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明細書 :カーボンナノチューブの構造選択分離と表面固定

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4519071号 (P4519071)
登録日 平成22年5月28日(2010.5.28)
発行日 平成22年8月4日(2010.8.4)
発明の名称または考案の名称 カーボンナノチューブの構造選択分離と表面固定
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
B82B   1/00        (2006.01)
FI C01B 31/02 101F
B82B 1/00
請求項の数または発明の数 21
全頁数 33
出願番号 特願2005-517986 (P2005-517986)
出願日 平成17年2月10日(2005.2.10)
国際出願番号 PCT/JP2005/002085
国際公開番号 WO2005/077827
国際公開日 平成17年8月25日(2005.8.25)
優先権出願番号 2004039100
優先日 平成16年2月16日(2004.2.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年1月24日(2007.1.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】村越 敬
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】岡田 隆介
参考文献・文献 P. UMEK et al.,Separation of SWNTs by diffusion,Synthetic Metals,2001年,121,pp. 1211-1212
調査した分野 C01B 31/00-31/36
JSTPlus(JDreamII)
CAplus(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程:
a)金属イオンおよび電子ドナーを含むカーボンナノチューブの水分散液または水溶液の試料に、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する光を照射する工程;および
b)所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与える工程、
を包含する、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する方法。
【請求項2】
前記物性が、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、単層構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光は、前記特定波長を有する単色光またはレーザー光である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属は、アルカリ金属;アルカリ土類金属;IIIA族~VIIA族、VIII族および1Bの元素からなる群から選択される遷移元素;ならびに希土類元素からなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程b)は、クロマトグラフィーによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記試料は、界面活性剤をさらに含む溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリトンX、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、ノニルフェノールエトキシレート、オクチルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテルおよびセチルポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブは、分子内にカルボキシル基またはアミノ基を置換基として有する飽和または不飽和炭素鎖分子で、共有結合、イオン結合、水素結合または分子間相互作用によって表面修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
記金属イオンの濃度は、0.001~10%である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
記電子ドナーの濃度は、0.001~10%である、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記電子ドナーは、アルコール類、アミン類、アルギニン、ベンズアルデヒド、ヒドラジン、カルボン酸類、アミノ酸、トルエン、アルキルベンゼン類、テルペン類、エーテル類、シラン類およびチオール類からなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項13】
以下の工程:
a)金属イオンおよび電子ドナーを含むカーボンナノチューブの水分散液または水溶液の試料に、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する光を照射する工程;および
b)所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与え、該所望の物性を有するカーボンナノチューブの集積物または濃縮物を生成する工程
を包含する、所望の物性を有するカーボンナノチューブの集積物または濃縮物を生成する方法。
【請求項14】
以下の工程:
a)金属イオンおよび電子ドナーを含むカーボンナノチューブを含むと予想される水分散液または水溶液の試料に、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する光を照射する工程;
b)所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与える工程;および
c)該選択されたカーボンナノチューブを同定する方法、
を包含する、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分析する方法。
【請求項15】
前記物性が、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
A)金属イオンおよび電子ドナーを含むカーボンナノチューブの水分散液または水溶液を含む試料の導入部;
B)該試料に該カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する光を照射する手段;および
C)所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与える手段、
を備える、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する装置。
【請求項17】
前記物性が、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記手段B)は、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の多波長光源である、請求項16に記載の装置。
【請求項19】
前記手段C)は、所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与える、磁力制御可能な電磁石である、請求項16に記載の装置。
【請求項20】
前記手段C)は、クロマトグラフィーである、請求項16に記載の装置。
【請求項21】
前記試料は、界面活性剤をさらに含む溶液である、請求項16に記載の装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを高選択的に分離、濃縮または精製する方法および装置に関する。本発明はまた、本発明の方法により分離された高純度のカーボンナノチューブ、ならびにその薄膜およびアレイに関する。本発明はさらに、カーボンナノチューブ薄膜を使用する光学デバイスまたは電子デバイスを提供する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、1991年に飯島澄夫氏によって発見された新物質であり、その直径とチューブの巻き具合によって金属性と半導体性の性質を示すものがある。このような物性はチューブの構造によって一本一本で全く異なり、この分野に関する研究が現在盛んに行われている。また、カーボンナノチューブはデバイスなどの次世代材料としてエレクトロニクスやエネルギー分野への応用が非常に期待されている物質である。
【0003】
単層カーボンナノチューブの生成法に関する研究により、フェロセンなどを触媒に用いた炭化水素の分解(例えば、非特許文献1参照)のような工業的に低コストで大量合成が可能な方法(Chemical vapor deposition,CVD法)が確立されつつある。また、市販されている。単層カーボンナノチューブの合成方法の代表例としては、アーク放電法およびレーザー蒸発法があげられる(例えば、非特許文献2参照)。これらは更に限外ろ過(例えば、非特許文献2参照)などを用いて精製されている(純度90%以上が可能)。
【0004】
アーク放電により作製される単層カーボンナノチューブの直径分布は、合成で使用する金属触媒の種類に依存して異なる。このように金属触媒の種類を選択することで平均直径を制御することができ、それによって作製されるナノチューブの直径分布は、平均直径±0.4nmの範囲で制御することができる。しかし、現在の作製方法ではいずれの方法を用いても単層カーボンナノチューブを個々の直径ごとに分けて合成することはできない。
【0005】
そこで上記方法で作製した単層カーボンナノチューブを用いて、各チューブに固有な物性を調査することを目的として、分離精製する方法を確立するための研究がなされている。
【0006】
一例として、P.UmekおよびD.Mihailovicは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液に分散させた単層カーボンナノチューブ溶液を用いてアガロースゲル電気泳動を行い、得られたフラクションを塩酸処理、SDS除去(脱イオン水)、乾燥後ラマンスペクトルを測定し、単層カーボンナノチューブが部分的に直径と長さで分別されていることを確認した(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
また、Stephen K.DoornらはSDS溶液に分散させたカーボンナノチューブ溶液を用いてキャピラリー電気泳動を行い、分離後の吸収スペクトル、ラマンスペクトルから、長さの違いによる溶出時間の変化によって単層カーボンナノチューブを分別できることを見出した(例えば、非特許文献4参照)。以上のような研究から、カーボンナノチューブを長さごとに分けるといった方法が確立されつつある。
