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明細書 :制御装置、原子間力顕微鏡、制御方法およびプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5283038号 (P5283038)
公開番号 特開2011-033482 (P2011-033482A)
登録日 平成25年6月7日(2013.6.7)
発行日 平成25年9月4日(2013.9.4)
公開日 平成23年2月17日(2011.2.17)
発明の名称または考案の名称 制御装置、原子間力顕微鏡、制御方法およびプログラム
国際特許分類 G01Q  10/02        (2010.01)
G01Q  60/32        (2010.01)
FI G01Q 10/02
G01Q 60/32
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2009-180137 (P2009-180137)
出願日 平成21年7月31日(2009.7.31)
審査請求日 平成24年7月31日(2012.7.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】大藪 範昭
【氏名】木村 建次郎
【氏名】井戸 慎一郎
【氏名】鈴木 一博
【氏名】小林 圭
【氏名】山田 啓文
個別代理人の代理人 【識別番号】100075557、【弁理士】、【氏名又は名称】西教 圭一郎
審査官 【審査官】阿部 知
参考文献・文献 国際公開第2008/029562(WO,A1)
国際公開第2008/087852(WO,A1)
特開2007-033321(JP,A)
特開2000-039390(JP,A)
特開2009-019943(JP,A)
特開2002-372488(JP,A)
特開2000-046716(JP,A)
調査した分野 G01Q 10/00-90/00
特許請求の範囲 【請求項1】
試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を制御する制御部と、
予め定める基準周波数に対して変動する振動体の変動周波数を検出する検出部とを含み、
制御部は、試料または振動体の移動を開始するように機構部を制御した後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数として設定し、設定した後、検出部によって検出される変動周波数が閾値周波数以上になると、試料または振動体の移動を停止するよう機構部を制御することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、前記機構部が試料または振動体を予め定める距離移動したという条件であることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、予め定める時間が経過したという条件であることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、前記変動周波数の変動量がゆらぎによる変動周波数Δfの上昇幅を超える変動幅となる第1の変動量以上であり、かつ短距離力が働き始めてからプローブの先端部と試料表面とが接触する第2の変動量未満であることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
振動体と、
試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部と、
請求項1~4のいずれか1つに記載される制御装置とを備えることを特徴とする原子間力顕微鏡。
【請求項6】
試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を制御する制御部と、予め定める基準周波数に対して変動する振動体の変動周波数を検出する検出部とを含む制御装置が機構部を制御する制御方法であって、
機構部による試料または振動体の移動を開始する開始ステップと、
開始ステップで機構部による試料または振動体の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数として設定する閾値設定ステップと、
検出部によって検出される変動周波数が閾値設定ステップで設定された閾値周波数以上になると、機構部による試料または振動体の移動を停止する停止ステップとを含むことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
予め定める基準周波数に対して変動する振動体の変動周波数を検出する検出部と、コンピュータとを含む制御装置のコンピュータに、
試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を開始する開始ステップと、
開始ステップで機構部による試料または振動体の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数として設定する閾値設定ステップと、
検出部によって検出される変動周波数が閾値設定ステップで設定された閾値周波数以上になると、機構部による試料または振動体の移動を停止する停止ステップとを実行させるためのプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体と試料とを原子間力が働く距離まで接近させる制御を行う制御装置、原子間力顕微鏡、制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調方式原子間力顕微鏡(Frequency-Modulation Atomic Force Microscope:略称FM-AFM)は、カンチレバーなどの振動体の共振周波数が、カンチレバーの先端部に設けられるプローブ(以下「探針」ともいう)と試料表面との間で働く力によって変化するという原理を利用して、カンチレバーの共振周波数の変化に基づいて、プローブと試料表面との距離を一定に保ちながら試料表面を走査して、試料表面の凹凸を測定するものである。
【0003】
図4は、第1の従来の技術であるFM-AFM9の構成を模式的に示す図である。カンチレバー11が共振する共振周波数は、カンチレバー11に設けられたプローブ12と試料表面3との距離に応じて変化する。共振周波数が変動するカンチレバー11の変位は、変位検出計14によって検出される。変位検出計14によって検出された変位を表す信号は、周波数検出装置10に送られる。周波数検出装置10は、変位検出計14から受け取る変位を表す信号から、基準となる基準周波数f0に対して共振周波数fが変動する変動周波数Δfを表す電気信号を生成し、制御コントローラ95の距離制御部151および粗動機構制御部953に送る。
【0004】
微動機構部(図4では「Z piezo」と記す)16は、圧電素子によって構成され、距離制御部151の指示によって、試料2を載置するテーブル18を鉛直方向、つまりZ軸方向に移動し、プローブ12の先端部と試料表面3との距離を変化させる。XY軸方向移動部(図4では「XY piezo」と記す)17は、圧電素子によって構成され、XYスキャン部152の指示によって、テーブル18をZ軸に直交する方向に移動し、試料表面3の全面の測定を可能とする。
【0005】
距離制御部151は、周波数検出装置10からの変動周波数Δfを表す電気信号が一定の値になるように、すなわち、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が一定になるように、微動機構部16を制御する。制御コントローラ15は、試料2をXY軸方向に移動させるとき、Z軸方向のテーブル18の位置、すなわちプローブ12の先端部と試料表面3との距離を記憶しておき、記憶したZ軸方向の位置をXYZ座標系でプロットすることによって、試料表面3の凹凸を画像として出力することができる。
【0006】
図5は、粗動機構部20による試料2の移動範囲を示す図である。カンチレバー11および試料2をFM-AFM9に設置するとき、プローブ12の先端部と試料2とは数cm~数mm離れた状態であり、たとえば距離L1=数mmである。FM-AFM9で試料表面3を観測するためには、プローブ12の先端部と試料表面3との距離を、短距離相互作用力(以下「短距離力」ともいう)が働く距離L2、たとえば数nmまで接近させる必要がある。
