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明細書 :吸引器具、吸引システムおよび吸引方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5516950号 (P5516950)
登録日 平成26年4月11日(2014.4.11)
発行日 平成26年6月11日(2014.6.11)
発明の名称または考案の名称 吸引器具、吸引システムおよび吸引方法
国際特許分類 A61M   1/00        (2006.01)
FI A61M 1/00 510
A61M 1/00 530
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2009-524450 (P2009-524450)
出願日 平成20年7月15日(2008.7.15)
国際出願番号 PCT/JP2008/062733
国際公開番号 WO2009/014026
国際公開日 平成21年1月29日(2009.1.29)
優先権出願番号 2007194634
優先日 平成19年7月26日(2007.7.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年7月12日(2011.7.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】梅田 裕生
【氏名】金丸 眞一
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100132241、【弁理士】、【氏名又は名称】岡部 博史
【識別番号】100113170、【弁理士】、【氏名又は名称】稲葉 和久
審査官 【審査官】沼田 規好
参考文献・文献 特開昭63-219510(JP,A)
米国特許第04935006(US,A)
特開平05-220157(JP,A)
特開昭61-098819(JP,A)
調査した分野 A61M 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
基端部側において液体供給部に接続されるとともに開口先端部を有する外管と、
前記外管内に設けられ、基端部側において陰圧発生部に接続されるとともに開口先端部を有する吸引管と、
を含んで構成され、
前記外管の内周面と前記吸引管の外周面との間に環状の液体供給路が形成され、前記液体供給路から前記吸引管の前記開口先端部に液体を供給し、
前記吸引管の開口先端部を前記外管の開口先端部より基端側に位置させてあり、吸引時には、前記吸引管の内周面全体が薄層状の前記液体で覆われた状態で、前記吸引管の前記開口先端部から粘性物質を吸引することを特徴とする吸引器具。
【請求項2】
基端側において陰圧発生部に接続されると共に、開口先端部を有する吸引通路と、
前記吸引通路の外周に環状に形成され、基端側において液体供給部に接続されると共に、開口先端部を有する液体供給路と、
を備え、
前記吸引通路への吸引対象物の吸引時に前記液体供給路から供給された液体が前記吸引通路の全内周面に沿って薄層状に吸引され、前記吸引通路の前記開口先端部から粘性物質を吸引するように構成したことを特徴とする吸引器具。
【請求項3】
前記液体は水であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸引器具。
【請求項4】
前記陰圧発生部は、医療用吸引装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸引器具。
【請求項5】
前記医療用吸引装置は、耳鼻科用吸引装置であることを特徴とする請求項4に記載の吸引器具。
【請求項6】
開口先端部を有する外管と、
開口先端部が前記外管の開口先端部より基端側に位置するとともに、外周面と前記外管の内周面との間に環状の液体供給路を形成するように前記外管内に設けられた吸引管と、
前記外管の基端部側に接続される液体供給部と、
前記吸引管の基端部側に接続される陰圧発生部と、
を備え、
前記液体供給路から前記吸引管の前記開口先端部に液体を供給し、吸引時には、前記吸引管の内周面全体が薄層状の前記液体で覆われた状態で、前記吸引管の前記開口先端部から粘性物質を吸引する吸引システム。
【請求項7】
前記液体は水であることを特徴とする請求項6に記載の吸引システム。
【請求項8】
前記陰圧発生部は、医療用吸引装置であることを特徴とする請求項6に記載の吸引システム。
【請求項9】
