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明細書 :粘膜ワクチンアジュバントのスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5164034号 (P5164034)
公開番号 特開2007-312682 (P2007-312682A)
登録日 平成24年12月28日(2012.12.28)
発行日 平成25年3月13日(2013.3.13)
公開日 平成19年12月6日(2007.12.6)
発明の名称または考案の名称 粘膜ワクチンアジュバントのスクリーニング方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/00 102
C12Q 1/02 ZNA
A01K 67/027
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 25
出願番号 特願2006-146012 (P2006-146012)
出願日 平成18年5月25日(2006.5.25)
審査請求日 平成21年5月12日(2009.5.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】審良 静男
【氏名】植松 智
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】佐久 敬
参考文献・文献 粘膜ワクチン開発の基礎となるアジュバント開発に関する研究 平成17年度 総括・分担研究報告書,(2006 4月), p.23-27
FEBS Lett, (Epub 2006 Apr), vol.580, no.12, p.2976-2984
Infect Immun, (2006 Jan), vol.74, no.1, p.694-702
Ther Res, (2004), vol.25, no.8, p.1705-1720
Immunity, (2006 Jan), vol.24, no.1, p.41-51
J Immunol, (2006 Jan), vol.176, no.2, p.803-810
調査した分野 C12N 5/10
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
PubMed
BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
TLR5をコードする内在性遺伝子の全部又は一部を遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物から単離されるCD11c腸管粘膜固有層細胞(LPC)。
【請求項2】
TLR5をコードする内在性遺伝子の全部又は一部を遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物から単離されるCD11c腸管粘膜固有層細胞(LPC)を、フラジェリンに対して免疫不応答性を示すモデル細胞としてインビトロで使用する方法。
【請求項3】
TLR5をコードする内在性遺伝子の全部又は一部を遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させることによって作製される、腸管粘膜へのサルモネラ菌感染に対して耐性を示す非ヒトモデル動物。
【請求項4】
サルモネラ菌が、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)であることを特徴とする請求項記載の非ヒトモデル動物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌由来フラジェリンを特異的に認識するTLR5タンパク質をコードする遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物を用いた粘膜ワクチンアジュバントのスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
トール(Toll)遺伝子は、ショウジョウバエの胚発生中の背腹軸の決定(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)、また成体における抗真菌性免疫応答に必要であることが知られている(例えば、非特許文献3参照。)。かかるTollは、細胞外領域にロイシンリッチリピート(LRR)を有するI型膜貫通受容体であり、この細胞質内領域は、哺乳類インターロイキン-1受容体(IL-1R)の細胞質内領域と相同性が高いことが明らかとなっている(例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6参照。)。
【0003】
近年、Toll様受容体(TLR)と呼ばれるTollの哺乳類のホモログが同定され、TLR2やTLR4など現在までに13つのファミリーが報告されている(例えば、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10参照。)。このTLRファミリーは、上記IL-1Rと同様にアダプタータンパク質であるMyD88を介し、IL-1R結合キナーゼ(IRAK)をリクルートし、TRAF6を活性化し、下流のNF-κBを活性化することが知られている(例えば、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13参照。)。また、哺乳類におけるTLRファミリーの役割は、細菌の共通構造を認識するパターン認識受容体(PRR:pattern recognition receptor)として、先天的な免疫認識に関わっているとも考えられている(例えば、非特許文献14参照。)。
【0004】
上記PRRにより認識される病原体会合分子パターン(PAMP:pathogen-associated molecular pattern)の一つは、グラム陰性菌の外膜の主成分であるリポ多糖(LPS)であって(例えば、非特許文献15参照。)、かかるLPSが宿主細胞を刺激して宿主細胞にTNFα、IL-1及びIL-6等の各種炎症性サイトカインを産生させること(例えば、非特許文献16、非特許文献17参照。)や、LPS結合タンパク質(LBP:LPS-binding protein)により捕獲されたLPSが細胞表面上のCD14に引き渡されることが知られている(例えば、非特許文献18、非特許文献19参照。)。本発明者らは、TLR4のノックアウトマウスを作製し、TLR4ノックアウトウスが上記グラム陰性菌の外膜の主成分であるLPSに不応答性であること(例えば、非特許文献20参照。)や、TLR2ノックアウトマウスを作製し、TLR2ノックアウトマウスのマクロファージがグラム陽性菌細胞壁やその構成成分であるペプチドグリカンに対する反応性が低下すること(例えば、非特許文献21参照。)を報告している。
【0005】
一方、細菌フラジェリンは構造タンパク質であり、鞭毛の大部分を形成し、宿主表面での走化作用、接着及び浸潤を通して病原性に寄与する(例えば、非特許文献22参照。)が、リステリア培養上清から単離されたTLR5刺激成分が、フラジェリンであることが明らかにされている(例えば、非特許文献23参照。)。サルモネラのフラジェリンもまた、TLR5の刺激リガンドであることが明らかになっている(例えば、非特許文献24参照。)。以上のように、TLRファミリー構成員のうち、タンパク質リガンドを認識すると明らかにされたTLRは、TLR5が初めてである(例えば、非特許文献25参照。)。このようにTLR5は、グラム陽性菌由来及びグラム陰性菌由来のどちらのフラジェリンも認識し、インビトロでの研究では、TLR5がフラジェリンモノマーの保存領域を認識して、獲得免疫応答のみならず炎症性免疫応答を惹起することが明らかにされている(例えば、非特許文献26参照。)。
【0006】
さらにTLR5は、腸管上皮細胞の基底膜側に発現し、粘膜面における有鞭毛細菌の浸潤の認識に、重要な役割を果たすと考えられており(例えば、非特許文献27参照。)、ヒト腸管上皮細胞株では、フラジェリンに応答してケモカインの産生を誘導し、それが後に未成熟樹状細胞(DC)の遊走を導くこと(例えば、非特許文献28参照。)や、TLR5がヒトの肺に高度に発現し(例えば、非特許文献29参照。)、ヒトTLR5の多形性とレジオネラ症に対する感受性との間には、相関関係があることが明らかになっている(例えば、非特許文献30参照。)。このような証拠から、TLR5が有鞭毛病原体の重要な感知器であることが示唆されるが、TLR5のインビボでの役割は未だ解明されていなかった。
【0007】

【非特許文献1】Cell 52, 269-279, 1988
【非特許文献2】Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 12, 393-416, 1996
