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明細書 :化学センサ装置用の検出子およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4670084号 (P4670084)
登録日 平成23年1月28日(2011.1.28)
発行日 平成23年4月13日(2011.4.13)
発明の名称または考案の名称 化学センサ装置用の検出子およびその利用
国際特許分類 G01N   5/02        (2006.01)
G01N  21/27        (2006.01)
FI G01N 5/02 A
G01N 21/27 C
請求項の数または発明の数 14
全頁数 14
出願番号 特願2006-532699 (P2006-532699)
出願日 平成17年8月30日(2005.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2005/015715
国際公開番号 WO2006/025358
国際公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
優先権出願番号 2004253536
優先日 平成16年8月31日(2004.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年6月18日(2008.6.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
発明者または考案者 【氏名】本津 茂樹
【氏名】楠 正暢
【氏名】西川 博昭
【氏名】橋本 典也
【氏名】山田 泉
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】秋田 将行
参考文献・文献 特公昭60-014481(JP,B1)
特開昭63-257201(JP,A)
特開平07-128269(JP,A)
特開2003-253424(JP,A)
特開2003-322653(JP,A)
特開2005-283550(JP,A)
中村聡、津曲昭男、橋本和明、戸田善久、濱上寿一、山下仁大,アパタイト薄膜に対する生体関連有機物吸着のQCM法による検討,第11回秋季シンポジウム講演予稿集,日本セラミック協会,1998年10月 1日,第144頁
調査した分野 G01N 5/02
G01N 21/27
G01N 37/12
特許請求の範囲 【請求項1】
媒質中に含まれる測定対象物質が検出表面に吸着することによって、当該測定対象物質を検出する化学センサ装置用の検出子であって、
上記検出子は、測定対象物質を検出するための上記検出表面に、ハイドロキシアパタイトにおける一部の元素が置換された元素置換アパタイトを含む吸着層を備えており、
上記化学センサ装置は、水晶振動子マイクロバランス法または表面プラズモン共鳴法を用いた化学センサ装置であることを特徴とする検出子。
【請求項2】
上記吸着層は、上記検出表面の全面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の検出子。
【請求項3】
上記吸着層は、上記検出表面の複数箇所に分散して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の検出子。
【請求項4】
上記吸着層は、導電性のある元素置換アパタイトを含んでおり、
上記吸着層が電極として機能するものであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の検出子。
【請求項5】
上記導電性のある元素置換アパタイトが、ハイドロキシアパタイトにおける一部の元素がNaに置換された元素置換アパタイトであることを特徴とする請求項4に記載の検出子。
【請求項6】
上記吸着層は、生体親和性のある元素置換アパタイトを含んでいることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の検出子。
【請求項7】
上記生体親和性のある元素置換アパタイトが、ハイドロキシアパタイトにおける一部の元素がMgに置換された元素置換アパタイトであることを特徴とする請求項6に記載の検出子。
【請求項8】
上記吸着層の表面上に、非吸着層が設けられており、
上記非吸着層には、上記媒質中の測定対象物質と吸着層とを接触させるための開口部が設けられていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の検出子。
【請求項9】
上記吸着層は、さらに、上記測定対象物質を選択的に吸着するための特異的結合物質を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の検出子。
