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明細書 :不揮発性相変化磁性材料、その製造方法及びそれを用いた不揮発性相変化磁気メモリ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4423647号 (P4423647)
登録日 平成21年12月18日(2009.12.18)
発行日 平成22年3月3日(2010.3.3)
発明の名称または考案の名称 不揮発性相変化磁性材料、その製造方法及びそれを用いた不揮発性相変化磁気メモリ
国際特許分類 H01F  10/32        (2006.01)
H01F  41/18        (2006.01)
G11B  11/105       (2006.01)
FI H01F 10/32
H01F 41/18
G11B 11/105 506Z
請求項の数または発明の数 12
全頁数 15
出願番号 特願2006-532739 (P2006-532739)
出願日 平成17年8月30日(2005.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2005/015808
国際公開番号 WO2006/025413
国際公開日 平成18年3月9日(2006.3.9)
優先権出願番号 2004251051
優先日 平成16年8月30日(2004.8.30)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年2月19日(2007.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】▲高▼木 英典
【氏名】高山 知弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】田中 純一
参考文献・文献 特開平01-232550(JP,A)
特開2004-335623(JP,A)
特開昭48-073798(JP,A)
特開昭48-039516(JP,A)
特開平06-162563(JP,A)
特開2002-255698(JP,A)
調査した分野 H01F 1/00 - 1/117
H01F 1/40
H01F 10/00 - 10/32
H01F 41/14 - 41/34
G11B 11/00 - 13/08
特許請求の範囲 【請求項1】
組成式がAX(但し、Aは遷移金属元素、Xはカルコゲン元素、0<y<1)で表され、遷移金属原子のスピンが結晶c面内においては強磁性的に結合しc面間では反強磁性的に結合した磁気構造を有して結晶全体として強磁性的磁気特性を示し、且つ、上記遷移金属の空孔が存在するc面と該空孔が存在しないc面とが交互に積み重なる空孔分布の規則構造を有し、化学量論比組成より遷移金属が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶であって、
第1の温度履歴を印加することにより、上記空孔分布の規則構造が、全てのc面に空孔が不規則に分布する不規則構造に変化して、結晶全体として反強磁性的磁気特性を示すことを特徴とする、不揮発性相変化磁性材料。
【請求項4】
前記第1の温度履歴を印加した遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、第2の温度履歴を印加することにより、前記空孔分布の不規則構造が前記空孔分布の規則構造に戻り、結晶全体として強磁性的磁気特性を示すことを特徴とする、請求項1に記載の不揮発性相変化磁性材料。
【請求項5】
前記第1の温度履歴は、前記空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し、且つ、急冷する温度履歴であることを特徴とする、請求項4に記載の不揮発性相変化磁性材料。
【請求項6】
前記第2の温度履歴の一つは、前記空孔が拡散できると共に前記空孔分布の規則構造が維持される温度に加熱し、且つ、急冷又は徐冷する温度履歴であることを特徴とする、請求項4に記載の不揮発性相変化磁性材料。
【請求項7】
前記第2の温度履歴の他の一つは、前記空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し、且つ、徐冷する温度履歴であることを特徴とする、請求項4に記載の不揮発性相変化磁性材料。
【請求項8】
前記遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶の組成式は、FeS、但し、0.875<y<0.93で表されることを特徴とする、請求項1に記載の不揮発性相変化磁性材料。
【請求項9】
気相成長法、気相堆積法又はスパッタ法により、遷移金属とカルコゲン元素とを所定の割合で、所定の温度に加熱した基板上に堆積することにより、請求項1,4~8の何れかに記載の不揮発性相変化磁性材料を得ることを特徴とする、不揮発性相変化磁性材料の製造方法。
【請求項10】
遷移金属粉末とカルコゲン元素の粉末とを所定の割合で混合し、この混合粉末を所定の温度で加熱して焼結体を形成し、この焼結体を基板上に塗布することにより、請求項1,4~8の何れかに記載の不揮発性相変化磁性材料を得ることを特徴とする、不揮発性相変化磁性材料の製造方法。
【請求項11】
基板と、
