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明細書 :フラーレン高分子複合体とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4489741号 (P4489741)
公開番号 特開2008-056864 (P2008-056864A)
登録日 平成22年4月9日(2010.4.9)
発行日 平成22年6月23日(2010.6.23)
公開日 平成20年3月13日(2008.3.13)
発明の名称または考案の名称 フラーレン高分子複合体とその製造方法
国際特許分類 C08L  33/06        (2006.01)
C08K   3/04        (2006.01)
FI C08L 33/06
C08K 3/04
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2006-238368 (P2006-238368)
出願日 平成18年9月1日(2006.9.1)
審査請求日 平成19年8月6日(2007.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】河内 岳大
【氏名】熊木 治郎
【氏名】大越 研人
【氏名】八島 栄次
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
審査官 【審査官】米村 耕一
参考文献・文献 特開2004-182771(JP,A)
特開平09-040412(JP,A)
特開2004-263067(JP,A)
特開2001-081134(JP,A)
Ginzburg, Boris M.,Thermal and tribological properties of fullerene-containing composite systems. Part 1. Thermal stability of fullerene-polymer systems,Journal of Macromolecular Science, Physics,2004年,B43(6),1193-1230
調査した分野 C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリ
レート系ポリマーのらせん構造の内部にフラーレンを包接させてなる、フラーレンの含有量が5重量%以上であるフラーレン含有高分子複合体。
【請求項2】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチル
メタクリレートである請求項に記載のフラーレン含有高分子複合体。
【請求項3】
フラーレン含有高分子複合体が、それぞれの単体とは異なる融点、及び/又はそれぞれ
の単体とは異なる結晶構造を持つことを特徴とする請求項1又は2に記載のフラーレン含有高分子複合体。
【請求項4】
フラーレンが、炭素数60以上のフラーレンである請求項1~のいずれかに記載のフラーレン含有高分子複合体。
【請求項5】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリ
レート系ポリマーと、フラーレンを共通溶媒に溶解させた後、溶媒を除去することからな
、該ポリマーのらせん構造の内部にフラーレンが包接されたものであり、フラーレンの含有量が5重量%以上であるフラーレン含有高分子複合体を製造する方法。
【請求項6】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリ
レート系ポリマーの良溶媒であり、当該ポリマーの溶液が時間経過又は温度変化でゲル化
することを特徴とする溶媒を共通溶媒として用いる請求項に記載の方法。
【請求項7】
ンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びフラーレンをそれぞれ別の溶媒に溶解した後、両者を混合させた後、溶媒を除去することからなる、該ポリマーのらせん構造の内部にフラーレンが包接されたものであり、フラーレンの含有量が5重量%以上であるフラーレン含有高分子複合体を製造する方法。
【請求項8】
溶媒又は共通溶媒が、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモ
ベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少
なくとも1種又はこれらの混合物である請求項6又は7に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、合成高分子とフラーレンとの複合体とその製造法に関する。特にシンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー、又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせんコンフォメーションの内部にフラーレンを包接したフラーレン高分子複合体、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは化学的、熱的に安定な球状分子であり、光エネルギーを吸収し易い、良好な電子受容性を示す、高いラジカル補足能を有する等の特徴がある。電子移動能を利用したエネルギーデバイス分野、感光性を利用した電子材料分野、樹脂やフィルムへの添加による熱特性や機械特性を利用した材料への応用など、ナノテクノロジーの中心材料として多くの用途分野への適用が活発に行なわれている。
