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明細書 :脱水縮合反応により相転移を生じ得る分子集合体およびその相転移方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4787818号 (P4787818)
登録日 平成23年7月22日(2011.7.22)
発行日 平成23年10月5日(2011.10.5)
発明の名称または考案の名称 脱水縮合反応により相転移を生じ得る分子集合体およびその相転移方法
国際特許分類 B01J  13/14        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/12        (2006.01)
A61K  47/18        (2006.01)
A61K  47/24        (2006.01)
C07F   9/10        (2006.01)
C07C 231/02        (2006.01)
C07C 233/18        (2006.01)
C07C 227/18        (2006.01)
C07C 229/12        (2006.01)
FI B01J 13/02 B
A61K 9/127
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/24
C07F 9/10 B
C07F 9/10 A
C07C 231/02
C07C 233/18
C07C 227/18
C07C 229/12
請求項の数または発明の数 8
全頁数 31
出願番号 特願2007-500435 (P2007-500435)
出願日 平成17年12月12日(2005.12.12)
国際出願番号 PCT/JP2005/023196
国際公開番号 WO2006/080157
国際公開日 平成18年8月3日(2006.8.3)
優先権出願番号 2005021241
優先日 平成17年1月28日(2005.1.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年7月12日(2007.7.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】国嶋 崇隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100163647、【弁理士】、【氏名又は名称】進藤 卓也
審査官 【審査官】谷水 浩一
参考文献・文献 特表平09-511521(JP,A)
特開平07-242680(JP,A)
調査した分野 B01J 13/02-13/22
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/48
C07F 9/00-19/00
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)炭素数6から20までの脂肪酸塩;
(b)炭素数6から20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはアミン化合物;および
(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質
を膜の構成成分として含む、二分子膜ベシクルであって、
該(b)アルコールまたはアミン化合物が、以下の式I:
-NH-CH-CH(OH)-CHOH (I)
(式中、Rは、炭素数6から20までのアルキル基、炭素数6から20までのアルケニル基、または炭素数6から20までのアルキニル基である)で表される二価アルコールであり、さらに(d)以下の式II:
【化1】
JP0004787818B2_000027t.gif
(式中、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、それぞれ独立して、-CHCOOC2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1であり、ここでnは6から20までの整数であり、-C2n+1は直鎖状である)で表される3級アミン;
を該膜の構成成分として含む、二分子膜ベシクル
【請求項2】
前記(a)脂肪酸塩と前記(b)アルコールまたはアミン化合物とのモル比が1:1である、請求項1に記載の二分子膜ベシクル。
【請求項3】
前記(a)脂肪酸塩と前記(b)アルコールまたはアミン化合物と前記(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質とのモル比が1:1:1である、請求項1または2に記載の二分子膜ベシクル。
【請求項4】
前記(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質が、リン脂質である、請求項1からのいずれかの項に記載の二分子膜ベシクル。
【請求項5】
二分子膜ベシクルの相転移を誘起させる方法であって、該方法が、
二分子膜ベシクルを調製する工程であって、該二分子膜ベシクルが、
(a)炭素数6から20までの脂肪酸塩;
(b)炭素数6から20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはアミン化合物;および
(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質;を膜の構成成分として含む、工程;および
該二分子膜ベシクルに脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体を添加する工程;
を含み、そして
該(b)アルコールまたはアミン化合物が、以下の式I:
-NH-CH-CH(OH)-CHOH (I)
(式中、Rは、炭素数6から20までのアルキル基、炭素数6から20までのアルケニル基、または炭素数6から20までのアルキニル基である)で表される二価アルコールである、方法。
【請求項6】
前記二分子膜ベシクルが、さらに(d)以下の式II:
【化2】
JP0004787818B2_000028t.gif
(式中、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、それぞれ独立して、-CHCOOC2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1であり、ここでnは6から20までの整数であり、-C2n+1は直鎖状である)で表される3級アミンを、前記膜の構成成分として含み、そして
前記脱水縮合剤前駆体が、以下の式III:
【化3】
JP0004787818B2_000029t.gif
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、炭素数2から5のヒドロキシアルキル基、-(CHCHO)(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基である)、-(CHCHNRH(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、炭素数が2から5のアルキル基、N,N-ジアルキルアミノエチル基、または-CHCH(CHである)、-CHCHSO、-CHCH(CH、または炭素数6から20のアルキル基であるが、RおよびRは同時に炭素数6から20のアルキル基ではなく、そして;Xがハロゲン原子である)で表される、シアヌル酸誘導体である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記式IIIにおけるRおよびRの少なくとも一方がメチル基またはエチル基である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記式IIにおけるnが12から16である、請求項またはに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水界面での脱水縮合反応により相転移を生じ得る分子集合体およびその相転移方法に関する。より詳細には、リポソームなどの水界面の分子集合体の融合や分裂を誘起させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子集合状態の変化を起こすためには、一般的には、界面活性剤の濃度や温度を変化させている。ミセルなどの平衡系においては、異なる種類の界面活性剤を添加すれば、状態変化が速やかに起こる。
【0003】
一方、リポソームに代表される二分子膜ベシクルのような分散系では、これらを構成している脂質は、比較的安定な状態にあるため、その移動は非常に遅い。これらの集合体の融合や分裂を誘起するために、一般的には、界面の物理的な状態変化を起こしている。この場合、用いる脂質や反応条件などに依存性が高く、制限がある場合が多い。
【0004】
