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明細書 :イネ科植物の形質転換効率向上方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5618046号 (P5618046)
公開番号 特開2011-120496 (P2011-120496A)
登録日 平成26年9月26日(2014.9.26)
発行日 平成26年11月5日(2014.11.5)
公開日 平成23年6月23日(2011.6.23)
発明の名称または考案の名称 イネ科植物の形質転換効率向上方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 17
出願番号 特願2009-279023 (P2009-279023)
出願日 平成21年12月9日(2009.12.9)
審査請求日 平成24年11月21日(2012.11.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】小沢 憲二郎
【氏名】小川 泰一
【氏名】川東 広幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 育種学研究,2009年 9月25日,第11巻 別冊2号,第349頁
第26回日本植物細胞分子生物学会大阪大会・シンポジウム講演要旨集,2008年 9月 1日,p. 90, 1Ca-12
第51回日本植物生理学会年会要旨集,2010年 3月12日,p. 142, 3aD01(164)
調査した分野 C12N 15/09
A01H 1/00
A01H 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
アグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換方法において、イネ科植物のカルスもしくは胚と、外来遺伝子を保持したアグロバクテリウムとの共存培養を、イネのカルスからの抽出物を含む培地を用いて行うことを特徴とする、アグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換方法であって、前記イネのカルスからの抽出物が、イネカルスを、水又は液体培地中に、2~48時間浸漬及び振盪することにより抽出されたものである方法。
【請求項2】
前記共存培養に用いる培地が、前記イネのカルスからの抽出物を、イネのカルスに1~10倍重量の溶液を加えて水抽出される濃度に相当する濃度で含むものである、請求項1に記載の形質転換方法。
【請求項3】
前記イネ科植物のカルスが、液体振盪培養によって調製したものである、請求項1又は2に記載の形質転換方法。
【請求項4】
前記アグロバクテリウムとの共存培養が、前記共存培養に用いる培地を吸収させた濾紙上で行うものである、請求項1~3のいずれかに記載の形質転換方法。
【請求項5】
前記形質転換の対象となるイネ科植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、キビ、ヒエ、アワ、ハトムギ、トウモロコシ、モロコシ、シバ、ギニヤグラス、トールフェスク、もしくは、ペレニアルライグラスである、請求項1~4のいずれかに記載の形質転換方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はアグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換方法において、形質転換効率を飛躍的に向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アグロバクテリウム法による形質転換法は、多くの双子葉類の植物においては、極めて有用な外来遺伝子を導入する方法である。特に、エレクトロポレーション法やパーティクルガン法に比べて、形質転換処理が簡便であり、またその効率も安定している。さらには1個体あたりに同じ遺伝子が複数導入されにくい(一遺伝子を導入した個体が得られやすい)、などの点で優れた利点を有する。
そこで、近年、イネにおいて、ゲノム解析で明らかになった情報から、網羅的に表現型解析(フェノーム的解析)を行うために、ハイスループットで大量に形質転換体を作出する系の開発が求められ、形質転換系の改変(カルス誘導条件、共存培養条件、各種添加物、培養日数、培養温度、アグロバクテリウム濃度等の条件検討)がすすめられてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1,2参照)。
【0003】
しかしながら、これら従来の方法では、形質転換効率の高い日本晴やキタアケなどの限定された品種を用いた場合であっても、‘固体培地上で培養した2mm以上のイネ培養細胞’中の数細胞にしか、安定して遺伝子を導入することができず、数万の形質転換細胞より数個体の相同組換えイネを選抜する大規模選抜に適していない。
また、他の多くの有用なイネ品種や、コムギ、トウモロコシなどのイネ科植物全体に適用が可能な普遍的な方法ではない。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開WO94/00977号
【0005】

