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明細書 :生体分子アッセイチップ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5187932号 (P5187932)
公開番号 特開2008-116218 (P2008-116218A)
登録日 平成25年2月1日(2013.2.1)
発行日 平成25年4月24日(2013.4.24)
公開日 平成20年5月22日(2008.5.22)
発明の名称または考案の名称 生体分子アッセイチップ
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI G01N 33/53 M
C12N 15/00 ZNAF
G01N 37/00 102
C12M 1/00 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2006-297267 (P2006-297267)
出願日 平成18年11月1日(2006.11.1)
審査請求日 平成21年10月2日(2009.10.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】根本 直人
【氏名】一木 隆範
【氏名】マニッシュ ビヤニ
個別代理人の代理人 【識別番号】100137512、【弁理士】、【氏名又は名称】奥原 康司
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 Nucleic Acids Res,2006年,Vol.34, No.20, e140,Published online 24 October 2006
Biotechnol Prog,1995年,Vol.11, No.4, Page.393-396
Proteomics,2002年,Vol.2, Page.48-57
Science,2004年,Vol.305, Page.86-90
Science,2004年,Vol.304, Page.428-431
Biotechnol Prog,2004年,Vol.20, No.6, Page.1705-1709
調査した分野 G01N 33/53
C12M 1/00
C12N 15/09
G01N 37/00
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の工程(a)~()を含む、タンパク質-核酸複合体が配列状に固定化されたチップの作製方法。
(a)複数のDNAを配列状に固定化した基板1を作製する工程、
(b)工程(a)で作製した基板1上に固定化されたDNAの配列位置と重なる位置に微小リアクターを具備するマイクロリアクターチップにおいて、該微小リアクター内に、mRNAを合成するための反応試薬を充填する工程、
(c)mRNAを合成するための反応試薬がDNAと接触するように、マイクロリアクターチップと基板1を密着させ、微小リアクター内でmRNAを合成する工程、
(d)工程(c)を終了したマイクロリアクターチップの微小リアクター内の反応溶液が、基板2と接触するように、該マイクロリアクターチップと基板2を重ね合わせ、mRNAを該基板2上に固定する工程、
(e)工程(d)においてRNAを固定した基板2上に、該mRNAからタンパク質を合成する反応液を添加し、該mRNAからタンパク質を合成する反応を行わせる工程
【請求項2】
請求項1の工程(a)に記載の「複数のDNAを配列状に固定化した基板1」を作製する工程が、下記の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
(a)DNADNAを増幅するための反応試薬との混合液を、マイクロリアクターチップの微小リアクター内に、DNAが確率分布的に1分子以下になるように希釈して充填する工程、
(b)DNAを増幅する反応を行う工程、
(c)該マイクロリアクターチップの微小リアクター内の反応溶液が、基板1と接触するように、該マイクロリアクターチップと基板1を重ね合わせ、増幅したDNAを基板上に固定する工程
【請求項3】
前記DNAを増幅する反応がポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記DNAがリンカーDNAを連結したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記リンカーDNAにピューロマイシンが結合していることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記基板1上にアビジンを固定化し、前記DNAをビオチン化することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記基板2にピューロマイシンを結合したリンカーDNAを介して前記mRNAが固定化されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記mRNAからタンパク質を合成する反応溶液が無細胞翻訳系を含有する溶液であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
