TOP > 国内特許検索 > 赤外光検出器 > 明細書

明細書 :赤外光検出器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4281094号 (P4281094)
登録日 平成21年3月27日(2009.3.27)
発行日 平成21年6月17日(2009.6.17)
発明の名称または考案の名称 赤外光検出器
国際特許分類 H01L  31/10        (2006.01)
FI H01L 31/10 A
請求項の数または発明の数 11
全頁数 32
出願番号 特願2006-528936 (P2006-528936)
出願日 平成17年7月6日(2005.7.6)
国際出願番号 PCT/JP2005/012486
国際公開番号 WO2006/006469
国際公開日 平成18年1月19日(2006.1.19)
優先権出願番号 2004203879
2004368579
優先日 平成16年7月9日(2004.7.9)
平成16年12月20日(2004.12.20)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成18年12月27日(2006.12.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小宮山 進
【氏名】アン センファ
【氏名】チャン ジュンジョン
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】道祖土 新吾
参考文献・文献 国際公開第01/06572(WO,A1)
Applied Physics Letters,2002年,Vol.80,No.22,p.4250-4252
パリティ,2000年,Vol.15,No.6,p.39-44
合同成果シンポジウム フォトニック結晶と量子ドット講演資料集,2004年,p.17-20
調査した分野 H01L 31/10
G01R 29/08
H01L 27/14
特許請求の範囲 【請求項1】
入射赤外光子を吸収し励起電子を生成する、周囲から電気的に孤立した孤立2次元電子層と、
上記入射赤外光子を上記孤立2次元電子層に集中する手段と、
上記入射赤外光子の吸収により励起された電子を上記孤立2次元電子層から脱出させて孤立2次元電子層を帯電させる手段と、
上記孤立2次元電子層の帯電によって電流が変化し、且つ、帯電状態が持続する間この電流変化が維持される電荷敏感トランジスタとを有する赤外光検出器において、
上記入射赤外光子を上記孤立2次元電子層に集中すると共に、孤立2次元電子層面に垂直な入射赤外光子の振動電場成分を生成し、上記孤立2次元電子層内の電子を選択的に2次元サブバンド間励起させる手段を付加したことを特徴とする、赤外光検出器。
【請求項2】
前記孤立2次元電子層が量子ドットであり、
前記選択的に2次元サブバンド間励起させる手段が、上記量子ドットを挟んで配するマイクロストリップアンテナであり、
前記孤立2次元電子層を帯電させる手段が、上記量子ドットの下面に配するトンネル障壁層と、このトンネル障壁層の下面に配するポイントコンタクト・トランジスタのソース電極及びドレイン電極とからなり、
前記電荷敏感トランジスタが、上記ポイントコンタクト・トランジスタであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の赤外光検出器。
【請求項3】
前記孤立2次元電子層が量子ドットであり、
前記選択的に2次元サブバンド間励起させる手段が、上記量子ドットを挟んで配するマイクロストリップアンテナであり、
前記孤立2次元電子層を帯電させる手段が、上記量子ドットの面内方向横手に配するゲート電極とこのゲート電極の横手に配する脱出電極とからなり、
前記電荷敏感トランジスタが、上記量子ドット直上に配する単電子トランジスタであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の赤外光検出器。
【請求項4】
前記孤立2次元電子層が量子ドットであり、
前記選択的に2次元サブバンド間励起させる手段が、上記量子ドットを挟んで配するマイクロストリップアンテナであり、
前記孤立2次元電子層を帯電させる手段が上記量子ドットの面内方向横手に配するゲート電極とこのゲート電極の横手に配する脱出電極とからなり、
前記電荷敏感トランジスタが、上記ゲート電極の横手に配するポイントコンタクト・トランジスタであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の赤外光検出器。
【請求項5】
前記孤立2次元電子層が量子ドットであり、
前記選択的に2次元サブバンド間励起させる手段が、上記量子ドットを挟んで形成したマイクロストリップアンテナであり、
前記孤立2次元電子層を帯電させる手段が、上記量子ドットの面内方向横手に配するゲート電極とこのゲート電極の横手に配する脱出電極とからなり、
前記電荷敏感トランジスタが、上記量子ドットの直下に配するポイントコンタクト・トランジスタであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の赤外光検出器。
【請求項6】
前記孤立2次元電子層が量子プレートであり、
前記選択的に2次元サブバンド間励起させる手段が、上記量子プレートを挟んで配するマイクロストリップアンテナであり、
前記孤立2次元電子層を帯電させる手段が、上記量子プレートの下面に配するトンネル障壁層と、このトンネル障壁層を介して配するポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層とからなり、
前記電荷敏感トランジスタが、上記ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタであることを特徴とする、請求の範囲1に記載の赤外光検出器。
【請求項7】
前記孤立2次元電子層、前記選択的に2次元サブバンド間励起させる手段、前記孤立2次元電子層を帯電させる手段及び前記電荷敏感トランジスタが、同一の半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板から形成されることを特徴とする、請求の範囲1に記載の赤外光検出器。
【請求項8】
前記ポイントコンタクト・トランジスタは、2次元電子層と、この2次元電子層の2次元電子の存在領域をサブミクロン・サイズまで狭窄するゲート電極と、サブミクロン・サイズまで狭窄した2次元電子の存在領域であるポイントと接続するソース電極及びドレイン電極とからなることを特徴とする、請求の範囲2、4又は5の何れかに記載の赤外光検出器。
【請求項9】
前記ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタは、2次元電子層と、この2次元電子層を空乏化直前まで空乏化し、サブミクロン・サイズまで狭窄した2次元電子の存在領域であるポイントコンタクトからなるネットワークを形成する裏面ゲート電極と、上記2次元電子層の両端に接続するソース電極及びドレイン電極とからなることを特徴とする、請求の範囲6に記載の赤外光検出器。
【請求項10】
請求の範囲1~9の何れかに記載の赤外光検出器を、直列アレー型に接続したことを特徴とる、赤外光検出器。
【請求項11】
請求の範囲1~9の何れかに記載の赤外光検出器を、2次元マトリクス型に接続したことを特徴とする、赤外光検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は赤外光計測技術に係り、特にビデオ信号を検出するのに好適な赤外光検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の赤外光検出器として、以下に示す3種類がある。
第1に、半導体2次元量子井戸のサブバンド間励起にともなう光伝導現象を用いる2次元量子井戸赤外光検出器(QWIP:Quantum Well Infrared Photodetector )であり、波長3ミクロンから20ミクロン程度の中赤外光領域の検出器として広く知られている(B. F. Levine, J. Appl. Phys. 74, R1-R81 (1993)参照)。しかし、この検出器は、上記文献1の図8に示されているように、赤外光の吸収によって2次元サブバンド間励起された自由電子を、半導体2次元量子井戸を挟む電極間の電流として検出するものであり、自由電子一個による微少電流を検出することは不可能であることから、単一光子を検出できるレベルには遠く及ばず、感度D* は、D* =1010cmHz0.5 /Wのオーダーである。
【0003】
第2に、波長100μm(ミクロン)から600μm程度の遠赤外光領域では半導体量子ドットおよび単電子トランジスタ(Single electron transistor)を用いた単一光子検出器が提案され、実現されている(特開2001-119041号公報、U.S. Patent No. 6,627,914 、S. Komiyama et al., Nature 403, p.405(2000) 、O. Astafiev et al., Appl. Phys. Lett. 80, 4250(2002)参照)。この検出器は、半導体量子ドットの電子が遠赤外フォトンを吸収して励起されることにより、この半導体量子ドットが長時間分極又はイオン化するように構成されており、分極又はイオン化によるポテンシャルの変化によって単一電子トランジスタを駆動するものである。この検出器によれば、半導体量子ドットが長時間分極又はイオン化しているので、遠赤外フォトン一個の吸収であっても単電子トランジスタ電流値の変化の積分値が検出可能な大きさとなり、遠赤外フォトン一個の吸収をも検出できる。しかしながら、この検出器はミリ波・遠赤外領域を対象とした測定器であり、数十ミクロンより短波長の中赤外領域では動作しない。すなわち、この検出器は面内サイズ効果による量子準位、面内プラズマ振動、面内軌道運動のランダウ準位等の準位間遷移を利用したものであり、これらの準位間隔はミリ波・遠赤外領域のエネルギーに対応しており、このため、数十ミクロンより短波長領域の赤外光は検出できない。上記短波長領域でも動作させるためには、2次元サブバンド間遷移を利用し、且つ、2次元サブバンド間遷移を選択的に引き起こす必要があるが、そのためには集光メカニズムと検出メカニズム双方に新たな物理的メカニズムとそれを機能させる素子構造が必要となる。
【0004】
