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明細書 :透明強磁性単結晶化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4708334号 (P4708334)
登録日 平成23年3月25日(2011.3.25)
発行日 平成23年6月22日(2011.6.22)
発明の名称または考案の名称 透明強磁性単結晶化合物の製造方法
国際特許分類 C30B  29/46        (2006.01)
H01F   1/00        (2006.01)
FI C30B 29/46
H01F 1/00 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2006-510484 (P2006-510484)
出願日 平成17年2月25日(2005.2.25)
国際出願番号 PCT/JP2005/003196
国際公開番号 WO2005/083161
国際公開日 平成17年9月9日(2005.9.9)
優先権出願番号 2004055017
優先日 平成16年2月27日(2004.2.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年11月24日(2006.11.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】吉田 博
【氏名】劔持 一英
【氏名】清家 聖嘉
【氏名】佐藤 和則
【氏名】柳瀬 章
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】鮎沢 輝万
参考文献・文献 特開2002-114595(JP,A)
特開2002-064105(JP,A)
T. KARNER et al.,Electronic excitations and luminescence in MgO:Ge single crystals,Nuclear instruments and Methods in Physics Research B,2000年,Vol.166-167,p.232-237
K. IWATA et al.,Nitrogen-induced defects in ZnO:N grown on sapphire substrate by gas source MBE,Journal of Crystal Growth,2000年,Vol.209,p.526-531
調査した分野 C30B 1/00-35/00
H01F 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
透明強磁性単結晶化合物を製造する方法において、
該化合物として、
アルカリ土類・カルコゲン化合物、アルカリ・カルコゲン化合物から選ばれる光を透過するワイドバンドギャップ化合物を用いること
該化合物を基板上に成膜する方法として、MBE法を用いること
該化合物の成膜時に、B,C,N,O,F,Si,Geから選ばれる最外殻に不完全なp電子殻をもつ少なくとも1種の元素を原子状に蒸発させて、成長した該化合物に1at%~25at%固溶させることの組み合わせ
によって完全スピン分極した、強磁性転移温度が300度K以上である単結晶化合物を成膜することを特徴とする透明強磁性単結晶化合物の製造方法。
【請求項2】
固溶させる元素の濃度の調整により強磁性特性を調整することを特徴とする請求項1記載の透明強磁性単結晶化合物の製造方法。
【請求項3】
成膜時にさらにn型ドーパント又はp型ドーパントの少なくとも一方を原子状に蒸発させて前記化合物に添加することによって強磁性特性を調整することを特徴とする請求項1記載の透明強磁性単結晶化合物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイドバンドギャップを持ち、透明な化合物に強磁性特性を実現させた単結晶
のワイドバンドギャップ化合物の製造方法に関する。さらに詳しくは、大きな磁気光学効
果を有し、所望の強磁性特性、例えば、強磁性転移温度などが得られる透明強磁性ワイド
バンドギャップ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁性不純物として3d遷移金属、4d遷移金属、5d遷移金属、又はランタン系稀土
類金属元素を固溶した透明強磁性材料(特許文献1~7、非特許文献1~5)はd電子又
はf電子の殻内電子励起により特定の可視光領域の光の吸収が生じる。
【0003】
アルカリ土類・カルコゲン化合物は無色・透明であり、そのバンドギャップ(Eg)が3eV
以上と大きく、可視領域から紫外光、さらには超紫外光の波長の光でも透過するという性