【請求項10】
上記吸着層は、レーザーアブレーション法にて形成されるものであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の検出子。
【請求項11】
上記吸着層は、形成中もしくは形成後、熱処理または焼結処理により、上記元素置換アパタイトの結晶性が高められていることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の検出子。
【請求項12】
媒質中に含まれる測定対象物質が検出表面に吸着することによって、当該測定対象物質を検出する化学センサ装置用の検出子であって、
上記検出子は、測定対象物質を検出するための上記検出表面に、ハイドロキシアパタイトを含む吸着層を備え、
上記吸着層は、レーザーアブレーション法にて形成されるものであることを特徴とする検出子。
【請求項13】
上記吸着層は、形成中もしくは形成後、熱処理または焼結処理により、上記ハイドロキシアパタイトの結晶性が高められていることを特徴とする請求項12に記載の検出子。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の検出子を備えることを特徴とする化学センサ装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の化学物質や生体分子を検出するために用いられる化学センサ装置用検出子およびその利用に関するものであり、特に、ハイドロキシアパタイトおよびその誘導体を用いて、化学物質等の吸着効率を高めた化学センサ装置用検出子およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液体や気体などの媒質中に含まれる微小な化学物質を検出したり、媒質中に含まれる微粒子間の相互作用を高い感度で検出したりするための微量化学物質検出技術が開発されている。このような微量化学物質検出技術として、例えば、水晶振動子マイクロバランス法(QuartzCrystal Microbalance、以下「QCM法」と称する)や表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance、以下、「SPR法」と称する)が知られている。
【0003】
QCM法は、水晶振動子を用いてマイクロバランス原理を応用した化学物質や生体物質を検出するための技術であり、水晶振動子の作用電極表面を試料ガスや試料溶液に晒したときの水晶振動子の発振周波数の変化から作用電極表面での試料成分の吸脱着を検知・定量するものである。
【0004】
具体的には、水晶振動子100は図7に示すように、薄い水晶板101の表面と裏面とに金属電極102を蒸着したもので、この金属電極102上に化学物質や生体分子が付着した場合、付着物の重量と振動数変化が比例関係にある。すなわち、水晶振動子100の金属電極102の表面に試料成分が成膜したり、あるいは物質の吸着が起きたりすると金属電極102の表面に存在する物質の単位表面積当たりの重量に対応した周波数のシフトが起きることになる。この周波数シフト現象を指標に、媒質中に含まれる微小な化学物質や生体分子を検出することができる。
【0005】
QCM法を用いた化学センサ装置は、水晶振動子は広い温度範囲において周波数が安定しているため、安定した検出感度が期待でき、条件が揃えば1~10ngの吸着物質の検出がリアルタイムで可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、SPR法は、光学的な手法を利用して微量化学物質を検出する技術である。具体的には、金属薄膜に光を照射して反射光をモニターし、金属薄膜上に化学物質が付着することにより生じる、金属薄膜上の屈折率の変化を検出し、微量化学物質を検出する技術である。SPR法を用いた化学センサ装置は、バイオ分野、環境分野、工業分野へ応用されており、表面に固定化した生体分子の相互作用解析、抗原抗体反応モニター、糖度モニターなどに用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】

【特許文献1】特開2001-153777号公報(公開日:平成13年(2001)6月8日)
【特許文献2】特開2004-163259号公報(公開日:平成16(2004)年6月10日)
【発明の開示】
【0008】
しかしながら、QCM法やSPR法を利用した化学センサ装置は、水晶振動子が有する電極や金属薄膜等の検出子表面への化学物質の吸着作用を利用したものである。このため、化学センサ装置における検出感度は、電極材料や金属薄膜材料がもつ被吸着物質に対する吸着能力に依存することになり、検出濃度や検出感度の面で限界があった。
