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明細書 :超伝導化合物薄膜及びその作成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4885002号 (P4885002)
公開番号 特開2008-195583 (P2008-195583A)
登録日 平成23年12月16日(2011.12.16)
発行日 平成24年2月29日(2012.2.29)
公開日 平成20年8月28日(2008.8.28)
発明の名称または考案の名称 超伝導化合物薄膜及びその作成方法
国際特許分類 C01G   1/00        (2006.01)
C01F   7/00        (2006.01)
H01L  39/24        (2006.01)
H01B  12/06        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
C23C  14/08        (2006.01)
FI C01G 1/00 ZAAS
C01F 7/00 C
H01L 39/24 B
H01B 12/06
H01B 13/00 565D
C23C 14/08 K
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2007-034150 (P2007-034150)
出願日 平成19年2月14日(2007.2.14)
審査請求日 平成20年8月25日(2008.8.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宮川 仁
【氏名】金 聖雄
【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】佐藤 哲
参考文献・文献 特開2008-195582(JP,A)
特開2005-035857(JP,A)
国際公開第2005/000741(WO,A1)
特開2002-211907(JP,A)
調査した分野 C01G 1/00 - 23/08
C01F 7/00 - 7/76
C23C 14/08
H01B 12/06
H01B 13/00
H01L 39/24
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
化学式[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA+2{1-(x+2y)}e] (
A=OH、O、Oのいずれか1種以上、0≦x+2y≦0.5)で示され、超伝
導電気伝導を示し、かつ膜厚40ナノメートルを基準として、JIS R1635で規定
される方法により測定した可視光透過率が80%以上であるマイエナイト型結晶構造を有
する化合物からなることを特徴とする超伝導化合物薄膜。
【請求項2】
化学式が[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (2番目の大括弧は、ケージ中
のアニオンを示す。また、A=OH、O、Oのいずれか1種以上:0≦x≦1、
y=1-x)で示される結晶薄膜中のアニオンの1/2以上を還元処理により電子に置換
することを特徴とする請求項1に記載した超伝導化合物薄膜の作成方法。
【請求項3】
基板として、その上に成膜する薄膜に対して酸化機能を有しない基板を用い、該基板上に
化学式が[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (2番目の大括弧は、ケージ中
のアニオンを示す。また、A=OH、O、Oのいずれか1種以上:0≦x≦1、
y=1-x)で示される結晶薄膜を育成し、次いで、基板を500~700℃の範囲に加
熱しながら、その上に酸素欠損アモルファスC12A7膜を堆積させ、該酸素欠損アモル
ファスC12A7膜により該結晶薄膜からO2-、OH、O、Oのいずれか1種
以上を引き抜くことにより還元処理することを特徴とする請求項2記載の超伝導化合物薄
膜の作成方法。
【請求項4】
Al12単結晶を基板として用い、その上に成膜する前記結晶薄膜を配向させる
ことを特徴とする請求項3記載の超伝導化合物薄膜の作成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導転移温度(Tc)以下で、電気抵抗がゼロとなる超伝導電気伝導を示し、
