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明細書 :Nd-Fe-B系磁石の粒界改質方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4548673号 (P4548673)
登録日 平成22年7月16日(2010.7.16)
発行日 平成22年9月22日(2010.9.22)
発明の名称または考案の名称 Nd-Fe-B系磁石の粒界改質方法
国際特許分類 H01F  41/02        (2006.01)
H01F   1/053       (2006.01)
H01F   1/08        (2006.01)
B22F   3/24        (2006.01)
FI H01F 41/02 G
H01F 1/04 H
H01F 1/08 B
B22F 3/24 K
B22F 3/24 G
B22F 3/24 B
請求項の数または発明の数 7
全頁数 15
出願番号 特願2006-548887 (P2006-548887)
出願日 平成17年12月14日(2005.12.14)
国際出願番号 PCT/JP2005/022963
国際公開番号 WO2006/064848
国際公開日 平成18年6月22日(2006.6.22)
優先権出願番号 2004365088
優先日 平成16年12月16日(2004.12.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年4月10日(2007.4.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】町田 憲一
【氏名】鈴木 俊治
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】小池 秀介
参考文献・文献 特開昭63-219548(JP,A)
特開昭62-074048(JP,A)
特開2002-105503(JP,A)
特開昭60-054406(JP,A)
調査した分野 B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/05
33/02
H01F 1/00- 1/117
1/40
41/00-41/04
41/08-41/10
特許請求の範囲 【請求項1】
M金属元素(但し、Mは、Pr,Dy,Tb,又はHo)のフッ化物、酸化物、又は塩化
物を化学的還元剤を用いて還元処理することにより、Nd2Fe14B主結晶の周囲を取り囲むNdリッチ結晶粒界相を有するNd-Fe-B系焼結磁石体表面から該粒界相に該M金属元素を拡散浸透させることを特徴とするNd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
【請求項2】
請求項1記載の改質方法において、還元処理を、酸素濃度が1容積%以下の低酸素雰囲気
下で行うことを特徴とするNd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
【請求項3】
請求項記載の方法において、化学的還元剤がCa金属又はMg金属、又はそれらの水素
化物であることを特徴とするNd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
【請求項4】
請求項記載の方法において、化学的還元剤としてCa金属又はMg金属を用い、M金属
元素のフッ化物、酸化物、又は塩化物の融点降下剤を加えて液相で還元処理することを特徴とするNd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
【請求項5】
M金属元素のフッ化物、酸化物、又は塩化物と、Li金属又はBa金属、又はそれらの塩
類とを加熱溶融し、Nd-Fe-B系磁石体を陰極とし、金属又は合金、又は黒鉛を不溶性陽極として溶融塩電解により還元処理することによりNd2Fe14B主結晶の周囲を取り囲むNdリッチ結晶粒界相を有するNd-Fe-B系焼結磁石体表面から該粒界相に該M金属元素を拡散浸透させることを特徴とするNd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、不溶性陽極に代えて、M金属元素の金属/合金を可溶性陽
極とし用いることを特徴とするNd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
【請求項7】
請求項1又は5記載の方法において、還元処理後引き続き時効処理することを特徴とする
Nd-Fe-B系磁石の粒界改質方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B系磁石の結晶粒界相にDy又はTb元素などを磁石表面から拡
散浸透させて粒界改質する方法による量産性に優れた高性能磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素-鉄-ホウ素系磁石は、ハードデスクドライブのボイスコイルモータ(VCM
)や磁気断層撮影装置(MRI)の磁気回路などに広く使用されており、近年は電気自動
車の駆動モータにも応用範囲が拡大している。特に、自動車用途には耐熱性が要求され、
150~200℃の環境温度における高温減磁を避けるために高い保磁力を有する磁石が
求められている。
【0003】
Nd-Fe-B系の焼結磁石は、Nd2Fe14B化合物主相をNdリッチな粒界相が取り
囲んだ微細構造から成り、これら主相及び粒界相の成分組成やサイズなどが磁石の保磁力
