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明細書 :ジョセフソン量子計算素子及びそれを用いた集積回路

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4609733号 (P4609733)
登録日 平成22年10月22日(2010.10.22)
発行日 平成23年1月12日(2011.1.12)
発明の名称または考案の名称 ジョセフソン量子計算素子及びそれを用いた集積回路
国際特許分類 H01L  39/22        (2006.01)
H03K  19/195       (2006.01)
FI H01L 39/22 A
H03K 19/195 ZAA
H01L 39/22 D
請求項の数または発明の数 20
全頁数 23
出願番号 特願2006-529319 (P2006-529319)
出願日 平成17年7月25日(2005.7.25)
国際出願番号 PCT/JP2005/013585
国際公開番号 WO2006/011451
国際公開日 平成18年2月2日(2006.2.2)
優先権出願番号 2004219284
2004375008
優先日 平成16年7月27日(2004.7.27)
平成16年12月24日(2004.12.24)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成19年1月23日(2007.1.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】前川 禎通
【氏名】山下 太郎
【氏名】高橋 三郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】正山 旭
参考文献・文献 特開平8-153904(JP,A)
J.B.Mager et al.,Spectroscopy on two coupled flux qubits,arXiv:cond-mat/0308192 [online],2003年 8月10日,<URL: http://arXiv.org/pdf/cond-mat/0308192>
I. Chiorescu et al.,Coherent Quantum Dynamics of a Superconducting Flux Qubit,Science,米国,AAAS,2003年 3月21日,Vol.299, Issue 5614,pp.1869-1871
S.M.Frolov et al.,Measurement of the Current-Phase Relation of SFS pi-Josephson junctions,arXiv:cond-mat/0402434 [online],2004年 2月17日,<URL: http://arXiv.org/pdf/cond-mat/0402434>
L.B.Ioffe et al.,Quiet SDS josephson Junctions for Quantum Computing ,arXiv:cond-mat/9809116 [online],1999年 1月11日,<URL: http://arXiv.org/pdf/cond-mat/9809116>
T.Yamashita et al.,Superconducting pi qubit with a ferromagnetic Josephson junction,arXiv:cond-mat/0410658 [online],2004年10月26日,<URL http://arXiv.org/pdf/cond-mat/0410658>
T.Yamashita et al.,Superconducting pi qubit with three Josephson junctions,arXiv:cond-mat/0507199 [online],2005年 7月 8日,<URL: http://arXiv.org/pdf/cond-mat/0507199>
調査した分野 H01L 39/22
H01L 39/24
H03K 19/195
特許請求の範囲 【請求項1】
ジョセフソン接合からなるπ接合と、ジョセフソン接合からなる第1の0接合又は第1及び第2の0接合と、を有する超伝導リング部と、
上記超伝導リング部の外側に配設される超伝導量子干渉素子からなる量子状態検出部と、を備え、
上記超伝導リング部のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間のトンネル効果により生じる結合・反結合状態を量子ビットとし、
上記量子ビットの結合・反結合状態が、上記量子状態検出部により読み出されることを特徴とする、ジョセフソン量子計算素子。
【請求項2】
前記超伝導リング部は、略半円帯状の2つの超伝導体と、該2つの超伝導体の隣接する両端部にそれぞれ挟まれて配設される強磁性金属と、絶縁体と、からなり、上記略半円帯状の2つの超伝導体と上記強磁性金属とでπ接合を形成し、かつ、上記略半円帯状の2つの超伝導体と上記絶縁体とで0接合を形成することを特徴とする、請求項1に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項3】
前記超伝導リング部は、全体がリング状に配置されていて、リングをほぼ3分割し互いに隙間を開け配設されている帯状の第1~第3の超伝導体と、それぞれが上記隙間に配設される、強磁性金属と第1の絶縁体と第2の絶縁体と、からなり、
上記第1の超伝導体と上記第1の絶縁体とさらに上記第3の超伝導体とで、前記第1の0接合を形成し、
上記第2の超伝導体と上記第2の絶縁体とさらに上記第3の超伝導体とで、前記第2の0接合を形成し、
上記第1の超伝導体と上記強磁性体とさらに上記第2の超伝導体とで、前記π接合を形成することを特徴とする、請求項1に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項4】
π接合及び0接合を有する超伝導リング部と、
上記超伝導リング部の外側に配設される超伝導量子干渉素子からなる量子状態検出部と、を備え、
上記超伝導リング部のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間のトンネル効果により生じる結合・反結合状態を量子ビットとし、
上記量子ビットの結合・反結合状態が、上記量子状態検出部により読み出されることを特徴とする、ジョセフソン量子計算素子。
【請求項5】
前記超伝導リング部は、略半円帯状の2つの超伝導体と、該2つの超伝導体の隣接する両端部にそれぞれ挟まれて配設される強磁性金属と、絶縁体と、からなり、上記略半円帯状の2つの超伝導体と上記強磁性金属とでπ接合を形成し、かつ、上記略半円帯状の2つの超伝導体と上記絶縁体とで0接合を形成することを特徴とする、請求項4に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項6】
前記超伝導リング部の前記結合・反結合状態が、前記π接合と前記0接合とにおけるジョセフソン結合定数の比(γ)により制御されることを特徴とする、請求項4又は5に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項7】
前記量子ビットの結合・反結合状態の前記量子状態検出部による読出しが、外部磁場の印加により行われることを特徴とする、請求項4又は5に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項8】
前記量子ビットの結合・反結合状態を、前記量子ビットに照射されるマイクロ波により任意の重ね合わせ状態とすることを特徴とする、請求項4に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項9】
ジョセフソン接合からなる第1及び第2の0接合及びπ接合を有する超伝導リング部と、
上記超伝導リング部の外側に配設される超伝導量子干渉素子からなる量子状態検出部と、を備え、
上記超伝導リング部のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間のトンネル効果により生じる結合・反結合状態を量子ビットとし、
