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明細書 :イノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブおよびそれを用いたイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4717808号 (P4717808)
登録日 平成23年4月8日(2011.4.8)
発行日 平成23年7月6日(2011.7.6)
発明の名称または考案の名称 イノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブおよびそれを用いたイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/542       (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
FI C12Q 1/02
C12N 15/00 A
G01N 33/53 S
G01N 33/542 A
G01N 21/78 C
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
請求項の数または発明の数 11
全頁数 11
出願番号 特願2006-513747 (P2006-513747)
出願日 平成17年5月17日(2005.5.17)
国際出願番号 PCT/JP2005/009299
国際公開番号 WO2005/113792
国際公開日 平成17年12月1日(2005.12.1)
優先権出願番号 2004152484
優先日 平成16年5月21日(2004.5.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年2月15日(2008.2.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】梅澤 喜夫
【氏名】佐藤 守俊
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】福間 信子
参考文献・文献 米国特許第05998204(US,A)
Nat Cell Biol, (2003), vol.5, no.11, p.1016-1022
Nature, (2002), vol.420, no.6916, p.696-700
調査した分野 C12Q 1/00-68
C12N 15/00-90
BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
(a) イノシトール-1,4,5-三リン酸に特異的に結合し、この結合によってその構造が変化するポリペプチド、および
(b) 前記ポリペプチドの両末端に連結され、このポリペプチドの構造変化による互いの接近によって蛍光共鳴エネルギー移動が生起し、信号が検出可能となる二つのマーカー部位、
を有し、前記ポリペプチドが、イノシトール-1,4,5-三リン酸受容体タイプ1サブユニットのイノシトール-1,4,5-三リン酸結合ドメインにおける第224-579位の連続アミノ酸残基からなるポリペプチドであることを特徴とするイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブ。
【請求項2】
二つのマーカー部位が、黄色蛍光タンパク質とシアン蛍光タンパク質である請求項1のプローブ。
【請求項3】
二つのマーカー部位のいずれか一方には、核局在化配列が連結されている請求項1または2のプローブ。
【請求項4】
請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させ、イノシトール-1,4,5-三リン酸非共存下および共存下におけるシグナル変化を測定することを特徴とするイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法。
【請求項5】
請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞において該プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させる請求項の検出・定量方法。
【請求項6】
請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において該プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させる請求項の検出・定量方法。
【請求項7】
細胞内でのイノシトール-1,4,5-三リン酸の産生に対する刺激の影響をモニタリングする方法であって、請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞に刺激を付与し、刺激付与前後におけるシグナル変化を測定することを特徴とするモニタリング方法。
【請求項8】
生体内でのイノシトール-1,4,5-三リン酸の産生に対する刺激の影響をモニタリングする方法であって、請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することにより得られる非ヒト動物またはその子孫動物に刺激を付与し、刺激付与前後におけるシグナル変化を測定することを特徴とするモニタリング方法。
【請求項9】
イノシトール-1,4,5-三リン酸誘導Ca2+放出を阻害する物質をスクリーニングする方法であって、請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させ、該候補物質非共存下および共存下におけるシグナル変化を測定することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞においてイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させる請求項のスクリーニング方法。
【請求項11】