前記医療用吸引装置は、耳鼻科用吸引装置であることを特徴とする請求項8に記載の吸引システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引器具、吸引システムおよび吸引方法に関し、具体例として医療現場(例えば耳鼻科)において粘性物質を吸引する際に好適に用いられる吸引器具、吸引システムおよび吸引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、耳鼻科の診療において、中耳炎、鼻炎、副鼻腔炎などの炎症性疾患や、耳垢栓塞といった疾患の診療の際に、耳漏、鼻汁、耳垢などを吸引除去する処置を施す必要がある。この処置は、一般に、耳鼻科ユニットの吸引装置に1.5~2メートル程度の長さの柔軟性のあるチューブ、および、チューブ先端に取り付けたアダプタを介して装着された耳用吸引管や鼻用吸引管を使用して吸引している。しかし、これらの吸引管は、挿入経路が狭いという解剖学的理由から外径および内径が細いため、粘稠な耳漏、鼻汁、耳垢などを吸引する際には、吸引管が頻繁に閉塞する事態が頻繁に生じていた。吸引管が吸引処置途中で閉塞すると、処置を中断して吸引管を交換したり、あるいは、粘度の低い液体(例えば水)を吸引して吸引管内の閉塞状態を解消してから処置を再開するといった余計な労力と時間を費やさなければならなかった。
【0003】
特許文献1には、例えば気管支にある痰等の粘稠な物質または流体を吸引除去するための吸引用カテーテルとして、1本の吸引管内に吸引管腔と側管腔とが中間隔壁で区画されて設けられ、前記中間隔壁に少なくとも1本の切り込みを両管腔間の短絡路として形成したものが開示されている。この吸引用カテーテルでは、側管腔から空気や生理食塩水等の液体を供給しながら吸引管腔に陰圧を作用させることで、カテーテル先端部の気管支内腔へのはまり込みを防止し、痰等の粘性物質を湿潤させて吸引を行いやすくすることができる旨が記載されている(特許文献1:段落0009参照)。
【0004】
しかしながら、後述するように本願発明者らが行った対比実験によれば、特許文献1に開示される吸引用カテーテルでは、例えば500cpsの高粘性の流体を吸引しようとした場合、吸引処置を完了するまでに患者に過度の負担を強いることになるような長時間を要することが判明した。

【特許文献1】特許第2742765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、管腔の閉塞を生じることなく粘性のある物質または流体(以下、単に「粘性物質」と称す。)を短時間で且つ無駄な労力を要せずに吸引除去することができる吸引器具、吸引システムおよび吸引方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の第1態様の吸引器具は、基端部側において液体供給部に接続されるとともに開口先端部を有する外管と、この外管内に設けられ、基端部側において陰圧発生部に接続されるとともに開口先端部を有する吸引管とを含んで構成され、前記外管の内周面と前記吸引管の外周面との間に環状の液体供給路が形成され、前記吸引管の開口先端部を前記外管の開口先端部より基端側に位置させてあることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の第2態様の吸引器具は、基端側において陰圧発生部に接続された吸引通路と、この吸引通路の外周に環状に形成され、基端側において液体供給部に接続された液体供給路とを備え、前記吸引通路への吸引対象物の吸引時に前記液体供給路から供給された液体が前記吸引通路の全内周面に沿って薄層状に吸引されるように構成したことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明の吸引システムは、開口先端部を有する外管と、開口先端部が前記外管の開口先端部より基端側に位置するとともに外周面と前記外管の内周面との間に環状の液体供給路を形成するように前記外管内に設けられた吸引管と、前記外管の基端部側に接続される液体供給部と、前記吸引管の基端部側に接続される陰圧発生部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
さらにまた、本発明の吸引方法は、陰圧の作用によって吸引対象物を吸引通路内に吸引する際に、この吸引通路の全内周面に沿って形成される薄層状液体とともに前記吸引対象物を吸引することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る吸引器具、吸引システムおよび吸引方法において、前記液体は水であってもよい。
【0011】
