドの普遍的な前駆体であるからである。
【0130】
本発明者らのシステムにより、新規または有用な目的のさらなる中間体の産生が可能となった。(S)-レチクリンは、BBE およびP450-依存性オキシダーゼにより、ベンゾフェナントリジンアルカロイド、例えば、サンギナリンおよびチェレリスリンに、またはCNMTおよびコリツベリンシンターゼにより、アポルフィンアルカロイド、例えば、マグノフロリンおよびイソボルジンに変換する(CYP80G2; Ikezawa, N., Iwasa, K., and Sato, F., Molecular cloning and characterization
of CYP80G2, a cytochrome P450 that catalyzes an intramolecular C-C phenol
coupling of (S)-reticuline in magnoflorine biosynthesis, from cultured
Coptis japonica cells. J. Biol. Chem. 283, 8810-8821 (2008))。このシステムは広範なベンジルイソキノリンアルカロイドの製造のための微生物システムの基礎として役立ちうる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6-A】
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【図6-B】
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【図7-1】
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【図7-2】
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【図7-3】
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