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明細書 :被覆ステント

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5110559号 (P5110559)
公開番号 特開2008-125964 (P2008-125964A)
登録日 平成24年10月19日(2012.10.19)
発行日 平成24年12月26日(2012.12.26)
公開日 平成20年6月5日(2008.6.5)
発明の名称または考案の名称 被覆ステント
国際特許分類 A61L  31/00        (2006.01)
A61F   2/82        (2006.01)
A61F   2/84        (2006.01)
FI A61L 31/00 Z
A61M 29/02
A61M 29/00
請求項の数または発明の数 10
全頁数 14
出願番号 特願2006-317005 (P2006-317005)
出願日 平成18年11月24日(2006.11.24)
審査請求日 平成21年7月14日(2009.7.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】本津 茂樹
【氏名】西川 博昭
【氏名】楠 正暢
【氏名】畑中 良太
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
審査官 【審査官】横田 倫子
参考文献・文献 特開平09-056807(JP,A)
特開2004-097810(JP,A)
特開2005-170801(JP,A)
特表2006-519623(JP,A)
国際公開第06/115279(WO,A1)
近畿大学工業高等専門学校紀要., No.16 Page.7-14 (2000)
レーザー研究, Vol.28 No.7 Page.407-412 (2000)
調査した分野 A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CAplus(STN)
PubMed

特許請求の範囲 【請求項1】
ステントと、ステントの外周面側に嵌め込まれてその外周面を覆う外側チューブ及びステントの内周面側に挿入されてその内周面を覆う内側チューブの少なくとも一方と、を備えた被覆ステントであって、
外側チューブが、生体親和性チューブ平滑筋細胞抑制剤を含浸したものであり、内側チューブが、生体親和性チューブ内皮細胞増殖剤を含浸したものであって、
生体親和性チューブが、M10(ZOn6X2の組成を持つ鉱物群(式中のMはCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOnはPO4、SO4、CO3であり、XはOH、F、O、CO3である。)から選ばれた少なくとも1つの生体親和性セラミックスのみからなるチューブ状の薄膜である被覆ステント。
【請求項2】
ステントと、ステントの外周面側に嵌め込まれてその外周面を覆う外側チューブ及びステントの内周面側に挿入されてその内周面を覆う内側チューブの何れか一方だけと、を備えた被覆ステントであって、
外側チューブ又は内側チューブが生体親和性チューブの外側に平滑筋細胞抑制剤を含浸し生体親和性チューブの内側に内皮細胞増殖剤を含浸したものであって、
生体親和性チューブが、M10(ZOn6X2の組成を持つ鉱物群(式中のMはCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOnはPO4、SO4、CO3であり、XはOH、F、O、CO3である。)から選ばれた少なくとも1つの生体親和性セラミックスのみからなるチューブ状の薄膜である被覆ステント。
【請求項3】
生体親和性チューブが、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解する基材に、生体親和性セラミックス薄膜を成膜したのち、薄膜が成膜された基材を溶媒に浸漬して基材を溶解し、単離した薄膜を乾燥してなるものである請求項1又は請求項2に記載の被覆ステント。
【請求項4】
レーザーアブレーション法、スパッタリング法、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、分子線エピタクシー法、化学的気相成長法のうちの何れかの方法により生体親和性セラミックス薄膜を成膜してなる請求項3に記載の被覆ステント。
【請求項5】
生体親和性セラミックス薄膜を成膜又は乾燥したのちに、高温の水蒸気含有ガス又は炭酸含有ガス中で熱処理してなる請求項3又は請求項4に記載の被覆ステント。
【請求項6】
薄膜が、ハイドロキシアパタイトから構成されている請求項1から請求項5の何れかに記載の被覆ステント。
