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明細書 :空洞共振器、及びそれを用いた電子スピン共鳴測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5118319号 (P5118319)
公開番号 特開2008-032553 (P2008-032553A)
登録日 平成24年10月26日(2012.10.26)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
発明の名称または考案の名称 空洞共振器、及びそれを用いた電子スピン共鳴測定装置
国際特許分類 G01N  22/00        (2006.01)
G01R  33/32        (2006.01)
G01R  33/60        (2006.01)
FI G01N 22/00 J
G01N 24/04 510A
G01N 24/10
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2006-206795 (P2006-206795)
出願日 平成18年7月28日(2006.7.28)
審査請求日 平成21年5月21日(2009.5.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小野 光弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100124291、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 悟
審査官 【審査官】比嘉 翔一
参考文献・文献 特開昭62-123343(JP,A)
特開昭62-123342(JP,A)
特開昭64-029102(JP,A)
特開2006-013893(JP,A)
特開昭61-038553(JP,A)
調査した分野 G01N 24/00-24/14
G01N 22/00-22/04
G01R 33/20-33/64
G01R 23/04
H01L 21/3065
H01P 7/06
H03B 5/18
H03C 7/02
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
内部に共振空洞を有する円筒形状の本体部と、
前記本体部において前記円筒形状の円周方向に並ぶように、それぞれ前記本体部の中心軸方向を長手方向として設けられた複数のスロットを有するスロットアレイと、
前記スロットアレイを構成する前記スロットから外部へと放射される電磁波に対して、前記本体部の外側に設けられたカバー部と
を備え
前記カバー部は、前記複数のスロットのうちの少なくとも一のスロットに対して設けられ、前記スロットの前記円周方向における両側にそれぞれ前記スロットから外側に延びるように配置された一対の板状部を有することを特徴とする空洞共振器。
【請求項2】
前記カバー部は、前記複数のスロットのそれぞれに対して設けられていることを特徴とする請求項記載の空洞共振器。
【請求項3】
前記カバー部は、前記スロットの前記長手方向における両側にそれぞれ配置され、前記一対の板状部とともに前記スロットから外側に延びる導波管を構成する一対の第2の板状部を有することを特徴とする請求項1または2記載の空洞共振器。
【請求項4】
前記カバー部は、前記スロットとは反対側となる終端部において前記一対の板状部の間を短絡するように設けられた短絡部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の空洞共振器。
【請求項5】
前記短絡部は、前記一対の板状部に対して、前記スロットへの接続部と前記終端部との間で可動に構成されていることを特徴とする請求項記載の空洞共振器。
【請求項6】
前記カバー部は、前記本体部の外側に設けられた円筒形状の遮蔽部材を有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項記載の空洞共振器。
【請求項7】
前記スロットアレイは、前記円周方向に等間隔に並ぶように設けられた2個以上で所定個数のスロットから構成されていることを特徴とする請求項1~のいずれか一項記載の空洞共振器。
【請求項8】
前記スロットアレイは、前記複数のスロットとして、所定の開口面積の第1のスロットと、前記第1のスロットとは異なる開口面積の第2のスロットとを少なくとも有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項記載の空洞共振器。
【請求項9】
共振空洞内に測定対象となる試料が配置される請求項1~のいずれか一項記載の空洞共振器と、
前記空洞共振器に対してパルス状のマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段と、
前記空洞共振器からの電子スピン共鳴信号を検出することで前記試料での電子スピン共鳴を測定する信号検出手段と
を備えることを特徴とする電子スピン共鳴測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スピン共鳴などの測定に用いられる空洞共振器、及びそれを用いた電子スピン共鳴測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)を測定するESR測定装置は、電子が有する磁気モーメントを利用して、フリーラジカルのような不対電子を持つ原子や分子について測定することが可能な装置である。フリーラジカルは化学反応性が高いが、ESR測定装置によれば、これを非破壊で測定することが可能である。このようなESR測定の応用分野は、化学、物理学、生物学、及び医学など広範囲にわたっている(例えば特許文献1、2、非特許文献1参照)。
【0003】
上記したESR測定装置としては、従来、共鳴測定に用いられる共振器に対して連続的にマイクロ波を供給する連続波(CW:Continuous Wave)ESR測定装置と、パルス状のマイクロ波を供給して共鳴測定を行うパルスESR測定装置とが知られている。これらのうち、パルスESR測定装置は、物質の構造解析、あるいはリアルタイムの生化学反応解析などの様々な測定において欠くことができない測定装置となっている。
【0004】
特に、生体高分子の1nm(ナノメートル)以上の不対電子間距離を測定可能な測定方法は、唯一、電子スピン共鳴法のみである。例えば、現在、疾病の解明、あるいは治療薬の開発のための蛋白質の不対電子間距離の測定には、パルスESR法による二量子遷移ESR測定が用いられている。さらに多くの対をなす不対電子間距離が測定可能になれば、複雑な高分子物質の構造を明らかにすることができ、医学、生理学、薬学、その他の分野において多大な効果をもたらすことが期待される。

【特許文献1】特開2000-65910号公報
【特許文献2】特開2005-274167号公報
