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明細書 :植物の品種改良の時間を短縮するための方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5051415号 (P5051415)
公開番号 特開2007-202441 (P2007-202441A)
登録日 平成24年8月3日(2012.8.3)
発行日 平成24年10月17日(2012.10.17)
公開日 平成19年8月16日(2007.8.16)
発明の名称または考案の名称 植物の品種改良の時間を短縮するための方法及びキット
国際特許分類 A01H   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01G   1/06        (2006.01)
FI A01H 1/02 ZNAA
C12N 15/00 A
A01H 1/00 A
A01G 1/06 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2006-023501 (P2006-023501)
出願日 平成18年1月31日(2006.1.31)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第28回日本分子生物学会年会講演要旨集(2005年11月25日)第28階日本分子生物学会年会組織委員会発行第716ページに発表
権利譲渡・実施許諾 特許権者において、実施許諾の用意がある。
審査請求日 平成20年10月2日(2008.10.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
発明者または考案者 【氏名】後藤 弘爾
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特開2004-261122(JP,A)
特開2002-335760(JP,A)
特開平08-214693(JP,A)
NOTAGUCHI,M. et al.,Studies on the graft-transmissibility of promotion of flowering by FT in Arabidopsis.,J. Plant Res.,2005年12月,Vol.118, No.Supplement,pp.152-3
野田口理考ら,FTによる花成促進効果の接木伝達性に関する研究。,日本植物生理学会年会要旨集,2005年 3月,Vol.46,pp.174
調査した分野 C12N 15/09
A01H 1/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
FT遺伝子が導入されている形質転換体植物である台木に非形質転換体植物を穂木として接ぎ木する工程および穂木が台木に接ぎ木された状態で交配する工程を包含することを特徴とする植物の品種改良の時間を短縮する方法。
【請求項2】
FT遺伝子を導入して形質転換体植物を作製する工程をさらに包含することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記形質転換体植物および前記非形質転換体植物が同一種に由来することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非形質転換体植物が野生型であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の品種改良を効率よく行うための方法及びキットに関するものであり、より詳細には、FT遺伝子が導入された形質転換体植物を用いる植物の品種改良の時間を短縮するための方法及びキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前より、植物の品種改良の代表的な方法として、交配技術が用いられている。この交配技術は、選択した植物の品種間で交配させ、雑種第一代またはその後の世代に生じた個体の中から、目的の形質を備えたものを選抜し、新品種に育種する技術である。この交配に用いられる植物は、生殖活動(すなわち、受粉、接合、受精など)が可能になるまで栽培されていることが必要であり、育種に長期間を費やす品種も存在する。
【0003】
一般に、植物には栄養生長期と生殖生長期とがあり、特に種子植物においては、生長相が栄養生長期から生殖生長期へ転換して花芽が形成される時期がある。この花芽が形成されることにより、植物は生殖活動が可能になる。この栄養生長期から生殖生長期への転換、すなわち、花成は、植物の繁殖に直結する現象であるため、植物の生活環における重要な現象である。花成を人為的に制御することができれば、育種の効率化が可能となり、その結果、上記交配技術による品種改良に費やす時間を短縮することができる。よって、植物における花成の制御機構の解明は、学術的に重要なテーマの一つであるだけでなく、産業的にも重要なテーマの一つである。