例えば、ホスファチジルセリンなどから構成されるリポソームは、Ca2+の添加によって膜融合などの相転移が誘起される(Duzgunesら、Biochemistry,1987年,26巻,8435-8442頁)。これは、Ca2+によって、電荷の中和、脂質間の架橋、脱水和などが起こり、膜が不安定になるためと考えられる。しかし、この方法は、中性リン脂質のみから構成されるリポソームには適用できない。また、ホスファチジルコリンからなるリポソームに高濃度のポリエチレングリコールを添加することによって、膜融合が起こることが報告されている(Lentzら、Biochemistry,1992年,31巻,2643-2653頁およびYangら、Biophysical Journal,1997年,73巻,277-282頁)。これは、膜の自由水が消失することによって膜が不安定になるために起こる。さらに、ウイルスを利用する膜融合法も提案されている(Blumenthalら、Chemistry and Physics of Lipids,2002年,116巻,39-55頁)。この方法では、膜の外側に、ウイルスに対するレセプターが必要である。電気パルスによる物理的刺激を介する膜融合誘起法(Sugarら、Biophysical Chemistry,1987年,26巻,321頁)あるいは接触させたリポソームにUV光を当てることによる膜融合法(Kulinら、Langmuir,2003年,19巻,8206-8210頁)も報告されている。タンパク質またはペプチドを添加することによって、pH依存的なプロトン化による高次構造の変化を引き起こし、それによって膜融合を誘起する方法もある(Kimら、Biochemistry,1986年,25巻,7867-7874頁)。
【0005】
これらの種々の融合方法は、いずれも分子集合体を形成している脂質の物理的状態変化に基づくものであり、融合の前段階で凝集を生じている必要がある。すなわち、単独で分散している場合には、分子集合体の脂質は、全く活性化していない状態にある。
【0006】
一方、化学反応に基づく膜の相転移、例えば、融合および分裂についての報告がある(Takakuraら、Chemistry Letters,2002年,404-405頁およびToyotaら、Chemistry Letters,2004年,33巻,1442-1443頁)。具体的には、ベシクルの二分子膜中での脱水縮合によるイミン形成およびその加水分解反応により、ベシクルの形態変化が生じ、それによって膜融合および分裂が生じる。例えば、疎水性反応性基(アルデヒド基)を有する両親媒性脂質で形成されたベシクルの分散液中に親水性反応性基(アミノ基)を有する両親媒性脂質のミセルの分散液を加えると、二分子膜中で反応性基間の可逆的な脱水縮合反応によってイミンが生じて、ベシクルが大きくなる(Takakuraら、前出)。また、これらの各反応性基を有する脂質と脱水縮合した両親媒性脂質との存在比に応じて、ベシクルの可逆的な形態変化が観察されている(Toyotaら、前出)。しかし、これらの方法では、ベシクルの二分子膜の状態を制御することはできない。
【0007】
酵素を用いた生物学的手法によって脂質構造を変化させることによって、融合を起こす方法もある。具体的には、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンをホスホリパーゼCで(Nieva, J.-L.ら、Biochemistry,1989年,28巻,7364-7367頁)、あるいはスフィンゴミエリンをスフィンゴミエリナーゼで(大木和夫、生物物理,2004年,44巻,161-165頁)それぞれ加水分解することによって、ベシクルの二分子膜を構成しているリン脂質のリン酸基を除去し、それぞれジアシルグリセロールまたはセラミドを生成する方法である。いずれも分子の形が、逆コーン型から極性頭部の分子面積が小さい円柱型へ変化し(臨界充填パラメータが変化し)、曲率が変わって融合が生じる。
【0008】
生物学的な研究として、膜の融合や分裂を起こす際に、一本鎖のリン脂質をアシル化して二本鎖リン脂質へと変化させる酵素の活性が上昇することが報告されている(Schmidt, A.ら、Nature,1999年,401巻,133-141頁)。すなわち、神経終末のシナプスにおいて、シナプス小胞の再形成の際に、リゾホスファチジン酸(LPA)アシル基転移酵素が必須であることが示されている。この酵素は、リン酸が結合したモノアシルグリセロール(一本鎖のリン脂質)であるLPAにアシル基を転移して、二本鎖のリン脂質へと変化させる。膜の変化が起きる際にこの反応が行われているため、このような酵素的化学反応による膜の曲率変化が重要であることが示唆されている。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、分子集合体を形成している脂質の化学的変化によって、その物理的性質や形態を変化させ、膜融合などの相転移のタイミングなどを調節することが可能な方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明の二分子膜ベシクルの相転移を誘起させる方法は、アミンまたはカルボン酸塩の極性頭部を有する界面活性剤を含む分子集合体(リポソーム)中で、化学的にこれらの脱水縮合反応を行うことにより、脂質の臨界充填パラメータを変化させ、その結果、リポソームの二分子膜の曲率が変化し、それによって生じた歪が生じることに基づく。
【0011】
本発明は、二分子膜ベシクルを提供し、該二分子膜ベシクルは、
(a)炭素数6から20までの脂肪酸塩;
(b)炭素数6から20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはアミン化合物;および
(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質
を膜の構成成分として含む。
【0012】
ある実施態様では、上記(b)アルコールまたはアミン化合物は、以下の式I:
-NH-CH-CH(OH)-CHOH (I)
(式中、Rは、炭素数6から20までのアルキル基、炭素数6から20までのアルケニル基、または炭素数6から20までのアルキニル基である)で表される二価アルコールである。
【0013】
より好適な実施態様では、上記二分子膜ベシクルは、さらに(d)以下の式II:
【0014】
【化1】
JP0004787818B2_000002t.gif

【0015】
(式中、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、それぞれ独立して、-CHCOOC2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1であり、ここでnは6から20までの整数であり、-C2n+1は直鎖状である)で表される3級アミン;
を上記膜の構成成分として含む。
【0016】
1つの実施態様では、上記(a)脂肪酸塩と上記(b)アルコールまたはアミン化合物とのモル比は1:1である。
【0017】
さらなる実施態様では、上記(a)脂肪酸塩と上記(b)アルコールまたはアミン化合物と上記(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質とのモル比は1:1:1である。
【0018】
ある実施態様では、上記(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質は、リン脂質である。
【0019】
本発明はまた、二分子膜ベシクルの相転移を誘起させる方法を提供し、該方法は、
二分子膜ベシクルを調製する工程であって、該二分子膜ベシクルが、
(a)炭素数6から20までの脂肪酸塩;
(b)炭素数6から20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはアミン化合物;および
(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質;を膜の構成成分として含む、工程;および
該二分子膜ベシクルに脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体を添加する工程;
を含む。
【0020】
1つの実施態様では、上記(b)アルコールまたはアミン化合物は、以下の式I:
-NH-CH-CH(OH)-CHOH (I)
(式中、Rは、炭素数6から20までのアルキル基、炭素数6から20までのアルケニル基、または炭素数6から20までのアルキニル基である)で表される二価アルコールである。
【0021】
さらなる実施態様では、上記二分子膜ベシクルは、さらに(d)以下の式II:
【0022】
【化2】
JP0004787818B2_000003t.gif

【0023】
(式中、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、それぞれ独立して、-CHCOOC2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1であり、ここでnは6から20までの整数であり、-C2n+1は直鎖状である)で表される3級アミンを、上記膜の構成成分として含み、そして
上記脱水縮合剤前駆体は、以下の式III:
【0024】
【化3】
JP0004787818B2_000004t.gif