【請求項7】
薄膜が、複数の生体親和性セラミックスから構成されている請求項1から請求項5の何れかに記載の被覆ステント。
【請求項8】
平滑筋細胞抑制剤が、バチマスタット(batimastat)、プロリン水酸化酵素、プログコール、ブラジキニン、アドレノメデュリン、プロスタサイクリン(PGI2)、c型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、一酸化窒素合成酵素(eNOS)からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質である請求項1から請求項7の何れかに記載の被覆ステント。
【請求項9】
内皮細胞増殖剤が、血管内皮増殖因子(VEGF)、BCP671、エストラジオール、EPC抗体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質である請求項1から請求項8の何れかに記載の被覆ステント。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れかに記載のステントと、バルーンカテーテルと、ガイドワイヤーとを少なくとも含む医療器具。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、血管等に生じた狭窄部の治療に使用するステントに関し、特に一度拡張した狭窄部が再狭窄し難くなるように加工した被覆ステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管の狭窄が原因によって生じる狭心症などの虚血性心疾患の治療法としては、心臓バイパス手術などの外科手術による治療もなされてはいるものの、患者に与える負担を減らすため、近年ではインターベンションへの関心が高まっている。
【0003】
インターベンションのなかでも、先端に膨張可能なバルーンを設けたカテーテルを、冠動脈の狭窄部位で膨張させて血管内腔を拡張する、経皮経管的冠動脈形成術(PTCA: Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)は最も一般的な治療法である。
【0004】
ただ、PTCAによる治療のみでは、術後約40%という高頻度で再狭窄が発生しており、再治療が必要なことから、患者に与える精神的及び肉体的苦痛は依然として大きかった。そこで、一般的には再狭窄を防止するため、近年では、金属やプラスチック製の、コイル又は網からなるステントと呼ばれる略円筒状の支持体を拡張した狭窄部位に留置する治療法、いわゆるステント留置術が広く行われるようになっている。
【0005】
さて、ステント留置術により、血管再狭窄の大きな原因である(1)バルーンにより拡張した血管が短時間に収縮する弾性反跳(elastic recoil)、(2)障害修復過程における血管壁の収縮(vascular remodeling)を防ぎ、再狭窄率を低減してはいる。ただし、慢性期に生じる(3)平滑筋細胞の増殖による新生内膜の過形成によるステント内再狭窄(ISR:In-Stent Restenosis)を完全に防ぐことは難しく(術後約20%の確率で発生)、再狭窄の防止は現在でも重要な課題である。
【0006】
このISRの生じる理由としては、従来から諸説あるが、ステント留置によって血管壁が炎症を起こして、ステント周囲の血管平滑筋細胞のフェノタイプが収縮型から合成型へ変化したのち、ステント内周面側へ遊走・増殖することによって内膜肥厚が起こることにより再狭窄するという説が、現在では有力である。
【0007】
そこで、この平滑筋細胞の遊走・増殖を抑制して、再狭窄を防止する様々な方法が検討されている。このような方法としては、まず、平滑筋細胞の遊走・増殖を抑制し得る薬剤を、ステントに搭載することによって、再狭窄を予防する方法が挙げられる。このような薬剤の具体的な例としては、パクリタキセル、プロブコール、シロスタゾール、ラパマイシン、トラニラスト、マイトマシンC、アドリアマイシン、ゲニステイン、チルフォスチンが挙げられる(例えば、特許文献1、2参照。)。また、これらの薬剤を含む合成樹脂(例えば、特許文献3及び4を参照)やアテロコラーゲンなどの生体高分子等でコーティングした被覆ステントを使用することも試みられている。
【0008】
しかし、薬剤を搭載したステントには、生体内でのステントの移動や拡張において薬剤を確実に保持し、ステントの留置部において薬剤を長期間に渡って安定して放出できないとの問題点があった。また、薬剤を含む合成樹脂等でコーティングしたステントには、合成樹脂による生体毒性や、生体高分子に含まれるウイルスなどによる感染症を完全に防止できないとの問題点があった。




【0009】

