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明細書 :化合物超伝導体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4885001号 (P4885001)
公開番号 特開2008-195582 (P2008-195582A)
登録日 平成23年12月16日(2011.12.16)
発行日 平成24年2月29日(2012.2.29)
公開日 平成20年8月28日(2008.8.28)
発明の名称または考案の名称 化合物超伝導体及びその製造方法
国際特許分類 C01G   1/00        (2006.01)
H01L  39/24        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
C01F   7/00        (2006.01)
C30B  29/22        (2006.01)
FI C01G 1/00 ZAAS
H01L 39/24 B
H01B 13/00 565D
C01F 7/00 C
C30B 29/22 501B
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2007-034143 (P2007-034143)
出願日 平成19年2月14日(2007.2.14)
審査請求日 平成20年8月25日(2008.8.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宮川 仁
【氏名】金 聖雄
【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】小濱 芳允
【氏名】阿竹 徹
【氏名】川路 均
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】佐藤 哲
参考文献・文献 特開2002-003218(JP,A)
国際公開第2006/129674(WO,A1)
特開2003-040697(JP,A)
国際公開第2005/000741(WO,A1)
調査した分野 C01G 1/00 - 23/08
C01F 7/00 - 7/76
C30B 29/22
H01B 13/00
H01L 39/24
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
化学式[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA+2{1-(x+2y) }e] (A
はケージに包接された、OH、O又はOのいずれか1種以上、0≦x+2y≦0
.5)で示されるマイエナイト型結晶構造を有する化合物であることを特徴とする化合物
超伝導体。
【請求項2】
化学式が[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (Aはケージに包接された、O
、O又はOのいずれか1種以上、0≦x≦1、y=1-x) で示されるマイエ
ナイト型結晶構造を有する化合物を磁性イオンが含有されない方法で調製し、該化合物の
ケージに包接されたO2-及びAの合計成分量(x+2y)の50原子%以上を電子で置
換することを特徴とする請求項1に記載した化合物超伝導体の作成方法。
【請求項3】
前記化合物がフローテングゾーン法(FZ法)で調製した単結晶であることを特徴とする請
求項2に記載した化合物超伝導体の作成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マイエナイト(MAYENITE)型結晶構造を有する化合物からなる超伝導体及びそ
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1911年に水銀の超伝導現象が発見されて以来、今日までに超伝導を示す様々な化合
物が見出され、超伝導磁石や磁気センサ(SQUID)として実用化されている。特に、近年、
ペロブスカイト型銅酸化物化合物群で超伝導転移温度Tcが100Kを超える超伝導化合
物が見出され(非特許文献1)、室温超伝導体実現の可能性が高まり、精力的な研究開発
が進められている(非特許文献2、3)。
【0003】
この結果、ペロブスカイト型銅酸化物化合物群に加えて、MgB2 (Tc=39K) (非特許
文献4)、Sr2RuO4 (Tc=0.93K) (非特許文献5)、Na0.3CoO2・1.3H2
(Tc=5K) (非特許文献6) などの新たな超伝導化合物が見出され、超伝導を示す化合物
群は広がったが、いまだ室温超伝導体の発見には至っていない。
【0004】
室温超伝導実現には、超伝導を示す新しい化合物群の更なる発見が必要である。こうし
