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明細書 :導電性ポリアニリン組成物、その製造方法およびポリアニリンドーパント

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4785732号 (P4785732)
登録日 平成23年7月22日(2011.7.22)
発行日 平成23年10月5日(2011.10.5)
発明の名称または考案の名称 導電性ポリアニリン組成物、その製造方法およびポリアニリンドーパント
国際特許分類 C08L  79/00        (2006.01)
C08L  97/00        (2006.01)
C08H   7/00        (2011.01)
C08L   1/00        (2006.01)
H01B   1/12        (2006.01)
H01B   1/20        (2006.01)
C09J   9/02        (2006.01)
C09J 179/02        (2006.01)
C09J 197/00        (2006.01)
C09J 201/00        (2006.01)
FI C08L 79/00 A
C08L 97/00
C08H 7/00
C08L 1/00
H01B 1/12 G
H01B 1/20 D
C09J 9/02
C09J 179/02
C09J 197/00
C09J 201/00
請求項の数または発明の数 28
全頁数 26
出願番号 特願2006-510831 (P2006-510831)
出願日 平成17年3月10日(2005.3.10)
国際出願番号 PCT/JP2005/004706
国際公開番号 WO2005/085355
国際公開日 平成17年9月15日(2005.9.15)
優先権出願番号 2004068000
2004067999
優先日 平成16年3月10日(2004.3.10)
平成16年3月10日(2004.3.10)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成19年4月27日(2007.4.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】舩岡 正光
【氏名】青柳 充
【氏名】村雲 功
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
審査官 【審査官】大久保 智之
参考文献・文献 特表2006-517717(JP,A)
国際公開第99/14223(WO,A1)
調査した分野 C08L 1/00-101/16
C08G 73/00-26
WPI(DIALOG)
JSTPlus(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
導電性ポリアニリン組成物であって、
ポリアニリンと、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体であってフェノール性水酸基を有するアシル誘導体
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体であってフェノール性水酸基を有するカルボニル誘導体
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットの一部と、(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットを有する中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体であってフェノール性水酸基を有するクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体であってフェノール性水酸基を有する架橋性誘導体
を含有する組成物。
【請求項2】
前記リグニン誘導体は(a)のリグニン誘導体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リグニン誘導体のフェノール性水酸基量は、0.5mol/炭素9個単位以上2.0mol/炭素9個単位以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リグニン誘導体は、重量平均分子量が500以上20000以下である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記リグニン誘導体における前記フェノール化合物は、o-クレゾール及び/又はp-クレゾールである、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記リグニン誘導体は、リグニン含有材料を前記フェノール化合物で溶媒和した後、酸を添加して得られる誘導体である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリアニリン100重量部に対して前記リグニン誘導体を100重量部以上2000重量部以下含む、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の導電性ポリアニリン組成物を含む樹脂成形体。
【請求項9】
前記樹脂成形体はフィルム状体である、請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の導電性ポリアニリン組成物を備える導電性接着剤。
【請求項11】
導電性ポリアニリン組成物の製造方法であって、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体であってフェノール性水酸基を有するアシル誘導体
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体であってフェノール性水酸基を有するカルボニル誘導体
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットの一部と、(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットを有する中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体であってフェノール性水酸基を有するクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体であってフェノール性水酸基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体を用いてポリアニリンをドープするドーピング工程と、
ドープされた前記ポリアニリンを含有する画分を採取する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記ドーピング工程は、前記リグニン誘導体とポリアニリンとを溶媒中で混合する工程である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記採取工程は、ドープされたポリアニリンを含有する溶液画分または分散液画分を採取する工程である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記採取工程は、ドープされたポリアニリンを含有する凝集画分を採取する工程である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれかに記載の製造方法により得られる導電性ポリアニリン組成物。
【請求項16】
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体であってフェノール性水酸基を有するアシル誘導体
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体であってフェノール性水酸基を有するカルボニル誘導体
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットの一部と、(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットを有する中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体であってフェノール性水酸基を有するクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体であってフェノール性水酸基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体を含むポリアニリンドーパント。
【請求項17】
導電性複合材料であって、
ポリアニリンと、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体であってフェノール性水酸基を有するアシル誘導体
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体であってフェノール性水酸基を有するカルボニル誘導体
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットの一部と、(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットを有する中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体であってフェノール性水酸基を有するクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体であってフェノール性水酸基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体と、
セルロース系材料と、
を含有する、複合材料。
【請求項18】
前記セルロース系材料がセルロース系繊維、その集合体、その交絡体およびその緻密体のいずれかである、請求項17に記載の複合材料。
【請求項19】
前記セルロース系材料がシート状あるいは三次元形状を有する成形体である、請求項17又は18に記載の複合材料。
【請求項20】
導電性複合材料の製造方法であって、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体であってフェノール性水酸基を有するアシル誘導体
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体であってフェノール性水酸基を有するカルボニル誘導体
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットの一部と、(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニットを有する中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体であってフェノール性水酸基を有するクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体であってフェノール性水酸基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体によってドープされたポリアニリンをセルロース系材料に供給し該セルロース系材料に保持させる複合化工程を備える、製造方法。
【請求項21】