また、本発明に係る吸引器具および吸引システムにおいて、前記陰圧発生部は、医療用吸引装置、より詳しくは、耳鼻科用吸引装置であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸引器具、吸引システムおよび吸引方法によれば、吸引対象物である粘性物質が陰圧の作用によって吸引管内に吸引される際に、吸引管の内周面全体が薄層状液体で覆われた状態になることで、ハイドロプレーニング現象(「自動車が一定以上の速度で走行中にタイヤと路面との間に薄い水の膜が張り、タイヤが路面をグリップしなくなってスリップなどが起こりやすくなる現象」、以下に同じ。)と同様の原理で、吸引管内周面に対する粘性物質の接触抵抗が著しく低下し、従来装置と同一の吸引力であっても吸引管の閉塞を生じることなく粘性物質を短時間で、且つ、無駄な労力を要せずに吸引除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】吸引システムの全体概略構成図。
【図2】吸引器具の縦断面図。
【図3】図2におけるA-A線断面図。
【図4A】外管の開口先端部が開放されているときの液体供給路内の水の状態を示す図。
【図4B】外管の開口先端部が吸引対象物に接触または侵入して吸引対象物が吸引されている状態を示す図。
【図5】コニカルチューブを倒立させたときに、下方に移動した高粘性水溶液の表面状態の変化行程を示す図。

【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態である耳鼻科用の吸引システム1の全体概略構成を示す。
【0015】
吸引システム1は、吸引器具10を備えている。吸引器具10の基端側は二股に分岐しており、一方の分岐端31aには液体供給部20が接続され、他方の分岐端31bには、ほぼL字状に曲がったパイプ状ハンドル部22の一端部が接続されている。ハンドル部22は、例えば医師が吸引処置を行う際に手で把持するものである。なお、ハンドル部22は、使用者の使い勝手のよい形状に適宜の変更が可能である。
【0016】
液体供給部20には、粘性の低い液体を収容した点滴バッグ12、点滴筒14、ローラー流量調整弁16、柔軟な樹脂製チューブ18からなる、一般に使用される点滴セットを用いることができる。ここで、前記液体は、安価で入手容易で環境にも優しいことから、水であることが好ましい。ただし、前記液体は水(水溶液を含む)に限定されるものではなく、本発明の作用機能を発揮し得るものであれば水以外のいかなる液体を用いてもよい。また、本実施形態の吸引システム1では、液体供給部として点滴セットを用いているが、これに限定されるものではなく、吸引器具10に液体を連続的に供給可能なものであれば何を用いてもよい。
【0017】
前記ハンドル部22の他端部は、例えば、長さ1.5~2メートルの柔軟なPVC製チューブ24を介して陰圧発生部26に接続されている。陰圧発生部26は、通常、コンプレッサ等の陰圧発生源と、容器等の吸引物貯留部を有している。陰圧発生部26としては、例えば、耳鼻科ユニットの吸引装置を用いることができる。これにより、陰圧発生部26を作動させることで、後述するように吸引器具10の先端部から粘性物質を吸引することができるようになっている。
【0018】
図2は吸引器具10の断面を示す。吸引器具10は、上述したように基端側が二股に分岐したアダプター部30と、このアダプター部30に各基端部がそれぞれ固定された外管36および吸引管38とからなっている。アダプター部30は、例えば樹脂やゴム等の材料で一体に成形することができる。
【0019】
アダプター部30は、前記液体供給部20に接続される一方の分岐端31aに液体供給ポート32を有し、前記陰圧発生部26に接続される他方の分岐端31bに吸引ポート34を有している。また、アダプター部30の先端部31cには、開口先端部37を有する外管36の基端部が接続固定されている。ここで、外管36には、例えば14Gサーフロー(登録商標)針外套(内径1.73mm:テルモ(株)製)を用いることができる。
【0020】
その内腔が吸引通路になっている前記吸引管38は、外管36の内腔に外管36と同心状(または略同心状)に配設され、外管36と共に二重管構造をなしている。これにより、図3にも示されるように、外管36の内周面と吸引管38の外周面との間に環状の液体供給路40が形成されており、この液体供給路40がアダプター部30の液体供給ポート32に連通している。また、吸引管38は、基端部においてアダプター部30の吸引ポート34に連通しており、これにより陰圧発生部26によって生じた陰圧がチューブ24およびハンドル部22を介して吸引管38の開口先端部39に作用するようになっている。ここで、吸引管38には、例えば、鋭利な先端部を切除した16Gサーフロー(登録商標)針内針(外径1.20mm、内径0.83mm:テルモ(株)製)を用いることができる。また、外管36および吸引管38は、金属製のものに限定されるものではなく、他の材質、例えば樹脂製、ゴム製のものであってもよい。