この基板に搭載され、化学量論比組成より遷移金属が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶であり、組成式がAX(但し、Aは遷移金属元素、Xはカルコゲン元素、0<y<1)で表される膜と、からなり、
上記遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、遷移金属原子のスピンが結晶c面内においては強磁性的に結合しておりc面間では反強磁性的に結合しており、且つ、上記遷移金属の欠損である空孔が、該空孔が存在するc面と該空孔が存在しないc面とが交互に積み重なるように分布する規則構造を有して結晶全体として強磁性的磁気特性を示し、
上記遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、第1の温度履歴を印加することにより、上記空孔分布の規則構造が、空孔が全てのc面に不規則に分布する不規則構造に変化して結晶全体として反強磁性的磁気特性を示し、
上記第1の温度履歴を印加した遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、第2の温度履歴を印加することにより上記空孔分布の不規則構造が上記空孔分布の規則構造に戻って結晶全体として強磁性的磁気特性を示し、
上記第1の温度履歴は、上記空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し、且つ、急冷する温度履歴であり、
上記第2の温度履歴の一つは、上記空孔が拡散できると共に上記空孔分布の規則構造が維持される温度に加熱し、且つ、急冷又は徐冷する温度履歴であり、
上記第2の温度履歴の他の一つは、上記空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し、且つ徐冷する温度履歴であり、
上記膜の微小部分に上記第1の温度履歴を印加して微小部分の相を反強磁性相に、又は、上記第2の温度履歴のいずれか一つを印加して上記微小部分の相を強磁性相に形成し、上記反強磁性相又は強磁性相に基づく磁化を上記微小部分に記録された記録情報とすることを特徴とする、不揮発性相変化磁気メモリ。
【請求項12】
前記遷移金属カルコゲナイド化合物結晶の膜は、前記第2の温度履歴のいずれかを印加して形成した前記強磁性相膜であり、
この強磁性相膜の微小部分に、前記第1の温度履歴を生起するレーザー光パルスを照射して前記微小部分を反強磁性相に形成することにより磁化を消去して情報を書き込み、
前記膜の微小部分にレーザー光を照射して、前記微小部分の磁化に基づく前記レーザー光の反射光のカー効果又はファラデー効果を検知して情報を読みとり、または、前記微小部分の磁化を磁気抵抗効果により検知することで情報を読みとり、
前記膜の微小部分に前記第2の温度履歴の何れかを生起するレーザー光パルスを照射して前記微小部分を強磁性相に形成することにより磁化を発生させて記録した情報を消去することを特徴とする、請求項11に記載の不揮発性相変化磁気メモリ。
【請求項13】
前記遷移金属カルコゲナイドの膜は、前記第1の温度履歴を印加して形成した前記反強磁性相膜であり、
この反強磁性膜の微小部分に、前記第2の温度履歴の何れかを生起するレーザー光パルスを照射して、前記微小部分を強磁性相に形成することにより磁化を発生させて情報を書き込み、
前記膜の微小部分にレーザー光を照射して、前記微小部分の磁化に基づく前記レーザー光の反射光のカー効果又はファラデー効果を検知して情報を読みとり、または、前記微小部分の磁化を磁気抵抗効果により検知することで情報を読みとり、
前記膜の微小部分に前記第1の温度履歴を生起するレーザー光パルスを照射して前記微小部分を反強磁性相に形成することにより磁化を消去して、記録した情報を消去することを特徴とする、請求項11に記載の不揮発性相変化磁気メモリ。
【請求項14】
前記遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶の組成式は、FeS、但し、0.875<y<0.93で表されることを特徴とする、請求項11に記載の不揮発性相変化磁気メモリ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の現象に基づく不揮発性相変化磁性材料とその製造方法、並びにそれを用いた不揮発性相変化磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタル化技術の発展はめざましく、映画一本分に相当する映像信号をデジタル情報として一枚の光ディスクに記録できるようになった。このように膨大な量のデジタル情報を一枚の光ディスクに納めることが可能になった理由の一つとして、光ディスク記録媒体の進歩が挙げられる。光ディスクには、光磁気記録型と相変化型とがあるが、いずれも、希土類元素と遷移金属元素の化合物からなる相変態温度の低いアモルファス薄膜を使用することにより高密度高効率記録を可能にしたものである(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、希土類元素は埋蔵量が少なく高コストであると言う課題がある。また、アモルファス膜の組成が複雑であるため、長期間繰り返して書き込み消去を続けると、アモルファス膜の組成変動が生じて書き込み・消去ができなくなると言う課題がある。また磁化する際には、記録領域の物質全体の結晶構造を組み替えてアモルファス化する必要があり、そのための消費エネルギーが大きいと言う課題がある。