質を有すると共に、そのエキシトンの結合エネルギーが大きく、この材料で大きなスピン
・軌道相互作用をする強磁性材料が得られれば、スピンの自由度を利用したスピントラン
ジスターや光アイソレータ、又はコヒーレントなスピン状態を利用した光量子コンピュー
タなどの光量子デバイス作製や量子情報処理のためのデバイス開発に大きな発展が期待さ
れる。
【0004】
しかし、従来はアルカリ土類・カルコゲン化合物などのワイドバンドギャップ化合物に最
外殻に不完全なp殻を持つ元素をドープした完全スピン分極透明強磁性状態の例はなく、
高い強磁性転移温度(キューリー点)をもつアルカリ土類・カルコゲン化合物などのワイ
ドバンドギャップ化合物の強磁性状態の実現は報告されていない。
【0005】

【特許文献1】特開2001-72496号公報
【特許文献2】特開2001-130915号公報
【特許文献3】特開2002-255695号公報
【特許文献4】特開2002-255698号公報
【特許文献5】特開2002-260922号公報
【特許文献6】特開2003-318026号公報
【特許文献7】特開2003-137698号公報
【非特許文献1】「Material Design of GaN-Based Ferromagnetic Diluted Magnetic Semiconductors」 Kazunori Sato and Hiroshi Katayama-Yoshida,Jpn. J. Appl. Phys. Vol.40,(2001) pp. L485-L487
【非特許文献2】「Stabilization of Ferromagnetic States by Electron Doping in Fe-,Co-,or Ni-doped ZnO」Kazunori Sato and Hiroshi Katayama-Yoshida, Jpn. J. Appl. Phys. Vol.40, (2001) pp. L334-L336
【非特許文献3】「4d遷移金属ドープによるII-VI族およびIII-V族強磁性半導体の探索」清家聖嘉,吉田博,応用物理学関係連合講演会講演予稿集,Vol.50,(2003.03.27)No.1,p.525
【非特許文献4】「4d遷移金属ドープによるハーフメタリック透明強磁性半導体マテリアルデザイン」清家聖嘉,柳瀬章,吉田博,応用物理学会学術講演会講演予稿集,Vol.64, (2003.08.30)No.1,p.415
【非特許文献5】「δドーピングと同時ドーピングによる強磁性転移温度上昇法のデザイン」大石雄紀,Van An D.,吉田博,応用物理学会学術講演会講演予稿集,Vol.64, (2003.08.30)No.1,p.416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光を透過しながら高い強磁性特性を有する単結晶の強磁性化合物薄膜が得られれば、これ
らの磁気光学効果を利用して、大量の情報伝達に必要な光アイソレータや光による高密度
磁気記録が可能になり、また、電子の持っている電荷の自由度に加えてスピンの自由度と
光を積極的に利用した将来の大容量・超高速・超省エネルギーの情報伝達に必要なデバイ
スに応用する電子光磁気材料を作製することができる。さらに、巨大な磁気光学効果を持
ち、しかも、光を透過しながら強磁性を有する完全スピン分極透明強磁性材料が望まれて
いる。
【0007】
前述のように、アルカリ土類・カルコゲン化合物などの化合物を用いて、可視領域の光を
通し、磁気光学効果を利用する安定した透明強磁性特性が得られれば、半導体レーザなど
の発光素子と組み合わせて利用することができ、磁気状態を反映させた円偏光した光を発
生させることができ、大きなスピン・軌道相互作用による巨大な磁気光学効果を利用する
磁気光学スピンデバイス応用が、光情報通信やスピンエレクトロニクスへと広がる。さら
に、磁化の円偏向特性を利用して磁化状態を読み取る強磁性体メモリを構成する場合、強
磁性転移温度(キュリー温度)を光の照射により磁性状態が変化するような温度(室温よ
りわずかに高い温度)に設定するなど、強磁性特性が所望の特性になるように作製できる
必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光を透過するワイドバンドギャップ化合物を用いること、該化合物を基板上に
成膜する方法として、MBE(分子線エピタキシー)法を用いること、最外殻に不完全なp電
子殻をもつ少なくとも1種の元素を該化合物に1at%~25at%固溶させることを組み合
わせて、完全スピン分極した、強磁性転移温度が300度K以上である透明強磁性単結晶
化合物を提供する。また、本発明は、透明強磁性単結晶化合物を作製するに当り、固溶さ