mRNAからタンパク質を合成する反応を行わせた後、該基板2上にさらに逆転写酵素を含む反応液添加し、該mRNAからDNAへの逆転写反応を行わせるこを特徴とする請求項8に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子を配列状に固定化したチップに関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子を網羅的に解析する有力なツールとして、DNAチップやプロテインチップなどが現在利用されている。これらのチップは、DNA、タンパク質を基板上にアレイ状に固定化し、目的に応じた反応系に供することで、目的の機能を発揮する可能性のある分子の同定を網羅的に行うことができる。
【0003】
DNAチップに関しては、光リソグラフィー技術を用いてチップ上にDNAを合成することで位置情報と配列情報を対応させるアフィメトリックス社の方法とすでに既知の配列をもったDNAをチップ上に貼り付けるスタンフォード大方式が現在多く利用されている。大規模な配列を一度に調べるにはアフィメトリックス方式が有利で、ある限られた既知の配列のDNA集団を調べるにはスタンフォード方式が便利である。これらの方法は目的に応じて使い分けられている。
【0004】
また、プロテインチップの作製に関しては、Phylos社による、アフィメトリックス型のDNA基板にIVV(in vitro virus)のmRNA領域をハイブリダイゼーションさせてチップ上にタンパク質を番地化して非共有結合的に固定化する試み(非特許文献1)があるもののその多くは、特定の限られたタンパク質集団をスポットしてチップ化するスタンフォード方式のプロテインチップである。このため未知の配列からなる遺伝子を元にした膨大なライブラリからプロテインチップを作製することは極めて困難な状況である。ちなみに、Phylos社の方法はこの点でもっとも有望であるが、タンパク質の固定化にハイブリダイゼーションによる方法を用いていることから、様々なバッファー条件下で酵素アッセイをする目的に対しては、安定な固定化法とは言えず、未だ実用的な段階には至っていない。さらに、ハイブリダイゼーションさせる領域をタグとして導入するプロセスを加えることになるため実用性の上から必ずしも効率的とは言えない。
【0005】
一方、発明者らは、IVV(in vitro virus)法を利用した、有用タンパク質の同定、開発に関し、種々の技術を提供している(特許文献1)。IVV法とは、ランダムな配列を有する多量のペプチド又は該ペプチドからなるペプチドライブラリーの中から、目的に応じたペプチド分子を選択する方法で、進化工学上、有力な手法として注目を浴びている。IVV法は、核酸配列情報とこれに対応するタンパク質の活性又は機能を、1対1で対応づけることができる技術であるため、本法を網羅的解析に利用することができれば、所望の活性を有するタンパク質とこれをコードする核酸配列情報を同時に、かつ、大量に取得することも可能となる。しかしながら、現段階では、このような方法により網羅的な解析を可能にする技術等は報告されていない。
【0006】

【非特許文献1】Wengら,Proteomics.2:48-57,2002
【特許文献1】国際公開公報WO2006/041194
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑み、膨大な変異体を含むDNAライブラリから、クローニングの過程を経ずに、各変異体タンパク質を個別にチップ上に固定化する方法について鋭意研究を行った結果、μTAS技術を用いることで、所望のDNAをアレイ化したDNAチップに対応するmRNAチップ、プロテインチップを一連の過程において作製することが可能であることを明らかにし、本発明を完成させるに至った。
よって、本発明は、マイクロリアクターチップを用いた生体分子アッセイチップを作製する方法、及び該方法によって作製されるチップの提供を目的とする。
さらに、本発明は、該チップ上に固定化された生体分子から、固定化された位置を変更することなく、他の生体分子を合成する方法、及び該方法によって作製されるチップの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(11)
に関する。
(1)本発明の第1の態様は、「下記の工程(a)~(d)を含む、生体分子が配列状に固定化されたチップの作製方法。
(a)複数の同一種類の生体分子1を配列状に固定化した基板1を作製する工程、
