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明細書 :水中アルドール反応方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4562728号 (P4562728)
登録日 平成22年8月6日(2010.8.6)
発行日 平成22年10月13日(2010.10.13)
発明の名称または考案の名称 水中アルドール反応方法
国際特許分類 C07C  45/68        (2006.01)
C07C  49/82        (2006.01)
C07C  49/84        (2006.01)
C07C  49/747       (2006.01)
C07C 327/22        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 45/68
C07C 49/82
C07C 49/84 C
C07C 49/747 B
C07C 327/22
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2006-512480 (P2006-512480)
出願日 平成17年2月14日(2005.2.14)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成16年2月14日 「Chemistry Letters,Vol.33,2004」の記載として、インターネット上(http://www.chemistry.or.jp/journals/chem-lett/cl_news.html)に発表
特許法第30条第1項適用 平成16年3月 「Chemistry Letters,Vol.33,No.3(2004)312-313」に発表
国際出願番号 PCT/JP2005/002657
国際公開番号 WO2005/102979
国際公開日 平成17年11月3日(2005.11.3)
優先権出願番号 2004130242
優先日 平成16年4月26日(2004.4.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年3月16日(2007.3.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小林 修
【氏名】眞鍋 敬
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】水島 英一郎
参考文献・文献 日本化学会第84春季年会-講演予稿集II,日本,社団法人日本化学会,2004年 3月11日,1272頁
Chemistry Letters,日本,2004年,Vol. 33, No. 3,312-313
調査した分野 C07C 45/72
C07C 49/747
C07C 49/83
C07C 49/835
C07C 49/84
C07C 327/22
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
次式(I)
JP0004562728B2_000013t.gif(ただし、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である)
で表されるアルデヒドと、次式(II)
JP0004562728B2_000014t.gif(ただし、R1およびR2は別異に、水素原子、または脂肪族炭化水素基であり、少なくともいずれか一方は脂肪族炭化水素基であり、R3は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、および含硫黄置換基からなる群より選択される置換基であり、R2とR3は結合して環を形成していてもよい)で表されるケイ素エノラートを、水中で、FeCl3、およびカチオン性界面活性剤のセチルトリメチルアンモニウムブロミドもしくは非イオン性界面活性剤のTriton(登録商標)X-100の存在下で反応させることを特徴とする水中アルドール反応方法。
【請求項2】
塩基の共存下で反応させる請求項1の水中アルドール反応方法。
【請求項3】
塩基は水酸化ナトリウムとする請求項2の水中アルドール反応方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、水中アルドール反応方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、FeCl3および界面活性剤の存在下、水中においてアルデヒドとケイ素エノラートを反応させ、ジアステレオ選択性高く生成物を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有害な有機溶媒を使用することなく、水中で有機合成反応を行う方法が、環境保全の観点から注目されている(非特許文献1~3)。これまでに、例えば、スカンジウム、イッテルビウム等の希土類金属とアニオン性界面活性剤を組み合わせたルイス酸触媒(非特許文献4~7)が、水中において、アルドール反応(非特許文献4~9)、アリル化反応(非特許文献10)、マイケル反応(非特許文献11)等を効果的に触媒することが報告されている。
【0003】
これらの反応は、立体選択性高く、高収率で進行するという利点があるが、希土類金属は高価なために、このような触媒系を用いての反応は、高コストになりやすいという難点があった。
【0004】
一方、金属エノラートやエノール誘導体のカルボニル化合物への付加反応によりβ-ヒドロキシカルボニル化合物を与えるアルドール反応は、炭素-炭素結合を形成できる重要な方法として知られており、天然物の合成にも広く用いられている。このようなアルドール反応を、水中で安価に行い、ジアステレオ選択性高く生成物を得ることができれば、反応のコストダウンに繋がり、工業スケールでの天然物合成への応用等が期待される。
【0005】
したがって、水中においても高い触媒活性を示す、より安価なルイス酸触媒と、それを用いて高ジアステレオ選択的に、水中でアルドール反応を行う方法の検討が望まれた。
【0006】

【非特許文献1】C.-J. Li and T.-H. Chan, "Organic Reactions in Aqueous Media," John Wiley & Sons, New York (1997).
