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明細書 :核内レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブとそれを用いた核内レセプターに対するアゴニストおよびアンタゴニストのスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4485475号 (P4485475)
登録日 平成22年4月2日(2010.4.2)
発行日 平成22年6月23日(2010.6.23)
発明の名称または考案の名称 核内レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブとそれを用いた核内レセプターに対するアゴニストおよびアンタゴニストのスクリーニング方法
国際特許分類 C07K  19/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C07K  14/705       (2006.01)
FI C07K 19/00 ZNA
C12N 15/00 A
C12Q 1/02
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
A01K 67/027
C07K 14/705
請求項の数または発明の数 12
全頁数 23
出願番号 特願2005-518070 (P2005-518070)
出願日 平成17年2月14日(2005.2.14)
国際出願番号 PCT/JP2005/002660
国際公開番号 WO2005/078119
国際公開日 平成17年8月25日(2005.8.25)
優先権出願番号 2004035678
優先日 平成16年2月12日(2004.2.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年12月19日(2006.12.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】梅澤 喜夫
【氏名】佐藤 守俊
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】清水 晋治
参考文献・文献 Analytical chemistry. 2000, Vol.72, No.24, p.5918-5924
Analytical chemistry. 2004 Oct, Vol.76, No.20, p.6144-6149
Analytical chemistry. 2004 Apr, Vol.76, No.8, p.2181-2186
調査した分野 C12Q 1/00-3/00
C07K 14/00-19/00
C12N 15/00-15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも、核内レセプターのリガンド結合ドメインを含むリガンド認識部位と、該核内レセプターリガンド結合ドメインにおける活性化補助因子結合ドメインに特異的に結合するペプチド鎖を含む結合応答部位が、屈曲性のリンカーを介して連結されており、この[リガンド認識部位/リンカー/結合応答部位]融合構造の両末端に、互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位が各々連結されており、前記結合応答部位は配列番号1のモチーフを含むものであることを特徴とする核内レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ。
【請求項2】
リガンド認識部位は、グルココルチコイドレセプター、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター、アンドロゲンレセプター、甲状腺ホルモンレセプター、レチノイン酸レセプター、およびビタミンDレセプターからなる群より選択されるいずれかの核内レセプターのリガンド結合ドメインを含むものである請求項1のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ。
【請求項3】
リガンド認識部位は、エストロゲンレセプターαリガンド結合ドメイン、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターリガンド結合ドメインまたはアンドロゲンレセプターリガンド結合ドメインである請求項1のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ。
【請求項4】
結合応答部位は、配列番号2のアミノ酸配列を有するステロイドレセプター活性化補助因子1NRボックスIIペプチドである請求項1のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ。
【請求項5】
互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位は、黄色蛍光タンパク質とシアン蛍光タンパク質である請求項1ないし3のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ。
【請求項6】
核内レセプターに対するアゴニストをスクリーニングするための方法であって、請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブとアゴニスト候補物質を共存させ、アゴニスト候補物質非存在下および存在下におけるシグナルの変化を測定するアゴニストのスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で該プローブとアゴニスト候補物質を共存させる請求項6のアゴニストのスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において、該プローブとアゴニスト候補物質を共存させる請求項6のアゴニストのスクリーニング方法。
【請求項9】
核内レセプターに結合し、拮抗作用を示すアンタゴニストをスクリーニングするための方法であって、既知のアゴニストの存在下で、請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブと過剰量のアンタゴニスト候補物質を共存させ、アンタゴニスト候補物質非存在下および存在下におけるシグナルの変化を測定するアンタゴニストのスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で、該プローブと既知のアゴニストとアンタゴニスト候補物質を共存させる請求項9のアンタゴニストのスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において、該プローブと既知のアゴニストとアンタゴニスト候補物質を共存させる請求項9のアンタゴニストのスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1ないし5のいずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって得られる非ヒト動物またはその子孫動物。
発明の詳細な説明 【技術分野】

この出願の発明は、核内レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、核内レセプターに対するアゴニストとアンタゴニストを選択性高く検出、定量するためプローブと、それを用いた核内レセプターに対するアゴニストおよび/またはアンタゴニストのスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】

エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲン、グルココルチコイド、ミネラルコルチコイドなどのステロイドホルモンや、甲状腺ホルモン、レチノイン酸等の脂溶性シグナル分子は、標的組織(細胞)の増殖・分化の制御、個体発生、精神活動等、高等動物の生命活動全般に深く関わるとともに、多くの疾患の発症や悪化にも関与していることが明らかになっている。また、核内には、これらの脂溶性シグナル分子に対する特異的なレセプターが存在することが知られており、これらのレセプター群は核内レセプターと総称され、一つの遺伝子スーパーファミリーを形成している。
このような核内レセプターは、リガンド依存性転写因子であり、前記の脂溶性シグナル分子と特異的に結合し、標的遺伝子のプロモーター上の応答配列を認識して結合することにより転写促進作用を発揮することが知られている。
また、最近の核内レセプターの研究により、核内レセプターの転写制御機構においてはリガンドだけでなく、転写を各々正負に制御する活性化補助因子の機能が重要な役割を果たすことが明らかになっている。
例えば、多くの生殖組織の成長、発達、維持の原因となるエストロゲンは(非特許文献1)、エストロゲンレセプター(ER)に結合することにより、生理学的ならびに薬理学的効果を発揮する(非特許文献2および3)。一方、ステロイドレセプター活性化補助因子1(SRC-1)はp160核内ホルモンレセプター活性化補助因子ファミリーに属し、ERがアゴニストと複合体を形成した場合に、ERの活性化補助因子結合ドメインと相互作用してERの転写活性を誘起するようになるが、アゴニストが存在しない場合やERがアンタゴニストと結合している場合にはこのような現象が生じないことが明らかにされている(非特許文献4)。このとき、アゴニストはERの高次構造の変化を誘導し、これによりER上に活性化補助因子結合ドメインが形成され、ERへの活性化補助因子の結合が促進および安定化される。同時にERと活性化補助因子の結合により、ERとアゴニストの結合が相互的に安定化され、アゴニストのERからの解離速度が顕著に低下する(非特許文献5)。
ところで、従来より、天然エストロゲンに対して構造的類似性をほとんど有さない多くの合成化学物質が、ERと結合し、生体内での天然エストロゲン活性を模倣または阻害する内分泌攪乱物質として作用することが報告されている(非特許文献6~9)。野生動物やヒトが発達の比較的初期にこのようなエストロゲン性化学物質に曝露された場合には、生殖器官の異常、生殖器重量の減少、精子の数的減少や質低下が生じることが知られている(非特許文献10~12)。同様に、エストロゲン以外の脂溶性シグナル分子に関しても、内分泌攪乱物質の存在や影響が明らかにされている。
そこで、ERに対する物質の結合性を試験する方法について多くの研究が進められている(非特許文献7、13~16)が、これら従来の結合試験方法は、いずれも競合反応に基づくものであり、通常、試験物質がERに結合された標識リガンド(一般的には、放射性17βエストラジオール(E2))を置換するものである。このような方法では、内分泌攪乱物質の大規模なスクリーニングが可能であるが、例えば、アンタゴニストの場合のように、レセプターに対する物質の結合が必ずしも転写活性を起こすとは限らないため、試験物質がアゴニストとして作用するのか、アンタゴニストとして作用するのかを区別できないという問題があった。
また、これら従来の試験方法は、水溶性の低い物質の結合親和性を調べるには不向きであるという問題もあった。さらに、生理学的条件より低い温度でのインキュベーションが必要である上、測定前に数回の洗浄を行うことにより遊離の放射性標識分子を除去する必要があり、これらの操作よってERとリガンドの反応平衡が乱される場合があるという問題もあった。
最近になって蛍光偏光結合アッセイ(非特許文献17)、電気化学的結合アッセイ(非特許文献18)、表面プラズモン共鳴バイオセンサー技術(非特許文献19)などの放射性同位元素を使用しない新しいin vitro結合アッセイ法も提案されているが、これらもエストロゲンに対するアゴニストとアンタゴニストを区別できない。また、レセプター結合アッセイは大量の精製レセプター蛋白質を必要とする。
さらに、化学物質のエストロゲン感受性細胞に対する増殖刺激能力を分析する細胞増殖アッセイとして、MCF-7細胞やT47D細胞を用いるE-スクリーニング法が知られている(非特許文献20)。また、ある化学物質による細胞培養中のレポーター遺伝子作成物に対する転写刺激能を分析する手法としては、酵母や哺乳類細胞を対象とするレポーター遺伝子アッセイ(非特許文献21、22)が、エストロゲン活性を有する物質を特定するための非常に有用な方法として知られている。これらE-スクリーニング法とレポーター遺伝子アッセイ法では、アゴニストとアンタゴニストを区別することができるが、哺乳類細胞や酵母を含む培地にリガンドを添加してから結果を得るまでに約1日かかるという問題があった。
したがって、エストロゲンを初めとする核内レセプターに対するアゴニストやアンタゴニストを高速で、選択性高くスクリーニングできる簡便な方法は知られていなかったのが実情である。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、核内レセプターに対するアゴニストやアンタゴニストを高選択的にスクリーニングするための簡便で精度高い方法を提供することを課題としている。
文献

【特許文献1】特願2003-145466号
【特許文献2】特願2003-301259号
【非特許文献1】Ciocca,D.R.and Roig,L.M.V.Endocr.Rev.1995,16,35-62.