せる元素の濃度の調整により強磁性特性を調整する方法を提供する。


【0009】
ここでいうワイドバンドギャップ化合物とは、大きなバンドギャップを持つアルカリ土類
・カルコゲン化合物(CaO,MgO,SrO,BaOなど)、アルカリ・カルコゲン化合物(K2S,Li2Oな
ど)、I-VII族化合物(NaCl,KClなど)、II-VI族化合物(ZnO,ZnSなど)、III-V族化合物(Ga
N,GaAsなど)、IV-VI2族化合物(SiO2,GeO2など)、IV-IV族化合物(SiGe,GeCなど)、II
-VII2族化合物(CaF2,CaCl2など)などを指す。以下では、具体例としてアルカリ土類・
カルコゲン化合物(CaO,CaS,CaSe,CaTeなど)の場合を説明するが、以下の技術は前述の
全てのワイドバンドギャップ化合物の場合に応用することができる。
【0010】
本発明者らは、光を透過する材料として特に適したワイドバンドギャップを持ち、しかも
格子定数が大きいアルカリ土類・カルコゲン化合物を用い、強磁性特性を有する単結晶を
得るため鋭意検討を重ねた結果、最外殻に不完全なp殻を持つ元素(B,C,N,O,F,Si,Geなど
)は、非平衡結晶成長法により低温でカルコゲン原子の25原子%程度までを置き換え(混
晶形成)ても十分に単結晶が得られることを見出した。
【0011】
そして、例えば、C及びNをアルカリ土類・カルコゲン化合物に固溶させると、電子状態の
変化からホール又は電子をドープする(電子を増やしたり減らしたりする)ことにより、
通常は強磁性状態を示さない最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素によって強磁性が得ら
れることを見出した。
【0012】
すなわち、最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素をアルカリ土類・カルコゲン化合物に固
溶させることにより、p電子にホールや電子を添加したのと同様の効果が得られるので、
アルカリ土類・カルコゲン化合物に最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素単体を固溶させ
るだけで安定した完全スピン極透明強磁性状態にすることができることを見出した。
【0013】
そして、本発明者らが、さらに鋭意検討を重ねた結果、B、C、N、O、F、Si、Geなどの最
外殻に不完全なp電子殻を持つ元素は、高スピン状態となり、その固溶濃度を変化させた
り、これらの2種類以上の元素の組合せや、その固溶濃度の割合を変えたり、n型及び/
又はp型のドーパントを添加したりすることにより、強磁性転移温度を変え得ること、反
強磁性やスピングラス状態及び常磁性状態よりも強磁性状態を安定化させ得ること、その
強磁性状態のエネルギー(例えば、僅かの差でスピングラス状態又は常磁性状態になるが
、通常は強磁性状態を維持するエネルギー)を調整し得ること、固溶した元素の種類によ
り最低透過波長が異なり、2種類以上の元素を選択的に固溶して混晶を形成することによ
り、所望のフィルタ機能を持たせ得ること、を見出した。
【0014】
さらに、これらの最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素の固溶濃度や2種類以上の元素の
混合割合を調整することにより、所望の磁気特性を有する単結晶性で、かつ、完全スピン
分極透明強磁性(一方のスピン状態にバンドギャップがあり他方のスピンだけが遍歴する
状態でハーフメタリック強磁性ともいう)のアルカリ土類・カルコゲン化合物が得られる
ことを見出した。
【0015】
本発明により得られる完全スピン極透明強磁性アルカリ土類・カルコゲン化合物は、ア
ルカリ土類・カルコゲン化合物に、最外殻に不完全なp電子殻を持つ少なくとも1種の元
素が含有されている。ここに、アルカリ土類・カルコゲン化合物とは、アルカリ土類金属
(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)とカルコゲン原子(O,S,Se,Te)とからなる化合物、具体例としては(
BeO,BeS,BeSe,BeTe,MgO,MgS,MgSe,MgTe,CaO,CaS,CaSe,CaTe,SrO,SrS,SrSe,SrTe,BaO,BaS,
BaSe,BaTe,RaO,RaS,RaSe,RaTe)などである。
【0016】
上記化合物の格子定数は大きいので不純物の軌道と母体原子の軌道の混成が弱く、前述の
最外殻に不完全なp殻を持つ元素はO、S、Se、Teなどのカルコゲン原子を置換することが
でき、非平衡結晶成長法により250℃程度の低温で25at%位まで置換しても同じ結晶構造
