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明細書 :一次元モット絶縁体、一次元モット絶縁体薄膜及びそれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4930685号 (P4930685)
公開番号 特開2007-256775 (P2007-256775A)
登録日 平成24年2月24日(2012.2.24)
発行日 平成24年5月16日(2012.5.16)
公開日 平成19年10月4日(2007.10.4)
発明の名称または考案の名称 一次元モット絶縁体、一次元モット絶縁体薄膜及びそれらの製造方法
国際特許分類 G02F   1/361       (2006.01)
FI G02F 1/361
請求項の数または発明の数 12
全頁数 10
出願番号 特願2006-082966 (P2006-082966)
出願日 平成18年3月24日(2006.3.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2006年3月4日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第61巻第1号(第61回年次大会)第4分冊」に発表
審査請求日 平成20年11月4日(2008.11.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】山下 正廣
【氏名】岡本 博
【氏名】大津 英揮
【氏名】松▲崎▼ 弘幸
【氏名】田尾 祥一
【氏名】宮越 達三
【氏名】高石 慎也
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】佐藤 宙子
調査した分野 G02F 1/35
JSTPlus(JDreamII)
AIP-Journal
特許請求の範囲 【請求項1】
化学組成式が、〔Ni(L2)X〕2、ただし、Lは1,2-ジアミノアルカン、はハロゲン化物イオン、で表され、
上記Ni3+イオンとX-イオンとが交互に結晶b軸に沿って配置し、上記2つのLが、この2つのLの4つのN原子を介してNi3+イオンと結合し、且つ、結晶b軸に垂直な面内でNi3+イオンに配位した、NiとXから成る一次元鎖構造を有することを特徴とする、一次元モット絶縁体。
【請求項2】
前記1,2-ジアミノアルカンは、1,2-ジアミノヘキサデカン、1,2-ジアミノデカン、1,2-ジアミノウンデカン、1,2-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノトリデカン、1,2-ジアミノテトラデカン又は1,2-ジアミノペンタデカンであることを特徴とする請求項1に記載の一次元モット絶縁体。
【請求項3】
前記は、Br又はClであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の一次元モット絶縁体。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の一次元モット絶縁体とポリマーとから成ることを特徴とする、一次元モット絶縁体薄膜。
【請求項5】
前記ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル又はポリフェニレンビニレ
ンであることを特徴とする、請求項4に記載の一次元モット絶縁体薄膜。
【請求項6】
NiX2(ただし、Xはハロゲン化物イオン)粉末と前記1,2-ジアミノアルカンの粉末とをアルコールに溶かし、この溶液を室温で放置して上記アルコールを蒸発させることにより、NiII(ビス-1,2-ジアミノアルカン)22からなる微結晶を沈殿させる工程と、この微結晶をアルコールに分散させた縣濁液に、上記Xから成るガスを吹き込んで、〔NiIII(ビス-1,2-ジアミノアルカン)2X〕X2からなる微結晶を沈殿させる工程と、この微結晶を濾過して取り出す工程とから成り、請求項1~3の何れかに記載の一次元モット絶縁体を製造することを特徴とする、一次元モット絶縁体の製造方法。
【請求項7】
前記Xは、Br又はClであることを特徴とする、請求項6に記載の一次元モット絶縁体の製造方法。
【請求項8】