かつ可視光域で透明な超伝導化合物薄膜と、該超伝導化合物薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1911年に水銀の超伝導現象が発見されて以来、今日までに超伝導を示す様々な化合
物が見出され、現在では超伝導磁石や磁気センサ(SQUID)として実用化されている。近年
、ペロブスカイト型銅酸化物化合物での超伝導が発見され(非特許文献1)、該化合物系で
、Tcが100Kを超える超伝導化合物が見出された。
【0003】
新しい高温超伝導化合物の発見により、超伝導の発現機構についても理解が進んでいる
(非特許文献2、3)。また、ペロブスカイト型銅酸化物化合物に加えて、MgB2(Tc=39K
)(非特許文献4)、Sr2RuO4(Tc=0.93K)(非特許文献5)、Na0.3CoO2・1.3H2
O(Tc=5K)(非特許文献6)などの新たな超伝導化合物が見出されているが、いまだ室温超
伝導体の発見には至っていない。
【0004】
さらに、これらの超伝導化合物は、超伝導転移温度より高温の常伝導状態では、金属と
して振る舞い、伝導電子による強い光吸収帯が可視光域に存在するために、可視光領域で
は不透明である。なお、一般的には、膜厚約15nmの金属薄膜試料での可視光領域の光
透過率は、50%未満である。
【0005】
可視光域で透明で金属伝導を示す化合物として、いくつかの酸化物が見出されており、
該酸化物は透明伝導酸化物(TCO)と呼ばれている。Sn添加In(ITO)が
、TCOとして、優れた特性を示し、透明電極材として、平面デスプレイ、太陽電池など
で広く実用化されている。
【0006】
しかし、これまで見出されたTCOの中で超伝導性を示す化合物はない。したがって、
透明超伝導体を実現するためには、これまで見出されたITOとは異なる機構に基づき透
明性と金属電気伝導性が共存する化合物を見出す必要がある。ITOでは、電気伝導は、
分散の大きな(すなわち電子移動度の大きな)伝導帯に最適量の伝導電子を導入すること
で実現している。
【0007】
TCOでは、禁制帯幅が大きく、価電子帯から伝導体への光吸収が可視光域より短波長
側に存在しているが、一方、伝導電子のプラズマ振動による光吸収帯は可視光域より長波
長側に存在する。このためTCOは可視光域では透明性となる。
【0008】
TCOでは、最適量以上の電子を導入した場合、電気伝導度は大きくなるものの、電子
による光吸収帯が短波長化し、可視光域での透明性が劣化する。すなわち、TCOでは、
伝導性と透明性は電子濃度を最適化することによって共存できるが、TCOで透明性と超
伝導性を共存させることは、原理的に不可能であると考えられる。
【0009】
さらに、たとえ、透明性を無視して、電子濃度を高めても、TCOで超伝導性が実現で
きる可能性もほとんどないと考えられる。こうした事実を踏まえ、新規化合物で透明超伝
導を実現するための条件を考察すると、バンド幅の小さな伝導バンドに高密度に電子を注
入すること、電子と格子の相互作用が大きく、また、格子振動のエネルギーが大きなこと
が必要条件となる。
【0010】
こうした条件を満たす化合物群として、エレクトライド化合物がある。特に、室温、大
気雰囲気で安定な12CaO・7Al23(以下C12A7)エレクトライドが、透明超伝導を
実現する有望な候補である。マイエナイト型結晶構造を有するC12A7結晶は、CaO
とAl23の2成分系の相平衡図に見られる安定な化合物で、アルミナセメントの構成成
分として、広く実用化されている。
【0011】
本発明者らは、活性酸素種を包接するC12A7化合物及びその製造方法に関する発明
(特許文献1)、高濃度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC1
2A7単結晶を育成するFZ法に関する発明(特許文献2)を特許出願している。
【0012】
他に、活性酸素種を包接するC12A7化合物の製造方法としては、非晶質のカルシウ
ムアルミネートを原料に用い、酸素分圧4×10-4Pa以上の雰囲気下1100℃以上溶
融温度以下に加熱する方法(特許文献3)、高温下で高い酸素イオン伝導性を有する基板
上に酸素イオンラジカル含有カルシウムアルミネート粉末を用いて溶射する方法(特許文
献4)、カルシア源、アルミナ源、シリカ源を混合し、次に、加熱して、カトアイト構造
を経由し、マイエナイト構造を有する無機化合物を製造する方法(特許文献5)が知られ
ている。
