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明細書 :鉄系磁歪合金の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4814085号 (P4814085)
登録日 平成23年9月2日(2011.9.2)
発行日 平成23年11月9日(2011.11.9)
発明の名称または考案の名称 鉄系磁歪合金の製造方法
国際特許分類 B22F   3/14        (2006.01)
B22F   9/04        (2006.01)
C22C   1/04        (2006.01)
C22C  14/00        (2006.01)
C22C  19/03        (2006.01)
C22C  33/02        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
H01L  41/20        (2006.01)
H01L  41/22        (2006.01)
FI B22F 3/14 101B
B22F 9/04 C
C22C 1/04 E
C22C 14/00 Z
C22C 19/03 A
C22C 33/02 G
C22C 38/00 303Z
C22C 38/00 304
H01L 41/20
H01L 41/22 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願2006-510874 (P2006-510874)
出願日 平成16年10月8日(2004.10.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2003年10月11日~10月13日に開催された社団法人日本金属学会2003年秋季(第133回)大会(北海道大学工学部で開催)において文書をもって発表
国際出願番号 PCT/JP2004/014963
国際公開番号 WO2005/087963
国際公開日 平成17年9月22日(2005.9.22)
優先権出願番号 2004069787
優先日 平成16年3月11日(2004.3.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審判番号 不服 2010-006479(P2010-006479/J1)
審査請求日 平成18年11月13日(2006.11.13)
審判請求日 平成22年3月26日(2010.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】古屋 泰文
【氏名】岡崎 禎子
【氏名】斉藤 千尋
【氏名】横山 雅紀
【氏名】大森 守
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
参考文献・文献 特開2003-286550(JP,A)
特開2001-358377(JP,A)
特開平3-115540(JP,A)
特開平11-189854(JP,A)
調査した分野 B22F 3/14
特許請求の範囲 【請求項1】
液体急冷凝固法により高温側不規則bcc構造でかつ微細柱状組織を有する、不規則~規則化遷移組成範囲である、多結晶のFeに対して17at%のGaを含有するFe-Ga合金からなる急冷凝固材を製造し、該急冷凝固材を薄片、粉末、またはチョップとして焼結原料とし、該原料を未熱処理のまま加圧力50MPa以上、焼結温度873K以上、かつ急冷凝固材の集合組織が失われない圧力100MPa以下焼結温度973K以下で放電焼結してバルク化合金とし、さらに熱処理して磁歪を向上させることを特徴とするアクチュエータ・センサ用の鉄系磁歪合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、加圧力100MPa、焼結温度973Kで放電焼結してバルク化合金とした後にさらに非磁場中で熱処理を行うことによって、室温で170~230ppmの磁歪を発現する合金とすることを特徴とするアクチュエータ・センサ用の鉄系磁歪合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、加圧力100MPa、焼結温度973Kで放電焼結してバルク化合金とした後にさらに磁場中で熱処理を行うことによって、室温で250~260ppmの磁歪を発現する合金とすることを特徴とするアクチュエータ・センサ用の鉄系磁歪合金の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、液体急冷凝固法-放電焼結法-熱処理法によって製造されたセンサ・アクチュ
