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明細書 :導電性マイエナイト型化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4641946号 (P4641946)
登録日 平成22年12月10日(2010.12.10)
発行日 平成23年3月2日(2011.3.2)
発明の名称または考案の名称 導電性マイエナイト型化合物の製造方法
国際特許分類 C04B  35/653       (2006.01)
C01F   7/16        (2006.01)
C03C  10/02        (2006.01)
FI C04B 35/60 B
C01F 7/16
C03C 10/02
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2005-517942 (P2005-517942)
出願日 平成17年2月8日(2005.2.8)
国際出願番号 PCT/JP2005/001848
国際公開番号 WO2005/077859
国際公開日 平成17年8月25日(2005.8.25)
優先権出願番号 2004037203
優先日 平成16年2月13日(2004.2.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年7月27日(2007.7.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】林 克郎
【氏名】宮川 仁
【氏名】平野 正浩
【氏名】金 聖雄
【氏名】伊藤 節郎
【氏名】鳴島 暁
個別代理人の代理人 【識別番号】100080159、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 望稔
【識別番号】100090217、【弁理士】、【氏名又は名称】三和 晴子
審査官 【審査官】小川 武
参考文献・文献 特開2003-226571(JP,A)
特開2004-026608(JP,A)
特許第4166641(JP,B2)
特許第4245608(JP,B2)
特許第4219821(JP,B2)
特許第4105447(JP,B2)
特許第4147324(JP,B2)
特許第3560580(JP,B2)
特許第3560560(JP,B2)
Y Todaら,Thin film fabrication of nano-porous 12CaO7Al2O3 crystal and its conversion into transparent conductive films by light illumination,hin Solid Films,2003年,445,P.309~312
林克郎,活性陰イオンを操るナノポーラス結晶-古典的セラミック材料12CaO7Al2O3の新機能-,化学と工業,2004年 2月 1日,Vol.57 No.2,P.103-105
調査した分野 C04B 35/653,35/44
C01F 7/16
H01B 1/08
特許請求の範囲 【請求項1】
C12A7結晶乃至ガラスである原料物質を溶融し、溶融された原料物質を酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、冷却して凝固させることにより、直流電気伝導率が10-4S/cm以上の導電性マイエナイト型化合物を得ることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項2】
C12A7結晶乃至ガラスである原料物質を溶融し、溶融された原料物質を酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、前記低酸素分圧の雰囲気中で冷却して凝固させることにより、直流電気伝導率が10-4S/cm以上の導電性マイエナイト型化合物を得ることを特徴とする請求項1記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項3】
C12A7結晶乃至ガラスである原料物質を溶融し、溶融された原料物質を酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、大気雰囲気下で冷却して凝固させることにより、直流電気伝導率が10-4S/cm以上の導電性マイエナイト型化合物を得ることを特徴とする請求項1記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項4】
C12A7結晶乃至ガラスである原料物質を溶融し、溶融された原料物質を酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、徐冷して凝固させる徐冷して凝固させることにより、直流電気伝導率が10-4S/cm以上の導電性マイエナイト型化合物を得ることを特徴とする請求項1、または請求項2記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項5】