【0013】
本発明者等は、C12A7化合物及び同型化合物からなるプロトン・電子混合伝導体及
びその製造方法と用途に関する発明(特許文献6)を特許出願している。さらに、本発明
者等は、処理前物質であるC12A7単結晶をCa金属蒸気又はTi金属蒸気中で熱処理
することにより、C12A7中に電子を高濃度で包接させることができることを見出し、
C12A7に高濃度の電子を包接する方法に関する発明について特許出願している(特許
文献7)。
【0014】
より高温で熱処理が可能であり、熱処理時間が短縮できること、及び酸素・電子置換の
結果、試料表面に形成されるTiOxが酸素イオン伝導体であり、置換反応がより進行す
る観点から、Ti金属蒸気処理の方が、Ca金属蒸気処理より優れている(特許文献8)

【0015】
また、本発明者らは、高い電気伝導性を有するC12A7及び同型結晶化合物及びその
製造方法(特許文献9)や導電性マイエナイト型化合物の製造方法(特許文献10~13
)に関する発明を特許出願した。
【0016】

【非特許文献1】J.G.Bednorz and K.A.MullerZ. Phys. B64, 189(1986)
【非特許文献2】津田惟雄、那須奎一郎、藤森敦、白鳥紀一 改訂版「電気伝導性酸化物」,p350-452,裳華房(1993)
【非特許文献3】前川禎通, 応用物理 75, 17(2006)
【非特許文献4】J.Nagamatsu, N.Nakagawa, T.Muranaka, Y.Zenitani and J.Akimitsu, Nature 410, 63(2001)
【非特許文献5】Y.Maeo, H.Hashimoto, K.Yoshida, S.Nishizawa, T.Fujita, J.G.Bednorz, F.Lichyenberg, Nature 372, 532(1994)
【非特許文献6】K.Takada, H.Sakurai, E.Takayama-Muromachi, F.Izumi, R.A.Dilanian, and T.Sasaki,Nature 422, 53(2003)
【特許文献1】特開2002-3218号公報
【特許文献2】特開2003-040697号公報
【特許文献3】特開2003-226571号公報
【特許文献4】特開2005-35858号公報
【特許文献5】特開2006-83009号公報
【特許文献6】特開2005-67915号公報
【特許文献7】再公表2005-000741号公報
【特許文献8】PCT/JP2006/322991
【特許文献9】特開2005-314196号公報
【特許文献10】特開2006-327894号公報
【特許文献11】WO2005/077859A1
【特許文献12】WO2006/129674A1
【特許文献13】WO2006/129675A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
C12A7結晶の単位胞には2式量が含まれ、化学式は[Ca24Al2864]4+・2O
2-と記述できる。[ ]内は骨格構造の組成を示し、骨格構造には12個の多面体ケージ
(内径約0.4nm)が存在する。2O2-は、多面体ケージの中に包接されている酸素イオン
を示しており、該酸素イオン(O2-)は、ケージ壁を構成するカルシウムイオンと緩く
結合しているため「フリー酸素イオン」と呼ばれている。該フリー酸素イオンは、Ca金
属蒸気又はTi金属蒸気中での熱処理などのC12A7の還元処理により、電子に置換す
ることができる。
【0018】
また、C12A7中のフリー酸素イオン(O2-)の一部または全部がOH、酸素イ
オンラジカル(O)、超酸素イオンラジカル(O)アニオンで置換された試料、す
なわち、[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (A=OH、O、O
いずれか1種以上:0≦x≦1、y=1-x)でも、これらの包接アニオンは、Ca金属
蒸気又はTi金属蒸気を用いたC12A7の還元処理により、電子に置換することが出来
る。
【0019】
すべての包接アニオンを電子で置換した結果生じる[Ca24Al2864]4+・(4e
)は、電子が特定の結晶サイトを占め、電子がアニオンとしての働きをしている。したが
って、該電子と骨格構造が結合して特異なイオン結晶を形成しているとみなすことができ
る。こうした化合物は、「エレクトライド」と呼ばれている。
【0020】