第3に、半導体2次元量子井戸の2次元サブバンド間遷移によって単一の光子を検出する量子井戸型検出器が提案されている(特開2004-214383参照)。この検出器は、図32(a)に示すように、半導体メサ構造191と半導体メサ構造191上に単電子トランジスタ192を有し、メサ構造191の電子エネルギー障壁は同図(b)に示すような構造に設計されている。赤外光190の吸収によって、半導体メサ構造191の量子ドット193中の電子194がサブバンド間遷移を引き起こして垂直方向に脱出し電極195に吸収される。電子194の脱出による量子ドット193のイオン化状態は長時間継続し、イオン化電荷196による単電子トランジスタ電流の変化を検出して赤外光190を検知する。この検出器は、2次元サブバンド間遷移によって半導体量子ドットが長時間イオン化する構成と、このイオン化ポテンシャルで単電子トランジスタを駆動する構成とを有し、また、単電子トランジスタの電極がアンテナ効果を有し、遠赤外光を量子井戸部分に効率よく集光すると記載されているが、2次元サブバンド間遷移を選択的に引き起こすための電磁波と量子ドットとの結合手段がないため、感度が悪い。また、励起電子194の脱出のための量子井戸構造の設計が難しい。さらに、GaAs系等のヘテロエピタキシャル半導体基板から形成した量子井戸上に、AlやAl2 3 等の金属や金属酸化物からなる単電子トランジスタを作製する構造であるため、作製中に、半導体量子井戸表面が酸化されて劣化が生じやすく、極めて高い歩止まりが要求されるアレー型の赤外検出器には向かない構造である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、波長数μmから数百μmまでの広い波長範囲で、単一光子の検出を高効率で行え、且つ、作製方法において、アレー化に適した構造を有する赤外光検出器は従来存在しなかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、波長数μmから数百μmまでの広い波長範囲で、単一光子の検出を高効率で行うことができ、且つ、作製方法において、アレー化に適した構造を有する赤外光検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の赤外光検出器は、入射赤外光子を吸収し励起電子を生成する、周囲から電気的に孤立した孤立2次元電子層と、入射赤外光子を孤立2次元電子層に集中する手段と、入射赤外光子の吸収により励起された電子を孤立2次元電子層から脱出させて孤立2次元電子層を帯電させる手段と、孤立2次元電子層の帯電によって電流が変化し、且つ、帯電状態が持続する間この電流変化が維持される電荷敏感トランジスタとを有し、孤立2次元電子層内の電子を選択的に2次元サブバンド間励起させる手段を付加することを特徴としている。
【0008】
初めに、本発明の赤外光検出器の検出メカニズムを説明する。なお、孤立2次元電子層の面内方向のサイズを小さくすれば、サイズ効果によって面内の運動自由度も量子化し、面内の運動エネルギーも離散値となるが、本発明は、サイズ量子化が有っても無くても同様に作用するので、以下では簡単のためにサイズ量子化を無視して説明する。本発明に於ける量子ドットとは、赤外波長の1/2より小さい、または、1μmより小さいことのどちらか小さい方のサイズを有する周囲から電気的に孤立した2次元電子層として定義する。量子プレートとは、赤外波長の1/2より大きい、数μmから数100μm角の周囲から電気的に孤立した2次元電子層として定義する。下記の説明においては、量子ドットと量子プレートの両方に成り立つメカニズムは、量子ドットを例に取り説明する。
【0009】
まず、選択的にサブバンド間励起を生起するメカニズムについて説明する。量子井戸のような2次元電子系の場所rにおけるエネルギーE(i)(i=0,1,2・・・)は、2次元面に垂直方向(z方向)の運動エネルギーEzが量子化されてサブバンドエネルギーが離散値Ei(i=0,1,2・・・)を取るために次式(1)のように表される。
【数1】
JP0004281094B2_000002t.gif
ただし、Ex、Eyは2次元面内運動エネルギーであり連続値を取る。またU(r)は場所rにおける静電ポテンシャルエネルギーである。基底サブバンドエネルギーE0 をサブバンドエネルギーの基準点にとってE0 =0とし、かつΔE01=E1 -E0 と記せば、基底状態(i=0)と、第一励起状態(i=1)のエネルギーはそれぞれ下記(2)(3)式のように表せる。
【数2】
JP0004281094B2_000003t.gif
【数3】
JP0004281094B2_000004t.gif

【0010】
ここで、サブバンド間エネルギーΔE01は、z方向の電子閉じ込め効果によるため、2次元電子系を形成する量子井戸のz方向の厚みによって定まる。xy面内の運動が同一でサブバンドだけが異なる(2)式と(3)式の状態はz方向の運動状態の違いだけから生ずる。従って、次式(4)で表される電磁波吸収によるサブバンド間励起を選択的に引き起こすためには、(5)式で表されるエネルギー保存則、(但し、hはプランクの定数、νは電磁波の周波数)を満たすだけでなく、電磁波がz方向、つまり2次元面に垂直方向の振動電場成分のみを有することが必要である。
【数4】
JP0004281094B2_000005t.gif
【数5】
JP0004281094B2_000006t.gif
ところが、量子ドットに垂直に入射する赤外光は、光が横波であることから2次元面に平行方向の振動成分しか有しない。そこで本発明では、量子ドットに垂直に入射する赤外光を孤立2次元電子層に集中すると共に、赤外光の量子ドットの面に垂直な振動電場成分を生成して量子ドット内の電子を選択的にサブバンド間遷移させる手段として、量子ドットを挟んで構成した、マイクロストリップアンテナを用いることを特徴とする。
【0011】
マイクロストリップアンテナ(Microstrip Antenna)は、広い面積の平板状導体と誘電体を挟んで搭載したパッチ状の導体とからなり、パッチ導体面に平行な振動電界を有する電磁波を入射させた場合、その振動電界がパッチ導体面に垂直な振動電界となって共振する(C. A. Balanis, "Antenna Theory", Wiley, (1997), Ch. 14参照)ので、量子ドットを挟んで構成した、検出する赤外光の電波インピーダンスと整合するインピーダンスを有するマイクロストリップアンテナにより、量子ドット面に垂直に入射する赤外光を量子ドットに集中すると共に量子ドットの面に垂直な振動電場成分を生成して、量子ドット内の電子を選択的にサブバンド間遷移させることができる。量子ドット内の電子を選択的にサブバンド間遷移させることができるので波長数μmから数百μmまでの広い波長範囲の赤外光が検出できる。
【0012】
次に、サブバンド間励起された電子を量子ドットから脱出させるメカニズムと、生じた量子ドットのイオン化を電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する。
図1は、サブバンド間励起された電子を量子ドット面に対して垂直方向に脱出させるメカニズムと、生じた量子ドットのイオン化を電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する概念図である。量子ドット1内で上記(4)式、(5)式に従ってサブバンド間励起された電子2が量子ドット1の下面に配されたトンネル障壁を介して垂直方向(-z方向)に脱出することにより量子ドット1がイオン化し、量子ドット1のイオン化を、電荷敏感トランジスタで検出する。本発明では、電荷敏感トランジスタとして、量子ドット1の直下に狭窄された導電部、すなわちポイントコンタクト3、ポイントコンタクト3を介して接続されるソース電極4、ドレイン電極5及びポイントコンタクト3を挟んで配置されポイントコンタクト3のサイズを制御するゲート電極6,6とからなる構成のトランジスタを使用する。このトランジスタをポイントコンタクト・トランジスタと名付ける。
【0013】
次に、ポイントコンタクト・トランジスタを詳しく説明する。ポイントコンタクトとは、量子井戸等で実現される2次元電子ガスにおいて、その2次元電子の存在領域をサブミクロン・サイズまで狭窄したポイント(点)を介した接合を意味する。ポイントコンタクト・トランジスタは、ポイントコンタクトと、ポイントコンタクトを介して接続されるソース電極、ドレイン電極、及びポイントコンタクトのサイズを制御する一対のゲート電極とから成る。ポイントコンタクトの電導度(conductance )は静電ポテンシャルによってきわめて敏感に変化することが知られており、ポイントコンタクトの近傍に置かれた単位電荷に対してポイントコンタクトの電導度がきわめて敏感に変化する。実際、サブミクロンの距離に隣接した量子ドット中で電子数が一つ変化することを、ポイントコンタクトの電導度変化によって検出できることが実験で示されている(M. Field et al., Phys. Rev. Lett. 70, 1311(1993) 参照)。本発明では、光励起によって生じる量子ドットのイオン化(電子1個の減少)をポイントコンタクトの電導度変化によって検出する。
【0014】
この赤外光検出器は、電子の脱出と検出の双方の構造を同一の半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板から一体物として作製できる構造のため、検出のために金属による単電子トランジスタを用いる既提案の構造(特開2004-214383号参照)に比べて、単電子トランジスタ作製中に半導体量子井戸表面が酸化されて特性が劣化する等の問題が生じず、作製が容易である。
【0015】
図2は、サブバンド間励起された電子を量子ドットから水平方向に脱出させるメカニズムと、生じた量子ドットのイオン化を電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する概念図である。この構成は図に示すように、量子ドット1内で(4)式、(5)式に従ってサブバンド間励起された電子2を、図の点線矢印で示すように、横(xy面内)方向、すなわち量子ドット1の面内方向横手に設けた脱出電極7に脱出させる構成である。この脱出による量子ドット1のイオン化を電荷敏感トランジスタで検出する。なお、この図においては、電荷敏感トランジスタとして、図1と同様に、量子ドット1の直下にポイントコンタクトを配置したポイントコンタクト・トランジスタを例示しているが、量子ドット1の面内方向横手に配置したポイントコンタクト・トランジスタでもよく、また、電荷敏感トランジスタは、単電子トランジスタでもよい。