【非特許文献3】Cell 86,973-983, 1996
【非特許文献4】Nature 351, 355-356, 1991
【非特許文献5】Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 12, 393-416, 1996
【非特許文献6】J. Leukoc. Biol. 63, 650-657, 1998
【非特許文献7】Nature 388, 394-397, 1997
【非特許文献8】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 588-593, 1998
【非特許文献9】Blood 91, 4020-4027, 1998
【非特許文献10】Gene 231, 59-65, 1999
【非特許文献11】J. Exp. Med. 187, 2097-2101, 1998
【非特許文献12】Mol. Cell 2, 253-258, 1998
【非特許文献13】Immunity 11, 115-122, 1999
【非特許文献14】Cell 91, 295-298, 1997
【非特許文献15】Cell 91, 295-298, 1997
【非特許文献16】Adv. Immunol. 28, 293-450, 1979
【非特許文献17】Annu. Rev. Immunol. 13, 437-457, 1995
【非特許文献18】Science 249, 1431-1433, 1990
【非特許文献19】Annu. Rev. Immunol. 13, 437-457, 1995
【非特許文献20】J. Immunol. 162, 3749-3752, 1999
【非特許文献21】Immunity, 11, 443-451, 1999
【非特許文献22】Annu Rev Genet 26, 131-58., 1992
【非特許文献23】Nature 410, 1099-103. , 2001
【非特許文献24】J Immunol 167, 1882-5, 2001
【非特許文献25】Nature 410, 1099-103. , 2001
【非特許文献26】Immunol Lett 101, 117-22., 2005
【非特許文献27】J Immunol 167, 1882-5., 2001
【非特許文献28】Proc Natl Acad Sci USA 98, 13722-7., 2001
【非特許文献29】Genomics 64, 230-40., 2000
【非特許文献30】J Exp Med 198, 1563-72., 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
TLR5はインビトロで、フラジェリンに対する受容体として同定されたが、そのインビボでの機能は明確になっていない。他のTLRファミリー構成員とは異なり、TLR5はマウスの脾臓細胞、腹膜マクロファージ及びCM-DCには発現せず、それが自然免疫におけるTLR5の機能に対する取り組みを困難にしている。本発明の課題は、経口や経鼻などの粘膜から投与し粘膜免疫を活性化することで粘膜面と生体内の二重のバリア機能が獲得できる粘膜ワクチンのアジュバントのスクリーニング方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、既に同定されているTLR5のcDNAを、マウス遺伝子ライブラリーから単離し、このTLR5遺伝子部位を、ネオマイシン耐性遺伝子に置き換え、またそれぞれのC末端側にHSV-tk遺伝子を導入させて、G418とガンシクロビアに対して2重に抵抗力のあるES細胞クローンをスクリーニングし、このES細胞クローンをC57BL/6のマウスの胚盤胞(blastocysts)の中に注入し、その生殖系列をとおして、メンデルの法則に従い出生してくるTLR5遺伝子機能が染色体上で欠損したTLR5ノックアウトマウスを作製し、このTLR5ノックアウトマウスと野生型マウスとを比較・解析することにより、フラジェリンはTLR5の天然リガンドであることを確認した。さらに、近年確立された、生存率の高いLPCの単離方法を用い、TLR5がマウスの腸管のCD11cLPCに特異的に発現することや、CD11cLPCがTLR5を特異的に発現させ、フラジェリンに応答して炎症性サイトカインを誘導すること、CD11cLPCは主にTLR5を通して病原性の有鞭毛細菌を感知し、炎症性応答を誘導すること、TLR5は当初は有鞭毛細菌に対する宿主の防御を誘導したが、TLR5-/-マウスは、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)の経口感染に対して耐性を生じ、腸管から腸間膜リンパ節(MLN)への移行が低下すること等を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(1)TLR5をコードする内在性遺伝子の全部又は一部を遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物から単離されるCD11c腸管粘膜固有層細胞(LPC)に関する。
【0011】
また本発明は、(2)TLR5をコードする内在性遺伝子の全部又は一部を遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物から単離されるCD11c腸管粘膜固有層細胞(LPC)を、フラジェリンに対して免疫不応答性を示すモデル細胞としてインビトロで使用する方法に関する。
【0012】
さらに本発明は、(3)TLR5をコードする内在性遺伝子の全部又は一部を遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させることによって作製される、腸管粘膜へのサルモネラ菌感染に対して耐性を示す非ヒトモデル動物に関する。
【0013】
また本発明は、(4)サルモネラ菌が、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)であることを特徴とする上記(3)記載の非ヒトモデル動物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスクリーニング方法によると、サルモネラ菌等の有鞭毛細菌による全身性感染症などの細菌感染症に対する治療に優れた粘膜ワクチンアジュバントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のスクリーニング方法としては、野生型非ヒト動物由来のCD11c腸粘膜固有層細胞(LPC)と、有鞭毛細菌由来のフラジェリン又は有鞭毛細菌由来の鞭毛とを、被検物質の存在下又は非存在下に、インビトロでインキュベーションして接触させ、上清中のIL-6及び/又はIL-12p40の濃度を測定し、被検物質の非存在下に比べて被検物質の存在下におけるIL-6及び/又はIL-12p40の測定濃度の上昇を指標として選択する方法(スクリーニング方法I)や、野生型非ヒト動物に、有鞭毛細菌と被検物質とを経口的に投与し、腸間膜リンパ節(MLN)における有鞭毛細菌数を測定し、有鞭毛細菌のみを経口的に投与した場合に比べて、有鞭毛細菌数の減少を指標として粘膜ワクチンアジュバントを選択する方法(スクリーニング方法II)であれば特に制限されず、また、本発明の使用方法としては、非ヒト動物由来のCD11cLPCを、インビトロで有鞭毛細菌由来のフラジェリン又は有鞭毛細菌由来の鞭毛で刺激することを含む、前記CD11cLPCを粘膜ワクチンアジュバントのスクリーニングに使用する方法(使用方法I)や、TLR5をコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部を破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物に有鞭毛細菌を経口投与することを含む、前記非ヒト動物を粘膜ワクチンアジュバントのスクリーニングに使用する方法(使用方法II)であれば特に制限されず、上記粘膜ワクチンアジュバントとしては、腸粘膜ワクチンを活性化するTLR5のアゴニスト等を例示することができ、アジュバント候補物質(被検物質)としては、タンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、天然有機化合物、合成有機化合物等を挙げることができる。
【0016】