上記量子ビットの結合・反結合状態が、上記量子状態検出部により読み出されることを特徴とする、ジョセフソン量子計算素子。
【請求項10】
前記超伝導リング部は、全体がリング状に配置されていて、リングをほぼ3分割し互いに隙間を開け配設されている帯状の第1~第3の超伝導体と、それぞれが上記隙間に配設される、強磁性金属と第1の絶縁体と第2の絶縁体と、からなり、
上記第1の超伝導体と上記第1の絶縁体とさらに上記第3の超伝導体とで、前記第1の0接合を形成し、
上記第2の超伝導体と上記第2の絶縁体とさらに上記第3の超伝導体とで、前記第2の0接合を形成し、
上記第1の超伝導体と上記強磁性体とさらに上記第2の超伝導体とで、前記π接合を形成することを特徴とする、請求項9に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項11】
前記超伝導リング部の前記結合・反結合状態が、前記第1及び第2の0接合と前記π接合におけるジョセフソン結合定数の比(γ)により制御されることを特徴とする、請求項9に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項12】
前記量子ビットの結合・反結合状態の前記量子状態検出部による読出しが、外部磁場の印加により行われることを特徴とする、請求項9に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項13】
前記量子ビットの結合・反結合状態を、前記量子ビットに照射されるマイクロ波により任意の重ね合わせ状態とすることを特徴とする、請求項9に記載のジョセフソン量子計算素子。
【請求項14】
ジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路であって、
上記ジョセフソン量子計算素子のそれぞれが、ジョセフソン接合からなるπ接合と、ジョセフソン接合からなる第1の0接合又は第1及び第2の0接合と、を有する超伝導リング部と、
上記超伝導リング部の外側に配設される超伝導量子干渉素子からなる量子状態検出部と、を備え、
上記超伝導リング部のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間のトンネル効果により生じる結合・反結合状態を量子ビットとし、
上記量子ビットの結合・反結合状態が、上記量子状態検出部により読み出されることを特徴とする、ジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
【請求項15】
前記超伝導リング部は、ジョセフソン接合からなるπ接合と、ジョセフソン接合からなる第1の0接合からなり、該超伝導リング部は、略半円帯状の2つの超伝導体と、該2つの超伝導体の隣接する両端部にそれぞれ挟まれて配設される強磁性金属と、絶縁体とからなり、上記略半円帯状の2つの超伝導体と上記強磁性金属とでπ接合を形成し、かつ、上記略半円帯状の2つの超伝導体と上記絶縁体とで0接合を形成することを特徴とする、請求項14に記載のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
【請求項16】
前記超伝導リング部は、ジョセフソン接合からなるπ接合とジョセフソン接合からなる第1及び第2の0接合とからなり、該超伝導リング部がリング状に配置されていて、リングをほぼ3分割し互いに隙間を開け配設されている帯状の第1~第3の超伝導体と、それぞれが上記隙間に配設される、強磁性金属と第1の絶縁体と第2の絶縁体と、からなり、
上記第1の超伝導体と上記第1の絶縁体とさらに上記第3の超伝導体とで、前記第1の0接合を形成し、
上記第2の超伝導体と上記第2の絶縁体とさらに上記第3の超伝導体とで、前記第2の0接合を形成し、
上記第1の超伝導体と上記強磁性体とさらに上記第2の超伝導体とで、前記π接合を形成することを特徴とする、請求項14に記載のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
【請求項17】
前記超伝導リング部の前記結合・反結合状態が、前記第1及び第2の0接合と前記π接合におけるジョセフソン結合定数の比(γ)により制御されることを特徴とする、請求項14に記載のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
【請求項18】
前記量子ビットの結合・反結合状態の前記量子状態検出部による読出しが、外部磁場の印加により行われることを特徴とする、請求項14に記載のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
【請求項19】
前記隣接する2つの量子ビットが磁気的な相互作用を生じるように配設され、該2量子ビットが制御付き否定論理演算を行うことを特徴とする、請求項14に記載のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
【請求項20】
前記量子ビットの結合・反結合状態が、前記量子ビットに照射されるマイクロ波により制御されて任意の重ね合わせ状態とされ、制御付き否定論理演算がされることを特徴とする、請求項14に記載のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、π接合を含むジョセフソン素子を利用し、量子計算機に用いることができる、ジョセフソン量子計算素子及びそれを用いた集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
量子計算機は、従来の古典的計算機では事実上計算不可能な特定の問題に対して圧倒的に早い計算速度を持つ計算機である。この量子計算機では、古典的計算機のビットに対応するものとして、量子ビットと呼ばれる量子2準位系が用いられる。演算には多数の量子ビットが用いられるが、もっとも基本的な動作は、任意の一つの量子ビットに対するユニタリー変換操作と、操作終了後の量子ビットの読み出しを行う量子演算素子によって行われる。固体電子素子において、このような量子ビットとして利用できると提案されている物理状態は、超電導状態、電子の状態及び原子核のスピン状態などである。
【0003】
最初に、量子ビットの基本事項を説明する。
一般に、|0>と|1>とに対応する2つの物理状態がある場合に、これらを重ね合わせた|0>+|1>で与えられる重ね合わせ状態が、量子ビットとして機能する。すなわち、古典ビットは0か1のいずれかであるが、量子ビットでは|0>か、|1>以外に、|0>と|1>の中間の状態が無数にあり、さらに、位相の異なった状態も無数に存在する。このある状態|s>を何らかの作用によって別の状態|s’>に変化させることをユニタリー変換と呼ぶ。
【0004】
量子計算機を構成する量子ビットにおいては、とくに、以下の4つの機能を備える必要がある。
第1は初期化であり、量子ビットの初期状態を、よく定義された状態、例えば、|0>または|1>に初期化する手段を有することである。
第2は状態の制御(量子演算ゲート)であり、用意された初期状態(例えば、|0>または|1>)を任意の重ね合わせ状態|s>にユニタリー変換する手段を有することである。
第3は読み出しであり、ユニタリー変換した状態|s>を測定する手段、即ち、|0>及び|1>の振幅値の値を決定する検出手段、を有することである。
第4は拡張性に関し、最初に2ビットについて条件付き状態制御(controled not gate)が要求され、集積化によるさらに多数の量子ビットへの拡張が要求される。
【0005】
超伝導量子ビットを用いた量子演算素子として、異なる電荷状態を有する二つの超伝導状態である電子対箱を利用する提案がある。異なる位相状態を有する超伝導状態である超伝導量子干渉計(SQUID)を利用する提案もある。
【0006】
非特許文献1乃至3においては、3つのジョセフソン接合を含んだ超伝導リングからなる量子ビットの理論的な提案と提案された量子ビットにおける結合・反結合状態の検出が報告されている。この量子ビットでは、単位磁束の半分に対応する外部磁場を超伝導リングに印加した場合に、エネルギー的に縮退した2状態が実現される。その結果、上記量子ビットの第2の機能である任意の重ね合わせでなる結合・反結合状態が形成される。この縮退状態においては、互いに逆向きの電流が超伝導リング中を流れている。そのため、単位磁束の半分に対応する磁場近傍の外部磁場を印加した状態で結合・反結合状態のエネルギー差に対応するマイクロ波を照射し、超伝導リングからなる量子ビットの周囲に配置された超伝導量子干渉素子により間接的に超伝導リング中の電流を測定することで結合・反結合状態の検出がされている。