【0016】
横方向脱出メカニズムを図3を用いてさらに詳しく説明する。図3(a)は、電子の赤外光吸収による励起過程α及び散乱過程βを、2次元量子ドット1の電子状態密度(Density of State: DOS)ダイアグラム中で示す図であり、横軸は状態密度、縦軸は電子エネルギーを示し、E0 は基底サブバンド、E1 は第一励起サブバンドである。図3(b)は、電子の励起過程α、散乱過程β、移動過程χ及び緩和過程δを電子のx方向のエネルギーダイアグラム中で示した図であり、図3(c)は、電子の励起過程α、散乱過程β、移動過程χ及び緩和過程δにおける電子の位置を示した図で、符号8は量子ドット1と脱出電極7の間に設ける電位障壁UB を示し、ハッチング部分9は電子の波動関数の広がりを模式的に示している。
【0017】
まず、xy面内方向への脱出確率はxy面内の運動エネルギー、Ex+Eyが大きければ大きいほど高い。ところが、サブバンド間励起(4)はEx+Eyを変化させないので、それだけでは横方向脱出は不可能である。しかし本発明では図3の(a)~(c)に示すように、サブバンド間励起過程αの後に、サブピコ秒からピコ秒の短時間でさらに次式(6)で示す準弾性散乱過程(Filin Al, Borovitskaya ES, Larionov AV "Intersubband relaxation of two-dimensional electrons in a parallel magnetic field" SEMICOND SCI TECH 13(17): 705-708 JUL 1998参照)βに従って、基底サブバンドの面内運動エネルギーEx+Eyの大きな状態E' (0)に遷移することを利用する。この散乱過程βは乱雑ポテンシャルまたは格子振動(scattering due to random potentials or phonon scattering)の影響で起こる。
【数6】
JP0004281094B2_000007t.gif
ただし、
【数7】
JP0004281094B2_000008t.gif
ここで、量子ドット1内の電子が感ずるポテンシャルUQDは光子吸収の素過程ごとにその値は異なるが、量子ドット1内の最低エネルギーの電子が感ずる最小のポテンシャルエネルギーと、フェルミ準位の電子がもつポテンシャルエネルギーとの間の値、すなわち、UQD-bottom < UQD < UQD-Fermi、の範囲にある。散乱過程βによってxy面内の運動エネルギーは、上記(6)及び(7)式より、
【数8】
JP0004281094B2_000009t.gif
だけ増大する。そのために、量子ドットの横方向に設置したポテンシャル障壁の高さUB をhν(h:プランク定数、ν:光子の振動数)より小さく制御すれば、励起電子は散乱過程βの後に、直ちに過程χで示すように、ポテンシャル障壁を乗り越えて脱出電極7に脱出する。脱出した電子は過程δで示すように、脱出電極中で速やかに余分の運動エネルギーを失うために、ポテンシャル障壁により阻まれて容易には量子ドット1に戻ることができない。このことによって量子ドット1が+e(eは単位電荷)に帯電し、そのイオン化状態は長時間(数ナノ秒から数十秒)持続する。そのイオン化を電荷敏感トランジスタの電流変化によって検出する。ただし、図3には電荷敏感トランジスタは描かれていない。この方法では、検出波長に応じてポテンシャル障壁の高さUB を外部から電気的に簡単に制御可能なため広い波長範囲にわたって波長選択可能な検出器を容易に実現できる。電荷敏感トランジスタとしては、量子ドットの上部に作製する単電子トランジスタ、または以下に説明するように量子ドットの横手または下部に設置するポイントコンタクト・トランジスタを用いる。
【0018】
このように本発明の赤外光検出器は、サブバンド間励起された電子を量子ドットから脱出させるメカニズムとして、量子ドットの垂直方向に脱出させるメカニズム又は量子ドットの横方向に脱出させる新規なメカニズムを用いる。これらのメカニズムを用いることにより、赤外光検出器の構成に新たな自由度が生れ、アレー化に適した構造の赤外光検出器が可能になる。
【0019】
上記説明では、周囲から電気的に孤立した2次元電子層として量子ドットを用いた本発明の赤外光検出器を説明してきた。
次に、量子プレートを用いた本発明の赤外光検出器を説明する。量子プレートを用いた本発明の赤外光検出器は、量子プレートを挟んで構成したマイクロストリップアンテナにより、量子プレートに垂直に入射する赤外光を量子プレートに集中すると共に、赤外光の、量子プレート面に垂直な振動電場成分を生成して、量子プレート内の電子を選択的にサブバンド間遷移させる点は、上記の量子ドットを用いた赤外光検出器の場合と同様である。
【0020】
図4は、サブバンド間励起された電子を量子プレートから脱出させるメカニズムと、生じた量子プレートのイオン化を、電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する概念図である。量子プレート10内で上記(4)式、(5)式に従ってサブバンド間励起された電子2が量子プレート10の下面に配されたトンネル障壁を介して垂直方向(-z方向)に脱出することにより量子プレート10がイオン化し、量子プレート10のイオン化を電荷敏感トランジスタ11で検出する。この場合の電荷敏感トランジスタ11は、量子プレート10の直下に配置された2次元電子層12と、2次元電子層12の両端に設けたソース電極13とドレイン電極14と、量子プレート10の下部に設けた裏面ゲート電極15とからなり、この構成の電荷敏感トランジスタ11をポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタと名付ける。ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタ11の裏面ゲート電極15に印加する電圧を選択して、2次元電子層12内の2次元電子を空乏化直前の状態に設定しておく。この状態では、2次元電子層12内の2次元電子系濃度が低下して電子系が蜘蛛の巣状のネットワーク状に残存し、そのネットワークの多数箇所で、電子がトンネルによってしか移動できないコンダクタンスの特に小さな点、すなわち、ポイントコンタクトとなっている。つまり、この状態では多数のポイントコンタクトがネットワークを形成している。赤外光が入射すると、図示しないマイクロストリップアンテナにより量子プレート10内の電子2が選択的にサブバンド間励起され、2次元電子層12に脱出し、ドレイン電極14に吸収され、量子プレート10がイオン化される。量子ドットの場合と異なるのは、量子プレート10は赤外光の波長よりもサイズが大きいため、赤外光が入射した場合に、同時に複数のイオン化が量子プレート内の異なった場所に生じることである。複数のイオン化電荷が形成されると、このイオン化電荷は、2次元電子層12内のコンダクタンスが特に低くなっている多数のポイントコンタクトの電子濃度を増大させ、トンネルを容易にしてコンダクタンスを大きく増大させる。イオン化は長時間継続し、この時間内のコンダクタンスの変化に基づく電流変化を積分することによって、単一光子レベルの光強度であっても検出可能な量となり、高感度に赤外光を検出することができる。また、この赤外光検出器の電荷敏感トランジスタは、量子ドットを使用した場合の、図1及び図2に示した電荷敏感トランジスタと比べて、作製が容易である。
【0021】
次に、本発明の赤外光検出器の具体的構成を説明する。なお、下記に説明する本発明の赤外光検出器は、上記した新規の種々のメカニズムに基づいて動作するものである。
本発明の赤外光検出器は、入射赤外光子を吸収し励起電子を生成する、周囲から電気的に孤立した孤立2次元電子層と、入射赤外光子を孤立2次元電子層に集中すると共に、孤立2次元電子層面に垂直な入射赤外光子の振動電場成分を生成し、孤立2次元電子層内の電子を選択的に2次元サブバンド間励起させる手段と、入射赤外光子の吸収により励起された電子を孤立2次元電子層から脱出させて孤立2次元電子層を帯電させる手段と、孤立2次元電子層の帯電によって電流が変化し、且つ、帯電状態が持続する間この電流変化が維持される電荷敏感トランジスタとを有することを特徴としており、下記の具体的構成を有する。
【0022】
本発明の赤外光検出器の第1の構成は、孤立2次元電子層が量子ドットであり、選択的に2次元サブバンド間励起させる手段が、量子ドットを挟んで形成したマイクロストリップアンテナであり、孤立2次元電子層を帯電させる手段が量子ドットの下面に形成するトンネル障壁層と、このトンネル障壁層の下面に形成したポイントコンタクト・トランジスタのソース電極及びドレイン電極とから成り、電荷敏感トランジスタが、上記ポイントコンタクト・トランジスタであることを特徴とする。
この構成によれば、マイクロストリップアンテナによって、量子ドットのサブバンド励起方向と一致する入射赤外光の振動電場が生成されるので、単一赤外光子の入射であってもサブバンド励起が生じる。サブバンド励起した電子は、トンネル障壁層を透過してポイントコンタクト・トランジスタの2次元電子層に吸収されるので量子ドットがイオン化する。ソース電極及びドレイン電極のエネルギー準位はトンネル障壁層のエネルギー高さと比べて十分低く設定するので、電子が量子ドットに戻る確率は十分低く、量子ドットのイオン化継続時間は十分長い。量子ドットのイオン化電荷の電界で、ポイントコンタクト・トランジスタの電導度(コンダクタンス)が変化し、電導度の変化に基づく電流値をイオン化継続時間に亘って積分すれば、イオン化継続時間が十分長いので、単一赤外光子の入射であっても検出できる。なお、検出する赤外光の波長は量子ドットを形成する量子井戸のz方向の厚みにより選択することができる。また、赤外光の波長に応じてトンネル障壁層のエネルギー高さや厚みを適宜に選択するが、それは既知の理論に従って行う。
【0023】
本発明の赤外光検出器の第2の構成は、上記第1の構成と比べて、量子ドットから励起電子を脱出させ、量子ドットを帯電させる手段が量子ドットの面内方向横手に配するゲート電極と、このゲート電極の横手に配する脱出電極とからなり、電荷敏感トランジスタが、量子ドット直上に配した単電子トランジスタであることが異なる。
