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明細書 :共振器及び電子スピン共鳴測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3443010号 (P3443010)
公開番号 特開2000-065769 (P2000-065769A)
登録日 平成15年6月20日(2003.6.20)
発行日 平成15年9月2日(2003.9.2)
公開日 平成12年3月3日(2000.3.3)
発明の名称または考案の名称 共振器及び電子スピン共鳴測定装置
国際特許分類 G01N 24/10      
A61B  5/055     
G01R 33/36      
G01R 33/60      
FI G01N 24/10 510Z
A61B 5/05
G01N 24/04
G01N 24/10
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願平10-232526 (P1998-232526)
出願日 平成10年8月19日(1998.8.19)
審査請求日 平成13年3月8日(2001.3.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
発明者または考案者 【氏名】平田 拓
【氏名】ワルチェック、タデウシュ
個別代理人の代理人 【識別番号】100107010、【弁理士】、【氏名又は名称】橋爪 健
審査官 【審査官】平田 佳規
参考文献・文献 特開 昭59-122937(JP,A)
特開 平5-157821(JP,A)
実開 昭60-149263(JP,U)
Hiroshi Hirata and Mitsuhiro Ono,Rev.Sci.Instrum,1997年 9月,Vol.68,No.9,p.3528-3532
調査した分野 G01N 24/00 - 24/14
G01R 33/20 - 33/64
特許請求の範囲 【請求項1】
試料に近接又は接触して配置されるサーフェイスコイルと、
第1及び第2の一端及び第1及び第2の他端を有し、前記サーフェイスコイルが第1及び第2の一端に接続された平衡線路と、
前記平衡線路の第1及び第2の他端に接続された平衡・不平衡変換器と、
前記平衡線路の第1の他端に接続され、共振周波数制御電圧が供給されることにより、共振周波数を制御するための共振周波数制御回路と、
前記平衡線路の第2の他端に接続され、整合制御電圧が供給されることにより電子スピン共鳴装置との整合を制御し、試料へ供給される搬送波が入力され、試料からの反射波が出力される整合制御回路を備え、
前記平衡線路は、平行に配置された第1及び第2の同軸ケーブルを備え、前記第1及び第2の同軸ケーブルの各々の一端の間に前記サーフェイスコイルが接続され、前記第1の同軸ケーブルの他端に前記共振周波数制御回路が接続され、前記第2の同軸ケーブルの他端に前記整合制御回路が接続された共振器。

【請求項2】
前記共振周波数制御回路は、
前記平衡線路の第1の他端に設けられた第1の可変容量ダイオードを備え、
共振周波数制御電圧を前記第1の可変容量ダイオードに印加することにより、インピーダンスを変化させて、前記サーフェイスコイル及び前記平衡線路を含む回路の共振周波数を制御することを特徴とする請求項1に記載の共振器。

【請求項3】
前記整合制御回路は、
前記平衡線路の第2の他端に設けられた第2の可変容量ダイオードを備え、
整合制御電圧を前記第2の可変容量ダイオードの一端に印加することにより、インピーダンスを変化させて、前記サーフェイスコイル及び前記平衡線路を含む回路と電子スピン共鳴測定装置との整合を制御し、
前記可変容量ダイオードの他端に搬送波周波数を入力することにより、前記平衡線路及びサーフェイスコイルを介して試料に搬送波を供給し、一方、前記サーフェイスコイル及び前記平衡線路を経た試料からの反射波を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の共振器。

【請求項4】
前記平衡・不平衡変換器は、
前記平衡線路が有する2つの同軸ケーブルの他端の間に両端が各々接続された、半波長の長さの同軸線路を備えたこと特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の共振器。

【請求項5】
自動周波数制御(AFC)参照信号を発信するAFC用発振器と、
AFC参照信号により周波数変調された搬送波を発振する発振器と、
前記発振器からの搬送波を共振器と近接又は接触した試料に供給し、試料から反射された反射波を検波する検波器と、
前記検波器からの検波出力と前記AFC用発振器からのAFC参照信号とに基づいて、共振器の共振周波数を制御するための共振周波数制御電圧を出力する位相検波回路を備えた前記請求項1乃至のいずれかに記載の共振器を有する電子スピン共鳴測定装置。

【請求項6】
前記位相検波回路から出力された共振周波数制御電圧は、前記共振器の前記共振周波数制御回路に供給されることを特徴とする請求項に記載の電子スピン共鳴測定装置。