【非特許文献1】M. Ono et al., "Development of Pulsed L-band ESRSpectrometer", Proc. 1994 IEEE Instrumentation and Measurement TechnologyConference (IMTC '94), pp.157-160 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルスESR測定装置では、その測定を高感度化するために、共振器の使用が不可欠である。この共振器が備えるべき性能としては、(1)広帯域共振周波数特性、(2)均一度の高い磁束密度分布、(3)高い充填率、及び(4)例えば試料の冷却能力などのその他の性能が挙げられる。ここで、(1)の広帯域共振周波数特性については、共振あるいは通過帯域幅が200MHz以上であることが好ましく、または、共振尖鋭度Qが、例えば約10GHzのXバンドでは無負荷Q値が100以下、負荷Q値が50以下であることが好ましい。また、(3)の充填率は、ESRに使用されるマイクロ波の磁界エネルギーを共振器に蓄えられるエネルギーで割った値である。
【0006】
これらのパルスESR測定装置の性能のうち、最も重要なのは広帯域共振周波数特性である。ESR測定時に試料が挿入されるマイクロ波空洞(Cavity)共振器は、一般には無負荷Q値が数千~数万とQ値が極めて高い。そのため、パルスESR測定においては、種々の共振器の中で比較的Q値が低い方形TE102空洞共振器が主に用いられている。また、必要な広帯域のQ値を得るため、共振器と測定装置本体との間の電気的接続に密結合(Over Coupling)が用いられている。
【0007】
しかしながら、このような方法では、装置本体と共振器との間でのマイクロ波の多重反射による不感時間(Dead Time)が長くなるため、感度の低下を引き起こしてしまうという問題がある。また、最近では空洞共振器の代わりに誘電体共振器も使用されている。しかしながら、誘電体共振器においても同様に装置本体との間の電気的接続に密結合が用いられており、したがって、高感度化は困難である。
【0008】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、共振周波数特性を広帯域化することが可能であるとともに、その感度が向上される空洞共振器、及びそれを用いた電子スピン共鳴測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明による空洞共振器は、(1)内部に共振空洞を有する円筒形状の本体部と、(2)本体部において円筒形状の円周方向に並ぶように、それぞれ本体部の中心軸方向を長手方向として設けられた複数のスロットを有するスロットアレイと、(3)スロットアレイを構成するスロットから外部へと放射される電磁波に対して、本体部の外側に設けられたカバー部とを備え、上記カバー部は、複数のスロットのうちの少なくとも一のスロットに対して設けられ、スロットの円周方向における両側にそれぞれスロットから外側に延びるように配置された一対の板状部を有することを特徴とする。
【0010】
上記した空洞共振器では、共振空洞を有する本体部において、その円周方向に並ぶ複数のスロットからなるスロットアレイを設けている。このような構成のスロットアレイ共振器(SAR:Slot Array Resonator)によれば、スロット同士の磁気的な結合により、広帯域の共振周波数特性を得ることができる。また、本体部に設けられる複数のスロットの個数、形状、配置等の設定により、その共振器として得られる共振周波数特性を一定の範囲で設定、制御することが可能となる。
【0011】
さらに、上記構成では、スロットアレイを構成するスロットに対し、スロットアレイを含む本体部からみて外側に、スロットから外部へと放射される電磁波に対する蓋として機能するカバー部を設置している。このような構成とすることにより、本体部のスロットアレイによって空洞共振器の共振周波数特性を広帯域化すると同時に、スロットに対して設けられたカバー部によって磁界エネルギーを共振空洞に蓄えて、その測定感度を向上することが可能となる。
【0012】
ここで、カバー部の構成については、複数のスロットのうちの少なくとも一のスロットに対して設けられ、スロットの円周方向における両側にそれぞれスロットから外側に延びるように配置された一対の板状部を有する構成を用いることが好ましい。
【0013】
本構成では、スロットアレイを構成するスロットに対し、スロットの円周方向における両側からそれぞれ本体部の外側に向かう一対の板状部を設け、この一対の板状部を少なくとも含む構造によって、上記したカバー部を構成している。このような構成によれば、一対の板状部を含むカバー部によって磁界エネルギーを共振空洞に好適に蓄えて、その測定感度を向上することが可能となる。
【0014】
また、上記のように、一対の板状部を含むカバー部がスロットに対して設けられる構成では、カバー部は、複数のスロットのそれぞれに対して設けられていることが好ましい。このように、スロットアレイを構成する全てのスロットに対してそれぞれカバー部を設けることにより、磁界エネルギーを共振器に充分に蓄えることができる。また、スロットアレイを構成する一部のスロットに対してカバー部を設ける構成としても良い。
【0015】
カバー部の具体的な構成については、カバー部は、スロットの長手方向における両側にそれぞれ配置され、一対の板状部とともにスロットから外側に延びる導波管を構成する一対の第2の板状部を有する構成を用いることができる。
【0016】
また、カバー部は、スロットとは反対側となる終端部において一対の板状部の間を短絡するように設けられた短絡部を有する構成を用いることができる。また、カバー部は、上記したように一対の板状部と一対の第2の板状部とを有する場合に、スロットとは反対側となる終端部において一対の板状部及び一対の第2の板状部から構成される導波管をふさぐように設けられた短絡部を有する構成を用いることができる。また、これらの構成において、カバー部に設けられた短絡部は、一対の板状部に対して、スロットへの接続部と終端部との間で可動に構成されていることとしても良い。
【0017】
また、カバー部の構成については、本体部の外側に設けられた円筒形状の遮蔽部材を有する構成を用いても良い。このような構成によっても、円筒形状のカバー部によって磁界エネルギーを共振空洞に好適に蓄えて、その測定感度を向上することが可能である。
【0018】
本体部に設けられるスロットアレイは、円周方向に等間隔に並ぶように設けられた2個以上で所定個数のスロットから構成されていることが好ましい。このように、本体部のスロットアレイを充分な個数のスロットから構成することにより、共振器の共振周波数特性を充分に広帯域化することができる。また、複数のスロットを円周方向に等間隔に設けることにより、その構造の対称性から、共振空洞内での磁束密度分布の均一度を高くすることができる。
【0019】
また、スロットアレイとしては、複数のスロットとして、所定の開口面積の第1のスロットと、第1のスロットとは異なる開口面積の第2のスロットとを少なくとも有する構成を用いても良い。このような構成によれば、空洞共振器の共振周波数特性を、さらに広帯域化することができる。また、このような構成では、開口面積が異なる3種類以上のスロットを有する構成としても良い。また、個々のスロットの形状については、本体部の中心軸方向を長手方向とする矩形形状とすることが好ましい。また、矩形形状以外にも、様々な形状を用いることが可能である。