【0009】
このため、より検出感度を向上させ、極微量の化学物質や生体分子等を高感度に検出可能な化学センサ装置用の検出子の開発が強く望まれていた。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出感度を向上させた化学センサ装置用の検出子およびその利用を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、化学センサ装置用の検出子の表面にハイドロキシアパタイトまたは構成元素の一部を置換した元素置換アパタイトをコーティングすることにより、検出子の検出感度を著しく向上させることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な物質としての以下の発明(1)~(15)を包含する。
【0012】
(1)媒質中に含まれる測定対象物質が検出表面に吸着することによって、当該測定対象物質を検出する化学センサ装置用の検出子であって、上記検出子は、測定対象物質を検出するための上記検出表面に、ハイドロキシアパタイトにおける一部の元素が置換された元素置換アパタイトを含む吸着層を備えている検出子。
【0013】
(2)上記吸着層は、上記検出表面の全面に設けられている(1)に記載の検出子。
【0014】
(3)上記吸着層は、上記検出表面の複数箇所に分散して設けられている(1)に記載の検出子。
【0015】
(4)上記吸着層は、導電性のある元素置換アパタイトを含んでおり、上記吸着層が電極として機能するものである(1)~(3)のいずれかに記載の検出子。
【0016】
(5)上記導電性のある元素置換アパタイトが、ハイドロキシアパタイトにおける一部の元素がNaに置換された元素置換アパタイトである(4)に記載の検出子。
【0017】
(6)上記吸着層は、生体親和性のある元素置換アパタイトを含んでいる(1)~(3)のいずれかに記載の検出子。
【0018】
(7)上記生体親和性のある元素置換アパタイトが、ハイドロキシアパタイトにおける一部の元素がMgに置換された元素置換アパタイトである(6)に記載の検出子。
【0019】
(8)上記吸着層の表面上に、非吸着層が設けられており、上記非吸着層には、上記媒質中の測定対象物質と吸着層とを接触させるための開口部が設けられている(1)~(7)のいずれかに記載の検出子。
【0020】
(9)上記吸着層は、さらに、上記測定対象物質を選択的に吸着するための特異的結合物質を含む(1)~(8)のいずれかに記載の検出子。
【0021】
(10)上記吸着層は、レーザーアブレーション法にて形成されるものである(1)~(9)のいずれかに記載の検出子。
【0022】
(11)上記吸着層は、形成中もしくは形成後、熱処理または焼結処理により、上記元素置換アパタイトの結晶性が高められている(1)~(10)のいずれかに記載の検出子。
【0023】
(12)媒質中に含まれる測定対象物質が検出表面に吸着することによって、当該測定対象物質を検出する化学センサ装置用の検出子であって、上記検出子は、測定対象物質を検出するための上記検出表面に、ハイドロキシアパタイトを含む吸着層を備え、上記吸着層は、レーザーアブレーション法にて形成されるものである検出子。
【0024】
(13)上記吸着層は、形成中もしくは形成後、熱処理または焼結処理により、上記元素置換アパタイトの結晶性が高められている(12)に記載の検出子。
【0025】
(14)上記化学センサ装置は、水晶振動子マイクロバランス法または表面プラズモン共鳴法を用いた化学センサ装置である(1)~(13)のいずれかに記載の検出子。
【0026】
(15)(1)~(14)のいずれかに記載の検出子を備える化学センサ装置。
【0027】
本発明に係る検出子によれば、検出子の検出表面に、微粒子の吸着性に優れたハイドロキシアパタイトまたは元素置換アパタイトを備えているため、従来の化学センサ装置用の検出子に比べて、媒質中に含まれる測定対象物質の検出感度を著しく向上させることができる。したがって、媒質中に含まれる測定対象物質や測定対象物質間の相互作用を高感度で検出することができる。つまり、より低濃度の化学物質を検出することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る検出子を用いることにより、検出感度が向上した化学センサ装置を提供することもできる。
【0029】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1(a)】図1(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図である。