【非特許文献1】Plant Cell Rep. 22 (2004) 653-659.
【非特許文献2】Plant Mol. Biol. Rep. 15 (1997) 16-21.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決し、アグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換効率を飛躍的に向上させることにより、極めて大量に形質転換体を得ることが可能な形質転換法を提供することを課題とする。
また、本発明は、イネ科植物全般(従来法では形質転換効率が低い種類や品種も含む)に適用可能なアグロバクテリウム法による形質転換法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来のアグロバクテリウム法は、固体培地上の2mm程度の細胞塊(カルス)を形質転換に用いていた。すなわち、固体培地で増殖したカルスをアグロバクテリウム懸濁液と混合した後に、固体寒天培地、または液体培地で数日間培養(共存培養)してT-DNA挿入を促した後、洗浄後、選抜培地に移し形質転換細胞を選抜する方法である。
【0008】
そこで、アグロバクテリウム法により大量の形質転換体を得る手段として、液体振盪培養系により得られる増殖が活発で細胞塊が小さい培養細胞を用いることにより、大量の形質転換細胞を容易に得られると考えられた。
しかし、液体振盪培養を行った場合、イネ細胞に高頻度で形質転換を誘導することはできなかった(Plant Mol. Biol. 35 (1997) 205-218, Breeding Science 51(2001) 33-38)。
このため、イネ液体振盪培養細胞は、アグロバクテリウム法による形質転換に適していないと考えられていた。また、振盪培養によって得られる1-2mm以下の小さい細胞塊(カルス)も、アグロバクテリウム法による形質転換に適していないと考えられていた。
【0009】
本発明者らは、これらの課題を克服するため鋭意検討を重ねた結果、液体培養により細胞塊が細かくなり活発に増殖しているカルスを、「イネカルスからの抽出物(特に所定濃度)を含有する培地」を用いてアグロバクテリウムとの共存培養を行うことによって、イネ科植物への形質転換効率を飛躍的に向上できることを見出した。
また、当該イネカルス抽出物を利用することにより、コムギ胚などのイネ科植物の全般の細胞に対しても、飛躍的に形質転換効率を向上できることを見出した。
(なお、これまで、イネ科植物は、形質転換を促進するシグナル物質をほとんど作らないか、または十分量を生産しないと考えられていた。このためイネのカルス抽出物や、培養液等は形質転換効率向上に有効とは考えられていなかった。)
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
すなわち、請求項1に係る発明は、アグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換方法において、イネ科植物のカルスもしくは胚と、外来遺伝子を保持したアグロバクテリウムとの共存培養を、イネのカルスからの抽出物を含む培地を用いて行うことを特徴とする、アグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換方法であって、前記イネのカルスからの抽出物が、イネカルスを、水又は液体培地中に、2~48時間浸漬及び振盪することにより抽出されたものである方法に関する。
また、請求項2に係る発明は、前記共存培養に用いる培地が、前記イネのカルスからの抽出物を、イネのカルスに1~10倍重量の溶液を加えて水抽出される濃度に相当する濃度で含むものである、請求項1に記載の形質転換方法に関する。
また、請求項3に係る発明は、前記イネ科植物のカルスが、液体振盪培養によって調製したものである、請求項1又は2に記載の形質転換方法に関する。
また、請求項4に係る発明は、前記アグロバクテリウムとの共存培養が、前記共存培養に用いる培地を吸収させた濾紙上で行うものである、請求項1~3のいずれかに記載の形質転換方法に関する。
また、請求項5に係る発明は、前記形質転換の対象となるイネ科植物が、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、キビ、ヒエ、アワ、ハトムギ、トウモロコシ、モロコシ、シバ、ギニヤグラス、トールフェスク、もしくは、ペレニアルライグラスである、請求項1~4のいずれかに記載の形質転換方法に関する。