【0004】
このような花成の制御機構に関する研究は、アブラナ科の野草であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を用いて行われている。特に、シロイヌナズナから見出されたFLOWERING LOCUS T遺伝子(FT遺伝子)が導入された形質転換体植物においては、FT遺伝子の働きにより花成が促進される。このことより、FT遺伝子は花成のスイッチ遺伝子(すなわち、花成制御遺伝子)として知られている(特許文献1を参照のこと)。また、本発明者らは、FT遺伝子およびそのファミリーが細胞間でのタンパク質の移動を司るとともに自らも細胞間を移動することを見出している(特許文献2を参照のこと)。
【0005】
日長中立性植物である野生型タバコ(SR1)では、長日条件下または短日条件下のいずれにおいても本葉の枚数が20枚程度に達することが開花に必要である。このような野生型タバコ(SR1)にアラビドプシス(シロイヌナズナ)由来のFT遺伝子を導入した場合、FT遺伝子を導入したFT形質転換体(35S::FT/SR1)では、長日条件下において本葉の枚数が5枚程度に達した段階で開花する。
【0006】
上述したように、FT形質転換体(35S::FT/SR1)では、開花に必要な葉数が減少しているので、開花促進効果を有しているといえる。このように、人為的に花成の制御が可能な形質転換体植物が、様々な種において容易に作製され、しかも繁殖が可能となれば、品種改良技術の発達に大きく寄与するといえる。

【特許文献1】特開2003-09872公報(平成15年1月14日公開)
【特許文献2】特開2004-261122公報(平成16年9月24日公開)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記形質転換体タバコ(35S::FT/SR1)は、開花が早いために、開花時期には植物体自体が十分に生育しない。よって、FT形質転換体自体は、農業上要求される形質(例えば、収量の増加、および/または花、果実などの大型化)に直接結びつく場合はむしろ少なく、実用的ではない。
【0008】
また、形質転換体植物を繁殖させるための手段として母株からの種子の採取を採用する場合は、その母株が遺伝的に安定している必要がある。しかし、その母株を育種するためには長い年月および労力を必要とするので、母株からの種子の採取によって形質転換体を繁殖させることは実用的ではない。また、遺伝子導入が困難な品種も存在するので、このような品種においては、新たな形質転換体を作製することは容易ではない。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の品種改良に必要な時間を短縮して品種改良の効率を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る植物の品種改良の時間を短縮する方法は、上記課題を解決するために、FT遺伝子が導入されている形質転換体植物である台木に非形質転換体植物を穂木として接ぎ木する工程および穂木にて交配する工程を包含することを特徴としている。
【0011】
本発明に係る植物の品種改良の時間を短縮する方法は、FT遺伝子を導入して形質転換体植物を作製する工程をさらに包含してもよい。
【0012】
本発明に係る植物の品種改良の時間を短縮する方法において、上記形質転換体植物および上記非形質転換体植物は接ぎ木親和性を有していることが必要である。
【0013】
本発明に係る植物の品種改良の時間を短縮する方法において、上記非形質転換体植物は野生型であってもよい。
【0014】
本発明に係る植物の品種改良の時間を短縮するためのキットは、上記課題を解決するために、FT遺伝子が導入された形質転換体植物を備えていることを特徴としている。
【0015】