(b)工程(a)で作製した基板1上に固定化された生体分子1の配列位置と重なる位置に微小リアクターを具備するマイクロリアクターチップの微小リアクター内に、生体分子2を合成するための反応試薬を充填する工程、
(c)生体分子2を合成するための反応試薬が生体分子1と接触するように、マイクロリアクターチップと基板1を密着させ、微小リアクター内で生体分子2の合成反応を行い生体分子2を合成する工程、
(d)工程(c)を終了したマイクロリアクターチップの微小リアクター内の反応溶液が、基板2と接触するように、該マイクロリアクターチップと基板2を重ね合わせ、生体分子2を該基板2上に固定する工程」である。
(2)本発明の第2の態様は、「上記(1)の工程(a)に記載の「複数の同一種類の生体分子1を配列状に固定化した基板1」を作製する工程が、下記の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
(a)生体分子1と生体分子を増幅するための反応試薬との混合液を、マイクロリアクターチップの微小リアクター内に、生体分子1が確率分布的に1分子以下になるように希釈して充填する工程、
(b)生体分子1を増幅する反応を行う工程、
(c)該マイクロリアクターチップの微小リアクター内の反応溶液が、基板1と接触するように、該マイクロリアクターチップと基板1を重ね合わせ、増幅した生体分子1を基板上に固定する工程」である。
(3)本発明の第3の態様は、「前記生体分子1が核酸又は核酸誘導体であることを特徴とする上記(2)に記載の方法」である。
(4)本発明の第4の態様は、「前記生体分子1を増幅する反応がポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴とする上記(3)に記載の方法」である。
(5)本発明の第5の態様は、「前記核酸誘導体がリンカーDNAを連結したものであることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の方法」である。
(6)本発明の第6の態様は、「前記リンカーDNAにピューロマイシンが結合していることを特徴とする上記(5)に記載の方法」である。
(7)本発明の第7の態様は、「前記基板1上にアビジンを固定化し、前記核酸又は核酸誘導体にビオチン化することを特徴とする上記(3)乃至(6)のいずれかに記載の方法」である。
(8)本発明の第8の態様は、「前記生体分子1がDNAであり、生体分子2がRNAであることを特徴とする上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の方法」である。
(9)本発明の第9の態様は、「前記RNAがmRNAであることを特徴とする上記(8)に記載の方法」である。
(10)本発明の第10の態様は、「前記基板2にピューロマイシンを結合したリンカーDNAが固定化されていることを特徴とする上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の方法」である。
(11)本発明の第11の態様は、「上記(1)乃至(10)のいずれかに記載の方法により作製したチップ」である。
(12)本発明の第12の態様は、「上記(11)に記載のチップ上に固定化された生体分子2から生体分子3を合成する1又は複数種類の反応溶液中に該チップを浸し、生体分子3が配列状に固定化されたチップを作製する方法」である。
(13)本発明の第13の態様は、「前記生体分子2がmRNAであり、前記反応溶液が無細胞翻訳系を含有する溶液であり、生体分子3がタンパク質-核酸複合体であることを特徴とする上記(12)に記載の方法」である。
(14)本発明の第14の態様は、「前記生体分子2がmRNAであり、前記反応溶液が無細胞翻訳系を含有する溶液及び逆転写酵素を含む溶液であり、生体分子3がタンパク質-DNA複合体であることを特徴とする上記(12)に記載の方法」である。
(15)本発明の第15の態様は、「上記(11)乃至(14)いずれかに記載の方法により作製したチップ」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、DNA、RNA、タンパク質が対応した位置に固定化された各チップを作製することができるため、DNA上の核酸配列情報と、タンパク質の機能とを1対1に対応づけてモニターすることを可能とする。
【0010】
本発明の方法及びチップを用いることで、所望の機能改変が達成された分子(DNA又はタンパク質)を、比較的短時間にて同定することができる。
【0011】
本発明の方法及びチップを用いることで、ゲノム解析等で得られた遺伝子(特に酵素に関わる)機能を短期間にて同定することができる。
【0012】
本発明の方法及びチップを用い、代謝経路を解析するために複数の遺伝子の組み合わせを作りアッセイすることで、迅速に基質から代謝産物へ至る経路を同定できる。
【0013】
