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明細書 :2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5156887号 (P5156887)
公開番号 特開2008-195666 (P2008-195666A)
登録日 平成24年12月21日(2012.12.21)
発行日 平成25年3月6日(2013.3.6)
公開日 平成20年8月28日(2008.8.28)
発明の名称または考案の名称 2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体
国際特許分類 C07K  16/30        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C07K 16/30 ZNA
C12N 5/00 102
G01N 33/574 B
A61K 39/395 T
A61P 35/00
A61P 43/00 111
C12P 21/08
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2007-033674 (P2007-033674)
出願日 平成19年2月14日(2007.2.14)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第65回 日本癌学会学術総会記事,2006年8月28日,日本癌学会発行,第102頁,O-296に発表
審査請求日 平成22年2月12日(2010.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】304031427
【氏名又は名称】愛知県
【識別番号】000195524
【氏名又は名称】生化学工業株式会社
発明者または考案者 【氏名】神奈木 玲児
【氏名】木村 尚子
【氏名】宮崎 敬子
【氏名】松崎 祐二
【氏名】安田 洋祐
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
【識別番号】100113022、【弁理士】、【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
審査官 【審査官】長谷川 茜
参考文献・文献 特開平11-313684(JP,A)
PNAS,2004年12月 7日,Vol.101, No.49,p.17033-17038
調査した分野 C07K 16/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式
Siaα2→6Galβ1→3/4GlcNAcβ(6-sulfate)-
(式中、Siaαはαシアル酸を表し、Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Siaα2→6 はSiaαの2 位とGalβの6 位とが結合することを示し、Galβ1→3/4 は、Galβの1 位とGlcNAcβの3 位又は4 位とが結合することを示し、(6-sulfate)はGlcNAcβの6 位に硫酸基が付加していることを示す。)で表される糖鎖に特異的に反応するモノクローナル抗体。
【請求項2】
下記一般式
Siaα2→3Galβ1→3/4GlcNAcβ(6-sulfate)-
(式中、Siaαはαシアル酸を表し、Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Siaα2→3 はSiaαの2 位とGalβの3 位とが結合することを示し、Galβ1→3/4 は、Galβの1 位とGlcNAcβの3 位又は4 位とが結合することを示し、(6-sulfate)はGlcNAcβの6 位に硫酸基が付加していることを示す。)で表される糖鎖には反応しない請求項1記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1の記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体及びこの抗体を用いて癌、悪性リンパ腫及び免疫疾患を検査する方法並びに癌、悪性リンパ腫及び免疫疾患の検査薬及び治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らによる癌の硫酸化糖鎖の研究から、癌組織と正常組織との間で硫酸化糖鎖の成分に大きな変化があることが解明されてきた。特に、6-硫酸化糖鎖は体内での細胞の移動において重要な役割を演じており、白血球の体内移動やがん細胞の転移において重要な役割を演じている(非特許文献1)。これらの6-硫酸化糖鎖を疾患の診断・治療に応用するにあたっては、特異的な抗体が必要不可欠である。
本発明者らがこの研究過程で作成した2-3シアリル6-スルホ糖鎖と特異的に反応するモノクローナル抗体(特許文献1、2、非特許文献1)は、癌や非癌疾患の鑑別に役立つ上に、白血球においては主としてメモリーTリンパ球に発現し、免疫応答の調節に重要な役割を演じることが判明しつつある。
一方、2-6シアリル6-スルホ糖鎖については、Bリンパ球による抗体産生の主要な内因性抑制分子であるSiglec-2(CD22)の特異的リガンド糖鎖であることは、合成糖鎖を用いた試験管内研究から知られていたが(非特許文献2等)、この2-6シアリル6-スルホ糖鎖がヒト由来の各種細胞、とりわけ癌組織で発現していることは、今回の発明者らが発見するまで知られていなかった。
【0003】

【特許文献1】特許第3809277号
【特許文献2】US2005/0208631
【非特許文献1】J. Biol. Chem., 273: 11225-11233, 1998.
