TOP > 国内特許検索 > 測定により場を取得する装置および方法 > 明細書

明細書 :測定により場を取得する装置および方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4878063号 (P4878063)
登録日 平成23年12月9日(2011.12.9)
発行日 平成24年2月15日(2012.2.15)
発明の名称または考案の名称 測定により場を取得する装置および方法
国際特許分類 G01Q  60/50        (2010.01)
G01Q  60/30        (2010.01)
FI G01Q 60/50
G01Q 60/30
請求項の数または発明の数 18
全頁数 31
出願番号 特願2009-509223 (P2009-509223)
出願日 平成20年3月28日(2008.3.28)
国際出願番号 PCT/JP2008/056137
国際公開番号 WO2008/123432
国際公開日 平成20年10月16日(2008.10.16)
優先権出願番号 2007091856
優先日 平成19年3月30日(2007.3.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年9月25日(2009.9.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】木村 建次郎
【氏名】小林 圭
【氏名】山田 啓文
【氏名】松重 和美
【氏名】堀内 喬
【氏名】佐藤 宣夫
【氏名】中井 章文
個別代理人の代理人 【識別番号】100110847、【弁理士】、【氏名又は名称】松阪 正弘
審査官 【審査官】荒巻 慎哉
参考文献・文献 特開2000-275206(JP,A)
特開2006-031413(JP,A)
特開平09-160903(JP,A)
特開2000-039414(JP,A)
国際公開第2005/050186(WO,A1)
Bradley J. Roth, et al,Using a magnetometer to image a two-dimensional current distribution,J. Appl. Phys.,米国,American Institute of Physics,1989年 1月,Vol. 65, No. 1,p361 - 372
調査した分野 G01Q 60/50
G01Q 60/30
特許請求の範囲 【請求項1】
対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲または内部に形成され、かつ、ラプラス方程式を満たす3次元スカラー場を示す場関数であるφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)またはφ(x,y,z)をzにて1回以上微分したものを取得する3次元場取得装置であって、
対象物の外部または内部に、z=0を満たす測定面が設定されており、前記3次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の前記測定面における分布を2次元の第1測定値群として取得し、前記一の種類の測定値を示す関数をzにて1回微分したものに対応する測定値の前記測定面における分布を2次元の第2測定値群として取得する測定値群取得部と、
前記第1測定値群および前記第2測定値群に基づいて、前記測定面におけるφ(x,y,z)のzによるq回微分であるφ(q)(x,y,0)およびp回微分であるφ(p)(x,y,0)(ただし、p,qは0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数である。)を求め、φ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求め、さらに、ψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)からφ(q)(x,y,z)をフーリエ変換したものを導くことにより、φ(q)(x,y,z)を求める演算部と、
を備える。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元場取得装置であって、
前記演算部が、
【数21】
JP0004878063B2_000022t.gif
によりφ(q)(x,y,z)を求める。
【請求項3】
請求項1または2に記載の3次元場取得装置であって、
pが(q+1)であり、前記第1測定値群がφ(q)(x,y,0)を示し、
前記測定値群取得部が、
前記3次元スカラー場に由来する前記一の種類の測定値の分布を2次元の測定値群として取得する測定部と、
前記測定面において前記測定部により取得された前記第1測定値群と、前記測定面から微小距離だけZ方向に離れた面において前記測定部により取得された中間測定値群との差分測定値群を求め、前記差分測定値群を前記微小距離で除算した微分測定値群を前記第2測定値群として取得する微分測定値群生成部と、
を備える。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元場取得装置であって、
前記3次元スカラー場が、磁位、電位、温度または重力ポテンシャルの場である。
【請求項5】
請求項4に記載の3次元場取得装置であって、
qが0または1である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の3次元場取得装置であって、
前記演算部が、φ(q)(x,y,z)のzに前記対象物の表面の位置または表面に近接する位置を示す値を代入する。
【請求項7】
磁気力顕微鏡であって、
磁位の3次元場または前記磁位の場から導かれる3次元場を取得する請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元場取得装置を備え、
前記演算部が、φ(q)(x,y,z)のzに前記対象物の表面の位置または表面に近接する位置を示す値を代入する。
【請求項8】
対象物の表面に記録された情報を読み取る情報読取装置であって、
請求項6に記載の3次元場取得装置を備え、
前記演算部が、φ(q)(x,y,z)のzに前記値が代入されたものに基づいて前記表面に記録された情報を取得する。
【請求項9】
請求項8に記載の情報読取装置であって、
前記3次元スカラー場が磁位の場である。
【請求項10】
対象物の内部の電気的回路を流れる電流分布を測定する電流分布測定装置であって、
前記回路に電流を流すことにより生じる磁位の3次元場または前記磁位の場から導かれる3次元場を取得する請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元場取得装置を備え、
前記演算部が、φ(q)(x,y,z)のzに前記対象物の内部の位置を示す少なくとも1つの値を代入し、代入結果に基づいて前記回路の電流分布を求める。
【請求項11】
請求項10に記載の電流分布測定装置であって、
前記演算部が、前記電流分布から前記回路の欠陥を検出する。
【請求項12】
構造物の内部を検査する非破壊検査装置であって、
構造物内の残留応力または腐食により生じる磁位の3次元場または前記磁位の場から導かれる3次元場を取得する請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元場取得装置を備える。
【請求項13】
対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲または内部に形成され、かつ、ラプラス方程式を満たす3次元スカラー場を示す場関数であるφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)またはφ(x,y,z)をzにて1回以上微分したものを取得する3次元場取得方法であって、
a)対象物の外部または内部に、z=0を満たす測定面が設定されており、前記3次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の前記測定面における分布を2次元の第1測定値群として取得する工程と、
b)前記一の種類の測定値を示す関数をzにて1回微分したものに対応する測定値の前記測定面における分布を2次元の第2測定値群として取得する工程と、
c)前記第1測定値群および前記第2測定値群に基づいて、前記測定面におけるφ(x,y,z)のzによるq回微分であるφ(q)(x,y,0)およびp回微分であるφ(p)(x,y,0)(ただし、p,qは0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数である。)を求める工程と、
d)φ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求める工程と、
e)ψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)からφ(q)(x,y,z)をフーリエ変換したものを導くことにより、φ(q)(x,y,z)を求める工程と、
を備える。
【請求項14】
請求項13に記載の3次元場取得方法であって、
前記e)工程において、
【数22】
JP0004878063B2_000023t.gif
によりφ(q)(x,y,z)が求められる。
【請求項15】
対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲または内部に形成され、かつ、ラプラス方程式を満たす3次元スカラー場を示す場関数であるφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)またはφ(x,y,z)をzにて1回以上微分したものをコンピュータに取得させる3次元場取得プログラムであって、前記プログラムの前記コンピュータによる実行は、前記コンピュータに、
a)対象物の外部または内部に、z=0を満たす測定面が設定されており、前記3次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の前記測定面における分布として取得された2次元の第1測定値群と、前記一の種類の測定値を示す関数をzにて1回微分したものに対応する測定値の前記測定面における分布として取得された2次元の第2測定値群とに基づいて、前記測定面におけるφ(x,y,z)のzによるq回微分であるφ(q)(x,y,0)およびp回微分であるφ(p)(x,y,0)(ただし、p,qは0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数である。)を求める工程と、
b)φ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求める工程と、
c)ψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)からφ(q)(x,y,z)をフーリエ変換したものを導くことにより、φ(q)(x,y,z)を求める工程と、
を実行させる。
【請求項16】
請求項15に記載の3次元場取得プログラムであって、
前記c)工程において、
【数23】
JP0004878063B2_000024t.gif
によりφ(q)(x,y,z)が求められる。
【請求項17】
対象物の存在に起因して少なくとも前記対象物の周囲または内部に形成され、かつ、
【数24】
JP0004878063B2_000025t.gif
を満たすn次元スカラー場を示す場関数であるφ(x,x,…,x)(ただし、nは2以上の整数であり、x,x,…,xはn次元を表現するパラメータを示す。)またはφ(x,x,…,x)をx(ただし、mはn以下の正の整数である。)にて1回以上微分したものを取得するn次元場取得装置であって、
対象物の外部または内部に、x=0を満たす(n-1)次元の測定空間が設定されており、前記n次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の前記測定空間における分布を(n-1)次元の第1測定値群として取得し、前記一の種類の測定値を示す関数をxにて1回微分したものに対応する測定値の前記測定空間における分布を(n-1)次元の第2測定値群として取得する測定値群取得部と、
前記第1測定値群および前記第2測定値群に基づいて、前記測定空間におけるφ(x,x,…,x)のxによるq回微分であるφxm(q)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびp回微分であるφxm(p)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)(ただし、p,qは0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数である。)を求め、φxm(q)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびφxm(p)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)をそれぞれフーリエ変換してψxm(q)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)およびψxm(p)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)(ただし、kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxnはx,x,…,xm-1,xm+1,…,xに関する波数である。)を求め、さらに、ψxm(q)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)およびψxm(p)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)からφxm(q)(x,x,…,x)をフーリエ変換したものを導くことにより、φxm(q)(x,x,…,x)を求める演算部と、
を備える。
【請求項18】
請求項17に記載のn次元場取得装置であって、
前記演算部が、
【数25】
JP0004878063B2_000026t.gif
によりφxm(q)(x,x,…,x)を求める。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁位、電位、温度、重力ポテンシャル等の3次元場、さらには時間等を含めて拡張された高次元の場や2次元の場を測定により取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体である磁性体への磁気記録の高密度化と並行して、磁性体上の磁区の構造を評価する装置の開発が行われており、スピン偏極電子を用いた走査トンネル顕微鏡や走査電子顕微鏡が5nm以下の分解能を持つと期待されている。しかし、これらの装置は極めて清浄な磁性体表面の観察しか行うことができず、実用的な評価装置または製造ライン上の検査装置としての応用は容易ではない。そこで、磁区構造の評価装置として、絶縁性保護膜上においても磁区構造を観測可能な磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscopy、以下、「MFM」という。)の利用が提案されている。MFMでは磁性体または電流経路を持つカンチレバーの探針が試料からの漏洩磁場により受ける力を検出するが、試料表面と探針間の測定距離が小さすぎると、試料表面と探針との間のファンデルワールス力の影響が大きくなり定量的な磁区構造の観測が困難になるため、一定距離以上、探針を試料表面から離すことが定量的な測定には不可欠となる。その結果、現状では空間分解能は10nm以下に留まっている。
【0003】
一方、ブラッドレイ・J・ロス(Bradley J. Roth)、外2名、「二次元電流分布を画像化するための磁力計の使用(Using a magnetometer to image a two-dimensional current distribution)」、応用物理学会誌(Journal of Applied Physics)、(米国)、アメリカ物理学会(American Institute of Physics)、1989年1月1日、第65巻、第1号、p.361-372(文献1)では、超伝導磁束量子干渉計を用いて磁束変化を計測する実験において、電流と磁場との関係をビオ・サバールの法則を用いて数式化し、試料表面の上方において測定した磁場から電流密度分布を求めるという手法が提案されている。なお、特開2002-257705号公報(文献2)では、MFMにより薄膜表面および薄膜断面を含めた磁化状態の情報取得の可能性について言及されており、特開2002-366537号公報(文献3)では、ラプラス方程式を満足し、一境界境域で混合境界値を有するポテンシャル問題を解決する際に、ラプラス方程式の近似解に対してディリクレ条件とノイマン条件とを満足するような補正を交互に反復して施す方法が開示されている。
【0004】
ところで、文献1において提案されている手法では、電流密度分布が試料表面のみに存在することが前提となっており、磁場を解析する一般的な手法として利用することはできない。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、磁位、電位等のラプラス方程式を満たす様々な3次元場を、対象物から離れた位置すなわち非接触領域での測定値から高精度に取得する手法を提供することを主な目的としており、本発明はより一般的には、2次以上のn次元場にも適用される。
【0006】
本発明は、対象物の存在に起因して少なくとも対象物の周囲または内部に形成され、かつ、ラプラス方程式を満たす3次元スカラー場を示す場関数であるφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータ(変数)を示す。)またはφ(x,y,z)をzにて1回以上微分したものを取得する3次元場取得装置に向けられている。対象物の外部または内部(対象物の表面を含み、確認的に外部または内部と表現しているにすぎない。)に、z=0を満たす測定面が設定されており、装置は、3次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の測定面における分布を2次元の第1測定値群として取得し、当該一の種類の測定値を示す関数をzにて1回微分したものに対応する測定値の測定面における分布を2次元の第2測定値群として取得する測定値群取得部と、第1測定値群および前記第2測定値群に基づいて、測定面におけるφ(x,y,z)のzによるq回微分であるφ(q)(x,y,0)およびp回微分であるφ(p)(x,y,0)(ただし、p,qは0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数である。)を求め、φ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)をそれぞれフーリエ変換してψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)を求め、さらに、ψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)からφ(q)(x,y,z)をフーリエ変換したものを導くことによりφ(q)(x,y,z)を求める演算部とを備える。測定値群は、例えば2次元の画像として取得される。
【0007】
また、好ましくは、演算部では数1を用いてφ(q)(x,y,z)が求められるが、演算に際して数1が厳密に適用される必要はなく、適宜、類似もしくは近似する、または、変形された数1に準じた演算が採用されてよい。また、フーリエ変換および逆フーリエも既知の様々な技巧的な手法が採用されてよい。
【0008】
【数1】
JP0004878063B2_000002t.gif

