TOP > 国内特許検索 > 熱電変換材料及び熱電変換材料の製造方法 > 明細書

明細書 :熱電変換材料及び熱電変換材料の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4762911号 (P4762911)
登録日 平成23年6月17日(2011.6.17)
発行日 平成23年8月31日(2011.8.31)
発明の名称または考案の名称 熱電変換材料及び熱電変換材料の製造方法
国際特許分類 H01L  35/22        (2006.01)
H01L  35/34        (2006.01)
FI H01L 35/22
H01L 35/34
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2006-545060 (P2006-545060)
出願日 平成17年11月15日(2005.11.15)
国際出願番号 PCT/JP2005/020939
国際公開番号 WO2006/054550
国際公開日 平成18年5月26日(2006.5.26)
優先権出願番号 2004331756
優先日 平成16年11月16日(2004.11.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年3月26日(2007.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】太田 裕道
【氏名】河本 邦仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100095577、【弁理士】、【氏名又は名称】小西 富雅
【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】粟野 正明
参考文献・文献 特開2004-193200(JP,A)
特開平09-107129(JP,A)
特開平09-107130(JP,A)
特開平08-222775(JP,A)
特開2003-257709(JP,A)
DRESSELHAUS M. S. et al,Low Dimensional Thermoelectrics,Proceedings of 16th International Conference on Thermoelectrics,1997年,pp.12-20
調査した分野 H01L 35/22
H01L 35/34
特許請求の範囲 【請求項1】
第1の誘電体材料層と、
第2の誘電体材料層と、
前記第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との間に存在する厚さが1nm以下であって、1×1020cm-3以上のキャリア電子密度を有する電子局在層と、
を備え、
前記第1の誘電体材料層はTiを含むペロブスカイト型酸化物からなり、前記第1の誘電体材料層と前記第2の誘電体材料層との界面で酸素欠損が生じて電子を生じさせ、この電子は当該界面及びその近傍のTi原子層に局在して前記電子局在層を形成する熱電変換材料。
【請求項2】
前記電子局在層の電子密度は前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より10倍以上大きいこと、を特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記電子局在層の電子密度は前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より100倍以上大きいこと、を特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
第1の誘電体材料層と、
第2の誘電体材料層と、
前記第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との間に存在する厚さが1nm以下であって、1×1020cm-3以上のキャリア電子密度を有する電子局在層と、
を備え、
前記第1の誘電体材料層は組成式がATiO3(ここでAはCa、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種)で表されるTi含有ペロブスカイト型酸化物であり、前記第2の誘電体材料層はBO2 (ここでBはTi、Zr、Hfの群から選ばれる少なくとも一種)若しくは組成式がABO3 (ここでAはCa、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種、BはTi、Zr、Hfの群から選ばれる少なくとも一種)からなる、熱電変換材料。
【請求項5】
前記電子局在層の電子密度は前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より10倍以上大きいこと、を特徴とする請求項4に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
前記電子局在層の電子密度は前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より100倍以上大きいこと、を特徴とする請求項4に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
第1の誘電体材料層と、
第2の誘電体材料層と、