【非特許文献2】Tsai,M.J.and O’ Malley,B.W.Annu.Rev.Biochem 1994,63,451-486.
【非特許文献3】Nilsson,S.et al.Physiological Rev.2001,81,1535-1565.
【非特許文献4】McKenna,N.J.et al.Endocr.Rev.1999,20,321-344.
【非特許文献5】Gee,A.C.et al.Mol.Endocrinol.1999,13,1912-1923.
【非特許文献6】Korach,K.S.Endocrinology 1993,132,2277-2278.
【非特許文献7】Shelby,M.D.et al.Environ.Health Perspect.1996,104,1296-1300.
【非特許文献8】Oosterkamp,A.J.et al.Anal.Chem.1997,16,545-553.
【非特許文献9】Sonnenschein,C.;Soto,A.M.J.Steroid Biochem.Mol.Biol.1998,65,143-150.
【非特許文献10】Colborn T.Environ.Health Perspect.1995,103,135-136.
【非特許文献11】Neubert,D.,Regul.Toxicol.Pharmacol.1997,26,9-29.
【非特許文献12】Daston,G.P.et al.Reprod.Toxicol.1997,11,465-481.
【非特許文献13】Salomonsson,M.et al.J.Steroid Biochem.Mol.Biol.1994,50,313-318.
【非特許文献14】Kuiper,G.G.J.M.et al.Endocrinology 1997,138,863-870.
【非特許文献15】Tabira,T.et al.Eur.J.Biochem.1999,262,240-245.
【非特許文献16】Blair,R.M.et al.Toxicol.Sci.2000,54,138-155.
【非特許文献17】Bolger,R.et al.Environ.Health Perspect.1998,106,551-557.
【非特許文献18】Kuramitz,H.et al.Anal.Chem.2002,74,533-538.
【非特許文献19】Usami,M.et al.J.Steroid Biochem.Mol.Biol.2002,81,47-55.
【非特許文献20】Soto,A.M.et al.Environ.Health Perspect.1995,103(Suppl.7),113-122.
【非特許文献21】Bronstein,I.et al.J.Anal.Biochem.1994,219,169-181.
【非特許文献22】Gaido,K.W.et al.Toxicol.Appl.Pharmcol.1997,143,205-213.
【非特許文献23】Herry,D.M.et al.Nature 1997,387,733-736.
【非特許文献24】Mak,H.Y.et al.Mol.Cell.Biol.1999,19,3895-3903.
【非特許文献25】Weatherman,R.V.et al.Mol Endocrinol.2002,16,487-496.
【非特許文献26】Ueda H.et al.J.Immunol Methods.2003,279(1-2),209-18.
【非特許文献27】Pollock,B.A.;Heim,R.Cell Biol,1999,9,57-60.
【非特許文献28】Mochizuki,N.et al.Nature 2001,411,1065-1068.
【非特許文献29】Sato M.et al.Nature Biotech.2002,20,287-294.
【非特許文献30】Sasaki,K.et al.J.Biol.Chem.2003,278,30945-30951.
【非特許文献31】Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77;7380-7384,1980
【非特許文献32】Brzozowski,A.M.et al.Nature 1997,389,753-758.
【非特許文献33】Shiau,A.K.et al.Cell 1998,95,927-937.
【非特許文献34】Routledge,E.J.et al.J.Biol.Chem.2000,275,35986-35993.
【非特許文献35】Fang,H.et al.Chem.Res.Toxicol.2001,14,280-294.
【非特許文献36】Jordan,V.C.et al.Cancer Res.2001,61,6619-6623.
