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明細書 :R-Fe-B系薄膜磁石及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4698581号 (P4698581)
登録日 平成23年3月11日(2011.3.11)
発行日 平成23年6月8日(2011.6.8)
発明の名称または考案の名称 R-Fe-B系薄膜磁石及びその製造方法
国際特許分類 H01F  10/14        (2006.01)
H01F   1/053       (2006.01)
H01F  41/02        (2006.01)
H01F  41/14        (2006.01)
C21D   6/00        (2006.01)
C22C  38/00        (2006.01)
C22C  33/00        (2006.01)
FI H01F 10/14
H01F 1/04 H
H01F 41/02 G
H01F 41/14
C21D 6/00 B
C22C 38/00 303D
C22C 33/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2006-511292 (P2006-511292)
出願日 平成17年3月23日(2005.3.23)
国際出願番号 PCT/JP2005/005183
国際公開番号 WO2005/091315
国際公開日 平成17年9月29日(2005.9.29)
優先権出願番号 2004085806
優先日 平成16年3月23日(2004.3.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年11月16日(2007.11.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
発明者または考案者 【氏名】鈴木 俊治
【氏名】町田 憲一
【氏名】坂口 英二
【氏名】中村 一也
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】田中 純一
参考文献・文献 特開2002-164238(JP,A)
特開平07-283016(JP,A)
特開平07-201623(JP,A)
特開2003-158006(JP,A)
特開2003-064454(JP,A)
特開平09-045567(JP,A)
特開平07-272929(JP,A)
特開平11-273920(JP,A)
特開2004-120892(JP,A)
調査した分野 H01F 1/00 - 1/117
H01F 1/40
H01F 10/00 - 10/32
H01F 41/14 - 41/34
特許請求の範囲 【請求項1】
膜厚が0.2~400μmであり、物理的に基材上に成膜された28~45質量%のR元素(但し、Rは希土類ランタニド元素の一種又は二種以上)を含むR-Fe-B系合金において、結晶粒径が単磁区粒径よりも大きい0.5~30μmであって、各結晶粒内に多数の磁区が存在する2Fe14B結晶と、該結晶の境界に形成されたR元素が富化した粒界相とからなる複合組織を有し、核発生型の保磁力発生機構を有することを特徴とするR-Fe-B系薄膜磁石。
【請求項2】
2Fe14B結晶の磁化容易軸であるC軸が無配向であるか、あるいは膜面に対して略垂直に配向していることを特徴とする、請求項1記載のR-Fe-B系薄膜磁石。
【請求項3】
28~45質量%のR元素(但し、Rは希土類ランタニド元素の一種又は二種以上)を含むR-Fe-B系合金を物理的成膜法により基材上に成膜して膜厚が0.2~400μmの合金膜を形成する方法において、R-Fe-B系合金の物理的成膜中又は/及びその後の熱処理において、700~1200℃に加熱することによって結晶粒を0.5~30μmに成長させ、かつ該結晶の境界にR元素が富化した粒界相の形成を行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載のR-Fe-B系薄膜磁石の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロマシンやセンサ、及び小型の医療・情報機器向けに適する高性能な薄
