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明細書 :標的分子の認識場が再構築可能な分子認識ポリマーおよびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5184780号 (P5184780)
登録日 平成25年1月25日(2013.1.25)
発行日 平成25年4月17日(2013.4.17)
発明の名称または考案の名称 標的分子の認識場が再構築可能な分子認識ポリマーおよびその製造方法
国際特許分類 C08F   2/44        (2006.01)
C08F   8/00        (2006.01)
C07F   3/06        (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
FI C08F 2/44 B
C08F 8/00
C07F 3/06
C07D 487/22
請求項の数または発明の数 5
全頁数 20
出願番号 特願2006-512999 (P2006-512999)
出願日 平成17年5月6日(2005.5.6)
国際出願番号 PCT/JP2005/008351
国際公開番号 WO2005/108443
国際公開日 平成17年11月17日(2005.11.17)
優先権出願番号 2004139046
優先日 平成16年5月7日(2004.5.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年11月6日(2006.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】竹内 俊文
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】久保田 英樹
参考文献・文献 国際公開第03/034043(WO,A1)
特開2005-114644(JP,A)
特開平11-255948(JP,A)
特開2003-073419(JP,A)
特開2000-107597(JP,A)
特開2000-356639(JP,A)
特開2004-347316(JP,A)
調査した分野 C08F 2/00- 2/60
C08F 8/00- 8/50
C08F 12/00- 34/04
C08L 1/00-101/14
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子の重合体、該重合体に吸着している、標的分子と相互作用する分子とを有する分子認識ポリマーであって、
上記分子認識ポリマー中に、標的分子を認識するための空間が形成されており、
かつ、上記標的分子と相互作用する分子を、上記重合体に対して着することができ、
上記標的分子または上記標的分子と相互作用する分子の少なくともいずれかが生体分子であり、
上記標的分子と相互作用する分子は、ポルフィリン亜鉛錯体であることを特徴とする分子認識ポリマー。
【請求項2】
上記標的分子と相互作用する分子は、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有していることを特徴とする請求項1に記載の分子認識ポリマー。
【請求項3】
上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子は、標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の分子認識ポリマー。
【請求項4】
上記標的分子と上記標的分子と相互作用する分子とが共に存在する場合に、上記標的分子と結合することができることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の分子認識ポリマー。
【請求項5】
請求項3に記載の分子認識ポリマーの製造方法であって、
上記標的分子と、上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子が有する、上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基とを結合させ複合体を合成する、複合体合成工程と、
上記複合体と上記標的分子と相互作用する分子と、を架橋剤によって共重合し重合体を得る重合工程と、
得られた重合体から上記標的分子および上記標的分子と相互作用する分子を脱離させる脱離工程とを含む分子認識ポリマーの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子の認識場が再構築可能な分子認識ポリマーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体系には極めて多種多様な化学種が含まれている。これらの化学種の相互作用、あるいは化学反応を整然とした秩序を保って行うことにより、生体系はその活動を維持している。この秩序を保っているものは、生体系に含まれる分子自身がもつ分子認識機能であり、生体機能分子の最小必要機能とされている。生体内では高度に洗練されたこの分子認識機能の組み合わせにより、様々な特異的機能の発現を可能にしている。このような生体系の優れた機能を模倣し、応用しようという試みのひとつに、人工レセプターの創成があり、新しい機能性材料の一つとして頻繁に研究・開発が行われている。
【0003】
近年、標的分子を特異的に認識できる人工レセプター合成法の1つとして、モレキュラーインプリンティング法という手法が注目されている(非特許文献1参照)。モレキュラーインプリンティング法とはポリマーに対して認識させたい分子(標的分子)の形をインプリント(押印)し、その結果生じた穴(標的分子認識場)を用いて分子認識を行う技術である。まず、標的分子と、当該標的分子に対して特異的に相互作用する部位とビニル基などの重合可能な官能基をもつ分子(機能性モノマー)とを架橋剤とともにラジカル重合させ、その後、標的分子をポリマー内から除去することによって、標的分子に対して相補的な結合部位をポリマー内に構築する。このようにして合成したポリマーをモレキュラーインプリントポリマーと呼ぶ。
【0004】
高い分子認識機能を得るためには、いかにうまく選択性を有する穴(標的分子認識場)をポリマー内に安定に構築できるかがポイントであり、標的分子と機能性モノマーの相互作用様式の設計がこれに大きな影響を及ぼす。一般的には、この様式は非共有結合型と共有結合型に大別される。前者は水素結合や静電的相互作用などの非共有結合を利用して、重合反応溶液中に標的分子-機能性モノマー複合体を生じさせる方法であり、後者は、あらかじめ複合体を合成・単離し、それを架橋剤とともに重合する方法である。この二つの方法は、標的分子の化学的性質によって、より有効な効果がでるように使い分けられている。モレキュラーインプリンティング法は標的分子を中心として機能性モノマー、架橋性モノマーによる結合部位の構築が進むので、結合部位のエントロピー的な最適化を行うと同時に、テーラーメイド的に分子認識場を得ることが可能である。
【0005】
また、分子認識ポリマー中の結合部位(機能性モノマー)に標的分子が結合するとシグナルを発信するようなシグナリング分子を有する分子認識ポリマーは、センシング素子として極めて有用である。例えば、本発明者らはポルフィリン亜鉛錯体を機能性モノマーとし、それに軸配位可能なシンコニジンを標的分子として、ターゲットの結合による蛍光の消光によるセンシングが可能なモレキュラーインプリントポリマーを開発している(非特許文献2参照)。

【非特許文献1】蒲池幹治、遠藤剛監修者、『ラジカル重合ハンドブック』(1999)エヌティーエス
【非特許文献2】Matsui,J.,Higashi,M.,Takeuchi,T.Molecularly Imprinted Polymer as 9-Ethyladenine Receptor Having a Porphyrin-based Recognition Center,J.Am.Chem.Soc.2000,122,5218-5219.