この構成によれば、脱出電極のエネルギー準位をゲート電極の静電障壁に比べて十分低く設定するので、脱出した電子が量子ドットに戻る確率は小さく、イオン化継続時間が十分長い。イオン化電荷により、単電子トランジスタの電導度が変化し、電導度の変化に基づく電流値の変化をイオン化継続時間にわたって積分することにより、単一光子の検出が可能になる。第2の構成の赤外光検出器では横方向に電子を脱出させる構成であるので、例えばビデオ信号検出器として、この赤外光検出器をアレイ化する場合に作製が容易になる。
【0024】
本発明の赤外光検出器の第3の構成は、上記第2の構成と比べて、前記電荷敏感トランジスタが、上記ゲート電極の横手に配するポイントコンタクト・トランジスタであることが異なる。この構成によれば、単電子トランジスタを用いる場合と比べて、作製が容易である。
【0025】
本発明の赤外光検出器の第4の構成は、上記第3の構成と比べて、電荷敏感トランジスタが、上記量子ドットの直下に配するポイントコンタクト・トランジスタである点が異なる。この構成によれば、単電子トランジスタを用いる場合と比べて作製が容易である。
【0026】
本発明の赤外光検出器の第5の構成は、上記第1の構成と比べて、孤立2次元電子層が量子プレートであり、電荷敏感トランジスタがポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタであることが異なる。この構成によれば、入射赤外光子を吸収し励起電子を生成する、周囲から電気的に孤立した孤立2次元電子層が、量子ドットと比べて面積の広い量子プレートであるため、量子プレートの異なった箇所に同時に複数の励起電子を形成できる。これらの励起電子は、ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層に落ち込み、ドレインに吸収されるので、これらの電子が量子プレートに戻る確率は小さく、従って、量子プレートのイオン化継続時間は十分長い。量子プレートのイオン化電荷により、ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの電導度が増大し、この増大に基づく電流値をイオン化継続時間にわたって積分するので、単一光子レベルの入射赤外光強度であっても検出できる。また、量子プレートを形成する2次元電子系の量子井戸の厚みにより、検出する赤外光の波長を選択できる。さらに、赤外光の波長に応じてトンネル障壁を調整する。
この構成では、ポイントコンタクト・トランジスタで必要であった、ポイントコンタクトを形成するための先端が高精度に狭窄化された一対のゲート電極を必要としないので、製作工程が簡便になり、アレイ化に適したものとなる。
【0027】
上記赤外光検出器の、孤立2次元電子層、2次元サブバンド間励起を選択的に生じさせる手段、孤立2次元電子層を帯電させる手段及び電荷敏感トランジスタを構成するための、2次元電子層、トンネル障壁層、導電層及び絶縁層は、同一の半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板から形成することができる。例えば、高度に発達した III-V族半導体ヘテロエピタキシャル成長技術を用いて、必要とされる、2次元電子層、トンネル障壁層、導電層及び絶縁層を、必要とされる順番で積層した、半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板を予め作製しておき、この基板をメサエッチングすることにより作製できるので、多数のリソグラフィー工程が必要な一般的な高コストの製造方法に比べて作製工程が簡便であり、その結果、高品質且つ低コストな赤外光検出器を提供できる。
【0028】
上記ポイントコンタクト・トランジスタは、2次元電子層と、2次元電子層の2次元電子の存在領域をサブミクロン・サイズまで狭窄するゲート電極と、サブミクロン・サイズまで狭窄した2次元電子の存在領域であるポイントと接続するソース電極及びドレイン電極とからなっていてよい。この場合は、ポイントコンタクトの電導度が孤立2次元電子層の単一電荷の静電ポテンシャルで変化し、電導度の変化によってソース・ドレイン電流が変化する。
上記ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタは、2次元電子層と、この2次元電子層を空乏化直前まで空乏化しサブミクロン・サイズまで狭窄した2次元電子の存在領域であるポイントコンタクトからなるネットワークを形成する裏面ゲート電極と、2次元電子層の両端に接続するソース電極及びドレイン電極とからなっていてもよい。この場合、2次元電子層の電導度が、孤立2次元電子層の複数の電荷の静電ポテンシャルで変化し、電導度の変化によってソース・ドレイン電流が変化する。
また、本発明の赤外光検出器は、上述した赤外光検出器を、直列アレー型又は2次元マトリクス型に接続することができ、例えば赤外ビデオ信号検出器として使用することができる。
【0029】
一般に光は横波であるので、孤立2次元電子層に上方から入射する赤外光の振動電場は本来、孤立2次元電子層の面に平行な成分(xy方向成分)だけしか持たず、サブバンド励起を起こさない。しかし、本発明によれば、入射する赤外光の振動電場成分を、孤立2次元電子層に垂直方向(z方向)に変換してサブバンド励起を生じさせることができ、且つ、励起電子をトンネル障壁またはポテンシャル障壁を介してz方向またはxy方向に脱出させることにより孤立2次元電子層を+e(e:単位電荷)にイオン化することができる。このイオン化によって、孤立2次元電子層の近傍に配した電荷敏感トランジスタ(単電子トランジスタ、ポイントコンタクト・トランジスタ又はポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタ)を流れる電流が変化することを利用する。その際、孤立2次元電子層から脱出した励起電子は脱出電極の中でエネルギーを失って再度孤立2次元電子層に戻ることが困難となるため、孤立2次元電子層のイオン化状態は10n(ナノ)秒から数10秒程度の長時間持続する。その結果、電荷敏感トランジスタの電流変化が、孤立2次元電子層のイオン化状態が継続する間保持する。そのために単一光子ですら検出できる超高感度が実現する。
また、本発明の赤外光検出器は、あらかじめ作製した半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板をメサエッチングすることによって作製するので、孤立2次元電子層を形成する量子井戸を、波長数μmから数十μmまでの連続した広い波長範囲で動作するように設計することが容易である。また構造が単純なために検出器のアレー化に適している。
【発明の効果】
【0030】
本発明の赤外検出器によれば、波長数μmから数百μmまでの広い波長範囲で、単一光子又は単一光子レベルの強度の赤外光の検出を行うことができ、且つ、赤外光検出器、また、アレー化した赤外光検出器を低コスト高品質で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】サブバンド間励起された電子を量子ドット面に対して垂直方向に脱出させるメカニズムと、生じた量子ドットのイオン化を電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する概念図である。
【図2】サブバンド間励起された電子を量子ドットから水平方向に脱出させるメカニズムと、生じた量子ドットのイオン化を電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する概念図である。
【図3】横方向脱出メカニズムを詳しく説明する図である。
【図4】サブバンド間励起された電子を量子プレートから脱出させるメカニズムと、生じた量子プレートのイオン化を、電荷敏感トランジスタで検知するメカニズムを説明する概念図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の赤外光検出器の作製に用いる半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板を示す模式図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の赤外光検出器を作製する工程図である。
【図7】図6の工程に引き続いて行う工程を示す。
【図8】作製したポイントコンタクト・トランジスタの上面形状及び動作を示す図である。
【図9】図8の工程に引き続いて行う工程を示す。
【図10】本発明の第1の実施の形態の赤外光検出器の動作を説明する模式図である。
【図11】図10の動作の後の動作を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態の赤外光検出器を用いて形成した直列アレー型赤外光検出器の構成を示す図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態の赤外光検出器を用いて形成した二次元アレー型赤外光検出器の構成を示す図である。
【図14】本発明の二次元アレー型赤外光検出器に用いる基板を示す。
【図15】本発明の第2の実施の形態の赤外光検出器の作製に用いる基板を示す模式図である。
【図16】本発明の赤外光検出器の作製工程を示す図である。
【図17】本発明の赤外光検出器の構成を示す図である。
【図18】本発明の第3の実施の形態の赤外光検出器の構成を示す図である。
【図19】本発明の第4の実施の形態の赤外光検出器の作製工程を示す図である。
【図20】図19の工程に引き続いて行う工程を示す図である。
【図21】図20の工程に引き続いて行う工程を示す図であり、また、赤外光検出器の構成を示す図である。
【図22】本発明の第4の実施の形態の赤外光検出器を用いてアレー化した赤外光検出器の構成を示す図である。
【図23】本発明の第5の実施の形態の赤外光検出器に用いる、半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板を示す図である。
【図24】本発明の第5の実施の形態の赤外光検出器の構成を示す図である。
【図25】本発明の実施例1に用いた赤外光検出器の構成を示す図である。
【図26】本発明の赤外光検出器の上面ゲート電極と2次元電子層間の電気容量の上面ゲート電極の印加電圧依存性を示す図である。
【図27】本発明の実施例1の赤外光検出器の赤外光応答を示す図である。
【図28】本発明の実施例1の赤外光検出器の赤外光波長選択特性を示す図である。
【図29】自由電子濃度nと2次元電子層の抵抗Rとの関係を示す図である。
【図30】赤外光検出器の電導度のバックゲート電圧Vbg依存性を示す図である。