前記複合化工程においては、前記ドープされたポリアニリンの溶液、分散液およびペーストのいずれかを前記セルロース系材料に供給する、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
前記複合化工程においては、前記ドープされたポリアニリンの粉末を前記セルロース系材料に供給する、請求項20に記載の製造方法。
【請求項23】
前記複合化工程においては、前記ドープされたポリアニリンのフィルムを前記セルロース系材料に供給する、請求項20に記載の製造方法。
【請求項24】
前記複合化工程に先立って、前記リグニン誘導体と前記ポリアニリンとを溶媒中で混合するドーピング工程を備え、前記複合化工程においては、ドープされたポリアニリンを含む画分を前記セルロース系材料に供給する、請求項20に記載の製造方法。
【請求項25】
前記ドーピング工程における混合液の不溶画分に含まれるドープされたポリアニリンを前記セルロース系材料に供給する、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記ドーピング工程における混合液の不溶画分および溶液画分に含まれるドープされたポリアニリンを前記セルロース系材料に供給する、請求項24に記載の製造方法。
【請求項27】
前記セルロース系材料は、セルロース系繊維、その集合体およびその交絡体のいずれかである、請求項20~26のいずれかに記載の製造方法。
【請求項28】
前記複合化工程において前記ドープされたポリアニリンを前記セルロース系材料に保持させるには、前記ドープされたポリアニリンに伴われた溶媒を留去するかあるいは前記ドープされたポリアニリンにおけるポリアニリンあるいは前記リグニン誘導体のいずれかが軟化する程度に加熱する、請求項20~27のいずれかに記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】

本発明は、リグニンから誘導されたリグニン誘導体をドーパントとする導電性ポリアニリン組成物、その製造方法及びポリアニリンドーパントに関する。
【背景技術】

ポリアニリンは、ドープされたときの導電特性が良好であることに加え、安価なアニリンポリマーから簡易にかつ高い収率で得られること、化学的に安定であるため、多様な分野で研究されるとともに応用展開が試みられている。ポリアニリンが導電性を発現するには、図2に示すように、一般に、非導電性塩基形態のポリアニリンがドーパントによってプロトネーションを受ける必要がある。しかしながら、非導電性塩基形態のポリアニリンは、一般にp共役系が発達しているため、ほとんどの有機溶剤及び水に不溶であるため、プロトネーション自体が困難であった。
ポリアニリンのドーパントとしては、一般的に、プロトネーションを効率的に行なうため、硫酸イオンのほか(例えば、特開平2-233701号公報)、塩酸イオン、硝酸イオン及びリン酸イオン等の強酸アニオンが用いられている。また、有機系ドーパントも知られている(特許文献2)。対イオンとして用いている。これに対して、森林炭素資源であるリグニン由来のドーパントとしては、工業的リグニンとして一般的なスルホン化リグニンを利用することが開示されている(例えば、European Polymer Journal37(2001)2217-2223、European Polymer Journal 38(2002)2213-2217)
【図面の簡単な説明】

図1は、リグニンからのリグノフェノール誘導体の生成過程を示す図である。
図2は、ポリアニリンの絶縁状態と導電性発現状態とにおける構造を示す図である。
【発明の開示】

しかしながら、上記した対イオンの構成元素は、生物学的に環境負荷が高く、有機系のドーパントは再生不可能な石油資源由来物質である。さらに、スルホン化リグニンは、イオンを有しているとともに、溶媒に難溶あるいは不溶であった。
そこで、本発明は、環境負荷が小さく加工性に優れる導電性ポリアニリンを得ることのできるポリアニリンドーパントを提供することを一つの目的とする。また、本発明は、環境負荷が小さく加工性に優れる導電性ポリアニリン組成物及びその製造方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、導電性に優れる導電性複合材料及びその製造方法を提供することを他の一つの目的とする。
本発明者らは、リグニンからフェノール化合物によって誘導されるリグニンのフェノール誘導体の溶液にポリアニリンを混合したところ、ポリアニリンがドーピングされ導電性を示すという知見を得た。また、本発明者らは、リグニンからフェノール化合物によって誘導されるリグニンのフェノール誘導体の溶液にポリアニリンを混合したところ、ポリアニリンがドーピングされ導電性を示すという知見を得た。さらに、リグニンのフェノール誘導体とポリアニリンとの混合物にセルロース系材料を複合化することで優れた複合材料が得られるという知見を得た。本発明によれば、これらの知見に基づいて以下の手段が提供される。
本発明によれば、これらの知見に基づいて以下の手段が提供される。
本発明によれば、導電性ポリアニリン組成物であって、
ポリアニリンと、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体、
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニット中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体と、
を含有する組成物が提供される。
この組成物においては、前記リグニン誘導体は、前記(a)のリグニン誘導体であることが好ましい。また、これらの組成物における前記リグニン誘導体のフェノール性水酸基量は、0.5mol/炭素9個単位以上2.0mol/炭素9個単位以下であることが好ましい形態である。さらに、前記リグニン誘導体は、重量平均分子量が500以上20000以下であることが好ましい形態である。
また、上記したいずれかのリグニン誘導体における前記フェノール化合物は、o-クレゾール及び/又はp-クレゾールであることが好ましく、前記(a)のリグニン誘導体は、リグニン含有材料を前記フェノール化合物で溶媒和した後、酸を添加して得られる化合物であることが好ましい。
上記いずれかの組成物においては、ポリアニリン100重量部に対して前記リグニン誘導体を100重量部以上2000重量部以下含むことが好ましい形態である。
また、本発明によれば、上記いずれかの導電性ポリアニリン組成物を含む樹脂成形体が提供される。この成形体はフィルム状体であることが好ましい形態である。さらに、本発明によれば、上記いずれかの導電性ポリアニリン組成物を含む導電性接着剤が提供される。
本発明によれば、導電性ポリアニリン組成物の製造方法であって、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体、
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体、
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニット中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体を用いてポリアニリンをドープするドーピング工程と、
ドープされたポリアニリンを含有する画分を採取する工程と、
を備える、製造方法が提供される。
この製造方法においては、前記ドーピング工程は、前記リグニン誘導体とポリアニリンとを溶媒中で混合する工程であることが好ましい形態である。また、前記採取工程は、ドープされたポリアニリンを含有する溶液画分または分散液画分を採取する工程であることが好ましい形態であり、ドープされたポリアニリンを含有する凝集画分を採取する工程であることも好ましい形態である。本発明によれば、また、これらのいずれかの製造方法により得られる導電性ポリアニリン組成物も提供される。
本発明によれば、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体、
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体、
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニット中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体を含むポリアニリンドーパントが提供される。
本発明によれば、導電性複合材料であって、
ポリアニリンと、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体、
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体、
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニット中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体と、
セルロース系材料と、
を含有する、複合材料が提供される。
この複合材料においては、前記リグニン誘導体は(a)のリグニン誘導体であることが好ましい形態である。これらの複合材料においては、前記リグニン誘導体のフェノール性水酸基量は、0.5mol/炭素9個単位以上2.0mol/炭素9個単位以下であることも好ましい。さらに、これらのいずれかの複合材料において、前記リグニン誘導体は、重量平均分子量が500以上20000以下であることが好ましい形態である。さらに、これらのいずれかの複合材料において、前記リグニン誘導体における前記フェノール化合物は、o-クレゾール及び/又はp-クレゾールであることが好ましい形態である。これらのいずれかの複合材料においては、前記リグニン誘導体は、リグニン含有材料を前記フェノール化合物で溶媒和した後、酸を添加して得られる誘導体であることが好ましい。
また、これらのいずれかの複合材料において、前記セルロース系材料がセルロース系繊維、その集合体、その交絡体およびその緻密体のいずれかであることが好ましい形態であり、また、前記セルロース系材料がシート状あるいは三次元形状を有する成形体であることも好ましい形態である。
また、本発明によれば、導電性複合材料の製造方法であって、
以下の(a)~(e)のリグニン誘導体;
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノール誘導体、
(b)(a)のリグニン誘導体にアシル基を有するアシル誘導体、
(c)(a)のリグニン誘導体にカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有するカルボニル誘導体、
(d)(a)のリグニン誘導体の前記1,1-ビスアリールプロパンユニット中の導入フェノール化合物をクマラン化してなるクマラン誘導体、および
(e)(a)のリグニン誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する架橋性誘導体
からなる群から選択される1種あるいは2種以上のリグニン誘導体によってドープされたポリアニリンをセルロース系材料に供給し該セルロース系材料に保持させる複合化工程を備える、製造方法が提供される。
この製造方法において、前記複合化工程においては、前記ドープされたポリアニリンの溶液、分散液およびペーストのいずれかを前記セルロース系材料に供給することが好ましい形態であり、前記ドープされたポリアニリンの粉末を前記セルロース系材料に供給することが好ましい形態であり、また、前記ドープされたポリアニリンのフィルムを前記セルロース系材料に供給することが好ましい形態である。
