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明細書 :遮音構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5209037号 (P5209037)
公開番号 特開2012-122236 (P2012-122236A)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月12日(2013.6.12)
公開日 平成24年6月28日(2012.6.28)
発明の名称または考案の名称 遮音構造体
国際特許分類 E04B   1/82        (2006.01)
G10K  11/16        (2006.01)
FI E04B 1/82 A
G10K 11/16 G
請求項の数または発明の数 4
全頁数 19
出願番号 特願2010-273130 (P2010-273130)
出願日 平成22年12月8日(2010.12.8)
審査請求日 平成22年12月24日(2010.12.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
発明者または考案者 【氏名】西村 正治
個別代理人の代理人 【識別番号】100078204、【弁理士】、【氏名又は名称】滝本 智之
審査官 【審査官】渋谷 知子
参考文献・文献 再公表特許第2006/106854(JP,A1)
特開平09-111907(JP,A)
実開昭51-005821(JP,U)
特開昭63-125454(JP,A)
特開2009-019413(JP,A)
特開平06-272330(JP,A)
調査した分野 E04B 1/82-86
G10K 11/16
特許請求の範囲 【請求項1】
可撓性を有する薄いフィルム状素材により密閉袋状に形成された遮音部材と、
多数の開口を有し且つ所定の内部体積を有する偏平な箱状に形成されて前記遮音部材が内包された保形枠体と、
前記遮音部材の内部に封入された気体の圧力をほぼゼロから前記遮音部材の一部が前記保形枠体の各開口内に膨出する圧力までの範囲で可変するよう制御する圧力制御ユニットとを備えたことを特徴とする遮音構造体。
【請求項2】
請求項1において、
格子状の一対の枠部材の間に前記保形枠体を挟み込んで支持する支持枠体を備え、
前記支持枠体の格子形状の開口部を形作る桟部が、前記保形枠体の開口形成面に対し直交方向に延びる形状に形成されて、前記桟部の先端面が前記保形枠体の開口形成面に当接されていることを特徴とする遮音構造体。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記圧力制御ユニットが、逆止弁を介在して前記遮音部材の内部に連通するように接続された気体供給用ポンプと、前記遮音部材の内部に連通するように接続された排気弁および圧力計と、操作盤からの指令信号と前記圧力計からの圧力検知信号が入力されて前記気体供給用ポンプの駆動と前記排気弁の開閉とを制御するコントローラとを備えて構成されていることを特徴とする遮音構造体。
【請求項4】
可撓性を有する薄い素材により密閉袋状に形成され、内部に気体が所定圧力に封入された遮音部材と、
多数の開口を有し且つ所定の内部体積を有する偏平な箱状に形成されて前記遮音部材が内包された保形枠体とを備えるとともに、
前記遮音部材に封入される気体の前記所定圧力は、前記遮音部材が前記保形枠体の開口に張り付き状態に密着して張力が付与され、音波に対する前記遮音部材の剛性を高めるに十分な圧力であることを特徴とする遮音構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の仕切り壁、窓口、遮音壁体、遮音扉または航空機や車両の遮音胴体などの用途に用いることができる遮音構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では、遮音構造体として、遮音材として機能する鋼板の内側に吸音材を貼着したものや、2枚の鋼板の間に吸音材や水を充填したものが一般的に用いられており、いずれの遮音構造体も全体として平板状の外観になっている。この平板状の遮音構造体の遮音性能は、一般に、その平板の一次固有振動数以下の周波数領域において、自体の剛性に対応して遮音効果が律則される剛性則と称される法則に依存するとともに、一次固有振動数以上の周波数領域において、 遮音構造体の質量に対応して遮音効果が律則される質量則に依存する。ここで、一般的な遮音構造体では、その一次固有振動数が数十Hz以下であるため、大部分の可聴音周波数領域において、遮音効果が質量則に依存する。この質量則によると、遮音構造体の面密度(単位面積当たりの質量)が大きいほど遮音構造体が振動し難いことから、遮音構造体に対する入射音波の透過損失が大きくなって遮音効果が高くなる。ところが、遮音構造体の面密度を大きくするためには、遮音構造体の厚みを大きく設定する必要があり、厚みが大きくなるのに伴って重量が増大し、遮音構造体を取り付け又は取り外すなどの取扱いが困難となる。
【0003】
上述した問題の解消を図るものとして、軽量化を図りながらも従来の平板状の遮音構造体よりも優れた遮音効果が得られる遮音構造体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この遮音構造体は、半球状の内部に空気を封入した気泡体が可撓性シートの片面に多数形成されてなる遮音シートを、気泡体を内側とした配置で渦巻き状に巻回して円柱形状としたシートロールを複数備え、これらシートロールを、一面が開口し、且つ他面が格子形状となった保持枠の内部に並べて収容し、格子状の押え枠を、前記各シートロールに圧縮力を付与しながら保持枠の他面に固定した構成になっている。この遮音構造体では、遮音シートを透過して各気泡体の内部にそれぞれ入射した音波が、気泡体の内面で多重反射して減衰するとともに互いに干渉することで音響エネルギが低減され、また、遮音シート自体を振動させる音響エネルギに変換されて、各気泡体が互いに密着していることから振動が減衰するとともに、互いに干渉して打ち消され、さらに、遮音シートの互いに隣接する部分の間でも入射音波が多重反射して減衰し、互いに干渉して音響エネルギが低減されるように機能する。このように、この遮音構造体は、空気を封入した気泡体を多数有するシートロールにより遮音効果を得るようになっているので、軽量化と所要の遮音効果とを得られるように図ったものになっている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2002-138591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の遮音構造体は、空気が封入された小さな気泡体を多数有するシートロールを、保持枠と押え枠との間で各気泡体間に隙間が殆ど無くなる状態にまで圧力を付与して収納する構成となっているから、構成が比較的複雑であり、それに伴って製造コストが高くつく。また、保持枠と押え枠は、複数のシートロールを変形させて各気泡体が互いに密着状態となる圧力を付与するように合体させるものであるので、剛性の高い素材(特許文献1では鉄)で形成する必要があり、剛性の高い素材は一般に重量も
大きいことから、この遮音構造体は、既存のものに比較して格段の軽量化を達成できるものではない。さらに、この遮音構造体は、入射音波を各気泡体の内部で散乱させるのに加えて、入射音波により発生する各気泡体の振動が互いに干渉して打ち消しあうようになっているが、振動を完全に打ち消すことは困難であり、残存する振動によって遮音構造体の透過側の空気粒子が振動して音波を放射してしまう。特許文献1に図示された測定結果のグラフによると、この遮音構造体により十分な遮音効果が得られるのは、入射音波の周波数が63Hz以下の周波数領域だけである。また、この遮音構造体では、必要に応じて遮音状態と遮音解除状態とに切り換えたり、入射音波の遮音すべき周波数領域を調整したりすることもできない。
【0006】
本発明は、格段の軽量化を達成でき、且つ安価に製作できる簡単な構成としながらも、入射音波の広範な周波数領域に対して優れた遮音効果を得ることができる遮音構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の遮音構造体は、可撓性を有する薄いフィルム状素材により密閉袋状に形成された遮音部材と、多数の開口を有し且つ所定の内部体積を有する偏平な箱状に形成されて前記遮音部材が内包された保形枠体と、前記遮音部材の内部に封入された気体の圧力をほぼゼロから前記遮音部材の一部が前記保形枠体の各開口内に膨出する圧力までの範囲で可変するよう制御する圧力制御ユニットとを備えたことを特徴としている。
【0008】
請求項2に係る発明の遮音構造体は、請求項1に係る発明において、格子状の一対の枠部材の間に前記保形枠体を挟み込んで支持する支持枠体を備え、前記支持枠体の格子形状の開口部を形作る桟部が、前記保形枠体の開口形成面に対し直交方向に延びる形状に形成されて、前記桟部の先端面が前記保形枠体の開口形成面に当接されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3に係る発明の遮音構造体は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記圧力制御ユニットが、逆止弁を介在して前記遮音部材の内部に連通するように接続された気体供給用ポンプと、前記遮音部材の内部に連通するように接続された排気弁および圧力計と、操作盤からの指令信号と前記圧力計からの圧力検知信号が入力されて前記気体供給用ポンプの駆動と前記排気弁の開閉とを制御するコントローラとを備えて構成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項4に係る発明の遮音構造体は、可撓性を有する薄い素材により密閉袋状に形成され、内部に気体が所定圧力に封入された遮音部材と、多数の開口を有し且つ所定の内部体積を有する偏平な箱状に形成されて前記遮音部材が内包された保形枠体とを備えるとともに、前記遮音部材に封入される気体の前記所定圧力は、前記遮音部材が前記保形枠体の開口に張り付き状態に密着して張力が付与され、音波に対する前記遮音部材の剛性を高めるに十分な圧力であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る遮音構造体によれば、圧力制御ユニットにより遮音部材に気体を高い圧力になるまで供給すると、可撓性を有する薄い素材で形成された遮音部材が、膨張して保形枠体に強く押し付けられて、保形枠体の各開口に対向する部分がそれぞれ開口の内部にまで入り込む状態で保形枠体に張り付き状態となって大きな張力が付与される。その結果、遮音部材は、保形枠体の各開口部で仕切られた小さな矩形状の膜状体の集合と見做すことができるので、この小さな膜状体の共振周波数は非常に高いものとなる。大きな張力が付与される結果、遮音部材は、入射音波に対する剛性が格段に増大するので、剛性則によって極めて振動し難い状態となり、入射音波が殆ど透過しない状態にまで透過損失が高まり、優れた遮音効果が得られる。また、保形枠体の共振周波数に相当する音波が入射した
場合には、その共振周波数による透過損失が若干落ち込むが、保形枠体の減衰も大きいことから、透過損失の大きな落ち込みは生じない。また、この遮音構造体は、可撓性を有する薄い素材で密閉袋体に形成した遮音部材を保形枠体に内包した簡単な構成になっているので、格段に構成が簡素化されているのに伴って安価に製造できる。また、圧力制御ユニットにより遮音部材の内圧をゼロにすれば、遮音部材は、保形部材への押し付けが解除されて、張力が無くなるのに伴って剛性も殆ど無くなり、剛性による遮音効果も殆ど無くなる。また、遮音部材は、質量も非常に小さいことから質量則による遮音効果も無く、入射音波の殆どを透過させることができる。このように遮音状態と遮音解除状態とに任意に切り換えることができる。
【0012】
請求項2に係る遮音構造体によれば、支持枠体の両枠部材の桟部が保形枠体の開口形成面に対し直交方向に延びる形状を有しており、その桟部の先端面が保形枠体に押し付けられるので、桟部を軽量な素材で薄い厚みに形成しても、保形部材を確実に保持できる高い曲げ剛性を有したものとなる。また、この支持枠体は、桟部を薄い厚みに形成できるのに伴って桟部によって格子状が形作られる各開口部を大きな開口面積を有する形状とすることができるので、保持枠体の桟部を軽量な素材で薄い厚みに形成して開口面積の大きな開口部を有する格子形状とすることができることから、格段に軽量なものになるとともに、開口面積の大きな開口部を通じて音波を効率的に入射させることができる。
【0013】
請求項3に係る遮音構造体によれば、操作盤を手動操作するだけで、ボンプの作動により遮音部材に空気などの気体を封入した遮音状態と、遮音部材内の気体を大気に放出した遮音解除状態とに自動的に、且つ迅速に切り換えることができる。
【0014】
請求項4に係る遮音構造体によれば、遮音量を可変調節することはできないが、安価に製造できる簡単な構造でありながら、遮音部材が所定の内圧に設定されて所要の剛性を有しているので、十分な遮音効果を得ることができる。この遮音構造体は、例えば、2枚の板材が間隔を存して対面配置されてなる既存の壁面構造に対し、両板材の間に挟み込むように挿入して配置すれば、軽量でありながらも大きな遮音性能を有する壁面構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る遮音構造体を示す正面図である。
【図2】同上の遮音構造体の縦断面図である。
【図3】(a),(b)は同上の遮音構造体の遮音状態および遮音解除状態をそれぞれ示す一部の拡大縦断面図である。
【図4】同上の遮音構造体の遮音部材の内圧を変えたときの入射音波の周波数と挿入損失との関係を示す特性図である。
【図5】図4の特性を入射音波の周波数と透過損失との関係に変換した特性図である。
【図6】(a),(b)は本発明の第2実施形態に係る遮音構造体を示す正面図および縦断面図である。
【図7】一般的な遮音構造体における入射音波と透過損失の関係を示す特性図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る遮音構造体を示す一部の縦断面図である。
【図9】(a),(b)はそれぞれ本発明の第4実施形態および第5実施形態に係る遮音構造体を示す要部の縦断面図であり、(c),(d)は(a)および(b)の遮音構造体をそれぞれ用いて構成した遮音胴体を示す要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳述する。図1および図
2は、本発明の第1実施形態に係る遮音構造体を示す正面図および縦断面図である。この遮音構造体は、図2に示すように、可撓性を有する薄いフィルム状素材により矩形の平板状の密閉袋体に形成された遮音部材1と、この遮音部材1の周縁部を両側から挟み込んで遮音部材1を内包する保形枠体2と、この保形枠体2を両側から挟み込んで支持する支持枠体3と、遮音部材1の内部に封入される気体4を任意の圧力に可変調節するよう制御する圧力制御ユニット7とを備えて構成されている。なお、この実施形態では、気体4として空気を用いているが、空気以外の気体を用いてもよい。