【図31】空乏化直前の電子濃度に於ける2次元電子層の電流輸送現象を模式的に示す図である。
【図32】従来技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
1 量子ドット
2 電子
3 ポイントコンタクト
4 ソース電極
5 ドレイン電極
6 サイドゲート電極
7 脱出電極
8 障壁層
9 波動関数の広がり
10 量子プレート
11 ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタ
12 2次元電子層
13 ソース電極
14 ドレイン電極
15 バックゲート電極
20 第1の実施の形態の赤外光検出器
21 基板
22 Si-GaAs層
23 Si-Al0.3 Ga0.7 As層
24 2次元電子層(GaAs層、量子井戸層)
24a 量子ドット
24b 量子ドットの側壁
24c 脱出電極
24d ソース電極
24e ドレイン電極
24f ポイントコンタクト
24g 狭窄領域
24i 狭窄領域
24h 量子プレート
25 中間層(Alx Ga1-x As層)
26 2次元電子層(GaAs層、量子井戸層)
26a ソース電極
26b ドレイン電極
26c サイドゲート
26d 接続部
26e ポイントコンタクト
26f ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層
27 Al0.3 Ga0.7 As
28 Si-Al0.3 Ga0.7 As層
29 Al0.3 Ga0.7 As
30 基底サブバンド準位
31 励起サブバンド準位
32 障壁
33 上部絶縁層
34 下部絶縁層
35 メサエッチング領域
36 パッチ部
38 赤外光フォトン
38z z方向の振動電界
39 電子
40 イオン化電荷(+e)
41 イオン化電荷の電界
42 電流
44 直列アレー型赤外光検出器
46 二次元アレー型赤外光検出器
48 導電層(Si-GaAs層)
49 基板
50 赤外光検出器
51 基板
52 メサエッチング領域
53 量子ドットと脱出電極を形成する領域
55 単電子トランジスタの量子ドット
56 パッチ部(ソース電極)
57 ドレイン電極
58 ゲート電極
70 赤外光検出器
72 ポイントコンタクト・トランジスタ
73 量子ドットとポイントコンタクト・トランジスタを形成する領域
74 パッチ部
75 第1のゲート電極
78 第2のゲート電極
80 赤外光検出器
81 メサエッチング領域
82 量子ドットと脱出電極を形成する領域
83 メサエッチング領域
88 パッチ部
89 ゲート電極
90 赤外光検出器
91 パッチ部
92 第2のゲート電極
93 第1のゲート電極
100 基板
110 赤外光検出器
101 バックゲート電極層(n-GaAs層)
111 金属格子
112 オーミックコンタクト
113 オーミックコンタクト
114 ソース電極
115 ドレイン電極
120 赤外光検出器
121 上面ゲート電極
121a 空乏層
190 赤外光
191 メサ構造
192 単電子トランジスタ
193 量子ドット
194 電子
195 電極
196 イオン化電荷
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実質的に同一の部材には同一の符号を用いて説明する。
初めに、第1の実施の形態の赤外光検出器について説明する。
図5は、第1の実施の形態の赤外光検出器20の作製に用いる半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板21を示す模式図である。図5(a)は基板21の断面方向の模式図であり、基板21を構成する各層を示す。図5(b)は、各層の接合によって形成される電子エネルギーダイヤグラムを示す。縦軸は基板21の断面方向にとった座標軸であり、-z方向は基板21の深さ方向を示す。横軸は電子のz方向、すなわち基板21の面に垂直方向の電子エネルギーを示す。図5(a)に示すように、本発明に使用する基板21は、GaAs、AlGaAs、及びこれらに不純物をドープした III-V族化合物半導体のヘテロ接合で構成される。これらの III-V族化合物半導体の組み合わせ以外にも、GaAs、InGaAsP等の III-V族化合物半導体が使用可能である。
【0034】
GaAs層24は、量子ドットを形成するための第1の2次元電子層24であり、Si-Al0.3 Ga0.7 As層23とAlx Ga1-x As層25とそれぞれヘテロ接合を形成し量子井戸を形成している。GaAs層24、Si-Al0.3 Ga0.7 As層23、Alx Ga1-x As層25の厚さ、及びAlx Ga1-x As層25の組成比xは、図5(b)の電子エネルギーダイヤグラムを形成するために適宜選択する。その選択方法は、周知技術であるので説明を省略する。GaAs層26は、ポイントコンタクト・トランジスタを形成するための第2の2次元電子層26であり、Alx Ga1-x As層25とAl0.3 Ga0.7 As層27とそれぞれヘテロ接合を形成し、量子井戸を形成している。GaAs層26、Alx Ga1-x As層25、Al0.3 Ga0.7 As層27の厚さ、及びAlx Ga1-x As層25の組成比xは、図5(b)の電子エネルギーダイヤグラムを形成するために適宜選択する。その選択方法は周知技術であるので説明を省略する。なお、第1の2次元電子層24の2次元電子濃度は、下記に説明する第2の2次元電子層26から形成する要素に印加する電圧によって空乏化しないように、第2の2次元電子層26の2次元電子濃度の1.5倍以上の濃度に設計する。
【0035】
図5(b)に示すように、基板21の電子エネルギーダイヤグラムは、第1の2次元電子層24の基底サブバンド30の電子が赤外光を吸収して第1励起サブバンド31に励起された場合に、障壁32をトンネリングして第2の2次元電子層26に落ち込むように設計されている。また、Si-GaAs層22、Si-Al0.3 Ga0.7 As層28及びAl0.3 Ga0.7 As層29は、赤外光の反射率軽減、素子動作安定化のために使用するものであり、周知技術であるので説明を省略する。図5(a)に示した基板21は、例えば分子線エピタキシー法によって作製することができる。
下記の説明においては簡潔にするため、第1の2次元電子層24より上の層は上部絶縁層33として、第2の2次元電子層26より下の層は下部絶縁層34として引用する。また、2次元電子層24、または、2次元電子層26から形成した構成要素には、24a、24b、・・、26a、26b・・の様に、2次元電子層の符号24、26の後にアルファベットを付加して引用する。
【0036】
図6は、図5に示した基板21を用いて第1の実施の形態の赤外光検出器20を作製するための第1の工程を示すもので、図6(a)は上面図、図6(b)はそのX-X’断面構造を示す。2点鎖線は赤外光検出器20の単位ブロックを示す。図6(a)における斜線部分35はメサエッチングした領域を示し、白い四角部分36は、メサエッチングで残留させた、2次元電子層24より形成した量子ドット24aと上部絶縁層33とからなるメサ構造である。図6(b)は、メサエッチングをAlx Ga1-x As層25に到るまで行って、2次元電子層24を量子ドット24aの形状に加工する場合を示しているが、GaAs系半導体の場合にはGaAsを覆う絶縁層の厚さが薄くなると、GaAs表面の自由電子が空乏化するので、図6(c)に示すように、上部絶縁層33の残留膜厚を制御してメサエッチングし、量子ドット24aの形状を形成しても良い。また図6(b)において、量子ドット24aは一様に灰色に塗られた矩形で示しているが、2次元電子密度は矩形内で一様ではなく、側壁24bから矩形内部に向けての一定深さにおいては空乏化している。図を見やすくするため、この空乏化を図示しない。また、以後の説明においては分かりやすくするため、GaAs層を機械的に分離して、すなわち、GaAs層を削り取って量子ドット形状を形成する場合のみを図示するが、上記のように上部絶縁層の残留膜厚を制御して空乏化することも勿論可能である。また、メサエッチングは、標準的なフォトリソグラフィー技術で可能である。
【0037】
量子ドット24aの厚さ、すなわち、GaAsからなる2次元電子層24の厚さdを適切に選択することによって、検出赤外波長を10μmから80μm程度まで連続的に設計することができる。dと波長の関係は既知の計算式を用いることができ、例えば、λ=9.6μmの場合には、d=8nmとすることにより、サブバンドエネルギー差、ΔE01=140meV(=hc/9.6μm、但しcは光速)となる。量子ドット24aは、イオン化した際のポイントコンタクトに及ぼす静電ポテンシャル変化が十分大きくなるように、一辺が0.3μmから2μmの範囲の正方形とするのが好ましい。
【0038】
図7は、図6に引き続いて行う工程を示し、図7(a)は上面図、図7(b)は(a)のX-X’断面図、図7(c)は(a)のY’-Y断面図である。図7(a)において、斜線部分37はメサエッチングした部分を示し、33(24a)は量子ドット24a上の上部絶縁層33を、25(26b)はドレイン電極26b上のAlx Ga1-x As層25を、25(26c)はサイドゲート電極26c上のAlx Ga1-x As層25を、また、25(26a)はソース電極26a上のAlx Ga1-x As層25を示している。図7(b),(c)に示すように、メサエッチングは下部絶縁層34に達するまで行って第2の2次元電子層26から、ポイントコンタクト・トランジスタのソース電極26a、ドレイン電極26b、一対のサイドゲート電極26c及びポイントコンタクトとなるソース電極26aとドレイン電極26bの接続部26dを形成する。
【0039】
図8は、図7に示した工程によって作製したポイントコンタクト・トランジスタの上面形状及び動作を示すもので、図8(a)は上方から見た形状を示し、図8(b)は、サイドゲート電極26c,26cを負にバイアスした場合のポイントコンタクトの形成を示している。図8(b)に示すように、サイドゲート電極26c,26cを負にバイアスすることによって、ソース電極26aとドレイン電極26bの接続部分26dが空乏化し、ポイントコンタクト26eが形成される。ポイントコンタクト26eの直上1μm以内の位置に量子ドット24aの中心が存在する。なお、ソース電極26a、ドレイン電極26b及びサイドゲート電極26c,26cの電源等への接続は、図6(a)に示した2点鎖線枠外でオーミックコンタクトを形成して行うが、周知の技術であるので、図示及び説明を省略する。
