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明細書 :光子対生成装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4863105号 (P4863105)
公開番号 特開2007-219314 (P2007-219314A)
登録日 平成23年11月18日(2011.11.18)
発行日 平成24年1月25日(2012.1.25)
公開日 平成19年8月30日(2007.8.30)
発明の名称または考案の名称 光子対生成装置
国際特許分類 G02F   1/35        (2006.01)
FI G02F 1/35 502
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2006-041474 (P2006-041474)
出願日 平成18年2月17日(2006.2.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2005年8月19日 社団法人日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第60巻第2号(2005年秋季大会)第4分冊」に発表
審査請求日 平成21年2月6日(2009.2.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】安食 博志
【氏名】石原 一
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】河原 正
参考文献・文献 Savasta, S. et al.,Hyper Raman Scattering in Microcavity Quantum Wells:AQuantum Optical Process in the Strong Coupling Regime,Physica Status Solidi.A,1997年,Vol.164,No.1 ,p.85-89
Perea,J.I. Tejedor, C.,Polarization entanglement visibility of photon pairs emitted by a quantum dot embedded in a microcavity,Physical Review B,2005年,Vol.72,No.3 ,p.35303-1-6
調査した分野 G02F 1/35
INSPEC(DIALOG)
JSTPlus(JDreamII)
Science Citation Index Expanded(Web of Science)
特許請求の範囲 【請求項1】
光を出射する光源と、
上記光源から出射された光を取り入れ、内部で共振させることによって光の強度を強める共振器とを備え、
上記共振器が、相関光子対生成部材を含んでおり、
上記相関光子対生成部材が、取り入れた2個の光子を共鳴的に励起させて励起子分子を生成し、さらに該励起子分子が崩壊することによって、互いに量子相関した2個の光子を相関光子対として放出するものであるとともに、
上記光源が、互いに偏光の回転方向が反対となる第1の光子および第2の光子を、それぞれの振動数が互いに異なった状態で上記共振器に照射することを特徴とする光子対生成装置。
【請求項2】
上記相関光子対生成部材が、量子井戸または量子ドットであることを特徴とする請求項1記載の光子対生成装置。
【請求項3】
上記光源が、上記第1の光子の振動数を、共振器モードと上記相関光子対生成部材中の励起子とが結合したモードにおけるエネルギー準位の振動数に一致させることを特徴とする請求項記載の光子対生成装置。
【請求項4】
上記光源が、上記第2の光子の振動数を、上記相関光子対生成部材において、2粒子励起状態の励起子分子の成分が存在し、かつ、共振器モードの光の成分が存在するように設定していることを特徴とする請求項記載の光子対生成装置。
【請求項5】
上記相関光子対生成部材が、上記相関光子対生成部材において、2粒子励起状態の励起子分子の成分が存在し、かつ、共振器モードの光の成分が存在するような大きさとなっていることを特徴とする請求項1記載の光子対生成装置。
【請求項6】