また、上記製造方法において、前記複合化工程に先立って、前記リグニン誘導体と前記ポリアニリンとを溶媒中で混合するドーピング工程を備え、前記複合化工程においては、ドープされたポリアニリンを含む画分を前記セルロース系材料に供給することが好ましい形態であり、前記ドーピング工程における混合液の不溶画分に含まれるドープされたポリアニリンを前記セルロース系材料に供給することが好ましい形態であり、前記ドーピング工程における混合液の不溶画分および溶液画分に含まれるドープされたポリアニリンを前記セルロース系材料に供給することが好ましい形態である。
上記いずれかの製造方法において、前記セルロース系材料は、セルロース系繊維、その集合体およびその交絡体のいずれかであることが好ましい。また、上記いずれかの製造方法において、前記複合化工程において前記ドープされたポリアニリンを前記セルロース系材料に保持させるには、前記ドープされたポリアニリンに伴われた溶媒を留去するかあるいは前記ドープされたポリアニリンにおけるポリアニリンあるいは前記リグニン誘導体のいずれかが軟化する程度に加熱することが好ましい形態である。
【発明を実施するための最良の形態】

本発明のポリアニリンドーパントは、リグニン誘導体であって、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位及び/又はパラ位の炭素原子が結合した1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグニンのフェノールの誘導体(以下、リグノフェノール誘導体ともいう。)であり、さらに、このリグノフェノール誘導体のアシル誘導体、カルボニル誘導体、クマラン誘導体、および架橋性誘導体である。本発明のポリアニリン導電性組成物は、このリグニン誘導体ドーパントとポリアニリンとを含有している。本発明におけるリグニン誘導体は、酸性を有する主たる官能基としてフェノール性水酸基を有し、他にアルコール性水酸基及びメトキシル基などを有しているに過ぎず、スルホン酸基のような強酸官能基を有しておらず、また、カルボン酸基のような酸性度の高い官能基を主体としているわけではない。このような組成にかかわらずポリアニリンをドーピングすることができることは当業者の予測を超えたものである。現在までこのようなポリアニリンドーパントは見出されていない。本発明を理論的に拘束することを意図するものではないが、本発明者らによれば、リグノフェノール誘導体は、芳香族環に富み、これらの芳香族環によって酸性度が向上されたフェノール性水酸基によるポリアニリンとの相互作用がポリアニリンのドーピングに寄与しているものと推論している。
本発明によれば、1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグノフェノール誘導体あるいはその誘導体をポリアニリンドーパントとして用いることで、再生型ないし資源循環型の有機系ドーパントが提供されることになる。また、リグニン誘導体ドーパントは、単量体の繰り返し構造を有しており、プラスチック様の特性を有しているため、導電性ポリアニリンに有用な加工性を付与する。また、リグニン誘導体ドーパントは、ポリアニリンをドーピングするものであると同時に、その本来的な特性によりバインダ、成形材料、光電化学反応材料として機能する。これにより、導電性ポリアニリン組成物に幅広い適用可能性を付与することができる。
また、本発明の複合材料では、1,1-ビスアリールプロパンユニットを有するリグノフェノール誘導体あるいはその誘導体をドーパントとして用いたポリアニリンと、さらに再生型ないし資源循環型のセルロース系材料と複合化されているため、再生型ないし資源循環型の複合材料が提供されることになる。リグニン誘導体ドーパントは、単量体の繰り返し構造を有しており、プラスチック様の特性を有しているため、本発明によれば、加工性に優れる複合材料が提供されることになる。また、セルロース系材料は、可撓性に富むシート状体から強固な積層体、成形体など形状の形態自由度が高い材料であるため、本複合材料によれば、形態自由度の高い複合材料が提供されることになる。さらにまた、本発明によれば、リグニン誘導体によってドープされたポリアニリンはリグニン誘導体とともに強くセルロース系材料に結合するため、一体性に優れ、脱ドープしにくい複合材料が提供されることになる。
以下、本発明のポリアニリンドーパントについて説明するとともに、導電性ポリアニリン組成物およびその製造方法について説明する。
(ドーパント)
本発明のポリアニリンドーパントは、リグノフェノール誘導体およびその二次誘導体である。まず、リグノフェノール誘導体について説明する。リグノフェノール誘導体は、リグニンからフェノール化合物によって誘導される誘導体であって、以下の(a)及び(b)のユニットの双方あるいはいずれかを有する化合物である。
(a)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してオルト位の炭素原子が結合した第1の1,1-ビスアリールプロパンユニット(第1のユニット)
(b)リグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子にフェノール化合物のフェノール性水酸基に対してパラ位の炭素原子が結合した第2の1,1-ビスアリールプロパンユニット
リグノフェノール誘導体は、この他、フェノール化合物が導入されていないアリールプロパンユニットも備えることができる。一方、リグノフェノール誘導体は、酸性基としては水酸基を有するが、スルホン酸基を備えるものではない。同様に、リグノフェノール誘導体から誘導される二次誘導体についてもスルホン酸基を備えていない。したがって、本発明におけるリグニン誘導体は、この点においてスルホン化リグニンとは全く異なる。
図1に、一般的なリグノセルロース系材料から誘導されたリグノフェノール誘導体において形成される構造を示す。以下、リグノフェノール誘導体を得るのに好ましい製造プロセスについて説明し、次いで、化学的物理的特性について説明する。
リグノフェノール誘導体は、通常、所定のフェノール化合物により親和(溶媒和)されたリグニン含有材料、好ましくはリグノセルロース系材料を酸に接触させることにより得ることができる。なお、リグノフェノール誘導体に関するより一般的な記載及びその製造プロセスについては、既に、特開平2-23701号公報、特開平9-278904号公報及び国際公開WO99/14223号公報、2001-64494号公報、2001-261839号公報、2001-131201号公報、2001-34233号公報において記載されている(これらの特許文献に記載の内容は全て引用により本明細書中に取り込まれるものである。)。
リグノフェノール誘導体の製造プロセスは、リグノセルロース系材料を予めフェノール化合物で溶媒和、あるいはフェノール化合物をリグノセルロース系材料に収着させた上で、フェノール化合物で溶媒和されたリグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグノセルロースの複合状態を緩和させ、同時に、天然リグニンのアリールプロパンユニットのC1位(ベンジル位)に選択的に前記フェノール化合物をグラフティングさせて、リグノフェノール誘導体を生成させ、同時にリグノセルロース系材料をセルロースとリグノフェノール誘導体とに分離できる方法でもある。リグノフェノール誘導体は、それ自体、リグノセルロース系材料などのリグニン含有材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物であり、天然のあるいは天然由来の(天然のリグニンに加工を施したもの)リグニン含有材料から取得される場合には、得られるポリマーにおける導入フェノール化合物の分子量やフェノール化合物の導入量は、反応条件のほか原料となるリグニンの種類等によっても変動する。
(リグノセルロース系材料)
本発明で用いる「リグノセルロース系材料」とは、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用するこができる。さらに、各種草本植物、それに関連する農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。なお、リグノセルロース系材料に対するリグノフェノール誘導体の製造プロセスは、リグニン含有材料一般に適用することができる。
(フェノール化合物)
フェノール化合物としては、1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物、または3価のフェノール化合物などを用いることができる。
1価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。2価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。3価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物及び3価のフェノール化合物のうち、1種あるいは2種以上を用いることができるが、好ましくは1価のフェノールを用いる。1価から3価のフェノール化合物が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1~4、好ましくは炭素数が1~3の低級アルキル基含有置換基である。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
これらのフェノール化合物が、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子においてリグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素に結合することにより、1,1-ビス(アリール)プロパンユニットが形成されることになる。したがって、少なくとも1つの導入サイトを確保するには、オルト位及びパラ位のうち、少なくともひとつの位置に置換基を有していないことが好ましい。フェノール化合物のフェノール性水酸基のオルト位炭素原子が前記C1位に結合して形成されたユニットをオルト位結合ユニットといい、フェノール化合物のフェノール性水酸基のパラ位炭素原子が前記C1位に結合して形成されたユニットをパラ位結合ユニットという。
以上のことから、本発明では、無置換フェノール誘導体の他、少なくとも一つの無置換のオルト位あるいはパラ位を有する各種置換形態のフェノール誘導体の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。オルト位結合ユニットとパラ位結合ユニットとは、例えば、後述するアルカリ処理工程において異なる機能を発現する。オルト位結合ユニットは、緩和なアルカリ処理により導入されたフェノール化合物におけるフェノール性水酸基を消失させるとともにアリールクマラン構造を当該ユニットにおいて生成し、強いアルカリ処理によりアリール基移動に伴って分子形態が変動する。いずれにおいても、オルト位結合ユニットは、アルカリ処理による効率的なリグノフェノール誘導体の低分子化に寄与する。
一方、パラ位結合ユニットは、アルカリ処理によりリグニン誘導体におけるアリールクマラン構造やその後の分子形態変動を生じず、当該ユニット部位における低分子化には寄与しない。したがって、アルカリ処理耐性を付与する機能を有するといえる。また、リグノフェノール誘導体において、使用するフェノール化合物の種類を選択することにより、得られるリグノフェノール誘導体への後段の二次誘導体化工程での架橋性官能基の導入頻度を調節し、結果として架橋性体(プレポリマー)の架橋反応性を制御することができる。