前記第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との間に存在し、厚さが1nm以下であり、キャリア電子密度が前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より10倍以上大きい電子局在層と、
を備え、
前記第1の誘電体材料層はTiを含むペロブスカイト型酸化物からなり、前記第1の誘電体材料層と前記第2の誘電体材料層との界面で酸素欠損が生じて電子を生じさせ、この電子は当該界面及びその近傍のTi原子層に局在して前記電子局在層を形成する熱電変換材料。
【請求項8】
前記電子局在層の電子密度は前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より100倍以上大きいこと、を特徴とする請求項7に記載の熱電変換材料。
【請求項9】
第1の誘電体材料層と、
第2の誘電体材料層と、
前記第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との間に存在し、厚さが1nm以下であり、キャリア電子密度が前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より10倍以上大きい電子局在層と、
を備え、
前記第1の誘電体材料層は組成式がATiO3(ここでAはCa、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種)で表されるTi含有ペロブスカイト型酸化物であり、前記第2の誘電体材料層はBO2 (ここでBはTi、Zr、Hfの群から選ばれる少なくとも一種)若しくは組成式がABO3 (ここでAはCa、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種、BはTi、Zr、Hfの群から選ばれる少なくとも一種)からなる、熱電変換材料。
【請求項10】
前記電子局在層の電子密度は前記第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度より100倍以上大きいこと、を特徴とする請求項9に記載の熱電変換材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料に係わり、特に酸化物半導体系の熱電変換材料、及び、当該熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する意識が高まってきており、二酸化炭素排出量を削減するために、未利用廃熱エネルギーを使った発電システムを提供する、ゼーベック(Seebeck)効果を利用した熱電変換素子に対する関心が高まっている。熱電変換素子の駆動原理を模式的に図1に示した。
図1に示される熱電変換素子の場合、p型半導体とn型半導体を金属で接合し、接合部を加熱、非接合部を冷却する。これにより、半導体のゼーベック効果(温度差を与えたときの試料両端におけるフェルミレベルのエネルギー差に相当する起電力が生じる)を生じ、電池となる。
このような熱電変換素子は、人口衛星の補助電源として実用化されたものであるが、例えば地熱、工場の排熱、太陽熱、化石燃料等の燃焼熱から電力を得ることができるので、エネルギーの有効利用が有望視されている。しかし、毒性の強い重金属元素から構成される金属間化合物半導体材料を用いているため、高温でも安定な材料の開発が行われているものの、開発情況が未だ実験室レベルの域を出ていない。
【0003】
熱電変換材料における半導体試験片両端に温度差をつけると、温度差に比例した熱起電力が発生する現象(ゼーベック(Seebeck)効果とよばれる現象)において、その比例係数(温度差1℃あたりの熱起電力)はゼーベック係数と呼ばれる。熱電変換材料の性能は、一般に無次元性能指数ZTを用いて評価される。絶対温度Tにおける熱電変換材料の起電力を示すゼーベック係数をS、導電率をσ、熱伝導率をκとした時、無次元性能指数ZT = T (S2σ/κ)で示される。ZTの値が高いほど熱電変換材料としての特性が優れる。
【0004】
熱電変換素子は、一般にp型、n型の熱電変換材料を金属で接合した熱電対を一対とし、所望の電圧を得るために熱電対を直列接続したモジュールとして用いる。このような熱電変換素子に用いるp型、n型の熱電変換材料は、変換効率の高さから、Bi2Te3系金属間化合物単結晶または多結晶を使用したものが多い。Bi2Te3は室温付近の温度域では最高の熱電変換性能(ZT = 1)を示すことが知られているが、変換効率が低く、体温と外気温度の差を利用した腕時計などに一部実用化されたに過ぎない。
【0005】
1993年に米国マサチューセッツ工科大学のDresselhausらの研究グループから半導体超格子を作製することにより、熱電変換性能が飛躍的に向上することが理論的に予測され(非特許文献1)、実験的に一部証明された(非特許文献2)。理論の詳細は、量子井戸(井戸幅1 nm程度)にキャリアを閉じ込めることにより状態密度が増加するため、井戸幅に反比例してゼーベック係数の平方が増加するというものである。具体的には、井戸幅が10 nm以上であればゼーベック係数はバルク体とほぼ同程度、1 nmであればゼーベック係数はバルク体の約2倍、0.1 nmであればゼーベック係数はバルク体の約8倍になる。

【非特許文献1】L. D. Hicks and M. S. Dresselhaus, Phys. Rev. B47, 12727 (1993).)
【非特許文献2】M. S. Dresselhaus et al., Proceedings of the 16th International Conference on Thermoelectrics, 12 (1997).