【0017】
保形枠体2は、図2に示すように、一対の枠部材2a,2bを所定の間隙を存して互いに突き合わせた構成になっている。各枠部材2a,2bはそれぞれ、図1に示すように、正面視で格子形状を有して矩形状の外形に形成されており、この一対の枠部材2a,2bが、図2に示すように、遮音部材1の外周縁部を間に挟み込んだ状態で互いに突き合わされている。具体的には、図2に示すように、両枠部材2a,2bの各々の一面の外周縁部から一体に突設された当接用突部2c,2dが遮音部材1の外周縁部を挟み込んで互いに当接されている。これにより、保形部材2は、両枠部材2a,2bが両当接用突部2c,2dの各々の突出長さの合計に相当する間隙を存して相対向され、所定の体積を有する内部空間が形作られた偏平な箱状になっており、その内部空間に遮音部材1が内包されている。この保形枠体2の内部空間は、遮音部材1が内部に気体4を供給されて膨張するときに、遮音部材1が所定形状よりも大きく膨張するのを規制する。なお、図2では、遮音部材1の厚みおよび保形枠体2の両枠部材2a,2bの間隔を、図示便宜上、それぞれ誇張して大きく図示しているが、実際には、遮音部材1が極めて薄いフィルム状素材により密閉袋体に形成されており、保形枠体2が、各当接突部2c,2dの突出長さを小さく設定して、両枠部材2a,2bが非常に小さな間隔で対面配置された構成になっている。