フラーレンを産業用の材料として用いる場合には、フラーレンを分散させるために高分子材料との複合化が重要となり、多くの検討が行なわれている。例えば、フラーレンを種々の合成高分子にドープすることで、電気特性、光特性、磁気的特性、機械特性、熱安定性等が劇的に変化することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、フラーレンは凝集力が強く、一般にフラーレンと高分子を混合するだけでは、フラーレンは高分子中で相分離して不定形の凝集体を形成してしまい、高濃度で配合することは困難であり、フラーレンの優れた電気、光、磁気特性を高度に活用することができない。そこで、フラーレンを高濃度で溶解させ、規則正しい構造に配列するために、フラーレンの化学修飾や高分子に化学結合させることが検討されて来た(非特許文献2参照)。例えば、フラーレンに(メタ)アクリロイル基などの不飽和結合を有する基を導入して、これを共重合させる方法(特許文献1及び2参照)、フラーレン化合物とヘテロ環を側鎖に有する高分子化合物とをディールスアルダー反応させることによりフラーレン含有高分子化合物とする方法(特許文献3参照)、ポリエチレングリコールのポリマー鎖セグメントをコア部とし、ポリ(メタクリル酸アルキルアミノエチル)のポリマー鎖セグメントをシェル部とするブロックコポリマーをベースとする微小粒子にフラーレンを内包させる方法(特許文献4参照)、ポリチオフェン、ポリピロール又はポリフランから選ばれる立体規則性ポリマーと、エステル基、イミノ基、アルキル基、アラルキル基、チオフェニル基から選ばれた官能基を少なくとも1つ以上含有する基で変性されたフラーレン変性物とを含有してなる電荷輸送性複素環高分子からなる固体層を有する光電変換素子に関するもの(特許文献5参照)、重合性単量体残基にアルキル化されたフラーレン結合させ、これを共重合してなるフラーレン共重合体に関するもの(特許文献6参照)などが報告されている。
これらの方法は、化学結合などでフラーレンを高分子中に固定化しようとするものであるが、このためには繁雑な化学反応が必要であり、必然的にコストが高くなるという問題があった。
【0004】
また、近年になって、天然物由来の高分子であるシゾフィランは、フラーレン等をらせん構造の内側に取り込むことが報告されてきた(非特許文献3参照)。しかし、どのような機構で取り込まれるか、また他の材料においてもフラーレンの取り込みが可能であるかということについては言及されておらず、しかも非特許文献3の方法は、天然物由来の高分子であるシゾフィランを使用するものであり、天然高分子では加工性や安定性に課題があり、産業用の材料としての応用には制約が多い。
一方、シンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(以下、st-PMMAと標記する。)はトルエン中で18/1程度のゆるく巻いたらせん構造を取り、その内側の直径約1nmの空間にトルエンやアセトンなどの低分子の溶媒分子を取り込んだらせん構造を形成して、ゲル化・結晶化することが知られている。このst-PMMA-溶媒複合体はその溶媒を除去すると、st-PMMAがらせん構造を保持できなくなり、結晶構造が壊れ、アモルファスになることも報告されている(非特許文献4、5参照)。
【0005】

【特許文献1】特開平8-283199号公報
【特許文献2】特開平8-239209号公報
【特許文献3】特開平9-188726号公報
【特許文献4】特開2005-113090号公報
【特許文献5】特開2005-116617号公報
【特許文献6】特開2006-56966号公報
【非特許文献1】C. Wang, et al., Prog. Polym. Sci. 29, 1079-1141, 2004
【非特許文献2】Ball, Z. T.; Sivula, K.; Frechet, J. M. J., Macromolecules 2006, 39, 70-72.
【非特許文献3】池田,伊藤ら,第55回高分子年次大会予稿集, 第1888頁.
【非特許文献4】Kusuyama, H.; Takase, M.,et al, Polymer 1982, 23, 1256-1258.
【非特許文献5】Kusuyama, H.; Miyamoto, N., et al., Polymer 1983, 24, 119-122.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フラーレンを化学修飾すること無しに、難溶性であるフラーレンを相分離することなく合成高分子中に均一に多量に分散させたフラーレン含有高分子材料、及びその製造方法を提供する。さらに、本発明は、フラーレンが高分子の分子鎖の方向に一次元的に規則的に配列したフラーレン含有高分子材料、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高分子材料にフラーレンを含有させたフラーレン含有高分子複合体を形成させる方法を検討してきたが、フラーレンは凝集力が強く、フラーレンを化学修飾や表面処理することなく、フラーレンを単独でそのまま高分子材料に大量に分散させることは極めて困難であった。本発明者らは、さらに鋭意検討してきたところ、驚くべきことに、シンジオタクチックポリメタクリレートや、シンジオタクチックポリアクリレートと、フラーレンを溶媒中で混合すると、これらの高分子材料が大量のフラーレンをその内部に分散して包含する結晶性の錯体を形成することを見出した。さらに、本発明者らは、この機構を検討してきたところ、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーは緩いらせん構造を有しており、このらせん構造の内部にフラーレンが包接され、大量のフラーレンが安定に分散されていることがわかった。
即ち、本発明は、らせん構造を有する合成高分子化合物のらせん構造に、フラーレンを包接させて、大量のフラーレンを当該合成高分子化合物中に含有させることができることを見出したことに基づくものである。
したがって、本発明は、らせん構造を有する高分子化合物の内部にフラーレンを包接させてなるフラーレン含有高分子複合体に関するものであり、より詳細には、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの内部にフラーレンを包接させてなるフラーレン含有高分子複合体に関する。