【0025】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、炭素数2から5のヒドロキシアルキル基、-(CHCHO)(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基である)、-(CHCHNRH(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、炭素数が2から5のアルキル基、N,N-ジアルキルアミノエチル基、または-CHCH(CHである)、-CHCHSO、-CHCH(CH、または炭素数6から20のアルキル基であるが、RおよびRは同時に炭素数6から20のアルキル基ではなく、そして;Xがハロゲン原子である)で表される、シアヌル酸誘導体である。
【0026】
ある実施態様では、上記式IIIにおけるRおよびRの少なくとも一方はメチル基またはエチル基である。
【0027】
1つの実施態様では、上記式IIにおけるnは12から16である。
【0028】
本発明の方法によれば、脱水縮合反応を利用して二分子膜ベシクルからなる分子集合体を形成している脂質を化学的に変化させて、その物理的性質や形態を変化させ、膜融合などの相転移のタイミングなどを調節することが可能であり得る。すなわち、二分子膜ベシクルにおいて分子集合体の相転移(融合や分裂)を誘起させることが可能になる。したがって、活性化状態または準安定状態のベシクルを提供し得る。また、本発明の二分子膜ベシクルは、このような相転移を誘起するために好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の原理を説明するための模式図である。
【図2】NBD-PEからRh-PEへの蛍光エネルギー転移の蛍光スペクトル図である。
【図3】MLV中に生じる擬似セラミドの収量の経時変化を示すグラフである。
【図4】SUVの膜合によるF値の経時的変化を示すグラフである。
【図5】蛍光希釈法によるSUV膜融合によるF値の経時的変化を示すグラフである。
【図6】CDMT添加前のSUVの電子顕微鏡写真である。
【図7】CDMT添加後のSUV(GUV)の電子顕微鏡写真である。
【図8】メタノールのみの添加後のSUVの電子顕微鏡写真である。
【図9】蛍光希釈法による活性化SUVと不活性SUVとの膜融合によるF値の経時的変化を示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明においては、ベシクルの二分子膜中に導入した適切な両親媒性物質を、脱水縮合剤によって脱水縮合反応させて、二分子膜の状態を変化させることができる。
【0031】
本発明の原理を、図1に基づいて説明する。一般的な界面活性剤においては、図中の逆三角形のように、電荷を有するアミンやカルボン酸塩は、極性頭部が大きい逆コーン型の界面活性剤である。これらが脱水縮合したセラミドは、この反応の前後で、両親媒性物質のアシル鎖(またはアルキル鎖)の数と極性頭部の電荷や官能基の種類が変化し、例えば、電荷の消失によって極性頭部が小さくなるため、図中の長方形で示すような円柱またはコーン型の脂質となる。そこで、これらのアミンとカルボン酸塩とを含む分子集合体(リポソームなど)中で、これらの化合物の脱水縮合反応を行うと、臨界充填パラメータの増加と膜間の斥力低下とによって膜の曲率の変化などが生じ、これらを緩和するために最終的に膜が融合すると考えられる。具体的には、スフィンゴシンからのセラミド合成が挙げられる。しかし、スフィンゴシンの大量入手は困難なので、好適には、例えば、類似の化合物として図に示すような二価アルコールを用いて、その縮合による擬似セラミド合成によって、上記原理を確認した。
【0032】
本発明の方法は、脱水縮合によりセラミド類似物質を形成し得る基質に対して幅広く応用可能であると考えられる。このような基質として、両親媒性の多様な脂肪酸塩や1級および2級アミン類が挙げられる。特に、生成物である擬似セラミドの両親媒性を維持するためには、少なくともカルボン酸またはアミンやアルコール化合物のいずれかの極性頭部周辺に、脱水縮合反応するカルボキシル基やアミノ基または水酸基とは別に、親水性官能基が存在していることが好ましい。この親水性官能基としては、水酸基や糖などの中性のものが好ましいが、一般的な界面活性剤の極性頭部である4級アンモニウムイオン、リン酸イオン、スルホン酸イオン、硫酸イオンなどのイオンであってもよい。
【0033】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
【0034】
本発明は、上記のように、相転移を生じ得る二分子膜ベシクルならびにその相転移方法を提供する。本発明において、「相転移」とは、二分子膜ベシクルの膜の相転移に限定されない。例えば、二分子膜ベシクル膜融合や膜分裂、二分子膜ベシクルから平面二分子膜やミセルへの変化、ミセルから二分子膜ベシクルへの変化など、種々の分子集合相の形態変化を包含する。
【0035】
本発明の二分子膜ベシクルは、
(a)炭素数6から20までの脂肪酸塩;
(b)炭素数6から20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはアミン化合物;および
(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質;を膜の構成成分として含む。
【0036】
上記(a)炭素数6から20までの脂肪酸塩は、水界面に集積する能力を有する両親媒性の脂肪酸塩であれば、特に限定されない。このような脂肪酸塩としては、好ましくは、長鎖アルキル基のような脂溶性基を有する脂肪酸塩、より好ましくは炭素数約10から約20の直鎖、分岐鎖、または環状の脂肪酸塩が挙げられる。具体的には、カプリン酸(デカン酸)、ウンデカン酸、ラウリン酸(ドデシル酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、イコサン酸、イコサトリエン酸、アラキドン酸などの塩が挙げられる。これらの塩としては、通常、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。必要に応じて、これらの化合物のカルボキシル基の周辺または近傍に、上記のような親水性官能基を有していてもよい。
【0037】
上記(b)炭素数6から20までの脂肪族鎖を有するアルコールまたはアミン化合物は、上記(a)脂肪酸塩のカルボキシル基と脱水縮合可能な基(例えば、水酸基やアミノ基)を有し、かつ水界面に集積する能力を有する両親媒性の化合物であれば、特に限定されない。好ましくは、長鎖アルキル基のような脂溶性基を有し、そして脱水縮合可能な基の周辺または近傍に、上記のような親水性官能基を有していることがより好ましい。なお、上記(a)脂肪酸塩が、脱水縮合反応するカルボキシル基以外にさらなる親水性官能基を有していない場合は、この(b)の化合物は、極性頭部周辺に、さらに親水性官能基を有していることがより好ましい。
【0038】
このような化合物の好適な例としては、以下の式I:
-NH-CH-CH(OH)-CHOH (I)
(式中、Rは、炭素数6から20までのアルキル基、炭素数6から20までのアルケニル基、または炭素数6から20までのアルキニル基である)で表される二価アルコールが挙げられる。この二価アルコールにおいては、アミン部分が脱水縮合可能な基であり、そしてアルコール部分が親水性官能基に相当する。
【0039】
上記式Iで表される(b)二価アルコールにおいて、Rが、炭素数6から20までのアルキル基である場合、このアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であり得る。好ましくは炭素数約10から約20の直鎖状である。このようなアルキル基としては、n-デシル、n-ドデシル(ラウリル)、n-ヘキサデシル、n-オクタデシルなどが挙げられる。Rが、炭素数6から20までのアルケニル基である場合、このアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であり得る。好ましくは炭素数約10から約20の直鎖状である。このようなアルケニル基としては、1-デセニル、1-ドデセニル、9-ヘキサデセニル、9-オクタデセニルなどが挙げられる。Rが、炭素数6から20までのアルキニル基である場合、このアルキニル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であり得る。好ましくは炭素数約10から約20の直鎖状である。このようなアルキニル基としては、1-デシニル、1-ドデシニル、9-ヘキサデシニル、9-オクタデシニルなどが挙げられる。
【0040】
上記(c)二分子膜を形成し得る人工合成脂質またはリン脂質は、二分子膜を形成し得る化合物であれば、特に限定されない。
【0041】
人工合成脂質としては、長鎖ジアルキル化合物、モノアルキル界面活性剤、三本鎖型界面活性剤などが挙げられる。例えば、「リポソーム」、野島庄七ら編,南江堂,1988年,302-309頁に例示されている。一般的には、C12~C15の2本の長鎖状アルキル基と親水性官能基(カチオン性、アニオン性、非イオン性など)を同一分子内に有する化合物が好適であり、代表的には、C12~C15のジアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0042】
リン脂質は、特に限定されず、グリセロリン脂質またはスフィンゴリン脂質のいずれであってもよい。このようなリン脂質としては、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリンなどが挙げられる。好適には、ホスファチジルコリンである。