【図面の簡単な説明】

図1は、この発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブの構成および作用を例示した概略摸式図である。
図2Aは、この発明の実施例において作製された、エストロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブおよび変異プローブの構成を示した概略模式図であり(a:プローブ、b:変異プローブ)、図2Bは、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブおよび変異プローブの構成を示した概略模式図であり、図2Cは、アンドロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブおよび変異プローブの構成を示した概略模式図であり(a:プローブ、b:変異プローブ)である。
図3Aは、この発明の実施例において、プローブを発現させたCHO-K1細胞を100nM E2で刺激した際のFRET変化の経時変化を示した細胞画像であり、図3Bは、PK-15細胞を100nM DHTで刺激した際のFRET変化の経時変化を示した細胞画像である。なお、480/535nmの蛍光強度比が疑似カラー画像として示されている。
図4Aは、この発明の実施例において、プローブを発現させたCHO-K1細胞を100nM E2で刺激した際のFRET変化の経時変化を示した図であり(a:E2添加後、b:E2未添加、c:変異プローブを発現させたCHO-K1細胞のE2刺激)、図4Bは、この発明の実施例において、プローブを発現させたCHO-K1細胞を15d-PGJで刺激した際のFRET変化を示した図(a:経時変化、b:15d-PGJ濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線))であり、図4Cは、この発明の実施例において、プローブを発現させたCHO-K1細胞をpioglitazoneで刺激した際のFRET変化を示した図(a:経時変化、b:pioglitazone濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線))であり、図4Dは、この発明の実施例において、プローブを発現させたCHO-K1細胞を100nM DHTで刺激した際のFRET変化の経時変化を示した図であり(a:DHT添加後、b:DHT未添加、c:変異プローブを発現させたPK-15細胞のDHT刺激)である。
図5Aは、この発明の実施例において、CHO-K1細胞内でプローブを発現させ、DES、Gen、Bis-Aおよび神の外来性エストロゲン添加した際の濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線)を示した図であり、図5Bは、PK-15細胞内でプローブを発現させ、DHT、テストテロン、プロジェステロンおよびコルチゾールを添加した際の濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線)を示した図である。
図6は、この発明の実施例において、プローブを発現させたCHO-K1細胞を、E2、ICI 182,780、およびOHT(それぞれ1.0μM)により刺激した際のFRET応答の変化を示した図(a:1.0μM E2、b:1.0μM ICI 182.780、c:1.0μM OHT、d:1.0μM ICI 182.780/1.0μM E2、e:1.0μM ICI 182,780/10μM E2、f:1.0μM ICI 182,780/100μM E2、g:1.0μM OHT/1.0μM E2、h:1.0μM OHT/10μM E2、i:1.0μM OHT/100μM E2)である。
図7は、プローブを発現させたCHO-K1細胞を、10μMのBADGEにより刺激した際のFRET応答の変化を示した図である。
図8は、この発明の実施例において、プローブを発現させたPK-15細胞を、DHT(1.0nM、10nM、100nM)+フルタミドもしくはプロシミドン(それぞれ10μM)、フルタミド(100nM)のみ、プロシミドン(100nM)のみ、DHT(1.0nM、10nM、100nM)のみにより刺激した際のFRET応答の変化を示した図である。
図9Aは、プローブを発現させたPK-15細胞を、1.0μMフルタミドにより刺激した際のFRET応答の変化を示した図であり、図9Bは、100nMテストテロン+10μMフルタミドにより刺激した際のFRET応答の変化を示した図である。
なお、図中の符号は、次のものを示す。
A アゴニスト共存下
B アンタゴニスト共存下
1 アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
2A リガンド認識部位(ERα-LBD)
2B リガンド認識部位(PPARγ-LBD)
2C リガンド認識部位(AR-LBD)
3 結合応答部位(SRC-1 NR boxII)
4 リンカー
51 マーカー部位(CFP)
52 マーカー部位(YFP)
61 アゴニスト
62 アンタゴニスト
71 リンカー
72 リンカー
【発明の開示】

この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、少なくとも、核内レセプターのリガンド結合ドメインを含むリガンド認識部位と、該核内レセプターリガンド結合ドメインにおける活性化補助因子結合ドメインに特異的に結合するペプチド鎖を含む結合応答部位が、屈曲性のリンカーを介して連結されており、この[リガンド認識部位/リンカー/結合応答部位]融合構造の両末端に、互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位が各々連結されていることを特徴とする核内レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを提供する。
この出願の発明は、また、第2には、リガンド認識部位がグルココルチコイドレセプター、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター、アンドロゲンレセプター、甲状腺ホルモンレセプター、レチノイン酸レセプター、ビタミンDレセプター、およびオーファンレセプターからなる群より選択されるいずれかの核内レセプターのリガンド結合ドメインを含むものであるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを、第3には、リガンド認識部位がエストロゲンレセプターαリガンド結合ドメイン、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターリガンド結合ドメインまたはアンドロゲンレセプターリガンド結合ドメインであるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを提供する。
さらに、この出願の発明は、第4には、結合応答部位がステロイドレセプター活性化補助因子1の核内レセプター相互作用ドメインペプチドであるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを、第5には、結合応答部位が配列番号1のモチーフを含むものであるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを、そして、第6には、互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位が黄色蛍光タンパク質とシアン蛍光タンパク質であるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを提供する。
この出願の発明は、第7には、核内レセプターに対するアゴニストをスクリーニングするための方法であって、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブとアゴニスト候補物質を共存させ、アゴニスト候補物質非存在下および存在下におけるシグナルの変化を測定するアゴニストのスクリーニング方法を、また、第8には、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で該プローブとアゴニスト候補物質を共存させるアゴニストのスクリーニング方法を、第9には、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において、該プローブとアゴニスト候補物質を共存させるアゴニストのスクリーニング方法を提供する。
また、さらに、この出願の発明は、第10には、核内レセプターに結合し、拮抗作用を示すアンタゴニストをスクリーニングするための方法であって、既知のアゴニストの存在下で、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブと過剰量のアンタゴニスト候補物質を共存させ、アンタゴニスト候補物質非存在下および存在下におけるシグナルの変化を測定するアンタゴニストのスクリーニング方法を、第11には、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で、該プローブと既知のアゴニストとアンタゴニスト候補物質を共存させるアンタゴニストのスクリーニング方法を、第12には、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において、該プローブと既知のアゴニストとアンタゴニスト候補物質を共存させるアンタゴニストのスクリーニング方法を提供する。
そして、第13には、この出願の発明は、前記いずれかのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって得られる非ヒト動物またはその子孫動物をも提供する。
【発明を実施するための最良の形態】

この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブは、少なくとも、各々異なる機能を有する4つの部位からなるものである。つまり、図1に示されるように、このアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)は、少なくとも:
・核内レセプターのリガンド結合ドメイン(以下、NR-LBDと記載する)を含むリガンド認識部位(2)と、