また、本発明は、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーと、フラーレンを共通溶媒に溶解させた後、溶媒を除去することからなるフラーレン含有高分子複合体を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、フラーレン、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びフラーレンをそれぞれ別の溶媒に溶解した後、両者を混合させた後、溶媒を除去することからなるフラーレン含有高分子複合体を製造する方法に関する。
また、本発明は、前記した本発明のフラーレン含有高分子複合体を含有してなる工業製品に関する。
【0008】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの内部にフラーレンを包接させてなるフラーレン含有高分子複合体。
(2)フラーレンが、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせん構造に包接されたものである前記(1)に記載のフラーレン含有高分子複合体。
(3)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである前記(1)又は(2)に記載のフラーレン含有高分子複合体。
(4)フラーレン含有高分子複合体が、それぞれの単体とは異なる融点、及び/又はそれぞれの単体とは異なる結晶構造を持つことを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかに記載のフラーレン含有高分子複合体。
(5)フラーレンの含有量が、1重量%以上である前記(1)~(4)のいずれかに記載のフラーレン含有高分子複合体。
(6)フラーレンが、炭素数60以上のフラーレンである前記(1)~(5)のいずれかに記載のフラーレン含有高分子複合体。
(7)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーと、フラーレンを共通溶媒に溶解させた後、溶媒を除去することからなるフラーレン含有高分子複合体を製造する方法。
(8)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの良溶媒であり、当該ポリマーの溶液が時間経過又は温度変化でゲル化することを特徴とする溶媒を共通溶媒として用いる前記(7)に記載の方法。
(9)フラーレン、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びフラーレンをそれぞれ別の溶媒に溶解した後、両者を混合させた後、溶媒を除去することからなるフラーレン含有高分子複合体を製造する方法。
(10)溶媒又は共通溶媒が、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種又はこれらの混合物である前記(7)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの内部にフラーレンを包接させてなるフラーレン含有高分子複合体を含有してなる工業製品。
【0009】
本発明は、フラーレンが、らせん構造を有する合成高分子化合物のらせん構造の中に包接されることを初めて見出したことを特徴とするものであり、そして、当該らせん構造へフラーレンを包接させることにより、当該合成高分子化合物の中に大量のフラーレンを安定に分散させることができ、安定に大量のフラーレンが分散されたフラーレン含有高分子複合体を提供することができることを初めて見出したものである。
次に、本発明を図面に基づいてより具体的に説明する。
図1は、本発明のフラーレン含有高分子複合体の製造方法を、高分子化合物としてシンジオタクチックポリメチルメタクリレート(以下、st-PMMAという。)を用いた例でより具体的に説明したものである。C60フラーレンのトルエン溶液(図1の(a))の中に、st-PMMAを添加し、これを加熱攪拌した後、室温まで放置するとゲル化する(図1の(b))。このゲルを遠心分離することによりC60フラーレンを包接したst-PMMAを製造することができる(図1の(c))。図1の(c)の下は、C60フラーレンを包接したst-PMMAのらせん構造を模式的に示したものである。フラーレンは、高分子化合物が形成するらせん構造の中に1次元的に直線上に配列している。
次に本発明者らは、st-PMMAに対してどのくらいのフラーレンが包接されるかを検討した。図2は、st-PMMA添加量に対して取り込まれたC60フラーレンの量をプロットしたものである。C60フラーレンのトルエン溶液(濃度2mg/mL)1mLに、st-PMMAを所定量添加し、ゲル化させた。得られたゲルを遠心分離によりポリマー部と上澄み部に分離し、上澄み部に残ったC60フラーレンを紫外可視吸収スペクトルにより定量することで取り込まれたC60フラーレンの量を算出して、図2に示すグラフにプロットした。図2のグラフから、溶媒にトルエンを用いた場合、約10重量%のフラーレンを取り込むことができることがわかる。
【0010】
次に得られるゲルについて検討した。
重トルエン中で調製したst-PMMA-C60フラーレンのゲルの25℃及び100℃における1H-NMRスペクトル(ポリマー濃度10mg/mL、C60フラーレン濃度2mg/mL)を測定した。その結果を図3の(A)に示す。図3の(A)中の*で示されるシグナルは溶媒に由来するものである。100℃における均一溶液状態ではポリマーのNMRシグナルが観測されるが、25℃に降温によりゲル化が起こるとシグナルが観測されなくなった(図3の(A)参照)。
そこで、本発明者らは、ポリマーのシグナル強度を温度に対してプロットし、ゲル化温度を測定した。昇温時及び降温時における各温度のポリマーのα-CH3基のNMRのシグナル強度(I)を測定し、ゲル化が起こっていない均一溶液状態である110℃におけるNMRのシグナル強度(I0)に基づいて、ゲル化しているst-PMMAのユニットの割合を次の計算式により算出した。
