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明細書 :回折格子型発光ダイオード

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5242975号 (P5242975)
公開番号 特開2009-060046 (P2009-060046A)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
公開日 平成21年3月19日(2009.3.19)
発明の名称または考案の名称 回折格子型発光ダイオード
国際特許分類 H01L  33/02        (2010.01)
FI H01L 33/00 100
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願2007-228178 (P2007-228178)
出願日 平成19年9月3日(2007.9.3)
審査請求日 平成22年1月6日(2010.1.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
発明者または考案者 【氏名】野田 進
【氏名】浅野 卓
【氏名】冨士田 誠之
【氏名】北川 均
【氏名】須藤 俊英
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
審査官 【審査官】瀬川 勝久
参考文献・文献 特開2004-289096(JP,A)
調査した分野 H01L 33/00-33/64
特許請求の範囲 【請求項1】
順に積層された第1半導体層、活性層、第2半導体層と、前記第1半導体層と電気的に接続された第1電極と、第2半導体層と電気的に接続された第2電極とを備えた回折格子型発光ダイオードにおいて、
前記第1半導体層及び第2半導体層の少なくとも一方と前記活性層を貫通する多数の空孔を2次元周期的に配置すると共に、非発光再結合速度をvsとした場合に前記空孔の配置周期aが次の式
【数1】
JP0005242975B2_000009t.gif
(ただし、ηin(0)は空孔を設けない場合の内部量子効率、Kは空孔の配列状態により定まる定数、fは空孔の2次元的充填率、Rspは空孔を設けた場合の自然放出レート、Fγは空孔を設けない構造に対する空孔を設けた構造の光取り出し効率増加比を示す。)
を満たすように設計されることを特徴とする回折格子型発光ダイオード。
【請求項2】
前記活性層の発光中心波長が470~570nmであることを特徴とする請求項1に記載の回折格子型発光ダイオード。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子型発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子である発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、低消費電力、長寿命、小型、高信頼性等の特徴を有することから、表示用光源や乗用車のテールランプ、信号灯、携帯電話等のポータブル機器のバックライト等、様々な分野で広く用いられている。また、近年では、乗用車のヘッドランプや照明灯などへの応用が期待されており、発光ダイオードの高輝度化が望まれている。
【0003】
発光ダイオードは、p型半導体層、活性層、n型半導体層を積層し、それらを一対の電極で挟み込んだ構成を有している。発光ダイオードはこれら一対の電極間に電圧が印加されることにより電子及び正孔が活性層に移動し、そこで両者が再結合して光を発生する。発光ダイオードの発光効率(外部量子効率)は、活性層で発光する際の内部量子効率と、発光した光を外部に取り出す取り出し効率によって決まる。発生した光の多くは外部に取り出されることなく活性層内に留まることから、取り出し効率の向上は外部量子効率の向上につながり、高輝度化を図ることができる。
【0004】
例えば特許文献1には、発光ダイオードにフォトニック結晶構造を形成し、外部量子効率を高める方法が記載されている。
フォトニック結晶内では、その周期構造により、結晶中の光のエネルギーに関してバンド構造が形成され、光の伝播が不可能となるエネルギー領域(波長帯、フォトニックバンドギャップ(PBG)が存在する。フォトニックバンドギャップ内の波長を有する光は、周期構造が形成された面内を伝播することができず、この面に垂直な方向にのみ伝播する。フォトニックバンドギャップは、誘電体の屈折率や周期構造の周期により定まる。
【0005】