【請求項7】
前記整合制御電圧は、前記検波器からの検波出力又はロックインアンプからの信号に基づいてフィードバック制御されることを特徴とする請求項5又は6に記載の電子スピン共鳴測定装置。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、共振器及び電子スピン共鳴測定装置に係り、特に、共振周波数を変化することのできる電子同調可能なサーフェイスコイル型(表面コイル型)の共振器、及び、この共振器を用いて自動周波数制御により電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance :ESR)を測定するESR測定装置に関する。

【02】

【従来の技術】一般に、ESR法は、電子が有する磁気モーメントの運動を利用して、不対電子を持った原子や分子を直接検出することができる有効な測定方法である。通常、電子は、原子又は分子軌道に対をなして含まれるが、遷移金属イオンやラジカルではそれらの軌道に例えば1個の電子のみが存在する場合がある。このような電子を、不対電子という。また、最近、生体に自然発生するフリーラジカル(不対電子をもつ分子)が、癌や老化等に関係しているのではないかと言われ、医学や生物学などの分野で話題になっている。フリーラジカルは、化学反応性が高いため、非破壊的に測定する現在唯一の有効な方法がESR法である。ESR法の応用分野は、化学、物理学、生物学、医学など広範囲にわたる。

【03】
ESR装置には、主に、パルスESR法と連続波ESR法(Continuous Wave-ESR法、CW-ESR法)がある。CW-ESR法は、マイクロ波の周波数を一定にし、磁場掃引を行うことにより、ESR信号を測定するものである。この際、磁場変調をかけることにより、電子スピン共鳴を高感度に測定することができる。

【04】
ESR装置においては、計測対象である試料を内部に又は近接して配置することによりESR信号を計測するために、共振器が使用される。従来技術として、例えば米国特許第4,714,886号(1987)には、Halpernの共振器と呼ばれるループ・ギャップ共振器が記載されている。これは、計測する対象(例えばマウス等)をギャップを有する円筒状の容器中に配置して測定するものである。基本的な整合の調整は、平行板コンデンサの間隔を機械的に調整することにより実現される。また、米国特許第5,494,030号(1996)には、ループ・ギャップ共振器の容量部に可変容量コンデンサを付加したものが記載されている。ここでも、共振器の整合の調整は、結合コイルを機械的に移動することにより調整される。この他に、従来、共振器の容量部に誘電体を出し入れすることにより、機械的に共振器の共振周波数を制御するようにしたものもある(例えば、Journalof Magnetic Resonance, Series B, Vol.108, pp.67-72, 1995参照)。

【05】
さらに、従来、サーフェイスコイル及び平衡伝送線路を用いたサーフェイスコイル型の共振器が、電子スピン共鳴計測に使用されている(例えば、H. Hirata,H. Iwai, and M. Ono, "Analysis of a flexible surface-coil-type resonator for magnetic resonance measurements," Review of Scientific Instruments, Vol. 66, No. 9, pp. 4529-4534 (1995)、H. Hirata and M. Ono, "Impedance-matching system for a flexible surface-coil-type resonator," Review ofScientific Instruments, Vol. 68, No. 9, pp. 3528-3532 (1997)等)。

【06】
図10に、従来のサーフェイスコイル型共振器の構成図を示す。この共振器は、サーフェイスコイル51及び平衡線路52を備える。サーフェイスコイル51は、1ターンコイルで構成され、平衡線路52は、50Ωの2本の同軸ケーブルにより構成される。平衡線路52の一端は短絡され、他端はサーフェイスコイル51に接続される。この共振器は、ティーアダプタ53から、整合回路を介してマイクロ波が給電されることにより、整合が調整される。このとき整合回路としては、例えば2つのトリマコンデンサを用いた回路を使用することができる。

【07】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、一般に、ESR法で生体計測を行う際、生体試料の呼吸、鼓動、脈、不意の動きや体の移動、周囲の環境変化等により、共振器の共振周波数が変化する。従来は、このような変化によって、試料に与えられるマイクロ波発振器の発振周波数と、試料が配置された共振器の共振周波数とが一致しなくなり、ESRスペクトラムを安定して計測できなかったり、検出できなくなる場合があった。本発明は、以上の点に鑑み、共振器の共振周波数を制御することができるサーフェイスコイル型の共振器、及び、このような共振器の共振周波数を発振周波数に追尾させるように、自動周波数制御(AFC)回路を用いて制御するようにしたESR装置を提供することを目的とする。