ゲル化しているst-PMMAのユニットの割合=(1 - I/I0)
この結果を図3の(B)に示す。図3の(Bの)横軸は温度(℃)を示し、縦軸はゲル化しているst-PMMAのユニットの割合の比を示す。グラフ中の左側(原図では黒)はC60フラーレンを添加していないst-PMMAゲル化の場合を示し、右側(原図では赤)はst-PMMA-C60フラーレンのゲル化の場合を示す。それぞれの黒丸印(●)は昇温時の測定結果を示し、白丸印(○)は降温時の測定結果を示す。この結果、st-PMMA-C60フラーレンのゲルはC60フラーレンを加えない場合よりも約20℃ほどゲル化温度が高温側にシフトしていることがわかった(図3の(B)参照)。このことは、トルエンのみを取り込んだst-PMMAゲルよりもC60フラーレンを取り込んだゲルの方が安定であることを示しており、C60フラーレンが単なる挟雑物として存在しているのでは無いことを示している。
【0011】
次にst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムを作成して観察した。
このフィルムを光学顕微鏡で観察した結果を図4に図面に代わるカラー写真で示す。図4の(a)、(c)、及び(e)は光学顕微鏡写真であり、(b)及び(d)は偏光顕微鏡写真である。図4の(a)及び(b)は、C60フラーレンを含有していないst-PMMAフィルムの場合であり、(c)及び(d)はst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムの場合であり、(e)はイソタクティックポリメチルメタクリレート(以下、it-PMMAという。)に4.8重量%のC60フラーレンを添加した場合のものである。各写真のスケールバーは200μmを示す。
この結果、st-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムでは、ポリマーとC60フラーレンが複合体を形成しているため、C60フラーレンの含量が25.2重量%と高濃度にも関わらず、溶媒を除去しても相分離は見られなかった(図4の(c)参照)。また、st-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムの偏光顕微鏡による観察では、複屈折が見られ、複合体が結晶化していることが示された(図4の(d)参照)。
次に、得られたst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム示差走査熱量測定(DSC)を行った。この結果を図5に示す。図5の(a)は、トルエンから作成したst-PMMAのフィルムの場合を示し、図5の(b)は、トルエンから作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム(C60フラーレンの含量11.7重量%)の場合を示し、図5の(c)はトルエン/1,2-ジクロロベンゼン(以下、DCBと略す。)混合溶媒から作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム(C60フラーレンの含量25.2重量%)のそれぞれのDSCの測定結果を示す。トルエンから作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムでは、224.9℃に複合体の結晶構造の融解によると思われる吸熱ピークが示された(図5の(b)参照)。これは、C60フラーレンを包接してst-PMMAがらせん構造を形成しているため、溶媒を除去してもらせん構造が壊れず、結晶構造を保持していたものと考えられる。また、トルエン/DCB混合溶媒から作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムの場合では、ガラス転移点はほとんど観測されなくなり、結晶融解の吸熱ピークのΔHが増加した(図5の(c)参照)。C60フラーレンの含量が増加することで、複合体の結晶化度が増加したためであると考えられる。
さらに、得られたフィルムのX線回折を測定した。結果を図6に示す。図6の(a)はトルエンから作成したst-PMMAフィルムの場合を示し、図6の(b)はトルエンから作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム(C60フラーレンの含量11.7重量%)の場合を示し、図6の(c)はトルエン/DCB混合溶媒から作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム(C60フラーレンの含量25.2重量%)の場合を示し、図6の(d)はトルエン溶液から析出させたC60フラーレン単体の場合をそれぞれ示す。この結果、st-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムでは結晶構造に由来する反射が観測された(図6の(b)、及び(c)参照)。X線回折の回折パターンはst-PMMAフィルムの場合(図6の(a)参照)やC60フラーレン単体の場合(図6の(d))とは異なっており、st-PMMA-C60フラーレン複合体が、これらとは全く異なるものであることが示された。
【0012】
次にst-PMMA-C60フラーレンを水面に展開し、単分子膜一層(LB膜)を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)による観察を行なった。その結果を図面に代わるカラー写真で図7に示す。図7の(A)の左側は、st-PMMA-C60フラーレン複合体のLB膜(10mN/m)の低倍AFM像(高さ像、サイズ:2μm×2μm)を示し、右側は左側の写真の赤線の部分に沿って測定した高さのプロファイルを示している。図7の(B)の左側は同じサンプルを高倍で観察した高さ像(サイズ:75nm×75nm)を示し、その右側はその位相像を示している。図7の(Bの)右上は、位相像に基づく結果を模式的に示したものである。原子間力顕微鏡像からは、5nm程度の厚さのC60フラーレンの凝集体以外に、厚み1nm以下の均一な結晶構造が観察できた(図7の(A)参照)。st-PMMA単体及びC60フラーレン単体ではこのような結晶構造は観測されず、st-PMMA-C60フラーレン複合体の単分子膜の結晶構造であると考えられ、この結晶構造中にC60フラーレンが包接されて配列している。