膜磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素RとしてNdを主とする、Nd-Fe-B系の希土類焼結磁石は高い磁気特性
を有し、VCM(ボイスコイルモータ)やMRI(磁気断層撮影装置)他、様々な分野で使
用されている。これらの磁石は一辺が数~数十mmの大きさであるが、携帯電話用振動モ
ータには外径3mm以下の円筒形状をした磁石が使われ、さらに微小な磁石がマイクロマ
シンやセンサ分野において要求されている。例えば厚さが1mm以下の平板状磁石は、予
め大きめの焼結体ブロックから切断や研磨などの工程を経て製作するが、磁石強度や生産
性の問題により0.5mm以下の磁石を得ることが困難である。
【0003】
一方、最近、スパッタリングやレーザーデポジション等の物理的成膜法により、微小寸法
の薄膜磁石が製作されるようになり、磁気特性では200kJ/m3以上の最大エネルギ
ー積が報告されている(例えば、非特許文献1、特許文献1)。これらの製法によれば、
磁石合金成分を真空又は減圧空間内で基板や軸上に堆積させて熱処理を施し、各種条件を
適切に制御することにより200kJ/m3程度の高性能膜を、焼結法と比べて比較的簡
単なプロセスで得ることができる。
【0004】
一般例として、平板や軸などの基材上に成膜した薄膜磁石の厚さは数~数十μm程度であ
り、平板の四辺や軸の直径に対して数十分の1から百分の1となる場合が多い。この薄膜
を平板面や軸の周面に対して垂直方向に着磁する際には、反磁界が非常に大きくなって充
分な着磁が行われず、従って、薄膜磁石の本来の磁気特性を引き出すことが困難となる。
反磁界の大きさは、磁石の着磁方向とその直角方向との寸法比に依存し、着磁方向(=膜
厚方向)の寸法が小さいほど大きくなることは、既に一般的に知られている。
【0005】
一方、上記寸法比の問題とは別の視点で、着磁しやすい磁石材料を製作することができれ
ば薄膜磁石の特性を容易に引き出すことが可能となり、様々な応用デバイスの製作におい
て有益となる。従来のNd-Fe-B系薄膜磁石は、一般に磁石構成成分を原子又はイオ
ン化された状態で基材上に堆積させ、その後の熱処理によって単磁区粒子径に相当する0
.3μm未満のNd2Fe14B結晶粒を生成させる手法を採用している(特許文献2,3
)。
【0006】
この際に、一般的には結晶粒を小さく抑制して所望の磁気特性を得るのが常套手段である
が(例えば、特許文献4)、結晶粒径と着磁性を議論した文献はほとんどない。なお、結
晶粒を0.3μm以上に成長させると各結晶粒内が多磁区構造となって保磁力が低下して
しまう。
【0007】
着磁性良否の参考として、図1(a)に、一般焼結磁石の初磁化曲線と減磁曲線を、図1
(b)に、従来例の薄膜磁石の初磁化曲線と減磁曲線を示す。図1(a)から明らかなよ
うに、焼結磁石は磁界を加えた場合に磁化は急峻に立ち上がり、0.4MA/m程度の低
い磁界においても充分に高い磁気特性を示している。
【0008】
一方、図1(b)の従来例の薄膜磁石の場合には磁化は原点から徐々に増加し、1.2M
A/mの磁界においても飽和傾向が見られない。着磁性に関するこの相違は、焼結磁石が
核発生型の保磁力機構を有しているのに対して、従来例の薄膜磁石が単磁区粒子型の保磁
力発生機構によっているためと推察される。
【0009】

【非特許文献1】日本応用磁気学会誌、27巻、10号、1007頁、2003年
【特許文献1】特開平8-83713号公報
【特許文献2】特開平11-288812号公報
【特許文献3】特開2001-217124号公報
【特許文献4】特開2001-274016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、薄膜磁石の着磁性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、薄膜磁石の着磁性を向上することを目的として、組成と結晶組織の研究を
鋭意重ねた結果、焼結磁石と同様の核発生型保磁力機構を有する薄膜磁石を製作すること
に成功した。
【0012】
すなわち、本発明は、(1)膜厚が0.2~400μmであり、物理的に基材上に成膜さ