【0006】
上述のように、分子認識機能を持つ人工レセプターの設計と合成は、バイオミメティックスの重要な研究分野であり、多種多様のホスト分子がこれまで合成されてきている。しかしながら、生体系のレセプターに匹敵する精緻な機能を発揮する人工レセプターは殆ど知られていない。これは、生体系の機能発現機構が、多段階の分子認識機能を含むことに起因している。
【0007】
生体系では、分子認識されるべき分子を供給し、分子認識の結果レセプターが発する情報を読み取るための多くの補助・支援システムがあって初めて完全な機能を発現している。このような生体系のシステムを人工的に構築することは、複雑な生命現象を分子間相互作用としてとらえ、一般性を持たせることにつながる。これにより、生命現象をより深く、より正確に理解することができ、さらにその応用が可能になると考えられる。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の分子の存在により機能発現(標的分子の特異的な認識)が可能となるよう、標的分子の認識場の再構築が可能な分子認識ポリマー、および当該分子認識ポリマーの製造方法を提供することにある。
【発明の開示】
【0009】
本発明者は、複数の分子の存在により機能発現(標的分子の特異的な認識)が可能となる人工レセプターを創生するために、標的分子に対する認識場を構築後、一度その機能を破壊させ、さらに再構築が可能なシステムができればよいことを着想し、当該着想を実現するために鋭意検討した結果、モレキュラーインプリンティング法を用いることにより、標的分子の認識場が再構築可能な分子認識ポリマーを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る分子認識ポリマーは、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子と標的分子と相互作用する分子とを有する分子認識ポリマーであって、上記分子認識ポリマー中に、標的分子に対して相補的な標的分子認識場が形成されており、かつ、上記標的分子と相互作用する分子を脱着または交換することができることを特徴としている。これにより、標的分子認識場を再構築することが可能な分子認識ポリマーを実現することができる。
【0011】
上記標的分子と相互作用する分子は、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有していることが好ましい。これにより、分子認識ポリマーと標的分子との結合状態を容易に検出することができる。また、情報発信機能を有する分子を交換すれば、異なる機能を有する分子認識ポリマーを容易に作製できる。
【0012】
上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子は、標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基を有することが好ましい。標的分子と共有結合した複合体を鋳型としてポリマーを合成することにより、安定した標的分子認識場を維持することができる。
【0013】
本発明に係る分子認識ポリマーは、上記標的分子と上記標的分子と相互作用する分子とが共に存在する場合に、上記標的分子と結合することができることを特徴としている。また、上記標的分子または上記標的分子と相互作用する分子の少なくともいずれかが生体分子であることが好ましい。これにより分子間の相互作用をより正確に解析でき、生体系における複雑な分子間相互作用の解析に利用することが可能となる。上記標的分子と相互作用する分子としては、ポルフィリンまたはポルフィリン錯体を挙げることができる。
【0014】
本発明に係る分子認識ポリマーの製造方法は、上記標的分子と上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基とを結合させ、複合体を合成する、複合体合成工程と、上記複合体と上記標的分子と相互作用する分子とを、架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、得られた重合体から上記標的分子および上記標的分子と相互作用する分子を脱離させる脱離工程とを含むものである。この製造方法により、本発明にかかる分子認識ポリマーを製造することができる。
【0015】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シンコニジンおよびメタクリル酸の複合体とポルフィリン亜鉛錯体との相互作用を示す図である。
【図2】実施例における分子認識ポリマー作製手順の概略を示す図である。
【図3】シンコニジンの誘導体化のスキームを示す図である。
【図4】ポルフィリンの誘導体化のスキームを示す図である。
【図5】ポルフィリンの再結合実験におけるZnTPyP溶液のUVスペクトルを示すグラフである。
【図6】シンコニンによる吸着量比較実験におけるCD溶液およびCN溶液のUVスペクトルを示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
〔分子認識ポリマー〕
本発明に係る分子認識ポリマーは、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子と標的分子と相互作用する分子とを有する分子認識ポリマーであって、上記分子認識ポリマー中に、標的分子に対して相補的な標的分子認識場が形成されており、かつ、上記標的分子と相互作用する分子を脱着または交換することができるものであればよい。
【0019】