次に、st-PMMA-C60フラーレン複合体の分子動力学の計算を行った。この結果を図8の模式図で示す。図8の(a)は1回転あたり9.2オングストローム(A)のらせんピッチで10回転させたst-PMMA180量体のらせんの内部に、C60フラーレンを9.2オングストローム間隔で10個配置した初期構造のモデルを示し、その右側は内部のC60フラーレンのみを書き出して示した。図8の(b)は、初期構造モデルから温度10Kで時間100ps後の計算結果を示し、図8の(c)は、さらに温度400Kで時間1ns後の計算結果を示す。この結果、初期モデルから温度10Kで時間100ps(図8の(b)参照)、さらに温度400Kで時間1ns(図8の(c))における分子動力学計算でもst-PMMAらせん内にC60フラーレンを包接した構造が保持しており、この構造が安定であることが示された。
【0013】
このように、本発明は、フラーレンを安定に、かつ大量に分散して含有することができるフラーレン-高分子複合体を提供するものである。
本発明におけるフラーレンとしては、一般的にフラーレンと称される範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、例えばC60フラーレン、C70フラーレン、C74フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C82フラーレンなどが挙げられる。これらのフラーレンは、化学修飾、表面処理、フラーレン内部への気体や金属を内包したものであってもよい。これらの処理を施したフラーレン、金属等を内包したフラーレン、及び高次フラーレンを用いたものも、本発明に包含される。ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスや、リチウム、カルシウムなどの金属原子を内包するフラーレンは、光学的性質及び/又は電気的性質に優れるフラーレンとして知られており、このような不活性ガスや金属原子を内包するフラーレンの使用が好ましい。
本発明における高分子としては、らせん構造にフラーレンを取り込むことができる合成可能な高分子が挙げられる。好ましい合成高分子としては、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー(両者を併せ、以下、st-PMMAsと表示する。)が挙げられる。st-PMMAsにおけるエステルとしては、炭素数1から30,好ましくは1から20、1から10,さらには1から5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基は、アルコキシ基、ハロゲンなどの汎用されている置換基で置換されていてもよい。また、高分子の立体規則性はシンジオタクチック3連子含量(rr含量)で60%以上が好ましく用いられる。シンジオタクチシチーが高いほどポリマーがらせん構造をとり易く、取り込むフラーレン含量が増加するので好ましい。より好ましくはrr含量80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは93%以上である。
本発明の効果を損なわない範囲であれば共重合体を使用してもよく、その構造は、ランダム、ブロック、グラフト共重合体でもよい。また、2種以上のポリマーをブレンドして用いてもよい。
また、本発明のフラーレン含有高分子複合体は、原料であるフラーレン、高分子、各々の単体と異なる融点を持ち、その結晶構造も異なっているので、その生成は、種々の分析手法により容易に確認することができる。例えば、示差走査熱量計(DSC)による融点の測定、X線回折による結晶構造の解析、偏光顕微鏡による結晶相の観察、原子間力顕微鏡(AFM)による結晶表面の観察などにより確認することができる。
【0014】
本発明のフラーレン含有高分子複合体のフラーレンの含有量としては、らせん構造に包接されているものであれば特に制限はなく、僅かな含有量であっても前記した種々の分析手法のいずれかにより確認することができる場合には、本発明のフラーレン含有高分子複合体に包含されるものになる。好ましい含有量としては、ポリマーとの総重量に対して1%以上が挙げられ、さらに効果を確実にするため、好ましくは2%以上、更に好ましくは5%以上の含有があれば良い。一方、上限については、多いほど好ましく、限定を要しない。
さらに、本発明のフラーレン含有高分子複合体の単分子膜(LB膜)のAFM観察、ならびに分子動力学計算による構造の安定性の検証から、本発明のフラーレン含有高分子複合体は、高分子らせん内部にフラーレンが1次元的に配列していることが示された。したがって、本発明は、ポリマーのらせん軸に沿ってフラーレンが一次元的に配列したフラーレン含有高分子複合体を提供するものでもある。
【0015】
本発明のフラーレン含有高分子複合体を製造する方法としては、らせん構造を有する合成高分子化合物、好ましくはシンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーと、フラーレンを共通溶媒に溶解させた後、溶媒を除去する方法が挙げられる。より具体的には、フラーレンを溶解した溶液に、らせん構造を有する合成高分子化合物、好ましくはシンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマー又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを添加し、これらを加熱溶解させた後、これを室温付近まで冷却してゲル化させ、これを遠心分離などにより溶媒と分離することからなる方法が挙げられる。また、ポリマーとフラーレンを混合する順番は限定されない。ポリマーの溶液に後からフラーレンを可溶化、もしくはフラーレンの溶液を添加してもよい。さらに、ポリマーを溶媒に加熱溶解させ、室温まで冷却してあらかじめゲル化させた後にフラーレン溶液を添加してもフラーレン含有高分子複合体を得ることが可能である。