冷却速度が200℃/時間以上、500℃/時間以下であることを特徴とする請求項4記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項6】
C12A7結晶乃至ガラスである原料物質を溶融し、溶融された原料物質を酸素分圧10Pa以下の雰囲気中で保持した後、溶融物を流し出して冷却して凝固させることにより、直流電気伝導率が10-4S/cm以上の導電性マイエナイト型化合物を得ることを特徴とする請求項1記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項7】
冷却速度が500℃/時間超、1000℃/秒以下であることを特徴とする請求項1、または請求項6記載の導電性マイエナイト型化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法により直流電気伝導率が10-4S/cm以上の導電性マイエナイト型化合物を製造し、該化合物を500℃以上、該化合物の融点以下の温度に空気中に保持して、電気伝導率を10-10S/cm以上、103S/cm以下に調整することを特徴とするマイエナイト型化合物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を付与したマイエナイト型化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイトは、天然にはドイツのマイエン地方に産出するセメント鉱物であり、その結晶構造は立方晶系に属する。マイエナイト型化合物の代表的な組成は、12CaO・7Al(以下C12A7と記載する)、または12SrO・7Al(以下S12A7と記載する)、またはそれらの混晶組成である。しかし、CaまたはSrの一部をK、Na、Li、Mg、Baなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属で、またAlの一部をSi、Geなどのイオン半径が0.5~0.8Å程度の金属元素で置換することができる。
【0003】
CaまたはAlはセラミック材料の一般的な成分であり、主に構造材料の一成分として用いられてきた。一般に該化合物を含む、第3周期以前の金属の酸化物は、電気的には誘電体であり、導電性を示さない。
これまで、電気伝導性を示す酸化物セラミックスは遷移金属または元素第4周期以降の典型金属の酸化物を多量に含むものであり、環境負荷が高かった。
【0004】
マイエナイト型化合物結晶は、その結晶格子中に直径0.6nmの微小な空隙(ケージ)を単位格子当たり12個有し、その代表組成であるC12A7結晶はそのケージ内に単位格子当たり2個のO2-イオンを包含する。すなわち、C12A7結晶は、[Ca24Al2864]4+・2O2-と表記され、このO2-イオンは緩く束縛されているのでフリー酸素と呼ばれる(非特許文献1参照)。
また、これらのフリー酸素がフッ素または塩素で置換された、実質的に[Ca24Al2864]4+・4F-、または[Ca24Al2864]4+・4Cl-と表記される結晶が知られている(非特許文献2、3参照)。
【0005】
本発明者らの一人である細野らは、先にこのフリー酸素を、O2-、O-、OH-などの各種陰イオンに置き換えることが可能なことを新たに見出し、その化合物自体、その製造法、および該化合物の用途に関する発明について特許出願した(特許文献1~6参照)。
さらに、細野らは、固相反応法により得られた、マイエナイト型化合物であるC12A7粉末あるいはその焼結体を、水素雰囲気中で熱処理して、ケージ内にH-が取り込まれたC12A7化合物を作製したのち、これに紫外光を照射して、ケージ中に電子を取りこませることにより、導電性を付与できることを見出した。そして、その化合物自体、その製造法、および該化合物の用途に関する発明について特許出願した。
しかし、上記したような焼結体にH-を包接させ紫外線照射を経由する作製法は、紫外線照射された焼結体表面部分のみに電子が包接され、非照射領域である粉末または焼結体の内部までは、電子を包接させることができなかった。
【0006】
また、細野らは、C12A7単結晶の作製法を開発し、該結晶をアルカリ蒸気にさらすことで、ケージ中に電子を包接させることにより、該結晶に導電性を付与できることを見出し、その化合物自体、その製造法、および該化合物の用途に関する発明について特許出願した(特許文献6参照)。
この作製法では固体状態であるC12A7結晶からのフリー酸素の引き抜き反応を利用するが、該反応においては固体内部での酸素の拡散が律速過程となり、十分な量の電子を包接せしめるために、長時間を要した。
【0007】
一方、本発明者らは、高温におけるC12A7の融液状態においては、固体状態と比較して、酸素の拡散係数を高められることから、迅速なフリー酸素引き抜き反応が進行するとの知見を得ていた。
しかしながら、窒素を通じた炉を用いた場合、C12A7組成の融液からは分解物である3CaO・Al(以下C3Aと記載する)相とCaO・Al(以下CA相と記載する)が生成し、C12A7結晶は生成しないことが知られており、一般に、酸素の引き抜き反応とC12A7結晶の生成反応を両立させることは難しかった。(非特許文献4参照)。
