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明細書 :DNAセンサーおよびそれを用いた測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4523001号 (P4523001)
登録日 平成22年6月4日(2010.6.4)
発行日 平成22年8月11日(2010.8.11)
発明の名称または考案の名称 DNAセンサーおよびそれを用いた測定方法
国際特許分類 G01N  27/414       (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
H01L  29/78        (2006.01)
FI G01N 27/30 301K
C12M 1/00 A
H01L 29/78 301U
G01N 27/30 301X
G01N 27/30 301Y
G01N 27/30 301V
請求項の数または発明の数 9
全頁数 11
出願番号 特願2006-531534 (P2006-531534)
出願日 平成17年8月4日(2005.8.4)
国際出願番号 PCT/JP2005/014283
国際公開番号 WO2006/025180
国際公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
優先権出願番号 2004250303
優先日 平成16年8月30日(2004.8.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年3月6日(2007.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】川原田 洋
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】黒田 浩一
参考文献・文献 特開2004-109020(JP,A)
特開2002-286692(JP,A)
特開2003-090815(JP,A)
特開2001-272372(JP,A)
畑英夫,ダイヤモンド表面へのDNAの固定及びハイブリダイゼ-ション ,応用物理学関係連合講演会講演予稿集,日本,2003年 3月27日,Vol.50th No.2,Page.617
調査した分野 G01N 27/26-27/49
C12M 1/00
C12N 15/09
H01L 29/78
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)液体電解質からなるゲートと、少なくとも水素終端表面およびアミノ終端としてのアミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面が混在するダイヤモンド表面をチャネルとするpチャネル電界効果トランジスタと、
(b)前記ダイヤモンド表面のアミノ終端にリンカーによって直接固定される塩基配列が既知の1本鎖DNAからなるプローブDNAと、
(c)前記ダイヤモンド表面に滴下され、セットされる未知の1本鎖DNAとかなるターゲットDNAと
(d)前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にある場合に、前記1本鎖DNAからなるプローブDNA及びターゲットDNAのハイブリダイゼーションにより生成される2本鎖DNAに起因して、前記pチャネル電界効果トランジスタの閾値電圧の正方向へのシフトを検出することにより、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にあるか否かを同定する手段を具備することを特徴とするDNAセンサー。
【請求項2】
請求項1記載のDNAセンサーにおいて、前記ダイヤモンド表面に酸素終端表面を含むことを特徴とするDNAセンサー。
【請求項3】
請求項1又は2記載のDNAセンサーにおいて、前記リンカーが2乃至3価のカルボン酸であることを特徴とするDNAセンサー。
【請求項4】
請求項1又は2記載のDNAセンサーにおいて、前記リンカーが2乃至3価のアルデヒドであることを特徴とするDNAセンサー。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のDNAセンサーにおいて、前記プローブDNAの密度が1010cm-2以上、前記ターゲットDNAの濃度が10-12 Mから10-6Mであることを特徴とするDNAセンサー。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載のDNAセンサーにおいて、前記閾値電圧の正方向へのシフト差を一定ドレイン電流条件下でのゲート電圧変化として検出することを特徴とするDNAセンサー。
【請求項7】