【0009】
数1の演算(数1に準じた演算を含む。以下同様)を行うことにより、第1測定値群および第2測定値群から広義の3次元場の関数であるφ(q)(x,y,z)を求めることができ、正確に3次元場を再現することができる。
【0010】
また、好ましくは、pは(q+1)であり、第1測定値群がφ(q)(x,y,0)を示し、測定値群取得部が、3次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の分布を2次元の測定値群として取得する測定部と、測定面において測定部により取得された第1測定値群と、測定面から微小距離だけZ方向に離れた面において測定部により取得された中間測定値群との差分測定値群を求め、差分測定値群を微小距離で除算した微分測定値群を第2測定値群として取得する微分測定値群生成部とを備える。
【0011】
3次元スカラー場としては、好ましくは、磁位、電位、温度、光電場、応力場または重力ポテンシャルの場が適用可能である。
【0012】
また、本発明は、上記3次元場取得装置を利用する磁気力顕微鏡、対象物の表面に記録された情報を読み取る情報読取装置、対象物の内部の電気的回路に対する電流分布測定装置、生体内部の磁場を測定する生体磁場測定装置、および、構造物の内部を検査する非破壊検査装置にも適用可能であり、さらに、3次元場取得方法並びにこの3次元場取得方法をコンピュータに実行させるプログラムおよび記録媒体にも向けられている。
【0013】
測定により3次元場を取得する技術は、高次元のn次元場を取得する様々な技術に拡張することができ、例えば、時間をパラメータに加えた4次元場を取得する技術に容易に利用することができる。また、2次元以下の場に利用することも可能である。一般化されたn次元場を取得する技術は、磁位、電位、温度、重力ポテンシャル、弾性波動、光電場等の様々な場の取得に利用することができる。また、上記ポテンシャル場に限らず、ラプラス方程式を満たす2つ以上のn個のパラメータから表現される物理的もしくは工学的現象を表現する関数においても適用することが可能である。
【0014】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ラプラス場のモデルを示す図である。
【図2】第1の実施の形態に係るMFMの概略構成を示す図である。
【図3】コンピュータの構成を示す図である。
【図4】コンピュータが実現する機能構成を示すブロック図である。
【図5】MFMの動作の流れを示す図である。
【図6】MFMによる測定の概要を示す図である。
【図7】磁気力画像を示す図である。
【図8】補助磁気力画像を示す図である。
【図9】磁区画像を示す図である。
【図10】実測された磁気力画像を示す図である。
【図11】再現された磁気力画像を示す図である。
【図12】画素値の分布を示す図である。
【図13】磁気力分布を示す図である。
【図14】第2の実施の形態に係るMFMの概略構成を示す図である。
【図15】コンピュータが実現する機能構成を示すブロック図である。
【図16】MFMの動作の流れの一部を示す図である。
【図17】情報読取装置の機能構成の一部を示す図である。
【図18】情報読取装置の動作の流れの一部を示す図である。
【図19】回路検査装置の機能構成の一部を示す図である。
【図20】回路検査装置の動作の流れの一部を示す図である。
【図21】回路検査装置による検査の概要を示す図である。
【図22】生体磁場測定装置を示す図である。
【図23】非破壊検査装置を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明に係る3次元場取得方法の原理について説明する。例えば、磁化された磁性体が周囲に形成する磁位の場、絶縁体上の電荷が形成する電位の場、あるいは、多層の半導体装置の内部を流れる電流が半導体装置の内部および周囲に形成する磁位の場等のように、対象物の存在に起因して対象物の周囲または内部に様々な3次元スカラー場が形成される。これらの場はラプラス方程式を満たし、本発明に係る3次元場取得方法にて求められるものは、ラプラス方程式を満たす3次元スカラー場そのもの、または、3次元スカラー場を所定方向に関して1回以上微分したものであり、3次元場取得方法にて取得される3次元場の概念にはこれらの全てが含まれる。
【0017】
ラプラス方程式を満たす場を示す場関数をφ(x,y,z)(ただし、x,y,zは互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系の座標パラメータを示す。)とすると、φ(x,y,z)はラプラシアンΔを用いて数2にて表される。
【0018】
【数2】
JP0004878063B2_000003t.gif