請求項1、2またはのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞においてイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させる請求項のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】

この出願の発明は、イノシトール-1,4,5-三リン酸の産生を、非襲撃的に時空間可視化するためのプローブと、それを用いてイノシトール-1,4,5-三リン酸を検出・定量する方法、細胞内でのイノシトール-1,4,5-三リン酸産生に対する刺激の影響をモニタリングする方法、並びに、イノシトール-1,4,5-三リン酸誘導Ca2+放出に対する阻害物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【背景技術】

イノシトール-1,4,5-三リン酸(IP)は、ホルモン、増殖因子、神経伝達物質などの刺激でホスホリパーゼCが活性化され、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP)が加水分解されることにより細胞内に生成するセカンドメッセンジャーであり、滑面小胞体や筋小胞体膜上のCa2+チャンネル、すなわち、IP受容体に結合して、Ca2+ストアに貯蔵されたCa2+の細胞質への放出を誘導する。
IPは、ほとんどの動物種の組織や器官において一様に産生されており、受精、形態形成、血管新生、神経機能など、膨大な数の生物応答を制御している最も重要な情報分子の一つである。したがって、IPが、細胞内のどの部分で、どのようなタイミングで生成しているのかを検出することができれば、様々な生物応答に関する知見が得られると期待される。
細胞内でのIPの濃度変化を評価する方法としては、PIPとIPの両方に結合するプレクストリン相同ドメイン(PHドメイン)と緑色蛍光タンパク質(GFP)の融合タンパク質をプローブとして用いる方法が知られている(非特許文献1)。これは、PIPと結合して細胞膜に存在していたプローブが、IPの産生により細胞質中に流れ出すことを利用した方法であり、細胞膜と細胞質の蛍光強度比を測定することによりIPの生成を検出できるというものである。
しかしながら、このような方法では、細胞間でのPIP量の違いや細胞の形状変化の影響を受けやすく、定量性が損なわれ易いという問題があった。また、神経細胞においては、その軸索・樹状突起が非常に細いため、細胞膜と細胞質における蛍光強度比を正確に分離して測定することが困難であり、IP濃度変化を見極めることができないという問題もあった。したがって、IPの産生を、非襲撃的に精度高く時空間可視化する方法の実現が望まれていたのが実情である。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、イノシトール-1,4,5-三リン酸が生細胞内のどの部位でいつ産生されたかを、非襲撃的に精度高く検出・定量するためのプローブと、それを用いたイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法を提供することを課題としている。
文献

【非特許文献1】Science,284,1527-1530,1999
【非特許文献2】Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77;7380-7384,1980
【図面の簡単な説明】

図1は、この出願の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブの構成を示す概略模式図である。
図2は、この出願の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを用いて、MDCK細胞でのATP濃度依存的なIP産生を可視化した結果を示した図である。(a)は100μM ATP、(b)は10μM ATP、(c)は1μM ATPを示す。
図3は、この出願の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを用いて、神経細胞の樹状突起におけるIP濃度変化を可視化した結果を示した図である。
図4は、この出願の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを用いて、MDCK細胞核内でのIP産生を可視化した結果を示した図である。
【発明の開示】

この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、少なくとも、イノシトール-1,4,5-三リン酸受容体のイノシトール-1,4,5-三リン酸結合ドメインを含むイノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位と、イノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位の両末端に連結された、互いの接近により蛍光共鳴エネルギー移動が生起し、信号が検出可能となる二つのマーカー部位を有してなることを特徴とするイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを提供する。
また、この出願の発明は、第2には、互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位が、黄色蛍光タンパク質とシアン蛍光タンパク質である前記のプローブを、さらに、第3には、イノシトール-1,4,5-三リン酸に特異的に結合し、イノシトール-1,4,5-三リン酸との結合によりその構造が変化するポリペプチドが、イノシトール-1,4,5-三リン酸受容体のイノシトール-1,4,5-三リン酸結合ドメインである前記のプローブを提供する。
この出願の発明は、第4には、互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位のいずれか一方には、核局在化配列が連結されている前記のプローブを提供する。
さらに、この出願の発明は、第5には、前記いずれかのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させ、イノシトール-1,4,5-三リン酸非共存下および共存下におけるシグナル変化を測定することを特徴とするイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法を提供する。