エータ要素の素材となる鉄系超磁歪合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体急冷凝固法を利用して、各種合金系の非晶質、微結晶、多結晶の材料が開発されてい
る。形状記憶合金などの機能性材料も液体急冷凝固法によって薄帯、細線、粉末として製
造できる(特許文献1、2)。
【0003】
鉄系磁性形状記憶合金について、本発明者の一人(古屋)は、液体急冷凝固法を適用し、
超磁歪材料として知られるTerfenol-D(タフェノールディー)のレベルに達する巨大磁歪効
果を発見した。この新磁歪材料は、急冷凝固材に特有な微細で強い方向性を有する特異な
結晶制御組織を形成した実用的な多結晶材料であり、多結晶Fe-Pd系、Fe-Pt系合金に係わ
る発明を特許出願した(特許文献3)。さらに、本発明者らは、Fe-15at%Ga合金の短時間
熱処理(1173K・0.5h)薄帯試料の特性を報告した(非特許文献3)。
【0004】
さらに、NiCoGa、CoNiGa系合金(特許文献4)、Fe-Ga系合金(特許文献5)において、
ある急冷速度を与えると結晶異方性が極めて強く、かつ微細な柱状結晶を形成でき、この
ように制御された材料は延性も有し、従来のランダム方位結晶材料よりも6~10倍以上も
大きな磁歪現象を誘起できることを発見した。
【0005】
しかしながら、上記のような高い性能を有する合金はこれまで主に厚さ又は直径が約200
μm以下の薄帯や細線でしか得られておらず、溶製法では所期の特性を有するものは得る
ことは困難である。従来、板材や棒材などの厚さ又は直径がmmオーダー以上のバルク結晶
合金の製造法としては、溶製法の他に、粉末冶金法が知られている。その方法の一つの手
段として放電焼結法が知られている(例えば、非特許文献4、特許文献6)。
【0006】
放電焼結は、粒間結合を形成しようとする部分に高エネルギーのパルスが集中でき、動的
に焼結プロセスが進行する。これが放電焼結プロセスの特長であり、ホットプレス、抵抗
焼結などの準静的な通常焼結法と大きく異なる点である。粒子表面のみの自己発熱による
急速昇温が可能なため、焼結原料の粒成長を抑制しながら、短時間で緻密な焼結体を得る
ことができる。また、焼結原料内部の組織が変化するのを阻止できるため、アモルファス
構造やナノ結晶組織をもつ粉体をそのままの状態で板材や棒材などのバルク(塊)化が可
能である。この放電焼結法を利用して所望のバルク形状に製造されたFe-Dy-Tb系又は希土
類元素-遷移金属系超磁歪材料が開発されている(特許文献7、8、9)。
【0007】

【特許文献1】特開平1-212728号(特許第2589125号)公報
【特許文献2】特開平6-172886号公報
【特許文献3】特開平11-269611号公報
【特許文献4】特開2003-96529号公報
【特許文献5】特開2003-286550号公報
【特許文献6】特開平6-341292号(特許第2762225号)公報
【特許文献7】特開平5-105992号公報
【特許文献8】特開平11-189853号公報
【特許文献9】特開2001-358377号公報
【非特許文献1】S.Saito,Y.Furuya,T.Okazaki,T.Watanabe,T.Matsuzaki,andM.Wuttig:Mater.Trans.,JIM,vol.45,pp.193-198,Feb.(2004)
【非特許文献2】M.Omori:Mater.Sci.Eng.A,vol.287,pp.183-188,Aug.(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液体急冷凝固法によって製造された急冷凝固材は高性能ではあるが、いずれも、その急冷
プロセスの制約で非常に薄いか細く、素材板厚で約100μm以下、素材線材直径で約100μ
m以下であり、また、長さは最大2m程度で、それほど長いものは作製困難である。これ
らの材料を用いた場合、そのアクチュエータ要素としての作動力は小さく、応用範囲は、
マイクロマシンや小型センサデバイスに限定されていた。また、急冷凝固材は長時間の熱
処理をすると急冷凝固材に特有の非平衡相や微細結晶組織に起因する高性能特性が失われ
るため、熱処理による合金特性の向上には限界があった。