【0019】
この方程式の一般解は、x,y,z直交座標系においてZ方向に指数関数的に減衰する項と指数関数的に増大する項との和として数3にて表すことができる。
【0020】
【数3】
JP0004878063B2_000004t.gif

【0021】
ただし、数3において、k,kはX方向およびY方向の波数であり、a(k,k),b(k,k)はk,kで表される関数である。さらに、数3の両辺をzで1回微分したものは数4にて表される。
【0022】
【数4】
JP0004878063B2_000005t.gif

【0023】
ここで、z=0を満たすXY平面に平行な面におけるφ(x,y,z)、すなわち、φ(x,y,0)は数5にて表される。
【0024】
【数5】
JP0004878063B2_000006t.gif

【0025】
同様に、数4にz=0を代入することによりφ(x,y,0)は数6にて表される。
【0026】
【数6】
JP0004878063B2_000007t.gif

【0027】
したがって、φ(x,y,0)とφ(x,y,0)とをそれぞれフーリエ変換したψ(k,k)|z=0およびψ(k,k)|z=0(以下、単にψ(k,k),ψ(k,k)と表す。)は、数7および数8にて表される。
【0028】
【数7】
JP0004878063B2_000008t.gif

【0029】
【数8】
JP0004878063B2_000009t.gif

【0030】
数7および数8からa(k,k),b(k,k)を求めることができ、これらは数9および数10にて表される。
【0031】
【数9】
JP0004878063B2_000010t.gif

【0032】
【数10】
JP0004878063B2_000011t.gif

【0033】
ここで、数3に数9および数10のa(k,k)およびb(k,k)を代入することにより、φ(x,y,z)は数11にて表される。
【0034】
【数11】
JP0004878063B2_000012t.gif

【0035】
以上のことから、対象物の外部に設定されたz=0を満たす測定面における測定によりディリクレ型境界条件であるφ(x,y,0)、および、ノイマン型境界条件であるφ(x,y,0)が得られる場合、これらをフーリエ変換することによって数11に示すようにφ(x,y,z)をxおよびyに関してフーリエ変換したものを導くとともに逆フーリエ変換を行うことにより、φ(x,y,z)を取得することができ、3次元場が厳密に導かれることとなる。なお、対象物の内部において測定が可能である場合は(例えば、細胞内にプローブを挿入して測定する等の場合)、測定面は対象物の内部に設定されてもよい。
【0036】
さらに、数3をzにて奇数回および偶数回微分した関数に対して数11の導出に準じた処理を行うことによってもa(k,k),b(k,k)を求めることができ、φ(x,y,z)を1回以上微分した数11に相当する式を導くことができる。すなわち、q,pを0以上の整数として一方が奇数、他方が偶数であるとし、ラプラス方程式を満たす場を示す場関数φ(x,y,z)のzについてのq回微分およびp回微分をφ(q)(x,y,z),φ(p)(x,y,z)にて表し、φ(q)(x,y,0),φ(p)(x,y,0)をフーリエ変換したものをそれぞれψ(q)(k,k),ψ(p)(k,k)と表すと、φ(q)(x,y,z)は数12にて表される。
【0037】
【数12】
JP0004878063B2_000013t.gif