標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子は、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合を形成できる官能基および重合可能な官能基を共に有するものであれば特に限定されるものではない。特異的かつ可逆的な結合は、非共有結合でもよく、共有結合でもよい。非共有結合としては、水素結合供与性基(アミド基上の水素原子、カルボキシル基上の水素原子、アミノ基、水酸基、フェノール性水酸基等)と水素結合受容性基(アミド基のカルボニル部分、カルボキシル基のカルボニル部分、ピリジン環等の含窒素複素環上の窒素原子等)との水素結合や、イオン結合(陽イオンと陰イオンとの静電的相互作用)等が挙げることができる。また、共有結合としては、ボロン酸基とcis-ジオールとのエステル結合、アルデヒドと水酸基とのアセタール結合、ケトンと水酸基とのケタール結合、アルデヒドとアミノ基との結合によって形成されるシッフ塩基、金属錯体(例えば亜鉛ポルフィリン)を用いた配位結合、カルボキシル基と水酸基とのエステル結合、カルボキシル基とアミノ基とのアミド結合等が挙げることができる。
【0020】
標的分子と相互作用する分子は、後述する当該分子認識ポリマーの製造工程において、重合体から脱離可能なものであれば特に限定されるものではなく、標的分子に応じて適宜選択すればよい。また、標的分子も特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、生体成分、薬物、環境負荷物質等を標的分子とすれば、産業上の利用価値が高い分子認識ポリマーを実現することができる。
【0021】
標的分子に対して相補的な標的分子認識場とは、当該分子認識ポリマー中に形成される標的分子を認識するための空間を意味する。この標的分子認識場は、当該分子認識ポリマー内部において、上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子と標的分子と相互作用する分子とにより形成される。これらの分子によって標的分子との相補性が高い空間(標的分子認識場)が安定に形成されれば、高い標的分子認識機能を有する分子認識ポリマーを実現することができる。
【0022】
本発明に係る分子認識ポリマーは、上記標的分子と相互作用する分子を脱着または交換することができることを特徴としている。脱着とは、分子認識ポリマー中の当該標的分子と相互作用する分子を一旦分子認識ポリマーから脱離させ、後に再度当該標的分子と相互作用する分子を分子認識ポリマーに吸着(結合)させることをいう。ただし、再吸着させる分子は脱離させた分子そのものでなくてもよく、分子種として同一であればよいことはいうまでもない。また、交換とは、分子認識ポリマー中の当該標的分子と相互作用する分子を一旦分子認識ポリマーから脱離させ、例えば、類似の骨格を有する他の分子や、元の分子に修飾を加えた分子等を、後に再吸着(結合)させることをいう。
【0023】
上記標的分子と相互作用する分子は、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有していることが好ましい。情報を発信する機能とは、標的分子と相互作用する前後において、当該分子が有する性質や構造が変化し、その変化を検出することができるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、電気化学的な情報、分光学的な情報、触媒活性による情報等を挙げることができる。電気化学的な情報を発信する機能を有する分子を用いた場合には、例えば電極と組み合わせる電気化学的検出手段等によって分子認識ポリマーと標的分子との結合を検出することができる。分光学的な情報を発信する機能を有する分子を用いた場合には、例えば光ファイバーを用いたオプティカルセンシング等によって分子認識ポリマーと標的分子との結合を検出することができる。触媒活性による情報を発信する機能を有する分子を用いた場合には、例えば触媒反応の結果生じる生成物を上記の電気化学的検出あるいは分光学的検出というような手段によって分子認識ポリマーと標的分子との結合を検出することができる。このように、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有する分子を用いた分子認識ポリマーによれば、分子認識ポリマーと標的分子との結合を容易に検出することができるため、非常に有用である。
【0024】
さらに、上記標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有する分子は交換することが可能であるため、一度特定の標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有する分子を用いて分子認識ポリマーを作製した後に、当該分子を他の情報発信機能を有する分子に交換すれば、1つの分子認識ポリマーを作製するだけで何通りもの機能が異なる分子認識ポリマーを生み出すことが可能となる。また、当該分子が有する情報発信機能が使用に伴って劣化した場合でも、交換することにより修復が可能である。使用に伴う劣化とは、例えば、標的分子と相互作用することにより蛍光を発する機能を有する分子を用いている場合に、蛍光強度が減少する場合等を挙げることができる。
【0025】
上記標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子と標的分子との結合は可逆的な共有結合であることが好ましい。すなわち、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子は、標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基を有するものであることが好ましい。
【0026】