【0006】
量子井戸は一般に半導体薄膜成長プロセスである、分子線エピタキシー(MBE)法やCVD法によって作製されるが、1 nm以下の量子井戸幅の制御は極めて困難であるため、実現できるゼーベック係数の絶対値はバルク材料の2倍程度にとどまっていた。
本発明に関連する文献として、特許文献1~4を開示する。

【特許文献1】特開平8-222775号公報
【特許文献2】特開平231223号公報
【特許文献3】特開2003-257709号公報
【特許文献4】特開2004-363576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、量子井戸を利用することにより熱電変換性能を飛躍的に向上させることができるが、量子井戸幅を1 nm以下にすることができないため、ゼーベック係数の増加が2倍程度にとどまっていた。
【0008】
そこで本発明は、例えば1 nm以下の井戸幅を有する量子井戸を用いることによりバルク体の3倍以上のゼーベック係数を示す高性能熱電変換材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、第1の誘電体材料層と、第2の誘電体材料層と、前記第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との間に存在する厚さ1nm以下であって、1×1020cm-3以上のキャリア電子密度を有する電子局在層とを備える。
ここで、第1の誘電体材料層及び第2の誘電体材料層とは、誘電率が例えば5以上1万以下の材料からなる層をいう。第1の誘電体材料層は、例えば酸素欠損が生じやすい絶縁性基板(第1の誘電体層)、具体的にはTiを含むペロブスカイト型酸化物からなるのが好ましい。
第2の誘電体材料層は、例えばパルスレーザー蒸着法などの非平衡薄膜製造プロセスにより成長された薄膜(第2の誘電体層)からなり、第2の誘電体材料層の形成時に第1の誘電体材料層から酸素原子を引き抜く特性を有するのがこのましい。
電子局在層は、電子が局在する層をいい、キャリアの量子閉じ込め効果が発揮されることで、厚さが1nm以下であって、1×1020cm-3以上のキャリア電子密度を有する層をいう。電子局在層は少なくとも原子一層分の厚さ、例えば0.04nm以上であることが好ましい。
ここで、電子局在層の厚さを1nm以下とした理由は、当該層の厚さが1nm以下の場合、量子閉じ込め効果によって、伝導帯の状態密度の増加により、ゼーベック係数がエンハンスされるからである。一方、電子局在層の厚さが1nm以上の場合、状態密度が、バルクの状態の電子密度と同等となるためゼーベック係数はエンハンスされない。その結果、当該層の厚さが1nm以上の場合、熱電変換性能の向上は見込めないことになる。また、キャリア電子密度が1×1020cm-3以上とした理由は以下の通りである。導電率は熱電変換材料の内部抵抗に相当し、可能な限り内部抵抗を下げる(すなわち導電率を高める)必要がある。ここで導電率は、「キャリア電子密度」と「キャリア移動度」と「素電荷」との掛算の合算値で表現される。「素電荷」は一定で、また、「キャリア移動度」はキャリア密度が変化してもほぼ一定であるため、導電率を高めるためには「キャリア電子密度」を高めなければならない。「キャリア電子密度」が1×1020 cm-3以下になると導電率が下がりすぎる(内部抵抗が大きすぎる)ため、熱電変換性能が悪くなる。よって「キャリア電子密度」は、1×1020cm-3以上であることが必要である。より好ましくは、「キャリア電子密度」は1×1021cm-3以上である。
かかる電子局在層のキャリア電子密度は第1及び第2の誘電体材料層のキャリア電子密度の10倍以上であり、更に好ましくは100倍以上である。
この発明では、キャリア電子密度分布の半値幅の密度をもって当該各層のキャリア電子密度とする。なお、第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との界面からなる電子局在層は、第1の誘電体材料層へ第2の誘電体材料層を形成するときに形成されるものであり、別個独立に形成されるものではない。しかし、熱電変換材料におけるキャリア密度プロファイルをみると(図4参照)、明らかに電子局在層は第1及び第2の誘電体材料層とは異なるキャリア電子密度分布を呈している。従って、当該電子局在層のキャリア電子密度は第1及び第2の誘電体材料層において界面以外の部分のキャリア電子密度に比べて10倍以上(好ましくは100倍以上)大きなものとなる。なお、第1及び第2の誘電体材料層における界面以外の部分のキャリア電子密度は、界面が非常の薄いので、それぞれ第1の誘電体材料層の平均キャリア電子密度及び第2の誘電体材料層の平均キャリア電子密度で近似することができる。