・NR-LBDの活性化補助因子結合ドメイン(22)に特異的に結合できるペプチド鎖を含む結合応答部位(3)と、
・リガンド認識部位(2)と結合応答部位(3)を連結する屈曲性のリンカー(4)と、
・リガンド認識部位(2)へのアゴニスト(61)の結合により互いが近接した際に、検出可能なシグナルを発する二つのマーカー部位(51、52)、
からなるものである。
この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)は、アゴニスト(61)との共存下およびアンタゴニスト(62)との共存下で、各々異なる立体構造をとり、その差異をシグナル変化として検出することのできるものである。
アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)がアゴニスト(61)と共存する場合には、アゴニスト(61)がアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)におけるリガンド認識部位(2)のリガンド結合ポケット(21)を認識し、そこに結合する(図1A-a)。このとき、NR-LBDの立体構造が変化し、リガンド認識部位(2)に活性化補助因子結合ドメイン(22)が形成される。続いて、結合応答部位(3)が、この活性化補助因子結合ドメイン(22)を認識し、リンカー(4)が屈曲することにより結合応答部位(3)と活性化補助因子結合ドメイン(22)の結合が起こる(図1A-b)。これにより、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)の立体構造が変化し、二つのマーカー部位(51、52)が近接する。
一方、この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)がアンタゴニスト(62)と共存する場合には、アンタゴニスト(62)は、アゴニスト(61)の場合と同様に、リガンド認識部位(2)におけるリガンド結合ポケット(21)を認識して結合する(図1B)。しかし、このとき、リガンド認識部位(2)におけるNR-LBDの立体構造変化は起こらず、活性化補助因子結合ドメイン(22)も形成されない。したがって、結合応答部位(3)のリガンド認識部位(2)への結合は起こらず、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)の立体構造も変化しない。すなわち、二つのマーカー部位(51、52)は離れたままとなる。
このようなアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)において、リガンド認識部位(2)は、とくに限定されない。例えば、グルココルチコイドレセプター、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、アンドロゲンレセプター、甲状腺ホルモンレセプター、レチノイン酸レセプター、ビタミンDレセプター、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター、あるいはリガンドが不明なオーファンレセプター等、各種の核内レセプターのリガンド結合ドメインを含むものが適用できる。したがって、この出願の発明において、リガンド認識部位(2)とは、核内レセプターのリガンド結合ドメインそのもの、リガンド結合ドメインを含む核内レセプターの部分構造、および核内レセプターそのものを意味する。もちろん、核内レセプターのリガンド結合ドメインは、公知のものだけでなく、新たに明らかになったものであってもよい。
この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)において、リガンド認識部位(2)とアゴニスト(61)の結合により形成される活性化補助因子結合ドメイン(22)に特異的に結合できる結合応答部位(3)は、リガンド認識部位(2)における活性化補助因子結合ドメイン(22)に特異的に結合するペプチド鎖を含むものであればよく、合成および天然のあらゆるペプチド鎖を用いることができる。例えば、エストロゲンレセプターに対する活性化補助因子としては、ステロイド受容体活性化補助因子1(SRC-1)が知られており、SRC-1内部には核内レセプター相互作用ドメインが存在し、これは等間隔に存在するLXXLLモチーフ(配列番号1)またはNRボックスと呼ばれるロイシン豊富なシグネチャーモチーフの保存性コピー3個により構成されている。このようなモチーフは、エストロゲンレセプターに対するSRC-1の相互作用を媒介するために重要であることが知られている(非特許文献5、23~25)ことから、リガンド認識部位(2)をエストロゲンレセプターのリガンド結合ドメインを含むものとする場合には、このようなモチーフを有するポリペプチドが結合応答部位(3)として好ましく適用できる。さらに、SRC-1そのものや、SRC-1の活性化補助因子ペプチド(配列番号2)(非特許文献23~25)が例示される。
これらリガンド認識部位(2)と結合応答部位(3)は、屈曲性のリンカー(4)を介して連結されている。このようなリンカー(4)は、屈曲性を有するものであればよく、その構造や配列はとくに限定されない。例えば、高分子鎖、天然または合成のペプチド鎖が例示される。このようなリンカー(4)により、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)のリガンド認識部位(2)と結合応答部位(3)が連結されるとともに、両者が近づいたり離れたりできるようになり、リガンド認識部位(2)に形成された活性化補助因子結合ドメイン(22)への結合応答部位(3)の結合・脱離が可能となる。
この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)では、アゴニスト(61)との結合をシグナル発信する部位として、互いの近接が検出可能な二つのマーカー部位(51、52)が連結されている。このとき、二つのマーカー部位(51、52)は、リガンド認識部位(2)と結合応答部位(3)の結合により生じるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)の立体構造の変化に応答して、精度高くシグナル変化を示すものでなければならない。このようなシグナル変化を示すものとしては、レニラルシフェラーゼ補完法によるもの(特許文献1)、β-ガラクトシダーゼ補完法によるもの(非特許文献26)、単色蛍光プローブによるもの(特許文献2)などが例示される。生化学の分野においては、一般的に種々の蛍光発色団も用いられるが、立体構造の変化に敏速に応答するものとしては、蛍光共鳴エネルギー移動(以下、FRET)(非特許文献27~30)の生起により色調に変化を来たすものが知られている。
したがって、この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)においては、分子認識の結果を検出可能とする部位として、互いの近接が検出可能な二つのマーカー部位(51、52)が、[リガンド認識部位/リンカー/結合応答部位]融合構造の両末端に一つずつ連結されている。このようなマーカー部位としては、レニラルシフェラーゼのN-末端側のポリペプチドを含む発色団と、レニラルシフェラーゼの残るC-末端側のポリペプチドを含む発色団の組み合わせや、β-ガラクトシダーゼのN-末端側のポリペプチドを含むフラグメントと、β-ガラクトシダーゼの残るC-末端側のポリペプチドを含むフラグメントの組み合わせ、緑色蛍光タンパク質(GFP)のブルーシフト変異タンパク質であるシアン蛍光タンパク質(CFP)とGFPのレッドシフト変異タンパク質である黄色蛍光タンパク質(YFP)の組み合わせ等が例示される。
とくに、CFPとYFPの組み合わせによれば、CFPがFRETのドナーとして、YFPがFRETのアクセプターとして作用し、プローブの立体構造の変化に敏速に応答することから、好ましい。このとき、ドナー/アクセプターは、リガンド認識部位(2)および結合応答部位(3)のどちらに結合していてもよい。例えば、図2A-aや図2C-aに示されるように、結合応答部位(3)のN-末端にCFPを、リガンド認識部位(2)のC-末端にYFPを連結できる。もちろん、CFPとYFPの連結位置は反対であってもよい。
なお、以上のとおりのこの出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)において、マーカー部位(51、52)は、各々、適当なリンカー(71、72)を介してリガンド認識部位(2)や結合応答部位(3)に連結されていてもよいし、直接連結されていてもよい。
以上のとおりのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を用いてアゴニスト(61)やアンタゴニスト(62)を検出、定量、およびスクリーニングすることが可能となる。
前記のとおり、この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)をアゴニストと共存させると、アゴニスト(61)がリガンド認識部位(2)のリガンド結合ポケット(21)を認識し、結合する。これにより、リガンド認識部位(2)の立体構造に変化が生じ、活性化補助因子結合ドメイン(22)が形成される。すると、リガンド認識部位(2)に屈曲性リンカー(4)を介して連結された結合応答部位(3)がこの活性化補助因子結合ドメイン(22)を認識し、結合する。これにより、二つのマーカー部位(51、52)が近接し、それによりシグナル変化、例えば、発光や蛍光の生起、強度や波長の変化等が生じる。
そこで、例えば、患者の体内から採取された試料(尿、血液など)に、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を添加し、測定を行い、そのシグナル変化を対照(ブランク)のものと比較すれば、特定の核内レセプターに対するアゴニストが存在するか否かを判断することが可能となる。すなわち、例えば、二つのマーカー部位(51、52)が前記のCFPとYFPの場合には、ドナーとして作用する発色団(仮に51とする)に励起波長を照射し、該発色団(51)の蛍光強度を測定した場合、アゴニストが存在すれば蛍光強度がブランクのそれよりも低下する。逆に、二つの蛍光発色団(51、52)のうち、ドナーとして作用する発色団(仮に51とする)に励起波長を照射し、アクセプターとして作用する発色団(この場合52)の蛍光強度を測定した場合には、蛍光強度はブランクのそれよりも増大する。また、蛍光強度とアゴニスト(61)量(濃度)の関係を予め検量することにより、アゴニスト(61)を定量することもできる。