【0007】
粗動機構部20は、試料2をプローブ12に接近および離反させる方向、つまりZ軸方向に移動させる機構である。粗動機構部20は、試料2を移動するが、図5では、カンチレバー11を相対的に移動したように示している。粗動機構部20は、プローブ12の先端部と試料表面3との距離を数cmから数nmまで接近させることができる。
【0008】
図6は、粗動機構制御部953による粗動基本処理を示すフローチャートである。粗動機構制御部953は、図示しない操作部から、試料2のアプローチが指示されると、ステップB1に移る。アプローチとは、カンチレバー11および試料2がFM-AFM9に設置されたときの位置から、つまり図5に示した距離L1離れた位置から、プローブ12の先端部と試料表面3との間に短距離力が働く距離L2まで、粗動機構部20によって、試料2をプローブ12に接近させることである。
【0009】
ステップB1では、粗動機構制御部953は、粗動機構部20に、プローブ12に近接する方向への試料2の移動の開始を指示した後、粗動機構部20を用いて試料2をプローブ12に接近させる。ステップB2では、粗動機構制御部953は、微動機構部16の制御距離範囲内で入力がセットポイントを超えるか否かを判定する。判定方法には、微動機構部16を縮めた状態で粗動機構部20を用いて試料2を接近させ、粗動機構部20による移動停止後に、微動機構部16を伸ばし微動機構部16が伸びきるまでの間で、入力がセットポイントを超えるか否かを判定する方法と、距離フィードバック機能を用いて微動機構部16を伸ばした状態にして、粗動機構部20を用いてプローブ12と試料表面3間距離を接近させたとき、入力がセットポイントを超えないようにするため、距離フィードバック出力が微動機構部16を伸ばしきらない状態になったか否かを判定方法があり、いずれの判定方法としてもよい。
【0010】
微動機構部16の制御距離範囲は、一般に数μmである。入力は、周波数検出装置10からの変動周波数Δfを表す電気信号である。セットポイントは、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が、短距離力が働く距離、つまり距離L2になったと粗動機構制御部953が判定するための変動周波数Δfの閾値周波数である。セットポイントは、たとえば粗動機構制御部953のメモリなどに記憶され、予め図示しない操作部から操作者によって設定される。粗動機構制御部953は、周波数検出装置10からの変動周波数Δfを表す電気信号に基づいて、変動周波数Δfがセットポイント以上になったか否かを判定する。
【0011】
粗動機構制御部953は、変動周波数Δfがセットポイント以上になったとき、微動機構部16の制御距離範囲内で入力がセットポイントを超えたと判定し、移動を停止するように粗動機構部20を制御した後、粗動基本処理を終了する。粗動機構制御部953は、変動周波数Δfがセットポイント未満であるとき、微動機構部16の制御距離範囲内で入力がセットポイントを超えていないと判定し、ステップB1に戻る。
【0012】
図7は、変動周波数Δfとセットポイントとの関係を示す図である。横軸が試料2の微動機構部16による移動距離z(nm)であり、縦軸が変動周波数Δf(Hz)である。図7では、移動距離zの基点は、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が数nmである位置を0としている。変動周波数Δfは、移動距離zが0nm~2.5nmの範囲では、ほぼ-250Hzから250Hzの範囲で変動しているが、移動距離zが2.5nmを超えると、短距離力が働き、急激に上昇している。
【0013】
セットポイントは、短距離力が働き始め、変動周波数Δfが急激に上昇しているときの周波数に設定される。たとえば、セットポイントを、微動機構部16による移動距離zが0nm~2.5nmの範囲での最大の変動周波数Δfから大きく離れた周波数SP1、たとえば約1700Hzに設定した場合、粗動機構制御部953は、微動機構部16による移動距離zがz2=2.9nmで距離L2になったと判定する。また、セットポイントを、微動機構部16による移動距離zが0nm~2.5nmの範囲での最大の変動周波数Δfからあまり離れない周波数SP2、たとえば約450Hzに設定した場合、粗動機構制御部953は、微動機構部16による移動距離zがz1=2.7nmで距離L2になったと判定する。
【0014】
実験では、試料2の厚さのばらつきなどにより、遠い距離、たとえば距離L1=数mmからプローブ12に近づける場合、どれだけ接近させたときに短距離力が働くかを事前に知ることは困難である。
【0015】
短距離力が働く距離で表面観察が可能となるが、アプローチ時にセットポイントが大きいと、プローブ12と試料表面3間の相互作用力が大きい距離になるまで両者が接近したと判断されないので、大きな相互作用力によってプローブと試料表面の破壊が引き起こされる可能性が高くなる。そのためアプローチ時のセットポイントは、小さいことが望ましい。しかしながら、セットポイントが小さすぎると、入力信号のノイズなどによってアプローチが終了したと判断される場合があるため、入力に対して適切な差を持ったものをセットポイントとする必要がある。
【0016】
特許文献1に記載される第2の従来の技術である非接触型原子間力顕微鏡は、試料の表面を走査するとき、往復時の測定信号の相関とエラー信号とをモニタしながら、最適な測定条件を探索する。測定条件は、セットポイント、フィードバック系のゲイン、走査速度および励振強度などの条件である。エラー信号は、カンチレバー振幅の設定値からのずれを示す信号である。第2の従来の技術でのセットポイントは、フィードバック系により一定に保つべきカンチレバーの振幅値である。
【0017】
特許文献2に記載される第3の従来の技術である走査プローブ顕微鏡は、変位検出機構によってカンチレバーの振幅を検出しながら、粗動機構によって探針とサンプルつまり試料とを近接させるとき、変位検出機構によって検出される振幅が設定された振幅量になった時点で、粗動機構を停止させる。振動方式でカンチレバーを加振する周波数を低周波側動作点にする場合、振幅量は、探針サンプル間距離が少なくなるとき、徐々に減少し、変曲点付近で増加した後、変曲点を過ぎると急激に減少する。設定する振幅量を、振幅が増加するときの振幅量とする。振幅が増加しないことがあり得るときは、振幅が急激に減少するときの振幅量を用いる。
【0018】
特許文献3に記載される第4の従来の技術である走査プローブ顕微鏡の探針接近方法は、粗動機構部によって、試料を高さ方向に相対的に大きな距離で移動させながら、微動機構部によって、探針を3次元方向に相対的に微小な距離で、試料と探針との間に働く原子間力が一定に保たれる距離まで移動させる。粗動機構部は、試料を高さ方向に移動させるとき、1回の移動で、微動機構部による最大変位量よりも小さい単位変位量だけ移動させ、微動機構部による移動によって原子間力が一定に保たれる距離まで移動させることができないときは、さらに単位変位量だけ移動させることを繰り返す。
【0019】
特許文献4に記載される第5の従来の技術である走査プローブ顕微鏡は、ピエゾ駆動素子によってz方向の移動が行われるカンチレバーに設けられる探針によって、試料表面の凹凸を測定するとき、レバー変位検出機構によって検出されるカンチレバーの振動振幅に対応する電圧と、セットポイントを規定する電圧との差をアンプで増幅し、積分回路を通してz駆動電圧としてピエゾ駆動素子に供給する。この走査プローブ顕微鏡は、測定した後測定場所を移動するとき、セットポイントを変更することによって探針を退避させ、試料ステージによって探針を次の測定場所に移動し、アンプのゲインを下げる。そして、セットポイントを測定時の値に戻して探針を試料に接近させた後、ゲインを測定時の値に戻して測定する。アンプのゲインを下げることによって、探針と試料とが急激に接近し、瞬間的に探針が試料と接触することを防止するものである。
【先行技術文献】
【0020】