【0018】
支持枠体3は、図2に示すように、保形枠体2よりも各開口面積が大きな格子形状で、図1に二点鎖線で示すように、保形部材2よりも僅かに大きな外形の矩形状になっている。この支持枠体3は、一対の枠部材3a,3bを互いに突き合わせた配置で固定されている。具体的には、各枠部材3a,3bの各々の相対向する一面の外周縁部から一体に突設された連結突部3c,3dが遮音部材1の外周縁部を挟み込んで互い当接した状態で、両連結突部3c,3dが連結具8により連結されている。支持枠体3は、両連結突部3c,3dが互いに連結されたときに、保形枠体2の両枠部材2a,2bの外周縁全体を、両連結突部3c,3dに形成された凹部に嵌め込んで当接状態に固定される。両枠部材3a,3bの格子形状を形作る桟部3e,3fは、保形枠体2の格子面に対し直交方向に薄い厚みで延びる形状になっており、これら桟部3e,3fの内方側端面が保形枠体2の両枠部材2a,2bの格子面に当接している。なお、この実施形態では、保形枠体2および支持枠体3をそれぞれ格子形状とした場合を例示しているが、格子形状に限らず、例えば、ハニカム形状のように多数の開口を有する素材で形成されていればよく、また、各々の外形が矩形状である必要は無く、使用形態に応じて任意の外形とすることができる。