【発明の効果】
【0011】
本発明により、アグロバクテリウム法によるイネ科植物の形質転換効率を飛躍的に向上させることが可能とする。
それにより本発明は、液体振盪培養により調製された小さいカルス(従来、形質転換に適していないと考えられていた)を効率的に形質転換させることも可能となり、アグロバクテリウム法によるイネ科植物の高効率形質転換系を提供することを可能とする。具体的には、1つのカルス(細胞塊)から60個程度形質転換細胞を得られ、またそのカルスが小さいことから一度に扱えるカルスの数が数十倍に増加させることを可能とする。
【0012】
また、本発明により、イネ科植物全般(従来法では形質転換効率が低い種類や品種も含む)に対して、アグロバクテリウム法による高効率の形質転換を行うことが可能とする。
特に、イネやコムギの有用品種に対して、高効率で形質転換効率を行うことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のアグロバクテリウム法による形質転換法の概略を示す図である。
【図2】バイナリーベクターpCAMBIA1301の特徴を示す模式図である。
【図3】解析例1において、イネカルスをGUS染色した写真像図である。barの長さは2mmを表す。
【図4】解析例1において、イネカルスをGUS染色した写真像図である。barの長さは2mmを表す。
【図5】バイナリーベクターpAL156の特徴を示す模式図である。
【図6】解析例2において、コムギ未熟胚をGUS染色した写真像図である。barの長さは1mmを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアグロバクテリウム法による形質転換法は、イネ科植物のカルスや胚と、アグロバクテリウムとの共存培養において、イネカルス抽出物を含む培地を用いてアグロバクテリウムとの共存培養を行うこと、を特徴とする方法である。
従って、本発明の形質転換法は、イネカルス抽出物を含む培地を用いてアグロバクテリウムとの共存培養を行うことを除いては、従来の如何なる方法によっても行うことができるものである。なお、本発明のアグロバクテリウム法による形質転換法の概略を、図1に示す。

【0015】
〔イネカルス抽出物〕
ここで「イネカルス抽出物」とは、イネのカルスから水抽出される抽出物を指すものである。
抽出に用いる‘イネカルス’としては、Oryza sativaに属する如何なるイネから調製したカルスを用いることができる。例えば、日本晴などの一般的なジャポニカ種を用いることができるが、好ましくは、形質転換効率の高い品種を用いることが望ましい。
なお、イネカルス調製は、従来の如何なる方法で調製したものであってもよく、例えば、Hieiらの従来の方法(Plant J. 6 (1994) 271-282.)によって調製することができる。即ち、イネ種子、イネ未熟胚などを適当なオーキシン類を含む、固形寒天培地の上に置き、温度25~32℃で静置培養することで、カルスを誘導し調製することができる。

【0016】
次いで、本発明において、水抽出に用いる‘溶媒’としては、抽出が可能な溶液であれば如何なるものでも用いることができ、特にはpHが弱酸性~弱アルカリ性(pH5~9程度)であり塩濃度や有機物の濃度が低いもの(もしくは含まないもの)を用いることができる。
具体的には、これらの条件を満たす溶液である、水、緩衝液、液体培地など(特には、水、液体培地)を用いることが望ましい。
なお、液体培地としては、形質転換の対象となるイネ科植物のカルス培養に用いる培地と同じ組成の液体培地(特に、共存培養培地)を用いることが好適である。

【0017】
抽出条件としては、イネカルスを、当該カルス重量の数分の1~数倍重量程度の量(例えば、0.2~20倍重量、具体的には2倍重量程度)の上記溶媒に数時間(例えば0.5~48時間、具体的には2時間程度)浸漬し、振盪(や攪拌)することで抽出を行うことができる。なお、浸漬状態のままで静置して行うことも可能である。
また、抽出温度については、室温程度(例えば10~30℃)で行うことができるが、具体的には20℃程度で行うことが望ましい。なお、高温で行った場合、細胞が活発に増殖するため、抽出成分の組成が変化してしまい好ましくない。
また、細胞が死滅する程の高温条件、振盪条件、高圧条件で抽出を行った場合、様々な細胞内容物が不純物として抽出されてしまうため、これらが細胞増殖に悪影響を与えてしまい好ましくない。

【0018】
〔アグロバクテリウムとの共存培養に用いる培地〕
本発明においては、上記のようにして抽出したイネカルス抽出物は、アグロバクテリウムとの共存培養に用いる培地に含有させて用いる。
ここで、‘培地の形態’としては、通常のアグロバクテリウム法において、アグロバクテリウムとの共存培養に用いる共存培養培地であれば如何なる形態でもよく、液体培地であっても固形寒天培地であってもよい。
なお、形質転換効率の向上を踏まえると、当該共存培養培地を液体培地として調製し、‘濾紙に吸収’させた形態で用いることが望ましい。