【非特許文献2】PNAS vol.101, 17033-17038 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シアル酸の構造は主に2-3結合と2-6結合とに大別され、それぞれ抗原性が大きく異なる。2-6結合のシアル酸を有する6-スルホ糖鎖については、従来体内の存在は知られておらず、その検出方法もないためにこれまでその機能や作用は一切知られていなかった。また、本発明者らが樹立したシアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体(特許文献1、2)は、シアル酸の結合が2-3結合のものに限定されており、これまで2-6結合のシアル酸を有する6-スルホ糖鎖に対する抗体は存在しなかった。
本発明は、2-6結合のシアル酸を有する6-スルホ糖鎖に対する抗体を提供し、あわせて、この抗体を用いた癌の検査手段や治療手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、認識糖鎖中のシアル酸の結合が2-6結合である抗体を新規に樹立することに成功し、この抗体を用いて癌組織を検査した結果、本発明の抗体は、癌組織に発現する2-6シアリル6-スルホ糖鎖と反応し、2-3シアリル6-スルホ糖鎖とは反応しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記一般式
Siaα2→6Galβ1→3/4GlcNAcβ(6-sulfate)-
(式中、Siaαはαシアル酸を表し、Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Siaα2→6 はSiaαの2 位とGalβの6 位とが結合することを示し、Galβ1→3/4 は、Galβの1 位とGlcNAcβの3 位又は4 位とが結合することを示し、(6-sulfate)はGlcNAcβの6 位に硫酸基が付加していることを示す。)で表される糖鎖(本明細書において、この糖鎖を「2-6シアリル6-スルホ糖鎖」ということもある。)に特異的に反応するモノクローナル抗体である。該モノクローナル抗体としては、一般式Siaα2→3Galβ1→3/4GlcNAcβ(6-sulfate)- (式中、Siaα2→3 はSiaαの2 位とGalβの3 位とが結合することを示し、その他は上記と同義。)で表される糖鎖(本明細書において、この糖鎖を「2-3シアリル6-スルホ糖鎖」ということもある。)には反応しないことが好ましい



【発明の効果】
【0006】
本発明の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体は、2-3シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体(特許文献1、2)とは異なる癌細胞の認識部位を有する。そのため、本発明の抗体は、ヒトB細胞起源の悪性腫瘍の診断や治療、CD22を介したシグナルの阻止などに免疫調節薬として有用であると考えられる。とくにCD22を介したシグナルの阻止は、従前の2-3シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体では行い得ず、本発明の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体によってのみ可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の抗体は下記一般式で表される糖鎖(以下単に「2-6シアリル6-スルホ糖鎖」ともいう。)に特異的に反応する。
Siaα2→6Galβ1→3/4GlcNAcβ(6-sulfate)-
式中、Siaαはαシアル酸を表す。シアル酸は、動物細胞の細胞表面膜や分泌液に含まれるアミノ糖であり、多数の構造がありうるが、例えば、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)、9-O-アセチルノイラミン酸(9-O-acetyl NeuAc)、N-グリコリルノイラミン酸 (NeuGc)やそのグリコリル型である9-O-acetyl NeuGc、4-O-アセチルノイラミン酸(4-O-Acetyl NeuAc)、4,9-O-ジアセチルノイラミン酸 (4,9-O-diacetyl NeuAc)やそのグリコリル型である 4,9-O-diacetylNeuGcなどが挙げられるほか、4位と9位のみならず、7位や8位がアセチル化されたものも存在し、さらにこれらのdiacetyl型やtriacetyl型も存在しうる。その中で、最も多く存在するのが、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)である。
Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Siaα2→6 はSiaαの2 位とGalβの6 位とが結合することを示し、Galβ1→3/4 は、Galβの1 位とGlcNAcβの3 位又は4 位とが結合することを示し、(6-sulfate)はGlcNAcβの6 位に硫酸基が付加していることを示す。