れた28~45質量%のR元素(但し、Rは希土類ランタニド元素の一種又は二種以上)
を含むR-Fe-B系合金において、結晶粒径が単磁区粒径よりも大きい0.5~30μ
であって、各結晶粒内に多数の磁区が存在する2Fe14B結晶と、該結晶の境界に
成されたR元素が富化した粒界相とからなる複合組織を有し、核発生型の保磁力発生機構
を有することを特徴とするR-Fe-B系薄膜磁石、である。
【0013】
また、本発明は、(2)R2Fe14B結晶の磁化容易軸であるC軸が無配向であるか、あ
るいは膜面に対して略垂直に配向していることを特徴とする、上記(1)のR-Fe-B
系薄膜磁石、である。
【0014】
本発明の磁石は、従来の薄膜磁石と比較して優れた着磁性を有する。これは、従来の薄膜
磁石が単磁区粒子型の保磁力発生機構を有し、一方、本発明による薄膜磁石が核発生型の
保磁力発生機構を有するためと推察される。
【0015】
さらに、本発明は、(28~45質量%のR元素(但し、Rは希土類ランタニド元素
の一種又は二種以上)を含むR-Fe-B系合金を物理的成膜法により基材上に成膜して
膜厚が0.2~400μmの合金膜を形成する方法において、R-Fe-B系合金の物理
的成膜中又は/及びその後の熱処理において、700~1200℃に加熱することによっ
て結晶粒を0.5~30μmに成長させ、かつ該結晶の境界にR元素が富化した粒界相の
形成を行うことを特徴とする、上記(1)又は(2)のR-Fe-B系薄膜磁石の製造方
法、である。
【0016】
Nd-Fe-B系薄膜磁石の結晶組織がほとんどR2Fe14B結晶で構成され、且つその
結晶粒径が0.3μmに相当する単磁区粒子径未満である場合には、磁界を加えても各結
晶粒の磁化方向は磁界の大きさに対して徐々に回転するため、図1(b)の従来例の薄膜
磁石の初磁化曲線に見られる通り充分な着磁をすることが困難である。また、薄膜磁石は
微小なデバイスに応用する例が多いために、微小な部位に大きな磁界を加えることが実際
面で難しい。
【0017】
一方、結晶組織が単磁区粒径より大きいR2Fe14B結晶と、該結晶境界にR元素が富化
した粒界相との複合組織から成る本発明磁石の場合に、磁界を加えると、後述する図3の
本発明試料(2)の初磁化曲線から推測されるように、各結晶粒内に存在する多数の磁区
が、隣接する磁壁を取り払って小さな磁界で一斉に磁界の方向を向き、焼結磁石に類似し
た充分な着磁が行われる。この着磁性の困難さと容易さについては、従来例の薄膜磁石が
単磁区粒子型の保磁力発生機構を有し、一方、本発明による薄膜磁石が核発生型の保磁力
発生機構を有するためと推察される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(合金系・結晶組織)
本発明で対象とする薄膜磁石は、希土類元素をRと表記した場合にR-Fe-B系合金か
ら成り、一般的にはNd-Fe-B系合金が用いられる。実際の合金製作においては、薄
膜磁石の保磁力を向上させるためR元素としてNdの他にPr,Dy,Tbなどの添加や
、安価なCeの添加などが行われる。また、成膜した合金の結晶化温度や結晶粒の大きさ
を適宜制御するために、Ti,V,Mo,Cu等の各種遷移金属元素やP,Si,Alを
添加したり、耐食性を向上するためにCo,Pd,Pt等の各種遷移金属元素を添加した
りすることが通常行われる。
【0019】
合金中のNd,Pr,Dy,Tb等希土類元素Rの総量は、R2Fe14B結晶とR元素が
富化した粒界相との複合組織を形成するために、28~45質量%とすることが必須であ
り、32~40質量%とすることがより好ましい。即ち、合金中のR元素含有量はR2
14B組成よりも多くする必要がある。R元素が富化した粒界相は、R元素を50質量%
以上含み、Feや他の添加成分を少量含有する、RO2若しくはR23型酸化物に類似し
た相と推察される。
【0020】
R元素としてNdを代表例とするNd2Fe14Bの化学量論組成においてのNd量は26
.7質量%であり、Ndが富化した粒界相を少量共存させるためには合金中のR元素は少
なくとも28質量%とする必要がある。一方、R元素量が多くなると合金中の粒界相の割
合が増加して保磁力は向上するが、Nd2Fe14B結晶の割合が低下して磁化の減少が著