【0009】
現在までに、鉄基Fe-Ga磁歪合金については、米国(海軍研究所、ONR)のみで単結晶法に
よる開発例があり、磁歪300ppmが報告されている。しかし、単結晶法は作成条件が厳しく
、かつ、単結晶アクチュエータ/センサ材料は非常に高価な欠点がある。
【0010】
それゆえ、工業的応用分野としての、機械電子部品や知的材料システム・構造(航空機、
自動車、建設構造物、ソナー、電気機器など)にアクチュエータやセンサ素子として組み
込むためには、もっと複雑形状に加工できる加工性と大きな回復力が取り出せる程度の大
きな質量を持つバルク素材及びその製造方法の開発が要求されている。
【0011】
本発明は、液体急冷凝固材に特有の非平衡相、析出物(=状態図的平衡相〉の少ないこと
、結晶微細化や異方性を生かしたFe-Ga系磁歪合金をアクチュエータやセンサ素子材料と
して適するバルク化材とするとともに溶製法と比べてコスト的に有利な製造方法によって
高性能化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、液体急冷凝固素材の優れた特性を生かしながら、ある程度の質量を有するバル
ク化した合金を提供する。本発明は、Fe-Ga磁歪合金の特定の急冷凝固組織及びそれに基
づく優れた特性を有する急冷凝固材を薄片としてダイス内に積層するか、粉末やチョップ
(chop:短切片)をダイス内に充填して未熱処理のまま放電焼結法によって高密度に結合さ
せてバルク化合金とすることを特徴としている。また、本発明は、焼結後さらに該バルク
化合金を熱処理することによって合金の磁歪特性を向上させることを特徴としている。
【0013】
すなわち、本発明は、下記のとおりのものである。
(1)液体急冷凝固法により高温側不規則bcc構造でかつ微細柱状組織を有する、不規則
~規則化遷移組成範囲である、多結晶のFeに対して17at%のGaを含有するFe-Ga合金からな
る急冷凝固材を製造し、該急冷凝固材を薄片、粉末、またはチョップとして焼結原料とし
、該原料を未熱処理のまま加圧力50MPa以上、焼結温度873K以上、かつ急冷凝固材の集合
組織が失われない圧力100MPa以下焼結温度973K以下で放電焼結してバルク化合金とし
、さらに熱処理して磁歪を向上させることを特徴とするアクチュエータ・センサ用の鉄系
磁歪合金の製造方法。

【0014】
(2)上記の方法において、加圧力100MPa、焼結温度973Kで放電焼結してバルク化合金と
した後にさらに非磁場中で熱処理を行うことによって、室温で170~230ppmの磁歪を発現
する合金とすることを特徴とするアクチュエータ・センサ用の鉄系磁歪合金の製造方法。

【0015】
(3)上記の方法において、加圧力100MPa、焼結温度973Kで放電焼結してバルク化合金と
した後にさらに磁場中で熱処理を行うことによって、室温で250~260ppmの磁歪を発現す
る合金とすることを特徴とするアクチュエータ・センサ用の鉄系磁歪合金の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法で得られるFe-Ga新磁歪合金は、単結晶の磁歪合金の80%程度までの
大きさの磁歪が得られ、従来の希土類系Tefenol-Dよりも、はるかに(20分の一程度)
安価で、かつ、良好な加工性(延性)、高剛性である特徴を有している。それゆえに、磁
化初期での立ち上がり歪エネルギー密度を高くすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、本発明の鉄系磁歪合金の製造方法の工程を示す。まず、液体急冷凝固法によって
センサ・アクチュエータ要素素材を作製する。原料となるインゴットを高周波誘導溶解‐
液体急冷凝固法(双ロール又は単ロール急冷法)によって薄帯(リボン)を製造する。あ
るいは、プラズマアーク溶解‐融液抽出急冷凝固法(円錐ロール先端スピン法)によって
細線(ファイバ)を製造する。これによって、微細柱状結晶、大きな結晶異方性、非平衡
相などを特徴とする急冷凝固材が得られる。
【0018】
液体急冷凝固法は非晶質合金の作製法としてよく使われているが、Fe-Ga磁歪合金のよう
に加工性の悪い材料を20~30μmの厚さの板にする場合にも有用である。液体急冷凝固合
金では、急冷凝固材に特有のナノ~マイクロサイズの結晶微細化と柱状結晶(異方性)形
成によって、耐久性、延性、磁歪効果や形状記憶効果などの機能特性の向上が可能になる

【0019】