この出願の発明は、第6には、前記いずれかのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞において該プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させるイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法を、第7には、前記いずれかのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞において該プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させるイノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量方法を提供する。
この出願の発明は、また、細胞内におけるイノシトール-1,4,5-三リン酸生成に係る刺激の影響をモニタリングする方法として、第8には、前記いずれかのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞に刺激を付与し、刺激付与前後におけるシグナル変化を測定することを特徴とするモニタリング方法を、第9には、前記いずれかのイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することにより得られる非ヒト動物またはその子孫動物に刺激を付与し、刺激付与前後におけるシグナル変化を測定することを特徴とするモニタリング方法を提供する。
第10には、この出願の発明は、イノシトール-1,4,5-三リン酸誘導Ca2+放出を阻害する物質をスクリーニングする方法であって、前記第3の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させ、該候補物質非共存下および共存下におけるシグナル変化を測定することを特徴とするスクリーニング方法を提供する。
また、この出願の発明は、第11には、前記第3の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞においてイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させるスクリーニング方法を、そして、第12には、前記第3の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞においてイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させるスクリーニング方法を提供する。
そして、上記第1~3の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブは、少なくとも、イノシトール-1,4,5-三リン酸に特異的に結合し、イノシトール-1,4,5-三リン酸との結合によりその構造が変化するポリペプチドを含むイノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位と、該イノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位の両末端に連結された、互いの接近が検出可能な二つのマーカー部位を有してなるものである。したがって、イノシトール-1,4,5-三リン酸が共存する場合には、該プローブのイノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位におけるポリペプチドがイノシトール-1,4,5-三リン酸を認識し、特異的に結合する。このとき、ポリペプチドの構造変化が起こるため、イノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位に連結された二つのマーカー部位の間の距離や配向が変化する。したがって、これらのマーカー部位によるシグナルの変化を測定することにより、イノシトール-1,4,5-三リン酸の検出・定量が可能となる。
また、上記第4の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブでは、さらに核局在化配列が連結されていることから、該プローブを核内に局在化させることが可能となる。したがって、核内におけるイノシトール-1,4,5-三リン酸の産生を検出したり、核内のイノシトール-1,4,5-三リン酸を定量したりすることが可能となる。
また、上記第5~7の発明では、イノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブをイノシトール-1,4,5-三リン酸と共存させ、シグナル変化を測定することにより、簡便かつ非襲撃的にイノシトール-1,4,5-三リン酸を検出・定量することが可能となる。例えば、細胞内や、非ヒト動物またはその子孫動物の全細胞内において、イノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブとイノシトール-1,4,5-三リン酸を共存させることができる。
さらに、上記第8~9の発明では、イノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入して得られる細胞、あるいは、イノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することにより得られる非ヒト動物またはその子孫動物に対し、刺激を付与する。このとき、刺激付与前後のシグナル変化を測定すれば、細胞あるいは生体におけるイノシトール-1,4,5-三リン酸産生に対する該刺激の影響をモニタリングすることが可能となる。