【0008】
しかし、カーボンナノチューブの物性はカーボンナノチューブ自身の直径、カイラル角などの物性によって決定され、カーボンナノチューブを長さで分別するということが、必ずしも物性ごとに分別するということにはつながらず、これまでに報告されているカーボンナノチューブを長さによって分別する方法は、物性によってカーボンナノチューブを分別しているということにはならない。
【0009】
これまでに、カーボンナノチューブについては多くの研究がなされているが、全く同じ直径、キラリティ、仕事関数、バンドギャップを有する単一チューブのみの調製あるいは精製分離は未だその精度は非常に低い(例えば、非特許文献5~12参照)。直径による分離についての結果は、DNA分散カーボンナノチューブのイオン交換クロマトグラフィーによる分離を開示する非特許文献9が先行競合技術として挙げられるが、原理は全く異なり、その分離精度も本手法に比べて劣る。さらに、これまでにカーボンナノチューブの精製方法に関する特許出願がいくつかなされている(例えば、特許文献1~5参照)。しかしながら、これらの特許文献1~5はいずれも、不純物の除去に関する技術であり、従って、直径およびカイラル角などの物性が揃ったカーボンナノチューブの分離は行っていない。
【0010】
カーボンナノチューブの構造に依存した電子構造の詳細については多くの研究によりその特徴が明らかとなっているものの、それらのエネルギーレベルの絶対電位についての情報は限られており、単一個々の、いわば単分子のカーボンナノチューブについては構造が変化しても“フェルミ準位の絶対電位は同じぐらい“との認識が大勢を占めていた。本発明者は、これまでに孤立分散させた金属性および半導体性の単一のカーボンナノチューブについて、そのラジアルブリージングモード(w=150~240cm-1)のラマン散乱強度の電位依存性を検討することによりフェルミ準位がカーボンナノチューブの径の減少により非常に大きくポジティブシフトすること、すなわち仕事関数が大きく構造に依存することを世界で初めて見出した。また、その変化の度合いは、半導体性カーボンナノチューブよりも金属性カーボンナノチューブの方が顕著であることも示された。仕事関数が大きく異なるということは、例えばある特定の直径のカーボンナノチューブは金属でいえば貴金属(Au、Ptなど)より安定であり、また一方、より直径の太いカーボンナノチューブはMgやAlと同等の電子の出しやすさを有するということを意味している。これらの検討により、単一のカーボンナノチューブにおいて、その直径、カイラリティなどに依存して、大きく物性が変化することが初めて明らかとなった。
【0011】
次世代材料として期待されるカーボンナノチューブを利用するには、直径およびカイラリティなどで支配される物性をコントロールする必要がある。そこで利用したい物性に狙いをつけて、カーボンナノチューブを分類することができる新たな分別方法を確立する必要がある。

【特許文献1】特開平8-198611号公報
【特許文献2】特開2003-81616号公報
【特許文献3】特開2003-300714号公報
【特許文献4】特開2003-212526号公報
【特許文献5】特表2002-515847号公報
【非特許文献1】田中一義編「カーボンナノチューブ ナノデバイスへの挑戦」化学同人(2001)
【非特許文献2】斉藤弥八、坂東俊治 共著「カーボンナノチューブの基礎」コロナ社(1998)
【非特許文献3】P.Umek and Mihailovic,Synthetic Metals.121,1211-1212(2001)
【非特許文献4】Stephen K.Doorn,Robert E.Fields,III,Hui Hu,Mark A.Hamon,Robert ,C.Haddon,John P.Selegue,and Vahid Majidi J.Am.Chem.Soc.,124,3169-3174(2002)
【非特許文献5】R.Kfupkeら,Science,301,344-347(2003)
【非特許文献6】G.S.Duesbergら,Chem.Comm.,435-436(1998)
【非特許文献7】G.S.Duesbergら,Appl,Phys,A67,117-119(1998)
【非特許文献8】D.Chattopadhyayら,J.Am.Chem.Soc.,124,728-729(2002)
【非特許文献9】M.Zhengら,Science,302,1545-1548(2003)
【非特許文献10】H.Dodziukら,Chem.Comm.,986-987(2003)
【非特許文献11】D.Chattopadhyayら,J.Am.Chem.Soc.,125,3370-3375(2003)
【非特許文献12】Z.H.Chenら,Nano Lett.,1245-1249(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明では、構造によって異なるカーボンナノチューブの電子準位と金属の酸化還元電位の相関に着目し、酸化還元電位が異なる様々な金属イオンと、直径やカイラリティによって電子準位が異なるカーボンナノチューブの特徴を利用し、磁場中でカーボンナノチューブのエネルギーギャップが近赤外領域に吸収を持つことから光によって励起し、金属との間で酸化還元反応を起こすことで、カーボンナノチューブの表面に金属を析出させ、ある狙った物性のカーボンナノチューブだけを沈められると期待できる。
【0013】
本発明の課題は、カーボンナノチューブ特有の構造敏感な特性を利用して、所望の物性、特に直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一であるカーボンナノチューブを高選択的に分離、濃縮または精製する方法および装置を提供することにある。
【0014】
本発明の別の課題は、エレクトロニクスおよびエネルギー分野における次世代材料として、上記方法によって分離した高純度のカーボンナノチューブでなる薄膜を、光学または電子デバイスに応用させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下を提供する。
(1)以下の工程:
a)カーボンナノチューブを含む試料に光を照射する工程;および
b)所望の物性を有するカーボンナノチューブを選択する工程、
を包含する、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する方法。
(2)上記物性が、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む、項目1に記載の方法。
(3)上記カーボンナノチューブは、単層構造を有する、項目1に記載の方法。
(4)上記光は、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する、項目1に記載の方法。
(5)上記光は、上記特定波長を有する単色光またはレーザー光である、項目4に記載の方法。
(6)上記工程a)における光照射は、金属の存在下で行われる、項目1に記載の方法。(7)上記金属は、アルカリ金属;アルカリ土類金属;IIIA族~VIIA族、VIII族および1Bの元素からなる群から選択される遷移元素;ならびに希土類元素からなる群から選択される、項目6に記載の方法。
(8)上記工程b)は、所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与えることによって行われる、項目1に記載の方法。
(9)上記工程b)は、クロマトグラフィーによって行われる、項目1に記載の方法。
(10)上記試料は、界面活性剤をさらに含む溶液である、項目1に記載の方法。
(11)上記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリトンX、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、ノニルフェノールエトキシレート、オクチルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテルおよびセチルポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択される、項目10に記載の方法。
(12)上記試料は、カーボンナノチューブの水分散液または水溶液である、項目1に記載の方法。
(13)上記カーボンナノチューブは、分子内にカルボキシル基またはアミノ基を置換基として有する飽和または不飽和炭素鎖分子で、共有結合、イオン結合、水素結合または分子間相互作用によって表面修飾されている、項目1に記載の方法。
(14)上記試料は、金属イオンおよび電子ドナーをさらに含む溶液である、項目1に記載の方法。
(15)上記溶液における金属イオンの濃度は、0.001~10%である、項目14に記載の方法。
(16)上記水溶液中における電子ドナーの濃度は、0.001~10%である、項目14に記載の方法。
(17)上記電子ドナーは、アルコール類、アミン類、アルギニン、ベンズアルデヒド、ヒドラジン、カルボン酸類、アミノ酸、トルエン、アルキルベンゼン類、テルペン類、エーテル類、シラン類およびチオール類からなる群から選択される、項目14に記載の方法。
(18)以下の工程:a)カーボンナノチューブを含むと予想される試料に光を照射する工程;b)所望の物性を有するカーボンナノチューブを選択する工程;およびc)該選択されたカーボンナノチューブを同定する方法、を包含する、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分析する方法。
(19)上記物性が、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む、項目18に記載の方法。
(20)項目2に記載の方法によって分離された、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一である、カーボンナノチューブ。
(21)項目2に記載の方法によって、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一であるカーボンナノチューブ含量が上昇した、カーボンナノチューブ組成物。
(22)少なくとも99%の純度で、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一であるカーボンナノチューブを含む、カーボンナノチューブ組成物。
(23)項目20に記載のカーボンナノチューブを支持体上に吸着固定させて得られる、カーボンナノチューブ薄膜。
(24)項目20に記載のカーボンナノチューブを支持体上にアレイ状に吸着固定されて得られる、カーボンナノチューブアレイ。
(25)項目23に記載のカーボンナノチューブ薄膜を含む、光学フィルター。
(26)項目23に記載のカーボンナノチューブ薄膜を含む、電子デバイス。