C12A7エレクトライドでは、ケージに電子が閉じ込められた状態が繋がって、電子
伝導帯(以下では、「ケージ伝導帯」と呼ぶ)を構成し、ケージに電子が単位格子あたり
2個以上詰まったときには、金属的な伝導を示す。ケージ伝導帯は、バンド幅が約2eV
と狭く、フェルミ準位近傍に高密度に電子が存在する、また、C12A7エレクトライド
では、電子・格子相互作用が大きいなど前述の必要条件を満たしており、理論的限界(単
位格子あたり4個)近傍まで電子濃度を高めれば、超伝導状態を実現できる可能性が高い

【0021】
C12A7エレクトライドは、ケージ伝導帯を占有する電子による吸収が、バンド幅2
.4eV及び0.4eV付近に見られる。前者の2.4eVは、高いエネルギーを有する
別の伝導体への遷移であり、後者の0.4eVは、伝導電子のプラズマ振動に基づくもの
である。0.4~2.4eVの光エネルギー領域は比較的透明で、40nmの膜厚の薄膜
では、可視光透過率は、約90%である。したがって、C12A7エレクトライドは透明
性と超伝導が共存できる可能性が大きい。
【0022】
これまで多くの超伝導化合物が見いだされているが、これらはいずれも可視光域で不透
明で、透明な超伝導体は実現していない。本発明の課題は、可視光領域で透明な超伝導化
合物薄膜を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、その上に成膜する薄膜に対して酸化機能を有しないYAGなどの単結晶
基板上にエピタキシャル成長させたC12A7結晶薄膜に、還元処理により、理論限界濃
度(2.3×1021cm-3)に近い高濃度の電子を導入し、可視光透明性と超伝導性
が共存した化合物を実現させることに成功した。
【0024】
すなわち、本発明は、化学式[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA+2{1-
(x+2y)}e] (A=OH、O、Oのいずれか1種以上、0≦x+2y≦
0.5)で示され、超伝導電気伝導を示し、かつ膜厚40ナノメートルを基準として、J
IS R1635で規定される方法により測定した可視光透過率が80%以上であるマイ
エナイト型結晶構造を有する化合物からなることを特徴とする超伝導化合物薄膜、である
。なお、化学式中のx、yは、O2-およびAの成分量をそれぞれ示す数値である。
【0025】
また、本発明は、化学式が[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (2番目の
大括弧は、ケージ中のアニオンを示す。また、A=OH、O、Oのいずれか1種
以上:0≦x≦1、y=1-x)で示される結晶薄膜中のアニオンの1/2以上を還元処
理により電子に置換することを特徴とする上記の超伝導化合物薄膜の作成方法、である。
【0026】
また、本発明は、基板として、その上に成膜する薄膜に対して酸化機能を有しない基板
を用い、該基板上に化学式が[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (2番目の
大括弧は、ケージ中のアニオンを示す。また、A=OH、O、Oのいずれか1種
以上:0≦x≦1、y=1-x)で示される結晶薄膜を育成し、次いで、基板を500~
700℃の範囲に加熱しながら、その上に酸素欠損アモルファスC12A7膜を堆積させ
、該酸素欠損アモルファスC12A7膜により該結晶薄膜からO2-、OH、O、O
のいずれか1種以上を引き抜くことにより還元処理することを特徴とする上記の超伝
導化合物薄膜の作成方法、である。
【0027】
また、本発明は、YAl12単結晶を基板として用い、その上に成膜する前記結
晶薄膜を配向させることを特徴とする上記の超伝導化合物薄膜の作成方法、である。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、40nmの膜厚を基準にJIS R1635(ファインセラミックス薄膜の
光透過率試験、1998年)で規定される方法により測定した場合、80%以上の可視光
透過率を有する、可視域で透明な超伝導化合物薄膜を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(1)出発物質の調製
C12A7エレクトライド薄膜を成膜するための出発物質であるC12A7は、例えば
、カルシウムとアルミニウムを原子当量比で12:14含む原料を用い、焼成温度120