上記のように構成することで、少なくともバルク体の3倍以上のゼーベック係数を示す高性能の熱電変換材料を提供することができる。
また、第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層(第1の誘電体層と第2の誘電体層)との組み合わせの好適な実施例として、後述する表1の実施例1の組み合わせ、または、実施例2の組み合わせを挙げることができる。
以下、具体的な技術的内容について説明すると、酸化物には3 eV以上の大きなバンドギャップを有する材料が数多く知られている。バンドギャップの小さい半導体Si (バンドギャップ1.1 eV)などとは異なり、MgOやAl2O3のように完全に化学量論組成の材料は電子伝導性をほとんど示さず、絶縁体となる。また、CaTiO3、BaTiO3、SrTiO3などのTiを含むペロブスカイト型酸化物は、通常はキャリア濃度が1013 cm-3以下の絶縁体となるが、還元処理などにより容易に酸素欠損が生成し、半導体となることが知られている。
【0010】
また、これらTi含有ペロブスカイト型酸化物はベルヌーイ法などの手法により容易に大型単結晶が作製できることから、エピタキシャル薄膜、特に高温超伝導体薄膜製造用の基板材料として応用されていた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は熱電変換材料の動作原理を示す概念図である。
【図2】図2はTiO2薄膜(56 nm) / SrTiO3単結晶基板(実施例1)とTiO2薄膜(70 nm)/ LaAlO3単結晶基板(比較例1)のHall移動度の温度依存性を示すグラフである。
【図3】図3はTiO2薄膜(56 nm) / SrTiO3単結晶基板(実施例1)とTiO2薄膜(70 nm)/ LaAlO3単結晶基板(比較例1)のシートキャリア濃度の温度依存性を示すグラフである。
【図4】図4aはTiO2薄膜(56 nm) / SrTiO3単結晶基板(実施例1)とTiO2薄膜(126 nm)/ LaAlO3単結晶基板(比較例1-1)のキャリア濃度の深さ方向プロファイルを示し、図4bはその模式図を示す。
【図5】図5aはTiO2薄膜(56 nm) / SrTiO3単結晶基板(実施例1)、これから薄膜を剥離したSrTiO3単結晶基板、及びTiO2薄膜(70 nm) / LaAlO3単結晶基板(比較例1)のゼーベック係数の温度依存性を示すグラフであり、図5b同じくシート伝導度の温度依存性を示すグラフである。

【0012】
本発明を具体化したポイントは下記の通りである。Ti含有ペロブスカイト型酸化物単結晶を基板として、パルスレーザー蒸着法などの非平衡薄膜製造プロセスにより、高誘電率材料を薄膜成長させることにより、基板表面で酸素の引き抜き反応が起こり、キャリア電子が生成する。こうして生成したキャリア電子は、絶縁体(誘電体)である基板と同じく誘電体材料からなる薄膜界面近傍に閉じ込められる。閉じ込められたキャリア電子は界面近傍の数層のTi原子層に局在化するため、半導体量子井戸では実現困難な井戸幅の量子井戸ができる。このとき、生成するキャリア濃度は1021 cm-3オーダーであり、バルク体であればゼーベック係数が0.15 mVK-1程度となるが、実際には0.1 nm程度の量子井戸に閉じ込められるため、8倍大きなゼーベック係数(1.2 mVK-1)を示す。また、導電率は1021 cm-3のキャリア濃度と5 cm2V-1s-1の移動度から、約1000 Scm-1の高い導電性が保たれるのである。すなわち熱電変換材料として理想的な大電圧・低内部抵抗を実現できる。
【0013】
生成したキャリア電子を1 nm以下の井戸幅の量子井戸に閉じ込めるためには、基板材料と薄膜材料として以下の組み合わせを用いることが好ましい。絶縁性酸化物基板としては、酸素欠損を生成しやすく、かつ伝導帯の状態密度が大きなTiを含有した材料とする。例えば、組成式がATiO3(ここでAはCa、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種)で表されるTi含有ペロブスカイト型酸化物を基板として用いればよい。完全絶縁体であるLaAlO3などを基板として用いた場合にはキャリア電子が生成しないため本発明の効果は起こらない。また、薄膜材料としては、誘電率が大きな材料が好ましく、完全絶縁体であってもよい。例えば、組成式がBO2 (ここでBはTi、Zr、Hfの群から選ばれる少なくとも一種)や組成式がABO3 (ここでAはCa、Sr、Baの群から選ばれる少なくとも一種、BはTi、Zr、Hfの群から選ばれる少なくとも一種)で表される化合物を用いればよい。また、エピタキシャル薄膜とすることで基板と薄膜の界面におけるキャリア散乱を低減することができるため、基板材料と薄膜材料の結晶格子マッチングが良好でなければならない。