後述するが、架橋性基の導入部位は、フェノール性水酸基に対してオルト及びパラ位である。また、導入フェノール化合物のリグニンのフェニルプロパン単位への導入サイトもフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位である。したがって、導入フェノール化合物における、フェノール性水酸基に対するオルト位及びパラ位(最大3サイト)への置換基の導入態様により、導入フェノール化合物への架橋性官能基の導入サイトや導入量を制御し、ひいてはリグニン母体側への導入量も制御できる
このように、反応性の異なる架橋性基導入部位を有するフェノール化合物や、導入部位数がないか、あるいは異なるフェノール化合物を1種あるいは2種以上組み合わせてリグニンに導入することにより、後で架橋性基の導入時に、架橋性基の導入部位や数を制御することができ、結果として、架橋性体を架橋して得られる架橋体の架橋密度も制御することができる。
また、第1のユニットを有するリグノフェノール誘導体を得るには、少なくとも一つのオルト位(好ましくは全てのオルト位)に置換基を有していないフェノール化合物を用いる。また、少なくとも一つのオルト位(2位あるいは6位)が置換基を有さず、パラ位(4位)に置換基を有するフェノール化合物(典型的には、2,4位置換1価フェノール誘導体)が好ましい。最も好ましくは、全てのオルト位が置換基を有さず、パラ位に置換基を有するフェノール化合物(典型的には、4位置換1価フェノール化合物)である。したがって、4位置換フェノール化合物及び2,4位置換フェノール化合物を1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
第2のユニットを有するリグノフェノール誘導体を得るには、パラ位に置換基を有していないフェノール化合物(典型的には、2位(あるいは6位)置換1価フェノール化合物)が好ましく、より好ましくは、同時に、オルト位(好ましくは、全てのオルト位)に置換基を有するフェノール化合物(典型的には2,6位置換1価フェノール化合物)を用いる。すなわち、2位(あるいは6位)置換フェノール化合物及び2、6位置換フェノールのうち1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
フェノール誘導体の好ましい具体例としては、o-クレゾール、p-クレゾール、2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2-メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。p-クレゾールを用いることにより、高い導入効率を得ることができる。
なお、本プロセスにおいて使用するフェノール化合物の種類を選択することにより、得られるリグノフェノール誘導体の特性を制御でき、ひいては、これをドーパントとして用いた導電性ポリアニリン組成物の特性を制御することができる。例えば、フェノール化合物の種類を選択することにより、フェノール化合物の導入量、水酸基当量などを調整することができる。これらを調整することで、本組成物を適当な架橋剤を用いて硬化させたときの架橋部位は水酸基部位であるため、架橋性部位、架橋密度等が調整することができる。また、フェノール性水酸基の量や位置によりリグノフェノール誘導体の架橋性体を用いて架橋させたときの架橋構造が異なるため、フェノール化合物の種類や導入量によって架橋構造等を調整することができる。なお、フェノール化合物の導入頻度は、導入しようとするフェノール化合物の置換基の有無、位置、大きさ等によって変動する。したがって、導入頻度を調節することができる。特に、置換基の大きさによる立体障害によって導入頻度を容易に調節することができる。置換基を利用して導入位置などを制御しようとする場合、置換基として低級アルキル基を利用すると、炭素数や分枝形態によって容易に導入頻度を調節できる。置換基をメチル基とすると、導入頻度を高く維持して導入位置を制御できる。
また、リグノフェノール誘導体において第1のユニットを多数あるいは優勢に含有するようにフェノール化合物の組み合わせを選択することで、最終的に得られる導電性ポリアニリン組成物のリサイクル性を高めることができる。第1のユニットを有するリグノフェノール誘導体は、アルカリを作用させた場合、1,1-ビスアリールプロパンユニットに導入されたフェノール化合物のオルト位の水酸基の存在により、当該ユニットがアリールクマラン様ユニットを形成し当該そのC3位でリグノフェノール誘導体から分離するからである。
リグノフェノール誘導体において第2のユニットを多数あるいは優勢に含有するようにフェノール化合物を選択することで、耐アルカリ性が向上された導電性ポリアニリン組成物を得ることができる。第2のユニットは、アルカリを作用させたときにおいても、クマラン様ユニットを形成せず、当該部位にて隣接する他のユニット等との結合が切断されることはないからである。
(酸)
本プロセスにおいて、リグニン含有材料に添加する酸としては、特に限定しないが、セルロースを膨潤させる作用を有していることが好ましい。例えば、65重量%以上の硫酸(好ましくは、72重量%の硫酸)、85重量%以上のリン酸、38重量%以上の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましい酸は、65重量%以上(より好ましくは72重量%以上)の硫酸、85重量%以上(より好ましくは95重量%以上)のリン酸、トリフルオロ酢酸、又はギ酸である。
リグニン含有材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体に変換し、分離する方法としては以下の3つの方法を挙げることができる。なお、これらの方法に限定されるものではない。
第1の方法は、特開平2-233701号公報に記載されている方法である。この方法は、木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール化合物を浸透させてリグニンをフェノール化合物により溶媒和させ、次に、リグノセルロース系材料に濃酸(上記で説明したもの、例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を溶解する。この方法によると、リグニンを溶媒和したフェノール化合物と、セルロース成分を溶解した濃酸とが2相分離系を形成する。フェノール化合物により溶媒和されたリグニンは、フェノール化合物相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触され、反応が生じる。すなわち、酸との界面接触により生じたリグニン基本構成単位の高反応サイトである側鎖C1位(ベンジル位)のカチオンが、フェノール化合物により攻撃される。その結果、前記C1位にフェノール化合物がC-C結合で導入され、またベンジルアリールエーテル結合が開裂することにより低分子化される。これによりリグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール化合物が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール化合物相に生成される。このフェノール化合物相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。リグノフェノール誘導体は、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が開裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。なお、ベンジル位へのフェノール化合物の導入形態は、そのフェノール性水酸基を介して導入されているものもあることが知られている。
なお、フェノール化合物相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、フェノール化合物相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒留去し、一次誘導体を得る。なお、粗一次誘導体は、アセトン可溶部を単に減圧蒸留により除去することによって得られる。
第2および第3の方法は、リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール化合物を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去する(フェノール化合物の収着工程)。次に、このリグノセルロース系材料に濃酸を添加してセルロース成分を溶解する。この結果、第1の方法と同様、フェノール化合物により溶媒和されたリグニンは、濃酸と接触して生じたリグニンの高反応サイト(側鎖C1位)のカチオンがフェノール化合物により攻撃されて、フェノール化合物が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が開裂してリグニンが低分子化される。得られる一次誘導体の特性は、第1の方法で得られるものと同様である。そして、第1の方法と同様にして、フェノール化合物化されたリグノフェノール誘導体を液体にて抽出する。液体フェノール化合物相からの一次誘導体の抽出も、第1の方法と同様にして行うことができる(これを第2の方法と称する)。あるいは、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、一次誘導体を不溶区分として得る(これを第3の方法と称する)。以上、リグノフェノール誘導体の調製方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で調製することもできる。
本ドーパントに用いるリグノフェノール誘導体およびその二次誘導体についての製法や由来について特に限定はしないで、針葉樹由来であってもよいし、広葉樹由来であってもよいが、針葉樹由来とすることが好ましい場合がある。
このようにして、使用したフェノール化合物のオルト位あるいはパラ位でリグニンのアリールプロパンユニットのC1位に当該フェノール化合物がグラフトされた、第1および/または第2のユニットを有するリグノフェノール誘導体を得ることができる。
リグニン含有材料から得られるリグノフェノール誘導体は、上記したように第1および/または第2のユニットを備えるほか、以下の性質を有することができる。ただし、本発明におけるリグノフェノール誘導体を、以下の性質を有するものに限定する趣旨ではない。
(1)重量平均分子量が約2000~約20000程度である。重量平均分子量は、カラムクロマトグラフィー法によりポリスチレン換算にて測定することができる。
(2)分子内に共役系をほとんど有さずその色調は極めて淡色である。典型的には淡いピンク系白色粉末である。
(3)針葉樹由来で約150℃~180℃、広葉樹由来で約130℃~160℃に固-液相転移点を有する。
(4)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルカリなどに容易に溶解する。リグノフェノール誘導体20gをこれらの有機溶媒1000mlに添加し30分間混合したとき澄明な液体となる。また、リグノフェノール誘導体50gをアルカリ水溶液(1.0N、例えばNaOH)に添加し30分間混合したとき澄明な液体となる。
(5)水酸基価が50以上200以下である。
(6)フェノール導入量が0.5mol/炭素9個単位以上~1.0mol/炭素9個単位以下である
(7)フェノール性水酸基量0.5mol/炭素9個単位以上~2.0mol/炭素9個単位以下である
(8)脂肪族水酸基量0.5mol/炭素9単位以上~1.5mol/炭素9個単位以下である