この方法における溶媒としては、フラーレン及びポリマーを溶解することができる溶媒であれば、特に限定されるものではないが、好ましい溶媒としては、例えば、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミドなどの1種またはこれらの混合物が挙げられる。
これらを加熱する温度としては、これらが溶解する温度であれば充分であり、例えば、60℃から150℃程度であり、溶媒の沸点までの任意の温度を設定することができる。使用される溶媒の量としては、加熱溶解の後の冷却により、ゲル化又は固体状となる量であればよく、多量に使用することもできるが、溶媒の除去に労力を必要するの、できるだけ少量とするのが好ましい。
さらに、フラーレンの包接量を増やす手段として、フラーレンの溶解度の高い溶媒と、ポリマーの溶解度の高い溶媒を組み合わせて、それぞれ別の溶媒に溶解した後、両者を混合させた後、溶媒を除去する方法も可能である。例えば、フラーレンの溶解度が高いジクロロベンゼンにフラーレンを、ポリマーの溶解度の高いトルエンにポリマーを、それぞれ溶解した後、両者を混合、高濃度のフラーレンを含有するフラーレン高分子複合体を得ることもできる。この場合のジクロロベンゼンとトルエンの体積比は、ジクロロベンゼン対トルエン=5/95から85/15が好ましく、更に好ましくは10/90から55/45である。
本発明のフラーレン含有高分子複合体は、結晶性の錯体として得ることができるので、遠心分離や濾過などにより、これを溶媒と分離することができる。また、溶媒の留去により、溶媒を分離してもよいが、この場合には未包接のフラーレンが混入することもあるので、必要により、さらに精製するのが好ましい。
【0016】
本発明のフラーレン含有高分子複合体は、通常の高分子材料と同様に、膜状(フィルム状)などに成形することができる。また、単分子膜(LB膜)とすることも可能である。
本発明のフラーレン含有高分子複合体は、機能性のフラーレンを含有するものであり、当該フラーレンの光学的性質や電気的性質などの機能を発現させることができる高分子材料として応用することができる。例えば、光電変換素子、レジスト材料、量子ドット素子などの工業製品として利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフラーレン含有高分子複合体は、安定に、かつ大量に、しかも一次元的な配列でフラーレンを分散して含有することができる高分子材料であり、高分子材料として任意の形状に成形可能であるから、光電変換素子、レジスト材料、量子ドット素子等の工業製品として用いることができる。また、本発明のフラーレン含有高分子複合体は、大型の製造設備なしに簡便かつ安価に製造することができ、フラーレンを用いる各種の分子素子を簡便で、かつ安価で、しかも大量の容易に製造することができる。
【0018】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
シンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(以下、st-PMMAと標記)と[60]フラーレン(以下、C60フラーレンと標記)を原料とするフラーレン含有高分子複合体の製造
C60フラーレンのトルエン溶液(1mg/mL,図1の(a)参照)1mLに、st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子含量(rr含量) 93.5%)10mgを加え、110℃に加熱して均一溶液とした。
この溶液は、このまま、室温まで徐冷するとゲル化が起こる(図1の(b)参照)。このゲルを遠心分離(1700gで10分間(gは重力加速度))により沈降させると、上澄み液は無色透明で、下層のゲル部のみが濃紫色に着色していた(図1の(c)参照)。この濃紫色の着色は、st-PMMAとC60フラーレンが錯体を形成していることを示しており、これを確認するために、添加するポリマー量と、取り込まれるC60フラーレン量の関係について紫外可視分光光度計を用いて調べた。
ポリマー添加量の増加に従い、上澄みに残存するC60フラーレン濃度が減少し、ゲルに取り込まれるC60フラーレン量が増加していた。ポリマー濃度10mg/mL、C60フラーレン濃度2mg/mLにおいてはst-PMMA10mgあたり約1.3mgのC60フラーレンが取り込まれていることがわかった(図2参照)。この結果より、ゲル中にフラーレンが取り込まれていることが確認できた。
さらに、本発明者らは以下に述べる結果から、C60フラーレンが単なる夾雑物としてではなく、st-PMMAらせんの内孔に包接された複合体を形成していることを確認した。
【実施例2】
【0020】
st-PMMA-C60フラーレン複合体のゲルの熱安定性について
重水素置換トルエン中で形成させたst-PMMA-C60フラーレン複合体のゲル(st-PMMA濃度10mg/mL、C60フラーレン濃度2mg/mL)の熱安定性を、1H-NMRにより調べた。高温の均一溶液状態ではポリマーのNMRシグナルが観測されるが、降温によりゲル化が起こると当該シグナルが観測されなくなる(図3の(A)参照)。
そこで、ポリマーのシグナル強度を温度に対してプロットし、ゲル化温度を見積もったところ、st-PMMA-C60ゲルはC60フラーレンを加えない場合よりも約20 ℃ほどゲル化温度が高温側にシフトしていることがわかった(図3の(B)参照)。この結果は、トルエンのみを取り込んだst-PMMAゲルよりもC60フラーレンを取り込んだゲルの方が安定であることを示しており、C60フラーレンが単なる挟雑物として存在しているのでは無いことを示している。
【実施例3】
【0021】
トルエンと1,2-ジクロロベンゼンを溶媒とするst-PMMA-C60フラーレン複合体のゲルの製造