さらに、この出願の発明では、前記のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を用いたアゴニストのスクリーニング方法をも提供する。具体的には、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)とアゴニスト候補物質を共存させ、シグナルの変化を測定することにより、アゴニストをスクリーニングすることができる。候補物質がアゴニストとして作用するものであれば、前記のとおりの機構により二つのマーカー部位(51、52)が近接し、シグナルの変化が見られる。一方、候補物質がアゴニストとして作用しない場合には、このようなシグナルの変化は見られない。
また、この出願の発明のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を用いれば、スクリーニングされた候補物質のアゴニストとしての強度を測定することも可能になる。前記のとおり、アゴニスト(61)がリガンド認識部位(2)に結合することにより、結合応答部位(3)と活性化補助因子結合ドメイン(22)の結合が生じるが、このとき、該アゴニスト(61)とリガンド認識部位(2)の結合力が強い場合には、活性化補助因子結合ドメイン(22)と結合応答部位(3)の結合が安定化され、その作用により同時にアゴニスト(61)とリガンド認識部位(2)の結合も安定化する。そのため、アゴニスト(61)のリガンド認識部位(2)からの解離速度が低下し、反応平衡がアゴニスト結合形成方向にシフトする。したがって、例えば、二つのマーカー部位(51、52)をCFPとYFPとした前記の例では、アゴニスト(61)添加時からの蛍光強度の経時変化を測定すれば、蛍光強度変化の増大が観察される。一方、アゴニスト(61)のリガンド認識部位(2)に対する結合力が弱い場合には、活性化補助因子結合ドメイン(22)と結合応答部位(3)の結合が十分に安定化されず、その影響でアゴニスト(61)とリガンド認識部位(2)の結合も解離し易いものとなる。すなわち、反応平衡が維持されるか、アゴニスト解離方向にシフトする。したがって、前記の例では、アゴニスト(61)添加時からの蛍光強度の経時変化を測定した場合には、蛍光強度の変化率が一時的に大きくなっても、時間の経過とともに小さくなっていくことが観察される。
なお、以上のとおりのアゴニストのスクリーニング方法では、高い測定精度を維持するために、スクリーニングの対照となる候補物質以外にアゴニストやアンタゴニストが存在しないものとすることが望ましい。
この出願の発明では、また、前記のアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を用いてアンタゴニストをスクリーニングする方法をも提供する。具体的には、内在性アゴニスト等の既知のアゴニストの存在下で、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)と、過剰量のアンタゴニスト候補物質を共存させ、シグナルの変化を測定することによりアンタゴニストをスクリーニングすることができる。このとき、既知のアゴニストとアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)のみが存在する状態では、アゴニストとリガンド認識部位(2)が結合することにより、二つのマーカー部位(51、52)が近接し、シグナルが検出される。しかし、過剰量のアンタゴニスト候補物質が共存する場合には、候補物質が拮抗作用を示せばこれがアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)におけるリガンド認識部位(2)のリガンド結合ドメイン(22)を認識し、選択的に結合するようになる。したがって、このようなシグナルは徐々に減少する。一方、アンタゴニスト候補物質が拮抗作用を示さない場合には、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)におけるアゴニストとリガンド認識部位(2)との結合が維持され、二つのマーカー部位(51、52)が近接した状態が持続する。そこで、予めアンタゴニスト候補物質非共存下でのシグナル、例えば蛍光強度を測定し、その結果を過剰量のアンタゴニスト候補物質の共存下での蛍光強度と比較すれば、該候補物質がアンタゴニストとして作用するか否かが正確に判断できる。
具体的には、二つのマーカー部位(51、52)を、近接することによりFRETを生じる蛍光発色団とした場合、ドナーとして作用する発色団(仮に51とする)に励起波長を照射し、該発色団(51)の蛍光強度を測定した場合、アンタゴニスト共存下では、非共存下(つまり、既知のアゴニストのみ存在下)に比べて蛍光強度が増大する。逆に、二つの蛍光発色団のうち、ドナーとして作用する発色団(仮に51とする)に励起波長を照射し、アクセプターとして作用する発色団(この場合52)の蛍光強度を測定した場合には、アンタゴニスト共存下では、蛍光強度の低下が見られる。
以上のとおりのアゴニストのスクリーニング方法およびアンタゴニストのスクリーニング方法において、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を、アゴニスト、アゴニスト候補物質、アンタゴニスト候補物質等と共存させる方法は限定されず、様々な方法が考えられる。例えば、試料溶液中でアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)とアゴニスト候補物質、もしくは既知のアゴニスト/過剰量のアンタゴニスト候補物質を共存させる方法が挙げられる。このような方法では、アゴニストをin vitroで検出・定量、スクリーニングできる。
また、この出願の発明のスクリーニング方法では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を組み込んだ発現ベクターを個々の培養細胞に導入する方法により、細胞内でアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)とアゴニスト候補物質やアンタゴニスト候補物質を共存させることができる。発現ベクターとしては、動物細胞発現用のプラスミドベクターが好ましく用いられる。このようなプラスミドベクターを細胞に導入する方法としては、電気穿孔法、リン酸化カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を採用することができる。このように、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を組み込んだ発現ベクターを細胞に導入する方法では、細胞をアゴニスト候補物質、既知のアゴニスト、アンタゴニスト候補物質等で刺激することにより、細胞を破壊することなく、アゴニストやアンタゴニストをin vivoでスクリーニングできる。
さらに、この出願の発明では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、全細胞においてアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)が存在しているトランスジェニック非ヒト動物が得られる。トランスジェニック非ヒト動物は、公知の作成法(例えば、非特許文献31)に従って作製することができる。このようなトランスジェニック非ヒト動物は、すべての体細胞にアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)を保有しており、体内においてアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)と内在性のアゴニストを共存させることができる。また、このような非ヒト動物の体内に医薬品や内分泌攪乱物質などの検査物質や候補物質を導入することにより、体内で、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ(1)とアゴニスト候補物質やアンタゴニスト候補物質を共存させることができ、細胞および組織におけるシグナル変化を測定することにより、様々な物質のスクリーニングを行うことが可能となる上、医薬品、内分泌攪乱物質、あるいはこれらの候補物質による生命活動や疾患への影響や効果を調査することも可能となる。さらに、このようなトランスジェニック非ヒト動物を用いることにより、内在性アゴニストが分泌される時期や条件等の生体内動態を可視化分析することも可能となる。
なお、以上のとおりのスクリーニング方法において、スクリーニングの対象となるアゴニストやその候補物質は、天然物質であってもよいし、ゲニステイン(以下Genとする;植物エストロゲン)、ジエチルスチルベストロール(以下DESとする;スチルベン)、ビスフェノールA(以下Bis-Aとする;二フェノール性物質)、ノニルフェノール(以下NPとする;アルキルフェノール)等の合成物質、また、15-deoxy-Δ12.14-prostaglandin J(15d-PGJ)、テストステロン、5α-ジヒドロテストステロン(5α-dihydrotestosterone;DHT)等であってもよい。また、アンタゴニストやその候補物質は、4-hydroxytamoxifen(OHT)、ICI 182,780、フルタミド、酢酸シプロテロン(cyproterone acetate;CPA)等が例示されるが、これらに限定されない。