上記有鞭毛細菌(グラム陽性細菌やグラム陰性細菌の鞭毛)としては、鞭毛を有する細菌であれば特に制限されず、例えばサルモネラ菌、ボツリヌス菌、リステリア菌、ヘリコバクター・ピロリ菌、レジオネラ菌、大腸菌、腸炎ビブリオ、枯草菌等のバチルス菌、カンピロバクター菌、コレラ菌、シュードモナス菌、類鼻疽菌、気管支敗血症菌等を挙げることができ、中でもサルモネラ菌を好適に例示することができる。サルモネラ菌としては、サルモネラ・ティフィムリウム(S. typhimurium)、サルモネラ・エンティリティディス(S. enteritidis)、サルモネラ・エンテリカ(S.enterica)、サルモネラ・コレレスイス(S. choleraesuis)、サルモネラ・ダブリン(S. dublin)、サルモネラ・チフィー(S. typhi)、サルモネラ・パラチフィー(S. paratyphi)、サルモネラ・デルビィ(S. derby)、サルモネラ・ハダー(S. hadar)、サルモネラ・ハイデルベルク(S. heidelberg)、サルモネラ・アゴナ(S. agona)、サルモネラ・アリゾナ(S. arizonae)等を挙げることができる。
【0017】
上記有鞭毛細菌由来のフラジェリンとしては、上記有鞭毛細菌から分離精製したフラジェリンタンパク質や、フラジェリン遺伝子を用いて常法により遺伝子組換え技術により発現させたフラジェリンタンパク質を例示することができ、TLR5の生体における機能からして、有鞭毛細菌の種類は特に制限されない。
【0018】
また、上記細菌由来鞭毛としては、上記有鞭毛細菌から分離した鞭毛自体の他、上記有鞭毛細菌(生菌又は死菌)、サルモネラ・ティフィムリウム、サルモネラ・エンティリティディス等のサルモネラ菌由来のフラジェリン遺伝子を膜表面アンカーリングプラスミドベクターにインテグレートしたフラジェリン発現ベクターで形質転換し、菌体表層にフラジェリンを発現する宿主細菌を挙げることができる。
【0019】
上記のTLR5をコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部を破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物としては、マウス、ラット等の齧歯目動物や、ウサギ目動物等のTLR5ホモ欠損型(TLR5-/-)非ヒト動物を好適に例示することができるが、中でもTLR5-/-マウスを好適に例示することができる。以下、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物の作製方法を、TLR5ノックアウトマウス(TLR5-/-マウス)を例にとって説明する。
【0020】
マウス遺伝子ライブラリーから、TLR5遺伝子の配列情報からPCR等の方法により得られた遺伝子断片を用いて、TLR5をコードする遺伝子をスクリーニングし、スクリーニングされたTLR5遺伝子を、ウイルスベクター等を用いてサブクローンし、DNAシーケンシングにより特定する。このTLR5をコードする遺伝子の全部又は一部をpMC1ネオ遺伝子カセット等に置換し、3′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入することによって、ターゲットベクターを作製する。
【0021】
この作製されたターゲティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によってES細胞に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質により相同的組換えを起こしたES細胞を選択する。また、この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。その確認されたES細胞のクローンをマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型マウスとインタークロスさせると、ヘテロ接合体マウス(F1マウス:+/-)を得ることができ、また、このヘテロ接合体マウスをインタークロスさせることによって、TLR5ノックアウトマウス(TLR5-/-マウス)を作製することができる。また、TLR5ノックアウトマウスにおいてTLR5が生起しているかどうかを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスからRNAを単離してノーザンブロット法等により調べたり、またこのマウスにおけるTLR5の発現をウエスタンブロット法等により調べる方法がある。
【0022】
ところで、メンデルの法則に従い出生してくるホモ接合体非ヒト動物には、TLR5ホモ欠損型非ヒト動物とその同腹の野生型(TLR5+/+)非ヒト動物とが含まれ、これらホモ接合体非ヒト動物における欠損型とその同腹の野生型を同時に用いることによって個体レベルで正確な比較実験をすることができることから、非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物、中でも同腹の非ヒト動物を、例えば本発明のスクリーニング方法IIに際して併用することが好ましい。
【0023】
また、本発明のスクリーニング方法Iにおける野生型及び(TLR5を発現する機能を喪失させた)TLR5欠損型の非ヒト動物由来のCD11c腸管粘膜固有層細胞(LPC)は、粘膜固有層に存在する全ての細胞を意味し、文献(J Immunol 176, 803-810, 2006)記載の方法により有利に単離することができる。すなわち、小腸切片を、10%のFCS、20mMのHEPES、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、1mMのピルビン酸ナトリウム、10mMのEDTA及び10μg/mlのポリミキシンBを含むPBSを用い、37℃で30分間処理して上皮細胞を除去し、PBSで徹底的に洗浄した後、400M(1U/ml)のコラゲナーゼD及び10μg/mlのDNA分解酵素Iを含むRPMI1640/10%FCS中で、37℃で45~90分間連続的に攪拌して消化し、EDTAを加え(最終は10mM)、細胞懸濁液をさらに5分間37℃でインキュベートして、15.5%のAccudenz溶液中で細胞を遠心分離し、樹状細胞(DC)と好酸球を含むCD11cLPCを濃縮し、その後に抗CD11cマイクロビーズを用いてポジティブ選択を行うことにより、CD11cLPCを得ることができる。
【0024】
本発明のスクリーニング方法IにおけるIL-6及び/又はIL-12p40の濃度の測定は、市販の測定キットや測定システムにより行うことができ、具体的にはバイオプレックスシステム(Bio-Rad社)による測定を好適に例示することができる。また、本発明のスクリーニング方法IIにおける腸間膜リンパ節(MLN)における有鞭毛細菌数の測定は、例えば、分離したMLNを0.01%のトリトン-X100で溶解した溶解液の段階希釈液をLB寒天培地にプレートし、37℃で一晩インキュベートした後、コロニー数をカウントすることにより行うことができる。
【0025】
本発明のスクリーニング方法Iにおいて、CD11cLPCと、有鞭毛細菌由来のフラジェリン又は有鞭毛細菌由来の鞭毛(フラジェリン等)とを、被検物質の存在下に、インビトロでインキュベーションして接触させる方法としては、CD11cLPCとフラジェリン等と被検物質とを培地に前後して添加してインキュベーションする方法や、CD11cLPCと被検物質とを培地に添加してインキュベーションした後にフラジェリン等を培地に添加してインキュベーションする方法や、フラジェリン等と被検物質とを培地に添加してインキュベーションした後にCD11cLPCを培地に添加してインキュベーションする方法や、CD11cLPCとフラジェリン等と被検物質とをあらかじめ生理食塩水等の緩衝液中で接触させ、その後培地中でインキュベーションする方法や、フラジェリン等と被検物質をあらかじめ生理食塩水等の緩衝液中で接触させ、その後CD11cLPCを接種した培地中で共にインキュベーションする方法や、CD11cLPCと被検物質をあらかじめ生理食塩水等の緩衝液中で接触させ、その後フラジェリン等を添加した培地中で共にインキュベーションする方法を例示することができる他、非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物から得られるCD11cLPCとフラジェリン等を培地に添加してインキュベーションする方法を例示することができる。
【0026】
また、本発明のスクリーニング方法Iにおいて、CD11cLPCとフラジェリン等とを、被検物質の非存在下に、インビトロでインキュベーションして接触させる方法としては、CD11cLPCとフラジェリン等を培地に前後して添加してインキュベーションする方法や、CD11cLPCとフラジェリン等をあらかじめ生理食塩水等の緩衝液中で接触させ、その後培地中でインキュベーションする方法を例示することができる。
【0027】