本発明の方法及びチップを用いる場合、同一の酵素を各ウェルに加え、基質と阻害剤候補を加えることによる基質の濃度変化からより優れた阻害剤候補を選択できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、微小リアクターを備えたマイクロリアクターチップと基板を重ね合わせる工程を繰り返すことで、配列状に固定化された生体分子の固定化位置を変更することなく、該生体分子から他の生体分子を合成し、最終的には、最初に固定化された生体分子とは異なる生体分子が固定化されたチップを作製する方法、及び作製されたチップを提供するものである。より具体的には、例えば、DNAを固定化したチップからタンパク質を固定化したチップを、DNA-タンパク質のチップ上の対応位置を変更せずに、連続的な工程により作製する方法を提供する。
本方法によれば、DNAライブラリ等から選択された他種類のDNAを同一種類毎に配列状に固定化したDNAチップから、各DNAがコードするタンパク質を該DNAの固定化位置と同じ位置に固定化したプロテインチップを作製することができる。
さらに、該プロテインチップ上のタンパク質を、mRNAとの複合体として固定すれば、プロテインチップ上で逆転写反応を行わせることで、該タンパク質をコードするDNAを固定化したチップを作製することも可能である。ここで、mRNAは、DNAチップとマイクロリアクターチップを重ね合わせ、各微小リアクター内で転写反応を実行することで、対応するmRNAを微小リアクター内に取得することができる。
mRNAとタンパク質との複合体は、例えば、ピューロマイシンなどタンパク質と特異的に結合する化合物等を結合させたリンカーDNAを介して、作製することができる。すなわち、mRNAの3’末端と相補的な配列を有するリンカーDNAであって、ピューロマイシンが結合したものを用いれば、該リンカーとmRNAが相補的部分で結合するため、生じた複合体は、mRNAは該リンカーDNAを介してピューロマイシンを結合しているものとなる。なお、リンカーDNAとピューロマイシンとの結合は公知の手法により実施することができる。
【0015】
さらに、該チップ上のタンパク質の固定化位置に対応した微小リアクターを備えたマイクロリアクターを用いることで、チップ上の全てのタンパク質の活性等をチップの作製と連続して測定することが可能となる。例えば、該チップ上のタンパク質活性を測定するための反応溶液を各微小リアクター中に添加したマイクロリアクターチップを、該微小リアクターと固定化されたタンパク質の位置が一致し、かつ、各タンパク質が微小リアクター内の反応溶液と十分に接触するように重ね合わせて、活性測定反応を実行することで、チップ上の全てのタンパク質の活性を同時に解析することが可能となる。
【0016】
本方法は、目的のタンパク質の優れた活性を有する変異体の選択等において有効な方法である。例えば、特定のタンパク質に体系的に変異を導入したDNAライブラーを固定化したチップを最初のDNAチップとした場合、これに対応するプロテインチップの作製、プロテインチップ上のタンパク質の活性及び活性評価までを一つの工程として行うことができる。評価結果から所望のタンパク質を同定すれば、これをコードするDNAは、mRNAを逆転写することで容易に取得できるため、該タンパク質の一次配列情報も簡便に取得することができる。得られた一次配列情報に基づいて、更なるタンパク質の検索を行うこともできる。
【0017】
以下に本発明の主な実施形態について記載する。
本発明の一の実施形態は、下記の工程(a)~(d)を含む、生体分子が配列状に固定化されたチップの作製方法であり、
(a)複数の同一種類の生体分子1を配列状に固定化した基板1を作製する工程、
(b)工程(a)で作製した基板1上に固定化された生体分子1の配列位置と重なる位置に微小リアクターを具備するマイクロリアクターチップの微小リアクター内に、生体分子2を合成するための反応試薬を充填する工程、
(c)生体分子2を合成するための反応試薬が生体分子1と接触するように、マイクロリアクターチップと基板1を密着させ、微小リアクター内で生体分子2の合成反応を行い生体分子2を合成する工程、
(d)工程(c)を終了したマイクロリアクターチップの微小リアクター内の反応溶液が、基板2と接触するように、該マイクロリアクターチップと基板2を重ね合わせ、生体分子2を該基板2上に固定する工程、を含む方法である。