【0019】
図1に示すように、圧力制御ユニット7は、遮音部材1の内部に気体4を供給するポンプ9と、このポンプ9により供給された気体4を遮音部材1内に封止する逆止弁10と、遮音部材1内の気体4を外部に排出する排気弁11と、遮音部材1内の気体4の圧力を計測して圧力検知信号を出力する圧力計12と、ポンプ9の駆動および排気弁11の開閉を制御するコントローラ13と、手動操作によりコントローラ13に対し所望の設定信号を入力する操作盤14とを備えて構成されている。また、図示を省略しているが、圧力制御ユニット7は、駆動電源となる電池などを備えているのは勿論である。なお、圧力制御ユニット7は、遮音部材1に対して気体4の供給と排出とを行えれば足りるので、ポンプ9、逆止弁10および排気弁11を少なくとも備えているだけでもよい。

【0020】
つぎに、この実施形態の遮音構造体の作用の説明に先立って、この遮音構造体を案出す
るに至った着眼点について説明する。有限の大きさを有するパネル体における音の透過は、パネル体への入射音波によってパネル体自体が振動し、その振動によってパネル体の透過側の空気粒子が振動することにより、透過側に音波を放射することによって生じる。ここで、入射音の音響インテンシティをIi 、透過音の音響インテンシティをIo とすると、音の透過率τは、τ=Io /Ii となり、音の透過損失TLは、TL=10log(1/τ)で定義される。透過損失TLが大きいほど大きな遮音効果が得られることになるから、パネル体の遮音効果を増大させるには、入射音波に対してパネル体が振動し難くすればよいことになり、この点に着目した。