【0021】
図2に示すように、吸引管38は、その開口先端部39が外管36の開口先端部37よりも若干(例えば約1mm程度)基端側に位置するように配置されている。このように吸引管38の開口先端部39を外管36の開口先端部37よりも少しだけ内側に位置させることで、外管36の開口先端部37が吸引対象物である粘性物質に当接して塞がれたときにでも、液体供給路40から吸引管38の開口先端部39上を回り込んで吸引管38内に吸引されるような構成になっている。
なお、吸引管38の開口先端部39近傍に、吸引対象物を吸引直前に細かく破砕するための破砕部材(例えば、回転するプロペラ状部材)を設けてもよい。
【0022】
続いて、上述した構成からなる吸引システム1による吸引動作について説明する。液体供給部20から吸引器具10の液体供給ポート32に、低粘性の液体、例えば、水が供給されると、図4Aに示すように、水は毛管現象によって液体供給路40の先端まで移動する。液体供給路40の先端まで移動した液体(水)は、図4Aに示す状態に留まっていてもよいし、あるいは、陰圧非作用時にも液体供給路40からごく僅かに漏れ出ている状態であってもよい。この状態で、陰圧発生部26を作動させても外管36の開口先端部37が開放された状態(すなわち吸引対象物である粘性物質に接触または侵入していない状態)であれば、吸引管38には空気が吸引されるだけで吸引管38の開口先端部39近傍に所定の陰圧は作用しない。したがって、液体供給路40にある水は、吸引管39にほとんど吸引されることはなく、水が無駄に消費されてしまうことはない。
【0023】
なお、上記低粘性の液体の例として、水を挙げたが、この水は超純水、純水(蒸留水、イオン交換水)等に限られず、生理食塩水、乳酸リンゲル液等の水溶液であってもよい。さらに、低粘性の液体としては、水に限られず、有機溶剤等の他の低粘性の液体を用いてもよい。
【0024】
次いで、図4Bに示すように、外管36の開口先端部37が粘性物質50内に侵入して塞がれると、吸引管38の開口先端部39近傍に所定の陰圧が作用し、これにより粘性物質50が吸引管38の内腔に吸引される。このとき、液体供給路40にある水もまた、前記陰圧の作用によって吸引管38の内周面全体を薄層状に覆ったような状態で粘性物質50と一緒に吸引されることになる。これにより、ハイドロプレーニング現象と同様の原理で、吸引管38の内周面に対する粘性物質50の接触抵抗は、吸引管38の内周面に直に接触する場合に比べて著しく低下する。その結果、陰圧発生部26による吸引力が従来装置と同一であっても吸引管38の閉塞を生じることなく粘性物質50を短時間で且つ無駄な労力を要せずに吸引除去することができる。
【0025】
また、本実施形態の吸引システム1では、吸引に要する吸引力(すなわち陰圧力)を従来に比べて低下させることができるので、陰圧発生部26に用いられるコンプレッサの出力も低いもので足り、陰圧発生部26ひいては吸引システム1をその分だけ安価にすることができるとともに消費電力を抑えることができる。
【0026】
また、上述したように吸引器具10は、市販されて広く普及しているサーフロー針を応用して製造することができるので、製造コストを抑制する又は安価にすることができ、その結果として使い捨て可能なものにもできる。
【0027】
さらに、下記の実験結果からも明らかなように、粘性物質50の吸引時に消費される前記液体としての水の量は、従来技術で述べたような吸引管の閉塞状態解消のための水吸引や吸引後の吸引管洗浄などに使用する水の量に比べて、極めて少量で済み、経済的で且つ環境に優しいといえる。
【0028】
[実験I、II、III]
本実施形態の吸引システム1の効果を検証するための実験Iを行った。この実験Iでは、吸引器具として、外管には14Gサーフロー針の外套を用い、吸引管には16Gサーフロー針内針を先端切除して用い、点滴セットにおいてサーフロー針基端部と点滴チューブとを連結しているゴム製のジョイント部材をアダプター部として代用した。また、液体供給部として小児用点滴セットを用い、供給される液体として水を用いた。さらに、陰圧発生源としてアルバック機工社製のダイアフラム型ドライ真空ポンプDAP-30を使用し、吸引物貯留部として三角フラスコを使用した。
【0029】