【非特許文献2】P. A. Grieco "Organic Synthesis in Water," Blackie Academic and Professional, London (1998).
【非特許文献3】S. Kobayashi and K. Manabe, Acc. Chem. Res., 35, 209 (2002).
【非特許文献4】K. Manabe, Y. Mori, T. Wakabayashi, S. Nagayama, and S. Kobayashi, J. Am. Chem. Soc., 122, 7202 (2000).
【非特許文献5】S. Kobayashi and T. Wakabayashi, Tetrahedron Lett., 39, 5389 (1998).
【非特許文献6】K. Manabe, Y. Mori, and S. Kobayashi, Tetrahedron, 55, 11203 (1999).
【非特許文献7】K. Manabe and S. Kobayashi, Synlett. 1999, 547.
【非特許文献8】Y. Mori, K. Manabe, and S. Kobayashi, Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2816 (2001)
【非特許文献9】Y. Mori, J. Kobayashi, K. Manabe, and S. Kobayashi, Tetraheron, 58, 8263 (2002).
【非特許文献10】S. Kobayashi, T. Wakabayashi, and H. Oyamada, Chem. Lett., 1997, 831.
【非特許文献11】Y. Mori, K. Kakumoto, K. Manabe, and S. Kobayashi, Tetrahedron Lett., 41, 3107 (2000).
【非特許文献12】S. Kobayashi, S. Nagayama, and T. Busujima, J. Am. Chem. Soc., 120, 8287 (1998).
【非特許文献13】E.P. Kundig and C. M. Saudan "Lewis acids in Organic Synthesis" ed. by H. Yamamoto, Wiley-VCH, Weinheim (2000), Vol. 2, Chap. 14, p. 597.
【非特許文献14】O. Munoz-Muniz, M. Quintanar-Audelo, and E. Juaristi, J. Org. Chem., 68, 1622 (2003). そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、水中におけるアルドール反応を、ジアステレオ選択性高く、安価に実施するための方法を提供することを課題としている。
【発明の開示】
【0007】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、次式(I)
JP0004562728B2_000002t.gif
【0008】
(ただし、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である)
で表されるアルデヒドと、次式(II)
JP0004562728B2_000003t.gif
【0009】
(ただし、R1およびR2は別異に、水素原子、または脂肪族炭化水素基であり、少なくともいずれか一方は脂肪族炭化水素基であり、R3は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、および含硫黄置換基からなる群より選択される置換基であり、R2とR3は結合して環を形成していてもよい)で表されるケイ素エノラートを、水中で、FeCl3、およびカチオン性界面活性剤のセチルトリメチルアンモニウムブロミドもしくは非イオン性界面活性剤のTriton(登録商標)X-100の存在下で反応させることを特徴とする水中アルドール反応方法を提供する。
【0011】
この出願の発明は、さらに、第には、塩基の共存下で反応を行う前記の水中アルドール反応方法を、そして、第には、該塩基が水酸化ナトリウムである水中アルドール反応方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この出願の発明の水中アルドール反応方法は、アルデヒドとケイ素エノラートを、水中で、ジアステレオ選択的に反応させるものであり、触媒系としてFeCl3と界面活性剤を用いることを特徴とする。
【0013】