の発現に重要な役割を担っている。一般的な焼結磁石においては、Nd2Fe14B化合物
より異方性磁界の大きなDy2Fe14B又はTb2Fe14B化合物の磁気的性質を利用して
、磁石合金中にDyやTbを数質量%~十質量%程度含有させることによって高い保磁力
を実現しているが、DyやTbの含有量の増加につれて飽和磁化の急激な減少を招いて最
大エネルギー積((BH)max)と残留磁束密度(Br)を低下させる問題があった。ま
た、DyやTbは希少資源であり、且つNdと比較して数倍の高価な金属であるために、
その使用量を節減する必要があった。
【0004】
Nd-Fe-B系の焼結磁石の残留磁束密度の低下を抑制しつつ保磁力を向上させるには
、逆磁区の発生源となりやすい結晶粒界や磁石表面層を清浄化して磁気的に強化すること
が望ましく、DyやTb等をNd2Fe14B主相内ではなく粒界相に優先的に存在させる
のが有効であることが知られている。
【0005】
例えば、焼結磁石を製作する際にNd2Fe14Bを主とする合金と、Dy等を多く含む合
金を別々に製作し、各粉末を適正比率で混合して成形焼結することにより保磁力を向上さ
せる方法が知られている(特許文献1、2、非特許文献1)。
【0006】
また、焼結磁石の製造工程中の工夫によらず、得られた焼結体の処理による方法としては
、微小微細なNd-Fe-B系焼結磁石成形体の表面及び粒界相に希土類金属を導入して
磁気特性を回復する方法(特許文献3、4)や、小型に加工された磁石表面にスパッタに
よりDy又はTb金属を被着させて高温熱処理によりDy又はTbを磁石内部に拡散する
方法(非特許文献2,3)が報告されている。さらに、DyをNd-Fe-B系焼結磁石
の粒界に拡散させる方法として、スパッタ膜を加熱する方法(特許文献5)、Dyの酸化
物又はフッ化物の微粉末を磁石に塗布してから表面拡散処理と時効処理を施す方法が報告
されている(非特許文献4)。
【0007】

【特許文献1】特開昭61-207546号公報
【特許文献2】特開平05-021218号公報
【特許文献3】特開昭62-74048号公報
【特許文献4】特開2004-296973号公報
【特許文献5】特開平01-117303号公報
【非特許文献1】M.Kusunoki et al.3rd IUMRS Int.Conf.On Advanced Materials,p.1013(1993)
【非特許文献2】K.T.Park et al.Proc.16th Workshop on RareEarth Magnets and Their Application,Sendai,p.257(2000)
【非特許文献3】町田 他 粉体粉末冶金協会平成16年度春季大会講演概要集、p.202(2004)
【非特許文献4】中村 元 IEEJ Journal,Vol.124,No.11,pp.699-702(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1、2には、2つの合金を出発原料としてNd2Fe14B主相よりもそれを
取り囲むNdリッチ粒界相により多くのDy元素等を分布させ、その結果として残留磁束
密度の低下を抑制しつつ保磁力の向上が得られた焼結磁石の例が示されている。しかし、
Dy等を多く含む合金製作に別途工数がかかること、Dy等を多く含む合金はNd2Fe1
4B組成合金より格段に酸化しやすいために一層の酸化防止が必要であること、及び2つ
の合金の焼結と熱処理反応を厳密に制御する必要があることなど、製造面で多くの課題が
ある。さらに、この方法によって得られる磁石においては、なお数~10質量%前後のD
yが磁石中に含有され、かつその多くがNd2Fe14B主相中に含有されるため、残留磁
束密度が低いものとなっている。
【0009】
本発明者らは、先に、磁石表面にDy又はTb金属をスパッタリングなどによって所定量
成膜後、熱処理によって粒界相を選択的に経由してDy又はTb金属を磁石内部まで拡散
浸透させることで保磁力を効果的に向上させ得ることを見出し、この方法に係わる発明に
ついて特許出願した(特願2003-174003;特開2005-11973号公報、
特願2003-411880;特開2005-175138号公報)。
【0010】
これらの方法では、Dy金属などを焼結磁石の結晶粒界部に選択的に存在させて保磁力の
向上を実現しているが、スパッタリングなどの真空槽を用いた物理的な成膜法によるため
大量の磁石処理を行う場合の量産性に難点があった。また、成膜原料として高価で高純度
のDy金属などを用いる必要性がある等の面で、磁石コストに問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、先の各発明の知見に基づき、高価なDyやTb金属を成膜原料として使用
せずに、より安価で資源的に入手し易いそれらの酸化物やフッ化物などの化合物を用い、
複雑な真空槽を用いることなく一度に大量の磁石製品の粒界改質処理が可能な量産に適し
た製造方法の開発に成功した。
【0012】
Nd-Fe-B系焼結磁石において、Nd2Fe14B主相を取り囲む結晶粒界相中にDy
やTbなどを高濃度に存在させること、すなわち粒界改質により高い保磁力が得られる。
本発明者らは、残留磁束密度を低下させずに保磁力を効果的に増加させる原理と手法に関
する発明を、特願2003-174003、特願2003-411880の各明細書に開
示している。本発明においてもこの原理が応用され、Ndより磁気異方性が大きいDyや
Tbなどの金属成分をその化合物からNd-Fe-B系磁石表面に還元析出させると同時
に磁石表面から内部の結晶粒界に拡散浸透させるものである。
【0013】