【特許文献1】特開2000-95706号公報
【特許文献2】特開2000-249709号公報
【特許文献3】特開平9-56807号公報
【特許文献4】特開2005-170801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明は、一度拡張した血管等の狭窄部をより再狭窄し難くするとともに、生体毒性や感染性を生じる可能性がない被覆ステントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の被覆ステントは、ステントと、ステントの外周面側に嵌め込まれてその外周面を覆う外側チューブ及びステントの内周面側に挿入されてその内周面を覆う内側チューブの少なくとも一方と、を備えているものである。また、前記外側チューブは、生体親和性チューブに平滑筋細胞抑制剤を含浸したものであり、内側チューブは、生体親和性チューブに内皮細胞増殖剤を含浸したものである。なお、前記生体親和性チューブは、M10(ZOn6X2の組成を持つ鉱物群(式中のMはCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOnはPO4、SO4、CO3であり、XはOH、F、O、CO3である。)から選ばれた少なくとも1つの生体親和性セラミックスのみからなるチューブ状の薄膜である。

【0012】
前記生体親和性セラミックスチューブは、薄くて可撓性及び柔軟性を備えているので、ステントの拡張に追随して拡張できるとともに、充分な量の薬剤を安定して含浸することができる。そのため、長期間に渡って含浸した薬剤を放出したのち生体に吸収される。また、前記生体親和性セラミックスチューブは、生体親和性セラミックスのみからなるため、生体毒性や感染症を引き起こす恐れがない。
【発明の効果】
【0013】
そのため、この発明のステントを血管中の狭窄部に配置すると、その外側チューブから平滑筋胞抑制剤を長期間徐放して平滑筋の増殖を抑制し、その内側チューブから内皮細胞増殖剤を長期間徐放して内皮細胞の増殖を促進するので、狭窄部の再狭窄を長期間にわたって安全に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の被覆ステントは、その概略図である図1に示すように、ピンセットや指などにより、ステント1の外周面側1aに外側チューブ2を嵌め込み、内周面側1bに内側チューブ3を挿入することによって製造する。なお、ステント1、外側チューブ2、内側チューブ3の詳細については、以下に説明する。
【0015】
1.ステント
ステント1は、血管の狭窄部を拡張したのちにその状態を保持するものであれば、その形状や構造は特に限定することなく公知のものを使用することができる。具体的には、略円筒形で、卵形、円形または他の形状の通路が穿孔されているものが例示できる。なお、ステント1の長さ、外径、形状、拡張方法などは対象となる疾患、狭窄部の状態に応じて自由に変更することができる。
【0016】
ステント1の構成材料としては、金属材料であるステンレス鋼、タンタル、チタン合金(ニチノールを含む)及びコバルト合金(コバルト-クロム-ニッケル合金を含む)等が例示でき、プラスチック材料であるポリ乳酸、ポリグリコール酸などが例示できる。
【0017】
このようなステント1は、極細金属線をらせん状や網目状に曲げたり、エッチングなどにより穿孔した金属薄板をチューブ状又は円筒状構造体に巻いたり、プラスチックを成型することによって製造することができる。
【0018】
2.外側チューブ
外側チューブ2は、可撓性及び柔軟性を備えた生体親和性セラミックスのみからなる略円筒形の生体親和性チューブ2に、平滑筋細胞抑制剤を含浸したものである。また、外側チューブ2は、ステント1の外周面に嵌め込むため、その内径は拡張前のステント1の外径よりやや大きい程度であり、その厚さは可撓性及び柔軟性を損なわない程度の厚さである。なお、外側チューブ2を構成する生体親和性チューブの製造、平滑筋細胞抑制剤の含浸については以下に詳説する。
【0019】
(1)生体親和性チューブの製造
生体親和性チューブ2は、成膜工程、溶解工程、乾燥工程、及び結晶化のための熱処理工程などにより製造する。なお、各工程の詳細については図2、図3及び図4に基づいて以下に説明する。
【0020】
(11)成膜工程
成膜工程は、図2(a)に示す基材21に、生体親和性セラミックスの薄膜22をレーザーアブレーション法等により蒸着する工程である。なお、図2(b)は蒸着が完成した状態を示している。
【0021】
(a)基材