(27)導電性薄膜、誘電体薄膜、センサー電極、高エネルギー密度燃料電池用電極、高機能ディスプレイ、単分子検出センサー、加速度検出センサーおよび磁場検出センサーからなる群から選択される、項目26に記載の電子デバイス。
(28)A)カーボンナノチューブを含む試料の導入部;B)該試料に光を照射する手段;およびC)所望の物性を有するカーボンナノチューブを選択する手段、を備える、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する装置。
(29)上記物性が、直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む、項目28に記載の装置。
(30)上記手段B)は、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する単色光またはレーザー光の光源である、項目28に記載の装置。
(31)上記手段B)は、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の多波長光源である、項目28に記載の装置。
(32)上記手段C)は、所望の物性を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与える、磁力制御可能な電磁石である、項目28に記載の装置。
(33)上記手段C)は、クロマトグラフィーである、項目28に記載の装置。
(34)上記試料は、界面活性剤をさらに含む溶液である、項目28に記載の装置。
(35)上記試料は、カーボンナノチューブの水分散液または水溶液である、項目28に記載の装置。
(36)上記試料は、金属イオンおよび電子ドナーをさらに含む溶液である、項目28に記載の装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法および装置を提供することにより、カーボンナノチューブ特有の構造敏感な特性を利用して、均一な物性、特に直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一であるカーボンナノチューブを高選択的に分離、濃縮または精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、(a)金属性単層カーボンナノチューブの場合における、カーボンナノチューブの電子準位と金属の酸化還元電位との相関関係を示す。
【図1B】図1Bは、(b)半導体性単層カーボンナノチューブの場合における、単層カーボンナノチューブの電子準位と金属の酸化還元電位との相関関係を示す。
【図2】図2は、本発明において単層カーボンナノチューブと金属イオンの間で期待される反応機構を示す。
【図3】図3は、本発明で使用するラマンスペクトル検出器および単層カーボンナノチューブの典型的なラマンスペクトルの概略図を示す。
【図4】図4は、金属析出したカーボンナノチューブ表面の原子間力電子顕微鏡画像を示す。
【図5】図5は、本発明における金属析出反応前後のカーボンナノチューブのRadial Breathing Modeのラマンスペクトルを示す。
【図6】図6は、本発明において使用した金属の種類と分離されたカーボンナノチューブの直径との関係を示す。
【図7】図7は、励起波長514nmにて励起してFeイオン析出を行った結果を示す。
【図8】図8は、本発明の一実施形態を表す装置構造図である。
【図9】図9は、本発明の別の実施形態を表す装置構造図である。
【図10】図10は、本発明のさらに別の実施形態を表す装置構造図である。
【図11】図11は、本発明のなおさらに別の実施形態を表す装置構造図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0019】
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0020】
本明細書における「カーボンナノチューブ(Carbon Nono Tube、略称:CNT))」とは、C(nは整数であり、炭素原子の個数を表す)で表される炭素クラスターの一種であり、1枚または複数枚のグライファイトのシートが円筒状に丸まってできた構造体を指す。カーボンナノチューブの構造は、直径およびカイラルベクトル(つまり、ひねり度、および右巻きまたは左巻きなどを規定するベクトル)などの物性によって決定され、代表的な構造の型として、<5,5>アームチェアー型、<9,0>ジグザグ型および<9,1>カイラル型などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の「カーボンナノチューブ」は、単一のチューブで構成された「単層カーボンナノチューブ(Single-Wall Carbon Nono Tube、略称:SWCNT)」であってもよいし、いくつかのチューブが入れ子状になった「多層カーボンナノチューブ(Multi-Wall Carbon Nono Tube、略称:MWCNT)」であってもよい。
【0021】
また、本発明における「カーボンナノチューブ」は、純炭素カーボンナノチューブであってもよいし、カーボンナノチューブ自身の水系または有機系の溶媒に対する可溶性を発現させるために、任意の適切な置換基で置換されていてもよい。好ましい1実施形態において、本発明の「カーボンナノチューブ」は、分子内にカルボキシル基またはアミノ基を置換基として有する飽和または不飽和炭素鎖分子で、共有結合、イオン結合、水素結合または分子間相互作用によって表面修飾されている。
【0022】
本発明の「カーボンナノチューブ」は、以下に示した従来の3つの方法によって製造することができる。
【0023】
A)アーク放電法
アーク放電法は、もっとも初期にカーボンナノチューブを生成するのに利用されていた方法である。二本のグラファイト棒を数nmまで近づけて設置し、不活性ガス中でそれぞれを強い直流電源につなぎ、電源を入れる。負電極と正電極との間で激しい放電を生じ、グラファイト棒が蒸発し、炭素クラスターが得られる。これを室温にまで冷却すると負電極にカーボンナノチューブ、フラーレンなど様々なものが堆積する。金属触媒がない場合は、多層カーボンナノチューブしか生成しないが、Co、NiまたはFeなどの金属触媒を加えることによって単層カーボンナノチューブが生成する。
【0024】
B)レーザー蒸発法
上記方法と同様に、グラファイト棒を電気炉で、例えば1200度付近に加熱し、例えば500Torrのアルゴンガスをゆっくり流しながら、Nd/YAGレーザーを使用して瞬時にグラファイト棒を蒸発させて単層カーボンナノチューブを得る。この方法により、単層カーボンナノチューブを大量生成することが可能である。
【0025】
C)化学的気相成長(CVD)法
基板を炉に入れ、例えば600℃に加熱しながらゆっくりと炭素の供給源となるガス(メタン)を流す。ガスが分解して炭素原子が放たれ、再結合してカーボンナノチューブが形成される。このCVD法は、上記の2つの方法と比べて、工業的な大量生産に向いているが、単層カーボンナノチューブの生成には適切ではない。
【0026】
また、本発明で精製分離するために使用するカーボンナノチューブは、市販のものを使用してもよい。
【0027】
本明細書における「カーボンナノチューブを含む試料」とは、上記3つの方法により生成されたカーボンナノチューブまたは市販のカーボンナノチューブを含むかまたは含むと予想される粗生成物であってもよいし、その粗生成物を含む有機溶液、水溶液または水分散液のいずれかであってもよいし、さらには、目的の精製に使用する界面活性剤および電子ドナーなどの不純物を含んでいてもよい。また、上記粗生成物には、生成されたカーボンナノチューブ以外に、金属または種々の炭素不純物を含んでいてもよい。
【0028】
本明細書における「(所望の物性を有するカーボンナノチューブを)選択する」とは、基本的に、その目的のカーボンナノチューブを含むかまたは含むと予想される粗生成物から目的のカーボンナノチューブを集積または濃縮させることを意味するが、その集積物または濃縮物を分離する工程まで含む場合もあり得る。
【0029】
本明細書において、所望の物性を有するカーボンナノチューブを「分離」するとは、そのカーボンナノチューブが、分離前に試料中に存在する状態から実質的に引き離すまたは精製することをいう。従って、試料から分離されたカーボンナノチューブは、分離される前に含んでいたカーボンナノチューブ以外の物質の含量が少なくとも低減している。
【0030】
本明細書において、所望の物性を有するカーボンナノチューブを「精製」するとは、そのカーボンナノチューブに元々随伴する因子の少なくとも一部を除去することをいう。したがって、精製および分離は、その形態が一部重複する。したがって、通常、精製されたカーボンナノチューブにおけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)が、元々随伴する因子が低減されている限り、濃縮されていない状態も「精製」の概念に包含される。
【0031】
本明細書において、所望の物性を有するカーボンナノチューブを「濃縮」するとは、その物質が濃縮前に試料に含まれている含有量よりも高い濃度に上昇させる行為をいう。従って、濃縮もまた、精製および分離と、その概念が一部重複する。したがって、通常、濃縮された物質(例えば、所望の物性を有するカーボンナノチューブ)は、その物質が通常存在する状態における不純物の含有量は低減されているが、目的とする物質の含有量が増加している限り、ある特定の不純物が増加していてもよく、「精製」されていない状態も「濃縮」の概念に包含される。
【0032】
本明細書における「同定」とは、物質の正体を明らかにすることをいう。そのような同定には、種々の測定方法を用いることができ、例えば、ラマン分光法などの物理的分析などが挙げられるがこれに限定されない。
【0033】
本明細書における「物性」とは、カーボンナノチューブ分子のもつ固有の物理的特性を意味し、例えば、直径、カイラルベクトル、および長さなどが挙げられる。
【0034】
本明細書における「単層構造」とは、円筒状のカーボンナノチューブの壁が一層であることを意味する。カーボンナノチューブが単層構造であるか否かについての評価は、ラマン分光法を用いて行われる。単層カーボンナノチューブは共鳴効果により1本のチューブのラマン測定が可能となる。そのラマンスペクトルにおいて、400cm-1以下の周波数領域(ラジアルブリージングモード)に明瞭なシグナルが観測される。この周波数が直径の逆数に比例することが知られており、そのため、ラマンスペクトル測定により、単層カーボンナノチューブの存在、ならびに直径を決定することが可能である。なお、多層カーボンナノチューブでは透過型電子顕微鏡(TEM)などでチューブ状物質が観測されるものの、ラマン測定においてこのラジアルブリージングモード領域にシグナルが非常に弱いことが知られている。
【0035】