【0043】
本発明の二分子膜ベシクルは、必要に応じて、膜の構成成分としてさらに、
(d)以下の式II:
【0044】
【化4】
JP0004787818B2_000005t.gif

【0045】
(式中、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、それぞれ独立して、-CHCOOC2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1であり、ここでnは6から20までの整数であり、-C2n+1は直鎖状である)で表される3級アミンを含む。
【0046】
上記式IIで表される(d)3級アミンのR、R、およびRであり得る-CHCOOC2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1において、nは6から20までの整数であり、そして-C2n+1は直鎖状である。これらの置換基としては、例えば、n-オクチルオキシカルボニルメチレン、n-デシルオキシカルボニルメチレン、n-ドデシルオキシカルボニルメチレン、n-ヘキサデシルオキシカルボニルメチレン;n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル;p-(n-ヘキシル)フェニレン、p-(n-オクチル)フェニレン、p-(n-デシル)フェニレン、p-(n-ドデシル)フェニレン、p-(n-テトラデシル)フェニレン、p-(n-ヘキサデシル)フェニレン、p-(n-オクタデシル)フェニレンなどが挙げられる。本発明の二分子膜ベシクルへの導入のしやすさを考慮すると、好ましくは、上記式IIのR、R、およびRにおけるnは8から18、より好ましくは12から16である。
【0047】
上記式IIのR、R、およびRについて、本発明の方法による脱水縮合の反応性を考慮すると、R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、炭素数6から20の直鎖アルキル基を有する基である。より好ましくは、R、R、およびRのうちの2つはメチル基である。R、R、およびRがすべて炭素数6から20の直鎖アルキル基を有する基である場合は、反応効率がよくないので、好ましくない。
【0048】
上記式IIで表される3級アミンを二分子膜ベシクルの膜の構成成分として含む場合は、脱水縮合剤前駆体である、以下で詳述する式IIIで表されるシアヌル酸誘導体を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の二分子膜ベシクルにおける上記(a)~(d)の割合は、ベシクルが形成され得る限り、特に限定されない。脱水縮合反応の基質である(a)脂肪酸塩と(b)アルコールまたはアミン化合物とは、約1:1のモル比であることが好ましい。さらに好ましくは、(a)脂肪酸塩と(b)アルコールまたはアミン化合物と(c)人工合成脂質またはリン脂質とのモル比は約1:1:1である。(d)3級アミンは、通常、(a)脂肪酸塩1モルに対して0.01~1.0モル、好ましくは0.1~0.5モルの割合で含まれる。
【0050】
上記(a)~(d)はそれぞれ、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
本発明の二分子膜ベシクルは、必要に応じて、他の界面集積性を有する化合物あるいは界面集積性はないが二分子膜中に含まれ得る化合物を含んでいてもよい。例えば、以下で詳述するように、膜融合を観察するための蛍光物質などが挙げられる。
【0052】
本発明の二分子膜ベシクルは、多重ラメラベシクル(MLV:通常0.2~5μmサイズ)または一枚膜ベシクル(SUV:100nm以下;LUVおよびREV:100~1000nm;GUV:1000nm以上)のいずれであってもよい。これらは、当業者が用いる一般的な方法によって製造され得る。例えば、MLVは、次のように製造され得る:上記(a)~(d)をそれぞれ適切な有機溶媒(例えば、メタノール、クロロホルムなど)に溶解して容器中で混合し、有機溶媒を留去する。次いで、内壁に形成された薄膜を乾燥させた後、適切な水溶液(例えば、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、炭酸緩衝液など)を加え、約30秒程度の超音波照射によって膨潤させる。さらにボルテックスミキサーなどで攪拌振盪して、薄膜を剥がすことによって、MLVを懸濁液の状態で得ることができる。SUVは、例えば、さらに高出力で強力に超音波照射(例えば、氷冷下にて約20分間)することによってSUVの分散液として得られ得る(超音波処理法)。あるいは、エタノールに溶解した脂質を相転移温度以上で緩衝液中にマイクロシリンジで注入するエタノール注入法、MLVをフレンチプレスセルに入れて押し出すフレンチプレス法などによっても、SUVを調製できる。LUVは、エーテル注入法、界面活性剤法、Ca2+融合法、凍結-融解法などの当業者が通常用いる方法によって調製される。REVは、逆相蒸発法によって得られる。GUVは、例えば、メチルグルコシドと脂質とのエタノール溶液を多量の緩衝液に対して透析することにより得られる。
【0053】
本発明の二分子膜ベシクルの相転移(例えば、膜融合)を誘起させる方法は、
上記二分子膜ベシクルを調製する工程;および
該二分子膜ベシクルに脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体を添加する工程、を含む。
【0054】
上記方法で用いられる脱水縮合剤としては、水溶性の脱水縮合剤あるいは界面集積性の脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体が挙げられる。
【0055】
水溶性の脱水縮合剤としては、例えば、以下の式IV:
【0056】
【化5】
JP0004787818B2_000006t.gif

【0057】
(ここで、Eは、3級アミノ基を1または2個有する一または二価の有機基であり;nは、Eが3級アミノ基を1個有するときは1であり、Eが3級アミノ基を2個有するときは2であり;RおよびR10はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基、または炭素数6~8のアリール基を示し;aは1または2であり、nが1のときは1であり;そして、Z-(n/a)は(n/a)価のカウンターアニオンを示す)で表される4級アンモニウム塩が挙げられる(WO00/53544およびKunishimaら、Tetrahedron,2001年,57巻,1551-1558頁参照)。具体的には、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリウムクロリド(DMT-MM)が挙げられる。
【0058】
界面集積性の脱水縮合剤としては、以下の式V:
【0059】
【化6】
JP0004787818B2_000007t.gif

【0060】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、炭素数2から5のヒドロキシアルキル基、-(CHCHO)(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基である)、-(CHCHNRH(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、炭素数が2から5のアルキル基、N,N-ジアルキルアミノエチル基、または-CHCH(CHである)、-CHCHSO、-CHCH(CH、または炭素数6から20のアルキル基であるが、RおよびRは同時に炭素数6から20のアルキル基ではなく;R、R、およびRのうちの1つまたは2つは、メチル基であり、そして残りのR、R、およびRは、それぞれ独立して、-CHCOO-C2n+1、-C2n+1、または-C-p-C2n+1であり、ここでnは6から20までの整数であり、-C2n+1は直鎖状であり;そしてXは、ハロゲン化物イオンである)で表される、1,3,5-トリアジン型化合物が挙げられる。この式Vで表される化合物は、以下の式III:
【0061】
【化7】
JP0004787818B2_000008t.gif

【0062】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、炭素数2から5のヒドロキシアルキル基、-(CHCHO)(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基である)、-(CHCHNRH(ここで、mは1から120までの整数であり、そしてRは、炭素数が2から5のアルキル基、N,N-ジアルキルアミノエチル基、または-CHCH(CHである)、-CHCHSO、-CHCH(CH、または炭素数6から20のアルキル基であるが、RおよびRは同時に炭素数6から20のアルキル基ではなく、そして;Xがハロゲン原子である)で表される、シアヌル酸誘導体と、以下の式II:
【0063】
【化8】
JP0004787818B2_000009t.gif

【0064】
(式中、R、R、およびRは上で定義したとおりである)で表される3級アミンとを、適切な溶媒中で混合することによって得られる。特に、脱水縮合させるべき少なくとも2種類の化合物を混合すると同時に、これらのシアヌル酸誘導体および3級アミンも混合することが好ましい。