本発明者の一人である細野らは、粉末と比較して緻密な構造である静水圧プレス体を用いて、原料物質の表面積を減少せしめることにより、表面で起こる反応である昇温過程での酸素引き抜き反応を緩やかにし、分解物の生成を抑制できるとの知見を得て、C12A7粉末の静水圧プレス体を、還元雰囲気または蓋付のカーボンるつぼ中で溶融することにより、ケージ内の酸素を電子で置換したC12A7化合物の作製法を発明し、特許出願した(特許文献6参照)。
【0008】

【特許文献1】特開2002-3218号公報
【特許文献2】特開2003-40697号公報
【特許文献3】特開2003-128415号公報
【特許文献4】特開2002-316867号公報
【特許文献5】特開2003-238149号公報
【特許文献6】特開2004-26608号公報
【特許文献7】特願2003-183605号
【非特許文献1】H.B.Bartl and T.Scheller, Neuses Jarhrb.Minerai,Monatsh. (1970), 547
【非特許文献2】P.P.Williams, Acta Crystallogr., Sec. B, 29, 1550 (1973)
【非特許文献3】H.Pollmann, F.Kammerer, J.Goske, J.Neubauer, Friedrich-Alexander-Univ. Erlangen-Nurnberg, Germany, ICDD Grant-in-Aid, (1994)
【非特許文献4】R. W.Nurse, J. H Welch, A. J.Majumdar, Transactions of the British Ceramic Society (1965), 64(9), 409-18.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、導電性マイエナイト型化合物の安価で、かつ量産可能な製造方法を提供することである。すなわち、安価で低純度の非晶質および/または結晶質化合物を原料物質として用い、低酸素分圧の雰囲気下で溶融し、次いで凝固することにより、導電性マイエナイト型化合物を製造する方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、雰囲気組成と温度を制御した条件下でマイエナイト型化合物の原料物質を溶融、冷却することにより、成分結晶質および/または非晶質の該原料物質を用いても、ケージ中の酸素を高濃度に電子で置換した導電性マイエナイト型化合物が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、冷却して凝固させることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、低酸素分圧の雰囲気中で冷却して凝固させることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、大気雰囲気中で冷却して凝固させることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、徐冷して凝固させることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記導電性マイエナイト型化合物の製造方法において、冷却速度を200℃/時間以上、500℃/時間以下とすることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、溶融物を空冷して凝固させることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記導電性マイエナイト型化合物の製造方法において、冷却速度を500℃/時間超、1000℃/分以下とすることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、溶融物を流し出して冷却し、凝固させることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記導電性マイエナイト型化合物の製造方法におけるCaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質として、下記酸化物に換算して、モル%表示で、CaOとSrOの群から選ばれる少なくとも1種類を15~66%含有し、Alを14~63%、SiOを0~38%、GeOを0~38%、Bを0~38%、LiOを0~5%、NaOを0~5%、KOを0~5%、MgOを0~10%、BaOを0~10%、Feを0~8%、およびTiOを0~8%の割合で含有し、かつCaO、SrOおよびAlのモル比の合計が25%以上であることを特徴とする原料物質を使用することを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記原料物質として、非晶質物、結晶質物、または非晶質物と結晶質物の混合物を使用することを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