【0020】
本発明による電子スピン共鳴測定装置(ESR測定装置)は、(1)共振空洞内に測定対象となる試料が配置される上記構成の空洞共振器と、(2)空洞共振器に対してパルス状のマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段と、(3)空洞共振器からの電子スピン共鳴信号(ESR信号)を検出することで試料での電子スピン共鳴を測定する信号検出手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
上記したESR測定装置においては、上記構成の空洞共振器を用いることにより、本体部のスロットアレイによって空洞共振器の共振周波数特性を広帯域化すると同時に、スロットに対して設けられたカバー部によって磁界エネルギーを共振器に蓄えて、その測定感度を向上することができる。これにより、測定対象となる試料でのESRを好適に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明による空洞共振器、及び電子スピン共鳴測定装置によれば、共振空洞を有する本体部において、その円周方向に並ぶ複数のスロットからなるスロットアレイを設けるとともに、スロットアレイを構成するスロットから外部へと放射される電磁波に対して、本体部の外側にカバー部を設けることにより、共振器の共振周波数特性を広帯域化すると同時に、磁界エネルギーを共振器に蓄えて、その測定感度を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面とともに本発明による空洞共振器、及びそれを用いた電子スピン共鳴測定装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0024】
図1は、本発明による空洞共振器の一実施形態の構成を示す斜視図である。また、図2は、図1に示した空洞共振器の平面断面図である。ここで、図1においては、空洞共振器1Aの構成のうち、後述する本体部10の左上部分を一部破断して、その後方部分の構成を示すとともに、本体部10のスロットアレイ15の8個のスロット16に対して設けられる8個のカバー部20について、右側の4個のカバー部を図示し、左側の4個のカバー部については説明の便宜のため図示を省略している。
【0025】
また、図2は、図1に示した空洞共振器1Aの中心位置を通り、本体部10の円筒形状の中心軸に垂直な平面での断面図を示している。また、以下の説明においては、必要に応じて、円筒形状を有する本体部の中心軸方向を上下方向とし、円周方向を左右方向として説明する(図1参照)が、これらの上下、左右という表現は絶対的なものではなく、説明のための便宜的なものである。
【0026】
本実施形態による共振器1Aは、パルスESR測定装置などのESR測定装置に用いられる空洞共振器であり、本体部10と、複数のカバー部20とを備えて構成されている。これらの本体部10、及びカバー部20は、例えば金、銀、銅などの良導体材料によって形成されている。
【0027】
本体部10は、その内部に共振空洞11を有し、所定の軸Axを中心軸とした中空の円筒形状に構成されている。本空洞共振器1AをESR測定装置に適用した場合、ESRの測定対象となる試料Sは、図3に示すように、共振空洞11内の中心部にあって磁束密度分布が充分に均一となる位置に挿入される。なお、図3においては、簡単のために本体部10の円筒形状のみを図示している。
【0028】
本体部10を構成する円筒状の周壁には、図1及び図2に示すように、複数のスロット16を有するスロットアレイ15が設けられている。本実施形態においては、具体的には8個のスロット16によってスロットアレイ15が構成されている。スロットアレイ15のスロット16は、それぞれ本体部10の中心軸Axの方向を長手方向とした細長い矩形形状に形成されており、また、その形状は互いに同一の形状となっている。これらの8個のスロット16は、本体部10において円筒形状の円周方向に等間隔に並ぶように配置されている。このとき、図2に示すように、中心軸Axからみたスロット16の配置の角度間隔は45°となっている。
【0029】
本体部10に設けられたスロットアレイ15に対し、スロットアレイ15を構成している8個のスロット16のそれぞれに対して、カバー部20が設けられている。図4は、図1に示した空洞共振器1Aにおいて用いられるカバー部20の構成を示す斜視図である。カバー部20は、本体部10内の共振空洞11からスロット16を通って外部へと放射される電磁波に対して設けられるものであり、図4に示すようにスロット16への接続部が開放部分となっている。そして、この開放部分がスロット16に接続されることにより、カバー部20は、スロット16から本体部10の外側に延びる(本体部10の周壁外面からその外側に延びる)ように配置される。このような構成により、カバー部20は、スロット16から外部への電磁波の放射を抑制するカバー構造として機能する。
【0030】
本実施形態におけるカバー部20は、スロット16の円周方向における両側(左右の両側)にそれぞれ設けられた一対の板状部21、22と、一対の板状部を短絡させる短絡部25とによって構成されている。板状部21、22は、それぞれスロット16の矩形開口での左右の対応する辺から外側に延びる平板形状に形成されており、図2に示すように、本体部10の中心軸Ax及びスロット16の中心位置を通る平面Cを挟んで互いに平行に配置されている。また、短絡部25は、スロット16とは反対側となる終端部において、板状部21、22の間を短絡するように設けられた板状の短絡部である。また、このカバー部20においては、スロット16の長手方向における両側(上下の両側)は開放部分となっている。以上により、本実施形態のカバー部20は、終端短絡平行平板回路の構造となっている。
【0031】
また、このカバー部20において、図4に示すように円周方向(左右方向)の幅をw、長手方向(上下方向)の高さをh、スロット16から外側に延びる本体部10からの突出長さをlとすると、幅wは、例えばスロット16の開口幅と略一致するように設定することが好ましい。具体的には、カバー部20の平行平板の内側の幅w1が、スロット16の開口幅と等しくなるように設定することが好ましい。
【0032】
また、カバー部20の高さhは、スロット16から外部への電磁波の放射を効果的に抑制するため、スロット16の開口長さよりも長く設定することが好ましい。図1に示す構成例においては、このカバー部20の高さhは、円筒形状の本体部10の高さと一致するように設定されている。一般的には、この高さhは、円筒形状の本体部10の高さに比べて短くても長くても良いが、上記したようにスロット16の開口長さよりも長く設定することが好ましい。また、共振尖鋭度のQ値を小さくしたい場合には、逆に、カバー部20の高さhをスロット16の開口長さと同程度、またはそれよりも短く設定する構成とすることが好ましい。なお、図4においては、図示の容易のため、図1とは縮尺比率を変えてカバー部20の構成を示している。