1,2-ジクロロベンゼン(以下、DCBと標記する。)を溶媒に用いることで、C60フラーレン濃度が高い条件でst-PMMAをゲル化させることができる(DCBのC60フラーレン溶解度はトルエンの約10倍)。しかしながら、DCBのみでは包接されるC60フラーレン量は減少したので、トルエンとDCBの混合溶媒について検討した。結果を次の表1に示す。
【0022】
【表1】
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【0023】
C60フラーレンのトルエンとDCBの混合溶液は、C60フラーレン/トルエン溶液(2mg/mL)とC60フラーレン/DCB溶液(20mg/mL)を適宜混合して作成した。st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子(rr含量) 93.5%)10mgに、C60フラーレン混合溶液1mLを加えた後、110℃に加熱して均一溶液とした。室温まで徐冷してゲル化させ、トルエンとDCBを溶媒とするst-PMMA-C60フラーレン複合体ゲルを作成した。得られたサンプルを遠心分離(1700gで10分間)によりゲル部と上澄み部に分離し、上澄み部の紫外可視吸収スペクトルを測定することでゲルに取り込まれたC60量を算出した。
この結果、トルエンのみでは取り込まれるC60フラーレンの量は、ポリマー10mgあたり1.32mgにしかならないが、C60フラーレンのDCB溶液を混合することでC60フラーレン濃度を上げることができ、それに従い取り込まれるC60フラーレンの量も増加し、トルエン/DCB=50/50 (v/v)ではポリマー10mgあたり3.37mgのC60フラーレンを取り込んでいることがわかった。
【実施例4】
【0024】
st-PMMA-C60フラーレン複合体フィルムの製造
C60フラーレンのトルエン溶液(濃度2mg/mL)からポリマー濃度10mg/mLでst-PMMA-C60フラーレン複合体ゲルを調製した。トルエンでゲルを洗浄することで過剰量のC60フラーレンを除去した。得られたゲルを室温で12時間、さらに160℃で12時間減圧乾燥を行ない、溶媒を除去し、C60フラーレンの含量が11.7重量%のst-PMMA-C60フラーレン複合体フィルムを製造した。同様に、包接されるC60フラーレンの量が増加するトルエン/DCB混合溶媒を用いて、C60フラーレンの含量25.2重量%のst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムを製造した。
得られたフィルムの光学顕微鏡観察を行なったところ、st-PMMA-C60フラーレン複合体フィルムでは、ポリマーとC60フラーレンが複合体を形成しているため、C60フラーレン含量25.2重量%と高濃度にも関わらず、溶媒を除去しても相分離は見られなかった(図4の(c)参照)。また、st-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルムの偏光顕微鏡観察を行ったところ、複屈折が見られ、複合体が結晶化していることが示された(図4の(d)参照)。
次に、フィルムの示差走査熱量測定(DSC)を窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で行った。トルエンから作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム(C60フラーレン含量11.7重量%)では、224.9℃に複合体の結晶構造の融解によると思われる吸熱ピークを示した(図5の(b)参照)。C60フラーレンを包接してst-PMMAがらせん構造を形成しているため、溶媒を除去してもらせん構造が壊れず、結晶構造を保持していたものと考えられる。さらに、トルエン/DCB混合溶媒から作成したst-PMMA-C60フラーレン複合体のフィルム(C60フラーレン含量25.2重量%)では、ガラス転移点はほとんど観測されなくなり、結晶融解の吸熱ピークのΔHが増加した(図5の(c)参照)。C60フラーレン含量が増加することで、複合体の結晶化度が増加したためであると考えられる。
さらに、得られたフィルムのX線回折を測定したところ、st-PMMA-C60フラーレン複合体フィルムでは結晶構造に由来する反射が観測された(図6の(b)、及び(c)参照)。得られた回折パターンは公知のst-PMMA-溶媒複合体(非特許文献4参照)、及びC60フラーレン単体(図6の(d)参照)とは異なっており、st-PMMAとC60フラーレンとの複合体が形成していることが示された。
【0025】
比較例1
C60フラーレンを含まない他は実施例1と全く同様の方法で、st-PMMAゲルをトルエン中で作成した。これを室温で12時間、さらに160℃で12時間減圧乾燥することでトルエンを除去し、C60フラーレンを含まないst-PMMAフィルムを調製した。この、st-PMMAゲルから作成したフィルムの偏光顕微鏡観察を行ったところ、複屈折性を示さなかった(図4の(b)参照)。次に、フィルムの示差走査熱量測定(DSC)を窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で行なった。st-PMMAフィルムは126.7℃にガラス転移点のみを示した(図5の(a)参照)。トルエンを除去することでst-PMMAがらせん構造を保持できず、結晶構造が残っていないためと考えられる。また、得られたフィルムのX線回折を測定したところ、st-PMMAフィルムはアモルファスハローのみを示した(図6の(a)参照)。
【0026】
比較例2
トルエン中においてらせん構造を形成しないイソタクチックPMMA(it-PMMA)を用いて、it-PMMA-C60フラーレンフィルムを作成した。C60フラーレンのトルエン溶液(濃度2mg/mL)0.5mLにit-PMMA(数平均分子量49万、イソタクチック3連子(mm含量) 97.5%)20mgを室温で溶解させた。it-PMMAではゲル化は起こらず、溶液が得られた。室温減圧下で溶媒を除去し、C60フラーレン含量4.8重量%のit-PMMA-C60フラーレンのフィルムを得た。