【0038】
以上のことから、測定によりφ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)を求めることができる場合、これらをフーリエ変換してψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)を求め、数12を用いてψ(q)(k,k)およびψ(p)(k,k)からφ(q)(x,y,z)をフーリエ変換したものを導くとともに逆フーリエ変換を行うことにより、φ(q)(x,y,z)を取得することができる。換言すれば、φ(x,y,z)またはφ(x,y,z)を測定面に垂直なzにて1回以上微分したものを厳密に求めることができる。本発明に係る3次元場取得方法では、上記原理に基づいて測定面における測定結果からラプラス方程式を満たす場に由来する3次元場(広義の3次元場を含む。)が取得される。ラプラス方程式を満たす場としてはどのようなものが対象とされてもよく、磁位、電位、温度または重力ポテンシャル等の場を挙げることができ、本方法によりこれらの場に由来する3次元場を厳密に求めることができる。
【0039】
図1はラプラス方程式を満たす場の例をコンピュータにより求めたモデルを示す図であり、2つの3価の陽イオンとその各々の3回対称の位置に存在する1価の陰イオンが平面状に配置されている場合に周囲に形成される電場を示している。図1では、上記電荷はXY平面に平行な所定の面上に2つ存在し、この面からZ方向に0.01Å(オングストローム)離れた面81、3Å離れた面82、および、6Å離れた面83における電位を凹凸にて表現している。
【0040】
図1に示すように、上記電荷に近接する面81における電位の分布では、イオンによる電荷の局在を判別することができるが、面82では明瞭ではなくなり、面83の電位の分布では2つのイオン結合分子の存在さえも判別困難となる。ところが、例えば、面83がz=0を満たす測定面であると想定し、上述のφ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)が測定により取得される場合、本発明に係る3次元場取得方法を用いることにより、任意のzの値におけるφ(q)(x,y,z)を求めることが可能となり、直接測定が不可能な面81における電位に由来する測定値(例えば、電気力)を再現することが実現される。なお、上記原理はφ(x,y,z)がラプラス方程式を満たす範囲内で成立し、この範囲で3次元場を求めることができる。
【0041】
次に、上記3次元場取得原理の応用例として、ハードディスク装置の記録媒体である磁性体の磁区をMFM(磁気力顕微鏡)を用いて測定する方法について説明する。この応用例では、対象物である記録媒体の存在に起因して対象物の周囲にラプラス方程式を満たす場である磁位の場が形成されており、この磁位をz方向に1回微分した磁場に相当する広義の3次元場が取得される。
【0042】
図2はMFM1の概略構成を示す図である。MFM1は、ハードディスク装置や強誘電体メモリ等の高密度記録された記録媒体である試料9を評価するために分極状態を検出する装置であり、磁気力を検出するヘッド部2、試料9を保持する試料台31、ヘッド部2に対して試料台31を水平面内で相対的に移動する水平移動機構32、並びに、MFM1の各部の制御および演算を行うコンピュータ4を備える。
【0043】
ヘッド部2は、探針21が先端の下面に形成されたカンチレバー22、カンチレバー22の先端に向けて光を出射するレーザ23、カンチレバー22からの反射光を受光する受光素子24、カンチレバー22を昇降する昇降機構25、および、受光素子24からの信号が入力されるA/Dコンバータ26を有する。探針21は、磁性材料を磁化して尖らせたものまたは表面に磁化された磁性体のコーティングを有し、試料9との間にて磁気力が作用する。これにより、カンチレバー22の先端の位置が磁気力に応じて変化する。先端位置の変化量は、反射光の受光素子24における受光位置の変化量となり、受光素子24にて検出された変化量を示す信号がA/Dコンバータ26にてデジタル信号に変換されてコンピュータ4に入力される。水平移動機構32は圧電素子を利用して試料9を微小距離だけ水平方向に2次元に移動し、昇降機構25も圧電素子を利用してカンチレバー22を微小距離だけ昇降する。
【0044】
MFM1では探針21に作用する磁気力が検出されるが、磁気力は実質的に探針21が存在する位置における磁界のZ成分と捉えることができる。すなわち、MFM1において探針21を水平方向に2次元に走査することにより、磁位のzによる1回微分の分布が2次元の画像として取得され、ヘッド部2および水平移動機構32は測定値の分布(すなわち、測定値群)を画像として取得する測定部となっている。
【0045】
コンピュータ4は、図3に示すように、各種演算を行うCPU41、基本プログラムを記憶するROM42および各種情報を記憶するRAM43をバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムとなっている。バスラインにはさらに、情報記憶を行う固定ディスク44、各種情報の表示を行うディスプレイ45、操作者からの入力を受け付けるキーボード46aおよびマウス46b、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8から情報の読み取りを行う読取装置47、並びに、ヘッド部2や水平移動機構32に制御信号を送り出したり、A/Dコンバータ26からの信号が入力される通信部48が、適宜、インターフェイス(I/F)を介する等して接続される。
【0046】
コンピュータ4には、事前に読取装置47を介して記録媒体8からプログラム441が読み出され、固定ディスク44に記憶される。そして、プログラム441がRAM43にコピーされるとともにCPU41がRAM43内のプログラムに従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータ4がプログラムを実行することにより)、MFM1が3次元場取得装置として機能し、後述するように試料9の表面の磁区が画像として取得される。
【0047】
図4は、CPU41がプログラム441に従って動作することにより、CPU41、ROM42、RAM43、固定ディスク44等が実現する機能構成を、ヘッド部2および固定ディスク44内に記憶されるデータと共に示すブロック図である。図4において画像取得部51、微分画像生成部52、フーリエ変換部53、場関数算出部54、磁区画像生成部55を含む演算部5がCPU41等により実現される機能を示す。なお、これらの機能は専用の電気的回路により実現されてもよく、部分的に専用の電気的回路が用いられてもよい。また、複数のコンピュータにより実現されてもよい。
【0048】
図5はMFM1の動作の流れを示す図であり、図6はMFM1による測定の概要を示す図である。以下の説明では、既述の3次元場取得原理における互いに垂直なX,Y,Z方向にて規定される直交座標系のX方向およびY方向が水平方向であり、Z方向が試料9に向かう方向であるものとし、試料9の表面はXY平面に平行であり、図6に示すように試料9の表面93はz=+hに位置するものとする。
【0049】
MFM1による測定では、まず、図6に示すように対象物である試料9の外部に設定された、z=0を満たす測定面91上に探針21が配置され、図2に示す水平移動機構32により試料台31が移動されることにより、探針21が試料9に対して相対的にX方向に主走査され、主走査が完了する毎に探針21が試料9に対して相対的にY方向に微小距離だけ副走査される。探針21の主走査および副走査が繰り返される間、ヘッド部2内の受光素子24により探針21の変位量が磁気力として検出され、検出された信号はコンピュータ4に入力される。磁気力の大きさを示す信号は、図4に示す画像取得部51により画素値に変換され、測定面91における磁気力の分布(すなわち、磁気力の2次元の測定値群)が固定ディスク44(図3参照)に磁気力画像71(正確には画像のデータ)として記憶される(図5:ステップS11)。
【0050】
次に、図2に示す昇降機構25により、図6中に二点鎖線にて示すようにカンチレバー22がZ方向に微小距離d(d>0)だけ下降し、ステップS11と同様に探針21が試料9に対して相対的にXおよびY方向に走査され、測定面91からZ方向に微小距離dだけ離れた測定面92における磁気力の分布(すなわち、磁気力の2次元の測定値群)が画像取得部51を介して補助磁気力画像72(後述の中間測定値群に対応する。)として取得される(ステップS12)。磁気力画像71および補助磁気力画像72が準備されると、コンピュータ4では、これらの画像の差分画像(差分測定値群)を微小距離dで除算した微分画像(微分測定値群)が微分画像生成部52にて生成される。微分画像は測定面91における磁気力のZ方向の微分、すなわち、磁気力勾配を実質的に示す画像(換言すれば、磁気力のz微分値群である微分測定値群)となる。そこで、コンピュータ4ではこの微分画像が磁気力勾配画像73として固定ディスク44に記憶される(ステップS13)。
【0051】