なお、上記一般式は、糖鎖の非還元末端のみを表しており、還元末端側にラクトース、ラクトサミン等の糖鎖が結合していても良く、さらに該糖鎖を介して又は介さずにコレスタノール等の脂質、アルブミン等のタンパク質が結合していても良い。
【0008】
本発明の抗体は、正常B細胞及びB細胞由来の悪性細胞と反応し(実施例4)、かつ、いくつかの固形がん細胞とも反応する(実施例5)。
従って、本発明の方法により癌及び非癌疾患を鑑別することができる。現時点で確認されたものとして悪性リンパ腫、白血病、大腸癌、乳癌等が挙げられるが、これ以外の癌でも鑑別できるものと考えられる。
このような糖鎖を有する抗原は、癌患者から生検あるいは外科手術で得られたがん組織や、それに由来する物質を含む体液(血液、尿、髄液、関節液等)・腹水・糞便などの検体に存在する。またこれらから、この抗原をリン酸緩衝食塩水などで簡単に抽出することが出来る。
【0009】
また、癌の治療においては、本発明の2-6シアリル6-スルホ糖鎖のように、しばしば正常細胞に存在する分子であっても、悪性細胞に存在すれば、その分子をターゲットとした治療を行うことができる。例えば、B細胞由来の悪性細胞に対する抗体治療薬として臨床に導入されつつあるCD20抗体(rituximab)やCD22抗体(epratuzumab)なども、正常B細胞と立派に反応する抗体であり、また白血病の治療薬に用いられるCD33抗体も、正常白血球と反応する抗体である。治療によって正常白血球も破壊されるが、あとで正常白血球だけ補充することになる。
【0010】
この2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体は公知の抗体産生技術(例えば、Methods in Enzymology, 312: 160-179, 2000; Methods in Molecular Biology, 199: 203-218, 2002など)を用いて得ることができる。この抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでもよい。
また、この抗体としては、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体等が挙げられ、さらに抗体断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv、CDRを含むペプチドなど)、キメラ抗体(ヒト抗体と他の動物抗体とのキメラ抗体等)、ヒト化抗体も本発明の抗体に包含される。
標識化抗体又はその活性フラグメントを調製する場合、使用する標識体としては、放射性同位体(32P、3H、14C、125Iなど)、酵素(β-ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、補酵素・補欠分子族(FAD、FMN、ATP、ビオチン、ヘムなど)、蛍光色素(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)などのフルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体など)、金属粒子(金、銀、白金など)などを使用することができる。さらに、上記の標識体で標識された抗イムノグロブリン抗体(二次抗体)も本発明の抗体に対する標識体といえる。本発明においては標識体で直接標識された本発明の抗体、及び標識体で標識した二次抗体で間接的に標識された本発明の抗体を総称して「プローブ」という。
抗体又はその活性フラグメントの標識化は、選択した標識剤に適した公知の方法(「続生化学実験 講座5免疫生化学研究法」(株)東京化学同人(1986年発行)第102~112頁など参照)に従って行えばよい。
【0011】
また、人体の中に、2-3シアリル6-スルホ糖鎖を持たず、2-6シアリル6-スルホ糖鎖だけを持っている細胞があれば、その細胞にかかわる検査や治療は、本発明の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体でしかできない。このような細胞として、Bリンパ球が挙げられる。
本発明の抗体KN343と、本発明者らが作製した2-3シアリル6-スルホ糖鎖を認識する抗体G152(特許文献1、2、非特許文献1)を用いることにより、Bリンパ球が2-3シアリル6-スルホ糖鎖を持たず、2-6シアリル6-スルホ糖鎖だけを持っていることが明らかになった。このため、B細胞にかかわる検査や治療は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体でしかできない。B細胞以外にもこのような細胞が存在する可能性はある。
また、人体の中に、2-3シアリル6-スルホ糖鎖とは結合せず、2-6シアリル6-スルホ糖鎖だけに結合するリセプター分子があれば、そのリセプターにかかわる検査や治療は、本発明の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体でしかできない。例えば、Siglec-2(別名CD22)というリセプターは、まさにそういうリセプターである(実施例6)。このため、Siglec-2(別名CD22)にかかわる検査や治療は、本発明の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対する抗体でしかできない。