ここで、「生体分子1」は、他の生体分子にin vitroにて変換することができるものが好ましく、例えば、DNA、RNAなどが利用可能である。「生体分子1」は、基板上に配列状に固定する必要があるが、例えば、生体分子1がDNAの場合、アビジン-ビオチン結合を利用する方法の他、DNAをアミノ基、アルデヒド基、SH基、などの官能基で修飾し、チップ表面をアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などを有するシランカップリング剤で表面処理したものを利用する方法などを用いることができ、特に、アビジン-ビオチン結合を利用した方法が好ましい。この場合、アビジンを基板上に固定化し、ビオチンをDNAに結合させるのが好ましい。また、生体分子1がRNAである場合には、例えば、アビジン-ビオチン結合により基板上に結合させ該RNAの一部と相補的なDNAリンカーを介して固定化する方法の他、RNAにアミノ基、アルデヒド基、SH基、などの官能基で修飾し、チップ表面をアミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などを有するシランカップリング剤で表面処理したものを利用する方法などを挙げることができる。この場合も上記と同様に、アビジンを基板上に固定化し、ビオチンをリンカーDNAに結合させる方法が好ましい。
【0018】
「マイクロリアクターチップ」とは、ポリマー、ガラス、シリコンなどの基板上に微細な流路や凹を形成し、この流路又は凹中(微小リアクター)において、化学反応を行うことができる、超微小な反応装置のことである。マイクロリアクターチップの表面は生体分子の吸着を抑制するためにPEGなどにより表面修飾を施してあることが好ましい。
本実施形態においては、基板上に固定化された生体分子がマイクロリアクター内の反応試薬と反応可能な様に接触する必要がある。ここで、基板1、基板2の表面は必ずしも平坦である必要はなく、例えば、生体分子を固定する表面積を増やすために凹凸を加工してもよい。ただし、基板とマイクロリアクターチップを重ね合わせた際に、マイクロリアクターチップ上の全てのマイクロリアクター内の試薬等の漏れがなく封じられるように、マイクロリアクターチップが接触する部分の基板表面は平坦である必要がある。
また、該反応を最適な状態で行わせるために、マイクロリアクターの温度、微小リアクター内のpH条件などを制御する他の装置などを組み合わせて、実施してもよい。ここで反応試薬とは、例えば、生体分子1がDNAであって、生体分子2がRNAである場合には、転写に必要な試薬のことであり、該試薬は市販のものを使用しても、独自に調製したものを使用してもよい。
【0019】
本実施形態の工程(a)で使用する基板1は、以下の方法によっても作製することができる。まず、生体分子1がDNAである場合には、複数種類のDNAの混合物(DNAライブラリなど)をDNA増幅試薬と混合し、混合物を適当なバッファーなどで希釈して、微小リアクターに分注する。ここで、各微小リアクターに確率的にDNAが1分子になるように希釈して分注を行う。DNAと増幅試薬と希釈との前後は特に限定するものではない。分注後、DNAが増幅するのに適するように、マイクロリアクターチップの条件を設定し、反応を行わせると、各微小リアクター毎に異なる種類のDNAが増幅される。次に、増幅されたDNAを含むマイクロリアクターチップを基板1と接触するように密着して、マイクロリアクター内のDNA分子を基板1上に固定する。ここで、DNAを増幅する場合、PCR反応を利用することが好ましく、該反応のために必要な反応溶液な市販のものを使用することができる。また、マイクロリアクター内のDNAを基板上に固定する場合、DNAにビオチンが取り込まれるように増幅反応を行わせ、基板をアビジンでコートしておけば、アビジン-ビオチン結合を介して、DNAは容易に基板上に固定化することができる。DNAにビオチンを取り込ませる方法としては、例えば、ビオチン標識したPCRプライマーを用いる方法などを利用することができる。
また、生体分子1又は2が核酸である場合、該核酸にリンカーとなるDNAを連結し、その末端にピューロマイシンを結合したものを用いてもよい。
【0020】
本実施形態においては、マイクロリアクター内で合成された生体分子2を他の基板(基板2)上に固定化することで、生体分子2を配列状に固定化したチップを作製するものである。ここで生体分子2を基板上に固定化する方法としては、生体分子2がRNAである場合、例えば、RNAの一部と相補的な配列を含むリンカーをあらかじめ基板上に固定化しておくことにより、マイクロリアクター内のRNAが容易に基板上に固定化される。ここで用いるリンカーは、異なる微小リアクター内に存在する異なるRNA全てに共通の配列に対して、相補的な配列を含むものを用いるのが好ましい。「異なるRNA全てに共通の配列」とは、RNAの鋳型となるDNA(生体分子1)を増幅するときに使用したPCRプライマーの配列などを利用することができる。さらに、リンカーの末端にはピューロマイシンを結合させてもよい。リンカーのDNAとピューロマイシンの間はポリエチレングリコール(PEG)、等の親水性かつフレキシブルな構造をもつことが望ましい。また、mRNAとのハイブリダイゼーション後にT4RNAリガーゼで容易に連結できるように一部ハイブリダイゼーションしない配列を1塩基以上持たせることが好ましい。

【0021】