そして、上記のとおりのこの出願の発明の効果についてまとめると、第1~6の発明であるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブでは、アゴニストが核内レセプターのリガンド結合ドメインに結合した場合には、核内レセプターリガンド結合ドメインの立体構造が変化し、活性化補助因子結合ドメインが形成される。このとき、屈曲性のリンカーを介してリガンド認識部位に連結されている結合応答部位が、この活性化補助因子結合ドメインを認識し、結合する。これにより、融合構造、すなわち[リガンド認識部位/リンカー/結合応答部位]の両末端に連結された二つのマーカー部位が近づきシグナルが検出可能となる。一方、このようなアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブでは、核内レセプターのリガンド結合ドメインにアンタゴニストが結合した場合には、核内レセプターリガンド結合ドメインの立体構造変化は起こらず、活性化補助因子結合ドメインも形成されない。そのため、前記融合構造の両末端に連結された二つのマーカー部位は離れたままとなり、検出可能なシグナルを発しない。したがって、このようなアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを使用することにより、該核内レセプターに対するアゴニストやアンタゴニストを選択的に検出、定量できるようになる。また、特定の物質が、該核内レセプターに対するアゴニストとして作用するか、アンタゴニストとして作用するかを、迅速に、精度高く判定することが可能になる。
また、第7の発明では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブとアゴニスト候補物質を共存させ、アゴニスト候補物質非存在下および存在下におけるシグナルの変化を測定することにより、簡便に、精度高く該候補物質が核内レセプターに対するアゴニストとして作用するか否かをスクリーニングできる。
さらに、第8の発明では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で該プローブとアゴニスト候補物質を共存させることにより、候補物質がアゴニストとして作用するか否かをin vivoで判別すること
が可能となる。
第9の発明では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物(前記第13の発明)の全細胞において、該プローブとアゴニスト候補物質を共存させることができる。これにより、該候補物質が核内レセプターに対するアゴニストとして作用するか否かを判別できるとともに、この非ヒト動物の生命活動や疾患に対する該物質の影響や効果をモニターすることが可能となる。また、このような非ヒト動物を用いて、核内レセプターの内在性アゴニスト(例えばエストロゲン)が分泌される時期や条件等の生体内動態を可視化分析することも可能となる。
さらに、第10の発明では、既知のアゴニストの存在下で、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブと、過剰量のアンタゴニスト候補物質を共存させ、アンタゴニスト候補物質非共存下および共存下におけるシグナルの変化を測定することにより、簡便に、精度高く、該候補物質が核内レセプターに対するアンタゴニストとして作用するか否かをスクリーニングできる。
また、第11の発明では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で、プローブ、既知のアゴニスト、および候補物質を共存させることにより、候補物質がアンタゴニストとして作用するか否かをin vivoで判別することが可能となる。
さらに、第12の発明では、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物(第13の発明)の全細胞においてプローブと既知のアゴニストとアンタゴニスト候補物質を共存させることができる。これにより、該候補物質が核内レセプターに対するアンタゴニストとして作用するか否かを判別できると共に、この非ヒト動物の生命活動や疾患に対するアンタゴニスト候補物質の影響や効果をモニターすることも可能となる。
以下、実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】

<準備>
(1)材料
Ham’s F-12培地、ウシ胎児血清(FCS)、Hank’sバランス電解液(HBSS)、およびリポフェクタミン2000試薬はLife Technologies(Rockville,MD)より購入した。
ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)、トリプシン-EDTA、E2、DES、OHT、GenはSigma Chemicals Co.(St.Louis,MO)より購入した。
抗GFP抗体はClontech(Palo Alto,CA)より入手した。
クローニング用酵素は全てTakara Biomedical(東京、日本)から入手した。
hERαcDNAプラスミドはAmerican Type Culture Collection(ATCC,VA,USA)より購入した。
哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(+)はInvitrogen Co.(Carlbad,CA)より入手した。
Bis-A、NP、ICI 182,780はWAKO Pure Chemicals Industries Ltd(大阪、日本)より入手した。
その他の試薬は分析試薬グレード品を使用した。
(2)プラスミド構築
(A)エストロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
標準的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりECFP(配列番号3)(1-238aa)、EYFP(配列番号4)(1-238aa)、ヒトエストロゲンレセプターαLBD(配列番号5)(305-550aa)(以下、Erα-LBDとする)、屈曲性リンカー(GGNGG)(配列番号6)、およびステロイドレセプター活性化補助因子1NRボックスII(配列番号2)(687-697aa)のフラグメントcDNAを産生し、Kozak配列(図中でKzと表記)と制限部位を連結して図2Aに示される構成を構築した。
これより、ステロイドレセプター活性化補助因子1(SRC-1)の活性化補助因子ペプチド(配列番号2)(非特許文献23~25)が、短い可動性のリンカー(配列番号3)を介してERαLBDに連結され、この融合蛋白質が2種類の異なる蛍光波長を有する蛍光蛋白質、すなわちCFP(ドナー)とYFP(アクセプター)に挟まれた、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを得た。
なお、PCRフラグメントの配列は、ABI310ジェネティック・アナライザーを用いて決定した。
このcDNAを、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(+)のHindIIIとXhoI部位に挿入した。
(B)ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
上記(A)エストロゲンレセプターの場合とほぼ同様の手順で、プラスミドを構築した。すなわち、標準的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりECFP(配列番号3)(1-238aa)、EYFP(配列番号4)(1-238aa)、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγLBD(配列番号8)(235-505aa)(以下、PPARγ-LBDとする)、屈曲性リンカー(GGNGG)(配列番号9)、およびステロイドレセプター活性化補助因子1NRボックスII(配列番号2)(687-697aa)のフラグメントcDNAを産生し、Kozak配列(図中でKzと表記)と制限部位を連結して図2Bに示される構成を構築した。
これより、ステロイドレセプター活性化補助因子1(SRC-1)の活性化補助因子ペプチド(配列番号2)(非特許文献23~25)が、短い可動性のリンカー(配列番号3)を介してPPARγ-LBDに連結され、この融合蛋白質が2種類の異なる蛍光波長を有する蛍光蛋白質、すなわちCFP(ドナー)とYFP(アクセプター)に挟まれた、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを得た。
なお、PCRフラグメントの配列は、ABI310ジェネティック・アナライザーを用いて決定した。
このcDNAを、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(+)のHindIIIとXhoI部位に挿入した。
(C)アンドロゲンのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プロープ
上記(A)エストロゲンレセプターや(B)ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターの場合とほぼ同様の手順で、プラスミドを構築した。すなわち、標準的なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりECFP(配列番号3)(1-238aa)、EYFP(配列番号4)(1-238aa)、ヒトアンドロゲンレセプターLBD(配列番号10)(672-910aa)(以下、AR-LBDとする)、屈曲性リンカー(GGNGG)(配列番号11)およびステロイドレセプター活性化補助因子1NRボックスII(配列番号2)(687-697aa)のフラグメントcDNAを産生し、Kozak配列(図中でKzと表記)と制限部位を連結して図2Cに示される構成を構築した。
これより、ステロイドレセプター活性化補助因子1(SRC-1)の活性化補助因子ペプチド(配列番号2)(非特許文献23~25)が、短い可動性のリンカー(配列番号3)を介してAR-LBDに連結され、この融合蛋白質が2種類の異なる蛍光波長を有する蛍光蛋白質、すなわちCFP(ドナー)とYFP(アクセプター)に挟まれた、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを得た。
なお、PCRフラグメントの配列は、ABI310ジェネティック・アナライザーを用いて決定した。
このcDNAを、哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(+)のHindIIIとXhoI部位に挿入した。
(3)細胞培養と形質移入