【実施例】
【0012】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
製造例1
本製造例では、2-6シアリル6-スルホ糖鎖を持つ細胞を作製した。
HEC-GlcNAc6ST(N-アセチルグルコサミン-6-硫酸基転移酵素。以下単に「6-硫酸基転移酵素」ともいう。)のcDNA(配列番号1)を組み込んだpIRES1neoベクター(pIRESneo-HEC-GlcNAc6ST)を作成し、遺伝子導入試薬Lipofetamin2000(Invitrogen)を用いて、SW480細胞(東北大学医用細胞資源センター)に導入した。導入後、400μg/ml G418含有したDMEM選択メディウムでコロニーを選択し、HEC-GlcNAc6STのプライマー5'-GCAGCATGAGCAGAAACTCAAG3'(配列番号2)及び5'-TCCAGGTAGACAGAAGATCCAG-3'(配列番号3)を用いたRT-PCRを59℃、35cycleの条件で行い、遺伝子発現の確認できた安定発現株を樹立した。
製造例2
本製造例では、2-6シアリル6-スルホ糖鎖に特異的に反応する抗体を作製した。
製造例1で得た6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入したヒト培養大腸癌細胞SW480を生細胞のまま抗原としてBALB/cマウス腹腔に初回免疫後2週間でおきに二回免疫(各2×107個)し、最終免疫の3日後に免疫マウスの脾細胞をBALB/c由来の骨髄腫細胞P3U1とポリエチレングリコール法にて融合させ、常法にて約1000クローンのハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの培養上清を細胞固相化96ウェルプレートを用いてELISAアッセイでスクリーニングを行い、6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入した培養細胞と反応し、6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入していない元細胞とは反応しない抗体を分泌するハイブリドーマ細胞をスクリーニングした。このハイブリドーマから、2-6シアリル6-スルホ糖鎖に特異的に反応する抗体(以下「KN343」という。)を得た。
【0013】
製造例3
本製造例では、対照として、2-3シアリル6-スルホ糖鎖を持つ細胞を作製し、この糖鎖に特異的に反応する抗体を作製した(特許文献1、2、非特許文献1)。
純品糖鎖Siaα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)(SO3--6)GlcNAcβ(岐阜大学農学部木曽 真教授により合成(Bioorg. Med. Chem., 4:1833-1847, 1996))をSalmonella minnesota strain R595 の菌株に吸着させ、これを抗原としてBALB/c マウス腹腔に初回 5μg (糖脂質量として), 3日後 (10μg), 7日後 (15μg), 12日後(20μg), 17日後(25μg), 31日後(35μg)のスケジュールで免疫し、最終免疫の3日後、免疫マウスの脾細胞を骨髄腫細胞P3U1と融合して製造例2と同様にハイブリドーマを得た。このハイブリドーマ細胞株を用いて常法により上記糖鎖(2-3シアリル6-スルホ糖鎖)に特異的に反応する抗体(以下「G152」という。)を得た。
【0014】
実施例1
培養ヒト大腸癌細胞SW480及び製造例1で作製した6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入したSW480細胞を用いて、製造例2及び3で得たKN343又はG152(いずれも培養上清を4倍希釈)を一次抗体として4℃30分間反応させ、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で三回洗浄した後、FITC標識抗マウスIg抗体(200倍希釈、Silenus Laboratories)を二次抗体として4℃30分間反応させ、PBSで三回洗浄した後、FACSCAN(ベクトンディッキンソン社)を用いてフローサイトメトリー法にて検出した。硫酸基取り込み阻害剤であるNaClO3 による処理では、亜塩素酸ナトリウム40mM存在下で細胞を7日間培養した。結果を図1に示す。
KN343は、6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入した培養細胞(HEC-GlcNAc6ST transfectant)と反応し、6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入していない元細胞(Parent)とは反応しない。このことから6-硫酸基を認識していることが明らかである。また6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入した培養細胞においても、NaClO3存在下で細胞を培養することによって硫酸基を減少させると(Nature vol.361, 555-557 (1993))、反応性は低下する。対照抗体のG152は、KN343と同じくやはり6-硫酸基を必要とするため、この実験においてはほぼ同じ結果が得られる。