の単結晶を維持すると共に、その透明性を維持しながら、同じ結晶構造で完全スピン
強磁性の性質を呈する。
【0017】
前記最外殻に不完全なp電子殻を持つ少なくとも種の元素が含有されることにより、前
記最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素に起因する不純物p電子状態が、母体となる化合物
の原子軌道と混成し、幅の狭い不純物バンドを形成するため大きな電子相関効果が得られ
、強磁性となり、しかも完全スピン分極透明強磁性状態を実現する。これらの化合物に対
してホール又は電子をドープするよりも直接的に強磁性特性が変化し、強磁性転移温度な
どの強磁性特性を調整することができる。強磁性転移温度は、室温以上で作動するスピン
エレクトロニクスへの応用を考えると300度K以上になるようにすることが、実用上好まし
い。
【0018】
n型ドーパント及びp型ドーパントの少なくとも一方がドーピングされると、ドープされ
たキャリアーはバンドギャップ中に形成された幅の狭い不純物バンドに入るため、ドープ
した最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素のp電子不純物状態の占有電子数を変えることが
でき、不純物バンドを形成しているp電子の価電子制御により、その強磁性特性を調整す
ることができる。
【0019】
本発明によるアルカリ土類・カルコゲン化合物の強磁性特性の調整方法は、下記の(1)
又は(2)により行う。
(1)前記のようなアルカリ土類・カルコゲン化合物に、前記の最外殻に不完全なp殻を
持つ少なくとも1種の元素を固溶し、固溶した元素の濃度の調整、
(2)さらに、n型ドーパント又はp型ドーパントの少なくとも一方を添加し、添加した
ドーパントの濃度の調整。
【0020】
具体的には、前記濃度(少なくとも一種の最外殻に不完全なp殻を持つ元素及びドーパン
トの濃度)の調整により、強磁性転移温度を所望の温度に調整することができ、また、前
記少なくとも1種の最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素及びドーパントを固溶させ、強
磁性の安定化エネルギーを調整すると共に、少なくとも1種の最外殻に不完全なp電子殻
を持つ元素又はドーパント自身により導入されたホール又は電子による運動エネルギーに
よって全エネルギーを低下させることにより、強磁性状態を安定化させることができ、ま
た、少なくとも1種の最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素及びドーパントを固溶させ、
元素自身により導入されたホール又は電子によって、元素間の磁気的相互作用の大きさと
符号を制御することにより、強磁性状態を安定化させることができる。
【0021】
さらに、前記最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素から選ばれる少なくとも1種の元素及
びドーパントを固溶させ、固溶された元素自身により導入されたホール又は電子によって
、原子間の磁気的相互作用の大きさと符号を制御すると共に、不完全なp電子殻を持つ元
素の固溶による光の透過特性を制御することにより、所望の光フィルタ特性を有する完全
スピン分極透明強磁性のアルカリ土類・カルコゲン化合物とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アルカリ土類・カルコゲン化合物等にB、C、N、O、F、Si、Geなどの最
外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を固溶させるだけで、完全スピン分極透明強磁性単結
化合物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、図面を参照しながら本発明の完全スピン分極した、透明強磁性単結晶化合物の製造
方法及びその強磁性特性の調整方法について、アルカリ土類・カルコゲン化合物を具体例
として説明をする。大きなバンドギャップを持ち、かつ大きな格子常数を持つアルカリ土
類・カルコゲン化合物に関する以上の技術は、アルカリ・カルコゲン化合物、I-VII族化
合物、II-VI族化合物、III-V族化合物、IV-VI2族化合物、IV-IV族化合物、II-VII2族化合
物などのアルカリ土類・カルコゲン化合物以外の大きなバンドギャップ、格子常数を持つ
化合物全般に対しても応用できる。
【0024】
本発明の方法で得られる完全スピン分極透明強磁性アルカリ土類・カルコゲン化合物は、
アルカリ土類・カルコゲン化合物に、最外殻に不完全なp電子殻を持つ少なくとも1種の