野生型非ヒト動物由来のCD11cLPCを用いる本発明のスクリーニング方法Iにおいては、被検物質の非存在下に比べて被検物質の存在下におけるIL-6及び/又はIL-12p40の測定濃度が有意に上昇した場合、当該被検物質は、粘膜ワクチンアジュバントとして期待できる。そして、上記粘膜ワクチンアジュバントとして期待できる被検物質の存在下、TLR5をコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部を破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた、前記野生型非ヒト動物と同種の非ヒト動物由来のCD11cLPCとフラジェリン等とを、インビトロでインキュベーションして接触させ、上清中のIL-6及び/又はIL-12p40の濃度を測定し、野生型動物の場合における有意な濃度上昇が認められないとき、当該被検物質は、TLR5を介した粘膜ワクチンアジュバントとして十分に期待できることになる。
【0028】
本発明の使用方法IにおけるCD11cLPCの使用の態様としては、CD11cLPCとフラジェリン等を上記のように接触させて、CD11cLPCをフラジェリン等で刺激する、上記本発明のスクリーニング方法IにおけるCD11cLPCの使用の態様を好適に例示することができる。
【0029】
本発明のスクリーニング方法IIにおいて、有鞭毛細菌と被検物質とを経口的に投与する方法としては、有鞭毛細菌と被検物質とを同時に経口的に投与する方法や、有鞭毛細菌を先に経口的に投与し、その後被検物質を経口的に投与する方法や、被検物質を先に経口的に投与し、その後有鞭毛細菌を経口的に投与する方法を例示することができる。また、本発明のスクリーニング方法IIにおいては、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物(例えば、TLR5ノックアウトマウス)と同種の野生型非ヒト動物(例えば、野生型マウス)、より好ましくは同腹の野生型非ヒト動物(例えば、同腹の野生型マウス)のMLNにおける有鞭毛細菌数の測定値と比較・評価を行うことが個体差によるバラツキをなくすることができるので好ましい。
【0030】
野生型非ヒト動物を用いる本発明のスクリーニング方法IIにおいては、有鞭毛細菌のみを経口的に投与した場合に比べて、有鞭毛細菌と被検物質とを経口的に投与した場合のMLNにおける有鞭毛細菌数の測定値が有意に減少した場合、当該被検物質は、粘膜ワクチンアジュバントとして期待できる。そして、有意に減少した有鞭毛細菌数の測定値が、上記粘膜ワクチンアジュバントとして期待できる被検物質を、TLR5をコードする非ヒト動物の内在性遺伝子の全部又は一部を破壊・欠損・置換等の遺伝子変異により不活性化し、TLR5を発現する機能を喪失させた、前記野生型非ヒト動物と同種の非ヒト動物に経口投与した場合と同程度のとき、当該被検物質は、TLR5を介した粘膜ワクチンアジュバントとして十分に期待できることになる。
【0031】
本発明の使用方法IIにおけるTLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物の使用の態様としては、TLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物にフラジェリン等を上記のように経口投与する、上記本発明のスクリーニング方法IIにおける陽性対照としてのTLR5を発現する機能を喪失させた非ヒト動物の使用の態様を好適に例示することができる。
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、全ての動物実験は、大阪大学微生物病研究所付属実験動物倫理検討委員会に承認された実験プロトコルに基づいて実施した。
【実施例1】
【0033】
[マウス、試薬、抗体及び細菌]
日本クレア(大阪)からC57BL/6マウスを購入した。TLR4-/-マウスは、Hoshino, K., Takeuchi, O., Kawai, T., Sanjo, H., Ogawa, T., Takeda, Y., Takeda, K. & Akira, S., J Immunol.162, 3749-52. (1999)に記載のものを使用した。リポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)は、サルモネラ・ミネソタ Re595(Salmonella minnesota Re595)由来のLPSを、フェノール-クロロホルム-石油エーテル抽出法により調製した。精製フラジェリンはA. Aderem氏(Institute for System Biology)から寄贈された。サルモネラ・エンテリカ血清型ティフィムリウム SR-11 3181及び3181 FliA::Tn10は、北里生命科学研究所から提供された(Kutsukake, K., Ohya, Y., Yamaguchi, S. & Iino, T. Operon structure of flagellar genes in Salmonella typhimurium. Mol Gen Genet 214, 11-5 (1988),Gulig, P.A. & Curtiss, R., Infect Immun 55, 2891-901 (1987))。健康な人間のボランティアからエンテロバクター・クロアカを単離し、国立大学法人大阪大学微生物病研究所で同定した。
【0034】
[細胞]
インビトロで骨髄由来の樹状細胞(bone marrow dendric cell:BMDC)を調製するため、大腿骨及び脛骨より骨髄細胞を調製した。次に前記細胞を、10%のウシ胎仔血清(fetal calf serum:FCS:Gibco社製)、100μMの2-メルカプトエタノール(2-mercaptoethanol:2-ME:ナカライ社製)及び10ng/mlのマウス顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony-stimulating factor:GM-CSF:Pepro Tech社製)を加えたRPMI1640培地(ナカライ社製)で培養した。培地は2日ごとに交換した。6~8日後、細胞を回収し、GM-CSF誘導性BMDC(GM-CSF-DC)として使用した。
【0035】
マクロファージ及びDCを有する脾臓細胞を調製するため、脾臓を小さな断片に切り、400U/mlのコラゲナーゼ(和光社製)及び15μg/mlのDNA分解酵素(シグマ社製)を含むRPMI1640培地を用い、37℃で20分間インキュベートした。最後の5分間は5mMのEDTAを加えた。RBC溶解後、単細胞懸濁液を調製し、抗CD11b及び抗CD11cマイクロビーズ(Miltenyi社製)をそれぞれ用いてマクロファージ及びDCのポジティブ選択を実施した。
【0036】
チオグリコレート誘発性腹膜マクロファージを回収するため、2mLの4%チオグリコレート(シグマ社製)をマウスの腹腔内に注射した。3日後、腹腔浸出細胞(Peritoneal exudate cells:PEC)を回収した。
【0037】
腸管リンパ球及び上皮細胞を単離するため、細かい切片に切断したマウスの小腸を、1mMのEDTA、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン及びゲンタマイシンと10%のFCSとを含む予熱したRPMI1640中で、37℃で10分間攪拌し、その後15秒間勢いよく振盪した。この過程を2度行い、生成された上清を小型綿-グラスウールカラムに通して細胞片を除去し、パーコール密度勾配法(Pharmacia Fine Chemicals, Pharmacia社製)にかけて分離した。非連続的な密度勾配(25、40及び75%)を使用した。40%と75%との間の分画層の細胞を小腸上皮リンパ球(intestinal epithelial cell:IEL)として回収し、40%と25%との間の界面層の細胞を小腸上皮細胞(intestinal epithelial cell:IEC)としてそれぞれ回収した。小腸の腸管粘膜固有層(lamina propria; LP)及びパイエル板(Peyer’s patches; PP)由来のCD11c細胞製剤を調製するため、小腸切片及びPPを、10%のFCS、20mMのHEPES(ナカライ社製)、100U/mlのペニシリン(SIGMA社製)、100μg/mlのストレプトマイシン(SIGMA社製)、1mMのピルビン酸ナトリウム(ナカライ社製)、10mMのEDTA(ナカライ社製)及び10μg/mlのポリミキシンB(Calbiochem社製)を含むPBSを用い、37℃で30分間処理して上皮細胞を除去し、PBSで徹底的に洗浄した。小腸の切片及びPPを、400M(1U/ml)のコラゲナーゼD(Roche社製)、及び10μg/mlのDNA分解酵素I(Roche社製)を含むRPMI1640/10%FCS中で、37℃で45~90分間連続的に攪拌して消化した。EDTAを加え(最終は10mM)、細胞懸濁液をさらに5分間37℃でインキュベートした。15.5%のAccudenz溶液(Accurate Chemical & Scientific社製)中で細胞を遠心分離し、DCを濃縮した。抗CD11cマイクロビーズ(Miltenyi社製)を用い、得られた細胞のポジティブ選択を行った。