後述の〔製造方法〕において説明するように、本発明に係る分子認識ポリマーはモレキュラーインプリンティング法により製造できる。このモレキュラーインプリンティング法には、水素結合や静電的相互作用などの非共有結合を利用して、重合反応溶液中に標的分子-機能性モノマー(標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子)複合体を生じさせる非共有結合型モレキュラーインプリンティング法と、あらかじめ標的分子と機能性モノマー(標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子)とが共有結合を形成した複合体を合成・単離し、それを架橋剤とともに重合する共有結合型モレキュラーインプリンティング法がある。
【0027】
本発明者は、標的分子にアルカロイドの一種であるシンコニジン、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子にメタクリル酸、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有する分子にポルフィリン亜鉛錯体を用いて、分子認識ポリマーを合成したところ、非共有結合型モレキュラーインプリンティング法で合成した場合に、ポルフィリン亜鉛錯体を一旦脱離させた後、再吸着させて標的分子認識場の再構築を行うと、再構築された認識場は十分な機能を維持できず、非特異的なシンコニジンの吸着が増加することを見出した。一方、同様の分子認識ポリマーを共有結合型モレキュラーインプリンティング法で合成した場合には、非特異的なシンコニジンの吸収が減少し特異性が向上することを見出した。したがって、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子は、標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基を有するものであることが好ましく、あらかじめ標的分子と共有結合により複合体を形成した後に重合反応を行うほうが、より安定した分子認識場を再構築できる。
【0028】
本発明に係る分子認識ポリマーは、標的分子と標的分子と相互作用する分子が共に存在する場合に標的分子と結合することができるものであることを特徴としている。例えば、標的分子と相互作用する分子が脱離した状態の分子認識ポリマーを、標的分子および標的分子と相互作用する分子が共に存在する溶液等に添加することにより、まず、当該溶液中で標的分子と相互作用する分子が分子標的ポリマーに結合して標的分子認識場が再構築される。続いて、標的分子認識場が再構築された分子認識ポリマーと標的分子とが結合することになる。これにより、分子間相互作用をより正確に解析することができ、本発明に係る分子認識ポリマーの応用範囲をより広げることが可能となる。
【0029】
本発明に係る分子認識ポリマーの標的分子または標的分子と相互作用する分子の少なくともいずれかが生体分子であることが好ましい。生体分子は生物中に存在する分子であればよく、特に限定されるものではない。標的分子または標的分子と相互作用する分子のいずれか一方、または両方に生体分子を用いれば、生体系における複雑な分子間相互作用の解析に利用することが可能となる。標的分子または標的分子と相互作用する分子のいずれか一方が生体分子である組み合わせとしては、例えば、一方が医薬品等の薬物で他方が当該薬物と相互作用する生体分子、一方が環境ホルモン等の環境負荷物質で他方が当該環境負荷物質と相互作用する生体分子等を挙げることができる。また、標的分子および標的分子と相互作用する分子の両方が生体物質である組み合わせとしては、例えば、酵素と基質、ホルモン等の情報伝達物質と受容体等を挙げることができる。
【0030】
本発明に係る分子認識ポリマーに好適に用いられる、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有している分子としては、例えば、メチルオレンジ、メチルレッドなどのアゾベンゼン系情報発信分子;ナフトキノン、アントラキノンなどのキノン系情報発信分子;フェノキサジン、マラカイトグリーンなどのジアリールメタン系およびトリアリールメタン系情報発信分子;フルオレセイン、ローダミンBなどのフルオラン系情報発信分子;インドシアニン、ヘミシアニンなどのシアニン系情報発信分子;テトラフェニルポルフィリン、フタロシアニンなどのポルフィリン・フタロシアニン系情報発信分子;オキサゾリルエチリデンイソプロピリデン無水コハク酸、アリールフルギン酸無水物などのフルギド系情報発信分子;インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ系情報発信分子;アントラセン、ピレンなどの縮合環系情報発信分子;テトラチアフルバレン-テトラシアノキノジメタンなどの電荷移動型情報発信分子;メタルジチオレン、キノリノール金属錯体などの金属錯体型情報発信分子;スチルベン、スチルバゾールなどのスチリル系情報発信分子;スピロベンゾピラン、スピロオキサジンなどのスピロピラン系情報発信分子;ジフリルエテン、ジチエニルエテンなどのジアリールエテン系情報発信分子;スクアリリウム、クロコニウムなどのスクアリリウム系情報発信分子;C60、C70などのフラーレン系情報発信分子;ベンジリデンアニリン、サリチルアルデヒドセミカルバゾンなどのシッフ塩基系情報発信分子;ケルセチン、アントシアニンなどのフラボノイド系情報発信分子を挙げることができる。
【0031】
上記標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有している分子としては、ポルフィリンまたはポルフィリン錯体が好ましい。ポルフィリンは、4つのピロール環がα位置で4つのメチン基と交互に結合した大環状化合物とその誘導体の総称である(化1参照)。
【0032】
【化1】
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【0033】