【0007】
非特許文献4においては、異方的(d-wave)超伝導体と等方的(s-wave)超伝導体とからなるジョセフソン接合を用いた量子ビットの理論的な提案がされている。このジョセフソン接合では、異方的(d-wave)超伝導体の効果により超伝導ギャップの位相差が±π/2の場合に、自由エネルギーが最小になり、系が安定となる。提案された量子ビットは、これらの縮退した2状態によって形成される結合・反結合状態を上記量子ビットの第2の機能である任意の重ね合わせに用いている。
【0008】
非特許文献5においては、1つの強磁性π接合と4つの0接合を含んだ超伝導リングからなる量子ビットの理論的提案と、非特許文献3における異方的超伝導体を用いた量子ビットとの関連が報告されている。この系の自由エネルギーは、ジョセフソン結合の大きいπ接合が2組の0接合の間に配置されているため、超伝導ギャップの位相差が±π/2の場合に最小値を有することが示されている。提案された量子ビットは、これらの縮退した2状態によって形成される結合・反結合状態を量子ビットの第2の機能である任意の重ね合わせに用いている。
【0009】

【非特許文献1】J.E. Mooij他5名, "Josephson Persistent-Current Qubit", SCIENCE vol. 285, pp. 1036 (1999)
【非特許文献2】Caspar H. van der Wal 他7名, "Quantum Superposition of Macroscopic Persistent-Current States", SCIENCE vol. 290, pp. 773 (2000)
【非特許文献3】I. Chiorescu他3名, “Coherent Quantum Dynamics ofa Superconducting Flux Qubit", SCIENCE vol. 299, pp. 1869 (2003)
【非特許文献4】Lev B. Ioffe他4名, "Environmentally decoupled sds-wave Josephson junctions for quantum computing", Nature vol. 398, pp. 679 (1999)
【非特許文献5】G. Blatter他2名, "Design aspects of superconducting-phase quantum bits", Physical Review B vol. 63, pp. 174511-1 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1乃至3で提案されている従来の超伝導リングを用いた量子演算素子の場合には、エネルギー的に縮退した2状態を実現するためには、単位磁束の半分に対応した外部磁場を印加する必要がある。このため、量子ビットの重ね合わせのためには、常に外部磁場の印加が必要となる。
非特許文献4で提案されている従来の超伝導体リングを用いた量子演算素子の場合には、縮退した2状態において超伝導リングに電流が流れていない。従ってそれらを判別する際には、自己インダクタンスの大きいループを接合するための回路が必要である。
非特許文献5で提案されている従来の超伝導体リングを用いた量子演算素子の場合には、1つのπ接合と4つの0接合、すなわち合計して5つのジョセフソン接合が必要となり、構成が複雑である。
【0011】
また、従来の超伝導体リングを用いた量子演算素子の場合には、素子サイズが大きいため、デコヒーレンスが生じ易いという課題がある。このデコヒーレンスとは、量子演算素子の量子状態が、例えば、外部からの雑音や観測することによりその量子状態が破れ、量子演算素子が動作しなくなることである。
【0012】
上記課題に鑑み、本発明の第1の目的は、外部磁場を印加しないで縮退した2状態を実現し、この縮退した2状態で互いに逆向きの電流が流れ、かつ、構成が簡単な、π接合及び0接合を有する超伝導リングを量子ビットとし、その量子状態を検出することができる超伝導量子干渉計を備えた、ジョセフソン量子計算素子を提供することにある。
【0013】
本発明の第2の目的は、外部磁場を印加しないで縮退した2状態を実現し、この縮退した2状態で互いに逆向きの電流が流れ、かつ、構成が簡単な、1つのπ接合及び2つの0接合を有する超伝導リングを量子ビットとし、その量子状態を検出することができる超伝導量子干渉計を備えた、ジョセフソン量子計算素子を提供することにある。
本発明の第3の目的は、上記ジョセフソン量子計算素子を用い、2ビットによる制御付き否定論理演算を行うことができる、ジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記第1の目的を達成するために、本発明のジョセフソン量子計算素子は、π接合及び0接合を有する超伝導リング部と、超伝導リング部の外側に配設される超伝導量子干渉素子からなる量子状態検出部と、を備え、超伝導リング部のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間のトンネル効果により生じる結合・反結合状態を量子ビットとし、量子ビットの結合・反結合状態が、量子状態検出部により読み出されることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、超伝導リング部は、略半円帯状の2つの超伝導体と、2つの超伝導体の隣接する両端部にそれぞれ挟まれて配設される強磁性金属と、絶縁体とからなり、略半円帯状の2つの超伝導体と強磁性金属とでπ接合を形成し、かつ、略半円帯状の2つの超伝導体と上記絶縁体とで0接合を形成する。また、超伝導リング部の結合・反結合状態は、好ましくは、π接合と0接合とにおけるジョセフソン結合定数の比(γ)により制御される。
【0015】
上記構成によれば、超伝導リング部により量子的な縮退状態における結合・反結合状態が外部磁場の印加無しで形成でき、構成が簡単である。これを量子ビットとして利用する際には、上記縮退した2状態において互いに逆向きの電流が流れているために、判別が可能である。このため、判別のためのループなどの回路が不要となる。
上記構成において、量子ビットの結合・反結合状態の量子状態検出部による読出しは、好ましくは、外部磁場の印加により行われる。この構成によれば、量子状態検出部の読出しが、外部磁場の印加の有無により行われる。
上記構成において、量子ビットの結合・反結合状態を、好ましくは、量子ビットに照射されるマイクロ波により任意の重ね合わせ状態とする。この構成によれば、量子ビットの結合・反結合状態の任意の重ね合わせ状態を、量子ビットへのマイクロ波照射により行うことができる。
【0016】
上記第2の目的を達成するために、本発明のジョセフソン量子計算素子は、ジョセフソン接合からなる、第1及び第2の0接合及びπ接合を有する超伝導リング部と、超伝導リング部の外側に配設される超伝導量子干渉素子からなる量子状態検出部と、を備え、超伝導リング部のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間のトンネル効果により生じる結合・反結合状態を量子ビットとし、量子ビットの結合・反結合状態が、量子状態検出部により読み出されることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは超伝導リング部は、全体がリング状に配置されていて、リングをほぼ3分割し互いに隙間を開け配設されている帯状の第1~第3の超伝導体と、それぞれが隙間に配設される、強磁性金属と第1の絶縁体と第2の絶縁体と、からなり、第1の超伝導体と第1の絶縁体と第3の超伝導体とで、第1の0接合を形成し、第2の超伝導体と第2の絶縁体と第3の超伝導体とで、第2の0接合を形成し、第1の超伝導体と強磁性体と第2の超伝導体とで、π接合を形成する。また、好ましくは、超伝導リング部の前記結合・反結合状態が、第1及び第2の0接合とπ接合におけるジョセフソン結合定数の比(γ)により制御される。
【0017】