た化合物群の一つの候補がエレクトライド化合物群であり、その中でも、熱的及び化学的
に安定な12CaO・7Al23(以下C12A7)エレクトライドが重要である。マイエナイ
ト型結晶構造を有するC12A7結晶は、CaOとAl23の2成分系の相平衡図に見ら
れる安定な化合物で、アルミナセメントの構成成分として、広く実用化されている。
【0005】
本発明者らは、活性酸素種を包接するC12A7化合物及びその製造方法に関する発明
(特許文献1)や高濃度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC1
2A7単結晶を育成するFZ法に関する発明(特許文献2)を特許出願している。
【0006】
他に、活性酸素種を包接するC12A7化合物の製造方法としては、非晶質のカルシウ
ムアルミネートを原料に用い、酸素分圧4×104Pa以上の雰囲気下にniおいて、1
100℃以上、溶融温度以下に加熱する方法(特許文献3)、高温下で高い酸素イオン伝
導性を有する基板上に酸素ラジカル含有カルシウムアルミネート粉末を用いて溶射する方
法(特許文献4)、カルシア源、アルミナ源、シリカ源を混合し、次に、加熱して、カト
アイト構造を経由し、マイエナイト構造を有する無機化合物を製造する方法(特許文献5
)が知られている。
【0007】
処理前物質であるC12A7単結晶をCa金属蒸気又はTi金属蒸気中で熱処理すること
により、C12A7中に電子を高濃度で包接することができる。本発明者らは、C12A
7に高濃度の電子を包接する方法に関する発明について特許出願している(特許文献6)
。より高温で熱処理が可能であり、熱処理時間が短縮できること、及び酸素・電子置換の
結果、試料表面に形成されるTiOが酸素イオン伝導体であり、置換反応がより進行す
る観点から、Ti金属蒸気処理の方が、Ca金属蒸気処理より優れている(特許文献7)

【0008】
また、本発明者らは、高い電気伝導性を有するC12A7及び同型結晶化合物及びその
製造方法(特許文献8)や導電性マイエナイト型化合物の製造方法(特許文献9~12)
に関する発明を特許出願した。
【0009】

【非特許文献1】J.G.Bednorz and K.A.Muller Z. Phys. B64, 189(1986)
【非特許文献2】津田惟雄、那須奎一郎、藤森敦、白鳥紀一 改訂版「電気伝導性酸化物」,p350-452,裳華房(1993)
【非特許文献3】前川禎通, 応用物理 75, 17(2006)
【非特許文献4】J.Nagamatsu, N.Nakagawa, T.Muranaka, Y.Zenitani and J.Akimitsu, Nature 410, 63(2001)
【非特許文献5】Y.Maeo, H.Hashimoto, K.Yoshida, S.Nishizawa, T.Fujita, J.G.Bednorz, F.Lichyenberg, Nature 372, 532(1994)
【非特許文献6】K.Takada, H.Sakurai, E.Takayama-Muromachi, F.Izumi, R.A.Dilanian, and T.Sasaki,Nature 422, 53(2003)
【特許文献1】特開2002-3218号公報
【特許文献2】特開2003-040697号公報
【特許文献3】特開2003-226571号公報
【特許文献5】特開2005-35858号公報
【特許文献4】特開2006-83009号公報
【特許文献6】再公表2005-000741号公報
【特許文献7】PCT/JP2006/322991
【特許文献8】特開2005-314196号公報
【特許文献9】特開2006-327894号公報
【特許文献10】WO2005/077859A1
【特許文献11】WO2006/129674A1
【特許文献12】WO2006/129675A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
C12A7結晶の単位胞には2式量が含まれ、化学式は[Ca24Al2864]4+・2O
2-と記述できる。[ ]内は骨格構造の組成を示し、骨格構造には12個の多面体ケージ
(内径約0.4nm)が存在する。2O2-は、多面体ケージの中に包接されている酸素イオン
を示しており、該酸素イオン(O2-)は、ケージ壁を構成するカルシウムイオンと緩く
結合しているため「フリー酸素イオン」と呼ばれている。該フリー酸素イオンは、Ca金
属蒸気又はTi金属蒸気中での熱処理などのC12A7の還元処理により、電子に置換す
ることができる。
【0011】
また、C12A7中のフリー酸素イオン(O2-)の一部又は全部がOH、酸素イオ
ンラジカル(O)、又は超酸素イオンラジカル(O)のいずれか1種以上のアニオ