次に、急冷凝固材の形状が長さ20~50mm、厚み20~30μm程度の薄片の場合、粉砕せずに
そのままダイス内に積層化してプリフォームとし焼結することができる。急冷凝固材の形
状が長尺の薄帯の場合は、前記薄片の大きさ程度に切断して焼結原料とする。
【0020】
薄帯又は細線状の急冷凝固材を粉砕して粉末とする場合は、回転ボールミリングにて湿式
粉砕、すなわち、エタノールなどのアルコール中に薄帯又は細線を浸した状態で粉砕して
粉末(パウダー)やチョップ(短切片)状にする。粉砕には、遊星型ボールミル装置を使
用する方式が好ましい。これはボールの遠心力と容器の壁との機械的エネルギーを使用し
、短時間で粉末を作製可能な方式である。
【0021】
次に、粉砕によって得られた粉末やチョップはダイス内に充填してプレフォームとする。
そして、ダイス内に積層又は充填した焼結原料を未熱処理のまま放電焼結する。図2に示
すように、放電焼結は、焼結原料1を超硬合金製ダイス2内に充填し、上部パンチ3、下
部パンチ4を押し込んで加圧する。これらをチャンバー5内の焼結ステージ(図示せず)
上に固定し、チャンバー5内を真空ポンプ6で減圧した後、上部パンチ電極7、下部パン
チ電極8で挟み、加圧しながら電源9からパルス通電を行う。焼結温度は熱電対10によ
ってダイス2の温度を測定しながらコントローラー11で制御する。
【0022】
パルス通電を行うと、電界の作用でイオンの高速移動による高速拡散効果も生じる。この
ON-OFFによって繰り返し電圧・電流を印加することによって、焼結原料内で放電点とジュ
ール発熱点(局所的な高温発生場)が移動し、焼結原料内の全体に分散されてONの状態で
の現象と効果が焼結原料内に均一に繰り返される結果、電力消費量も少なく効率のよい焼
結が固相で行なわれる。
【0023】
上記方法によってFe-Ga磁歪合金を製造する場合について、さらに詳しく説明する。図3
に、Fe-Ga合金の場合の急冷凝固法によって作製される代表的な準安定相(析出相なし)
からなる薄帯素材と通常の溶解後加工し、さらに熱処理を加えて得られる、平衡状態図
に沿った金属組織(Fe-Ga3、LI2,DO3規則相析出)の相違を示す。液体急冷凝固薄帯素材
は、図3に示すように、石英ノズル12中で原料を高周波誘導コイル13によって加熱溶
解して形成した溶解金属14を、Arガスによって回転ロール15の高速回転面に噴出さ
せてリボン6とすることによって得られる。
【0024】
液体急冷凝固法によって、第一に、液相からの急速凝固によって通常では高温でのみ現れ
る相を常温で発現させる。第二に、中間冷却速度にて微細柱状晶を形成する。この組織は
従来の多結晶材料よりも微細であることから高強度であり、凝固時の熱流方向が一軸であ
ることからこの方向へ強い配向を持つ異方性を有する組織が得られる。Fe-Ga合金におい
ては、磁気異方性を制御することで、エネルギー効率のよい機能材料になり得る。
【0025】
Fe-Ga合金においては、通常の溶解・加工法によるFe100-xGax単結晶ではxが19at%以下で
不規則bcc構造であり、その磁歪定数はFeの20倍に達する。さらに、これらの単結晶を高
温から焼入れすると磁歪定数がさらに増大する。しかし、xが20at%以上の合金では磁歪定
数(飽和磁歪)が減少することが報告されている[文献T.A.Lograsso,A.R.Ross,D.L.Shlag
el,A.E.Clark,M.Wun-Fogel:J.Alloys and Compounds,35095-101(2003)]。
【0026】
Fe-Ga合金の飽和磁化が組成によってどのように変化するかを説明する。bcc Fe-Ga合金に
おける1原子当たりの磁気モーメントのGa濃度依存性 [文献、N.Kawamiya,K.A.Adachi,Y.N
akamura:J.Physics
Soc.Japan.33.1218-1327,1972]から、約15at%Gaまでは単純にFeをGaで希釈するように変
化する。それ以上のGa濃度では単純希釈の線からはずれ、20at%Ga以上の濃度からは規則
化が進むとともに急激に小さくなる。これは、FeがGaに囲まれてくると、Fe自身の磁気モ
ーメントが小さくなるためと考えられている。また、規則構造形成も自発磁化の変化に関
係してくる。
【0027】
さらに、平衡状態図(図示せず)を見るとGa濃度が20at%以上の領域では700℃付近で不規
則bcc相から規則相(D03,L12)へ結晶構造が変化しており、この構造変化が磁歪の値と関