0℃以上1415℃未満で固相反応させて焼結体とすることで合成される。この合成法の
代表的な原料は炭酸カルシウム粉末と酸化アルミニウム粉末の混合物である。C12A7
は、アルミナセメントの構成成分として知られている結晶であり、合成方法は上記方法に
限られない。
【0030】
(2)C12A7結晶薄膜の成膜工程
得られた高純度C12A7焼結体をターゲットとして、気相法により単結晶基板上にC
12A7結晶薄膜を成長させる。気相法としては、スパッタ法、パルスレーザー法(PLD
法)、又は電子ビーム蒸着法を用いることが出来るが、ターゲットと成長膜の組成差が少
ないPLD法が適している。また、PLD法では、成長中の雰囲気を還元性に保つことが
容易なので、C12A7結晶薄膜のエレクトライド化に適している。
【0031】
まず、MgO又はY3Al512(YAG)などの基板上にPLD法でアモルファスのC1
2A7膜を堆積させる。レーザーとしてアルゴンフッ素エキシマーレーザー(波長193nm
)を用い、成長槽の雰囲気は、10-4Pa程度の酸素雰囲気とし、堆積膜厚は、100
nm程度とするのが好ましい。該アモルファスC12A膜を大気中で約1100℃に加熱
し、結晶化させてC12A7結晶薄膜とする。PLD成長槽内でも、結晶化は可能である
が、結晶化をPLD成長槽の外部で行うと生産性が高くなる。
また、C12A7結晶薄膜を配向膜とすれば、無配向膜に比べて、粒界での電子散乱が
少なく、電気抵抗が減少し、超伝導を実現しやすく、超伝導転移温度が材料固有の値とな
るので、C12A7結晶薄膜は配向膜であることが特に望ましい。固有超伝導転移温度は
、粒界散乱などの外的因子により、低温度化する。極端な場合は、超伝導転移が生じない
。したがって、配向したC12A7結晶薄膜を成膜出来るYAG基板が特に好ましい。
【0032】
前記の結晶化過程の雰囲気中に水分が含まれていると、フリー酸素の一部又は全部がO
H基に置き換わる。また、結晶薄膜を乾燥酸素雰囲気で徐冷すると、フリー酸素の一部又
は全部が酸素イオンラジカル(O、O)で置換される。したがって、得られた結晶
薄膜の化学式は、[Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA] (A=OH、O
のいずれか1種以上:0≦x≦1、y=1-x)となる。
【0033】
C12A7結晶薄膜に包接されるOH基及び酸素イオンラジカルは、フリー酸素(O2
)と同様、C12A7結晶薄膜の還元処理により、電子で置換することができるので、
C12A7結晶薄膜にOH基及び酸素イオンラジカルが含まれていても超伝導薄膜を得る
ことができる。しかし、OH基・電子置換及び酸素イオンラジカル・電子置換は、O2-
・電子置換より、高温度の還元処理を必要とするので、還元処理温度を低くするためには
C12A7結晶薄膜に包接されるOH基及び酸素イオンラジカルの含有は少ない方がよい
。すなわち、上記化学式中のx値は、1にできるだけ近いことが望ましい。
【0034】
基板温度を高温にし、PLD法で成膜すれば、C12A7結晶薄膜を直接成長させるこ
ともできるが、この場合は、基板温度を高温に維持するための特別の方策が必要で、また
、C12A7結晶相が生成するための基板温度の許容幅が1000±50℃程度に狭くな
る。
【0035】
(3)還元処理工程
得られたC12A7結晶薄膜を、再び、真空チャンバーに導入し基板を500~700
℃の範囲に加熱しながら、真空度が10-3Paより良い真空下で、アルゴンフッ素エキ
シマーパルスレーザーをC12A7焼結体ターゲットに照射し、C12A7結晶薄膜上に
、化学量論組成に比較して、1容積%以上酸素量の少ない酸素欠損アモルファスC12A
7膜を堆積させる。その後、室温まで冷却する。真空度が10-3Paより悪いと、酸素
欠損アモルファスC12A7膜中の酸素欠損濃度が少なくなり、還元作用を有しない。
【0036】
C12A7結晶薄膜上に酸素欠損アモルファスC12A7膜を堆積した基板の冷却過程
で、C12A7結晶薄膜中のフリー酸素イオン、酸素イオンラジカル及びOH基の全量の
50%以上が、酸素欠損アモルファスC12A7膜へ引き抜かれ、代わりに電子がC12
A7結晶薄膜のケージの中に導入される。この結果、C12A7結晶薄膜の化学式は、[
Ca24Al2864]4+・2[xO2-+2yA+2{1-(x+2y)}e] (A=OH
、O、Oのいずれか1種以上、0≦x+2y≦0.5)となる。
【0037】