ンで置換された化合物、すなわち、[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (A
はケージに包接された、OH、O又はOのいずれか1種以上、0≦x≦1、y=
1-x)でも、これらの包接アニオンは、Ca金属蒸気又はTi金属蒸気を用いたC12
A7の還元処理により、電子に置換することが出来る。
【0012】
すべての包接アニオンを電子で置換した結果生じる[Ca24Al2864]4+・4e
、電子が特定の結晶サイトを占め、電子がアニオンとしての働きをし、電子が骨格構造と
イオン結合しているとみなすことができる。こうした化合物は、「エレクトライド」と呼
ばれている。
【0013】
C12A7エレクトライドでは、ケージに電子が閉じ込められた状態が繋がって、電子
伝導帯(以下では、「ケージ伝導帯」と呼ぶ)を構成し、ケージに電子が単位格子あたり
2個以上詰まったときには、金属的な伝導を示す。ケージ伝導帯は、比較的にバンド幅が
狭く、フェルミ準位近傍に高密度に電子が存在する、また、電子・格子相互作用が大きい
など、理論的限界(単位格子あたり4個)まで電子濃度を高めれば、超伝導状態を実現で
きると考えられる。
【0014】
ペロブスカイト型銅酸化物化合物群において、Tcが100Kを超える高温超伝導体化
合物が見出されているが、多くの研究開発にもかかわらず、まだ、室温超伝導体は見出さ
れていない。室温超伝導体を開発するための有力な方策は、これまでとは異なる視点から
材料を見つめ、新たな超伝導化合物を見出し、超伝導化合物の系を拡げていくことである

【課題を解決するための手段】
【0015】
ペロブスカイト型銅酸化物化合物群では、二次元に束縛された銅イオンのd電子が電気
伝導を担っており、超伝導転移温度以下で超伝導体に遷移する。この事実から、一次元的
電子状態から構成される電子伝導帯を有する化合物でも超伝導が出現することが期待され
る。本発明者らは、この条件を満たす化合物の一つであるマイエナイト型結晶構造を有す
るC12A7エレクトライドで超伝導状態を実現できることを発見した。ナノメーター径
のケージ構造を内包するマイエナイト構造では、該ケージ中に電子を包接させた場合、該
電子は一次元電子状態を有する。
【0016】
本発明者らは、これまでに、チョコラフスキー法で育成したC12A7単結晶をチタン
金属蒸気中で熱処理することにより、該単結晶中に、1021cm-3超の電子を包接し
たC12A7エレクトライドを製造することに成功した。該単結晶は、金属的な電気伝導
を示し、室温で約1500S/cmの電気伝導度を示した。しかし、結晶成長中の原料融
解をイリジウム坩堝中で行っているため、該坩堝から育成した単結晶中に、磁性イオンで
あるイリジウムが5×10-1原子%程度含まれているために、伝導電子と磁性イオン間
のs-d相互作用により「近藤状態」が生じ、超伝導状態は実現されていなかった。本発
明者らは、マンガン、鉄、イリジウム、白金などの磁性イオンを含まないC12A7エレ
クトライドにおいて、超伝導状態が発現することを発見した。
【0017】
すなわち、本発明は、化学式[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA+2{1-
(x+2y) }e] (Aはケージに包接された、OH、O又はOのいずれか1種
以上、0≦x+2y≦0.5)で示されるマイエナイト型結晶構造を有する化合物である
ことを特徴とする化合物超伝導体、である。なお、化学式中のx、yは、O2-およびA
の成分量をそれぞれ示す数値である。
【0018】
また、本発明は、化学式が[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (Aはケー
ジに包接された、OH、O又はOのいずれか1種以上、0≦x≦1、y=1-x
) で示されるマイエナイト型結晶構造を有する化合物を磁性イオンが含有されない方法で
調製し、該化合物のケージに包接されたO2-及びAの合計成分量(x+2y)の50原
子%以上を電子で置換することを特徴とする上記の化合物超伝導体の作成方法、である。
【0019】
また、本発明は、前記化合物がフローテングゾーン法(FZ法)で調製した単結晶である
ことを特徴とする上記の化合物超伝導体の作成方法、である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、超伝導を示す新規な超伝導化合物群の一つとしてC12A7エレクトライド
からなる超伝導体を提供するものであり、超伝導化合物の系を拡げていくことに寄与する

【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の超伝導体は、C12A7エレクトライドに包接されているアニオンの全体(下