【0033】
本実施形態による空洞共振器の効果について説明する。
【0034】
図1~図4に示した空洞共振器1Aでは、共振空洞11を有する円筒形状の本体部10において、その円周方向に並ぶ複数のスロット16からなるスロットアレイ15を設けたスロットアレイ共振器(SAR:Slot Array Resonator)の構成を用いている。このような構成によれば、複数のスロット16の間での磁気的な結合により、共振器1Aの全体として広帯域の共振周波数特性を得ることができる。すなわち、共振素子1個からなる共振器は単一共振周波数特性を持つが、複数個の共振素子を電気的あるいは磁気的に結合させた構成の複合共振器では、広帯域の共振周波数特性を持たせることが可能である。上記構成の共振器1Aにおいては、本体部10の円筒状の導体面にその中心軸と平行に設けられた複数のスロット16により、このような広帯域の特性が実現される。
【0035】
さらに、上記構成では、スロットアレイ15を構成するスロット16に対し、スロット16の円周方向における両側からそれぞれ本体部10の外側に向かう一対の板状部21、22を設けている。そして、この一対の板状部21、22を少なくとも含んでスロット16に対して設けられた構造によって、スロット16から外部へと放射される電磁波に対する蓋として機能するカバー部20を構成している。
【0036】
ここで、上記のように本体部10に複数のスロット16が設けられたスロットアレイ共振器の構成では、スロット16を介して本体部10から外部へと電磁波が放射されてしまうため、本体部10内の共振空洞11に電磁エネルギーを蓄えることが難しい。これに対して、スロットアレイ15に対してカバー部20を設ける構成とすることにより、本体部10のスロットアレイ15によって空洞共振器1Aの共振周波数特性を広帯域化すると同時に、スロット16に対して設けられたカバー部20によって磁界エネルギーを共振空洞11に蓄えることができる。また、このような構成とすることにより、本共振器1AをESR測定装置に適用した場合に、その測定感度を向上することが可能となる。
【0037】
また、上記構成の空洞共振器1Aでは、分布定数回路である本体部10のスロット16及びカバー部20によって構成されているため、その周波数特性に関して繰返し特性を有している。すなわち、この共振器1Aでは、基本共振周波数だけではなく、その約2倍の周波数でも同様に共振する。したがって、ESR測定において上記の空洞共振器1Aを適用することにより、例えば、多量子遷移ESR信号の周波数バンド特性を、例えばXバンドとKuバンドとにおいて共振器を取り換えることなく測定することが可能である。
【0038】
ここで、数値解析によって得られた共振周波数特性の一例を図5に示す。図5のグラフでは、設計された基本共振周波数に対応する9.377GHzの共振ピークに加え、その約2倍の周波数19.106GHzの共振ピークが得られている。この約2倍の共振周波数の共振ピークでは、基本設計周波数での磁界強度とあまり変わらない強度値が得られており、また、その磁界の方向も円筒軸方向に一致している。
【0039】
空洞共振器1Aで得られる磁束密度分布(電磁界分布)の均一度については、例えば従来の方形空洞共振器などと同等の均一度を得ることが可能である。また、本体部10でのスロットアレイ15と、それに対して外側に設置されるカバー部20とを組み合わせて用いる上記構造では、空洞共振器の設計の自由度が大きくなり、その周波数特性等の制御性が高い。なお、共振器の共振周波数、及び電磁界分布については、数値解析または実験によって確認可能である。また、図4に示した終端短絡平行平板回路の構造は、後述する導波管構造に比べて、数値解析等を行う際の電気的な取扱いが簡単だという利点がある。
【0040】
また、ESR測定装置において上記の共振器1Aを用いることにより、共振器1Aと測定装置本体との間の電気的接続に密結合(Over Coupling)を用いずに、臨界結合(Critical Coupling)を用いることが可能となる。すなわち、従来からパルスESR測定に用いられている共振器は、単一共振素子からなっているために電磁波の通過帯域幅が極めて狭い。例えば、約10GHzのXバンドでは、通常用いられている方形TE102空洞共振器(JEOL社製品)の負荷Q値は約5000であるので、通過帯域幅はわずかに約2MHzであり、この通過帯域幅を共振器と測定装置本体との間での密結合によって200MHz程度まで広げることが行われる。
【0041】
しかしながら、このように密結合を用いた場合、ESR測定装置本体のマイクロ波回路と、共振器との間でのインピーダンス不整合が大きくなる。その結果、マイクロ波の多重反射波が発生し、測定の不感時間が長くなり、測定の高感度化が妨げられることとなる。これに対して、上記構成の空洞共振器1Aによれば、スロットアレイ15を含む構造により、それ自体で共振周波数特性の広帯域化を実現することができる。したがって、共振器1Aと測定装置本体との間での電気的接続については、インピーダンスの整合性がとれた臨界結合を用いることができる。この場合、共振器1Aと装置本体との間では不感時間が長引く原因となる多重反射波の発生が極めて少なくなるので、ESR測定の感度を高感度化することが可能となる。
【0042】
上記したようにスロットアレイ15を設けた空洞共振器1Aでは、その本体部10に設けられる複数のスロット16の個数、形状、配置等の構成を適宜に設定することにより、共振器1Aの全体として得られる共振周波数特性を一定の範囲で設定、制御することが可能である。また、スロットアレイ15については、円周方向に並ぶように設けられた2個以上で所定個数のスロットによってスロットアレイを構成することが好ましい。さらに、スロットアレイを含む本体部の製造等を考慮すると、例えば、2個以上8個以下のスロット(上記実施形態では8個のスロット16)によってスロットアレイを構成することが好ましい。
【0043】
このように、本体部10のスロットアレイ15を2個以上で充分な個数のスロット16から構成することにより、共振器1Aの全体としての共振周波数特性を充分に広帯域化することができる。また、本体部10において2個以上のスロット16を設けてスロットアレイ15を構成することにより、本体部10の円筒中に、その中心軸に平行な磁界が発生するため、ESR測定を好適に実行することができる。このようなスロット16の個数については、具体的には、共振器1Aにおいて必要とされる周波数特性、共振空洞11内での磁束密度分布の均一性、及びスロットアレイ15を含む本体部10の製造の容易さなどを考慮した上で、最適な個数に設定することが好ましい。
【0044】
また、これらの複数のスロット16については、本体部10において円周方向に等間隔に並ぶように設けることが好ましい。これにより、その構造の対称性から、共振空洞11内での磁束密度分布の均一度を向上することができる。ただし、このようなスロット16の配置構成については、共振器1Aにおいて必要とされる周波数特性などによって等間隔ではない配置としても良い。
【0045】