【0065】
脱水縮合剤として、上記式Vで表される1,3,5-トリアジン型化合物を直接用いてもよいが、この化合物は上述のようにベシクル調製の際に同時に加えることが好ましいため、融合や相転移を調節することが困難である。そこで、予め(d)3級アミン化合物を膜の構成成分として含むように調製されたベシクルに、脱水縮合剤前駆体であるシアヌル酸誘導体(化合物III)を添加することが好ましい。この場合、リポソームを調製した後にシアヌル誘導体(化合物III)を加えることにより、系内(リポソーム界面)で脱水縮合剤(化合物V)を発生させて、界面の脱水縮合反応を起こすことができる。そのため、目的とする融合や相転移を適切に行うために、より好適である。
【0066】
上記式IIIにおいて、RおよびRが炭素数2から5のヒドロキシアルキル基である場合、このヒドロキシアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であり得、ヒドロキシ基の位置および数は、特に制限されない。好ましくは、直鎖状であり、そして末端ヒドロキシである。炭素数2から5のヒドロキシアルキル基としては、例えば、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、5-ヒドロキシペンチルが挙げられる。
【0067】
上記式IIIにおいて、RおよびRが-(CHCHO)である場合、mは、1から120までの整数、好ましくは1から50までの整数である。Rは、水素原子、メチル基、エチル基、またはプロピル基である。この場合、RおよびRの部分の平均分子量は、好ましくは約45から約5000まで(mが1から120に相当)、より好ましくは約45から約2000まで(mが1から50に相当)である。
【0068】
上記式IIIにおいて、RおよびRが-(CHCHNRHである場合、mは、1から120までの整数、好ましくは1から50までの整数である。Rは、エチル基またはN,N-ジアルキルアミノエチル基であり、該アルキルの炭素数は2から5である。この場合、RおよびRの部分の平均分子量は、好ましくは約45から約5000まで(mが1から120に相当)、より好ましくは約45から約2000まで(mが1から50に相当)である。
【0069】
上記式IIIにおいて、RおよびRが炭素数6から20のアルキル基である場合、このアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、または環状であり得る。好ましくは直鎖状である。RおよびRの炭素数6から20のアルキル基としては、n-ヘキシル、n-ペンチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ドデシル、n-ヘキサデシルなどが挙げられる。
【0070】
上記式IIIのRおよびRについて、このシアヌル酸誘導体の水界面への留まりやすさを考慮すると、RO-およびRO-部分は、親水性を有していることが好ましい。上記のR、R、およびRとの組み合わせにより異なるが、好ましくは、RおよびRの少なくとも一方は、メチル基またはエチル基であり、より好ましくは両方ともメチル基である。RおよびRが同時に炭素数6から20のアルキル基である場合は、このシアヌル酸誘導体の疎水性が強くなり、水界面に集積しにくくなるため、好ましくない。
【0071】
このようなシアヌル酸誘導体としては、例えば、2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)が挙げられる。
【0072】
上述のように、脱水縮合反応をさせるためには、二分子膜ベシクルの界面への集積性が良好でありかつ界面で脱水縮合剤を発生させることができる点で、二分子膜ベシクルの膜の構成成分として(d)3級アミンを含むベシクルに対して、脱水縮合剤前駆体であるシアヌル酸誘導体(化合物III)を用いることが特に好ましい。
【0073】
この工程において、上記の脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体は、(a)脂肪酸塩または(b)アルコールまたはアミン化合物に対して1~100当量、好ましくは25~50当量用いられる。この工程を行う温度は、目的に応じて適宜決定され、通常は室温で行われる。この工程に要する時間は、ベシクルの膜の構成成分、脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体の量、この工程の実施温度などの種々の要因によって変化し、あるいはこれらの要因によって調節可能である。
【0074】
この工程において、シアヌル酸誘導体を用いる場合、以下のスキームに示すように、まず、上記式IIIのシアヌル酸誘導体が添加されることによって、二分子膜ベシクルに存在する(d)3級アミンとともに脱水縮合剤が形成される。次いで、膜中の(a)カルボン酸と(b)アミン化合物(二価アルコール)とが脱水縮合して、擬似セラミドが形成される。そのため、上述のように、膜の臨界充填パラメータの増加と膜間の斥力低下とによって膜の曲率の変化などが生じて、膜の融合などの相転移が生じる(図1参照)。
【0075】
【化9】
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【0076】
膜の融合などの相転移を評価および観察するための手段としては、電子顕微鏡による観察、生成した擬似セラミドの定量(例えば、マススペクトルなどによる)、蛍光変化の測定などが挙げられる。蛍光変化の測定の場合、近傍に存在することにより蛍光エネルギー転移が生じるような化合物を、二分子膜の構成成分として導入する。このような化合物としては、例えば、1,2-ジミリスチル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(7-ニトロ-2-1,3-ベンゾキサジアゾール-4-イル)(NBD-PE)と1,2-ジミリスチル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(リッサミンローダミンBスルフォニル)(Rh-PE)との組み合わせが挙げられる。前者がエネルギードナーであり、そして後者がエネルギーアクセプターである。図2に示すように、NBD-PEとRh-PEとが互いに近傍に存在すると蛍光エネルギー転移が生じる。蛍光変化の評価は、以下の式:
【0077】
【数1】
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【0078】
=反応開始時のNBD-PEの蛍光強度
=任意の時間におけるNBD-PEの蛍光強度
=反応開始時のRh-PEの蛍光強度
=任意の時間におけるRh-PEの蛍光強度
により得られる蛍光変化Fを用いることができる。例えば、NBD-PEおよびRh-PEがそれぞれ別のベシクルに含まれている場合、これらの融合が起こるとF値は増大する。逆に、NBD-PEとRh-PEとの両方を含むベシクルが、これらを含まないベシクルと融合した場合は、NBD-PEとRh-PEとの距離が離れるため、F値は減少する。
【0079】
本発明の方法による膜の融合などの相転移は、本発明により提供されるような膜の構成成分として脂肪酸塩とアミンを含みそして脱水縮合によって活性化され得る不安定な二分子膜ベシクル同士の間だけでなく、このような不安定な二分子膜ベシクルと活性化されない安定な二分子膜ベシクルとの間でも生じ得る。さらに、不安定な二分子膜ベシクルと安定な二分子膜ベシクルとの量比、脱水縮合剤または脱水縮合剤前駆体の量などの種々の要因によって、相転移の調節が可能である。
【0080】
また、本発明の方法によれば、二分子膜ベシクル同士の膜融合を誘起した場合、その内容物も膜の融合とともに漏出(リーキング)することなく融合され得る。
【0081】
このように、本発明の方法によれば、例えば、細胞と本発明により提供される二分子膜ベシクルとの間での膜融合を誘起し、適切なタイミングでベシクルの内容物を細胞内に送り込むように調節することも可能である。
【実施例】
【0082】
[製造例1:二価アルコールの合成]
リポソームを構成しそしてリポソームにおいて脱水縮合反応を行うための基質として、以下のスキーム1に示すように、極性基として水酸基を2つ有するアミンである擬似スフィンゴシンを、グリシドールのエポキシドと長鎖1級アミンとを反応させて合成した。
【0083】
【化10】
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【0084】
[1-1]3-オクチルアミノ-1,2-プロパンジオール(二価アルコール1A)の合成
n-オクチルアミン(3.0g,0.023mol)を反応容器に加え、85℃に加熱した。窒素気流下にてグリシドール(1.56g,0.021mol)を10分間かけて加え、1時間攪拌した後、反応溶液を真空乾燥させた。得られた残渣を、カラムクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム:メタノール=1:1(トリメチルアミン1%添加)で展開した後、メタノール(トリメチルアミン1%添加)で溶出して分取し、二価アルコール1A(1.03g,収率24%)を得た。
【0085】