基材21は、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解する素材から構成されているものであれば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属をはじめとする水溶性無機塩やグリシンをはじめとするアミノ酸結晶等の水溶性有機物など、特に制限することなく使用することができる。それらの中でも、結晶を製造しやすいこと、安価であることから、塩化ナトリウムが好ましい。なお、基材21は生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解するのであれば、結晶化した素材でなくてもよい。また、図3に示すように、生体親和性セラミックスを溶解しない溶媒に溶解する素材からなる部分23aと、同じ溶媒に溶解しない部分23bからなる基材23を使用してもよい。このよう基材23を利用することによって、基材作製に掛かる手間と費用を削減することができる。
【0022】
(b)生体親和性セラミックス
生体親和性セラミックスとは、アパタイト、その原材料及びそれを含む混合物のことである。ここで、アパタイトとはM10(ZOn)6X2の組成を持った鉱物群であり、式中のMは例えばCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOnは例えばPO4、SO4、CO3であり、Xは例えばOH、F、O、CO3である。ハイドロキシアパタイトや炭酸アパタイトが一般的ではあるが、とくに生体親和性の高さからハイドロキシアパタイトが好ましい。また、アパタイトの原材料としてはリン酸三カルシウム(TCP)を例示することができ、アパタイトを含む混合物としては牛等の骨から採取した生体アパタイトを例示することができる。
【0023】
(c)レーザーアブレーション法
レーザーアブレーション法については、レーザーアブレーション装置5の概略図である図4に基づき、この図を使用して以下に説明する。
【0024】
まず、基材21を、図4に示すように、真空成膜チャンバー51内の試料把持装置(図示せず。)に回転自在に把持させ、生体親和性セラミックスの粉末を金型で加圧成形して得たターゲット52を基材21に対向する位置に配置する。
【0025】
つぎに、この状態で真空チャンバー51内の空気を排気系53によって所定の真空度まで排気する。排気の完了後、基材21をヒーター54により所定の温度に昇温するとともに、試料把持装置により回転させる。
【0026】
さらに、ガス導入ノズル55より水蒸気含有ガス又は炭酸含有ガスを該真空チャンバー51内に導入し、ArFエキシマレーザー発生装置等のレーザー発生装置56a、ミラー56b、レンズ56c等からなるレーザー光源56から発生したレーザー光線Lをターゲット52に照射する。これによって、ターゲット52を構成する生体親和性セラミックスが分解して原子、イオン、クラスター等が放出され、基材21のターゲット52側を生体親和性セラミックス薄膜によって被覆する。
【0027】
なお、水蒸気含有ガスとしては、水蒸気、酸素-水蒸気混合ガス、アルゴン-水蒸気混合ガス、ヘリウム-水蒸気混合ガス、窒素-水蒸気混合ガス、空気-水蒸気混合ガス等が、炭酸含有ガスとしては、炭酸ガス、酸素-水蒸気・炭酸混合ガス、アルゴン-水蒸気・炭酸混合ガス、ヘリウム-水蒸気・炭酸混合ガス、窒素-水蒸気・炭酸混合ガス、空気-水蒸気・炭酸混合ガス等が使用できる。
【0028】
(12)溶解工程
溶解工程は、生体親和性セラミックス薄膜が成膜された基材21を溶媒に浸漬して基材21を溶解する工程である。なお、図2(c)は生体親和性セラミックス膜を成膜した基材21を容器3内の溶媒31に浸漬した状態を示しており、図2(d)は基材21が溶解した後の状態を示している。
【0029】
溶媒としては、生体親和性セラミックスを溶解しない液体であれば、極性溶媒、非極性溶媒など特に限定することなく使用することができるが、価格が安いこと、毒性のないことから水系溶媒が好ましく、中でも純水、生理食塩水等が好ましい。
【0030】
(13)乾燥工程
乾燥工程は、基材21が溶解することによって、基材21からから単離した生体親和性セラミックス薄膜を、ピンセット等により溶媒21から取り出して、自然乾燥又は装置乾燥して生体親和性セラミックスチューブとする工程である。なお、乾燥が完了した生体親和性セラミックスチューブ22を図2(e)に示す。
【0031】
このように、成膜、溶媒への浸漬、薄膜の乾燥の既に確立した方法を組み合わせることによって、生体親和性が高く、新規な生体材料として用いることができる生体親和性チューブを製造することができる。なお、生体親和性セラミックスチューブ22は、これ以外にも様々な方法で製造することができる。
【0032】