上記相関光子対生成部材が、上記共振器内における光のモードに対応して電場強度が高くなる位置に設けられることを特徴とする請求項1記載の光子対生成装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、量子相関光子対を生成する光子対生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の発展は著しいものであり、さらなる情報通信の高速化、高度化に対する需要は拡大している。これに伴い、従来の電気信号による情報処理とは異なる技術として、量子情報処理が挙げられる。この量子情報処理に関する研究は、1984年のCharles Bennet(IBM)らによる量子暗号プロトコルの考案や、1994年のPeter Shore(AT&T)による量子計算アルゴリズムの考案を契機として、現在精力的に進められている。
【0003】
量子暗号では、量子力学におけるハイゼンベルグの不確定性原理により、物理現象によって安全性が保証される。該不確定性原理では、観測によってその状態は変化するため、通信が盗聴(観測)されると、必ずそれが明らかになり、それに応じて通信を遮断するなどの処置が可能なため、盗聴が物理学的に不可能とされる。また、粒子を複製することも不確定性原理によって不可能である。
【0004】
量子暗号における重要な要素として量子テレポーテーションがあげられる。量子テレポーテーションは、粒子の量子的な情報だけを別の場所に移す技術である。該量子テレポーテーションは、量子相関のある光子対(量子相関光子対)を利用して、光子同士が情報をやり取りすることにより実現される。量子相関光子対は、一方の量子的状態が決まると、他方の量子状態も決まるという性質があり、この性質は、2光子間の距離に依存しない。
【0005】
従来、量子相関光子対の生成は、高出力レーザを非線形光学材料に照射させるパラメトリック下方変換によって実現されている。しかしながら、この過程から生成された量子相関光子対の波長は比較的長く、3光子以上の量子相関多光子状態を実現することが難しいという欠点がある。これに対して、非特許文献1には、半導体CuClバルク結晶の共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程を用いることによって、短波長の相関光子対の生成を行う技術が開示されている。

【非特許文献1】K.Edamatsu, G.Oohata, R.Shimizu, and T.Itoh : Nature, 431, 167,(2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した半導体CuClバルク結晶を用いた相関光子対の生成は、従来の生成方法に比べて、短波長の相関光子対を生成することが可能である点に最大の特徴と長所がある。しかしながら、デバイス化の観点からすると、バルク結晶を用いるよりも、ナノ結晶を用いる方が好ましい。ところが、ナノ結晶を用いると、光との相互作用が小さくなるために、相関光子対を高効率に生成することが困難となるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイパーパラメトリック散乱によって相関光子対を生成する光子対生成装置において、より相関光子対の生成効率を向上させることを可能とする光子対生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光子対生成装置は、上記課題を解決するために、光を出射する光源と、上記光源から出射された光を取り入れ、内部で共振させることによって光の強度を強める共振器とを備え、上記共振器が、相関光子対生成部材を含んでおり、上記相関光子対生成部材が、取り入れた2個の光子を共鳴的に励起させて励起子分子を生成し、さらに該励起子分子が崩壊することによって、互いに量子相関した2個の光子を相関光子対として放出するものである構成である。
【0009】
上記の構成では、相関光子対生成部材が共振器に含まれた構成となっている。相関光子対生成部材は、上記のように、ハイパーパラメトリック散乱によって相関光子対を生成する部材である。ここで、共振器は、光源から出射された光を取り入れ、内部で共振させることによって光の強度を強める機能を有している。このような機能を有する共振器に相関光子対生成部材が含まれていることによって、相関光子対生成部材に対して、より強度が強まった光子を作用させることが可能となる。したがって、相関光子対生成部材を単独で用いる場合と比較して、より相関光子対の生成効率を向上させることが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る光子対生成装置は、上記の構成において、上記相関光子対生成部材が、量子井戸または量子ドットである構成としてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、量子井戸または量子ドットといったナノ結晶によって相関光子対生成部材が構成されるので、ナノオーダの微細な構成によって光子対生成装置を構成することが可能となる。したがって、例えば相関光子対を利用した量子コンピュータなどに適用する場合に、高度な集積化を実現することができる。