記の式のx+2y)の1/2以上が電子で置換された[Ca24Al2864]4+・2[xO
2-+2yA+2{1-(x+2y) }e] (Aはケージに包接された、OH、O
はOのいずれか1種以上、0≦x+2y≦0.5)の化学式で示されるマイエナイト
型結晶構造を有する化合物であり、室温で金属伝導を示し、超伝導転移温度(Tc=約0.2K
)以下で、超伝導を示す。この化学式において、0≦x+2y≦0.5の場合、2{1-(
x+2y) }eは、e~2eとなり、その値を電子濃度に換算すると、約1.2×
1021cm-3以上2.3×1021cm-3以下となる。
【0022】
約1.2×1021cm-3以上の電子を包接させたC12A7エレクトライドには、
約1.1×1021cm-3以下のアニオン(一価換算)が含まれているが、これらのア
ニオンは、O2-、OH、O又はOであっても、C12A7エレクトライドの電
気伝導特性には、本質的な影響を及ぼさず、超伝導転移温度以下では、超伝導体となる。
しかし、OHイオンを電子で置換する反応は、速度が遅いため、処理前物質には、OH
が含まれないことが望ましい。こうしたOHが含まれない処理前物質は、酸素を1容
積%以上含む乾燥雰囲気で、C12A7を製造・処理することで得ることができる。
(1)出発物質の調製
【0023】
C12A7は、例えば、カルシウムとアルミニウムを原子当量比で12:14含む原料
を用い、焼成温度1200℃以上1415℃未満で固相反応させて焼結体とすることで合
成される。代表的な原料は炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末の混合物である。
【0024】
本発明の超伝導体の出発物質とされるものは、化学式が[Ca24Al2864]4+・2O
2-で示されるフリー酸素イオンを含むマイエナイト型結晶構造を有するC12A7化合
物である。C12A7化合物のフリー酸素イオンを、OH基、酸素イオンラジカルなどの
一価のアニオンで置換した[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (Aはケージ
に包接された、OH、O又はOのいずれか1種以上、0≦x≦1、y=1-x)
で示される化合物でもよい。OH基・電子置換は1200℃以上の高温還元処理を必要と
するので、還元処理温度を低くするためにはOH基の含有量が少ないことが望ましい。
【0025】
マイエナイト型結晶構造を有し、化学式が[Ca24Al2864]4+・2O2-で表され
る化学量論組成のC12A7は、上記のC12A7の合成を水蒸気露点約-40℃の乾燥
空気中で行い、焼成温度からの冷却過程で900℃付近から室温まで急冷することで得ら
れる。しかし、乾燥酸素雰囲気で徐冷した場合は、フリー酸素イオンの一部が活性酸素イ
オンラジカル(O)及び超酸素イオンラジカル(O)に置換され、水分を含む大気
雰囲気で合成した場合は、OH基が含まれる。これらのアニオンを含むC12A7は、[
Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (Aはケージに包接された、OH、O
又はOのいずれか1種以上、0≦x≦1、y=1-x)で示される。
【0026】
また、出発物質の形態は、粉末、膜、多結晶体、単結晶のいずれでもよい。フリー酸素
・電子置換処理又は一価アニオン・電子置換処理により、C12A7に包接される電子濃
度を高めるため、また、C12A7の表面に形成される酸化膜を完全に取り除くためには
、フリー酸素・電子置換処理又は一価アニオン・電子置換処理前のC12A7(以下「処
理前物質」という)の形態は、単結晶であることが望ましい。
【0027】
処理前物質にマンガン、鉄、イリジウム、白金などの磁性イオンが含有されていると伝
導電子と不純物磁性イオンとの相互作用により超伝導状態は実現できない。処理前物質か
ら磁性イオンを除くために、C12A7の合成の原料として磁性イオンを含まない高純度
原料を用いる必要がある。また、C12A7単結晶を育成する場合は、磁性材料を含む坩
堝を使用することはできない。イリジウム坩堝を用いるチョコラルスキー法で育成したC
12A7単結晶を用いることはできない。坩堝が不必要なFZ法で育成した磁性イオンを
含まないC12A7単結晶が最も適している。
【0028】
処理前物質に適した形態であるC12A7単結晶は、前記の固相反応で得られたC12
A7焼結体を前駆体として、フローテングゾーン法(FZ法)又は、チョコラルスキー法(
CZ法)によって得ることができる。FZ法は、坩堝を使用しないので、育成中に磁性イオ
ンなどの不純物の混入がなく、処理前物質として、特に好ましい。