この方法では、拡散浸透後に磁石表面にDyやTbなどの成分が皮膜として残存すること
もあるが、磁石の磁気特性を改善又は向上させることを目的とし、NiやAlコーティン
グなどの耐食性皮膜を形成する従来の方法とは異なり、DyやTbなどの成分を磁石表面
から内部の結晶粒界に拡散浸透させることが重要である。
【0014】
この拡散浸透処理による磁気特性向上のメカニズムは、以下のように説明される。一般の
Nd-Fe-B系焼結磁石の内部は、大きさ約3~10ミクロンのNd2Fe14B主結晶
の周囲を粒界相(およそ10~100ナノメートルの厚さで、主にNd,Fe,Oか
ら構成されてNdリッチ相と呼称されている)が取り囲んだ構造をしている。この磁石の
保磁力を増加させる最も一般的な方法として、原料合金中に、例えば、5質量%程度のD
yを添加して焼結すると、Dyは主結晶にも粒界相にも均等に分散して保磁力は増加する
が、反面、DyがNd2Fe14B主結晶のNdの20質量%程度を置換して残留磁化の著
しい低下を伴うために、高いエネルギー積の磁石を得ることができない現状である。
【0015】
本発明の方法では、金属化合物の化学的還元又は溶融塩電解還元によって磁石表面に還元
析出させたDy等のM金属元素が、還元処理中に磁石内部まで拡散浸透する過程で、Nd
2Fe14B主結晶のNdとほとんど置換せずに結晶粒界相に選択的に富化した構造を形成
すること、すなわち粒界が改質されることが確認されている。この化学的還元又は溶融塩
電解還元を利用する方法では、例えば、Dy23の酸化物はCa成分と反応するか又は電
解によって電子を供与されて還元したDyが生成する原理のために、磁石を構成するNd
-Fe-B成分とは還元反応をほとんど生じないために磁石に損傷を与えることがない。
【0016】
一方、Dy23粉末のみでNd-Fe-B磁石を覆い800~1000℃位の高温度で加
熱処理を行うことによっても、Dy成分を磁石内に拡散浸透させることができる。しかし
、この場合は還元剤を用いないために、Dy23が高温度でNd-Fe-B磁石表面のN
d成分と徐々に反応することによってDyがNdと結合することにより還元されることに
なり、磁石表面層の一部がNd欠損状態となって保磁力を損なう軟磁性のα—FeやDy
Fe2相などが副生する問題があり、製造方法として好ましくない。
【0017】
M金属元素が拡散する深さは、還元処理の加熱温度や時間によって変わり、表面から20
ミクロン~1000ミクロン位である。また、拡散浸透後の粒界相の構成はM-Nd-F
e-O系であることがEPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)の分析結果より確認さ
れ、粒界相の厚さは10~200ナノメートル位と見積られる。
【0018】
このように、M金属元素が磁石の内部よりも表面部に多く存在し、且つNd2Fe14B主
結晶のNdはM金属元素によりほとんど置換されないので、主結晶内よりも粒界相に選択
的にM金属元素が富化した構造により、逆磁区の発生が抑制されて元のNd-Fe-B系
磁石の保磁力が向上する証拠となっている。
【0019】
本発明では、DyやTbなどの酸化物やフッ化物などの化合物を、Ca還元剤又は電解を
用いて高温度で加熱してDyやTbなどの金属を還元させると同時に、該金属成分を磁石
内部の粒界相に選択的に拡散浸透させることが単一の処理工程で容易に実現できる。Nd
リッチ粒界相の融点はNd2Fe14B相の融点(1000℃以上)と比較して低いために、選
択的に拡散しやすい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Dy,Tbなどの安価な化合物原料を用いて、希土類磁石表面にDy,
Tbなどの金属を還元析出して磁石内部に拡散浸透することによって、保磁力の大幅な向
上を果たすことができ、高温度での減磁を大幅に改善できる。従って、耐熱性を必要とす
る車駆動用モータなどに適した希土類磁石の製造に大いに貢献できる。また、Dy,Tb
などのわずかな含有量においても従来の焼結磁石並みの保磁力を得ることができ、希少な
資源問題の解決に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のNd-Fe-B系磁石の製造方法を更に詳しく説明する。本発明で対象と
する磁石は、焼結磁石である。Nd-Fe-B系焼結磁石は、Nd2Fe14B主相結晶を
Ndリッチな結晶粒界相が取り囲んだ結晶組織を有し、典型的な核発生型の保磁力機構を
示すために本発明の方法で製造した磁石においては保磁力増加の効果が大きい。
【0022】
焼結磁石は、原料合金を数ミクロンに粉砕して成形、焼結して形成される。Nd-Fe-
B系焼結磁石では、Nd量をNd2Fe14B組成(=27.5質量%Nd)より多くすると粒
界相が形成されるが、さらに焼結過程での酸化なども考慮すれば29~30質量%Ndが
Nd-Fe-B系焼結磁石の実用的なNd組成である。一般的な焼結磁石では、PrやY
などが不純物としてあるいはコスト低減のために含まれるので、焼結磁石中の全希土類元
素量は28~35質量%程度においても本願発明の方法による磁気特性向上効果がある。
35%を超えると粒界相の割合が過剰となり、保磁力は充分大きくなるが、磁束密度を担
うNd2Fe14B主相の割合が相対的に減少して、実用的な残留磁束密度や最大エネルギ
ー積が得られなくなる。
【0023】
本発明の方法は、Nd2Fe14B主相結晶を粒界相で取り囲む結晶組織をもつ磁石すべて
に適用され、Nd-Fe-B形成成分のみならず、その他の付加的成分、例えば、温度特