ここで、既述のようにMFM1で検出した磁気力は磁界のZ成分に対応し、磁位の場のzによる1回微分に対応する。したがって、ラプラス方程式を満たす磁位の場をφ(x,y,z)にて表現すると、磁気力画像71はφ(1)(x,y,0)(以下、φ(x,y,0)と表す。)を示す画像となる。一方、磁気力勾配は磁気力をzにてさらに微分したものであることから、磁気力勾配画像はφ(2)(x,y,0)(以下、φzz(x,y,0)と表す。)を示す画像となる。すなわち、φ(x,y,0)を示す磁気力画像71を第1画像(または第1測定値群、以下同様)、φ(x,y,d)を示す補助磁気力画像72を中間画像(または中間測定値群、以下同様)、φzz(x,y,0)を示す磁気力勾配画像73を第2画像(または第2測定値群、以下同様)とした場合、ステップS11~S13は、一の種類の測定値の分布を示す第1画像および中間画像を取得してこれらの画像から他の種類の測定値の分布を示す第2画像を求める工程となっている。さらに換言すると、3次元場取得方法の原理におけるφ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)を求める工程は、MFM1において第1画像を取得し、第1画像近傍での微分を求めることで実質的に実現される。測定値である磁気力勾配を得るという観点からは、微分画像生成部52はヘッド部2および水平移動機構32と共に測定値群取得部を構成すると捉えることができる。
【0052】
次に、図4に示す演算部5のフーリエ変換部53にφ(x,y,0)である磁気力画像71およびφzz(x,y,0)である磁気力勾配画像73が入力され、それぞれxおよびyに関してフーリエ変換されてψ(k,k)およびψzz(k,k)(ただし、k,kはX方向およびY方向の波数である。)が求められる(ステップS14)。フーリエ変換として具体的には2次元の離散フーリエ変換が行われ、フーリエ変換に際して、例えば、0~πの範囲の正弦関数を窓関数として両画像に掛ける手法が採用される。
【0053】
ψ(k,k)およびψzz(k,k)が求められると、これらが場関数算出部54に入力され、ψ(k,k)およびψzz(k,k)を用いて、数12で示される式(以下、「3次元場取得式」と呼ぶ。)によりφ(x,y,z)が求められる(ステップS15)。ただし、MFM1では3次元場取得式においてqに1、pに2を設定したものが予め準備されている。また、ψ(k,k)およびψzz(k,k)を3次元場取得式に代入してkおよびkに関して逆フーリエ変換する際には、フーリエ変換時と同様の窓関数が利用される。φ(x,y,z)が求められることにより、磁気力を示す磁場のz成分の3次元分布が厳密に求められることとなる。
【0054】
次に、図6に示すように試料9の表面93と測定面91との間の距離がhである場合、磁区画像生成部55においてφ(x,y,z)のzに表面93の位置を示す値(+h)(または、表面93に近接する位置を示す値)が代入され、表面93における磁気力分布が得られる(ステップS16)。表面93における磁区構造と磁気力分布とは対応しているため、MFM1ではφ(x,y,+h)を示す画像が磁区構造を示す磁区画像74として固定ディスク44に保存される。以上の動作により、ファンデルワールス力の影響が大きいために従来測定が困難であった試料9の表面93の極近傍における磁気力画像を得ることができ、(探針の先端の曲率半径である2nm以上)10nm以下の高い空間分解能を有するMFM1が実現される。
【0055】
図7は、MFM1により試料9の表面からの距離が400nmの測定面91にて得られた磁気力画像71を例示する図である。また、図8は同様にして試料9の表面からの距離が300nmの測定面92にて得られた補助磁気力画像72を示す図である。図9は、図7および図8の画像を用いて上記3次元場取得方法により得られる磁区画像74を示す図である。図7ないし図9では対応する領域が白い線で囲まれている。画像71,72は不鮮明であるが、得られる磁区画像74は鮮明であることが判る。
【0056】
図10は上記3次元場取得方法の検証のためにMFM1により試料9の表面93から上方に20nmの近距離で取得した磁気力画像79を示す図であり、図11は表面93から400nmの測定面91および300nmの測定面92における磁気力画像から再現された表面93から20nmにおける磁気力画像74aを示す図である。
【0057】
図12は図10および図11中に示す白い直線上での画素値の分布を示す図であり、磁区構造を示す濃淡の縞模様の配列方向を向く直線上での磁気力の分布(プロファイル)を示す図である。曲線791は実測画像の図10に対応しており、曲線741は再現画像の図11に対応している。両曲線791,741は正確に一致するとともに磁区の存在を明瞭に示している。以上のことから、MFM1にて実行される3次元場取得方法により、遠距離において測定された磁気力画像から磁気力を示す広義の3次元場が正確に再現されることが判る。
【0058】
図13は試料9の表面93から300nm離れた位置での磁気力分布と表面93から20nmの距離で再現された磁気力分布とを示す図である。図13中の符号712を付す曲線は、表面93から300nmの位置での磁気力分布を示し、図12の場合と同様に、磁区を横切る直線上での磁気力分布を示している。符号742を付す曲線は、表面93から20nmの面において再現された磁気力分布を示している。図13に示すように、磁区構造との対応関係がほとんど不明な曲線712にて示す情報から、曲線742にて示す精度の高い磁気力分布、すなわち、磁区構造が再現されることが判る。
【0059】
図14は本発明の第2の実施の形態に係るMFM1aを示す図である。MFM1aは図2のMFM1とほぼ同様の構成であるが、ヘッド部2にカンチレバー22を振動させる振動部27が設けられ、コンピュータ4の機能構成も部分的に相違する。他の構成要素は図2と同様であり、同様の構成要素には同符号を付している。
【0060】
カンチレバー22の固定端側は振動部27に接続されており、振動部27のピエゾによりカンチレバー22が一定の共振周波数ωで上下に励振される。第1の実施の形態におけるMFM1と同様に、カンチレバー22の自由端側の上面にはレーザ23から光が照射されており、反射光の位置が受光素子24により検出される。これにより、磁気力によるカンチレバー22の変位量に加えて、さらに後段に備えられた周波数検出器により、カンチレバーの共振周波数ωが試料との相互作用力によりシフトした量Δωが検出される。ここで、周波数のシフト量Δωは相互作用によるカンチレバー振動の保存力成分の変調とみなすことができ、保存力勾配に由来する測定量であることから、MFM1aではカンチレバーの共振周波数のシフト量Δωに基づいて磁気力勾配画像が取得される。
【0061】
図15は、MFM1aのコンピュータ4における機能構成を示すブロック図である。MFM1aのコンピュータ4は図4に示すものと比べて、画像取得部51から直接、磁気力画像71および磁気力勾配画像73が生成され、微分画像生成部52が省略されるという点で相違する。他の機能構成は図4と同様であり、同様のものに同符号を付している。
【0062】
図16はMFM1aの動作の流れの一部を示す図である。MFM1aでは、まず、図6に示す測定面91に探針21が配置され、図14に示すカンチレバー22(および探針21)が共振周波数ωで強制振動される。そして、この状態で、第1の実施の形態におけるMFM1のステップS11と同様に、水平移動機構32により試料9がXY方向に2次元に走査される。このとき、受光素子24が検出するカンチレバー22の変位量に基づいて図15の画像取得部51により磁気力の分布を示す磁気力画像71が第1画像として取得され(ステップS21)、周波数検出器が出力する周波数シフト量Δωから磁気力勾配画像73が生成されて第2画像として固定ディスク44に保存される(ステップS22)。
【0063】
磁気力画像71および磁気力勾配画像73が取得された後の工程は、第1の実施の形態のステップS14(図5)以降と同様であり、これらの画像がフーリエ変換部53にてフーリエ変換されて場関数算出部54にて3次元場取得式に代入されることによりZ方向の磁気力の場が取得され、磁区画像生成部55にてzに+h(または表面93に近接する位置を示す値)が代入されることにより磁区画像74が取得される(ステップS14~S16)。以上のように、第2の実施の形態に係るMFM1aでは、測定面91における1回の測定により、試料9の存在に起因する2種類の測定値の画像が取得されて3次元場の再現が行われる。なお、受光素子24によりカンチレバー22の先端の振幅の変化量(すなわち、受光素子24からの変調された信号の強度の変化量)が検出されることにより、磁位のzによる1回微分が検出されてもよい。
【0064】
次に、図2のMFM1を情報読取装置として利用する応用例について説明する。図17は情報読取装置であるMFM1の演算部5に追加される情報抽出部56を示す図であり、図18はMFM1の動作に追加される工程を示す。
【0065】
MFM1において記録媒体(図6の試料9に対応する。)の表面に記録されている情報が読み取られる場合においても、まず、MFM1において図5のステップS11~S16が実行されて固定ディスク44に磁区画像74が取得される。その後、演算部5の情報抽出部56が、磁区画像74において情報の単位となる磁区の配列に平行な直線に沿って画素値列を取得し、所定のしきい値で画素値を2値化することにより各磁区の磁化状態が2値の読取情報75として取得される(ステップS31)。