【特許文献1】特開2000-39390号公報
【特許文献2】特開2009-19943号公報
【特許文献3】特開2002-372488号公報
【特許文献4】特開2000-46716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図8は、近傍領域で微動機構部16の移動距離に対する変動周波数Δfと、遠方領域での粗動機構部20による移動距離に対する変動周波数Δfとの相違を説明するための図である。図8(a)は、近傍領域K1での変動周波数Δfを示し、図7に示した変動周波数Δfと同じである。近傍領域K1は、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が数nm程度の範囲である。図8(a)に示した変動周波数Δfには、0から2.5nmの間ではゆらぎはない。
【0022】
図8(b)は、遠方領域K2での変動周波数Δfを示す。遠方領域K2は、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が数百μmに及ぶ範囲である。図8(b)では、移動距離zの基点は、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が数百μmである位置を0としている。変動周波数Δfは、移動距離zが0μmで約0Hzであるが、移動距離zが0μm~50μmで-600Hz付近まで低下する。そして、変動周波数Δfは、移動距離zが200μm付近まで、-600Hzから-400Hzまで増加し、さらに、移動距離zが350μm付近まで、-400Hzから400Hzまで増加している。すなわち、遠方領域K2では、変動周波数Δfは、ゆらぎが生じている。
【0023】
FM-AFM9では、プローブ12と試料2間の静電気力やファンデルワールス力などの遠距離力によって遠距離で変動周波数が変化することがあり、遠距離力による影響は、真空中、気体中、および液体中などのすべての環境下で起こりうる。一方、液体中で試料2を観測するとき、図8(b)に示すように、変動周波数Δfは、雰囲気温度変化、液体の対流などの影響を受けて、距離再現性、あるいは経過時間再現性の低いランダムなゆらぎが生じる。
【0024】
図9は、変動周波数のゆらぎに起因する問題点を説明するための図である。図8(b)のような遠距離でのゆらぎがあるとき、図9(a)は、微動機構部16を縮ませた状態で粗動機構部20を用いて、70μm接近させた後、微動機構部16を伸ばして接近させたときに短距離力が働く場合の模式図である。図9(b)は、微動機構部16を縮ませた状態で粗動機構部20を用いて、350μm接近させた後、微動機構部16を伸ばして接近させた時に短距離力が働く場合の模式図である。短距離力が働くと図9に示すように急峻に変動周波数が変化する。図9(a),(b)に示した例では、セットポイントをSP3=200Hzとしている。
【0025】
図9(a),(b)に示した変動周波数Δfのゆらぎは、たとえば移動距離z3=70μm付近で、SP3に対する変動周波数Δfの差がΔf3=-800Hzと、周波数が低くなる方向に大きく揺らいでいる。移動距離z3の位置でプローブ12の先端部と試料表面3との間に短距離力が働くと仮定した場合、移動距離z3の手前で変動周波数Δfが仮想線のように急激に上昇する。この時、微動機構を伸ばしていったときアプローチが終了したと判断されるセットポイントは+800Hzとなり、始めに設定した200Hzを大きく上回る。また、図9(b)は、たとえば移動距離z4=350μm付近で、SP3に対する変動周波数Δfの差がΔf4=+200Hzと、周波数が高くなる方向に揺らいでいる。移動距離z4の位置でプローブ12の先端部と試料表面3との間に短距離力が働くと仮定した場合、短距離力が働く前にゆらぎによってセットポイントを超えアプローチが終了してしまう。
【0026】
このような場合、プローブ12の先端部と試料表面3とを適切なセットポイントで接近させるためには、変動周波数のゆらぎに応じてセットポイントを再調整する必要があり、セットポイントの再調整を行う度に、アプローチ動作の停止と再開を手動で行う必要がある。
【0027】
第2の従来の技術は、表面観察時における最適な測定条件、たとえばセットポイントを探索するものであり、試料をプローブに近接するものではない。第3の従来の技術は、振幅量の増減に注目して、試料をプローブに近接させるものであるが、変動周波数にゆらぎがある場合、第1の従来の技術と同様に、手動で再調整を行う必要がある。第4,5の従来の技術も、試料をプローブに近接させるものであるが、変動周波数にゆらぎがある場合、第1の従来の技術と同様に、手動で再調整を行う必要がある。
【0028】
本発明の目的は、振動体の変動周波数に距離や、経過時間や雰囲気温度に依存するゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブと試料間に設定値以上の短距離力が働くことを避けながら、原子間力が働く距離まで振動体と試料とを正確に接近させることができる制御装置、原子間力顕微鏡、制御方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を制御する制御部と、
予め定める基準周波数に対して変動する振動体の変動周波数を検出する検出部とを含み、
制御部は、試料または振動体の移動を開始するように機構部を制御した後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数として設定し、設定した後、検出部によって検出される変動周波数が閾値周波数以上になると、試料または振動体の移動を停止するよう機構部を制御することを特徴とする制御装置である。
【0030】
また本発明は、前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、前記機構部が試料を予め定める距離移動したという条件であることを特徴とする。
【0031】
また本発明は、前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、予め定める時間が経過したという条件であることを特徴とする。
【0032】
また本発明は、前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、前記変動周波数の変動量がゆらぎによる変動周波数Δfの上昇幅を超える変動幅となる第1の変動量以上であり、かつ短距離力が働き始めてからプローブの先端部と試料表面とが接触する第2の変動量未満であることを特徴とする。
【0033】
また本発明は、振動体と、
試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部と、
前記制御装置とを備えることを特徴とする原子間力顕微鏡である。
【0034】
また本発明は、試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を制御する制御部と、予め定める基準周波数に対して変動する振動体の変動周波数を検出する検出部とを含む制御装置が機構部を制御する制御方法であって、
機構部による試料または振動体の移動を開始する開始ステップと、
開始ステップで機構部による試料または振動体の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数として設定する閾値設定ステップと、
