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明細書 :芳香族ヨウ素化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4239206号 (P4239206)
公開番号 特開2008-222613 (P2008-222613A)
登録日 平成21年1月9日(2009.1.9)
発行日 平成21年3月18日(2009.3.18)
公開日 平成20年9月25日(2008.9.25)
発明の名称または考案の名称 芳香族ヨウ素化合物の製造方法
国際特許分類 C07C  17/12        (2006.01)
C07C  25/02        (2006.01)
C07C  25/125       (2006.01)
C07C  37/62        (2006.01)
C07C  17/383       (2006.01)
C07C  17/392       (2006.01)
C07C  37/84        (2006.01)
C07C  37/74        (2006.01)
FI C07C 17/12
C07C 25/02
C07C 25/125
C07C 37/62
C07C 17/383
C07C 17/392
C07C 37/84
C07C 37/74
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2007-061068 (P2007-061068)
出願日 平成19年3月9日(2007.3.9)
審査請求日 平成20年3月7日(2008.3.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000227652
【氏名又は名称】日宝化学株式会社
発明者または考案者 【氏名】吉田 潤一
【氏名】菅 誠治
【氏名】片岡 和英
【氏名】緑川 晃二
【氏名】萩原 祐二
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】馳平 憲一
参考文献・文献 国際公開第2006/073124(WO,A1)
特開2004-010599(JP,A)
調査した分野 C25B1/00-1/46
C07C 17/12,25/02,25/18,25/22,
37/62,39/27,41/22,43/225,
253/30,255/50
C07B 39/00
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
JP0004239206B2_000010t.gif
(式(1)中、mは2~6の整数であり、nは1以上の整数であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から10のアルキル基であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~10のアルキル基である)で示される非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の少なくとも1種の存在下で、ヨウ素化剤と、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子を核に有する芳香族化合物と、を反応させる工程を含むことを特徴とする芳香族ヨウ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記環式エーテル化合物は、環をなす炭素数が3~12であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ヨウ素化剤として、ヨウ素カチオンを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応させる工程において得られた反応液から、固体状の反応生成物を分離し、該反応生成物を再結晶させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応させる工程において得られた反応液に蒸留処理を施すことで、反応生成物を単離する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
1以上の置換基を有する芳香族化合物を貯蔵したタンクと、下記一般式(1)
【化2】
JP0004239206B2_000011t.gif
(式(1)中、mは2~6の整数であり、nは1以上の整数であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から10のアルキル基であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~10のアルキル基である)で示される非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の少なくとも1種を貯蔵したタンクと、ヨウ素化剤を貯蔵したタンクと、を含むことを特徴とする芳香族ヨウ素化合物を製造するためのシステム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ヨウ素化合物の製造方法に関し、特に、ヨウ素の結合位置の選択性が向上した芳香族ヨウ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核にヨウ素原子が結合した芳香族ヨウ素化合物は、各種有機合成の中間体として幅広い需要がある。このような芳香族ヨウ素化合物の製造方法の一つに、ヨウ素カチオンをヨウ素化剤として用いる方法が報告されている(特許文献1および非特許文献1から3参照)。非特許文献1、2には、アセトニトリル中で、ヨウ素分子の電気分解を行い、得られたヨウ素カチオンを種々の芳香族化合物と反応させたことが開示されている。