(9)固体紫外・可視分光800~400nmに幅広いブロード吸収を有し、480~400nm付近に吸収ピークを有する
(二次誘導体)
また、本発明において用いるリグニン誘導体は、このリグノフェノール誘導体に対してさらに化学的な修飾を行って得られる二次誘導体を含んでいる。二次誘導体とは、リグノフェノール誘導体のアシル誘導体、カルボニル誘導体、架橋性誘導体およびクマラン誘導体である。なお、これらの二次誘導体においては、ポリアニリンドーパントとしての機能を損なわない範囲で誘導体化が行われていることが好ましく、1,1-ビスアリールプロパンユニットにおけるフェノール性水酸基が維持されていることが好ましい。なお、ポリアニリンドーパントとしてリグノフェノール誘導体を用いる場合に、これらの二次誘導体が併用される場合には1,1-ビスアリールプロパンユニットのフェノール性水酸基が維持されていなくてもよい場合がある。
アシル誘導体は、リグノフェノール誘導体にアシル基を有する。アシル誘導体は、リグノフェノール誘導体の少なくとも一部のフェノール性水酸基の水素原子に替えてアシル基を有する誘導体である。アシル誘導体は、フェノール性水酸基の水素原子に替えて、アシル基(RCO-)を導入し、結果として、その芳香環に-O-COR基が形成されるアシル基導入反応によって得られる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トルオイル基等、特に限定はしないが、好ましくはアセチル基である。このアシル基導入反応は、一般的なアシル基導入反応条件をリグノフェノール誘導体に適宜適用して実施することができる。例えば、無水酢酸などのアシル化剤との反応により水酸基に対してアシル基を導入することができるし、アセチルクロリドなどのカルボン酸モノハライドを用いてもアシル基を導入することができる。アシル基を有するアシル誘導体によれば、水酸基を保護することにもなり、フェノール性水酸基量を低下させることができるため、これによりリグノフェノール誘導体の有するドーピング特性とは異なったドーピング特性を有することができる。同時に、導電性ポリアニリン組成物としての加工性を変化させることができる。また、この誘導体をリグノフェノール誘導体と組み合わせて用いることでリグノフェノール誘導体のドーピング特性を調整することができる。以上のことから、アシル誘導体においては、リグノフェノール誘導体における1,1-ビスアリールプロパンユニットのフェノール性水酸基にアシル基が導入されたアシル化ユニットを備えることができ、このアシル化ユニットに加えてリグノフェノール誘導体に存在していた1,1-ビスアリールプロパンユニットの少なくとも一部を維持することもできる。
カルボニル誘導体は、カルボキシル基あるいはそれから誘導される基を有するリグノフェノール誘導体である。すなわち、リグノフェノール誘導体の少なくとも一部のフェノール性水酸基の水素原子に替えて-CO-結合を介してカルボキシル基又は当該カルボキシル基から誘導される基を有する誘導体である。このようなカルボキシル基を有するカルボニル誘導体は、カルボン酸ジクロリドなどのカルボン酸ジ(あるいはそれ以上の)ハライドを用いてフェノール性水酸基をアシル化することで結果として当該カルボン酸ジハライドの他方のカルボキシル基が導入されることにより得られる。例えば、アジピン酸ジクロリドやマレイン酸ジクロリド、テレフタル酸ジクロリドなどのカルボン酸ジクロリドを用いることができる。これらの酸ハロゲン化物のエステル化反応については、当業者において周知であり、一般的な反応条件をリグノフェノール誘導体についても適宜適用して実施できる。カルボキシル基を有するカルボニル誘導体によれば、フェノール性水酸基に替えてカルボキシル基を有するため、これによりリグノフェノール誘導体の有するドーピング特性とは異なったドーピング特性を有することができる。また、この誘導体をリグノフェノール誘導体と組み合わせて用いることでリグノフェノール誘導体のドーピング特性を調整することができる。
また、カルボニル誘導体には、当該カルボキシル基から誘導される基を有する誘導体も含まれる。ここで、当該カルボキシル基から誘導される基とは、アミド基(-CONHR)、エステル基(-COOR)等を挙げることができる。アミド基およびエステル基のRとしては、炭素数1~5程度の低級直鎖あるいは分岐アルキル基あるいは、炭素数6~9程度の置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アルキルアリール基、アラルキル基などを挙げることができる。アミド基の導入反応は、リグノフェノール誘導体中の二重結合あるいは前記カルボキシル基導入反応後に当該カルボキシル基に対して行う。アミド基導入反応およびエステル基導入反応については、従来公知の各種試薬及び条件を適宜選択して用いることができる。アミド基等を有するカルボニル誘導体によれば、アミド基を有する場合には、これによりリグノフェノール誘導体の有するドーピング特性とは異なったドーピング特性を有することができる。また、この誘導体をリグノフェノール誘導体と組み合わせて用いることでリグノフェノール誘導体のドーピング特性を調整することができる。
以上のことから、カルボニル誘導体においては、リグノフェノール誘導体における1,1-ビスアリールプロパンユニットのフェノール性水酸基にカルボニル基あるいはそれから誘導される基が導入されたカルボニル化ユニットを備えることができ、このカルボニル化ユニットに加えてリグノフェノール誘導体に存在していた1,1-ビスアリールプロパンユニットの少なくとも一部を維持することもできる。
架橋性誘導体は、リグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基のオルト位および/またはパラ位に架橋性反応基を有する誘導体である。架橋性基を導入する反応は、例えば、リグノフェノール誘導体を、アルカリ条件下で架橋性基形成化合物と反応させて、リグノフェノール誘導体中のフェノール性水酸基のオルト位及び/又はパラ位に架橋性基を導入することにより実施することができる。すなわち、本誘導体は、用いるリグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基を解離しうる状態下において、リグノフェノール誘導体に架橋性基形成化合物を混合して反応させることによって得られる。リグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基が解離しうる状態は、通常、適当なアルカリ溶液中において形成される。使用するアルカリの種類、濃度及び溶媒はリグノフェノール誘導体のフェノール性水酸基が解離するものであれば、特に限定されない。例えば、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を使用できる。
このような条件下において、架橋性基はフェノール性水酸基のオルト位又はパラ位に導入されるので、用いたフェノール化合物の種類や組み合わせによって、架橋性基の導入位置がおおよそ決定される。すなわち、オルト位及びパラ位において2置換されている場合には、導入フェノール核には架橋性基は導入されず、リグニン母体側のフェノール性芳香核に導入されることになる。リグニン母体側のフェノール性芳香核は、主としてリグノフェノール誘導体のポリマー末端に存在するため、主としてポリマー末端に架橋性基が導入されたプレポリマーが得られる。また、オルト位及びパラ位において1置換以下の場合には、導入フェノール核とリグニン母体のフェノール性芳香核に架橋性基が導入されることになる。したがって、ポリマー鎖の端末の他、その長さにわたって架橋性基が導入され、多官能性のプレポリマーが得られる。なお、導入フェノール核へ架橋性基が導入されることにより、1,1-ビスアリールプロパンユニットが架橋性基を有することになる(このようなユニットを架橋性ユニットという。)
リグノフェノール誘導体に導入する架橋性基の種類は特に限定されない。リグニン母体側の芳香核、あるいは、導入フェノール化合物の芳香核に導入可能なものであればよい。架橋性基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシバレルアルデヒド基等を挙げることができる。架橋性基形成化合物としては、求電子性化合物であって、結合後に架橋性基を形成するかあるいは保持する化合物である。たとえば、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、グルタルアルデヒド類などを挙げることができる。導入効率等を考慮すると、ホルムアルデヒドを用いることが好ましい。
リグノフェノール誘導体と架橋性基形成化合物とを反応させるのに際して、架橋性基を効率よく導入する観点からは、架橋性基形成化合物をリグノフェノール誘導体中のリグニンのアリールプロパン単位の芳香核及び/又は導入フェノール核の1モル倍以上添加することが好ましい。より好ましくは、10モル倍以上であり、さらに好ましくは20モル倍以上である。
次に、アルカリ液中にリグノフェノール誘導体と架橋性基形成化合物が存在する状態で、必要によりこの液を加熱することにより、架橋性基がフェノール核に導入される。加熱条件は、架橋性基が導入される限り、特に限定されないが、40~100℃が好ましい。40℃未満では架橋性基形成化合物の反応率が非常に低く好ましくなく、100℃より高いと架橋性基形成化合物自身の反応などリグニンへの架橋性基導入以外の副反応が活発化するので好ましくない。より好ましくは、50~80℃であり、例えば約60℃が特に好ましい。反応は、反応液を冷却等することにより停止し、適当な濃度の塩酸等により酸性化(pH2程度)し、洗浄、透析などにより酸、未反応の架橋性基形成化合物を除去する。透析後凍結乾燥などにより試料を回収する。必要であれば、五酸化二リン上で減圧乾燥する。
こうして得られる架橋性の二次誘導体は、リグノフェノール誘導体中のフェノール性水酸基に対するオルト位および/またはパラ位に架橋性基を有している。また、架橋性基の導入量は通常、0.01~1.5モル/C9単位程度であることが多い。架橋性誘導体は、フェノール性水酸基とともに架橋性基を有するため、導電性ポリアニリン組成物の加工に際して架橋させることができ、加工性を向上させることができる。
なお、以上のことから、架橋性誘導体においては、リグノフェノール誘導体における1,1-ビスアリールプロパンユニットのフェノール性水酸基に架橋性基が導入された架橋性ユニットを備えることができ、この架橋性ユニットに加えてリグノフェノール誘導体に存在していた1,1-ビスアリールプロパンユニットの少なくとも一部を維持することもできる。
(クマラン誘導体)