上記構成によれば、超伝導リング部により量子的な縮退状態における結合・反結合状態が外部磁場の印加無しで形成でき、構成が簡単となる。これを量子ビットとして利用する際には、縮退した2状態において互いに逆向きの電流が流れているために、判別が可能である。このため、判別のためのループなどの回路が不要となる。
【0018】
上記構成において、量子ビットの結合・反結合状態の量子状態検出部による読出しは、好ましくは、外部磁場の印加により行われる。この構成によれば、量子状態検出部の読出しを、外部磁場の印加の有無により行うことができる。
【0019】
上記構成において、量子ビットの結合・反結合状態を、好ましくは、超伝導リング部に照射されるマイクロ波により任意の重ね合わせ状態とする。この構成によれば、量子ビットの結合・反結合状態の任意の重ね合わせ状態を、量子ビットへのマイクロ波照射により行うことができる。
【0020】
上記第3の目的を達成するために、本発明の集積回路は、上記のジョセフソン量子計算素子を用いたことを特徴とする。隣接する2つの量子ビットは、好ましくは、磁気的な相互作用を生じるように配設され、2量子ビットが制御付き否定論理演算を行う。また、量子ビットの結合・反結合状態は、好ましくは、量子ビットに照射されるマイクロ波により制御されて任意の重ね合わせ状態とされ、制御付き否定論理演算がされる。
この構成によれば、本発明のジョセフソン量子計算素子により、2ビットによる制御付き否定論理演算を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のジョセフソン量子計算素子によれば、π接合及び0接合の2接合からなる超伝導リング部により量子的な結合・反結合状態を作り、これを量子ビットとして利用することができる。この量子的な結合・反結合状態は、外部磁場の印加無しに実現できる。この縮退した2状態において、超伝導リング部には、互いに逆向きの電流が流れているので、判別が容易である。また、超伝導リング部の周りに配置した超伝導量子干渉計からなる量子状態検出部により超伝導リング部の量子ビットを検出することができる。
【0022】
本発明のジョセフソン量子計算素子によれば、2つの0接合及びπ接合からなる超伝導リング部により量子的な結合・反結合状態を作り、これを量子ビットとして利用することができる。この量子的な結合・反結合状態は、外部磁場の印加無しに実現できる。この縮退した2状態において、超伝導リング部には互いに逆向きの電流が流れているので、判別が容易である。また、超伝導リング部の周りに配置した超伝導量子干渉計からなる量子状態検出部により超伝導リング部の量子ビットを検出することができる。
本発明においては、3つのジョセフソン接合のみから構成する簡単な構造であるために素子サイズを小さくできる。このため、外界との相互作用に起因するデコヒーレンスの影響を受け難くできる。
【0023】
また、本発明のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路によれば、1ビット動作と、さらに2ビットによる制御付き否定論理演算を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるジョセフソン量子計算素子の構成を示す模式的な平面図である。
【図2】α=7.5×10-4の場合の、様々なγの値に対する全自由エネルギー(U1 +U2 +UL )依存性を示す図である。
【図3】α=3.6×10-1の場合の、様々なγの値に対する全自由エネルギー(U1 +U2 +UL )依存性を示す図である。
【図4】本発明によるジョセフソン量子計算素子の構成を示す模式的な平面図である。
【図5】全自由エネルギーの計算結果を示すもので、(A)は外部磁場を印加しない場合(Φext =0)のUtot の(θ1 ,θ2 )空間における等高線図を示し、(B)はUtot の位相空間の対角線方向依存性を示す図である。
【図6】外部磁束をわずかに印加したときの全自由エネルギーの計算結果を示し、(A)は外部磁場下(Φext =0.01Φ0 )のUtot の(θ1 ,θ2 )空間における等高線図を示す図、(B)はUtot の位相空間の対角線方向依存性を示す図である。
【図7】本発明のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路における隣り合う2量子ビットによる制御NOTゲートの動作の模式的説明図である。
【図9】本発明のジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路における隣り合う2量子ビットによる制御NOTゲートの動作の模式的説明図である。
【図10】図8及び図9の2量子ビットによる制御NOTゲートの論理演算の真理値を示す表である。
【符号の説明】
【0025】
1,30:ジョセフソン量子計算素子
2,3,11,12:超伝導体
4,35:強磁性金属(F)
5,13,14:絶縁体
6:第1の接合(π接合、ジョセフソン接合S1/F/S2)
7:第2の接合(0接合、ジョセフソン接合S1/I/S2)
10:超伝導リング部
15,16:超伝導量子干渉計のジョセフソン接合
17,18,57,58:電流端子
20,60:量子状態検出部(SQUID)
32:第1の超伝導体(S1)
33:第2の超伝導体(S2)
34:第3の超伝導体(S3)
35:強磁性金属(F)
36:絶縁体
37:絶縁体
40:超伝導リング部
41:第1の0接合(ジョセフソン接合S1/I1 /S3)
42:第2の0接合(ジョセフソン接合S2/I2 /S3)
43:π接合(ジョセフソン接合S1/F/S2)
51,52:超伝導体
53,54:絶縁体
55,56:超伝導量子干渉計のジョセフソン接合
60:量子状態検出部(SQUID)
70:ジョセフソン量子計算素子を用いた集積回路
72:基板
74,75:マイクロ波
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
最初に、本発明によるジョセフソン量子計算素子の第1の実施形態について説明する。図1は本発明によるジョセフソン量子計算素子の構成を示す模式的な平面図である。図1において、ジョセフソン量子計算素子1は、π接合と0接合を含む超伝導リング部10と、その外側に同心円状に配設される量子状態検出部20と、から構成されている。ジョセフソン量子計算素子1の超伝導リング部10及び量子状態検出部20は、基板上に形成することができる。なお、本発明のジョセフソン量子計算素子は、超伝導を示す温度にて動作する。
【0027】
超伝導リング部10は、略半円帯状の超伝導体2,3(以下、適宜、S1,S2と呼ぶ)、この2つの超伝導体2,3の隣接する両端部にそれぞれ挟み込まれて配設される強磁性金属4(以下、適宜、Fと呼ぶ)及び絶縁体5(以下適宜、Iと呼ぶ)からなり、全体がリング状に配置されている。超伝導体2,3は同じ超伝導体でもよい。この超伝導リング部10は、ジョセフソン量子ビットして動作する。超伝導体2,3としてはNb,Pbなどを、強磁性金属4としてはCuNi,PdNiなどを、絶縁体5としては、アルミ酸化物(AlOx ),PbOなどを用いることができる。
【0028】
超伝導体2と強磁性金属4と超伝導体3とからなる接合、すなわち、ジョセフソン接合S1/F/S2(以下、適宜、第1の接合6と呼ぶ)は、上記略半円帯状の超伝導体2,3の隣接する端部と、これらの端部に挟まれた強磁性金属4とからなる金属接触の接合である。この第1の接合6は、超伝導体2,3(S1,S2)間の位相差θがπである場合に系が安定となるπ接合である。
【0029】
一方、超伝導体2と絶縁体5と超伝導体3とからなる接合、すなわち、ジョセフソン接合S1/I/S2(以下、適宜、第2の接合7と呼ぶ)は、上記π接合と対向する位置、すなわち、略半円帯状の超伝導体2,3の一方の端部と、これらの端部に挟まれた絶縁体5(以下、適宜、Iと呼ぶ)とからなるトンネル接合である。この第2の接合7は、超伝導体2,3(S1,S2)間の位相差θ’がゼロである場合に系が安定となる0接合である。
【0030】
次に、量子状態検出部20について説明する。