しくなり、高い磁気特性が得られなくなるため45質量%以下とすることが必要である。
【0021】
合金内部のNd2Fe14B結晶とNd富化粒界相の関係については、焼結磁石の場合と同
様に前者の結晶の周囲を後者の粒界相がほぼ取り囲んだ組織となっている。粒界相の割合
が少ない場合はその厚さは十nm程度と薄く、また一部で粒界相が途切れた組織となるた
めに低保磁力で高磁化の傾向となり、割合が多い場合は厚さが数百nm~1μmとなり高
保磁力で低磁化の傾向となる。
【0022】
結晶粒径については、一般に結晶を多方向から輪切りにした平均寸法から求めるが、膜厚
が薄い場合は扁平形状の結晶となるために、本明細書中では膜面内で観察された結晶の平
均寸法を結晶粒径と表現している。結晶粒径の測定法は、具体的には、平面基板上あるい
は軸表面上に成膜したNd-Fe-B系薄膜を硝酸アルコールで微弱エッチングした試料
の膜面を、SEM(走査型電子顕微鏡)又は高倍率金属顕微鏡で観察し、得られた画像写
真に1本のラインを引き、そのライン上200μmの長さにある結晶粒径を測長して平均
値を算出し、これを結晶粒径とした。
【0023】
Nd2Fe14B結晶の粒径は、核発生型の保磁力機構をもたせて磁界に対する磁化の立ち
上がりを急峻にするため、0.5~30μmとすることが必要であり、3~15μmがよ
り好ましい。既述したように、0.5μm未満では単磁区粒子径の大きさに近くなって初
磁化曲線の立ち上がりは緩やかになり、着磁が困難となる。一方、粒径が30μmを超え
ると一結晶内に存在する磁区の数が過多となって磁化が反転しやすくなり、粒界相が形成
されていても必要とする保磁力が得られなくなる。
【0024】
本発明のR-Fe-B系薄膜磁石は、R2Fe14B結晶の磁化容易軸であるC軸が無配向
である、あるいは膜面に対して略垂直に配向している。本発明では、基本的に、C軸の配
向を問わず着磁性が改良される。ただし、C軸が膜面に平行である場合は反磁界の影響が
小さく着磁性改良効果が小さくなる。
【0025】
(膜厚・成膜法・基材)
Nd-Fe-B系膜の厚さは、0.2~400μmの範囲であるときに本発明の効果を充
分発揮できる。0.2μm未満ではNd2Fe14B結晶粒の体積が小さくなり、Nd富化
粒界相との複合組織を形成してもなお単磁区粒子的な挙動が支配的になり、結果的に良好
な着磁性を得ることができない。一方、400μmを超えると膜の下部と上部で結晶の大
きさや配向の乱れが大きくなって、残留磁化が低下してしまう。また、400μmを超え
て成膜するにはおよそ1日以上の長時間稼働が必要なこと、及び400μm超の厚さは焼
結磁石を切断研磨する方法によって比較的容易に得られることにより、上限膜厚を400
μmとする。
【0026】
成膜方法については、合金を液中から析出させるメッキ、微細な合金粉末粒子を塗布ある
いは吹きつけるコーティングやCVD、及び蒸着、スパッタリング、イオンプレーティン
グ、レーザーデポジションなど各種の物理的成膜法を用いることができる。特に、物理的
成膜法は不純物混入が少なく良質の結晶質膜が得られるため、Nd-Fe-B系薄膜の成
膜法として好適である。
【0027】
薄膜を形成するための基材は、各種の金属や合金、ガラス、シリコン、セラミックスなど
を選択して使用することができる。ただし、所望の結晶組織を得るために高温度での処理
を行う必要上、セラミックスや金属基材としてはFe,Mo,Tiなどの高融点金属を選
択することが望ましい。また、基材が軟磁性を有する場合は薄膜磁石の反磁界が小さくな
ることから、Fe,磁性ステンレス鋼,Niなどの金属や合金が好適である。なお、セラ
ミックス基材を用いると高温処理における耐性は充分であるが、Nd-Fe-B膜との密
着性が不足する場合があり、その対策としてTiやCrなどの下地膜を設けることにより
密着性を向上することが通常行われ、これら下地膜は基材が金属や合金でも有効の場合が
ある。
【0028】
(熱処理)
スパッタリングなどによって成膜したままの状態では、Nd-Fe-B系膜は通常アモ
ルファスもしくは数十nm程度の微細結晶から成ることが多い。そのため、従来は400
~650℃の低温熱処理によって結晶化と結晶成長を促進して1μm未満の結晶組織を得