【0004】
また従来の、磁気テープやハードディスクへの磁気記録方法は、数個の磁性微粒子を記憶領域としたものであるので、磁性微粒子の大きさによって記録密度が制限される。磁性微粒子の微細化にも限界があり、記録密度を現状以上に向上することが困難である。
【0005】
また、記録密度向上への要求は留まるところを知らず、例えば近接場光技術を利用して、読み出し・書き込み用レーザー光の回折限界を超えて記録しようという試みも始まっている(非特許文献2参照)。しかしながら、記録密度を高めるためには、記録方式の改良のみでなく、その記録密度に耐えられる新たな動作原理に基づく材料の開発が必要不可欠である。
【0006】
さらに、不揮発性相変化磁性材料は、メモリ応用に限らず、例えば、磁気トナーをインクとする複写機の磁気潜像形成用材料として利用できる。例えば、不揮発性相変化磁性材料をドラム表面に塗布し、このドラム表面に、レーザービームを照射して不揮発性相変化により磁気潜像を形成し、この磁気潜像に磁気トナーを付着させて紙に印刷することにより複写ができる。従来は磁気記録用磁気潜像材料として強磁性体膜が使用され、強磁性体膜を磁気ヘッドで磁化して磁気潜像を形成しているが、磁性体微粒子の大きさによって記録密度が制限され、像の分解能が限界に近づいており、より高精細の像を記録できる、磁性材料が求められている。

【非特許文献1】原田益水 著 “新デジタル映像技術のすべて”電波新聞社発行2001年10月31日 第1刷 163頁
【非特許文献2】原田益水 著 “新デジタル映像技術のすべて”電波新聞社発行2001年10月31日 第1刷 166頁
【非特許文献3】Atsushi Okazaki.“The Superstructure of Iron Selenide Fe7 Se8 ” Journal of the Physical Society of Japan vol.16,No.6,p1162(1961)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の説明から理解されるように、例えば、現状の光ディスクやハードディスクよりも、コスト、寿命、消費エネルギー及び記録密度を向上でき、また、より高精細な磁気潜像が可能な、不揮発性相変化磁性材料、その製造方法、そしてそれを用いた不揮発性相変化磁気メモリが求められている。
本発明者らは、化学量論比組成より遷移金属が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶において、その物質に印加する温度履歴の種類によって可逆的に、その物質を強磁性体相にも反強磁性体相に形成できる現象を見出し、本発明に至った。
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは、例えば、現状の光ディスクやハードディスクよりも、コスト、寿命、消費エネルギー及び記録密度を向上でき、また、より高精細な磁気潜像が可能な不揮発性相変化磁性材料と、これを製造する方法並びにこの不揮発性相変化磁性材料を用いた不揮発性相変化磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の不揮発性相変化磁性材料は、化学量論比組成より遷移金属が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶であり、組成式がAy X(但し、Aは遷移金属元素、Xはカルコゲン元素、0<y<1)で表されることを特徴とする。
上記の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、遷移金属原子のスピンが結晶c面内においては強磁性的に結合しており、c面間では反強磁性的に結合しており、且つ、前記遷移金属の欠損である空孔が、該空孔が存在するc面と該空孔が存在しないc面とが交互に積み重なるように分布する規則構造を有し、結晶全体として強磁性的磁気特性を示す。
上記の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、第1の温度履歴を印加することにより、空孔分布の規則構造が、空孔が全てのc面に不規則に分布する不規則構造に変化して結晶全体として反強磁性的磁気特性を示す。
【0010】
上記の第1の温度履歴を印加した遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶は、第2の温度履歴を印加することにより、空孔分布の不規則構造が上記空孔分布の規則構造に戻って結晶全体として強磁性的磁気特性を示す。
【0011】
上記第1の温度履歴は、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し、且つ、急冷する温度履歴であればよい。
【0012】
上記第2の温度履歴の一つは、空孔が拡散できると共に空孔分布の規則構造が維持される温度に加熱し、且つ、急冷又は徐冷する温度履歴であればよい。上記第2の温度履歴の他の一つは、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し、且つ、徐冷する温度履歴であっても良い。
【0013】