C12A7結晶薄膜の還元処理法としては、Ca金属蒸気又はTi金属蒸気を用いた方
法などがあるが、酸素欠損アモルファスC12A7膜を用いた本手法が、C12A7結晶
薄膜に対しては、置換作用が最も高く、最も高濃度の電子をC12A7結晶薄膜に含有さ
せることができる。
【0038】
基板温度が700℃超では、堆積した酸素欠損アモルファスC12A7膜が結晶化し、
前記の化学式のC12A7結晶薄膜からフリー酸素イオン及びOHイオンを引き抜く機
能、すなわちC12A7結晶薄膜中のフリー酸素イオン及びOHイオンが電子に置換さ
れて減少又は消失する機能、が失われる。基板温度が500℃未満では、フリー酸素イオ
ン及びOHイオンの引き抜き速度が遅く、電子濃度を高く出来ない。適切な還元処理に
より、室温で100 ~10000Scm-1の高い電気伝導度を示すC12A7エレク
トライド薄膜を作成することができる。
【0039】
基板として、酸素イオン伝導性の大きな(500℃に於いて、約1×10-4S/cm)、例えば、
イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)を用いた場合には、基板から、C12A7結晶薄
膜に酸素イオンが供給されるために、C12A7結晶薄膜は、エレクトライド化しない。
また、イオン価が変化しやすいイオンを含む、例えば、Gd3Ga512を基板として用い
た場合には、Ga3+イオンがGa2+イオンへ変化する際に、C12A7結晶薄膜中の
電子を基板中に引き抜くため、C12A7結晶薄膜はエレクトライド化しない。
【0040】
すなわち、上記のYSZやGd3Ga512のような、C12A7結晶薄膜に酸素イオン
を供給する、又は、C12A7結晶薄膜から電子を引き抜く機能(両者を合わせて「酸化
機能」と呼ぶ。)、を有しない基板を用いる必要がある。こうした酸化機能を有しない基
板として、MgO及びY3Al512(YAG)単結晶が適している。中でも、C12A7と
格子定数が近く、C12A7結晶薄膜を配向成長できる点で、YAG単結晶がより優れて
いる。
【0041】
YAG単結晶を基板として用いて成膜したC12A7結晶薄膜を上記の方法で還元処理
して得られる、電子濃度が約1.2×1021cm-3超(理論限界値:2.3×10
cm-3の50%超に相当する)のC12A7エレクトライド薄膜では、超伝導転移温
度(Tc<約0.4K)以下で、超伝導を示す。該C12A7エレクトライド薄膜のTcの電子
濃度依存性はそれほど大きくない。また、該C12A7エレクトライド薄膜の40nm厚
換算の可視光(400~700nm)透過率は、約90%である。
【実施例1】
【0042】
本発明を実施例により、より詳細に説明する。C12A7焼結体をターゲットに用い、
パルスレーザー堆積法でYAG(100)単結晶基板上にアモルファスC12A7膜を堆積し
た。基板温度は室温とした。用いたレーザーは、アルゴンフッ素エキシマーレーザーで、
成長槽の雰囲気は、10-3Paの酸素雰囲気とし、成長速度は、10nm/分であった

【0043】
該アモルファスC12A7膜を大気中で1000℃に昇温し、60分間保持して室温ま
で徐冷してC12A7結晶薄膜を作成した。次に、該C12A7結晶薄膜を還元処理する
ために、得られたC12A7結晶薄膜を、再び、真空チャンバーに導入し約700℃に加
熱し、真空度10-4Paの真空下で、ArFエキシマーレーザーをC12A7焼結体タ
ーゲットに照射し、C12A7結晶薄膜上に酸素欠損アモルファスC12A7膜を、膜厚
100nm堆積させた。用いたレーザーは、アルゴンフッ素エキシマーレーザーで、成長
槽の雰囲気は、10-4Paの真空雰囲気とし、成長速度は、10nm/分であった。そ
の後、真空度を保ちながら、PLDチャンバー内で室温まで冷却した。
【0044】
上記の方法で、膜厚の異なる3種類のC12A7エレクトライド薄膜(薄膜A,薄膜B
及び薄膜C)を成長させた。膜厚は、薄膜Aは145nm、薄膜Bは270nm及び薄膜
Cは137nmであった。
【0045】
得られた薄膜AとYAG基板のX線回折スペクトルを測定し、両者を比較した。図1に
示すように、回折角10~80度の領域では、両スペクトルはほぼ一致し、YAG基板と
薄膜Aの結晶方位が一致していることが示唆されている。図2に、YAG基板と薄膜Aの
(004)面回折線のロッキングカーブを示す。この図2から、薄膜Aによる(004)
面回折線が存在し、YAG基板による回折線より回折線幅が大きくなっていることが示さ