元素が固溶されている。このような最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を固溶するアル
カリ土類・カルコゲン化合物の薄膜を成膜するには、例えば、MBE法を使用する。図1に
、MBE法に用いる装置の概略図を示すように、1.33×10-6Pa程度の超高真空を維持できる
チャンバー1内の基板ホルダー4に、例えば、SiC、SiO2やサファイアなどからなる基板
上にCaOなどのアルカリ土類・カルコゲン化合物を成長させる基板5を設置し、ヒータ7
により基板5を加熱できるようになっている。
【0025】
そして、基板ホルダー4に保持される基板5と対向するように、成長する化合物を構成す
る元素の材料(ソース源)Caを入れたセル2a、B、C、N、O、F、Si、Geなどの最外殻に不
完全なp電子殻を持つ元素を入れたセル(1個しか示されていないが、2種類以上を固溶
させる場合は2個以上設けられている)2b、n型ドーパントのSc、Y、F、Cl、Ba、Iなど
を入れたセル2c、p型ドーパントのLi、Na、K、Rb、Cs、Fr、N、P、As、Sb、Biなどを入
れたセル2d、ラジカル酸素(O)を発生させるRFラジカルセル3aが設けられている。なお
、Caなどの固体原料はこれらの金属のカルコゲン化合物をセルに入れて原子状にすること
もできる。
【0026】
なお、固体(単体)を入れるセル2a~2dは、図示されていないが、それぞれに設けられ
、加熱により固体ソースを原子状にして蒸発させられる様になっており、ラジカルセル3
aは、図1に示されるようにRF(高周波)コイル8により活性化させている。このCa、最
外殻に不完全なp電子殻を持つ元素及びn型ドーパント材料としては、純度99.99999%の固
体ソースを原子状にし、また原子状のOをつくるため前述のラジカルセル3aにより活性化
して使用する。なお、Ca、Oや最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素は分子ガスにマイクロ
波領域の電磁波を照射することにより原子状にすることもできる。
【0027】
そして、CaOを成長させながら、n型ドーパントのSc、Y、F、Cl、Ba、Iなどを流量1.53×1
0-5Paで、さらにp型ドーパントである原子状p型ドーパントのLi、Na、K、Rb、Cs、Fr、N
、P、As、Sb、Biなどを6.40×10-5Paで、また、B、C、N、O、又はFなどの原子状の不完全
な2p電子殻を持つ元素を1.53×10-5Paで、同時に基板5上に流しながら、基板温度250~
750℃でCaO薄膜6を成長することにより、成膜時に、最外殻に不完全なp電子殻を持つ元
素を添加する。このようにして強磁性状態とスピングラス状態を示す透明強磁性半導体に
ついて原子種を変えることにより所望の磁性状態をデザインに基づいて作製することがで
きる。
【0028】
前述の例では、最外殻に不完全なp電子殻を持った元素を含むアルカリ土類・カルコゲン
化合物の薄膜を成膜する方法として、MBE(分子線エピタキシー)装置を用いたが、MOCVD
(有機金属化学気相成長)装置でも同様に成膜することができる。
【0029】
このようなMBE法やMOCVD法などを用いれば、非平衡状態で成膜することができ、所望の濃
度で最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を高濃度にドーピングすることができる。成膜
の成長法としては、これらの方法に限らず、アルカリ土類・カルコゲン化合物固体、最外
殻に不完全なp電子殻を持つ元素固体をターゲットとし、活性化したドーパントを基板上
に吹きつけながら成膜するレーザ・アブレーション法でも薄膜を成膜することができる。
【0030】
以上の説明では、n型ドーパントやp型ドーパントをドーピングする例で説明しているが、
後述の図2、図3に示す例及び後述する表1及び表2に示す例は、いずれのドーパントも
ドーピングしないで、C、又はNを含む最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素のみを固溶さ
せた例である。
【0031】
図2に、CaOに固溶させるC又はNの濃度(不純物濃度at%)を変えたときの強磁性転移温
度(Tc(K))の変化を示す。図3に、B、C、又はNをCaOに固溶させたときのB、C、又
はNの濃度(不純物濃度at%)と反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の
全エネルギーとの差ΔE(meV)を示す。正の値は強磁性状態が安定であることを示し、負
の値は、反強磁性スピングラス状態が安定であることを示している。図3に示されるCaO