上記遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶の組成式は、Fey S、但し、0.875<y<0.93で表される遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶であれば好ましい。
【0014】
本発明の不揮発性相変化磁性材料の製造方法は、気相成長法、気相堆積法又はスパッタ法により、遷移金属とカルコゲン元素とを所定の割合で、所定の温度に加熱した基板上に堆積することにより製造することを特徴とする。または、遷移金属粉末とカルコゲン元素の粉末とを所定の割合で混合し、この混合粉末を所定の温度で加熱して焼結体を形成し、この焼結体を基板上に塗布することにより製造することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の不揮発性相変化磁気メモリは 基板と、この基板に搭載され、上記化学量論比組成より遷移金属が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶からなる不揮発性相変化磁性材料の膜とから成ることを特徴とする。
【0016】
上記不揮発性相変化磁気メモリの一態様は、上記遷移金属カルコゲナイド化合物結晶の膜が、上記第2の温度履歴の何れかを印加して形成した上記強磁性相膜であり、この強磁性相膜の微小部分に、上記第1の温度履歴を生起するレーザー光パルスを照射して上記微小部分を反強磁性相に形成することにより磁化を消去して情報を書き込み、上記膜の微小部分にレーザー光を照射して、上記微小部分の磁化に基づく上記レーザー光の反射光のカー効果又はファラデー効果を検知して情報を読みとり、または、微小部分の磁化を磁気抵抗効果により検知することで情報を読みとり、上記膜の微小部分に上記第2の温度履歴の何れかを生起するレーザー光パルスを照射して上記微小部分を強磁性相に形成することにより磁化を発生させて記録した情報を消去することを特徴とする。
【0017】
また、上記不揮発性相変化磁気メモリの他の態様は、上記遷移金属カルコゲナイドの結晶からなる膜が、第1の温度履歴を印加して形成した反強磁性相膜であり、この反強磁性膜の微小部分に、上記第2の温度履歴の何れかを生起するレーザー光パルスを照射して、上記微小部分を強磁性相に形成することにより磁化を発生させて情報を書き込み、上記膜の微小部分にレーザー光を照射して、微小部分の磁化に基づくレーザー光の反射光のカー効果又はファラデー効果を検知して情報を読みとり、または、微小部分の磁化を磁気抵抗効果により検知することで情報を読みとり、上記膜の微小部分に第1の温度履歴を生起するレーザー光パルスを照射して微小部分を反強磁性相に形成することにより磁化を消去して記録した情報を消去することを特徴とする。
【0018】
上記遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶の組成式は、Fey S、但し、0.875<y<0.93で表される遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶の膜であれば好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のメモリによれば、光磁気ディスクのように希土類元素を必要としないので、低コストである。また、光磁気ディスクのアモルファス膜のように組成が複雑でないため寿命が長い。また、記録する際に、光磁気ディスクのアモルファス膜のように記録領域の物質全体の結晶構造を組み替えてアモルファス化する必要がなく、空孔の分布を変えるだけであるので、極めて低消費電力である。
また、本発明のメモリの磁化は、原子スケールでの空孔の配置状態に依存しており、原理的には基本格子程度の微小な領域でも書き込み・消去が可能であるので、従来より高密度な記録が可能となる。そして、従来の光磁気ディスクで必要であった磁場印加装置を必要としないので、装置構成が簡素になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の不揮発性相変化磁性材料の強磁性的特性及び反強磁性的特性を説明する概念図である。
【図2】本発明の不揮発性相変化磁性材料である単結晶Fe0.92Sに加えた温度履歴による磁化特性の変化を示す図である。
【図3】本発明の不揮発性相変化磁性材料である多結晶Fe0.92Sに加えた温度履歴による磁化特性の変化を示す図である。
【図4】本発明の不揮発性磁性材料の単結晶Fe0.92Sに加えた温度履歴による磁化特性の可逆性を示す図である。
【図5】本発明の不揮発性相変化磁性材料の結晶成長後、400℃に加熱し急冷後、及び、270℃に加熱し急冷後における磁化特性を示す図である。
【図6】本発明の不揮発性磁性材料の反強磁性相及び強磁性相の磁化の温度依存性を示す図である。
【図7】本発明の不揮発性相変化磁性材料である、組成式がFey Sで表される遷移金属カルコゲナイド化合物結晶の組成比yによる磁化特性の違いを示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 遷移金属カルコゲナイド
2 遷移金属(原子)
3 c面
4 空孔
5 欠陥層
6 充填層
7 空孔が不規則に配置した状態の遷移金属カルコゲナイド