【0029】
CZ法で、イリジウム磁性イオンを含まないC12A7単結晶を得るためには、イリジ
ウム以外の組成の坩堝、例えばアルミナ坩堝、カーボン坩堝を使用する必要があるが、こ
れらの坩堝を用いた場合は、単結晶の育成は、非常に困難で、これまでに成功した例はな
い。
【0030】
(2)還元処理工程
C12A7に包接されているO2-、OH、O又はOのいずれか1種以上のア
ニオンは、Ti蒸気処理又はCa蒸気処理により、電子に置換することができる。以下に
、C12A7に包接されているO2-を電子に置換する場合について具体的に説明するが
、OH、O又はOのいずれか1種以上のアニオンが包接されている場合も同様で
ある。
【0031】
Ti蒸気処理は、前記のPCT/JP2006/322991に記載している方法と同
じ方法であり、処理前物質のC12A7を、チタン金属の蒸気を含む雰囲気中、1時間以
上240時間未満、望ましくは、10時間超14時間未満保持した後、300℃/時間程
度の降温速度で室温まで冷却する。
【0032】
チタン金属の蒸気を含む雰囲気は、石英ガラスのような熱的、化学的耐久性のある容器
中にチタン金属片や粉末と処理前物質のC12A7を真空封入し、600℃超1450℃
未満、望ましくは1000℃超1450℃未満の温度に加熱してチタン金属の蒸気を発生
させて形成するとよい。C12A7は気相の金属蒸気と直接反応するのではなく、C12
A7表面に堆積した金属Tiと反応すると思われるので、容器中のチタン金属の蒸気圧は
、厳密に制御する必要はない。600℃超1450℃未満の範囲内の選択する熱処理温度
での平衡蒸気圧にするのに十分なチタン金属片や粉末が容器中に存在すれば加熱時間が1
時間よりも長いので平衡蒸気圧になる。例えば、内容量10cmの封管用石英ガラス管
中に5gのチタン金属を封入すれば、平衡蒸気圧を得ることができる。または、別のとこ
ろで平衡蒸気圧のチタン金属の蒸気を発生させ、これを600℃以上、1450℃未満に
加熱しているC12A7のところに流通させても良い。
【0033】
いずれの方法でも、雰囲気中の酸素を除くため、雰囲気は真空にする必要がある。石英
ガラス管を用いた場合には、該ガラスの軟化点未満の温度で熱処理する必要があり、熱処
理温度は1000℃超1200℃未満が適している。石英ガラスに代わって、アルミナ管
を用いる場合には、1200℃超1450℃未満での熱処理が可能である。
【0034】
チタン金属の蒸気は、C12A7の表面にチタン金属として堆積し、C12A7の内部
に包接されケージ中に含まれているフリー酸素とチタン金属とが反応して、C12A7の
表面に酸化チタニウム(TiO)膜を形成する。C12A7を保持する温度を高温に保
つとC12A7中の酸素拡散が早くなり、またC12A7の表面でのチタン金属とフリー
酸素との反応速度が大きくなり、フリー酸素の引き抜き、すなわちC12A7中のフリー
酸素イオンが電子に置換されて減少又は消失する現象が高速に進展する。焼結体及び薄膜
試料で、フリー酸素の引き抜き反応を緩やかにすることが要求される場合には、熱処理温
度を600℃程度の低温にすればよい。600℃より低い温度では、チタン金属の蒸気圧
が小さく、また、フリー酸素の引き抜き反応速度が遅く、高濃度の電子を含むC12A7
化合物を作成することができない。
【0035】
しかし、熱処理温度が1450℃を超えるとC12A7が分解する、又は、融解してし
まうためC12A7エレクトライドを得ることが出来ない。また、熱処理時間が240時
間を越えると、石英管などから酸素が析出し、フリー酸素の引き抜き反応が抑制され、C
12A7エレクトライド中の電子濃度は飽和してしまう。石英ガラスからの酸素析出量が
多いときは、逆に、電子含有量は減少してしまう。
【0036】
保持時間は1時間程度からフリー酸素の引き抜き反応が見られるが、保持時間の長さと
共に、引き抜かれるケージ中に含まれていたフリー酸素量が増加し、C12A7表面のT
iO層が厚くなる。しかし、C12A7表面が完全にTiOで覆われても、TiO
中を酸素が拡散するために、引き抜き反応が阻害されることはなく、熱処理時間を十分長
く取れば、ほぼ完全に、すなわち約95%以上のフリー酸素を電子で置換することができ
る。引き抜かれたフリー酸素量、すなわちC12A7のケージ中に含まれる電子濃度は、
X線回折スペクトル、TiO層の厚さ、0.4eV及び2.8eV付近にピークを持つ
光吸収バンド強度、又は電気伝導度から求める事ができる。
【0037】
Ca蒸気処理は、前記の特願2005-510971(再公表2005-000741
号公報)に記載している方法と同じ方法であり、処理前物質のC12A7を、Ca蒸気を
含む雰囲気中、600℃以上、800℃未満の温度、望ましくは700℃の温度に、4時