【図1(b)】図1(b)は図1(a)の検出子の断面図である。
【図2(a)】図2(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図である。
【図2(b)】図2(b)は図2(a)の検出子の断面図である。
【図3(a)】図3(a)は、本実施の形態に係る他の検出子の構成を上方から見た上面図である。
【図3(b)】図3(b)は図3(a)の検出子の断面図である。
【図4(a)】図4(a)は、本実施の形態に係る他の検出子の構成を上方から見た上面図である。
【図4(b)】図4(b)は図4(a)の検出子の断面図である。
【図5(a)】図5(a)は、本実施の形態に係る他の検出子の構成を上方から見た上面図である。
【図5(b)】図5(b)は図5(a)の検出子の断面図である。
【図6】図6は、本実施例における検出子の検出感度を調べた結果を示す図である。
【図7(a)】図7(a)は、従来のQCM化学センサ装置に用いられる検出子の構造を上方から見た上面図である。
【図7(b)】図7(b)は図7(a)の検出子の断面図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、QCM法やSPR法を用いた化学センサ装置用に利用可能な検出子およびその利用に関するものである。このため、以下の実施形態では、まず本発明に係る検出子について説明し、次いでその利用法について記載することとする。
【0032】
<1.本発明に係る検出子>
本発明に係る検出子は、媒質中に含まれる測定対象物質が検出表面に吸着することによって、当該測定対象物質を検出する化学センサ装置用の検出子であって、上記検出子は、測定対象物質を検出するための上記検出表面に、ハイドロキシアパタイトまたは一部の元素が置換された元素置換アパタイトを含む吸着層を備えている構成であればよく、その具体的な構成(厚み、材質、大きさ、形状)や製造方法等は、特に限定されるものではない。
【0033】
つまり、本発明の主題は、化学センサ装置用の検出子と測定対象物質とが接触する検出表面に、測定対象物質に対する吸着能力が優れたハイドロキシアパタイト等を含む吸着層を設け、検出子の検出感度を向上させることにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の構造的特徴や製造方法等に存するのではない。したがって、本明細書で説明する各実施形態の構造や方法以外の構成も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0034】
本明細書でいう文言「媒質」とは、従来公知の化学センサ装置を用いて物質の検出を行うことができる液体、気体等の媒質全般を意味し、その具体的な種類等は特に限定されるものではない。例えば、河川や海の水、空気等の他、後述する実施例に示すように、生体分子を安定に保持可能な各種緩衝液等を挙げることができる。
【0035】
また「測定対象物質」は、検出子の表面に吸着することにより検出可能な物質であればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、微粒子の化学物質、リガンド、核酸(DNA、RNA等)、タンパク質、ペプチド、抗体、特定細胞誘導因子やホルモン等のシグナル伝達物質、環境ホルモン物質等が挙げられる。
【0036】
「検出表面」とは、測定対象物質が吸着することによって当該測定対象物質を検出するための表面のことである。検出子の検出表面に測定対象物質が吸着すると、その特性等が変化し、測定対象物質の検出を行うことができる。かかる検出表面としては、例えば、QCM法を用いた化学センサ装置用の検出子(水晶振動子)における電極表面やSPR法を用いた化学センサ装置用の検出子における金属薄膜の表面を挙げることができる。
【0037】
「吸着」には、物理・化学的な、あらゆる特異的・非特異的な吸着、付着、結合をいい、さらに、生物学的・免疫学的な特異結合も含む。
【0038】
「化学センサ装置」とは、媒質中に含まれる微量な化学物質を検出するための化学センサ装置であればよく、具体的な構成は特に限定されるものではないが、好ましくは、QCM法またはSPR法を用いた化学センサ装置化学センサ装置が好適である。
【0039】
本明細書でいう文言「ハイドロキシアパタイト」には、Ca10(PO(OH)で表される物質を指すが、さらに、かかるハイドロキシアパタイトに対して焼結等の熱処理を行うことにより得られる、水分子が脱離したリン酸カルシウムとハイドロキシアパタイトとの混合物も含まれる。
【0040】