本明細書における「磁場」とは、磁気力の働く物理的状態の場所を指し、磁石または電流が流れている媒質の近傍に見出される。本発明における磁場を与える手段としては、永久磁石または磁力制御可能な電磁石が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書における「クロマトグラフィー」とは、混合物の試料から,担体(固定相)中の移動度(分配平衡)の差を利用して試料中にある特定の標的物質または標的物質群を別の物質または物質群から分離する方法をいう。従って、試料の分離が達成される限りどのような技術もクロマトグラフィーの範囲内にある。クロマトグラフィーは、例えば、ある標的物質を混合物から分離する目的で使用され得るし、あるいは、ある標的物質について定性的または定量的な分析をするためにも使用され得る。例えば、通常クロマトグラフィーとは呼ばれない電気泳動技術もまた、通常試料中の少なくとも1つの成分を分離することができることから、本明細書においてクロマトグラフィーの範囲内にある。固定相は通常液体または固体であり得る。移動相は通常液体または気体であり得る。吸着剤などの固定相または移動相の一端に試料を吸着させ,これに適当な溶媒(移動相)を移動させると試料中の成分は固定相(固定相の表面または内部など固定相のある部分)を溶出と吸着を繰り返しながら移動する。その間に吸着されやすいものとされにくいものとの間に移動度の差を生じて,混合物の分離が可能になる。移動相が液体のものは、液体クロマトグラフィーとも呼ばれる。従来、移動相が液体か気体かによって液体クロマトグラフィー(LLC、LSCなど。HPLC、FPLC(登録商標)などもこれに入る)とガスクロマトグラフィー(例えば、GLC、GSCなど)とに分けられ、分離の機構によってキラルクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィ(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)などのゲルクロマトグラフィー)、塩析クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、高速向流分配クロマトグラフィー、パーフュージョンクロマトグラフィーなどが使用されている。また固定相の形状により、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー(例えば、ペーパークロマトグラフィーなど)などが使用されている。本発明の方法は、どのような形態のクロマトグラフィーにおいても使用され得る。
【0037】
本明細書における「電子ドナー」とは、電子の失われたカーボンナノチューブの占有準位に電子を供給する化合物を意味する。本発明の電子ドナーとして、アルコール類、アミン類、アルギニン、ベンズアルデヒド、ヒドラジン、カルボン酸類、アミノ酸、トルエン、アルキルベンゼン類、テルペン類、エーテル類、シラン類およびチオール類などが挙げられるが、これらに限定されない。このように列挙した電子ドナーは、以下に定義されるとおりである。本発明における好ましい電子ドナーは、メタノールである。
【0038】
本明細書における「支持体」および「基板」は、本明細書において特に言及しない場合互換的に用いられ、別の物質を支持するように用いられるとき、流体(特に液体などの溶媒)の存在下でその別の物質を支持することができる材料(好ましくは固体)をいう。支持体の材料としては、共有結合かまたは非共有結合のいずれかで、本発明に物質に結合する特性を有するかまたはそのような特性を有するように誘導体化され得る、任意の固体材料が挙げられるがそれに限定されない。より好ましくは、精製、濃縮、分離または分析がおこなわれる環境において固体状態を保つことが好ましい。支持体として使用するための材料としては、固体表面を形成し得る任意の材料が使用され得るが、例えば、ガラス(例えば、スライドガラス)、シリカ、シリコン、セラミック、二酸化珪素、プラスチック、金属(合金も含まれる)、天然および合成のポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストラン、およびナイロン)などが挙げられるがそれらに限定されない。支持体は、複数の異なる材料の層から形成されていてもよい。例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素などの無機絶縁材料を複数使用することできるがそれに限定されない。支持体として使用するための材料としてはまた、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、含フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレン・アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン等の有機材料を用いることができる。本発明においてはまた、ナイロン膜、ニトロセルロース膜、PVDF膜など、ブロッティングに使用される膜を用いることもできる。ナイロン膜などを用いた場合は、簡便な解析システムを用いて結果を分析することができる。高密度のものを解析する場合は、ガラスなど硬度のあるものを材料として使用することが好ましい。
【0039】
本明細書において「吸着固定」とは、本発明のカーボンナノチューブについて言及されるとき、「支持体」または「基板」上に物理吸着または化学吸着させることをいう。物理給させるためには、カーボンナノチューブを平面展開して膜を形成させるという手法がとられる。このような平面展開して形成された膜の形態としては、例えば、キャスト膜、単分子膜および自己吸着単分子膜が挙げられるが、それらに限定されない。本明細書において「キャスト膜」とは、キャスト法を用いて製造される膜をいい、そのようなキャスト膜は、カーボンナノチューブの材料を含む溶液をキャストし乾燥させることによって製造することができる。本明細書において「単分子膜」とは、気液界面もしくは固液界面に形成され得るnmオーダーの一分子層の膜を指す。本発明では、本発明のカーボンナノチューブを含む単分子膜を支持体に移しとるという手法がとられる。本発明では、上記の広義の意味での「単分子膜」の中でも特に、水面上に形成された本発明のカーボンナノチューブの単分子膜を水面上に形成し、任意の方法で固体基板上に移行させ累積してできるLangmuir-Blodgett膜(通称:LB膜)を採用することが好ましい。LB膜の形成方法の最も普遍的なものとして、一定表面圧に制御されている水面上単分子膜を横切って固体支持体(または固体基板)を垂直に上下させる技法が挙げられるが、これに限定されない。ほかの技法として、固体基板上に単分子膜を1層だけ固体支持体に移しとる水平付着法があるが、この方法も本発明において有用である。本発明において「累積」とは、固体支持体に単分子膜を移しとることを意味し、単分子膜が固体支持体に移しとられる回数は、一回であってもよいし、複数回であってもよい。単分子膜を固体支持体に水面上の膜状態または膜秩序を保ったまま累積するためには、当業者により様々な工夫がなされるが、少なくとも本発明のカーボンナノチューブが水面上で平面展開し、単分子膜を形成させる必要がある。純炭素カーボンナノチューブは疎水性であるため水に浮く性質を持ち、純炭素カーボンナノチューブそのものを使用してもよいし、カーボンナノチューブ分子を両親媒性にするために、親水性の官能基が純炭素カーボンナノチューブに付加していてもよい。本明細書において「自己吸着単分子膜」とは、金などの金属を蒸着した基板上にジスルフィドまたはチオールを介して、自発的にカーボンナノチューブ分子が化学吸着して得られた単分子層をさす。
【0040】
本明細書における「試料を導入する」とは、本発明の反応が起こるべき場所に、試料を移動させることをいう。試料の導入部としては、試料を導入するのに適していれば、どのような形状のものを用いてもよい。また、試料を導入する方法としては、例えば、インジェクタを用いる方法、オンカラム法、試料を注入し移動相によってカラム内に流し込む方法、サンプルバルブによる方法などが挙げられるがそれらに限定されない。試料を導入する手段としては、サンプルインジェクタ、オートサンプラー、マイクロフィーダーなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0041】
(本発明の理論)
本発明における理論とは、カーボンナノチューブの電子準位と、金属の酸化還元電位を利用して、カーボンナノチューブを物性ごとに選択的に分離するというものであるが、まず、その相関関係について図1に図示することにする。
【0042】
これらをもとにして、本発明においてカーボンナノチューブと金属イオンの間で期待される反応機構を図2に示す。図2では、一例としてFe2+とカーボンナノチューブの電子準位との間で期待される反応機構を示している。機構の詳細としては、まず、励起光が照射されることによって、カーボンナノチューブが励起光のエネルギーに対応したバンドギャップ間で占有準位から非占有順位へと電子遷移を起こす。そして、遷移した電子は、非占有準位から占有準位へと戻るのではなく、占有準位よりも近い位置にある金属イオンの酸化還元電位(ここではFe2+/Feの酸化還元電位になる)へと電子を渡す。それによってFe2+はFeとなり、カーボンナノチューブ上に析出する。カーボンナノチューブの占有準位から失われた電子はメタノールが電子ドナーとしてカーボンナノチューブの占有準位へと電子を供給することによって補われることになる。以上が本発明において期待される反応の機構の概略である。
【0043】
(カーボンナノチューブのラマン分光)
本発明の1実施形態では、光触媒反応によってカーボンナノチューブに金属を還元析出させ、磁場により析出した金属を引き寄せ、結果として直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が揃ったカーボンナノチューブを集積させるという方法がとられる。この集積挙動は、ラマンスペクトルにより観測することができる。
【0044】
ラマンスペクトル検出器およびカーボンナノチューブの典型的なラマンスペクトルの概略図を図3に示す。カーボンナノチューブのラマンスペクトルは、通常、4種類のモード(つまり、RBM[Radial Breathing Mode]、D-バンド、G-バンドおよびG’-バンド)に帰属される。本発明では、カーボンナノチューブの直径に依存するRBMのピークに着目し、カーボンナノチューブの集積挙動および選択性について検討した。
【0045】
(有機化学)
有機化学については、例えば、Organic Chemistry,R.T.Morrison,R.N.Boyd 5th ed.(1987年)などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0046】
本明細書においては、特に言及がない限り、「置換」は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
【0047】