【08】
より詳細には、本発明は、次のような課題を解決するものである。
(1)従来において共振器の整合は、結合コイルやキャパシタ等を機械的に移動することにより実現されていた。特に、圧電アクチュエータを使用した場合、機械的な構成部品の移動には大きな電圧が必要であった。本発明は、整合のための機械的な機構をなくして電子化することで、低電圧の電源での駆動を可能にすると共に、応答速度を早くし、安価で容易に制作することができる共振器を提供することを目的とする。さらに、本発明は、機械的な可動部がないため、機械的共振・振動のない共振器を提供することを目的とする。
(2)従来のループ・ギャップ共振器は、その中に入る試料しか計測することができなかった。本発明は、表面コイルを計測対象の表面に当てて計測するサーフェイスコイル型とすることで、試料の大きさ・形状に関わらず、表面から試料を計測することができる共振器を提供することを目的とする。

【09】
(3)従来のサーフェイスコイル型共振器では、伝送線路が平衡型の線路で、給電に用いる線路(同軸線路)が不平衡型の線路であるにも拘わらず、平衡・不平衡変換が行われていなかった。そのため、共振器が平衡型であるものの、整合回路によって線路のバランスが崩れてしまっていた。本発明は、平衡・不平衡変換回路(例えば、バラン)を用いて、伝送線路の外部導体に流れる高周波電流により生じる不要輻射を抑えることを目的とする。
(4)本発明は、生体計測を対象とするような電子スピン共鳴計測にも適した、高感度な共振器及びESR装置を提供することを目的とする。また、本発明は、生体試料等からの微量なスピン共鳴信号を比較的大きな信号として高感度に検出できるようにし、医学・薬学・生化学等の分野以外にも、臨床応用等に幅広く使用できることを目指した共振器及びESR装置を提供することを目的とする。

【10】
(5)従来、計測中のESR装置に自動周波数制御が作動しているときは、共振周波数に応じて搬送波周波数が常に変動していることになる。これは、電子スピン共鳴が起こる次式の条件において、搬送波周波数fが変動していることを意味する。
(プランク定数)h×(搬送波周波数f)=(電子のg因子)×(ボーア磁子β)×(直流磁界H)
搬送波周波数fは、共鳴が起こる磁界と比例関係にあるので、共鳴が起こる磁界も変動することになる。通常のCW-ESR装置では、磁界を掃引してスペクトルを観測するので、計測中に電子スピン共鳴が起こる磁界が変動していると、スペクトルの線幅が正確に計れなくなる。本発明は、搬送波周波数を一定とし、共振周波数を搬送波周波数に一致するように自動制御を行い、共振周波数を極めて高度に安定化した共振器及びESR装置を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、搬送波周波数fを固定して共鳴が起こる磁界を変動しないようにすることにより、ESRスペクトル及びスペクトルの線幅を安定して正確に計測することを目的とする。
(6)一般に、特に生きているマウス等の生体試料を測るときには、鼓動や呼吸により実験動物が動き、通常は共振周波数が変動する。本発明は、このような計測中の生体試料の動き等による擾乱や外乱があっても、整合及び共振周波数を電子的に制御することにより、共振器の共振周波数を安定化し、ESRスペクトルを安定且つ正確に計測することを目的とする。

【11】

【課題を解決するための手段】本発明の共振器は、主に、サーフェイスコイル、平衡線路、平衡・不平衡変換器(半波長の長さの線路やUバラン等)及び可変容量ダイオード等を備え、平衡線路に接続された可変容量ダイオードの容量を外部から印加される電圧により電子的に制御することにより、共振器の整合及び共振周波数を制御できるようにした。

【12】
本発明の第1の解決手段によると、試料に近接又は接触して配置されるサーフェイスコイルと、第1及び第2の一端及び第1及び第2の他端を有し、前記サーフェイスコイルが第1及び第2の一端に接続された平衡線路と、前記平衡線路の第1及び第2の他端に接続された平衡・不平衡変換器と、前記平衡線路の第1の他端に接続され、共振周波数制御電圧が供給されることにより、共振周波数を制御するための共振周波数制御回路と、前記平衡線路の第2の他端に接続され、整合制御電圧が供給されることにより電子スピン共鳴装置との整合を制御し、試料へ供給される搬送波が入力され、試料からの反射波が出力される整合制御回路を備えた共振器を提供する。