前記1,2-ジアミノアルカンは、1,2-ジアミノヘキサデカン、1,2-ジアミノデカン、1,2-ジアミノウンデカン、1,2-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノトリデカン、1,2-ジアミノテトラデカン又は1,2-ジアミノペンタデカンであることを特徴とする、請求項6に記載の一次元モット絶縁体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~3の何れかに記載の一次元モット絶縁体の粉末とポリマーと溶媒とを混合する工程と、この混合液をスピンコートする工程とからなり、請求項4に記載の一次元モット絶縁体薄膜を製造することを特徴とする、一次元モット絶縁体薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル又はポリフェニレンビニレンであることを特徴とする、請求項9に記載の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒は、クロロホルム、ブロモホルム、ジクロロメタン又はトルエンであることを特徴とする、請求項9に記載の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記一次元モット絶縁体の粉末とポリマーとの重量混合比は、一次元モット絶縁体を1として、ポリマーは1~20の範囲であることを特徴とする、請求項9に記載の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな三次の非線形光学定数を有し、薄膜化が可能な一次元モット絶縁体とこれを用いた一次元モット絶縁体薄膜及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学効果は、原子核に弱く結合された価電子が光電界に応じて変位することによって生ずることから、非線形光学効果の応答速度は光周波数に追随できる程度に超高速である。また、非線形光学効果によって物質の屈折率が変化するので、非線形光学物質に非線形光学効果を生起するエネルギーの光を照射すれば、物質の屈折率を超高速に変化させることができる。
【0003】
非線形光学効果を有する材料は、光で光を制御するデバイス、すなわち、全光型デバイスへの応用が嘱望されている。例えば、情報通信の高速化需要に伴い光情報通信が普及しつつあるが、現状では、信号及び信号の伝送路が光化されているに止まっている。さらなる高速化のためには、信号経路の交換動作も光交換動作とする必要がある。例えば、非線形光学材料で形成した光導波路から成る光方向性結合器の光結合部に、非線形光学効果を生起するエネルギーの光を照射すれば、光結合部の光導波路の屈折率を超高速に変化させることができるので、光信号が伝搬する光導波路を超高速に切り替えることができ、超高速な交換動作を実現することができる。
【0004】
このため、従来から、大きな非線形光学効果を有する材料の探索が行われてきたが、中でも、電子とホールを一次元空間に閉じ込めることによる量子効果により、三次の非線形光学効果が大きくなることが理論的に予測されてからは、電子とホールを一次元空間に閉じ込めた電子構造を有する物質の三次の非線形光学効果の探索が行われてきた。
そのような物質として、シリコンポリマー・バンド絶縁体や、π共役系ポリマー・パイエルス(Peierls)絶縁体が注目されてきた。
【0005】
このような状況の中で、本発明者らは、電子とホールを一次元空間に閉じ込めた構造を有する他の物質として一次元モット絶縁体を提案し、実際に、ハロゲン架橋〔Ni(chxn)2 X〕Y2 (ただし、chxnはシクロヘキサンジアミン、Xはハロゲン化物イオン、Yはハロゲン化物イオン又は硝酸イオン)からなる一次元モット絶縁体が、10-8~10-5esuの大きさの三次の非線形光学定数を有することを見いだした。この三次の非線形光学定数は、シリコンポリマー・バンド絶縁体やπ共役系ポリマー・パイエルス絶縁体の三次の非線形光学定数10-12 ~10-7esuに較べて極めてきい(非特許文献1~3参照)。
【0006】
図3は、ハロゲン架橋〔Ni(chxn)2 X〕Y2 の主要な構造を示す図である。図に示すように、Ni3+イオンとX- イオンとが交互に結晶b軸に沿って配置され、2つのchxn(cyclohexanediamine)のアミノ基の4つのN原子がNi3+イオンと結合し、この2つのchxn配位子が結晶b軸に垂直な面内でNi3+イオンに配位した、NiとXから成る一次元鎖構造を有し、Ni3+イオンのd軌道とX- イオンのp軌道とが混成した一次元電子構造を有している。また、この物質は強相関電子系物質に属し、格子点のNi間の大きなクーロン斥力によって、ハバード・バンド(Hubbard・band)が上下に分割されて形成されるバンドギャップを有し、バンドギャップ内にX- イオンのp軌道準位が存在するエネルギー構造を有している。上部ハバード・バンドとp軌道準位とのエネルギー差に相当するエネルギーの光を照射すると、X- イオンのp軌道準位からNi3+イオンの上部ハバード・バンドへ電子が励起される電荷移動(Charge Transfer)が強く起こり、大きな三次の非線形光学効果が生じる。またハロゲン架橋〔Ni(chxn)2 X〕Y2 の三次の非線形光学定数の大きさは、十分、上記全光型デバイスの応用に供することができる大きさである。

【非特許文献1】H.Kishida et al.,Nature 405,929(2000)