【0066】
現在のハードディスク装置ではヘッド浮上方式が採用されるため、浮上距離により検出可能な空間分解能が制限され、ヘッド構造の微細化および高感度化により分解能の向上が図られるが、MFM1では3次元場を再現するという全く異なる着想に基づく手法により記録媒体の表面の磁区構造を正確に求めることができるため、極めて高密度に記録された情報であっても読み取ることが可能となる。特に、探針を接触させることなく高密度に記録された情報を読み取ることができ、探針の摩耗が生じないという特長を有する。なお、読取分解能は探針21の先端の曲率半径の大きさによって決定される。また、上記情報読取装置は、図14のMFM1aにより実現されてもよい。もちろん、MFM1,1aが他の用途の測定に利用される場合も高い空間分解能にて測定を行うことが実現される。
【0067】
次に、図2のMFM1を半導体装置の回路検査装置として応用する例について説明する。回路検査装置は、半導体装置の製造においてCMP等の工程を経て内部に形成された電気回路の断線や短絡等の欠陥を検査する装置であり、対象物の内部の電気的回路を流れる電流分布を測定する電流分布測定装置としての機能を備える。図19は回路検査装置(または、電流分布測定装置)であるMFM1の演算部5に追加または変更される機能構成を示す図であり、図20はMFM1の動作に追加または変更される工程を示す。図19に示すように、演算部5では図4の磁区画像生成部55が電流分布生成部57に変更され、欠陥検出部58が追加される。また、MFM1の動作では、図5のステップS15以降に図20に示すステップS41,S42が実行される。なお、MFM1において探針21の走査範囲が広い場合は水平移動機構32に送りネジ機構等の他の機構が採用されてよい。
【0068】
回検査装置としてのMFM1では、検査対象である半導体装置(LSI)(図6の試料9に対応する。)の電極にプローブを接触させて内部の回路に電流が供給されている状態で検査が行われる。なお、検査対象である電気回路は、半導体装置以外に、半導体素子、素子間の配線、(電子部品の実装前または実装後の)多層プリント回路基板等であってもよい。半導体装置内に電流が供給されることにより、3次元スカラー場である磁位の場が、半導体装置の周囲のみらなず内部にも形成される。図21は半導体装置9aの検査を説明するための図であり、半導体装置9aの半導体基材961上に複数の酸化膜962が積層され、層の間に配線963が形成されている様子を断面にて示している。
【0069】
MFM1による回路検査では、まず、配線963に電流が供給されている状態で探針21の測定面91での走査が行われ、カンチレバー22の変位量に基づいて測定面91での磁気力画像71が取得され(図5:ステップS11)、測定面91からZ方向(半導体装置に近づく方向に)に微小距離だけ離れた測定面92にて同様の測定が行われて補助磁気力画像72が取得される(ステップS12)。そして、磁気力画像71および補助磁気力画像72から磁気力勾配画像73が取得される(ステップS13)。これらの画像はフーリエ変換されるとともに図19に示す場関数算出部54にてqを1、pを2とする3次元場取得式(数12参照)に代入されることにより、回路を流れる電流により生じる磁気力の分布を示す広義の3次元場の場関数φ(x,y,z)が取得される(ステップS14,S15)。
【0070】
なお、既述のように、ラプラス方程式が満たされる空間(すなわち、電流源および磁荷(磁荷単極子)が存在しない空間)において3次元場の取得が実現されるため、3次元空間にて複雑に流れる電流により生じる磁位に由来する3次元場であっても求めることが実現される。
【0071】
電流分布生成部57ではφ(x,y,z)に図21にて符号94にて示す半導体装置9aの内部の位置を示すzの値が代入され、半導体装置9a内部における磁気力画像が代入結果として求められる。さらに、磁気力画像に基づいて半導体装置9aの最も上層の配線963を流れる電流分布が求められる(図20:ステップS41)。例えば、あるzの値が代入された際に磁気力の値が非常に大きくなる位置が電流経路として得られ、磁気力の分布から電流値が求められる。なお、求められる電流分布は正確なものである必要はなく、配線963を流れる電流の有無が確認できるものであればよい。また、zの値が異なる複数の磁気力画像が求められ、これらの画像に基づいて電流分布がより正確に求められてもよい。さらに、既述のように、3次元的に求められた場から最上層の配線963以外の配線963を流れる3次元の電流の分布も可能な範囲内で求められてよい。
【0072】
次に、欠陥検出部58により、電流分布生成部57によって取得された電流分布と、予め固定ディスク44に準備されている理想的な電流分布を表す参照データ76とが比較され、差分を取る等して配線963の断線や短絡等の欠陥が検出される。欠陥検出部58による検出結果は検査結果データ77として固定ディスク44に記憶される。以上の動作により、回路検査装置として機能するMFM1では、非接触かつ非破壊にて半導体装置9a内の回路の断線等の欠陥を検査することができる。
【0073】
以上、MFMを用いて磁気力画像および磁気力勾配画像を取得して磁気力の場(すなわち、磁界のZ方向成分の分布を示す場)を精度よく求める方法およびその応用例について説明したが、3次元場取得式は他の様々な利用が可能である。
【0074】
例えば、3次元場取得式のq,pに設定される値は1,2に限定されるものではなく、図6の測定面91にて図14のMFM1aにより探針21の振動周波数のシフト量が取得されて磁気力勾配画像が第1画像として取得され、測定面91がから微小距離だけ離れた測定面92にて同様に磁気力勾配画像が中間画像として取得され、第1画像と中間画像との差分画像を微小距離dで除算した微分画像が磁気力勾配のzによる微分を示す第2画像として取得されてもよい。この場合、第1画像はφzz(x,y,0)に対応し、第2画像はφzzz(x,y,0)に対応することから、これらの画像をフーリエ変換してqに2、pに3が設定された3次元場取得式に代入することにより、φzz(x,y,z)が求められることとなる。また、電位、温度等のように、qに0が設定された3次元場取得式も容易に利用することができる。3次元場取得式は、q,pが0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数であれば利用することができるため、他の測定が行われることにより、q,pに上記例以外の値が設定された3次元場取得式を利用することもできる。
【0075】
また、再現対象となる場の基礎となる3次元スカラー場、すなわち、対象物の存在に起因して少なくとも対象物の周囲または内部に形成される3次元スカラー場は、ラプラス方程式を満たすのであれば磁位の場に限定されず、容易に3次元場取得方法を応用することができるものとして電位の場を挙げることができる。この場合、例えば、試料9は図1に例示するように電荷が表面に存在するものとされ、探針21の周りを絶縁体で形成して探針21に電荷を保持させることにより、カンチレバー22の変位量から試料9の存在に起因する静電気力の分布を示す電気力画像が第1画像として取得される(図5参照)。その後、測定面のZ方向の位置が微小距離だけ異なる2つの電気力画像の差分を微小距離で除算して電気力勾配画像が第2画像として取得され、これらの画像をフーリエ変換して3次元場取得式(ただし、qに1、pに2が設定される。)に代入されることにより、電気力(電界のZ方向成分)を示す広義の3次元場が再現される。さらに、試料9の表面(または表面近傍)の位置を示すzの値が再現された場関数に代入されて試料9の表面における電気力の分布を示す画像が電荷の分布に対応する画像として求められる。これにより、試料9から十分に離れた位置から原子間力の影響を受けることなく精度よく電荷の3次元的な分布を求めることができ、例えば、絶縁膜内に電荷が3次元的に分布する場合に、電荷が遠方に作る場から電荷がトラップされている位置を特定することが実現される。
【0076】
もちろん、MFM1aの場合と同様に、カンチレバー22の振動周波数のシフト量から電気力勾配画像が取得されてφzz(x,y,0)が求められてもよく、さらに、微小距離だけ離れた位置での2つの電気力勾配画像からφzzz(x,y,0)が求められてもよい。MFMを利用した情報読取装置と同様に、記録媒体として電荷を保持するものが採用される場合は、電位の場を利用した情報読取装置を設計することも可能である。この場合、例えば、記録媒体に注入された電荷、双極子、多重双極子等が情報記録の最小単位とされる。
【0077】
ところで、探針21に電荷が誘導され、誘導される電荷量が電場の関数である場合、z=0を満たす測定面での電気力画像を示すF(x,y,0)はφ(x,y,0)の2乗に比例し、数13にて表される。数13においてcは定数である。また、数13をzで微分すると電気力勾配画像を示すF(x,y,0)が数14にて表される。
【0078】
【数13】
JP0004878063B2_000014t.gif