量子状態検出部20は、2つのジョセフソン接合を有する、所謂、超伝導量子干渉素子(SQUIDとも呼ばれている)である。量子状態検出部20は、略半円帯状の超伝導体11,12がリング状に配置され、それらの両端部に絶縁体13,14が挟まれて、ジョセフソン接合15,16が形成されている。そして、ジョセフソン接合15及び16から約90°離れた位置に、電流端子17,18が設けられている。一方のジョセフソン接合15は、超伝導体11,絶縁体13,超伝導体12からなり、他方のジョセフソン接合16は、超伝導体11,絶縁体14,超伝導体12から形成されている。超伝導体11,12は、超伝導リング部10の超伝導体2,3と同じ材料を用いてもよい。また、絶縁体13,14も、超伝導リング部10の絶縁体5と同じ材料を用いてもよい。
【0031】
この量子状態検出部20は、超伝導リング部10におけるジョセフソン量子ビットの量子状態を読み出すために配設されている。
【0032】
なお、上記の超伝導リング部10は、円形だけではなく、四角形のリング形状でもよい。その場合、超伝導リング部10の外側に配設される量子状態検出部20の形状も、超伝導リング部10に相似形の四角形のリング形状とすることができる。
【0033】
本発明によるジョセフソン量子計算素子は以上のように構成されており、次にその動作について説明する。
最初に、量子ビットの動作について説明する。量子ビットとして動作する内側の超伝導リング部10における全自由エネルギーは、第1の接合6及び第2の接合7におけるそれぞれの静電エネルギーT1 ,T2 と、第1の接合6及び第2の接合7におけるそれぞれのジョセフソン接合エネルギーU1 ,U2 と、そして超伝導リング部10に蓄えられる磁気エネルギーUL との和で表される。この系の振る舞いは、運動エネルギーT2 をもつ粒子のポテンシャルU1 +U2 +UL 中における運動に対応する。
第1の接合6における静電エネルギーは、T1 =Q12/2C1 と表される。同様に、第2の接合7における静電エネルギーは、T2 =Q22/2C2 と表される。ここで、Q1 ,Q2 は、それぞれ、第1の接合6及び第2の接合7に蓄えられる電荷であり、C1 ,C2 は、それぞれ、第1の接合6及び第2の接合7の静電容量である。
【0034】
上記金属接触である第1の接合6における静電エネルギーT1 は、金属接合であるので、絶縁膜5を挟んだ第2の接合7における静電エネルギーT2 に比べて非常に小さくなり無視できる(T1 <<T2 )。また、第1の接合6は、金属接触のπ接合であり、この接合における超伝導臨界電流Iπは、下記(1)式で表わされる。
【数1】
JP0004609733B2_000002t.gif
この結合定数Eπを用いて、ジョセフソン結合エネルギーは、U1 =-Eπ|cos((θ+π)/2)|と表される。
【0035】
一方、第2の接合7は絶縁体5を挟んだ通常のジョセフソン接合であり、超伝導臨界電流I0 は、下記(2)式で表わされる。
【数2】
JP0004609733B2_000003t.gif
ここで、E0 はジョセフソン結合定数であり、第2の接合7における結合エネルギーは、U2 =-E0 cosθ’と表される。
【0036】
この超伝導リング部10内を貫く磁束Φを通じて、第1の接合6と第2の接合7との間の位相差θ,θ’間には、θ-θ’=2πΦ/Φ0 (Φ0 は、単位磁束であり、Φ0 =h/2e=2.086×10-15 Wbである。)という関係があるため、第2の接合7におけるジョセフソンエネルギーU2 をθの関数として表すことができる。なお、第1の接合6及び第2の接合7におけるジョセフソン結合定数の比を、γ=Eπ/E0 とする。
【0037】
さらに、超伝導リング部10に蓄えられる磁気エネルギーUL は、UL =(Φ-Φext 2 /2Lと表される。ここで、Lは自己インダクタンスで、Φext は外部から印加する磁束である。自己インダクタンスの大きさを表す無次元パラメータとして、α=2πLI0 /Φ0 を導入する。
【0038】
次に、量子ビットとして動作する超伝導リング部10における全自由エネルギーの計算結果について説明する。
図2は、α=7.5×10-4の場合の様々なγの値に対する全自由エネルギー(U1 +U2 +UL )依存性を示す図である。但し、ここでは外部磁束は印加してない(Φext =0)状態である。αの値は、超伝導リング部10の半径r=5μmであり、接合面の断面積S=10-2μm2 、接合2における絶縁体の厚さd=1nmの場合に対応している。図2において、横軸は第2の接合7の位相θ(πラジアン)を示し、縦軸は第2の接合7のジョセフソン結合定数E0 で規格化した全自由エネルギー((U1 +U2 +UL )/E0 、このエネルギーを規格化全自由エネルギーと呼ぶ。)を示している。
第1の接合6及び第2の接合7におけるジョセフソン結合定数の比であるγ(=Eπ/E0 )を、2~3.5まで0.5ずつ増加させた場合に、規格化全自由エネルギー((U1 +U2 +UL )/E0 )が、第2の接合7の位相θに対して変化する。図2から分かるように、γが2~3程度において、規格化全自由エネルギーは、エネルギー的に縮退した2つの極小値を有し、これらに対応するθが実現する位相差である。
【0039】
図3は、α=3.6×10-1の場合の様々なγの値に対する全自由エネルギー(U1 +U2 +UL )依存性を示す図である。但し、ここでは外部磁束は印加してない(Φext =0)状態であり、図における横軸及び縦軸は、図2と同じである。αの値は、超伝導リング部10の半径r=1mmであり、接合面の断面積S=10-2μm2 、第2の接合7における絶縁体の厚さd=1nmの場合に対応している。
第1の接合6及び第2の接合7におけるジョセフソン結合定数の比であるγ(=Eπ/E0 )を、2~5まで1ずつ増加させた場合に、規格化全自由エネルギーが、第2の接合7の位相θに対して変化する。図3から分かるように、γが2~4程度において、規格化全自由エネルギーは、エネルギー的に縮退した2つの極小値を有し、これらに対応するθが実現する位相差である。
【0040】
図2及び図3において、エネルギー的に縮退した2つの極小値が安定な2つの状態となる。これらの安定な2つの状態を、|↑>,|↓>とする。状態|↑>,|↓>では、超伝導リング部10中に大きさが等しく、互いに逆向きの電流が流れており、それに対応して大きさの等しい逆向きの磁束が超伝導リング部10に入っている。このときの状態|↑>,|↓>において流れている電流の大きさは、図2及び図3において、共に|I|~|I0 |~10-2μAとなる。超伝導リング部10内を貫く磁束の大きさは、図2の場合には|Φ|~2.1×10-19 Wb(γ=3)となり、図3の場合には1.0×10-16 Wb(γ=3)となる。
【0041】
第2の接合7における静電エネルギーは、絶縁体5に比誘電率k~8.5のアルミナ(Al2 3 )を用いた場合、T2 ~6.8×10-23 Jとなる。この静電エネルギーT2 の値は、ジョセフソン結合定数E0 ~3.3×10-24 Jとオーダーとして近い値であるため、エネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間にトンネル効果が生じ、|↑>と|↓>とが重なり合わさった、結合・反結合状態が現れる。ここで、結合状態|0>は|0>∝|↑>+|↓>であり、基底状態である。そして、反結合状態|1>は、|1>∝|↑>-|↓>と表わされ、励起状態である。
【0042】
したがって、本発明の超伝導リング部10においては、量子ビットとして、この結合状態|0>=|↑>+|↓>及び反結合状態|1>=|↑>-|↓>をビットとして利用する。
【0043】
結合・反結合状態間にはエネルギーギャップΔEが存在するため、ギャップに対応する角周波数ω=ΔE/h(hはプランク定数)をもつマイクロ波を量子ビットに照射し、その共鳴吸収を観測することで結合・反結合状態の存在を確認することが可能である。図2に示した全自由エネルギーの計算に用いた各種定数からは、ギャップに対応する周波数(f=ω/2π)は数GHz程度となる。
【0044】
これにより、静電エネルギーT2 とジョセフソン結合定数E0 、γなどの条件を適切に選択した超伝導リング部10の1つのπ接合及び1つの0接合、合計2つのジョセフソン接合からなる量子ビットにより、結合・反結合状態を実現できる。そして、この結合・反結合状態は外部磁場の印加無しに実現できる。さらに、縮退した2状態において、超伝導リング10には互いに逆向きの電流が流れているので、判別が容易である。本発明の量子ビットは2接合からなるので、構成が簡単である。そのため、その製造を容易に行うことができる。