性の改善用のCo、微細で均一な結晶組織を形成するためのAlやCuなどが添加されて
いても構わない。また、本発明の方法は、元とする磁石の磁気特性や、Nd以外の他の希
土類元素添加量には本質的に影響されないので、予めM金属元素を焼結原料に加えて焼結
することにより主相及び粒界相にM金属元素を合計で0.2質量%以上10質量%以下程
度含有している高性能焼結磁石に対しても保磁力の効果的な向上をもたらすことができる

【0024】
磁石表面に供給して磁石内部に拡散浸透する元素は、Nd-Fe-B系磁石を構成するN
dよりも磁気異方性が大きく、且つ磁石内部の主相を取り囲むNdリッチ相等に容易に拡
散浸透することを目的とするため、Pr,Dy,Tb,Hoから選ばれる希土類元素(以
下、適宜「M金属」という)を単独又は複合して用いる。特に、Dy2Fe14BとTb2
14B化合物の異方性磁界は、Nd2Fe14Bのそれと比較してそれぞれおよそ2倍と3
倍であることから、DyとTb元素は保磁力増加の効果が大きい。
【0025】
磁石表面へ上記元素を安定的に供給するには、原鉱石から分離精製した希土類金属酸化物
、希土類金属塩化物、又は希土類金属フッ化物を溶融塩電解又は化学的還元剤によって還
元するという、希土類金属の精錬法を応用することが原理的に可能である。化学的還元剤
としてはCa金属又はMg金属又はそれらの水素化物が適する。この化学的還元又は溶融
塩電解還元を用いない場合は、既述の通りNd-Fe-B磁石表面層の一部が変質して磁
性を損なう可能性があるために好ましくない。
【0026】
本発明においては、M金属化合物からのM金属の還元及び磁石内部へのM金属の拡散を、
基本的に同一工程で行うことが特徴である。なお、この工程に引き続きそのまま500~
600℃での時効処理を追加して、あるいは他の加熱炉を用いた時効処理を追加して、さ
らなる保磁力の向上を図ることもできる。
【0027】
本発明では高価なM金属を用いず、各種希土類金属の精製過程で得られるM金属元素の酸
化物、フッ化物、塩化物の一種又は2種以上を用いることができる。このうち、酸化物と
フッ化物は安定なために空気中で容易に取り扱いができ、Ca還元後はそれぞれCaOや
CaF2化合物となって磁石体の表面から容易に分離が可能である。一方、塩化物は還元
反応の条件が適切に行われない場合に磁石と反応して塩素ガスを発生する場合があり注意
が必要であるが、基本的に本発明において利用できる。
【0028】
M金属化合物からM金属を還元するには多様な方法があるが、以下3種類の代表的製法の
いずれかを採用することが好ましい。
【0029】
<第一の方法>固相還元法
所望の形状に加工したNd-Fe-B系磁石体を、例えば、M金属元素の各種化合物の一
例としてのDy23と化学的還元剤であるCaH2の混合粉末の中に埋設し、場合により
軽く押し固めて、黒鉛、BN、又はステンレス鋼製のルツボなどの耐熱容器内に装填する
。下記の反応式に従ってDy231モルに対してCaH2還元剤は3モル必要となるが、
Dy23を完全に還元するためには3モル相当量の10~20%を増量することが好まし
い。還元反応は以下の基本式によって行われる。
Dy23+3CaH2→2Dy+3CaO+3H2
【0030】
次に、この耐熱容器をArガスが流通する雰囲気炉にセットし、800~1100℃の温
度で10分~8時間保持して冷却する。雰囲気中の酸素濃度は、Nd-Fe-B焼結磁石
を製作するような数~数十ppmの方が磁石体の酸化を抑制できるために好ましいが、反
応装置に真空排気系を付加する必要があり、極低酸素濃度に到達するのに長時間を要する

【0031】
このため、種々の酸素濃度条件下で磁石体の表面酸化状態と磁気特性を実験的に調査した
結果、酸素濃度が1容積%までは外観上表面状態の差異はなく、また、酸素濃度1%の雰
囲気中で処理した場合は、酸素濃度5ppmの雰囲気中で処理した場合と比べて保磁力な
どの磁気特性の変動はおよそ2%低下する程度であることから、酸素濃度が1容積%以下
の雰囲気下で行うことは差し支えない。なお、1容積%を超えると処理中での磁石表面の
酸化が大きくなって、保磁力の低下も大きくなる。
【0032】
上記の雰囲気及び温度条件においては、磁石体及び各化合物粉末ともに溶融することなく
固相で反応が行える。800℃未満では上記式の反応を終了するのに数十~百時間を要す
るために適切でなく、1100℃を超える場合には磁石の結晶粒径が粗大化して保磁力が
低下する。従って、反応温度は800~1100℃とするのが必要であり、より好ましく
は850~1000℃が良い。
【0033】
この反応により、Dy金属は還元されて磁石表面に析出し、同時にDy金属は磁石内部の
結晶粒界相に選択的に拡散浸透する。磁石表面には拡散できずに表面に留まったDy金属
層が形成される。
【0034】
反応後は、磁石体を耐熱容器内から取り出して純水洗浄して乾燥することにより、磁石体
表面のCaO粉末が除去されて表面に留まったDy金属層が被覆された清浄な磁石表面を
得ることができる。なお、上記反応終了後に400~650℃で30分~2時間程度の時
効処理を追加することにより、粒界のNdリッチ相の均一な生成を助長して保磁力のさら
なる向上を図ることもできる。Ndリッチ相の生成温度領域は500~600℃であるた
め、400℃未満では効果がほとんどなく、650℃を超えると該相が過大に成長して却
って保磁力の低下を招くために、時効処理を追加する場合の温度範囲は400~650℃
とするのが良い。
【0035】
こうして得られた磁石は、上記の粒界改質処理の原理で記述したように、Dy金属成分が
磁石表面から内部に拡散浸透して、結晶粒界相にDy元素が富化した構造となっている。