本発明に係る植物の品種改良の時間を短縮するためのキットは、上記課題を解決するために、植物に導入可能な形態であるFT遺伝子構築物および該FT遺伝子構築物を導入するための植物を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従って、開花促進効果を有しているFT形質転換体を台木として接ぎ木栽培した穂木にて交配させることにより、品種改良の時間を短縮することができ、農作物の生産に大いに貢献することができる。また、本発明に従えば、FT形質転換体の開花促進効果を穂木に首尾よく伝播させることができ、種子を短期間で取得することができる。さらに、本発明に従って、開花促進効果を有しているFT形質転換体を台木として接ぎ木栽培すると、FT形質転換体から得られる種子とは異なり、導入遺伝子が含まれない種子を首尾よく取得し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、上記形質転換体タバコ(35S::FT/SR1)を台木とし、野生型タバコSR1または短日性タバコ(短日条件下で開花する)メリーランドマンモス種(MM)を接ぎ穂(穂木)として接ぎ木栽培し、穂木において交配させることにより、FT遺伝子が含まれない種子が通常より短期間で得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。MMは、長日条件下では開花しないが、接ぎ木栽培することにより長日条件下での花成が促進された。
【0018】
本発明を用いれば、FT形質転換体の開花促進効果を穂木に首尾よく伝播させることができ、種子を短期間で取得することができる。形質転換体を台木に用いかつ野生型を穂木に用いた構成からなる接ぎ木を品種改良に用いるという発想が従来には存在しておらず、よって、本発明の構成を有する接ぎ木技術は、従来からは容易に予想することができない、非常に画期的なものである。また、遺伝子導入によって台木へ導入された形質が台木から穂木へ伝播するかまたは伝播しないということは、これまでに示されておらず、本発明において、形質転換体を台木に用いた場合であっても、遺伝子導入によって台木に付与された形質が穂木へ伝播することが初めて示された。また、本発明を用いれば、十分に生育した穂木にFT遺伝子の形質を付与することができるので、本発明は、開花時期に植物体自体が十分に生育していないFT形質転換体自体を用いることによる不具合を解消して、収量の増加、および/または花、果実などの大型化を実現し得る、という非常に有益な利点を有している。
【0019】
接ぎ木は、増殖を目的とする植物体の一部を他の植物体に接着させ、独立した個体として養成する栄養繁殖方法の1つであり、果樹、花木、庭園樹、果菜類などで採用されている。園芸植物は長い年月にわたって品種改良が行われているために、遺伝的に固定されていないものが多い。このような植物においてもまた、親の形質を確実に伝える栄養繁殖が重要であり、そのための主要な繁殖方法として、接ぎ木が採用されている。
【0020】
接木栽培において、繁殖目的の接ぎ穂(穂木)が接がれる台となる植物体を台木という。接木栽培による利点としては、穂木の品種の特性が維持されること、挿し木が困難な植物を容易に繁殖させ得ること、適切な台木を選択することにより特別な栽培目的(例えば、樹勢の調整、環境に対する適応性の促進、病害虫による被害の回避、果実品質、結実率の向上など)が達せられること、などが挙げられる。種子繁殖では、経済栽培する主要果樹のほとんどにおいてその品種の特性が失われるが、接木栽培では、遺伝的特性を維持したまま、台木の有する栄養面での形質を穂木に伝えることにより、穂木を首尾よく生育させることができる。
【0021】
1つの局面において、本発明は、植物の品種改良の時間を短縮する方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る方法は、FT遺伝子が導入されている形質転換体植物である台木に非形質転換体植物を穂木として接ぎ木する工程および穂木にて交配する工程を包含し得る。形質転換体を台木として用いる接ぎ木技術はこれまでに知られていない。
【0022】
植物には遺伝子導入が困難な品種も存在するので、遺伝子導入によって品種改良を試みる場合は、目的の植物に対して遺伝子導入が可能であるか否かを検討する必要がある。しかし、本発明に従えば、FT遺伝子導入が容易に行い得る品種を台木に用いればよく、品種改良を行うべき植物に対してFT遺伝子導入を行う必要がない。また、形質転換体を台木に用いかつ野生型を穂木に用いた構成からなる接ぎ木を品種改良に用いられることが従来行われなかったので、当業者は本発明の構成を容易に想到することはできなかった。また、形質転換によって台木に導入された形質が、接ぎ木することによって穂木に伝わるということは、これまでに知られていない。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「FT遺伝子」はシロイヌナズナ由来のFTタンパク質(配列番号2)をコードする遺伝子(配列番号1:Genbankアクセッション番号AB027504)に限定されず、いわゆるFTグループに属するものであればよい。FTグループに属するタンパク質は、多くの植物において見出されており、全体に高度に保存されている。FTグループのタンパク質としては、シロイヌナズナのFTタンパク質、TSFタンパク質、MFTタンパク質;温州ミカンのCiFTタンパク質;イネのHd3aタンパク質、RFT1タンパク質、AL662946タンパク質、AP003079タンパク質、Ap002882タンパク質;等が挙げられる。なお、AL662946タンパク質、AP003079タンパク質およびAp002882タンパク質のナンバーはイネ由来ESTの登録ナンバーである。