【0045】
上記の超伝導リング部10に生じる2つの安定状態と、結合・反結合状態は、同時に実現することができる。一方、超伝導リング部10の初期化は、次のようにして行うことができる。すなわち、基底状態である結合状態|0>から励起状態である反結合状態|1>への熱的な励起が起こらない程度の十分な低温に保持すれば、基底状態に緩和するので、初期化ができる。即ち、結合状態|0>とすることができる。
【0046】
さらに、超伝導リング部10の結合状態|0>から反結合状態|1>へ励起する場合には、超伝導リング部10が状態|1>にある場合のエネルギーギャップをΔEB1とすると、このΔEB1に対応する周波数のマイクロ波を照射した場合に、超伝導リング部10の結合状態を、結合状態|0>から反結合状態|1>へ励起することができる。
【0047】
次に、量子ビットの結合・反結合状態の読み出し動作について説明する。超伝導リング部10の量子ビットにおける結合・反結合状態の読み出しは、超伝導リング部10におけるジョセフソン量子ビットの周りに配置した量子状態検出部20の超伝導量子干渉計により行う。この際、量子状態検出部20の超伝導量子干渉計における電流端子17,18の間には、バイアス電流が印加されており、電流を増加していった際に有限電圧を生じる電流の値(スイッチング電流)を測定することにより読出しを行う。
【0048】
ここで、外部磁束を印加しない場合(Φext =0)について説明する。縮退した|↑>,|↓>状態では互いに反対向きの磁束が超伝導リング部10に入っているため、量子ビットが結合・反結合状態にあるときには期待値として磁束ゼロが検出されることになる。
【0049】
一方、外部磁束をわずかに印加する(Φext ≠0)と、ポテンシャルのθ依存性に非対称性が生じるため、結合・反結合状態においても有限の磁束が検出される。これにより、外部磁束をゼロ近傍で変化させながら量子状態検出部20の超伝導量子干渉計による磁束測定を行うことで、超伝導リング部10の量子ビットの結合・反結合状態の読み出しを行うことができる。
以上説明したように、本発明のジョセフソン量子計算素子1では、π接合と0接合を含んだ超伝導リング部10及び量子状態検出部20とにより、ジョセフソン量子ビットとして、初期化、状態の制御、読み出し機能を実現できる。
【0050】
上記構成の本発明のジョセフソン量子計算素子1は、以下のようにして製作することができる。
最初に、絶縁性基板上に、超伝導リング部10と量子状態検出部20となる所定の厚さの超伝導体をスパッタ法により堆積する。そして、超伝導リング部10及び量子状態検出部20のリングを、マスクを用いた選択エッチングにより形成する。超伝導リング部10の強磁性金属4及び絶縁体5と、量子状態検出部20の絶縁体13,14の箇所の超伝導体もエッチングする。
次に、所定の厚さの絶縁体5,13,14となるアルミナ酸化膜などの絶縁体材料を、スパッタ法やCVD法により堆積する。そして、余分な絶縁体を、選択エッチングにより除去する。この工程で、0接合7及び量子状態検出部20が形成される。
最後に、所定の厚さの強磁性金属4膜をスパッタ法により堆積する。そして、余分な強磁性金属膜を、選択エッチングにより除去する。この工程で、π接合6が形成される。各材料の堆積には、スパッタ法やCVD法以外には、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法などの通常の薄膜成膜法を用いることができる。また、所定の形状の接合や電流端子を形成するためのマスク工程には、光露光やEB露光などを用いることができる。
【0051】
本発明によるジョセフソン量子計算素子に係る第2の実施形態について説明する。
図4は本発明によるジョセフソン量子計算素子の構成を示す模式的な平面図である。図示するように、本発明のジョセフソン量子計算素子30は、何れもジョセフソン接合からなる2つの0接合41,42及び1つのπ接合43から構成されている超伝導リング部40と、その外側に同心円状に配設される量子状態検出部60と、から構成されている。ジョセフソン量子計算素子30の超伝導リング部40及び量子状態検出部60は、基板上に形成することができる。なお、本発明のジョセフソン量子計算素子は超伝導を示す温度にて動作する。
【0052】
超伝導リング部40は、リングをほぼ3分割し互いに隙間を開け右周りの順に配設されている帯状の第1の超伝導体32,第2の超伝導体33,第3の超伝導体34(以下、適宜、それぞれ、S1,S2,S3と呼ぶ)と、それぞれが上記隙間に配設される、強磁性金属35(以下、適宜、Fと呼ぶ)と第1の絶縁体36(以下、適宜、I1 と呼ぶ)と第2の絶縁体37(以下、適宜、I2 と呼ぶ)とからなり、全体がリング状に配置されている。
強磁性金属35は、第1の超伝導体32及び第2の超伝導体33の隣接する両端部に挟み込まれて配設されている。第1の絶縁体36は、第1の超伝導体32及び第3の超伝導体34の隣接する両端部に挟み込まれて配設されている。第2の絶縁体37は、第2の超伝導体33及び第3の超伝導体34の隣接する両端部に挟み込まれて配設されている。第1~3の超伝導体32,33,34は同じ超伝導体でもよい。第1及び第2の絶縁体36,37は同じ絶縁体でもよい。この超伝導リング部40はジョセフソン量子ビットとして動作する。第1~3の超伝導体32,33,34としてはNb,Pbなどを、強磁性金属35としてはCuNi,PdNiなどを、第1及び第2の絶縁体36,37としては、アルミ酸化物(AlOx ),PbOなどを用いることができる。
【0053】
第1の0接合41は、第1の超伝導体32と第1の絶縁体36と第3の超伝導体34とからなるジョセフソン接合である。この第1の0接合S1/I1 /S3は、上記円環をほぼ3分割する帯状の第1の超伝導体32と第3の超伝導体34の隣接する端部と、これらの端部に挟まれた第1の絶縁体36とからなるトンネル接合である。第1の0接合41は、0接合S1/I1 /S3間の位相差θ1 が0である場合に系が安定となる0接合である。
【0054】
第2の0接合42は、第2の超伝導体33と第2の絶縁体37と第3の超伝導体34とからなるジョセフソン接合である。この第2の0接合S2/I2 /S3は、上記円環をほぼ3分割する帯状の第2の超伝導体33と第3の超伝導体34の隣接する端部と、これらの端部に挟まれた第2の絶縁体37とからなるトンネル接合である。第2の0接合42は、S2/I2 /S3間の位相差θ2 が0である場合に系が安定となる0接合である。
【0055】
一方、π接合43は、第1の超伝導体32と強磁性体35と第2の超伝導体33とからなるジョセフソン接合である。すなわち、π接合S1/F/S2は、上記円環をほぼ3分割する帯状の第1の超伝導体32と第2の超伝導体33の隣接する端部と、これらの端部に挟まれた強磁性体35とからなるトンネル接合である。このπ接合43は、S1/F/S2間の位相差θ3 がπである場合に系が安定となるπ接合である。
【0056】
次に、量子状態検出部60について説明する。量子状態検出部60は、2つのジョセフソン接合を有する、所謂、超伝導量子干渉素子である。量子状態検出部60は、略半円帯状の超伝導体51,52がリング状に配置され、それらの両端部に絶縁体53,54が挟まれて、ジョセフソン接合55,56が形成されている。ジョセフソン接合55及び56から約90°離れた位置に、電流端子57,58が設けられている。
一方のジョセフソン接合55は、超伝導体51,絶縁体53,超伝導体52からなり、他方のジョセフソン接合56は、超伝導体51,絶縁体54,超伝導体52から形成されている。
ここで、超伝導体51,52は、超伝導リング部40の第1~3の超伝導体32,33,34と同じ材料を用いてもよい。絶縁体53,54も、超伝導リング部40の第1及び第2の絶縁体36,37と同じ材料を用いてもよい。量子状態検出部60の絶縁体53は、超伝導リング部40の強磁性体35と対向する位置に配設されている。
【0057】
この量子状態検出部60は、超伝導リング部40におけるジョセフソン量子ビットの量子状態を読み出すために配設されている。
【0058】
なお、上記の超伝導リング部40は、円形だけではなく、四角形のリング形状でもよい。その場合、超伝導リング部40の外側に配設される量子状態検出部60の形状も、超伝導リング部40に相似形の四角形のリング形状とすることができる。