【非特許文献2】M.Ono et al.,Physical Review B 70,85101(2004)
【非特許文献3】M.Ono et al.,Physical Review Letters 95,87401(2005)
【非特許文献4】MANSOOPR SHEIK-BAHAE et al.,IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS,VOL.26,NO.4,APRIL,760(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、三次の非線形光学定数を有する物質を光デバイスに応用する場合、例えば、上記光交換機に応用する場合には、この物質の薄膜からなる光導波路を形成することが、装置を小型化する上で好ましい。しかしながら、ハロゲン架橋〔Ni(chxn)2 X〕Y2 は、真空蒸着法により薄膜化しようとすると分子量が大きすぎて昇華できず、溶媒に分散させることができず、水にしか溶けない。しかも、水に溶かした場合は一次元鎖が切断されて、三次の非線形光学効果を失ってしまうので、スピンコート法によっても薄膜化できないという課題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、大きな三次の非線形光学定数を有し、且つ、薄膜化できる新たな一次元モット絶縁体、この一次元モット絶縁体を用いた一次元モット絶縁体薄膜、この一次元モット絶縁体の製造方法、さらにこの一次元モット絶縁体を用いた一次元モット絶縁体薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の一次元モット絶縁体は、化学組成式が、
〔Ni(L2)X〕2、ただし、Lは1,2-ジアミノアルカン、はハロゲン化物イオン、
で表され、Ni3+イオンとX-イオンとが交互に結晶b軸に沿って配置され、2つのLが、この2つのLのアミノ基の4つのN原子を介してNi3+イオンと結合し、且つ、結晶b軸に垂直な面内でNi3+イオンに配位した、NiとXから成る一次元鎖構造を有することを特徴とする。

【0010】
また、1,2-ジアミノアルカンは、1,2-ジアミノヘキサデカン(1,2-diaminohexadecane)、1,2-ジアミノデカン(1,2-diaminodecane)、1,2-ジアミノウンデカン(1,2-diaminoundecane)、1,2-ジアミノドデカン(1,2-diaminododecane)、1,2-ジアミノトリデカン(1,2-diaminotridecane)、1,2-ジアミノテトラデカン(1,2-diaminotetradecane)、又は1,2-ジアミノペンタデカン(1,2-diaminopentadecane)であれば好ましい。また、上記1,2-ジアミノアルカンのそれぞれによって形成される、本発明の一次元モット絶縁体の学術名称は、ビス-1,2-ジアミノヘキサデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminohexadecanebromonickel(III)bromide)、ビス-1,2-ジアミノデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminodecanebromonickel(III)bromide)、ビス-1,2-ジアミノウンデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminoundecanebromonickel(III)bromide)、ビス-1,2-ジアミノドデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminododecanebromonickel(III)bromide)、ビス-1,2-ジアミノトリデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminotridecanebromonickel(III)bromide)、ビス-1,2-ジアミノテトラデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminotetradecanebromonickel(III)bromide)、及び、ビス-1,2-ジアミノペンタデカンブロモニッケル(III)ブロミド(bis-1,2-diaminopentadecanebromonickel(III)bromide)である。
【0011】
また、は、Br又はClであれば好ましい。

【0012】
上記構成の一次元モット絶縁体は、従来のハロゲン架橋〔Ni(chxn)2 X〕Y2 一次元モット絶縁体と同等の大きさの三次の非線形光学定数を有し、且つ、薄膜化できる物質である。