特許文献1の発光ダイオードでは、一対の電極とその間に設けられたp型半導体層、活性層、n型半導体層からなる層構造に、これら3層を貫通する空孔を2次元周期的に多数形成することによりフォトニック結晶構造を形成している。このような構成により、活性層において電子と正孔とが再結合することにより得られた発光は、各層に平行な面内には伝播することができず、これらの層に垂直な方向にのみ取り出すことができる。つまり、高い取り出し効率の発光ダイオードを実現できる。
【0006】
フォトニック結晶構造は、半導体層に空孔を2次元周期的に形成することにより得られるが、フォトニック結晶と同様の構造であっても回折格子として機能する場合がある。このような構造は一般的に回折格子型構造と呼ばれ、上述のフォトニック結晶構造はフォトニックバンドギャップ型(PBG型)構造と呼ぶ。PBG型構造と回折格子型構造は、発光体の外部量子効率を向上させるメカニズムが異なる。
【0007】
PBG型構造では、空孔の周期を発光体の発光波長と同程度に設定し且つ発光波長をPBG波長域内に設定して面内発光を抑制し、面垂直方向への発光を増強することにより外部量子効率を向上させる。または、PBG端に発光波長を設定し、そこでの大きな状態密度を利用して外部量子効率を向上させている。
これに対して、回折格子型構造では、空孔の周期を発光波長よりも大きく設定し、発光体内部と外部との面内波数ベクトル保存則制限をフォトニック結晶による逆格子ベクトルを含めた保存則に置き換えることにより全反射条件を緩めて光取り出し効率を向上、つまり外部量子効率を向上させている。
【0008】
このように、発光ダイオードに空孔を2次元周期的に形成してフォトニック結晶構造を設ける場合には、その周期と発光波長との比を適切に設定しなければ、その構造が有効に機能しない。
上述の特許文献1は発光ダイオードにPBG型のフォトニック結晶構造を設けて発光効率の向上を図ったものであり、フォトニック結晶周期が発光波長と同程度よりも大きい場合には外部量子効率がかえって低減する可能性がある。

【特許文献1】特開2004-289096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、空孔を2次元周期的に形成する場合にその周期を適切に設定することにより外部量子効率の向上を図った回折格子型発光ダイオードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、
順に積層された第1半導体層、活性層、第2半導体層と、前記第1半導体層と電気的に接続された第1電極と、第2半導体層と電気的に接続された第2電極とを備えた回折格子型発光ダイオードにおいて、
前記第1半導体層及び第2半導体層の少なくとも一方と前記活性層を貫通する多数の空孔を2次元周期的に配置すると共に、非発光再結合速度をvsとした場合に前記空孔の配置周期aが次の式
【数1】
JP0005242975B2_000002t.gif
(ただし、ηin(0)は空孔を設けない場合の内部量子効率、Kは空孔の配列状により定まる定数、fは空孔の2次元的充填率、Rspは空孔を設けた場合の自然放出レート、Fγは空孔を設けない構造に対する空孔を設けた構造の光取り出し効率増加比を示す。)
を満たすように設計されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
半導体の表面付近では、界面の影響や格子欠陥等により電子や正孔のエネルギー準位に欠陥準位が多数形成される。このため、半導体の表面付近において電子と正孔とが再結合した場合には、その過程において電子又は正孔がこの欠陥準位を占めることにより、光ではなく熱を放出する(表面再結合または非発光再結合)。発光ダイオードに空孔を形成した場合、その深さが大きいほど回折効率が向上するが、活性層を貫通するほど空孔の深さを大きくすると空孔側面における表面再結合によって発光効率、エネルギー効率が低下する。このため、従来は、活性層内を通過しない程度の比較的浅い空孔を発光ダイオードの表面に設けていた。
【0013】
これに対して、本発明では、発光ダイオードに、活性層を貫通するほどの大きい深さの空孔を周期的に設けると共にその配置周期を大きくしたため、回折効率の向上を図りつつ、空孔側壁にたどり着く電子及び正孔の割合を減らして非発光表面再結合を抑制することができる。また、周期を大きくしたことにより発光ダイオード表面における全反射条件が緩められ、この結果、光取り出し効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の発光ダイオードは、p型半導体層、活性層、n型半導体層を積層して1対の電極の間に挟んだ構造を有する。p型半導体層と活性層の間、活性層とn型半導体層の間、又はp型或いはn型半導体層と電極の間には、スペーサ等の他の層が挟まれていてもよい。