本発明のカーボンナノチューブが、置換基Rによって置換されている場合、そのようなRは、単数または複数存在し、複数存在する場合は、それぞれ独立して、水素、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基、置換された炭素環基、ヘテロ環基、置換されたヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、置換されたヒドロキシ、チオール、置換されたチオール、シアノ、ニトロ、アミノ、置換されたアミノ、カルボキシ、置換されたカルボキシ、アシル、置換されたアシル、チオカルボキシ、置換されたチオカルボキシ、アミド、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルおよび置換されたスルフィニルからなる群より選択される。
【0048】
本発明のカーボンナノチューブを水系の溶媒に可溶化させるための置換基Rとしては、カルボキシル基(またはカルボキシ基)またはアミノ基などの極性基そのもの、あるいは、分子内にカルボキシル基またはアミノ基などの極性基を置換基として有する飽和または不飽和炭素鎖であることが好ましい。逆に、本発明のカーボンナノチューブを有機系の溶媒に可溶化させるための置換基Rとしては、疎水性のものが好ましく、例えば、C1~C6アルキル、C1~C5アルキル、C1~C4アルキル、C1~C3アルキル、C1~C2アルキルなどが挙げられる。
【0049】
本明細書において「ヘテロ環(基)」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで,ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。ヘテロ環基は置換されていてもよい。
【0050】
本明細書において「炭素鎖」とは、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニルなどを指す。
【0051】
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1-で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。これらの具体例は、C1~C2アルキル、C1~C3アルキル、C1~C4アルキル、C1~C5アルキル、C1~C6アルキル、C1~C7アルキル、C1~C8アルキル、C1~C9アルキル、C1~C10アルキル、C1~C11アルキルまたはC1~C12アルキル、C1~C2置換されたアルキル、C1~C3置換されたアルキル、C1~C4置換されたアルキル、C1~C5置換されたアルキル、C1~C6置換されたアルキル、C1~C7置換されたアルキル、C1~C8置換されたアルキル、C1~C9置換されたアルキル、C1~C10置換されたアルキル、C1~C11置換されたアルキルまたはC1~C12置換されたアルキルであり得る。ここで、例えばC1~C10アルキルとは、炭素原子を1~10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH-)、エチル(C-)、n-プロピル(CHCHCH-)、イソプロピル((CHCH-)、n-ブチル(CHCHCHCH-)、n-ペンチル(CHCHCHCHCH-)、n-ヘキシル(CHCHCHCHCHCH-)、n-ヘプチル(CHCHCHCHCHCHCH-)、n-オクチル(CHCHCHCHCHCHCHCH-)、n-ノニル(CHCHCHCHCHCHCHCHCH-)、n-デシル(CHCHCHCHCHCHCHCHCHCH-)、-C(CHCHCHCH(CH、-CHCH(CHなどが例示される。また、例えば、C1~C10置換されたアルキルとは、C1~C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0052】
本明細書において、「低級アルキル」は、C1~C6アルキルであり、好ましくは、C1またはC2アルキルである。
【0053】
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。具体例としては、C3~C4シクロアルキル、C3~C5シクロアルキル、C3~C6シクロアルキル、C3~C7シクロアルキル、C3~C8シクロアルキル、C3~C9シクロアルキル、C3~C10シクロアルキル、C3~C11シクロアルキル、C3~C12シクロアルキル、C3~C4置換されたシクロアルキル、C3~C5置換されたシクロアルキル、C3~C6置換されたシクロアルキル、C3~C7置換されたシクロアルキル、C3~C8置換されたシクロアルキル、C3~C9置換されたシクロアルキル、C3~C10置換されたシクロアルキル、C3~C11置換されたシクロアルキルまたはC3~C12置換されたシクロアルキルであり得る。例えば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
【0054】
本明細書において「アルケニル」とは、エチレン、プロピレンのような、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n-1-で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。具体例としては、C2~C3アルケニル、C2~C4アルケニル、C2~C5アルケニル、C2~C6アルケニル、C2~C7アルケニル、C2~C8アルケニル、C2~C9アルケニル、C2~C10アルケニル、C2~C11アルケニルまたはC2~C12アルケニル、C2~C3置換されたアルケニル、C2~C4置換されたアルケニル、C2~C5置換されたアルケニル、C2~C6置換されたアルケニル、C2~C7置換されたアルケニル、C2~C8置換されたアルケニル、C2~C9置換されたアルケニル、C2~C10置換されたアルケニル、C2~C11置換されたアルケニルまたはC2~C12置換されたアルケニルであり得る。ここで、例えばC2~C10アルキルとは、炭素原子を2~10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、ビニル(CH=CH-)、アリル(CH=CHCH-)、CHCH=CH-などが例示される。また、例えば、C2~C10置換されたアルケニルとは、C2~C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0055】
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。具体例としては、C3~C4シクロアルケニル、C3~C5シクロアルケニル、C3~C6シクロアルケニル、C3~C7シクロアルケニル、C3~C8シクロアルケニル、C3~C9シクロアルケニル、C3~C10シクロアルケニル、C3~C11シクロアルケニル、C3~C12シクロアルケニル、C3~C4置換されたシクロアルケニル、C3~C5置換されたシクロアルケニル、C3~C6置換されたシクロアルケニル、C3~C7置換されたシクロアルケニル、C3~C8置換されたシクロアルケニル、C3~C9置換されたシクロアルケニル、C3~C10置換されたシクロアルケニル、C3~C11置換されたシクロアルケニルまたはC3~C12置換されたシクロアルケニルであり得る。例えば、好ましいシクロアルケニルとしては、1-シクロペンテニル、2-シクロヘキセニルなどが例示される。
【0056】
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n-3-で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。具体例としては、C2~C3アルキニル、C2~C4アルキニル、C2~C5アルキニル、C2~C6アルキニル、C2~C7アルキニル、C2~C8アルキニル、C2~C9アルキニル、C2~C10アルキニル、C2~C11アルキニル、C2~C12アルキニル、C2~C3置換されたアルキニル、C2~C4置換されたアルキニル、C2~C5置換されたアルキニル、C2~C6置換されたアルキニル、C2~C7置換されたアルキニル、C2~C8置換されたアルキニル、C2~C9置換されたアルキニル、C2~C10置換されたアルキニル、C2~C11置換されたアルキニルまたはC2~C12置換されたアルキニルであり得る。ここで、例えば、C2~C10アルキニルとは、例えば炭素原子を2~10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH≡C-)、1-プロピニル(CHC≡C-)などが例示される。また、例えば、C2~C10置換されたアルキニルとは、C2~C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0057】
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にC2n+1O-で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。具体例としては、C1~C2アルコキシ、C1~C3アルコキシ、C1~C4アルコキシ、C1~C5アルコキシ、C1~C6アルコキシ、C1~C7アルコキシ、C1~C8アルコキシ、C1~C9アルコキシ、C1~C10アルコキシ、C1~C11アルコキシ、C1~C12アルコキシ、C1~C2置換されたアルコキシ、C1~C3置換されたアルコキシ、C1~C4置換されたアルコキシ、C1~C5置換されたアルコキシ、C1~C6置換されたアルコキシ、C1~C7置換されたアルコキシ、C1~C8置換されたアルコキシ、C1~C9置換されたアルコキシ、C1~C10置換されたアルコキシ、C1~C11置換されたアルコキシまたはC1~C12置換されたアルコキシであり得る。ここで、例えば、C1~C10アルコキシとは、炭素原子を1~10個含む直鎖または分枝状のアルコキシを意味し、メトキシ(CHO-)、エトキシ(CO-)、n-プロポキシ(CHCHCHO-)などが例示される。
【0058】
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3~C4炭素環基、C3~C5炭素環基、C3~C6炭素環基、C3~C7炭素環基、C3~C8炭素環基、C3~C9炭素環基、C3~C10炭素環基、C3~C11炭素環基、C3~C12炭素環基、C3~C4置換された炭素環基、C3~C5置換された炭素環基、C3~C6置換された炭素環基、C3~C7置換された炭素環基、C3~C8置換された炭素環基、C3~C9置換された炭素環基、C3~C10置換された炭素環基、C3~C11置換された炭素環基またはC3~C12置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4~C7炭素環基またはC4~C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0059】