【0012】
なお、量子井戸とは、半導体原子、金属原子、および有機分子などからなる10~100nm程度の厚みを持つ2次元構造物であり、量子ドットとは、半導体原子、金属原子、および有機分子などからなる10~100nm四方程度の塊状の構造物である。
【0013】
また、相関光子対生成部材は、半導体原子、金属原子、および有機分子などからなる10~100nm程度の厚みを持つ1次元状の構造をした量子細線によって構成されていても構わない。
【0014】
また、本発明に係る光子対生成装置は、上記の構成において、上記光源が、互いに偏光の回転方向が反対となる第1の光子および第2の光子を、それぞれの振動数が互いに異なった状態で上記共振器に照射する構成としてもよい。
【0015】
上記の構成によれば、共振器に対して、互いに偏光の回転方向が反対となる第1の光子および第2の光子を、互いに異なる振動数で照射することが可能となる。よって、第1の光子および第2の光子の振動数を、相関光子対の生成効率が高くなるようにそれぞれ個別に設定することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る光子対生成装置は、上記の構成において、上記光源が、上記第1の光子の振動数を、共振器モードと上記相関光子対生成部材中の励起子とが結合したモードにおけるエネルギー準位の振動数に一致させる構成としてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、ほぼ完全に光子を共振器内に入れることが可能となる。すなわち、入射光の光子を共振器内において共振状態にさせる効率を高めることが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る光子対生成装置は、上記の構成において、上記光源が、上記第2の光子の振動数を、上記相関光子対生成部材において、2粒子励起状態の励起子分子の成分が存在し、かつ、共振器モードの光の成分が存在するように設定している構成としてもよい。
【0019】
上記の構成によれば、2粒子励起状態が励起子分子を含む状態と共振器モードの光子を含む状態とが重ね合わされた状態となる。このような状態とすることにより、相関光子対の生成効率を高めることが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る光子対生成装置は、上記の構成において、上記相関光子対生成部材が、上記相関光子対生成部材において、2粒子励起状態の励起子分子の成分が存在し、かつ、共振器モードの光の成分が存在するような大きさとなっている構成としてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、上記と同様に、2粒子励起状態が励起子分子を含む状態と共振器モードの光子を含む状態とが重ね合わされた状態となる。このような状態とすることにより、相関光子対の生成効率を高めることが可能となる。
【0022】
また、本発明に係る光子対生成装置は、上記の構成において、上記相関光子対生成部材が、上記共振器内における光のモードに対応して電場強度が高くなる位置に設けられる構成としてもよい。
【0023】
上記の構成によれば、共振器内における電場強度が高い位置に相関光子対生成部材が設けられるので、相関光子対生成部材による相関光子対の生成効率をより高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る光子対生成装置は、以上のように、上記共振器が、相関光子対生成部材を含んでおり、上記相関光子対生成部材が、取り入れた2個の光子を共鳴的に励起させて励起子分子を生成し、さらに該励起子分子が崩壊することによって、互いに量子相関した2個の光子を相関光子対として放出するものである。これにより、相関光子対生成部材を単独で用いる場合と比較して、より相関光子対の生成効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。
【0026】
(光子対生成装置の構成)
図1は、本実施形態に係る光子対生成装置1の概略構成を示している。同図に示すように、光子対生成装置1は、共振器2および光源6を備えた構成となっている。
【0027】