【0014】
誘電体酸化物薄膜はスパッタリング法、CVD法、MBE法、パルスレーザー蒸着法の中から選ばれる少なくとも一種の手法を用いる非平衡の気相法を用いて作製することができる。
ここに非平衡の気相法とは、本来、結晶材料が熱的に不安定な環境下(例えば低温、超高真空中、低酸素ガス圧力、高濃度ドーピングなど)において、高周波プラズマやパルスレーザーを用いて蒸発させた材料を基板上に薄膜成長をさせる手法を指す。低酸素ガス圧により非平衡な気相成長の状態をつくりだすためには、その圧力を1×10-7Pa~1×10Paとすることが好ましい。更に好ましくは1×10-6Pa~1×10-2Paである。
Tiを含むペロブスカイト型酸化物からなる第1の誘電体材料層の上へ、第2の誘電体材料層を気相成長させる熱電変換材料の製造方法において、第2の誘電体材料層の形成時に第1の誘電体材料層から酸素原子を引き抜くステップを含んでいることを特徴とする。第2の誘電体材料層としての誘電体酸化物薄膜は、例えばパルスレーザー蒸着法などを用いて、気相成長されるのが好ましい。
【0015】
中でも雰囲気酸素圧力の制御が容易で、高品質のエピタキシャル薄膜成長が可能なパルスレーザー蒸着法が本発明の熱電変換材料の製造にもっとも適している。薄膜形成の温度は100℃から1200℃の範囲内であればよい。100℃以下の成長温度では薄膜の結晶品質が低下するため好ましくない。また、1200℃以上の成長温度では薄膜や基材成分の蒸発や溶融が起こるため好ましくない。これらの点から、薄膜の成長温度として100℃から1200℃の範囲内であることが必要であり、より好ましくは400℃から1000℃の範囲内であり、更に更に好ましくは600℃から900℃の範囲内である。
【0016】
このようにして酸素欠損の生じやすいTi含有ペロブスカイト型酸化物基板(第1の誘電体層)の上に非平衡な条件で第2の誘電体材料膜を形成すると、第1の誘電体層表面から第2の誘電体材料側に酸素が引き抜かれ、第1の誘電体層表面近傍に酸素欠損が生成する。その結果、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間にキャリア電子が生成する。生成したキャリア電子は、誘電率の大きな材料(第1の誘電体と第2の誘電体の界面近傍)中に存在するため空間的に拡がることができず、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に局在化する。このとき、キャリア濃度が1×1020 cm-3以上のキャリア電子密度を有する層の厚さは1nm以下となる。
かかる電子局在層はキャリアを閉じ込める点において量子井戸と同等なものとなるので、ゼーベック係数の平方が電子局在層の厚さに反比例して増加することとなり、理論上、電子局在層の厚さが1nmであればゼーベック係数はバルク体の約2倍、0.1nmであればバルク体の約8倍となる。
【0017】
本発明の熱電変換素子は、電気的に接続されたn型熱電変換材料およびp型熱電変換材料からなる熱電変換素子において、前記n型熱電変換材料は、本発明の熱電変換材料であるn型の熱電変換材料であることを特徴とする。なお、p型熱電変換材料としては、NaxCoO2(非特許文献: I. Terasaki et al., Phys. Rev. B56, 12685 (1997).)やCa-Co-O系層状化合物(非特許文献: R. Funahashi et al., Jpn. J. Appl. Phys. 39, L1127 (2000).)などの既知の酸化物半導体材料を使用すればよい。
【0018】
n型熱電変換材料の一端はp型熱電変換材料の一端と共通の電極を介して接続されており、それぞれの熱電変換材料の他端は個別の電極が形成されている(図1参照)。共通の電極を高温に加熱し、個別の電極を冷却して、それぞれの熱電変換材料端部に温度差をつけることで、n型熱電変換材料とp型熱電変換材料との間に電圧が発生する。その結果、個別の電極の間に抵抗を接続すると電流が流れ、電力を取り出すことができる。
【発明の実施の形態】
【0019】
本発明の熱電変換材料について、実施例を用いて以下に詳細に説明する。
(実施例1)