また、スロットアレイ15の構成については、複数のスロット16として、所定の開口面積の第1のスロットと、第1のスロットとは異なる開口面積の第2のスロットとを少なくとも有する構成を用いても良い。このような構成によれば、例えば、空洞共振器の共振周波数特性をさらに広帯域化するなど、その周波数特性を様々に制御することが可能となる。そのような構成を有する本体部の変形例を図6に示す。
【0046】
図6に示す本体部10Aは、スロットアレイ15を構成する8個のスロットとして、所定の開口面積を有する第1のスロット16Aと、第1のスロット16Aよりも大きい開口面積を有する(図6においては第1のスロット16Aよりも幅、長さともにやや大きい)第2のスロット16Bとをそれぞれ4個ずつ、交互に配置した構成となっている。このような構成では、開口面積が異なるスロット16A、16Bの組合せ、及びそれらの間での磁気的な結合により、共振器の共振周波数特性をさらに広帯域化することができる。さらに、スロットの開口面積の組合せ、及びそれらの配置の設定等により、その共振器で得られる共振周波数特性を一定の範囲で制御することが可能となる。また、このような構成では、開口面積が異なる3種類以上のスロットを有する構成としても良い。
【0047】
また、スロットアレイ15を構成する個々のスロット16の形状については、上記実施形態では図7(a)に示すように、本体部10の中心軸方向を長手方向とした矩形形状としているが、このような矩形形状以外にも、様々な形状を用いることが可能である。図7(b)には、そのような形状の例として、長手方向の両端部に円形状の部分を設けたダンベル形状のスロット16Cを示している。
【0048】
また、スロットアレイ15を構成するスロット16に対して設けられるカバー部20については、図1及び図2に示した構成のように、複数のスロット16のそれぞれに対して設けられていることが好ましい。このように、スロットアレイ15を構成する全てのスロット16に対してカバー部20を設けることにより、磁界エネルギーを共振器1Aにおいて効率良く蓄えることができる。
【0049】
また、このようなカバー部20については、スロットアレイ15を構成する一部のスロットに対してカバー部を設ける構成としても良い。このような構成としては、例えば、図1に示す構成において、8個のスロット16のうちで1個おきで4個のスロット16に対してカバー部20を設け、それ以外の4個のスロット16については開放状態とする構成が例として挙げられる。一般には、カバー部20は、スロットアレイ15を構成する複数のスロット16のうちの少なくとも一のスロットに対して設けられていれば良い。
【0050】
また、空洞共振器1Aを構成する円筒形状の本体部10内、あるいはカバー部材20内に円筒形状、棒状、板状などの誘電体を装荷し、この誘電体を用いて共振周波数の微調整を行う構成としても良い。このような周波数調整用の誘電体を用いることにより、共振器1Aでの共振周波数特性を最適な特性に調整することが可能となる。
【0051】
本体部10及びカバー部20の具体的な形状、寸法等の設定については、本体部10に設けられるスロット16の開口長さは、ESR測定に用いるマイクロ波の波長に基づいて設定することが好ましい。この開口長さは、例えば1/2波長程度の長さに設定される。また、カバー部20の突出長さl(図4参照)についても、同様にマイクロ波の波長に基づいて設定することが好ましい。この突出長さは、例えば1/4波長程度の長さに設定される。
【0052】
共振器1Aの構成の一例としては、例えばスロット数が8個のXバンドスロットアレイ共振器を想定した場合に、本体部10の中心軸方向の長さが100.0mm、その円筒形状の径が12.0mm、スロットアレイ15を構成するスロット16の長手方向の長さが55.0mm、その円周方向の幅が2.0mmに設定された構成がある。また、本体部10の円筒状の周壁の厚さについては、電磁波の進入深さ、及び本体部の機械的強度等を考慮して設定することが好ましく、例えばその厚さは数mm程度である。
【0053】
空洞共振器1Aの材料、及びその作製方法については、共振器の大きさ及び形状等に応じて様々な材料及び作製方法を用いて良い。例えば、空洞共振器の作製方法については、その大きさ等により、導体板を用いて作製する方法、あるいは、導体ブロックから不必要な部分をくりぬいて作製する方法等を用いることができる。
【0054】
また、共振器を構成する本体部、カバー部の材料については、上記実施形態では良導体材料を例示しているが、その他にも様々な材料を用いて良い。例えば、誘電体材料で所定形状の部材を作製し、その必要な表面部分に導体をメッキし、あるいは導体微粒子を含む塗料を吹き付ける(例えば銀ペイント)ことで本体部等の共振器の構成部材を作製しても良い。
【0055】
また、パルスESR測定では、Q値を下げるために、誘電体部材の表面に銀ペイントを薄く塗る構成も考えられる。このような構成では、電磁波がある程度外側に漏れることによる損失を利用してQ値を下げることができる。また、このような効果は、良導体材料ではなく半導体材料によって共振器を作製することによっても得られる。
【0056】
上記実施形態による空洞共振器1AをESR測定に適用する場合、共振器1Aへのマイクロ波の導入方法については、例えば図8及び図9に示す構成を用いることができる。図8に示す構成では、空洞共振器1Aに対してマイクロ波を導入するためのマイクロ波導入部30を用い、このマイクロ波導入部30を、複数のカバー部20のうちから選択された1個のカバー部20内に挿入することで、共振器1Aへのマイクロ波の導入を実現する。
【0057】
本構成例では、マイクロ波導入部30は、具体的には図9に示すように、内導体32、及び外導体33を有する50Ω同軸ケーブル31と、同軸ケーブル31の先端に設けられた結合コイル34とを有して構成されている。ここで、図8及び図9に示すように、本体部10の中心軸Axの方向をz軸、z軸に直交する2軸をx軸、y軸とすると、このマイクロ波導入部30は、マイクロ波導入用の同軸ケーブル31の軸をz軸と一致させた状態でカバー部20内に挿入される。なお、同軸ケーブル31としては、例えばセミリジッドケーブルを用いることができる。
【0058】
また、この同軸ケーブル31の先端に設けられた結合コイル34は、ケーブル31での内導体32と外導体33とを結ぶ導線により、そのコイル面がxy平面上となる1巻きのコイル形状に形成されている。また、この結合コイル34の形状としては、例えば円形、方形、正方形など、様々な形状を用いてよい。具体的なコイル34の好適な形状については、例えば数値解析により容易に決定することができる。
【0059】
上記実施形態において用いられている終端短絡平行平板回路構造のカバー部20の場合には、図8に示すように、その短絡部25の近傍の所定位置にマイクロ波導入部30が挿入される。また、このような構成において、図8に示すように結合コイル34のカバー部20内での挿入位置をz軸方向に移動、調整することにより、共振器1Aと、ESR測定装置などの装置本体との間でのインピーダンスマッチングを取ることができる。このインピーダンスマッチングについては、結合コイル34をz軸方向に移動することにより、疎結合、臨界結合、及び密結合へのスムーズな調整が可能であることが確認されている。
【0060】