ている。本発明では、第一に、従来よりも大きな結晶粒を製作し、第二にNd富化粒界相
を共存させるために、700~1200℃の高温熱処理を行うことが必要である。
この高温熱処理の役割は、膜内のNd2Fe14B結晶の粒成長を促すと同時に、該結晶周
辺にNdリッチな粒界相を生成させることにあり、この構造を成すことによって本発明が
目的とする核発生型の保磁力機構を有することになる。好ましくは、この高温熱処理に続
いて、500~600℃の低温熱処理を実施することにより、上記のNdリッチな粒界相
は該結晶を薄く均一に取り囲んだ組織を形成するようになり、結果的に保磁力の向上をも
たらす効果がある。
【0029】
好ましくは、成膜中の基材温度を例えば300~400℃とし、成膜後に700~120
0℃に加熱する。700℃未満では所望とする結晶粒を成長させるのに数十時間を要する
ために適切でなく、またNd富化粒界相を生成することが極めて困難である。700℃以
上になると結晶成長が進み、且つNd,Fe,Bの各種反応を経てNd富化粒界相が形成
されるようになる。しかし、1200℃を超えると合金の一部が融液状態となって薄膜の
形態が崩れること、及び酸化が著しく進行するために不適である。
熱処理時間については、均質な結晶組織を得るために高温と低温のいずれの熱処理におい
ても、10分以下では膜内の結晶粒径の不揃いやNdリッチな粒界相厚さのバラツキを生じ易
い。他方、薄膜磁石の体積が焼結磁石と比較して小さいために、十数分から数十分程度で
所望の結晶組織や粒界相を得ることが容易であり、1時間以上の処理は酸化の進行を招く
ことや、これ以上に時間を増加しても結晶組織のへの影響は比較的小さいことから、10
分を超え1時間未満の処理時間が好ましい。
【0030】
熱処理は、成膜後に真空あるいは非酸化性の雰囲気中で行うのが良く、加熱方法としては
薄膜試料を電気炉へ装填する方式、赤外線加熱やレーザー照射によって急速な加熱冷却を
する方式、及び薄膜に直接通電するジュール加熱方式などを選択採用することができる。
【0031】
成膜と熱処理を分離して実施した方が膜の結晶性や磁気特性を制御し易いため好ましいが
、スパッタリングの最中に基材を高温度に加熱しておく方式や、成膜時の出力を上げるこ
とによって成膜中の温度を高温に維持することにより、所望の結晶組織を作りこむことも
可能である。なお、Nd-Fe-B系膜はさび易いため成膜後あるいは熱処理後に、Ni
やTiなどの耐食性保護膜を形成して用いるのが通例である。
【実施例1】
【0032】
以下実施例に従って本発明を詳細に述べる。
目的とするNd-Fe-B合金のNd含有量より少ない組成のNd-Fe-B合金を溶解
鋳造し、内外周及び平面研削を行い、外径60mm、内径30mm、厚さ20mmの円環
状合金を2個製作した。さらに放電加工によって、円環部に直径6mmの貫通孔を8個設
けてターゲットとし、別途合金組成調整用に直径5.8mm、長さ20mmで純度99.
5%のNd棒を用意した。また、長さ12mm、幅5mm、厚さ0.3mmの短冊形状を
した純度99.9%の鉄板を多数製作し、溶剤脱脂と酸洗をして基板とした。このターゲ
ット一対を対向させてその中間に高周波コイルを配置させた3次元スパッタ装置を用い、
この鉄基板表面へNd-Fe-B合金を成膜した。
【0033】
実際の成膜作業は以下の手順で行った。スパッタ装置内に取り付けたNd-Fe-B合金
ターゲットの貫通孔に所定数のNd棒を装填し、上記基板を装置内のモータ軸に直結した
治具に取り付け、高周波コイルの中間に置かれるようセットした。スパッタ装置内を5×
10-5Paまで真空排気した後、Arガスを導入して装置内を1Paに維持した。次に、
RF出力30WとDC出力3Wを加えて10分間の逆スパッタを行って鉄基板表面の酸化
膜を除去した。続いて、RF出力150WとDC出力300Wを加えて基板を6rpmで
回転させながら90分間のスパッタを行い、厚さ15μmのNd-Fe-B膜を基板両面
に形成した。続いて、Nd棒の数を変更して同様のスパッタを繰り返し行い、合計6個の
合金組成の異なるNd-Fe-B膜を製作した。
【0034】
次に、6個の成膜された基板を長さ方向1/2に切断し、一方をグローブボックス内に設