この出願の発明の水中アルドール反応方法において、触媒として使用されるFeCl3は、従来、水に非適合である(水中での触媒活性がない、または低い)と考えられてきた(非特許文献12)。この出願の発明者らは、鋭意研究の結果、FeCl3を界面活性剤と共存させることにより、高収率かつ高ジアステレオ選択的に水中アルドール反応が進行することを見出し、本願発明に至ったものである。
【0014】
また、FeCl3は、強いルイス酸性を示す化合物である(非特許文献13)とともに、極めて安価(例えば、Sc(OTf)3に比べて1g当り約1/100以下の価格)で入手が容易であるという点で、従来の希土類金属化合物を触媒とした水中アルドール反応方法に比べて優位であるといえる。
【0015】
この出願の発明の水中アルドール反応方法において、アルデヒドは、次式(I)
JP0004562728B2_000004t.gif
【0016】
で表される。式(I)において、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基であり、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル等のアルキル基、ビニル、プロペニル、ブテニル等のアルケニル基、エチニル、プロピニル等のアルキニル基、フェニル、トルイル等のアリール基等が挙げられる。これらは、さらに、芳香族炭化水素基、ハロゲン基、アルコキシ基等で置換されていてもよい。
【0017】
一方、ケイ素エノラートは、次式(II)
JP0004562728B2_000005t.gif
【0018】
で表されるものである。式(II)におけるR1およびR2は別異に、水素原子、または脂肪族炭化水素基であるが、このとき、少なくともいずれか一方は脂肪族炭化水素基である。
【0019】
脂肪族炭化水素基としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル等のアルキル基が例示される。また、式(II)におけるR3は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、および含硫黄置換基からなる群より選択される置換基である。具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチ
ル、tert-ブチル等のアルキル基、フェニル、トリル、ナフチル等のアリール基、アルキルチオ基、アリールチオ基等の含硫黄置換基等が例示される。これら、R2とR3は、さらに、結合して脂肪族環を形成していてもよい。
【0020】
この出願の発明者らの研究によれば、このような水中アルドール反応方法は、ケイ素エノラートが、式(II)におけるR1がアルキル基であり、R2が水素原子である場合にとくに高いジアステレオ選択性を示す。
【0021】
以上のとおりのこの出願の発明の水中アルドール反応方法において、FeCl3とともに触媒系を構成する界面活性剤は、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、Triton(登録商標)X-100が適用できる
【0022】
これらの界面活性剤の添加量はとくに限定されないが、例えば、反応基質であるアルデヒドに対して1~100 mol%とすることができる。
【0023】
この出願の発明の水中アルドール反応方法では、また、ケイ素エノラートの加水分解を防止し、反応収率をより向上させる目的で、反応系に塩基を共存させてもよい。塩基の種類はとくに限定されないが、例えば、NaOH、KOH、イミダゾール、トリエチルアミン等が例示される。中でもNaOHが好ましく例示される。また、塩基の添加量はとくに限定されないが、好ましくは反応基質であるアルデヒドに対して1~10 mol%とする。 また、この出願の発明の水中アルドール反応方法において、反応溶媒は水である。後述の実施例にも示されるとおり、この水中アルドール反応方法は、有機溶媒存在下よりも水のみを反応溶媒とした系において高い収率を示す。
【0024】
以下、実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0025】
参考例1>
次の反応式(A)に示されるベンズアルデヒドとケイ素エノラート(化合物1)の反応をモデル反応として、ドデシル硫酸ナトリウム(以下SDS)の存在下、各種の金属塩の触媒能を比較した。
JP0004562728B2_000006t.gif
【0026】
式(A)の反応では、ケイ素エノラートの加水分解反応が、目的とするアルドール反応と競合することから、アルドール反応用触媒をスクリーニングする上で、指標として適当であるといえる。各種の金属塩の中でもFeCl3は、適当な収率を示し、従来報告されているSc(OTf)3と比較して高いsyn/anti選択性で生成物を与えることが確認された(表1)。