【0040】
図9は、図8の工程に引き続いて行う工程を示すと共に、第1の実施の形態の赤外光検出器20の構成を示している。図9(a)に示すように、マイクロストリップアンテナのパッチ電極に相当するパッチ部36を、ソース電極上の中間層25(26a)上及び量子ドット上の上部絶縁層33(24a)上に一部架かって形成する。図9(b)は図9(a)のY’-Y断面図である。この工程によって赤外光検出器20が完成する。
パッチ部36は、略正方形で、正方形の頂点の一つが、略矩形状に伸びて、量子ドット24a上の上部絶縁層33上の略半分を覆う形状である。正方形の一辺の長さLは、λを検出赤外波長、εを媒質の誘電率として、L=λε/2であれば検出赤外波長の電波インピーダンスと整合したインピーダンスが得られる。GaAsの場合、λε=λ/3.6である。パッチ部36と2次元電子層26とでマイクロストリップアンテナが構成される。パッチ部36は、例えばAl等の金属で良く、リフトオフ等によって形成する。
【0041】
図10は赤外光検出器20の動作を説明する模式図である。図10(a)は、パッチ部36の面に平行な振動電界を有する赤外光フォトン38一個が、マイクロストリップアンテナに入射して共振し、その振動電界がz方向の振動電界38zに変換された様子を示している。図10(b)は、図10(a)の状態に伴って生じる、量子ドット24a中の電子39の移動を示す。図10(b)に示すように、基底サブバンド30に存在している電子39は、z方向の振動電界38zを吸収して第1励起状態サブバンド31に励起され、ポテンシャル障壁32を-z方向にトンネリングして、ソース電極26aまたはドレイン電極26bに落ち込んでエネルギーを失うと共にドレイン電極26bに移動し、図示しない電源に吸収される。
【0042】
図11は図10の動作の後の動作を示す。図11(a)は、量子ドット24aから電子39が抜けて量子ドット24aがイオン化し、+電荷40(大きさ+e)が生じ、+電荷40による電界41が生じている状態を示している。電界41の直下には、図8(b)で示したように、サイドゲート電極26c,26cの負電圧によってポイントコンタクト26eが形成されており、ポイントコンタクト26eの電導度は電界41によって変化する。この変化はソース電極26aからドレイン電極26bに流れる電流42の変化となって現れる。図11(b)に示すように、量子ドット24aのイオン化は、外部からの電子が図に示されるエネルギー障壁32を乗り越えて、+電荷40と再結合するまで継続するので、数n秒から数十秒の間継続する。この間の電流42の変化を積分すれば、この変化は検出可能な大きさとなり、赤外光フォトン1個の検出感度が得られる。
【0043】
次に、赤外光検出器20を用いて形成した直列アレー型赤外光検出器を説明する。図12は、第1の実施の形態の赤外光検出器20を用いて形成した直列アレー型赤外光検出器44の構成を示している。図9に示した2点鎖線で囲った隣り合うブロックの、ソース電極26a同士、パッチ部36同士及びドレイン電極26b同士を接続することにより直列アレーを形成する。図6から図9に説明した工程と同じ工程で作製できるので、極めて容易に直列アレー型赤外光検出器を製造できる。
【0044】
次に、赤外光検出器20を用いて形成した二次元アレー型赤外光検出器を説明する。図13は、第1の実施の形態の赤外光検出器20を用いて形成した二次元アレー型赤外光検出器46の構成を示し、(a)は上面図、(b),(c)はそれぞれ図13(a)のx-x’断面図、Y-Y‘断面図である。図13(a)は説明をわかりやすくするため、2次元電子層26から形成されるポイントコンタクト・トランジスタ部分をグレー色で示している。二次元アレー型赤外光検出器46の作製には、図14に示す構成の基板49を用いる。基板49は、図5に示した基板21と比べて、第2の2次元電子層26の下部にSi-GaAsからなる導電層48を有している点が異なる。
二次元アレー型赤外光検出器46を作製するには、初めに、量子ドットとする領域を残して、その外部領域を、Alx Ga1-x As層25に到るまでメサエッチングして量子ドット24aを形成する。次に、x方向に隣り合う量子ドット24aの間の領域(図13(a)の白い領域)を、Al0.3 Ga0.7 As層27に到るまでさらにメサエッチングする。これらの工程により、アレーを構成する各赤外光検出器は、ドレイン電極26bとソース電極26aが量子ドット24a下部の狭隘な接続部26dを介して接続されたトランジスタ構造が形成され、また、行方向には並列に、列方向には直列に接続される。マイクロストリップアンテナのパッチ部36は、図9と同様にリフトオフによって形成する。マイクロストリップアンテナはパッチ部36と導電層48とで構成される。
【0045】
動作原理は図10、図11に示したそれと同様であるが、量子ドット24aの下部のポイントコンタクト26eを形成する方法が異なる。すなわち、導電層48を-1Vから-5V程度の負電圧にバイアスすることによって、図13(c)に示すように、各量子ドット24aの下部の狭隘領域26dを狭窄化してしてポイントコンタクト26eを形成する。図13のアレーは3×3のマトリックスであるが、マトリックスを大きくすることは容易である。または、個々の赤外光検出器アレーを独立のピクセルとし、空間分解能を高くすることも容易である。
【0046】
次に、第2の実施の形態の赤外光検出器を説明する。
第2の実施の形態の赤外光検出器は、電子を脱出させる方向が量子ドット面内方向である点が、第1の実施の形態の赤外光検出器と異なる。
図15は、第2の実施の形態の赤外光検出器50の作製に用いる基板51を示す模式図である。図15(a)は、基板51の断面方向の模式図で、基板51を構成する各層を示し、(b)は各層のヘテロ接合によって形成される電子エネルギーダイヤグラムを示す。基板51が図5に示した基板21と異なる点は、図15(b)に示すように、z方向の励起サブバンド31に励起された電子が第1の2次元電子層24から抜け出ないように、第1の2次元電子層24と第2の2次元電子層26との間の中間層25をAl0.3 Ga0.7 As層とした点である。
【0047】
図16は赤外光検出器50の作製工程を示している。図16(a)は上面図、(b)は(a)のx-x’断面図である。初めに、図16(a)に示すように、斜線部分52を図16(b)に示すように、中間層25に到るまでメサエッチングして、一辺0.3μmから1μmの正方形の量子ドットと脱出電極を形成する領域53を形成する。次に、図17に示すように、単電子トランジスタ、パッチ部及び量子ドットの横手方向脱出ポテンシャル障壁形成用ゲート電極を形成し、これらの工程によって赤外光検出器50の作製は完了する。
【0048】
図17は赤外光検出器50の構成を示し、図17(a)は上面図、(b)は(a)のx-x’断面図、(c)はゲート電極に電圧を印加した場合の動作を示す断面図である。55は単電子トランジスタの量子ドット、56はマイクロストリップアンテナのパッチ部を兼ねる単電子トランジスタのソース電極、57は単電子トランジスタのドレイン電極、58は領域53を量子ドット24aと脱出電極24cとに電気的に分離するゲート電極である。単電子トランジスタは、例えば、アルミニウム単電子トランジスタでよく、パッチ部56及びゲート電極58の作製工程と同様にアルミニウム薄膜によるリフトオフで作製できる。なお、単電子トランジスタの作製方法は良く知られているので説明を省略する。また、単電子トランジスタの量子ドット55とソース電極56(パッチ56)との間及び単電子トランジスタの量子ドット55とドレイン電極57との間には酸化アルミニウムからなるトンネル障壁層が存在するが図を見やすくするため省略する。
マイクロストリップアンテナのパッチ部56の一辺の長さLはほぼ、L=λε/2に選び、量子ドット24aの約1/3を覆うように配置する。ゲート電極58を約-0.4Vから-2Vの負電圧にバイアスすることにより、ゲート電極58の直下の2次元電子層24を空乏層化するすることによって、量子ドット24aと脱出電極24cを隔てるポテンシャル障壁UB を形成すると共に、量子ドット24aの形状を正方形に形成する。この様子を図17(c)に示している。この検出器の検出赤外光波長λは、2次元電子層24の厚さdを適切に選択することにより、λ=10μm(D=8nm)からλ=200μm(d=30nm)まで連続的に設計することができる。マイクロストリップアンテナは、パッチ部56と2次元電子層26とで構成する。
【0049】
この構成によれば、パッチ部56の面に平行な振動電界を有する赤外光フォトン一個が、マイクロストリップアンテナに入射して共振し、その振動電界がz方向の振動電界に変換され、量子ドット24a中の電子は、z方向の振動電界を吸収して第1励起状態サブバンドに励起されるが、乱雑ポテンシャルまたは格子振動の影響で、その励起エネルギーがxy面内方向のエネルギーに変換され、そのエネルギーがゲート電極58で形成するポテンシャル障壁UB よりも高ければ、脱出電極24cに脱出し、量子ドット24aはイオン化される。量子ドット24aのイオン化電荷によって、単電子トランジスタの量子ドット55の電導度は変化し、単電子トランジスタの電流が変化する。イオン化状態は長く続くので、電流変化の積分値は検出可能な大きさとなり、赤外光フォトン1個の検出が可能な感度を達成できる。
【0050】
次に、第3の実施の形態の赤外光検出器を説明する。基板は、図15に示した基板51を用いる。
図18は、第3の実施の形態の赤外光検出器70の構成を示し、(a)は上面図、(b),(c)はそれぞれ図18(a)のX-X’断面図、Y-Y’断面図である。赤外光検出器70の構成は、図17に示した赤外光検出器50の構成と共通する部分が多いので、赤外光検出器50の構成との違いを中心に説明する。図16に示した赤外光検出器50では、最初に中間層25に到るまでメサエッチングして正方形の量子ドットと脱出電極を形成する領域53を形成するが、赤外光検出器70では、中間層25に到るまでメサエッチングして、図18に示すように正方形の量子ドット24aとポイントコンタク・トランジスタ72を形成する領域73を形成する。また、赤外光検出器50では、金属薄膜を用いたリフトオフ法により、パッチ部、ゲート電極及び単電子トランジスタを形成するが、赤外光検出器70では、金属薄膜を用いたリフトオフ法によって、パッチ部74、第1のゲート電極75及び領域73を電気的に分割して、ポイントコンタク・トランジスタ72のソース電極24dとドレイン電極24eを形成する第2のゲート電極78を形成する。