前記発光ダイオードの表面には多数の空孔が2次元周期的に設けられている。前記空孔は少なくともp型半導体層/n型半導体層と活性層を貫通しており、これにより、発光ダイオードの表面に回折格子構造が形成される。各空孔は3層の全てを貫通していてもよく、p型半導体層/n型半導体層内で終止していても良い。従来と同様に、空孔の配置は正方格子状や三角格子状等とすることができる。また、各空孔の形状も従来と同様に円柱状等の種々の柱状にすることができる。
【0015】
発光ダイオードの表面に設けた空孔は、その深さを大きくすることにより回折効率が向上するが、活性層を貫通する場合は空孔の側壁にできる非発光再結合中心の発生により非発光過程が増加する。
これに対して、空孔の配置周期を大きくすれば、空孔側壁にキャリア(電子及び正孔)がたどり着く割合を減らして非発光再結合を抑制することができる。その際に、空孔の充填率(空孔の配置周期をa、空孔の直径をrとすると、空孔の配置が三角格子状の場合の充填率fはf=(r/a)2×(2π/√3)となり、正方格子状の場合の充填率fはf=π(r/a)2となる)を一定に保てば、回折による光の取り出し効率を一定に保つことができる。
本発明は、このような考えに基づいて空孔の周期構造を適切に設計し、外部量子効率の高い発光ダイオードを実現させたものである。
【0016】
具体的には、非発光再結合速度vsと空孔の配置周期aとの比が次の式(1)を満たしているときに空孔を設けた効果により外部量子効率が増加する。
【数2】
JP0005242975B2_000003t.gif
ただし、ηin(0)は空孔なしの場合の内部量子効率、Kは定数(空孔が三角格子の場合はK=1.07,正方格子の場合はK=1)、fは空孔の充填率、Rsp(0)は空孔無しの場合の自然放出レート、Rspは空孔有りの場合の自然放出レート、Fγは空孔無しの場合の光取り出し効率に対する空孔有りの場合の光取り出し効率の増加比を示す。
【0017】
ここで、Rsp(0)及びRspin(0)及びηinex(0)及びγexex(0)及びηex,Fηはそれぞれ次の式(2)~(10)で表されることが知られている。尚、各記号の右上の(0)の有無は「空孔無し」及び「空孔有り」に対応することを意味する。また、各記号の右下の「in」及び「ex」はそれぞれ発光ダイオード内部発光及び外部発光に対応することを意味する。
【数3】
JP0005242975B2_000004t.gif

【0018】
上記式(10)においてFγ>1とすると、式(10)は次の式(11)となる。
【数4】
JP0005242975B2_000005t.gif
式(11)を変形することにより、上述の式(1)を導き出すことができる。
式(1)の右辺の最小値はRsp×ηin(0)-1程度である。従って、内部量子効率が小さい窒化ガリウム(GaN)系発光ダイオードでは、式(1)の条件を満たすように回折格子としての機能を有する現実的周期(約10μm以下)で空孔を形成することが可能となる。
【0019】
図1はGaN系発光ダイオードに空孔を設けた場合の効果を示す。図1は、各パラメータに次の数値を代入して外部量子効率を計算により求めたものである。
Rsp(0)(/s)=1.00E+07
Rsp(/s)=1.00E+07
Rnon(0)(/s)=4.00E+08
Fγ=6.80
ηin=0.02(=ηin(0))
f=0.58
vs(cm/s)=5.00E+03
K=1.075
【0020】
図1において、横軸は空孔の配置周期と外部発光波長の比(a/λ)を、縦軸は外部量子効率を示す。また、実線Aは本発明に係る発光ダイオードであって空孔が活性層を貫通する回折格子型発光ダイオードの外部量子効率の変化を、破線B1は空孔が活性層を貫通しない回折格子型LEDの外部量子効率の変化を示す。また、参考としてPGB型発光ダイオード(フォトニックバンドギャップ型発光ダイオード)の外部量子効率を破線B2で示す。
【0021】
図1から明らかなように、横軸は空孔の配置周期と外部発光波長の比a/λが1.8以上のとき、活性層を貫通しない回折格子型発光ダイオードよりも高い外部量子効率を得ることができる。また、上述したように、PBG型発光ダイオードでは発光波長と同程度の周期で空孔を形成したときに高い外部量子効率を得ることができるが、本発明の回折格子型LEDでは発光波長の1.8倍以上の周期で空孔を形成したときに高い外部量子効率を得ることができる。
また、回折格子型LEDでは一般に次の式が成り立つ。
【数5】
JP0005242975B2_000006t.gif