検出部によって検出される変動周波数が閾値設定ステップで設定された閾値周波数以上になると、機構部による試料または振動体の移動を停止する停止ステップとを含むことを特徴とする制御方法である。
【0035】
また本発明は、予め定める基準周波数に対して変動する振動体の変動周波数を検出する検出部と、コンピュータとを含む制御装置のコンピュータに、
試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を開始する開始ステップと、
開始ステップで機構部による試料または振動体の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数として設定する閾値設定ステップと、
検出部によって検出される変動周波数が閾値設定ステップで設定された閾値周波数以上になると、機構部による試料または振動体の移動を停止する停止ステップとを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、制御部によって、試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動が制御される。検出部によって、振動体が振動する周波数が予め定める基準周波数に対して変動する変動周波数が検出される。そして、制御部によって、試料または振動体の移動を開始するように機構部を制御した後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数が閾値周波数とされ、検出部によって検出される変動周波数が閾値周波数以上になると、試料または振動体の移動を停止するよう機構部が制御される。
【0037】
すなわち、閾値周波数が変動周波数のゆらぎに応じて再設定されるので、変動周波数にゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブおよび試料に損傷を与えることなく、原子間力が働く距離まで振動体と試料とを正確に接近させることができる。
【0038】
また本発明によれば、前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、前記機構部が試料を予め定める距離移動したという条件であるので、機構部による移動を制御する制御部自身の情報によって機構部を制御することができる。
【0039】
また本発明によれば、前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、予め定める時間が経過したという条件であるので、制御装置が計時機能を有していれば、その機能を利用して機構部を制御することができる。
【0040】
また本発明によれば、前記予め定める条件は、前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させたとき、または前記制御部が前記機構部による試料または振動体の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、前記変動周波数の変動量がゆらぎによる変動周波数Δfの上昇幅を超
える変動幅となる第1の変動量以上であり、かつ短距離力が働き始めてからプローブの先端部と試料表面とが接触する第2の変動量未満であるので、検出部が検出する変動周波数に基づいて機構部を制御することができる。
【0041】
また本発明によれば、振動体と、試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部と、前記制御装置とを備えるので、振動体の変動周波数にゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブおよび試料に損傷を与えることなく、原子間力が働く距離まで振動体と試料とを正確に接近させることができる原子間力顕微鏡を実現することができる。
【0042】
また本発明によれば、試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を制御する制御部と、振動体が振動する周波数が予め定める基準周波数に対して変動する変動周波数を検出する検出部とを含む制御装置が機構部を制御するにあたって、開始ステップでは、機構部による試料または振動体の移動を開始する。閾値設定ステップでは、開始ステップで機構部による試料または振動体の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数とする。そして、停止ステップでは、検出部によって検出される変動周波数が閾値設定ステップで設定された閾値周波数以上になると、機構部による試料または振動体の移動を停止する。
【0043】
すなわち、閾値周波数が変動周波数のゆらぎに応じて再設定されるので、変動周波数にゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブおよび試料に損傷を与えることなく、原子間力が働く距離まで振動体と試料とを正確に接近させることができる。
【0044】
また本発明によれば、振動体が振動する周波数が予め定める基準周波数に対して変動する変動周波数を検出する検出部と、コンピュータとを含む制御装置のコンピュータに、試料と振動体とを接近させる方向に移動する機構部による試料または振動体の移動を開始する開始ステップと、開始ステップで機構部による試料または振動体の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で検出部によって検出された変動周波数に予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数とする閾値設定ステップと、検出部によって検出される変動周波数が閾値設定ステップで設定された閾値周波数以上になると、機構部による試料または振動体の移動を停止する停止ステップとを実行させるためのプログラムとして提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態である周波数変調方式原子間力顕微鏡1の構成を模式的に示す図である。
【図2】粗動機構制御部153による粗動制御処理を示すフローチャートである。
【図3】変動周波数とセットポイントとの関係を示す図である。
【図4】第1の従来の技術である周波数変調方式原子間力顕微鏡9の構成を模式的に示す図である。
【図5】粗動機構部20による試料2の移動範囲を示す図である。
【図6】粗動機構制御部953による粗動基本処理を示すフローチャートである。
【図7】変動周波数とセットポイントとの関係を示す図である。
【図8】近傍領域で微動機構部16の移動距離に対する変動周波数Δfと、遠方領域での粗動機構部20による移動距離に対する変動周波数Δfとの相違を説明するための図である。
【図9】変動周波数のゆらぎに起因する問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、本発明の一実施形態である周波数変調方式原子間力顕微鏡(Frequency-
Modulation Atomic Force Microscope:略称FM-AFM)1の構成を模式的に示す図である。FM-AFM1は、カンチレバー11、変位検出計14、周波数検出装置10、制御コントローラ15、微動機構部(図1では「Z piezo」と記す)16、XY軸方向移動部(図1では「XY piezo」と記す)17、テーブル18および粗動機構部20を含んで構成される。周波数検出装置10および制御コントローラ15は、制御装置を構成する。本発明に係る制御方法は、制御コントローラ15で処理される。