無色結晶;融点:59.5~61.5℃。H NMR(CDCl)δ0.87(t,J=6.9Hz,3H),1.21-1.35(m,10H),1.42-1.51(m,2H),2.54-2.73(m,3H),2.79-2.85(m,1H),3.58-3.65(m,1H),3.70-3.77(m,2H);IR(KBr)3320,3271,2919,2853cm-1
【0086】
以下の実施例で用いる緩衝液(5mM NaHPO,0.15MNaCl,pH7.5)に対する二価アルコール1Aの溶解度は約10mMであった。
【0087】
[1-2]3-ドデシルアミノ-1,2-プロパンジオール(二価アルコール1B)の合成
上記[1-1]の二価アルコール1Aの合成と同様の方法で合成した(収率33%)。
【0088】
無色結晶;融点:78~79℃。H NMR(CDCl)δ0.88(t,J=6.9Hz,3H),1.23-1.33(m,18H),1.42-1.51(m,2H),2.54-2.73(m,3H),2.79-2.86(m,1H),3.59-3.65(m,1H),3.70-3.77(m,2H);IR(KBr)3323,3272,2916,2847cm-1;元素分析:C1533NO:計算値:H,12.82;C,69.45.実測値:H,12.83;C,69.42。ESI-MS m/z260[(M+1),C1533N]。
【0089】
以下の実施例で用いる緩衝液(5mM NaHPO,0.15M NaCl,pH7.5)に対する二価アルコール1Bの溶解度は約0.2mMであった。
【0090】
[1-3]3-ヘキサデシルアミノ-1,2-プロパンジオール(二価アルコール1C)の合成
上記[1-1]の二価アルコール1Aの合成と同様の方法で合成した(収率34%)。
【0091】
無色結晶:融点:86~89.5℃。H NMR(CDCl)δ0.87(t,J=6.9Hz,3H),1.23-1.33(m,26H),1.42-1.52(m,2H),2.54-2.73(m,3H),2.80-2.87(m,1H),3.59-3.66(m,1H),3.70-3.77(m,2H);IR(KBr)3345,3272,2918,2851cm-1;元素分析:C1941NO:計算値:H,13.10;C,72.32.実測値:H,13.34;C,72.30。ESI-MS m/z316[(M+1),C1941N]。
【0092】
[製造例2:擬似セラミドの合成]
リポソームにおける脱水縮合反応による生成物が擬似セラミドであると考えられるため(スキーム2)、これを確認するための標品として、擬似セラミドをKunishimaら、前出に記載の方法に従って合成した。
【0093】
【化11】
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【0094】
[2-1]3-(N-ラウロイルドデシルアミノ)-1,2-プロパンジオール(擬似セラミド2B)の合成
ラウリン酸ナトリウム(0.25g,1.13mmol)を反応容器に加え、メタノール(6mL)を加えた。さらに、上記[1-2]で得られた二価アルコール1B(0.29g,1.13mmol)をメタノール(4mL)に溶かして加えた。さらに、DMT-MM(0.34g,1.24mmol)をメタノール(2mL)に溶かして加えた後、室温で5時間攪拌した。メタノールをポンプで減圧留去した後、残渣を酢酸エチルおよび蒸留水を用いて抽出した。回収した酢酸エチル層を、飽和炭酸ナトリウムで2回、蒸留水で1回、1M HClで2回、蒸留水で1回、次いで飽和食塩水で1回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣を、カラムクロマトグラフィーに供し、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開した後、ヘキサン:酢酸エチル=4:6で溶出して分取し、擬似セラミド2B(0.33g,収率65%)を得た。
【0095】
無色結晶:融点:35~36.5℃。H NMR(CDCl)δ0.88(t,J=6.9Hz,3H),1.23-1.35(m,34H),1.56-1.66(m,4H),2.33(t,J=7.6Hz,2H),3.17-3.36(m,2H),3.38-3.59(m,4H),3.70-3.80(1H);IR(KBr)3354,2919,2851,1613cm-1;元素分析:C2755NO:計算値:H,12.55;C,73.41.実測値:H,12.71;C,73.16。ESI-MS m/z442[(M+1),C2755N]。
【0096】
[2-2]3-(N-オクタノイルオクチルアミノ)-1,2-プロパンジオール(擬似セラミド2A)の合成
上記[2-1]の擬似セラミド2Bの合成と同様の方法で合成した(収率52%)。
【0097】
無色油状。H NMR(CDCl)δ0.88(t,J=7.0Hz,3H),0.89(t,J=6.9Hz,3H),1.22-1.37(m,18H),1.52-1.70(m,4H),2.33(t,J=7.6Hz,2H),3.18-3.36(m,2H),3.39-3.59(m,4H),3.71-3.79(m,1H);IR(neat)3378,2926,2855,1620cm-1;元素分析:C1939N:計算値:H,11.93;C,69.25.実測値:H,12.14;C,69.49。ESI-MS m/z330[(M+1),C1939N]。
【0098】
[製造例3:界面集積性3級アミンの合成]
【0099】
【化12】
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【0100】
[3-1]N,N-ジメチルアミノ-酢酸-1-ドデシルエステル(C12-3級アミン)の合成
N,N-ジメチルグリシン塩酸塩(2.23g、0.016 mol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF;100mL)溶液に、1-ドデシルアルコール(2.98g、0.016mol)、トリエチルアミン(1.62g、0.016mol)、および4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP;0.195g、0.0016mol)を窒素雰囲気下で加えて、0℃に冷却した。次に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC;3.63g、0.0176mol)の乾燥DMF溶液(60ml)を0℃で加えた。反応溶液を室温に戻して約1日攪拌した後、DMFをポンプで減圧留去した。残渣をエーテルおよび飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて溶解し、エーテル層を回収し、水で1回および飽和食塩水で1回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル:トリエチルアミン=50:50:1)にかけて分取し、N,N-ジメチルアミノ-酢酸-1-ドデシルエステル(C12-3級アミン)を得た(収率48%、2.10g)。
【0101】
無色液体。H NMR(CDCl)δ0.88(t,J=6.9Hz,3H),1.23-1.31(m,18H),1.59-1.68(m,J=7.0Hz,2H),2.35(s,6H),3.15(s,2H),4.12(t,J=6.8Hz,2H)。ESI-MS m/z272[(M+1),C1633N]。IR(KBr)2923,1749cm-1
【0102】
[3-2]N,N-ジメチルアミノ-酢酸-1-オクチルエステル(C8-3級アミン)の合成
1-ドデシルアルコールの代わりに1-オクチルアルコールを用いたこと以外は、上記[3-1]と同様にして、N,N-ジメチルアミノ-酢酸-1-オクチルエステル(C8-3級アミン)を59%の収率で得た。
【0103】
無色液体。H NMR(CDCl)δ0.88(t,J=6.9Hz,3H),1.24-1.33(m,10H),1.57-1.66(m,J=7.2Hz,2H),2.35(s,6H),3.16(s,2H),4.12(t,J=6.8Hz,2H)。ESI-MS m/z216[(M+1),C1225N]。IR(KBr)2928,1753cm-1
【0104】
[3-3]N,N-ジメチルアミノ-酢酸-1-ヘキサデカエステル(C16-3級アミン)の合成
1-ドデシルアルコールの代わりにセチルアルコールを用いたこと以外は、上記[3-1]と同様にして、N,N-ジメチルアミノ-酢酸-1-ヘキサデカエステル(C16-3級アミン)を44%の収率で得た。
【0105】
無色液体。H NMR(CDCl)δ0.87(t,J=6.7Hz,3H),1.23-1.30(m,26H),1.59-1.68(m,J=6.8Hz,2H),2.35(s,6H),3.16(s,2H),4.12(t,J=6.8Hz,2H)。ESI-MS m/z328[(M+1),C2041N]。IR(KBr)2923,1742cm-1
【0106】
[実施例1:3級アミンを含む多重ラメラベシクル(MLV)調製]
文献(「化学と生物 実験ライン27 リポソームの調製と実験法」,奥直人編,廣川書店,第5章,43頁)に記載の方法に従って、以下のような方法でMLVを調製した。
【0107】