さらにまた、上記第10~12の発明では、イノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位にイノシトール-1,4,5-三リン酸結合ドメインを有するイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブと、イノシトール-1,4,5-三リン酸と、候補物質を共存させ、候補物質の共存下および非共存下でのシグナル変化を測定する。これにより、該候補物質が、イノシトール-1,4,5-三リン酸とイノシトール-1,4,5-三リン酸受容体の結合を阻害するか否かを確認することができ、イノシトール-1,4,5-三リン酸誘導Ca2+放出を阻害する物質をスクリーニングすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】

この出願の発明のイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブは、少なくとも、異なる機能を有する2つの部位、すなわち:
(1)イノシトール-1,4,5-三リン酸と特異的に結合し、イノシトール-1,4,5-三リン酸との結合によりその構造が変化するポリペプチドを含むイノシトール-1,4,5-三リン酸認識部位と、
(2)前記ポリペプチドとイノシトール-1,4,5-三リン酸との結合により互いに接近した場合にシグナルを発信する、前記ポリペプチドの両末端に連結された二つのマーカー部位を有してなるものである。なお、以下、この明細書においては、イノシトール-1,4,5-三リン酸をIPと記載することがある。
この出願の発明のIP3検出・定量用プローブは、IP認識部位のポリペプチドがIPを認識し、結合することにより、該ポリペプチドの構造変化が誘起され、IP認識部位の両末端に連結された二つのマーカー部位の立体配座が変化し、この変化がシグナル変化として現れるという原理に基づくものである。
この出願の発明のIP検出・定量用プローブにおいて、IPと特異的に結合し、IPとの結合によりその構造が変化するポリペプチドとしては、IP受容体のN末端側に存在するIP結合ドメインが好ましく例示される。
IP受容体は四量体複合体であり、IP受容体サブユニットには、各々、異なるIP誘導Ca2+放出活性と細胞・組織発現分布を示すタイプ1、2、3の3種類が存在することが知られている。IPと特異的に結合し、IPとの結合によりその構造が変化するポリペプチドとしてのIP結合ドメインは、これらタイプ1~3のいずれのIP受容体サブユニット由来のものであってもよい。この出願の発明者らの研究によれば、これら各種のIP受容体の中でも、タイプ1IP受容体の224番目のアミノ酸から579番目のアミノ酸までをIP結合ドメインとして使用した場合に、とくに良好な応答性が得られる。もちろん、このようなポリペプチドは、IP結合ドメインに限定されず、合成および天然のあらゆるペプチド鎖を用いることができる。
この出願の発明のIP検出・定量用プローブにおいて、互いの近接が検出可能な二つのマーカー部位としては、IPとポリペプチドの結合により生じるポリペプチドの構造変化に応答して精度高くシグナル変化を生じるものであればよい。生化学の分野においては、一般的に種々の蛍光発色団が用いられるが、構造変化に敏速に応答するものとしては、蛍光共鳴エネルギー移動(以下、FRET)の生起により蛍光強度比に変化を来たす発色団がある。したがって、二つのマーカー部位としては、異なる蛍光波長を有する二つの蛍光発色団、具体的には、緑色蛍光タンパク質(GFP)のレッドシフト変異タンパク質である黄色蛍光タンパク質(YFP)や、GFPのブルーシフト変異タンパク質であるシアン蛍光タンパク質(CFP)が適用できる。もちろん、互いの近接が検出可能な二つのマーカー部位としては、YFPとCFPの組み合わせ以外にも、各種の蛍光タンパク質やスプリットしたレニラルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ラクタマーゼ等が適用できる。
この出願の発明のIP検出・定量用プローブは、以上のとおりに、IPと特異的に結合し、IPとの結合によりその構造が変化するポリペプチドを有するIP認識部位と、互いの接近が検出可能な、IP認識部位の両末端に連結された二つのマーカー部位を有していればよいが、IPとの結合や二つのマーカー部位の接近を阻害しない限り、その他の部位を有していてもよい。
例えば、この出願の発明のIP検出・定量用プローブは、互いの近接が検出可能な二つのマーカー部位のいずれか一方に、核局在化配列(Nuclear Localization Signal Sequence;NLS)を連結したものとしてもよい。NLSはとくに限定されないが、例えば、配列番号1のものが適用される。もちろん、これ以外にも、Nucleoplasmin由来のもの(配列番号2)、HIV-1 Rev由来のもの(配列番号3)等の公知の核局在化配列(NLS)が適用できる。これにより、IP検出・定量用プローブを核内に局在化させることが可能となり、IPの核内への移動や、核内のIP3量を検出・定量することが可能となる。
あるいは、二つのマーカー部位がIP非共存下では立体的に離れた位置にあり、ポリペプチドとIPの結合により敏速に近接するようにするために、IP認識部位と各マーカー部位との間にリンカー配列を設けてもよい。また、前記の核局在化配列とマーカー部位についても、直接連結されていてもよいし、リンカー配列を介して連結されていてもよい。
以上のとおりのこの出願の発明のIP検出・定量用プローブは、IPと共存するとき、IPと結合し、シグナル変化を生じるものである。したがって、前記のIP検出・定量用プローブと、IPを共存させ、IP非共存下および共存下でのシグナル変化を種々の化学的あるいは生化学的分析方法を用いて測定することにより、IPを検出することが可能となる。
また、蛍光強度とIP量の関係を予め検量することにより、IPを定量することもできる。
さらに、この出願の発明では、IP認識部位のポリペプチドが前記のIP3結合ドメインであるIP検出・定量用プローブを用いて、IP誘導Ca2+放出を阻害する物質をスクリーニングすることもできる。すなわち、IP認識部位のポリペプチドがIP結合ドメインであるIP検出・定量用プローブと、IPと、候補物質を共存させ、該候補物質非共存下および共存下におけるシグナル変化を測定し、IPとIP結合ドメインの結合を阻害する候補物質を、IP誘導Ca2+放出阻害物質として判定できるのである。