この表面層は、Dy金属又は磁石中のNdとFeが一部反応によって取り込まれたDyリ
ッチな層となっているために、Nd2Fe14Bより空気中でより安定であるため、数十℃
で且つ比較的低湿度環境下で使用する場合にはニッケルメッキや樹脂塗装などの防錆皮膜
を省略することも可能である。
【0036】
<第二の方法>液相還元法
例えば、M金属化合物の一例としてのDyF3粉末とLiF粉末と化学的還元剤であるC
a金属粒を混合したものを黒鉛のルツボなどの耐熱容器内に装填し、その中にNd-Fe
-B系磁石体を埋没させる。この耐熱容器を上記第一の方法と同様の雰囲気炉にセットし
、850~1100℃の温度で5分~1時間程度保持して冷却する。
【0037】
この条件においては、Ca金属を溶融させ、且つM金属元素のフッ化物、酸化物、又は塩
化物の融点降下剤の役目を果たすLiFを利用して溶融体を形成しながら液相で反応を進
ませる。LiF同様に融点を降下させて用いられる塩類としては、KaやNaのホウ酸塩
、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などが使用できる。これにより、第一の方法における反応と
同じくDy金属の還元が起こり、磁石表面へのDy金属の還元析出と磁石内部への拡散が
同時に行われる。磁石表面には拡散できずに表面に留まったDy金属層が形成される。
【0038】
この場合の基本的な還元反応は以下の式により行われ、LiFは直接的にはDyの還元反
応には関与していない。
2DyF3+3Ca→2Dy+3CaF2
【0039】
反応後は、磁石体を取り出して超音波を加えながら純水洗浄して乾燥することにより、C
aF2が除去されて表面に留まったDy金属層が被覆された磁石表面を得ることができる
。こうして得られた磁石は、第一の方法と同様に、上記の粒界改質処理の原理で記述した
ように、Dy金属成分が磁石表面から内部に拡散浸透して、結晶粒界相にDy元素が富化
した構造となっている。
【0040】
<第三の方法>溶融塩電解還元法
例えば、TbF3粉末とLiF粉末、及び融点を約1000℃以下に降下させるBaなど
の金属塩類などをルツボなどの耐熱容器内に装填する。陰極にはステンレス鋼製の籠を使
用し、その中に磁石体を入れ、陽極に黒鉛、不溶性のTi、Moなどの金属又は合金棒な
どを使用し、陰極及び陽極を耐熱容器内に埋設させ、耐熱容器をArガスが流通する雰囲
気炉にセットし、800~1000℃で溶融物を生成させて、1~10V程度、0.03
~0.5A/cm2程度の電流密度で、5分~1時間程度電解を行い、電解を停止して冷却
する。
【0041】
陽極として、不溶性の金属/合金の代わりに、M金属を可溶性陽極として使用してもよい
。その場合には、磁石表面に還元析出するM金属は、酸化物やフッ化物原料から還元され
たものと、陽極成分が溶解して電解析出したものとの合成したものになる。
【0042】
用いるLi金属又はBa金属又はそれらの塩類の種類と量によって、溶融物の生成温度が
異なるが、溶融した後は速やかにステンレス鋼製の網を前後進や回転させて、磁石体への
Tb金属の還元拡散をむらなく行えるようにする。この場合の還元反応は、電解工程にお
いてTbイオンが陰極となる磁石体に到達し、その場で電子を受け取ることによって金属
Tbを生成し、磁石体表面へのTb金属の還元析出と磁石内部への拡散が行われる。磁石
表面には拡散できずに表面に留まったTb金属層が形成される。
【0043】
反応後は、網籠から磁石体を取り出して純水洗浄して乾燥し、表面に留まったTb金属層
が形成された磁石体を得ることができる。こうして得られた磁石は、第一、第二の方法と
同様に、上記の粒界改質処理の原理で記述したように、Tb金属成分が磁石表面から内部
に拡散浸透して、結晶粒界相にTb元素が富化した構造となっている。
【0044】
磁石表面に還元析出するM金属の量については、上記第一~第三の方法において温度と処
理時間を変更することによって容易に調整できる。本発明の方法においては、高温還元反
応を用いるために磁石体表面に還元析出するM金属は、析出すると同時に一部は磁石内部
に拡散浸透していき、表面のM金属のみの厚さを明確に判定することが困難である。
【0045】
図1は、従来の焼結磁石の断面(a)と本発明の方法で製造した焼結磁石の断面(b)の
、結晶組織のモデル図である。図1(a)より、従来の焼結磁石はNd2Fe14B結晶粒
をNdリッチ粒界相が取り囲んだ組織をもち、Dy元素を少量含有する場合もDy元素は
Nd2Fe14B結晶粒とNdリッチ粒界相それぞれに分配されて存在し、また磁石内部と
表面による組織構造に差異はない。しかし、本発明の方法で製造した焼結磁石の断面(b
)によれば、磁石表面から拡散して侵入するDy元素は、表面層のごく一部のNd2Fe1
4B結晶内に侵入するが内部のほとんどのNd2Fe14B結晶内には侵入せず、一方、Nd
リッチ粒界相にその多くが侵入して磁石表面側に濃く、内部に行くに従ってやや薄く存在
する濃度勾配をもつ組織構造となる。
【0046】
図2は、代表的な本発明の方法で製造した試料(以下「本発明試料」という)(4)のE
PMA画像におけるDy元素の分布状況を示している。Nd2Fe14B結晶粒の中には磁
石最表面の1層又は2層においてM金属元素が浸透しているに過ぎず、磁石体の表面から
内部に向かって約3~6μmの深さまで存在するDy金属層と、Dy金属層の直下から約
40~50μmの深さまで存在するDy金属の拡散層が認められる。このように、本発明
の還元拡散法では、磁石最表面の数層のNd2Fe14B主相結晶内へはM金属元素が侵入