連していると考えられる。そこで、液体急速凝固法によってFe-Ga合金の規則相を析出さ
せずに高温相の不規則bcc相を室温まで凍結すれば、より大きな磁歪を期待できる。
【0028】
よって、通常の溶解・加工法による結晶組織では現れない、急冷凝固法による高温側不規
則bcc構造でかつ微細柱状組織を有する、不規則~規則化遷移組成範囲である、多結晶のF
eに対して15~23at%のGaを含有する合金薄帯を製造し、これをそのまま積層して放電焼結
することが重要である。
【0029】
放電焼結時の上下パンチによる加圧力及び焼結温度を変えることによって焼結材の磁気・
磁歪特性は変化する。液体急冷凝固法によって形成される微細結晶を活かしたままでの焼
結を完了させるために、放電焼結では出来るだけ高圧力をかけ、低温で焼結することが好
ましい。Fe-17at%Ga合金薄帯は放電焼結時の加圧力50MPa以上、焼結温度873K以上で焼結
が可能である。100MPa・973K焼結試料の密度の割合は約100%である。
【0030】
100MPa・973Kで焼結した材料を短時間で非磁場中熱処理すると、室温で170~230ppmの磁
歪を発現した。焼結後に磁場中熱処理を施すことによって合金特性の結晶配向性を強める
ことができ、さらには、磁歪に直接的に関係する磁気モーメント(磁区構造)を制御する
ことができる。上記の試料に焼結後の磁場中熱処理を施した場合は、250~260ppmまで磁
歪は増大した。これは、磁歪発現メカニズムである移動・回転する磁区(ドメイン)構造
が、ナノ~メゾレベルで磁場中処理方向に揃えられ、その結果として、外部磁場付与に対
して、ミクロ的に磁化回転が促進されて磁歪が促進されたものと考察できる。
【0031】
これらの事実から、大きな磁歪を得るためには液体急冷凝固薄帯に特有の集合組織を変化
させず、さらに薄帯間の接合を完全に行うには、加圧力50MPa以上、焼結温度873K以上で
あればよい。加圧力及び焼結温度の上限は、急冷凝固材の集合組織が失われない程度にす
る必要がある。
【0032】
放電焼結前の液体急冷凝固素材の特性の他、素材の粉砕条件もバルク化合金の特性に影響
を及ぼす。アルコール湿式ミリングは、急冷凝固材の特性維持に有効である。
【実施例1】
【0033】
[Fe-Ga系合金の例]
電解鉄及びガリウムをプラズマアーク溶解法にて溶解し、Fe-17at%Ga合金インゴットを作
製した。このインゴットを溶解してアルゴン雰囲気中で液体急冷凝固(単ロール)法によっ
て長さ2m、幅5mm、膜厚80μmの薄帯を作製した。この薄帯を長さ40mmに切断して薄片と
未熱処理のまま放電プラズマ焼結用試料とした。
【0034】
焼結は超硬ダイス中に300枚の薄片を積層し、試料(a)を50MPa・973K、試料(b)を100MPa・
973K、試料(c)を300MPa・873K、焼結時間は5分で行った。放電焼結装置としては住友石炭
鉱業製SPS1050を用いた。放電焼結は、真空度2Pa、電流3,000A、電圧200Vで行った。昇温
条件は温度によって異なるが約30分であった。焼結後の試料のサイズは長さ40mm、幅5mm
、(薄帯表面に垂直方向の)厚さ9mmであった。比較のために、急冷凝固したままのFe-15at
%Ga合金薄帯を1173Kで0.5時間熱処理した試料(非特許文献2に記載のものに同じ)を用
意した。
【0035】
〈X線構造解析〉
各焼結試料の結晶構造はX線回折法を用い、CuKa1線によるピークを解析することによっ
て行った。図4は、Fe-17at%Ga合金の焼結試料である試料(a)、試料(b)、試料(c)と比較
例の試料(d)のX線回折パターンを示している。3種類の焼結試料は、格子定数0.2904nm
の体心立方構造で構成されている。試料(b)の100MPa・973K焼結試料の(200)ピークの強度
は他の焼結試料より強く、[100]配向の強い比較例の試料(d)の回折パターンに似ている。
この結果は、試料(b)は、薄帯の[100]集合組織が保持されたことを示唆している。
【0036】
試料(a)の50MPa・973K焼結試料も、試料(b)の100MPa・973K焼結試料よりは弱いものの(20
0)配向していることから、集合組織が保持されている。他方、試料(c)の300MPa・873K焼
結試料の(200)ピークは小さく広がり、薄帯の集合組織を失っている。これは、300MPaの
加圧力が塑性変形及び内部損傷を引き起こしたことが原因と考えられる。
【0037】
〈磁化・磁歪測定〉