【0019】
当該培地に含有させるイネカルス抽出物の(最終的な)‘濃度’としては、「イネカルスに、前記イネカルスの1~10倍重量(好ましくは2~8培重量)の溶液(前記抽出溶媒)を加えて水抽出される濃度」、に相当する濃度範囲に調製することが好ましい。(なお、ここで、当該カルス抽出物の濃度範囲を規定する基準となる抽出条件としては、20℃の共存培養液体培地中で2時間の振盪抽出を行う抽出条件、を指すものである。)
本発明では、当該イネカルス抽出物(抽出液)と各種培地成分を混合することによって、最終的に本発明に適した当該濃度範囲のイネカルス抽出物を含有する共存培養培地、を調製することができる。

【0020】
〔形質転換対象となる植物〕
本発明のアグロバクテリウム法による形質転換の対象となるイネ科植物としては、イネ科に分類される植物であれば、如何なる種類や品種に対しても行うことができる。
例えば、穀類である、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、キビ、ヒエ、アワ、ハトムギ、トウモロコシ、モロコシ、などに用いることができる。また、イネ科牧草である、シバ、ギニヤグラス、トールフェスク、ペレニアルライグラス、などに用いることができる。
特に、本発明の方法は、従来のアグロバクテリウム法では形質転換が難しい種類や品種に対しても、形質転換効率を向上することができ、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ(最も特にはイネ、コムギ)の有用品種に対して特に有効に用いることができる。

【0021】
ここで‘イネ’としては、Oryza sativaに属する植物の如何なる品種、系統のものに対しても用いることができるが、具体的には、ジャポニカ種の日本晴、北海飼308、コシヒカリ、ササニシキ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、きらら397など、;‘インディカ種’のDular、Panbira、IR8、;などの品種に用いること、特には、日本晴、北海飼308、コシヒカリ、Dularといった品種や系統に対して用いることが有用である。
また、‘コムギ’としては、コムギ属(Triticum)に属する植物であれば、如何なる種、品種、系統のものも用いることができるが、例えば、T. aestivum(普通コムギ、パンコムギ)、T. compactum(クラブコムギ、密穂コムギ)、T. durum(デュラムコムギ、マカロニコムギ)、などに属するものを挙げることができる。

【0022】
本発明のアグロバクテリウム法は、上記イネ科植物から通常の方法によって調製した如何なるカルスや胚(特には未熟胚)に対しても、極めて高効率で形質転換を行うことができる。
なお、さらには、本発明のアグロバクテリウム法によって、液体振盪培養によって調製されたカルス(大量調製が可能であるが、従来法での形質転換が難しかったカルス)に対しても、効率よく形質転換を行うことが可能となる。
具体的には、液体振盪培養の継代培養を1回以上(好ましくは2回以上、さらには4回以上)、行って得た大量のカルス(特に小型のカルス)に対しても、効率よく形質転換を行うことが可能となる。

【0023】
〔アグロバクテリウムとの共存培養〕
本発明におけるアグロバクテリウムとの共存培養は、上記イネカルス抽出物を含む培地を用いることを除いては、従来の如何なる方法(様々な組成の液体培地や固形寒天培地を用いた方法)によって行うことができる。
なお、好ましくは、‘濾紙’に前記共存培養培地を吸収させ、その濾紙上で共存培養を行うことで、さらに形質転換効率を向上させることができる。当該濾紙を用いた共存培養は、具体的には、前記共存培養培地を濾紙が吸収できる液量だけ吸収させて余分な液を吸い取り、その上にアグロバクテリウム懸濁液に浸漬したカルスや胚を置いて、濾紙の水分が蒸発しないようにシール等で密封した後、通常の培養条件で共存培養を行う方法である。