するが、大部分の主相結晶には実質的に新たなM金属元素は導入されないために、残留磁
束密度の低下が抑制され、M金属元素が結晶粒界に選択的に浸透するために保磁力の向上
が果たされる。
【0047】
磁石の保磁力は、粒界改質処理後の図2に示すような磁石断面の深さ方向にM金属元素の
濃度勾配をもつ組織構造によって影響され、拡散層の深さが大きいほど大きな保磁力が得
られる。一方、M金属元素を拡散浸透させると、粒界相の厚さ(幅)は数十%程度広がる
が、この拡散層部分の粒界相の厚さが厚く且つ拡散層の深さが深くなるほどM金属成分を
多量に含むことになって残留磁束密度の低下をもたらす。従って、残留磁束密度の低下を
抑制しつつ保磁力の大幅な増加を達成するには、M金属元素が過剰とならないように、使
用するM金属元素化合物の量や反応温度と時間を適正に制御することが重要である。
【0048】
一般に、このような条件を満たすには、磁石体に拡散した分及び拡散できずに表面に金属
層として留まっている分を合わせた全M金属成分が磁石の全質量に対して占める割合が0
.1~10質量%であることが必要であり、0.2~5質量%が高性能な磁気特性を得る
のに好適である。
【0049】
磁石の全質量に対して占める割合が1質量%位の少量のDyを短時間拡散浸透させた場合
は、保磁力が数十%増加しても残留磁束密度の低下が無視できる程度のために、最大エネ
ルギー積(BHmax)は処理前に比べて同等かやや増加し、減磁曲線の角型性(squareness)
もやや向上する。また、2~3質量%位のDy含有量においては残留磁束密度がやや低下
するものの、粒界相へのDy浸透が充分に行われるために減磁曲線の角型性が向上する結
果、上述同様に最大エネルギー積は処理前に比べて同等かやや増加する。
【0050】
さらに、M金属元素を利用して効果的な保磁力向上を実現する別の方法として、比較的多
量のM金属元素を磁石表面に供給して還元拡散処理を長時間行うことにより、磁石内の深
部までM金属元素を磁石の全質量に対して占める割合が2~4質量%位になるように浸透
させた後、M金属元素が過剰で残留磁束密度が低下した磁石表面層を除去することも可能
である。還元拡散後表面を0.05mm程度以下削った場合には、削ったことによる保磁
力の目減りはほとんどなく、また、残留磁束密度は削っても変わらない。
【0051】
磁石表面層の除去法としては、平面又は円筒研削盤による表面研削方法などを用いること
ができる。また、酸を用いて表面層を溶解除去することも可能であるが、その場合には充
分にアルカリ中和や洗浄を行うことが必要となる。
【0052】
また、その後、さらに該磁石を裁断して所定の形状寸法をした磁石を複数個作製する方法
を採用することもできる。裁断は、切断刃の外周部にダイヤ又はGC(グリーンコランダ
ム)砥粒を固着させた円盤状の切断刃を用いて、磁石片を固定してから一枚一枚磁石を切
断するか、又は複数枚の刃を取り付けた切断機(マルチソー)によって、同時に複数個を
裁断してもよい。
【0053】
例えば、厚さが1mm以下の磁石に粒界改質処理を行う場合には、少量のM金属元素を利
用した短時間処理で所望の磁気特性を得ることが容易であるが、厚さが5から10mm程
度の磁石においてはM金属元素を磁石深くまで充分に浸透させて、磁石全体をほぼ均質な
組織状態にすることが必要である。その後に裁断を行うことにより、磁石製造工程におけ
るプレス成形回数を節減することも好適な方法である。
【実施例1】
【0054】
以下、本発明を実施例にしたがって詳細に説明する。
Nd12.5Fe79.58組成の合金インゴットから、ストリップキャスト法によって厚さ約
0.2mmの合金薄片を製作した。次に、この薄片を容器内に充填して300kPaの水
素ガスを室温で吸蔵させた後に放出させることにより、大きさ0.1~0.2mmの不定
形粉末を得て、引き続きジェットミル粉砕をして約3μmの微粉末を製作した。この微粉
末を金型に充填し、800kA/mの磁界を印加しながら100MPaの圧力を加えて成
形し、真空炉に装填して1080℃で1時間焼結をした。この焼結体を切断加工して、5
mm×5mm×3mmの厚さ方向に異方性をもつ板状試料を複数個製作し、その一つをそ
のまま比較例試料(1)とした。
【0055】
次に、Dy23粉末2gとCaH2粉末0.7gを混合したものをステンレス鋼製のルツ
ボに装填し、上記の板状試料を埋設させ、Arガスを流通する雰囲気炉にセットした。炉
温を制御してルツボ内の最高温度を700、800,900,1000,1100,11
50℃とし、保持時間を各1時間としてDy金属の固相還元と拡散浸透処理を行って冷却
した。
【0056】
モニター計測した雰囲気炉内の酸素濃度は、反応開始から終了までの間0.05~0.2
容積%であった。各試料をルツボから取り出して磁石体表面のCaO粉末をブラシで除去
した後、超音波を加えながら純水洗浄を行い、アルコールで水分を置換して乾燥し、加熱
処理温度700~1150℃の順に従って本発明試料(1)~(6)とした。
【0057】
各試料の磁気特性は、板厚3mmの方向に4.8MA/mのパルス着磁をした後、振動試
料型磁力計(VSM;Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定した。また、測定後は
各試料を粉砕してICP(Inductively Coupled Plasma)分析をして、各試料中に含まれる
Dy量を測定した。表1に、各試料の磁気特性値とDy量を示す。なお、Dy金属が膜と
して析出して拡散していない場合を仮に想定して析出量を膜厚で計算すると、本発明試料