【13】
本発明の第2の解決手段によると、自動周波数制御(AFC)参照信号を発信するAFC用発振器と、AFC参照信号により周波数変調された搬送波を発振する発振器と、前記発振器からの搬送波を共振器と近接又は接触した試料に供給し、試料から反射された反射波を検波する検波器と、前記検波器からの検波出力と前記AFC用発振器からのAFC参照信号とに基づいて、共振器の共振周波数を制御するための共振周波数制御電圧を出力する位相検波回路を備えた上述のような共振器を有する電子スピン共鳴測定装置を提供する。

【14】

【発明の実施の形態】図1に、本発明に係る共振器の構成図を示す。本発明に係る共振器は、サーフェイスコイル1、共振周波数制御回路2、整合制御回路3、平衡線路4、平衡・不平衡変換器5、同軸ケーブル6を備える。

【15】
サーフェイスコイル1は、例えば、半径rの1ターンコイルで構成することができる。なお、ターン数及び形状等は、これに限らず適宜変更することができる。平衡線路4は、例えば、2本の同軸ケーブルを並列に接続することにより構成されている。平衡線路4は、サーフェイスコイル1と組み合わせることで共振回路を構成する。ここで、平衡線路4とサーフェイスコイル1だけに注目し、平衡線路4は、一方の端がサーフェイスコイル1と接続されており、もう一方の端が開放端になっているとする。このとき、平衡線路4は、サーフェイスコイル1から平衡線路4側を見た入力インピーダンスが、搬送波周波数においてサーフェイスコイル1のインダクタンスと共振するような容量性インピーダンスになるように、線路長が調整されている。平衡線路の長さlは、式で表すと以下のようになる。
l=(1/β)tan-1(Zparallel/ωL)+nλ/2
(ここで、β:平衡線路の位相定数、ω:共鳴角周波数、L:サーフェイスコイルのインダクタンス、Zparallel:特性インピーダンス、n:自然数、λ:線路内の搬送波波長)

【16】
平衡・不平衡変換器5は、平衡線路4と不平衡線路の間の平衡・不平衡変換と、インピーダンス変換とを行う。ここでは、平衡・不平衡変換器5として、例えば、Uバランを使用することができる。平衡・不平衡変換器5は、例えば、半波長の長さに調整されており、インピーダンスを4:1に電圧比を2:1に変換する。平衡線路4を構成する下側同軸ケーブルに印加される電圧(即ち、キャパシタCを介して印加される電圧)は、平衡・不平衡変換器5を構成する半波長の線路を通って位相が180度遅れて(逆位相で)、平衡線路4の上側同軸ケーブルにも印加される。したがって、平衡線路4を構成している2本の同軸ケーブルには、それぞれ逆位相の電圧が印加されることになり、平衡・不平衡変換が行われる。

【17】
また、サーフェイスコイル1、平衡線路4及び平衡・不平衡変換器5は、閉路を形成しており、この閉路には、変調磁界(例えば100kHz)により電磁誘導が生じる。この電磁誘導により、ふたつの可変容量ダイオードCDT及びCに印加されている逆バイアスが変調される。よって、マッチングが変調磁界の周波数で変動することになり、反射波が生じる。これを防ぐために、バランの中央(電圧最低、電流最大の位置)とグランドとの間にチョークコイルLを接続する。これにより、閉路は直流的にはグランドと同電位となり、電磁誘導の影響を減らすことができる。

【18】
共振周波数制御回路2は、図中平衡線路4の上側に付加されている回路であり、共振周波数の制御を行う。共振周波数制御電圧Vを印加することにより、インピーダンスを変化させて、サーフェイスコイル1及び平衡線路4を含む共振器本体の共振周波数を制御する。

【19】
共振周波数制御回路2は、平衡線路4の同軸ケーブルの一端にキャパシタCと可変容量ダイオードCDTが直列に接続されており、それがグランドに接続されている。キャパシタCと可変容量ダイオードCDTが、チューニング・キャパシタを構成する。可変容量ダイオードCDTの容量を変えることにより、平衡線路4に付加されているキャパシタCと可変容量ダイオードCDTとの合成静電容量が変化することになる。この変化により、平衡・不平衡変換器5から平衡線路4側を見たときの入力インピーダンスが変化し共振周波数が変わることになる。