【0024】
なお、本明細書中で使用される場合、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードする遺伝子もまた、「FT遺伝子」に包含される。
【0025】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0026】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異(例えば、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異)させることができる。ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しないことは、当該分野において周知である。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望のFT活性を有するか否かを容易に決定し得る。なお、本明細書中で使用される場合、「FT活性」とは、花成を促進する機能が意図される。
【0027】
接ぎ木を行うに際し、接ぎ木の活着を首尾よく行わせるために、台木と穂木との間に親和性のあることが必要とされる。接ぎ木の活着は、穂木および台木両方の接着面において主に形成層にてカルスが分化して抱合するため、いかにして形成層を広く滑らかに接着させるが重要となるからである。もちろん、同一種間での接木はそのほとんどが首尾よく行い得る。よって、本発明において使用される穂木としては、台木と同一種の植物が好ましいが、接ぎ木が首尾よく行われるものであれば特に限定されない。つまり、本発明を行う場合、台木と穂木との間の接ぎ木親和性があればよく、改良が所望される穂木は、台木に対して接ぎ木親和性を有しているもの全てが使用され得る。
【0028】
本発明において、好ましくは、上記形質転換体植物および上記非形質転換体植物が同一種に由来し得る。なお、上記非形質転換体植物は野生型であることが好ましいがこれに限定されない。
【0029】
接ぎ木の方法としては、枝接ぎ(例えば、切り接ぎ、割り接ぎ、舌次、袋接ぎ、合わせ接ぎなど)、芽接ぎ(budding)(例えば、盾芽接ぎ、そぎ接ぎなど)、根接ぎなどが知られており、本発明においては、いかなる接ぎ木方法が採用されてもよい。
【0030】
本発明において、穂木にて交配する工程は従来公知の技術が適用される。従来、交配に至るまでの間の育種に長期間を要していたが、本発明を用いれば、育種期間を有意に短縮することができるので、その結果、植物の品種改良を効率よく行うことができる。
【0031】
本発明の方法に従えば、植物の品種改良の時間を短縮することができる。また、FT遺伝子の花成促進作用を台木から穂木へ伝搬させて、穂木における開花を促進させることができる。また、シロイヌナズナのFT遺伝子がタバコに対してもその効果を示したということは、異種間で共通の効果を示し得るという特性を有していることであり、すなわち、1種類の台木を作製すれば、接ぎ木親和性を有していればどのような穂木であっても開花促進効果を付与することが期待し得る。
【0032】
本発明の方法に従えば、穂木に実った種子には導入遺伝子マーカーであるカナマイシンに対する耐性がなく、上記接ぎ木栽培に用いた導入遺伝子が穂木および次世代へ伝搬しない。よって、遺伝子組み換え作物(GMO:Genetically Modified Organisms)を環境へ拡散させることを回避し得る。本発明によって示される「台木に導入された遺伝子が穂木へ移動しないが、導入遺伝子によって台木にもたらされた形質が穂木へ移動する」という技術はこれまでに示されていない。
【0033】
さらなる局面において、本発明は、植物の品種改良の時間を短縮するためのキットを提供する。一実施形態において、本発明に係るキットは、FT遺伝子が導入された形質転換体植物を備えていることが好ましい。
【0034】