クマラン誘導体は、リグノフェノール誘導体のビスアリールプロパンユニットの導入フェノール化合物をクマラン化(これをアリールクマランユニットという。)してなる誘導体である。このような誘導体は、リグノフェノール誘導体を、アルカリと接触させることにより得ることができる。好ましくは加熱する。例えば、導入したフェノール化合物のフェノール性水酸基のオルト位がC1位に導入された第1のユニットを有するリグノフェノール誘導体においては、アルカリ処理により、導入フェノール化合物のフェノキシドイオンによるC2位炭素の攻撃が生じる。すなわち、例えば、緩和なアルカリ処理では、当該導入フェノール化合物の当該フェノール性水酸基が解離し、生じたフェノキシドイオンが、C2アリールエーテル結合を構成するC2位を分子内求核反応的にアタックしてC2アリールエーテル結合を開裂させて導入フェノール核が、それが導入されたフェニルプロパン単位の一部とクマラン骨格を形成する。同時に、この分子内求核反応によりリグノフェノール誘導体は低分子化されるとともに、C2アリールエーテル結合の開裂により、当該エーテル結合により結合されていた隣のリグニンの母核にフェノール性水酸基が生成されることになる。これらの結果、導入されたフェノール化合物側にあったフェノール性水酸基が消滅する一方、リグニン母核側にフェノール性水酸基が発現されるため、フェノール性水酸基が導入フェノール化合物からリグニン母核側へと移動されたことになる。カルボキシル基を有するカルボニル誘導体によれば、フェノール性水酸基に替えてカルボキシル基を有するため、これによりリグノフェノール誘導体の有するドーピング特性とは異なったドーピング特性を有することができる。また、この誘導体をリグノフェノール誘導体と組み合わせて用いることでリグノフェノール誘導体のドーピング特性を調整することができる。アルカリ処理によって得られるクマラン誘導体によれば、フェノール水酸基量を変化させることはないが、その位置が移動することおよびクマラン骨格が発現されることにより、ドーピング特性が変化することが期待される。
当該アルカリ処理は、具体的には、リグノフェノール誘導体をアルカリ溶液に溶解し、一定時間反応させ、必要であれば、加熱することにより行う。この処理に用いることのできるアルカリ溶液は、リグノフェノール誘導体中の導入フェノール化合物のフェノール性水酸基を解離させることができるものであればよく、特に、アルカリの種類及び濃度、溶媒の種類等は限定されない。アルカリ下において前記フェノール性水酸基の解離が生じれば、隣接基関与効果により、クマラン構造が形成されるからである。例えば、p-クレゾールを導入したリグノフェノール誘導体では、水酸化ナトリウム溶液を用いることができる。例えば、アルカリ溶液のアルカリ濃度範囲は0.5~2Nとし、処理時間は1~5時間程度とすることができる。また、アルカリ溶液中のリグノフェノール誘導体は、加熱されることにより、容易にクマラン構造を発現する。加熱に際しての、温度、圧力等の条件は、特に限定することなく設定することができる。例えば、アルカリ溶液を100℃以上(例えば、140℃程度)に加熱することによりリグノフェノール誘導体の低分子化を達成することができる。さらに、アルカリ溶液を加圧下においてその沸点以上に加熱してリグノフェノール誘導体の架橋体の低分子化を行ってもよい。
なお、同じアルカリ溶液で同濃度においては、加熱温度が120℃~140℃の範囲では、加熱温度が高い程、C2-アリールエーテル結合の開裂による低分子化が促進されることがわかっている。また、該温度範囲で、加熱温度が高い程、リグニン母体由来の芳香核由来のフェノール性水酸基が増加し、導入されたフェノール化合物由来のフェノール性水酸基が減少することがわかっている。したがって、低分子化の程度及びフェノール性水酸基部位のC1位導入フェノール化合物側からリグニン母体のフェノール核への変換の程度を、反応温度により調整することができる。すなわち、低分子化が促進され、あるいは、より多くのフェノール性水酸基部位がC1位導入フェノール化合物側からリグニン母体へ変換されたアリールクマラン体を得るには80~140℃程度の反応温度が好ましい。
オルト位結合ユニットにおけるC1フェノール核の隣接基関与によるC2-アリールエーテルの開裂は、上述したようにアリールクマラン構造の形成を伴うが、リグノフェノール誘導体の低分子化は、必ずしもアリールクラマンが効率よく生成する条件下(140℃付近)で行う必要はなく、材料によって、あるいは目的によってより高い温度(例えば170℃付近)で行うこともできる。この場合、一旦生成したクラマン環は開裂し、導入フェノール化合物側にフェノール性水酸基が再生され、さらに、アリール基移動に伴う分子形態変動により共役系の新たな発現によりリグノフェノール誘導体や前記したアリールクマラン構造を有する二次誘導体とは異なるドーピング特性を発現させることができる。
以上のことから、アルカリ処理における加熱温度は、特に限定されないが、必要に応じて80℃以上200℃以下で行うことができる。80℃を大きく下回ると、反応が十分に進行せず、200℃を大きく越えると好ましくない副反応が派生しやすくなるからである。
クラマン構造の形成とそれに伴う低分子化のための処理の好ましい一例としては、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ溶液として用い、オートクレーブ内140℃で加熱時間60分という条件を挙げることができる。特に、この処理条件は、p-クレゾール又は2,4-ジメチルフェノールで誘導体化したリグノフェノール誘導体に好ましく用いられる。また、新たな共役系の発現を伴うようなアルカリ処理の一例としては、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ溶液として用い、オートクレーブ内170℃で加熱時間20分~60分という条件を挙げることができる。
以上のことから、クマラン誘導体においては、リグノフェノール誘導体における1,1-ビスアリールプロパンユニットから誘導されたアリールクマランユニットを備えることができ、このアリールクマランユニットに加えてリグノフェノール誘導体に存在していた1,1-ビスアリールプロパンユニットの少なくとも一部を維持することもできる。
これらの二次誘導体は、リグノフェノール誘導体の有するポリアニリンドーパント特性を損なわない範囲でリグノフェノール誘導体と組み合わせて用いるほか、単独でこれらの二次誘導体を用いるときには、リグノフェノール誘導体の有するポリアニリンドーパント特性を損なわない範囲で各種官能基が導入される。
これらのリグノフェノール誘導体およびその二次誘導体を含むリグニン誘導体の重量平均分子量は2000以上であることが好ましい。重量平均分子量が2000未満であると、ポリマーブレンドとしてポリアニリンに導電性を付与する効果が十分でないからである。好ましくは、4000以上である。また、重量平均分子量は20000以下であることが好ましい。分子量が20000を超えると、フェノール化合物の導入部位が不均一になる傾向がある。より好ましくは、15000以下である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いポリスチレンを基準として得たポリスチレン換算重量平均分子量である。
また、フェノール導入量は0.5mol/炭素9個単位以上、好ましくは0.6mol/炭素9個単位以上であることが好ましい。なお、フェノール導入量は、1H-プロトンNMRを用いてプロトン数に基づいて算出したものである。フェノール性水酸基量は0.5mol/炭素9個単位以上であることが好ましい。なお、フェノール性水酸基量は、1H-プロトンNMRを用いてプロトン数に基づいて算出したものである。
本ドーパントによれば、スルホン酸基などの酸性度の高い官能基を有しないにもかかわらず、ポリアニリンをドーピングできる。また、本ドーパントによれば、リサイクル可能な森林資源からの成果物であるとともに有害あるいは生分解不可能な成分を含有しない。このため、再生あるいは資源循環に適した従来にないドーパントとなっている。さらに、本ドーパントは、ポリアニリンとの混合状態でポリアニリンをドーピングできると同時に混合によりポリアニリンに有用な加工性を付与できる。さらにまた、溶液状態及び溶融状態のいずれであってもポリアニリンをドーピングすることができるため、必要に応じて最適なドーピング手法を選択することができる。
(導電性ポリアニリン組成物)
本発明の導電性ポリアニリン組成物は、上記ドーパントとポリアニリンあるいはその誘導体とを含有している。
(ポリアニリン及びその誘導体)
本発明のドーパントは、ポリアニリンをドーピングするのに好ましく、良好な導電性を備えた導電性ポリアニリン組成物を得ることができる。
導電性ポリアニリン組成物には、ポリアニリンまたはその誘導体(以下、単にポリアニリンという。)を使用する。高い導電性を有する組成物を調製するには、好ましくは高い導電性を発現可能なポリアニリンを用いる。かかるポリアニリンとして、ポリアニリンのラジカルカチオン系物質(エメラルディン)が好ましく使用される。ここに、エメラルディン型のポリアニリンは、例えば、図2に示される還元型単位(フェニレンジアミン骨格)と酸化型単位(キノンイミン骨格)が1対1のモル比で存在する基本骨格を繰り返し単位として含有するものである。
本発明のドーパントによれば、単独でポリアニリンをドーピングして導電性を付与できるため、脱ドープ状態(エメラディン塩基)のポリアニリンを組成物成分として用いることができる。ただし、他のドーパントによってドープされたポリアニリン(エメラルディン塩)を用いてもよい。なお、ドープ状態のポリアニリンは、脱ドープ状態のポリアニリンをプロトン酸でドープすることによって得られる。この際使用されるプロトン酸としては、従来使用されるプロトン酸を同様にして使用できるが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ弗化水素酸、過塩素酸、アミド硫酸等の無機酸;ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、m-ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸等のポリマー酸などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらのプロトン酸は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
本発明によれば、ポリアニリンは、公知のいずれの製造方法によって得られたものであってもあるいは市販のものをそのまま使用してもよい。
本明細書において、「ポリアニリンの誘導体」とは、アニリンの芳香環に炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のチオアルキル基、炭素数1~20のカルボキシエステル基、シアノ基などの置換基や、フッ素原子、塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を付加させたものをいう。より具体的には、本発明において、ポリアニリンの誘導体は、上記方法において、アニリンの代わりにo-、m-置換アニリンを使用して得ることができる。上記態様において、o-、m-置換アニリンとしては、o-トルイジン、m-トルイジン、o-エチルアニリン、m-エチルアニリン、o-エトキシアニリン、m-ブチルアニリン、m-ヘキシルアニリン、m-オクチルアニリン、2,3-ジメチルアニリン、2,5-ジメチルアニリン、2,5-ジメトキシアニリン、o-シアノアニリン、2,5-ジクロロアニリン、2-ブロモアニリン、5-クロロ-2-メトキシアニリン、3-フェノキシアニリンなどが挙げられる。これらのアニリンまたはo-、m-置換アニリンは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ポリアニリンの重量平均分子量は特に限定しないが、3000以上30000以下であることが好ましい。3000未満であると成膜性が低下する傾向にあり、30000を超えると溶媒に溶けにくくなるからである。より好ましくは10000以上20000以下である。
(導電性ポリアニリン組成物の製造方法)