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の不揮発性相変化磁性材料の強磁性的特性及び反強磁性的特性を説明する概念図である。図は、遷移金属カルコゲナイドの結晶構造のうち、NiAs型結晶構造の場合を示しており、●(黒丸)は遷移金属原子を示し、●に重ねて記載された矢印は遷移金属原子に局在する電子のスピンに基づく遷移金属原子のスピンを表し、○(白丸)は遷移金属原子の空孔を表す。平行四辺形の枠はc軸に垂直なc面を表す。
【0023】
遷移金属カルコゲナイド1は、遷移金属原子2のスピンが、結晶c面3内においては強磁性的に結合しており、c面3間では反強磁性的に結合している。そのため、結晶全体で考えると反強磁性を示す。遷移金属カルコゲナイド1は、遷移金属2が欠損しやすいという性質を有している。本発明では、遷移金属2が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイドを用いる。図1(a)は、遷移金属2が欠損した組成の遷移金属カルコゲナイド結晶を熱平衡条件に近い条件で成長した場合の構造を示している。遷移金属の欠損量がごくわずかな場合においては遷移金属の空孔は不規則に配置するが、ある臨界組成を境として、遷移金属欠損量が多い組成においては、その遷移金属原子2の位置に生じた空孔4が規則的な配列を形成するということが知られている(非特許文献3参照)。この空孔の規則的配列は空孔4がc面一層置きに占拠するというものであり、空孔4が存在する欠陥層5と空孔が存在しない充填層6とがc軸方向に交互に積み重なるものである。すなわち磁気構造的に見れば、欠陥層5と充填層6とを反強磁性磁気副格子として、空孔4は反強磁性磁気副格子の片一方のみに存在することになる。この空孔4の配列状態においては、二つの反強磁性副格子5,6の自発磁化の大きさが異なるので、自発磁化を示すようになる。
【0024】
また、このような空孔の配列状態は、温度履歴により制御することができる。すなわち、図1(a)に示した、空孔4が存在する欠陥層5と空孔が存在しない充填層6とがc軸方向に交互に積み重なった遷移金属カルコゲナイド1を、空孔4の配列が不規則になる温度に加熱し、この温度から急冷することによって、図1(b)に示すように、空孔4が不規則に配置した状態の遷移金属カルコゲナイド7が得られる。空孔4がランダムに配置した状態では、二つの磁気副格子5,6の自発磁化の大きさが等しくなるため、反強磁性を示し、結晶全体としても自発磁化は生じない。したがって、遷移金属カルコゲナイドにおいて、空孔の配列状態を温度履歴によって制御することによって、磁性の異なる二つの相を作り分けることができる。
【0025】
本発明のメモリは上記の遷移金属カルコゲナイドを基板上に膜として搭載したことを特徴としており、以下に説明する2つの動作モードが可能である。
【0026】
第1の動作モードは、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し且つ徐冷して、あるいは、空孔が拡散できると共に空孔分布の規則構造が維持される温度に加熱し、急冷または徐冷して強磁性相とした膜を使用するものであり、書き込み動作は、強磁性相とした膜に、例えば、従来の光磁気ディスク等で用いられているように、単発のレーザー光パルスを膜の微小部分に照射して、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し且つ急冷することにより、微小部分を反強磁性相に相変化させることにより自発磁化を消去して情報を書き込む。
読み出し動作は、例えば、従来の光磁気ディスク等で用いられているように、膜の微小部分に読みとり用レーザー光を照射して、微小部分の磁化に基づく反射光のカー効果又はファラデー効果を検知することによって情報を読みとる、または、微小部分の磁化を磁気抵抗効果により検知することで情報を読みとる。
また、記録された情報を消去するには、例えば、従来の光磁気ディスク等で用いられているように、膜の微小部分にレーザー光パルスを照射して、空孔が拡散できると共に空孔分布の規則構造が維持される温度に加熱し急冷するか、あるいは、複数のレーザー光パルスを時系列的に照射して、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱すると共に徐冷することにより、微小部分を強磁性相に相変化させることにより自発磁化を発生させて、記録した情報を消去する。
【0027】
第2の動作モードは、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱すると共に急冷することにより、反強磁性相とした膜を用いるものであり、書き込み動作は、反強磁性相とした膜に、例えば、従来の光磁気ディスク等で用いられているように、レーザー光パルスを膜の微小部分に照射することにより、空孔が拡散できる温度に加熱し急冷または徐冷することにより、あるいは、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱し且つ徐冷することにより、微小部分を強磁性相とすることで自発磁化を発生させて情報を書き込む。
読み出し動作は、例えば、従来の光磁気ディスク等で用いられているように、膜の微小部分に読みとり用レーザー光を照射して、微小部分の磁化に基づく反射光のカー効果又はファラデー効果を検知することによって情報を読みとるか、または、微小部分の磁化を磁気抵抗効果により検知することで情報を読みとる。