本明細書中で使用される場合、「植物に導入可能な形態であるFT遺伝子構築物」は、公知の遺伝子導入法によって植物へ導入し得る形態(例えば、プラスミドベクター)にFT遺伝子が挿入されてなる構築物であって、FT遺伝子によってコードされるFTタンパク質を発現し得る構築物が意図される。植物に導入可能な形態であるFT遺伝子構築物としては、例えば、FT遺伝子のcDNAが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0035】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実にFTタンパク質を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これとFT遺伝子を各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0036】
公知の遺伝子導入法としては、例えば、アグロバクテリウム法、バーティクルガン法、ウィルスベクター法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、マイクロインジェクション法、リポソーム法などが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、導入する植物の種類に応じて好ましい遺伝子導入法を選択し得る。
【0037】
なお、ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、植物細胞の培養についてはカナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子またはバスタ耐性遺伝子、ならびにE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ゲンタマイシン耐性遺伝子またはカナマイシン耐性遺伝子が挙げられる。
【0038】
導入した遺伝子が台木および穂木に存在するか否かについては、台木および穂木からDNAを抽出して、PCR法、サザンブロッティング法などを行うことにより調べることができる。また、FT遺伝子構築物に連結したマーカー遺伝子の存在を確認することにより、導入した遺伝子が台木および穂木に存在するか否かを知ることができる。
【0039】
本発明に係る方法及びキットを適用する植物としては、園芸植物が好ましい。本発明に用いられ得る園芸植物としては、接ぎ木技術が適用され得るものであれば何でもよく、当業者は、接ぎ木技術を適用し得る園芸植物を容易に選択し得る。
【0040】
また、本発明に係る方法及びキットを適用する植物としては、種々の食用植物が挙げられる。好ましい食用植物としては、マメ科植物(ダイズ、エンドウ、アルファルファなど)、ナス科植物(タバコ、トマト、ジャガイモなど)、アブラナ科植物(ナタネ、キャベツなど)、ウリ科植物(キュウリ、カボチャなど)、セリ科植物(ニンジン、セロリなど)などの双子葉植物が挙げられるがこれらに限定されない。また、樹木としては、果樹、花木(スギ、ヒノキ、マツなど)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
本明細書において、主に、FT遺伝子を導入した形質転換体植物を用いて本発明に係る方法及びキットを説明してきたが、FTタンパク質を発現する形質転換体植物を作製するための工程をさらに包含する方法、およびFTタンパク質を発現する形質転換体植物を作製するためのツールをさらに備えているキットもまた、本発明の技術的範囲に属する。
【0042】
すなわち、さらなる局面において、本発明は、FT遺伝子を導入して形質転換体植物を作製する工程、該形質転換体植物の台木に非形質転換体植物を穂木として接ぎ木する工程、および穂木にて交配する工程を包含する植物の品種改良の時間を短縮する方法を提供する。また、別の局面において、本発明は、植物に導入可能な形態であるFT遺伝子構築物およびFT遺伝子構築物を導入するための植物を備えている植物の品種改良の時間を短縮するためのキットを提供する。
【0043】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0044】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0045】
〔1:培地の調製〕
MSプラント培地を以下の手順に従って調製した。MS Salt(和光純薬)4.3gおよびスクロース30gを蒸留水950mlに溶解した後、この溶液を1N KOHでpH5.7に調整し、さらに蒸留水を加えて総容量を1Lにした。bacto-agar 8gを添加した後、この溶液を1Lフラスコに移し、緩やかに攪拌した。この溶液を20分間オートクレーブにて滅菌し、60℃前後まで溶液の温度が下がった時点で、滅菌したペトリ皿に分注した。
【0046】