本明細書において「ヘテロ環基」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで,ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換されたヘテロ環基」とは、以下に規定する置換基によってヘテロ環基のHが置換されたヘテロ環基をいう。具体例としては、C3~C4炭素環基、C3~C5炭素環基、C3~C6炭素環基、C3~C7炭素環基、C3~C8炭素環基、C3~C9炭素環基、C3~C10炭素環基、C3~C11炭素環基、C3~C12炭素環基、C3~C4置換された炭素環基、C3~C5置換された炭素環基、C3~C6置換された炭素環基、C3~C7置換された炭素環基、C3~C8置換された炭素環基、C3~C9置換された炭素環基、C3~C10置換された炭素環基、C3~C11置換された炭素環基またはC3~C12置換された炭素環基の1つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基はまた、C4~C7炭素環基またはC4~C7置換された炭素環基の炭素原子を1つ以上へテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが例示される。水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0060】
本明細書において「フェニル基」とは、C6芳香族系炭素環基であり、ベンゼンからHを1個欠失した官能基である。「置換されたフェニル基」とは、フェニル基のHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
【0061】
本明細書において、炭素環基またはヘテロ環基は、下記に定義されるように1価の置換基で置換され得ることに加えて、2価の置換基で置換され得る。そのような二価の置換は、オキソ置換(=O)またはチオキソ置換(=S)であり得る。
【0062】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
【0063】
本明細書において「ヒドロキシ」とは、-OHで表される基をいう。「置換されたヒドロキシ」とは、ヒドロキシのHが下記で定義される置換基で置換されているものをいう。
【0064】
本明細書において「シアノ」とは、-CNで表される基をいう。「ニトロ」とは、-NOで表される基をいう。「アミノ」とは、-NHで表される基をいう。「置換されたアミノ」とは、アミノのHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
【0065】
本明細書において「カルボキシ」または「カルボキシル」とは、-COOHで表される基をいう。「置換されたカルボキシ」または「置換されたカルボキシル」とは、カルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
【0066】
本明細書において「チオカルボキシ」とは、カルボキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基をいい、-C(=S)OH、-C(=O)SHまたは-CSSHで表され得る。「置換されたチオカルボキシ」とは、チオカルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
【0067】
本明細書中、「アシル」とは、カルボニルに前記「アルキル」が結合したアルキルカルボニル、アルキル部分が前記「シクロアルキル」が結合したシクロアルキルカルボニル、カルボニルに前記「アリール」が結合したアリールカルボニルを意味する。例えば、アセチル、n-プロパノイル、i-プロパノイル、n-ブチロイル、t-ブチロイル、シクロプロパノイル、シクロブタノイル、シクロペンタノイル、シクロヘキサノイル、ベンゾイル、α-ナフトイル、β-ナフトイルを意味する。「置換されたアシル」とは、アシルの水素を以下に定義される置換基で置換したものをいう。
【0068】
本明細書において「アミド」とは、アンモニアの水素を酸基(アシル基)で置換した基であり、好ましくは、-CONHで表される。「置換されたアミド」とは、アミドが置換されたものをいう。
【0069】
本明細書において「カルボニル」とは、アルデヒドおよびケトンの特性基である-(C=O)-を含むものを総称したものをいう。「置換されたカルボニル」は、下記において選択される置換基で置換されているカルボニル基を意味する。
【0070】
本明細書において「チオカルボニル」とは、カルボニルにおける酸素原子を硫黄原子に置換した基であり、特性基-(C=S)-を含む。チオカルボニルには、チオケトンおよびチオアルデヒドが含まれる。「置換されたチオカルボニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたチオカルボニルを意味する。
【0071】
本明細書において「スルホニル」とは、特性基である-SO-を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルホニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたスルホニルを意味する。
【0072】
本明細書において「スルフィニル」とは、特性基である-SO-を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルフィニル」とは、下記において選択される置換基で置換されているスルフィニルを意味する。
【0073】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、「炭素環基」に包含される。例えば、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチル、アンスニル、インデニル、フェナンスリル等が挙げられる。「置換されたアリール」とは、下記において選択される置換基で置換されているアリールを意味する。
【0074】
本明細書において「ヘテロアリール」とは、ヘテロ原子を含有する芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、「ヘテロ環基」に包含される。例えば、フラニル、チオフェニル、ピリジル等が挙げられる。「置換されたヘテロアリール」とは、下記において選択される置換基で置換されているヘテロアリールを意味する。
【0075】
本明細書において「エステル」とは、特性基である-COO-を含むものを総称したものをいう。「置換されたエステル」とは、下記において選択される置換基で置換されているエステルを意味する。
【0076】
本明細書において「水酸基」とは、-OHで表される基をいう。「水酸基」は、「ヒドロキシル基」と互換可能である。
【0077】
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいい、本明細書において「アルコール類」と互換可能に使用され得る。本明細書においては、ROHとも表記される。ここで、Rは、アルキル基である。好ましくは、Rは、C1~C6アルキルであり得る。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0078】
本明細書において「アルデヒド」とは、特性基である-CHOを含むものを総称したものをいう。「置換されたアルデヒド」とは、下記において選択される置換基で置換されているアルデヒドを意味し、「アルデヒド誘導体」と互換可能に使用され得る。
【0079】
本明細書において「アミン」とは、アンモニアNHの水素原子を炭化水素基で置換した化合物の総称であり、その炭化水素基の数によって、第一アミン、第二アミン、第三アミンに分類され得る。用語「アミン」は、本明細書において、「アミン類」と互換可能に使用され得る。
【0080】
本発明において、「カルボン酸」とは、特性基である-COOHを含むものを総称したものをいい、本明細書において「カルボン酸類」と互換可能に使用され得る。「置換されたカルボン酸」とは、下記において選択される置換基で置換されているカルボン酸を意味し、「アルデヒド誘導体」と互換可能に使用され得る。
【0081】
本明細書において「アミノ酸」とは、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL-異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ-カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ-ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ-フルオロフェニルアラニン、3-アミノ-2-ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD-フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2-メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。本発明における「アミノ酸」は、保護基で保護されていてもよい。
【0082】
本明細書において「アルキルベンゼン」とは、ベンゼンのアルキル誘導体であり、ベンゼン核にアルキル基の結合した芳香族炭化水素をいい、本明細書において、「アルキルベンゼン類」と互換可能に使用され得る。用語「アルキル基」とは、上記で定義した「アルキル」である。
【0083】
本明細書において「テルペン」とは、(Cの組成を有する炭化水素を意味し、またそれから導かれる含酸素化合物ならびに不飽和度を異にするものも本発明の「テルペン」に含まれる。用語「テルペン」は、本明細書において「テルペン類」と互換可能に使用され得る。
【0084】
本明細書において「エーテル」とは、一般式A-O-A’で表される化合物を意味し、A基およびA’基は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、上で定義したアルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、炭素環および置換された炭素環基からなる群から選択される。また、A基とA’基とが一緒に結合しあって、環状エーテルを形成してもよい。用語「エーテル」は、本明細書において、「エーテル類」と互換可能に使用され得る。
【0085】
本明細書において「シラン」とは、水素化ケイ素の総称であり、ケイ素の数に応じて、モノシラン、ジシランおよびトリシランなどが挙げられる。用語「シラン」は、本明細書において、「シラン類」と互換可能に使用され得る。
【0086】
本明細書において「チオール」とは、ヒドロキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基(メルカプト基)であり、-SHで表される。用語「チオール」は、本明細書において「チオール類」と互換可能に使用され得る。「置換されたチオール」とは、メルカプトのHが下記で定義される置換基で置換されている基をいう。
【0087】
本明細書において、C1、C2、、、Cnは、炭素数を表す。従って、C1は炭素数1個の置換基を表すために使用される。
【0088】
本明細書において、「光学異性体」とは、結晶または分子の構造が鏡像関係にあって、重ねあわせることのできない一対の化合物の一方またはその組をいう。立体異性体の一形態であり、他の性質は同じであるにもかかわらず、旋光性のみが異なる。