記録された情報を消去するには、単発のレーザー光パルスを膜の微小部分に照射して、空孔分布の規則構造が消失する温度に加熱すると共に急冷することで、微小部分を反強磁性相とすることにより自発磁化を消去し情報を消去する。
【0028】
上記の遷移金属カルコゲナイドは、従来から知られているCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相成長法、電子ビーム蒸着やレーザーアブレーション法等の気相堆積法又はスパッタ法により、遷移金属とカルコゲン元素とを所定の割合で、所定の温度に加熱した基板上に堆積することにより製造できる。
また、遷移金属粉末とカルコゲン元素の粉末とを所定の割合で混合し、この混合粉末を所定の温度で加熱して焼結体を形成し、この焼結体を粉末にして適切な溶媒と共に基板上に塗布することによっても製造できる。
【0029】
本発明の不揮発性相変化磁気メモリによれば、光磁気ディスクのように希土類元素を必要としないので、低コストである。また、光磁気ディスクのアモルファス膜のように組成が複雑でないため寿命が長い。また、記録する際に、光磁気ディスクのアモルファス膜のように記録領域の物質全体の結晶構造を組み替えてアモルファス化する必要がなく、空孔の分布を変えるだけであって構造変化を必要としないので、極めて低消費電力である。また、遷移金属カルコゲナイドの磁化は、原子スケールでの空孔の配置状態に依存しており、原理的には基本格子程度の微小な領域でも書き込み・消去が可能であるので、従来より高密度な記録が可能となる。また、モード1及び2の動作モードによれば、磁場を必要としないので、装置構成が極めて簡素になる。
【実施例1】
【0030】
次に、実施例を示す。
遷移金属カルコゲナイドとして単結晶Fey Sを用いた。単結晶Fey Sは、化学気相輸送反応法により作製した。原料多結晶試料および輸送剤(FeI2 )を石英管に真空封入し、石英管の両端に温度差がつくよう設計された電気炉中で育成した。石英管の一端に原料試料を置き、そちらを原料側とし、石英管のもう一端を結晶育成側としている。原料側を700℃、結晶育成側を600℃に保つと、原料側で原料試料と輸送剤が反応して生じた気相が結晶育成側に移動し、そこで再び原料試料の組成を持った結晶と輸送剤に分解されることによって結晶が育成される。
【0031】
図2は、本発明の不揮発性相変化磁性材料である単結晶Fe0.92Sに加えた温度履歴による磁化特性の変化を示す図である。図2(a)は温度履歴を示す図であり、横軸は時間、縦軸は試料の温度を示す。図において、600℃と表示した、時間0から水平に伸びた直線は試料の結晶育成時に対応し、引き続く負の勾配の直線は結晶育成完了後の試料の室温への徐冷を示し、引き続く時間軸上の(1)で表した直線は徐冷完了後の室温における試料を示し、引き続く垂直な直線及び400℃と表示した直線は空孔の配列が不規則になる温度への試料の加熱を示し、引き続く垂直な直線は試料の空孔の配列が不規則になる温度から室温への急冷を示し、さらに、引き続く時間軸上の(2)で表した直線は急冷完了後の室温における試料を示す。なお、徐冷速度は600℃から室温まで5時間の徐冷速度で行った。
【0032】
図2(b)は徐冷後の試料(1)と急冷後の試料(2)の磁化特性を示すもので、横軸は磁場強度、縦軸は磁化を示す。図2(c)は印加磁場強度0近傍の磁化特性を拡大して示す図である。なお、印加磁場方向はc面内の方向であり、測定は全て室温(300K)で行った。図から、(1)の試料と比較すると、(2)の試料は小さい磁化を示している様子がわかる。ここで注目すべきことは、(1)の試料では磁化曲線にヒステリシスが見られ、ゼロ磁場下においても有限の自発磁化を有しているのに対し、(2)の試料においてはヒステリシスは見られず、ゼロ磁場下においては磁化がゼロとなるということである。このことから、温度履歴により自発磁化を示す相と示さない相を作り分けることができるということがわかる。
【0033】
次に、多結晶遷移金属カルコゲナイドの場合について実施例を示す。
遷移金属カルコゲナイドとして多結晶Fe0.92Sを用いた。Fe粉末とS粉末を所定の成分比で混合し、石英管に真空封入して900℃に加熱して焼結体を得た。
図3は、本発明の不揮発性磁性材料である多結晶Fe0.92Sに加えた温度履歴による磁化特性の変化を示す図である。図3(a)は温度履歴を示す図で、横軸は時間、縦軸は試料の温度を示す。図において、900℃と表示した、時間0から水平に伸びた直線は焼結体形成(試料合成)時に対応し、引き続く負の勾配の直線は焼結体形成後の焼結体の室温への徐冷を示し、引き続く時間軸上の(1)で表した直線は徐冷完了後の室温における試料を示し、引き続く垂直な直線及び400℃と表示した直線は空孔の配列が不規則になる温度への試料の加熱を示し、引き続く垂直な直線は試料の空孔の配列が不規則になる温度から室温への急冷を示し、また、引き続く時間軸上の(2)で表した直線は急冷完了後の室温における試料を示す。なお、徐冷は900℃から室温まで10時間かけて行った。
【0034】
図3(b)は徐冷後の試料(1)と急冷後の試料(2)の磁化特性を示す図であり、横軸は磁場強度、縦軸は磁化を示す。図3(c)は印加磁場強度0近傍の磁化特性を拡大して示した図である。なお、測定は全て室温(300K)で行った。