、マイエナイト型化合物の直流電気伝導率が10-4S/cm以上であることを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記製造方法により製造された導電性マイエナイト型化合物を、500℃以上、該化合物の融点以下の温度に空気中に保持し、電気伝導率を調整することを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記電気伝導率を調整することを特徴とするマイエナイト型化合物の製造方法であって、導電性マイエナイト型化合物を、500℃以上、該化合物の融点以下の温度で空気中に保持し、電気伝導率を10-10S/cm以上、103S/cm以下に調整することを特徴とする導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、雰囲気組成と温度を制御した条件下で導電性マイエナイト型化合物の原料物質を溶融、冷却するので、結晶質および/または非晶質の安価な原料物質を用いても、ケージ中の酸素を高濃度に電子で置換した導電性マイエナイト型化合物を提供することができる。
また、本発明では、例えば、構成元素を含む単純酸化物の混合物である原料物質を予め直接焼結して焼結体とすることにより、特許文献7の様に静水圧成型体と同様な酸素引き抜き反応の抑制を可能にし、該焼結体原料の粉末合成と成型体作製に関わるプロセスを省略し、工業上有用な方法を提供することができる。この焼結体としては、焼結密度が45%~50%程度が特に好ましい。この焼結体は粉末状であってもよいし、あるいは焼き締まった粉末状であってもよい。なお、成形された焼結体を用いても成形プロセスを厭わなければ、構わない。
また、本発明では、結晶質原料と比較して、生産性の高い、非晶質の原料物質を用いても、雰囲気組成と温度を制御した条件下で溶融冷却し、ケージ中の酸素を高濃度に電子で置換した導電性マイエナイト型化合物を工業的に容易に得ることができる。
【0023】
また、通常の空気中における溶融、凝固法によると、マイエナイト型化合物からの発泡により、得られる凝固物は粗であるが、本発明によれば、酸素分圧10Pa以下での溶融を行うことにより、緻密な導電性マイエナイト型化合物を製造することができる。さらには、この製法で製造された導電性マイエナイト型化合物を融点以下で空気中で加熱することにより、より好ましくは500℃以上、該化合物の融点以下で空気中で加熱することにより、電気伝導率が10-10~103S/cmの範囲で制御された、導電性マイエナイト型化合物を製造することができる。
また、本発明では、C12A7またはS12A7に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、またはSi、Ge、Bを添加して、原料組成を変えることにより、原料物質の融点を低下せしめることができる、工業上有利な製造方法を提供することができる。
また、安価な低純度の原料を用いることを可能としたことにより、低価格な導電性マイエナイト型化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明における原料物質としては、パーコレーション理論により、凝固物においては導電性マイエナイト型化合物が体積分率にして25%以上存在すれば、凝固物全体に導電性が付与されるため、導電性凝固物の作製においてはその原料にマイエナイト型化合物の構成元素である、例えばCa、SrまたはAlが、酸化物に換算してモル比で概略25%以上含有されていればよい。また、凝固物が導電性マイエナイト型化合物と他のガラス質または結晶質との混合物であるときは、冷却過程における凝固物の割れが阻害され、また凝固物の機械的特性が向上する。
すなわち、原料物質はマイエナイト型化合物の代表組成であるCa、Sr、Alを酸化物に換算して、モル比で25%以上含む、結晶質または非晶質または結晶質と非晶質の混合物を用いる。これらの原料物質は、固相反応により得られる結晶でもよいし、該組成物を空気中で溶融し、固化した結晶質または非晶質の凝固物でもよい。
【0025】
特に、前記のことから、原料物質の組成(モル%表示)は、酸化物に換算して、CaOおよびSrOの群から選ばれる少なくとも1種類を15~66%とすることが好ましい。15%未満、または66%を超えると、凝固物に含有される導電性マイエナイト型化合物が25%未満となるため、導電性が付与されない。特に61~65%であると、導電性マイエナイト型化合物の収率が最もよい。また、Alは14~63%とするのが好ましい。14%未満、または63%を超えると、凝固物に含有される導電性マイエナイト型化合物が25%未満となるため、導電性が付与されない。特に35~39%であると、導電性マイエナイト型化合物の収率が最もよい。
【0026】
SiO、GeO、Bはそれぞれ0~38%、好ましくは7~17%のとき、最も溶融温度が低下するため凝固物の生産性が向上する。38%を超えると、凝固物に含有される導電性マイエナイト型化合物が25%未満となるため、導電性が付与されない。