(1)は、0.3ミクロン、本発明試料(6)は、3.4ミクロンに相当する。また、図
3に、各試料の保磁力と残留磁束密度を、図4に、各試料のDy量をグラフ化して示す。
【0058】
【表1】
JP0004548673B2_000002t.gif

【0059】
図3から明らかなように、本発明試料(1)~(6)は、いずれも未処理の比較例試料(
1)と比較して、残留磁束密度(Br)の低下がほとんど見られずに、著しい保磁力(H
cj)の増加が認められた。本発明試料(1)は、処理温度が700℃であるためにDy
の還元反応が充分に進まず、磁石中に取り込まれたDy量は0.1質量%未満であったた
めに保磁力の増加はわずかであったが、処理時間を1時間以上とすることによってさらに
保磁力の増加を見込むことができる。
【0060】
また、本発明試料(6)は、図2からわかるように試料中のDy量が増加しているが、高
温度の処理のためにNd2Fe14B結晶粒が粗大に成長して、残留磁束密度と保磁力の値
がともにやや低下する傾向がある。また、図4から、処理温度の上昇に従ってCa還元に
よるDy金属の析出と磁石中への拡散量が増加していることがわかる。
【0061】
さらに、1000℃で処理した本発明試料(4)と同等の保磁力を、通常のNd-Dy-
Fe-B系焼結磁石で実現した際のDy含有量を、図4中に黒丸印で挿入した。これより
、本発明の方法によれば、従来の焼結磁石のほぼ半分のDy含有量で所望の保磁力を達成
できることが明らかとなり、従って、希少資源であるDy元素を節減できる効果がある。
【実施例2】
【0062】
Dy23粉末1gとCaH2粉末0.3gを混合したものに少量のメタノールを添加して
スラリーとし、実施例1で用いたものと同じ各板状試料に塗布後乾燥させた。他方、比較
例として、Dy23粉末1gのみを同様にスラリーとし、同様に塗布後乾燥させた。これ
らを、それぞれステンレス鋼製のルツボに装填し、Arガス雰囲気中、920℃と100
0℃で各2時間の加熱処理により固相還元と拡散浸透を行なった。
【0063】
処理後の磁石試料は、表面のCaO粉末を除去し、純水とアルコール洗浄をした後に乾燥
した。前者の混合粉末を用いたものを本発明試料(7)~(8)とし、後者のDy23
独粉末を用いたものを比較例試料(2)~(3)とした。
【0064】
表2に、各試料の磁気特性値とDy量を示す。なお、表中に、実施例1で記載した比較例
試料(1)を再掲載した。また、図5に、比較例試料(1)~(3)の減磁曲線を、図6
に、比較例試料(1)と本発明試料(7)~(8)の減磁曲線を示す。
【0065】
【表2】
JP0004548673B2_000003t.gif

【0066】
表2から明らかなように、Dy23粉末のみを用いて920℃で熱処理を行った比較例試
料(2)は、未処理の比較例試料(1)と比較して、Dy元素の含有量がわずかなために
保磁力の増加がわずかで、一方、最大エネルギー積((BH)max)は低下した。100
0℃で加熱処理を行った比較例試料(3)は、保磁力が大幅に増加した反面、最大エネル
ギー積が著しく低下した。
【0067】
この理由は、図5に見られるとおり、減磁曲線に大きな段差が現れたためであり、磁石試
料表面をX線回折した結果、NdFe2及びα-Fe相が生成していることがわかった。
すなわち、これらの相が生成した原因はDy23が高温加熱される過程でNd-Fe-B
磁石本体と反応して還元されたためであり、その結果、磁石本体の特性が大きく低下した
ためと推察される。
【0068】
一方、CaH2粉末を還元剤として用いた本発明試料(7)及び(8)は、比較例試料(
1)と比較して保磁力の大幅な増加とエネルギー積の向上が認められた。また、図6に示
したように減磁曲線はいずれも角型性が良好でなだらかな曲線を描いており、還元剤を用
いた場合にはNd-Fe-B磁石本体に損傷を与えることなく、保磁力などの磁気特性の
向上を図ることができた。
【実施例3】
【0069】
DyF3粉末3gと、金属Ca粒0.9g、及びLiF粉末5gを混合して黒鉛ルツボ内
に装填し、実施例1で用いた板状の磁石試料をその粉末の中に埋設した。続いてArガス
雰囲気炉にセットし、炉温を制御してルツボ内の最高温度900℃で5~60分間の溶融
液相還元反応及び拡散浸透処理を行って冷却した。
【0070】
各試料をルツボから取り出して磁石体表面の反応残渣をブラシで除去した後、希塩酸でC
aF粉末を溶解させて除去し、さらに純水とアルコール洗浄をして乾燥した。得られた試
料は、処理時間5~60分の順に従って本発明試料(9)~(14)とし、実施例1と同
様に磁気特性を測定した。なお、Dy金属が膜として析出して拡散していない場合を仮に
想定して析出量を膜厚で計算すると、本発明試料(9)は、0.2ミクロン、本発明試料
(14)は、3.0ミクロンに相当する。
【0071】
図7から明らかなように、本発明試料(9)~(14)は未処理の比較例試料(1)と比
較して、残留磁束密度はほとんど低下せず、保磁力の大幅な増加が認められた。なお、9
00℃で60分間の加熱処理をした本発明試料(14)は、同温度で45分間の加熱処理
をした本発明試料(13)とほぼ同等の保磁力を示していることから、本実施例において
は、Dyの還元による析出と磁石内部への拡散は、45分の処理時間で充分であることが
わかった。
【0072】
さらに、保磁力の増加が磁石の耐熱性に及ぼす影響を知るために、本発明試料(13)と
比較例試料(1)を着磁してそれらの表面磁束を測定した後、120℃のオーブンに装填
した。そして所定時間ごとにオーブンから各試料を取り出して室温に冷却し、減磁率の変