代表的なポルフィリンにプロトポルフィリン、エチオポルフィリン、メソポルフィリン等がある。吸収スペクトル、溶解度、酸解離定数などは置換基により大きな差がある。共通な吸収帯として可視部に強い4つのピーク、および400nm付近にソーレー帯という強いピークがある。これらは環の共役π電子系の状態と関連が深く、無機酸、有機溶媒中で赤紫色の蛍光を与える。ポルフィリンそのものは天然に存在しないが、誘導体である各種ポルフィリンには鉄、銅、マグネシウムを中心原子とする分子内錯塩が天然に見出されており、生理的に重要なものが多い。例えば、ヘモグロビン、シトクロム、カタラーゼなどには鉄ポルフィリンであるヘムまたはヘマチンが含まれ、植物の葉緑体にはマグネシウムの入ったクロロフィルが存在する。また、ポルフィリン錯体はポルフィリンを配位子とする金属錯体の総称である。
【0034】
ポルフィリンまたはポルフィリン錯体を標的分子と相互作用する分子とした場合、標的分子としてはポルフィリンまたはポルフィリン錯体と相互作用する分子であれば特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明者は、ポルフィリン亜鉛錯体を標的分子と相互作用する分子とし、標的分子をポルフィリン亜鉛錯体と軸配位可能なアルカロイドの一種であるシンコニジン(化2参照)として、標的分子認識場が再構築可能な分子認識ポリマーを作製した。なお、詳細については後述の〔実施例〕において説明する。
【0035】
【化2】
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【0036】
〔製造方法〕
本発明に係る分子認識ポリマーの製造方法は、標的分子と標的分子に対して特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基とを結合させ、複合体を合成する、複合体合成工程と、上記複合体と標的分子と相互作用する分子とを、架橋剤と共重合し、重合体を得る重合工程と、得られた重合体から上記標的分子および上記標的分子と相互作用する分子を脱離させる脱離工程とを含むものであればよい。したがって、本発明に係る分子認識ポリマーの製造方法は、上記工程以外の工程を含むものであってもよい。上記以外の工程としては、例えば、後述の標的分子還元工程を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
本製造方法は、モレキュラーインプリンティング法を応用したものである。モレキュラーインプリンティング法とはポリマーに対して認識させたい分子(標的分子)の形をインプリント(押印)し、その結果生じた穴(標的分子認識場)を用いて分子認識を行う技術である。まず、標的分子と、当該標的分子に対して特異的に相互作用する部位とビニル基などの重合可能な官能基をもつ分子(標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子)を架橋剤とともにラジカル重合させ、その後、標的分子をポリマー内から除去することによって、標的分子に対して相補的な結合部位をポリマー内に構築する方法である。上述のように、モレキュラーインプリンティング法には、標的分子と標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子との結合の様式が非共有結合型である非共有結合型モレキュラーインプリンティング法と上記結合の様式が共有結合型である共有結合型モレキュラーインプリンティング法とがあり、本発明に係る製造方法は共有結合型モレキュラーインプリンティング法を応用している。
【0038】
まず、複合体合成工程では、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子が有する特異的かつ可逆的に共有結合を形成する共有結合性官能基と標的分子との間に共有結合を形成させて複合体を合成する。共有結合としては、特に限定されるものではないが、例えば、ボロン酸基とcis-ジオールとのエステル結合、アルデヒドと水酸基とのアセタール結合、ケトンと水酸基とのケタール結合、アルデヒドとアミノ基との結合によって形成されるシッフ塩基、金属錯体を用いた配位結合、カルボキシル基と水酸基とのエステル結合、カルボキシル基とアミノ基とのアミド結合等が挙げることができる。このように、あらかじめ共有結合により複合体を合成することにより、より安定した分子認識場を再構築可能な分子認識ポリマーを製造することができる。
【0039】
次に、重合工程では、上記複合体合成工程で合成された複合体と標的分子と相互作用する分子とを、架橋剤と共重合し、重合体を得る。すなわち、重合工程では、上記複合体、標的分子と相互作用する分子および重合剤を溶媒中に溶解させ、重合開始剤を用いて共重合反応を行う。溶媒は、ポリマーを多孔性にするためのポアフォーマーとしての役割もある。溶媒としては、上記複合体、標的分子と相互作用する分子および重合剤を溶解できるものであれば特に限定されるものではないが、各試薬をよく溶解することから、ベンゼンやクロロホルムが好適である。また、重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)や2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等を用いることができる。
【0040】
重合剤としては、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子が有する重合可能な官能基と共重合可能な基、例えばビニル基や(メタ)アクリロイル基を持つ化合物であればよい。架橋剤の例を以下の式(1)~(20)に示す。
【0041】
【化3】
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【0042】