【0013】
本発明の一次元モット絶縁体薄膜は、上記の一次元モット絶縁体とポリマーとから成ることを特徴とする。
ポリマーはポリメタクリル酸メチル(poly-metyl methacrylate)、ポリ塩化ビニル(poly-vinyl chloride)、又はポリフェニレンビニレン(poly-phenylene vinylene)であれば好ましい。
【0014】
上記本発明の一次元モット絶縁体の製造方法は、NiX2 (ただし、Xはハロゲン化物イオン)粉末と1,2-ジアミノアルカンの粉末とをアルコールに溶かし、この溶液を室温で放置してアルコールを蒸発させることにより、NiII(ビス-1,2-ジアミノアルカン)2 2 からなる微結晶を沈殿させる工程と、この微結晶をアルコールに分散させた縣濁液に、上記Xから成るガスを吹き込んで、〔NiIII (ビス-1,2-ジアミノアルカン)2 X〕X2 からなる微結晶を沈殿させる工程と、この微結晶を濾過して取り出す工程とから成ることを特徴とする。
Xは、Br又はClであれば好ましい。1,2-ジアミノアルカンは、1,2-ジアミノヘキサデカン、1,2-ジアミノデカン、1,2-ジアミノウンデカン、1,2-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノトリデカン、1,2-ジアミノテトラデカン又は1,2-ジアミノペンタデカンであれば好ましい。
【0015】
また、本発明の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法は、上記本発明の一次元モット絶縁体の粉末とポリマーと溶媒とを混合する工程と、この混合液をスピンコートする工程とからなることを特徴とする。
ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル又はポリフェニレンビニレンであれば好ましい。
溶媒は、クロロホルム(chloroform)、ブロモホルム(bromoform)、ジクロロメタン(dichloromethane)又はトルエン(toluene)であれば好ましい。
一次元モット絶縁体の粉末とポリマーとの重量混合比は、一次元モット絶縁体を1として、ポリマーは1~20の範囲であれば好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一次元モット絶縁体は、極めて大きな三次の非線形光学効果を有するので、全光型デバイス用材料として使用することができる。本発明の一次元モット絶縁体薄膜は、極めて大きな三次の非線形光学効果を有する薄膜であるので、小型の全光型デバイス用材料として使用できる。本発明の一次元モット絶縁体の製造方法によれば、本発明の一次元モット絶縁体を製造することができる。本発明の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法によれば、本発明の一次元モット絶縁体薄膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
初めに、本発明の一次元モット絶縁体の構成を説明する。
図1は、本発明の一次元モット絶縁体の一次元鎖部分及び配位子部分を模式的に示す図である。大きな○はNi3+イオン、斜線を施した○はX- イオン(ハロゲンイオン)、中位の大きさの○はN原子、小さな○はC原子を表す。C原子及びN原子に結合しているH原子は図を見やすくするため省略している。
本発明の一次元モット絶縁体は、図3に示した、〔Ni(chxn)2 X〕Y2 一次元モット絶縁体と較べて、Ni3+イオンの配位子chxnが、1,2-ジアミノアルカンに置換されていることのみが異なるので、図1においては、一次元鎖及び配位子部分のみを示している。
【0018】
図1において、本発明の一次元モット絶縁体1は、Ni3+イオンとX- イオンとが交互に結晶b軸に沿って配置された一次元鎖構造を有し、ジアミノアルカンから成る配位子2が、各々のNi3+イオンに2つ配位した構造を有しており、また、2つのジアミノアルカンから成る配位子2は、結晶b軸に垂直な面内で配位している。なお、図ではジアミノアルカンから成る配位子2のアルキル鎖4の長手方向が結晶a軸方向に配向している場合を示しているが、これに限らず、結晶c軸方向に配向する場合もある。
図1では、ジアミノアルカン2が1,2-ジアミノヘキサデカンである場合を例示しているが、ジアミノアルカン2は炭素数が異なる他のジアミノアルカン、すなわち、1,2-ジアミノデカン、1,2-ジアミノウンデカン、1,2-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノトリデカン、1,2-ジアミノテトラデカン、又は、1,2-ジアミノペンタデカンであっても良い。
また、Xは、Br又はClであれば、結晶性が良くなり好ましい。
【0019】