【20】
可変容量ダイオードCDTの容量を変化するためには、これに印加する逆バイアス電圧を変化させるようにする。逆バイアス電圧を印加するための回路は、抵抗R、キャパシタC及びチョークコイルLを含む。チョークコイルLは、高周波数ではインピーダンスが高く、低周波数ではインピーダンスが低くなるものである。抵抗Rは、共振器から端子に漏れてくる高周波に対してインピーダンスを高くすること、及び、回路素子が短絡したときに大きな電流が流れないようにするためのものである。したがって、使用している搬送波周波数(例えば、1GHz等)ではチョークコイルのインピーダンスが高いので、共振器側から周波数制御電圧Vを印加する端子の方へは搬送波は漏れない。逆バイアスの直流電圧に対しては、チョークコイルLはインピーダンスが低いので、そのまま電圧が印加される。また、キャパシターCは、チョークコイルと逆の動作をする。すなわち、搬送波周波数に対しては低いインピーダンスでグランドに落とされおり、一方、直流に対しては開放と等価になる。このキャパシタCとチョークコイルLによって、端子に加えられた逆バイアス(直流)の共振周波数制御電圧Vは、可変容量ダイオードCDTに印加されるものの、共振器本体(サーフェイスコイル1、平衡線路4及び平衡・不平衡変換器5)に蓄えられている高周波は、端子側に漏れてこない回路になっている。

【21】
整合制御回路3は、図中平衡線路4の下側に付加されている回路であり、マッチング(整合)を制御する。整合制御回路3は、この例では、3つのキャパシタC、C及びCDMを含み、T形のマッチング回路を構成している。キャパシタC、Cと可変容量ダイオードCDMが、マッチングキャパシタを構成する。可変容量キャパシタCDMの容量を変えることにより、共振器本体(サーフェイスコイル1、平衡線路4及び平衡・不平衡変換器5)と同軸ケーブル6の間の整合を取る。

【22】
抵抗R、キャパシタC及びチョークコイルLは、共振周波数制御回路2の場合と同様に、可変容量ダイオードCDMに逆バイアスを印加する。可変容量ダイオードCDMの一方にチョークコイルLが接続されており、グランドに接続されている。これにより、直流的には電位をグランドと等しくし、高周波ではインピーダンスが大きくなり、開放と等価とするものである。よって、高周波では同軸ケーブル6の中心導体に直列に可変容量ダイオードCDMが接続されるようになっている。

【23】
ここで、共振周波数制御電圧Vと整合制御電圧Vの調整については、例えば次のように行うことができる。まず、簡単な方法としては、例えば、各々直流電源等を用いることにより、操作者が印加する電圧を適宜調整する方法である。また、例えば、共振周波数制御電圧Vについては、試料からの反射波等に基づき自動的に共振周波数を制御する自動チューニング回路や後述するような自動周波数制御回路を設けることによりフィードバック制御を行うことができる。同様に、整合制御電圧Vについても、試料からの反射波や電子スピン共鳴信号等に基づき自動的に整合を調整する自動マッチング制御回路を付加することにより、フィードバック制御を行うこともできる。なお、キャパシタC~Cは、適宜省略すること及び他の素子に変更することもできる。

【24】
同軸ケーブル6は、例えば、50オームや75オームの特性インピーダンスのもの等を用いることができる。同軸ケーブル6は、電子スピン共鳴装置(例えば、CW-ESR装置、分光器等)の方向性結合器等に接続され、試料へ供給される搬送波が入力され、試料からの反射波が出力される。同軸ケーブル6は、可変容量ダイオードCDMの他端に搬送波周波数を入力することにより、平衡線路4及びサーフェイスコイル1を介して試料に搬送波を供給し、一方、試料からの反射波をサーフェイスコイル1及び平衡線路4を介して出力する。なお、搬送波の周波数帯に応じて、同軸ケーブル6の代わりに、導波管等の適宜の高周波線路を用いることができる。

【25】
ESR装置においては、搬送波周波数(例えば、連続波)が、高周波線路(例えば、同軸ケーブル、導波管等)を介して共振器本体に入射される。共振器は、電子スピン共鳴が起こらないときにマッチングが取れている状態に調整しておく。このとき、共振器のマッチングが取れていると反射は起こらない。一方、サーフェイスコイル1に接している試料において電子スピン共鳴が起こると、共振器の入力インピーダンスが変化する。すると、マッチングが崩れ、共振器からの反射波が生じることになる。この反射波を、ESR装置で受信することにより、ESR信号の測定が行われる。