図3から、図2と同様に、(1)の試料と比較すると、(2)の試料は小さい磁化を示している様子がわかる。ここで注目すべきことは、(1)の試料では磁化曲線にヒステリシスが見られ、ゼロ磁場下においても有限の自発磁化を有しているのに対し、(2)の試料においてはヒステリシスは見られず、ゼロ磁場下においては磁化がゼロとなるということである。このことから、温度履歴により自発磁化を示す相と示さない相を作り分けることができるということがわかる。
なお、図3(b),(c)において、(2)の試料においてもわずかなヒステリシスが見られるが、これは多結晶試料におけるわずかな組成のばらつきに起因したものであると考えられる。ただし、急冷した試料のゼロ磁場下での磁化の値は徐冷した試料のものと比べると、非常に小さく、温度履歴による相の制御はできていることがわかる。
【0035】
次に、空孔の配列状態による磁気的性質の違いが可逆的に制御できる、すなわち、強磁性相と反強磁性相とを可逆的に作り分けることができることを実証する実施例を示す。試料は、単結晶のFe0.92Sを用いた。
図4は、本発明の不揮発性磁性材料の単結晶Fe0.92Sに加えた温度履歴による磁化特性の可逆性を示す図である。図4(a)は温度履歴を示し、横軸は時間を、縦軸は試料の温度を示す。図において、600℃と表示した、時間0から水平に伸びた直線は試料の結晶育成時に対応し、引き続く負の勾配の直線は結晶育成完了後の試料の室温への1回目の徐冷を示し、引き続く時間軸上の(1)で表した直線は徐冷完了後の室温における試料を示し、引き続く垂直な直線及び400℃と表示した直線は空孔の配列が不規則になる温度への1回目の試料の加熱を示し、引き続く垂直な直線は試料の空孔の配列が不規則になる温度から室温への急冷を示し、引き続く時間軸上の(2)で表した直線は急冷完了後の室温における試料を示し、引き続く垂直な直線及び400℃と表示した直線は空孔の配列が不規則になる温度への2回目の試料の加熱を示し、引き続く負の勾配の直線は空孔の配列が不規則になる温度から室温への2回目の徐冷を示し、さらに、引き続く時間軸上の(3)で表した直線は2回目の徐冷完了後の室温における試料を示す。なお、結晶育成完了後の試料の室温への徐冷は図2の場合と同様であり、2回目の徐冷は400℃から室温まで3時間の徐冷速度で行った。
【0036】
図4(b)は1回目の徐冷後の試料(1)と1回目の加熱・急冷後の試料(2)と2回目の加熱・徐冷後の試料(3)の磁化特性を示すもので、横軸は磁場強度、縦軸は磁化を示す。なお、印加磁場方向はc面内の一方向であり、測定は全て室温(300K)で行った。
図4(b)において、1回目の徐冷後の試料(1)と1回目の加熱・急冷後の試料(2)との間の磁化曲線に違いが見られるのは、図2と同様であり、これに加えて、2回目の加熱・徐冷後の試料(3)の磁気曲線が1回目の徐冷後の試料(1)の磁化曲線とほぼ一致することが見られる。すなわち、一度急冷し空孔の配列状態を不規則にした試料においても、それを加熱することによって、もとの配列状態に再現できるということが確認できる。すなわち、強磁性相と反強磁性相とを可逆的に作り分けることができることがわかる。
【実施例2】
【0037】
上記実施例では、図4で説明したように、400℃から徐冷することで、反強磁性相を強磁性相に戻したが、下記の実施例で示すように、270℃に加熱し急冷する温度履歴によっても、反強磁性相を強磁性相に戻すことができる。この温度履歴を用いれば、メモリの書き込み、消去を極めて高速に行うことができる。実施例1と同じ方法により、400℃から徐冷してFe0.92Sの強磁性相の単結晶試料と、900℃から徐冷してFe0.92Sの強磁性相の多結晶試料を試料を作製した。これらの試料の磁化特性を、結晶成長後、400℃に加熱し急冷後について、及び、270℃に加熱し急冷後について測定した。
図5は、本発明の不揮発性相変化磁性材料の結晶成長後、400℃に加熱し急冷後における磁化特性、及び、270℃に加熱し急冷後における磁化特性を示す図であり、(a)は単結晶試料、(b)は多結晶試料を示す。図5(a),(b)において、(1)は結晶成長後の磁化特性を示し、(2)は結晶成長後の試料を400℃に加熱し急冷した後の磁化特性を示し、(3)は400℃に加熱し急冷した試料を270℃に加熱し急冷した後の磁化特性を示す。
図5(a),(b)から、結晶成長後の試料は、単結晶、多結晶を問わず、ヒステリシスを有する強磁性的磁化特性を示し、400℃に加熱し急冷した後は反強磁性的磁化特性を示し、さらに、270℃に加熱し急冷すると元のヒステリシスを有する強磁性的磁化特性に戻ることがわかる。
従って、強磁性相から反強磁性相、及び、反強磁性相から強磁性相への相変化は、いずれも所定の温度に加熱し、急冷すれば実現できることがわかる。
【実施例3】
【0038】
次に、反強磁性相から強磁性相への相変化のメカニズムについて説明する。
Fe0.92Sの単結晶試料を400℃に加熱し急冷し反強磁性相とし、この反強磁性相とした試料を室温から400℃まで連続して加熱し、磁化の温度依存性を測定した。また、この試料を400℃に加熱して徐冷して強磁性相とし、この強磁性相とした試料を室温から400℃まで連続して加熱して、磁化の温度依存性を測定した。なお、測定時の印加磁場はc面内の方向に100ガウスである。
【0039】
図6は、本発明の不揮発性磁性材料の反強磁性相、及び、強磁性相の磁化の温度依存性を示す図である。なお、図6(b)は、(a)における、約270℃(540K)付近の反強磁性相の磁化の変化を拡大して示す図である。