における反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の全エネルギーとの差Δ
Eから、最外殻に不完全なp電子殻を持つ物質のみを単独で固溶させるだけで強磁性を示す
ことが分かる。
【0032】
このようにして、C、又はNを固溶させたCaO薄膜は、図3に示されるように、C、又はNが
5at%固溶された時に、反強磁性スピングラス状態エネルギーと強磁性状態における不完
全なp電子殻を持つ元素あたりのエネルギーの差ΔEがそれぞれ0.2521×13.6meV、0.1720
×13.6meV大きく、安定な強磁性を示していることが分かる。
【0033】
図4に、CaOのO に対してCを5at%固溶した場合のCの電子状態密度を示す。横軸にフェル
ミエネルギーに対するエネルギーを、縦軸に状態密度(状態数/cell eV)を示している。
同様に、図5に、CaOのO に対してNを5at%固溶した場合のNの電子状態密度を示す。同
様に、図6に、CaOのO に対してSiを3at%固溶した場合のSiの電子状態密度を示す。い
ずれも、ハーフメタリック(上向きスピンがメタルで下向きスピンは半導体)状態を示し
ている。固溶濃度としては、数at%でも強磁性を示し、また、多くしても結晶性及び透明
性を害することがなく、好ましくは1at%~25at%であれば、充分な強磁性を得やすい。
それ以上多くの濃度の最外殻に不完全なp電子殻を持つ少なくとも1種の元素を固溶させ
ることも可能であるが、固溶限を超えると、化合物のもともとの結晶性が失われることが
あり、好ましくない。この最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素は1種類である必要はな
く、後述するように2種類以上を固溶することができる。
【0034】
この例では、CaO化合物に最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を固溶させたが、CaOの代
わりにBeO、BeS、BeSe、BeTe、MgO、MgS、MgSe、MgTe、CaO、CaS、CaSe、CaTe、SrO、SrS
、SrSe、SrTe、BaO、BaS、BaSe、BaTe、RaO、RaS、RaSe、RaTe(以下CaO系化合物とよぶ
)などの化合物では、バンドギャップの大きさが制御でき、透過する光の波長を変化させ
ることができる。これらは最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を固溶させたCaOと同じよ
うに完全スピン分極(ハーフメタル)透明強磁性半導体となり単結晶が得られる。
【0035】
ハーフメタル状態とは、図4~6に示したように、フェルミ準位において一方のスピン状
態だけに電子状態が存在し、逆向きスピンを持つ状態はバンドギャップが開きフェルミ準
位における状態が存在する事ができず、従って電子は100%スピン分極したものが物質の
中を遍歴するため、他の物質へのスピン注入や絶縁体を本物質でサンドイッチする事によ
り完全スピン分極を利用した磁気メモリや演算装置に関するデバイスを開発するときには
不可欠の材料となることができる。
【0036】
本発明の方法で得られる完全スピン分極ハーフメタル透明強磁性CaO系化合物によれば、O
最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素で混晶が形成されているため、O2-が最外殻に不完全
なp電子殻を持つB2-、C2-、N2-などと置換されて、岩塩構造を維持する。しかも、B、C、
又はNなどの最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素は、電子やホールが大きなバンドギャッ
プ中にできた不純物バンドを遍歴する電子構造になっており、図3に示されるように、ホ
ールや電子をドープすることなく、最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素をドープした状
態のままで強磁性状態が安定化する。
【0037】
しかも、このハーフメタル透明強磁性CaO系化合物は、後述する表1及び表2にも示され
るように、その磁気モーメントが大きく、Cで1.30×9.274J/T(1.30μB(ボーア磁子)
)Nで0.631×9.274J/T(0.631μB)の磁気モーメントを持ち、強く、しかも、完全スピ
ン分極した透明強磁性磁石が得られる。
【0038】
n型ドーパント又はp型ドーパントをドープすると、ホール又は電子の量を変化させること
ができ、その強磁性状態を変化させることができる。この場合、n型ドーパント又はp型ド
ーパントにより導入された電子やホールは、CaOのバンドギャップ中に形成される最外殻