請求項1、2、3又は4記載のDNAセンサーにおいて、前記閾値電圧の正方向へのシフト差を一定ゲート電圧条件下でのドレイン電流変化として検出することを特徴とするDNAセンサー。
【請求項8】
請求項1、2、3又は4記載のDNAセンサーにおいて、前記閾値電圧の正方向へのシフト差を一定ドレイン電圧条件下でのドレイン電流変化として検出することを特徴とするDNAセンサー。
【請求項9】
(a)液体電解質からなるゲートと、少なくとも水素終端表面およびアミノ終端としてのアミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面が混在するダイヤモンド表面をチャネルとするpチャネル電界効果トランジスタを用意し、
(b)前記ダイヤモンド表面のアミノ終端に塩基配列が既知の1本鎖DNAからなるプローブDNAをリンカーによって直接固定し、
(c)前記ダイヤモンド表面に滴下される未知の1本鎖DNAからなるターゲットDNAをセットし、
(d)前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にある場合に、前記1本鎖DNAからなるプローブDNA及びターゲットDNAのハイブリダイゼーションにより生成される2本鎖DNAに起因して、前記pチャネル電界効果トランジスタの閾値電圧の正方向へのシフトを検出することにより、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にあるか否かを同定することを特徴とするDNAセンサーを用いた測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサーに係り、特に、pチャネル電界効果トランジスタを有するDNA(デオキシリボ核酸)センサー(DNAチップ)およびそれを用いた測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術としては、以下のようなものがある。
(1)蛍光検出方式
この蛍光検出方式とは、塩基配列がわかった1本鎖DNA(プローブDNA)をガラス基板、シリコン、ダイヤモンド等に固定し、未知の1本鎖DNA(ターゲットDNA)とのハイブリダイゼーション(互いに相補的な1本鎖DNA同士が結合して2本鎖DNAになる現象)を、ターゲットDNAに固定した蛍光物質で検出するものである。しかしながらこの方式では、蛍光の有無によりハイブリダイゼーションを検出するため、装置が大規模になるという問題があった。また、観測手段が蛍光顕微鏡であるため高密度化には限界がある。
【0003】
(2)電荷検出方式
この電荷検出方式とは、シリコンのISFET(イオン感応性電界効果トランジスタ)を基本とする。しかしながら、DNAのハイブリダイゼーションによる電荷の倍増を検知するには、シリコンISFETは感度が低い。
(3)本願発明者が提案した、オゾン処理による高い閾値電圧を有する特性の良好なpチャネル電界効果トランジスタ
このトランジスタは、液体電解質をゲートとして使用し、オゾン処理により水素終端表面を酸化し、水素終端と酸素終端が混在したダイヤモンド表面をチャネルとしてなるpチャネル電界効果トランジスタである〔下記特許文献1参照〕。

【特許文献1】特開2004-109020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した(2)の電荷検出方式(電荷検出型DNAチップ)を更に発展させたものであり、液体電解質からなるゲートと、水素終端表面およびアミノ終端としてのアミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面が混在するダイヤモンド表面をチャネルとするpチャネル電界効果トランジスタのダイヤモンド表面に、DNAを直接固定することにより、ハイブリダイゼーションの検出感度を向上させ、未知のDNAの同定を行うことができるDNAセンサーおよびそれを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕DNAセンサーにおいて、液体電解質からなるゲートと、少なくとも水素終端表面およびアミノ終端としてのアミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面が混在するダイヤモンド表面をチャネルとするpチャネル電界効果トランジスタと、前記ダイヤモンド表面のアミノ終端にリンカーによって直接固定される塩基配列が既知の1本鎖DNAからなるプローブDNAと、前記ダイヤモンド表面に滴下され、セットされる未知の1本鎖DNAとかなるターゲットDNAと前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にある場合に、前記1本鎖DNAからなるプローブDNA及びターゲットDNAのハイブリダイゼーションにより生成される2本鎖DNAに起因して、前記pチャネル電界効果トランジスタの閾値電圧の正方向へのシフトを検出することにより、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にあるか否かを同定する手段を具備することを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載のDNAセンサーにおいて、前記ダイヤモンド表面に酸素終端表面を含むことを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載のDNAセンサーにおいて、前記リンカーが2乃至3価のカルボン酸であることを特徴とする。