【0024】
上記のようにして得られた、共存培養後の形質転換された植物体は、常法に従って選抜し、再分化させた植物体を得ることができる。
なお、本発明の方法により形質転換された植物体は、従来法に比べて極めて高い効率(頻度)で形質転換された個体を含むものであるので、選択マーカーを用いずに形質転換体を選別することも可能となる。例えば、得られる全ての形質転換体よりゲノムDNAを抽出し、導入遺伝子の存在をPCR法により判別し、形質転換体を選抜することが可能である。また、GUS、GFPなどのレポーター遺伝子を予め組込んだ前記バイナリーベクターを用いることで、形質転換体を容易に選抜することが可能である。
また、形質転換により‘導入した外来遺伝子’が、植物体の形態に影響を与えるものである場合(例えば葉の形態や植物体の色、成長率など)、表現型を手がかりに、直接、形質転換体を選抜することも可能である。

【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
<実施例1> イネの形質転換
〔調製例1〕
(1)培地及び試薬の調製
本実施例において、イネの形質転換に用いる以下の培地及び試薬を調製した。
【実施例】
【0027】
【表1】
JP0005618046B2_000002t.gif
【実施例】
【0028】
(2)アグロバクテリウム懸濁液の調製
アグロバクテリウムのバイナリーベクターとしては、pCAMBIA1301(アクセッションナンバー:F234297、http://www.cambia.org/daisy/cambia/2046/version/1/part/4/data/pCAMBIA1301.pdf)を用いた。このベクターは、感染効率を確認するためGUS遺伝子が組み込まれている。当該ベクターのマップ図を図2に示した。
このpCAMBIA1301を保持するアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefacience EHA101株)を、常法に従って培養し、増殖したアグロバクテリウムを、感染用培地(表1)中に、OD600の値が0.05になるように懸濁することで、「アグロバクテリウム懸濁液」を調製した。
【実施例】
【0029】
(3)イネカルス抽出物を含む培地の調製
イネ(品種:日本晴)の種子を、籾殻を除去後、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分間浸漬することで種子表面を滅菌し、その後滅菌水で2回洗浄した。
この種子10個を誘導培地(表1)上に置床し(胚が上に来るように少し斜めに種を培地にさし)、サージカルテープでシールして密封し、30℃、照明下(明期16時間と暗期8時間の明暗周期条件)で21日間培養し、カルスを誘導した。
【実施例】
【0030】
得られたカルスを、新しい誘導培地(表1)上に移し、同様の条件で3日間培養した。そして、得られたイネカルス(10g)を、遠心管に移し、カルス重量の2倍量である20mlの共存培養培地(表1)を加えて、2時間振盪(100rpm)した。そして、8000rpmで遠心し、上澄みを濾過滅菌して回収し、「イネカルス抽出物を含む共存培養培地」を得た。そして、同じ培地で希釈し、1/2希釈液、1/4希釈液を得た。
また、共存培養培地に代えて、感染用培地(表1)を加えて、同様の手順で調整することで、「イネカルス抽出物を含む感染用培地」を得た。そして、同じ培地で希釈し、1/2希釈液、1/4希釈液を得た。
なお、これらの培地について、カルス重量を1とした時の最終的に加えた培地量との関係を表2に示した。
【実施例】
【0031】
【表2】
JP0005618046B2_000003t.gif
【実施例】
【0032】
〔試験例1〕 イネカルス抽出物を含む培地を用いたイネの形質転換
(1)イネカルスの調製
イネ(品種:日本晴)の種子を、籾殻を除去後、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分間浸漬することで種子表面を滅菌し、その後滅菌水で2回洗浄した。
この種子10個を誘導培地(表1)上に置床し(胚が上に来るように少し斜めに種を培地にさし)、サージカルテープでシールして密封し、30℃、照明下(明期16時間と暗期8時間の明暗周期条件)で21日間培養し、カルスを誘導した。
【実施例】
【0033】
得られたカルスを、継代培養培地(表1)15mlが入っている100ml三角フラスコへ移し、30℃、照明下(明期16時間と暗期8時間の明暗周期条件)で液体培地での振盪培養(90rpm)を行った。そして、3日ごとにカルス約0.2ml(packed cell volume)を新しい継代培養培地(表1)が入っている三角フラスコに移し、同様の条件で継代培養した。
【実施例】
【0034】
(2)アグロバクテリウムとの共存培養
液体振盪培養開始から3日後の各カルス(未継代~4回植え継いで3日間培養した各カルス)を濾紙上に集め培地を取り除き、「イネカルス抽出物を含む共存培養培地(原液)」(調製例1)に移し、再び濾紙上に集め培地を取り除いた。
そして、「アグロバクテリウム懸濁液」(調製例1)と「イネカルス抽出物を含む感染用培地(原液)」(調製例1)を加えて軽く振った後、2分間浸漬することで、アグロバクテリウムを接種した。そして、濾紙に移して余分な水分を取り除いた。
【実施例】
【0035】
次いで、9cmプラスチックシャーレ内に、直径9cmの2号定性濾紙(東洋ADVANTEC社製)1枚に、「イネカルス抽出物を含む感染用培地(原液)」(調製例1)を1.8ml(当該濾紙が100%吸収できる量)吸収させたものを準備した。
そして、その濾紙の上に前記カルスを置き、プラスチックシャーレの蓋を被せてパラフィルムでシールした。その後、25℃、暗黒下で、当該カルス表面に付着したアグロバクテリウムとの共存培養を3日間行うことで、形質転換を行った。
【実施例】
【0036】
(3)選抜マーカー遺伝子を用いた選抜培養
共存培養後のカルスは、50mlの遠心管に移し、水40mlを加えて浸盪した。この操作を2回繰り返して洗浄し、最後に25mg/Lのメロペン(大日本住友製薬)を含む水40mlに懸濁し、濾紙に移して余分な液を取り除いた。
そして、カルスを濾紙上に移し、余分な水分を除いた後、選抜用培地(表1)上に置いて、30℃、照明下(明期16時間と暗期8時間の明暗周期条件)で7日間培養することで、形質転換されたイネカルスを選抜(HPT抵抗性カルスを選抜)した。