本発明の他の実施形態は、上記実施態様において作製されるチップを種々の反応溶液に接触させることで、該チップ上の生体分子2から生体分子3を合成する方法及びかかる方法により作製されたチップである。生体分子2がmRNAである場合、無細胞翻訳系を含有する溶液とmRNAが固定化されたチップを接触させて、反応を行わせることより、mRNAを鋳型としてタンパク質(生体分子3)が合成される。この場合、上記一の実施態様において、ピューロマイシンを結合させたリンカーを用いると、合成されたタンパク質がピューロマイシンを介して、リンカーと結合するため、生体分子3が固定化されたチップを作製することができる。ここで、無細胞翻訳系としては、大腸菌、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽由来の無細胞系などを使用することができ、市販のものを利用してもよい。ここで合成された生体分子3は、mRNA、リンカーDNA及びタンパク質との複合体であるが、さらに、逆転写酵素を含む反応液中でmRNAからDNAへの逆転写反応を行わせることで、生体分子1に対応するDNA、リンカーDNA及びタンパク質との複合体にすることもできる。
【0022】
上記他の実施形態で作製されたチップ上の生体分子3がタンパク質の活性等を測定することで、所望の活性を保持するタンパク質を、該チップ上において容易に同定することができる。さらに、同定されたタンパク質に対応するDNA(生体分子1)の配列決定を行うことで、所望の活性を有するタンパク質に対応するDNAの配列情報を容易に取得することができる。ここで、タンパク質の活性を測定する場合、該チップのタンパク質(つまり生体分子3)が固定化されている位置に対応するようなマイクロリアクターチップを用意し、マイクロリアクターチップの微小リアクター内にタンパク質活性を測定するために必要な溶液を予め充填し、該チップと該マイクロリアクターチップを重ね合わせて反応させることで、チップ上のタンパク質の活性を測定することができる。
【0023】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
DNAからタンパク質チップを作製する方法は次のとおりである(図1)。
ステップ1:ライブラリ(cDNA)構築
ステップ2:チップ上でのライブラリの1分子までの希釈及び1分子PCR
ステップ3:チップ上へのPCR産物の固定化
ステップ4:チップ上での転写
ステップ5:転写物の他のチップへの移し換えとその表面上にあるリンカーDNAとの連結反応
ステップ6:ステップ5のチップ上への無細胞翻訳系の添加と、RNA-タンパク質の連結反応及び逆転写反応によるDNAとタンパク質のチップへの固定化
【0025】
1.ライブラリ構築
モデルタンパク質としてGFP(Green Fluorescent Protein)を選び、蛍光活性に重要な65残基目のスレオニンにランダムな変異を加えたものをライブラリとする。このライブラリは、図2に示す方法で5’側にT7プロモーター、5’UTR(TMV omega)を、また、3’側にスペーサーを有するDNAコンストラクトを構築した。使用したプライマーはFirst stepのT7プロモーター及び5’UTR領域を含むDNAフラグメントを増幅するためにプライマー1とプライマー2を利用した。また、GFPを含む領域をPCRするためにプライマー3とプライマー4を用いた。
(プライマー1)
5’-GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGG-3’
(配列番号1)
(プライマー2)
5’-CAGAGTAGTGACAAGTGTTGGCCATGG-3’
(配列番号2)
(プライマー3)
5’-TTTCCCCGCCGCCCCCTTATTATTATTTGTAGAGCTCATCCATGC-3’ (配列番号3)
(プライマー4)
5’-GGCCAACACTTGTCACTACTCTGNNNTATGGTGTTCAATGCTTTTCCCG-3’ (配列番号4)
【0026】
2.DNAの1分子への希釈及び1分子PCR
PCRで増幅したフラグメント(853bp)はキアゲンのDNA精製キットにより精製し、7.04nMの濃度に調製した。このcDNAをヌクレアーゼーフリーの精製水によって1μlあたり4×10,4×10,4×10,4×10,4×10,4×10,4×10,40,4,0.4分子になるように希釈した。これらをテンプレートとして、1×ExTaq PCR バッファー(Takara社)中、 最終濃度0.2mMのdNTP、2μMのforward primer(5’-Cy3GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGG-3’(配列番号5);5’末端をCy3で標識したもの)及びreverse primer (5’-BiotinTTTCCCCGCCGCCCCCTTATTATTATTTGTAGAGC(配列番号6);5’末端をビオチンで標識したもの)にて、0.5 UのExTaq DNA polymerase (Takara社)を用い、PCR反応を行った。PCRの反応条件は、95℃2分、(94℃(30秒)、64℃(30秒)、72℃(60秒))を50サイクル行い、最後に72℃(10min)で伸長反応を行った。得られた反応物は、2μl分取し、8M尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって解析した(図3)。