光源6は、共振器2に対して、入射光としてのレーザ光を照射するものである。具体的には、光源6は、レーザ光を出射するレーザ光源、1/4波長板を備えている。レーザ光源としては、例えば垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser)が挙げられる。この垂直共振器型面発光レーザは、所定の波長、パルス幅、繰り返し周波数で、レーザ光を出力する。1/4波長板は、レーザ光源から出射された直線偏光を円偏光に変換する。
【0028】
ここで、本実施形態では、互いに振動数の異なるレーザ光を出力する2つのレーザ光源を設けるとともに、それぞれのレーザ光源に対応させて1/4波長板を設けている。また、各1/4波長板は、入射光を互いに逆の偏光方向となる円偏光に変換する。これにより、光源6から出射される2つの光は、偏光の回転方向が互いに逆向きになっている光となる。ここで、偏光の回転方向が互いに逆向きになっている光をそれぞれ+偏光および-偏光と称する。+偏光および-偏光のそれぞれの振動数をどのように設定するかについては後述する。以上の構成により、共振器2に対して、互いに異なる振動数の+偏光および-偏光を照射することが可能となる。
【0029】
なお、上記の構成では、光源6は+偏光および-偏光を出射する構成となっているが、直線偏光を出射する構成としてもよい。直線偏光には、+偏光および-偏光の両方が含まれているので、このような直線偏光を共振器2に対して入射させても相関光子対を生成することが可能である。また、振動数の異なる直線偏光のレーザ光源を2つ設けることによって、共振器2に対して、互いに異なる振動数の+偏光および-偏光を照射することが可能となる。
【0030】
共振器2は、入射光を内部で共振させるとともに、共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程により、偏光に関して量子相関した光子対(相関光子対)を出射する。この共振器2は、第1および第2DBR(Distributed Bragg Reflector)ミラー3・5、量子井戸(相関光子対生成部材)4、および共振空間領域7を備えている。
【0031】
第1および第2DBRミラー3・5は、屈折率の異なる半導体層を光学波長の1/4の厚さで交互に積層した構造となっている。なお、本実施形態では、共振器のミラーとしてDBRミラーを用いたが、その他、共振器において用いることが可能なミラーであればどのような材料のミラーを用いてもよい。
【0032】
これらの第1および第2DBRミラー3・5に挟まれた領域に共振空間領域7が設けられている。そして、共振空間領域7の内部に、量子井戸4が設けられている。量子井戸4は、厚さにしてnmオーダー(10~100nm)の薄膜によって構成されており、バンドギャップの大きいバリア層で挟む構造とすることによって、電子は厚さ方向に量子化され、エネルギーは離散化する。この量子井戸4として、本実施形態では、膜厚10~20nmのCuCl結晶を用いるが、共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程による相関光子対の生成が可能な材料であればどのような材料であってもよい。なお、量子井戸4の膜厚としては、上記した10~20nmとすることによって、相関光子対の生成効率が良好となる。
【0033】
(相関光子対の生成)
前記したように、半導体バルク結晶に特定の波長をもつレーザ光を照射すると、2光子吸収によって励起子分子が共鳴的に生成される。なお、光によって価電子帯から取り除かれた電子状態は正の荷電粒子(正孔)と見なすことができる。この正孔と伝導帯に励起した電子による束縛状態を励起子という。また、励起子分子とは、2つの励起子が束縛した状態となっているものを示す。
【0034】
そして、この励起子分子が消滅する過程で異なる方向に放出される2個の光子は、偏光に関して量子相関した状態となる。すなわち、これにより相関光子対が生成される。(量子)相関光子対とは、エンタングルド光子対ともいい、量子力学的にもつれあった状態の光子対を示している。
【0035】
このような散乱過程(共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程)は、半導体バルク結晶の代わりに半導体量子井戸を用いても生じうる。しかしながら、半導体量子井戸を用いた場合、光との相互作用が小さくなるために、相関光子対の生成効率が低くなる。
【0036】
そこで、本実施形態の光子対生成装置1は、上記のように、共振器2の内部に量子井戸4を設けた構成としている。この量子井戸4を適切な条件(詳細は後述する)で共振器2中に設けることによって、量子井戸単体を用いる構成と比較して、共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程による相関光子対の生成を格段に効率良く行うことが可能となる。