【0047】
振動体であるカンチレバー11は、一端がFM-AFM1の図示しない筐体に支持され、他端にプローブ12が設けられる。カンチレバー11は、図示しない圧電素子によって、プローブ12が試料2に近接および離反する方向に振動される。カンチレバー11の共振周波数は、プローブ12の先端部と試料表面3との距離によって変化する。これは、プローブ12の先端部と試料表面3との間に働く原子間力、つまり短距離相互作用力(以下「短距離力」ともいう)が、距離によって変化するためである。カンチレバー11の共振周波数fは、図示しない圧電素子によってカンチレバー11を振動させる基準となる基準周波数をf0とし、プローブ12の先端部と試料表面3との距離によって変動する変動分の変動周波数をΔfとすると、f=f0+Δfである。

【0048】
変位検出計14は、共振周波数fで振動するカンチレバー11の変位を、たとえばレーザ光を利用して検出し、検出した変位を表す電気信号を生成し、生成した電気信号を入力信号として周波数検出装置10に送る。

【0049】
試料2は、微動機構部16の鉛直方向上部に固定されるテーブル18に載置される。微動機構部16は、たとえば圧電素子によって構成され、距離制御部151から指示される電圧に応じて、テーブル18をZ軸方向に移動する。Z軸方向は、鉛直方向であり、テーブル18の面のうち試料2が載置される平面に垂直な方向であり、XY軸は、Z軸方向に直交する平面上の座標軸である。XY軸方向移動部17は、たとえば圧電素子によって構成され、XYスキャン部152から指示される電圧に応じて、微動機構部16をX軸方向およびY軸方向に移動する。