【実施例】
【0037】
〔試験例2〕 イネカルス抽出物を希釈した培地を用いた場合
試験例1(2)のアグロバクテリウムとの共存培養において、‘イネカルス抽出物を含む各培地’として、「イネカルス抽出物を含む感染用培地(1/2希釈液)」(調製例1)と「イネカルス抽出物を含む共存培養培地(1/2希釈液)」(調製例1)を用いたことを除いては、試験例1と同様にイネの形質転換を行い、形質転換されたイネカルスを選抜した。

【実施例】
【0038】
〔試験例3〕 イネカルス抽出物を希釈した培地を用いた場合
試験例1(2)のアグロバクテリウムとの共存培養において、‘イネカルス抽出物を含む各培地’として、「イネカルス抽出物を含む感染用培地(1/4希釈液)」(調製例1)と「イネカルス抽出物を含む共存培養培地(1/4希釈液)」(調製例1)を用いたことを除いては、試験例1と同様にイネの形質転換を行い、形質転換されたイネカルスを選抜した。

【実施例】
【0039】
〔試験例4〕 イネカルス抽出物を含まない場合(対照)
試験例1(2)のアグロバクテリウムとの共存培養において、‘イネカルス抽出物を含む各培地’の代わりに、イネカルス抽出物を含まない「感染用培地(表1)」と「共存培養培地(表1)」を用いたことを除いては、試験例1と同様にイネの形質転換を行い、形質転換されたイネカルスを選抜した。