また、同軸ケーブル31は、カバー部20に対して短絡部25に近い位置に設置することが好ましい。特に、同軸ケーブル31は、カバー部20の内側、例えばカバー部20を構成する短絡部25の内側に接触して、外導体33が電気的に導通状態になっていることが好ましい。外導体33がカバー部20に接続されていない構成とすると、外導体33にマイクロ波電流が流れる場合があり、電波が外部に放射されるのでボディエフェクトの原因となる可能性がある。
【0061】
共振器1Aへのマイクロ波の導入方法については、上記した図8及び図9に示した構成以外にも、様々な構成を用いて良い。図10は、共振器1Aへのマイクロ波の導入方法の他の例について示す図である。図10に示す構成では、カバー部20の短絡部25の略中心位置に円形状の小孔である導入孔(アイリス)35を設けるとともに、この導入孔35に対してマイクロ波の導入、及びESR信号の出力に用いられる方形の導波管36を接続する構成を用いている。
【0062】
このような構成では、高電力の伝送が可能であるという利点がある。例えば、同軸ケーブルの耐電力が1kW程度であるのに対して、導入孔35及び導波管36を用いる構成では、1kWを超えるマイクロ波パルスの伝送が可能である。なお、このような構成において、導入孔35の形状、寸法、及び導波管36の構成等については、図10に示した構成に限られるものではなく、様々に変形して良い。例えば、導波管36として方形ではなく円形の導波管を用いても良い。
【0063】
本体部10のスロットアレイ15を構成するスロット16に対して設けられるカバー部20の具体的な構成については、図4に示した終端短絡平行平板回路の構成以外にも、様々な構成を用いることが可能である。
【0064】
そのようなカバー部の構成例を図11~図14に示す。図11は、空洞共振器に用いられるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。本構成例におけるカバー部20Aは、図4に示したカバー部20と同様に、その開放部分がスロット16に接続されることにより、スロット16から本体部10の外側に延びるカバー構造として機能する。具体的にはカバー部20Aは、スロット16の円周方向における両側(左右の両側)にそれぞれ設けられた一対の板状部21、22と、スロット16の長手方向における両側(上下の両側)にそれぞれ設けられた一対の第2の板状部23、24と、一対の板状部を終端部において短絡させる板状の短絡部25とによって構成されている。
【0065】
このような構成において、上下の第2の板状部23、24は、左右の板状部21、22とともにスロット16から本体部10の外側に延びる導波管を構成している。また、短絡部25は、図11に示すように、板状部21、22、及び第2の板状部23、24から構成される導波管をふさぐように設けられている。以上により、本実施形態のカバー部20Aは、終端短絡方形導波管の構造となっている。また、このような構成のカバー部20A内にマイクロ波導入部30を挿入する場合、図11に示すように、スロット16の長手方向の一方側の板状部23において、その短絡部25の近傍の所定位置に挿入孔23aを設け、この挿入孔23aを通してマイクロ波導入部30を挿入することが好ましい。
【0066】
また、本構成においても、図8に示した構成と同様に、挿入孔23aを短絡部25に近い位置に設け、マイクロ波導入部30の同軸ケーブルをカバー部20に対して短絡部25に近い位置に設置することが好ましい。特に、同軸ケーブルは、短絡部25の内側に接触して、外導体が電気的に導通状態になっていることが好ましい。
【0067】
図12は、空洞共振器に用いられるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。本構成例におけるカバー部20Bは、図4に示したカバー部20と同様に、その開放部分がスロット16に接続されることにより、スロット16から本体部10の外側に延びるカバー構造として機能する。具体的にはカバー部20Bは、スロット16の左右の両側にそれぞれ設けられた一対の板状部21、22によって構成されている。
【0068】
また、このカバー部20Bにおいては、スロット16の上下の両側、及びスロット16とは反対側となる終端部は、それぞれ開放部分となっている。以上により、本実施形態のカバー部20Bは、終端開放平行平板回路の構造となっている。また、このような構成のカバー部20B内にマイクロ波導入部30を挿入する場合、図12に示すように、その板状部21、22の突出長さ方向の中心部の所定位置にマイクロ波導入部30を挿入することが好ましい。また、本構成においては、マイクロ波導入部30の同軸ケーブルは、同軸ケーブルの外導体がカバー部20の片側の平板に接触していることが好ましい。
【0069】
図13は、空洞共振器に用いられるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。本構成例におけるカバー部20Cは、図4に示したカバー部20と同様に、その開放部分がスロット16に接続されることにより、スロット16から本体部10の外側に延びるカバー構造として機能する。具体的にはカバー部20Cは、スロット16の左右の両側にそれぞれ設けられた一対の板状部21、22と、スロット16の上下の両側にそれぞれ設けられた一対の第2の板状部23、24とによって構成されている。
【0070】
このような構成において、上下の第2の板状部23、24は、左右の板状部21、22とともにスロット16から本体部10の外側に延びる導波管を構成している。また、このカバー部20Cにおいては、スロット16とは反対側となる終端部は開放部分となっている。以上により、本実施形態のカバー部20Cは、終端開放方形導波管の構造となっている。また、このような構成のカバー部20C内にマイクロ波導入部30を挿入する場合、図13に示すように、スロット16の長手方向の一方側の板状部23において、その板状部21、22の突出長さ方向の中心部の近傍の所定位置に挿入孔23bを設け、この挿入孔23bを通してマイクロ波導入部30を挿入することが好ましい。また、本構成においては、マイクロ波導入部30の同軸ケーブルは、同軸ケーブルの外導体がカバー部20の片側の平板に接触していることが好ましい。あるいは、挿入孔23bにおいて、同軸ケーブルの外導体が板状部23に接触している構成としても良い。
【0071】
図14は、空洞共振器に用いられるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。本構成例におけるカバー部20Dの構成は、図4に示したカバー部20の構成とほぼ同様であるが、カバー部20においてその終端部に固定に設けられた短絡部25に代えて、可動式で板状の短絡部26が設けられている点で相違する。すなわち、本構成例のカバー部20Dでは、図14に示すように、板状部21、22の間を短絡させる短絡部として、板状部21、22の突出長さ方向において、スロットへの接続部と終端部との間で移動可能に構成された可動短絡部26が設けられている。
【0072】