【0015】
実施例2
ナマルバ(NAMALWA)細胞(ヒトB細胞系の悪性リンパ腫・白血病細胞、ATCC)の1×106個/1mlのPBS浮遊液をまず0.5% パラホルムアルデヒドで固定し、一回PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)で洗浄後1mlのPBS浮遊液とし、各種のシアリダーゼ、シアル酸転移酵素で処理した。こののち、NAMALWA細胞を、KN343抗体(培養上清を4倍希釈)を一次抗体として4℃30分間反応させ、PBSで三回洗浄した後、FITC標識抗マウスIg抗体(200倍希釈)を二次抗体として4℃で30分間反応させ、PBSで三回洗浄した後、FACSCAN(ベクトンディッキンソン社)を用いてフローサイトメトリー法にて検出した。
シアリダーゼS(シグマ社製)処理は、上記の細胞浮遊液中で酵素の終濃度5U/mlとして37℃で1時間処理したのちに洗浄した。
シアリダーゼA(シグマ社製)処理は、上記の細胞浮遊液中で酵素の終濃度0.05U/mlで37℃、1時間処理したのちに洗浄した。
2-6シアル酸転移酵素(2,6シアリルトランスフェラーゼ)処理は、上記のシアリダーゼA処理後の細胞浮遊液に対して50mg/ml CMP-NeuAc 10μl、35U/ml アルカリフォスファターゼ2μl、7.5 U/ml、10 U/ml 2,6シアリルトランスフェラーゼ(日本たばこ産業株式会社製)1μlを加え、30℃で1時間反応させたのちに洗浄した。
2-3シアル酸転移酵素(2,3シアリルトランスフェラーゼ)処理は、上記のシアリダーゼA処理後の細胞浮遊液に対して50mg/ml CMP-NeuAc 10μl、35U/mlアルカリフォスファターゼ 2μl、7.5U/ml 2,3シアリルトランスフェラーゼ(日本たばこ産業株式会社製)1.5μlを加え、30℃で1時間反応させたのちに洗浄した。
結果を図2に示す。
【0016】
図2に示すように、KN343の反応性は、2-3結合のシアル酸を切断するシアリダーゼSでは反応性は消失せず、2-3/2-6/2-8/2-9結合のシアル酸全てを切断するシアリダーゼAでのみ反応性が消失する。シアリダーゼAによって消失した反応性は、2-6シアル酸転移酵素の作用により回復し、2-3シアル酸転移酵素によっては回復しないことから、本抗体は2-6シアル酸を認識することが明らかである。
対照として用いたG152抗体は2-3結合のシアル酸を認識するため、シアリダーゼSによってもシアリダーゼAによっても反応性は消失し、2-6シアル酸転移酵素では反応性の回復は得られず、2-3シアル酸転移酵素によって反応性が回復する。
【0017】
製造例4
本製造例では、後記の実施例3で用いる2-6シアリル6-スルホラクトサミン糖鎖含有化合物を作製した。合成経路を図3に示す。図中の番号は各化合物の番号を示す。
6,6'位を異なった保護基で保護したラクトサミン供与体(化合物1)(Tetrahedron Lett 26:3-4(1985) 参照)とガラクトース3位をフリー(OH)としたラクトシルコレスタノール(化合物2)(Tetrahedron Lett 29:4097-100(1988)参照)をハフノセンジクロリド-銀トリフレート(Cp2HfCl2-AgOTf)触媒下、Matsumoto等による方法(Tetrahedron Lett 29:3567-70(1988)参照)により縮合を行い、フタルイミド基のアミノ基への変換、非還元末端ガラクトース6位の脱保護、次いでアミノ基のアジド基への変換を経て、4糖性糖鎖コレスタノール体(化合物3)を得た。
この4糖性糖鎖コレスタノール体(化合物3)とシアリルクロライド供与体(化合物4)(Chem Ber 99:611-17(1966)参照)とを水銀の触媒により縮合させ(adv Carbohydre Chem Biochem 7:209-45(1952)参照)、選択的なグルコサミン6位脱保護を行い、硫酸化を経て、全ての保護基を除去し、目的の2-6シアリル6-スルホラクトサミン糖鎖含有化合物5(β-Cholestanyl O-[Sodium(5-acetamido-3,5-dideoxy-D-glycero-α-D-galacto-2-nonulopyranosyl)onate]-(2→6)-O-(β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-(2-acetamido-2-deoxy-6-O-sulfo-β-D-glucopyranosyl)-(1→3)-O-(β-D-galactopyranosyl)-(1→4)-O-β-D-glucopyranoside sodium salt)を得た。この化合物の同定データ(薄層クロマトグラフィー(Rf値)、NMR)は以下の通りである。