吸引対象物である粘性物質には、重量%でそれぞれ2%、3%、4%の3種類のアルギン酸ナトリウム水溶液を用いた。以下、各水溶液を、2%水溶液、3%水溶液、4%水溶液という。アルギン酸ナトリウム粉末は、ナカライテスク社製の商品コード:31131-85を用いた。アルギン酸ナトリウムを溶かす水には、milliQ水(超純水)を用いた。
【0030】
前記2%、3%、4%の各水溶液は、次のようにして調製したものを用いた。0.4g、0.6g、0.8gのアルギン酸ナトリウム粉末をそれぞれ秤量し、3本のコニカルチューブ(容量50cc)内に収容した20mlの水に前記秤量したアルギン酸ナトリウム粉末をそれぞれ投入して十分に攪拌し、冷暗所で一昼夜保存した。その後、粉末が完全に溶解しているのを目視にて確認してから、濃度むらをなくすためにさらに十分に攪拌し、紫外線で約20~30分滅菌して、また冷暗所に6日間保存した後に実験に用いた。
【0031】
実験に使用したアルギン酸ナトリウムの1%水溶液の粘度は約500cpsであることはメーカ(ナカライテクス社)側のデータとして存在する。しかし、2%、3%、4%の各水溶液の粘度データはメーカにも存在せず、粘度計での測定もできなかったので、各水溶液の粘度を具体的数値で表すことはできない。ただ、2%水溶液は前記1%水溶液よりも粘度が高いことは確実である。さらに、2%水溶液よりも3%水溶液、3%水溶液よりも4%水溶液の方がより高粘度であることが目視でも確認できた。
【0032】
ちなみに、常温下で、調製した各水溶液が入ったコニカルチューブ52を図5(a)に示す状態から図5(b)に示す状態に倒立させ、その倒立時から水溶液表面Wが図5(c)に示す状態(表面中央部が水平)になるまでに要した第1の時間、および、図5(d)に示す状態(表面全体が水平)になるまでの第2の時間をそれぞれ測定した。その結果、2%水溶液については第1の時間が約30秒、第2の時間が約2分、3%水溶液については第1の時間が約60秒、第2の時間が約3分、4%水溶液については第1の時間が約120秒、第2の時間が約6分であった。各水溶液の粘度を推察するうえで参考になる。
【0033】
比較実験として、実験Iと同じ吸引器具で水を供給せずに吸引を行う実験IIと、実験Iの吸引器具の吸引管と同じ長さ(88mm)で内径2mmのアルミパイプだけを吸引管としてハンドル部に直接取り付けて吸引を行う実験IIIも併せて実施した。
【0034】
前記各実験I、II、IIIでは、各20mlのアルギン酸ナトリウムの2%水溶液、3%水溶液、4%水溶液を吸引完了するのに要した時間を測定した。その所要時間を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
JP0005516950B2_000002t.gif

【0036】
表1に示される結果から明らかなように、本実施形態の吸引システム1は、高粘度の吸引対象物を短時間で吸引除去する性能に優れていることが確認できた。特に、実験IIとの対比において、水が吸引管の内周面を薄膜状に覆って流れていることで吸引管内周面に対する吸引対象物の接触抵抗が大きく低減されていることが検証された。
【0037】
また、前記実験Iにおいて消費された水の量は、2%水溶液で1ml未満、3%水溶液で3ml、4%水溶液で6~8ml程度であり、いずれの場合も水の消費量が極めて少なくて済むことが確認された。
【0038】
[実験IV]
本実施形態の吸引システム1との効果上の差異を検証すべく、特許文献1(特許第2742765号)に記載される吸引用カテーテルと実質的に同一構造の吸引器具を作製して、前記実験Iと同様のアルギン酸ナトリウムの2%水溶液の吸引実験IVを行った。
【0039】
この実験IVで用いた吸引器具は次のように作製した。まず、吸引管としての16Gサーフロー針外套に対して、側管として3Frポリエチレン管(外径約1mm、内径約0,5mm)を平行に接着固定した後、先端部位を切断することによって2つの管の各開口先端部の位置を揃えた。そして、これら2つの管の各管壁が接触する部分において両管壁に鋭利な刃物で切り込みを入れて、両管腔を連通させる短絡路を形成した。
【0040】
このように作製した吸引器具をハンドル部に連結して、実験Iと同様の2%水溶液(20ml)で吸引実験を行ったところ、最初は側管に空気を供給しつつ吸引していたが約5mlを吸引するのに637秒も要したため、そこで吸引実験を中止した。これからすると、20mlの2%水溶液を吸引完了するには、単純計算すると、その4倍である2548秒を要することになる。
【0041】