【0059】
本発明によるジョセフソン量子計算素子は以上のように構成されており、次にその動作について説明する。
最初に、量子ビットの動作について説明する。量子ビットにおける全自由エネルギーは、第1及び第2の0接合とπ接合41,42,43における静電エネルギーK1 、K2 、K3 及びジョセフソン結合エネルギーU1 、U2 、U3 、そして、超伝導リングに蓄えられる磁気エネルギーUL の和となる。
先ず、第1の0接合41における静電エネルギーは、K1 =Q1 2 /2C1 と表される。同様に、第2の0接合42における静電エネルギーは、K2 =Q2 2 /2C2 、π接合43における静電エネルギーは、K3 =Q3 2 /2C3 、と表される。これらの各静電エネルギーは、位相空間における運動エネルギーに対応する。Q1 ,Q2 ,Q3 は、それぞれ、第1及び第2の0接合とπ接合41,42,43に蓄えられる電荷である。C1 ,C2 ,C3 は、それぞれ、上記各接合41,42,43の静電容量である。
【0060】
次に、第1及び第2の0接合41,42の結合エネルギーは、それぞれ、
1 =-E0 cosθ1 、U2 =-E0 cosθ2 と表される。ここで、E0 はジョセフソン結合定数であり、第1の0接合41と第2の0接合42のジョセフソン結合定数は等しいとした。
【0061】
π接合43のジョセフソン結合エネルギーは、U3 =-E3 cos(θ3 +π)と表され、E3 は、ジョセフソン結合定数である。0 接合41,42とπ接合43におけるジョセフソン結合定数の比をγ=E3 /E0 とする。
【0062】
超伝導リング部40内を貫く全磁束Φに対して、超伝導リング部40に蓄えられる磁気エネルギーUL は、UL =(Φ-Φext 2 /2Lと表される。ここで、Lは自己インダクタンスであり、Φext は外部から印加する磁束である。そして、自己インダクタンスの大きさを表わす無次元パラメータとして、α=4π2 3 L/Φ0 2 を導入する。Φ0 は単位磁束である。
【0063】
次に、量子ビットとして動作する超伝導リング部40における全自由エネルギーについて説明する。全自由エネルギーであるUtot は、Utot =U1 +U2 +U3 +UL で表わされ、4変数(θ1 ,θ2 ,θ3 ,Φ)の関数である。全自由エネルギーは、超伝導位相と全磁束との間に成り立つ関係式θ1 +θ2 +θ3 =2πΦ/Φ0 と、全磁束Φに対する全自由エネルギーが最小となる条件(Utot /Φ=0)とにより、2変数(θ1 ,θ2 )の関数となる。
【0064】
図5は、全自由エネルギーの計算結果を示し、(A)は外部磁場を印加しない場合(Φext =0)のUtot の(θ1 ,θ2 )空間における等高線図を、(B)はUtot の位相空間の対角線方向依存性を示す図である。図5(A)の横軸はπで規格化したθ1 を、縦軸はπで規格化したθ2 を示す。図5(B)の横軸はπで規格化した対角線方向のθ1 及びθ2 を、縦軸はE0 で規格化したUtot を示す。αの値は、超伝導リング部40のリングの半径r=1μm、第1及び第2の0接合とπ接合41,42,43における接合面の断面積S=0.1μm2 、絶縁体の膜厚d=1nmの場合に対応し、α=3.1×10-3とした。また、γ=0.8とした。
図5から明らかなように、位相空間での座標(2nπ,2mπ、ここで、n,mは任意の整数)を中心として、各々その対角線方向に縮退した2つの極小値を有することが分かる。超伝導リング部40においては、これらの縮退した2つの極小値によるエネルギー的に安定な状態が実現する。そして、対角線方向に縮退した2つの極小値に対応するθ1 ,θ2 が実現する位相差である。
【0065】
図5において、エネルギー的に縮退した2つの極小値が安定な2つの状態となる。これらの安定な2つの状態を、|↑>,|↓>とする。状態|↑>,|↓>では、超伝導リング部40中に大きさが等しく、互いに逆向きの電流が流れており、それに対応して大きさの等しい逆向きの磁束が超伝導リング部40を貫いている。リングを貫く磁束の大きさは、|Φ|≒4.8×10-4Φ0 ~10-18 Wbとなる。
【0066】
図5の場合には、第1及び第2の0接合41,42における絶縁体36,37としてアルミナ(Al2 3 、比誘電率κ~8.5)を用いると、単電子の静電エネルギー、即ち、単電子クーロンエネルギーEc =e2 /2C1,2 (ここで、eは素電荷)の値は、Ec ~1.7×10-24 J、となる。また、第1及び第2の0接合41,42でのジョセフソン臨界電流の典型的な値I0 ~500nAを用いると、ジョセフソン結合定数E0 =1.6×10-22 Jが得られる。
上記単電子クーロンエネルギーEc 及び静電エネルギーは、
K=Q 2/2C=(ne)2 /2C=n2 Ecの関係がある。ここで、nは各接合に存在する電子数である。
【0067】
この静電エネルギーEc (1.7×10-24 J)の値は、ジョセフソン結合定数E0 (1.6×10-22 J)とオーダーとして近い値となる。これにより、位相空間での運動エネルギーに対応する静電エネルギーの効果により、超伝導リング部40のエネルギー的に縮退した2状態である|↑>,|↓>間にトンネル効果が生じ、|↑>と|↓>とが重なり合わさった結合・反結合状態が発現する。ここで、結合状態|0>は|0>∝|↑>+|↓>であり、基底状態である。そして、反結合状態|1>は、|1>∝|↑>-|↓>と表わされ、励起状態である。
【0068】
したがって、本発明の超伝導リング部40においては、量子ビットとして、この結合状態|0>=|↑>+|↓>及び反結合状態|1>=|↑>-|↓>をビットとして利用する。これにより、静電エネルギーK1 ,K2 ,K3 とジョセフソン結合定数E0 、γなどの条件を適切に選択した超伝導リング部40の1つのπ接合及び2つの0接合、合計3つのジョセフソン接合41,42,43からなる量子ビットにより、結合・反結合状態を実現できる。
【0069】
結合・反結合状態間にはエネルギーギャップΔEが存在するため、ギャップに対応する角周波数ω=ΔE/h(hはプランク定数)をもつマイクロ波を量子ビットに照射し、その共鳴吸収を観測することで結合・反結合状態の存在を確認することが可能である。図5に示した全自由エネルギーの計算に用いた各種定数からは、ギャップに対応する周波数(f=ω/2π)は数GHz程度となる。
【0070】
この結合・反結合状態は外部磁場の印加無しに実現できる。さらに、縮退した2状態において、超伝導リング40には、互いに逆向きの電流が流れているので、判別が容易である。本発明の量子ビットは3接合からなるので、構成が簡単である。そのため、素子サイズを小さくできる。したがって、デコヒーレンスが生じ難くなる。また、その製造を容易に行うことができる。
【0071】
上記の超伝導リング部40に生じる2つの安定状態と、結合・反結合状態は、同時に実現することができる。一方、超伝導リング部40の初期化は、次のようにして行うことができる。すなわち、基底状態である結合状態|0>から励起状態である反結合状態|1>への熱的な励起が起こらない程度の十分な低温に保持すれば、基底状態に緩和するので、初期化、即ち、結合状態|0>とすることができる。
【0072】
超伝導リング部40の結合状態|0>から反結合状態|1>へ励起する場合には、超伝導リング部40が状態|1>にある場合のエネルギーギャップをΔEC1とすると、このΔEC1に対応する周波数のマイクロ波を照射した場合に、超伝導リング部40の結合状態を、結合状態|0>から反結合状態|1>へ励起することができる。
【0073】
次に、量子ビットの結合・反結合状態の読み出し動作について説明する。超伝導リング部40の量子ビットにおける結合・反結合状態の読み出しは、超伝導リング部40におけるジョセフソン量子ビットの周りに配置した量子状態検出部60の超伝導量子干渉計により行う。この際、量子状態検出部60の超伝導量子干渉計における電流端子57,58の間には、バイアス電流が印加されており、電流を増加していった際に有限電圧を生じる電流の値(スイッチング電流)を測定することにより読出しを行う。
【0074】
ここで、外部磁束を印加しない場合(Φext =0)について説明する。