【0079】
【数14】
JP0004878063B2_000015t.gif

【0080】
そして、数13および数14の連立方程式を解くことにより、φ(x,y,0)およびφzz(x,y,0)が数15および数16にて得られる。このように、探針21に電荷が誘導される場合であっても3次元場取得式を利用することができる。
【0081】
【数15】
JP0004878063B2_000016t.gif

【0082】
【数16】
JP0004878063B2_000017t.gif

【0083】
一般的に表現すれば、測定面において3次元スカラー場に由来する一の種類の測定値の分布を2次元の第1測定値群として取得し、測定面において3次元スカラー場に由来する他の種類の測定値の分布を2次元の第2測定値群として取得し、第1測定値群および第2測定値群に基づいて、測定面におけるφ(x,y,z)のzによるq回微分であるφ(q)(x,y,0)およびp回微分であるφ(p)(x,y,0)を求めることにより、これらをフーリエ変換して3次元場取得式に代入することが可能となる。
【0084】
さらに換言すれば、測定量が場の関数s(φ,φzz)であり(ただし、iは測定により画像を取得する信号の数である。)、境界値b(φ,φzz)が取得可能であれば、連立方程式を解くことによりφ(x,y,0)およびφzz(x,y,0)を求めて3次元場取得式を利用することができ、さらに拡張すれば、測定量がs(φ(0),φ(1),φ(2),φ(3),...)であり、境界値b(φ(0),φ(1),φ(2),φ(3),...)が取得可能であり、多元連立方程式を解くことができるのであれば、z=0におけるφ(0),φ(1),φ(2),φ(3),...を求めることができ、3次元場取得式を用いて様々な3次元場を再現することが可能となる。
【0085】
そして、上記3次元場の再現により、対象物の表面や内部における所望の測定を表面から離れた測定面における測定から精度よく行うことが実現される。
【0086】
第1の実施の形態に係るMFM1では、第1画像が磁気力画像であり、第2画像が磁気力画像および補助磁気力画像から導かれる磁気力勾配画像となっており、第1画像の取得によってφ(x,y,0)が取得され、第2画像の取得によってφzz(x,y,0)が取得される。このようにMFM1は、2種類の測定値から第1および第2画像を導く上記の一般的な手法に対して特殊なものとなっている。また、既述のように、第1画像が磁気力や電気力の勾配画像であり、第2画像が磁気力や電気力の勾配のzによる微分を示す画像であってもよい。以上のようなZ方向に微小距離だけ離れた測定面にて一の種類の測定値の分布を2つ取得して3次元場を求める手法では、pを(q+1)とし、第1画像としてφ(q)(x,y,0)を示す画像を取得し、測定面から微小距離だけZ方向に離れた面における一の種類の測定値の分布を2次元の中間画像として取得し、第1画像と中間画像との差分画像を微小距離で除算した微分画像を第2画像として取得し、第1画像および第2画像の取得により、φ(q)(x,y,0)およびφ(p)(x,y,0)を求める工程が実質的に行われることとなる。これにより、一の種類の測定値の分布から他の種類の測定値の分布を導き出すことができ、容易に3次元場を精度よく求めることができる。
【0087】
さらに、3次元場取得式は、ラプラス方程式を満たす任意の場の関数に対して適用可能であり、温度の場、重力ポテンシャルの場、原子間力の場、歪みポテンシャル、音場、近接場にも応用が可能である(後述のn次元場の取得においても同様)。例えば、対象物の内部構造を知るために、対象物内に定常状態の熱の流れを生じさせて対象物近傍にて熱電対または熱電対の先端を尖らせた探針を用いて温度測定および温度勾配測定を行うことにより、対象物内の温度分布を取得することができる。すなわち、本発明に係る3次元場取得方法により、対象物から離れた位置で(広義の)3次元場に由来する測定を行うことにより、ラプラス方程式が満たされる極限までの領域(例えば、ポアソン方程式における電荷粒子に無限に近い領域までの)様々な3次元場や対象物近傍または内部での場の状態等を把握することが実現される。
【0088】
次に、以上に説明した3次元場取得方法を他の様々な装置に適用する応用例について説明する。
【0089】
図22は、3次元場取得方法が応用される生体磁場測定装置1bを示す図である。生体磁場測定装置1bは、2次元に配列された多数の超伝導量子干渉計(SQUID)が配列された測定部201と、測定部201を生体901に向かう方向(図22中のZ方向)に移動する移動機構202とを備え、測定部201は、図4と同様の機能を有する演算部を含むコンピュータ4に接続される。測定部201の1回の測定により、Z方向に垂直なSQUIDの配列面における磁位の場のZ方向の微分(磁場のZ方向成分)が画像として取得される。そして、図5に示す動作と同様に、測定部201にて第1画像が取得された後に(ステップS11)測定部201がZ方向に微小距離だけ移動して中間画像が取得され(ステップS12)、第1画像と中間画像との差分画像を微小距離で除算した微分画像が第2画像として取得される(ステップS13)。
【0090】
さらに、第1画像および第2画像をフーリエ変換して3次元場取得式に代入することにより、生体内部の磁位の場のZ方向における微分が求められる(ステップS14,S15)。これにより、生体内を流れる電流に起因して生じる3次元の磁場(より一般的に表現すれば、磁位の3次元場または磁位の場から導かれる3次元場)が測定され、生体内の精度の高い検査が実現される。なお、微分値が直接測定可能であるならば、他の手法にて微分画像が取得されてもよい。
【0091】
生体901としては心臓、脳、肺等が対象とされ、これにより、生体磁場測定装置1bがこれらの臓器の電気的活動を磁場として観測する心磁計、脳磁計、肺磁計等として機能する。心磁計として機能する場合は3次元の心磁図が取得され、例えば、虚血の原因、心筋梗塞を起こしている部位の特定、不整脈の信号源の特定等が実現される。生体の周囲の磁場は、生体に投与した磁性微粒子に起因するものであってもよい。例えば、腫瘍の細胞や病原体等と結合する抗体に磁性微粒子を含ませておき、この抗体を投与して生体の磁場を上記手法にて測定することにより、病巣部の3次元的な測定が行われてもよい。
【0092】
上記実施の形態におけるMFMは、病原菌、ウイルス、癌、エイズ細胞、DNA遺伝子、環境有害物質等の対象物質の診断装置に応用することも可能である。例えば、結合用抗体を表面に設けた基板に抗原を吸着させ、抗原の2次元分布に磁性微粒子を吸着させた抗体を結合させ、これをMFM(SQUID磁気センサでもよい。)で2次元の磁場分布(正確には、磁場のZ方向成分)を測定し、図5や図16の手法にて3次元場を取得することにより、抗原の量を正確に計測することができる。計測結果は、病原菌、ウイルス、癌、エイズ細胞、肝炎等の診断に利用される。環境有害物質の測定が行われる場合は、環境有害物質に結合する磁性微粒子が利用される。3次元場の厳密解が求められることにより、計測したい対象物質が密に基板上に存在する場合であっても正確な計測を行うことができる。
【0093】
次に、3次元場取得方法が応用される非破壊検査装置について説明する。非破壊検査装置は鉄筋コンクリート等の構造物の内部を非破壊にて検査する装置であり、装置の構造は、大きさが異なる点を除いて図22に示す生体磁場測定装置1bと同様であり、対象物が構造物に置き換えられる。また、3次元場(より一般的に表現すれば、磁位の場または磁位の場から導かれる3次元場)を取得する動作も生体磁場測定装置1bの場合と同様である。これにより、鉄筋等の残留応力により生じる磁場やコンクリート等の腐食に伴う電荷移動により生じる磁場を検出することが実現され、構造物内の応力異常や腐食の進行速度等を、構造物を破壊することなく高い精度にて検査することが実現される。
【0094】
なお、測定部201は、SQUIDを対象物の表面に沿って2次元に走査する機構であってもよく、磁石を2次元に走査する機構(MFMを含む。)であってもよい。
【0095】
図23は非破壊検査装置の他の例を示す図であり、図23に示す非破壊検査装置1cでは図22に示す装置と同様に2次元にSQUIDが配列された測定部201が移動機構202により対象物902に向かって(Z方向に)進退する。非破壊検査装置1cではさらに、測定部201を囲むように配置された励磁コイル203が設けられ、磁場発生部である励磁コイル203は対象物902に周期的に変化する磁場を作用させる。また、測定部201による測定信号から励磁コイル203により周期的に変化する磁場に同期して信号を抽出する位相検波回路204が設けられる。以上のように、非破壊検査装置1cでは、測定部201、移動機構202、励磁コイル203および位相検波回路204等により測定値の分布を画像(すなわち、測定値群)として取得する測定値群取得部が構成される。
【0096】
励磁コイル203は、構造物等の対象物902の内部まで磁場を生じさせるために変調電流を流し、これにより、対象物902内の金属に渦電流が生じ、例えば、構造物内の金属板に亀裂が生じている場合には磁場の対称性が乱れ、渦電流が遠方に形成する磁場に変化が現れることとなる(いわゆる、電流探傷法)。
【0097】
非破壊検査装置1cでは、励磁コイル203の駆動周期に同期して(すなわち、コイルと同じ周期にて)測定部201にて測定を行い、図5や図16等と同様の手法により第1画像および第2画像を取得することにより、外部からの強制的な磁位の場により対象物902内に生じる3次元場が求められる。以上の動作により、(例えば、原子炉や橋脚等の)対象物902内の金属の構造や欠陥を非破壊にて精度よく検査することが実現される。なお、磁場の検出は、SQUIDを2次元に走査したり、磁石を2次元に走査すること(MFMを含む。)により行われてもよい。また、励磁コイル203も1つのコイルではなく、2次元に配列された複数のコイルの集合体であってもよい。
【0098】
非破壊検査装置1cの測定原理は、測定対象のスケールを拡大することにより資源探査に利用することも可能である。例えば、100m四方の巨大なコイルにより変調磁場を形成し、高さの異なる位置でSQUIDや磁石を走査して(MFMを含む。)既述の第1画像および中間画像が取得される。そして、図5と同様の手法により、第1画像および第2画像から3次元場が再構成され、磁場の乱れから地中の資源の深さや位置の特定が行われる。
【0099】
外部から磁場を与えて3次元場を取得する方法は、SQUIDを利用する核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)や核四極共鳴(Nuclear Quadrupole Resonance)の測定に利用されてもよく、これにより、高精度な3次元測定が実現される。また、外部から強制的に与えられる周期的に変化する場は磁場に限定されず、電場、温度、重力場等の他の種類の場であってもよい。また、走査型近接場顕微鏡装置で観測される光電場であってもよい。
【0100】
ところで、上記実施の形態では、時間的に不変なラプラス方程式を満たす3次元の場を対象に説明を行ってきたが、ラプラス方程式を満たす場の取得は、時間項を入れたダランベール方程式(波動方程式)を含めたn次元空間の2階の偏微分方程式の一般解にまで拡張することが可能である。逆に、2次元の場に利用することも可能である。すなわち、n次元空間を表現するパラメータを、x,x,x,・・・,xn-2,xn-1,x(ただし、nは2以上の整数である。)とし、数2を、n次元スカラー場を示す場関数φ(x,x,…,x)に対応する数17へと一般化しても数3に準じた厳密解を予想することができ、この解は数18にて表すことができる。
【0101】
【数17】
JP0004878063B2_000018t.gif

【0102】
【数18】
JP0004878063B2_000019t.gif

【0103】
ここで、例えば、n=4、x=x、x=y、x=z、x=ictとおくと、数18は波動方程式の厳密解となる。
【0104】
また、数18において、x(ただし、mはn以下の正の整数である。)についてディリクレ型およびノイマン型境界条件を測定により取得することができるのであれば、すなわち、対象物の外部に設定されたx=0を満たす(n-1)次元の測定空間におけるφ(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびxによる1回微分であるφxm(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)(ただし、φxmのmはxの添え字である。以下同様)を測定することができるのであれば、φ(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびφxm(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)をそれぞれx,x,…,xm-1,xm+1,…,xに関してフーリエ変換してψ(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)およびψxm(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxnはx,x,…,xm-1,xm+1,…,xに関する波数である。)(ただし、xに続く文字はxの添え字である。以下同様)を求め、さらに、3次元の場合の数11と同様に、数19を用いることによりφ(x,x,…,x)が求められる。
【0105】
【数19】
JP0004878063B2_000020t.gif