【0027】
【表1】
JP0004562728B2_000007t.gif

【0028】
また、水/界面活性剤における反応は、水/THF混合溶媒における反応に比較して高い収率とジアステレオ選択性を示すことが確認された。これは、水/界面活性剤による不均一系では、プロトンによるケイ素エノラート(1)の加水分解反応が抑制されるためと考えられる。
参考例2>
そこで、次に反応式(B)に示される条件で、FeCl3およびSc(OTf)3を触媒とした場合のジアステレオ選択性を比較した(表2)。
JP0004562728B2_000008t.gif
【0029】
【表2】
JP0004562728B2_000009t.gif

【0030】
Juaristiらは、CeCl3を用いた水性溶媒中でのアルドール反応(H2O/i-PrOH = 1/19)において、生成物のエピマー化が見られたと報告している(非特許文献14)。しかし、本願発明のFeCl3、および発明者らがこれまでに報告しているSc(OTf)3を触媒として用いた反応では、ジアステレオ選択性の経時変化が見られなかった。また、ジアステレオマー比を高めた生成物をこれらの触媒系で直接処理した場合にも、ジアステレオマー比に変化は見られなかった(表3)。
【0031】
【表3】
JP0004562728B2_000010t.gif

【0032】
以上より、これらの触媒を用いた水中アルドール反応では、エピマー化が起こらないことが確認された。
実施例
次に、FeCl3を触媒とした水中アルドール反応を最適化するために、界面活性剤種の影響を検討した。結果を表4に示した。
【0033】
【表4】
JP0004562728B2_000011t.gif

【0034】
表4より、各種の界面活性剤の中でも、アニオン性界面活性剤(SDSや長鎖アルキル基を有するベンゼンスルホン酸ナトリウム)を用いた系では、高い収率とジアステレオ選択性で生成物を得られることが確認された(反応1~4、8および9)。一方、界面活性剤を添加しない場合には、ジアステレオ選択性は高いものの、反応収率が極めて低いものとなることが明らかになった(反応5)。また、カチオン性界面活性剤のCTABや非イオン性界面活性剤のTriton(登録商標)X-100を用いた系でも、高いジアステレオ選択性が得られたものの、反応収率が低かった(反応6および7)。
参考例3
そこで、FeCl3-界面活性剤系を触媒として、各種のアルデヒドとケイ素エノラートのアルドール反応(反応時間:12~24時間)を検討した。表5に結果を示した。
【0035】
【表5】
JP0004562728B2_000012t.gif

【0036】
ケイ素エノラート(化合物1)と、芳香族アルデヒド、α,β-不飽和アルデヒド、および脂肪族アルデヒドとの反応により対応する生成物が良好な収率と高いジアステレオ選択性で得られた(反応1~3)。また、チオプロピオン酸S-tert-ブチル由来のケイ素エノラート(化合物(E)-2)を出発物質とした場合には、化合物(E)-2の加水分解が急速に進んだために収率の低下が見られたものの、高いジアステレオ選択性が得られた(反応4)。そこで、ケイ素エノラートの加水分解を抑制するために、この反応系に各種の塩基を添加した。試験した複数の塩基の中でも、NaOHは、反応収率を61 %にまで上昇させることができた(反応5)。
【0037】
ケイ素エノラートとして化合物(Z)-2および化合物3を用いた場合、反応のジアステレオ選択性は中程度から低いものであったが、化合物4を用いた場合には非常に高いジアステレオ選択性が発現した。反応1~5の結果と併せて考察すると、シリルオキシ基のシス位に置換基を有する場合に特に高いジアステレオ選択性が発現する傾向が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、高いジアステレオ選択性で生成物を得るための水中アルドール反応方法が提供される。
【0039】
また、上記第1の発明の水中アルドール反応方法では、強いルイス酸性を示すことで知られるFeCl3と界面活性剤を触媒系として使用することにより、アルデヒドとケイ素エノラートの水中アルドール反応が高いジアステレオ選択性と収率で進行する。従来、FeCl3は水に対して非適合であると考えられてきた(非特許文献12)が、この出願の発明者らは、FeCl3が水中においてもルイス酸触媒として効果的に作用することを見出した。さらに、FeCl3は非常に安価であることから、このような水中アルドール反応方法は、工業スケールでの天然物合成等への適用も期待できる。
【0041】
そして、上記第および第の発明の水中アルドール反応方法では、反応系に塩基、例えば水酸化ナトリウムを共存させることにより、ケイ素エノラートの加水分解が抑制され、反応収率が上昇する。