溶融温度を低下させる成分であるLiO、NaO、KOはそれぞれ0~5%とし、好ましくは0~3%とする。溶融温度を低下させる成分であるMgO、BaOはそれぞれ0~10%、好ましくは0~5%とする。不純物成分であるFe、TiOは0~8%とし、好ましくは1%以下とする。また、原料物質には、典型金属元素あるいは遷移金属元素のうち、いずれか一種類以上がそれぞれ1%未満含まれていてもよい。
本発明において用いられる原料物質としては、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、酸化アルミニウム等の化合物原料に限らず、マイエナイト型化合物の原料となる石灰石、消石灰、生石灰、アルミナ、水酸化アルミニウム、ボーキサイト、アルミ残灰なども用いることができ、また天然鉱物であるC12A7結晶やS12A7結晶を用いることもできる。
【0027】
前記原料物質の組成のうち、4価のカチオンであるSiおよびGeは、その融液からの凝固過程において、マイエナイト型化合物では3価のカチオンであるAlが占める位置を置換することにより、一般的な半導体における置換ドーピングと同様な効果によって、ケージに包接される電子の量を増大せしめる結果、SiとGeが含有されない場合と比較して、凝固物の電気伝導率を大きくすることができる。
前記原料物質は、原料物質をそのまま溶融しても良いが、原料物質を予め焼結し、焼結粉末状、あるいは焼き締まった粉末状としておくと、溶融を迅速に行えるため、好ましい。
【0028】
本発明においては、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融する。この溶融温度は1415℃以上、該原料物質の沸点未満とし、好ましくは1550℃~1650℃の温度である。1415℃未満では原料物質が溶融しないため緻密な凝固物を得ることができない。また、沸点以上では構成元素の蒸気圧の差により、当初の組成が保たれないため、導電性のマイエナイト型化合物を得ることができない。通常の電気炉を用い、溶融を迅速に行うには、1550℃~1650℃の温度が適当である。
【0029】
本発明においては、溶融された原料物質が、酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持される。この酸素分圧10Pa以下の雰囲気の制御の方法としては、閉鎖系の電気炉にNなどのガスを流すことで、10Pa程度にまで酸素分圧を低下させることができる。より好ましくは、カーボン材で密封し、さらに1400℃以上に加熱することにより、密封された雰囲気において、さらに低い酸素分圧を得ることができる。すなわち、カーボン材で密封された雰囲気においては、残存する酸素がカーボン材と優先的に反応し、COまたはCOを生成する。因みに、この反応およびこれらガスと原料物質である、例えばCaOおよびAl、あるいはSrOおよびAlとの反応の平衡定数を用いると、1600℃での密封された雰囲気中の酸素分圧は約10-15Paである。
上記の酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中としては、特には、約10-18Pa~10-2Paの範囲とするのが好ましい。酸素分圧を10-2Pa以下とすると、導電性マイエナイト型化合物の酸化反応が抑制される結果、凝固物の導電性を高めることができる。また、10-18Pa以下とするには、高価な設備が必要となる。
【0030】
坩堝材としては、通常の電気炉中に保持する場合には、蓋付きのカーボン坩堝を用いることが好ましい。非酸素雰囲気または還元雰囲気の炉においては、カーボン坩堝のほかに、マグネシアまたはアルミナなどの酸化物坩堝、プラチナまたはモリブデンなどの貴金属製坩堝、あるいは、産業上有利な、レンガ材が使用できる。
【0031】
また、本発明においては、CaおよびSrの群から選ばれる少なくとも1種類、ならびにAlを含有する原料物質を溶融し、この融液、即ち原料物質の溶融物を酸素分圧10Pa以下の低酸素分圧の雰囲気中で保持した後、冷却することにより、導電性マイエナイト型化合物を製造する。この冷却には、徐冷も、急冷、空冷も含まれる。冷却方法が徐冷による場合は、好ましくは、この冷却速度は、200℃/時間以上、500℃/時間以下、特には400℃/時間以下とすることが好ましい。200℃/時間以下では、合成に要する時間が著しく大きくなる。また、500℃/時間超の冷却速度を得るには、通常の電気炉では難しく、高価な設備が必要である。上記低酸素分圧の雰囲気中で冷却する場合の酸素分圧としては、具体的には約10-18Pa~10-2Paの範囲とするのがより好ましい。酸素分圧を10-2Pa以下とすると、凝固物の導電性を高めることができる。また、10-18Pa以下とするには、高価な設備が必要となる。
【0032】