【0106】
以上のように、測定値群取得部にてφ(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびφxm(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)を取得して演算部にて上記演算を行うことにより、n次元場取得装置を実現することができる。
【0107】
また、数12の場合と同様に、上記演算原理は任意の微分回数の場合に適用可能であり、n次元場取得装置の測定値群取得部にて測定空間におけるφ(x,x,…,x)のxによるq回微分であるφxm(q)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびp回微分であるφxm(p)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)(ただし、p,qは0以上の整数であり、一方が奇数、他方が偶数である。)が取得可能であれば、演算部にてφxm(q)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびφxm(p)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)をそれぞれx,x,…,xm-1,xm+1,…,xに関してフーリエ変換してψxm(q)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)およびψxm(p)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)を求め、ψxm(q)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)およびψxm(p)(kx1,kx2,…,kx(m-1),kx(m+1),…,kxn)から数20により対象物の存在に起因して少なくとも対象物の周囲または内部形成される場であるφxm(q)(x,x,…,x)をフーリエ変換したものを導くとともに逆フーリエ変換を行ってφxm(q)(x,x,…,x)を求めることができる。
【0108】
【数20】
JP0004878063B2_000021t.gif

【0109】
なお、n次元場取得装置では、φxm(q)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびφxm(p)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)が測定により直接的に取得される必要はなく、測定値群取得部によりn次元スカラー場または数17の方程式を満たすベクトルポテンシャルの各成分に由来する一の種類の測定値の分布を(n-1)次元の第1測定値群として取得し、n次元スカラー場に由来する他の種類の測定値の分布を(n-1)次元の第2測定値群として取得し、これらの測定値群に基づいて(すなわち、様々な演算を介して)φxm(q)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)およびφxm(p)(x,x,…,xm-1,0,xm+1,…,x)が求められてよい。また、測定空間は対象物の外部に限定されず、対象物の内部で測定が可能であれば測定空間は対象物の内部に設定されてもよい。
【0110】
数20において、n=4の場合に、z=0を満たす面にてφ(x,y,0,t)を測定し、またその面における微分、すなわち、φ(x,y,0,t)を測定し、これらをフーリエ変換して厳密解に代入することにより、時間軸を含む4次元場を再現することができる。実用的には、磁場等の場を外部から変調し、ポテンシャルセンサの2次元走査または2次元のポテンシャルセンサアレイを用いてz=0の面において位相検波により信号強度と位相成分とを検出し、さらにその面におけるz微分値を測定することにより深さ方向であるz成分を含む4次元場を取得することができる。この手法は、例えば、既述の資源探査用の地中レーダや非破壊検査等に応用することができる。
【0111】
時間軸を含む4次元場である弾性波動(波数kは0から無限大)の場を対象とする場合は、例えば、水中の基板上に浮かぶ細胞に基板から周期的な振動を与え、細胞近傍にて原子間力顕微鏡の探針を基板に平行なXY方向に2次元に走査することにより、細胞を経由して伝播する弾性波動のZ方向成分を測定して時間をパラメータとして含む第1測定値群(ディリクレ型境界条件)が取得され(図5のステップS11参照)、探針をZ方向に微小距離移動して再度測定を行うことにより時間をパラメータとして含む中間測定値群(ステップS12参照)が取得される。そして、図5のステップS13以降と同様の処理により、第1測定値群と中間測定値群との差を探針の微小移動距離で除算して微分測定値群である第2測定値群(ノイマン型境界条件)が取得され、第1測定値群と第2測定値群とをフーリエ変換して数20に示すn次元場取得式(ただし、nは4とされる。)に代入することにより、弾性波動のZ方向成分を示す4次元の場が再現される。その結果、細胞内の構造を外部からの測定により取得することが実現される。このような測定は、有機および無機の様々な高分子の測定に適している。もちろん、上記弾性波動場の測定原理は大きな対象物にも適用可能であり、例えば、建築構造物の内部構造の測定に応用することができる。
【0112】
なお、弾性波動場の測定は、原子間力顕微鏡の探針の周囲に液体等の媒質が存在しない環境においても行うことができる。例えば、対象物に周期的な振動を与え、原子間力顕微鏡の探針を近接させつつ2次元に走査することにより、対象物の表面の各位置における1つ以上の原子(の集団)または分子(の集団)のZ方向の変位である第1測定値群が、探針の変位、すなわち、原子間力または分子間力に基づいて取得される。一方、原子・分子間力は表面の原子または分子の変位情報を含み、さらに、原子・分子間力の微分は空間座標軸であるZ方向における変位量の微分に対応するため、探針の共振周波数の変化を測定することにより、表面の変位量の微分である第2測定値群を取得することができる。そして、第1測定値群および第2測定値群をフーリエ変換してn次元場取得式(ただし、nは4とされる。)に代入することにより、対象物内の弾性波動場の再現が実現される。
【0113】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0114】
例えば、第1の実施の形態に係るMFM1では、2つの測定面91,92(図6参照)にて2回測定が行われるが、高さ方向の位置が異なる2つのカンチレバー22および探針21をヘッド部2に設け、1回の2次元走査で磁気力画像(第1画像)および補助磁気力画像(中間画像)が取得されてもよい。測定にSQUIDが利用される場合においても同様の手法により第1画像および中間画像を同時に取得することができる。また、測定手法としては様々な他の手法が用いられてもよく、例えば、カーボンナノチューブや磁気パーティクルがカンチレバーとして採用されたヘッド部が使用されてもよい。なお、測定の際に磁気力および電気力の双方の作用が測定されたとしても、これらは共にラプラス方程式を満たすため、これらの場が同時に再現されることとなる。すなわち、測定対象となる場は、複数種類の場が混在した場であってもよい。
【0115】
ヘッド部2と試料9との相対移動も上記実施の形態に示したものには限定されず、例えば、試料台31がピエゾを用いてX,Y,Z方向に移動してもよく、X,Y,Z方向への移動機構は、複数のピエゾを有する1つのユニットであってもよく、各方向に対して独立したピエゾを有するものであってもよい。
【0116】
上記3次元場取得方法は、様々な走査型プローブ顕微鏡に用いることができ、MFM以外の例としては、電気力顕微鏡や既述の原子間力顕微鏡等を挙げることができる。また、透磁率の高いパーマロイを針状にしてSQUIDの中央に通したヘッドを設け、対象物表面の磁場をパーマロイを介してSQUIDにて高分解能に検出するいわゆるSQUID顕微鏡にも適用することができる。この場合、3次元場の取得(すなわち、再現)を行うことにより、ヘッドを対象物の表面からリフトした状態(離れた状態)であっても高い空間分解能にて測定することができ、針の損傷をおそれることなく容易な制御で測定を行うことが実現される。
【0117】
上記実施の形態では、3次元磁場または電場を測定可能であるため、ゼーマン分裂またはシュタルク効果に起因した外部印加の電磁場を吸収する空間サイト(空間の部位)を特定可能である。例えば、試料を回転または外部印加磁場ベクトルの回転または磁場の印加を空間的に単調な磁場分布であるように設定することにより、局所的なMRI装置へ応用することが可能である。上記の操作は複合的に行ってもよい。
【0118】
また、上記実施の形態では、3次元場として3次元空間の座標により定められる場を示し、4次元場として3次元空間座標に時間を加えた場を例示したが、数17に示すラプラス方程式をn次元に拡張した式を近似的にまたは厳密に満たす様々な種類のパラメータ(変数)を有する系において数20に示すn次元場取得式を利用することができる。例えば、ある物理量の測定において、温度、時間、処理速度、処理室の容量等の測定環境を示すn個のパラメータが存在し、測定値をn次元の場と捉えた場合に数17が近似的に満たされる範囲が存在するのであれば、(n-1)次元の測定を2回行うことによりn次元場取得式を利用してn次元場を再現することができる。
【0119】
n次元場(3次元場を含む。)の取得において、実際のパラメータに係数を乗算したものが演算上のパラメータとして扱われてよい。すなわち、数17の各項に係数を乗じた方程式が満足される場合は、係数をパラメータに取り込む変換を行うことにより、強制的に方程式を数17の形式へと導くことができる。
【0120】
また、3次元場やn次元場は既述の3次元場取得式やn次元場取得式に厳密に従って求められる必要はなく、適宜、類似もしくは近似する、または、変形された演算により求められてよい。フーリエ変換および逆フーリエ変換も既知の様々な技巧的な手法が採用されてよい。
【0121】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22