【0003】
このようなヨウ素化反応では、芳香族化合物に結合している置換基の種類に応じて、ヨウ素原子の結合位置が決定され、メタ配向をとる場合と、オルト‐パラ配向をとる場合とがある。ここで、メタ配向とは、置換基に対してメタ位にヨウ素原子が結合する特性をいい、オルト‐パラ配向とは、置換基に対して、オルト位またはパラ位のいずれかにヨウ素原子が結合する特性をいう。オルト‐パラ配向を示す場合には、オルト位にヨウ素が結合した生成物と、パラ位にヨウ素が結合した生成物とが混在して得られることとなる。
【0004】
上記のようにオルト‐パラ配向を示すヨウ素化反応では、出発物質である芳香族化合物の置換基に種類に応じて、オルト位にヨウ素が結合した生成物と、パラ位にヨウ素が結合した生成物とが、略1:1の比で得られことがある。
【0005】
しかしながら、近年、このようなヨウ素化反応において、ヨウ素原子の結合位置の選択性(以下、「位置選択性」ともいう。)を向上させることが望まれている。特許文献1および非特許文献3には、ヨウ素の位置選択性を向上させることを目的とした製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1には、炭素電極を用いて、ヨウ素分子を電解酸化し、トルエンをヨウ素化したときに、ヨウ素がパラ位に結合した化合物が、オルト位にヨウ素が結合した化合物と比して多く得られることが報告されている。また、非特許文献3には、3つのエーテル結合を有するオルソギ酸メチルエステルを含む溶液中でトルエンをヨウ素化することで、オルト位にヨウ素が結合した生成物およびパラ位にヨウ素が結合した生成物を得ることができ、その比が3:7であったことが報告されている。

【特許文献1】欧州特許第0376858号明細書(1990(平成2)年7月4日公開)
【非特許文献1】L.L.Miller,E.P.Kujawa,C.B.Cambell,「Iodation with electrolytically generated iodine(I)」J.Am.Chem.Soc.,92,2821,(1970)
【非特許文献2】L.L.Miller,B.F.Watkins,「Scope and mechanism of aromatic iodination withelectrolytically generated iodine(I)」 J.Am.Chem.Soc.,98,1515,(1976)
【非特許文献3】T.Shono,Y.Matsumura,S.Katoh,K.Ikeda,T.kamada,「Aromatic iodination by positve iodine active species generated by anodic oxidation in orthoformate」Tetrahedron Letters,30,1649,(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らによると、特許文献1および非特許文献3のいずれの方法によっても、ヨウ素が芳香族化合物のパラ位に結合した芳香族ヨウ素化合物の生成割合を向上させることができないことが確認されている。そのため、位置選択性が向上したヨウ素化反応を実現し得る芳香族ヨウ素化合物の製造方法の開発が求められている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヨウ素の位置選択性が向上した芳香族ヨウ素化合物の製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の少なくとも1種の存在下で、ヨウ素カチオンと、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子を核に有する芳香族化合物とを反応させることにより、芳香族化合物の置換基に対して、ヨウ素の結合位置の選択性を向上させることができることを見出した。
【0009】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法は、
下記一般式(1)
【0010】
【化1】
JP0004239206B2_000002t.gif

【0011】
(式(1)中、mは2~6の整数であり、nは1以上の整数であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から10のアルキル基であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素または炭素数1~10のアルキル基である)で示される非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の少なくとも1種の存在下で、ヨウ素化剤と、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子を核に有する芳香族化合物と、を反応させる工程を含むことを特徴とする。また、本発明において、アルキル基とは、置換されていてもよく、例えば、チオエーテル結合を有するアルキル基を含む。