本製造方法は、ポリアニリンを本ドーパントを用いてドープするドーピング工程と、ドープされたポリアニリンを含有する画分を採取する工程とを備えている。ドーピング工程は、好ましくは、溶媒中で両者を混合することによって実施する。ポリアニリンと本ドーパントとを混合することで、ポリアニリンに本ドーパントを接触させてポリアニリンをドーピングして導電性を付与することができるとともに、本ドーパントによってポリマーブレンドとなることにより新たな特性が付与されることになる。本発明を拘束するものではないが、本ドーパントとポリアニリンとの溶液あるいは溶融状態での混合により、良好な線状構造を有する本ドーパント中のフェノール性水酸基がポリアニリンと相互作用し、しかも、本ドーパントの有する各種溶媒への溶解性及び相溶性や軟化・流動特性が、優れた加工性をポリアニリンに付与していると推測される。加えて、本ドーパントの有するリサイクル性が本組成物に付与されることになる。
(溶液混合法)
本組成物の製造方法として、溶液混合法について説明する。溶液混合法は、ポリアニリンのドーピングにおいて周知の方法である。溶液混合の場合、ポリアニリンと本ドーパントとを、同時に溶媒中に投入して混合してもよいし、予め一方を溶媒に投入して溶解した液に対して他方を投入してもよいし、それぞれの溶液を調製した上、両者を混合してもよい。本ドーパント及びポリアニリンは、一括して投入混合してもよいし、いずれかあるいは双方を徐々に混合あるいは溶媒中に滴下するなど逐次投入してもよい。なお、既に述べたように、本組成物においては、脱ドープ状態(エメラルディン塩基)を用いるが、ドープ状態(エメラルディン塩)のポリアニリンであってもよい。ドープ状態のポリアニリンは、従来この種のドーピングに使用されるプロトン酸が用いられる。なお、混合時においてプロトン酸を添加して本ドーパントとプロトン酸とでドーピングしてもよく、これについては後述する。
溶液混合に際して用いる溶媒は、本ドーパントと反応性がない溶媒を用いることが好ましい。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;2-メチル-N-ピロリドン、ピロリドン等の環状アミン類;ピリジン、ピロール等の芳香族アミン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等のアミド類等を挙げることができる。あるいは、これらと水との混液を用いることができる。これらの溶媒は、1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン及びN-メチル-2-ピロリドンであり、より好ましくは、テトラヒドロフラン及びN-メチル-2-ピロリドンであり、さらに好ましくは、2-メチル-N-ピロリドンである。
なお、溶液混合法においては、ポリアニリンのドーピング効率を向上させるべく、プロトン酸の共存下で行なうこともできる。プロトン酸としては、従来使用されるプロトン酸を同様にして使用できるが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ弗化水素酸、過塩素酸、アミド硫酸等の無機酸;ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、m-ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸等のポリマー酸などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらのプロトン酸は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
溶液混合法においては、本ドーパントとポリアニリンとを均一に混合してドーピング効率を向上させるために、各種の機械的攪拌手段や超音波などの物理的攪拌手段を用いることができる。
本発明における混合条件は、本ドーパントによってポリアニリンのドーピングが十分に進行する条件であれば特に制限されるものではない。例えば、混合温度は、好ましくは0℃以上100℃以下である。リグノフェノール誘導体の熱安定性を考慮すると、より好ましくは20℃~40℃である。また、混合時間は、好ましくは、12時間以上48時間以下、より好ましくは約24時間である。
導電性ポリアニリン組成物の製造にあたっては、目的とする導電性や加工特性、本組成物の生成状態などを考慮して、本ドーパントとポリアニリンとの配合比率を選択することができる。好ましくは、ポリアニリン100重量部に対して本ドーパント100重量部以上であることが好ましい。100重量部未満であると十分なドープ効果を得られないからである。混合液の溶液画分あるいは分散液画分を本組成物として取得するときには、300重量部以上であることが好ましい。また、これらの溶液画分または分散液画分のキャスト法によるフィルム化を考慮すると、2000重量部以下であることが好ましい。2000重量部を超えるとキャスト法による成膜が困難になる傾向にあるからである。より好ましくは、1900重量部以下である。以上のことから、溶液画分または分散液画分については、ポリアニリン100重量部に対して300重量部以上1900重量部以下であることが好ましい。
混合液の凝集画分を本組成物として取得するときには、ポリアニリン100重量部に対して本ドーパント100重量部以上300重量部以下であることが好ましい。
以上のようにして、溶媒中で両者を混合すると、均一な緑色(エメラルディン塩の色)の混合液が得られる場合、緑色の溶液あるいは分散液(微粒子の)と緑色の凝集ないし沈殿物が得られる(以下、凝集物という。)場合及び緑色の凝集物が主として得られる場合等がある。すなわち、本法によると、溶媒に溶解した溶液ないし溶媒に均一分散した分散液状態の導電性ポリアニリン組成物と、凝集物である導電性ポリアニリン組成物といずれかあるいは2種以上を組み合わせた状態で得ることができる。ドープされたポリアニリンを含む画分にはドーパントであるリグニン誘導体も含まれている。いずれの状態の組成物であっても、導電性を発現可能である。混合液においては、凝集物を含む凝集画分において高濃度にポリアニリン及びリグニン誘導体が存在していると推測されるため、混合液中の溶液画分あるいは分散液画分よりも本組成物として好ましい場合がある。このような導電性ポリアニリン組成物の生成形態は、本ドーパントとして用いたリグニン誘導体の材料(例えば樹種)により、また、溶媒の種類や本ドーパントとポリアニリンとの組成等により異なる。
ドープされたポリアニリンを含む溶液ないし分散液は、適宜溶媒を留去するなどして濃度を調整したり、ポリマーブレンドとして分離したりすることで、所望の本導電性組成物を得ることができる。また、ドープされたポリアニリンを含む凝集物については、ろ過、遠心分離などの公知の分取方法にて分離し、必要に応じて、洗浄、乾燥等して所望の本導電性組成物とすることができる。こうして得られた本組成物は、粉末、ペレット、チップ等の各種固形状、溶液状、ペースト状等とすることができる。また、得られた本組成物に、適当な添加剤、溶媒等を添加し混合して、用途に適した組成物とすることができる。
なお、本組成物は、ポリアニリンとリグニン誘導体とのポリマーブレンドであるため、ポリマーに適用される各種の方法に成形材料として用いることができる。特に、本発明によれば、従来、フィルム加工性に劣っていたリグニン誘導体を主成分としていても、フィルム化することができる組成物となっている。フィルム化に際しては、公知のコーティング法やキャスティング法を用いることができる。したがって、本発明の一つの態様として、本組成物を含む、本組成物を主体とする、あるいは本組成物のみからなるフィルムを挙げることができる。
このようにして得られた本組成物は、スルホン酸基やカルボキシル基などの酸性度の高い官能基を有しないドーパントによってドーピングされた導電性ポリアニリン組成物となっている。ポリマーブレンドであることにより分子間の相互作用が生じやすく、脱着ドープしにくくなっている。また、本ドーパントは酸性度が高くないため、脱ドープした場合であっても、その酸性度によって本ドーパントと接触し得る状態にある他の材料に対する影響が少ないという利点がある。また、本組成物は、ポリアニリンとリグニン誘導体とのポリマーブレンドであることから、両者の特性が発揮されることになり、しかも、これらの組成比によってポリマーブレンドの特性を制御することも可能である。
また、本組成物によれば、リサイクル可能な森林資源からの成果物であるリグニン誘導体を構成成分として有しているため、石油資源への依存性が減少されかつ環境負荷の小さい導電性組成物が提供される。また、リグニン誘導体はリグニン由来であって、起源であるリグニン、生物体において複合構造を採るセルロースやヘミセルロース等との間で親和性が高い材料である。このため、本組成物によれば、ポリアニリンによる導電性に加えてリグニン、セルロース、ヘミセルロースなどの植物系材料との親和性を有する組成物が提供される。
また、リグニン誘導体は、それ自体加熱によりあるいは溶液状態から溶媒留去等により粘結性を発揮することで、広く各種材料のバインダとして機能する。したがって、本発明によれば、そのようなバインダ用途を有するポリアニリン系組成物が提供される。また、本発明によれば、本組成物を含む導電性接着剤が提供される。さらにまた、リグノフェノール誘導体には各種の二次誘導体があり、架橋性の制御やアルカリによる分子鎖の切断(第1のユニットの形成部位における)程度の制御が可能である。したがって、本発明によれば、ポリアニリンによる導電性に加えて架橋性や分解性の制御が容易な組成物が提供される。
一方、本組成物によれば、リグニン誘導体をドーパントとして機能させることにより、リグニン誘導体に導電性が付与されているともいえる。リグニン誘導体は、逐次利用及び循環使用に適したフェノール系絶縁性ポリマーであったが、本発明によれば、リグニン誘導体系であってしかも各種導電材料用途の組成物が提供される。
また、本組成物は、ポリアニリンによって優れたフィルム加工性を有している。リグニン誘導体自体は、フィルム加工性に劣っていたため、本発明によれば、リグニン誘導体系であってフィルム加工用の組成物が提供される。
以上のことから、本組成物は、ポリアニリンの従来の用途である、各種帯電防止用途、透明電極(緑色~青色)、電磁波遮蔽材、光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロクロミック素子、防錆剤、半導体光触媒、フォトレジスト、非線形光学材料、燃料電池用高分子材料等として使用することができる。加えて、主としてリグニン誘導体の用途である、バインダ、成形材料、各種吸着材料、吸収材料として、同時に導電性を有するものとして使用することができる。すなわち、導電性接着剤、導電性成形材料、導電性吸着材料、導電性吸収材料として使用することができる。これらの各種用途においては、本発明の組成物は、適宜フィルム状、シート状、これら以外の三次元形態を有する成形体の形態を採ることができる。したがって、本発明の一つの形態として、これらの本組成物を含む、本組成物を主体とする、あるいは本組成物のみからなる成形体を挙げることができる。また、本組成物は、他のポリマーと同様に、各種の材料と複合化することができる。
(セルロース系材料)
セルロース系材料としては、紙、パルプ等の加工品のほか、廃棄物、リサイクル品及び人工的に合成されたセルロース系繊維などの人工セルロース系材料を含んでいる。さらに、セルロース系材料には、繊維状、チップ状等の各種形状のリグノセルロース系材料も含まれる。これらセルロース系材料の形態としては、粉末状、短繊維状、長繊維状、チップ状等各種の分散形態のほか、予め、分散形態のセルロース系材料の集合体、交絡体、成形体などを挙げることができる。好ましくは、繊維状体のほか、その集合体、その交絡体、緻密体である。セルロース系材料が非分散形態の場合の外形形態としては、シート状体またはシート状体以外の三次元形状の成形体とすることができる。シート状体の場合、いわゆる紙や各種加工紙を含むセルロース系繊維の交絡体であることが好ましい。このような交絡体であることで、ポリアニリンやリグニン誘導体が保持されやすいからである。