マイクロストリップアンテナのパッチ部74の一辺の長さLはほぼ、L=λε/2に選び量子ドット24aの約1/3を覆うように配置する点は、赤外光検出器50と共通し、マイクロストリップアンテナは、パッチ部74と2次元電子層26とで構成する点も共通する。また、ゲート電極75を負電圧にバイアスして、第1のゲート電極75直下の2次元電子層24を空乏層化するすることによって、量子ドット24aと脱出電極24cとを隔てるポテンシャル障壁UB を形成すると共に、量子ドット24aの形状を正方形に形成する点は、赤外光検出器50と共通するが、赤外光検出器70では、第2のゲート電極78を負電圧にバイアスして、第2のゲート電極78直下の2次元電子層24を空乏層化することによって、ポイントコンタク・トランジスタ72のソース電極24dとドレイン電極24eを電気的に分離して形成すると共に、図18(b)に示すように、ソース電極24dとドレイン電極24eとの接続部分を狭窄化してポイントコンタクト24fを形成する点が赤外光検出器50と異なる。また、赤外光検出器70の脱出電極は、ポイントコンタクト24eに接続するソース電極24dとドレイン電極24eの狭窄部分24g,24iである。
【0051】
この構成によれば、パッチ部74の面に平行な振動電界を有する赤外光フォトン一個がマイクロストリップアンテナに入射して共振し、その振動電界がz方向の振動電界に変換され、量子ドット24a中の電子は、z方向の振動電界を吸収して第1励起状態サブバンドに励起されるが、乱雑ポテンシャルまたは格子振動の影響でその励起エネルギーがxy面内方向のエネルギーに変換され、そのエネルギーが第1のゲート電極75で形成するポテンシャル障壁UB よりも高ければ、狭窄部分24g,24iに脱出してドレイン電極24eに吸収され、量子ドット24aはイオン化される。量子ドット24aのイオン化によってポイントコンタクト24fの電導度が変化し、ソース電極24dからドレイン電極24eに流れる電流が変化する。イオン化状態は長く続くので、電流変化の積分値は検出可能な大きさとなり、赤外光フォトン1個の検出が可能な感度を達成できる。
【0052】
次に、第4の実施の形態の赤外光検出器を説明する。第4の実施形態の赤外光検出器は、第3の実施の形態の赤外光検出器と比べて、電子が横(xy面内)に脱出する点は共通するが、ポイントコンタクト・トランジスタが量子ドットの下部に存在する点が異なる。基板は、図14に示した構成の基板49を用いる。
図19は、第4の実施の形態の赤外光検出器80の作製工程を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のY’-Y断面図である。初めに、基板の斜線部分81を、中間層25に到るまでメサエッチングし、2次元電子層24から、量子ドットと脱出電極を形成する領域82を形成する。
【0053】
図20は図19に示した工程に引き続いて行う工程を示し、(a)は上面図、(b),(c)はそれぞれ、(a)のX-X’断面図、Y’-Y断面図である。図20(a)に示した斜線部分はメサエッチング領域83であり、メサエッチング領域83は、中間層25の表面から下部絶縁層34に到るまでメサエッチングすることによって形成し、2次元電子層26から、ポイントコンタクト・トランジスタの一対のサイドゲート電極26c、ソース電極26a、ドレイン電極26b、ソース電極26aとドレイン電極26bとの接続部26dを形成する。
【0054】
図21は、図20に引き続いて行う工程を示すと共に、赤外光検出器20の構成を示している。(a)は上面図、(b),(c)はそれぞれ、(a)のX-X’断面図、Y’-Y断面図である。図21(a)に示すように、金属薄膜を用いたリフトオフ法により、パッチ部88及びゲート電極89を形成する。この工程により、赤外光検出器80は完成する。パッチ部88の形状及び配置位置は、図9に示した赤外光検出器20の場合と同様である。図21(c)に示すように、ゲート電極89に負バイアスを印加することにより、量子ドット24aを正方形に形成し、脱出電極24cとの間にポテンシャル障壁UB を形成する点は、図17に示した赤外光検出器50の場合と同様である。図21(b)は、サイドゲート電極26cを負にバイアスし、接続部26dを狭窄化してポイントコンタクト26eを形成している状態を表しており、図21(c)は、ポイントコンタクト26eを介してソース電極26aとドレイン電極26bが接続している状態を示している。このように、赤外光検出器80のポイントコンタクト・トランジスタは、量子ドット24aの下部にある点が、第3の実施の形態の赤外光検出器70の構成と異なる点である。また、マイクロストリップアンテナは、パッチ部88と導電層48とで構成する。
【0055】
この構成によれば、パッチ部88の面に平行な振動電界を有する赤外光フォトン一個がマイクロストリップアンテナに入射して共振し、その振動電界がz方向の振動電界に変換され、量子ドット24a中の電子は、z方向の振動電界を吸収して第1励起状態サブバンドに励起されるが、乱雑ポテンシャルまたは格子振動の影響でその励起エネルギーがxy面内方向のエネルギーに変換され、そのエネルギーがゲート電極89で形成するポテンシャル障壁UB よりも高ければ、脱出電極24cに脱出し、量子ドット24aはイオン化される。量子ドット24aのイオン化によってポイントコンタクト26eの電導度が変化し、ソース電極26aからドレイン電極26bに流れる電流が変化する。イオン化状態は長く続くので、電流変化の積分値は検出可能な大きさとなり、赤外光フォトン1個の検出が可能な感度を達成できる。
【0056】
次に、赤外光検出器70を用いたアレー化の例を示す。基板は図15に示した基板51を使用する。
図22は赤外光検出器70を用いてアレー化した赤外光検出器90の構成を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のX-X’断面図である。91はマイクロストリップアンテナのパッチ部であり、92は、図18に示したと同様に、ソース電極とドレイン電極を分離すると共にポイントコンタクトを形成するゲート電極であり、93は、図18に示したと同様の、量子ドットを形成すると共に脱出ポテンシャル障壁を形成するゲート電極であり、24d,24eは、図18に示したと同様の、ソース電極,ドレイン電極である。24fは、図18に示したと同様の、ポイントコンタクトであり、24aは、図18に示したと同様の量子ドットである。マイクロストリップアンテナは、パッチ部91と2次元電子層26とで構成する。作製方法は、赤外光検出器80の作製方法と同様であり、容易にアレー化できる。
【0057】
次に、本発明の第5の実施の形態を説明する。
図23は、第5の実施の形態の赤外光検出器に用いる半導体多層ヘテロエピタキシャル成長基板100を示す。2次元電子層24は、量子プレートを形成するために用いる。2次元電子層26は、ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層として用いる。2次元電子層24と26との間の中間層25は、Alx Ga1-x As層の組成比xが徐々に変化した勾配層であり、図23(b)に示すように、この組成勾配による内部電界により、中間層25に注入された電子がより早く2次元電子層26に落ち込むようにしている。2次元電子層26の下部に位置する下部絶縁層34は、GaAsからなるバッファー層(Buffer layer)を含み、下部絶縁層34の下部には、導電性のGaAs層であるn-GaAs層101を有している。n-GaAs層101は、ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層の2次元電子濃度を制御するバックゲート電極として用いる。
【0058】
図24は本発明の第5の実施形態の赤外光検出器110の構成を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のY-Y’断面図である。赤外光検出器110は、個々にマイクロストリップアンテナとして働く金属パッチが並んだ金属格子111と、上部絶縁相33と、量子プレート24hと、中間層25と、ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層26fとからなるメサ構造を有している。量子プレート24hは、検出する赤外光の波長λの1/2より大きい角形の形状を有しており、金属格子111の外形は量子プレート24hの外形と同一であり、各パッチの一辺の長さLは、上部絶縁層33と中間層25の平均的誘電率をεとして、L=λε/2である。2次元電子層26fの対向する2辺にはオーミックコンタクト112,113を介してソース電極114、ドレイン電極115に接続している。オーミックコンタクト112,113、ソース電極114及びドレイン電極115はAl等の金属薄膜を用いても良い。2次元電子層26fの下部には、下部絶縁層34を介して、n-GaAs層101からなるバックゲート電極101が接続している。2次元電子層26f、ソース電極114及びドレイン電極115及びバックゲート電極101とでポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタを形成する。赤外光検出器110は上記第1~第4の実施の形態と同様に、メサエッチング、金属薄膜の蒸着及びリフトオフによる金属薄膜のパターンニングで形成することができる。
【0059】
この構成によれば、金属格子111と2次元電子層26fとでマイクロストリップアンテナのアレイが構成され、入射赤外光の量子プレート24hの面に垂直な振動電界成分が形成され、この振動電界成分により量子プレート24h中の電子がサブバンド励起される。サブバンド励起された電子は、ポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタの2次元電子層26fに注入され、ドレイン電極115に吸収される。2次元電子層26fは、バックゲート電極101に印加する電圧によって、2次元電子が空乏化する直前の状態に保たれており、この状態は、2次元電子層26f内の2次元電子の存在領域がネットワーク状となり、多数のコンダクタンスの低いポイントコンタクトが2次元電子層26f内に分布した状態であり、電子はポイントコンタクトを電導する状態、すなわち、ポイントコンタクト・ネットワークを電導する状態である。量子プレート24hのイオン化電荷の電界により2次元電子層26f内に2次元電子が生成され、これらの2次元電子は各ポイントコンタクト領域の電子濃度を増大させ、2次元電子層26fの電導度が急激に増大する。量子プレート24hのイオン化は長時間継続するので、この時間内のコンダクタンスの変化に基づく電流変化の積分値は、検出可能な大きさとなり、単一光子レベルの強度であっても、高感度に赤外光を検出できる。この赤外光検出器のポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタは、ポイントコンタクト・トランジスタと比べて、作製が容易である。