【0012】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法では、前記環式エーテル化合物は、環をなす炭素数が3~12であることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法では、前記ヨウ素化剤として、ヨウ素カチオンを用いることが好ましい。
【0014】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法では、前記反応させる工程において得られた反応液から、固体状の反応生成物を分離し、該反応生成物を再結晶させる工程をさらに含むことが好ましい。
【0015】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法では、前記反応させる工程において得られた反応液に蒸留処理を施すことで、反応生成物を単離する工程をさらに含むことが好ましい。
【0016】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物を製造するためのシステムは、1以上の置換基を有する芳香族化合物を貯蔵したタンクと、非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の少なくとも1種を貯蔵したタンクと、ヨウ素化剤を貯蔵したタンクと、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明にかかる製造方法によれば、特定の非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の存在下でヨウ素化反応を行うことで、ヨウ素原子の結合位置の位置選択性を向上させることができる。そのため、本発明によれば、異性体の生成割合を低下させ、単一の生成物を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る芳香族ヨウ素化合物の製造方法によれば、以上のように、特定のエーテル化合物の存在下で、ヨウ素化剤と、1つ以上の置換基を有する芳香族化合物とを反応させることで、芳香族化合物に対するヨウ素原子の結合位置の選択性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の芳香族ヨウ素化合物の製造方法について詳細を説明する。本発明にかかる製造方法は、ヨウ素化剤と、1つ以上の置換基および2以上の水素原子を核に有する芳香族化合物とを、特定のエーテル化合物の存在下で反応させることを含む。
【0020】
1.ヨウ素化剤
まず、ヨウ素化剤について説明する。ヨウ素化剤としては、たとえば、ヨウ素カチオン、を用いることが好ましい。
【0021】
ここで、ヨウ素カチオンの製造方法について説明する。ヨウ素カチオンは、たとえば、支持電解質を含む溶液中で、ヨウ素分子、ヨウ素金属化合物(ヨウ素アニオン)の少なくとも1種を電気分解することにより得られる。このようなヨウ素カチオンを得るためには、まず、電解液の調整を行う。電解液は、支持電解質と、ヨウ素分子またはヨウ素の金属化合物とを含む溶液である。
【0022】
(溶媒)
電解液を構成する溶媒は、上記ヨウ素分子またはヨウ素の金属化合物と、支持電解質を溶解し電気分解に供することができる溶媒である。このような溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、脂肪族ニトリル、アルコール、塩素系溶剤、脂肪族アミド、環式エーテルおよびニトロメタンからなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。具体的には、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、ピバロニトリル、ヘキサンニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert‐ブタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2‐ジクロロエタン、1,1,1‐トリクロロエタン、1,1,2‐トリクロロエタン、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルピロリドン、N‐メチルピペリドン、テトラヒドロフラン、1,3‐ジオキサン、1,4‐ジオキサン、1,3,5‐トリオキサン、テトラヒドロピランおよびニトロメタンを例示することができる。
【0023】
(支持電解質)
支持電解質としては、酸または塩を用いることが好ましい。支持電解質は、溶媒中に電気を導く役割を果たし、溶媒中でイオンに解離するものである。塩を用いる場合には、(nBu)NBF、EtNBF、NaClO、LiBF、LiClO、(nBu)NClO、EtNClO、LiCl、(nPr)NClO、Mg(ClO、(nBu)NCl、(nBu)NBr、(nBu)NI、EtNCl、EtNBr、EtNI、(nPr)NBr、(nPr)NI、KOHを用いることができる。
【0024】