また「元素置換アパタイト」とは、上記ハイドロキシアパタイト分子における一部の元素が置換されたものであればよく、置換元素等の種類、量等は特に限定されるものではない。置換元素としては、特に、導電性を高める置換元素、生体親和性を高める置換元素が好ましい。例えば、導電性を高める置換元素としてはNaを挙げることができ、生体親和性を高める置換元素としてはMgを挙げることができるが、これらの置換元素に限定されるものではない。つまり、元素置換アパタイトは、ハイドロキシアパタイトの優れた吸着性能はそのままに、新たな性質を付加して高機能化したものであると換言できる。
【0041】
本発明に係る「吸着層」は、上述したハイドロキシアパタイトまたは元素置換アパタイトを含んでいる。ハイドロキシアパタイトまたは元素置換アパタイトは、リン酸基、Caイオンを有し、吸着性の優れた物質である。この優れた吸着性を有する物質を含む吸着層を化学センサ装置用の検出子の表面に設けることにより、従来の化学センサ装置用の検出子に比べて、より媒質中の含有物等の検出感度または粒子間相互作用の検出感度を向上させることができる。
【0042】
また、上記「吸着層」は、少なくとも上記ハイドロキシアパタイトまたは元素置換アパタイトを含むものであればよく、その他にどのような物質を含んでいてもかまわない。例えば、上記「吸着層」は、測定対象物質と吸着層との吸着力・結合力を調整するための特異的結合物質(中間物質)を含んでいてもよい。「特異的結合物質」としては、測定対象物質と特異的に相互作用する物質が好ましく、例えば、リガンド、抗体、特定細胞誘導因子等が挙げられる。このような特異的結合物質を含む吸着層を形成することにより、測定対象物質に対して選択性を持った検出子を作製することができる。
【0043】
また、上記「吸着層」は、検出子において、測定対象物質と接触可能な表面に設けられていればよく、その形成方法は特に限定されるものではない。例えば、コーティング法として従来公知のディップ法、スパッタリング法、プラズマ溶射法、レーザーアブレーション法等が挙げられるが、特に、レーザーアブレーション法が好ましい。後述する実施例に示すように、レーザーアブレーション法を用いて吸着層を形成することにより、吸着層を薄膜状に形成でき、検出子が本来有する高分解能特性を損ねることなく検出子の表面改質を行い、高感度化を図ることができるためである。なお、吸着層を形成した後、例えば、後述する実施例に示すように、結晶性を高める目的で所定の温度にて熱処理や焼結処理を行ってもよい。
【0044】
また、本明細書でいう「検出子」とは、化学センサ装置本体に着脱可能なものであって、化学センサ装置に取り付けられ、微量な化学物質等の測定対象物質を検出するための素子(センサ部分)である。かかる検出子としては、例えば、測定対象物質が当該検出子の表面に付着することにより生じる、発振周波数の変化(QCM法の場合)や光の屈折率の変化(SPR法の場合)を指標に、当該測定対象物質の吸脱着を検出・定量するための素子である。具体的には、QCM法を用いた化学センサ装置に用いるための水晶振動子やSPR法を用いた化学センサ装置に用いるための素子等を挙げることができる。
【0045】
以下、本発明に係る検出子の具体的な構成について、図面を用いて説明する。なお、本明細書では、説明の便宜のためQCM法を用いた化学センサ装置用の検出子を例示挙げて説明するが、SPR法を用いた化学センサ装置用の検出子であっても当業者であれば、同様に作製し、適用できることを念のため付言する。
【0046】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1(a)および図1(b)に基づいて説明すると以下の通りである。図1(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図であり、図1(b)は図1(a)の検出子の断面図である。
【0047】
図1(a)および図1(b)に示すように、本実施の形態に係る検出子10は、吸着層1、水晶板11、および金属電極12a・12bを備えている。金属電極12a・12bは、水晶板11を挟んで、水晶板11の両側に対向するように配置されている。金属電極12a・12bは、水晶板11の大きさより小さく形成されている。金属電極12aが形成されている水晶板11の表面11aは、測定対象物質を含む試料(媒質)と接触する面である。
【0048】
吸着層1は、この金属電極12aが形成されている水晶板11の表面11aの全面を覆うように形成されている。つまり、検出子10は、従来の検出子(例えば、図7(a)および図7(b)の検出子100)における、測定対象物質と接触する金属電極が形成されている表面の全面に設けられた構成である。
【0049】