【26】
なお、図1において、共振周波数制御回路2、整合制御回路3、平衡・不平衡変換器5及び各チョークコイルは、シールドケース内に入れることができる。これにより、各制御回路が変調磁界の影響を防ぐことができる。

【27】
つぎに、このような共振器の特性について説明する。図2に、整合制御回路3の容量変化に対する共振周波数特性を表すグラフを示す。この図は、整合制御回路3の可変容量ダイオードCDTに対する共振周波数を計算したシミュレーション結果を示したものある。可変容量ダイオードCDTの容量変化に対して、周波数整合のためのキャパシタCは変化するが、他のパラメータは固定して計算された。図示のように、可変容量ダイオードCDTの容量変化に応じて、共振周波数が調整される。

【28】
つぎに、図3に、整合制御回路3の容量変化に対する散乱行列係数を表すグラフを示す。この図は、整合制御回路3の可変容量ダイオードCDMに対するリターンロスS11を計算したシミュレーションである。すなわち、図示のグラフは、キャパシタC及びC、可変容量ダイオードCDTの容量を一定として、散乱係数S11をCDMの関数として計算したものである。このとき、キャパシタCの値を変化させるとマッチングの取れる可変容量ダイオードCDMの容量値が変わる。可変容量ダイオードCDMの容量の可変範囲は、使用する素子によって決まっているので、その可変範囲内で上手くマッチングが取れるようにキャパシタCの値を選択しておく必要がある。ここでは、一例として、使用している素子は0.7pFから4.0pFくらいの範囲で可変することができるものである。

【29】
散乱行列の係数は、次式で表される。
11=10log10(Pref/Pin
ここで、Prefは反射電力、Pinは入力電力である。すなわち、S11は、リターンロスの値を示すもので、入力した電力に対する反射電力の対数比である。反射がない(整合している)場合、S11はマイナスの大きな値となる。

【30】
図4に、共振周波数制御電圧V又は整合制御電圧Vを変化させたときの共振周波数とリターンロスの変化についてのグラフを示す。図4(A)に、共振周波数制御電圧Vを変化させたときの共振周波数とリターンロスの変化についてのグラフを示す。図示されるように、共振周波数制御電圧Vを変化させていくと、共振器の共振周波数が変化する。このとき、リターンロスも変化するが、リターンロスはほぼ一定なっている状態が好ましい。なお、回路係数等を調整したり、回路素子を付加すること等により、さらに改善されたデータを得ることができる。

【31】
図4(B)に、整合制御電圧Vを変化させたときの共振周波数とリターンロスの変化についてのグラフを示す。図示されるように、整合制御電圧Vを変化させると、共振器のマッチングが調整される。リターンロスが一番大きいところが一番よくマッチングが取れていることを示す。このとき、図示のように、共振周波数はあまり変化しない状態が望ましい。

【32】
つぎに、自動周波数制御(AFC)について説明する。図5に、共振周波数と搬送波周波数との説明図を示す。この図は、共振器に周波数変調された搬送波(マイクロ波)を印加し、測定出力(例えば、ESR装置の検波回路からの出力)を示したものである。図5(A)は、共振器の共振周波数とマイクロ波の周波数とが一致しているときの場合を示す。この場合、測定出力として、変調信号の2倍の周波数で信号が出力される。この出力信号に対して、変調信号(例えば70kHz)を参照信号に用いて位相検波すると、自動周波数制御回路の制御電圧は出力されない。一方、図5(B)に示されるように、共振器の共振周波数とマイクロ波の周波数がずれている場合、測定出力として変調周波数と同じ周波数の信号が得られる。この信号を検波すると、自動周波数制御回路の制御電圧が出力される。この制御電圧をマイクロ波発振器にフィードバックさせると、共振器の共振周波数にマイクロ波発振器の周波数が追従し、共振周波数とマイクロ波周波数とを一致させることができる。この逆に、制御信号を共振器にフィードバックして共振周波数を変化させると、マイクロ波発振器の周波数に共振器の共振周波数が追従し、共振周波数とマイクロ波周波数とを一致させることができる。

【33】
図6に、ESR装置のAFC回路に関する概略構成図を示す。この構成は、搬送波周波数を固定し、共振器の共振周波数を搬送波周波数に一致させるための自動周波数制御回路のダイアグラムである。本発明に係るESR装置は、発振器101、共振器102、方向性結合器103、検波器105、ハイパスフィルタ106、AFC用発振器110、移相器111、ミキサ112、ローパスフィルタ113、積分器114、反転増幅器115を備える。なお、この図は、自動周波数制御回路に注目して説明するものであり、自動周波数制御以外のESR測定用の構成は省略されている。