に不完全なp電子殻を持つ元素のp軌道とCaOのp軌道の強く混成した不純物バンドに入り
、その強磁性状態を変化させ、強磁性転移温度にも変化を与える。例えば、n型ドーパン
トをドープすることにより、電子を供給したことになる。
【0039】
例えば、n型ドーパント又はp型ドーパント(ホールをドープする)のドーピングによる反
強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の全エネルギー差であるΔEの変化
が顕著であるC、Nの場合を例にして、図7に、p型及びn型ドーパントをドープしたときの
ホール濃度(%)及び電子濃度(%)とキュリー温度(K)の関係を示す。
【0040】
このように大量のホールの導入により強磁性が不安定化、一方、n型ドーパントにより電
子をドープすると強磁性が消失するので、その強磁性特性を調整することができる。一方
、Bなどの最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を固溶した物質はスピングラス状態を示す
が、C、Nとは逆にホールをドープすることによって強磁性状態を安定化して強磁性転移温
度が上昇し、強磁性状態にさせることができ、強磁性転移温度をホール濃度、すなわちp
型ドーパントの濃度を変えることによって調整できる。
【0041】
n型ドーパントとしては、Sc、Y、F、Cl、Ba、Iを使用することができ、ドーピングの原料
としては、これらのカルコゲン化合物を使用することもできる。また、ドナー濃度として
は、1×1018cm-3以上であることが好ましい。例えば1020~1021cm-3 程度にドープすれば
、前述の固溶濃度の1~10at%程度に相当する。また、p型ドーパントとしては、前述のよ
うにLi、Na、K、Rb、Cs、Fr、N、P、As、Sb、Biを用いることができる。この場合、p型ド
ーパントはドーピングしにくいが、n型ドーパントを同時に僅かにドーピングすることに
より、p型濃度を大きくすることができる。
【0042】
以上、CaOを例として説明したが、CaO以外のCaO系化合物を利用した例として、図8ない
し図11に、アルカリ土類・カルコゲン化合物のMgO、SrO又はBaOに、最外殻に不完全なp
電子殻を持つ元素であるCを固溶させた場合を示す。図8は、MgO、SrO又はBaOに固溶させ
るCの濃度を変えたときの強磁性転移温度(TC(K))の変化を示す。図9に、MgOにCを5at
%固溶させたときの電子状態密度を示す。図10に、SrOにCを5at%固溶させたときの電
子状態密度を示す。図11に、BaOにCを5at%固溶させたときの電子状態密度を示す。図
9~図11において、横軸にフェルミエネルギーに対するエネルギーを、縦軸に状態密度
(状態数/cell eV)を示している。ハーフメタリック(上向きスピンがメタルで下向きス
ピンは半導体)状態を示している。高い強磁性転移温度を実現するためには、MgOについ
てはC濃度を0.5at%以上6at%以下、SrO及びBaOについてはC濃度を5at%以上25at%以下
とするのが望ましい。
【0043】
以上、アルカリ土類・カルコゲン化合物を例として説明したが、図12に、Si,Geなどの
最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素であるSi,Geをアルカリ・カルコゲン化合物のK2Sに
固溶させたときの不純物濃度(at%)と反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性
状態の全エネルギーとのエネルギー差△E(meV)の関係を示す。正の値は強磁性状態が安定
であることを示し、負の値は、反強磁性スピングラス状態が安定であることを示している

【0044】
図13に、K2S に固溶させるSi、Geの濃度を変えたときの強磁性転移温度(キュリー温度(
K))の変化を示す。図14に、K2SにSiを10at%固溶させたものに、さらにn型及びp型のド
ーパントを添加したときのホール濃度(%)及び電子濃度(%)と強磁性転移温度(キュ
リー温度(K))の関係を示す。図15に、K2SにSiを10at%固溶させたときの電子状態密度
を示す。横軸にフェルミエネルギーに対するエネルギーを、縦軸に状態密度(状態数/cel
l eV)を示している。ハーフメタリック(上向きスピンがメタルで下向きスピンは半導体
)状態を示している。高い強磁性転移温度を実現するためには、SiおよびGeの濃度を5at
%以上25at%以下とするのが望ましい。
【0045】
以上のように、本発明によれば固溶される最外殻に不完全なp電子殻を持った元素自身な
どにより導入されたホール又は電子の運動エネルギーによって、強磁性状態の全エネルギ