置した電気炉に装填し、酸素濃度を2ppm以下に維持したAr雰囲気中で、一段目を8
50℃で20分間、2段目を600℃で30分間の2段熱処理を行った。ここで得られた
試料を、Nd組成に従って本発明試料(1)~(4)、及び比較例試料(1)~(2)と
した。他方を、600℃で30分間の1段熱処理のみを行い、比較例試料(3)~(8)
とした。
【0035】
代表例として、Nd含有量が同じで、最も高い(BH)max値が得られた本発明試料(2
)と比較例試料()については、エネルギー分散型質量分析器(EDX)を備えた走査
型電子顕微鏡(SEM)を用いて結晶組織の観察を行った。観察画像から測長して求めた
本発明試料(2)の結晶粒径は3~4μmであり、また、2次電子像観察からは各結晶粒
の間にNdとOが高濃度に分布した厚さが0.2μm以下の粒界相が見られた。一方、比
較例試料()の結晶粒径は0.2μm以下であり明瞭な粒界相は認められなかった。
【0036】
また、Nd-Fe-B結晶の磁化容易軸であるC軸の方向を調べるため、本発明試料(2
)と比較例試料()については成膜面に対して垂直と水平の2方向の磁気測定を行った
。その結果、前者試料の残留磁化は水平と比較して垂直方向に測定した場合に1.6倍で
あることから、明らかに膜面に垂直方向にC軸が配向していると推察され、さらに、この
試料のX線回折パターンを測定した結果、Nd2Fe14B結晶に起因する(006)面の回折
線強度が著しいことから、上述のC軸配向が再確認された。一方、後者試料の残留磁化も
方向によって差異があり、水平と比較して垂直方向に測定した場合に1.25倍であった
が、結晶粒が小さすぎるためにC軸の配向性は前者試料と比較してやや劣っていた。
【0037】
各試料の磁気特性は振動試料型磁力計を用いて測定し、膜面に垂直方向に磁界を1.2M
A/m加えた場合と2.4MA/m加えた場合の測定をした。次に、上記温度で熱処理を
した成膜前のFe基板の測定を行って測定値を減算処理後、Nd-Fe-B膜の磁気特性
を求めた。また、一部の試料はさらに初磁化曲線の測定も行い、いずれの場合も反磁界係
数の補正は考慮しなかった。
【0038】
薄膜の合金組成分析においては、通常利用されるICP分析法では膜を酸溶解する際にF
e基板の溶出による誤差を生じるため、ここではEPMA分析によって膜中のNd含有量
を算出した。その結果、比較例試料(1)のNd質量%が25.7、本発明試料(1)が
29.4、本発明試料(2)が34.5、本発明試料(3)が39.2、本発明試料(4
)が44.1、比較例試料(2)が47.8であった。なお、上記と熱処理条件が異なる
比較例試料(3)~(8)は、熱処理の違いによるNd質量%の変化がないため、上記質
量%の結果に相応した値を用いた。Nd質量と熱処理条件をまとめて表1に示す。
【表1】
JP0004698581B2_000002t.gif

【0039】
図2に、本発明試料(1)~(4)及び比較例試料(1)~(8)の、最大エネルギー積
(BH)maxを示す。ここで、1.2MA/mの低磁界を加えて測定したものを(BH)m
ax/1.2とし、2.4MA/mの高磁界を加えたものを(BH)max/2.4と表記した。
【0040】
図2から明らかなように、(BH)maxは全試料ともにNd量に依存しており、Nd質量
が28%以上45%以下の本発明試料(1)~(4)において、最大エネルギー積(BH
)max/1.2及び(BH)max/2.4ともに約150kJ/m3以上の高い値が得られた。また、
(BH)max両者の差異は小さく、低い着磁磁界によって比較的高い特性が得られること
が分った。Nd質量%が少なすぎる比較例試料(1)は、結晶組織内にαFeの析出が認
められたために保磁力が低く、従って高い(BH)maxが得られず、また、Nd質%が
多すぎる比較例試料(2)は、残留磁化が著しく低下するために高い(BH)maxが得ら
れなかった。
【0041】
一方、比較例試料(3)~(8)は(BH)max/1.2と(BH)max/2.4の差異が大きく、
着磁磁界を大きくしなければ高い値が得られず、比較例試料(5)において高磁界を加え
た場合にのみ150kJ/m3の値が得られた。この理由は、図3の本発明試料(2)と比