れている。また、該薄膜Aは、透明な茶褐色を呈し、室温で約500Scm-1の高い電
気伝導度を示した。すなわち、YAG単結晶を基板として用いた場合、上記還元処理によ
り、エピタキシャルC12A7エレクトライド薄膜が得られた。
【0046】
得られた薄膜A(膜厚145nm)の可視光域の光透過スペクトルを測定した。測定は
、JIS R1635で規定される方法により測定した。すなわち、入射光を薄膜Aの表
面に垂直に入射し、予め、透過率をニュートラルフィルターで補正した分光器(日立製作
所製R2000)で測定した。その際、積分球の有無は0.1%未満の誤差しか生じない
(日本学術振興会 透明導電膜の技術)ことから、積分球は使用しなかった。測定された
光透過スペクトルから、表面・裏面での光反射を除いて、内部透過率を求めた。また、内
部透過率から内部光吸収係数を計算した。
【0047】
図3に、薄膜Aの内部透過率及び内部光吸収係数の波長依存性を示す。図3の結果から
、膜厚が40nmのとき、可視光域(光波長400~700nm)での平均可視光透過率が約90
%であり、80%以上の可視光透過率が得られることがわかる。また、図3に見られる2
.8eV付近にピークを有する光吸収強度から、該薄膜Aには約2×1021cm-3
電子が包接されていることがわかった。
【0048】
該薄膜A,B,Cの電気抵抗を、4端子法により測定した。2K~300Kの測定には
、カンタムデザイン社製のPPMS装置を用いた。また、2K以下の測定には、希釈冷凍
機システムを用いた。図4に、該薄膜A,B,Cの低温での抵抗率の温度変化を示す。薄
膜Aでは、0.3K付近、薄膜Bでは、0.16K付近、薄膜Cでは、0.4K付近から
抵抗率の急激な減少が認められ、薄膜BおよびCでは、0.14K付近ではゼロ抵抗にな
っていることがわかった。
【0049】
また、薄膜Bに外部磁場を印加し、電気抵抗を測定した。図5に示すように、外部磁場
を印加することにより、超伝導転移温度が低温側にシフトしていく。これらの結果から、
薄膜A,B,Cは、0.4~0.14KにTcを持つ超伝導薄膜であることが示された。
すなわち、YAG基板上にエピタキシャル成長した結晶薄膜を還元処理した、含まれる電
子濃度が1×1021cm-3程度超であるC12A7エレクトライド薄膜は透明超伝導
体であることが示された。膜厚により、Tcが異なるのは、該薄膜中に含まれる伝導電子
の数の違いによると考えられる。
[比較例1]
【0050】
基板として(100)面のイットリウム安定化ジルコニウム(YSZ)単結晶基板を用いた以外
は実施例1と同様の条件でC12A7結晶薄膜を作成した。得られたC12A7結晶薄膜
は、無色透明で、室温での電気伝導度は、10-10S/cm以下の絶縁体で、超伝導は
示さない。すなわち、YSZ基板は酸素イオン伝導性を有するため、YSZ基板からC1
2A7結晶薄膜に電子が補給され、該C12A7結晶薄膜は、その上に酸素欠損アモルフ
ァスC12A7膜を堆積したにもかかわらず、C12A7結晶薄膜中の酸素イオンと電子
の置換が生じない。すなわち、透明超伝導体を得るには、その上に成膜する薄膜に対して
酸化機能を有しない基板を用いることが、不可欠であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の超伝導化合物薄膜は、透明超伝導体として、透明電極、透明配線など透明性と
超伝導性を生かした幅広い用途がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1で得られたYAG基板上に成膜した配向C12A7エレクトライド薄膜のX線回折プロファイルを示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた配向C12A7エレクトライド薄膜及びYAG基板の(400)面回折線のロッキングカーブを示すグラフである。
【図3】実施例1で得られた配向C12A7エレクトライド薄膜の薄膜Aの内部透過率及び内部光吸収係数の波長依存性を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られた膜厚の異なる3種類の配向C12A7エレクトライド薄膜の抵抗率の温度変化を示すグラフである。
【図5】実施例1で得られた薄膜Bの磁場印加時の電気伝導の温度変化を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4