【0018】
Rf : 0.29 (クロロホルム:メタノール:水=6:4:1)
C64H106O32N2Na2S MW : 1493.57
500 MHz H-NMR(CDCl3:CD3OD:D2O=2:3:1,TMS) δ;
2.023(s, 3 H, NAc) 2.032(s, 3 H, NAc) 2.710(dd, 1 H, J3eq,4=4.4 Hz, J3eq,3ax=12.0 Hz, H-3eeq)
3.250(dd, 1 H, J=8.1, 9.0 Hz) 4.133(d, 1 H, J=1.7 Hz)
4.244(dd, 1 H, J5,6=5.4 Hz, J6,6'=11.0 Hz, H-6c) 4.376(bd, 1 H, H-6'c)
4.414(d, 2 H, J1,2=7.6 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.450(d, 1 H, J1,2=7.8 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
4.740(d, 1 H, J1,2=7.8 Hz, H-1a or H-1b or H-1c or H-1d)
【0019】
実施例3
本実施例では、2-6シアリル6-スルホ糖鎖を固定化したプレートを用いて酵素免疫測定(ELISA)を行った。
製造例4で得た2-6シアリル6-スルホラクトサミン糖鎖含有化合物(20 ng/wellを起点として順次倍々希釈)、フォスファチジルコリン(100 ng/well)、コレステロール(50 ng/well)をエタノール溶液として24ウェルプレートの各ウェルに入れ、風乾した後、5%ウシ血清アルブミン(BSA)入りPBSで非特異反応をブロックし、KN343抗体は培養上清を2倍希釈し、抗CD75抗体は精製抗体を20倍希釈したものを50μl加え室温で二時間インキュベーションした後、三回洗浄の後、ペロキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgM抗体(1:1500、Cappel社)を50μl加え室温で一時間インキュベーションし、4回洗浄後通常のペロキシダーゼ発色液(O-phenylene diamine tablet, Sigma社 P-7288 20mgを25 mM クエン酸塩(Citrate), 50 mM Na2HPO4 50 ml に溶かした液に20μlの30% H2O2を使用直前に混じる)にて発色させ、2N H2SO4にて発色を停止してARVO 1420 multilabel counter(Wallac社)を用いて490 nmで吸光度を測定した。結果を図4に示す。
【0020】
KN343は、図左に示すように製造例4で作成したSiaα2→6Galβ1→4GlcNAcβ(6-sulfate)構造の2-6シアリル6-スルホラクトサミン糖鎖含有化合物とのみ反応し、図右のような硫酸基のないSiaα2→6Galβ1→4GlcNAcβ糖鎖とは反応しない。Siaα2→6Galβ1→4GlcNAcβ糖鎖と反応することが知られているCD75抗体(Chemicon社製)は、Siaα2→6Galβ1→4GlcNAcβ(6-sulfate)とは反応しない。
【0021】
実施例4
健康人の末梢血をEDTAで抗凝固して採血後、全血のままKN343抗体又はG152抗体(培養上清を10倍希釈)を一次抗体として4℃で30分間反応させ、PBSで三回洗浄した後、FITC標識抗マウスIgM抗体(200倍希釈)及びPhycoerythrin標識抗CD3抗体(Leu4, Becton Dickinson社)あるいは抗CD19抗体(Leu12, Becton Dickinson社)と4℃で30分間反応させて二重染色し、Q-Prep機器とImmunoPrep試薬(ともにCoulter社)を用いて赤血球を溶血、血球を洗浄した後、FACSCAN(ベクトンディッキンソン社)を用いてフローサイトメトリー法にて検出した。結果を図5に示す。
その結果、KN343抗体はCD19陽性のB細胞を強く染色し、CD3陽性のT細胞とはごく弱くしか反応しなかった(図5左)。これに対し、G152抗体は我々が既に以前報告したように、CD19陽性のB細胞とほとんど全く反応せず、CD3陽性のT細胞の一部と反応することがわかった(図5右)。
このことは、ヒトの正常B細胞はKN343抗体の認識糖鎖である2-6シアリル6-スルホ糖鎖を発現するが、G152抗体の認識糖鎖である2-3シアリル6-スルホ糖鎖をほとんど発現していないことを示す。
【0022】
実施例5
NAMALWA細胞(上記)及びRaji細胞(ヒトB細胞系の悪性リンパ腫・白血病細胞、ATCC)をウシ胎児血清10%を含む細胞培地RPMI1640で培養して増やし、PBSで洗浄した後、KN343抗体(培養上清を4倍希釈)を一次抗体として4℃で30分間反応させ、PBSで三回洗浄した後、FITC標識抗マウスIg抗体(200倍希釈)を二次抗体として4℃30分間反応させ、PBSで三回洗浄した後、FACSCAN(ベクトンディッキンソン社)を用いてフローサイトメトリー法にて検出した。結果を図6に示す。