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載のDNAセンサーにおいて、前記リンカーが2乃至3価のアルデヒドであることを特徴とする。
【0007】
〔5〕上記〔1〕、〔2〕、〔3〕又は〔4〕記載のDNAセンサーにおいて、前記プローブDNAの密度が1010cm-2以上、前記ターゲットDNAの濃度が10-12 Mから10-6Mであることを特徴とする。
〔6〕上記〔1〕、〔2〕、〔3〕又は〔4〕記載のDNAセンサーにおいて、前記閾値電圧の正方向へのシフト差を一定ドレイン電流条件下でのゲート電圧変化として検出することを特徴とする。
【0008】
〔7〕上記〔1〕、〔2〕、〔3〕又は〔4〕記載のDNAセンサーにおいて、前記閾値電圧の正方向へのシフト差を一定ゲート電圧条件下でのドレイン電流変化として検出することを特徴とする。
〔8〕上記〔1〕、〔2〕、〔3〕又は〔4〕記載のDNAセンサーにおいて、前記閾値電圧の正方向へのシフト差を一定ドレイン電圧条件下でのドレイン電流変化として検出することを特徴とする。
【0009】
〔9〕DNAセンサーを用いた測定方法において、液体電解質からなるゲートと、少なくとも水素終端表面およびアミノ終端としてのアミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面が混在するダイヤモンド表面をチャネルとするpチャネル電界効果トランジスタを用意し、前記ダイヤモンド表面のアミノ終端に塩基配列が既知の1本鎖DNAからなるプローブDNAをリンカーによって直接固定し、前記ダイヤモンド表面に滴下される未知の1本鎖DNAからなるターゲットDNAをセットし、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にある場合に、前記1本鎖DNAからなるプローブDNA及びターゲットDNAのハイブリダイゼーションにより生成される2本鎖DNAに起因して、前記pチャネル電界効果トランジスタの閾値電圧の正方向へのシフトを検出することにより、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にあるか否かを同定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)DNAセンサーにおいて、ハイブリダイゼーションの検出感度を向上させ、未知のDNAの同定を行うことができる。
(2)迅速、かつ的確なDNAのリアルタイム検出が可能である。
より詳細には、本発明は、ダイヤモンドにおいて可能となりつつある高感度DNA固定化技術およびSGFETの微細化により、従来型の半導体バイオセンサーや蛍光標識による光検出型バイオセンサーよりも高感度検出が期待されるものである。このDNAセンサーを用いることで、測定試料の微量化が可能なことから、臨床検査室における日常検査ならびに緊急検査に使用することができる。さらに他の機能も含めた集積化ナノデバイスシステムに適した電荷・電位検出型デバイスを実現可能である。
【0011】
以上ではダイヤモンド表面は、水素終端、アミノ終端が混在する表面としてきたが、酸素終端表面がDNAセンサーとしての機能を損なわない限りの占有率で同表面に混在しても構わない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
DNAセンサーにおいて、液体電解質(バッファ溶液)からなるゲートと、少なくとも水素終端表面およびアミノ終端としてのアミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面が混在するダイヤモンド表面をチャネルとするpチャネル電界効果トランジスタ(SGFET:電解質ゲートダイヤモンド電界効果トランジスタ)と、前記ダイヤモンド表面のアミノ終端にリンカーによって直接固定される塩基配列が既知の1本鎖DNAからなるプローブDNAと、前記ダイヤモンド表面に未知の1本鎖DNAからなるターゲットDNAとをセットし、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にある場合、前記1本鎖DNAからなるプローブDNAとターゲットDNAのハイブリダイゼーションにより生成される2本鎖DNAのリン酸基の電荷(負)が2倍となり、正孔が誘起され、pチャネル電界効果トランジスタの閾値電圧が正方向へシフトすることを利用し、その閾値電圧の正方向へのシフトを検出することにより、前記ターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にあるか否かを同定することを特徴とする。よって、迅速、かつ的確なDNAの同定が可能である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