較例試料()の初磁化曲線と減磁曲線に示すように、前者は磁化の立ち上がりが急峻で
あるのに対して後者は緩やかであるためであり、結晶組織の違いがその原因と推察されて
いる。
【実施例2】
【0042】
3次元スパッタ装置の前室に、実施例1で製作したNd-Fe-B合金ターゲット一対に
各3本のNd棒を装填し、後室に同寸法のTiターゲットを取り付けた。基板には、外径
10mm、内径0.8mm、厚さ0.2mmの表面研磨したアルミナを用いた。モータ軸
に直結した治具に差し込んだ直径0.5mm、長さ60mmの波型加工をしたタングステ
ン線に、上記アルミナ基板を一回のスパッタ作業につき各5枚を7mmずつ離して取り付
けた。
【0043】
スパッタ装置内を真空排気した後、Arガスを導入して装置内を1Paに維持して基板を
6rpmで回転させた。最初に、RF出力100WとDC出力10Wを加えて10分間の
逆スパッタを行い、次にRF100WとDC150Wを加えて10分間のスパッタを行っ
て、基板の両面にTiの下地膜を形成した。続いてこのTi成膜基板を装置の前室に移送
して、RF200WとDC400Wを加え80分間のスパッタを行って、上記基板両面に
Nd-Fe-B膜を形成した。さらに、これら基板をArガス雰囲気中に置かれた電気炉
に装填して600~1250℃で30分間加熱した後炉冷して、熱処理温度の違いによっ
て結晶粒径の違いを生じた各種の試料、すなわち、本発明試料(5)~(9)、及び比較
例試料(9)~(10)とした。
【0044】
成膜された各膜の厚さは、事前に基板の一部をマスキングして同一スパッタ条件で成膜し
、表面粗さ計によって測定した結果、Ti膜が0.15μm、Nd-Fe-B膜が20μ
mであった。また、Nd-Fe-B膜中のNd量は33.2質量%であった。熱処理後の
試料はすべてEDX分析機能を備えたSEM装置を用いて観察し、その画像からNd2
14B結晶粒径を求めた。2次電子像観察からは本発明試料(5)~(9)では各結晶粒
の間にNdとOが高濃度に分布した厚さがおよそ0.1μmの粒界相が見られた。一方、
比較例試料(9)~(10)では、明瞭な粒界相は認められなかった。
【0045】
表2に、各試料の熱処理温度と結晶粒径、及び膜面に垂直方向に1.2MA/mの低磁界
を加えた場合の残留磁化Br/1.2と保磁力Hcj/1.2の値を示す。
【0046】
【表2】
JP0004698581B2_000003t.gif

【0047】
表2から明らかなように、熱処理温度が700℃以上の場合に単磁区粒子径0.3μmを
超える結晶粒径が得られ、高温度になるに従って結晶が成長して粒径が大きくなる。比較
例試料(9)は、結晶粒径が小さいため保磁力は大きいが、着磁性が悪いために残留磁化
が低い。比較例試料(10)は、結晶粒径が過大であるために保磁力が著しく低下して残
留磁化の低下を招き、さらに合金成分が一部融液となって膜の表面が凹凸状態を生じた。
【0048】
さらに、図4に各試料の結晶粒径と(BH)max/1.2及び(BH)max/2.4の関係を示す。
図4によれば、結晶粒径が大きくなるに従って(BH)max/1.2の値は(BH)max/2.4の
値に近くなり、即ち着磁性が良くなる傾向を示している。さらに、(BH)max/2.4は、
結晶粒径が0.7~27μmの本発明試料(5)~(9)において150kJ/m3以上、
(6)~(8)において200kJ/m3以上、最大で245kJ/m3であり、高い最大エ
ネルギー積が得られた。
【実施例3】
【0049】
Nd-Fe-B合金ターゲット一対に各2本のNd棒と各1本のDy棒を装填し、実施例
1で用いたFe基板2枚を治具に密着固定して、それぞれスパッタ装置に取り付けた。装
置内を0.5Paに維持して基板を6rpmで回転させ、最初に、RF出力30WとDC
出力4Wを加えて10分間の逆スパッタを行い、RF200WとDC500Wを加えて0
.5分~24時間のスパッタを行って、上記2枚の基板片面にNd-Dy-Fe-B膜を
形成した。一方の基板は膜厚測定に使用し、他方を熱処理に用いた。熱処理は、これら基
板を真空中で赤外加熱することにより820℃まで急速昇温させ、10分間保持後冷却し
た。得られた試料はそれぞれ膜厚に従って、0.15μmの比較例試料(11)、0.2