このように短絡部26を構成する板状部材(短絡板)を移動可能とする構成によれば、平行平板回路の長さ(深さ)を容易に変えることができる。これにより、平行平板回路構造のカバー部20Dを含む空洞共振器での共振周波数特性を容易に変えることが可能となる。なお、このように可動短絡部26を用いる構成は、平行平板回路構造のカバー部のみでなく、方形導波管構造のカバー部に対しても同様に適用可能である。また、本体部に対して複数のカバー部を設ける構成では、そのうちの一部のカバー部(少なくとも1つのカバー部)に対して可動短絡部26を設けても良く、あるいは、全てのカバー部に対して可動短絡部26を設けても良い。
【0073】
次に、上記構成の空洞共振器を用いた本発明による電子スピン共鳴(ESR)測定装置について説明する。図15は、空洞共振器を用いたESR測定装置の一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。本実施形態によるESR測定装置5は、マイクロ波発振器50と、上記構成を有する空洞共振器1Bと、ESR信号検出装置60とを備え、測定対象の試料に対してパルス状のマイクロ波を供給してESR測定を行うパルスESR測定装置として構成されている。
【0074】
図15に示す構成例において、マイクロ波発振器50と、ESR信号検出装置60との間には、マイクロ波発振器50側から順に、分配器51と、第1スイッチ部52と、TWT(Traveling Wave Tube)増幅器53と、サーキュレータ54、55と、第2スイッチ部61と、RF増幅器62と、ミキサ63と、ローパスフィルタ64と、IF増幅器65とが設けられている。
【0075】
発振器50は、マイクロ波等の測定用搬送波を生成するものであり、その発振周波数としては、例えばXバンド、Lバンドなどでの所定の周波数が用いられる。共振器1Bは、上記したスロットアレイ共振器の構成を有する空洞共振器であり、その共振空洞内に試料が配置される。また、この共振器1Bに対して、直流磁界用コイルなどを必要に応じて含む磁界印加部70が所定位置に設置される。
【0076】
発振器50から出力されたマイクロ波は、分配器51により、主線路マイクロ波、及び参照マイクロ波に分岐される。主線路マイクロ波は、第1スイッチ部52でのスイッチ動作によってパルス状のマイクロ波とされ、さらにTWT増幅器53によって目的とする電力に調整された後、サーキュレータ54を介してサーキュレータ55に供給される。サーキュレータ55により分岐された主線路マイクロ波は、共振器1Bへと導入される。測定対象の試料が共振空洞内に配置された空洞共振器1Bで発生した電子スピン共鳴信号(ESR信号)は、再びサーキュレータ55へと戻り、第2スイッチ部61を通過し、さらにRF増幅器62で増幅された後、ミキサ63に供給される。
【0077】
一方、分配器51で分配された参照マイクロ波は、移相器56によって共振器1BからのESR信号と位相が合うように調整された後、ミキサ63へと供給される。ミキサ63は、サーキュレータ55から出力されたESR信号と、移相器56から供給された参照マイクロ波との混合を行う。ミキサ63からの出力波は、ローパスフィルタ64及びIF増幅器65によって整形、増幅された後、ESR信号検出装置60によって検出される。これにより、試料に対するESR測定が行われる。
【0078】
図15に示した構成のパルスESR測定装置において、マイクロ波発振器50及び第1スイッチ部52により、空洞共振器1Bに対してパルス状のマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段が構成されている。また、ESR信号検出装置60により、空洞共振器1BからのESR信号を検出することで試料での電子スピン共鳴を測定するための信号検出手段が構成されている。また、第1スイッチ部52、及び第2スイッチ部61におけるスイッチ動作は、スイッチドライバ73、74を介して、パルスコントローラ72によって制御されている。
【0079】
なお、本発明による空洞共振器及びESR測定装置は、二量子遷移ESR測定においても好適に適用可能であるが、二量子遷移ESR測定を行う場合のパルスESR測定装置の構成についても、その基本的な構成は図15に示した構成と同様である。また、二量子遷移ESR測定のための測定装置の具体的な構成、あるいはその測定条件等については、例えば文献「Advanced EPR: Applications in Biology and Biochemistry (Ed. A. J.Hoff), Elsevier Amsterdam, Ch.5 pp.177-242 (1989)」を参照することができる。
【0080】
上記構成を有する本発明によるスロットアレイ型の空洞共振器と、従来の方形空洞共振器との性能を比較するため、電子スピンエコー(ESE:Electron Spin Echo)の測定を行った。ここでは、本発明による空洞共振器としては、図1に示した構成で共振周波数9.2GHzとして作製された、スロット数8個、円筒空洞の内径12mmのXバンドのスロットアレイ共振器を用いた。また、従来の空洞共振器としては、JEOL社製品の方形TE102空洞共振器を用いた。また、共振器へと供給されるパルス電力はTWT増幅器の出力として約1kWとした。
【0081】
また、ここでは、図16の断面図に模式的に示すように、銅(Cu)製の共振器80内に、内部が真空の石英二重管81を挿入し、その内側に試料Sを配置してESE信号の取得実験を行った。また、このとき、本発明によるスロットアレイ共振器と、従来の方形空洞共振器とで、負荷Q値がほぼ同じ値になるように調整した。また、測定対象の試料Sとしては、γ線照射石英砂を用いた。
【0082】
図17は、実験によって得られたESE信号振幅を示すグラフである。ここで、横軸は負荷Q値を示し、縦軸は得られたESE信号の振幅(mV)を示している。このグラフからわかるように、同じ負荷Q値でみると、本発明によるスロットアレイ共振器では、従来の方形共振器と比べて約1.2倍の信号振幅が得られている。例えば、多量子遷移ESRを測定する場合、その信号は微弱であり、したがって、この1.2倍の測定感度向上は、このような信号を測定できるか否かという点で重要である。また、上記構成のスロットアレイ共振器では、共振器の具体的な構造を最適化していくことにより、さらなる測定感度の向上が可能である。
【0083】
図18は、ESE信号の時間波形を示すグラフである。ここで、横軸は時間(ns)を示し、縦軸は各時間におけるESE信号の振幅(mV)を示している。また、グラフG1は、本発明によるスロットアレイ共振器を用いて得られた二量子遷移のESE時間波形を示し、グラフG2は、文献「P. P. Borbat and J. H. Freed, in Biological Magnetic ResonanceVol.19 (Eds.: L. J. Berliner, S. S. Eaton, G. R. Eaton), Kluwer NY, Ch.9 pp.383-459 (2000)」に記載された二量子遷移のESE時間波形を示している。このグラフからわかるように、上記構成のスロットアレイ空洞共振器を用いることにより、二量子遷移のESE時間波形が良好に取得されている。
【0084】