DNAはリン酸基に由来する負電荷を持っているが、ハイブリダイゼーションを行うことによりその負電荷は約2倍になる。本発明は、その負電荷の顕著な変化を、SGFETのダイヤモンドチャネル表面にDNAを固定することにより、チャネル表面に励起される正孔の数が増加する度合を検出して、DNAの同定を可能にする。
【0014】
以下、本発明のDNAセンサーについて説明する。
図1は本発明にかかるSGFETの断面図、図2は本発明の実施例を示す1本鎖DNAによる負電荷の発生状態を示すチャネル部の模式図、図3は本発明の実施例を示す2本鎖DNAによる負電荷の発生状態を示すチャネル部の模式図、図4はSGFET特性の変化(その1)を示す図、図5はそのSGFET特性の変化(その2)を示す図である。
【0015】
(1)図1に示すように、アンドープ多結晶ダイヤモンド層1の、水素終端およびアミノ終端が混在するダイヤモンド表面2にソース電極3とドレイン電極4によって挟まれるようにダイヤモンド表面2からなるpチャネル5を形成し、ソース電極3及びドレイン電極4上にはそれぞれポリイミド樹脂からなる絶縁膜6,7を形成する。このpチャネル5上には液体電解質からなるゲート8を形成する。9はゲートとしての液体電解質8に配置される参照電極である。なお、基板としては、多結晶ダイヤモンド層に限定されるものではなく、単結晶ダイヤモンド層を用いてもよい。
【0016】
このように、液体電解質からなるゲート8と、水素終端およびアミノ終端が混在するダイヤモンド表面2からなるpチャネル5とを有するpチャネル電界効果トランジスタを用意する。
(2)次に、図2に示すように、上記したダイヤモンド表面2のpチャネル5上のアミノ終端に、塩基配列が既知の1本鎖DNAからなるプローブDNA11を、リンカー〔例えば、2乃至3価のカルボン酸(コハク酸、フタル酸)や2乃至3価のアルデヒド(グルタルアルデヒド)〕を介して架橋作用により共有結合的に直接固定する。このとき、プローブDNA11は、1010cm-2以上の高密度で固定する。
【0017】
なお、実施例においてアミノ終端という場合は、ダイヤモンド表面2に直接アミノ基がついている場合のみでなく、ダイヤモンド表面上についた分子の端にアミノ基がついている場合も含まれている。その意味で、アミノ基またはアミノ基のある分子で終端された表面と言い換えることができる。
また、上記したリンカーとしては、例えば、酸又は酸の化合物を用いるが、2乃至3価のカルボン酸(COOH基がある)や2乃至3価のアルデヒド(COH基)が好適である。
【0018】
(3)次いで、プローブDNA11を固定したpチャネル5に塩基配列が未知のターゲットDNA(濃度10-12 M~10-6M)を滴下する。ここで、プローブDNA11と滴下したターゲットDNAが相補的な関係にある場合には、ハイブリダイゼーションにより、プローブDNA11は図3に示すように、2本鎖DNA12となる。このとき、リン酸基の数が2倍となるためその負の電荷も2倍となり、これにより正孔が誘起され、SGFETの閾値電圧が正方向にシフトする。
【0019】
そこで、このSGFETの閾値電圧の差を、図4に示す一定ドレイン電流(ドレイン・ソース間電流)IDS条件(図4の横軸を基準とする)下でのゲート電圧(ゲート・ソース間電圧)VGS変化(正方向へのシフト)、あるいは一定ゲート電圧VGS条件(図4の縦軸を基準とする)下でのドレイン電流IDS変化(負方向へのシフト)、または図5に示す一定ドレイン電圧(ドレイン・ソース間電圧)VDS条件(図5の縦軸を基準とする)下でのドレイン電流IDS変化(負方向へのシフト)として検出することができる。
【0020】
図4はそのSGFET特性図(その1)である(ここでは、VDS(V)〔ドレイン電圧〕を-0.1Vに設定している)。この図において、曲線aは、この1本鎖DNAからなるプローブDNA11のみがダイヤモンド表面2に固定されている場合のSGFETのVGS(V)〔ゲート電圧〕とIDS(μA)〔ドレイン電流〕との特性を示しており、曲線bはハイブリダイゼーションが起こって2本鎖DNA12になった場合のSGFETのVGS(V)〔ゲート電圧〕とIDS(μA)〔ドレイン電流〕との特性を示している。ターゲットDNA(21塩基対)濃度が0.1nM、バルク溶液のpH=7の場合である。
【0021】