上記の構成によれば、優れた吸着能力を有するハイドロキシアパタイト等を含む吸着層1が、金属電極12aを含む水晶板11の表面11aの全面に形成されている。このため、広い面積における吸着を誘発し、感度を最大限向上させることができる。
【0050】
したがって、検出子10は、従来の化学センサ装置用の検出子において、金属電極の材料が有する吸着能力が低いことから生じる検出感度の限界を超えて、高感度の検出を行うことができる。つまり、検出子10は、従来の検出子では検出できなかったような、低濃度の化学物質でも検出することができる。
【0051】
また、上記吸着層1は、生体親和性のある元素置換アパタイトを含んでいてもよい。上記構成とすれば、他の元素置換アパタイトまたは化学量論組成アパタイトと比較して、生体親和性のある元素置換アパタイトに対して特異的に吸着しやすい組織誘導因子等の存在の有無など、生体親和性に関しての分子生物学的な実験を行う手段としての有効性を向上させることができる。
【0052】
〔実施の形態2〕
本発明の一実施形態について図2(a)および図2(b)に基づいて説明すると以下の通りである。なお、ここでは、上述の実施形態1における構成要素と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。つまり、ここでは、上述の実施形態1との相違点について説明するものとする。
【0053】
図2(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図であり、図2(b)は図2(a)の検出子の断面図である。図2(a)および図2(b)に示すように、本実施の形態に係る検出子20は、吸着層21、水晶板11、および金属電極12bを備えている。吸着層21および金属電極12bは、水晶板11を挟んで、水晶板11の両側に対向するように配置されている。吸着層21および金属電極12bは、水晶板11の大きさより小さく形成されている。吸着層21が形成されている水晶板11の表面11aは、測定対象物質を含む試料(媒質)と接触する面である。
【0054】
吸着層21は、導電性を有する元素置換アパタイトを含んでおり、吸着層21自体が導電性を有する構成である。本実施の形態では、この吸着層21が電極として設けられている。つまり、検出子20は、従来の検出子(例えば、図7(a)および図7(b)の検出子100)における、測定対象物質と接触する金属電極として導電性の吸着層21が設けられた構成である。
【0055】
上記の構成によれば、通常金属材料からなる検出子の電極を、導電性のある元素置換アパタイトを含む吸着層21に置き換えることで、電極を兼ねた吸着層を形成することができ、検出子の製造工程を簡便にすることができる。
【0056】
なお、上記金属電極12bが、導電性の元素置換アパタイトを含む吸着層21で構成されていてもよい。
【0057】
〔実施の形態3〕
本発明の一実施形態について図3(a)および図3(b)に基づいて説明すると以下の通りである。なお、ここでは、上述の実施形態1、2における構成要素と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。つまり、ここでは、上述の実施形態1、2との相違点について説明するものとする。
【0058】
図3(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図であり、図3(b)は図3(a)の検出子の断面図である。図3(a)および図3(b)に示すように、本実施の形態に係る検出子30は、吸着層31、水晶板11、および金属電極12a・12bを備えている。水晶板11、および金属電極12a・12bの構成は、実施形態1と同様であり、吸着層31は、金属電極12aの表面に、複数箇所に分散して設けられている。
【0059】
つまり、検出子30は、従来の検出子(例えば、図7(a)および図7(b)の検出子100)における、測定対象物質と接触する金属電極の表面に、微細に形成した吸着層31が複数箇所に分散して設けられた構成である。
【0060】
なお、検出子30は、例えば、実施形態1の検出子10における吸着層1の一部をエッチング処理することにより、容易に作製することができる。
【0061】
上記の構成によれば、ハイドロキシアパタイト等をコーティングした吸着層31を、検出子30の表面の一部、もしくは複数箇所に分散して設けることで、吸着性に大きく影響する吸着層30の総吸着面積(表面積)を容易に意図した通りに調整することができ、検出感度の制御を行うことができる。また、吸着層31の大きさ、形状を測定対象物質の種類に応じて、適宜調整することにより、吸着物質の種類や吸着方向などを制御することができる。したがって、本実施の形態に係る検出子30によれば、測定対象物質の吸着選択性、吸着方位、吸着効率などを制御することができ、吸着メカニズムの解析に応用することができる。