酸を用いる場合には、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸およびリン酸のうちの少なくとも1種を例示することができる。支持電解質としては、酸を用いることが好ましい。酸を用いる場合には、ヨウ素化反応終了後に、支持電解質の除去に際し、カラムクロマトグラフィによる分離操作を行う必要がないという利点を有する。
【0025】
酸を用いる場合、電解液中の酸の濃度は、0.01mol/L以上、19.0mol/L以下であり、0.05mol/L以上、10.0mol/L以下であることが好ましく、0.1mol/L以上、5.0mol/L以下であることがより好ましい。酸の濃度が、0.01mol/Lより小さい場合には、溶液中に電気を流すことができず、支持電解質としての役割を果たせない。また、19.0mol/Lを超える場合には、酸の濃度の調製が困難になるという問題がある。
【0026】
(ヨウ素分子またはヨウ素金属化合物)
本発明におけるヨウ素カチオンの製造では、ヨウ素分子またはヨウ素の金属化合物が電気分解される。ヨウ素分子を使用する場合、電解液におけるヨウ素分子の含有割合は、0.1質量%以上、50質量%以下であり、0.5質量%以上、25質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上、10質量%以下であることがより好ましい。ヨウ素分子の含有量が上記範囲内である場合には、生産性を低下させることなく、良好に生産することができる。ヨウ素の金属化合物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化銅、ヨウ化鉛、ヨウ化ルビジウムなどを用いることができる。
【0027】
ヨウ素カチオンを得るための出発化合物としては、ヨウ素分子を用いることが好ましい。ヨウ素分子は、ヨウ素の金属化合物と異なり、溶媒中でイオンとして存在していないため、1電子を引き抜くだけで、ヨウ素カチオンを生成することができる。これに対して、ヨウ素の金属化合物は、1価のヨウ素アニオンとして存在するため、ヨウ素カチオンを得るためには、2電子を引き抜かなくてはならない。つまり、ヨウ素分子を電気分解することで、この電気分解に要する電気量を低くすることができるという利点を有する。また、ヨウ素の金属化合物(ヨウ化ナトリウム、ヨウ素カリウムなど)を出発物質とした場合と異なり、得られたヨウ素カチオン溶液中に、金属イオンが混合することがない。そのため、カラムクロマトグラフィを用いた分離操作を行う必要がないヨウ素カチオンを得ることができる。
【0028】
(電気分解)
上記の電解液を用いて電気分解を行い、下記反応式(1)に従って、ヨウ素カチオンを得る。なお、下記反応式(1)では、ヨウ素分子が電気分解により酸化される場合を示す。
【0029】
【化2】
JP0004239206B2_000003t.gif

【0030】
この電気分解では、たとえば、陽極側と陰極側とで2室に分離した電気分解装置を用いて行うことができる。陽極側の室には、ヨウ素分子またはヨウ素の金属化合物、支持電解質および溶媒を投入し、陰極側の室には、支持電解質と溶媒とを投入する。また、この反応は、-100℃以上、100℃以下の条件で行うことができ、好ましくは、-40℃以上、40℃以下であり、より好ましくは、-20℃以上、25℃以下である。上記温度範囲であれば、良好にヨウ素カチオンを得ることができる。この電気分解に用いる電気量は、ヨウ素分子1モルに対して、0.5F以上、5.0F以下であることが好ましい。これにより、陽極側の室には、ヨウ素カチオンを含む溶液(以下、「ヨウ素カチオン溶液」ともいう。)を得ることができる。電気量が0.5Fより小さい場合には、電気分解を行うことができず、5.0Fを超える場合には、ヨウ素以外の溶媒が酸化を受けたり、ヨウ素カチオンがさらに酸化されることがある。
【0031】
電極としては、銅、銀、金、白金などの金属電極、銅、銀、金、白金などの金属でめっきされた電極、ステンレス、ハステロイなどの耐蝕性の合金製の電極、またはグラファイト、ダイヤモンドなどの炭素電極を用いることができる。特に、白金電極が好ましい。
【0032】
上記のように電気分解を用いてヨウ素カチオンを得る方法以外に、以下の方法によりヨウ素カチオンを得ることができる。N‐ヨードスクシンイミド、N,N‐ジヨード‐5,5‐ジメチルヒダントインおよびビスピリジンヨードニウムテトラフルオロボレートの少なくとも1種を溶剤に溶解し、この溶解液にテトラフルオロホウ酸もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの酸を加えることにより、容易にヨウ素カチオンを得ることができる。
【0033】
その他に、ヨウ素分子もしくはヨウ化物イオンに次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、塩素、臭素、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酢酸などの酸化剤を加えてヨウ素カチオンを得ることができる。
【0034】
2.芳香族ヨウ素化合物の製造
次に、上記電気分解により得られたヨウ素カチオンと、1つ以上の置換基を有する芳香族化合物とを反応させる。以下の説明では、芳香族化合物がトルエンである場合を例として、本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法について説明する。
【0035】
本発明にかかる芳香族ヨウ素化合物は、下記の反応式(2)に従って製造される。