架橋剤としては、付加重合可能な基を複数有するものが好ましい。付加重合可能な基を複数有する架橋剤の例としては、式(4)に示すp-ジビニルベンゼン、式(18)に示すo-ジビニルベンゼン、式(19)に示すm-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン系架橋剤、(メタ)アクリル酸系架橋剤等がある。(メタ)アクリル酸系架橋剤としては、(メタ)アクリロイル基を複数有する化合物、例えば、式(1)に示すエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、式(2)に示すトリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、式(3)に示すトリメチロールプロパントリアクリレート、式(6)に示すテトラエチレングリコールジアクリレート、式(11)に示すトリエチレングリコールジメタクリレート、式(12)に示すペンタエリスリトールテトラアクリレート、式(13)に示すペンタエリスリトールトリアクリレート、式(14)に示すビスフェノールAジメタクリレート、式(15)に示すN,N’-メチレンジアクリルアミド、式(16)に示すN,N’-1,4-フェニレンジアクリルアミド、式(17)に示す3,5-ビス(アクリロイルアミド)安息香酸、式(20)に示すN,O-ビスアクリロイル-L-フェニルアラニノール等が好適である。架橋剤として、ビニル基を1つだけ持つ化合物(式(5)に示す塩化ビニル、式(7)に示すスチレン、式(9)に示すフェニルビニルスルホキシド、式(10)に示すフェニルビニルスルホン等)や、(メタ)アクリロイル基を1つだけ持つ化合物(例えば式(8)に示すメタクリル酸メチル等)等のような重合可能な基を1つだけ持つ化合物を用いてもよい。架橋剤としては、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子が有する重合可能な官能基と同じ基を持つ架橋剤を使用することが好ましい。
【0043】
次に、脱離工程では、得られた重合体から標的分子および標的分子と相互作用する分子を脱離させる。脱離させる方法としては、上記重合工程で得られた重合体において、標的分子および標的分子と相互作用する分子と重合体との可逆的な結合を分解できる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、可逆的な結合がエステル結合である場合には、エステル結合を酸加水分解あるいはアルカリ加水分解することにより標的分子を脱離させればよい。
【0044】
ここで、標的分子および標的分子と相互作用する分子の脱離には、得られた重合体の架橋度が影響を及ぼす場合がある。すなわち、重合体の架橋度が高すぎると上記分子の脱離が不十分となる。そのため重合体の架橋度をある程度抑える必要があるが、架橋度を抑えすぎると、逆に標的分子認識場が不安定になる場合がある。架橋度は、標的分子、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子および標的分子と相互作用する分子の大きさにより最適値が異なるため、これを規定することは困難であるが、鋳型分子(上記複合体および標的分子と相互作用する分子):架橋剤のモル比が1:1ないし1:50を目安として適宜最適値を設定することが好ましい。
【0045】
標的分子が上記重合工程で用いる架橋剤と重合可能な官能基を有する場合には、上記重合工程において標的分子が重合体中に組み込まれる可能性があるため、これを回避することが必要になる。例えば、後述の実施例において標的分子として使用したシンコニジンはビニル基を有するため、重合体中に組み込まれる可能性がある。本発明者はこれを回避するために複合体合成工程の前段に上記ビニル基を還元する標的分子還元工程を設けている。この工程を設けることにより、標的分子が重合体中に組み込まれるという問題点が改善できる。
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
標的分子にアルカロイドの一種であるシンコニジン(cinchonidine、以下「CD」と略記する)を用い、標的分子に対して特異的かつ可逆的に結合する分子にメタクリル酸、標的分子と相互作用する分子にポルフィリン亜鉛錯体を用いて標的分子の認識場が再構築可能なインプリントポリマーを合成した。図1に示したように、シンコニジンはポルフィリン亜鉛錯体と軸配位する分子である。また、本分子認識ポリマーの設計を図2示した。すなわち、CDはポルフィリン亜鉛錯体への軸配位とメタクリル酸への水素結合の二箇所で相互作用するよう設計し、CDの認識場をモレキュラーインプリンティング法を用いて合成する(A)。次にターゲット分子であるCDと認識部位の一つであるポルフィリン亜鉛錯体を系内から切り出すことにより、認識場の破壊を行い、分子認識機能の低下を図る(B)。続いて、再びポルフィリン亜鉛錯体を系内に導入することで、ターゲット分子認識場を再構築し(C)、CD分子認識機能を発現させる(D)。以下に当該インプリントポリマーの合成および合成したポリマーによる認識場の再構築について詳細に説明する。
【0048】
1.シンコニジン認識インプリントポリマーの合成
1-1 シンコニジンの誘導体化
CDの誘導体化のスキームを図3に示した。図3Aに示したように、まずCDの持つビニル基を還元し、その後、図3Bに示したように、メタクリル酸との複合体合成(メタクリロイル化)を行ったビニル基の還元は、当該CDのビニル基が重合の際にポリマー中に組み込まれる可能性を回避することを目的としている。
【0049】
(1)シンコニジンの接触還元化