6μmの本発明試料(10)~374μmの本発明試料(16)、及び455μmの比較
例試料(12)とした。
【0050】
各試料の組成分析の結果は、Nd-Dy-Fe-B膜中のNd量は29.8質量%でDy
が4.3質量%であり、希土類量の合計は34.1質量%であった。また結晶粒径はすべ
て5~8μmの範囲であった。また、2次電子像観察からは各試料とも各結晶粒の間にN
dとOが高濃度に分布した厚さが0.2μm以下の粒界相が見られた。
【0051】
図5に、各試料の膜厚と(BH)max/1.2及び(BH)max/2.4の関係を示す。図5から明
らかなように、膜厚0.15μmの比較例試料(11)は膜厚が薄すぎるために結晶の体
積が小さく、従って単磁区粒子的な保磁力機構の挙動が支配的となって着磁性が悪く、結
果として(BH)max/1.2と(BH)max/2.4の差異が大きい。また、比較例試料(12)
は膜が厚過ぎるために結晶の垂直配向性の乱れが大きくなって(BH)maxが低下する傾
向を示した。従って、高いエネルギー積を得るには膜の厚さを0.2から400μmとす
ることが適切であることが明らかになった。
【実施例4】
【0052】
ターゲットは実施例3と同じくし、基材は直径0.3mm、長さ12mmのSUS420
系ステンレス鋼製の軸を使用した。装置内を1Paに維持して基材を10rpmで回転さ
せながら、RF出力20WとDC出力2Wを加えて10分間の逆スパッタを行い、RF2
00WとDC500Wを加えて4時間のスパッタを行って、基材軸の表面に46μmのN
d-Dy-Fe-B膜を形成したものを2個製作した。次に、成膜した軸を電気炉に装填
して、一方を800℃で他方を550℃で各30分間保持して炉冷し、前者を本発明試料
(17)、後者を比較例試料(13)とした。
各試料の組成分析の結果は、Nd-Dy-Fe-B膜中のNd量は30.6質量%でDy
が4.4質量%であり、希土類量の合計は35.0質量%であった。また、本発明試料(
17)の結晶粒径は3~7μmであり、2次電子像観察からは各結晶粒の間にNdとOが
高濃度に分布した厚さが0.2μm以下の粒界相が見られた。一方、比較例試料(13)
は、結晶粒径は約0.2μmであり、明瞭な粒界相は認められなかった。
【0053】
磁気特性の測定は、成膜した軸の直角方向に磁界を0.8~2.4MA/m加えて行い、
実施例1と同様に成膜前の軸を同一温度で熱処理した試料の特性を差し引いた後、Nd-
Dy-Fe-B膜の磁気特性を求めた。なお、軸と平行方向に磁界を加えて測定した結果
を上記結果と比較した場合に、残留磁化の値は同等レベルであったため、本例試料では磁
気的に等方的な膜が得られたと推測される。
【0054】
図6に、本発明試料(17)と比較例試料(13)についての、磁界に対する最大エネル
ギー積の関係を示す。図6から明らかなように、比較例試料(13)と比較して本発明試
料(17)は、磁界の大きさに対する最大エネルギー積の差異が小さく、低い磁界で高い
値が得られることが分った。
【産業上の利用可能性】
【0055】
R含有量と結晶粒径を制御したR-Fe-B系薄膜磁石において、R2Fe14B結晶とR
元素が富化した粒界相との複合組織を形成させることにより、従来薄膜磁石と比較し
て優れた着磁性を有する薄膜磁石を製作することができた。これにより、狭い空間に強大
な磁界を発生することが困難なマイクロマシンやセンサ、及び小型の医療・情報機器向け
薄膜磁石を、充分に着磁することが可能となり、各種機器の高性能化に貢献するものであ
る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】焼結磁石(a)と従来例の薄膜磁石(b)の、初磁化曲線と減磁曲線である。
【図2】本発明試料と比較例試料の、Nd量と(BH)maxの関係図である。
【図3】本発明試料(2)と比較例試料()の初磁化曲線と減磁曲線である。
【図4】本発明試料と比較例試料の、結晶粒径と(BH)maxの関係図である。
【図5】本発明試料と比較例試料の、膜厚と(BH)maxの関係図である。
【図6】本発明試料(17)と比較例試料(13)の、磁界と(BH)maxの関係図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5