【0036】
【化3】
JP0004239206B2_000004t.gif

【0037】
芳香族化合物は、1つ以上の置換基および2つ以上の水素原子が核に結合された芳香族化合物を用いる。なお、本発明において、芳香族化合物とは、芳香族性を示す化合物のことをいい、同素環又は複素環(核)を有する化合物のいずれであってもよい。同素環を有する芳香族化合物としては、ベンゼン環、ナフタレン環などの炭素数6~12の同素環を有する化合物が挙げられる。
【0038】
複素環を有する芳香族化合物としては、酸素、窒素および硫黄原子から選択された少なくとも1つ(通常、1~3つ程度)のヘテロ原子を有する5員又は6員ヘテロ環を有する化合物が挙げられる。この場合、ヘテロ環は縮合環を構成してもよい。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含むフラン類、ヘテロ原子として硫黄原子を含むチオフェン類、チアゾール類、イソチアゾール類、ヘテロ原子として窒素原子を含むピロール類、ピラゾール類、イミダゾール類、トリアゾール類、ピリジン類を例示することができる。
【0039】
具体的な芳香族化合物としては、1つ以上の置換基を有し、特に、電子供与基が置換基であることが好ましい。このような芳香族化合物としては、トルエン、o‐キシレン、m‐キシレン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ヨードベンゼン、フェノール、o‐クレゾール、m‐クレゾール、アニソール、アニリン、N,N‐ジメチルアニリン、o‐トルイジン、m‐トルイジン、2‐クロロトルエン、3-クロロトルエン、2‐ブロモトルエン、3‐ブロモトルエン、2‐フルオロトルエン、3-フルオロトルエン、2‐ヨードトルエン、3‐ヨードトルエン、2‐メトキシフェノール、3‐メトキシフェノール、2‐メチルアニソール、3-メチルアニソール、1,2‐ジメトキシベンゼン、1,3‐ジメトキシベンゼン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、クメン、tert‐ブチルベンゼン、ビフェニル、p‐ターフェニルなどを例示することができる。
【0040】
このとき、芳香族化合物を溶解する溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、ピパロニトリル、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert‐ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2‐ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2‐ジクロロエタン、1,1,1‐トリクロロエタン、1,1,2‐トリクロロエタン、ニトロメタンなどを用いることができる。また、溶媒としては、後述するエーテル化合物を用いることもできる。
【0041】
本発明では、ヨウ素化剤と、芳香族化合物との反応が、特定のエーテル化合物の存在下で行われる。特定のエーテル化合物は、溶媒中でヨウ素がオルト位に結合するのを抑制する機能を果たすと推測される。本発明では、特定のエーテル化合物が、上記芳香族化合物が溶解された溶液に添加されていてもよいし、芳香族化合物が特定のエーテル化合物に可溶である場合には、それ自体を溶媒として用いてもよい。
【0042】
(エーテル化合物)
エーテル化合物としては、一般式(1)に示す非環式エーテル化合物および環式エーテル化合物の少なくとも1種を使用することができる。
【0043】
【化4】
JP0004239206B2_000005t.gif

【0044】
(式(1)中、mは2~6の整数であり、nは1以上の整数であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素原子または炭素数1から10のアルキル基であり、R、Rは、同一または異なっていてもよく、水素または炭素数1~10のアルキル基である)。
【0045】
一般式(1)で示される化合物としては、具体的に、1,2‐ジメトキシエタン、1,2‐ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールなどを例示することができる。
【0046】
環式エーテル化合物は、1つ以上のエーテル結合を有する環式の化合物である。環式エーテル化合物としては、エチレンオキシド、トリメチレンオシキド、テトラヒドロフラン、クラウンエーテル、1,4‐ジオキサン、1,3‐ジオキサン、テトラヒドロピラン、1,3,5‐トリオキサンなどを例示することができる。
【0047】
また、上記エーテル化合物を添加する場合には、その添加量は、ヨウ素化剤溶液に対して、0.1~10.0倍の容量であることが好ましく、0.5~1.5倍の容量であることがより好ましい。添加量がヨウ素化剤溶液に対して、0.1倍より少ない場合には、選択率の向上が見られず、10.0倍を超える場合には、ヨウ素化の収率が低下してしまうことがある。
【0048】
上記の芳香族化合物を溶解した溶液に、電気分解により得られたヨウ素カチオン溶液を添加し、攪拌を継続することで反応を完結することができる。このとき、反応温度は、‐40℃以上、100℃以下であることが好ましい。得られた反応液に、公知の分離操作(抽出操作、分液操作)を施すことにより、目的の反応物を単離する。また反応温度は、‐40℃以上、0℃以下であることがより好ましい。この範囲内の温度で反応させることにより、位置選択性の向上をさらに図ることができる。