CD1.06gをエタノール/ベンゼン=10/3mlに溶かし、Wilkinson触媒50.78mgを加えてH2置換下、室温で15時間撹拌した反応前は透明な黄色液体であったが、水素置換下で撹拌中に白色沈殿が生じた。これは、ビニル基が還元されたため、溶解度が下がったためと考えられた。MSで反応の追跡を行ったが、原料ピーク(295.3)は時間経過ごとに減少し、逆に分子量が2増えたピーク(297.3)は増加、15時間後には殆ど生成物のピークとなったここで反応を止め、溶媒を留去した後、アルミナカラム(クロロホルム/メタノール=50/1)で精製を行い、白色粉末650mgを得た。1H NMRにより、ビニル基の還元されたCDであることを確認した。収率は60.8%であった。
【0050】
(2)還元シンコニジンとメタクリル酸の複合体合成(メタクリロイル化)
還元したCD249.75mgをテトラヒドロフラン(THF)100mlに溶かし、トリエチルアミン(Et3N)0.35ml、メタクリロイルクロリド0.16mlを加えて、30℃で12時間撹拌した。クロロホルムで抽出を行った後、溶媒を留去してアルミナカラム(クロロホルム)で単離した。これにより、粘性のある固体85mgを得た。NMRでメタクリロイル化された還元CDであることを確認した。収率は27.8%であった。
【0051】
1-2 ポルフィリンの誘導体化
ポルフィリンの誘導体化のスキームを図4に示した。図4に示したように、まずテトラ(ヒドロキシフェニル)ポルフィリンを亜鉛錯体化し、メタクリル酸との複合体を合成した(メタクリロイル化)。
【0052】
1-3 CDインプリントポリマーの合成(認識場の構築)
誘導体化したシンコニジンとポルフィリンを用いて、表1に示したレシピでインプリントポリマーを合成し、認識場の構築を行った。表1中、シンコニジン誘導体は図3右端の還元シンコニジン-メタクリル酸複合体であり、ポルフィリン誘導体は図4右端のポルフィリン亜鉛錯体-メタクリル酸複合体である。開始剤以外を小型バイアル中で混合し、凍結乾燥を行った後、密封して70℃で15時間ラジカル重合させた。これにより、深紫色の硬いが簡単に砕くことのできるポリマーが得られた。得られたポリマーは乳鉢で粉砕した。
【0053】
【表1】
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【0054】
2.認識場の再構築
2-1 ポルフィリンの切り出し(認識場の破壊)
ポルフィリン、シンコニジンの切り出しによる分子認識機能の破壊を行った。粉砕したポリマーを、2.0M水酸化ナトリウムのメタノール溶液25ml中で48時間還流させ、加水分解を行った。HClを加えて1時間撹拌した後、ろ過してソックスレー(メタノール/クロロホルム=130/50ml)で24時間洗浄を行った。
【0055】
2-2 ポルフィリンの再結合(認識場の再構築)
ポルフィリン亜鉛錯体の再結合による、分子認識場の再構築を行った。乾燥したポリマーをZnTPyP溶液(溶媒:分光分析用クロロホルム)中、室温で4時間撹拌した。シリンジフィルターでろ過して、ポリマーと溶液に分離し、ろ液の吸光度の変化から、吸着量を算出した。ポリマーはフィルターから取り出し、乾燥させた。
【0056】
撹拌溶液のUVスペクトルを図5に示した。また、このスペクトルから算出したZnTPyPの吸着量を表2に示した。表2中、IP-aおよびIP-bは異なるバッチのポリマーである。また、表2に示した吸着量は図5に示した419nmにおける吸光度から算出した。以上の結果から、ポルフィリンのメソ位に連結したピリジン部位が加水分解により生じた4つのカルボキシル基と水素結合し、CD認識場を再構築していることが示された。
【0057】
【表2】
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【0058】
3.認識場の精密性確認
3-1 リファレンスを用いた吸着量の比較
再構築された認識場の精度を確認するために、CD(化4参照)キノリン(化5参照)およびベンジルアルコール(化6参照)を用いて、吸着量の比較を行った。ポルフィリンを吸着させて認識場の再構築を行ったポリマー10mgを30μMの各溶液(分光分析用ベンゼン)1ml中、室温で4時間撹拌した。シリンジフィリルターでろ過して、ポリマーと溶液に分離し、ろ液の吸光度の変化からポリマーに対するそれぞれの吸着量を求めた。
【0059】
【化4】
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【0060】
【化5】
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【0061】
【化6】
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【0062】
ポルフィリンを吸着させたポリマーに対するそれぞれの吸着量を表3に示した。吸着量は285nmにおける吸光度から算出した。リファレンス化合物として用いたキノリンおよびベンジルアルコールは認識場との相互作用部位を一つしか有していない。この2つの化合物はレセプターに吸着されなかった。吸着量がマイナスとなっているのは、ベンゼン中に溶け出してしまった架橋剤やベンゼン中に一部溶け出したポルフィリンにより、吸収が起こったためと考えられる。以上の結果から、今回作成したポリマーはメタクリル酸残基との水素結合とポルフィリン亜鉛錯体への軸配位の2つの相互作用により、ターゲット分子であるCDを強く認識していることが確認された。
【0063】
【表3】
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【0064】
3-2 シンコニンによる吸着量の比較
再構築された認識場の精度をCDおよびCDのジアステレオマーであるシンコニン(cinchonine、以下「CN」と略記する。化7参照)の吸着量の比較により確認した。ポルフィリンを吸着させて認識場の再構築を行ったポリマー10mgを40μMの各溶液(分光分析用ベンゼン)1ml中、室温で4時間撹拌した。シリンジフィリルターでろ過して、ポリマーと溶液に分離し、ろ液の吸光度の変化からポリマーに対するそれぞれの吸着量を求めた。