【0021】
一般に、有限の大きさを有するパネル体の透過損失は、前述の質量則の法則に依存し、図7に二点鎖線で示すようにパネル体の面密度(単位面積当たりの質量)が大きくなるのに伴ってパネル体が振動し難くなることから、図7の周波数領域Bに示すように、高い周波数ほど透過損失が大きくなる。有限の大きさを有するパネル体は必ずその一次共振周波数fr1を持ち、その一次共振周波数で非常に振動し易くなって透過損失が小さくなる。その一次共振周波数以下の図7の周波数領域Aでは、パネル体の振動し易さがパネル体自体の剛性に依存し、入射音波の周波数が低周波になるにしたがって透過損失が大きくなる。この現象は剛性則と称される法則である。したがって、重量の増大を招く面密度を大きくすることなしに、換言すれば質量則に依存せずに大きな透過損失を得るには、剛性を高くして振動し難くすればよいので、この技術思想を具現化したのが第1実施形態の遮音構造体である。

【0022】
この第1実施形態の遮音構造体の作用について、図3を参照しながら詳述する。図1の操作盤14の昇圧キー(図示せず)を押圧操作したのち、操作盤14のテンキー(図示せず)の操作により所望の圧力値をコントローラ13に対し設定入力すると、コントローラ13は、ボンプ9を駆動させて遮音部材1内に気体4を供給し、圧力計12から入力する圧力検知信号が、操作盤14から設定入力された圧力値となったときに、ポンプ9の駆動を停止するよう制御する。これにより、薄いフイルム状素材からなる遮音部材1は、内部に供給された気体4の圧力が高くなるのに伴い膨張して、図3(a)に示すように、保形枠体2に強く押し付けられる。このとき、遮音部材1は、保形枠体2の格子形状を形作る多数の開口に対向する部分がそれぞれ開口の内部に入り込む状態で保形枠体2に張り付き状態に押し付けられる。

【0023】
そのため、遮音部材1には大きな張力が付与される結果、遮音部材1は、図3(a)に矢印で示す入射音波に対する剛性が格段に増大するので、剛性則によって極めて振動し難い状態となる。これにより、この遮音構造体は、入射音波が殆ど透過しない状態にまで透過損失が高まり、優れた遮音効果が得られる。また、遮音部材1は、格子状の保形枠体2に張り付く状態に押し付けられるから、格子状を形作る多数の開口部で仕切られた小さな矩形状の膜状体の集合と見做すことができ、この小さな膜状体の共振周波数は非常に高いものとなるから、騒音発生が問題となる広い周波数領域において剛性則に従って高い遮音効果が得られる。また、保形枠体2の共振周波数に相当する音波が入射した場合には、その共振周波数による透過損失が若干落ち込むが、保形枠体2の減衰も大きいため、透過損失の大きな落ち込みが生じない。

【0024】
この遮音構造体を例えば部屋の仕切り壁や窓口仕切りなどに採用するときに、隣部屋などに対して遮音状態とコミニケーションを図れる状態とに相互に適宜切り換えたい場合がある。例えば、遮音状態からコミニケーションを図れる状態に切り換える場合には、操作盤14の降圧釦(図示せず)を押圧操作したのち、操作盤14のテンキーの操作により0の圧力値をコントローラ13に対し設定入力すると、コントローラ13は、排気弁11を全開状態に開弁するよう制御する。これにより、遮音部材1内の気体4は排気弁11を通じて殆ど外部に排出され、遮音部材1の気体4の内圧はほぼ0となる。このとき、遮音部
材1は、図3(b)に示すように、内圧が0となることによって保形部材2への押し付けが解除されて、張力が無くなるのに伴って剛性が殆ど無くなり、一次共振周波数fr1(図7)が0に近くなる。この状態の遮音構造体は、剛性による遮音効果が殆ど無くなるとともに、遮音部材1がフィルム状素材で形成されて非常に軽量であるから、質量則による遮音効果も極めて小さいので、透過損失がほぼ0となる。そのため、遮音構造体への入射音波がそのまま遮音構造体を透過するので、遮音構造体が存在するにもかかわらず、隣部屋などに対して自由にコミニケーションを図れる状態となる。この遮音状態と遮音解除状態の切り換えは操作盤14を手動操作するだけで自動的に、且つ迅速に行える。