【0062】
〔実施の形態4〕
本発明の一実施形態について図4(a)および図4(b)に基づいて説明すると以下の通りである。なお、ここでは、上述の実施形態1~3における構成要素と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。つまり、ここでは、上述の実施形態1~3との相違点について説明するものとする。
【0063】
図4(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図であり、図4(b)は図4(a)の検出子の断面図である。図4(a)および図4(b)に示すように、本実施の形態に係る検出子40は、吸着層1、水晶板11、金属電極12a・12b、および非吸着層41を備えている。非吸着層41は、試料(媒質)中の測定対象物質を吸着しない材料より構成されるものであり、例えば、シリコーン樹脂、4フッ化エチレン樹脂等のような材料を用いて好適に形成することができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
吸着層1、水晶板11、および金属電極12a・12bの構成は、実施形態1と同様であり、吸着層1は、金属電極12aを含む水晶板11の表面11aの全面に形成されている。非吸着層41は、その吸着層1の表面を覆うように形成されている。そして、非吸着層41には、試料(媒質)中の測定対象物質と吸着層1とを接触させるための開口部42が複数箇所に分散して設けられている。
【0065】
つまり、検出子40は、微細に形成した開口部42から露出した吸着層1の部分で測定対象物質を吸着することになる。このため、非吸着層41と開口部42とを、検出子40の表面の一部、もしくは複数箇所に分散して設けることで、吸着性に大きく影響する吸着層1の総吸着面積(表面積)を容易に意図した通りに調整することができ、検出感度の制御を行うことができる。また、非吸着層41や開口部42の大きさ、形状を測定対象物質の種類に応じて、適宜調整することにより、吸着物質の種類や吸着方向などを制御することができる。したがって、本実施の形態に係る検出子40によれば、上記実施形態3と同様に、測定対象物質の吸着選択性、吸着方位、吸着効率などを制御することができ、吸着メカニズムの解析に応用することができる。
【0066】
なお、検出子40は、例えば、非吸着層41の一部をエッチング処理することにより、容易に作製することができる。
【0067】
〔実施の形態5〕
本発明の一実施形態について図5(a)および図5(b)に基づいて説明すると以下の通りである。なお、ここでは、上述の実施形態1~4における構成要素と同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。つまり、ここでは、上述の実施形態1~4との相違点について説明するものとする。
【0068】
図5(a)は、本実施の形態に係る検出子の構成を上方から見た上面図であり、図5(b)は図5(a)の検出子の断面図である。図5(a)および図5(b)に示すように、本実施の形態に係る検出子50は、吸着層51、水晶板11、および金属電極12a・12bを備えている。水晶板11、および金属電極12a・12bの構成は、実施形態1と同様であり、吸着層51は、金属電極12aを含む水晶板11の表面11aの全面に形成されている。
【0069】
この吸着層51には、ハイドロキシアパタイトまたは元素置換アパタイトの他に、特異的結合物質52を含んでいる。つまり、吸着層51は、特異的結合物質52の作用によって、測定対象物質に対して選択性を有する構成である。
【0070】
特異的結合物質52は、吸着層51をコーティング形成する際に既に含めておいてもよいが、吸着層51は、コーティング後、結晶性を高めるために加熱処理する場合もあるため、加熱処理した後、吸着層51表面に塗布して含ませることが好ましい。
【0071】
上記の構成によれば、検出子50は、特異的結合物質52(例えば、リガンド、抗体、特定細胞誘導因子等)を有する吸着層51を備えているため、測定対象物質に対する選択性を持たせ、測定対象物質と吸着層51との結合力を調整することができる。
【0072】
<2.検出子の利用>
上述したように、本発明に係る検出子は、上述したように、ハイドロキシアパタイト等の吸着性に優れた物質を含む吸着層を有している。このため、本発明に係る検出子を化学センサ装置に用いることにより、微量の化学物質を高感度で検出することができる。
【0073】