【0038】
[炎症性サイトカイン濃度の測定]
GM-DC、PEC、CD11b脾臓細胞、CD11c脾臓細胞及びCD11c腸管粘膜固有層細胞(lamina propria cell :LPC)を96ウェルのプレート(5×10細胞/ウェル)において、LPS(100ng/ml)又はフラジェリン(1μg/ml)で培養した。培養上清中のTNF-α、IL-6、IL-12p40及びIL-10の濃度を、バイオプレックスシステム(Bio-Rad社)により、製造者の使用説明書に従って測定した。
【0039】
[RT-PCR及びq-PCR]
組織、臓器及び初代細胞由来のRNAを定量し、スーパースクリプト2(Invitrogen社製)を用い、製造元の取扱説明書に従い、ランダムな六量体をプライマーにより1μgのRNAを逆転写した。PCRは、TLR4用[センス:GCCTCCCTGGCTCCTGGCTAGGAC(配列番号1)、アンチセンス:GGCCAATTTTGTCTCCACAGCCACC(配列番号2)]、TLR5用[センス: GGTGTGATCTTCATGGCCAGCCC(配列番号3)、アンチセンス:CGTCGCTTAAGGAATTCAGTTCCCGG(配列番号4)]、及びβ-アクチン用[センス:GACATGGAGAAGATCTGGCACCACA(配列番号5)、アンチセンス:ATCTCCTGCTCGAAGTCTAGAGCAA(配列番号6)]並びにTaqポリメラーゼ用(宝酒造株式会社製)プライマー対を用いて実施した。
【0040】
PCRの条件は、97℃、57℃及び72℃で25サイクル30秒間とし、生成物をアガロースゲル上で解析した。定量的リアルタイムPCR(quantitative real-time PCR:q-PCR)解析は、7700配列検出器(Applied Biosystem社製)を用いて実施した。q-PCRは、先に記載のように増幅されたcDNA、2×PCRマスターミックス(Applied Biosystem社製)及び以下のプライマーを含む最終体積25μl中で実施された:内部対照として18srRNA(Applied Biosystem社製)、TLR4及びTLR5(Assay on Demand社製)。増幅条件は、95℃(10分)、95℃で35サイクル(15秒)、60℃(60秒)、50℃(120秒)とした。
【0041】
[マイクロアレイ解析]
TLR5+/+及びTLR5-/-マウスから採取したIEC及びLPCを、フラジェリン(1μg/ml)存在下、あるいは非存在下で4時間処理した。TotalRNAをRNイージーキット(Qiagen社製)で抽出し、その後、オリゴテックスmRNAキット(Pharmacia社製)でmRNAを精製した。オベーションビオチンシステム(Nugen社)を用い、製造元の取扱説明書に従って、100ngの精製mRNAからビオチン標識・断片化cDNAを合成した。かかるcDNA産物を、アフィメトリックスマウスゲノム4302.0マイクロアレイチップ(Affymetrix社)に、製造元の取扱説明書に従ってハイブリダイズした。ハイブリダイズしたチップを染色、洗浄し、ジーンアレイスキャナー(Affymetrix社製)でスキャンした。マイクロアレイスイートソフトウェア(バージョン5.0、Affymetrix社製)及びジーンスプリングソフトウェア(Silicon Genetics社製)を用いてデータ解析を実施した。
【0042】
[小腸の二重免疫蛍光染色]
小腸におけるTLR5の局在性を確認する際には、ビオチン化抗CD11c及び抗TLR5(Abgent社製)モノクローナル抗体を、凍結組織から切断された切片に4℃で一晩反応させた。試料を洗浄し、次にストレプトアビジン-アレキサ594(Molecular Probes社製)及びアレキサ-448ニワトリ抗ウサギIgG(Molecular Probes社製)を用い、室温で2時間インキュベートした。ラジアンス2100/バイオラド共焦点レーザー顕微鏡(Bio-Rad laboratories社製)を用い、免疫組織化学的染色法で解析した。
【0043】
[マウスの細菌感染]
サルモネラ・ティフィムリウムを、ルリア-ベルターニ(LB)培地で、37℃で振盪せずに増殖させた。細菌濃度は、600nmの吸光度(OD600)を用いて測定した。細菌を8週齢のマウスに経口注入又は腹腔内に注射した。臓器における細菌負荷を確認するために、マウスを様々な時間で屠殺した。肝臓、脾臓、LPC、パイエル板細胞(Peyer’s patches cell; PPC)及び腸間膜リンパ節(mesenteric lymph node:MLN)を0.01%のトリトン-X100で溶解した。溶解液の段階希釈液をLB寒天培地にプレートし、37℃で一晩インキュベートした後、コロニー数を数えた。
【0044】
[統計解析]
細菌感染後の対照マウスと変異型マウスとの間の生存率の差を調べるため、カプラン・マイヤー プロット及びログ・ランク テストを実施した。
【実施例2】
【0045】
[TLR5ノックアウトマウスの作製]
TLR5の生理学的役割を解明するため、標的遺伝子組み換えによりTLR5-/-マウスを作製した。TLR5ゲノムDNAを129/Svマウスゲノムライブラリーから単離し、制限酵素マッピング及び配列解析により特徴付けを行った。マウスtlr5遺伝子は、一個のエクソンからなる。我々は、5’末端に単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)を有するpMC-neo(Stratagene社製)をベクターとして用い、ネオマイシン耐性遺伝子カセットをTlr5遺伝子のエクソンに挿入できるターゲティングベクターを構築した(図1a)。前記ターゲティングベクターをSalIで線状化し、エレクトロポレーション法によってE14.1ES細胞に導入した。G418及びガンシクロビアに耐性をもつクローンの相同組換えをPCRによりスクリーニングし、図1aに示されるプローブ(配列番号7)を用いてサザンブロット解析により確認した。
【0046】
2つの正確に標的化されたESクローンをC57BL/6の胚盤胞にマイクロインジェクションし、キメラマウスを作製した。キメラマウスを雌のC57BL/6マウスと交配し、サザンブロット解析により変異型対立遺伝子の伝達を観察した(図1b)。
【0047】
次に、雄のキメラマウスを雌のC57BL/6と交配し、ヘテロ接合体マウスを作製した。かかるヘテロ接合体マウスをC57BL/6マウスと8回戻し交配した。かかるヘテロ接合体マウスをC57BL/6マウスと8回戻し交配した。ヘテロ接合体F8前駆体をインタークロス(intercross)し、TLR5-/-マウスを得た。TLR5-/-マウスはメンデル比の想定通りに生まれ、発達異常は何ら観察されなかった。tlr5遺伝子の崩壊を確認するため、TLR5+/+及びTLR5-/-の腸管由来のtotalRNAのノーザンブロット解析を行った。TLR5-/-マウスにおいて、TLR5の転写物は全く見られなかった(図1c)。
【0048】
さらに、該マウスのフラジェリンに対する応答について検討するため、炎症性サイトカインの全身的な産生を調べた。TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの腹腔内に精製フラジェリンを注射した後、注射後4時間まで、1時間ごとにインターロイキン(IL)-6及びIL-12p40の血清中濃度を測定した。TLR5+/+マウスでは、IL-6及びIL-12p40の産生が注射後2時間後以内に増加したが、TLR5-/-マウスでは4時間後でも依然として低いままであった(図1d)。これらの結果によりフラジェリンはTLR5の天然リガンドであることを確認した。
【実施例3】
【0049】
次に、マクロファージ及び通常の樹状細胞(conventional dendric cell:cDC)における、フラジェリン介在免疫応答について解析した。CD11b又はCD11c脾臓細胞、腹膜マクロファージ(PEC)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)誘導性骨髄由来樹状細胞(GM-DC)をマウスから単離し、次にこれらの細胞をフラジェリン又はTLR4リガンド、リポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)で刺激し、上清のIL-6を測定した(図2a)。
【0050】
当該細胞はすべてLPSに応答してIL-6を産生したが、フラジェリンの刺激によるIL-6誘導は検出されなかった。同様に、q-PCRの結果が示しているように、脾臓細胞、PEC及びGM-DCはtlr5mRNAではなくtlr4を高発現していた(図2b)。また、TLR5のフラジェリン対する応答において炎症性サイトカイン産生に関与している臓器を明らかにするために、マウス由来の脾臓、肝臓、腎臓、心臓、肺、及び腸管でのTLR5の発現レベルをq-PCRで解析した(図2c)。他の臓器に比べ、腸管ではtlr5mRNAの高発現が見られた。