【34】
発振器101は、マイクロ波等の測定用搬送波を発生するものである。例えば、700MHz等を用いることができる。共振器102は、近接又は接触して試料が配置される。方向性結合器103は、サーキュレータ等により構成される。検波器105は、例えば、簡単な構成としては、包絡線検波が用いられる。ミキサ112には、例えばダブルバランスドミキサ(DBM)等を用いることができる。AFC用発振器110は、自動周波数制御用に変調するための参照信号(AFC参照信号)を発振するものであり、ここでは、一例として70kHzの周波数が用いられる。

【35】
なお、検波器105の代わりに、ダブルバランスドミキサーを使ってホモダイン検波することもできる。そのためには、発振器101から出力された搬送波を分配する分配器と、分配器から出力された参照波を位相調整する移相器等を備える必要がある。そして、移相器からの参照波及び試料からの反射波をダブルバランスドミキサに供給して混合・検波することで、検波が行われる。

【36】
AFC動作の概略は、以下のようになる。発振器101は、AFC用発振器110からのAFC参照信号(例えば、70kHz)で周波数変調された搬送波(例えば、700MHz)を、方向性結合器103を介して共振器102に供給する。共振器102からの反射波は、検波器105及びハイパスフィルタ106を経て、検波出力としてミキサ112に入力される。ミキサ112は、この検波出力と、AFC用発振器110から移相器111を介して入力されたAFC参照信号とを混合・検波する。さらに、ローパスフィルタ113及び積分器115を経て、発信された搬送波周波数と共振器102の共振周波数とのずれ具合が判別される。増幅器115により、ずれた共振周波数を搬送波周波数に引き戻すように直流制御電圧が共振器102に印加され、共振周波数が常に搬送波周波数に一致するように自動制御される。

【37】
図7に、自動周波数制御回路を有するESR装置の詳細構成図を示す。このESR装置は、一例としてCW-ESR装置に適用した場合を示し、ESR測定について、従来と同様の回路構成及び動作を採用することができる。

【38】
本発明に係るESR装置は、発振器101、共振器102、方向性結合器103、ローノイズアンプ104、検波器105、ハイパスフィルタ106、反転増幅器107、ロックインアンプ108、変調用発振器109、AFC用発振器110、移相器111、ミキサ112、ローパスフィルタ113、積分器114、反転増幅回路115、直流磁界用コイル116、変調磁界用コイル117を備える。変調磁界用コイル117は、変調磁界を印加することで、高感度にESR測定を行うためのものである。また、直流磁界用コイル116は、共振器102に直流磁界を印加して磁場掃引を行うものである。

【39】
つぎに、本発明に係るCW-ESR装置の動作を説明する。発振器101からは、AFC用発振器110により周波数変調された搬送波が出力される。周波数変調された搬送波は、サーキュレータ103に経て、共振器102(図1中、同軸ケーブル6)に入力され、試料に供給される。試料から反射された信号は、共振器102(図1中、同軸ケーブル6)から出力される。その後、共振器102から出力された信号は、サーキュレータ103を介してローノイズアンプ104により増幅され、検波器105で包絡線検波される。検波器105は、例えば、四角で囲われた範囲の部品が一つのパッケージになっているような部品を使うことができる。

【40】
ここで、ESR測定の際、直流磁界用コイル116により直流磁界を掃引するとともに、変調用発振器109から発信された変調信号(例えば100kHz)で変調磁界用コイル117により変調磁界を発生している。検波器105は、自動周波数制御のためだけではなく、変調磁界用コイル117による磁界変調で生じた磁界変調成分(例、100kHz)も検波する。検波器105で包絡線検波された結果、電子スピン共鳴が起こっているときには、磁界変調成分が検出される。共振器102の共振周波数と搬送周波数とが一致しているときは、AFC参照信号の2倍の周波数成分(例、140kHz)が、検出され、一方、共振周波数と搬送周波数がずれているときは、AFC参照信号と同じ周波数成分(例、70kHz)が、検出される。さらに、検波器105からは、直流成分が、これら交流成分に混在して出力される。

【41】
つぎに、ハイパスフィルタ106は、検波器105の出力から直流成分を除去し、上述のような各種交流成分(例えば70、100、140kHz)のみを取り出す。反転増幅器107は、検波された信号の振幅を必要に応じて増幅する。