【0089】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
【0090】
本明細書における置換基としては、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシ、炭素環基、ヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシ、カルバモイル、アシル、アシルアミノ、チオカルボキシ、置換されたアミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルまたは置換されたスルフィニルが挙げられるがそれらに限定されない。
【0091】
本明細書において「保護反応」とは、t-ブトキシカルボニルのような保護基を、保護が所望される官能基に付加する反応をいう。保護基により官能基を保護することによって、より反応性の高い官能基の反応を抑制し、より反応性の低い官能基のみを反応させることができる。
【0092】
本明細書において「脱保護反応」とは、t-ブトキシカルボニルのような保護基を脱離させる反応をいう。脱保護反応としては、トリフルオロ酢酸(TFA)による反応およびPd/Cを用いる還元反応のような反応が挙げられる。
【0093】
本発明の各方法において、目的とする生成物は、反応液から夾雑物(未反応減量、副生成物、溶媒など)を、当該分野で慣用される方法(例えば、抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈澱、濾過、乾燥など)によって除去した後に、当該分野で慣用される後処理方法(例えば、吸着、溶離、蒸留、沈澱、析出、クロマトグラフィーなど)を組み合わせて処理して単離し得る。
【0094】
(好ましい実施形態の説明)
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0095】
1つの局面において、本発明は、以下の工程:a)カーボンナノチューブを含む試料に光を照射する工程;およびb)所望の物性を有するカーボンナノチューブを選択する工程、を包含する、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する方法、を提供する。これまでに知られているカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブおよび多層カーボンナノチューブを含む)の製造方法によって生成されたカーボンナノチューブは、種々雑多な炭素不純物を含み、さらに直径およびカイラルベクトルも多様である。上記工程a)では、カーボンナノチューブを含む試料に、光触媒反応を誘起するのに十分な条件下(例えば、光の強度、試料と光源との間の距離、光の照射時間など)で、光が照射される。上記工程b)では、所望の物性、つまり直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方、またはその両方を含む物性が均一に揃ったカーボンナノチューブを、従来法により生成されたカーボンナノチューブまたは市販のカーボンナノチューブを含むかまたは含むと予想される粗生成物、あるいはその粗生成物を含む有機溶液、水溶液または水分散液のいずれから、所望の物性を有するカーボンナノチューブを選択、つまり集積または濃縮するとの手法がとられる。上記方法によれば、直径および/またはカイラルベクトルの観点から純度の低いカーボンナノチューブを含む試料から、理論的に可能な範囲内で所望の直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一であるカーボンナノチューブを高選択的に分離、精製することが可能である。この方法は、さらに高い精度が要求される単層カーボンナノチューブの分離、精製においても、ある狙った物性、つまり直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方が均一である単層カーボンナノチューブのみを分離することができる。工程a)で使用される光は、好ましくは、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域(典型的には300nm付近から4000nm付近を指す)の特定波長を有する。さらに好ましくは、光は、近赤外から紫外までの領域において特定波長を有する単色光またはレーザー光である。この単色光またはレーザー光の使用は、分離して得られるカーボンナノチューブの直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方の分布を狭くする、またはその直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を均一にするという利点を有する。
【0096】
好ましい実施形態において、工程a)における光照射は、金属の存在下で行われる。この金属は、分離前のカーボンナノチューブを製造する際に使用した金属触媒であってもよいし、金属の除かれた市販のカーボンナノチューブに所定の金属を加えてもよい。これにより、上記方法の工程a)における光照射により、溶液中において特定のカーボンナノチューブにおいて、選択的に光触媒反応を誘起させ、金属を析出(例えば、電析)させることができる。このとき、照射する光の波長および析出させる金属の種類を選択することにより、励起するカーボンナノチューブ(好ましくは、単層カーボンナノチューブ)の直径、カイラルベクトルならびにカーボンナノチューブのvan Hove特異点の絶対電位をそれぞれ任意に選択することが可能となる。本発明で使用される金属は、アルカリ金属;アルカリ土類金属;IIIA族~VIIA族、VIII族および1Bの元素からなる群から選択される遷移元素;ならびに希土類元素からなる群から選択される。本発明で使用される代表的な金属として、例えば、Fe、Ni、Cu、Ag、CoまたはMnなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用される金属は、金属の酸化還元電位とカーボンナノチューブ(特に、単層カーボンナノチューブ)の電子準位の位置関係から適宜選択され得る。本発明によれば、溶液内における準位の広がりにより、準位の重なりが大きいものほど、電子が移動しやすく、カーボンナノチューブの表面に金属が析出しやすいという傾向を踏まえて、カーボンナノチューブの準位と重なりが大きい準位を有する金属が適宜選択され得る。
【0097】
1つの好ましい実施形態において、工程b)におけるカーボンナノチューブの選択は、所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与えることによって行われる。このように所定の磁場を与えることにより、金属が析出したカーボンナノチューブを集積または濃縮することができる。
【0098】
別の好ましい実施形態において、工程b)におけるカーボンナノチューブの選択は、通常のクロマトグラフィーによって行われる。
【0099】
このように、工程b)におけるカーボンナノチューブの選択は、磁場を用いてもよいし、クロマトグラフィー技術を用いてもよい。
【0100】
さらに好ましい実施形態において、本発明における試料中の所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する方法は、精製されるカーボンナノチューブの分散液または溶液を使用して行われる。カーボンナノチューブの分散液を作製する際は、カーボンナノチューブを含む試料に、界面活性剤が添加され得る。本発明における代表的な界面活性剤として、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリトンX(TritonX-100)、アルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、ノニルフェノールエトキシレート、オクチルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテルおよびセチルポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択されるが、これらに限定されない。なかでも、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびトリトンX(TritonX-100)が特に好ましい。溶液中における界面活性剤の濃度は、使用する界面活性剤の臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度で、カーボンナノチューブがミセル分散可能な範囲であればよい。
【0101】
純炭素カーボンナノチューブは、あらゆる溶媒に対して可溶性を示さないことが知られているが、この純炭素カーボンナノチューブを有機系または水系の溶媒に可溶化させるために、適切な置換基で置換され得る。純炭素カーボンナノチューブを水に可溶化させるために、好ましくは、分子内にカルボキシル基またはアミノ基を置換基として有する飽和または不飽和炭素鎖分子で、共有結合、イオン結合、水素結合または分子間相互作用によって、純炭素カーボンナノチューブが表面修飾されている。
別の好ましい実施形態において、本発明における試料中の所望の所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する方法で使用される試料は、金属イオンおよび電子ドナーをさらに含む溶液である。溶液における金属イオンの濃度は、0.001~10%が好ましく、0.05~5%がさらに好ましく、0.1~1%が特に好ましい。溶液における金属イオンの濃度が0.001%を下回ると、カーボンナノチューブ表面上への金属の析出が不十分で好ましくなく、10%を上回ると、後に金属不純物をカーボンナノチューブから除去する際に精製が困難となり好ましくない。溶液中における電子ドナーの濃度は、共に使用する金属イオンの濃度と同じか、またはそれ以上の濃度であることが好ましい。本発明における代表的な電子ドナーは、アルコール類、アミン類、アルギニン、ベンズアルデヒド、ヒドラジン、カルボン酸類、アミノ酸、トルエン、アルキルベンゼン類、テルペン類、エーテル類、シラン類およびチオール類からなる群から選択されるが、これらに限定されない。本発明における電子ドナーは、アルコール類が好ましく、特にメタノールが好ましい。
【0102】
好ましい実施形態において、本発明は、以下の工程:a)カーボンナノチューブを含むと予想される試料に光を照射する工程;b)所望の物性を有するカーボンナノチューブを選択する工程;およびc)該選択されたカーボンナノチューブを同定する方法、を包含する、試料中の所望の物性を有するカーボンナノチューブを分析する方法を提供する。
【0103】