図5はそのSGFET特性図(その2)である(ここでは、VGS(V)〔ゲート電圧〕を-0.7Vに設定している)。この図において、曲線cは、1本鎖DNAからなるプローブDNA11がダイヤモンド表面2に固定されている場合のSGFETのVDS(V)〔ドレイン電圧〕とIDS(μA)〔ドレイン電流〕との特性を示しており、曲線dはハイブリダイゼーションが生じて2本鎖DNA12になった場合のSGFETのVDS(V)〔ドレイン電圧〕とIDS(μA)〔ドレイン電流〕との特性を示している。ターゲットDNA(21塩基対)濃度が0.1nM、バルク溶液のpH=7の場合である。
【0022】
これらの図より明らかなように、一定ドレイン電流IDSに対してのゲート電圧VGSの変化を見ると、曲線aと比べて曲線bが正方向へシフトしている。また、同様に、一定ゲート電圧VGSに対してのドレイン電流IDSの変化を見ると、曲線aと比べて曲線bが負方向へシフトしている。
このようにして、pチャネル電界効果トランジスタの閾値電圧の正方向へのシフトの有無を検出することにより、ハイブリダイゼーションの有無、すなわち、未知のターゲットDNAが前記プローブDNAと相補的な関係にあるか否かが同定できる。
【0023】
なお、前記未知のターゲットDNAが前記プローブDNA11と相補的な関係にない場合には、ハイブリダイゼーションがほとんど生じないため、SGFETの閾値電圧の正方向のシフトがないか、シフトがあっても相補的な場合に比べ少ない。
図6は本発明の実施例を示すDNAハイブリダイゼーションによるSGFETのゲート電圧の時間変化を示す図である。ここで、SGFETのVDS(V)〔ドレイン電圧〕は-0.4V、IDS(μA)〔ドレイン電流〕は-10μAである。
【0024】
この図により、ダイヤモンド表面のゲート電圧が、プローブDNAに相補的なターゲットDNAを滴下した時に正方向へシフトしていることが確認できる。これはDNAのハイブリダイゼーションにより負電荷を持つリン酸基の数が2倍となり、チャネルに誘起される正孔密度が上昇したことが原因と考えられる。非相補的なターゲットDNAではこのような閾値電圧の変化は観察されない。この方法は、従来のDNAチップでは困難だったリアルタイムにおけるハイブリダイゼーションのラベルフリー検出であり、ダイヤモンドの生体適合性とあいまって広範な臨床応用が実現可能なセンサーとして期待される。
【0025】
図7は本発明の実施例を示すターゲットDNAの量を変化させた場合の閾値電圧(ゲート電圧)の特性図である。
図7は、プローブDNAと相補的な関係にある1本鎖DNAをターゲットDNAとして、滴下した時点(60秒)から一定ドレイン電流を維持した場合のゲート電圧の時間変化を示しており、ハイブリダイゼーションによって生じるゲート電圧の正方向のシフト量をΔG(V)としている。滴下したターゲットDNAの量が1μM、100nM、10nMの場合、それぞれ正方向に38mV、25mV、4mVシフトしている。
【0026】
以下、具体的な実施例について説明する。
液体電解質(バッファ液)をゲートとして使用し、水素終端およびアミノ終端が混在する多結晶または単結晶ダイヤモンド表面をチャネルとしたpチャネル電界効果トランジスタ(SGFET)を用意し、塩基配列が既知のプローブDNAを1010cm-2以上の密度でグルタルアルデヒド(2価のアルデヒド)を介して、ダイヤモンド表面に架橋結合により直接固定した。このプローブDNAに対して相補的なターゲットDNAおよび非相補的ターゲットDNAを10-12 Mから10-6Mの濃度でプローブDNAが固定された上記SGFET上に滴下した。ドレイン電流一定の条件で、ゲート電圧のハイブリダイゼーションによる実時間測定の結果、相補的なターゲットDNAにおいて、ターゲットDNA濃度10nMでゲート電圧4mV、100nMで25mV、1μMで38mV、それぞれ正方向へのシフトを観測できた。一方、非相補的ターゲットDNAではこれらのシフトは全く検出されなかった。
【0027】
上記したように、本発明のDNAセンサーは、DNAのリアルタイム検出に好適であり、ダイヤモンドチャネル表面の持つ生体適合性を利用して臨床応用が実現可能なデバイスとして期待される。
次に、バッファ(NaCl)溶液濃度の最適化について実験を行った。
図8は、本発明の実施例を示すバッファ溶液濃度の最適化を図るための実験によるデバイ距離(デバイの遮蔽距離)を示す図である。横軸はダイヤモンド表面からの距離、縦軸はダイヤモンド表面電位を示している。
【0028】
ハイブリダイゼーション効率とリン酸(DNA)の負電荷検出効率は二律背反(トレードオフ)の関係にある。つまり、ハイブリダイゼーション効率は、バッファ(NaCl)溶液の濃度が濃い程負電荷同士の反発を遮蔽でき、効率が大となる。これに対して、リン酸(DNA)の負電荷検出効率は、バッファ濃度が薄く、デバイ距離が長い程大であり、負電荷検出効率は大となる。
【0029】