ベルヌーイ法により作製したSrTiO3バルク単結晶(方位:100、10 x 10 x 0.5 mm3、アース製薬(株))を基板として用い、パルスレーザー蒸着法により、基板温度800℃でTiO2薄膜をエピタキシャル成長させた。薄膜成長時の真空チャンバー内酸素ガス圧力は3 x 10-3 Paとした。
【0020】
得られた薄膜をX線回折及び反射高速電子回折により調べたところ、アナターゼ型TiO2がSrTiO3上にエピタキシャル成長したことが分かった。また、X線反射率測定の結果、膜厚は56 nmであることが分かった。次に室温においてホール効果測定(東陽テクニカ製、RESITEST8300)を行ったところ、作製したTiO2薄膜はn型半導体であり、シートキャリア濃度は2 x 1016 cm-2、移動度5 cm2V-1s-1、シート抵抗100 Ω/sq.であることが分かった。
【0021】
さらにHall移動度の温度依存性を測定したところ、Hall移動度は温度の-2.7乗に比例して変化することがわかった(図2)。このことから、キャリア電子はイオン化不純物などの散乱を受けず、極性光学フォノンのみの散乱が支配的であることが分かった。一方、シートキャリア濃度は温度変化をせずほぼ一定であった(図3)。
【0022】
次にキャリアの量子閉じ込め効果を調べるためにC-V測定を行ったところ、2 x 1021 cm-3のキャリア電子が基板と薄膜界面近傍0.3 nmに局在していることが分かった(図4a)。キャリア電子は実質Ti原子上に局在するため、量子井戸幅は0.1 nm(Tiイオンの直径に相当)になる。図4bは図4aを模式的に表現したものである。
ここに、電子局在層におけるキャリア電子分布の半値幅における電子密度は1.4 x 1021 cm-3であり、他方、SrTiO3基板の平均電子密度の約1000倍であり、TiO2薄膜の平均電子密度の約100倍である。
【0023】
次に室温で薄膜の両端に5~15℃の温度差をつけてゼーベック係数測定を行ったところ、- 1.05 mVK-1であった(図5a)。これはキャリア電子濃度が2 x 1021 cm-3のSrTiO3やTiO2のバルク体のゼーベック係数(0.14 mVK-1)の約8倍に相当するものである。
なお、TiO2/SrTiO3多層膜から薄膜部分TiO2を剥離したもののシート伝導度を図5bに示した。図5bの結果から、基板であるSrTiO3からTiO2薄膜を剥離した後にはシート伝導度が剥離前の約1/10に激減している。キャリア電子がTiO2薄膜/SrTiO3基板界面近傍に集中しているためである。
(実施例2)
【0024】
実施例1記載の方法と同様にSrTiO3単結晶基板上にSrTiO3薄膜をエピタキシャル成長させた。薄膜成長時の真空チャンバー内酸素ガス圧力は実施例1同様に3 x 10-3 Paとした。
【0025】
得られた薄膜をX線回折及び反射高速電子回折により調べたところ、SrTiO3がSrTiO3基板上にエピタキシャル成長したことが分かった。また、X線反射率測定の結果、膜厚は25 nmであることが分かった。次に室温においてホール効果測定(東陽テクニカ製、RESITEST8300)を行ったところ、シートキャリア濃度は3 x 1016 cm-2、移動度7 cm2V-1s-1、シート抵抗80 Ω/sq.であることが分かった。
【0026】
さらにHall移動度の温度依存性を測定したところ、Hall移動度は温度の-2.7乗に比例して変化することがわかった。このことから、キャリア電子はイオン化不純物などの散乱を受けず、極性光学フォノンのみの散乱が支配的であることが分かった。一方、シートキャリア濃度は温度変化をせずほぼ一定であった。
【0027】
次にキャリアの量子閉じ込め効果を調べるためにC-V測定を行ったところ、2 x 1021 cm-3のキャリア電子が基板と薄膜界面近傍0.3 nmに局在していることが分かった。キャリア電子は実質Ti原子上に局在するため、量子井戸幅は0.1 nm(Tiイオンの直径に相当)になる。
【0028】
次に室温で薄膜の両端に5~15℃の温度差をつけてゼーベック係数測定を行ったところ、- 1 mVK-1であった。これはキャリア電子濃度が2 x 1021 cm-3のSrTiO3バルク体のゼーベック係数(0.14 mVK-1)の約8倍に相当するものである。
(比較例1)
【0029】
実施例1記載の方法と同様に完全絶縁体LaAlO3単結晶基板上にTiO2薄膜をエピタキシャル成長させた。薄膜成長時の真空チャンバー内酸素ガス圧力は実施例1同様に3 x 10-3 Paとした。
【0030】