融液を流し出して冷却する場合、高温の融液を空気にさらすと迅速な酸素の取り込み反応が生じる。この場合、鉄板などに流し出しを行なうと、融液の外周がガラス質部分で被覆されることにより、該反応を抑制し、ケージ中の酸素を電子で置換した導電性マイエナイト型化合物が製造できる。この方法は、凝固した融液と坩堝との固着の結果生じる、坩堝からの凝固物の取り出しの工程を省略せしめるため、工業上有利である。また、流し出した融液は、型材に流し込むことにより、成型性を付与できる。このとき、冷却速度は、概略、500℃/時間超、1000℃/分以下とすることが好ましく、500℃/時間超、1000℃/時間以下がより好ましい。500℃/時間以下では、ガラス質部分による被覆が十分に形成されないことから、作製されるマイエナイト型化合物に包接される電子の量が十分とならないことがある。1000℃/秒を超えると、融液全体がガラス質となり、導電性マイエナイト型化合物の収率が低下する。
【0033】
また、双ローラーを用いて冷却速度と形態を制御した、融液の酸素分圧10Pa以下の雰囲気中での冷却、凝固を行なうことにより、ケージ中の酸素を高濃度に電子で置換した導電性マイエナイト型化合物を製造することができる。この方法によれば、これまで導電性マイエナイト型化合物の前駆体として用いていた非導電性マイエナイト型化合物の結晶製造工程を省略して、導電性マイエナイト型化合物を製造する方法を提供することができる。
【0034】
以下、マイエナイト型化合物の代表組成であるC12A7を例にとり凝固法による導電性の付与の方法の詳細を説明する。
C12A7結晶のケージに包接されたフリー酸素は1200℃以上で酸素分圧の低い雰囲気下では化学的に活性となり、無酸素雰囲気中または還元雰囲気中では結晶外に放出される。
一方、C12A7ガラスは発泡ガラスとして報告されており、この発泡の原因である該ガラスより放出されるガス種は酸素である。発泡はガラス転移点付近で開始され、これによりガラスより放出される酸素量は、ガラスの作製条件と該ガラスの形態、および該ガラスの加熱温度とその保持時間に依存する。
以上のように、原料物質の形態により、昇温過程での酸素引き抜き反応の程度が異なる。すなわちフリー酸素の引き抜き反応は原料の表面近傍で進行するため、酸素の引き抜き量は原料の表面積に依存する。
【0035】
融液においては、雰囲気または坩堝材との反応により、融液からの酸素引き抜き反応とこれに伴う電子の融液への供与が進行するが、融液全体の酸素と電子の置換量の割合は保持時間と融液の質量に依存する。
融液からの凝固により生成する結晶相は、一般に結晶核生成速度が最も大きい結晶に対応する。酸素引き抜き反応により生成する酸素不足型の融液においてはC3AまたはCA結晶などの分解物とC12A7結晶の核生成速度は競合関係にある。
【0036】
溶融時間の変化により、全融液に対する酸素と電子の置換量の割合を制御することができ、C12A7結晶核の幼核の濃度と核生成の活性化エネルギーを変化させることができ、その結果、C12A7結晶の核生成速度を他の分解物相よりも高めることができる。
すなわち、溶融時間の変化に伴う酸素と電子の置換量の増大に伴う、分解物相に対するC12A7結晶の核生成速度は、溶融開始直後ではC12A7の結晶核の幼核が十分な濃度であるため、凝固物からはC12A7結晶が生成するが、酸素と電子の置換量が少ないため、生成したC12A7化合物のケージのほとんどは酸素で占められる。
さらに置換量が増大すると、C12A7の結晶核の幼核の減少によりC12A7結晶の核生成速度が低下し、C3AまたはCAからなる分解物相が凝固物として得られる。これらの結晶はケージを持たないため、電子を包接することはできない。
【0037】
溶融時間の制御により、酸素と電子との、十分な置換量が確保されると、融液中の電子捕獲中心が幼核に電子を供給することにより核生成の活性化エネルギーが減少し、融液の凝固物として導電性C12A7化合物が得られる。置換量が過剰になると幼核が消滅するため、凝固物としてC12A7化合物は得られない。
以上のように溶融時間の変化により、凝固物として分解物相とC12A7化合物相が得られる場合があるが、保持時間と溶融温度の制御により、目的の導電性マイエナイト型化合物を得ることができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合粉末を、空気中に1300℃で12時間保持し、C12A7結晶からなる焼結粉末を作製した。焼結粉末の焼結密度は50%であった。該焼結粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で、1650℃まで昇温させた後、カーボンによる酸素の吸収により坩堝内の酸素分圧を10-15Paとした雰囲気中で、約9~10時間保持し、その後同上の酸素分圧中で400℃/時間の降温速度で、室温まで徐冷した。
得られた凝固物は黒色を呈する緻密な固体であった。またその粉末は濃い緑色を呈していた。X線回折パターンから、この凝固物はマイエナイト型化合物であった。電気伝導率は約5S/cmであった。
【0039】
(比較例1)
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合粉末の圧粉体を、空気中に1300℃で12時間保持し、C12A7結晶からなる焼結粉末を作製した。該焼結粉末をプラチナ坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で1650℃まで昇温させた後、酸素分圧が2×10Paである空気雰囲気中で、約9時間保持した後、400℃/時間の降温速度で、室温まで徐冷した。