【0025】
この遮音構造体の遮音効果を確認するための実験を行い、図4に示すような測定結果を得た。その実験は、実施形態の遮音構造体を同一径の二つのパイプの間に挟み込むように配置し、遮音構造体の遮音部材1の内圧を順次変えながら、音源から一定の出力で発生音を一方のパイプに入射し、他方のパイプから出力する放射音を測定した。図4は、実験の測定結果に基づいて、遮音構造体を配置しないとき(或いは遮音部材1の内圧を0に設定したとき)の放射音と、配置した遮音構造体の遮音部材1の内圧を順次変更したときの放射音との音圧スペクトルの差を挿入損失として算出し、入射音波の周波数に対する挿入損失の関係を表したものである。図4のH、M、Lの各特性曲線はそれぞれ、遮音部材1の内圧をそれぞれ250Pa、100Pa、25Paに設定したときの測定結果である。この挿入損失は、遮音構造体を配置しない場合に対して遮音構造体を配置することで得られる遮音量に相当するから、遮音部材1の内圧を上昇させるのに伴って遮音部材1の剛性が高くなり、遮音量が増大することが判明した。

【0026】
図5は、図4の入射音波の周波数と挿入損失の関係を入射音波の周波数と透過損失との関係に変換して遮音部材1の内圧による遮音効果を定性的に表したものである。図5のh、m、lの各特性曲線は、遮音部材1の内圧をそれぞれ250Pa、100Pa、25Paに設定したときの測定結果であり、zの特性曲線は遮音部材1の内圧を0Paに設定したときの測定結果である。図5から明らかなように、遮音部材1の内圧を上昇させるのに伴って遮音部材1の剛性が高くなっていき、それに対応して遮音効果が確実に増大することが確認できた。特に、この遮音構造体は、既存の遮音構造体では大きな遮音効果が得られ難い低周波領域の入射音波に対して大きな遮音効果が得られることも確認できた。この遮音構造体では、操作盤14の手動操作により遮音部材1の内圧を任意の圧力値に設定入力できるので、その内圧を変更することにより、図5に示すような所望の周波数特性を持つ透過損失が得られるように設定することができる。

【0027】
また、第1実施形態の遮音構造体は、可撓性を有するフィルム状素材で密閉袋状に形成した単一の遮音部材1を保形枠体2に内包した状態で支持枠体3で固定し、管部材を介して遮音部材1を圧力制御ユニット7に連通するだけで達成できる。したがって、この遮音構造体は、上述した特許文献1の遮音構造体のように、空気を封入した気泡体が多数形成された可撓性の遮音シートを渦巻き状に巻回して円柱形状としたシートロールを保持枠と押え枠とで挟み込んで圧縮力を付与する構造に比較して、格段に構成が簡素化されているのに伴って安価なものになっている。

【0028】
また、支持枠体3は、両枠部材3a,3bの桟部3e,3fが保形枠体2の長さ方向に対し直交方向に延びる形状を有しており、その桟部3e,3fの先端面を保形枠体2に押し付けることで保形枠体2を両側から挟み付けて保持するようになっている。したがって、桟部3e,3fは、軽量な素材で薄い厚みに形成しても、高い曲げ剛性を有して保形枠体2を確実に支持できるものとなる。そのため、保形部材2としては、実施形態の格子体に代えて、金網やハニカム体などを用いることもできる。また、この支持枠体3は、桟部3e,3fを薄い厚みに形成できるのに伴って桟部3e,3fによって格子状が形作られる各開口部を大きな開口面積を有する形状とすることができる。これにより、支持枠体3
は、保持枠体3の桟部3e,3fを軽量な素材で薄い厚みに形成して開口面積の大きな開口部を有する格子形状とすることができることから、格段に軽量なものになるとともに、開口面積の大きな開口部を通じて音波を効率的に入射させることができる。これにより、この遮音構造体は、いずれも軽量な遮音部材1、保形枠体2および支持枠体3で構成されるので、格段の軽量化を図ることができることから、取扱いが極めて容易なものとなる。