なお、図18のグラフG1では、グラフG2に比べると波形が乱れており、釣鐘状の波形信号が得られている。このような波形については、共振器の性能とは関係なく、使用したパルスESR測定装置の特性に起因するものであることを確認している。
【0085】
本発明による空洞共振器、及びESR測定装置は、上記実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、カバー部20を構成する板状部21、22、第2の板状部23、24、板状の短絡部25等については、上記構成例ではいずれも平板状の構成としているが、これらの具体的な形状については平面形状に限られるものではなく、曲面形状を有する板状部等によってカバー部を構成しても良い。
【0086】
また、カバー部を導波管の構造とする場合、図11に示した構成では、円周方向の両側の板状部21、22と、長手方向の両側の第2の板状部23、24とによって断面が方形の導波管を構成しているが、このような構成に限られるものではない。例えば、円周方向の両側の板状部21、22を曲面形状とし、それらをなめらかに接続することで断面が楕円形、あるいは円形等の形状となる一体の導波管構造としても良い。
【0087】
さらに、上記した各実施形態では、本体部10のスロット16から外部へと放射される電磁波に対する蓋として機能するカバー部20について、スロット16の円周方向における両側にそれぞれスロット16から外側に延びるように配置された一対の板状部21、22を有する構成を用いている。一般には、このようなカバー部は、スロットアレイを構成するスロットから外部へと放射される電磁波に対して、本体部の外側に設けられていれば良く、具体的には上記構成以外にも様々な構成を用いて良い。
【0088】
図19は、本発明による空洞共振器の他の実施形態の構成を示す斜視図である。本実施形態による共振器1Cは、本体部10と、カバー部40とを備えて構成されている。これらの本体部10、及びカバー部40は、例えば金、銀、銅などの良導体材料、あるいはそれ以外の好適な材料によって形成されている。これらのうち、本体部10の構成については、図1に示した実施形態と同様である。また、カバー部40は、スロットアレイ15を構成するスロット16から外部へと放射される電磁波に対して、本体部10の外側に一定の間隔dをおいて設けられた円筒形状の遮蔽部材41によって構成されている。このような構造では、本体部10でのスロット16の形状、寸法、及び本体部10と遮蔽部材41との距離dなどのパラメータによって、共振周波数が設定される。
【0089】
図20は、空洞共振器のさらに他の実施形態の構成を示す斜視図である。本実施形態による共振器1Dは、本体部10と、カバー部45とを備えて構成されている。これらのうち、本体部10の構成については、図1に示した実施形態と同様である。また、カバー部45は、本体部10の外側に一定の間隔をおいて設けられた円筒形状の遮蔽部材46と、長手方向の両側においてそれぞれ本体部10と遮蔽部材46との間を接続するように設けられた接続部材47、48とによって構成されている。これらの図19、図20に示す構成例のように、カバー部については具体的には様々な構成を用いることが可能である。
【0090】
また、本体部10のスロット16に対して設けられるカバー部20の形状については、図1に示した実施形態では、中心軸Ax及びスロット16の中心位置を通る平面に沿って延びる構成としている。このようなカバー部20の形状については、例えば図21の変形例(a)~(d)に示すようにカバー部を直線状に折り曲げ、または曲線状に曲げた断面形状など、様々な形状を用いて良い。このような形状は、例えば、磁石の磁極間隙の限られたスペースに共振器を配置するなどの場合に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、共振周波数特性を広帯域化することが可能であるとともに、その感度が向上される空洞共振器、及びそれを用いた電子スピン共鳴測定装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】空洞共振器の一実施形態の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した空洞共振器の平面断面図である。
【図3】空洞共振器の共振空洞内での試料の配置について示す模式図である。
【図4】図1に示した空洞共振器におけるカバー部の構成を示す斜視図である。
【図5】空洞共振器の共振周波数特性の一例を示すグラフである。
【図6】空洞共振器における本体部の構成の変形例を示す斜視図である。
【図7】本体部におけるスロットの構成例を示す図である。
【図8】共振器へのマイクロ波の導入方法について示す図である。
【図9】マイクロ波導入部の構成の一例を示す斜視図である。
【図10】共振器へのマイクロ波の導入方法の他の例について示す図である。
【図11】空洞共振器におけるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。
【図12】空洞共振器におけるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。
【図13】空洞共振器におけるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。
【図14】空洞共振器におけるカバー部の構成の他の例を示す斜視図である。
【図15】ESR測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図16】空洞共振器を用いたESE信号の取得実験について示す図である。
【図17】ESE信号振幅を示すグラフである。
【図18】ESE信号の時間波形を示すグラフである。
【図19】空洞共振器の他の実施形態の構成を示す斜視図である。
【図20】空洞共振器の他の実施形態の構成を示す斜視図である。
【図21】図1に示した空洞共振器の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
1A、1B、1C、1D…空洞共振器、10、10A…本体部、11…共振空洞、15…スロットアレイ、16、16A、16B、16C…スロット、20、20A~20D…カバー部、21、22…板状部、23、24…第2の板状部、25…短絡部、26…可動短絡部、30…マイクロ波導入部、31…同軸ケーブル、32…内導体、33…外導体、34…結合コイル、35…導入孔、36…導波管、40、45…カバー部、41、46…遮蔽部材、47、48…接続部材、
5…電子スピン共鳴測定装置、50…マイクロ波発振器、51…分配器、52…第1スイッチ部、53…TWT増幅器、54、55…サーキュレータ、56…移相器、60…ESR信号検出装置、61…第2スイッチ部、62…RF増幅器、63…ミキサ、64…ローパスフィルタ、65…IF増幅器、70…磁界印加部、72…パルスコントローラ、73、74…スイッチドライバ。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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