間から240時間保持した後、300℃/時間程度の降温度速度で室温まで冷却する。C
a蒸気を含む雰囲気は、石英ガラスのような熱的、化学的耐久性のある容器中にCa金属
片や粉末と処理前物質を真空封入するとよい。
【0038】
Ca金属蒸気は、単結晶の表面に堆積し、単結晶内部に包接されているフリー酸素と反
応して、表面に酸化カルシウム層を形成する。単結晶を保持する温度が600℃未満、特
に500℃以下では、フリー酸素の引き抜き反応が著しく遅く、800℃以上では、フリ
ー酸素の引き抜きが急速に進み、C12A7化合物が分解してしまう。保持時間の長さと
共に、引き抜かれるフリー酸素量が増加し、表面の酸化カルシウム層が厚くなる。700
℃で、240時間保持するとほぼ全量のフリー酸素が引き抜かれ、電子と置き換わり、酸
化カルシウム層の内側にエレクトライドC12A7化合物が形成される。引き抜かれたフ
リー酸素量は、X線回折スペクトル、酸化カルシウム層の厚さ、0.4eVにピークを持
つ光吸収バンド強度、又は電気伝導度から求める事ができる。
【実施例1】
【0039】
本発明を実施例により、より詳細に説明する。高純度の炭酸カルシウム粉末(4N)と酸
化アルミニウム粉末(4N)を原子当量比で12:14に混合し、アルミナ坩堝中で均一に
なるように混合し、焼成温度1300℃で固相反応させて焼結体を作成した。
【0040】
作成したC12A7焼結体をロッド形状にプレス成型した。該ロッドを用いて、酸素1
容積%を含むアルゴンガス雰囲気中で、FZ法によりC12A7単結晶を育成した。育成
した単結晶は、無色透明で、電気的絶縁性(<約10Scm-1)であった。また、電子スピ
ン共鳴吸収測定及び赤外光吸収スペクトルから、酸素イオンラジカル及びOH基は含まれ
ていないことが分かる。また、電子スピン共鳴吸収スペクトルから、磁性イオンが含まれ
ていないことが分かる。
【0041】
すなわち、FZ法では、育成された結晶が急冷されていること及び雰囲気中に水分が含
まれていないために、結晶中には、酸素イオンラジカル、超酸素イオンラジカル及びOH
基が含まれず、FZ法で育成された単結晶は、化学式[Ca24Al2864]4+・2[xO
2-+2yA] (Aはケージに包接された、OH、O又はOのいずれか1種以上
、y=1-x) においてx=1に相当する。
【0042】
FZ法で育成したC12A7単結晶(2mm×1mm×0.1mm)を、金属Ti粉末7gと共に
シリカガラス管(1cmφ)に入れ、ロータリーポンプで10-2Pa程度に真空引きした
後、約5cmの長さでシリカガラス管を封止した。封止したシリカガラス管を電気炉中で
1000℃に昇温し、Ti金属蒸気を発生させて12時間保持しC12A7を還元処理し
た。
【0043】
還元処理中の容器内の雰囲気は、封入シリカ管中の金属Tiが酸素を吸収するために、
真空度が向上し、強い還元雰囲気になる。また、金属Ti膜がC12A7単結晶上に堆積
し、C12A7単結晶中のフリー酸素と反応して、表面にTiO膜を形成する。TiO
膜の形成は、X線回折スペクトルから確認した。
【0044】
該還元処理を経たC12A7単結晶は黒茶色を呈し、室温で約1500Scm-1の電
気伝導性を示した。また、電気伝導率は、温度の低下とともに増加する金属的電気伝導を
示した。2.8eV付近にピークを有する強い光吸収があり、その吸収係数の値から、電
子濃度は、1.2×1023cm-3と見積もられた。
【0045】
得られた試料表面に形成されたTiO膜を、1500番研磨紙を用いて、機械的に取
り除いた後、4端子の電極を取り付け、電気抵抗率を極低温まで4端子法で測定した。図
1に、試料の電気抵抗率の温度依存性を示す。0.2K付近から電気抵抗率の急激な落ち
込みが観測され、0.15Kで電気抵抗率がゼロになった。また、図2に示すように、試
料に外部磁場を印加すると、電気抵抗率が落ち込む温度が、磁場の強さと共に、低温側に
シフトした。以上の結果から、C12A7エレクトライドが0.2KのTcをもつ超伝導
体であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本超伝導体は、ジョセフソン素子などの電子デバイス材料として、またそれらの電子素
子間の配線材料として使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で得られたC12A7エレクトライド単結晶の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
【図2】実施例1で得られたC12A7エレクトライド単結晶の磁場を印加したときの電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1