ラウリン酸ナトリウム(メタノール中45.0mM,8.7μL)、上記[1-2]で合成した二価アルコール1B(クロロホルム中38.5mM,10.1μL)、上記製造例3で合成した3種の3級アミンのいずれか(クロロホルム中3.05mM,25.6μL)、およびL-α-ホスファチジルコリン(クロロホルム中12.9mM,28.5μL)、および蛍光剤であるNBD-PE(Avanti Polar Lipids製)(クロロホルム中1.23mM,15.9μL)を、20mLナス型フラスコに加えた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去し、窒素ガスにより常圧に戻した後、内壁に形成された薄膜を、さらに真空ポンプを用いて室温下にて0.5時間減圧乾燥させた。再び窒素ガスにより常圧に戻し、リン酸緩衝液(5mM NaHPO/NaHPO,0.15M NaCl,pH7.5)を6mL加え、浴槽型超音波発生装置で30秒間超音波を照射した後、さらにボルテックスミキサー(AS ONE TUBE MIXER MODEL TMFを使用)で20分間振盪(室温,強度80%)し、薄膜を剥がした。薄膜を含む分散液を10mLサンプル瓶に移し替え、ボルテックスミキサーでの振盪(室温,強度30%)を約半日間行って、3級アミンを含むNBD-PE含有MLV分散液を得た。
【0108】
蛍光剤としてNBD-PEの代わりにRh-PE(Avanti Polar Lipids製)(クロロホルム中4.19mM,4.7μL)を用いること以外は、上記と同様にして、3級アミンを含むRh-PE含有MLV分散液を得た。
【0109】
[実施例2:多重ラメラベシクル(MLV)調製-2]
上記実施例1のMLV調製において、20mLナス型フラスコに、3級アミンを加えなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、3級アミンを含まない種々のMLV分散液を得た。
【0110】
[実施例3:多重ラメラベシクル(MLV)を用いた膜融合実験]
上記実施例1で得た3級アミン(C8またはC16)を含むMLV分散液を各1mLずつ室温下で混合した。これに、2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)(150mMまたは300mM)のメタノール溶液(21.7μL)を加え、室温で静置した。さらに、上記実施例2で得たMLV分散液に水溶性脱水縮合剤である4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリウムクロリド(DMT-MM)(225mMまたは300mM)のメタノール溶液(21.7μL)を添加したものも調製した。対照実験としてCDMT溶液の代わりに21.7μLのメタノールを添加したものを調製した。
【0111】
調製した各混合液の経時的蛍光変化を蛍光光度計で測定した。励起波長は470nmとした。蛍光変化の尺度として、上述のようにF値を用いた。膜融合が起こるとF値は増大する(図2を参照)。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
JP0004787818B2_000015t.gif

【0113】
表1に示すように、CDMTを用いた場合は、いずれも時間とともにF値が増大し、膜融合が生じたことがわかる。一方、DMT-MMでは、非常にゆっくりと膜融合が生じた。また、縮合剤を加えなかった場合は、蛍光の変化は観察されなかった。
【0114】
[実施例4:擬似セラミド2Bの定量]
MLV融合における擬似セラミドの反応収率と蛍光変化との相関性に関する検討するために、MLVに生じた擬似セラミドを定量した。
【0115】
上記実施例1で得た3級アミン(C8またはC16)を含むMLV分散液2mLに、CDMT(メタノール中150mMまたは300mM,21.7μL)を加え、室温で静置した。上記実施例2で得た3級アミンを含まないMLV分散液についてもCDMT溶液21.7μLを加え、同様に静置した。さらに、上記実施例2で得たMLV分散液にDMT-MM(メタノール中300mM,21.7μL)を添加したものも調製した。対照実験として、CDMT溶液の代わりに21.7μLのメタノールを加え、同様に静置した。任意の時間(2、5、12、および36時間)に各MLV分散液の一部(500μL)を取り、酢酸アンモニウム(蒸留水中390mM,8.3μL)およびN-メチルモルホリン(NMM)(CDMT添加量に応じて、0μL、3.6μL、または7.2μL)を加え、ボルテックスミキサーで(室温,強度30%)を10分間振盪した。次いで、500μLの酢酸エチルを加え、ボルテックスミキサーで(室温,強度50%)10分間振盪して抽出し、有機層を回収した。得られた有機層50μL、内部標準(擬似セラミド2A)溶液(酢酸エチル中32.5μM,50μL)、酢酸アンモニウム水溶液(10mM)/アセトニトリル混液(1:10(v/v))500μL、および塩化ナトリウム水溶液(10mM,3.6μL)を混和し、ESI-MS測定により定量を行った。定量ピークは、内部標準および検量物質ともにナトリウム付加ピーク(M+23)である、それぞれm/z352および464を用いた。結果を図3および表2に示す。
【0116】
【表2】
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【0117】
3級アミンを含むMLV分散液にCDMTを添加した場合は、3級アミンの脂肪鎖の長さに応じた収率で、擬似セラミドが得られた。また、CDMT非添加の場合は、擬似セラミドの生成は認められなかった。一方、DMT-MMでは、非常にゆっくりと擬似セラミドが生じた。この結果は、上記実施例3の結果と一致し、したがって、擬似セラミドの生成量と融合との相関性が示された。なお、3級アミンを含まないMLV分散液にCDMTを添加した場合は、擬似セラミドの生成は見られなかった。
【0118】
[実施例5:MLVの融合に伴う粒子径の変化]
以下の表3に記載の化合物を用いて上記実施例1に記載の操作に従って、MLV分散液を調製した。
【0119】
【表3】
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【0120】
調製したMLV分散液を2mLずつに取り分け、CDMT(メタノール中300mM)を50当量(21.7μL)加えた。対照として、21.7μLのメタノールを添加した。各2検体を調製し、12時間後の粒径を動的光散乱法(DLS)により測定した。結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
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【0122】
CDMTを加えた場合は、12時間経過後に粒子径が増大していたが、CDMTを加えない場合は12時間経過後でもサイズに変化が見られなかった。このことから、CDMTを加えた場合に、膜融合が誘起されていることが示された。
【0123】
[実施例6:一枚膜ベシクル(SUV)の調製]
文献(「化学と生物 実験ライン27 リポソームの調製と実験法」,奥直人編,廣川書店,第2章,27頁)に記載の方法に従って、以下のような方法でSUVを調製した。
【0124】
ラウリン酸ナトリウム(メタノール中45.0mM,5.8μL)、二価アルコール1B(クロロホルム中38.5mM,6.8μL)、C16-3級アミン(クロロホルム中3.05mM,17.0μL)、非還元型卵黄レシチン(クロロホルム中13.0mM,19.0μL)、および蛍光剤(NBD-PEの場合:クロロホルム中1.23mM,10.6μL;Rh-PEの場合:クロロホルム中4.19mM,3.1μL)を、20mLナス型フラスコに加え、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。内壁に形成された薄膜を、さらに真空ポンプを用いて減圧乾燥(室温下,0.5時間)させた。リン酸緩衝液(5mM NaHPO/NaHPO,0.15M NaCl,pH8.5)を4mL加え、浴槽型超音波装置で30秒間超音波処理を行った。次いで、ボルテックスミキサーにより10分間、強度100%で攪拌振盪した。次いで、20mL試験管に移し替え、プローブ型超音波発生装置(TOMY ULTRASONIC DISRUPTOR MODEL UR-200P)を用いて25Wにて20分間(1分間照射および30秒間静置を繰り返して、総照射時間を20分とした)超音波処理(氷冷下)を行って、SUV分散液を得た。
【0125】
[実施例7:SUVを用いた膜融合実験]
上記実施例6で得られたNBD-PEおよびRh-PEを含むSUV分散液を用いて、上記実施例3のMLVでの膜融合実験と同様に、経時的蛍光変化を測定した。蛍光ピークよりF値を求め、SUVの融合について評価した。結果を図4に示す。グラフからわかるように、CDMTを加えた場合のみ、膜融合を示唆する結果が得られた。
【0126】
[実施例8:蛍光希釈法によるSUV膜融合の評価]
上記実施例6に記載のSUVの調製法に準じて、表5に示す組成で蛍光剤を含むSUV分散液および蛍光剤を含まないSUV分散液を調製した。
【0127】
【表5】
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【0128】