縮退した|↑>,|↓>状態では互いに反対向きの磁束が超伝導リング部40に入っているため、量子ビットが結合・反結合状態にあるときには期待値として磁束ゼロが検出されることになる。
【0075】
一方、外部磁束をわずかに印加する(Φext ≠0)と、ポテンシャルのθ依存性に非対称性が生じるため、結合・反結合状態においても有限の磁束が検出される。図6は、外部磁束をわずかに印加したときの全自由エネルギーの計算結果を示し、(A)は外部磁場下(Φext =0.01Φ0 )のUtot の(θ1 ,θ2 )空間における等高線図、(B)はUtot の位相空間の対角線方向依存性を示す図である。外部磁場以外の各パラメータの値は、図5と同じである。図6から明らかなように、外部磁場を印加することで、状態|↑>,|↓> の縮退がとけ、座標(2nπ,2mπ)を中心として対角線方向にポテンシャルの非対称性が生じている。その結果、結合・反結合状態において互いに反対回りのカレントが超伝導リング中を流れるため、検出用SQUIDを用いて量子ビットの状態を判別することが可能となる。これにより、外部磁束をゼロ近傍で変化させながら量子状態検出部60の超伝導量子干渉計による磁束測定を行うことで、超伝導リング部40の量子ビットの結合・反結合状態の読み出しを行うことができる。
【0076】
本発明のジョセフソン量子計算素子を用いた演算について説明する。本発明のジョセフソン量子計算素子1,30による量子ビットを用いて万能回路を構成するためには、1ビットの操作と2ビットの制御付き否定論理演算(以下、制御NOTゲートと呼ぶ)を実現することが必要である。
先ず、1ビットの操作に関しては、マイクロ波共鳴を用いた結合・反結合状態間の振動(ラビ振動)において、マイクロ波のパルス幅を調節することで任意の重ねあわせ状態を実現できる。
【0077】
2ビットの制御NOTゲートは、本発明のジョセフソン量子計算素子1,30による量子ビットを用いて以下のように実現される。
最初に、本発明のジョセフソン量子計算素子1,30を用いた集積回路について説明する。図7は、本発明のジョセフソン量子計算素子1,30を用いた集積回路を模式的に示す平面図である。図において、本発明のジョセフソン量子計算素子30を用いた集積回路70は、基板72上に、本発明のジョセフソン量子計算素子がマトリクス状に形成されている。基板72は絶縁性基板を用いることができる。図示の場合には、ジョセフソン量子計算素子を30A~30Pとしているが、ジョセフソン量子計算素子を1A~1Pとしてもよいし、素子数は任意に設定することができる。ジョセフソン量子計算素子30A~30Pの隣り合う2量子ビットは互いに磁気的な相互作用を受ける距離に配設されている。
【0078】
次に、本発明のジョセフソン量子計算素子1,30を用いた集積回路70における隣り合う2量子ビットによる制御NOTゲートについて説明する。図8は、本発明のジョセフソン量子計算素子1を用いた集積回路における隣り合う2量子ビットによる制御NOTゲートの動作を模式的に説明する図である。図示するように、隣り合う量子ビット1A及び1Bが、磁気的に相互作用する距離(図8の両向き矢印⇔を参照)で配設されている。ここでは、量子ビット1A及び1Bは、その超伝導リング部のみを示し、量子状態検出部は省略している。
上記の量子ビットにおいて、量子ビット1Aは制御ビット、量子ビット1Bは標的ビットの役割をもつ。量子ビット1A,1B間の磁気的な相互作用のため、標的量子ビット1Bにおけるエネルギーギャップは、制御量子ビット1Aの状態に依存する。つまり、量子ビット1A中を流れる電流が相互インダクタンスを通じて、量子ビット1Bに有効的な外部磁束を与える。この有効的な外部磁束の向きは量子ビット1A中の電流の向きに依存するため、量子ビット1Bに印加される全外部磁束の大きさは量子ビット1Aの状態に依存する。
制御量子ビット1Aが状態|0>または状態|1>にある場合の量子ビット1Bのエネルギーギャップを、それぞれ、ΔEB0、ΔEB1とする。この標的量子ビット1Bに対してΔEB1に対応する周波数のマイクロ波74を照射した場合、制御量子ビット1Aが状態|1>にある場合のみ標的量子ビット1Bの状態が変化する。このようにして、ジョセフソン量子計算素子1を2個用いた制御NOTゲートが実現される。
【0079】
図9は、本発明のジョセフソン量子計算素子30を用いた集積回路における隣り合う2量子ビットによる制御NOTゲートの動作を模式的に説明する図である。図示するように、隣り合う量子ビット30A及び30Bが、磁気的に相互作用する距離(図9の両向き矢印⇔を参照)で配設されている。ここでは、量子ビット30A及び30Bは、その超伝導リング部のみを示し、量子状態検出部は省略している。
上記の量子ビットにおいて、量子ビット30Aは制御ビット、量子ビット30Bは標的ビットの役割をもつ。量子ビット30A,30B間の磁気的な相互作用のため、標的量子ビット30Bにおけるエネルギーギャップは、制御量子ビット30Aの状態に依存する。つまり、量子ビット30A中を流れる電流が相互インダクタンスを通じて、量子ビット30Bに有効的な外部磁束を与える。この有効的な外部磁束の向きは量子ビット30A中の電流の向きに依存するため、量子ビット30Bに印加される全外部磁束の大きさは量子ビット30Aの状態に依存する。
制御量子ビット30Aが状態|0>または状態|1>にある場合の量子ビット30Bのエネルギーギャップを、それぞれ、ΔEC0、ΔEC1とする。この標的量子ビット30Bに対してΔEC1に対応する周波数のマイクロ波75を照射した場合、制御量子ビット30Aが状態|1>にある場合のみ標的量子ビット30Bの状態が変化する。このようにして、ジョセフソン量子計算素子1を2個用いた場合と同様に、ジョセフソン量子計算素子30を2個用いても制御NOTゲートが実現される。
【0080】
図10は、図8及び図9の2量子ビットによる制御NOTゲートの論理演算の真理値を示す表である。図示するように、入力制御量子ビット1A(30A)が状態|1>の場合に、標的量子ビット1B(30B)の出力を、状態|1>から状態|0>にまたは状態|0>から状態|1>に状態変化させることができる。この際、標的量子ビット1B(30B)を状態|0>から状態|1>にまたは状態|0>から状態|1>に状態変化させるには、標的量子ビット1B(30B)にΔEB1(ΔEC1)に対応する周波数などのマイクロ波を照射し、その共鳴を用いた結合・反結合状態間のラビ振動により行うことができる。ここで、マイクロ波の照射は、そのパルス幅または周波数を調節することで行うことができる。これにより、本発明のジョセフソン量子計算素子1又はジョセフソン量子計算素子30を2つ用いた2量子ビットによれば、制御NOTゲートの動作を実現することができる。
【0081】
上記構成の本発明のジョセフソン量子計算素子30及びそれによる集積回路は、以下のようにして製作することができる。
最初に、絶縁性基板上に、超伝導リング部40と量子状態検出部60となる所定の厚さの超伝導体をスパッタ法により堆積する。そして、超伝導リング部40及び量子状態検出部60のリングを、マスクを用いた選択エッチングにより形成する。この際、超伝導リング部40の強磁性金属35及び絶縁体36,37と、量子状態検出部60の絶縁体53,54の箇所の超伝導体もエッチングする。
次に、所定の厚さの絶縁体36,37,53,54となるアルミナ酸化膜などの絶縁体材料をスパッタ法やCVD法により堆積し、余分な絶縁体を選択エッチングにより除去する。この工程で、超伝導リング部40の第1及び第2の0接合41,42と量子状態検出部60が形成される。
最後に、所定の厚さの強磁性金属35の膜をスパッタ法により堆積すると共に、余分な強磁性金属35の膜を、選択エッチングにより除去する。この工程で超伝導リング部40のπ接合43が形成される。
各材料の堆積には、スパッタ法やCVD法以外には、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法などの通常の薄膜成膜法を用いることができる。また、所定の形状の接合や電流端子を形成するためのマスク工程には、光露光やEB露光などを用いることができる。
【0082】
本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図6】
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