磁化は振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大磁場を10kOeとし、磁化-磁場ヒステリシス曲
線(M-Hループ)を測定した。さらに、図5に示すように、2枚の黄銅板18、黄銅ネジ1
9、アクリル樹脂20で構成した測定装置を用いて、試料21に歪ゲージ17を貼り付け
て厚さ方向に平行な磁歪を測定した。
【0038】
試料に予応力として20MPa、60MPa、100MPaの圧縮応力をかけ、磁歪の値は試料の裏表の歪
ゲージ17から得られた値の平均によって決定した。磁化・磁歪測定のため、Fe-17at%Ga
合金焼結試料を長さ2.7mm、幅5mm、及び(薄帯表面に垂直方向の)厚さ9mmに切り出した。
磁場が薄帯表面に垂直方向に適用されたときに大きな磁歪が発現することが報告されてい
る[非特許文献2]ことから、本実施例においても磁場Hはこの方向に適用した。飽和磁化
は1.68テスラであり、予応力を増加させてもほとんど変わらなかった。
【0039】
図6は、試料(b)の100MPa・973K焼結試料の磁歪を示す。磁歪は予応力sにかなり依存し、
2kOeの低磁場で飽和し、その後Hが大きくなるとともにわずかに減少して戻る。最大磁歪1
00ppmはs=100MPaを負荷した時に得られた。試料(a)の50MPa・973K焼結試料の飽和磁歪は7
0ppmであり、試料(b)の100MPa・973K焼結試料の値より小さかった。これは、焼結時の応
力が低すぎたために、薄片間の接合が不完全であったためと考えられる。さらに、試料(c
)の300MPa・873K焼結試料はランダム組織を持つために磁歪の値は最も小さい。
【0040】
上記の方法で製造した試料(b)の100MPa・973K焼結試料を真空中で1173K・1hで熱処理した
。熱処理後に磁歪を測定した。図7は、この焼結試料の熱処理前と後の磁歪を示す。H=2k
Oeの熱処理前と後の磁歪はそれぞれ100ppmと170~230ppmであり、熱処理によって磁歪が
増大した。
【0041】
さらに、焼結後に磁場中熱処理を施した場合は、250~260ppmまで増大した。薄帯試料を
短時間で熱処理することによって[100]配向が強まり、磁歪が増大する[非特許文献2参照
]こと、さらには、磁歪に直接的に関係する磁気モーメント(磁区構造)が外部磁場付与
によって、ある特定の方向に揃うことも寄与しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のバルク固化急冷凝固材料であるFe-Ga焼結合金の磁歪材料としての利用は、大別
して、磁気センサと磁歪アクチュエータ(駆動素子)である。磁歪材料のアクチュエータ
・センサとしての具体例は、水中ソナー(音波探知機)、魚群探知機、アクティブ制振素
子、音響スピーカー、エンジン燃料噴射弁制御(インジェクションバルブ)、電磁ブレー
キ、マイクロポジショナー、流体制御(ガス、液体)バルブ、電動歯ブラシ、バイブレー
タ、歯科用切削振動治療器、さらには、車トルクセンサ、電動自転車トルクセンサ、セン
サシャフト、ひずみセンサ、セキュリテイセンサーなどである。その他、磁歪材料の動的
操作における渦電流損失を克服するために絶縁加工された磁気粒子やシリコンスチール、
非電気的伝導材料を用いた磁歪コンポジット材料が開発される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のバルク固化急冷凝固材料の製造方法の工程図である。
【図2】放電焼結装置の概念図である。
【図3】非平衡相からなる急冷凝固薄帯材と平衡相からなる溶解加工後の熱処理材での金属組織の相違をFe-Ga磁歪合金について示す模式図である。
【図4】Fe-17at%Ga合金焼結試料とFe-15at%Ga合金薄帯試料のX線回折パターン図である。
【図5】磁歪測定法の概念図である。
【図6】Fe-17at%Ga合金焼結(100MPa・973K)試料の磁歪(圧縮応力σ依存性)と熱処理後の磁歪増加現象を示すグラフである。
【図7】Fe-17at%Ga合金焼結(100 MPa・973K)試料を熱処理後、さらに磁場中熱処理(400℃、H=0.5テスラ、15分)した後の磁歪増加現象(黒四角で表示、圧縮負荷応力σ=100MPa)を示すグラフである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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