ーを変化させることができ、その全エネルギーを低下させるように導入するホール又は電
子を調整しているため、強磁性状態を安定化させることができる。また、導入されるホー
ル又は電子によって原子間の磁気的相互作用の大きさ及び符号が大きく変化し、そのホー
ル又は電子によってこれらを制御することにより、強磁性状態を安定化させたり、逆に不
安定化させたりして強磁性を消失させ反強磁性スピングラス状態にすることができる。
【実施例】
【0046】
最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素の濃度を変えることによる磁気特性の変化を調べた
。前述の5at%濃度の最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を含有させたものの他に濃度が2
0at%のものを作製し、それぞれの磁気モーメント(×9.274J/T)及び強磁性転移温度(
度K)を調べた。磁気モーメント及び強磁性転移温度はSQUID(superconducting quantum i
nterference device ; 超伝導量子干渉素子)による帯磁率の測定から得られたものであ
る。その結果が表1及び表2に示されている。
【0047】
【表1】
JP0004708334B2_000002t.gif

【0048】
【表2】
JP0004708334B2_000003t.gif

【0049】
前述のように、最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素は、高スピン状態となり、この表1
及び2、ならびに図2からも明らかなように、その濃度を変化させることにより、強磁性
的なスピン間相互作用と強磁性転移温度を調整し、制御することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の方法で得られる透明強磁性単結晶化合物は、すでに実現しているn型及びp型の透
明電極として使用されているZnOや透明伝導酸化物(TCO)、光ファイバと組み合わせるこ
とにより、量子コンピュータや大容量光磁気記録、また、可視光から紫外領域に亘る光エ
レクトロニクス材料として、高性能な情報通信、量子コンピュータへの応用が可能となる

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の完全スピン分極透明強磁性単結晶薄膜を形成する装置の一例を示す模式図である。
【図2】CaOに固溶させるC又はNの濃度を変えたときの強磁性転移温度(Tc(K))の変化を示す図である。
【図3】B、C、又はNをCaOに固溶させたときの反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の全エネルギーとのエネルギー差△E(meV)を示す図である。
【図4】CaO中のCの電子状態密度を示す図である。
【図5】CaO中のNの電子状態密度を示す図である。
【図6】CaO中のSiの電子状態密度を示す図である。
【図7】CaOに対して、Cを固溶させ、さらにn型及びp型のドーパントを添加したときの強磁性転移温度(キュリー温度(K))の変化を示す説明図である。
【図8】MgO、SrO又はBaOに固溶させるCの濃度を変えたときの強磁性転移温度(Tc(k))の変化を示す図である。
【図9】MgOにCを5at%固溶させたときの電子状態密度(状態数/cell eV)を示す図である。
【図10】SrOにCを5at%固溶させたときの電子状態密度(状態数/cell eV)を示す図である。
【図11】BaOにCを5at%固溶させたときの電子状態密度(状態数/cell eV)を示す図である。
【図12】Si、GeをK2Sに固溶させたときの反強磁性スピングラス状態の全エネルギーと強磁性状態の全エネルギーとのエネルギー差ΔE(meV)を示す図である。
【図13】K2Sに固溶させるSi、Geの濃度を変えたときの強磁性転移温度(キュリー温度(k))の変化を示す図である。
【図14】K2SにSiを10at%固溶させたものにさらにn型及びp型のドーパントを添加したときの強磁性転移温度(キュリー温度(K))の変化を示す説明図である。
【図15】K2SにSiを10at%固溶させたときの電子状態密度(状態数/celleV)を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 チャンバー
2a,2b,2c,2d,3a セル
4 基板ホルダー
5 基板
6 最外殻に不完全なp電子殻を持つ元素を固溶させたCaO薄膜
7 ヒータ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
13
【図15】
14