【0050】
機構部である粗動機構部20は、ステッピングモータあるいは直流モータを用いて構成され、試料2、テーブル18、微動機構部16およびXY軸方向移動部17を一体に載置し、後述する粗動機構制御部153の指示によって、載置した試料2などをZ軸方向に移動する。粗動機構部20は、図5に示したように、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が距離L1から距離L2までの範囲で、たとえば数cmから数nmまでの範囲で、試料2をプローブに近接または離反させることができる。また、粗動機構部20は,カンチレバー11を移動させる部位に設置し、カンチレバー11を接近させてもよい。

【0051】
検出部である周波数検出装置10は、ヘテロダイン回路および位相同期(Phase Locked
Loop:略称PLL)回路などを含んで構成され、変位検出計14から受け取る入力信号に基づいて、変動周波数Δfを表す電気信号を生成し、生成した電気信号を出力信号として制御コントローラ15に送る。

【0052】
制御コントローラ15は、距離制御部151、XYスキャン部152および粗動機構制御部153を含んで構成される。制御コントローラ15は、たとえば図示しない中央処理装置(以下「CPU」という)および図示しない記憶装置によって構成される。記憶装置は、たとえば半導体メモリからなり、CPUで実行されるプログラムおよびプログラムを実行するために必要な情報を記憶する。CPUは、記憶装置に記憶されるプログラムを実行することによって、距離制御部151、XYスキャン部152および粗動機構制御部153などの機能を実現する。

【0053】
距離制御部151は、周波数検出装置10から受け取る出力信号、つまり変動周波数Δfを表す電気信号が一定の値になるように、すなわち、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が一定になるように、微動機構部16を制御する。微動機構部16は、距離制御部151からの指示に応じて、テーブル18を上下し、プローブ12の先端部と試料表面3との距離を一定に保つ。

【0054】
XYスキャン部152は、テーブル18をX軸方向およびY軸方向に移動し、試料表面3の全面を走査するように、XY軸方向移動部17を制御する。制御コントローラ15は、テーブル18がXY軸方向に移動するとき、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が一定になるZ軸方向のテーブル18の位置を記憶する。そして、記憶したZ軸方向の位置をXYZ軸の座標系でプロットすることによって、試料表面3の凹凸を画像として出力することができる。

【0055】
制御部である粗動機構制御部153は、カンチレバー11および試料2がFM-AFM1に設置された後、図示しない操作部から操作者によって試料2のアプローチが指示されると、粗動機構部20に、プローブ12に接近する方向への試料2の移動の開始を指示する。アプローチとは、カンチレバー11および試料2がFM-AFM1に設置されたときの位置から、つまり図2に示した距離L1離れた位置から、プローブ12の先端部と試料表面3との間に短距離力が働く距離L2まで、粗動機構部20によって、試料2をプローブ12に接近させることである。

【0056】
粗動機構制御部153は、周波数検出装置10から受け取る出力信号、つまり変動周波数Δfを表す電気信号に基づいて、変動周波数Δfがセットポイント以上になったか否かを判定し、変動周波数Δfがセットポイント以上になると、試料2の移動を停止するように粗動機構部20を制御する。セットポイントは、変動周波数Δfが、プローブ12の先端部と試料表面3との間に短距離力が働く距離、つまり距離L2になったと判定するための閾値周波数である。

【0057】
粗動機構制御部153は、プローブ12に接近する方向への試料2の移動の開始を粗動機構部20に指示した後、予め定める条件が満たされる度に、予め定める条件が満たされた時点で、周波数検出装置10からの電気信号が示す変動周波数Δfに、オフセット周波数を加算した値をセットポイントの値として再設定する。したがって、再設定は、再設定された後、予め定める条件が満たされる度に、繰り返されることになる。オフセット周波数は、操作者が試料2のアプローチを指示する前に、予め図示しない操作部によって操作者が設定し、設定されたオフセット周波数は、制御コントローラ15の記憶装置に記憶される。

【0058】
予め定める条件は、移動開始から、または移動開始後再設定されてから、たとえば試料2の移動距離が予め定める距離になったという条件、予め定める時間が経過したという条件、または変動周波数Δfの変動量が予め定める変動量になったという条件である。いずれの条件でも、プローブ12の先端部と試料表面3との距離が短距離力が働き始める距離になってから、変動周波数Δfが急激に上昇するとき、その上昇を検出することができる必要がある。