【0029】
図6(a),(b)は、本発明の第2実施形態に係る遮音構造体を示す正面図および縦断面図であり、同図において、図1および図2と同一または相当するものには同一の符号を付してある。この実施形態の遮音構造体は、遮音量を変更することなく常に所定の遮音量が恒久的に得られれば足りる用途に採用されるものである。そこで、この第2実施形態の遮音構造体は、一実施形態の圧力制御ユニット7を削減して、遮音部材1が、気体4が所定圧力になるまで内部に供給して封止された構成になっている。この遮音部材1は複数設けられており、それら各遮音部材1は、一実施形態のものとほぼ同一構成を有する保形枠体2の一対の枠部材2a,2bの間にそれぞれ挟み込まれた状態で、保持枠体17における格子状を形作る複数の開口部の内部に嵌め込まれて保持されている。

【0030】
この遮音構造体の遮音部材1は、保形枠体2に内包した遮音部材1に気体4を所定圧力になるまで供給する一実施形態のものと異なり、保形枠体2に内包する前に所定圧力になるまで気体4を供給して封止する手順で製作されることになる。したがって、この実施形態の遮音部材1は、気体4の供給に伴い膨張して変形するときに、保形枠体2による形状の規制ができないので、一実施形態のものより外形の小さなものを複数用意するのが一般的である。

【0031】
保持枠体17は、一対の枠部材17a,17bが互いに合体された構成になっている。すなわち、各枠部材17a,17bは、各々の内面の外周縁から一体に突設された連結突部17c,17dが互いに当接して連結具18で連結されているとともに、各枠部材17a,17bの格子状を形作る桟部17e,17fも互いに当接している。したがって、この保持枠体17は、桟部17a,17fにより正方形に区画された複数の開口部を形成されており、その各開口部にそれぞれ、保形枠体2に内包された遮音部材1が嵌め込まれた状態で固定されている。保形枠体2は、両保持枠体17の連結突部17c,17dの内面および各桟部17e,17fの先端面近傍の両側部からそれぞれ一体に突設された固定突部17g,17hにより外周縁部が両側から挟み込まれることより固定されている。この実施形態の保形枠体2としては、遮音性の高い素材で形成されて剛性の高いもの、例えば、プラスチックダンボールなどを用いることができる。

【0032】
この遮音構造体は、遮音量を可変調節することができないが、第1実施形態で説明したと同様に、安価に製造できる簡単な構造で、且つ軽量化を達成しながらも、優れた遮音効果が得られるものであるから、種々の建造物における遮音壁体などに好適に採用することができる。

【0033】
なお、第2実施形態の遮音構造体は、保持枠体17が一対の枠部材17a,17bを合体した構成となっているが、この構成に代えて、複数の保持孔を有する一体構成の保持枠体を設け、この保持枠体の各保持孔に、遮音部材1を内包した保持枠体2をそれぞれ嵌め込んで固定する構成としてもよい。

【0034】
図8は本発明の第3実施形態に係る遮音構造体を示す要部の縦断面図である。この遮音構造体は、第2実施形態の構造をさらに簡素化したものになっている。すなわち、遮音部材1は、気体4が所定圧力になるまで内部に供給して封止されており、この遮音部材1が複数設けられている。それら各遮音部材1は、第2実施形態のものとほぼ同一構成を有する保形枠体2の一対の枠部材2a,2bの間にそれぞれ挟み込まれた状態で、保形枠体2
の厚みに相当する間隙を存して相対向する配置で設けられ一対の壁面板19A,19Bの間に挿入されており、一対の壁面板19A,19Bは既存の一般的な壁面体に使用されているものと同等のものである。この一対の壁面板19A,19Bは、第2実施形態の遮音構造体における保持枠体17と同様に、保形枠体2の一対の枠部材2a,2bを互いに対面して突き合わされた状態に保持するように機能する。この遮音構造体は、遮音量を可変調節することができないが、第2実施形態のものよりも更に簡素化された構造となって一層の軽量化を達成しながらも、優れた遮音効果が得られるものであるから、種々の建造物における安価で軽量な遮音壁面体を安価に提供できる。

【0035】
図9(a),(b)は、本発明の第4実施形態および第5実施形態にそれぞれ係る遮音構造体を示す要部の縦断面図である。図9(a)の第4実施形態の遮音構造体は、保形枠体20を構成する一対の枠部材20a,20bがそれぞれ、外面が平坦面で、且つ内面が凹凸面に形成されており、保形枠体20が、一対の枠部材20a,20bを各々の凹凸面が相対向する配置で間に遮音部材1を挟み込んだ状態で互いに合体することにより構成されている。一方、図9(b)の第5実施形態の遮音構造体は、保形枠体21を構成する一対の枠部材21a,21bがそれぞれ、薄い平板22の一面に金網23を貼着して形成されており、保形枠体21が、一対の枠部材21a,21bを各々の金網23が相対向する配置で間に遮音部材1を挟み込んだ状態で互いに合体することにより構成されている。