各細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したHam’s F-12培地培地、ならびに10%FCS、1.0mMピルビン酸ナトリウム、0.1mM非必須アミノ酸を添加したダルベッコ修飾イーグル培地中にて、それぞれ5%CO下、37℃で培養した。細胞の形質移入は、リポフェクタミン2000試薬の存在下、ガラス底シャーレ中で、プローブを含む発現ベクターpcDNA3.1(+)を用いて行った。
なお、使用した細胞は、エストロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブではチャイニーズハムスター卵巣(CHO-K1)細胞を、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブでもCHO-K1細胞を、アンドロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブではブタ腎臓(PK-15)細胞を使用した。
細胞は、形質移入から12~24時間後に画像処理可能な状態となった。
(4)蛋白質発現のイムノブロット分析
図2A~図2Cに示される各プローブをエンコードしている発現ベクターpcDNA3.1(+)を用いて形質移入した細胞破砕液(CHO-K1またはPK-15)を、10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるSDS-PAGEに供し、電気泳動によりニトロセルロース膜上に転写した。
この膜は、まず抗GFP抗体(1%スキムミルク含有TBST溶液(組成:50mM Tris-HCl pH8.0、150mM NaCl、0.05% Tween 20)で1:500希釈)を用いて、続いてアルカリホスファターゼ標識抗ウサギ抗体(1%スキムミルク含有TBST溶液で1:5000希釈)を用いて可視化した。
蛋白質の発現量は、イメージアナライザ(LAS-1000 plus,Fujifilm CO.,東京、日本)により定量した。
(5)細胞の画像処理
画像処理に先立ち、培地をHank’sバランス電解液に置き換えた。細胞の画像処理はCarlZeiss Axiovert 135顕微鏡上で、MetaFluor(Universal Imaging,West Chester,PA)でコントロールされた冷却電荷結合素子カメラMicroMAX(Roper Scientific Inc,Tucson,AZ)を用いて、形質移入後12~24時間以内に室温条件で実施した。
440±10nm励起時の露出時間は、100msであった。蛍光画像の取得は40×油浸対物レンズ(Carl Zeiss,Jena,Germany)を用い、480±15nmならびに535±12.5nmのフィルターを介して行った。
[実施例1] アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブの応答性評価
(1)エストロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
(1-1) エストロゲンの中で最も強力な活性を示すことで知られる17βエストラジオール(E2)をアゴニストとし、アゴニスト刺激に対するプローブの応答性を評価した。
まず、プローブ(図2A-a)を発現させたCHO-K1細胞を100nM E2で刺激し、FRET変化の経時変化を観察した。図3Aに、E2刺激前と刺激後の細胞画像を示した。なお、図3Aにおいては、480/535nmの蛍光強度比が疑似カラー画像として示されている。
図3Aより、100nM E2刺激による疑似カラーのブルーシフトが観察された。これは、CFP/YFP蛍光強度比の減少(FRETの増加)を表している。
蛍光強度比の減少は、E2添加後数秒以内に検出され、1000秒以内にプラトーに達した(図4A-a)。一方、E2を添加しないこと以外は同一条件でFRET変化の経時変化を観察したところ、有意な変化は見られなかった(図4A-b)。
(1-2) 次に、このようなFRETの増加がE2によるリガンド認識部位(ERαLBD)と結合応答部位(LXXLLモチーフ)の相互作用により引き起こされていることを確認するため、LXXLLモチーフの疎水性ロイシン(L)残基を全てアラニン(A)残基に置換した(配列番号7)変異プローブを作成した(図2A-b)。
図4cに示されるように、変異プローブを発現させたCHO-K1細胞では、E2刺激によるCFP/YFP蛍光強度比の有意な変化は見られなかった。
したがって、FRETの変化は、アゴニスト刺激の結果、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブにおけるリガンド認識部位(ERαLBD)に結合応答部位(LXXLLモチーフ)が結合したことによるものであることが確認された。
また、従来報告されているように(非特許文献5、23~25)、ERαLBDの活性化補助因子結合ドメインに対する相互作用にLXXLLモチーフの疎水性ロイシン残基が重要な役割を果たすことも確認された。
(1-3) 次に、E2/ERαLBD複合体のX線結晶解析を行ったところ、E2はERαLBDに存在する疎水性リガンド結合ポケット(容積450Å;E2の分子容(245Å)の約2倍)で包接されており、低エネルギー立体構造を取っていることが明らかになった(非特許文献32)。
ヘリックス12は、リガンド結合ポケットの上に位置し、これにより疎水性LXXLLモチーフの取り込みと相互作用を可能とする疎水性の溝が形成されている。また、このような溝は、LXXLLモチーフの3つのロイシン残基の側鎖とERαLBD側鎖のMet 543、Lys 362、Glu 542残基との間に生じるファン・デル・ワールス接触により安定化されている(非特許文献33)。
これより、プローブにおけるリガンド認識部位(ERαLBD)と結合応答部位(LXXLLモチーフ)の相互作用により、CFPとYFPが近接し、その結果FRETが生じることが確認された。
(2)ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
(2-1) 15-deoxy-Δ12,14-prostaglandin J(15d-PGJ)を内在性アゴニストとし、アゴニスト刺激に対するプローブの応答性を評価した。また、抗糖尿病薬のピオグリタゾン(pioglitazone)に対するプローブの応答性も評価した。
まず、プローブ(図2B)を発現させたCHO-K1細胞を10μM 15d-PGJで刺激し、FRET変化の経時変化を観察した。
CFP/YFP(480/535nm)の蛍光強度比の減少(FRETの増加)は、15d-PGJ添加後400秒以内に検出され、1000秒以内にプラトーに達した(図4B-a)。また、図4B-bに、15d-PGJの濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線)を示した。
(2-2) また、上記と同様に、プローブ(図2B)を発現させたCHO-K1細胞を1.0μM pioglitazoneで刺激した場合のFRET変化の経時変化も観察した。
CFP/YFP(480/535nm)の蛍光強度比の減少(FRETの増加)は、pioglitazone添加後100秒以内に検出され、100秒を過ぎたあたりからプラトーに達した(図4C-a)。また、また、図4C-bに、pioglitazoneの濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線)を示した。
(3)アンドロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
(3-1) 5α-dihydrotestosterone(DHT)をアゴニストとし、アゴニスト刺激に対するプローブの応答性を評価した。
まず、プローブ(図2C-a)を発現させたPK-15細胞を100nM DHTで刺激し、FRET変化の経時変化を観察した。図3Bに、DHT刺激前と刺激後の細胞画像を示した。なお、図3Bにおいては、480/535nmの蛍光強度比が疑似カラー画像として示されている。
図3Bより、100nM DHT刺激による疑似カラーのブルーシフトが観察された。これは、CFP/YFP蛍光強度比の減少(FRETの増加)を表している。
蛍光強度比の減少は、DHT添加後数秒以内に検出され、1200秒以内にプラトーに達した(図4D-a)。一方、DHTを添加しないこと以外は同一条件でFRET変化の経時変化を観察したところ、有意な変化は見られなかった(図4D-b)。
(3-2) 次に、このようなFRETの増加が、DHTによるリガンド認識部位(AR-LBD)と結合応答部位(LXXLLモチーフ)の相互作用により引き起こされていることを確認するため、LXXLLモチーフの疎水性ロイシン(L)残基を全てアラニン(A)残基に置換した(配列番号7)、変異プローブを作成した(図2B-b)。
図4D-cに示されるように、変異プローブを発現させたPK-15細胞では、DHT刺激によるCFP/YFP蛍光強度比の有意な変化は見られなかった。
したがって、FRETの変化はアゴニスト刺激の結果、上記エストロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブの結果と同様に、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブにおけるリガンド認識部位(AR-LBD)に結合応答部位(LXXLLモチーフ)が結合したことによるものであることが確認された。
[実施例2] アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを用いた外来性アゴニストのスクリーニング
(1)エストロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
CHO-K1細胞内でプローブを発現させ、DES、Gen、Bis-AおよびNPの外来性エストロゲンについて、エストロゲン様活性の誘発能力を評価した。
なお、物質の濃度は、1.0×10-4Mから1.0×10-11Mの範囲とした。
図5Aに各物質の濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線)を示した。