MSKCプラント培地を以下の手順に従って調製した。上記MSプラント培地と同様の手順に従って調製した溶液に、オートクレーブ後の溶液の温度が60℃の時点で、100μg/ml Kanamycin(明治製薬) 1ml及び500mg/ml Carbenicillin(Sigma) 2mlを添加し、次いで同様に分注した。
【0047】
#3プレート培地を以下の手順に従って調製した。MS Salt(和光純薬)4.3g、スクロース30g、0.1g myo-inositol(Sigma)、1mg/ml Thiamine-HCL(Sigma)0.4mlを蒸留水950mlに溶解した後、この溶液を1N KOHでpH5.7に調整し、さらに蒸留水を加えて総容量を1Lにした。bacto-agar 8gを添加した後、この溶液を1Lフラスコに移し、緩やかに攪拌した。この溶液を20分間オートクレーブにて滅菌し、60℃前後まで溶液の温度が下がった時点で、10-5M 6-Benzylaminopurine(Sigma) 0.45ml及び10-6M Indol-3-acetic acid(Sigma) 117μlを添加し、ペトリ皿に分注した。
【0048】
#3KCプレート培地を以下の手順に従って調製した。上記#3プレート培地と同様の手順に従って調製した溶液に、オートクレーブ後の溶液の温度が60℃の時点で、100μg/ml Kanamycin(明治製薬) 1ml及び100μg/ml Carbenicillin(Sigma)2mlを添加し、次いで同様に分注した。
【0049】
〔2:発現ベクターの構築および形質転換〕
本実施例では、供試植物として野生型タバコSR1種(SR1)を用いた。SR1に導入する遺伝子として、シロイヌナズナ由来のFT遺伝子(Genbankアクセッション番号:AB027504)(配列番号1)を用いた。
【0050】
野生型アラビドプシス(Colエコタイプ)から抽出した総RNAから逆転写したcDNAをテンプレートとし、プライマー(FT-F1:5’-TTCTCTAGAATGTCTATAAATATAAGAGAC(配列番号3);FT-XbaRv:3’-TTCTAGACTAAAGTCTTCTTCCTCCGC(配列番号4))を用いてPCRを行い、FT cDNA(配列番号1)を取得した。
【0051】
pCGN1547(Plant Molecular Biology 14:269-276(1990)を参照のこと)にFT遺伝子(配列番号1)を挿入して、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター下でFT遺伝子を発現させるバイナリベクターを構築した。このバイナリベクターを以下の手順に従ってアグロバクテリアに導入した。無菌的に一晩培養したアグロバクテリア菌の培養溶液5mlを50倍に希釈した後、28℃で5~6時間培養した。OD値が0.15~0.20に達した段階で、この培養液を、4℃、7000rpm以下で10~15分間遠心分離することにより集菌した。この菌体を、0℃の1mM HEPES(pH7.0)を用いて洗浄した。これらの遠心分離工程、集菌工程、及び洗浄工程を3回繰り返した後、0℃の10%グリセロール約20mlを用いて洗浄、遠心分離、集菌した菌体を、0℃の10%グリセロール2.5ml中に懸濁した。この懸濁液を滅菌チューブに分注し、液体窒素で凍結した後、-70℃で保存したものを、コンピテントセルとして用いた。コンピテントセルを使用時に氷上で溶解し、溶解したセル40μlに、導入すべきバイナリベクターを含むDNA溶液(100~1000ngのDNAを含む)1~5μlを添加した。この溶液を、電極幅0.2cmのキュベットを用いて、パルス2.5kV、キャパシタンス25μF、パルスコントロール200Ωでエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの直後に0.8mlの培地(YEB)をキュベットに加え、懸濁液をチューブに移し、28℃で1時間インキュベートした。この懸濁液の1/10の量を、リファンピシン及び必要な抗生物質を含んだYEBプレートに播種し、コロニーが形成されるまで28℃で培養した。形成されたコロニーからさらにクローン培養した遺伝子導入菌を植物体の感染に用いた。
【0052】