【0036】
第4実施形態の遮音構造体は、一対の枠部材20a,20bを所定の間隔で相対向させて互いに固定することにより偏平な箱状の保形枠体20が構成され,この保形枠体20に内包した遮音部材1を、これの内部に気体を所定圧力になるまで供給して封止する手順で構成される。したがって、遮音部材1は、図9(a)の図示状態から気体が所定圧力まで供給されて膨張することにより、保形枠体20の枠部材20a,20bの各々の凹凸面に強く押し付けられて、その凹凸面の凹部に対向する部分がそれぞれ凹部の内部に入り込む状態で枠部材20a,20bの凹凸面に張り付き状態となって大きな張力が付与される結果、入射音波に対する剛性が格段に増大するので、剛性則によって極めて振動し難い状態となって優れた遮音効果が得られる。

【0037】
第5実施形態の遮音構造体においても同様に、一対の枠部材21a,21bを所定の間隔で相対向させて互いに固定することにより、偏平な箱状の保形枠体21を構成した図9(b)の図示状態から、保形枠体21に内包した遮音部材1の内部に気体を所定圧力になるまで供給して封止する手順で構成するものを例示している。したがって、遮音部材1は、気体が所定圧力まで供給されて膨張することにより、保形枠体21の枠部材21a,21bの各々の金網23に強く押し付けられて、その金網23の小さな網目部に対向する部分がそれぞれ網目部の内部に入り込む状態で保形枠体21に張り付き状態となって大きな張力が付与される結果、入射音波に対する剛性が格段に増大するので、剛性則によって極めて振動し難い状態となって優れた遮音効果が得られる。なお、上述した製作手順に代えて、遮音部材1には気体4を予め所定圧力まで封入しておき、複数配列した遮音部材1を、一対の枠部材20a,20b、21a,21bで両側から挟み込んだ状態で、一対の枠部材20a,20b、21a,21bを互いに合体固定するようにしてもよい。

【0038】
ところで、第4実施形態の遮音構造体の保形枠体20は、一対の枠部材20a,20bの各々の内面側が凹凸面になっていることから厚みの薄い凹部が散在しているので、その凹部を強制的に変形させて湾曲形状に屈撓させることができる。一方、第5実施形態の遮音構造体の保形枠体21は、一対の枠部材21a,21bを、平板22または金網23の少なくとも一方を所要の湾曲形状に変形させた状態で平板22と金網23とを互いに合体して固着することにより、所要の湾曲形状を有する保形枠体21を形成することができる。したがって、第4及び第5実施形態の各遮音構造体は、航空機や車両などの湾曲形状を有する遮音胴体の構成要素として好適に応用することが可能である。すなわち、第4実施
形態の遮音構造体は、図9(c)に示すように、航空機や車両などの湾曲形状の中空胴部24を構成する一対の胴部材24a,24bの間に、保形枠体20の枠部材20a,20bを中空胴部24の湾曲形状に沿って変形させながら押し込んでいき、中空胴部24内に遮音構造体を挿入し終えた時点で、遮音部材1を、気体を所定圧力になるまで供給して封止することにより、航空機や車両などの遮音胴体を容易に構成することができる。

【0039】
一方、第5実施形態の遮音構造体は、図9(d)に示すように、保形枠体21の枠部材21a,21bを、航空機や車両などの中空胴部24を構成する一対の胴部材24a,24bに対応する湾曲形状に予め形成しておき、この保形枠体21を一対の胴部材24a,24b間に押し込んで挿入し、中空胴部24内に遮音構造体を挿入し終えた時点で、遮音部材1を、気体を所定圧力になるまで供給して封止することにより、航空機や車両などの遮音胴体を容易に構成することができる。

【0040】
なお、本発明は、以上の実施形態で示した内容に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の遮音構造体は、部屋の仕切り壁や窓口の遮蔽体として用いれば、遮音状態と遮音解除状態とに任意に切り換えることにより、利便なものとなり、また、軽量で高い遮音効果が要求される航空機や車両の胴体部分に好適に採用することがで、さらに、住宅の壁や天井などにも用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 遮音部材
2 保形枠体
3 支持枠体
3a,3b 枠部材
3e,3f 桟部
7 圧力制御ユニット
9 ポンプ
10逆止弁
11 排気弁
12 圧力計
13 コントローラ
14 操作盤
20,21 保形枠体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8