例えば、成膜工程でレーザーアブレーション法以外の方法、例えばスパッタリング法、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、分子線エピタクシー法、化学的気相成長法等を使用してもよい。また、薄膜の成膜が完了したのち、又は薄膜の乾燥のちに、300~1200℃の高温の水蒸気含有ガス又は炭酸含有ガス中で熱処理する熱処理工程を追加して、生体親和性セラミックス薄膜をより結晶化し、生体親和性チューブをより緻密にしてもよい。
【0033】
また、種類の異なる複数の生体親和性セラミックスを組み合わせて使用してもよい。具体的には、例えば、生体アパタイトと化学量論組成アパタイトとを組み合わせて使用してもよい。ここで、生体アパタイトは生体内吸収性があるため組織誘導性に優れており、反対に化学量論組成アパタイトは生体内に残留するため、組織の安定性に優れている。そのため、これらを組み合わせることによって早期の組織誘導性と組織安定性を兼ね備えた生体親和性セラミックスチューブが製造できる。
【0034】
(2)平滑筋細胞抑制剤の含浸
平滑筋細胞抑制剤は、血管平滑筋細胞の増殖・増殖を抑制する薬理効果を備えた物質であり、これらの効果を備えた公知の物質であれば特に限定することなく使用することができる。平滑筋細胞抑制剤としては、バチマスタット(batimastat)、プロリン水酸化酵素、プログコール、ブラジキニン、アドレノメデュリン、プロスタサイクリン(PGI2)、c型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、一酸化窒素合成酵素(eNOS)などが例示できる。なお、これらの物質は単独で使用してもよく、複数の物質を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
なお、平滑筋細胞抑制剤は、例えば、平滑筋細胞抑制剤を適当な溶媒に溶解して溶液を作成し、その溶液が入った容器に生体親和性セラミックスチューブ22を浸したのち、乾燥することによって、生体親和性セラミックスチューブ22に含浸させることができる。
【0036】
3.内側チューブ
内側チューブ3は、基本的には外側チューブ2と同様の方法で作られた生体親和性チューブに、内皮細胞増殖剤を含浸したものである。ただ、その外径はステント1の内側に挿入できるようステント1の内径よりやや小さい。
【0037】
また、内皮細胞増殖剤は、血管内皮細胞の増殖を促進する薬理効果を備えた物質であり、これらの効果を備えた公知の物質であれば特に限定することなく使用することができる。内皮細胞増殖剤の具体例としては、血管内皮増殖因子(VEGF)、BCP671、エストラジオール、EPC抗体などが例示できる。なお、これらの物質は単独で使用してもよく、複数の物質を組み合わせて使用してもよい。また、内側チューブ3に内皮細胞増殖剤を含浸する方法は、外側チューブ2に平滑筋細胞抑制剤を含浸するのと同じ方法である。
【0038】
4.医療機器
このようにして製造した被覆ステントは、従来からあるステントと同様に、バルーンカテーテルやガイドワイヤーと組み合わせ、医療機器として使用することができる。
【0039】
この発明の被覆ステントは、前期実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で様々な変更を加えることができる。
【0040】
例えば、外側チューブ2と内側チューブ3の両方ではなく、どちらか一方しか備えていないものであってもよい。この場合、前期実施の形態と比べて再狭窄を抑える効果は低下するものの、より安価に製造することができる。
【0041】
また、外側チューブ2又は内側チューブ3の一方だけを備え、これらを構成する生体親和性チューブの外側には平滑筋細胞抑制剤を含浸し、その内側には内皮細胞増殖剤を含浸させれば、薬剤の保持量は少なくなるものの、前記実施の形態と同様の効果が得られる被覆ステントをより安価に製造することができる。なお、生体親和性チューブの外側と内側に異なる物質を含浸させるには、例えば、外側を高分子シートなどで密着保護し、内側に含浸したい物質を含む溶液にチューブを浸して飽和吸着させ、その後保護シートをはずして、外側に含浸したい物質を含む溶液にチューブを浸して飽和吸着させればよい。
【0042】
また、外側チューブ2と内側チューブ3を別々の基材を使用して製造するのではなく、筒状の基材の外側と内側の両面に生体親和性セラミックスの薄膜を成膜したのち、基材を溶解させることによって外側チューブと内側チューブを一つの基材から同時に作製してもよい。これにより使用する基材の量を少なくすることができ、被覆ステントの製造費用を低減できる。
【0043】
以下にこの発明を実施例に従ってさらに詳しく説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
(1)生体親和性セラミックスチューブの製造