【0060】
次に実施例を説明する。
実施例1は上記第5の実施の形態に係る具体例である。
図25は、実施例1に用いた赤外光検出器120の構成を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のX-X’断面図である。赤外光検出器120は、図24の赤外光検出器110と比べて、上面ゲート電極121を用いた点が異なる。赤外光検出器110では、量子プレート24hの形成にメサエッチングを用いて機械構造的に分離して形成するが、赤外光検出器120は、上面ゲート電極121に負電圧を印加することにより空乏層121aを形成して、2次元電子層24から量子プレート24hを電気的に孤立させることによって形成した点が異なる。量子プレート24hの厚さは10nm、長さ及び幅はそれぞれ、100μm,40μmである。量子プレート24hと2次元電子層26fとの距離は100nmである。
【0061】
図26は、赤外光検出器120の上面ゲート電極121とオーミックコンタクト112との間の電気容量(capacitance )の上面ゲート電極121の印加電圧(Vgate)依存性を示すグラフである。縦軸はその容量を示し、横軸はVgate電圧を示す。図26から、Vgate電圧が約-0.6volt以上では、図のAに示すように、最も大きな一定の容量を示すことがわかる。これは、空乏層121aが形成されないために、量子プレート24hが2次元電子層24から孤立していないことを示している。Vgate電圧が約-0.6voltから約-1.6voltにおいては、図のBに示すように中間の大きさの一定容量値を示すことがわかる。これは、空乏層121aが十分に形成され、この空乏層によって量子プレート24hが2次元電子層24から孤立したことを示している。Vgate電圧が約-1.6volt以下においては、図のCに示すように最も小さな一定容量値を示すことがわかる。これは、空乏層121aが極めて大きくなり、この空乏層により量子プレート24hだけでなく2次元電子層26fまでもが孤立したことを示している。この結果から、上面ゲート電極にBで示した範囲の負電圧を印加すれば、量子プレートと、その直下にポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタを有する、第5の実施形態の赤外光検出器が形成できることがわかる。
【0062】
次に、赤外光検出器120の赤外光に対する応答について説明する。
赤外光検出器120に波長λ=14.5μmの赤外光を照射し、上面ゲート電極121の印加電圧(Vgate)を変化させながら、オーミックコンタクト112,113間の抵抗を測定した。
図27は赤外光検出器120の赤外光応答を示すグラフであり、縦軸は、赤外光を入射させない場合を基準とした、オーミックコンタクト112,113間の抵抗値の変化ΔRを示し、横軸は、上面ゲート電極121の印加電圧Vgateを示す。図から、Vgateが約-0.6volt以上ではΔRがゼロΩであり、Vgateが約-0.6voltから-0.8voltの範囲ではΔRが約-0.15Ωに変化することがわかる。図27の結果は、上面ゲート電極に図26のBで示した範囲の負電圧を印加すれば、電気的に周囲から孤立した量子プレートとポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタが形成され、赤外光によって量子プレート24hの電子がサブバンド励起され、この電子が2次元電子層26fを介してドレイン電極115に吸収されて量子プレート24hがイオン化され、このイオン化電荷により2次元電子層26fの電導度が上昇したことを示している。すなわち、第5の実施形態の赤外光検出器が形成され、その結果、赤外光を検出したことを示している。尚、約-0.6voltから-0.8voltの範囲のΔRの揺らぎ(fluctuation )は、下記に説明するように赤外光源容器からの黒体輻射に基づく。
【0063】
図28は赤外光検出器120の赤外光波長選択特性のグラフであり、縦軸はΔR、横軸は赤外光波長を示す。入射赤外光の波長を8μmから18μmまで変化させて、ΔRを測定した。図28から、赤外光検出器120は約14.5μmの赤外光を選択的に検出することがわかる。波長14.6μmの赤外光のエネルギーは、厚さ10nmのGaAs層のサブバンド間励起エネルギーに相当し、この赤外光検出器の量子プレート24hの厚さが10nmのGaAs層であることに対応している。
【0064】
次に光検出感度について説明する。
上記実施例の測定は、室温(300K)に保持された赤外光源からの赤外光を低温(4.2K)に冷却した赤外光検出器120に導いて測定した。このため、室温に保持された赤外光源容器からの黒体輻射が赤外光検出器120に入射し、この黒体輻射の強度は、赤外光源の強度よりも約16倍程度大きい。従って、上記実施例の測定は、黒体輻射による光子が大量に入射し、2次元電子層26fに黒体輻射の吸収に基づく大量の自由電子が存在する、すなわち、赤外光検出器120の光子検出感度が飽和に近い状態での測定である。
【0065】
次に、赤外光源容器からの黒体輻射を無くし、バックゲート電極層101にバックゲート電圧を印加すれば、単一光子の検出が可能であることを説明する。赤外光源容器を冷却し、黒体輻射によるバックグラウンド・ノイズが無い状態において、2次元電子層26fの電流I及び抵抗Rは、自由電子濃度n、電子電荷e、電子移動度μ、チャネル幅W、チャネル長L及びソース・ドレイン間印加電圧をVとして次式で表される。
【数9】
JP0004281094B2_000010t.gif
【数10】
JP0004281094B2_000011t.gif
Δn個の赤外光励起によって量子プレート24hからΔn個の電子が脱出し、量子プレート24hがQ=Δneで帯電したとすると、2次元電子層26fの電流I及び抵抗Rの変化ΔI及びΔRは次式で表される。
【数11】
JP0004281094B2_000012t.gif
【数12】
JP0004281094B2_000013t.gif
量子プレートのサイズが50μm×200μmの赤外光検出器を用い、赤外光源容器を4.2Kに冷却して黒体輻射を無くし、バックゲート電圧を印加しない状態で、時定数300msecで測定した検出限界値K(K=ΔI/I=ΔR/R)は、K=3×10-6であった。この測定条件においては自由電子濃度nが2.1×1015/m2 であったので、上記検出限界値Kから光子検出限界個数ΔN(ΔN=nLW×ΔI/I)を求めると、ΔN≒100個になる。
量子プレートのサイズを小さくすれば、同じイオン化電荷Q=eΔnに対する2次元電子層の静電ポテンシャルの変化が相対的に大きくなるので、量子プレートのサイズを約10μm×10μmに小さくすれば、ΔN=10個程度にすることができる。
【0066】
次に、バックゲート電圧を印加して、さらに検出限界個数ΔNを小さくする方法を説明する。
図29は、自由電子濃度nと2次元電子層26fの抵抗Rとの関係を示す図である。図のAに示すように、nが大きい領域では、脱出電子数Δnに対するRの変化は小さく、一方、図のBに示すように、自由電子濃度nが小さい領域(n<0.5×1015/m2 )では、電子移動度μもnの関数となるので、Δnに対する抵抗Rの変化は急激に大きくなる。上記バックゲート電圧を印加しない測定は図のAにおける測定に対応する。従って、量子プレートのサイズを約10μm×10μmに小さくし、バックゲート電圧を印加して、図のBの状態で測定するようにすれば、検出限界個数ΔNを1とすることができる。また、量子プレートのサイズを小さくしなくとも、バックゲート電極層101に大きな負電圧を印加して、図のB領域よりさらに電子濃度nを下げ、空乏化直前の電子濃度とすることによっても検出限界個数ΔN=1を実現できる。
【0067】
図30は、赤外光検出器の電導度(コンダクタンス)のバックゲート電圧Vbg依存性を示す図である。赤外光検出器120と同等な構造を有する他の赤外光検出器を用い、赤外光源容器を4.2Kに冷却して測定した。図のA及びBの自由電子濃度は図29のA及びBの自由電子濃度に対応し、Cは空乏化直前の電子濃度(n≒0.5×1014/m2 )に対応する。従って、約-0.7volt程度のバックゲート電圧を印加することによって、空乏化直前の電子濃度を実現できることがわかる。
【0068】
図31は、空乏化直前の電子濃度における2次元電子層の電流輸送現象を模式的に示す図である。空乏化直前の電子濃度の2次元電子層においてはドープした不純物の乱雑ポテンシャル(Random potential)により、(a)に示すように、僅かに電子が残った、0.1μmから0.5μm程度の径の、浅い水溜まりのような領域が転々と存在するようになり、電流はこれらの領域をトンネル遷移によって移動する電子によって形成される。一方、赤外光が照射され、2次元電子層上の量子プレートがイオン化すると、このイオン化電荷に基づいて個々の領域のサイズが変化するため、個々の領域間のトンネル確率が極めて大きく変化し(この効果をポイントコンタクト・ネットワーク・トランジスタと呼んでいる)、その結果、AやBの自由電子濃度領域に比し桁違いに大きな電流変化が得られるので、検出限界個数ΔN=1、すなわち、単一光子検出感度を実現するのは容易である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上述べたように、本発明の赤外光検出器によれば、従来の赤外光検出器に比べて感度が高く、赤外光フォトン1個でも検出することができる。また、その構成、作製方法が単純であるため、アレー化に適した検出器を実現することができる。従って、赤外光の高感度な検知が必要な計測技術分野、あるいは、赤外光によるビデオ信号が必要な産業分野に使用すれば、極めて有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31