【0049】
その後、公知の分離操作(抽出、分液およびカラムクロマトフラフィなど)により反応物を単離する。
【0050】
また、得られた反応物を再結晶することで反応物の純度を高めることができる。具体的には、粗生成物をメタノール、エタノール、プロバノール、イソプロバノール、ブタノールなどのアルコールに溶解し、-80℃以上、0℃以下の温度で結晶を析出させることを、複数回繰り返すことが好ましい。この方法によれば、純度を約98%までに向上させることができる。この数値範囲内で行うことにより、純度の高い生成物を得るための再結晶を行うことができる。
【0051】
また、反応物の純度を高める操作としては、上記再結晶の他に、得られた反応液に蒸留処理を施すことで、純度の高い反応生成物を単離することができる。
【0052】
本発明にかかる製造方法によれば、ヨウ素カチオンを用いて芳香族化合物をヨウ素化する際に、特定のエーテル化合物の存在下で反応させることにより、ヨウ素の結合位置の選択性を向上させることができる。そのため、所望の芳香族ヨウ素化合物を効率よく製造することができる。
【0053】
また、本発明の製造方法で使用する特定のエーテル化合物は、溶媒中で安定な化合物であり、取り扱いが容易である。そのため、位置選択性が向上したヨウ素化反応を、再現性よく行うことができ、工業化に適した製造方法を提供することができる。
【0054】
さらに、酸を支持電解質とした電気分解により得られたヨウ素カチオンをヨウ素化剤として用いることで、反応終了後に支持電解質の除去を容易に行うことができるという利点を有する。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を参照しつつ、さらに説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるべきものではない。
【0056】
[実施例1]
(ヨウ素カチオンの製造)
ヨウ素カチオンの製造は、H型2室型電解槽を用いて無水条件で行った。この際、隔膜としては、ガラスフィルタ(G4)を用いた。電極は、陽極、陰極ともに白金板(30mm×20mm)を用いた。電解槽を減圧下で乾燥後、窒素雰囲気とした後、陰極室にトリフルオロメタンスルホン酸79mg(0.526mmol)と、0.3Mテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート(支持電解質)を溶解したアセトニトリル溶液8mL、陽極室に0.3Mテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート(支持電解質)を溶解したアセトニトリル溶液8mLおよびヨウ素127mg(0.500mmol)を投入し、0℃に冷却した。マグネチックスターラーで陽極室および陰極室を攪拌しつつ、0℃で定電流電解(20mA)を行った。2.0F/mol通電することで、陽極室にヨウ素カチオン溶液が得られた。
【0057】
(芳香族ヨウ素化合物の製造)
ついで、1つの置換基を有する芳香族化合物であるトルエン92mg(1.0mmol)と、非環式エーテル化合物である1,2‐ジメトキシエタン8mlとを50mlナスフラスコに仕込み、マグネチックスターラーにて攪拌し、氷水浴にて0℃まで冷却した。ここに、上記の電気分解により得られたヨウ素カチオン溶液12.5mlを添加して、0℃で1時間反応を行った。得られた反応液を減圧濃縮し、10cmのシリカゲルカラムにかけて、100mlのエーテルでカラム内から反応物を溶出させた。溶媒を減圧濃縮し、飽和炭酸水素ナトリウム溶液100mlをおよびヘキサン50mlを加えて、抽出を行った。分液を行い、ヘキサン層を減圧濃縮し、反応物を乾燥させた。得られた反応物は、4‐ヨードトルエンと、2‐ヨードトルエンとの混合物であった。以下の表1に収率と選択率を示す。なお、表1ではパラ位にヨウ素が結合した生成物を「I」とし、オルト位にヨウ素が得結合した生成物を「II」と称する。また、選択率については、H-NMRの測定結果より求めた。
【0058】
(再結晶)
得られた反応物を、メタノール0.7mlに溶解し、-40℃で結晶を析出させた。この操作を2回繰り返し、4‐ヨードトルエンの純度が98%である反応物を得た。
【0059】
[実施例2-6]
(ヨウ素カチオンの生成)
電気分解装置の陰極室に2.0M硫酸のアセトニトリル溶液8mLを、陽極室に2.0M硫酸を含むアセトニトリル溶液8mLおよびヨウ素分子127mg(0.50mmol)を投入し、マグネチックスターラーで攪拌しつつ、25℃で定電流電解(20mA)を行い、2.0F/mol通電し、ヨウ素カチオン溶液を得た。
【0060】
(芳香族ヨウ素化合物の製造)
ついで、トルエン92mg(1.0mmol)を、1,2‐ジメトキシエタン3.6mLに溶解し、該溶液が表1に示す温度になるまで冷却した。ついで、得られたヨウ素カチオン溶液を加え、上記冷却時の温度で、1時間反応を行った。反応終了後、水酸化ナトリウム水溶液およびエーテルを加えて中和し、エーテル層と水層とに分離させた。エーテル層と水層とを分液し、水層に対してエーテルを加えて分液する操作を2回繰り返し行った。得られたエーテル層を混合し、飽和食塩水により洗浄を行った。これを減圧濃縮し、乾燥物を得た。得られた生成物は、4‐ヨードトルエンと、2‐ヨードトルエンであった。以下の表1に収率と選択率とを示す。