【実施例】
【0040】
〔解析例1〕 試験例1~4の結果の検討
(1)イネカルス抽出物による形質転換効率向上効果
試験例1~4において、継代培養4回目の液体振盪培養開始から3日後のものを形質転換したイネカルスについて、形質転換効率を比較した。
まず、上記選抜したカルスを、15mLのプラスチックチューブに移し、水2mLを加え、振盪し、上静を取り除いた。この操作をあと2回繰り返した後、GUS染色液(表1)に浸漬し、37℃で1日間静置することで、GUS染色を行った。
発色反応後、カルスを濾紙上に移し、余分な液を除いた後、実体顕微鏡で観察し、カルス1個あたり形質転換された細胞数(GUS染色された細胞数)を計測した。
計測は、5個以上のカルスについて計測する操作を、3回繰り返し行い、‘カルス1個あたりの形質転換細胞数の平均値’を算出した。結果を表3に示す。また、GUS染色したカルスの写真像を図3に示す。
【実施例】
【0041】
その結果、アグロバクテリウムとの共存培養に用いる培地に、‘イネカルス抽出物’を含有させることによって、形質転換効率が向上することが示された。
特に、調製例1で得られるイネカルス抽出物を‘1/2倍に希釈して含有させた培地’を用いることによって(試験例2)、形質転換効率が顕著に向上することが示された。
【実施例】
【0042】
【表3】
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・表中の括弧内の数値は、計測に用いたカルス数の合計を示す。

【実施例】
【0043】
(2)継代回数の検討
試験例2の各継代培養後のカルス(未継代のもの及び1~4回継代したもの)について、カルス1個あたりの形質転換細胞数(GUS染色細胞数)を比較した。
形質転換効率の計測は、上記段落(1)と同様に行った。結果を表4に、GUS染色したカルスの写真像を図4に示す。また、形質転換細胞を含むカルスの割合を比較した結果を表5に示す。
【実施例】
【0044】
その結果、イネカルス抽出物を含まない培地で共存培養を行った用いた場合(試験例4)では、継代回数が進むにつれて、カルス1個あたりの形質転換細胞の数が大幅に減少した。
それに対して、イネカルス抽出物を含む培地を用いた場合(試験例2)では、むしろ増加する傾向が見られた。また、継代培養を3,4回行った後のカルスでは、調べたカルスの‘全て’が形質転換細胞を含むものであった。
【実施例】
【0045】
【表4】
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【実施例】
【0046】
【表5】
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【実施例】
【0047】
(3)カルスサイズ及び重量に対する形質転換細胞数の関係
試験例2の各継代培養後のカルス(未継代のもの及び4回継代したもの)について、カルス(細胞塊)のサイズや重量等に対する形質転換細胞数の関係を詳細に比較した。まず、培養したカルスを、1mmメッシュを用いて大きさの違う2群に分け、カルス数と重量を測定した。そして、上記段落(1)と同様の方法で形質転換効率の計測を行った後、カルス1mgあたりの形質転換効率の値を算出した。結果を表6に示す。
その結果、液体培地での継代培養を続けることによって、カルスサイズが急激に小さくなったことが示されたが、細胞1mgあたりに換算すると形質転換効率が大幅に高くなることが示された。
なお、従来、小さいカルス(細胞塊)は、アグロバクテリウムの影響で形質転換しないと言われていたが、本発明の方法を用いることで、高効率での形質転換が可能となることが示された。
【実施例】
【0048】
【表6】
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・表中の括弧内の数値は、計測に用いたカルス数の合計を示す。