【0065】
【化7】
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【0066】
撹拌溶液のUVスペクトルを図6に示し、ポルフィリンを再吸着させたポリマーに対するCDおよびCNの吸着量を表4に示した。吸着量は285nmにおける吸光度から算出した。表4から明らかなように、CDに比べそのジアステレオマーであるCNの吸着量は抑えられている。これは、今回作成したポリマーが、ジアステレオマーでさえも認識可能なほどに非常に高い精度をもって再構築されたことを示している。以上の結果から、単に水素結合と軸配位によりCDが吸着されているというだけでなく、その3次元的な配置までもが規定された認識場が再構築されていることが確認できた。
【0067】
【表4】
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【0068】
4.ブランクポリマーの設計および合成
ブランクポリマー(以下「BP」と略記する)は以下のように設計した。
【0069】
BP1:CDをインプリントしないポリマー。CD認識場を有していないため、CDインプリントポリマーとの比較により鋳型の効果を評価できる。
【0070】
BP2:ポルフィリンを用いずにメタクリル酸のみでCD認識を行うポリマー。
【0071】
BP3:CD非共有結合型のポリマー。共有結合型のポリマーと比較ができる。
【0072】
表5に示したレシピでブランクポリマーを合成した開始剤以外を混ぜ合わせ、凍結乾燥を行った後に開始剤を加え、70℃でラジカル重合させた。BP1、BP3は粉砕後、ソックスレー(メタノール/クロロホルム=3/1、24時間)およびベンゼン中で撹拌(45ml,4時間)して洗浄を行った。BP2は2.0M水酸化ナトリウムのメタノール溶液25ml中、還流下で24時間加水分解を行った後、同様にソックスレー(メタノール/クロロホルム=3/1、24時間)およびベンゼン(4時間)で洗浄した。
【0073】
【表5】
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【0074】
5.ブランクポリマーを用いたCD吸着量の比較
ポルフィリンを結合させたインプリントポリマー(IP(P))、ポルフィリンを結合させていないインプリントポリマー(IP(-))、および各BPそれぞれ10mgをCD溶液(28.2μM,分光分析用ベンゼン)1ml中で4時間撹拌した後、シリンジフィルターでろ過してポリマーと溶液に分離し、溶液の吸光度変化からそれぞれのポリマーに対するCD吸着量を求めた。
【0075】
結果を表6に示した表6から明らかなように、CDをインプリントしていないBP1は、ポルフィリンの切り出しを行っていないために、IP(P)に比べてポリマー内にポルフィリンが多く存在しており、CDが非特異的に吸着されていると考えられる。また、CD非共有結合型のポリマーであるBP3は、BP1と同程度のCDが吸着されており、BP1と同様に非特異的にCDが吸着されたと考えられる。メタクリル酸残基のみで認識部位を構築したBP2は、IP(P)よりは多いCD結合量を示したものの、BP1およびBP2と比べて結合量が少なかった。これは、CDのインプリント効果を反映し、非特異的な吸着が他のBPよりも抑えられたと考えられる。一方、IP(P)およびIP(-)間ではポルフィリンの有無によるCD吸着量の違いがわずかに見られた。IP(-)は、ポルフィリンとCD両方の切り出しによりIP(P)と比較して多くのメタクリル酸残基が存在しているが、切り出しによりあいた大きな空間ではCDをポリマー内に保持できず、ポルフィリンを吸着させたIPよりも吸着量が少なくなったものと考えられる。
【0076】
【表6】
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【0077】
以上の結果より、今回合成した分子認識ポリマーは、ポルフィリン、メタクリル酸および標的分子であるシンコニジンに相補的な三次元空間を有する分子認識ポリマーであり、複数の分子存在下でのみ機能発現(分子認識)が可能であることが示された。また、ジアステレオマーを用いた吸着量の比較により、その分子認識機能は再構築が可能であり、再構築後も高精度の分子認識機能を有していることが明らかとなった。
【0078】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る分子認識ポリマーは、標的分子と相互作用する分子を脱着または交換することができる分子認識ポリマーである。したがって、標的分子の認識場を再構築することができるという効果を奏する。また、標的分子と相互作用して情報を発信する機能を有する分子を用いれば、標的分子結合部位はそのままで情報発信部位の交換が可能となり、ひとつの材料が何通りもの機能性材料を生み出すという効果を奏する。さらに、情報発信部位が使用に伴って劣化しても交換して修復可能であるという効果を奏する。
【0080】
また、本発明に係る分子認識ポリマーは、標的分子と相互作用する分子が存在する場合に標的分子と結合することができるため、分子間の相互作用の解析に利用することができるという効果を奏し、複雑な生体分子の相互作用解析にも応用することができるという効果を奏する。
【0081】
本発明は、広く様々な分子の認識や捕捉のために利用することができる。したがって、本発明を生体分子や薬物等に応用すれば、医療、臨床検査等の分野に利用することができ、また、医学や生物学の基礎研究分野にも利用することができる。また、環境負荷物質等に応用すれば、農林水産業、一般製造業等に広く利用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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