まず、塩化ナトリウムからなる基材にレーザーアブレーション法により、ハイドロキシアパタイト薄膜を成膜した。具体的には、塩化ナトリウムからなる基材(直径3mm、長さ10mmの略円筒形)をレーザーアブレーション装置(近畿大学生物理工学部本津研究室設計、誠南工業株式会社作製)の試料把持装置に把持させ、ハイドロキシアパタイトをターゲットとして、ArFエキシマレーザー(λ=193nm、パルス幅=20n秒)を使用するレーザーアブレーション法を10時間行って、基材に厚さ約20μmのハイドロキシアパタイト薄膜を被覆した。なお、基材温度は300℃、使用した雰囲気ガスは酸素-水蒸気混合ガス、混合ガスのガス圧力は0.8mTorrであった。
【0045】
つぎに、ハイドロキシアパタイト薄膜を成膜した基材を純水に浸漬して基材を溶出し、ハイドロキシアパタイト薄膜のみを単離した。そして、単離したハイドロキシアパタイト薄膜を純水にて洗浄して、自然乾燥したのち、400℃、10時間、酸素-水蒸気雰囲気下でポストアニール処理(熱処理)することにより、ハイドロキシアパタイト薄膜を結晶化して、直径3mm、長さ10mmの略円筒形の生体親和性セラミックスチューブを得た。このようにして得られたセラミックスチューブ正面から見た写真を図5、斜めから見た写真を図6に示す。
【0046】
(2)外側チューブの製造
dsDNAのTris-HCl溶液(645μg/ml)を調製して、この溶液に(1)で製造した略円筒形の生体親和性セラミックスチューブを浸けて放置したのち、自然乾燥して外側チューブを製造した。
【0047】
(3)被覆ステントの製造
市販のステントの外周面側に、(2)で製造した外側チューブをピンセットにより嵌め込むことにより、被覆ステントを製造した。その結果を図7及び図8に示す。なお、図7及び図8は同じ被覆ステントの背景を変えて撮影した写真である。
【実施例2】
【0048】
(4)ハイドロキシアパタイト薄膜の性能試験
チューブと同等な原材料、装置を用いて作製したハイドロキシアパタイト薄膜に含浸した物質の徐放特性を調べることを目的にして、水晶振動子マイクロバランス法を用いた実験を行なった。なお、水晶振動子マイクロバランス法は、圧電体である水晶に高周波電場を印加したときに、水晶の固有の振動数が水晶およびその表面への付着物の質量の変化に伴って変化することを利用して、水晶表面に固定されたサンプル(例えば、ハイドロキシアパタイト)とこれと結合する溶液中のサンプル(例えば、dsDNA)との結合量の変化を経時的かつ連続して測定できる。
【0049】
具体的には、まず、市販の水晶振動子(株式会社イニシアム製AffinixQ用センサーチップ)の表面にハイドロキシアパタイト薄膜を作製し、水晶振動子をdsDNAのTris-HCl溶液(645μg/ml)に漬けて、その表面にDNAを含浸させた。つぎに、水晶振動子マイクロバランス装置(AffinixQ)のセンサーチップ表面をTris-HCl液に浸漬して、ハイドロキシアパタイト薄膜からのDNA徐放による質量の減少を測定した。その結果を図9に示す。なお、この図において横軸は時間、縦軸は水晶振動子の固有振動数であり、時間に伴って固有振動数が変化する様子を表している。
【0050】
この図の網掛けをしている部分において、水晶振動子の固有振動周波数が上昇していることから、水晶振動子に付着している物質の質量が減少していることが確認できた。そして、このことは、時間経過と共にハイドロキシアパタイト薄膜に固定されたDNAが遊離したことを示しており、これはハイドロキシアパタイトからなるチューブが優れた薬剤徐放性を備えていることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】被覆ステントの概略を示す図である。
【図2】生体親和性セラミックチューブの製造方法の一例を示す図である。
【図3】生体親和性セラミックチューブの製造に使用する基材の一例を示す図である。
【図4】生体親和性セラミックチューブの製造に使用するレーザーアブレーション装置の概略図である。
【図5】生体親和性セラミックチューブの一実施例を正面から撮影した写真である。
【図6】生体親和性セラミックチューブの一実施例の斜めから撮影した写真である。
【図7】被覆ステントの一実施例を側面から撮影した写真である。
【図8】図7の被覆ステントの背景を変えて側面から撮影した写真である。
【図9】水晶振動子マイクロバランス法による測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ステント
2 外側チューブ
3 内側チューブ
21 基材
22 生体親和性チューブ(生体親和性セラミックス薄膜)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8