化を1000時間まで調べた。減磁率は、120℃で所定時間保持した後の磁束量を、室
温での初期磁束量で割り算して求めた。図8に、各試料の減磁率と経過時間の関係を示す
。本発明試料(13)の減磁率は、比較例試料(1)の約1/5になり、また1000時
間までの減磁率の変化も小さく、従って高温度での減磁を大幅に改善できることが明らか
になった。
【実施例4】
【0073】
Nd-Pr-Fe-B系焼結磁石から、寸法が6mm×6mm×10mmの磁石片を2個切
り出して一方をそのまま比較例試料(4)とした。他方を、実施例3と同様にDyF3
末3gと、金属Ca粒0.9g、及びLiF粉末5gを混合した粉末中に埋設し、Ar雰
囲気中で950℃、6時間の溶融液相還元反応及び拡散浸透処理を行って冷却した。
【0074】
この試料表面を洗浄後乾燥して、これを本発明試料(15)とした。次に、振動試料型磁
力計を用いて磁気特性を測定した後に、さらにこの試料全面を平面研削盤によって各40
ミクロン研削し、表面層を除去したものを本発明試料(16)とし、同様に磁気測定を行
った。最後に、この厚さ10mmの試料の中央部分の厚さ2mmを切り出して、寸法が約
6mm×6mm×2mmの磁石試料を得て本発明試料(17)とし、磁気測定を行った。
【0075】
【表3】
JP0004548673B2_000004t.gif

【0076】
表3から明らかなように、溶融液相還元処理を行ったままの本発明試料(15)は、比較
例試料(4)と比較して保磁力が大幅に増加した。しかし、残留磁束密度と最大エネルギ
ー積は処理前よりやや低下した。この原因は高温長時間処理によってDy成分が試料の深
部まで浸透した反面、表面部ではややDy成分が過剰となったためである。
【0077】
一方、表面層を除去した本発明試料(16)、及び試料の中央部を切り出した本発明試料
(17)は、共に保磁力がほとんど低下せずに、残留磁束密度は処理前の値とほぼ同等に
、最大エネルギー積は処理前よりさらに向上した。従って、磁石試料の大きさによって還
元拡散処理を実施したまま、あるいは処理後に切り出し等の加工を加えるなど、適宜選択
して所望の磁気特性を有する磁石を得ることが可能である。
【実施例5】
【0078】
Nd10.5Dy2Fe78.5Co18組成の合金インゴットから、実施例1と同様に粉砕、成
形、焼結、切断工程を経て、6mm×30mm×2mmの厚さ方向に異方性をもつ板状試
料を複数個製作し、その一つをそのまま比較例試料(5)とした。次に、TbF3粉末3
gとLiF粉末3g、及びNa247粉末2gを混合したものをBN製ルツボに装填し
た。ステンレス鋼製網籠の中に板状試料を入れて陰極とし、Mo金属を陽極としてルツボ
内に埋設させ、続いてルツボをArガス雰囲気炉にセットし、炉温を制御してルツボ内の
最高温度920℃とし、陰極及び陽極を外部電源に接続して電解電圧5V、電流密度80
mA/cm2で、それぞれ5,10,20,30分間溶融塩電解を行った後、電解を停止し
て冷却した。
【0079】
その後、網籠から磁石体を取り出して純水洗浄して乾燥し、超音波を加えながら純水洗浄
を行い、アルコールで水分を置換して乾燥した。処理時間5,10,20,30分間の順
に従って、本発明試料(18)~(21)とした。なお、Dy金属が膜として析出して拡
散していない場合を仮に想定して析出量を膜厚で計算すると、本発明試料(18)は、1
.2ミクロン、本発明試料(20)は、6ミクロンに相当する。
【0080】
表4に、各試料の磁気特性値とTb量を示す。なお、溶融塩電解還元法で得られた各試料
中には分析の結果0.3質量%以下のフッ素が取り込まれていることが明らかになった。
表4から、処理時間が増加するに従って保磁力が著しく増加し、一方残留磁束密度の低下
は比較的小さいことが明らかになった。
【0081】
【表4】
JP0004548673B2_000005t.gif

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のNd-Fe-B系焼結磁石の粒界改質方法によれば、DyやTb金属成分が主相
内にほとんど取り込まれずに粒界相に選択的に存在した組織構造により、著しく保磁力を
増加させることが可能となる。さらには、従来は磁石合金中のNd2Fe14B主相内に取
り込まれて残留磁束密度低下の要因となっていたDyやTb成分の量を1/2から1/3程
度に大幅に減らすことができ、希少資源の節減と磁石コストの低減効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】従来の焼結磁石の断面(a)と本発明の方法で製造した焼結磁石の断面(b)の、結晶組織のモデル図である。
【図2】本発明試料(4)のEPMA画像におけるDy元素の分布状況である。
【図3】本発明試料(1)~(6)と比較例試料(1)における、還元拡散処理の加熱温度と残留磁束密度、保磁力の関係を表す図である。
【図4】本発明試料(1)~(6)と比較例試料(1)における、還元拡散処理の加熱温度とDy含有量を表す図である。
【図5】比較例試料(1)~(3)の、減磁曲線を表す図である。
【図6】本発明試料(7)及び(8)と、比較例試料(1)の、減磁曲線を表す図である。
【図7】本発明試料(9)~(14)と比較例試料(2)における、還元拡散処理の加熱時間に対する残留磁束密度と保磁力の関係を表す図である。
【図8】本発明試料(13)と比較例試料(1)の、120℃で所定時間保持した後の磁束量を、室温での初期磁束量で割り算して求めた減磁率と経過時間の関係を表す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7