この構成によれば、Ni3+イオンのd軌道とX- イオンのp軌道とが混成した一次元電子構造3が形成され、強相関電子相互作用による、Ni間の大きなクーロン斥力によって、ハバード・バンドが上部ハバード・バンドと下部ハバード・バンドに分裂してバンドギャップが形成され、バンドギャップ内にX- イオンのp軌道準位が存在するエネルギー構造が形成される。上部ハバード・バンドとこのp軌道準位とのエネルギー差に相当するエネルギーの光を照射すると、X- イオンのp軌道準位からNi3+イオンの上部ハバード・バンドへ電子が励起される電荷移動遷移が強く起こり、大きな三次の非線形光学効果が生じる。
さらに、ジアミノアルカンからなる配位子2のアルキル鎖4によって、一次元モット絶縁体1を溶媒に均一に分散させことができ、且つ、この分散によって、一次元モット絶縁体1の一次元鎖構造が破壊されることがない。従って、一次元モット絶縁体1からなる、大きな三次の非線形光学効果を有する薄膜を形成することができる。
【0020】
次に、上記本発明の一次元モット絶縁体とポリマーとから成る本発明の一次元モット絶縁体薄膜を説明する。
本発明の一次元モット絶縁体薄膜は、図1に示した一次元モット絶縁体1をポリマー中に分散させた薄膜である。
従来の〔Ni(chxn)2 X〕Y2 は、水にしか溶けず、水に溶かした場合は一次元鎖が切断されてしまうので、三次の非線形光学効果が失われてしまい、スピンコート法によっても薄膜化できないものであったが、上記に説明したように、本発明の一次元モット絶縁体の配位子のアルキル鎖が、本発明の一次元モット絶縁体を溶媒中に分散させる効果を有し、また、分散させても一次元鎖が切断されないので、ポリマー中に一次元モット絶縁体を分散した、大きな三次の非線形光学効果を有する薄膜が得られる。
ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル又はポリフェニレンビニレンであればよい。
【0021】
次に、本発明の一次元モット絶縁体の製造方法を説明する。
本発明の一次元モット絶縁体の製造方法は、NiX2 (ただし、Xはハロゲン化物イオン)粉末と1,2-ジアミノアルカンの粉末とをアルコールに溶かし、この溶液を空気中、室温で放置してアルコールを蒸発させることにより、NiII(ビス-1,2-ジアミノアルカン)2 2 からなる微結晶を沈殿させる工程と、この微結晶をアルコールに分散させた縣濁液に、上記Xから成るガスを吹き込んで、〔NiIII (ビス-1,2-ジアミノアルカン)2 X〕X2 からなる微結晶を沈殿させる工程と、この微結晶を濾過して取り出す工程とから成る。
Xは、Br又はClであれば好ましく、また、1,2-ジアミノアルカンは、1,2-ジアミノヘキサデカン、1,2-ジアミノデカン、1,2-ジアミノウンデカン、1,2-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノトリデカン、1,2-ジアミノテトラデカン、又は、1,2-ジアミノペンタデカンであっても良い。アルコールは、メタノール又はエチルアルコールであれば好ましい。
NiX2 と1,2-ジアミノアルカンの混合比は、モル比で約1:2となるように混合するのが好ましく、また、アルコールは、NiX2 と1,2-ジアミノアルカンが完全に溶けて溶液となる量を適宜混合すればよい。
この方法によれば、μmオーダーの大きさの、本発明の一次元モット絶縁体である〔NiIII (ビス-1,2-ジアミノアルカン)2 X〕X2 微結晶が得られる。なお、この微結晶は単結晶である。
【0022】
次に、本発明の一次元モット絶縁体とポリマーとからなる本発明の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法を説明する。
本発明の一次元モット絶縁体薄膜の製造方法は、上記本発明の一次元モット絶縁体の粉末とポリマーと溶媒とを混合する工程と、この混合液をスピンコートする工程とからなる。ポリマーは、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル又はポリフェニレンビニレンであれば好ましい。溶媒は、クロロホルム、ブロモホルム、ジクロロメタン又はトルエンであれば良い。
一次元モット絶縁体の粉末とポリマーとの重量混合比は、一次元モット絶縁体を1として、ポリマーは1~20の範囲であれば好ましく、1未満であると均一に分散しなくなり、20を越えると三次の非線形光学定数が小さくなる。また、溶媒は、一次元モット絶縁体とポリマーとが均一に分散する量を適宜加えればよい。
【実施例1】
【0023】
本発明の一次元モット絶縁体の実施例を説明する。
市販のNiBr2 ・3H2 O粉末(0.545g、2ミリモルに相当)と、1,2-ジアミノヘキサデカン粉末(1.026g、4ミリモルに相当)と、メチルアルコール(30ミリリットル)とを加えて溶液を作製した。この溶液を空気中、室温で数日間放置してメチルアルコールを蒸発させ、NiII(ビス-1,2-ジアミノヘキサデカン)2 Br2 からなる微結晶を沈殿させた。