【実施例4】
【0051】
まず、IECにおけるTLR5を介した炎症性応答について調べた。TLR5+/+及びTLR5-/-マウスからIECを単離し、それらを培地のみ、あるいはフラジェリン(1μg/ml)で刺激し、cDNAマイクロアレイを用いてTLR5誘導性遺伝子の特性を調べた(図3)。その結果、デフェンシンβ3(Defb3)、CD86(CD86)、キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーA構成員6(klra6)、補体成分8α(C8a)、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド27(Ccl27)等の、免疫応答に関与するいくつかの遺伝子は、TLR5+/+IECではフラジェリンの刺激作用により誘導されたが、TLR5-/-IECでは、これらの遺伝子の発現は低下した。しかし、TLR5+/+IECにおいてでさえ、フラジェリンへの応答としての、大部分のケモカインの誘導がみられなかった。さらに、IECはいずれの炎症性サイトカインも誘導しなかった。今回データは示していないが、タンパク質レベルの実験でも、IECはフラジェリンの刺激によりいずれの炎症性サイトカインも誘導しなかったことを確認した。
【実施例5】
【0052】
IECにおけるTLR5の発現を調べた(図4a)。IECにおけるtlr5mRNAのレベルは、小腸全体に見られたレベルと比較すると、極めて低かった。そこで、TLR5は小腸の別のサブコンパートメントに特異的に発現するはずであるとの仮説を立て、更にマウスの小腸からパイエル板細胞(PPC)、腸管上皮リンパ球(IEL)及び固有層細胞(LPC)を単離し、TLR5の発現を調べた(図4a)。TLR5は、LPCでは高度に発現したが、一方IEL及びPPCでの発現は、小腸全体で測定されたレベルに比較すると、相対的に低かった。
【0053】
最近の報告では、マウスの小腸のLPにおいて、DCは主要な抗原提示細胞(antigen presenting cells:APC)であることが明らかになっている(Pavli, P., Woodhams, C.E.,et. al., Immunology 70, 40-7 (1990) )ことから、LPC及びPPCからDC11cを分離し、tlr5mRNAの発現を調べたところ、CD11cLPCではなく、CD11cLPCにおいてTLR5の非常に高度な発現が検出された。CD11cLPCとは対照的に、CD11cPPCでは、小腸全体で見られるよりも、TLR5の発現が低かった。さらに、免疫組織化学法により、小腸におけるTLR5の局在について調べた。TLR5は、腸管のCD11cLPCでは、高発現していた(図4b及びc)。q-PCRの結果と一致して、PPではTLR5の発現は検出されなかった(図4d)。腸管においてCD11cLPCはTLR5を特異的に発現していた。
【実施例6】
【0054】
フラジェリンのCD11cLPCに対する影響を評価するために、TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの小腸からCD11cLPCを単離し、LPS(100ng/ml)あるいはフラジェリン(1μg/ml)を加えて刺激し、上清における炎症性サイトカインの濃度を測定した。ネガティブコントロールとして培地のみを使用した(図5上)。TLR5+/+のCD11cLPCは、フラジェリンに応答してIL-6及びIL-12p40を産生したが、TLR5-/-のCD11cLPCでは、これらのサイトカインの誘導は起こらなかった。また、どちらのCD11cLPCも、フラジェリンへの応答におけるTNF-αの過剰誘導を示さなかった。興味深いことに、CD11cLPCは、LPSへの応答としていずれのサイトカインも誘導しなかった。
【0055】
粘膜組織においてPPのAPCは詳しく調べられてきており、PPが有する独特のDCサブセットは、IL-10を産生して調節性T細胞や経口免疫寛容の発生に重要な役割を果たすことや、該DCはLPS等の炎症性刺激に応答してIL-10を誘導することが明らかにされている(Niedergang, F. et.al., Trends Microbiol 12, 79-88 (2004),Ruedl, C., et.al., Eur J Immunol 26, 1801-6 (1996), Wakkach, A., et.al., Immunity 18, 605-17 (2003))。そこで、TLR5+/+及びTLR5-/-マウスからCD11cPPCを単離し、フラジェリン又はLPSで刺激し、上清における炎症性サイトカインの濃度を測定した(図5下)。TLR5+/+及びTLR5-/-マウス由来のCD11cPPCはともに、フラジェリンへの応答としていずれのサイトカインも誘導せず、実施例4で示されたTLR5の発現が低い(図4a)という結果と一致していた。また、CD11cPPCのどちらもが、LPSに応答してIL-6及びIL-10を産生した。一方、前記のように、TLR5+/+及びTLR5-/-マウス由来のどちらのCD11cLPCも、フラジェリンへの応答としてIL-10を産生しないという結果は、これらの細胞におけるTLR5のシグナリングが、免疫寛容ではなく炎症性応答を誘導する傾向があることを示唆している(図5)。
【実施例7】
【0056】
小腸におけるTLR5を介した自然免疫応答を総合的に調べるために、TLR5+/+及びTLR5-/-のLPCをフラジェリン(1μg/ml)で4時間刺激後、RNA試料を調製し、cDNAマイクロアレイ解析を実施した(図6)。フラジェリンで刺激した4時間後にTLR5+/+のLPCにおいて、際立ってアップレギュレートされた転写物がいくつか同定されたが、TLR5-/-の細胞では、これらの遺伝子の発現は誘導されていなかった。該遺伝子としては、サイトカイン(Il-6、Il-If5、Il-If9、Il-1b、Ebi3及びIltifb)、サイトカイン受容体(Tnfrsf5、Il1r1及びIl2ra)、いくつかのケモカイン(CKLF及びCCL4)、シグナリング分子(Traf6及びgp130)、プロスタノイド(Plala及びPla2g2d)、プロスタノイド合成酵素(Cox2)及び分泌抗菌性ペプチド(Hamp,Lcn及びGzmb)等の前炎症性遺伝子が挙げられる(図6上段)。さらに、細胞接着、細胞骨格組織、細胞内移行、小胞融合、及び転写に関係する遺伝子は、フラジェリンの刺激によりアップレギュレートされていた(図6中段)。他方、TLR5+/+及びTLR5-/-のどちらのLPCにおいても、フラジェリンに対する応答としてインターフェロン(IFN)及びIFN誘導性遺伝子は誘導されなかった(図6下段)。
【実施例8】
【0057】
実施例6に示すように、CD11cLPCはフラジェリンに対する応答としてIL-6及びIL-12p40を産生したが、LPSに対しては産生しなかった。また、データは示していないが、TLR5+/+及びTLR5-/-のどちらのCD11cLPCも、TLR2リガンドで刺激すると、同程度のIL-6を産生した。これはLPSのシグナリングが、CD11cLPCでは特異的に抑制されることを示唆している。そこで、CD11c脾臓細胞(spleen cells:SPC)及びCD11cLPCについて、TLR4及びTLR5の発現レベルを調べた(図7a)。CD11cSPCではTLR4の発現は高かったが、一方でTLR5の発現は低かった。CD11cSPCとは対照的に、CD11cLPCでは、TLR4の発現は、TLR5の発現と比較すると非常に低かった。
【実施例9】
【0058】
CD11cLPC及びCD11cSPCとではTLR4及びTLR5の発現特性が異なることから、これらの細胞における共生細菌及び病原性細菌に対する応答を調べた。野生型、TLR4-/-及びTLR5-/-マウスからCD11cLPC及びCD11cSPCを単離し、熱殺菌された共生細菌エンテロバクター・クロアカ(10m.o.i.)、熱殺菌された病原性グラム陰性細菌サルモネラ・ティフィムリウム(10m.o.i.)、熱殺菌サルモネラ・ティフィムリウムΔfliA(10m.o.i.)、LPS(0.1μg/ml)又はフラジェリン(1μg/ml)のいずれかを加えた培地で培養し、IL-6の産生を測定した(図7b)。野生型CD11cSPCは、エンテロバクター・クロアカ及びサルモネラ・ティフィムリウムの両方に応答して大量のIL-6を産生した。また、TLR5-/-のCD11cSPCも、野生型CD11cSPCと同様の応答を示した。しかしながら、TLR4-/-のCD11cSPCにおけるIL-6の産生は、野生型及びTLR5-/-におけるCD11cSPCよりもはるかに低く、CD11cSPCが主にTLR4を通してグラム陰性細菌に対する自然免疫応答を誘導していることが示唆された。