従って、上述の式(1)は次の式(12)で置き換えることができる。
【数6】
JP0005242975B2_000007t.gif
特に、緑色発光材料のInGaN系LEDでは、一般にvsは103(cm/s)、ηin(0)<0.1であり、式(12)を満たすことが可能となる。図2は、中心発光波長が520nmのInGaN系LEDに異なる周期で空孔を形成し、時間分解フォトルミネッセンス測定法により発光寿命を測定し、非発光再結合速度(表面再結合速度)を算出した結果例を示している。図2において、横軸はG(105cm-1)を、縦軸は1/τ(108s-1)を示す。また、τは発光寿命を、Gは次の式を表している。
【数7】
JP0005242975B2_000008t.gif
ここでは、空孔の充填率fを約0.58とし、空孔の周期aを変化させることによりGを求めている。図2から明らかなように、Gが小さいほど、つまり空孔の周期aが大きいほど寿命が長くなることが分かる。また、図2に示す実線の傾きが非発光再結合速度vsとなる。計算によれば、
vs=3.7×103(cm/s)
となる。
【実施例】
【0023】
図3の(a)及び(b)は本実施例に係る回折格子型発光ダイオードの縦断面図及び横断面図を示している。尚、図3では説明の便宜上、実際の発光ダイオードよりも厚み方向の長さを誇張して記載している。
発光ダイオードは、sapphire基板10の上にn型GaN層12、InGaN/GaN活性層14、p型GaN層16を積層して構成されている。n型GaN層12、InGaN/GaN活性層14、p型GaN層16の厚さ寸法は、それぞれ2200nm、120nm、500nmに設定されている。InGaN/GaN活性層14はn型GaN層12の電子がp型GaN層16の正孔と再結合して光を発する接合領域を含んでいる。InGaN/GaN活性層14は多重量子井戸構造、例えば6層の量子井戸構造を含む。
【0024】
p型GaN層16の上には透明電極層18が積層され、透明電極層18の上にはp型電極20が形成されている。前記発光ダイオードでは、sapphire基板10の上に通常の積層技術を用いてn型GaN層12、InGaN/GaN活性層14、p型GaN層16、透明電極層18を積層した後、この積層構造の一部を取り除いてn型GaN層12を露出させている。露出したn型GaN層の上にはn型電極22が形成されている。
【0025】
透明電極層18、p型GaN層16、InGaN/GaN活性層14、n型GaN層12には、これらの層にほぼ垂直な方向に延びる多数の空孔24が設けられている。前記空孔24は、p型GaN層16InGaN/GaN活性層14、n型GaN層12に平行な面内で三角格子状に配置されている。尚、透明電極層18上に前記p型電極20が設けられている領域には空孔24は形成されていない。
前記空孔24は、その径が800nm、深さが850nm、三角格子の一辺の長さは1μmに設定されており、透明電極層18、p型GaN層16及びInGaN/GaN活性層14を貫通し、n型GaN層12内で終止するように形成されている。
【0026】
上記構成の発光ダイオードでは、p型電極20とn型電極22との間に電圧を印加すると、p型電極20側から正孔がp型GaN層16に注入され、n型電極22側から電子がn型GaN層12に注入される。これら電子と正孔は活性層14に向かって移動し、再結合して発光する。
図4は、上記構成の発光ダイオードの空孔24による外部量子効率(光取り出し効率)を評価するために行った実験の結果を示している。図4に示すように、空孔24を有さない発光ダイオードと比較すると、空孔24を有する本実施例の発光ダイオードでは、波長が470~570nmの光の発光強度が大きく増強されることが分かる。本実施例の発光ダイオードは中心発光波長が520nmであり、従って、従来の発光ダイオードに比べると外部量子効率が向上する。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】GaN系発光ダイオードに空孔を設けたことによる外部量子効率の変化を示す図。
【図2】空孔の周期と発光寿命との関係を示す図。
【図3】本実施例の発光ダイオードの縦断面図(a)、(a)におけるX-X'線に沿う横断面図(b)。
【図4】空孔を設けたことによる発光強度の変化を示す図。
【符号の説明】
【0028】
10…sapphire基板
12…n型GaN層
14…InGaN/GaN活性層
16…p型GaN層
18…透明電極層
20…p型電極
22…n型電極
24…空孔
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図2】
3