【42】
ミキサ112は、例えばかけ算回路を有し、AFC用発振器110から移相器111を経て入力された参照信号と、反転増幅器107からの検波出力とを混合して位相検波する。こうして、ミキサ112は、各種交流成分(例、70、100、140kHz)が混在した信号の中から、AFC参照信号(例、70kHz)のみを取り出す。ミキサ112による演算結果は、ローパスフィルタ113に入力されて、高周波成分が除去される。ローパスフィルタ113を通過して残った直流成分の電圧は、共振周波数と発振周波数のずれ(エラー)を表す。積分器114は、ローパスフィルタ113の出力を積分し、フィードバックする電圧を保持する。このとき、積分器114の時定数は、例えば0.1秒等に設定することができる。積分器114から出力された電圧は、非反転増幅器115で適宜増幅され、共振周波数制御電圧として共振器102に帰還される。共振器102は、共振周波数制御端子から入力された共振周波数制御電圧に従い、上述のように共振周波数が搬送波周波数と一致するように自動周波数制御を行う。

【43】
一方、反転増幅器107からの検波出力には、磁界変調によるESR成分(ここでは、100kHz)も含まれる。ロックインアンプ108は、変調用発振器109の出力と反転増幅器107からの検波出力とに基づいて位相検波することにより、変調用発振器109から出力された磁場変調用の変調信号(例、100kHz)と同じ周波数成分の信号のみを抽出する。この際、ロックインアンプ108により、自動周波数制御に用いた変調信号(AFC参照信号)の影響は取り除かれる。

【44】
図8に、本発明及び従来のサーフェイスコイル型共振器を使用して計測した電子スピン共鳴スペクトルの説明図を示す。なお、ここでは、比較のために同じサンプルを用いて測定した。

【45】
図8(A)は本発明の測定スペクトル、図8(B)は従来の測定スペクトルをそれぞれ示す。図示のように、ESR信号の信号対雑音比は、本発明によると12、従来では5であるから、感度が格段に向上していることがわかる。

【46】
図9に、AFC動作を確認するための説明図を示す。この図は、生体を模擬した生理食塩水(0.9%NaCl)をコイルに近づけ、生理食塩水の体積に対する共振周波数の変動を測定したものである。図示のように、AFC回路がある場合は、これがない場合に比較して、共振周波数変動が安定化されている。

【47】
なお、本発明は、VHF、UHF、SHF等を含むマイクロ波に適宜適用することができる。また、スピン共鳴信号を検出する際磁場掃引を用いる場合について説明したが、周波数掃引を用いる場合にも本発明を適用することができる。

【48】

【発明の効果】本発明によると、以上のように、共振器の共振周波数を制御することができるサーフェイスコイル型の共振器、及び、このような共振器の共振周波数を発振周波数に追尾させるように、自動周波数制御(AFC)回路を用いて制御するようにしたESR装置を提供することができる。

【49】
より詳細には、本発明は、次のような効果を奏する。
(1)本発明によると、整合のための機械的な機構をなくして電子化することで、低電圧の電源で駆動する応答速度を速くし、安価で容易に制作することができる。さらに、本発明によると、機械的な可動部がないため、機械的共振・振動のない共振器を提供することができる。
(2)本発明によると、表面コイルを計測対象の表面に当てて計測するサーフェイスコイル型とすることで、試料の大きさ・形状に関わらず、表面から試料を計測することができる。
(3)本発明によると、平衡・不平衡変換回路を用いて、伝送線路の外部導体に流れる高周波電流により生じる不要輻射を抑えることができる。

【50】
(4)本発明によると、生体計測を対象とするような電子スピン共鳴計測にも適した、高感度な共振器及びESR装置を提供することができる。また、本発明によると、生体試料等からの微量なスピン共鳴信号を比較的大きな信号として高感度に検出できるので、医学・薬学・生化学等の分野以外にも、臨床応用等に幅広く使用することを目指すことができる。
(5)本発明によると、搬送波周波数を一定とし、共振周波数を搬送波周波数に一致するように自動制御を行い、共振周波数を極めて高度に安定とし、ESRスペクトル及びスペクトルの線幅を安定して正確に計測することができる。
(6)本発明によると、計測中の生体試料の動き等による擾乱や外乱があっても、整合及び共振周波数を電子的に制御することにより、共振器の共振周波数を安定化し、ESRスペクトルを安定且つ正確に計測することができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図4】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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