【0059】
予め定める条件を試料2の移動距離が予め定める距離になったという条件にする場合、予め定める距離は、短距離力が働き始めたことによる変動周波数Δfの上昇幅が、ゆらぎによる変動周波数Δfの変動幅を超える上昇幅となる第1の距離以上であり、かつ短距離力が働き始めてからプローブ12の先端部と試料表面3とが接触する第2の距離未満の範囲とする必要がある。好ましくは、この範囲内で第1の距離にできるだけ近い距離とし、プローブ12と試料2との接触の危険性を少なくする。

【0060】
予め定める条件を予め定める時間が経過したという条件にする場合、予め定める時間は、短距離力が働き始めたことによる変動周波数Δfの上昇幅が、ゆらぎによる変動周波数Δfの変動幅を超える上昇幅となる第1の時間以上であり、かつ短距離力が働き始めてからプローブ12の先端部と試料表面3とが接触する第2の時間未満の範囲とする必要がある。好ましくは、この範囲内で第1の時間にできるだけ近い時間とし、プローブ12と試料2との接触の危険性を少なくする。

【0061】
予め定める条件を変動周波数Δfの変動量が予め定める変動量になったという条件にする場合、予め定める変動量は、短距離力が働き始めたことによる変動周波数Δfの上昇幅が、ゆらぎによる変動周波数Δfの上昇幅を超える変動幅となる第1の変動量以上であり、かつ短距離力が働き始めてからプローブ12の先端部と試料表面3とが接触する第2の変動量未満の範囲とする必要がある。好ましくは、この範囲内で第1の変動量にできるだけ近い変動量とし、プローブ12と試料2との接触の危険性を少なくする。

【0062】
図2は、粗動機構制御部153による粗動制御処理を示すフローチャートである。粗動機構制御部153は、図示しない操作部から、試料2のアプローチが指示されると、ステップB1に移る。

【0063】
開始ステップであるステップA1では、粗動機構制御部153は、プローブ12に接近する方向への試料2の移動の開始を粗動機構部20に指示した後、粗動機構部20を用いて試料2をプローブ12に接近させる。停止ステップであるステップA2では、粗動機構制御部153は、微動機構部16の制御距離範囲内で入力がセットポイントを超えるか否かを判定する。微動機構部16の制御距離範囲は、一般的に数μmである。入力は、周波数検出装置10からの変動周波数Δfを表す電気信号である。粗動機構制御部153は、周波数検出装置10からの変動周波数Δfを表す電気信号に基づいて、変動周波数Δfがセットポイント以上になったか否かを判定する。

【0064】
粗動機構制御部153は、変動周波数Δfがセットポイント以上になったとき、微動機構部16の制御距離範囲内で入力がセットポイントを超えたと判定し、移動を停止するように粗動機構部20を制御した後、粗動制御処理を終了する。粗動機構制御部153は、変動周波数Δfがセットポイント未満であるとき、微動機構部16の制御距離範囲内で入力がセットポイントを超えていないと判定し、ステップA3に進む。

【0065】
閾値設定ステップであるステップA3では、粗動機構制御部153は、セットポイントを再設定して、ステップA1に戻る。セットポイントの再設定は、予め定める条件が満たされているときのみ行われ、予め定める条件が満たされた時点で、周波数検出装置10からの変動周波数Δfを表す電気信号が示す変動周波数Δfに、オフセット周波数を加算した周波数を、新たなセットポイントとして設定する。

【0066】
図3は、変動周波数Δfとセットポイントとの関係を示す図である。横軸が試料2の移動距離z(nm)であり、縦軸が変動周波数Δf(Hz)である。変動周波数曲線dfは、試料2の移動距離zに応じて変化する変動周波数Δfを示し、セットポイント曲線SP4は、予め定める条件が満たされる度に、その時点での変動周波数曲線dfの値に応じて再設定されるセットポイントを示す。セットポイントは、変動周波数曲線dfが示す変動周波数Δfに、オフセット周波数を加算した値である。図3に示した例では、オフセット周波数は、200Hzである。

【0067】
このように、粗動機構制御部153は、予め定める条件が満たされる度に、予め定める条件が満たされた時点で、周波数検出装置10からの電気信号が示す変動周波数Δfに、設定されているオフセット周波数を加算した値をセットポイントの値として再設定するので、変動周波数Δfにゆらぎがあっても、プローブ12の先端部と試料表面3との間に短距離力が働く距離になったことによる変動周波数Δfの上昇を的確に判断することができる。

【0068】
上述した実施形態では、制御コントローラ15のCPUに実行させるプログラムであって、粗動制御処理を行うプログラムを含むプログラムを記憶装置に記憶したが、記憶装置をRAM(Random Access Memory)などの半導体メモリによって構成する場合は、他の装置に記憶される粗動制御処理を行うプログラムを含むプログラムを、通信回線を介してダウンロードしてRAMに記憶するか、あるいは着脱可能な記録媒体に記憶されるプログラムを読み込んでRAMに記憶する構成としてもよい。