25~28℃で無菌的に培養した野生型タバコSR1種を、葉数が7~8枚に達するまで生育させた。滅菌したメスを用いて葉を切り取り、中央の葉脈を取り除き、4枚に切り取った。アグロバクテリアの感染には、植物体の新芽から3~4枚目の葉を用いるのが最も好ましい。この切り取った葉を、アグロバクテリアが十分培養されたプレート上に配置した後、注射針を挿して傷つけた葉にアグロバクテリアを感染させた。この葉を#3培地(5mg/ml benzylaminopurine及び1.5mg/ml indol-acetic acidを含むMS salts、sucrose、bacto-agar、myo-inositol及びThiamine-HClからなる培地)に移し、無菌室にて25℃で培養した。3日後、#3培地上の葉を、#3KC培地(100μg/ml Kanamycin及び100μg/ml Carbenicillinを含む#3培地)に移した。さらに3~4週間培養することにより、葉をカルス化させた。このカルスから突出するシュートをメスで切り取り、このシュートをMSKCプラント培地(100μg/ml Kanamycin及び500mg/ml Carbenicillinを含むMS基本培地)に移した。切り取ったシュートに残存するカルスを首尾よく除去した。切り取ったシュートを、新鮮な#3KC培地に移しさらに培養した。形質転換したシュートからは1~2週間程で根が誘導された。さらに1~2週間後、プラント培地中の植物が十分育ったことを確認した後、葉を1枚~2枚つけた茎を切り取り、MSKCプラント培地に移した。移植した植物のうち根が再び誘導された植物の根を十分洗浄して培地を除去し、土に移植した。移植した植物の自家受粉次世代においてカナマイシン耐性の有無を指標にして形質転換の有無を確認した。
【0053】
〔3:形質転換体を台木に用いた場合の穂木への影響〕
選抜されたFT遺伝子形質転換体(導入遺伝子のホモ接合体である形質転換第3世代)(35S::FT/SR1)を、長日条件下(16時間明期(28℃)/8時間暗期(25℃))において生育させた。この形質転換体を、本葉が2~5枚に達するまで生育させた後に、接ぎ木栽培に用いた。穂木として、野生型タバコSR1品種(SR1)またはMaryland Mammoth品種(MM)を用いた。SR1は、長日条件下または短日条件下(8時間明期(28℃)/16時間暗期(25℃))のいずれにおいても本葉の枚数が20枚程度に達したころに開花する日長中立性の品種である(図3)。また、MM品種は、長日条件下では開花せず、短日条件下においてのみ開花する品種である。コントロールとして、SR1を台木とし、穂木としてSR1またはMMを用いて接ぎ木栽培を行った。なお、接ぎ木を、切接法によって行った。
【0054】
長日条件下では、35S::FT/SR1を台木としかつSR1を穂木とした植物体において、本葉の枚数が8枚程度に達した段階で穂木での開花が観察された(図1)。また、同一条件下で、35S::FT/SR1を台木としかつMMを穂木とした植物体において、本葉の枚数が10枚程度に達した段階で穂木での開花が観察された(図2)。しかし、SR1を台木としかつSR1を穂木として接ぎ木した植物体では、接ぎ木しない場合と同様に、本葉の枚数が15-20枚程度に達した段階で穂木での開花が観察された(示さず)。また、SR1を台木としかつMMを穂木として接ぎ木した植物体では、本葉の枚数が30枚を超えても穂木での開花は観察されなかった(図4)。
【0055】
図5には、FT遺伝子を導入したFT形質転換体(左)では、長日条件下において本葉の枚数が5枚程度に達した段階で開花するが、野生型タバコ(右)では、同時期には開花していない様子を示す。
【0056】
なお、35S::FT/SR1を台木としかつSR1またはMMを穂木とした植物体の穂木に実った種子を、MSKプレート(100μg/ml Kanamycinを含むMS基本培地)に播種したが、全ての種子が死滅した。すなわち、これらの穂木からはカナマイシン耐性を有する種子が得られなかった(示さず)。これは、台木に導入された遺伝子の穂木への伝搬はみられなかったことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の方法を用いることにより、従来よりも短期間で品種改良植物を作製することができるので、農作物の生産に大いに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】FT遺伝子を導入したFT形質転換体を台木としかつ野生型SR1を穂木とした植物体における、長日条件下での開花の様子を示す図である。
【図2】FT遺伝子を導入したFT形質転換体を台木としかつMMを穂木とした植物体における、長日条件下での開花の様子を示す図である。
【図3】野生型SR1の、長日条件下での開花の様子を示す図である。
【図4】野生型SR1を台木としかつMMを穂木とした植物体における、長日条件下では開花しない様子を示す図である。
【図5】同一条件下(長日条件下)にて同一期間生育させたFT形質転換体(左)および野生型タバコ(右)における開花の状態を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
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