【0061】
【表1】
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【0062】
[実施例7‐10]
実施例7-10では、エーテル化合物を下記表2に示す化合物に変更した以外は、実施例1と同様にして4‐ヨードトルエンおよび2‐ヨードトルエンを得た。以下の表2に収率および選択率を示す。
【0063】
【表2】
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【0064】
[実施例11]
(ヨウ素カチオンの生成)
電気分解装置の陰極室に2.0M硫酸(支持電解質)のアセトニトリル溶液13mL、陽極室に2.0M硫酸を含むアセトニトリル溶液13mLおよびヨウ素127mg(0.500mmol)を投入した以外は、実施例1と同様にして、ヨウ素カチオン溶液を得た。
【0065】
(芳香族ヨウ素化合物の製造)
次に、得られたヨウ素カチオン溶液12.5ml(1.0mmol)を、非環式エーテル化合物であるジメトキシエタン10mlに加えた。これをトルエン92mg(1.0mmol)と、非環式エーテル化合物であるジメトキシエタン2.5mlの混合液に加えて反応させた。このとき、反応液の温度は、0℃であった。0.5時間かけて攪拌した。反応終了後、0℃で4N水酸化ナトリウム水溶液13mLを加えて中和、エーテル20mLを加えて希釈した。反応混合物を分液漏斗に移し、有機層と水層とを分離した。水層はエーテルで抽出し、有機層は飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液を減圧下で濃縮し、反応液を減圧濃縮し、4‐ヨードトルエンおよび2‐ヨードトルエンが混合した乾燥物を得た。実施例1による反応物の収率および4‐ヨードトルエンおよび2‐ヨードトルエンの生成割合を表3に示す。
【0066】
[実施例12-19]
実施例12-19では、出発物質である芳香族化合物を表3に示す化合物に変更した以外は、実施例8と同様にして、芳香族ヨウ素化合物を得た。以下の表3に、収率と選択率を示す。
【0067】
[比較例1]
比較例1では、ヨウ素カチオンの生成は、実施例8と同様にして行った。ついで、得られたヨウ素カチオン溶液を、トルエンを含むアセトニトリル溶液12.5mlに添加した。その後、1時間かけて攪拌した。反応液を減圧濃縮し、4‐ヨードトルエンと、2‐ヨードトルエンとを含む反応物を得た。以下の表3に収率と選択率を示す。
【0068】
[比較例2-9]
比較例2-9は、出発物質である芳香族化合物を変更した以外は、比較例1と同様にして芳香族ヨウ素化合物を得た。以下の表3に収率を、結合位置の選択率を示す。なお、表3では、比較例1~9は、実施例8~17にそれぞれ対応した比較例である。この比較例の結果は、対応する実施例の結果に括弧書きで併記する。
【0069】
【表3】
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【0070】
表1~表3から明らかなように、実施例にかかる芳香族ヨウ素化合物の製造方法によれば、パラ位にヨウ素が結合した芳香族ヨウ素化合物を高い選択率をもって製造できたことが確認された。また、実施例1‐6の結果を互いに比較して分かるように、ヨウ素化の反応温度が低くすることで選択率が向上することが確認された。
【0071】
[実施例20-31]
(ヨウ素カチオンの生成)
電気分解装置の陰極室に2.0Mの硫酸を含むアセトニトリル溶液56ml、陰極室に2.0Mの硫酸を含むアセトニトリル溶液56mlと、ヨウ素分子1.524g(6mmol)を加え、0℃に冷却した。マグネチックスターラーで、陰極室および陽極室を攪拌しつつ、0℃で定電流電解(20mA)を行った。2.0F/mol通電することにより、陽極室にヨウ素カチオン溶液を得た。得られたヨウ素カチオン溶液を梨型フラスコに移し、-20℃の恒温槽で保存した。
【0072】
(芳香族ヨウ素化合物の製造)
上記方法により得られたヨウ素カチオン溶液2ml(約0.21M、0.42mmol)をシリンジで抜き取り、表4に示すエーテル化合物(溶媒)を加えた後、トルエン77.4mg(0.84mmol)を仕込んだフラスコ中にキャヌラーを通して加えた。0℃で30分間反応させた。反応終了後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、エーテルを加えて分液し、水層を抽出した。エーテル層を過飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。ろ液をガスクロマトグラフ(内部標準法)にて分析した。生成物の収率、および4‐ヨードトルエンと2‐ヨードトルエンとの生成比率を表4に示す。
【0073】
【表4】
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【0074】
表4の結果から分かるように種々のエーテル化合物を用いた場合であっても、良好に芳香族ヨウ素化合物を製造できることが確認された。
【0075】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
反応中間体として好適に用いられる芳香族ヨウ素化合物を得ることができる。