前述してきたような本発明の方法により、所望の均一な所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを提供することができる。また、上記方法により、所望の均一な所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブ含量が上昇した、カーボンナノチューブ組成物を提供することができる。さらには、高純度(少なくとも99%)の純度で、均一な直径およびカイラルベクトルを有するカーボンナノチューブを含む、カーボンナノチューブ組成物を提供することができる。これらは、光学フィルターまたは電子デバイスに含まれるカーボンナノチューブ薄膜を製造する際の有用なカーボンナノチューブ供給源となり得る。代表的な電子デバイスとしては、導電性薄膜、誘電体薄膜、センサー電極、高エネルギー密度燃料電池用電極、高機能ディスプレイ、単分子検出センサー、加速度検出センサーおよび磁場検出センサーが挙げられる。
【0104】
本発明の方法で得られたカーボンナノチューブは、支持体上に吸着固定または累積させることにより、カーボンナノチューブ薄膜を形成することができる。また、カーボンナノチューブを支持体上にアレイ状に吸着固定することができれば、カーボンナノチューブのアレイが得られる。
【0105】
本発明の別の局面において、A)カーボンナノチューブを含む試料の導入部;B)該試料に光を照射する手段;およびC)所望の所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを選択する手段、を備える、試料中の所望の所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを分離、濃縮または精製する装置が提供される。
【0106】
好ましい実施形態において、手段B)は、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の特定波長を有する単色光またはレーザー光の光源である。本発明では、手段B)として、カーボンナノチューブ上に金属を析出させるような、近赤外から紫外までの領域の多波長光源が使用され得る(図8)。
【0107】
別の好ましい実施形態において、手段C)は、所望の所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを集積させるような所定の磁場を与える、磁力制御可能な電磁石であるか、あるいは、クロマトグラフィーである。
【0108】
本発明の別の実施形態では、カーボンナノチューブを含む試料をフローして分散カーボンナノチューブを連続的に供給される。これによって、上記と同様の選択性をもってカーボンナノチューブが堆積し、その堆積量を2~10倍に増大させることができる。
【0109】
本発明のさらに別の実施形態では、光源照射部位をリソグラフィーパターンマスク(例えば、幅10マイクロメートル)に限定して同様の実験を行われる。その結果、上記と同様の構造選択性をもってカーボンナノチューブが場所選択的に堆積させることができる。これより特定のカイラルベクトルを有するカーボンナノチューブを分離、精製し、基板の任意の位置に固定することができる。
【0110】
本発明のなおさらに別の実施形態では、光照射を近接場プローブチップによって行う。この場合、照射光時間をパルス光(例えば、10ミリ秒)とすることにより上記と同様のカイラルベクトル選択性をもって1本のカーボンナノチューブが場所選択的に基板表面に固定させることができる。これより特定のカイラルベクトルを有するカーボンナノチューブを単数個、その数を制御しての任意の位置に固定することができる。
【0111】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0112】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0113】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定させるものではない。
(実施例1)
(1.1 カーボンナノチューブへの金属析出)
まず、カーボンナノチューブ(CarboLex AP-Grade SWNT[SWNT:純度50~70%])を、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液中で、24℃、12000rpmの条件下で15分間超音波分散処理し、上澄み液をシリンジフィルター(pore filter 0.2μm)で濾過し、再度超音波処理および遠心分離を同様の条件で繰り返し行い、完全にミセル分散させた。
【0114】
次に、この分散液に電子ドナーとして、メタノール(和光純薬工業株式会社製、Methanol:99.8%、精密分析用)を、濃度が0.1%となるように加えた。この溶液をベースに、以下の金属イオン溶液を加え、金属イオンの異なる三種類の溶液を作製した。
【0115】
I)0.1M Fe(NH(SO水溶液
II)0.1M CoCl水溶液
III)0.1M MnCl水溶液。
【0116】
このようにして作製した三種類の溶液に、同じ条件下で、同時に励起波長785nmの単色光を照射し励起した。この操作により、溶液内の金属(Mn,Co,Fe)イオンをそれぞれ特定のカーボンナノチューブに還元析出させた。この金属析出したカーボンナノチューブの表面を原子間力電子顕微鏡(AFM)で観察した(図4)。AFMの測定にはデジタルインスツルメンツ(Digital Instruments)社製NanoScope MultiMode(TM)原子間力顕微鏡を用いタッピングモードにて測定し、解析にはNanoScope IIIaを用いた。カーボンナノチューブの集積した基板を超純水(MilliQ水)で慎重に洗浄後、乾燥し、大気中にて測定を行った。図4より、カーボンナノチューブの表面上に金属が電折していることが明らかである。磁場(磁石)を用いて、その金属析出したカーボンナノチューブを集積させた。
【0117】
(1.2 カーボンナノチューブのラマン分光)
上記1.1で集積させたカーボンナノチューブの構造を、顕微ラマン測定により評価した。図5は、金属析出反応前後のカーボンナノチューブのRadial Breathing Modeのラマンスペクトルを示す。これより140~270cm-1に複数のピークを有するスペクトルが分離操作により267cm-1に主ピークを有する形状に変化することが示されている。これは、直径0.9~1.7nmの広い直径分布を有する未精製カーボンナノチューブ試料から、直径0.93nm付近で、かつカイラルベクトルが(10,3)の半導体性のカーボンナノチューブのみが選択的に分離・回収されたことを示している。また、分離後のスペクトルが析出金属に依存して変化しており、これは本手法において金属の種類を変化させることによって分離能が制御可能であることを示唆している。使用した金属の種類と分離されたカーボンナノチューブの直径との関係を、図6に示す。
【0118】
また図7には、励起波長514nmにて励起してFeイオン析出を行った結果を示した。これも直径0.9~1.7nmの広い直径分布を有する未精製のカーボンナノチューブ試料から、直径0.90nm付近で、かつカイラルベクトルが(8,5)の金属性のカーボンナノチューブのみが選択的に分離・回収されたことを示している。
【0119】
以上により、カーボンナノチューブへの選択的光誘起金属析出反応と磁場分離を組合せることによって、高い選択性をもって特定の直径およびカイラリティを有するカーボンナノチューブの分別・分離が可能となることが示された。
【0120】
(実施例2)
図8は本発明の一実施形態を表す装置構造図である。光電気化学金属析出のための照射光源にはそれぞれ1064nm(λ1)、785nm(λ2)、514nm(λ3)の異なる波長を用いた。カーボンナノチューブ含有溶液には、精製前のカーボンナノチューブを1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液にミセル分散したものを用いた。反応容器に薄膜ガラスを固定し、カーボンナノチューブ含有溶液にFe(NH(SOが0.1Mとなるように加えて、基板上へ各照射光(λ1、λ2、λ3)を10分間、照射した。光照射後に基板に堆積した金属析出カーボンナノチューブを硫酸で洗浄し、堆積したカーボンナノチューブのカイラルベクトルを決定するためにRadial Breathing Modeのラマン分光測定を行った。波長λ1で照射した部分には、カイラルベクトル(9,1)のカーボンナノチューブであることが確認された。また波長λ2で照射した部分にはカイラルベクトル(11,3)、(13,10)に対応するカーボンナノチューブが、波長λ3で照射した部分にはカイラルベクトル(13,1)に対応するカーボンナノチューブが堆積することが確認された。これにより、特定のカイラルベクトルを有するカーボンナノチューブを分離、精製することができた。
【0121】
【表1】
JP0004519071B2_000002t.gif
(実施例3)
図9は、上記実施例2にカーボンナノチューブ含有溶液をフローして分散カーボンナノチューブを連続的に供給することを付け加えて同様の実験を行った。その結果、上記と同様の選択性をもってカーボンナノチューブが堆積し、その堆積量を2~10倍に増大させることができた。
【0122】
(実施例4)
図10は、実施例3において光源照射部位をリソグラフィーパターンマスク(幅10マイクロメートル)に限定して同様の実験を行った。その結果、上記と同様の構造選択性をもってカーボンナノチューブが場所選択的に堆積させることができた。これより特定のカイラルベクトルを有するカーボンナノチューブを分離、精製し、基板の任意の位置に固定することができた。
【0123】
図11は、実施例2において光照射を近接場プローブチップによって行った。この場合、照射光時間をパルス光(10ミリ秒)とすることにより実施例2と同様のカイラルベクトル選択性をもって1本のカーボンナノチューブが場所選択的に基板表面に固定させることができた。これより特定のカイラルベクトルを有するカーボンナノチューブを単数個、その数を制御しての任意の位置に固定することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の方法および装置を提供することにより、カーボンナノチューブ特有の構造敏感な特性を利用して、均一な所望の物性(直径およびカイラルベクトルの少なくとも一方を含む)を有するカーボンナノチューブを高選択的に分離、濃縮または精製することができる。また、上記方法によって分離した高純度のカーボンナノチューブでなる薄膜は、光学または電子デバイスなどのエレクトロニクスおよびエネルギー分野における次世代材料として有用である。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図6】
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【図11】
5
【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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