【0059】
また、野生型CD11cLPCは、サルモネラ・ティフィムリウムに応答して大量のIL-6を誘導した。CD11cSPCとは対照的に、TLR5-/-のCD11cLPCにおける、サルモネラ・ティフィムリウムによるIL-6の誘導は大幅に低下していたが、TLR4-/-のCD11cLPCは、野生型CD11cLPCと同程度のIL-6を産生していた。さらに、fliA遺伝子を欠失させ無鞭毛となった変異サルモネラ・ティフィムリウムを用いて、CD11cLPCの応答を調べた(Kutsukake, K., et.al., Mol Gen Genet 214, 11-5 (1988))。その結果、TLR5-/-のCD11cLPCのみならず、野生型CD11cLPCも、野生型サルモネラ・ティフィムリウムに比べてΔfliA変異体に対して低応答性であった。これは、CD11cLPCが、サルモネラ・ティフィムリウムのフラジェリンを認識することで免疫応答を誘導することを示唆している。また、CD11cSPCとは異なり、野生型CD11cLPCは、エンテロバクター・クロアカにより、相対的に少量のIL-6しか産生しなかった。これらの結果を総合すると、CD11cLPCはTLR5を通して病原性有鞭毛細菌を認識し、自然免疫応答を誘導すると言える。
【実施例10】
【0060】
TLR-5が腸内の細菌感染に対して特別な役割を果たしているかどうかを検討するため、サルモネラ・ティフィムリウムをTLR5+/+及びTLR5-/-マウスに経口感染させた。予想と異なり、TLR5-/-マウスはTLR5+/+マウスと比較して、サルモネラ・ティフィムリウムに対して耐性を生じていた(図8a)。C57/BL6(図8a左)及びC57/BL6X129Sv混合背景(図8a右)のどちらのマウスにおいても、同様の結果であった。また、腹腔内注射によりマウスをサルモネラ・ティフィムリウムに感染させても、TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの間の生存率には顕著な違いは見られなかった(図8b)。さらに経口感染から4日後、TLR5-/-マウスでは、肝臓及び脾臓から回収された細菌の数が、TLR5+/+マウスよりも顕著に少なかった(図8c)。
【0061】
経口感染から24時間後のTLR5+/+及びTLR5-/-マウスのMLN、PP及びLPCから回収した細菌数を調べたところ、PP及びLPC中のサルモネラ・ティフィムリウムの数は、TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの間でほとんど差がなかった。しかしながら、MLNから回収された細菌数は、TLR5+/+よりもTLR5-/-マウスの方が顕著に少なかったことから(図8d)、TLR5-/-マウスでは、腸管からMLNへのサルモネラ・ティフィムリウムの移行が障害された結果、感染が全身に至るのを遅延させる可能性がある。
【0062】
<考察>
TLR5はインビトロで、フラジェリンに対する受容体として同定されたが、そのインビボでの機能は明確になっていない。他のTLRファミリー構成員とは異なり、TLR5はマウスの脾臓細胞、腹膜マクロファージ及びCM-DCには発現せず、それが自然免疫におけるTLR5の機能に対する取り組みを困難にしている。そこで、近年確立された、生存率の高いLPCの単離方法を用い、TLR5がマウスの腸管のCD11cLPCに特異的に発現することを見出した(図4)。
【0063】
DCはLPでは絨毛上皮の下部にあり、腸から抗原を吸収することが知られてから長い年月がたつ(Mayrhofer, G., et. Al., Eur J Immunol 13, 112-22 (1983))が、腸内におけるそれらの役割及び特性は知られていない。CD11cLPCは、フラジェリンに対する応答として、炎症性サイトカイン、ケモカイン、抗菌ペプチド及び組織修復キナーゼを含む種々の介在物質の分泌を誘発した。そこで初めて、TLR5を通してCD11cLPCで免疫応答が誘導されたことを示すものである。
【0064】
本発明における分析の結果、TLR5を通じたCD11cLPCの機能について、2つの興味深い点が明らかになった。1つは、フラジェリンで刺激した際のCD11cLPCのサイトカイン特性である。腸は食物抗原及び多数の片利共生細菌に絶え間なくさらされている。有益な抗原に対する寛容は、粘膜DCにより制御されているようである(Mowat, A.M. Nat Rev Immunol 3, 331-41 (2003))。これらのDCは調節性T細胞の活性を刺激し、T細胞応答の強力な抑制因子となっている。近年、CD11clowCD45RBhighを発現しIL-10を産生するDCサブセットが、調節性T細胞における抑制機能を促進することが明らかになった(Wakkach, A., et al., Immunity 18, 605-17 (2003))。PPはこれらのDCサブセットを有し、炎症性刺激によりIL-10を産生し、経口寛容を発生させる(Niedergang, F. et al., Trends Microbiol 12, 79-88 (2004), Ruedl, C., et al. , Eur J Immunol 26, 1801-6 (1996))。CD11cPPCはLPSに応答してIL-10を誘導したが、フラジェリンに刺激されたCD11cLPCはIL-10ではなくIL-6及びIL-12を産生した(図5)。CD11cLPCは、フラジェリンで刺激されると、免疫寛容ではなく炎症性応答を誘導する傾向がある。しかし、最近の報告において、LPのDCは経口寛容誘導に関与することが明らかになっている(Chirdo, F.G., et al., Eur J Immunol 35, 1831-40 (2005)), Worbs, T., et al., J Exp Med 203, 519-27 (2006))。CD11cLPCは、細菌感染症において炎症性介在物質としての役割を果たしている可能性がある。より詳細な研究を行えば、CD11cLPCによる免疫寛容と宿主防御との間の免疫機能の制御を理解するのに役立つであろう。
【0065】
もう1つの興味深い点は、CD11cLPCにおいてTLR4の発現が顕著に低いことである。腸内の大部分の共生細菌はグラム陰性嫌気性桿菌であり、その細胞壁中にLPSを有している。最近の報告では、CD11cLPCは樹状突起を伸長させ、管腔から細菌を貪食することが明らかになっている(Niess, J.H., et al., Science 307, 254-8 (2005))。CD11cLPCによる細菌貪食機構は完全に解析されているが、宿主の腸管粘膜がどのように共生細菌に対する免疫寛容を獲得し、共生細菌と病原性細菌とを区別しているのかは、まだ明らかになっていない。TLR4の低発現は、CD11cLPCが共生細菌に対して過剰な免疫応答の誘導を避ける一因になっている可能性がある。CD11cLPCは、TLR4ではなく、主にTLR5を通して病原性有鞭毛細菌に対する炎症性応答を誘導する。共生細菌の中には鞭毛を有するものもあるが、CD11cLPCはエンテロバクター・クロアカに対して強い応答を示さなかった。最近の研究では、α及びεプロテオバクテリア等の共生細菌の中には、鞭毛の運動性を損なうことなくTLR5のフラジェリン認識部位を変えるものがあると報告されている(Andersen-Nissen, E., et al., Proc Natl Acad Sci U S A 102, 9247-52 (2005))。さらに、共生細菌の中には、宿主環境が安定状態であると、フラジェリン発現を抑制するものがある(Niedergang, F., et al., Trends Microbiol 12, 79-88 (2004))。病原性細菌とは異なり、共生細菌はTLR5の感知を免れる機構を有している可能性がある。
【0066】
TLR2及びTLR4のような他のTLRファミリー構成員は、細菌成分を認識する。種々の細菌に対する宿主の防御においてTLR2及びTLR4が重要であることは、TLR2-/-マウス及びTLR4-/-マウスを用いて実証されている。特に、TLR4変異型C3H/HeJマウスは、サルモネラ・ティフィムリウムによる腹腔内感染に対して非常に感受性が高い(Akira, S., et al., Cell 124, 783-801 (2006))。しかしながら、TLR5は腸管以外では高発現しないことから、腹腔内感染症の場合には、TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの間に生存率の顕著な差が見られないと予想された。また、サルモネラ・ティフィムリウムの経口感染に対しては、むしろ、TLR5-/-マウスの方がより感受性が高くなると思われた。というのも、CD11cLPC上のTLR5は、有鞭毛細菌を感知して宿主の防御を誘導するからである。したがって、TLR5-/-マウスがサルモネラ・ティフィムリウムの経口感染に耐性を有することは、予測していなかった(図8a)。また、TLR5-/-マウスでは、腸管から肝臓又は脾臓へのサルモネラ・ティフィムリウムの移行が低下したため、TLR5+/+よりも長く生存した(図8b)。この予測し得なかった結果は、サルモネラ特有の病原性に密接に関係すると考えられる。