得られた薄膜をX線回折及び反射高速電子回折により調べたところ、アナターゼ型TiO2がSrTiO3基板上にエピタキシャル成長したことが分かった。また、X線反射率測定の結果、膜厚は70 nmであることが分かった(比較例1)。同様にして126nmの膜厚に作成したものを比較例1-1とした。次に室温においてホール効果測定(東陽テクニカ製、RESITEST8300)を行ったところ、比較例1及び比較例1-1のシートキャリア濃度は5 x 1013 cm-2、移動度2 cm2V-1s-1、シート抵抗10,000 Ω/sq.であることが分かった。
【0031】
さらにHall移動度の温度依存性を測定したところ、Hall移動度はほとんど温度変化しなかった(図2)。このことから、キャリア電子はイオン化不純物または中性不純物などの散乱を受けることが分かった。一方、シートキャリア濃度は熱活性化型の挙動を示し(図3)、その活性化エネルギーは約100 meVであった。
【0032】
次にキャリアの量子閉じ込め効果を調べるためにC-V測定を行ったところ、2 x 1018 cm-3のキャリア電子がTiO2薄膜内に均一に分布していることが分かった(図4)。このことからキャリアの量子閉じ込め効果はないと判断した。
【0033】
次に室温で薄膜の両端に5 ~ 15℃の温度差をつけてゼーベック係数測定を行ったところ、- 0.36 mVK-1であった(図5)。これはキャリア電子濃度が2 x 1018 cm-3のTiO2バルク体のゼーベック係数に相当するものである。
(比較例2)
【0034】
実施例1記載の方法と同様に完全絶縁体LaAlO3単結晶基板上にSrTiO3薄膜をエピタキシャル成長させた。薄膜成長時の真空チャンバー内酸素ガス圧力は実施例1同様に3 x 10-3 Paとした。
【0035】
得られた薄膜をX線回折及び反射高速電子回折により調べたところ、SrTiO3がSrTiO3基板上にエピタキシャル成長したことが分かった。また、X線反射率測定の結果、膜厚は130 nmであることが分かった。次に室温においてホール効果測定(東陽テクニカ製、RESITEST8300)を行ったところ、シートキャリア濃度は7 x 1013 cm-2、移動度4 cm2V-1s-1、シート抵抗1,000 ?/sq.であることが分かった。
【0036】
さらにHall移動度の温度依存性を測定したところ、Hall移動度はほとんど温度変化しなかった。このことから、キャリア電子はイオン化不純物または中性不純物などの散乱を受けることが分かった。一方、シートキャリア濃度は熱活性化型の挙動を示し、その活性化エネルギーは約100 meVであった。
【0037】
次にキャリアの量子閉じ込め効果を調べるためにC-V測定を行ったところ、1 x 1018 cm-3のキャリア電子がSrTiO3薄膜内に均一に分布していることが分かった。このことからキャリアの量子閉じ込め効果はないと判断した。
【0038】
次に室温で薄膜の両端に5 ~ 15℃の温度差をつけてゼーベック係数測定を行ったところ、- 0.41 mVK-1であった。これはキャリア電子濃度が1 x 1018 cm-3のSrTiO3バルク体のゼーベック係数に相当するものである。
(比較例3)
商用ペルチェ冷却素子用n型Bi2Te3バルク焼結体試料(20 x 5 x 0.6 mm3)の導電率及びゼーベック係数を室温下で測定したところ、導電率 1000 Scm-1、ゼーベック係数 0.2 mVK-1が得られた。このときの出力因子は4 x 10-3 Wm-1K-2であった。また、熱伝導率は1 Wm-1K-1であり、性能指数ZTは1.2であった。
【0039】
得られた室温における熱電変換出力因子及び性能指数ZTを表1にまとめて示す。
【表1】
JP0004762911B2_000002t.gif
【0040】
以上より、本発明の形態によれば、絶縁性酸化物半導体基板上に誘電率の大きな材料を薄膜成長させることで、薄膜/基板界面近傍(< 1 nm)に誘起されたキャリア電子を閉じ込めることにより、バルク材料の5倍以上の高い熱起電力(1 mVK-1)を示す熱電変換材料が得られ、既存材料であるBi2Te3に比べ高い熱電特性を示す熱電変換材料が得られる。
以上により、本発明によれば、第1の誘電体材料層と第2の誘電体材料層との間に存在する厚さが1nm以下であって、キャリア濃度が1×1020cm-3以上のキャリア電子密度を有する電子局在層とを備えることで、少なくともバルク体の3倍以上のゼーベック係数を示す高性能の熱電変換材料及びその製造方法を提供することができる。
【0041】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4