図8において、21はダイヤモンド表面、22はDNA(~20塩基:~6nm)、バッファ溶液はNaCl溶液であり、デバイ距離κ-1〔nm〕は、
κ-1=0.304/(√(NaCl)
ここで、バッファ溶液中のイオン種はNaClであり、NaCl濃度によるDNAの検出可能距離を表1に示す。
【0030】
【表1】
JP0004523001B2_000002t.gif
(1)バッファ溶液が20sscの場合、NaCl濃度が3M、デバイ距離は0.18nm、(2)バッファ溶液が2ssc〔上記(1)のバッファ溶液の1/10〕の場合、NaCl濃度が0.3M、デバイ距離は0.56nm、(3)バッファ溶液が1ssc〔上記(1)のバッファ溶液の1/20〕の場合、NaCl濃度が0.15M、デバイ距離は0.78nm、(4)10mMの燐酸バッファ溶液(phosphate buffer solution;PBS)の場合、NaCl濃度が0.01M、デバイ距離は3.04nmとなる。
【0031】
このことから明らかなように、上記(2)のバッファ溶液が2sscの場合、NaCl濃度が0.3M、デバイ距離は0.56nmであり、DNAハイブリダイゼーションの最適化が図られているが、デバイ距離が短い。上記(3)のバッファ溶液の場合は、デバイ距離が少し長くなり、ハイブリダイゼーション効率は依然高いのでリアルタイム測定に適している。上記(4)のバッファ溶液の場合は静特性(FET特性)測定の場合に使用している。
【0032】
なお、ここでは、リンカーを短くし、グルタルアルデヒド(GA)を使用した。短いリンカーは、デバイ長内にDNAのリン酸基を多く収めるのに有利である。また、ハイブリダイゼーションはバッファ溶液温度に敏感であり、59℃が最適温度である。しかし、ここではバッファ溶液温度を40℃に設定し、ハイブリダイゼーションの効率を下げることで、1塩基及び3塩基ミスマッチ・ターゲットDNAを分離検出した。さらに、バッファ溶液温度を25℃まで低下させることで、3塩基ミスマッチと1塩基ミスマッチは図9に示すように分離される。
【0033】
なお、図9において、IDS(ドレイン-ソース間電流)は-10μA、VDS(ドレイン-ソース間電圧)は-0.1V、ターゲット固定時間は1時間であり、横軸は温度〔℃〕、縦軸はゲートとソース間のΔV(シフト電位)〔mV〕を示している。
以上から、本発明と従来技術との性能比較をすると、バッファ溶液の設定温度をハイブリダイゼーションに最適な59℃から40℃、さらに25℃に下げ、ハイブリダイゼーション効率を下げることで、1塩基及び3塩基ミスマッチ・ターゲットDNAの誤った(不完全な)ハイブリダイゼーションを抑制し、1塩基及び3塩基ミスマッチの分離検出に成功した。従来のSiISFET系ではここまで高感度での測定例はない。
【0034】
また、本発明は、大量生産による素子の低価格化により、大量消費型センサーとして、医療分野にとどまらず食品検査、環境計測等としての用途も広がると期待される。したがって、経済的、社会的影響力の極めて高いものである。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のDNAセンサーは、DNAのリアルタイム検出に好適であり、ダイヤモンドチャネル表面の持つ生体適合性を利用して臨床応用が実現可能なデバイスとして利用可能である。
また、大量生産による素子の低価格化により、大量消費型センサーとして、医療分野にとどまらず食品検査、環境計測等としての用途も広がると期待される。したがって、経済的、社会的影響力の極めて高いものである。
【0036】
さらに、将来的には炭素の生体適合性から、体内埋め込みセンサーとしての応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかるSGFETの断面図である。
【図2】本発明の実施例を示す1本鎖DNAによる負電荷の発生状態を示すチャネル部の模式図である。
【図3】本発明の実施例を示す2本鎖DNAによる負電荷の発生状態を示すチャネル部の模式図である。
【図4】本発明の実施例を示すSGFET特性の変化(その1)を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示すSGFET特性の変化(その2)を示す図である。
【図6】本発明の実施例を示すDNAハイブリダイゼーションによるSGFETのゲート電圧の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の実施例を示すターゲットDNAの量を変化させた場合の閾値電圧(ゲート電圧)の特性図である。
【図8】本発明の実施例を示すバッファ溶液濃度の最適化を図るための実験によるデバイ距離を示す図である。
【図9】本発明の実施例を示すバッファ溶液の温度調節によるゲート電位のシフト量の変化を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8