【0037】
共振器2を用いることによって相関光子対の生成効率が増大する原理は、基本的に、共振器2中の平均1光子あたりの電場強度が非常に強くなることに基づいている。詳しく説明すると、まず、共振器2に対して光が入射すると、共振により共振器2内における光が特定のモードとなり、光の電場強度が増大することになる。ここで、共振器2内における光のモードには様々なものがあり、そのモードに依存して電場強度が高くなる位置が存在する。この電場強度が高くなる位置に量子井戸4を設けることによって、共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程による相関光子対の生成効率を高めることが可能となる。
【0038】
例えば、共振器2内における光のモード(共振器モード)のうち、最も振動数が小さい共振器モードの場合、共振空間領域7の中心近傍で電場強度が最も高くなる。すなわち、この共振空間領域7の中心近傍に量子井戸4を設けることによって相関光子対の生成効率を高めることが可能となる。
【0039】
(相関光子対生成効率の増強率)
次に、共振器2の内部に量子井戸4を設けた構成による相関光子対の生成効率が、量子井戸単体の構成による相関光子対の生成効率に対してどの程度増強するかを示す増強率について説明する。
【0040】
量子井戸4に2つの光子が入ると、二光子共鳴励起によって励起子分子が生成される。生成された励起子分子は、緩和を経ないで2つの励起子に分裂し、これら2つの励起子が相関光子対として放出される。ここで、励起子や励起子分子は、相関光子対を放出する以外にも、緩和により様々な過程を経て消失する。相関光子対を放出しない過程としては、例えば、励起子や励起子分子が消失して格子振動(フォノン)が誘起される過程などが挙げられる。このような、励起子や励起子分子が「相関光子対を放出しない過程」で別の状態へ遷移する時間の逆数を緩和定数と定義する。
【0041】
相関光子対の生成効率の大きさは、「光と物質系との相互作用(以降、単に相互作用と称する)」と「緩和定数」との相対的な大きさで決まる。「緩和定数」が「相互作用」よりも十分大きい場合には、緩和定数が小さくなるにつれて生成効率は大きくなる。しかしながら、「緩和定数」をさらに小さくして「相互作用」よりも十分小さくなると、生成効率はほとんど飽和することになる。
【0042】
ここで、「緩和定数」が、量子井戸単独である場合の「相互作用」よりも十分大きい場合を考える。このような場合でも、量子井戸4を共振器2の内部に設けた構成にすることによって、量子井戸4における光の電場強度が量子井戸単独である場合よりも高くなり、「相互作用」を「緩和定数」よりも十分に大きくすることができる。すなわち、量子井戸単独である場合よりも、量子井戸4を共振器2の内部に設けた構成とする方が、相関光子対の生成効率が高くなる。
【0043】
一方、「緩和定数」が、量子井戸単独である場合の「相互作用」よりも小さい場合には、量子井戸4単独であっても(量子井戸4を共振器2の内部に設けなくても)比較的大きな生成効率を得ることができ、量子井戸4を共振器2の内部に設けたとしても、生成効率の向上は僅かなものとなる。
【0044】
以上より、相関光子対生成効率の増強率は、量子井戸4における緩和定数に依存しており、緩和定数が大きいほど増強率は大きくなる。
【0045】
図2は、励起子および励起子分子の緩和定数γex・γの大きさが1meV、0.1meV、および10μeVのそれぞれの場合の増強率を示すグラフである。これらのグラフの前提条件は次のとおりである。まず、+偏光および-偏光の光を量子井戸4の面に垂直に入射させている。ここで、-偏光の振動数は、面内の波数ベクトルが0の共振器ポラリトン(共振器モードと量子井戸中の励起子とが結合したモードを示す)の振動数と一致させている。また、励起子共鳴エネルギーは3.2022eV、励起子分子の束縛エネルギーは30meV、励起子と共振器モードの光との相互作用を22meV、励起子分子と共振器モードの光との相互作用を1meV、および、共振器2のQ値を1000としている。なお、Q値とは、Q=ω/Γ(Γ:共振器2の透過スペクトルのピークにおける半値全幅(振動数)、ω:透過スペクトルのピークの振動数)で表される、振動数分布の程度を示す値である。また、各グラフの縦軸は増強率を示しており、横軸は+偏光の差分振動数ΔΩを示している。差分振動数ΔΩは、ΔΩ=ω-ω(ω:+偏光の振動数、ω0:共振器モードの振動数)で定義される。
【0046】