得られたフィルムの光学顕微鏡観察を行ったところ、it-PMMA-C60フラーレンは複合体を形成していないため、C60フラーレン含量4.8重量%でも相分離が起こり、C60フラーレンの析出が観測された(図4の(e)参照)。
【実施例5】
【0027】
水面上でのst-PMMA-C60フラーレン複合体を形成した。st-PMMA-C60フラーレン複合体は水面上の単分子膜でも形成可能であった。st-PMMAとC60フラーレン複合体の希薄ベンゼン混合溶液(st-PMMA濃度6.6x10-3mg/mL、C60フラーレンの濃度7.3x10-4mg/mL)を水面に展開し、圧縮後マイカ基板上に単分子膜一層(LB膜)を移しとり、原子間力顕微鏡観察を行なった。図7にその原子間力顕微鏡像を示している。5nm程度の厚さのC60フラーレンの凝集体以外に、厚み1nm以下の均一な結晶構造が観察できた。st-PMMA単体およびC60単体ではこのような結晶構造は観測されず、st-PMMA-C60フラーレン複合体単分子膜の結晶構造であると考えられ、この結晶構造中にC60フラーレンが包接されて配列している。
【実施例6】
【0028】
st-PMMA-C60フラーレン複合体の動力学計算を行なった。st-PMMAらせん内にC60フラーレンが包接された構造の安定性について、分子動力学計算による検証を行なった。st-PMMA-溶媒複合体で報告されている結晶構造を基にst-PMMAのらせん構造を作成し、その内部にC60フラーレンを0.92nm間隔で配置した初期モデルを構築した(図8の(a)参照)。この初期モデルから温度10Kで時間100ps(図8の(b)参照)、さらに温度400Kで時間1ns(図8の(c)参照)、分子動力学計算を行ったが、st-PMMAらせん内にC60フラーレンを包接した構造を保持しており、この構造が安定であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のフラーレン含有高分子複合体は、安定に、かつ大量に、しかも一次元的な配列でフラーレンを分散して含有することができる高分子材料であり、高分子材料として膜状(フィルム状)などの任意の形状に成形可能であるから、光電変換素子、レジスト材料、量子ドット素子等の工業製品として用いることができ、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、C60フラーレンのトルエン溶液(a)、トルエン中で製造した本発明のst-PMMA-C60フラーレンゲルの遠心分離前(b)、及び遠心分離後(c)の状態を示した図面に代わる写真である。
【図2】図2は、st-PMMA添加量に対して取り込まれたC60フラーレンの量をプロットしたグラフである。
【図3】図3は、(A)重トルエン中で調製した本発明のst-PMMA-C60フラーレンゲルの25℃及び100℃における、ポリマー濃度10mg/mL、C60フラーレン濃度2mg/mLでの1H-NMRスペクトルである。*で示したシグナルは、溶媒由来のシグナルである。(B)ゲル化しているMMAユニットの割合を測定温度に対してプロットしたグラフである。右側(赤)で示したプロットが本発明のst-PMMA-C60フラーレンのゲルのもので(○:降温測定,●:昇温測定)、黒で示したプロットがC60フラーレンを添加していないst-PMMAゲルのもの(○:降温測定,●:昇温測定)である。
【図4】図4は、st-PMMAフィルム(a)及び(b)、本発明のst-PMMA-C60フラーレン複合体フィルム(C60フラーレン含量25.2重量%)(c)及び(d)、並びにit-PMMA-C60フラーレンフィルム(C60含量4.8重量%)(e)の光学顕微鏡写真。(a)、(c)及び(e)はオープンニコル、(b)及び(d)はクロスニコル下で撮影。スケールバーは200μmである。
【図5】図5は、(a)トルエンから作成したst-PMMAフィルム、(b)トルエンから製造した本発明のst-PMMA-C60フラーレン複合体フィルム(C60フラーレン含量11.7重量%)、及び(c)トルエン/DCB混合溶媒から製造した本発明のst-PMMA-C60フラーレン複合体フィルム(C60フラーレン含量25.2重量%)のDSC測定結果。サンプル約6mgをアルミニウム製容器に入れ、窒素雰囲気下、室温から300℃までを昇温速度10℃/分で測定を行った。また、Tgはガラス転移点、Tmは結晶の融点、ΔHmはその融点における融解エンタルピーを示している。
【図6】図6は、(a)トルエンから作成したst-PMMAフィルム、(b)トルエンから製造した本発明のst-PMMA-C60フラーレン複合体フィルム(C60フラーレン含量11.7重量%)、(c)トルエン/DCB混合溶媒から製造した本発明のst-PMMA-C60フラーレン複合体フィルム(C60フラーレン含量25.2重量%)、及び(d)トルエン溶液から析出させたC60フラーレン単体のX線回折の測定結果を示す。
【図7】図7は、(A)本発明のst-PMMA-C60フラーレン複合体のLB膜(10mN/m)の低倍AFM像(高さ像、サイズ:2μm×2μm)(左)と赤線に沿って測定した高さプロファイル(右)、(B)同じサンプルを高倍で観察した高さ像(サイズ:75nm×75nm)(左)と位相像(右)を示す図面に代わる写真である。
【図8】図8は、st-PMMA-C60複合体の分子動力学計算の結果を模式的に示したものである。(a)1回転あたり9.2オングストロームのらせんピッチで10回転させたst-PMMA180量体のらせんの内部に、C60フラーレンを9.2オングストローム間隔で10個配置した初期構造モデルで、その右側には内部のC60フラーレンのみを書き出している。(b)初期構造モデルから温度10Kで時間100ps後の計算結果。(c)さらに温度400Kで時間1ns後の計算結果。原子数(3305原子)、体積を一定とし、時間刻み幅0.5fsで計算を行なっている。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7