このような、IP検出・定量方法やIP誘導Ca2+放出阻害物質のスクリーニング方法において、IP検出・定量用プローブとIP、あるいはIP検出・定量用プローブとIPと候補物質を共存させる方法としては、様々な方法が考えられる。例えば、細胞を破壊して細胞内からIPを溶出させ、その溶液にIP検出・定量用プローブや候補物質を添加して、これらの物質を共存させる方法が挙げられる。
あるいは、IP検出・定量用プローブを組み込んだ発現ベクターを個々の培養細胞に導入する方法により、IP検出・定量用プローブとIPを細胞内で共存させることもできる。さらに、細胞に候補物質を導入して共存させることも可能となる。このような方法では、細胞を破壊することなく、in vivoでのIPの検出・定量が可能となる。なお、発現ベクターとしては、動物細胞発現用のプラスミドベクターが好ましく用いられる。また、このようなプラスミドベクターを細胞に導入する方法としては、電気穿孔法、リン酸化カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を採用することができる。
さらに、この出願の発明では、IP検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、公知の作成法(例えば、非特許文献2)に従って非ヒト動物全能性細胞を個体発生することによって、この動物またはその子孫動物の全細胞においてIP検出・定量用プローブとIPを共存させることもできる。このようなトランスジェニック非ヒト動物は、すべての体細胞にIP検出・定量用プローブを保有しているため、例えば、その体内に候補物質を導入し、細胞や組織におけるIPの濃度を測定することによって、IP誘導Ca2+放出を阻害する物質をスクリーニングすることが可能となる。
この出願の発明では、また、前記のIP検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、該細胞に刺激を付与し、刺激付与前後におけるシグナル変化を測定することにより、細胞内でのIPの産生に対する刺激の影響をモニタリングすることもできる。すなわち、IP検出・定量用プローブを発現した細胞に刺激を与えた際のシグナル変化から、IP産生量を測定でき、この結果から、該刺激がIPの産生にどのような影響を与えるかを知ることができるのである。このとき付与される刺激は、ホルモン、内分泌攪乱物質等の生化学的刺激であってもよいし、電気、放射線、熱等の物理的刺激であってもよい。
同様に、前記のIP検出・定量用プローブを発現するポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物全能性細胞を個体発生することにより得られる非ヒト動物またはその子孫動物に刺激を付与し、刺激付与前後におけるシグナル変化を測定することにより、生体内でのIPの産生に対する刺激の影響とともに、IP産生量の生命活動に対する影響をもモニタリングすることが可能となる。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】

<実施例1>
IP検出・定量用プローブ(図1)をコードするcDNAを遺伝子工学的手法により作成し、これをMDCK細胞に導入した。次いで、このMDCK細胞を蛍光顕微鏡で観察したところ、細胞質内から蛍光が観察されたことから、プローブが細胞質に発現されたことが確認された。
<実施例2>
実施例1で得られたIP検出・定量用プローブ発現MDCK細胞に、マイクロインジェクション法によりIPを導入したところ、少量導入する毎にCFPとYFPの蛍光強度比(CFP/YFP)が段階的に増加し、やがて飽和する様子が観察された。これより、IP検出・定量用プローブがIPを認識し、IP濃度に依存してFRETが抑制されることが明らかになった。
<実施例3>
実施例1で得られたIP検出・定量用プローブ発現MDCK細胞のプリン受容体を100μM ATPで刺激したところ、蛍光強度比(CFP/YFP)の増加が観察された(図2a)。また、10μM ATPおよび1μM ATPによる刺激でも、ATP濃度に依存してプローブの応答が観察された(図2b、2c)。
これより、MDCK細胞において生理的条件下で生じた一過性のIP産生を、本願発明のIP検出・定量用プローブを用いて可視化できることが確認された。
<実施例4>
次にラット胎児脳の海馬より調製した神経細胞(ニューロン)にIP検出・定量用プローブを発現させ、神経細胞内のIP動態の観察を試みた。
神経細胞を20μMのグルタミン酸で刺激したところ、細胞体のみならず、樹状突起においてもIP濃度が一過性に上昇することが確認された(図3)。
<実施例5>
さらに、IP検出・定量用プローブのC末端に配列番号4の核局在化配列を連結し、これをMDCK細胞に発現させ、観察した。殆どの蛍光が核から観察されたことから、プローブが核内に局在化したことが確認された。また、このMDCK細胞を100μMのATPで刺激したところ、IP濃度が一過性に上昇することが確認された(図4)。
核内には、IP受容体や、IPをさらにリン酸化してIP、IP、IP等の異なる役割を有するセカンドメッセンジャーを産生する酵素群が局在化していることが明らかになっている。しかし、核内にそれらの基質となるIPがどの程度存在するのか、IPが核膜孔を透過できるのか等については明らかにされていなかった。
この出願の発明のIP検出・定量用プローブを使用することにより、細胞外刺激により、細胞質のみならず、核内でもIP濃度が上昇するという新たな知見が得られた。
【産業上の利用可能性】

以上詳しく説明したとおり、この発明によって、イノシトール-1,4,5-三リン酸が生細胞内のどの部位でいつ産生されたかを、非襲撃的に精度高く検出・定量するためのプローブが提供される。また、この発明では、このようなイノシトール-1,4,5-三リン酸検出・定量用プローブを用いて、イノシトール-1,4,5-三リン酸を検出・定量する方法、細胞内でのイノシトール-1,4,5-三リン酸産生に対する刺激の影響をモニタリングする方法、並びに、イノシトール-1,4,5-三リン酸誘導Ca2+放出に対する阻害物質をスクリーニングする方法も提供される。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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