(セルロース系材料との複合化)
導電性のポリマー材料は、他のポリマーと同様に、各種の材料と複合化することができる。なかでも、本ポリマー材料は、セルロース系材料と複合化することが好ましい。推論であって本発明を拘束するものではないが、本ポリマー材料はセルロース系材料との間において優れた密着性を有している。この優れた密着性は、リグニン誘導体とセルロース系材料との密着性と同等程度であると考えられる。したがって、本ポリマー材料を、セルロース系材料と複合化することにより、セルロース系材料にポリアニリン及びリグニン誘導体とが確実に保持され安定的に導電性を発現するとともに、セルロース系材料の形態に応じて強固であり追従性等に優れる複合材料を得ることができる。また、本複合材料は、本ポリマー材料単独及びセルロース系材料単独の導電性から予測される導電性よりも高い導電性を有しており、本ポリマー材料をセルロース系複合材料と複合化することにより、これらの材料の組み合わせにおける材料間の相互作用によって相乗的に導電性が向上されていると推測される。
複合化に用いる本ポリマー材料の形態は特に限定しないで、粉末状、ファイバー状、フィルム状等の固体、溶液、分散液、ペースト等必要に応じて選択することができる。これらを組み合わせて用いることもできる。好ましくは、本ポリマー材料の溶液、分散液およびペーストとすることができる。また、好ましくは、ポリアニリンの粉末あるいはフィルムとすることができる。なお、本ポリマー材料の由来も特に問わない。上記製造方法において得られた溶液あるいは分散液、その濃縮物、乾燥物のほか、上記製造方法において得られた凝集画分などの不溶物、その乾燥物等であってもよい。あるいはこれらのうち2種類以上を組み合わせてもよい。
また、本ポリマー材料とセルロース系材料との複合化方法も特に限定しないで各種方法を採ることができる。複合化にあたっては、本ポリマー材料をセルロース系材料に供給してセルロース系材料にこれらを保持されることができればよい。例えば、溶液、分散液、ペーストなどの形態の本ポリマー材料をセルロース系材料に供給するには、浸漬、各種コーティング手法を用いることができる。次いで、本ポリマー材料に伴われる溶媒を除去したり、あるいは本ポリマー材料が軟化する程度に加熱することでセルロース系材料に本ポリマー材料を保持させることができる。なお、本ポリマー材料のセルロース系材料への保持に伴って加圧することもできる。
また、粉末状や繊維状の本ポリマー材料をセルロース系材料に供給するには、例えば、ドライ混合法等を採用することができる。また、フィルム状の本ポリマー材料をシート状等のセルロース系材料に積層することで供給することもできる。次いで、本ポリマー材料が軟化する程度に加熱することでセルロース系材料に固形の本ポリマー材料を保持させることができる。なお、この場合においても、保持に伴って加圧することもできる。
なお、繊維状、粉末状等の分散形態のセルロース系材料に本ポリマー材料を供給して保持させるとき、セルロース系材料の分散形態を維持することで、分散形態の複合材料を得ることができる。すなわち、繊維状、粉末状、チップ状等の複合材料を得ることができる。例えば、繊維状等の分散形態のセルロース系材料に本ポリマー材料の溶液を含侵させて、溶媒を留去することで、分散形態の複合材料を容易に得ることができる。なお、この分散形態の複合材料を用いて成形体としての複合材料を形成することもできる。
なお、分散状態、集合状態、交絡状態等のセルロース系材料に本ポリマー材料を供給して保持させるのに際して、熱及び/又は圧力を付加すると同時に所望の三次元形状(シート状あるいはその他の三次元形状)を付与して、ポリマー材料の保持と同時に成形体とすることができる。また、本ポリマー材料を予め所望の形状が付与されたセルロース系材料(仮成形体であってもよい)に供給して、溶媒留去、熱及び/又は圧力を付加してすることによって本ポリマー材料をセルロース系材料に保持させた成形体を得ることもできる。これらの成形体の取得方法は、特開平9-278904号公報に記載されるリグニン誘導体をバインダとして用いる成形体の製造方法と同様の手法を用いることができる。
本複合材料は、上記した溶液混合法から直接得ることもできる。例えば、上記溶液混合法において得られた混合液に含まれる本ポリマー材料を最も効果的にセルロース系材料に供給するには、以下の方法を採用することができる。混合液全体、すなわち、溶液画分と不溶画分とを、成形したあるいは集積状態のセルロース系材料をフィルター様に用いて、当該セルロース系材料でろ過する。こうすることで溶液中の本ポリマーも不溶粒子あるいは凝集物としての本ポリマーもセルロース系材料に供給されることになる。また、例えば、混合液に分散形態のセルロース系材料を投入して混合攪拌することで、分散形態のセルロース系材料に溶液中のポリマー材料も不溶物等としての本ポリマーも供給することができる。さらに、こうして本ポリマー材料を供給したセルロース系材料からの溶媒の留去、必要に応じ本ポリマー材料が軟化する程度の加熱あるいは加熱と加圧とを行なうことで本ポリマー材料をセルロース系材料に保持させることができる。なお、分散形態のセルロース系材料を混合液から分離する際に、セルロース系材料を抄造するように分離することで、シート状の複合材料を容易に得ることもできる。
本複合材料は、本ポリマー材料、すなわち、リグニン誘導体によってドープされたポリアニリンと、セルロース系材料とを含有している。このため、導電性を備えるセルロース系複合材料となっている。また、リグニン誘導体はセルロース系材料との結合性、密着性に優れるが、ポリアニリンをドープした状態においてより一層セルロース系材料との結合性が向上される。このため、本複合材料は、一体性に優れ、ドープ状態を安定して維持できる導電性複合材料となっているとともに、セルロース系材料の特徴である可撓性に優れる複合材料となっている。特に、セルロース系材料がセルロース系繊維が交絡したシート状体であるときには、導電性に優れるほか可撓性に優れる複合材料を得ることができる。
本複合材料は、本ポリマー材料とセルロース系材料以外の成分を含むことができる。このようなその他の成分は、本複合材料の目的を妨げない範囲で含めることができ、例えば、金属、セラミックス、ガラス、合成あるいは天然樹脂、ゴム等の粒子状、繊維状、チップ状等の粉末を用いることができる。あるいは、本複合材料を他の成形体の一部することもできる。例えば、本複合材料からなる層を積層体を構成する一つの層として他の材料と単一の成形体を構成することもできる。
【実施例1】

以下、本発明の具体例である実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(リグノフェノール誘導体の調製1)
ベイツガの木粉(リグノセルロース系材料)の脱脂試料の約1.0gを、50ml容ビーカーにとり、p-クレゾール(リグニンC9単位当たり3モル倍量のフェノール化合物に相当する)を加え、ガラス棒で撹拌した。その後、72wt%硫酸5mlを加え、30℃で、1時間激しく撹拌した後、遠心分離(3500rpm、10分、25℃)にてフェノール・酸の二相に分離してフェノール層のみを取り出し、大過剰のエチルエーテルに投入、不溶解区分をアセトンに溶解させ、再度大過剰のジエチルエーテルに投入して溶媒を除去しベイツガ由来のリグノフェノール誘導体(リグノ-p-クレゾール)を得た。
【実施例2】

(リグノフェノール誘導体の調製2)
ベイツガの木粉(リグノセルロース系材料)の脱脂試料の約550gを、1000ml容ビーカーにとり、p-クレゾール(リグニンC9単位当たり3モル倍量に相当する)を加えp-クレゾールを浸透させた後、これに72wt%硫酸500mlを加え、30℃で、1時間激しく撹拌した後、混合物を大過剰の水に投入、不溶解区分を遠心分離(3500rpm、10分、25℃)にて回収、脱酸し、凍結乾燥して、ベイツガ由来のリグノフェノール誘導体(リグノ-p-クレゾール)を得た。実施例2で得られたベイツガ由来リグノフェノール誘導体の特性は、フェノール性水酸基量が1.33mol/C9単位、脂肪族水酸基量が0.58mol/C9単位、フェノール導入率0.75mol/C9単位、重量平均分子量14200であった。
【実施例3】

(導電性組成物及び導電性複合材料の調製)
実施例1及び実施例2で調製した2種類のベイツガ由来リグノフェノール誘導体の10mg/mlN-メチル-2-ピロリドン溶液を調製した。重量平均分子量20,000の塩基性ポリアニリン(アルドリッチ製)の10mg/ml N-メチル-2-ピロリドン溶液を調製した。これらの各溶液を表1に示す比率となるように一気に加え、24時間攪拌し混合して、試料1~5の混合液を調製した。一連の操作は室温で行なった。
【表1】
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試料1~5において、リグノフェノール誘導体の配合比がポリアニリン100重量部に対して100重量部及び300重量部の場合には、緑色の溶液中に緑色の凝集物が生成し沈殿したが、リグノフェノール誘導体の配合が900重量部の場合には、沈殿物が生じず、緑色の溶液あるいは微粒子の分散液となった。全試料1~5の各混合液を5Cろ紙にて減圧ろ過して、緑色溶液あるいは微粒子分散液をろ液として、沈殿物を5Cろ紙上のろ取物として回収した。各試料から回収したろ液は、そのまま60℃に加熱したプレート上にキャスティングしてフィルム(26mm×25mm)を作製し、フィルム試料とした。また、5Cろ紙上の沈殿物は、N-メチル-2-ピロリドンで数回洗浄したあと、溶媒を留去し、セルロース系材料との複合材料の試料とした。
なお、比較例として、ポリアニリン10mg/mlNMP溶液を調製し、5Cろ紙を用いて同様に減圧ろ過を行い、得られたろ液からポリアニリンフィルムを作製した。また、使用したろ紙を複合材料とした。また、対照例として、5Cろ紙のみを用いた。これらの比較例及び対照例についても実施例と同様に導電率を測定した。
【実施例4】

(導電性評価)
実施例3で作製したフィルム試料及び複合材料試料について、それぞれ4極端子を接続したポテンシオスタットにて導電率を測定した。結果を、表1に併せて示す。
表1に示すように、いずれのフィルム試料及び複合材料試料についても、対照例であるポリアニリンよりも高い導電性を示していた。このことから、リグノフェノール誘導体はポリアニリンをプロトネーションして導電性を発現させることができることがわかった。また、フィルム試料と複合材料試料とでは、複合材料試料についてより高い導電性が得られた。特に、実施例2のベイツガ由来リグノフェノール誘導体の複合材料試料については、対照例である5Cろ紙とポリアニリンとの複合材料よりも105レベルで導電性が向上されていた。なお、5Cろ紙とポリアニリン及びリグノフェノール誘導体とは強く密着しており洗浄したり擦過したりしても分離することができなかった。
以上のことから、リグノフェノール誘導体の起源(樹種等)やリグノフェノール誘導体の製造方法によって変動はあるものの、リグノフェノール誘導体がポリアニリンドーパントとして機能しうることがわかった。また、溶液混合法によって得られる溶液画分または微粒子分散液画分であっても、導電性組成物を得られることがわかった。また、導電性ポリアニリン組成物は、セルロース系材料に強く密着していることから、ポリマーブレンドの状態においてもリグノフェノール誘導体本来のバインダ機能も発揮していることがわかった。
図面
【図1】
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【図2】
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