得られた凝固物は無色の固体であり、X線回折パターンから、マイエナイト型化合物であったが、導電性を示さなかった。
【0040】
(実施例2)
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合粉末の圧粉体を、空気中に1300℃で10時間保持し、C12A7結晶からなる焼結粉末を作製した。焼結粉末の焼結密度は45%であった。該焼結粉末を蓋付きカーボン坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で1650℃まで昇温させた後、カーボンによる酸素の吸収により酸素分圧を10-15Paとした雰囲気中で、約2~3時間保持した後、同上の酸素分圧中で400℃/時間の降温速度で、室温まで徐冷した。
得られた凝固物は、黒色を呈する緻密な固体であった。またその粉末は濃い緑色を呈していた。X線回折パターンから凝固物はマイエナイト型化合物であった。電気伝導率は約5S/cmであった。
【0041】
(実施例3)
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合粉末を、プラチナ坩堝に入れ、電気炉中で1650℃で15分保持し、これを双ローラー法により急冷し、厚さ約0.5mmのC12A7ガラスとした。粉砕した該ガラスを蓋付きカーボン坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で1650℃まで昇温させた後、カーボンによる酸素の吸収により酸素分圧を10-15Paとした雰囲気中で、約3時間保持した後、同上の酸素分圧中で400℃/時間の降温速度で、室温まで徐冷した。
得られた凝固物は、黒色を呈する緻密な固体であった。またその粉末は濃い緑色を呈していた。X線回折パターンから凝固物はマイエナイト型化合物であった。電気伝導率は約5S/cmであった。
【0042】
以上のことより、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの原料物質から、C12A7化合物のフリー酸素を電子で置換することができ、導電性が付与されたマイエナイト型化合物を製造することができた。
【0043】
(実施例4)
粉砕したC12A7ガラスまたはC12A7結晶の焼結粉末を、蓋付きカーボン坩堝に入れ、400℃/時間の昇温速度で1650℃まで昇温させた後、カーボンによる酸素の吸収により、酸素分圧を10-15Paとした雰囲気中で、約30分保持した後、融液を空気中で鉄板上に流し出し、凝固させた。
X線回折より、得られた凝固物は、外周をガラスにより被覆され、黒色で緻密な導電性マイエナイト型化合物とガラスの混合物であった。凝固物の導電率は10-1S/cmであった。
【0044】
(実施例5)
電気伝導率が5S/cmの、3個の導電性C12A7マイエナイト型化合物を、厚さ1mmの板状に加工し、それぞれ、600℃、700℃、800℃で3時間保持した。
600℃で熱処理した試料は黒色、700℃では透光性の緑色、800℃では無色で透光性であり、電気伝導率は、それぞれ、約10-1S/cm,約10-3S/cm、約10-8S/cmであった。X線回折測定より、熱処理した試料は、いずれも、マイエナイト型化合物であった。
【0045】
(実施例6)
電気伝導率が5S/cmの、2個の導電性C12A7化合物を、厚さ1mmの板状に加工し、800℃で、それぞれ、1時間、3時間保持した。1時間保持した試料は緑色、3時間保持した試料は無色であり、電気伝導率は、1時間保持した試料は約10-3S/cm、3時間保持した試料は約10-8S/cmであった。
【0046】
以上のことより,導電性のマイエナイト型化合物のフリー電子の一部を酸素で置換することができ、また、熱処理の温度および時間により、電気伝導率の異なるマイエナイト型化合物を製造することができた。
実施例1~3において、原料として炭酸カルシウムの代わりに炭酸ストロンチウムを用いても、また実施例4~6において、C12A7の代わりにS12A7を用いても、同様な結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
導電性マイエナイト化合物は、電子供与体であるため、還元性試薬あるいは求核試薬として、有機物の分解などに用いることができる。また、そのゲージ中に陰イオンを取り込む性質を利用して、環境負荷の高い、塩素、フッ素、臭素、あるいはヨウ素などの回収に用いることができる。これら陰イオンは化合物の一部であってもよい。また、ヨウ素については放射性であってもよい。
また、導電性マイエナイト化合物は、電界効果型の電子放出材料であることから、この性質を利用して、小型の電子放出装置、表示装置、あるいはX線源を作製することができる。また、電極材料としては、有機ELデバイスにおける電荷注入材料のように、特殊な接合特性が要求される導電体として利用できる。

なお、本発明の明細書には、本出願の優先権主張の基礎となる日本特許出願2004-037203(2004年2月13日出願)の明細書の全内容をここに引用し、発明の開示として取り込むものである。