次に、NiII(ビス-1,2-ジアミノヘキサデカン)2 Br2 からなる微結晶(0.073g、0.1ミリモルに相当)をエチルアルコール(4ミリリットル)に入れて縣濁液とし、この縣濁液中にBr2 ガスを吹き込み、〔NiIII (ビス-1,2-ジアミノヘキサデカン)2 Br〕Br2 からなる微結晶を沈殿させた。
次に、フィルターを用いて濾過し、〔NiIII (ビス-1,2-ジアミノヘキサデカン)2 Br〕Br2 からなる微結晶を得た。この微結晶は粒径がμmオーダーの単結晶であった。
【実施例2】
【0024】
次に、本発明の一次元モット絶縁体とポリマーとからなる本発明の一次元モット絶縁体薄膜の実施例を説明する。
上記実施例で作製した〔NiIII (ビス-1,2-ジアミノヘキサデカン)2 Br〕Br2 をメノウ鉢ですりつぶした微粉末(4.4ミリg)と、ポリメタクリル酸メチル(36.5ミリg)と、クロロホルム(0.55ミリリットル)とを加え、30分間超音波を照射して混合した。次にこの混合物を、赤外光帯域から紫外光領域に亘って透明なフッ化カルシウム基盤(φ19mm)にスピンコート(4000rpm、20秒)して薄膜を形成した。
この薄膜の三次の非線形光学定数χ(3) を、収束するガウシアンビームを試料に照射し、収束点近傍の光軸上で試料を走査した際の透過ガウシアンビームの変化から非線形屈折率を測定するZ-スキャン法(非特許文献4参照)で測定した。最大値は、フォトンエネルギー1.3eVにおいて、Reχ(3) =-7.8×10-9esu、及び、Imχ(3) =2.8×10-9esuであった。この三次の非線形光学定数χ(3) の大きさは、従来の〔Ni(chxn)2 X〕Y2 からなる一次元モット絶縁体の、Z-スキャン法による三次の非線形光学定数の測定値とほぼ同等な大きさである。
【0025】
次に、実施例2で作製した本発明の一次元モット絶縁体薄膜に光を照射して測定した吸収スペクトルと、従来の〔Ni(chxn)2 Br〕Br2 からなる一次元モット絶縁体単結晶で測定した反射スペクトルを、Kramers-Kronig変換して求めた吸収スペクトルを比較した。
図2は、本発明の一次元モット絶縁体薄膜と従来の〔Ni(chxn)2 Br〕Br2 からなる一次元モット絶縁体単結晶の吸収スペクトルを比較した図であり、(a)は本発明の一次元モット絶縁体薄膜、(b)は従来の〔Ni(chxn)2 Br〕Br2 からなる一次元モット絶縁体単結晶の吸収スペクトルを示し、横軸はフォトンエネルギー、縦軸は吸光度を示す。
図からわかるように、約1.3eVにある鋭い吸収ピークのエネルギー位置や形状を含めて(a)と(b)はよい一致を示しており、この結果から、本発明の一次元モット絶縁体薄膜は、従来の〔Ni(chxn)2 Br〕Br2 からなる一次元モット絶縁体単結晶と同等の三次の非線形光学定数を有すると共に、散乱の少ない良質な光学薄膜であることが分かる。また、図からわかるように、本発明の一次元モット絶縁体薄膜は、1.5μm帯域で透明であることから、1.5μm帯域を使用する現在の光通信分野の全光型光デバイス用の薄膜材料として最適であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上記説明から理解されるように、本発明の一次元モット絶縁体は、三次の非線形光学定数が大きく、且つ、薄膜化できるので、例えば、光方向性結合器、吸収型on-off光スイッチングデバイス、光双安定デバイス、或いは、マッハツェンダー型光スイッチングデバイスに使用すれば、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一次元モット絶縁体の一次元鎖部分及び配位子部分を模式的示す図である。
【図2】本発明の一次元モット絶縁体薄膜と従来の〔Ni(chxn)2 Br〕Br2 からなる一次元モット絶縁体単結晶の吸収スペクトルを比較する図であり、(a)は本発明の一次元モット絶縁体薄膜、(b)は従来の〔Ni(chxn)2 Br〕Br2 からなる一次元モット絶縁体単結晶の吸収スペクトルを示し、横軸はフォトンエネルギー、縦軸は吸光度を示す。
【図3】従来のハロゲン架橋〔Ni(chxn)2 X〕Y2 (ただし、chxnはシクロヘキサンジアミン、Xはハロゲン化物イオン、及び、Yはハロゲン化物イオン又は硝酸イオン)一次元モット絶縁体の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 一次元モット絶縁体
2 ジアミノアルカンからなる配位子
3 一次元鎖
4 アルキル鎖
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2