調製した蛍光剤を含むSUV分散液0.2mLと蛍光剤を含まないSUV分散液1.8mLとを室温下で混合した。各3検体を調製した。そのうちの各2検体にCDMT(メタノール中300mM)を10.8μL(25当量)または21.7μL(50当量)ずつ加え、室温で静置する。残り1つは対照実験としてメタノールを21.7μL加え、同様に静置し、一定時間毎に蛍光を測定した。結果を図5に示す。
【0129】
この実施例8の蛍光希釈法の場合、実施例7の混合法とは異なり、F値は融合が進行するに従い小さくなる。図5に示すように、CDMTを加えた場合のみ蛍光の減弱が見られ、膜融合が誘起されていることが強く示唆された。なお、図5に示すグラフでは、初期状態でCDMTを加えたものと対照との間に差があるように見える。しかし、これは、CDMTの添加後2時間で大きな蛍光変化が見られたことを示しており、反応開始前の蛍光には差はなかった。
【0130】
[実施例9:SUVの融合に伴う粒子径の変化]
脂肪酸塩として、ラウリン酸ナトリウムおよびオレイン酸ナトリウムの2種を用いて実験を行った。
【0131】
上記実施例6に記載のSUVの調製法に準じて、表6に示す組成でSUV分散液を調製した。
【0132】
【表6】
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【0133】
調製したSUV分散液を、0.45μmポアフィルターで濾過し、2mLずつ各2検体に分け、一方にはCDMT(メタノール中300mM)21.7μL(50当量)を加え、そしてもう一方には対照実験としてメタノールを21.7μL加え、室温で静置した。3時間後の粒径をDLSにより測定した。結果を表7に示す。
【0134】
【表7】
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【0135】
いずれも3時間程度で顕著に粒子径が増大した。粒子径の変化より、ラウリン酸では十数個程度、そしてオレイン酸では30~40個程度のSUVが融合していることが示唆された。
【0136】
[実施例10:透過型電子顕微鏡によるSUVの観察]
上記実施例6に記載のSUVの調製法に準じて、表8に示す組成でSUV分散液を調製した。
【0137】
【表8】
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【0138】
調製したSUV分散液を200μL取り、CDMT(メタノール中300mM)4.3μLを加えて、室温で静置した。対照実験としてCDMTの代わりにメタノールを4.3μL加えて、室温で静置した。静置後のSUV分散液をキャリアに数滴搭載し、液体窒素で凍結させ、当業者が通常行う凍結割断法によって、電子顕微鏡試料(レプリカ)を調製した(JEOL JFD-9010を使用した)。得られた試料を、TEM(JEOL JEM-1010)で観察した(加速電圧100kv)。電子顕微鏡写真を図6~8に示す。写真中の矢印は、SUVを示す。
【0139】
CDMTを加えた場合、粒子径は、CMDT添加前には数十~約100nmであったが(図6)、CDMT添加後には1μm以上にまで極めて大きくなり、そして粒子数が著しく減少していた(図7)。これは、互いに近接しているSUV同士が数千個融合し巨大なGUVになったと考えられる。一方、メタノールのみを加えた場合は、1日以上経過しても、粒子径や分布にあまり変化が見られなかった(図8)。
【0140】
[実施例11:活性化SUVと不活性SUVとの融合実験]
膜の構成成分として脂肪酸塩とアミンを含みそして脱水縮合によって活性化されるSUV(以下、活性化SUVという)および通常のSUV(以下、不活性SUVという)について、上記実施例6に記載のSUVの調製法に準じて、以下の表9に示す組成で蛍光剤を含むSUV分散液および蛍光剤を含まないSUV分散液をそれぞれ調製した。
【0141】
【表9】
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【0142】
上記実施例8に記載の蛍光希釈法に従って、調製した蛍光剤を含むSUV分散液0.2mLと蛍光剤を含まないSUV分散液1.8mLとを室温下で混合した。ここで、SUVの組み合わせは、蛍光剤を含む活性化SUVと蛍光剤を含まない活性化SUVとの組み合わせ(run1)、蛍光剤を含む不活性SUVと蛍光剤を含まない活性化SUVとの組み合わせ(run2)、蛍光剤を含む活性化SUVと蛍光剤を含まない不活性SUVとの組み合わせ(run3)、ならびに蛍光剤を含む不活性SUVと蛍光剤を含まない不活性SUVとの組み合わせの4種類とした。次に、CDMT(メタノール中300mM)を15.2μL(4.55μmol:run1の全脂肪酸塩の35当量)加え、室温で放置して蛍光光度計によりF値の経時変化を測定した。結果を図9に示す。
【0143】
図9からわかるように、一方が不活性なSUVであってもF値が有意に変化した(run2および3)。同じSUV同士の融合では、理論上、蛍光変化は起きないので、このF値の減少は、活性化SUVと不活性SUVとの融合が起きたことを示している。活性化SUVが少ない場合(run3)の方がF値の変化量が小さいのは、1回の融合によってSUVの不安定性が解消され、それ以上の融合が進行しなくなり、蛍光剤が十分に希釈されなかったためと考えられる。一方、SUVのうち90%が活性化SUVの場合(run2)は、融合が多段階生じ、蛍光剤が十分に希釈されたため、F値の変化が大きく現れたと考えられる。
【0144】
[実施例12:融合に伴うSUV内水相のリーキングの検討]
膜融合をDDSや遺伝子導入などに用いるには、リポソーム内容物がターゲット細胞の内部にうまく導入されなければならない。融合がもし膜の部分的な崩壊を伴う場合、大量の内容物が外部へ漏れ出てしまい、この目的を果たすことができなくなり、その応用性が限られる。そこで、融合の際の内容物のリーキング実験を行った。
【0145】
以下に示すカルセイン(Calcein)という蛍光色素は、高濃度では自己消光し蛍光を発しないが、低濃度では蛍光を発する。
【0146】
【化13】
JP0004787818B2_000024t.gif

【0147】
そこで、本実施例では、この性質を利用し、内部(内水相)に予め高濃度のカルセインを入れたリポソームの融合実験を行った。融合に伴って内容物の漏れ出しが起きれば、外水相で希釈されたカルセインの蛍光が現れるが、漏れ出しが起きなければ蛍光は変化しない。
【0148】
SUVの調製は実施例6に記載の方法に従って行った。ただし、リン酸緩衝液(5mM NaHPO/NaHPO,0.15M NaCl,pH8)にカルセインを入れ(75mM)、超音波処理によってSUVとした。ゲル濾過(Sephadex G-50、移動相に同じリン酸緩衝液を使用)によってSUVを分離し、外水相に存在するカルセインを除去し、SUV分散液を得た。
【0149】
得られたSUV分散液にCDMT(50当量)を添加後、室温で放置し、一定時間経過後に蛍光(520nm)を測定し(F)、直後にTriton X-100(10%,200μL)を添加してSUVを破壊した後、再び蛍光を測定した(F)。膜融合を伴わない対照実験は、同じSUVを用いて、CDMTを添加せずに、一定時間毎に蛍光を測定し、最後にTriton X-100を添加してリポソームを破壊し、蛍光を測定した。以下の式に従って漏出率を算出した。
【0150】
【数2】
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【0151】
得られた結果を、以下の表10に示す。
【0152】
【表10】
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【0153】
表10からわかるように、CDMTを添加して膜融合した場合、融合がほぼ完了する3時間までで漏出率に若干の増加が見られたものの(対照実験が2%に対し、融合した場合には8%)、蛍光強度(F)は測定直後にTrionX-100を添加した時の蛍光(F)と比べて非常に小さく、内容物がほとんど漏出していないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の方法によれば、脱水縮合反応を利用して分子集合体を形成している脂質を化学的に変化させて、その物理的性質や形態を変化させ、膜融合などの相転移のタイミングなどを調節することが可能であり得る。すなわち、二分子膜ベシクルにおいて分子集合体の相転移を誘起させることが可能になり、リポソームなどの水界面の分子集合体の融合や分裂を誘起できる。また、本発明の二分子膜ベシクルは、活性化状態または準安定状態のベシクルを提供し得る。さらに、リポソームなどの膜融合の際に、その内容物も融合可能である。したがって、本発明の方法および二分子膜ベシクルは、脱水縮合反応を利用する有機合成化学や界面化学の分野、あるいはリポソームなどのベシクルを利用する分野などにおける研究に有用である。また、細胞や細胞内小器官の形成、分解、分裂、または融合などの生物における形態変化に関する研究のためのモデル系として、エンドサイトーシスやエキソサイトーシスを伴う生物学的機構の解明のために、あるいは遺伝子治療やドラッグデリバリーシステムなどの治療医学の開発にも有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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