【0069】
また、上述した実施形態では、粗動機構制御部153をFM-AFM1、つまり周波数変調方式の原子間力顕微鏡に適用した例を示したが、周波数変調方式に限定されるものではなく、目的とするプローブと試料表面間での相互作用力が短距離で働き距離に依存する信号に加えて、距離や経過時間や温度変化などに起因する信号のゆらぎや遠距離力が働くような場合に有効であり、コンタクト方式の原子間力顕微鏡や、振幅変調方式原子間力顕微鏡や、磁気力顕微鏡などにも応用することができる。

【0070】
このように、粗動機構制御部153によって、試料2とカンチレバー11とを接近させる方向に移動する粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動が制御される。周波数検出装置10によって、予め定める基準周波数に対して変動するカンチレバー11の変動周波数Δfが検出される。そして、粗動機構制御部153によって、試料2またはカンチレバー11の移動を開始するように粗動機構部20を制御した後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で周波数検出装置10によって検出された変動周波数Δfに予め定めるオフセット周波数を加算した周波数がセットポイントとして設定され、設定された後、周波数検出装置10によって検出される変動周波数Δfがセットポイント以上になると、試料2またはカンチレバー11の移動を停止するよう粗動機構部20が制御される。

【0071】
すなわち、セットポイントが変動周波数Δfのゆらぎに応じて再設定されるので、変動周波数Δfにゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブ12および試料2に損傷を与えることなく、原子間力が働く距離までカンチレバー11と試料2とを正確に接近させることができる。

【0072】
さらに、前記予め定める条件は、粗動機構制御部153が粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始させたとき、または粗動機構制御部153が粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、粗動機構部20が試料2を予め定める距離移動したという条件であるので、粗動機構部20による移動を制御する粗動機構制御部153自身の情報によって制御することができる。

【0073】
さらに、前記予め定める条件は、粗動機構制御部153が粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始させたとき、または粗動機構制御部153が粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、予め定める時間が経過したという条件であるので、制御装置が計時機能を有していれば、その機能を利用して制御することができる。

【0074】
さらに、前記予め定める条件は、粗動機構制御部153が粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始させたとき、または粗動機構制御部153が粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始させた後、前記予め定めるオフセット周波数を加算した周波数を閾値周波数としたときから、変動周波数Δfの変動量が予め定める変動量変化したという条件であるので、周波数検出装置10が検出する変動周波数Δfに基づいて制御することができる。

【0075】
さらに、カンチレバー11と、試料2とカンチレバー11とを接近させる方向に移動する粗動機構部20と、周波数検出装置10および制御コントローラ15とを備えるので、カンチレバー11の変動周波数Δfにゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブ12および試料2に損傷を与えることなく、原子間力が働く距離までカンチレバー11と試料2とを正確に接近させることができるFM-AFM1を実現することができる。

【0076】
さらに、試料2とカンチレバー11とを接近させる方向に移動する粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を制御する粗動機構制御部153と、予め定める基準周波数に対して変動するカンチレバー11の変動周波数Δfを検出する周波数検出装置10とを含む制御装置が粗動機構部20を制御するにあたって、図2に示したフローチャートで、ステップA1では、粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始する。ステップA3では、ステップA1で粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で周波数検出装置10によって検出された変動周波数Δfに予め定めるオフセット周波数を加算した周波数をセットポイントとして設定する。そして、ステップA2では、周波数検出装置10によって検出される変動周波数ΔfがステップA3で設定されたセットポイント以上になると、粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を停止する。

【0077】
すなわち、セットポイントが変動周波数Δfのゆらぎに応じて再設定されるので、変動周波数Δfにゆらぎがあっても、ゆらぎによってアプローチ動作が終了することなく、かつプローブ12および試料2に損傷を与えることなく、原子間力が働く距離までカンチレバー11と試料2とを正確に接近させることができる。

【0078】
さらに、予め定める基準周波数に対して変動するカンチレバー11の変動周波数Δfを検出する周波数検出装置10と、コンピュータとを含む制御装置のコンピュータに、試料2とカンチレバー11とを接近させる方向に移動する粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を開始する図2に示したステップA1と、ステップA1で粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動が開始された後、予め定める条件が満たされる度に、前記予め定める条件が満たされた時点で周波数検出装置10によって検出された変動周波数Δfに予め定めるオフセット周波数を加算した周波数をセットポイントとして設定する図2に示したステップA3と、周波数検出装置10によって検出される変動周波数ΔfがステップA3で設定されたセットポイント以上になると、粗動機構部20による試料2またはカンチレバー11の移動を停止する図2に示したステップA2とを実行させるためのプログラムとして提供することができる。
【符号の説明】
【0079】
1,9 FM-AFM
2 試料
3 試料表面
10 周波数検出装置
11 カンチレバー
12 プローブ
14 変位検出計
15,95 制御コントローラ
16 微動機構部
17 XY軸方向移動部
18 テーブル
20 粗動機構部
151 距離制御部
152 XYスキャン部
153,953 粗動機構制御部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8