これらのグラフに示すように、励起子および励起子分子の緩和定数が1meVの場合には、増強率は100万倍にも達するが、緩和定数が10μeVの場合の増強率は600倍程度である。したがって、緩和定数が十分に小さい場合には、共振器2による量子相関光子対生成の増強率は比較的小さくなる。しかしながら、このように緩和定数が小さい場合でも、増強率としては十分に大きいものであり、特に光子対生成装置1を室温で動作させる場合には、量子井戸4を共振器2の内部に設けた構成による効果は絶大である。
【0047】
(相関光子対生成のための最適化条件)
次に、共振器2の内部に量子井戸4を設けた構成において、相関光子対の生成効率を最適化するための最適化条件について説明する。この最適化条件は、大きく分けると次の2点である。
(1)+偏光と-偏光とからなる入射光のうち、どちらか一方の振動数を共振器2における共振器ポラリトンのエネルギー準位の振動数に一致させる。
(2)+偏光と-偏光とからなる入射光のうち、共振器ポラリトンの振動数に一致させた方ではない方の振動数、および、「物質系と共振器中の光の相互作用」を、2粒子励起状態の「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」とが同程度になるような条件にあわせる。
【0048】
以下、上記2つの条件の詳細について説明する。共鳴ハイパーパラメトリック散乱過程によって相関光子対を生成させる場合、まず、励起子分子が生成されることが必要不可欠である。しかしながら、共振器QED(Quantum Electrodynamics)の枠組みにおいて、薄膜としての量子井戸4を埋め込んだ共振器2の系では、励起状態として励起子分子単独の状態で記述できない場合がある。実際に、+偏光および-偏光の光子が共振器2に2個入ったとき(2粒子励起状態)、共振器系の固有状態は、φ1(光子0個、励起子分子1個)、φ2(+偏光の光子1個、-偏光の励起子1個)、φ3(-偏光の光子1個、+偏光の励起子1個)、および、φ4(+偏光および-偏光の励起子1個ずつ、物質系は基底状態)という4個の状態の重ね合わせで表すことができる。
【0049】
相関光子対の生成でもう1つ重要な点は、2粒子励起状態に共振器中の光子の状態が含まれている(すなわち、φ2、φ3、φ4の状態)ことである。この要件は、生成された相関光子対が共振器2の外に出て行くために必要である。
【0050】
以上より、励起子分子が生成されることが必要であることにより、φ1の状態が必要であり、2粒子励起状態に共振器中の光子の状態が含まれていることが必要であることにより、φ2、φ3、φ4の状態が必要であることになる。したがって、2粒子励起状態が励起子分子を含む状態(φ1)と共振器モードの光子を含む状態(φ2、φ3、φ4)とを同程度の重みで重ね合わせた状態となっていれば、相関光子対が高効率に生成されることになる。なお、上記の(2)の条件において、「「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」とが同程度になる」とは、「励起子分子1個をとる遷移確率」と、「励起子1個と、入射光子1個(偏光の成分は角運動量保存)、もしくは励起子2個と入射光子0個の状態をとる遷移確率の和」とが同程度になることを示している。
【0051】
なお、上記の(2)の条件では、2粒子励起状態の「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」とが同程度になる、としているが、2粒子励起状態の「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」との両方が少なくとも存在すれば、相関光子対の生成効率を向上させることが可能である。さらに言えば、2粒子励起状態の「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」とのどちらかが10%以上あれば、相関光子対の生成効率を十分に向上させることが可能である。
【0052】
(最適化条件に基づく設計)
次に、上記した最適化条件に基づいた光子対生成装置1の設計について説明する。まず、条件(1)に基づいて、入射光における+偏光および-偏光のどちらか一方(例えば-偏光)の振動数が、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの下枝または上枝の振動数と一致するように、光源6が光の出射を制御する。
【0053】