次に、側管に水を供給しつつ同様の吸引実験を行ったところ、吸引完了までに321秒を要し、このときの水消費量は7mlであった。これに対して、本実施形態の吸引器具では、上記表1に示すように所要時間38秒で水消費量1ml未満であったことからして、本実施形態の吸引器具の方が高粘度物質の吸引性能に極めて優れており、かつ、水消費量も格段に少ないことが判明した。
【0042】
この実験IVでは、3%水溶液および4%水溶液については吸引困難が容易に予想されたため、吸引実験を行わなかった。
【0043】
なお、前記特許文献1の吸引用カテーテルは、気管支内腔へのカテーテル先端部のはまり込みという問題を解消する一方で、前記短絡路を介して側管から吸引管に流体が短絡して流れることで吸引力の相対的低下を招いていると考えられる。また、この構成の吸引用カテーテルでは、1つ(または複数)の短絡路を介して吸引管内に引き込まれた液体が吸引管の内周面全体を覆った薄膜状態で吸引されることはあり得ず、本発明にかかる吸引器具とは本質的に相違するものである。
【0044】
[実験V、VI、VII]
本実施形態の吸引システム1の効果を検証するための別の実験Vとして、上記実験Iと同様に外管(内径1.73mm)36の内腔に外管36と同心状(または略同心状)に吸引管(外径1.20mm、内径0.83mm)38が配設された二重管構造を有する吸引器具10を用いて吸引実験を行った。吸引対象物である粘性物質には、重量%でそれぞれ2%、3%、4%の3種類のアルギン酸ナトリウム水溶液を用いた。さらに、実験Iと同様に液体供給部20から液体供給ポート32、液体供給路40を介して、外管36と吸引管38との間に水を供給しながら吸引実験を行った。
【0045】
なお、比較実験として、実験Vの吸引器具の吸引管と同じ長さ(88mm)で内径2mmのアルミパイプだけを吸引管としてハンドル部22に直接取り付けて吸引を行う「対比同じ長さで径大(実験VI)」と、実験Vと同じ吸引器具で水を供給せずに吸引を行う「水なし(実験VII)」も併せて実施した。なお、「対比同じ長さで径大(実験VI)」の場合も外管なしで吸引管のみでの吸引であるので水は供給しない。
【0046】
以上の「実験V」、「対比同じ長さで径大(実験VI)」、「水なし(実験VII)」のそれぞれについて、各20mlのアルギン酸ナトリウムの2%水溶液、3%水溶液、4%水溶液を吸引完了するのに要した時間を測定した。その所要時間を下記表2に示す。なお、この実験V、VI、VIIでは上記実験I、II、III等と比べて、気温、湿度、吸引器具等の実験条件が全く同一ではないので、上記実験I、II、III等の実験結果と同列に対比すべきではなく、同一条件下で行われたそれぞれの実験群(I、II、III)と実験群(V、VI、VII)の中で対比すべきものである。
【0047】
【表2】
JP0005516950B2_000003t.gif

【0048】
また、上記各濃度について、実験V、VI、VIIの所要時間の平均値と標準偏差を表3に示した。
【0049】
【表3】
JP0005516950B2_000004t.gif

【0050】
上記実験V、VI、VIIの実験結果に示すように、本実施形態の吸引システムによれば、高粘度の吸引対象物を短時間で吸引除去する性能において有意に優れていることが確認できた。特に、「水なし(実験VII)」との対比において、水が吸引管の内周面を薄膜状に覆って流れていることで吸引管内周面に対する吸引対象物の接触抵抗が大きく低減されていることが検証された。また、「対比同じ長さで径大(実験VI)」との対比において、径が大きく吸引が容易となると思われる場合と比べても、実験Vの吸引システムのほうが、吸引管の内周面に薄層状の水を流すことによって、高粘度の吸引対象物を吸引しやすいことが明確に示されている。
【0051】
また、前記実験Vにおいて消費された水の量は、2%水溶液で約1ml、3%水溶液で1~3ml、4%水溶液で3~5ml程度であり、いずれの場合も水の消費量が極めて少なくて済むことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上記では本発明の一実施形態として、耳鼻科用の吸引器具、吸引システムおよび吸引方法について説明したが、本発明に係る吸引器具等は耳鼻科以外の医療現場(例えば外科)での吸引処置に適用されてもよい。
【0053】
また、本発明の吸引器具等は、医療現場での適用に限定されるものではなく、例えば汚泥や油等の粘性物質を吸引する作業現場においても好適に用いられることができ、広範な分野での適用が可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4A】
3
【図4B】
4
【図5】
5