【実施例】
【0049】
<実施例2> コムギの形質転換
〔調製例2〕
(1)培地及び試薬の調製
本実施例において、コムギの形質転換に用いる以下の培地及び試薬を調製した。
【実施例】
【0050】
【表7】
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【実施例】
【0051】
(2)アグロバクテリウム懸濁液の調製
アグロバクテリウムのバイナリーベクターとしてpAL156(Plant Cell Reports 21巻7号659-668)を用いた。このベクターは、感染効率を確認するためGUS遺伝子が組み込まれている。pAL156のマップ図を図5に示した。
このpAL156を保有するアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens AGL1株)を常法に従って培養し、増殖したアグロバクテリウムを、感染用培地(表7)中にOD600の値が2.00になるように懸濁することで、「アグロバクテリウム懸濁液」を調製した。
【実施例】
【0052】
(3)イネカルス抽出物を含む培地の調製
表7に記載の共存培養培地を用いたことを除いては、調製例1に記載の方法と同様にして、「イネカルス抽出物を含む共存培養培地」の1/2希釈液を調製した。
なお、この培地について、カルス重量を1とした時の最終的に加えた培地量との関係を表8に示した。
【実施例】
【0053】
【表8】
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【実施例】
【0054】
〔試験例5〕 イネカルス抽出物を含む培地を用いたコムギの形質転換
(1)コムギの未熟胚の調製
コムギ(品種Bobwhite S-26)の穂軸(開花して15日目)から取り外した未熟な種子を、70%エタノール溶液に30秒間、次いで10%次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分間浸漬し、未熟種子表面を滅菌した。滅菌した後、種子を滅菌水で3度洗浄した。
未熟種子の先端部(胚が埋没している部分)を外科用メスで切り取った。このとき、胚の芽の部分のみを切り取り、胚の胚盤の部分は種子側に残るようにした。
その後、同じメスを使って種子内部に残った胚部分を取り出し、胚盤側(胚乳に接していた側)が上になるように誘導培地(表7)の上に置き、パラフィルムでシールして密封し、26℃、暗黒下で培養して、コムギ未熟胚を調製した。
【実施例】
【0055】
(2)アグロバクテリウムとの共存培養
調製した未熟胚の上から、マイクロピペットを用いて、「アグロバクテリウム懸濁液」(調製例2)を未熟胚の胚盤上に注いで、約2時間、暗黒下、室温に静置することで、アグロバクテリウムを接種した。そして、コムギ未熟胚周辺の液をマイクロピペット用いて取り除いた。
【実施例】
【0056】
一方で、6cmプラスチックシャーレ内に敷いた、直径5cmの2号定性濾紙(東洋ADVANTEC社製)1枚に、「イネカルス抽出物を含む共存培養培地(1/2希釈液)」(調製例2)を1ml(当該濾紙が100%吸収できる量)吸収させたものを準備した。
そして、この濾紙上に接種を終えた未熟胚を並べ、プラスチックシャーレの蓋を被せてパラフィルムでシールした。その後、28℃、暗黒下で、未熟胚表面に付着したアグロバクテリウムとの共存培養を3日間行うことで、形質転換を行った。

【実施例】
【0057】
〔試験例6〕 イネカルス抽出物を含まない場合(対照)
試験例5(2)のアグロバクテリウムとの共存培養において、‘イネカルス抽出物を含む培地’の代わりに、イネカルス抽出物を含まない「共存培養培地(表7)」を用いたことを除いては、試験例5と同様にコムギの形質転換を行った。

【実施例】
【0058】
〔解析例2〕 試験例5,6の結果の検討
(1)イネカルス抽出物による形質転換効率向上効果
試験例5,6の形質転換したコムギ未熟胚について、形質転換効率を比較した。
まず、上記未熟胚を15mLのプラスチックチューブに移し、水2mLを加え、振盪し、上静を取り除いた。この操作をあと2回繰り返した後、GUS染色液(表7)に未熟胚を浸漬し、22.5℃で2日間静置することでGUS染色を行った。
発色反応後、実体顕微鏡で観察し、形質転換された細胞(GUS染色された細胞)を持つ未熟胚の数を計測した。結果を表9に示す。また、GUS染色した未熟胚の写真像を図6に示す。
【実施例】
【0059】
その結果、イネカルス抽出物を含まない培地で共存培養を用いた場合(試験例6)に比べて、イネカルス抽出物を含む培地を用いた場合(試験例5)では、形質転換された細胞を持つコムギ未熟胚の数が大幅に(約2倍に)向上することが示された。
【実施例】
【0060】
【表9】
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【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、イネ科植物の形質転換体作出の労力が飛躍的に低減できることから、イネ組換え体作出請負企業等、イネ形質転換体を多量に作出することが必要な機関において、この技術が必須となると考えられる。
また、本発明により、形質転換細胞を多量に作出することが必要なためにこれまで普及しなかった、相同組換え、SDIシステム等の技術が、イネ科植物においても一般的な技術となり広く普及することが期待される。
また、イネ科植物の有用品種(特にイネ、コムギ)への形質転換に用いられることが期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図6】
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