図5Aから、各物質のEC50(リガンド認識部位(ERαLBD)と結合応答部位(LXXLLモチーフ)の反応が50%起こるために必要な物質濃度)値を求めたところ、E2、DES、Gen、NPおよびBis-Aについて、各々0.8×10-8M、1.3×10-8M、6.5×10-8M、0.26×10-6M、0.42×10-6Mを得た。これらのEC50値を、相対取り込み能力(RRA;非特許文献34)に変換し、各物質が結合応答部位のリガンド認識部位への取り込みを促進する相対的能力を比較した。
なお、RNAは以下の式により算出した。
RRA=(E2濃度[50%反応]/EDC濃度[50%反応])×100
実施例1において使用したエストロゲンE2のRRA値は任意に100とした。E2、DES、Gen、NP、Bis-AのRRA値は各々100、60、12、3.0、1.9として得られた。
したがって、これらの物質が、結合応答部位のリガンド認識部位への取り込みを促進する能力は、E2>DES>Gen>NP>Bis-Aであることが明らかになった。
以上より、各物質のFRET応答の違いは、外来性アゴニストがプローブ内のERαLBDの立体構造をリガンド特異的に変化させ、LXXLLモチーフを取り込めるようにする「強さ」を反映していることが確認された。
E2はERに結合することにより、ERの三次構造における立体配座の変化を誘導する。このような立体配座の変化により、ERのリガンド結合ドメインは、活性化補助因子を取り込み、その結果として基本転写機構の構築を媒介するような位置に配置されるようになる(非特許文献4、5)。
しかし、実際の立体構造変化、すなわち外来性エストロゲンが誘導するERにおけるヘリックス12の再配置は、各物質の立体的および静電的性質の違いに影響され、E2の場合と異なる可能性がある(非特許文献24、25、35、36)。
なお、Routleddge et al.は、GSTプルダウンアッセイを用いて、前記の各物質について、ER(と活性化補助因子蛋白質の会合を促進する能力を求め、同様の結果を得ている(非特許文献34)。
(2)アンドロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
PK-15細胞内でプローブを発現させ、アンドロゲンのアゴニストであるDHT、アンドロゲンのアンタゴニストであるテストテロン、プロゲステロンおよびコルチゾールについて、アンドロゲン様活性の誘発能力を評価した。
なお、これら物質の濃度は、1.0×10-4Mから1.0×10-11Mの範囲とした。
図5Bに各物質の濃度と蛍光強度比変化の値の関係(反応曲線)を示した。
図5Bから、各物質のEC50(リガンド認識部位(AR-LBD)と結合応答部位(LXXLLモチーフ)の反応が50%起こるために必要な物質濃度)値を求めたところ、DHT、テストテロンおよびプロゲステロンについては、各々1.1×10-9M、1.7×10-8M、4.7×10-7Mを得、コルチゾールについては反応を示さなかった。
FRET変化は、テストテロンの濃度がDHTの10倍濃度を供することで、DHTのFRET変化と同じ度合いを示した。その一方で、プロゲステロンの場合では、濃度を上げてもDHTやテストテロンのFRET変化と同じ程度の度合いを示すことはなかった。
図5Bに示した結果から、このような各物質のFRET応答の違いは、これら各物質がAR-LBDの立体構造をリガンド特異的に変化させるには、プローブ内の活性化補助因子を取り込む「強さ」に反映していることが確認された。
[実施例3] アゴニストとアンタゴニストの識別
(1)エストロゲンゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
(1-1) プローブを発現させたCHO-K1細胞を、E2ならびにエストロゲンレセプターのアンタゴニストとして知られているICI 182,780およびOHT(それぞれ1.0μM)により刺激し、FRET応答の変化をモニターした。
E2刺激によりFRETの大幅な増大が見られた(図6-a)が、ICI 182,780とOHTではFRETの顕著な増大は見られなかった(図6-b、-c)。
(1-2) 次に、E2が、リガンド認識部位に結合したICI 182,780およびOHTを置換する能力を検討した。
プローブを発現させたCHO-K1細胞を含む3つの異なるガラス底シャーレに、1.0μMのICI 182,780を添加し、室温で15分間インキュベートした。その後、ICI 182,780を洗浄除去することなく、1番目、2番目、3番目のシャーレにそれぞれ1.0μM、10μM、100μMのE2を添加し、FRET応答の変化をモニターした。
1.0μMのICI 182,780が存在する条件で、1.0μMと10μMのE2を添加した場合には、FRETの変化は観察されなかったものの(図6-d、-e)、E2の濃度を100μMとした場合にはFRETレベルの変化が見られた(図6-f)。しかし、この変化は1.0μMのE2のみで生じるFRET変化の40%ほどであった。
同様に、1.0μMのOHTが存在する条件で1.0μM、10μM、100μMのE2を添加した場合には、FRET応答の増大は、それぞれ、1.0μMのE2単独で生じる変化の40%、65%、90%であった(図6-g、-h、-i)。
以上結果から、E2(アゴニスト)は、生細胞中でプローブにおけるリガンド認識部位(ERαLBD)と結合応答部位(LXXLLモチーフ)の相互作用を促進するが、ICI 182,780とOHT(アンタゴニスト)はこのような相互作用を阻害することが確認された。さらに、相互作用のアンタゴニストによる阻害は、アゴニストの濃度を100倍高濃度にしても完全に回復しないことが示された。
したがって、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブがアゴニストの存在下で発信するシグナルが、アンタゴニストの共存により妨害されることが確認された。
(1-3) 以上の結果を、アゴニストとアンタゴニストが存在する状態でのERαLBDのX線結晶解析結果(非特許文献32および33)と比較した。
アゴニストが結合した場合には、リガンド結合ドメインの立体構造変化が誘導され、同時にリガンド結合ポケット上にH12が配置されるため、リガンド結合ドメイン表面上にある活性化補助因子結合ドメインが曝露される。
一方、アンタゴニストは、塩基性の嵩高い側鎖とヘリックス12の間に直接的な立体効果を及ぼすことにより、ヘリックス12が適切な配座を取ることを阻害する。そのため、活性化補助因子結合ドメインが正しく形成されず、リガンド結合ドメイン(上記の実施例においては、ERαLBD)が活性化補助因子の核内レセプター相互作用ドメイン(上記の実施例においては、LXXLLモチーフ)と相互作用できなくなる。
以上より、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブにおけるCFPからYFPへのエネルギー転移は、アゴニスト(E2)存在下では起こるが、アンタゴニスト(ICI 182,780とOHT)の存在下ではブロックされることが示された。
したがって、アゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを用いて、各種の候補物質存在下におけるリガンド認識部位による結合応答部位の取り込み能を測定することにより、アゴニストとアンタゴニストを選択的に判別できることが確認された。
(2)ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
プローブを発現させたCHO-K1細胞を、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターのアンタゴニストである、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)10μMにより刺激し、FRET応答の変化をモニターした。
図7に示したように、BADGEを添加しても、蛍光強度比において大きな変化はなかった。
(3)アンドロゲンレセプターのアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブ
(3-1) プローブを発現させたPK-15細胞を、DHT(1.0nM、10nMおよび100nM)ならびにエストロゲンレセプターのアンタゴニストであるフルタミドおよびプロシミドン(procymidone)(それぞれ10μM)により刺激し、FRET応答の変化をモニターした。
図8に示したように、DHT刺激により、濃度依存的にFRETの大幅な増大が見られたが、フルタミドおよびプロシミドン(それぞれ100nM)ではFRETの顕著な増大は見られなかった。
そして、DHT+フルタミドならびにDHT+プロシミドンについては、DHTの濃度依存的に増大した。
(3-2) また、プローブを発現させたPK-15細胞を、フルタミド(1.0μM)のみによる刺激およびフルタミド(10μM)+テストテロン(100nM)による刺激のFRET応答の変化についても、モニターした。なお、フルタミド(1.0μM)+テストテロン(100nM)においては、まず、テストテロンを添加し、次にプラトーに達する前後のタイミングでフルタミドを添加した。
フルタミド(1.0μM)のみによる刺激は、図9Aに示したように、反応は特に示さなかった。一方、フルタミド(10μM)+テストテロン(100nM)による刺激は、テストテロンの添加直後には、蛍光強度比が減少し、およそ3000秒でプラトーに達した。しかし、このときにフルタミドを添加すると、蛍光強度比は増加する傾向を示した。
【産業上の利用可能性】

以上詳しく説明したとおり、この発明によって、核内レセプターに対するアゴニストやアンタゴニストを選択的に検出、定量できるアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブが提供される。このようなアゴニスト・アンタゴニスト検出用プローブを用いることにより、特定の物質が、該核内レセプターに対するアゴニストとして作用するか、アンタゴニストとして作用するかを、迅速に、精度高く判定することが可能になる。したがって、内分泌攪乱物質や特定の疾患に対する医薬品の高性能スクリーニング方法が提供される。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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