【0067】
大部分の報告では、サルモネラ・ティフィムリウムはPPのM細胞を通じて移行した後(Hopkins, S.A., et al., Cell Microbiol 2, 59-68 (2000))、上皮下DC又は小腸の管腔に突起を出している上皮内DCに取り込まれることが示されている(Rescigno, M., et al., Nat Immunol 2, 361-7 (2001)。取り込まれた後、サルモネラ・ティフィムリウムは活発に宿主の小胞輸送経路を調整し、リソソームへの輸送を回避して複製に適した体制を確立する(Patel, J.C., et al., Trends Pharmacol Sci 26, 564-70 (2005))。細菌を抱えたDCは成熟しPPのT細胞領域又は排出MLNに遊走する(Niedergang, F., et al., Trends Microbiol 12, 79-88 (2004))。また、これらの成熟DCは、血流を通じたサルモネラ・ティフィムリウムの肝臓及び脾臓への播種に関与すると考えられている(Niedergang, F., et al., Trends Microbiol 12, 79-88 (2004), Vazquez-Torres, et al., Nature 401, 804-8 (1999))。サルモネラ・ティフィムリウムのPP及びLPCへの取り込みは、TLR5+/+及びTLR5-/-マウスでは差がなかった(図8d)。さらに、インビトロでは、TLR5+/+及びTLR5-/-のCD11cLPCの間には、取り込みの差がなかった(データ表示なし)。TLR5-/-のMLNにおける細菌数はTLR5+/+マウスよりも顕著に低く、LPからMLNへサルモネラ・ティフィムリウムの移送が低下したことを示唆している。サルモネラ・ティフィムリウムは、完全に活性化してTLR5-/-のCD11cLPCを成熟させることができなかったので、サルモネラ・ティフィムリウムを抱えたCD11cLPCの末梢から循環系への遊走が、TLR5-/-マウスにおいては不十分である可能性がある。CD11cLPC上のTLR5は、当初は有鞭毛病原性細菌を感知して宿主の防御を誘導するが、通性細胞内病原体であるサルモネラ・ティフィムリウムが全身性感染症に至る際、逆にCD11cLPCをキャリアとして利用している可能性がある。将来的に全身性サルモネラ・ティフィムリウム感染症の感染機構を明らかにするには、CD11cLPC特異的マーカを作製するか、またはこれらの細胞を枯渇させる技術を生み出す研究を行うことが必要である。また、本発明によるCD11cLPC上のTLR5を標的とした新規方法の開発は、全身性サルモネラ・ティフィムリウム感染症の新しい治療法の可能性を開くものであり、粘膜アジュバント免疫療法に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】TLR5-/-マウスの作製に関する図である。(a)tlr5遺伝子、ターゲティングベクター及び予測される崩壊遺伝子の構造。四角に囲んだ部分は、コードするエクソンを表す。制限酵素:NcoI(b)ヘテロ接合体異系交配による子孫のサザンブロット解析。ゲノムDNAをマウス尾部から抽出し、NcoIで消化し、電気泳動にかけ、(a)に示した放射標識プローブとハイブリダイズさせた。サザンブロッティングの結果、野生型マウス(+/+)では7.5kbのバンド1本が認められ、ホモ接合体マウス(-/-)では6.2kbのバンドが認められ、ヘテロ接合型マウス(+/-)では両方のバンドが認められた。(c)肝臓のノーザンブロット解析。小腸から抽出したTotal RNA(10mg)を電気泳動にかけ、ナイロン膜上に移し、TLR5をプローブに用いてハイブリダイズさせた。同じ膜を、β-アクチンプローブと再ハイブリダイズさせた。(d)TLR5+/+(n=5)及びTLR5-/-(n=5)マウスの腹腔内に30μgの精製フラジェリンを注射した。表示された時点で、ELISA法によりIL-6及びIL-12p40の血清レベルを測定した。
【図2】C57BL/6Jマウス由来の各種細胞のLPS又はフラジェリン刺激後のサイトカインレベル及びq-PCRを示す図である。データは、独立した3回の実験から得られた結果の平均値±SDである。(a)C57BL/6Jマウス由来の脾臓CD11b細胞、脾臓CD11c細胞、GM-DC及びPECを、LPS(100nm/ml)又はフラジェリン(1μg/ml)、あるいは培地のみで培養し、培養上清のサイトカインレベルを測定した結果である。(b,c)C57BL/6Jマウス由来の細胞又は臓器からTotal RNA(2μg)を抽出し、q-PCRによりTLR5mRNAレベルを測定した結果である。
【図3】TLR5+/+及びTLR5-/-のIECを、培地のみ、あるいはフラジェリン(1μg/ml)で刺激し、cDNAマイクロアレイを実施した結果を示す図である。
【図4】TLR5のCD11cLPCにおける発現に関する図である。データは、独立した3回の実験から得られた結果の平均値±SDである。(a)C57BL/6Jマウスの各種細胞からTotalRNAを抽出し、q-PCRにより、TLR5mRNAレベルを測定した。(b~d)C57BL/6Jマウス由来の小腸の凍結切片を固定し、抗CD11c抗体(赤)及び抗TLR5抗体(緑)で染色し、共焦点顕微鏡で観察した。(b)腸:倍率400倍、(c)腸:倍率1600倍、(d)パイエル板:倍率400倍。
【図5】CD11cLPCにおけるTLR5を介した自然免疫応答に関する図である。TLR5+/+及びTLR5-/-マウス由来のCD11cLPC及びPPCを、培地のみ、あるいはLPS(100ng/ml)又はフラジェリン(1μg/ml)で培養し、培養上清中のサイトカインレベルを測定した。データは、独立した3回の実験から得られた結果の平均値±SDである。
【図6】CD11cLPCにおけるフラジェリンを介した遺伝子誘導に関する図である。TLR5+/+及びTLR5-/-マウス由来のCD11cLPCをフラジェリン(1μg/ml)で刺激したもの、あるいはしなかったサンプルについて、cDNAマイクロアレイを実施した。
【図7】TLR5を介したCD11cLPCにおける病原性細菌に関する図である。データは、独立した3回の実験から得られた結果の平均値±SDである。(a)C57BL/6JマウスのCD11cSPC及びCD11cLPCからTotal RNA(2μg)を抽出し、TLR5の発現をRT-PCRで解析した(左図)。q-PCRにより、TLR5mRNAの量を測定した(右図)。(b)野生型、TLR4-/-及びTLR5-/-マウス由来のCD11cSPC及びCD11cLPCを、熱殺菌エンテロバクター・クロアカ、熱殺菌サルモネラ・ティフィムリウム、熱殺菌サルモネラ・ティフィムリウムΔfliA、LPS又はフラジェリンのいずれかの培地で培養し、培養上清中のサイトカインレベルを測定した。
【図8】サルモネラ・ティフィムリウムのTLR5を介した全身性感染に関する図である。(a)C57/BL6背景であるTLR5+/+(n=5)及びTLR5-/-(n=5)マウスに、5×10のサルモネラ・ティフィムリウムを経口感染させたマウスの生存率(左図)及びC57/BL6×129Sv混合背景のTLR5+/+(n=5)及びTLR5-/-(n=5)マウスに1×10のサルモネラ・ティフィムリウムを経口感染させたマウスの生存率(右図)。TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの差について一般化ウィルコクソン検定を実施(P<0.001)。(b)C57/BL6背景のTLR5+/+(n=5)及びTLR5-/-(n=5)マウスに1×10のサルモネラ・ティフィムリウムを腹腔内感染させた場合のマウスの生存率。TLR5+/+及びTLR5-/-マウスの差について一般化ウィルコクソン検定を実施(P=0.267)。(c)C57/BL6背景のTLR5+/+(n=3)及びTLR5-/-(n=3)マウスに5×10のサルモネラ・ティフィムリウムを経口感染させ、96時間後の肝臓及び脾臓における細菌数。(d)C57/BL6背景のTLR5+/+(n=5)及びTLR5-/-(n=5)マウスに5×10のサルモネラ・ティフィムリウムを経口感染させ、48時間後のMLN、PPC及びLPCにおける細菌数。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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