ここで、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの下枝の振動数は、ω-gex(ωは共振器モードの振動数、gexは励起子と共振器モードの光との相互作用をそれぞれ示す)で求められる。また、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの上枝の振動数は、ω+gexで求められる。よって、例えば-偏光の振動数を、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの下枝の振動数に合わせる場合、-偏光の差分振動数ΔΩ(=ω-ω)が-gexとなるように(ΔΩ=-gex)すればよい。
【0054】
このように、入射光の光子の振動数を共振器ポラリトンのエネルギー準位における分枝の振動数に合わせると、ほぼ完全に光子を共振器2内に入れることが可能となる。すなわち、入射光の光子を共振器2内において共振状態にさせる効率を高めることが可能となる。
【0055】
図3は、-偏光の振動数を、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの下枝の振動数に合わせる場合に、横軸に、励起子と共振器モードの光との相互作用の強さ(gex)をとり、縦軸に、+偏光の差分振動数ΔΩをとり、相関光子対の生成効率G+-の計算値をグレースケールで示した図である。ここで、励起子と共振器モードの光との相互作用の強さ(gex)は、量子井戸4の厚さを変えることによって変化させることが可能である。
【0056】
この図の前提条件は次のとおりである。まず、+偏光および-偏光の光を量子井戸4の面に垂直に入射させている。また、励起子共鳴エネルギーは3.2022eV、励起子分子の束縛エネルギーは30meV、励起子分子と共振器モードの光との相互作用を1meV、励起子および励起子分子の緩和定数の大きさを1meV、および、共振器2のQ値を1000としている。また、生成効率G+-の値は、共振器2がある場合にgex=10meVに対応する振動子強度をもつ、共振器2に埋め込まれていない量子井戸(薄膜)の場合で規格化している。
【0057】
図3の中で、2粒子励起状態へ励起するのに必要なΔΩおよびgexの関係を2本の曲線で示している。なお、2粒子励起状態は、φ1、φ2、φ3、およびφ4の4個の状態の重ね合わせで表されるものである。よって、2粒子励起状態へ励起するのに必要な条件は4個存在する。しかしながら、これら4個の条件のうち、2個の条件は、図3で示すグラフの範囲から外れており、また相関光子対の生成効率は比較的小さいものである。これにより、図3では、2粒子励起状態へ励起するのに必要な条件として2本の曲線が示されており、この条件のみを考慮すればよいことになる。
【0058】
前記したように、相関光子対を生成するためには、2粒子励起状態が「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」との両方を含んでいることが必要である。すなわち、図3において、2本の曲線が最も近づくところでは、この2つの成分が同程度に含まれていることになるので、相関光子対の生成効率が最適となる。この2本の曲線が最も近づく点としての最適点は、図3からgex=22meV、ΔΩ=-9meVとなる点であることがわかる。
【0059】
各状態(φ1、φ2、φ3、φ4)は、図3の2本の曲線に沿ってその固有状態を計算することによって求めることができる。この計算により、上記の最適点における2粒子励起状態は、励起子分子を含む状態(φ1)と共振器モードの光子を含む状態(φ2、φ3、φ4)とを同程度の重みで重ね合わせた状態になっていることが分かる。図4(a)および図4(b)は、上記の計算の一例として、図3における上側の曲線および下側の曲線に沿って計算した状態(φ1)および状態(φ4)の成分の存在確率をそれぞれ示している。
【0060】
以上のような条件を満たす量子井戸4を埋め込んだ共振器2を設計することにより、相関光子対を非常に高効率に生成することが可能となる。ここで、設計すべきパラメータとしては、共振器2の内側で光を閉じこめている領域の長さL(図1に示す構成では、DBRミラー2と共振空間領域7との界面から、ミラー5と共振空間領域7との界面までの長さ)、量子井戸4の厚みd、および入射光の振動数ω、ωが挙げられる。
【0061】
Lは、励起子のエネルギーと最低共振器モードのエネルギーとが一致するように設計する。具体的には、次の(1)式で長さLが求められる。
【0062】
【数1】
JP0004863105B2_000002t.gif

【0063】
上記の(1)式において、εは光が閉じこめられている領域の背景誘電率を示している。
【0064】
量子井戸4の厚みdは、前記したように、励起子と共振器モードの光との相互作用の強さ(gex)を変化させることができるパラメータであるが、具体的には次の(2)式で求められる。