すなわち、本発明には、上述した検出子を備える化学センサ装置が含まれる。本発明に係る化学センサ装置は、上述の検出子を備えていればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。ここでいう化学センサ装置は、上述の検出子を適用できる化学センサ装置であればよく、特に限定されるものではないが、特に、QCM法またはSPR法を用いた化学センサ装置であることが好ましい。
【0074】
以上のように、本発明に係る検出子または該検出子を備える化学センサ装置によれば、液体、気体などの媒質中の含有物、微粒子(例えば生体分子、リガンド、タンパク質、抗体、特定細胞誘導因子、環境物質など)の化学物質を検出、または同媒質中の粒子間相互作用(タンパク質—タンパク質、抗体—抗原、ホルモン—受容体、タンパク質—核酸、基質—酵素、DNA相補対間など)を高い感度で検出することができる。さらに、微量化学物質の検出感度を高めることにより、例えば、遺伝子、抗原物質、におい、味、環境物質(環境ホルモン)などの計測適応範囲を拡大することができる。
【0075】
なお、本発明には、水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)、表面プラズモン共鳴センサ等の、微量物質検出用化学センサ装置における、検出子部表面にハイドロキシアパタイトまたはその一部元素置換を施した材料(元素置換アパタイト)をコーティングし、媒質中の混入物、含有物を検出または、粒子間相互作用を検出する方法が含まれる。
さらに、ハイドロキシアパタイトの検出子部表面コーティング法がレーザーアブレーション法である化学センサ装置が本発明に含まれる。また、振動子の電極自体に導電性のある元素置換アパタイトを用いた化学センサ装置用検出子が本発明に含まれる。また、上記吸着層に生体親和性のある元素置換アパタイトを用いた化学センサ装置用検出子が本発明に含まれる。
【0076】
さらに、ハイドロキシアパタイトコーティング膜が検出子表面の全面にコーティングされた化学センサ装置が含まれる。また、ハイドロキシアパタイトコーティング膜が検出子表面の複数箇所に分散させた構造でコーティングされた化学センサ装置が含まれる。また、上記振動子を達成するためにエッチングのような加工を施すか、吸着層の一部を他の材料で覆うことにより得られた化学センサ装置用検出子が本発明に含まれる。また、非検出物質と振動子の結合力を調整するために、上記吸着層のいずれかに予め中間物質を添加した化学センサ装置用検出子が本発明に含まれる。
【0077】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
〔実施例〕
以下の方法によってハイドロキシアパタイトをコートしたQCM検出子を作製し、QCM法による、被吸着物質検出感度向上の効果を確認した。
【0079】
市販のQCM検出子(株式会社イニシアム製AFFINIXQ用センサーチップ)の表面にハイドロキシアパタイトをレーザーアブレーション法により厚さ100nm堆積させたのち、結晶性を高める目的で熱処理を施し、ハイドロキシアパタイトコートQCM検出子を作製した。これを検出子(センサ)としてQCM化学センサ装置(株式会社イニシアム製AFFINIXQ)本体に取り付け、8mL(ミリリットル)の生理食塩水(PBS)バッファー溶液中に滴下されたウシ由来の血清を検出し、従来のセンサを用いた場合との感度の比較を行った。
【0080】
従来の検出子を用いた化学センサ装置の場合、血清の滴下量、0.5、2、4、8μL(マイクロリットル)に対し、図7の点線で示すような周波数シフトを得たのに対し、ハイドロキシアパタイトコートQCM検出子を用いた化学センサ装置の場合は、同量のバッファー溶液に対し、血清の滴下量、0.5、2μlにおいて図7の実線で示すような周波数シフトが観測され、大幅な検出感度の向上が確認された。
【0081】
発明を実施するための最良の形態の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求事項の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明に係る検出子および該検出子を用いた化学センサ装置によれば、従来の検出子および化学センサ装置に比べて、著しく検出感度を向上させることができる。このため、これまで検出できなかった微量な化学物質を計測することが可能となるため、化学品、医薬品、食品等の関連産業をはじめとした幅広い産業上の利用可能性がある。
図面
【図1(a)】
0
【図1(b)】
1
【図2(a)】
2
【図2(b)】
3
【図3(a)】
4
【図3(b)】
5
【図4(a)】
6
【図4(b)】
7
【図5(a)】
8
【図5(b)】
9
【図6】
10
【図7(a)】
11
【図7(b)】
12