KN343抗体は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖が悪性リンパ腫・白血病細胞(NAMALWA細胞とRaji細胞)に発現していることが明らかにするとともに、悪性リンパ腫・白血病細胞を検出することができることを示した。
【0023】
実施例6
細胞上の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対するSiglec-2 (CD22)とリコンビナントE-セレクチンの結合に対するKN343抗体による阻止を調べた。
Siglec-2(CD22)はBリンパ球の抗体産生抑制分子(negative regulator)であり、2-6シアリル6-スルホ糖鎖に特異的に結合することが知られている(非特許文献2等)。E-セレクチンは、2-3シアリルルイスx糖鎖に結合し、2-6シアリル6-スルホ糖鎖に結合しないことが知られている。
【0024】
24ウェルプレートにリコンビナントSiglec-2(R&D社製)あるいはリコンビナントE-セレクチン(R&D社市販品)を固相化(E-セレクチンは2 μg/ml, Siglec-2は20 μg/ml)したのち、2%BSA入りPBSで非特異的接着をブロックした。阻害抗体としてKN343抗体(原倍)を各ウェルに250μl加えて室温30分間インキュベーションしたのち、予め蛍光色素2'7'-bis-(carboxyethyl)-5-(and-6)-carboxyfluorescein acetoxymethyl ester (BCECF-AM, 同仁化学)で蛍光標識したNAMALWA細胞(上記)を各ウェルあたり1x106個入れて室温で室温80rpmで振とうさせつつ20分間接着させた。非接着細胞をCa,Mg含有PBSで3回洗浄することにより取り除き、リコンビナントSiglec-2あるいはリコンビナントE-セレクチンでコートしたプレートに対して接着した細胞を1% Nonidet P-40で可溶化した。ARVO 1420 multilabel counter(Wallac社)を用いて蛍光強度を測定することにより、接着細胞数を算出した。結果を図7に示す。
NAMALWA細胞に対するリコンビナントSiglec-2の結合に対して、KN343抗体は阻止作用を示すのに対し、リコンビナントE-セレクチンの結合に対してはKN343抗体は阻止作用を示さない。
即ち、KN343抗体は、2-6シアリル6-スルホ糖鎖がSiglec-2 (CD22)に結合するのを阻止し中和する作用がある。Siglec-2 (CD22)はBリンパ球における抗体産生とIgスイッチ機構を制御する重要な分子であることは近年注目されているので(Science, 298: 2392-2395, 2002)、本抗体は免疫制御にも応用でき、免疫調節剤として有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】6-硫酸基転移酵素遺伝子を導入したヒト大腸癌細胞SW480について、フローサイトメトリー法による本発明のKN343抗体との反応性を示す図である。比較のため、2-3シアリル6-スルホ糖鎖を認識するG152の結果も示す。縦軸は細胞頻度(細胞個数)、横軸は蛍光強度(Arbitrary Unit)を表す。
【図2】各種のシアリダーゼ及びシアル酸転移酵素で処理したNAMALWA細胞について、フローサイトメトリー法による本発明のKN343抗体との反応性を示す図である。シアリダーゼSは、2-3結合のシアル酸を切断し、シアリダーゼAは2-3/2-6/2-8/2-9結合のシアル酸全てを切断し、2-6シアル酸転移酵素は2-6結合のシアル酸を回復させ、2-3シアル酸転移酵素は2-6結合のシアル酸を回復させる。
【図3】製造例4で合成した2-6シアリル6-スルホラクトサミン糖鎖含有化合物の合成経路を示す図である。図中、Acはアセチル基、Bnはベンジル基、MPはメトキシフェニル基、Phthはフタロイル基、Allはアリル基、Levはレブリノイル基、Chorestanolはコレスタノールから水酸基を除いた残基を表す。
【図4】KN343抗体の純品糖鎖との反応性を示す図である。
【図5】KN343抗体を用いたフローサイトメトリー法により、健康人の末梢血リンパ球における2-6シアリル6-スルホ糖鎖の出現を示す図である。B細胞はCD19陽性であり、T細胞はCD3陽性である。
【図6】KN343抗体を用いたフローサイトメトリー法により、ヒトB細胞系の悪性リンパ腫・白血病細胞NAMALWA及びRaji細胞における2-6シアリル6-スルホ糖鎖の検出を示す図である。
【図7】細胞上の2-6シアリル6-スルホ糖鎖に対するSiglec-2 (CD22)の結合のKN343抗体による阻止実験を示す図である。グラフの横軸はSiglec-2(上)あるいはE-セレクチンへの接着細胞数を、KN343非存在下での接着細胞数を100%として表示したものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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