【0065】
【数2】
JP0004863105B2_000003t.gif

【0066】
上記の(2)式において、hはプランク定数、cは光速、εωは量子井戸4の背景誘電率、ΔLTは励起子の縦横分裂のエネルギーを表している。
【0067】
入射光の振動数ω、ωは、前記したように、入射光における+偏光および-偏光のどちらか一方の振動数を、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの下枝または上枝の振動数と一致させ、もう一方の振動数を、2粒子励起状態の「励起子分子の成分」と「共振器モードの光の成分」とが同程度になるような条件に合わせればよい。
【0068】
なお、2粒子励起状態のエネルギーを求めるためには、励起子分子と共振器モードの光との相互作用gのエネルギーが必要となる。図3では、その大きさを1meVとして計算しているが、この相互作用gを評価することは困難であり、実験で決定することが実用的である。
【0069】
(共振器の他の構成例)
図1に示した構成では、共振器2の内部に量子井戸4を設けているが、この量子井戸4の代わりに量子ドット(相関光子対生成部材)11を設けた構成としても、同様に効率よく相関光子対を生成することが可能である。量子ドット11を用いる場合、上記した「共振器ポラリトンの振動数」を「ラビ分裂した準位の振動数」に置き換えることにより、上記と同様に光子対生成装置1の設計を行うことができる。なお、ラビ分裂とは、共振器モードと量子ドット中の励起子による結合モードの準位分裂を示す。
【0070】
図5は、量子ドット11を設けた構成として、2次元フォトニック結晶10を用いた共振器2の構成例を示している。2次元フォトニック結晶とは、平板状の基板に規則的に微少な穴(数百nmのオーダー)が形成されている構造体を示している。この2次元フォトニック結晶10に線欠陥を設けると、この線欠陥が光導波路として作用し、点欠陥を設けると、2次元フォトニック結晶10が共振器として作用することが知られている。この点欠陥に量子ドット11を埋め込むとともに、量子ドット11から3方向に光導波路としての線欠陥を設ける構成とする。この構成によれば、1本の線欠陥から入射光を入射させると、残りの2本の線欠陥から相関光子対が放出されることになる。
【0071】
また、図6に示すような共振器ピラーと呼ばれる構造によって、量子ドット11を含んだ共振器2が構成されてもよい。同図に示すように、共振器ピラーにおいて、第1DBRミラー3、共振空間領域7、および第2DBRミラー5をこの順に設けるとともに、共振空間領域7の中心付近に量子ドット11を設けることによって、相関光子対の生成効率の良い共振器2を構成することができる。
【0072】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、偏光に関して量子相関を有する光子対を高効率に生成することができる。このような相関光子対を用いることにより、量子テレポーテーションを利用した量子暗号などの量子情報通信技術に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係る光子対生成装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】励起子および励起子分子の緩和定数の大きさが1meV、0.1meV、および10μeVのそれぞれの場合の増強率を示すグラフである。
【図3】-偏光の振動数を、面内波数ベクトルが0の共振器ポラリトンの下枝の振動数に合わせる場合に、横軸に、励起子と共振器モードの光との相互作用の強さをとり、縦軸に、+偏光の差分振動数をとり、相関光子対の生成効率の計算値をグレースケールで示した図である。
【図4】(a)および(b)は、上記の計算の一例として、図3における上側の曲線および下側の曲線に沿って計算した状態(φ1)および状態(φ4)の成分の存在確率をそれぞれ示すグラフである。
【図5】2次元フォトニック結晶を用いた共振器の構成例を示す図である。
【図6】共振器ピラーと呼ばれる構造による、量子ドットを含んだ共振器の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 光子対生成装置
2 共振器
3 第1DBRミラー
4 量子井戸(相関光子対生成部材)
5 第2DBRミラー
6 光源
7 共振空間領域
10 2次元フォトニック結晶
11 量子ドット(相関光子対生成部材)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5