【0027】
3.チップ上へのPCR産物の固定化
増幅された1分子PCR産物はキアゲンの精製カラムで精製した後、Nanodropによって濃度を測定した。これらのビオチン化DNAを含むPCR溶液を等容量の2×binding buffer(20mM Tris-HCl (pH8.0),2mM EDTA,2M NaCl,及び0.2% TritonX-100)と混合し、384穴マイクロプレートに加えた。次に、10μlスケールの反応物をストレプトアビジン塗布スライドガラス(ArrayIt社)にトランスファーし、15分間インキュベーションした。その後、1×binding bufferでガラス表面を洗浄した。増幅したDNAはCy3の蛍光を発するため、スライドガラスをフルオロイメージャー(Typhoon社)で確認した(図4)。
【0028】
4.チップ上での転写
上記のスライド上のcDNAをさらにT7転写酵素及びその反応液(RiboMAX, Promega社)20μlを満たした384穴マイクロプレートに合わせ、37℃で3時間反応させた。その後、DNaseによりDNAテンプレートを分解し、各ウェルから反応液を採取し、RNA RNeasy Kit(QIAGEN社)によって精製し、8M尿素変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって解析した(図5)。
【0029】
5.マイクロリアクター内での生体分子活性の測定
本発明により作製されたチップ上の生体分子の活性を測定するにあたり、モデルタンパク質の活性測定を行った。測定モデル系としてアルデヒド分解酵素(AKR)を用い、微量酵素反応を上記手法にて作製したPDMS(Polydimetylsiloxane)により作製した直径、高さ6μm(0.15pl)のマイクロリアクターを1万個有するマイクロリアクターアレイチップ上で測定した。酵素AKR 2μM(1万個/リアクター)、基質Glucuronate 20mM、補酵素NADPH 0.2mMをリアクター内に封入し、アルデヒド分解酵素反応(アルデヒド+NADPH→アルコール+NADP+)を、水銀ランプのi線(365nm)を励起光として、波長400nm以上のNADPH自家蛍光強度を、高感度冷却CCDカメラ用いて検出しNADPHの蛍光強度の変化から、アルデヒド還元酵素の進行を測定した。測定結果(図6)から酵素活性は1-10(NADPH oxidized/min/AKR)と算出された。このように個々のマイクロリアクター内の酵素の活性は光学計測により評価可能であることが明らかとなった。また、光学測定に限らず、酵素反応は電気化学的計測によっても可能であり、微小電極をマイクロリアクター内に集積化することで並列計測の実現も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
医薬品開発における医薬品候補分子アッセイのハイスループット化に有用である。また、診断薬、診断機器等の分野で用いられる診断チップとして利用可能である。さらに、バイオエタノール合成酵素等の代謝系解析に利用し、さらに進化工学的な手法で今後の環境・エネルギー分野に有用な機能分子の探査にも貢献することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のチップを作製する過程を示した模式図である。
【図2】GFPの変異体のライブラリを構築するためのステップを模式的に示した図である。
【図3】GFPのcDNAライブラリを希釈し、これを鋳型にPCRを行って得られたPCR産物の電気泳動結果を示す。
【図4】チップ上に固定化した1分子PCR産物を、Cy3の蛍光を検出する方法により確認した結果を示す。Neg.:DNA無しのネガティブコントロール
【図5】PCR産物の固定化したチップをT7転写酵素及びその反応液を満たしたマイクロプレートと接触させ、転写反応を行わせた後、マイクロプレートの各ウェル中に存在するRNAを電気泳動により確認した結果を示す。
【図6】マイクロリアクター内での酵素反応(アルデヒド分解酵素)の測定結果を示す。
図面
【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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