図6(a)から、反強磁性相及び強磁性相の磁化は、約300℃(580K)で急峻にほぼ零になり、約300℃(570K)から400℃(673K)の温度領域において磁化がほぼ零であることがわかる。また、図6(b)から、反強磁性相の磁化は、約230℃(500K)付近から次第に増大し、約270℃(540K)付近で最大になることがわかる。
【0040】
約300℃(570K)以上の温度領域で、反強磁性相、強磁性相とも磁化がほぼ零になることは、この温度以上では、遷移金属原子のスピンの結晶c面内における強磁性的結合が消失することを意味している。
また、図6(b)において、反強磁性相の磁化が、270℃(543K)付近で最大値を有することは、この温度の近傍で空孔が拡散できるようになることを示している。
また、270℃に加熱し急冷した場合に、反強磁性相から強磁性相に戻る事実は、270℃近傍の温度範囲においては、空孔が規則配列する方が空孔の配列の自由エネルギーが小さいことを意味している。すなわち、空孔が規則配列するか不規則配列するかは、空孔分布の自由エネルギーによって決まり、空孔の配列のエントロピーは、不規則配列の方が規則配列よりも大きいが、遷移金属原子間の電子軌道の重なりによる斥力、スピン間の斥力、或いは空孔の有する電荷に基づくクーロン斥力等のおおきな斥力のために、空孔が互いに離れて、すなわち、c面の一層おきに空孔が分布する規則配列の方が内部エネルギーが極めて小さく、その結果、空孔が規則配列する方が、空孔分布の自由エネルギーは小さくなると考えられる。
従って、空孔が不規則配列した反強磁性相を約270℃の温度に加熱することにより、空孔が拡散して再配列し、より安定な状態である空孔の規則配列が実現し、強磁性相となると考えられる。したがって、約270℃に加熱し急冷することで、反強磁性相から強磁性相へ戻すことができる。
【0041】
一方、400℃の温度においては、空孔分布の自由エネルギーは、エントロピー項が内部エネルギー項よりも支配的になり、よりエントロピーの大きい不規則配列が実現されると考えられる。従って、400℃の温度は、遷移金属原子のスピンの結晶c面内における強磁性的結合が消失するだけでなく空孔分布の規則構造も消失する温度に相当すると考えられる。なお、上記測定は、単結晶試料についての測定であるが、多結晶試料についても同様であった。
【実施例4】
【0042】
次に、本発明の遷移金属カルコゲナイド化合物の結晶の組成式が、Fey Sである場合の組成比yの範囲について説明する。
実施例1と同じ方法で、Fe0.875 S、Fe0.92S及びFe0.93Sの組成比yが異なる3つの試料を作成して磁化特性を測定し、さらに、これらの試料に400℃に加熱し急冷する温度履歴を加えた後の磁化特性を測定した。
図7は、本発明の不揮発性相変化磁性材料である、組成式がFey Sで表される遷移金属カルコゲナイド化合物結晶の組成比yによる磁化特性の違いを示す図であり、図7(a)は結晶成長後の磁化特性を示し、(1)はFe0.875 S、(2)はFe0.92S、及び(3)はFe0.93Sの磁化特性を示す。なお、Fe0.93Sの磁化特性は見やすくするため縦軸の値を100倍して示している。
図7(b)は、400℃に加熱し急冷する温度履歴を加えた後のこれらの試料の磁化特性を示し、(1)はFe0.875 S、(2)はFe0.92Sの磁化特性を示す。なお、(1)0 及び(2)0 はそれぞれ、400℃に加熱し急冷する温度履歴を加える前の磁化特性であり、温度履歴による変化を明らかにするために記載している。
図7(a)から、Fe0.875 S、及び、Fe0.92Sは、強磁性特性を示すが、Fe0.93Sは反強磁性特性を示すことがわかる。この結果から、組成比yは、0.93より小さいことが必要なことがわかる。
図7(b)から、Fe0.92Sは、400℃に加熱し急冷する温度履歴によって、強磁性相から反強磁性相に変化することがわかるが、Fe0.875 Sはこの温度履歴によって全く変化しないことがわかる。
以上の測定結果から、本発明の組成式がFey Sである遷移金属カルコゲナイド化合物結晶の組成比yの範囲は、0.875<y<0.93であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の不揮発性相変化磁性材料を、例えば、磁気メモリに使用すれば、従来の光磁気ディスクと比べて、希土類元素を必要としないので低コストであること、アモルファス膜のように組成が複雑でないため寿命が長いこと、記録する際に光磁気ディスクのアモルファス膜のように記録領域の物質全体の結晶構造を組み替えてアモルファス化する必要がなく、空孔の分布を変えるだけであるので低消費電力であること、遷移金属カルコゲナイドの磁化は、原子スケールでの空孔の配置状態に依存しており、原理的には基本格子程度の微小な領域でも書き込み・消去が可能であるので、従来より高密度な記録が可能となること、また、磁場印加装置を必要としないので装置構成が簡素になること、という特徴を有しているので、記録容量向上への要求が留まるところを知らない情報産業分野の次世代のメモリとして利用すれば極めて有用である。
図面
【図1】
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【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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